説明

細胞の付着および増殖のための、共有結合によって付着したコラーゲンVI

細胞培養に有用な表面は、CAR物質が結合している支持体と、該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体と、任意選択で、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、コラーゲンI、コラーゲンIII、およびコラーゲンIVなどの他のECMタンパク質(またはそれらの断片もしくは変異体)の1つまたは複数とを含む。ポリ−D−リジンまたはポリ−D−オルニチンなどのポリカチオン性ポリマーの1つまたは複数も、任意選択で該表面に存在する。この表面は、細胞培養において、(a)肝細胞(例えばHepG2腫瘍細胞および新たに発見されたラット肝臓上皮幹細胞系)、(b)マウス細胞系MC3T3細胞系などの骨芽細胞、ならびに、(c)初代骨髄細胞など、多数の異なった細胞型における細胞の付着、生存、および/または増殖を促進するのに使用される。該表面および追加の試薬を含むキットも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、細胞をin vitroで培養するのに有用な表面と、それらの表面を使用する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、細胞を培養するには、血清を補充した培養培地中に細胞を分散させ、次に、この培養培地を、組織培養グレードのポリスチレン(PS)など、合成細胞培養基質でできた容器中に分配する。これらの条件下で、PS表面への非特異的タンパク質吸着が迅速に起こり、ほとんど未変性の状態から強く変性された状態までにわたる所定範囲の多様な立体配座状態にある多数の異なった血清タンパク質からなるタンパク質層を生成する。静置培養では、細胞は、それに続いて表面に定着し、この十分に組織化されていない界面を、それらの表面にある細胞インテグリン、プロテオグリカン、およびセレクチンを介して「応答指令信号」を送り始める。この無作為に吸着されたタンパク質層との相互作用は、細胞の付着(または接着)、拡散、増殖、移動、および分化を含めた様々な過程に影響を与える恣意的な生物反応を導く。対照的にin vivoでは、特異的でかつ組織化されたリガンド受容体相互作用を介して、正常な生物反応が起こり、これが次に、高度に組織化されたシグナル伝達過程の引き金となる。
【0003】
したがって、in vitro培養中における所望の細胞生物活性をより効率的に支持するために、生物学的事象のin vivoでの特異性を模擬する、高度に画定された細胞培養表面が必要とされている。
【0004】
従来、細胞培養に用いられている血清は、血清ロットによって異なったタンパク質からなる未確定の混合物を含んでおり、望ましくない複雑な状態をさらに作り出すことがある。例えば、ヒトにおける細胞療法など、in vivoで使用するために細胞を調製する場合、培養中で血清を予め使用することによって、その細胞調製物中に、(1)生物学的有害物質と、(2)受容者において好ましくない免疫応答を誘導しうる動物性製品とを導入することがある。
【0005】
したがって、培養中に血清が提供するのと同じ恩恵を与える、無血清で、かつ化学的に特定されている培養培地を用いた細胞培養方法が必要とされている。
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第10/259797号明細書、Andrea Liebmann-VinsonおよびR.Clark、2002年9月30日出願
【特許文献2】米国特許出願第10/260737号明細書、Mohammad A. HeidaranおよびMary K. Meyer、「Method and Apparatuses for the Integrated Discovery of Cell Culture Environments」、2003年9月30日出願
【特許文献3】米国特許出願第10/259815号明細書、John J. Hemperly、「Proliferation and Differentiation of Stem Cell from Bone Marrow and Other Cells Using Extracellular Matrix and other Molecules」、2002年9月30日出願
【特許文献4】整理番号7767−184045、2003年8月15日出願
【特許文献5】米国特許出願第10/259816号明細書
【非特許文献1】Chen et al. (2000), Advanced Materials 12:455-457
【非特許文献2】Liver Growth and Repair edited by A.J. Strain and A.M. Diehl, pp 68-71, Chapman and Hall, 1998
【非特許文献3】Grisham, J.W., Thal, S.B. And Nagel, A. (1975). Cellular derivation of continuously cultured epithelial cells from normal rat liver, in Gene Expression and Carcinogeneisis in Cultured Liver (Eds. L.E. Gerschenson and B.B.Thompson, Academic Press , New York, pp. 1-23.)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高度に画定されている細胞培養表面を提供することによって、上述の必要を満たすことを意図したものであり、この細胞培養表面は、とりわけ、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質であるコラーゲンVIを含む。これらの新規の表面がもつ利点の一つは、それらが、in vitroにおける血清濃度の低下または血清の完全な回避を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、細胞接着抵抗性(CAR)物質が結合している支持体、および、該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体と、任意選択で、(1)他の1つもしくは複数のECMタンパク質または生物学的に活性なその断片もしくは変異体、および/または、(2)1つもしくは複数のポリカチオン性ポリマーとを含む表面(細胞培養表面など)に関する。「生物学的に活性」とは、細胞の付着、生存、および/または増殖の促進において、その断片または変異体が、完全長の野生型タンパク質と本質的に同じ活性を有することを意味する。「増殖」とは、細胞数の増加を意味する。
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明の表面が、様々な細胞型の付着、生存、および/または増殖を、従来の条件を用いた標準的な培養表面(例えば、市販されている血清含有培地または無血清培地を用いた従来の組織培養PS上でのインキュベーション)と同様に、そしてしばしばより良好に促進することを見出した。これらの改善された効果は、化学的に特定されている無血清培地を用いて実現することが好ましい。
【0010】
本発明の表面が、広いスペクトルの細胞型におけるそのような付着、生存、および/または増殖を支持するという発見も驚くべきものである。これらには、HepG2(ヒト肝細胞癌細胞系)などの肝臓腫瘍細胞、およびラットの肝臓由来上皮幹細胞を含めた、肝臓内に見出される細胞型または肝臓に由来する細胞型を含む。他の細胞には、樹立マウス細胞系MC3T3の骨芽細胞およびラット初代骨髄細胞など、骨由来の細胞が含まれる。
【0011】
本発明の利点には、
1)培養基質上に層形成する非特異的(無作為かつ恣意的)に付着した血清タンパク質のかわりに、細胞培養基質に結合したECMタンパク質による、細胞付着過程の制御を可能にし、マトリゲル(商標)など、他の未特定または未精製の動物性製品を使用する必要性を除去する、特定された哺乳類細胞培養条件の使用と;
2)従来の血清補充培地中に存在する他の生物学的因子との、複数のECMタンパク質の混成生物作用を除去する、特定の細胞過程を特定のECM、例えばコラーゲンVIに起因するものとする能力と;
3)ECMを基質に制限して、液相(培養培地)中への脱離を防止し、また、受動的なコーティング上にある可溶化されたECM物質が懸濁細胞表面の付着部位を封鎖するのを防止することによって、細胞付着も増強する、単独で、あるいは他のECM物質と共に該表面に付着している共有結合コラーゲンVI(受動的に吸着されたのではない)の使用と;
4)生物学的有害物質、すなわち免疫原性または別様に有害である産物を、除去または有意に低減する、血清が有意に低減または除去されていることによってより迅速に規制認可を獲得する能力とが含まれる。
【0012】
本発明の一態様は、(a)細胞接着抵抗性(resistant)(または抵抗性(resistive))(CAR)物質が結合している支持体と、(b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体、および、任意選択で、1つもしくは複数の他のECMタンパク質または生物学的に活性なその断片もしくは変異体とを含むことを特徴とする表面である。他のECMは、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、または、コラーゲンI、コラーゲンIII、もしくはコラーゲンIVなどの他のコラーゲンでよい。任意選択で、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ−D−リジン(PDL)、ポリ−L−リジン、ポリ−D−オルニチン(PDO)、またはポリ−L−リジン(PLO)などの1つまたは複数のポリカチオン性ポリマーも、CAR物質に結合させることができる。
【0013】
本発明の別の態様は、(a)CAR物質が結合している支持体と、(b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体、および、1つもしくは複数の他のECMタンパク質または生物学的に活性なその断片もしくは変異体とを含むことを特徴とする表面である。他のECMタンパク質は、例えば、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、または、コラーゲンI、コラーゲンIII、および/またはコラーゲンIVなどのコラーゲンでよい。
【0014】
本明細書で使用する場合、「CAR物質」という用語は、表面に存在する際に、支持体への細胞、または細胞表面タンパク質もしくはポリペプチドの非特異的結合(接着)を防止、抑制、または減弱させる物質を指す。CAR物質は哺乳類細胞に対して抵抗性であり、好ましくは微生物にも抵抗性である。CAR物質は、時には、「非汚損性基質」、「不活性コーティング」、「低親和性試薬」、または「非接着性コーティング」とも呼ばれる。CAR物質の例には、ヒアルロン酸(HA)もしくはその誘導体、アルギン酸(AA)もしくはその誘導体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(ポリ−HEMA)、ポリエチレングリコール(PEG)、グリムもしくはその誘導体、ポリプロピルアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、またはこれらの化合物の組合せが含まれる。CAR物質はHAであることが好ましい。
【0015】
一部の実施形態では、1つまたは複数のプロテオグリカン、ビグリカン、グリコサミノグリカン、またはマトリゲル(商標)を、CAR物質に結合できる。
【0016】
CAR物質に結合しているタンパク質または他の物質、例えば、コラーゲンVI、別のECMタンパク質、またはポリカチオン性ポリマーは、共有結合によって結合していても、非共有結合によって結合していてもよいが、好ましくは共有結合している。
【0017】
支持体は、天然または合成の有機重合体または無機複合体でよい。適当な支持体には、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリラクチド、セルロース、ガラス、またはセラミックが含まれる。支持体はPSであることが好ましい。
【0018】
本発明は、上述の通り、本発明の表面を含む製品も対象とする。好ましい物品の例は、細胞培養器、スライド、マルチウェルプレート、培養皿、培養フラスコ、および培養ビンなどである。別法として、該物品は、医療用具;3Dインプラント、組織、および/または臓器を生成するための足場もしくは鋳型;気泡;またはファイバーメッシュの一部でもよい。
【0019】
本発明の別の態様は、本発明の上記表面を作製する方法であって、(a)CAR物質を支持体に結合させるステップと、(b)該CAR物質に、コラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体、ならびに、任意選択で、1つもしくは複数の他のECMタンパク質(または該ECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異体)、および/または1つもしくは複数のポリカチオン性ポリマーを結合させるステップとを含む方法である。本明細書に開示されたいずれのECMタンパク質もしくはポリカチオン性ポリマー、または他のものも使用できる。
【0020】
一実施形態では、支持体へのCAR物質の結合は、該支持体を酸化プラズマで処理し、処理された支持体に該CAR物質を結合させることによって行う。別の実施形態では、支持体へのCAR物質の結合は該支持体を酸化プラズマで処理し、処理された支持体を、アミノ基を備えたポリカチオン性ポリマーに曝露して中間層を形成し、該CAR物質を中間層に結合させることによって行う。ポリカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)またはポリ−L−リジン(PLL)であることが好ましい。
【0021】
本発明の別の態様は、培養中の細胞の付着、生存、および/または増殖を促進する方法である。この方法は、培養培地中の細胞を、該細胞の付着、生存、および/または増殖に効果的な条件下で、本発明の表面に接触させるステップを含む。表面の例は、(a)CAR物質が結合している支持体、および、(b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体、ならびに、任意選択で、他の1つもしくは複数のECMタンパク質(または生物学的に活性なその断片もしくは変異体)を含むものである。この方法における好ましいECMタンパク質の例には、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、および、コラーゲンI、コラーゲンIII、またはコラーゲンIVなどの他のコラーゲンが含まれる。エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンIII、およびコラーゲンIVが最も好ましい。任意選択で、1つまたは複数のポリカチオン性ポリマー(例えば、PEI、PDL、PLL、PLO、またはPDO)も、CAR物質に結合される。
【0022】
上記方法の一実施形態では、該表面は、(a)CAR物質が結合している支持体、および、(b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体を含み、さらに、上記のECMタンパク質のうち1つまたは複数(または生物学的に活性なその断片もしくは変異体)も含む。
【0023】
上記方法におけるコラーゲンVIおよび/または他のECMタンパク質もしくはポリカチオン性ポリマーは、CAR物質に、共有結合によって結合しても、非共有結合によって結合してもよいが、それらは、共有結合によって結合しているのが好ましい。支持体物質およびCAR物質は、上述したいずれのものでもよい。好ましい支持体はPSであり、好ましいCAR物質はヒアルロン酸(HA)である。
【0024】
この方法の好ましい実施形態では、細胞は哺乳類細胞であり、最も好ましくはヒト細胞である。好ましい細胞は、肝細胞(肝腫瘍由来の細胞、樹立肝細胞、または、Hep2G細胞などの肝臓腫瘍細胞系を含める)である。骨細胞(例えばMC3T3細胞系などの骨芽細胞)および骨髄細胞も含まれる。細胞は、肝臓上皮幹細胞などの上皮幹細胞でもよい。ラット肝臓上皮細胞を本明細書で記述する。
【0025】
この方法の実施形態では、培養培地は、血清が補充されているものでもよいが、好ましくは無血清である。化学的に特定されている適当な血清遊離培地−BD培地#1−を、本明細書で記述する。
【0026】
この方法は、創薬の際に、例えば、潜在的薬物標的を同定するために、細胞の特性に対する物質の効果を測定するために、あるいは、候補物質が細胞に対して毒性であるかどうか決定するためなどに使用することもできる。本発明の別の態様は、培養中の細胞の増殖を刺激または抑制する、試験試料中の因子を同定する方法であって、(a)無血清培地中の細胞を、本発明の表面、および、該因子を含んでいると思われる試験試料と接触させるステップと、(b)これらの細胞の増殖を、試験試料無しの同様の対照細胞の増殖と比較して測定するステップとを含む方法である。該試験試料の存在下で増殖が増大している場合は、該細胞の細胞増殖を刺激する因子が存在していることを示し、試験試料の存在下で増殖が低減している場合は、該細胞の細胞増殖を抑制する因子が存在していることを示す。結果の尺度が、細胞付着または細胞生存であり、適切かつ既知の方法を用いて、これらのクラスの反応をそれぞれ測定する類似の方法を用いることもできる。
【0027】
細胞の付着、生存、および/または増殖を促進するのに有用なキットであって、本発明の表面と、細胞を培養して細胞の付着、生存、および/または増殖を可能にするのに適した1つまたは複数の構成要素または試薬とを含むキットも提供する。培養中の細胞の付着、生存、および/または増殖(あるいは任意の他の細胞挙動)を変調する因子を同定するのに有用な別のキット実施形態であって、本発明の表面、ならびに、(a)該細胞の付着、成長、または生存の促進と、(b)細胞の付着、生存、および/または増殖の測定とに適した1つまたは複数の構成要素または試薬を含むことを特徴とするキット実施形態も、本発明で提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の表面は、固体、好ましくは重合体の支持体を含み、それにCAR物質が結合する。支持体は、様々な形態のいかなるものをとることもできる。それは、細胞培養器(スライド、マルチウェルプレート、培養皿など)に使用されるものなど、適当ならばいかなる形のものでもよく、2次元でも、3次元でもよい。それは、天然高分子、合成重合体、および無機複合体を含めた、様々な材質のいかなるものでもよい。天然高分子には、例えば、コラーゲンおよびグリコサミノグリカン(GAG)ベースの物質が含まれる。合成重合体には、例えば、ポリ乳酸(PLA)などのポリ(a−ヒドロキシ酸)、ポリグリコール酸(PGA)およびその共重合体(PLGA)、ポリ(オルトエステル)、ポリウレタン、ならびに、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(ポリ−HEMA)またはポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体などのヒドロゲルが含まれる。天然由来ポリマー材料および合成ポリマー材料を含有するハイブリッド材も使用できる。そのような物質の非限定的な例が開示されている(非特許文献1)。無機複合体には、例えば、リン酸カルシウムセラミック、バイオガラス、および生理活性ガラス−セラミックが含まれ、詳細には、カルシウムヒドロキシアパタイトとシリコン安定化リン酸三カルシウムとを化合させた複合物が挙げられる。好ましい支持体には、PS、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリフルオロエチレンもしくはポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリラクチド、セルロース、ガラス、またはセラミックがある。好ましい実施形態では、支持体は、PS組織培養皿またはマルチウェルプレートなどの組織培養器の一部である。
【0029】
多数のCAR物質が当業者に知られており、適当ないかなるCAR物質を支持体に結合させてもよい。典型的なCAR物質には、ヒアルロン酸(HA)もしくはその誘導体、アルギン酸(AA)もしくはその誘導体、ポリ−HEMA、ポリエチレングリコール(PEG)、グリムもしくはその誘導体、ポリプロピルアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、またはこれらの物質の組合せが含まれる。好ましい実施形態では、CAR物質は、HAである。
【0030】
CAR物質は、共有結合によって支持体に結合させるのが好ましい。様々なタイプの共有結合を形成させることができ、それらのうち一部が、例えば、同一出願人による同時係属中の特許文献1;特許文献2;特許文献3;および特許文献4(これらは参照により本明細書に援用する)により詳細に議論されている。これらの出願はまた、CAR物質およびECMタンパク質が結合している支持体をすくむ表面を作成および使用する他の態様を開示している。
【0031】
一実施形態では、コラーゲンVI(または生物学的に活性なその断片もしくは変異体)、ならびに、任意選択で、1つもしくは複数の別のECMタンパク質(または生物学的に活性なその断片もしくは変異体)、および/または、1つもしくは複数のポリカチオン性ポリマーがCAR物質に結合している。好ましい実施形態では、コラーゲンVI(または生物学的に活性なその断片もしくは変異体)、および1つもしくは複数の他のECMタンパク質(または生物学的に活性なその断片もしくは変異体)がCAR物質に結合している。
【0032】
コラーゲンVI、または、任意選択で、追加のECMタンパクは、天然存在のポリペプチド(タンパク質)、組換え体ポリペプチド、または合成もしくは準合成ポリペプチドの形態、あるいはこれらの任意の組合せをとりうる。本明細書において、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、互換性をもって使用される。
【0033】
ECMタンパク質などのポリペプチドをクローニング、発現、および精製する方法は従来通りであり、合成もしくは準合成のポリペプチドを生成する方法も同様である。ECMタンパク質は、商業的供給源から購入することもできる。
【0034】
コラーゲンVIの生物学的に活性な断片もしくは変異体、または、任意選択で、1つもしくは複数の他のECMタンパク質を、コラーゲンVIと共にCAR表面に結合させることができる。本明細書で使用する場合、「生物学的に活性なその断片もしくは変異体」は、野生型ポリペプチドの少なくとも1つの生物機能または活性を実質的に保有するポリペプチドを含む。例えば、コラーゲンVI(または他のECMタンパク質もしくはポリカチオン性ポリマー)の生物学的に活性な断片もしくは変異体は、本発明の方法で使用される際に細胞の付着、生存、および/または増殖を促進する能力を保持しながら、CAR物質に結合できるものである。
【0035】
生物学的に活性な断片は、それらに必要な活性と適合性を有するいかなる大きさのものでもよく、その範囲は、N末端もしくはC末端から1もしくは2アミノ酸のみ短縮されたポリペプチドから、約3〜20アミノ酸を有するペプチドにまで及ぶ。所与の断片が所望の生物活性を保有するかどうかは、当業者ならば、本明細書に記載の方法、または当技術分野で周知の方法を用いて容易に決定することができる。生物学的に活性な断片の例は、ECMタンパク質の細胞外ドメインであり、それは、該タンパク質の細胞に結合する能力を保持する。
【0036】
生物学的に活性な変異体は、様々な形態をとることができる。例えば、1つまたは複数のアミノ酸残基を、保存されているアミノ酸または保存されていないアミノ酸残基(好ましくは保存されているアミノ酸残基)で置換することができる。変異体は、野生型ポリペプチドと、例えば、1つまたは複数の付加、置換、欠失、挿入、逆位、融合、切り詰め、またはこれらのうち、任意のものの組合せによって、アミノ酸配列が相違しうるものである。他の活性な変異体の多くは、当業者には明らかであろうが、それらには、別の化合物に連結されているポリペプチド、または別の、可能な場合には異種のペプチド配列に融合しているポリペプチドが含まれる。
【0037】
本発明で使用するCAR表面に結合させるのに好ましいECMタンパク質には、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、および、コラーゲンI、コラーゲンIII、またはコラーゲンIVなどのコラーゲンが含まれる。本明細書における実施例は、コラーゲンVIと、任意選択で、他のECMタンパク質またはポリカチオン性ポリマーとの様々な組合せの、本発明の方法での使用を例示する。CAR物質に結合できる他の化合物には、プロテオグリカン、ビグリカン、グリコサミノグリカン、および/またはマトリゲル(商標)が含まれる。
【0038】
コラーゲンVIおよび/または他のECMタンパク質またはポリカチオン性ポリマーは、共有結合または非共有結合(例えば、静電力、イオンもしくは水素結合、親水性もしくは疎水性相互作用、およびファンデルワールス力などによって受動的に吸着される)によってCAR物質に結合させることができる。好ましい実施形態では、この結合は共有結合である。CAR表面への、分子のそのような共有結合が記載されている(同時係属中の特許文献1、特許文献2、および特許文献3)。
【0039】
表面を作製する方法であって、CAR物質を支持体に結合し、ECMタンパク質、ポリカチオン性ポリマー、または同様のものをCAR物質に結合する方法が詳細に記載されている(同時係属中の特許文献1、特許文献2、および特許文献3)。簡潔には、支持体にCAR物質を結合させる1つの方法は、酸化プラズマで支持体を処理し、処理された支持体にCAR物質を結合させることを含む。支持体にCAR物質を結合させる別の方法は、酸化プラズマで支持体を処理し;処理された支持体を、アミノ基を備えたポリカチオン性ポリマー(PEI、PLL、ポリ−D−リジン(PDL)、ポリ‐L−オルニチン(PLO)、ポリ−D−オルニチン(PDO)、ポリビニルアミン(PVA)、またはポリアリルアミン(PAA)、好ましくはPEIまたはPLL)に曝露して中間層を形成し、CAR物質を中間層に結合させることを含む。ECMまたはポリカチオン性ポリアミノ酸をCAR物質に結合させる方法は従来通りである。これらには、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム酸化および還元的アミノ化が含まれる。
【0040】
様々な物品が本発明の表面を含みうる。適当な物品は、当業者には明らかであろう。そのような物品には、スライド(例えば、組織スライド、顕微鏡用スライドなど)、プレート(例えば、マイクロプレートを含めた、培養プレートまたはマルチウェルプレート)、フラスコ(例えば、静置フラスコもしくはスピナーフラスコ)、ボトル(例えばローラーボトル)、バイオリアクター、または同様のものなどの細胞培養器が含まれる。他の適当な物品は、体外装置、人工関節、および肝臓補助装置などの医療用具である。他のものは、チューブ、縫糸、膜、フィルム、マイクロ粒子(好ましくはプラスチック製)、および2次元または3次元のインプラント、組織、および/または器官を生成するための足場または他の鋳型である。一実施形態では、そのような足場または鋳型に、細胞を播種し、その後、哺乳動物体内の適当な位置に移植する。別の実施形態では、足場を対象に移植し、それに細胞が移植部位で付着するようにする。足場または鋳型などの物品は、いかなる適当な物質でもよく、例えば、ガラス、プラスチック、気泡、またはファイバーメッシュでよい。
【0041】
本発明は、培養細胞の付着、生存、および/または増殖を促進する方法に関し、この方法は、培養培地中の細胞を、本発明の表面に接触させるステップを含む。細胞の「付着」は、細胞が表面に結合し、それによって、細胞が通常の洗浄または取り扱い操作で溶出されないようになることを意味する。細胞、特に初代細胞の「生存」は、持続的な生存を意味する。「増殖」は、細胞数の増大を意味する。
【0042】
細胞は、任意の適当な方法で、該表面に「接触させる」か、あるいは接触状態にすることができる。例えば、該表面を含む培養器中に、培養培地中の細胞を注ぎ入れたり、ピペットで入れたり、分注したりすることができ、あるいは、該表面を含む医療用具または足場を、細胞が懸濁されている培養培地中に浸すこともできる。
【0043】
本明細書に記載する発明性のある表面のいずれもが、この方法に適している。一実施形態では、該表面は、HAに結合したコラーゲンVIと、任意選択で、1つもしくは複数の他のECMタンパク質、および/またはポリカチオン性ポリマーとを含む。別の実施形態では、少なくとも1つの追加のECMタンパク質が含まれる。好ましい実施形態では、支持体はPSであり、CAR物質はHAであり、これに、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンIII、およびコラーゲンIVなどの、他のECMタンパク質のうち1つまたは複数を結合させることができる。下記の実施例は、この方法における、コラーゲンVI、および他のECMタンパク質またはポリカチオン性ポリマーの典型的な組合せのいくつかの使用について記述する。当然ながら、他の組合せも使用することができる。
【0044】
本発明の方法によって、様々な細胞型を培養することができる。in vitroで培養できる細胞ならば、植物、酵母、または哺乳類細胞を含めた、いかなる細胞も使用できる。本発明の方法に特に良く適しているのは、哺乳類細胞である。ヒト細胞が最も好ましい。例えば、本明細書における実施例は、肝臓由来の細胞(HepG2細胞)、ヒト肝細胞癌細胞系(ATCC HB−8065)、および骨由来のMC3T3骨芽細胞の培養を例示する。初代ラット骨髄細胞についても例示する。肝臓または他の組織に由来する上皮幹細胞、および他の初代ヒト細胞(例えば、自家細胞、または、対象への移植が意図されている、供与者由来の細胞、好ましくは肝細胞)など他の細胞型も、本発明の方法によって培養することができる。表1は、様々な細胞型の付着、生存、および増殖を支持する、本発明の表面の能力を例示するものである。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例3および4は、本発明者らによって得られ、特徴付けられたラット肝臓上皮幹細胞系を用いた研究を含む。この細胞系は、非特許文献2に記載されているものに類似している。非特許文献3も参照。
【0047】
さまざまな培養培地のいかなるものも、この方法における発明性のある表面と併せて用いることができる。DMEM、F12、αMEM、Hepatostim(商標)、RPMI、またはこれらの組合せなどの市販されている培地を、血清の存在下または非存在下で使用することができる。適当な血清には、子ウシ血清、牛胎児血清、ウマ血清、または同様のものが含まれる。化学的に特定されている合成の無血清培地を使用することが好ましい。化学的に特定されている様々な適当な培地は、当業者には明らかなものであろう。実施例では、そのような培地の1つであるBD培地1を用いる。BD培地1の組成を、表2に要約する。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
上記方法では、細胞の付着、生存、および/または増殖に効果的な条件下で、本発明の表面に細胞を接触させる。「効果的な」条件とは、測定可能な量の細胞の付着、生存、および/または増殖をもたらす条件を意味する。効果的な条件は、当業者ならば、従来の方法を用いて、容易に決定および/または最適化することができる。変動させるべき因子には、例えば、播種密度、容器、培養培地、温度、O/CO濃度、および同様のものが含まれる。効果的な条件のうち一部の典型的なものを、実施例で記述する。
【0051】
本発明の別の態様は、培養細胞の増殖を変調する(例えば、刺激する、阻害する、増強するなど)物質(因子)を含有する試験試料を同定する方法であって、(a)血清を含まない培養培地中で、細胞を、本発明の表面に、該因子を含んでいると思われる試験試料に接触させるステップと、(b)該細胞の増殖を、試験試料が存在しない培養の中にある類似細胞の増殖と比較して測定するステップとを含み、(i)試験試料の存在下において細胞の増殖が増大した場合は、増殖を刺激する因子が試験試料中に存在していることを示し、かつ、(ii)試験試料の存在下において細胞の増殖が低減した場合は、増殖を抑制する因子が試験試料中に存在していることを示すことを特徴とする方法である。この比較は、実験試料と平行して育成された、試験試料が添加されていない細胞に対して行うことができ、あるいは、参照データベースと比較することもできる。試験試料は、その作用が未知である純粋化合物でも、その成分および作用が未知である組成物でもよい。
【0052】
当業者ならば、この方法で試験することのできる物質の様々なタイプを認識するであろう。例えば、この方法は、注目している細胞活性(例えば、細胞間シグナル伝達カスケード、代謝経路など)に作用する推定上の薬物(例えば、タンパク質、ペプチド、小分子、あるいはアンチセンス分子、リボザイム、もしくはRNAi、または同様のものなどの核酸)を試験するのに用いることができる。この方法は、薬物スクリーニング、創薬、および潜在的薬物標的の同定に加えて、薬物候補が細胞に対して毒性であって、測定可能な有害効果をもっているかどうか、調節されていない増殖を誘導する(発癌性形質転換)かどうかなどを決定するのに用いることができる。
【0053】
別の実施形態では、試験される物質は、注目しているマーカーを誘導、促進、または維持できる推定上の因子であるか、あるいは、所望の細胞機能の維持に重要な推定上の因子である。肝細胞において試験できるそのようなマーカー/機能の典型的なものには、(1)重要な肝細胞機能である、チトクロームP450ファミリー(CYP)の薬物/毒素代謝酵素の誘導;あるいは、(2)肝細胞の初代培養中では通常欠失しているが、HepG2細胞では維持されている機能である、アルブミンの生産が含まれる。
【0054】
試験することのできる物質のタイプには、アンジオポエチン2、BMP2、BMP4、エリスロポイエチン、aFGF、bFGF、HGF、インスリン、ノギン、PDGF、TNF、VEGF、幹細胞因子、GDF6、CSF、FH3/F2、TGFβ、または同様のものなどの増殖因子がある。別法では、従来のコンビナトリアル化学、またはペプチドライブラリーによって生成された小分子を試験することもできる(例えば同時係属中の特許文献2および特許文献5を参照のこと)。他のタイプの物質は、当業者には明らかであろう。
【0055】
本発明の方法のいずれをも、高スループット操作法に適合させることができる。1つまたは複数の過程を自動装置によって行うこともできる。
【0056】
本発明の別の態様は、細胞の付着、生存、および/または増殖を促進するのに有用なキットであって、本発明の表面と、細胞を培養するのに適した1つまたは複数の構成要素または試薬(例えば、細胞増殖の促進などをする、培養器、適当な培養培地、および/または因子)を含むことを特徴とするキットである。
【0057】
培養細胞の増殖を変調する因子を同定するのに有用な本発明の別のキットは、本発明の表面と、細胞培養(増殖を導く)および培養中の細胞増殖の測定に適した1つまたは複数の構成要素とを含む。これらの構成要素には、培養器、適当な培養培地、細胞増殖を促進する因子、および/または、本明細書に記載のものなどの細胞増殖を測定するのに使用できる1つまたは複数の試薬が含まれる。
【0058】
そのようなキットは多くの用途を有し、それらは当業者には明らかであろう。例えば、それらは、初代細胞、幹細胞、および細胞療法などの方法で使用する細胞のような注目している細胞を増殖するため、推定上の治療薬のような物質の特徴付けをするため、注目している細胞機能で役割を有する薬剤を同定するため、などに用いることができる。そのようなキットは、例えばハイスループットの薬物研究において、商業的に有用なものであるかもしれない。
【0059】
上記において、そして下記の実施例において、すべての温度は、未修正の摂氏温度で記載されており、別段に示されない限り、すべての部分および割合は重量によるものである。
【0060】
これまで本発明の説明を全般的に行ったが、下記の実施例を参照することにより、本発明はより容易に理解されよう。これらの実施例は、特記されない限り、本発明を限定するものではなく、実例として提供する。
【実施例1】
【0061】
無血清培地中でのHep G2ヒト肝細胞癌細胞の付着および増殖
HepG2ヒト肝細胞癌細胞は、化学的に特定されている無血清培地であるBD培地#1において、コラーゲンVIが、単独で、あるいは共有結合によって付着している他の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質と共に、共有結合によって付着しているヒアルロン酸(HA)を含む表面で成長させた(BD培地#1の成分は表2に要約した)。試験されたECMの組合せは、コラーゲンVIのみ、あるいは、コラーゲンVIと、エラスチン、フィブロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンIV、またはビトロネクチンとの組合せである。対照試料では、BD培地#1中で、標準的な組織培養用に処理されたポリスチレン上に細胞を播種した。
【0062】
細胞は、10細胞/ウェルの初期密度で96ウェルマイクロプレートのウェル中に播種し、炭酸ガス恒温器中、37℃で、インキュベートし、図中に示す時点で、ヨウ化プロピジウムを用いて染色した。BMG Polarstar(商標)蛍光光度計を用い、励起544nmで、発光615nmの蛍光を測定した。図1に示すように、コラーゲンVIでコートされた表面の細胞数は、1日目と18日目との間で増加した。組織培養ポリスチレン上、またはいかなる細胞外マトリックスタンパク質も存在しない細胞接着抵抗性の表面に播種した細胞は増殖しなかった。これは、コラーゲンVI単独、あるいは他の細胞外マトリックスと組み合わせたコラーゲンVIの存在が、無血清環境で増殖を支持することを示す。
【実施例2】
【0063】
市販培地に対する、無血清培地でのHep G2ヒト肝細胞癌細胞の増殖の比較
HepG2ヒト肝細胞癌細胞は、HA表面に共有結合した唯一のECMがコラーゲンVIであったことを除いては、実施例1における記載の通りに成長させた。BD培地#1中でこのコラーゲンVI表面にある細胞の増殖を、標準的な組織培養条件下における、血清存在下または血清非存在下での増殖と比較した。5日間培養した後の細胞数を、図2に図示する。
【0064】
細胞は、ヨウ化プロピジウムで染色した。蛍光顕微鏡像は、HT Imager(Molecular Devicesの子会社、Universal Imaging Corporation社(Downington、PA所在)製、Discovery−1)で、励起535nm、発光700nmで取得した。細胞数は、これらの蛍光顕微鏡像からUIC Metamorph(商標)分析ソフトウェアを用いて測定した。図2は、コラーゲンVIを無血清BD培地#1と併用した場合、血清存在下における標準的な組織培養条件(組織培養PS表面、DMEM)と同程度に、HepG2細胞の増殖が促進され、血清非存在下における標準的な培養条件よりはるかに優れていたことを示す。
【実施例3】
【0065】
無血清培地におけるラット上皮幹細胞の付着および増殖
ラット上皮幹細胞(継代数6)を、BD培地#1中において、コラーゲンVIが単独で、あるいは、エラスチン、フィブロネクチン、コラーゲンI、コラーゲンIV、ビトロネクチン、またはコラーゲンIIIと共に、共有結合によって付着しているヒアルロン酸(HA)を含む表面で成長させた。対照試料は、(1)市販培地(DMEM/F12の1:1混合)を用いて、組織培養PSプレート上に細胞を播種することを含む「標準的な組織培養条件」下で、あるいは、(2)BD培地#1中に細胞外マトリックスタンパク質が存在しない状態における、ヒアルロン酸(HA)表面で培養した。細胞は、ヨウ化プロピジウムで染色し、実施例2における記載の通りに分析した。経時的な増殖をアッセイした。
【0066】
図3に示すように、コラーゲンVI表面の細胞数は、8日目と19日目との間に増加した。BD培地#1中における、コラーゲンVIを含む表面での増殖は、血清を含まない市販培地中での増殖より優れていた。HA対照で増殖がなかったことは、ラット上皮幹細胞の効率的な付着および増殖が、コラーゲンVI単独または他の細胞外マトリックスタンパク質との組合せによって可能となったことを実証する。
【実施例4】
【0067】
市販培地に対する、無血清培地でのラット上皮幹細胞の増殖の比較
ラット上皮幹細胞(継代数9)は、HA表面に共有結合した唯一のECMがコラーゲンVIであったことを除いては、実施例3における記載の通りに成長させた。BD培地#1中でコラーゲンVI表面にある細胞の増殖を、標準的な組織培養条件における、血清存在下または血清非存在下での増殖と比較した。細胞は、ヨウ化プロピジウムで染色し、実施例2における記載の通りに分析した。図4に示すように、コラーゲンVIを無血清BD培地#1と併用した場合、血清存在下における標準的な組織培養条件(組織培養PS表面、DMEM)と同程度に、ラット上皮幹細胞の増殖が促進され、血清非存在下で標準的な培養条件を用いた場合の増殖より優れていた。
【実施例5】
【0068】
MC3T3骨芽細胞の増殖および付着
MC3T3骨芽細胞は、10%血清を含む市販のαMEM(Gibco/Invitrogen社)中において、コラーゲンVIが単独で、あるいは、エラスチン、フィブロネクチン、コラーゲンIII、ビトロネクチン、ポリ−D−リジン(PDL)、ポリ−D−オルニチン(PDO)、コラーゲンIV、コラーゲンI、またはラミニンと共に、共有結合によって付着したヒアルロン酸(HA)を含む表面で成長させた。共有結合によって連結した細胞外マトリックスタンパク質上での増殖を、12、72、および120時間に、標準的な組織培養条件下での増殖と比較した。これを図5に示す。細胞をヨウ化プロピジウムで染色し、ウェルの蛍光を、BMG Polarstar蛍光計を用いて、励起544、発光614で測定した(ゲイン=40)。図は、単独で、あるいは共有結合によって付着した他のECMタンパク質と共に共有結合によって連結したコラーゲンVIが、骨細胞由来MC3T3細胞の効率的な細胞接着および増殖に重要であることを示す。
【実施例6】
【0069】
無血清培地中での初代ラット骨髄細胞の増殖および付着
ラット骨髄細胞を単離し、組織培養フラスコ中にプレーティングし、10%牛胎児血清および1% Pen/Strepで補充されたDMEMを二回与えた。細胞を2回継代し、BD培地#1中に再懸濁し、その後、2000細胞/ウェルで、コラーゲンVIが、単独で、あるいは他の共有結合したECMタンパク質−エラスチン、コラーゲンIII、またはビトロネクチンのいずれか−と共に、共有結合によって連結しているHA表面に播種した(2回のコラーゲンVI+エラスチン実験では、異なった密度で細胞を播種した)。1日目および6日目にタイムポイントをとり、生存細胞の存在を示すために、カルセインam色素(Molecular Probes社製Live/Dead(商標)で染色した。蛍光顕微鏡像を取得し、実施例5における記載の通りに分析した。図6に示すように、単独で、あるいは共有結合によって付着した他のECMタンパク質と共に共有結合によって連結したコラーゲンVIは、ラット骨髄細胞の効率的な細胞接着および増殖に重要であった。
【0070】
当業者ならば、以上の記述から本発明の本質的特質を容易に確かめることができ、さらに、その趣旨および範囲から逸脱せずに、本発明の改変および修正を行って、それを様々な使用および条件に適合させることができる。
【0071】
さらに工夫を加えることなく、当業者ならば、以上の記述を用いて、本発明を最大限に利用できると考えられる。したがって、前述した特定の好ましい実施形態は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示におけるその他の部分をいかようにも限定するものではない。
【0072】
本明細書に引用したすべての出願、特許、および出版物における開示全体を、これによって参照により本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】Hep G2細胞を用いた増殖および付着試験を示す図である。
【図2】Hep G2細胞の増殖試験を示す図である。
【図3】ラット上皮幹細胞を用いた増殖および付着試験を示す図である。
【図4】ラット上皮幹細胞の増殖試験を示す図である。
【図5】MC3T3骨芽細胞を用いた増殖および付着試験を示す図である。
【図6】ラット骨髄細胞を用いた増殖および付着試験を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)細胞接着抵抗性(CAR)物質が結合している支持体、および、
b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体;ならびに、任意選択で、
(i)1つもしくは複数の異なった細胞外マトリックス(ECM)タンパク質または該ECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異体、および/または、
(ii)1つもしくは複数のポリカチオン性ポリマーまたは該ポリカチオン性ポリマーの生物学的に活性な断片もしくは変異体
を含むことを特徴とする表面。
【請求項2】
(i)前記任意選択のECMタンパク質は、1つもしくは複数のエラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、およびコラーゲンからなる群から選択され、
(ii)前記任意選択のポリカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ−D−リジン、ポリ−L−リジン、ポリ−L−リジン、およびポリ−D−オルニチンからなる群から選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の表面。
【請求項3】
a)CAR物質が結合している支持体と、
b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体、および、1つもしくは複数の異なったECMタンパク質または該ECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異体と
を含むことを特徴とする表面。
【請求項4】
前記ECMタンパク質は、1つもしくは複数のエラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、およびコラーゲンからなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の表面。
【請求項5】
前記CAR物質は、ヒアルロン酸(HA)もしくはその誘導体、アルギン酸(AA)もしくはその誘導体、ポリ−HEMA、ポリエチレングリコール(PEG)、グリムもしくはその誘導体、ポリプロピルアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、またはこれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする請求項1または3に記載の表面。
【請求項6】
コラーゲンVIおよび/または1つもしくは複数の前記ECMタンパク質は、共有結合によって前記CAR物質に結合していることを特徴とする請求項1または3に記載の表面。
【請求項7】
前記CAR物質は、HAであることを特徴とする請求項6に記載の表面。
【請求項8】
1つもしくは複数の前記コラーゲンVIもしくは前記ECMタンパク質は、非共有結合によって前記CAR物質に結合していることを特徴とする請求項1または3に記載の表面。
【請求項9】
前記CAR物質は、HAであることを特徴とする請求項8に記載の表面。
【請求項10】
前記支持体は、天然または合成の有機重合体または無機複合体であることを特徴とする請求項1または3に記載の表面。
【請求項11】
前記支持体は、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリラクチド、セルロース、ガラス、またはセラミックからなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の表面。
【請求項12】
前記支持体は、ポリスチレンであることを特徴とする請求項11に記載の表面。
【請求項13】
(a)ヒアルロン酸が結合しているポリスチレン支持体と、
(b)該ヒアルロン酸に共有結合によって結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体と
を含むことを特徴とする表面。
【請求項14】
請求項1に記載の表面を含むことを特徴とする物品。
【請求項15】
スライド、マルチウェルプレート、培養皿、培養フラスコ、または培養ビンであることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
医療用具;3Dインプラント、組織、および/または器官を生成するための足場もしくは鋳型;気泡;またはファイバーメッシュの一部であることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項17】
請求項1に記載の表面を作製する方法であって、
(a)CAR物質を前記支持体に結合させるステップと、
(b)該CAR物質に、コラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体;ならびに、任意選択で、
(i)1つもしくは複数の異なったECMタンパク質、または該ECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異体、および/または、
(ii)1つもしくは複数のポリカチオン性ポリマー、または生物学的に活性なその断片もしくは変異体
を結合させるステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記CAR物質は、
a)前記支持体を酸化プラズマで処理し、前記処理された支持体に前記CAR物質を結合させること、または、
b)前記支持体を酸化プラズマで処理し、前記処理された支持体を、アミノ基を備えたポリカチオン性ポリマーに曝露して中間層を形成し、前記CAR物質を該中間層に結合させること
によって前記支持体に結合されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)またはポリ−L−リジン(PLL)であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
培養中の細胞の付着、生存、および/または増殖を促進する方法であって、
(a)CAR物質が結合している支持体、および、
(b)該CAR物質に結合している、コラーゲンVI、または生物学的に活性なその断片もしくは変異体;ならびに、任意選択で、
(i)1つもしくは複数の異なったECMタンパク質、または該ECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異体、および/または、
(ii)1つまたは複数のポリカチオン性ポリマー
を含む表面に、該細胞の付着、生存、増殖に効果的な条件下で、培養培地中の細胞を接触させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
(i)前記任意選択のECMタンパク質は、1つもしくは複数のエラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、およびコラーゲンからなる群から選択され、
(ii)前記任意選択のポリカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ−D−リジン、ポリ−L−リジン、ポリ−L−リジン、およびポリ−D−オルニチンからなる群から選択される
ことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
培養中の細胞の付着、生存、および/または増殖を促進する方法であって、
(a)CAR物質が結合している支持体と、
(b)該CAR物質に結合しているコラーゲンVIまたは生物学的に活性なその断片もしくは変異体、および、1つもしくは複数の異なったECMタンパク質または該ECMタンパク質の生物学的に活性な断片もしくは変異体と
を含む表面に、該細胞の付着、生存、および/または増殖に効果的な条件下で、培養培地中の該細胞を接触させるステップを含み、該ECMタンパク質は、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、エンタクチン、アグリカン、デコリン、およびコラーゲンからなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項23】
前記コラーゲンVI、1つもしくは複数のECMタンパク質、またはポリカチオン性ポリマーは、共有結合によって前記CAR物質に結合されていることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記コラーゲンVI、1つもしくは複数のECMタンパク質、またはポリカチオン性ポリマーは、非共有結合によって前記CAR物質に結合されていることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記CAR物質は、HAであることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞は、哺乳類細胞であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記哺乳類細胞は、ヒト細胞であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳類細胞は、齧歯類細胞であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記哺乳類細胞は、骨細胞または肝細胞であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記肝細胞は、初代肝細胞、樹立肝細胞系から得られた細胞、肝腫瘍細胞系から得られた細胞、または上皮幹細胞であることを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳類細胞は、HepG2肝腫瘍細胞系のヒト肝細胞であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項32】
初代肝細胞または初代骨髄細胞の生存を促進する方法であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項33】
樹立肝細胞系または肝腫瘍細胞系から得られた細胞の増殖を促進する方法であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項34】
上皮幹細胞の増殖を促進する方法であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項35】
前記培養培地は、無血清であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項36】
前記培養培地は、血清を補充されていることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項37】
前記培養培地は、BD培地#1であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項38】
培養中の細胞の増殖を刺激または阻害する因子を含有する試験試料を同定する方法であって、
(a)無血清培地中でインキュベートされた培養細胞に、該試験試料を添加するステップであって、該細胞は、請求項1の表面と接触しているステップと、
(b)(a)における細胞増殖を測定するステップと、
(c)(a)における細胞増殖を、試験試料が添加されていない対照培養における、類似の細胞の増殖と比較するステップと
を含み、
(i)(a)における細胞増殖が、対照培養と比較して増大している場合は、該試験試料中に細胞増殖を刺激する因子が存在していることを示し、
(ii)(a)における細胞増殖が、対照培養と比較して低減している場合は、該試料中に細胞増殖を抑制する因子が存在していることを示す
ことを特徴とする方法。
【請求項39】
細胞の特性または挙動に対する、物質の影響を測定する方法であって、
(a)無血清培地中でインキュベートされた培養細胞に、該物質を添加するステップであって、該細胞は、請求項1の表面と接触しているステップと、
(b)(a)における細胞増殖を測定するステップと、
(c)(a)における細胞増殖を、該物質が添加されていない対照培養における、類似の細胞の増殖と比較するステップと
を含み、
(i)(a)における細胞増殖が、対照培養と比較して増大している場合は、該物質が細胞増殖を刺激することを示し、
(ii)(a)における細胞増殖が、対照培養と比較して低減している場合は、該物質が細胞増殖を抑制することを示す
ことを特徴とする方法。
【請求項40】
前記物質は、薬物であることを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記物質は、小分子であることを特徴とする請求項39に記載の方法。
【請求項42】
細胞の付着、生存、および/または増殖を促進するのに有用なキットであって、請求項1に記載の表面と、該細胞を培養して細胞の付着、生存、および/または増殖を可能にするのに適した1つまたは複数の構成要素または試薬とを含むことを特徴とするキット。
【請求項43】
培養中の細胞の増殖を正または負に変調する因子を同定するキットであって、請求項1に記載の表面と、(a)細胞の成長および(b)細胞増殖の測定に適した1つまたは複数の構成要素または試薬とを含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−504823(P2007−504823A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526129(P2006−526129)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/027733
【国際公開番号】WO2005/034625
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】