説明

細胞の封入のための方法および組成物

本発明は、細胞(例えば、神経前駆細胞およびニューロン)の分化および成長を改変(例えば、強化または刺激)するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、(例えば、溶液中の、またはナノファイバー(これは、例えば、細胞を封入し、細胞分化(例えば、神経突起発達)を促進することができる)を生じる(例えばナノファイバーへと自己集合する))一つまたは複数の自己集合性ペプチド両親媒性物質を含む組成物、およびそれらを使用する方法に関する。本発明の組成物および方法は、調査、臨床(例えば、治療)、および診断の環境において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞(例えば、神経前駆細胞およびニューロン)の分化および成長を改変(例えば、強化または刺激)するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、(例えば、溶液中の、または(例えば、細胞を封入し、細胞分化(例えば、神経突起発達)を促進することができる)ナノファイバーを生じる(例えば、へと自己集合する))一つまたは複数の自己集合性ペプチド両親媒性物質を含む組成物、およびそれらを使用する方法に関する。本発明の組成物および方法は、調査、臨床(例えば、治療)、および診断の環境において有用である。なお本願は、参照により完全に本明細書に組み入れられる、2005年1月21日出願の米国仮特許出願第60/645,668号に基づく優先権を主張する。また、この研究は、一部分、米国エネルギー省(グラントDE-FG02-00ER45810/A001)、NIH(グラントNS20778、NS20013、およびNS34758)、ならびにNSF(DMR-010-8342)により支持された。政府は、本発明における一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細胞を保存または誘引するための三次元足場が存在するが、それらは、しばしば、いくつかの区域において欠損している。例えば、分化するよう誘導された細胞は、しばしば、不要な細胞型を含む多様な細胞型へと分化する。ニューロン軸索(例えば、上行性感覚軸索および下行性運動軸索)の発生および成長、ならびにアストログリオーシス(例えば、アストログリア細胞の増殖および瘢痕形成)の阻害が望まれる場合、これは、特に問題である。(例えば、ニューロン軸索(例えば、上行性感覚軸索および下行性運動軸索)の発生および成長を促進し、同時に、アストログリア細胞の増殖および/または瘢痕形成を阻害する)生理活性試薬の送達のための改良された組成物および方法が、当技術分野において必要とされている。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明は、細胞(例えば、神経前駆細胞およびニューロン)の分化および成長を改変(例えば、強化または刺激)するための方法および組成物に関する。特に、本発明は、(例えば、溶液中の、または(例えば、細胞を封入し、細胞分化(例えば、神経突起発達)を促進することができる)ナノファイバーを生じる(例えば、へと自己集合する))一つまたは複数の自己集合性ペプチド両親媒性物質を含む組成物、およびそれらを使用する方法に関する。本発明の組成物および方法は、調査、臨床(例えば、治療)、および診断の環境において有用である。
【0004】
従って、いくつかの態様において、本発明は、ニューロンをペプチド両親媒性物質を含む組成物と接触させることを含む、ニューロンの発達を改変する方法を提供する。いくつかの態様において、ニューロンの発達の改変は、軸索の成長を含む。いくつかの態様において、軸索の成長は、下行性運動繊維の成長を含む。いくつかの態様において、軸索の成長は、上行性感覚繊維の成長を含む。いくつかの態様において、発達の改変は、病変部位を通って起こる。いくつかの態様において、ニューロンの発達の改変は、アストログリオーシスの減少を伴う。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質は、IKVAV配列および/またはその他のラミニン・エピトープを含む。いくつかの態様において、ニューロンは、傷害を受けた脊髄の中のニューロンである。いくつかの態様において、脊髄は、外傷性脊髄損傷により傷害を受けている。いくつかの態様において、ニューロンは感覚ニューロンである。いくつかの態様において、ニューロンは運動ニューロンである。いくつかの態様において、ニューロンの発達の改変は、ニューロンの発達の促進を含む。いくつかの態様において、ニューロンの発達の改変は、傷害を受けたニューロンの発達の再生を含む。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質を含む組成物は、さらに増殖因子を含む。いくつかの態様において、増殖因子は神経栄養因子を含む。本発明は、特定の神経栄養因子に制限されない。実際、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、白血病抑制因子(Leukemia inhib.factor)=コリン作動性ニューロン分化因子(chol.neuronal diff.factor)(LIF/CDF)、カルジオトロフィン(Cardiotrophin)-1、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)、繊維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)、インスリン、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、インスリン様増殖因子Ii(IGF-II)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)、トランスフォーミング増殖因子β2(TGFβ2)、トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)、アクチビン、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ミッドカイン・ヘパリン結合性神経栄養因子(HBNF)、プレイオトロフィン、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、シュワン腫由来増殖因子、ヘレグリン(ニューレグリン、ARIA)、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン6、軸索リガンド(Axon ligand)-1(Al-1)、elf-1、ehk1-L、およびLERK2を含む(がこれらに制限されない)多様な神経栄養因子が、本発明において有用であることが企図される。いくつかの態様において、ニューロンは神経突起である。
【0005】
本発明は、傷害を受けた神経を有する対象を提供する工程、および対象においてニューロンの成長が起こるような条件の下で、ペプチド両親媒性物質を含む組成物を対象に投与する工程を含む、対象を処置する方法も提供する。いくつかの態様において、ニューロンの成長は、軸索の成長を含む。いくつかの態様において、軸索の成長は、下行性運動繊維の成長を含む。いくつかの態様において、軸索の成長は、上行性感覚繊維の成長を含む。いくつかの態様において、ニューロンの成長は、傷害を受けた神経の部位における軸索の成長を含む。いくつかの態様において、ニューロンの成長は、対象におけるアストログリオーシスの減少を伴う。いくつかの態様において、ニューロンの成長は、対象における瘢痕形成の減少を伴う。好ましい態様において、アストログリオーシスの減少および瘢痕形成の減少は、神経傷害の部位において起こる。いくつかの態様において、傷害を受けた神経は、傷害を受けた脊髄の中の神経である。いくつかの態様において、傷害を受けた神経は、外傷性脊髄損傷により傷害を受けている。いくつかの態様において、傷害を受けた神経は、傷害を受けた感覚ニューロンを含む。いくつかの態様において、傷害を受けた神経は、傷害を受けた運動ニューロンを含む。いくつかの態様において、ニューロンの成長は、傷害を受けたニューロンの発達の再生を含む。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質を含む組成物は、さらに増殖因子を含む。いくつかの態様において、増殖因子は神経栄養因子を含む。いくつかの態様において、投与は、ペプチド両親媒性物質の水性溶液の非経口投与を含む。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質は、傷害を受けた神経との接触により、ナノファイバー・ゲルを形成する。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質は蛍光剤を含む。いくつかの態様において、蛍光剤はピレンブチル部分を含む。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質を含む組成物は、一つまたは複数の他の薬剤と同時投与される。いくつかの態様において、一つまたは複数の他の薬剤は、神経栄養因子、ニューロン成長阻害剤の阻害剤、ニューロン成長誘引物質、およびニューロン成長阻害剤からなる群より選択される。いくつかの態様において、ニューロン成長阻害剤の阻害剤は、Nogo、Ryk、Ryk様阻害剤、sFRP、sFRP様物質、MAG、Omgp、Wnt、またはCSPGの発現および/または活性を阻害する。
【0006】
本発明は、IKVAV配列および/またはその他のラミニン・エピトープを含むペプチド両親媒性物質を含む薬学的組成物も提供する。いくつかの態様において、組成物は、対象におけるニューロンの成長を改変するために構成される。いくつかの態様において、ニューロンの成長の改変は、ニューロンの成長の促進を含む。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質はSLSL配列を含む。いくつかの態様において、SLSL配列は、治療的に有用なペプチド両親媒性物質の自己集合を提供する。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質はA3配列を含む。いくつかの態様において、A3配列は、治療的に有用なペプチド両親媒性物質の自己集合を提供する。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質はヘテロ原子を含む。Br、I、およびFヘテロ原子を含む(がこれらに制限されない)複数のヘテロ原子が、(例えば、あるペプチド両親媒性物質を他のものと識別するため)本発明において有用であることが企図される。いくつかの態様において、ペプチド両親媒性物質は分枝基を含む。いくつかの態様において、分枝基は、ペプチド両親媒性物質内に存在するペプチド・エピトープの利用可能性を改良する。いくつかの態様において、分枝基は、N末端に修飾されたリジン残基を含む。
【0007】
いくつかの態様において、本発明は、ペプチド-両親媒性物質(amphipile)(PA)組成物を含むナノファイバー足場内に封入された神経前駆細胞を提供する。封入された神経前駆細胞は、高密度での生理活性ペプチドの細胞への提示において特に有用である。いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、神経前駆細胞分化を誘導する生理活性ペプチドの送達において有用である。
【0008】
従って、いくつかの態様において、本発明は、ナノファイバー構造がペプチド-両親媒性物質を含み、かつ多数の神経前駆細胞がナノファイバー構造の内部に封入されている、多数の神経前駆細胞;およびナノファイバー構造:を含む系を提供する。ある種の態様において、ペプチドは、(例えば、神経前駆細胞の分化または発達を誘導する)生理活性ペプチドである。いくつかの態様において、生理活性ペプチドは、増殖因子、ホルモン、または分化因子である。いくつかの態様において、生理活性ペプチドは、生理活性エピトープ(例えば、IKVAVまたはその他のラミニン・エピトープ)を含む。
【0009】
本発明は、多数の神経前駆細胞;および多数のペプチド-両親媒性物質を提供する工程;ならびにナノファイバー構造(ナノファイバー構造はペプチド-両親媒性物質を含む)の内部に神経前駆細胞が封入されるような条件の下で、ペプチド-両親媒性物質を神経前駆細胞へと送達する工程を含む方法をさらに提供する。いくつかの態様において、ペプチドは生理活性試薬(例えば、ホルモン、増殖因子、または分化因子)である。好ましい態様において、神経前駆細胞の封入は、高い局所濃度でのペプチドの送達をもたらす。いくつかの態様において、封入は、細胞の選択的な分化をもたらす。いくつかの態様において、生理活性ペプチドは、生理活性エピトープ(例えば、IKVAVまたはその他のラミニン・エピトープ)を含む。
【0010】
本発明は、多数の神経前駆細胞;および多数のペプチド-両親媒性物質を含むキットをさらに提供する。ある種の態様において、ペプチドは、(例えば、細胞の分化または発達を誘導する)生理活性ペプチドである。いくつかの態様において、生理活性ペプチドは、増殖因子、ホルモン、または分化因子である。いくつかの態様において、生理活性ペプチドは、生理活性エピトープ(例えば、IKVAV)を含む。
【0011】
本発明は、ペプチド両親媒性物質および神経栄養剤を含むキットも提供する。
【0012】
定義
本明細書において使用されるように、「多能性の」という用語は、複数の異なる型の細胞(例えば、最終分化細胞)へと分化する細胞の能力を意味する。例えば、多能性細胞には、三つの主な胚葉:内胚葉、外胚葉、および中胚葉へと分化し得るものが含まれる。
【0013】
本明細書において使用されるように、「前駆細胞」という用語は、特定の細胞型へと分化し得る細胞をさす。
【0014】
本明細書において使用されるように、「移植細胞」および「グラフト材料」という用語は、グラフティング、植え込み、または移植される要素(例えば、組織または細胞)を広くさす。本明細書において使用されるように、「移植」という用語は、ある対象のある部分からの、同一対象のもう一つの部分への、もしくはもう一つの対象への、組織もしくは細胞の転移もしくはグラフティング、または生体適合性材料の身体への導入をさす。本明細書において使用されるように、いくつかの態様において、移植される組織は、同一もしくは類似の組成の、または生物(例えば、ドナー)もしくはインビトロ培養物(例えば、組織培養系)に由来する細胞の集団を含み得る。
【0015】
「移植細胞のレシピエント」という用語は、本明細書において使用されるように、移植を受け、移植細胞を受容する対象を広くさす。
【0016】
本明細書において使用されるように、「細胞培養物」という用語は、(例えば、不死表現型を有する)連続細胞系、初代細胞培養物、および有限細胞系(例えば、非形質転換細胞)を含む(がこれらに制限されない)任意のインビトロの細胞培養物をさす。
【0017】
「インビトロ」という用語は、人工的な環境、および人工的な環境において起こる過程または反応をさす。「インビボ」という用語は、天然の環境(例えば、動物または細胞)、および天然の環境において起こる過程または反応をさす。インビトロ系対インビボ系の定義は、研究中の系によって特定される。本明細書において使用されるように、インビトロ系とは、組織培養の容器および装置のような人工的な環境における細胞または過程の研究をさし、インビボの情況における同一の系の研究は、ラット、マウス、またはヒトのような生物における細胞または過程の研究をさす。
【0018】
本明細書において使用されるように、「初代細胞」または「初代培養物」という用語は、生物、器官、または組織から直接外植された細胞または細胞培養物をさす。初代培養物は、典型的には、形質転換されておらず、不死でもない。
【0019】
「組織培養」という用語は、本明細書において使用されるように、実験室における細胞の増殖および維持のための技術の集合をさす。当技術分野において公知であるように、そのような技術には、組織培養ディッシュまたはその他の容器、インキュベーター、および無菌封じ込め装置が含まれ得る。
【0020】
本明細書において使用されるように、「外因性の」という用語は、ネイティブ起源以外の何らかの起源に由来する物質をさすために「異種の」という用語と交換可能に使用される。例えば、「外因性タンパク質」または「外因性細胞」という用語は、非ネイティブの起源または位置に由来し、生物学的な系に人工的に供給されたタンパク質または細胞をさす。対照的に、「内因性タンパク質」または「内因性細胞」という用語は、生物学的な系、種、または個体にネイティブのタンパク質または細胞をさす。
【0021】
本明細書において使用されるように、「幹細胞」という用語は、自己再生し複数の系統へと分化することができる細胞をさす。幹細胞は、例えば、胚起源に由来してもよいし(「胚性幹細胞」)、または成体起源に由来してもよい。例えば、Thompsonの米国特許第5,843,780号は、ヒト胚からの幹細胞系の作製を記載している。PCT公開WO00/52145およびWO01/00650は、幹細胞系を作製するための核移入法における成体ヒト由来の細胞の使用を記載している。
【0022】
成体幹細胞の例には、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、および骨髄間質細胞が含まれるが、これらに制限されない。これらの幹細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、骨髄間質細胞、および胸腺間質(間葉系幹細胞);肝細胞、血管細胞、および筋肉細胞(造血幹細胞);筋細胞、肝細胞、およびグリア細胞(骨髄間質細胞)を含む多様な細胞型へ分化し、実際、三つの胚葉全ての細胞(成体神経幹細胞)へと分化する能力を示した。
【0023】
「胚性幹細胞」(「ES細胞」)という用語は、自己再生性であり、成熟動物に存在する細胞型の多くまたは全てを与える能力を有する、哺乳動物胚盤胞に由来する細胞をさす。本発明の方法および組成物と共に使用するのに適しているヒト胚性幹細胞系には、以下の団体によって作製されたものが含まれるが、それらに制限されない:BresaGen,Inc.,Athens,Georgia;CyThera,Inc.,San Diego,California;ES Cell International,Melbourne,Australia;Geron Corporation,Menlo Park,California;Goteborg University,Goteborg,Sweden;Karolinska Institute,Stockholm,Sweden;Maria Biotech Co. Ltd. - Maria Infertility Hospital Medical Institute,Seoul,Korea;MizMedi Hospital - Seoul National University,Seoul,Korea;National Centre for Biological Sciences/ Tata Institute of Fundamental Research,Bangalore,India;Pochon CHA University,Seoul,Korea;Reliance Life Sciences,Mumbai,India;Technion University,Haifa,Israel;University of California,San Francisco,California;およびWisconsin Alumni Research Foundation,Madison,Wisconsin。National Institutes of Healthにより作出されるHuman Embryonic Stem Cell Registryに掲載されたヒトES細胞が、本発明の方法および組成物において有用である。しかしながら、NIHレジストリー(registry)に掲載されていないヒトES細胞も、本発明の態様において有用であることが企図される(例えば、非ヒト由来材料のESへの混入を防止することが望ましい場合)。
【0024】
本明細書において使用されるように、「フィーダー細胞」という用語は、組織培養系において増殖支持体として使用される細胞をさす。好ましい態様において、「フィーダー細胞」という用語は、胚性「線条体細胞」をさし、その他の態様において、「フィーダー細胞」という用語は、間質細胞をさす。
【0025】
本明細書において使用されるように、「ペプチド両親媒性物質」および「PA」および「両親媒性物質」という用語は、(例えば、ペプチド・エピトープ(例えば、IKVAVおよび/またはYIGSR配列を含む)機能領域に接合された、(例えば、ペプチド両親媒性物質のパッキングおよび自己集合を改変し、かつ/またはそれに影響することができる配列(例えば、β-シート)を含む)構造領域に接合された、疎水性領域(例えば、直鎖状ペプチド鎖(例えば、パルミトイル基)または疎水性環構造(例えば、ピレンブチル))を含む有機モエティを含む組成物をさす。ペプチド部分は、ペプチド両親媒性物質の電荷を決定し得る一つまたは複数の他の領域(例えば、(例えば、疎水性領域、構造領域、または機能領域に隣接している)電荷を有するアミノ酸またはその配列)を含み得る。本明細書に記載される他、本発明において有用なペプチド両親媒性物質は、各々、参照により完全に本明細書に組み入れられる米国特許出願第20050272662号、第20050209145号、第20050208589号、第20040258726号、第20040022718号、第20040018961号、第20040001893号、ならびに国際出願WO/05056576、WO/05056039、WO/05003292、WO/04106359、WO/04072104、WO/04046167、WO/04018628、WO/04003561、WO/03090255、WO/03084980、WO/03070749、およびWO/03054146に記載されている。
【0026】
本明細書において使用されるように、「単離された」という用語は、材料(例えば、細胞)に関して使用される場合、同定され、天然起源において通常関連している少なくとも一つの要素または汚染物質から分離されている材料をさす。単離された材料は、自然界に見出されるものとは異なる形態または環境で存在する。
【0027】
本明細書において使用されるように、「精製された」または「精製する」という用語はは、試料からの要素(例えば、汚染物質)の除去をさす。
【0028】
本明細書において使用されるように、「対象」という用語は、(例えば、特定の処置(例えば、本発明の両親媒性物質の投与)のレシピエントとなる)ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等を含む(がこれらに制限されない)任意の動物(例えば、哺乳動物)をさす。本明細書中に特記されない限り、「対象」および「患者」という用語は、ヒト対象に関して交換可能に使用される。
【0029】
本明細書において使用されるように、「非ヒト動物」という用語は、げっ歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ等のような脊椎動物を含む(がこれらに制限されない)全ての非ヒト動物をさす。
【0030】
「試験化合物」および「候補化合物」という用語は、疾患、疾病、損傷(例えば、脊髄損傷)、病気、または身体機能の障害(例えば、神経変性疾患)を処置または防止するために使用するための候補である任意の化学的エンティティ、薬物、薬物等をさす。候補化合物には、公知の治療用化合物および可能性のある治療用化合物(例えば、ニューロンの成長を刺激または阻害することが公知の薬剤、ならびに(例えば、本発明の系および方法を使用して)神経細胞の成長に対する効果が未だ決定されていないもの)の両方が含まれる。候補化合物は、本発明のスクリーニング法を使用したスクリーニングにより治療的であると決定され得る。
【0031】
本明細書において使用されるように、「遺伝子移入系」という用語は、核酸配列を含む組成物を細胞または組織に送達するための任意の手段をさす。例えば、遺伝子移入系には、ベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびその他の核酸に基づく送達系)、裸の核酸の微量注入、ポリマーに基づく送達系(例えば、リポソームに基づく系および金属粒子に基づく系)、微粒子銃注入等が含まれるが、これらに制限されない。本明細書において使用されるように、「ウイルス遺伝子移入系」という用語は、所望の細胞または組織への試料の送達を容易にするための、ウイルス・エレメント(例えば、完全なウイルス、修飾されたウイルス、および核酸またはタンパク質のようなウイルス要素)を含む遺伝子移入系をさす。本明細書において使用されるように、「アデノウイルス遺伝子移入系」という用語は、アデノウイルス科に属する完全なまたは改変されたウイルスを含む遺伝子移入系をさす。
【0032】
本明細書において使用されるように、「核酸分子」という用語は、DNAまたはRNAを含む(がこれらに制限されない)任意の核酸含有分子をさす。その用語には、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルキュェオシン(queosine)、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、プソイドウラシル、キュェオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、プソイドウラシル、キュェオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンを含む(がこれらに制限されない)DNAおよびRNAの公知の塩基アナログを含む配列が包含される。
【0033】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド、前駆物質、またはRNA(例えば、rRNA、tRNA)の産生に必要なコーディング配列を含む核酸(例えば、DNA)配列をさす。ポリペプチドは、全長または断片の所望の活性または機能的特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達、および免疫原性等)が保持される限り、全長コーディング配列によってコードされてもよいし、またはコーディング配列の一部によってコードされてもよい。その用語には、構造遺伝子のコーディング領域、ならびに遺伝子が全長mRNAの長さに相当するよう各末端約1kb以上の距離にわたり5'末および3'末の両方でコーディング領域に隣接している配列も包含される。コーディング領域の5'に位置し、mRNA上に存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コーディング領域の3'または下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語には、cDNAおよびゲノム型の遺伝子の両方が包含される。遺伝子のゲノム型またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コーディング配列により中断されたコーディング領域を含有している。イントロンとは、核RNA(hnRNA)へと転写される遺伝子のセグメントであり;イントロンは、エンハンサーのような調節エレメントを含有しているかもしれない。イントロンは、核または一次転写物から除去または「切り出し」される;従って、イントロンは、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは、翻訳中、新生ポリペプチド内のアミノ酸の配列または順序を指定するよう機能する。
【0034】
本明細書において使用されるように、「異種遺伝子」という用語は、その天然環境にない遺伝子をさす。例えば、異種遺伝子には、ある種からもう一つの種へ導入された遺伝子が含まれる。異種遺伝子には、何らかの方式で改変された、生物にネイティブの遺伝子(例えば、変異させられたもの、複数コピー付加されたもの、非ネイティブの調節配列に連結されたもの等)も含まれる。異種遺伝子は、異種遺伝子配列が、典型的には、染色体内で天然には遺伝子配列に関連していることが見出されないDNA配列に接合されているか、または自然界には見出されない染色体の部分に関連しているという点で、内因性遺伝子と区別される(例えば、遺伝子が通常は発現されない遺伝子座において発現された遺伝子)。
【0035】
本明細書において使用されるように、「遺伝子発現」という用語は、遺伝子にコードされた遺伝情報を、遺伝子の「転写」を通して(すなわち、RNAポリメラーゼの酵素作用を介して)、RNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、またはsnRNA)へと変換し、タンパク質をコードする遺伝子の場合には、mRNAの「翻訳」を通してタンパク質へと変換する過程をさす。遺伝子発現は、過程の中の多くの段階において調節され得る。「アップレギュレーション」または「活性化」とは、遺伝子発現産物(例えば、RNAまたはタンパク質)の産生を増加させる調節をさし、「ダウンレギュレーション」または「抑制」とは、産生を減少させる調節をさす。アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに関与している分子(例えば、転写因子)は、しばしば、それぞれ「活性化因子」および「抑制因子」と呼ばれる。
【0036】
イントロンを含有していることに加え、ゲノム型の遺伝子は、RNA転写物に存在する配列の5'末および3'末の両方に位置する配列も含み得る。これらの配列は、「隣接」配列または領域と呼ばれる(これらの隣接配列は、mRNA転写物に存在する非翻訳配列の5'または3'に位置している)。5'隣接領域は、遺伝子の転写を制御するかまたはそれに影響を及ぼすプロモーターおよびエンハンサーのような調節配列を含有しているかもしれない。3'隣接領域は、転写の終結、転写後切断、およびポリアデニル化を指図する配列を含有しているかもしれない。
【0037】
「野生型」という用語は、天然に存在する起源から単離された遺伝子または遺伝子産物をさす。野生型遺伝子は、集団において最も高頻度に観察されるものであり、従って、任意に設計された「正常型」または「野生型」の遺伝子である。対照的に、「修飾型」または「変異型」という用語は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較して、配列およびまたは機能的特性の修飾(例えば、改変された特徴)を示す遺伝子または遺伝子産物をさす。天然に存在する変異体が単離され得ることに注意されたい;これらは、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較して(改変された核酸配列を含む)改変された特徴を有するという事実により同定される。
【0038】
本明細書において使用されるように、「コードする核酸分子」、「コードするDNA配列」、および「コードするDNA」という用語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序または配列をさす。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序は、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。従って、DNA配列はアミノ酸配列をコードする。
【0039】
本明細書において使用されるように、「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチド」および「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」という用語は、遺伝子のコーディング領域を含む核酸配列、または、換言すると、遺伝子産物をコードする核酸配列を意味する。コーディング領域は、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAの形態で存在し得る。DNA形態で存在する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、一本鎖(すなわちセンス鎖)または二本鎖であり得る。エンハンサー/プロモーター、スプライス・ジャンクション、ポリアデニル化シグナル等のような適当な制御エレメントが、適切な転写の開始および/または一次RNA転写物の正確なプロセシングを許容するために必要である場合には、遺伝子のコーディング領域の近傍に置かれ得る。または、本発明の発現ベクターにおいて利用されるコーディング領域は、内因性のエンハンサー/プロモーター、スプライス・ジャンクション、介在配列、ポリアデニル化シグナル等、または内因性および外因性の両方の制御エレメントの組み合わせを含有しているかもしれない。
【0040】
「アミノ酸配列」および「ポリペプチド」または「タンパク質」のような用語は、アミノ酸配列を、言及されたタンパク質分子に関連した完全なネイティブなアミノ酸配列に制限するためのものではない。
【0041】
タンパク質がベクター配列によりコードされたアミノ酸残基を含有していないことを示すために本明細書において使用されるような「ネイティブ・タンパク質」という用語;即ち、ネイティブ・タンパク質は、自然界に存在するようなタンパク質に見出されるアミノ酸のみを含有している。ネイティブ・タンパク質は、組換え手段により作製されてもよいし、または天然に存在する起源から単離されてもよい。
【0042】
本明細書において使用されるように、「一部」という用語は、(「所定のタンパク質の一部」のように)タンパク質に関する場合、そのタンパク質の断片をさす。断片のサイズは、4アミノ酸残基から完全アミノ酸配列マイナス1アミノ酸までの範囲であり得る。
【0043】
「過剰発現」および「過剰発現する」という用語ならびに文法上の相当語句は、mRNAの発現のレベルに関して、対照または非トランスジェニック動物における所定の組織において観察されるものよりおよそ3倍高い(または大きい)発現のレベルを示すために使用される。mRNAのレベルは、ノーザンブロット分析を含む(がこれに制限されない)当業者に公知の多数の技術を使用して測定される。分析された各組織から負荷されたRNAの量の差を制御するために、適切な対照がノーザンブロットに含まれる(例えば、全ての組織に本質的に同一の量存在する豊富なRNA転写物28S rRNAの各試料中に存在する量が、ノーザンブロット上に観察されたmRNA特異的なシグナルを規準化または標準化する手段として使用され得る)。正確にスプライシングされたトランスジーンRNAにサイズが相当するバンドの中に存在するmRNAの量が定量化され得る;トランスジーン・プローブにハイブリダイズするRNAのその他の微量の種は、一般に、トランスジェニックmRNAの発現の定量化において考慮されない。
【0044】
本明細書において使用されるように、「選択可能マーカー」という用語は、本来は必須栄養素であろうものを欠く培地において増殖する能力を付与する酵素活性をコードする遺伝子(例えば、酵母細胞におけるHIS3遺伝子)の使用をさし;さらに、選択可能マーカーは、選択可能マーカーが発現される細胞に抗生物質または薬物に対する耐性を付与するかもしれない。選択マーカーは「優性」であり得;優性選択可能マーカーは、任意の真核細胞系において検出され得る酵素活性をコードする。優性選択可能マーカーの例には、哺乳動物細胞において薬物G418に対する耐性を付与する細菌アミノグリコシド3'ホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo遺伝子とも呼ばれる)、抗生物質ハイグロマイシンに対する耐性を付与する細菌ハイグロマイシンGホスホトランスフェラーゼ(hyg)遺伝子、およびミコフェノール酸の存在下で増殖する能力を付与する細菌キサンチン-グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ遺伝子(gpt遺伝子とも呼ばれる)が含まれる。その他の選択マーカーは、関連する酵素活性を欠く細胞系と併せて使用されなければならないという点で優性ではない。非優性選択マーカーの例には、tk-細胞系と併せて使用されるチミジン・キナーゼ(tk)遺伝子、CAD欠損細胞と併せて使用されるCAD遺伝子、およびhprt-細胞系と併せて使用される哺乳動物ヒポキサンチン-グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(hprt)遺伝子が含まれる。哺乳動物細胞系における選択マーカーの使用の概説は、Sambrook,J.et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1989)pp.16.9-16.15に提供される。
【0045】
「ベクター」という用語は、ある細胞からもう一つの細胞へとDNAセグメントを移入する核酸分子をさす。「媒体」という用語が、時に「ベクター」と交換可能に使用される。ベクターは、細胞へ発現カセットを移入するために使用され得;さらに、または、ベクターは、細胞トランスフェクションが決定され得るマーカー・タンパク質、トランスフェクトされた細胞がトランスフェクトされていない細胞から選択され得る選択タンパク質、またはレポーター・タンパク質の発現もしくは活性もしくは機能に対する効果がモニタリングされ得るレポーター・タンパク質をコードする遺伝子を含む(がこれらに制限されない)付加的な遺伝子を含み得る。
【0046】
「発現カセット」という用語は、インビトロまたはインビボのいずれかにおける機能的に連結されたコーディング配列の発現に必要な所望のコーディング配列および適切な核酸配列を含有している化学的に合成されたまたは組換えのDNA分子をさす。インビトロの発現には、転写系における発現および転写/翻訳系における発現が含まれる。インビボの発現には、特定の宿主細胞および/または生物における発現が含まれる。原核細胞またはインビトロ発現系における発現に必要な核酸配列には、一般的に、しばしばその他の配列と共に、プロモーター、オペレーター(任意)、およびリボソーム結合部位が含まれる。真核生物インビトロ転写系および細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終結およびポリアデニル化のシグナルを利用することが公知である。当技術分野において転写鋳型と呼ばれる、細菌RNAポリメラーゼを介した発現に必要な核酸配列には、ポリメラーゼ・プロモーター領域に続いて所望のRNA配列の相補鎖を有する鋳型DNA鎖が含まれる。転写鋳型を作出するためには、相補鎖が、鋳型鎖のプロモーター部分にアニーリングされる。
【0047】
「発現ベクター」という用語は、一つまたは複数の発現カセットを含むベクターをさす。
【0048】
「siRNA」という用語は、短い干渉RNAをさす。いくつかの態様において、siRNAは、約18〜29ヌクレオチド長の二重鎖または二本鎖領域を含む;しばしば、siRNAは、各鎖の3'末に対になっていないヌクレオチドを約2〜4個含有している。siRNAの二重鎖または二本鎖領域の少なくとも一つの鎖は、標的RNA分子と実質的に相同であるか、または実質的に相補的である。標的RNA分子に相補的な鎖は、「アンチセンス鎖」であり;標的RNA分子に相同な鎖は、「センス鎖」であり、かつsiRNAアンチセンス鎖に相補的でもある。siRNAは、付加的な配列を含有していてもよく;そのような配列の非制限的な例には、連結配列またはループ、さらにステムおよびその他の折り畳まれた構造が含まれる。
【0049】
本明細書において使用されるように、「有効量」および「治療的に有効な量」という用語は、有益なまたは所望の結果を達成するために(例えば、(例えば、本発明の方法を使用して)ニューロンの成長を達成するために)十分な化合物(例えば、ペプチド両親媒性物質またはそれらを含む溶液)の量をさす。有効量は、1回以上の投与、適用、または投薬で投与され得、特定の製剤または投与経路に制限されるものではない。
【0050】
本明細書において使用されるように、「投与」および「投与すること」という用語は、薬物、プロドラッグ、試験化合物、もしくはその他の薬剤、または治療的な処置(例えば、本発明の組成物)を、細胞または対象(例えば、対象、またはインビボ、インビトロ、もしくはエクスビボの細胞、組織、および器官)に与える行為をさす。ヒト身体への例示的な投与経路は、目(眼科的)、口(経口)、皮膚(経皮)、鼻(経鼻)、肺(吸入)、経口粘膜(経頬)、耳、直腸を通したもの、注射(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、腹腔内等)によるもの等である。
【0051】
本明細書において使用されるように、「同時投与」および「同時投与すること」という用語は、少なくとも二つの薬剤(例えば、一つの型のペプチド・エピトープ(例えば、IKVAV)を含むペプチド両親媒性物質、および一つまたは複数の他の薬剤(例えば、第二の型のペプチド両親媒性物質(例えば、YIGSR)を含むペプチド両親媒性物質)を含む組成物)または治療の、細胞または対象への投与をさす。いくつかの態様において、二つ以上の薬剤または治療の同時投与は、同時になされる。その他の態様において、第一の薬剤/治療は、第二の薬剤/治療の前に投与される。当業者は、使用される様々な薬剤または治療の製剤化および/または投与経路が変動し得ることを理解する。同時投与のための適切な投薬量は、当業者によって容易に決定され得る。いくつかの態様において、薬剤または治療が同時投与される場合、それぞれの薬剤または治療は、単独投与の場合に適切であるものより低い投薬量で投与される。従って、同時投与は、薬剤または治療の同時投与が、有害(例えば、毒性)である可能性のある薬剤の必要投薬量を低下させる態様において、かつ/または二つ以上の薬剤の同時投与が、他の薬剤の同時投与を介した、薬剤のうちの一つの有益な効果に対する対象の感作をもたらす場合、特に望ましい。
【0052】
本明細書において使用されるように、「神経突起」という用語は、成長過程におけるニューロンをさす。従って、「神経突起の成長」または「神経突起の発達」という用語は、ニューロン(例えば、細胞体)からの軸索突起の伸張をさす。
【0053】
本明細書において使用されるように、「接触」または「接触させること」という用語は、本発明の組成物(例えば、本発明のペプチド両親媒性物質を含む溶液またはナノファイバー・ゲル)を、ニューロンの成長を媒介するか、または改変(例えば、刺激、強化、阻害等)することができる位置にもっていく任意の様式をさす。例えば、「接触させること」は、PAを含む溶液を、ニューロンが存在する区域へ注射することを含み得る。
【0054】
発明の詳細な説明
中枢神経系は、脳および脊髄を含む。体内のその他の神経は全て、末梢神経系を構成する。遠心性神経は、中枢神経系から身体の全ての部分(末梢)へとメッセージを伝え、求心性神経は、末梢から中枢神経系へと疼痛強度のような情報を伝える。遠心性神経には、二つの型が存在する:骨格筋に通じる体性神経、ならびに平滑筋、腺、および心臓に通じる自律神経。メッセージは、電気活動の形態で、神経繊維または軸索に沿って伝導される。軸索の終末と、その神経が制御する(神経支配する)筋肉または腺との間には、シナプスまたはシナプス間隙と呼ばれる隙間が存在する。伝導された電気的インパルス(活動電位)は、神経終末に到達すると、神経伝達物質と呼ばれる化学物質の放出を誘発する。これらの化学物質はシナプス間隙一帯に拡散し、接合部後膜上の固有の構造(受容体)と反応する。そのとき、受容体は、活性化される、または興奮すると言われ、その活性化は、筋収縮のような生物学的応答を最終的にもたらす一連の化学的事象の引き金を引く。神経伝達物質の放出、拡散、および受容体活性化を含む過程は、集合的に、伝達と呼ばれる。多くの型の伝達が存在し、それらは、含まれている特異的な神経伝達物質にちなんで命名されている。従って、コリン作動性伝達には、神経伝達物質アセチルコリンの放出、およびそれによるシナプス後受容体の活性化が含まれる。受容体に結合し、それを活性化するものは、アゴニストと呼ばれる。従って、アセチルコリンは、全てのコリン作動性受容体の内因性アゴニストである。
【0055】
骨格筋への体性神経は、中枢神経系を出た後、すなわち神経終末とそれが神経支配する筋肉との間に、ただ一つのシナプスを有する。そのシナプスにおける神経伝達物質は、アセチルコリンである。従って、この神経筋(筋肉の意)接合部は、コリン作動性伝達の一つの部位である。その接合部後受容体は運動終板と呼ばれる。自律神経は、体性神経とは対照的に、中枢神経系と神経支配された構造(終末器官)との間に付加的なシナプスを有する。これらのシナプスは、神経節と呼ばれる構造にあり、これらは神経終末器官接合部ではなく神経神経接合部である。しかしながら、体性神経と同様に、自律神経も、最終的な神経終末器官シナプスを有する。自律神経節における神経伝達物質もアセチルコリンであり;従って、これは、コリン作動性伝達のもう一つの部位となっている。運動終板および神経節受容体は、外因的に添加されたニコチンによっても活性化され得る。従って、ニコチンは、ニコチン性コリン作動性受容体と呼ばれるコリン作動性受容体のこの特定のサブファミリーのアゴニストである。
【0056】
自律神経系には、解剖学的かつ機能的に別個の二つの区分:交感神経区分および副交感神経区分が存在する。二つの区分の節前繊維は機能的には同一であり、それらは、節後線維における活動電位を開始させるために神経節にあるニコチン性コリン作動性受容体を神経支配する。しかしながら、副交感神経区分の節後線維のみが、コリン作動性である。交感神経区分の節後線維は、常にではないが、一般に、ノルエピネフリンを分泌する。自律神経系の副交感神経区分の節後線維により神経支配されたコリン作動性受容体は、外因的に添加されたムスカリン(毒キノコであるアマニタ・ムスカリア(Amanita muscaria)に少量見出されるアゴニスト)によっても活性化され得る。これらは、ムスカリン性コリン作動性受容体と呼ばれるコリン作動性受容体の第二のサブセットを構成する。
【0057】
神経節および運動終板にある受容体は、両方とも、ニコチンに応答するが、それらは実際はニコチン性受容体の二つの別個のサブグループを構成する。コリン作動性受容体の三つのファミリーは、各々、内因性アセチルコリンまたは添加されたアゴニストによる活性化を防止するために、特異的な受容体アンタゴニストにより遮断され得る。従って、自律神経系の副交感神経区分の節後線維により神経支配されたコリン作動性ムスカリン受容体、交感神経および副交感神経の両方の神経節にあるコリン作動性ニコチン受容体、ならびに体性神経系の神経筋接合部(運動終板)にあるコリン作動性ニコチン受容体のための特異的な遮断薬が、公知である。これらの受容体が遮断されると、正常な連続的な活性化に関連した進行中の生物学的活性が失われる。例えば、運動終板の遮断は、全身の弛緩性麻痺に至る。
【0058】
自律神経系の交感神経区分には、いくつかの変則の繊維が存在する。例えば、汗腺に通じる交感神経節後神経は、他の大部分の交感神経繊維のようにアドレナリン作動性ではなくコリン作動性であり、ムスカリン(mucarinic)受容体を神経支配する。副腎への交感神経は、全ての自律神経節と同様にニコチン性である受容体を神経支配するが、節後線維が存在しない。腺は、それ自体、交感神経節後繊維と類似しているが、神経伝達物質を分泌するのではなく、血流中へエピネフリンおよびノルエピネフリンを分泌し、それらはそこでホルモンとして機能する。これらのホルモンは、全身のアドレナリン作動性受容体を活性化する。
【0059】
脊髄は、末梢神経系(例えば、体性神経系および自律神経系の両方)から脳へと感覚情報を伝導し、脳から様々な効果器(例えば、骨格筋、心筋、平滑筋、または腺)へと運動情報も伝導する。脊髄は、小さな反射中枢としても機能する。
【0060】
脳は、脊髄、ならびに自己の(例えば、脳)神経(例えば、三叉神経、内耳神経、嗅神経、および視神経)からの感覚入力を受容し、その様々な感覚入力を処理し、適切な調整された運動出力を開始させることに、その容量および計算力の大部分を捧げる。脊髄および脳は、いずれも、白質(例えば、ミエリン鞘により各々コーティングされた軸索の束)および灰白質(例えば、シナプスにより各々カバーされた細胞体および樹状突起の集団)を構成する。
【0061】
脊髄および脳は、いずれも、髄膜として公知の三枚の連続的な結合組織にカバーされている。外側から内側へと、これらは、椎骨および頭蓋の内側の骨質表面に押しつけられた硬膜;クモ膜;ならびに軟膜である。クモ膜と軟膜との間の領域には、脳脊髄液(CSF)が充填されている。
【0062】
この中枢神経系のCSFは独特である。中枢神経系の細胞は、身体の残りの部分の細胞のECFとして役立つ液体とは異なるCSFの中に浸されている。毛細管の内皮細胞間のタイトジャンクションの系である血液脳関門のため、脳内の毛細管を出る液体は「通常」よりはるかにより少ないタンパク質を含有している。この関門は、多くの治療薬が脳に達するのを妨げるため、医学において問題を作出する。脳脊髄液(CSF)は、脈絡叢の分泌物である。CSFは、脊髄の中枢脳脊髄管を通って、そして脳内の四つの脳室の相互に接続された系を通って、中枢神経系の至る所に絶えず流動している。CSFは、脳から排液される静脈を通って血中に戻る。
【0063】
脊髄は、脊髄をアラインする31対の脊髄神経を含む。これらは、各々、感覚軸索および運動軸索を含有しているため、「混合」神経である。しかしながら、脊柱内で、感覚軸索は、細胞体が位置している後根神経節へと進み、次いで、脊髄自体へと進むが、運動軸索は、前根へと進んだ後、感覚軸索と合体して混合神経を形成する。
【0064】
脊髄は、二つの主要な機能を実施する。それは、末梢神経系の大部分を脳に接続する。感覚ニューロンを通って脊髄に達する情報(例えば、神経インパルス)は、脳へと伝達される。脳の運動野に生じるシグナルは、索の下方へ後退し、運動ニューロンに残る。脊髄は、屈筋反射のようないくつかの単純な反射の原因である小さな調整中枢としても機能する。脳神経のうちのいくつか(例えば、視神経および嗅神経)は、感覚軸索のみを含有しており、脳神経のうちのいくつか(例えば、(例えば、眼球筋肉を制御する)動眼神経)は、運動軸索のみを含有している。
【0065】
シグナルは、脊髄路を横断する。例えば、身体の左側から脊髄に達するインパルスは、最終的には、脳の右側へ延びる路へと通過し、逆もまた同様である。いくつかの場合において、この横断は、インパルスが索に入るや否や起こる。他の場合において、路が脳自体に入るまで、それは起こらない。
【0066】
脳神経は、脳の神経組織から出る。標的に達するために、それらは、頭蓋内の開口部を通って最終的に頭蓋を出入りする。従って、それらの名称は、頭蓋との関連に由来する。脳神経の機能は、脊髄に関連している神経である脊髄神経に類似している。脳神経の運動要素は、脳に位置する細胞に由来する。これらの細胞は、軸索(例えば、それ自体神経を含む脳外の軸索の束)を頭蓋外に送り、そこで、最終的に、筋肉(例えば、眼球運動、横隔膜筋、姿勢に使用される筋肉等)、腺組織(例えば、唾液腺)、または固有の筋肉(例えば、心臓もしくは胃)を制御する。
【0067】
脳神経の感覚要素は、脳外に位置する細胞の集団から生じる。これらの神経細胞体の集団は、感覚神経節と呼ばれる。それらは、脊髄に関連している後根神経節に機能的かつ解剖学的に類似している。一般に、脳神経の感覚神経節は、二つの分枝:脳に入る分枝および感覚器官に接続される分枝へと分裂する分枝を発する。感覚器官の例は、皮膚にある圧力または疼痛のセンサー、ならびに舌の味覚受容体のようなより固有のものである。電気的インパルスは、感覚器官から、神経節を通って、脳に入る感覚分枝を介して脳へと伝達される。要約すると、脳神経の運動要素は、脳から脳外の標的組織へと神経インパルスを伝達する。感覚要素は、感覚器官から脳へと神経インパルスを伝達する。
【0068】
従って、CNSは、上行性感覚経路(例えば、脳中枢へと上行する体性感覚経路)および下行性の運動経路または調節経路(例えば、脳から脊髄へと下行する身体運動を制御する)により接続されている。
【0069】
末梢神経系と異なり、中枢神経系の軸索(例えば、脊髄軸索)の傷害は、従来、修復不可能であり、神経機能の永久障害(例えば、麻痺)に至る。
【0070】
脊髄損傷とは、一般に、脊柱管内のニューロンの損傷をさす。脊髄損傷は、多様な事象(例えば、脊柱または脊髄自体への外傷または疾患)から起こり得る。大部分の脊髄損傷は、骨折を引き起こす脊柱の外傷、または脊髄の圧迫を生じる骨柱(bony column)の置換を伴う靭帯の裂傷の結果である。頸部の破壊および背部の破壊の大多数、または脊椎骨折は、脊髄傷害を引き起こさない;しかしながら、脊椎外傷が起こった症例の10〜14%において、傷害は、脊髄の傷害をもたらすような重度なものである。
【0071】
脊髄損傷を有する患者は、しばしば、四肢麻痺(tetraplegia)(四肢麻痺(quadriplegia)より好ましい)または対麻痺を有すると診断される。四肢麻痺とは、頸髄の損傷をさし、対麻痺とは、頸髄より下の損傷をさす。四肢麻痺を有する患者は、対麻痺を有する患者よりわずかに多い。
【0072】
事故現場で死亡するものを含めない脊髄損傷(SCI)の年間発生率は、米国内の人口100万人当たりおよそ40例、または毎年の新たな症例はおよそ11,000例であると推定されている。現在生存していており、かつSCIを有する米国内の人々の数は、人口100万人当たり721〜906人であると推定されている。これは、183,000〜230,000人に相当する。
【0073】
脊髄損傷を有する患者の処置オプションは、制限されている。SCIを処置するために様々なアプローチが利用されているが、限られた成功しかおさめられていない(例えば、Richardson et al,Nature 284,264-265(1980);Bradbury et al.,Nature 416,636-40(2002);Schnell and Schwab,Nature 343,269-72(1990);GrandPre and Strittmatter,Nature 417,547-51(2002);Liu et al.,J Neurosci 19,4370-87(1999);Lu et al.,J Neurosci 24,6402-9(2004);Qiu et al.,Neuron 34,895-903(2002);Nikulina et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 101,8786-90(2004);Pearse et al.,Nat Med 10,610-6(2004);McDonald et al.,Nat Med 5,1410-2(1999);Shaw et al,J Craniofac Surg 14,308-16(2003);Teng et al,Proc Natl Acad Sci U S A 99,3024-9(2002)参照)。しばしば、SCIを有する患者には、重度の永久の能力障害が残る。既存の治療および処置は、上行性(例えば、体性感覚)および下行性(例えば、運動)軸索線維を再生させることができないため、脊髄損傷、および神経細胞傷害をもたらすその他の損傷または疾患の処置は、制限されている。さらに、脊髄の前後(A-P)軸に沿った軸索をガイドする分子的なメカニズムが未知である。
【0074】
軸索の接続は、多数のニューロンを複雑なネットワークへと配線する、A-Pおよび背腹(D-V)脳脊髄軸(neuraxes)に沿ってパターン化されている。D-V軸に沿った軸索ガイダンスは、近年、多数の実験系において研究の主要な焦点とされてきた。四つのクラスの軸索ガイダンス分子が記載されている(例えば、Tessier-Lavigne and Goodman,1996参照):広範囲の誘引物質、広範囲の反発物質、接触媒介型の誘引物質、および接触媒介型の反発物質。
【0075】
背側脊髄交連ニューロンは、疼痛および温度感覚を脳に送る脊髄視床路のようないくつかの上行性の体性感覚経路を形成している。交連ニューロンの細胞体は、背側脊髄に位置している。胚発生の間、交連ニューロンは、腹側正中へと軸索を投射する。底板に達した後は、正中を交差し、脊髄の対側に入る。正中交差の後、交連軸索は、脳に向かって著しく急激に前側へとターンする。脊髄の前後長全体に沿った全ての背側脊髄交連軸索が、正中交差の後、前側に投射する。交連軸索の初期の腹側成長は、拡散性の化学誘引物質ネトリン(Netrin)-1の勾配により制御されている(参照、例えば、Serafini et al.,1994;Kennedy et al.,1994;Serafini et al.,1996)。軸索は、正中を交差すると、ネトリン-1に対する応答性を失う(例えば、Shirasaki et al.,1998参照)。興味深いことに、正中交差の間にネトリン-1に対する応答性を失いながら、交連軸索は、正中および腹側脊髄に位置しているいくつかの化学反発物質(chemorepellents)に対する応答性を獲得する(例えば、Zou et al.,2000参照)。これらの反発物質は、軸索が対側腹側脊髄へとオーバーシュートし、底板を再び交差するのを妨げることにより、正中から軸索を排斥し、軸索を背腹軌道から前後軸に沿った縦方向経路へとターンさせるのを補助する;このようにして、軸索は、縦方向経路へと「押し込まれる」(例えば、Zou et al.,2000参照)。
【0076】
(例えば、SCIまたはその他の型の損傷の後)ニューロンの成長および再生を改変(例えば、促進または阻害)しつつ、同時にアストログリオーシス(例えば、アストログリアの増殖および瘢痕形成)を阻害するための新たな組成物および方法が、必要とされている。ニューロンの成長および再生のための新規の組成物および方法は、神経変性疾患のようなニューロン機能障害を含むその他の障害を有する患者の処置においても適用され得る。特に、治療的に(例えば、損傷または疾患の後、対象において麻痺を防止するために)使用され得る、(例えば、脊髄の損傷の後の)上行性および下行性の軸索の成長を促進することができる組成物および方法が必要とされている。
【0077】
従って、本発明は、細胞(例えば、神経前駆細胞およびニューロン)の分化および成長を改変(例えば、強化または刺激)するための方法および組成物を提供する。特に、本発明は、(例えば、溶液中の、または(例えば、細胞を封入し、細胞の分化(例えば、神経突起成長)を促進することができる)ナノファイバーを生じる(例えば、へと自己集合する))一つまたは複数の自己集合性ペプチド両親媒性物質を含む組成物、およびそれらを使用する方法に関する。本発明の組成物および方法は、調査、臨床(例えば、治療)、および診断の環境において有用である。
【0078】
生物学におけるリガンドと受容体との間の分子認識は、エピトープの適切な提示を必要とする。ペプチド・エピトープ(例えば、接着リガンド)は、細胞の接着、付着、ならびに細胞シグナリング経路(pathaways)(例えば、細胞の増殖、分化、および規則的な代謝活性の維持をもたらす経路)の刺激において重要な役割を果たしている。最近、生物学的事象の引き金を引くための(例えば、再生医学または標的指向化された化学療法において使用するための)人工エピトープを有する細胞構造を模倣する足場の設計に、大きな関心が寄せられてる。これらの人工細胞足場におけるシグナルの分布および構造的提示の変化による細胞応答の違いが報告されている。例えば、細胞接着リガンド間のナノスケールの分離を変動させることにより、シグナルの認識およびその後の細胞の増殖が改良されることが見出された。バイオマテリアルを合成するために使用される様々な方法論の中でも、特に、自己集合は、インサイチューまたはインビボで細胞を封入し集合することができる分子の溶液から足場を作出するための魅力的な道具である。
【0079】
細胞を保存または誘引し、次いで細胞の増殖および分化を指図する人工三次元(3D)足場は、再生医学、薬物スクリーニング、および調査における使用において有用である。初期の研究は、インビボで足場を植え込むことにより、またはバイオリアクターの中にそれらを維持し、続いて移植することにより、細胞が播種された人工足場を使用した組織再生が可能であることを証明した(例えば、Langer and Vacanti,Science 260,920(1993);Lendlein,R.Langer,Science 296,1673(2002);Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,3024(2002);Lu et al,Biomaterials 21,1837(2000);Niklason.,Science 284,489(1999);Nehrer et al.,J.Biomed.Mater.Res.38,95(1997);Atala et al.,J.Urol.150,745(1993);Wald et al.,Biomaterials 14,270(1993);Yannas,Science 215,174(1982)参照)。大部分の過去の研究において使用された足場材料は、ポリ(L-乳酸)およびポリ(グリコール酸)のような生分解性の非生理活性ポリマー(例えば、Mooney et al.,Biomaterials 17,1417(1996);Mikos et al.,Biomaterials 15,55(1994)参照)、ならびにコラーゲン、フィブリン、およびアルギン酸のようなバイオポリマー(例えば、Lavik et al.,Methods Mol.Biol.198,89(2002);Hsu et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.41,2404(2000);Chamberlain et al.,J.Neurosci.Res.60,666(2000);Butler et al.,Br.J.Plast.Surg.52,127(1999);Orgill et al.,Plast.Reconstr.Surg.102,423(1998);Chang et al.,J.Biomed.Mater.Res.55,503(2001);Atala et al.,J.Urol.150,745(1993)参照)であった。ポリマー足場は、典型的には、再生させるべき組織の細胞が播種された予備加工された多孔性の物体、ファブリック、またはフィルムである。バイオポリマーの場合、足場の一般的な形態は、細胞が封入され得る非晶質ゲルである(例えば、Lim and Sun,Science 210,908(1980);Hortelano et al.,Blood 87,5095(1996);Xu and Liu,FASEB J.16,213(2002)参照)。
【0080】
本発明の開発の過程で実施された実験は、細胞分化を指図し、ペプチド両親媒性物質の水性溶液から自己集合により形成されることが公知のペプチド配列が組み込まれた固体足場の形成(例えば、インビボ)を証明した。いくつかの態様において、足場は、(例えば、神経前駆細胞懸濁物の水性溶液への添加により、または脳脊髄液への曝露により引き金を引かれた)両親媒性分子の凝集により形成されたナノファイバー・ネットワークを含む。ナノファイバーは、特異的な細胞応答のためペプチド配列を通してカスタマイズされ得、これらの系により形成された足場は、単に液体(例えば、ペプチド両親媒性物質溶液)を注射することにより、生存している細胞および/または組織に送達され得る。実験は、人工足場が、神経前駆細胞のニューロンへの分化を指図しつつ(例えば、実施例1〜8参照)、アストロサイト分化を抑制すること、そしてさらに、本発明のペプチド両親媒性物質を含む組成物の損傷脊髄を有する対象への投与(例えば、損傷脊髄への注射)が、損傷の部位におけるアストログリオーシスを低下させ、感覚および運動線維の実質的な再生を促進し、そして行動学的な回復(例えば、そのような処置の前に麻痺していた四肢の可動性)を有意に増強することをさらに証明した(例えば、実施例9〜13参照)。
【0081】
従って、いくつかの態様において、本発明は、ペプチド・エピトープの標的(例えば、神経前駆細胞、ニューロン、またはその他の細胞標的)への送達および/または提示のためのペプチド両親媒性物質(PA)を含む組成物を提供する。いくつかの好ましい態様において、ペプチド・エピトープの送達および/または提示は、ニューロンの成長(例えば、神経突起成長(例えば、(例えば、病変部を通る)下行性(例えば、運動)および/もしくは上行性(例えば、感覚)繊維の発生))ならびに/または増殖を促進する。その他の好ましい態様において、本発明は、(例えば、インビボ、エクスビボ、またはインビトロで)ニューロンを提供する工程および本発明のPAを含む組成物をニューロンに投与する工程を含む、ニューロンの成長を改変(例えば、促進、助長、または刺激)する方法を提供する。いくつかの好ましい態様において、PAを含む組成物は、ニューロンと接触した時に、ナノファイバー・ゲルを形成する。いくつかの態様において、ニューロンは、脊髄(例えば、傷害を受けた脊髄(例えば、外傷性脊髄損傷により傷害を受けた脊髄))内のニューロンである。いくつかの態様において、ニューロンは感覚ニューロンである。いくつかの態様において、ニューロンは運動ニューロンである。いくつかの態様において、PAを含む組成物は、アストログリア細胞の増殖および瘢痕形成を阻害し、同時に、ニューロン(例えば、運動または感覚繊維)の成長を刺激する。いくつかの態様において、本発明のPAを含む組成物の対象への投与は、対象における行動学的改善をもたらす(例えば、対象は、処置前に麻痺していた四肢(例えば、脚または腕)を動かすことができるようになる)。いくつかの態様において、PAを含む組成物は、一つまたは複数の他の薬剤(例えば、増殖因子(例えば、神経栄養因子)または軸索成長阻害剤の阻害剤)を含む。
【0082】
本発明の例示的な方法および組成物が、さらに詳細に以下に記載される。しかしながら、本発明は、本明細書に記載された組成物および方法に制限されない。当業者は、付加的な組成物および使用が、本発明の範囲内にあることを理解する。
【0083】
I.ペプチド両親媒性物質組成物
本発明において使用されるペプチド両親媒性物質(PA)組成物は、当業者に周知の調製技術を使用して、好ましくは、アルキル化または疎水性モエティによるペプチド要素のN末端のその他の修飾を含む標準的な固相化学により、合成され得、ペプチドのNまたはC末端に付着したモノまたはジアルキル部分は、合成系および天然系の両方において水中での凝集および二次構造に影響を及ぼし得る。ベータ鎖コンフォメーションの優先性を有しているイオン性ペプチドにカップリングされた十分な数の炭素原子を有する疎水性炭化水素および/またはアルキル・テール要素が、ある種の態様において、ナノファイバー構造へと(例えば、インビボで)集合する両親媒性物質を作出するために使用され得る。両親媒性物質の全体的な円錐状の形も、そのような集合に対して効果を及ぼし得る。自己集合は、体液(例えば、脳脊髄液)によって引き金を引かれ得る。
【0084】
本発明は、利用されるペプチド両親媒性物質により制限されない。実際、米国特許出願第20050272662号、第20050209145号、第20050208589号、第20040258726号、第20040022718号、第20040018961号、第20040001893号、および国際出願WO/05056576、WO/05056039、WO/05003292、WO/04106359、WO/04072104、WO/04046167、WO/04018628、WO/04003561、WO/03090255、WO/03084980、WO/03070749、WO/03054146(各々、参照により完全に本明細書に組み入れられる)に記載されたもの、ならびに本明細書(例えば、実施例1〜13ならびに図6および14〜17)に記載されたものを含む(がこれらに制限されない)多様なペプチド両親媒性物質が、本発明において有用であることが企図される。
【0085】
いくつかの好ましい態様において、本発明のペプチド両親媒性物質(PA)は、(例えば、ペプチド・エピトープ(例えば、IKVAVおよび/またはYIGSR配列)を含む)機能領域に接合された(例えば、ペプチド両親媒性物質のパッキングおよび自己集合を改変する/に影響することができる配列(例えば、β-シート)を含む)構造領域に接合された(例えば、疎水性領域(例えば、直鎖状ペプチド鎖(例えば、パルミトイル基)または疎水性環構造(例えば、ピレンブチル))を含む)有機モエティを含む。ペプチド部分は、ペプチド両親媒性物質の電荷を決定することができる一つまたは複数のその他の領域(例えば、(例えば、疎水性領域、構造領域、または機能領域に隣接している)電荷を有するアミノ酸またはその配列)を含み得る。トリガー(例えば、(例えば、脳脊髄液、細胞培養培地等への曝露により達成される)pHまたはイオン濃度の変化)の適用または曝露により、PA分子は水性媒体中でナノファイバーへと自己集合する。いくつかの態様において、反対の電荷を有するPAが、(例えば、一つまたは複数の型のペプチド・エピトープを含む)静電気学的に安定化されたゲルを作出するため、インサイチューで混合され得る。
【0086】
様々な好ましい態様において、そのような化合物または組成物の疎水性要素は、両親媒性の挙動、および(例えば、インビボまたは生理学的pHにおける)ナノファイバーの集合/形成を提供するために十分な長さを有する。典型的には、そのような要素は、約C6以上の炭化水素モエティであり得るが、その他の疎水性炭化水素および/またはアルキル要素も、当業者には周知であるように、類似した構造的または機能的な効果を提供するために使用され得る。そのような疎水性要素には、非制限的に、コレステロール、ビフェニル、およびp-アミノ安息香酸が含まれる。
【0087】
いくつかのPAは、脳脊髄液と接触するようになると、強い、事実上瞬間的なゲルを形成する(例えば、図14の一番上に示されたPA)。本発明の開発の過程で、この分子の希薄な溶液をマウス脊髄へ注射する試みは、使用された小さい口径の針の塞栓に至った。従って、この問題は、より遅い自己集合を促進することを試みていくつかの修飾をすることにより克服された。第一に、A4セクションがSLSL配列に交換された。この交互の極性-無極性配列は、自己集合のための疎水性駆動力を少なくし、好都合なパッキングをより困難にすることを目的としていた。柔軟なG3配列が、やはりパッキングを妨害するため、より堅いA3に交換された(例えば、図15、上下PA参照)。これらのPAのゲル化は、実際、視覚的観測および振動式流体測定(oscillatory rheometry)により測定されるように、元のPA分子のものより遅く(およそ3〜5分)かつより頑強であった。図15の下のPAは、パルミチル・テールがピレンブチル・テールに置換されたことを除いて、図15の上に示されたものと同一である。この変化は、PA分子を蛍光性にし、従って、組織学的切片におけるPAの追跡に適したものにする。このように、いくつかの態様において、PAは、視覚的な目的および追跡目的のため、蛍光領域(例えば、ピレンブチル・テール)を含み得る。
【0088】
さらに、PAは、共集合(coassembled)したもう一つのPAから、または生理学的環境中の他のペプチドおよびタンパク質から、特定のPAを区別するためのタグを提供するヘテロ原子(例えば、Br、I、またはF)が含まれるよう構成され得る。例えば、図16は、三つのそのようなPAを示す。例えば、図16の一番上に示されたPAは、チロシンの代わりにブロモフェニルアラニンを含み、炭素4上のヒドロキシル基が臭素原子に交換されている。図16の中央のPAは、環上の3および5位に付加されたヨウ素を有する。いくつかの態様において、臭素およびヨウ素は、X線分散特性のために使用され得る。図16の一番下に示されたPAは、6個のバリン・ガンマ・プロトンのフッ素原子へと置換を含む。いくつかの態様において、フッ素は、天然組織における希少性のため使用され、EDXを使用して同定され得る。
【0089】
または、PAは、一つまたは複数の分枝基を含み得る。いくつかの態様において、PA内の分枝基は、ペプチド・エピトープの(例えば、標的(例えば、ニューロン)に対する)利用可能性および/または曝露を改良する。いくつかの態様において、一つまたは複数の分枝基を有するPAは、(例えば、ペプチド結合によりイプシロン炭素に付着したパルミチル・テールにより)修飾されたリジン残基をN末端に有する。いくつかの態様において、N末端は、領域内をより疎水性に維持するため、遊離アミンではなくアミドであるよう選ばれる。いくつかの態様において、ベータ・シートを促進するA3L3配列がリジンのC末端に付着させられ、第二の修飾されたリジンがそれに続き、それに、ペプチド・エピトープ(例えば、IKVAVまたはYIGSR)配列が付加される。従って、この態様においては、VよりむしろIが、逆合成スキームにおいて適切なキラリティを維持するためにテールから最も遠い。図17の上に示されたPAは、そのようなPAの例であり、分子の主骨格に追加された遊離リジンをN末端に有し;図17の下に示されたPAは、このリジンに付加されたYIGSR配列を示す。いくつかの態様において、このようにして製剤化されたPAは、低いpHでのみ、強い正の電荷を有し可溶性であり;従って、pHが生理学的範囲に調整された時、ゲルを形成する。
【0090】
いくつかの態様において、PAを含む組成物は、一つまたは複数の増殖因子(例えば、神経栄養因子(例えば、(例えば、PAを含む溶液の注射を介して)対象に投与された場合、PAが、神経栄養因子を含むナノファイバー・ゲルを形成するよう)も含み得る、またはそれらと共に投与され得る。神経栄養因子は、中枢神経系(CNS)および末梢神経系のニューロンの発達および生存を調節するペプチド増殖因子の広範なセットである(例えば、Huang and Reichardt.2001 Annu.Rev.Neurosci.24:677-736;Neet et al.,2001 Cell.Mol.Life Sci.58:1021-1035参照)。本発明は、使用される増殖因子の型により制限されない。神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、白血病抑制因子=コリン作動性ニューロン分化因子(LIF/CDF)、カルジオトロフィン-1、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)、繊維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)、インスリン、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、インスリン様増殖因子Ii(IGF-II)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)、トランスフォーミング増殖因子β2(TGFβ2)、トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)、アクチビン、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ミッドカイン・ヘパリン結合性神経栄養因子(HBNF)、プレイオトロフィン、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、シュワン腫由来増殖因子、ヘレグリン(ニューレグリン、ARIA)、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン6、軸索リガンド-1(Al-1)、elf-1、ehk1-L、およびLERK2、ならびに臨床試験において評価中の因子を含む(がこれらに制限されない)多様な神経栄養因子が使用され得る。
【0091】
いくつかの態様において、PAを含む組成物は、ニューロン成長阻害剤の活性および/または発現を阻害(例えば、ブロック)する一つまたは複数の薬剤も含み得る、またはそれらと共に投与され得る(例えば、(例えば、PAを含む溶液の注射を介して)対象に投与された場合、PAが、ニューロン成長阻害剤の阻害剤を含むナノファイバー・ゲルを形成するよう)。本発明は、使用される阻害剤の型により制限されない。実際、ミエリン阻害剤、Nogo、RykおよびRyk様阻害剤、sFRPおよびsFRP様阻害剤、MAG、Omgp、ならびにWnt阻害剤を含む(がこれらに制限されない)多様な阻害剤が使用され得る。CSPGのようなグリア性瘢痕に存在するその他の阻害剤も、軸索伸長を阻害する。CSPGが軸索再生の阻害剤のための実際の活性要素であるのか、またはCSPGと関連した他の分子が活性要素であるのか、は完全には理解されていない。実際、本発明は、損傷後の軸索の成長を妨げる任意の阻害剤の阻害を企図する。当業者は、そのような阻害剤がブロックされ得る多くの様式が存在することを理解し、本明細書に含有されている教示に従うことにより、本発明に関してこれらの阻害剤をブロックする手段を開発することができるであろう。例えば、軸索成長阻害剤の阻害剤には、(例えば、本発明のPAを含む組成物に含まれる発現ベクターまたはカセットから発現された)阻害剤に特異的な抗体および/またはsiRNAが含まれ得る。
【0092】
いくつかの態様において、PAを含む組成物は、Wnt、ネトリン、Shh、細胞接着分子、Igスーパーファミリー・メンバー、カドヘリン、インテグリン、エフリンB(EphrinB)、ECM分子、またはHGFを含む(がこれらに制限されない)ニューロンの成長を誘引する一つまたは複数の薬剤も含み得る、またはそれらと共に投与され得る。いくつかの態様において、PAを含む組成物は、セミフォリン(Semiphorin)、ネトリン、Slit、Wnt、BMP、エフリン、またはIgスーパーファミリーのメンバーを含む(がこれらに制限されない)ニューロンの成長を反発する一つまたは複数の薬剤も含み得る、またはそれらと共に投与され得る。
【0093】
さらに、軸索ガイダンスにおいて役割を果たす多くのタンパク質の誘引物質および反発物質が存在する。さらに、多くのそのような軸索ガイダンス分子が、二機能性であり:応答中の成長円錐における受容体組成に依って、ある型の軸索に対しては誘引性であり、もう一つの型に対しては反発性である。
【0094】
多数の分子が、発生中の軸索成長を指図する。これらの化合物は、胚発生において重要な役割を果たしており、成体CNSにおいて同一または類似の方式で機能し得る。
【0095】
誘引物質および反発物質は、拡散型および非拡散型という二つの一般的なカテゴリーに分類され得る。拡散型誘引物質には、ネトリン、Shh、Wnts、およびHGFが含まれるが、これらに制限されない。拡散型反発物質には、分泌型セマフォリン(Semaphorin)、ネトリン、Slit、Wnts、およびBMPが含まれるが、これらに制限されない。非拡散型誘引物質には、Igスーパーファミリーのメンバー、カドヘリン、およびインテグリンのような細胞接着分子;エフリン;ならびにECM分子が含まれるが、これらに制限されない。非拡散型反発物質には、エフリン、Igスーパーファミリーのメンバー、および膜結合型セマフォリンが含まれるが、これらに制限されない。
【0096】
当業者は、本発明に関して、これらおよびその他の任意の誘引物質または反発物質を使用することができるであろう。例えば、当業者は、これらの薬剤のうちの一つまたは複数を含むPAを含む組成物を作製することができるであろう。さらに、そのような組成物は、対象における神経突起成長を促進するため、(例えば、損傷(例えば、脊髄損傷)または疾患(疾患(例えば、糖尿病)により引き起こされたニューロン分解)の部位において、対象に投与され得る。
【0097】
本発明に関して、ネイティブの誘引物質または反発物質が利用され得る。さらに、これらの誘引物質または反発物質のタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、変異体、および/または模倣体(mimetics)が利用され得る。
【0098】
いくつかの態様において、PAを含む組成物は、一つまたは複数のペプチド・エピトープを含み得る。本発明は、利用されるペプチド・エピトープの型により制限されない。いくつかの態様において、エピトープは、(例えば、ニューロンの発達を刺激する、本明細書において「ラミニン・エピトープ」と呼ばれる)ラミニン内に存在する任意の神経生理活性エピトープである。いくつかの好ましい態様において、ペプチド・エピトープはIKVAV配列である。IKVAVは、哺乳動物ニューロンと相互作用することが公知のラミニン配列である。IKVAVは、哺乳動物ニューロンにおける神経突起伸長を促進する。本発明は、IKVAVの使用に制限されない。その他の適当な生理活性エピトープも、本発明の方法において有用である(例えば、YGSIR配列)。本発明のペプチド要素(例えば、ペプチド・エピトープ)は、好ましくは、天然に存在するアミノ酸を含む。しかしながら、ベータもしくはガンマ・アミノ酸および非天然側鎖を含有しているもののような公知の人工アミノ酸、ならびに/またはヒドロキシ酸のようなその他の類似のモノマーの取り込みも、対応する要素がこれに関してペプチド様であるという趣意で、企図される。
【0099】
いくつかの態様において、ラミニン・エピトープの模倣体が利用される。本明細書において使用されるように、「ラミニン・エピトープの模倣体」とは、ネイティブ・ラミニン・エピトープと等価な、許容されるレベルの生物学的活性を維持することができるラミニンのネイティブ配列(例えば、IKVAV)以外の任意の分子をさすものとする。
【0100】
「ラミニン・エピトープの模倣体」の定義には、許容されるレベルの等価な生物学的活性(例えば、ニューロンの成長および再生を調節するIKVAV配列の能力)を有する分子をもたらしながら、分子の定義された部分においてなされ得る変化の数には制限がある、という概念が内在することが、当業者により十分に理解される。従って、「ラミニン・エピトープの模倣体」とは、ポリペプチドが本明細書に示された使用に関して実質的に類似の活性を保持している限り、アミノ酸のいくつかまたは大部分が置換されていてもよい任意のラミニン・エピトープ・ポリペプチドと、本明細書において定義される。当然、異なる置換を有する多数の別個のタンパク質/ポリペプチド/ペプチドが、本発明に従って容易に作成され使用され得る。さらに、本発明に関して、ラミニン・エピトープの模倣体は、ヒト・ポリペプチドを含む(がこれに制限されない)任意の種または生物に由来するラミニン・エピトープ・ホモログ・ポリペプチドであり得る。当業者は、ラミニン・エピトープの多くの模倣体が存在する可能性が高く、それらが一般的に入手可能な技術を使用して同定され得ることを理解するであろう。
【0101】
ラミニン・エピトープのアミノ酸配列変異体も、本発明に包含される。ヒトおよびマウスのラミニン・エピトープのような任意の種のラミニン・エピトープのアミノ酸配列変異体が、本発明により企図される。ラミニン・エピトープのアミノ酸配列変異体は、置換変異体または挿入変異体であり得る。挿入変異体は、典型的には、ペプチド内の末端以外の点に材料の付加を含んでいる。これには、少数の残基;免疫反応性エピトープ;または単一残基のみの挿入が含まれ得る。付加される材料は、メチル化、アセチル化等により修飾されていてもよい。または、付加的な残基は、ペプチドのN末端またはC末端に付加されてもよい。
【0102】
アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性(例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズ等)に基づく。アミノ酸側鎖置換基のサイズ、形、および型の分析によって、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが、全て、正の電荷を有する残基であり;アラニン、グリシン、およびセリンが、全て、類似したサイズであり;そして、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンが、全て、概ね類似した形を有することが明らかになってている。
【0103】
変化の作成においては、アミノ酸のヒドロパシー指数が考慮され得る。アミノ酸は、各々、疎水性および電荷特徴に基づくヒドロパシー指数を割り当てられており、これらは以下の通りである:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);トレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)。
【0104】
タンパク質への相互作用性の生物学的機能の付与におけるアミノ酸のヒドロパシー指数の重要性は、当技術分野において一般に理解されている(例えば、参照により完全に本明細書に組み入れられるKyte and Doolittle,1982参照)。ある種のアミノ酸が、類似した生物学的活性を保持しつつ、類似したヒドロパシー指数またはスコアを有する他のアミノ酸の代わりに用いられ得ることは、公知である。ヒドロパシー指数に基づく変化の作成において、ヒドロパシー指標が+2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、+1以内であるものが特に好ましく、+0.5以内であるものがさらに特に好ましい。
【0105】
あるアミノ酸が、生物学的に等価なタンパク質を入手しつつ、類似した親水性値を有するもう一つのアミノ酸の代わりに用いられ得ることが理解される。参照により完全に本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号に詳述されているように、以下の親水性値が、アミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0+1);グルタミン酸(+3.0+1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(−0.4);プロリン(−0.5+1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。
【0106】
類似した親水性値に基づく変化の作成において、親水性値が+2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、+1以内であるものが特に好ましく、+0.5以内であるものがさらに特に好ましい。
【0107】
いくつかの態様において、PAを含む組成物は、一つまたは複数の神経保護剤(例えば、発作、頭部外傷、および脊髄損傷の後遺症を少なくすることが示されたバッキーボール型薬剤)も含み得る、またはそれらと共に投与され得る。
【0108】
いくつかの態様において、PA組成物は、1)極性もしくは水性の、かつ/または本明細書に記載された両親媒性化合物もしくは組成物のうちの一つまたは複数を含有している溶液、および2)中性のまたは生理学的な条件の下での集合、ゲル化の凝集を誘導するのに十分な因子または試薬、を含むゾル-ゲル系を形成する。様々なPA組成物のそのようなミセル状(micellular)ナノファイバーへのゲル化および/または自己集合は、乾燥、1価もしくは多価の金属イオンおよび/または異なる電荷を有する両親媒性物質の組み合わせの導入を通して、実質的に中性のかつ/または生理学的なpH条件の下で達成され得る。
【0109】
II.本発明のペプチド両親媒性物質(PA)を含む組成物を使用する方法
本発明の開発の過程で実施された実験は、神経前駆細胞が、本発明の方法を使用して、ニューロンへと効率的に分化し得ることを証明した(例えば、実施例1〜8参照)。細胞は、有意な量のアストロサイトの形成なしに、分化を示した(例えば、実施例6および11参照)。さらに、実験は、損傷脊髄を有する対象への本発明のPAを含む組成物の投与(例えば、損傷脊髄への注射)が、損傷の部位におけるアストログリオーシスを低下させ、感覚および運動線維の実質的な再生を促進し、行動学的回復(例えば、そのような処置の前には麻痺していた四肢の可動性)を有意に増強することを証明した(例えば、実施例1、9〜13参照)。
【0110】
いくつかの態様において、本発明の方法および組成物は、多様な細胞型の封入において有用である。本発明は、特定の細胞型に制限されない。例には、初代細胞培養物、幹細胞(例えば、ヒトまたは非ヒト)およびその他の多能性細胞系、前駆細胞、神経突起および異なる発達段階にあるその他のニューロン、ならびに不死化細胞系が含まれるが、これらに制限されない。本発明のペプチド-両親媒性物質組成物は、組織および動物と共に使用するのにも適している。本発明の組成物により処置される(例えば、本発明の組成物を投与される)細胞は、傷害を受けた細胞(例えば、傷害を受けたニューロン)または一般に健康な細胞(例えば、ニューロン(例えば、通常より大きな軸索シグナリング(例えば、運動または感覚)能力を有するニューロンを作製するために処置されるニューロン))であり得る。
【0111】
いくつかの態様において、本発明の方法は、幹細胞の封入において利用される。本発明の方法は、胚性幹細胞および成体幹細胞を含む(がこれらに制限されない)多様な幹細胞と共に使用するのに適している。胚性幹細胞は、一つの態様によると、ヒト胚の生腺組織、生殖隆起、腸間膜、または胚性卵黄嚢から単離される、始原生殖細胞(PGCS)細胞に由来する胚性幹細胞系および胚性生殖細胞系を含む(がこれらに制限されない)多様な起源から入手され得る(例えば、米国特許第6,562,619号参照)。胚性幹細胞は、上記のものを含む(がそれらに制限されない)商業的または研究的な起源からも入手され得る。成体幹細胞は、本明細書に開示されたものを含む(がそれらに制限されない)多様な細胞型に由来し得る。
【0112】
本発明の封入された細胞は、細胞(例えば、神経突起)の増殖および分化において有用である。上記のように、(例えば、本発明のPAを含む組成物を使用して自己集合した)ナノファイバー・ゲルの性質は、高い局所的な(例えば、ほぼファンデルワールスの)濃度での(例えば、分化または増殖を誘導する)生理活性試薬の送達を可能にする。高い局所濃度を形成することが望ましい任意の生理活性剤(例えば、ペプチド)が、本発明の方法および組成物を使用して送達され得る。例えば、いくつかの態様において、ホルモン(例えば、ペプチド)、増殖因子、分化因子、またはその他のタンパク質もしくは低分子が、(例えば、生理活性剤を含むナノファイバー・ゲルを作製するため)本発明のPAを含む組成物へと組み入れられる。関連する技術分野の当業者は、その他の薬剤(例えば、ペプチド)も、本発明の方法および組成物と共に利用され得ることを認識する。
【0113】
本発明は、本発明の組成物および方法により処置される状態(例えば、損傷または疾患)により制限されない。いくつかの好ましい態様において、本発明の組成物および方法は、(例えば、外傷性損傷(例えば、脊髄損傷)により引き起こされた)神経傷害を処置するために使用される。いくつかの好ましい態様において、処置は、軸索の成長(例えば、再生)が起こるような条件の下で(例えば、IKVAVを含む)PAを含む組成物を投与することを含む。
【0114】
いくつかの態様において、対象は、脊髄の障害を有するかもしれない。脊髄の任意の障害が、本発明により企図される。ある種の態様において、脊髄の障害は、(前述の)外傷性脊髄損傷である。例えば、いくつかの好ましい態様において、本発明の組成物および方法は、脊髄損傷後の運動軸索および感覚軸索の再生を促進する(例えば、実施例12および13、図11および12参照)。いくつかの好ましい態様において、脊髄損傷を有する対象における運動軸索および感覚軸索の再生は、処置された対象における解剖学的な改善(例えば、処置前には(例えば、部分的または完全に)麻痺していた四肢の運動)に至る(例えば、実施例13および図13参照)。外傷性脊髄損傷は、対象の麻痺をもたらしたものであってもよいし、またはそうでなくてもよい。ニューロン機能障害は、任意のメカニズムによるものであり得る。例えば、細胞死は、急性の外傷性の損傷または変性の結果であり得る。
【0115】
ニューロン機能障害が存在する任意の疾患または状態が、本発明により企図される。脊髄損傷に加え、他の例には、ドーパミン作動性ニューロンが変性を受けるパーキンソン病、および運動系のニューロンが変性を受けるALSが含まれる。これらの場合には、それぞれ中脳および脊髄に移植され、定植し、標的と適切に接続され得るような幹細胞が開発中である。新たな接続の確立は、これらの神経幹細胞からの軸索の成長を必要とする。本発明の組成物および方法は、これらの幹細胞から再生する軸索の成長およびガイダンスにおいて使用され得る。
【0116】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法により処置される神経傷害は、神経系の病変または疾患または機能障害に関連している。いくつかの態様において、神経傷害は、脊髄損傷、頭部外傷、または発作に起因する。いくつかの態様において、神経傷害は、神経変性疾患に起因する。いくつかの態様において、神経傷害は、化学的損傷に起因するか、または化学療法の結果として。いくつかの態様において、神経傷害は、糖尿病性ニューロパチーである。
【0117】
糖尿病性ニューロパシーは、糖尿病により引き起こされる神経障害のファミリーである。糖尿病を有する人々は、次第に、全身の神経に傷害を有するようになることがある。ニューロパシーは、手、腕、足、および脚のしびれに至り、時には、疼痛および衰弱に至る。問題は、消化管、心臓、および性器を含むあらゆる臓器系においても起こり得る。糖尿病を有する人々は、いかなる時点においても神経問題を発症し得るが、長く糖尿病を有している者ほど、リスクは大きい。糖尿病性ニューロパシーは、末梢型、自律型、近位型、および局所型として分類され得る。各々は、異なる方式で異なる身体部分に影響を与える。
【0118】
末梢ニューロパシーは、つま先、足、脚、手、および腕における疼痛または感覚喪失のいずれかを引き起こす。自律ニューロパシーは、消化、腸および膀胱の機能、性的応答、ならびに発汗の変化を引き起こす。また、心臓を支配し、血圧を制御する神経にも、影響を与える場合がある。自律ニューロパシーは、人々がもはや低血糖症の警告的な徴候を経験しなくなった状態、無自覚性低血糖(低い血糖値)を引き起こす場合もある。近位ニューロパシーは、腿、腰、または臀部における疼痛を引き起こし、脚の衰弱に至る。局所ニューロパシーは、筋力低下または疼痛を引き起こす、一つの神経または神経群の突然の衰弱をもたらす。体内の任意の神経が、影響を受け得る。従って、いくつかの態様において、本発明は、糖尿病性ニューロパシーを処置する(例えば、PAを含む)組成物および方法を提供する(例えば、糖尿病の結果として傷害を受けた神経の神経機能を再生し)、かつ/または糖尿病性ニューロパシーの兆候および症状(例えば、満腹感、悪心、嘔吐、下痢、もしくは便秘のような消化の問題、膀胱機能に関する問題、性向に関する問題、眩暈もしくは失神型眩暈、低い血糖値の警告的な徴候の欠損、発汗の増加もしくは減少、または目の明暗反応の変化)を処置する。
【0119】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、細胞移植またはその他の戦略と併せて利用され(例えば、Wald et al,Biomaterials 14,270(1993);Yannas,Science 215,174(1982);Mooney et al.,Biomaterials 17,1417(1996);Mikos et al.,Biomaterials 15,55(1994);Lavik et al.,Methods Mol.Biol.198,89(2002);Hsu et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.41,2404(2000);Chamberlain et al.,J.Neurosci.Res.60,666(2000);Butler et al.,Br.J.Plast.Surg.52,127(1999);Powell et al.,J. Neurosci.Res.61,302(2000);Cornish et al.,Mol.Cell.Neurosci.20,140(2002)参照)、それによりその治療効力を増強する。
【0120】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、舌神経傷害を処置するために(例えば、その神経機能を再生するために)使用される。舌神経の損傷または傷害は、舌および口の内側粘膜における無感覚(舌のしびれ)、感覚異常(刺痛)、または異常感覚(疼痛および灼熱感)をもたらし得る。これは、智歯(第三大臼歯)の抜歯または歯冠の充填のための歯科的な麻酔注射(神経ブロック)の合併症によるものかもしれない。それは、慢性疼痛症候群またはニューロパシーをもたらす。下歯槽神経が関与している場合には、唇のしびれが生じ得る。
【0121】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、下歯槽神経の損傷を処置するために(例えば、その神経機能を再生するために)使用される。下歯槽神経の損傷は、頤、下唇、および顎の無感覚、感覚異常、または異常感覚をもたらし得る。この神経は、注射によって損傷を受ける場合があるが、より一般的には、智歯抜去の間に損傷を受ける。それは、根管手技、その他の抜歯、およびインプラントの設置によっても損傷を受ける場合がある。
【0122】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、末梢神経ブロックの合併症である神経傷害を処置するために(例えば、その神経機能を再生するために)利用される。いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、任意の一つまたは複数の脳神経の傷害を処置するために(例えば、その神経機能を再生するために)利用される。
【0123】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、聴神経ニューロパシーを処置するために(例えば、聴神経ニューロパシーの結果として傷害を受けた神経の神経機能を再生するために)利用される。局所的な一次性脱髄、びまん性の一次性脱髄、軸索喪失、ならびに二次性の脱髄および再ミエリン化による軸索喪失を含むいくつかの型の神経傷害が、聴神経障害に伴う。ニューロパシーによる聴神経放電の変化には、びまん性の一次性脱髄のための時間的同調性の障害、ならびに二次性の脱髄および再ミエリン化による軸索喪失が含まれる。時間的符号化の変化は、言語理解力、音源の位置推定、および隙間検出のような時間的合図の正確な符号化を必要とする聴覚課題における対象の障害の原因となる。ニューロパシーは、放電の速度を制限する神経繊維興奮性の変化にも関連している。軸索疾患および脱髄疾患の両方に、影響を受けた繊維の損なわれた興奮性が伴い、その極端な状態は、脱髄障害においては伝導ブロックであり、軸索疾患においては過分極ブロックである。
【0124】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、CNS、脳、および/または脊髄の障害または疾患の処置または防止において利用される。これらの障害は、神経学的または精神医学的な疾患であり得る。これらの障害または疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多発性硬化症、てんかん、小脳性運動失調、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症、感情障害、不安障害、強迫性障害、人格障害、注意欠陥障害、注意欠陥多動性障害、トゥレット症候群、テイ・サックス、ニーマン・ピック、およびその他の脂質貯蔵、および遺伝性脳疾患、および/または統合失調症のような脳疾患が含まれる。本発明の組成物および方法は、脳または脊髄における発作のような脳血管障害からの、髄膜炎およびHIVを含むCNS感染からの、脳および脊髄の腫瘍からの、またはプリオン病からの神経傷害に罹患しているかまたはそのリスクを有する対象を処置するためにも利用され得る。本発明の組成物および方法は、通常の老化(例えば、無嗅覚もしくは一般的な化学感覚の喪失)または任意の種類の脳損傷に起因するCNS障害に対抗するための薬剤を送達するためにも利用され得る。
【0125】
本発明の組成物および方法は、根治的骨盤手術(例えば、神経組織(例えば、海綿体神経組織および/または骨盤神経組織)が傷害を受ける前立腺切除術、特に、根治的前立腺切除術後)の後の神経組織傷害を処置するためにも利用され得る。
【0126】
従って、いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、ニューロンの生存および再生を促進し、例えば、傷害を受けた、損傷を受けた、疾患を有する、または移植された組織の神経支配を支持することもでき、従って、神経組織の修復を可能にし、さらに、術後の関連する機能障害(例えば、勃起不全、膀胱排尿)の処置および改善を提供する。
【0127】
本発明は、神経傷害が起こる疾患または損傷の治療および予防の両方のための本明細書に記載された組成物および方法の使用を企図する。治療に関して、そのような状況には、物理的損傷または糖尿病のような疾患状態によるもののような末梢神経傷害を含み、CNSの損傷または疾患状態の場合には、脊髄の傷害、脳外傷、発作、網膜および視神経の病変、アルツハイマー病およびパーキンソン病のような神経変性疾患、神経筋肉疾患、神経系の自己免疫疾患、中枢神経系の腫瘍、筋萎縮性側索硬化症のような状態において起こるもののような運動ニューロンの傷害、ならびに色素性網膜炎および加齢黄斑変性のような網膜の変性疾患を含む疾患が含まれるが、これらに制限されない。
【0128】
当業者により認識されるように、本発明は、本発明の組成物および方法を使用して、(例えば、(例えば、軸索成長の刺激を通した)神経機能の再生を介して)処置される神経傷害の特定の部位に制限されない。実際、処置される神経、およびその神経により神経支配された身体部分の機能の対応する回復は、例えば、対象の脊椎、手、脚、腕、背部、指、顔、頭部、頸部、舌、耳、陰茎、足、つま先、目、または口において見出されるものであり得る。
【0129】
本発明の組成物および方法は、ニューロン(例えば、任意の段階発達にあるもの(例えば、神経突起または成熟ニューロン))の成長を改変するために(例えば、調整するために)使用され得る。ニューロンの成長を調節する方法は、ある種の態様において、ニューロンの成長を刺激する方法、傷害を受けたニューロンを再生する方法、またはニューロンの成長をガイドする方法であり得る。
【0130】
調節されるニューロンは、任意のニューロンであり得る。いくつかの態様において、ニューロンは、傷害を受けた脊髄の中のニューロンである。例えば、脊髄は外傷性脊髄損傷により傷害を受けているかもしれない。傷害は、ニューロンの損なわれた機能をもたらしているかもしれない。
【0131】
いくつかの態様において、ニューロンの成長を調節する方法は、対象におけるニューロンの成長を調節する方法である。任意の対象が、本発明により企図されるが、ある種の態様において、対象は、脊髄の障害を有する対象であり得る。脊髄の障害は、外傷性脊髄損傷のような任意の障害であり得る。外傷性脊髄損傷は、対象の麻痺をもたらしているかもしれないし、またはもたらしていないかもしれない。さらなる態様において、患者は、神経変性疾患を有する患者である。調節されるニューロンは、感覚または運動ニューロンであり得る。
【0132】
いくつかの態様において、本発明の組成物および方法は、(例えば、細胞(例えば、神経前駆細胞、神経突起、またはその他のニューロン細胞)の分化および増殖に対するペプチドの効果を理解するための)研究適用において利用され得る。その他の態様において、本発明の組成物および方法は、(例えば、候補ペプチドをスクリーニングするための)薬物スクリーニングにおいて利用され得る。
【0133】
例えば、本発明は、細胞(例えば、ニューロン、神経突起、またはその他の型のニューロン細胞)の成長を調節する能力に関する候補物質のスクリーニングを企図する。特に好ましい候補物質は、脊髄内の軸索成長の刺激において有用なものであろう。本発明のスクリーニング・アッセイにおいて、候補物質は、まず、基礎的な生化学的活性に関してスクリーニングされ、次いで、(例えば、本発明のPAを含む組成物(例えば、PAおよび候補物質を含む組成物から自己集合したナノファイバー・ゲル)内に置かれた場合)細胞、組織、または完全動物のレベルで、活性を調節する能力に関して試験され得る。ある種の態様において、培養された脊髄切片を使用したアッセイのような外植片アッセイが、スクリーニング法において使用され得る。当業者に公知の任意の方法が、スクリーニング・アッセイを実施するために、特許請求の範囲に記載された発明において使用され得る。
【0134】
いくつかの態様において、本発明は、ニューロンの成長のモジュレーターに関するスクリーニングの方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、候補物質を入手し;候補物質を本発明のPAと組み合わせるか、または同時投与し;(例えば、本発明のPAと組み合わせられた、または同時投与された)候補物質をニューロンと接触させ;そしてニューロンの成長(例えば、軸索(例えば、運動または感覚)の成長)のモジュレーションを測定する方法に向けられる。いくつかの態様において、候補物質は、ニューロンの成長の阻害剤または活性化剤として同定され得る。本発明に係る阻害剤は、(例えば、本明細書に開示された方法により測定されるような)ニューロンの成長に対して阻害効果を及ぼすものであり得る。本発明に係る活性化剤は、ニューロンの成長に対して刺激効果を発揮するものであり得る。
【0135】
本明細書において使用されるように、「候補物質」という用語は、ニューロンの再生を調節(例えば、刺激または阻害)する可能性がある任意の分子をさす。候補物質は、タンパク質もしくはそれらの断片、ポリペプチド、ペプチド、低分子阻害剤、または(例えば、発現ベクターにより発現される)核酸分子等であり得る。最も有用な薬理学的化合物は、本明細書に記載されたニューロン(例えば、軸索成長)の活性化剤および阻害剤と相互作用する化合物と構造的に関連している化合物、または活性化剤および阻害剤と関係のあるシグナリング経路に影響を与える化学化合物であろうという事実が判明するかもしれない。そのような分子の作出および作用の調査は、「合理的薬物設計」として公知であり、標的分子の構造に関して予測することを含む。
【0136】
合理的薬物設計の目標は、生物学的活性を有するポリペプチドまたは標的化合物の構造アナログを作製することである。そのようなアナログを作出することにより、改変に対する異なる感受性を有するか、または様々な他の分子の機能に影響を与え得る、天然分子より活性が高いか、より安定している薬物を製作することが可能である。一つのアプローチにおいて、公知の活性化剤または阻害剤(例えば、本明細書に記載されたもの)の三次元構造が作製され、次いで、活性化剤または阻害剤と相互作用する能力のために分子が設計されるであろう。または、活性化剤もしくは阻害剤の部分的に機能的な断片、または類似の物質(結合するが、活性は有しない)を設計し、それにより競合的阻害剤を作出してもよい。これは、X線結晶学、コンピューター・モデリング、または両アプローチの組み合わせにより達成され得る。
【0137】
標的化合物または阻害剤の構造を確認するために抗体を使用することも可能である。原理的には、このアプローチは、その後の薬物設計の基礎となるファーマコア(pharmacore)を与える。機能性の薬理学的活性を有する抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作製することにより、タンパク質結晶学を全て回避することが可能である。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位は、最初の抗原のアナログであると予想されるであろう。次いで、抗イディオタイプは、化学的または生物学的に作製されたペプチドのバンクからペプチドを同定し単離するために使用され得る。次いで、選択されたペプチドは、ファーマコアとして役立つであろう。
【0138】
他方、有用な化合物を同定することを試み、有用な薬物のための基本的な基準を満たすと考えられる低分子ライブラリーを、様々な商業的起源から単純に取得することもできる。コンビナトリアルに作製されたライブラリー(例えば、ペプチド・ライブラリー)を含むそのようなライブラリーのスクリーニングは、関連する(および関連しない)多数の化合物を活性に関してスクリーニングするための迅速かつ効率的な方式である。コンビナトリアル・アプローチは、活性を有するが、その他の面で望ましくない化合物のモデル化された第二、第三、および第四世代の化合物の作出による、可能性のある薬物の迅速な進化に向いている。
【0139】
候補化合物は、天然に存在する化合物の断片もしくは一部を含むかもしれず、または組み合わせられていなければ不活性である公知の化合物の、活性を有する組み合わせとして見出されるかもしれない。動物、細菌、真菌、葉および樹皮を含む植物起源、ならびに海洋試料のような天然の起源から単離された化合物が、有用である可能性のある薬学的薬剤の存在に関して、候補としてアッセイされ得ることが提唱される。スクリーニングされる薬学的薬剤は、化学的組成物もしくは人工の化合物に由来するか、またはそれらから合成され得ることが理解されるであろう。従って、本発明により同定された候補物質は、ニューロンの成長の公知のモジュレーターから出発した合理的薬物設計を通して設計され得るポリペプチド、ポリヌクレオチド、低分子阻害剤、またはその他の化合物であり得ることが理解される。
【0140】
その他の適当な阻害剤には、アンチセンス分子(例えば、(例えば、発現ベクターから発現された)siRNA)、リボザイム、および抗体(単鎖抗体を含む)が含まれる。
【0141】
当然、本発明の全てのスクリーニング法が、有効な候補が見出されないかもしれないという事実にもかかわらず、それ自体、有用であることが理解されるであろう。本発明は、そのような候補を見出す方法のみならず、それらに関してスクリーニングするための方法も提供する。
【0142】
いくつかの態様において、本発明は、ペプチド両親媒性物質が、ニューロン(例えば、神経突起)の成長を改変するために(例えば、刺激するために)が構成されている、ペプチド両親媒性物質を含む薬学的組成物を提供する。本発明のペプチド両親媒性物質の任意の型の薬学的調製物(例えば、ペプチド両親媒性物質を含む組成物、またはペプチド両親媒性物質および一つまたは複数の他の薬剤(例えば、ニューロンの成長の公知の刺激剤または阻害剤、増殖因子、神経栄養因子、活性化剤または阻害剤であることが本発明の方法により同定された化合物等)を含む組成物が、本発明により企図される。当業者は、入手可能な広範囲の型の薬学的調製物に精通し、これらの薬学的調製物を作製するために必要とされる技術に精通しているであろう。
【0143】
いくつかの態様において、薬学的調製物は、水性組成物(例えば、(例えば、グルコース溶液で希釈された)実施例1、3、および11に記載されたもの)であろう。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体(例えば、グルコースもしくは生理食塩水溶液)または水性媒体に溶解または分散した有効量のペプチド両親媒性物質を含む。
【0144】
本明細書において使用されるように、「薬学的調製物」には、全ての任意の溶媒、分散媒、コーティング、抗菌性および抗真菌性の薬剤、等張剤、ならびに吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性を有する物質のための、そのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。活性成分(例えば、ペプチド両親媒性物質)と不適合でない限り、任意の従来の媒体または薬剤の治療用組成物における使用が企図される。補足的な活性成分も、組成物に組み入れられ得る(例えば、本明細書に記載されたもの(例えば、増殖因子、神経栄養因子、およびニューロン成長阻害剤の阻害剤)。ヒトに投与される場合、調製物は、FDA Office of Biologics standardsにより要求されるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の標準を満たすべきである。
【0145】
生物学的材料は、一般に、目(眼科的)、口(経口)、皮膚(経皮)、鼻(経鼻)、肺(吸入)、口腔粘膜(経頬)、耳、直腸を通したもの、注射(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、腹腔内等)によるもの等のような任意の公知の経路による投与のため製剤化され得る。本明細書に開示された本発明の活性薬剤(例えば、ペプチド両親媒性物質)を要素または活性成分として含有している水性組成物の調製は、本発明の開示を考慮すれば、当業者に公知となろう。
【0146】
本発明の薬剤または物質は、中性または塩の形態の組成物へと製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸により形成された(タンパク質の遊離アミノ基により形成された)酸付加塩が含まれる。当業者は、塩形態の作製のための技術に精通しているであろう。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、ならびに植物油を含有している溶媒または分散媒であってもよい。
【0147】
本発明は、非経口注射のための、またはその他の経路による適用のための無菌の溶液である薬学的調製物の中にあるであろう一つまたは複数のペプチド両親媒性物質を企図する。当業者は、注射または適用のための無菌の溶液を作製するための技術に精通しているであろう。無菌の注射可能溶液は、当業者が精通している様々な他の成分と共に、必要とされる量の活性化合物を適切な溶媒に組み入れることにより、そして本明細書に開示されたものにより調製される。
【0148】
製剤化により、溶液は、投薬製剤と適合性の様式で、かつ治療的に有効であるような量で投与されるであろう。製剤は、上記の型の注射可能溶液のような多様な剤形で容易に投与される。いくつかの態様において、本発明は、ニューロンと接触させられた場合に(例えば、損傷脊髄へ注射された場合に)、ある期間(例えば、2日以上、1週間、1〜2週間、2週間超、2〜4週間、または4週間超(例えば、実施例10および図9参照))、対象の体内に存在し得ることを特徴とするナノファイバー・ゲルを形成するペプチド両親媒性物質溶液を含む組成物を提供する。
【0149】
いくつかの態様において、例えば、水性溶液での非経口投与の場合、溶液は、必要であれば、適当に緩衝されるべきであり、液体希釈剤がまず十分な生理食塩水またはグルコースにより等張にされるべきである。これらの特定の水性溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、および腹腔内の投与に特に適している。この関連において、利用され得る無菌の水性媒体は、本発明の開示を考慮すれば、当業者に公知となろう。脳脊髄液への腰椎穿刺を介した投与のための製剤も、本発明により企図される。
【0150】
本明細書に開示された活性薬剤は、1用量当たり約0.0001〜1.0ミリグラムまたは約0,001〜0.1ミリグラムまたは約0.1〜1.0または約10ミリグラム程度を含む治療用混合物へと製剤化され得る。複数の用量が投与されてもよい。ニューロンの成長を生ずることができる用量は、本明細書に記載されている(例えば、実施例1、3、8、および10参照)。
【0151】
治療用または防止用の薬剤の有効量は、意図された目標、例えば、軸索の成長に基づき決定される。処置の回数および用量の両方に応じた、投与される量は、処置される対象、対象の状態、および所望の保護に依る。治療用組成物の正確な量は、実務者の判断にも依り、かつ各個体に特有である。
【0152】
ある種の態様において、治療用組成物の患者への連続的な供給を提供することが望ましいかもしれない。例えば、外傷性脊髄損傷の後、損傷部位への、または損傷部位の近傍の脳脊髄液への直接注射のような、治療剤の連続的な投与が、画定された期間、投与され得る。関心対象の領域の連続的な灌流が、好ましいかもしれない。その他の態様において、本発明のPAを含む組成物は、1、2、3、4週間、または以上(例えば、8〜52週間)の期間にわたり、1回、2回、3回、4回、またはそれ以上投与されればよいように構成される。
【0153】
本明細書に開示された組成物および方法の有効性を増加させるために、本明細書に記載されたニューロンの損傷または障害の処置において有効な計画で投与され得る一つまたは複数の薬学的組成物へと多様な薬剤を組み合わせることが望ましいかもしれない。本明細書中に別途記述されるように、当業者は、適切なニューロンの成長および/または機能を助長するため、ニューロン誘引性、反発性、阻害性の物質、および/または阻害をブロックする物質の組み合わせを、ニューロンに適用することを望むかもしれない。これは、ニューロンまたは脊髄をこれらの薬剤と同時に接触させることを含み得る。これは、複数の薬剤を含む(例えば、一つまたは複数のペプチド両親媒性物質、もしくは一つのペプチド両親媒性物質および一つまたは複数の他の薬剤を含む組成物を含む)単一の組成物もしくは薬理学的製剤とニューロンもしくは脊髄を接触させることにより、または二つの別個の組成物もしくは製剤と同時に細胞を接触させることにより、達成され得る(例えば、一つまたは複数の別の組成物と同時投与された本発明のペプチド両親媒性物質を含む組成物)。
【0154】
薬剤は、数分から数週間までの間隔で、続けて、または連続的に、ニューロンまたは脊髄に適用され得る。二つの薬剤がニューロンまたは脊髄に別々に適用される態様においては、薬剤が有利に組み合わせられた効果をニューロンに対して及ぼすことができるよう、各送達の時点の間に有意な期間が過ぎていないことを保証することが望まれるかもしれない。そのような場合には、相互の約12〜24時間以内に、より好ましくは相互の約6〜12時間以内に、細胞を両方のモダリティと接触させ得ることが企図される。しかしながら、いくつかの状況においては、それぞれの投与の間に数日(2、3、4、5、6、7日、またはそれ以上)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7、8週間、またはそれ以上)が経過するよう、処置のための期間を有意に延長することが望ましいかもしれない。その他の態様において、二つ以上の薬剤は、薬剤が別々に有益な治療効果をニューロンに対して及ぼすことができるような方式で、ニューロンまたは脊髄に別々に適用される。そのような場合には、細胞を両方のモダリティと接触させ得ることが企図される。
【0155】
様々な組み合わせが、例示的な態様において、利用され得る。例えば、下記に示されるような任意の数の計画が利用され得る(下記において、「A」は、本発明のペプチド両親媒性物質であり、かつ「B」は、異なるペプチド両親媒性物質、増殖因子、神経栄養因子、ニューロンの成長に誘引性もしくは反発性のガイダンスを提供する化合物、ニューロン成長阻害剤、ニューロン成長阻害剤のブロッカー、または本明細書に記載されたその他の薬剤である):
A/B/A、B/A/B、B/B/A、A/A/B、A/B/B、B/A/A、A/B/B/B、B/A/B/B、B/B/B/A、B/B/A/B、A/A/B/B、A/B/A/B、A/B/B/A、B/B/A/A、B/A/B/A、B/A/A/B、A/A/A/B、B/A/A/A、A/B/A/A、およびA/A/B/A。
【0156】
薬剤の患者への投与は、当業者に公知であり、本明細書に示されたような、投与のための一般的なプロトコルに従うであろう。処置サイクルは、必要に応じて繰り返され得ることが、予想される。様々な標準的な治療、そして外科的介入が、薬剤の適用と組み合わせて適用され得ることも企図される。
【0157】
実験
以下の実施例は、本発明のある種の好ましい態様および局面を例証し、さらに例示するために提供され、その範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【0158】
実施例1
材料および方法
細胞培養およびIKVAV-PAナノ-ネットワークへのインビトロ封入。神経前駆細胞(NPC)は、以前に記載されたようにして培養された(例えば、Zhu et al.,J.Neurosci.Res.59,312(2000)参照)。簡単に説明すると、E13マウス胚の皮質が解剖され、bFGF(10ng/ml)が補足されたDMEM/F12培地で未処理のペトリ皿に播種された。4日後に、機械的かつ酵素的に解離させられたNPCおよび未解離のニューロスフェア(例えば、未解離のNPC凝集物)が、適切な基質へと播種された(例えば、IKVAV-ペプチド両親媒性物質(PA)、EQS-PA、もしくはアルギン酸ゲルに封入されるか、またはラミニン、ポリD-リジン、もしくはIKVAVペプチドでコーティングされたカバーガラスにおいて培養された)。全ての場合に、これを、インビトロ0日目とした。
【0159】
IKVAV-およびEQS-PAネットワークへのNPCの封入は、まず24穴培養プレート内の12mmのカバーガラスへPA溶液100μlを分注し、独立した液滴を形成させることにより達成された。次いで、細胞懸濁物が導入される間、ピペット・チップを穏やかに回転させながら、培養培地中の細胞懸濁物100μlを、PA溶液の液滴へとピペットで移し、PAゲルを形成させた。ゲルを(37℃および5%CO2、95%湿度の)インキュベーター内に>2時間静置し、その後、NPC培養培地300μlをウェルに添加し、PAゲルを完全に浸した。次いで、プレートをインキュベーターに戻した。対照の12mmカバーガラスは、PDL(Sigma、1mg/50ml DMEM)またはラミニン/PDL(Sigma、1mg/100ml DMEM)でコーティングし、フロー・フード(flow hood)内に>1時間放置して乾燥させた。可溶性IKVAVペプチドをカバーガラスへスピン・コーティングし、一夜乾燥させた。二次元対照のため、NPC培養培地300μlをウェルに添加し、NPC細胞懸濁物100μlをカバーガラスの中心へ分注し、続いてよく分布した細胞密度を保証するために培養プレートを手で振とうした。1wt%のアルギン酸溶液を、緩衝生理食塩水(PBS)100mlにアルギン酸1gを混合することにより作成し、溶解させるためシェーカー上に一夜放置した。1wt%アルギン酸100μlを、(アルギン酸ゲル化を誘導するために通常必要とされる)外因性のカルシウムを含有していない培養培地中のNPC細胞懸濁物100μlと混合し、0.5wt%IKVAV-PA実験ゲルとの直接の比較を可能にするであろう0.5wt%アルギン酸ゲルを得た。アルギン酸に封入されたNPCを、弱いが安定なゲルが形成されるまで、>2時間インキュベーターに戻した。次いで、培養ウェルに、アルギン酸ゲルを浸すのに十分な培養培地300μlを充填し、インキュベーターに戻した。
【0160】
細胞生存率/細胞障害性アッセイ
細胞生存率/細胞障害性は、Molecular Probes LIVE/DEAD細胞アッセイ(Molecular Probes)を使用することにより査定した。NPCのため最適化されたエチジウム・ホモダイマー-1(EthD)およびカルセインの作業濃度を、Molecular Probesの指示通りに決定し、それぞれ0.5および8μMであることを決定した。培養培地をウェルから除去し、PAゲルの液浸(submersion)を保証するために十分なPBS中のEthD/カルセイン溶液をウェルに添加した。培養プレートを20分間インキュベーターに戻し、次いで、EthD/カルセイン溶液を除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。EthDおよびカルセインの蛍光を、Nikon TE-2000蛍光顕微鏡で、それぞれFITCおよびTRITCフィルターを使用して画像化した。
【0161】
免疫細胞化学
封入されたNPCから培養培地を除去し、固定液にPA-ゲル全体を浸すことにより、封入された細胞を、室温で20分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。0.2%トリトン-X(tオクチルフェノキシポリエトキシエタノール(toctylphenoxyplyethoxyethanol))との5分間のインキュベーションの前に、PBSで2回洗浄した。これに続いて、さらに2回PBSで洗浄し、4℃で一夜、5%ヤギまたはウマ血清を含有しているPBS中で一次抗体(1:400の抗β-チューブリンIII IgGまたは1:400の抗GFAP、Sigma)をインキュベートした。PBSで3回洗浄した後、室温で2時間、5%ヤギまたはウマ血清を含有しているPBS中のTRITC-またはFITC-接合二次抗体と共に細胞をインキュベートした。さらに3回PBSで洗浄した後、β-チューブリンおよびGFAP陰性の細胞を可視化するため、全ての核を、室温で10分間、Hoescht's Stain(1:5000、Sigma)で染色した。細胞画像化は、PC実行MetaView画像化ソフトウェアとインターフェースで接続されたNikon TE-2000蛍光顕微鏡に取り付けられた高分解能Cool Snapカメラ、またはPC実行AxioVision画像化ソフトウェアとインターフェースで接続されたZeiss Axiovert 200蛍光顕微鏡に取り付けられたAxiocamカメラにより行った。
【0162】
細胞数
異なる実験条件についてランダムに選択された視野を画像化し、ImageJ(Scion Corporation)形態測定分析ソフトウェアを使用して細胞を計数した。フィルター間の蛍光の漏出(bleed-through)がなかったことを確認するために画像をチェックし、ImageJを使用して半自動的に細胞を計数した。特に、全細胞数の自動的な連続計数を維持するマーキング・ツール(marking tool)を使用して、手動で細胞を選択することにより、所定の領域内の全細胞数を計数した。細胞数の定量的および統計的な分析は、Matlab(Math works)および/またはExcel(Microsoft)を使用して行った。
【0163】
脊髄注射手技
45mg/kgペントバルビタール(NEMBUTAL)を使用して、ラットに麻酔をかけた。脊髄分節T13を露出させるために椎弓切除を実施し、32ゲージ注射針に取り付けられたハミルトン注射器を有する定位マイクロマニピュレーター(Kopf Instruments)を使用して、等浸透圧グルコース(媒体)またはペプチド両親媒性物質6μlを、333nl/秒で、1.5mmの深さで脊髄のT10へ注射した。IKVAV-PAが妨害なしにゲル化することを可能にするため、各注射の後に2分間、針を注射部位の内部に維持した。ペプチド両親媒性物質を注射された動物は、歩行運動行動または全身状態の変化を示さず、そのことから、ペプチド両親媒性物質の注射が毒性効果を有していないことが示された。
【0164】
眼内注射
全ての実験を、Association for Research in Vision and Ophthalmology (ARVO)およびAnimal Care and Use Committee (ACUC) of Northwestern Universityの規則に従って行った。成体Sprague-Dawleyラット(200〜250g)をペントバルビタール(Pentabarbital)ナトリウムの過量投与またはCO2過量投与により屠殺し、直ちに外科的に眼球除去した。25ゲージ針を有する100μlハミルトン注射器に、IKVAV-PA溶液80〜100μlをあらかじめ負荷し、眼球除去された目を、Nikon SMZ-1000手術用実体顕微鏡のプラットフォームに置いた。ほぼ網膜下または硝子体(vitreal)の空間へと斜角で実体顕微鏡下で眼窩の背部へIKVAV-PA溶液を手動で注射し、MetaView画像化ソフトウェアを使用して、Cool Snap高解像度カメラとインターフェースで接続された実体顕微鏡を使用して画像化した。
【0165】
IKVAVシグナル増幅の計算
固液界面におけるタンパク質の吸着は、典型的には、1μg/cm2の付近にある(例えば、Ratner,Biomaterials Science:An introduction to materials in medicine(Academic Press,San Diego,1996)参照)。この値を使用し、ラミニンの分子量が800kDaであると仮定し(例えば、Tunggal et al.,Microsc.Res.Tech.51,214(2000)参照)、かつネイティブ・ラミニン-1分子上のIKVAVエピトープの数が1であると仮定すると、カバーガラスまたは培養プレートのような二次元表面において、表面上のIKVAVエピトープの密度は、

であると計算された。
【0166】
ナノファイバー表面1正方センチメートル当たりのIKVAVエピトープの密度も、既知の繊維寸法および分子モデリングを使用して計算され得る。単一ナノファイバーの直径が7nmであると仮定すると、その円周は18.8nmである(C=2πd)。分子の寸法から、繊維が50のPA分子から放射状になり、1cm=107nmであると推定すると、以下の通りである。

【0167】
その他の拘束なしに、分子が、いずれかの寸法に沿って優先的に延長されないであろうと仮定すると、以下のように、ナノファイバー表面1正方センチメートル当たりのIKVAVエピトープの数を見出すために、これを二乗することができる:

これらの二つの数は、二次元表面上のものに対するナノファイバー上のIKVAVエピトープの比率を見出すために割られ、密接にパックされたラミニン分子の二次元表面に対するナノファイバー上のIKVAVエピトープの増幅定数を与える:

【0168】
二次元培養
IKVAVペプチド実験のため、三次元実験のために使用されたのと同一の12mmカバーグラスを、親水性を強めるためにエタノールに浸し、次いで、1mg/mL IKVAVペプチド溶液50μLをスピン・コーティングした。IKVAV-PA実験のためのカバーグラスは、(例えば、吸着を強めるため)PDLでコーティングし、続いてIKVAV-PA溶液でコーティングした。いずれの場合にも、カバーガラスを一夜乾燥させ、次いで、弱く接着性の材料を除去するために蒸留水で3回洗浄した後、細胞懸濁物を添加した。1 DIV後のβ-チューブリン染色の結果は、図5に示される。
【0169】
マウス脊髄損傷、両親媒性物質注射、および動物ケア
全ての動物ケアおよび外科的介入が、Public Health Service Policy on Humane Care and Use of Laboratory Animals,Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(Institute of Laboratory Animal Resources,National Research Council,1996)に厳密に従い実施された。The Institutional Animal Care and Use Committeeは、全ての作業手技を承認した。雌成体129SvJマウス(10週齢;Jackson Labs,USA)に、腹腔内でアバーチン(avertin)を使用して麻酔をかけた。椎弓切除を実施し、1分間、修飾型Kerr-Lougheed動脈瘤クリップの硬膜外適用により、T10で背腹側に脊髄を圧迫した(EEJOTA mouse clip,University Health Network,Canada)。AUTOCLIP(9mm、Becton Dickinson)を使用して、皮膚を縫合した。術後、体温を維持するために、ヒート-ランプの下で動物を維持した。損傷後、最初の1週間、生理食塩水を1.0cc皮下注射することを毎日繰り返した。損傷から24時間後に何らかの後肢運動を示したマウスは、研究から排除した。不快の事象においては、ブプレネックス(buprenex)(2mg/kg SC、1日2回)を投与した。血尿症(20mg/kg)の事象においては、ゲンタマイシンを、5日間、1日1回、皮下に投与した。
【0170】
ペプチド両親媒性物質溶液または媒体を、ホウケイ酸ガラス・キャピラリー・マイクロピペット(Sutter Instruments)(OD;100μm)を使用して、脊髄損傷から24時間後に注射した。ピペットの内部は、表面張力を低下させるためにSIGMACOTE(Sigma)で裏打ちされていた。キャピラリーを、Micro4マイクロシリンジ・ポンプ・コントローラー(WPI)により制御されたフィーメイル・ルアー・アダプター(female luer adaptor)(WPI)を使用してハミルトン注射器に負荷した。両親媒性物質を注射直前に580μMグルコース溶液で1:1希釈し、キャピラリーに負荷した。上記のようなアバーチン麻酔を使用してマウスに麻酔をかけた。オートクリップを除去し、切開部を再切開して、損傷部位を露出させた。マイクロピペットを、索の背側表面から測定された750μmの深さに手動で挿入し、希釈された両親媒性物質溶液または媒体2.5μlを、2.5μl/分の速度で注射した。索にナノファイバー(nanfiber)ゲルの軌跡(背側から腹側へ)を残すため、250μmの間隔で徐々にマイクロピペットを引き抜いた。注射の最終に、さらに5分間、キャピラリーを索に残し、その後、ピペットを引き抜き、創傷を閉じた。術後のケアを提供した。全ての実験について、実験者は、動物の同一性を知らされていなかった。
【0171】
GFAP定量
索の非損傷部分における基線レベルに対する、病変部周囲のGFAPレベルの増加倍率を推定するため、免疫染色の後、GFAP免疫反応性の蛍光強度を測定した。各動物について、等しい内外方向の深さの切片を分析のために使用した。次いで、切片を、Zeiss UVLSM-Meta共焦点顕微鏡(Carl Zeiss,Inc.,Thornwood,NY)で画像化した。各共焦点スキャンを、同一のレーザー出力、利得、およびオフセット値を使用して実施した。これらの値は、損傷区域の画像の中のピクセルが飽和しないよう設定された。スキャンのZスタックを、LSM画像ブラウザー(Carl Zeiss)を使用して再構築した。全Zスタックを単色(.tif)画像に変換し、続いて、各ピクセルのグレイレベルを測定することにより、蛍光定量化を実施した。各ピクセルは、0〜255の範囲のグレイスケールを有する。各スタックの全ピクセル強度を、MetaMorph 2.6ソフトウェアを使用して積分した。個々の各切片についての損傷区域における強度値を、増加したGFAP免疫反応性の区域の端から(吻側にも尾側にも)500μm>遠位として定義された非損傷部分で得られたスキャンに由来する基線値に対して規準化した。各切片について、損傷区域における四つの部位(病変部中心点から吻側二つおよび尾側二つ)および(灰白質および白質の両方にかかる)非損傷区域における三つの部位をスキャンし、全強度値を各群について平均化した。そのような様式で、各動物について少なくとも四つの切片を分析した。最終的な蛍光値を、個々の切片について基線(非損傷区域)値に対する増加倍率として表し、次いで、それを、ゲル注射群と媒体注射群との間の比較のため、各動物について分類した。
【0172】
路追跡
損傷後1日目または9週目に、マウスにアバーチン麻酔をかけ、プルド(pulled)ガラス・マイクロピペットが取り付けられた10μlハミルトン・マイクロシリンジを使用して、mini-ruby接合BDA(Molecular Probes,Eugene OR)を注射した。後柱標識のため、2μlをL5後根神経節に注射した。皮質脊髄路は、正中に対して1.0mm外側、ブレグマに対して0.5mm前側、0.5mm後側、1.0mm後側、皮質表面から0.5mmの深さでなされた三つの注射(各0.5μl)を通して標識した。14日後にCO2吸入を使用して動物を屠殺し、灌流した。
【0173】
BDA加工および路追跡
浮遊連続切片を収集し、1×PBSおよび0.1%トリトンX-100で3回洗浄し、アビジンおよびビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ(Vectastain ABC Kit,Vector,Burlingame,CA)と共に4℃で一夜インキュベートし、再び1×PBSで3回洗浄し、次いで、50mMトリス緩衝液、pH7.6、0.024%過酸化水素、および0.5%塩化ニッケルの中でDABと反応させた。次いで、切片をPBSに移し、顕微鏡スライドに連続する順序でマウントし、Neurolucidaソフトウェア(MicroBrightField,Inc.)を使用して路を追跡した。
【0174】
ラット脊髄損傷、両親媒性物質注射、および動物ケア
体重150〜200gのAdult Long Evans Hooded雌ラットにペントバルビタール麻酔を使用して麻酔をかけた。椎弓切除を実施し、MASCISインパクター(最大重度の損傷を生じる10gm重量/50mm落下)により脊髄分節T13において脊髄に挫傷を与えた。上記のように、体温および水和状態を維持した。動物を、各ケージに1匹ずつ収容した。ゲル注射のため、27ゲージ針を使用し、両親媒性物質を上記のように希釈した。挫傷の24時間後、ラットにペントバルビタール麻酔を使用して再度麻酔をかけた。損傷部位を露出させた後、希釈された両親媒性物質5μlを、1.5mmの深さで、病変部中心点に対して0.5mm吻側および尾側に、1μl/分の速度で注射した。注射の終了時、さらに2分間索に針を残し、その後、引き抜き、創傷を閉じた。その他の動物は、媒体(グルコース溶液)の類似した注射を受容した。第三の群(偽注射)においては、創傷を再切開し、次いで、注射なしで再び閉じた。
【0175】
組織加工および免疫組織化学
CO2吸入を使用して動物を屠殺し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%パラホルムアルデヒドで経心的に灌流した。脊髄を解剖し、4%PFA中の30%ショ糖で一夜固定した。次いで、脊髄をTissue-Tek包埋化合物で凍結させ、Leica CM3050Sクリオスタットで切片化した。20μmの厚い縦方向切片を採取した。切片をPBSで2回濯ぎ、次いで、室温で1時間抗GFAP[1:250](Sigma、マウス・モノクローナルIgG1)と共にインキュベートした。これに続いて、切片をPBSで3回濯ぎ、室温で1時間、alexa-fluor接合抗マウスIgG1二次抗体[1:500]Molecular Probes)と共にインキュベートした。切片を最後にPBSで3回濯ぎ、次いで、室温で10分間、Hoechst核染色と共にインキュベートした。最後にPBSで濯いだ後、Prolong Gold褪色防止試薬(Molecular Probes)を使用してマウントし、Zeiss UVLSM-Meta共焦点顕微鏡(Carl Zeiss,Inc.,Thornwood,NY)を使用して画像化した。
【0176】
KVAV-PAにおける前駆細胞の培養および免疫細胞化学
P1(生後1日目)マウスの脳室下帯を解剖し、EGF(20ng/ml)、N2およびB27サプリメント、ヘパリン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ならびにL-グルタミンが補足されたDMEM/F12培地で増殖させ、浮遊スフェアを形成させた。細胞を1回継代し、得られた二次スフェアを分析のために使用した。細胞を解離させ、EGF(5ng/ml)が補足されたDMEM/F12培地で、適切な基質へと播種した(例えば、IKVAV-PAへの封入またはポリd-リジン/ラミニン上での培養)。全ての場合に、これをインビトロ0日目とした。IKVAV-PAネットワークへの前駆細胞の封入は、まず、24穴培養プレート内の12mmカバーガラスへPA溶液100μlを分注して、独立した液滴を形成させることにより達成した。次いで、細胞懸濁物が導入される間、ピペット・チップを穏やかに回転させながら、培養培地中の細胞懸濁物100μlをPA溶液の液滴へとピペットで移し、PAゲルを形成させた。ゲルを、(37℃および5%CO2、95%湿度の)インキュベーター内に>2時間静置し、その後、培養培地300μlをウェルに添加し、PAゲルを部分的に浸した。次いで、プレートをインキュベーターに戻した。対照培養のための、12mmカバーガラスを、1時間ポリD-リジンでコーティングし、それに続き、蒸留水で洗浄し、次いでラミニン(Sigma、1mg/100ml DMEM)で一夜コーティングした。細胞を含む培養培地500μlを、5×104細胞/mlの播種密度でウェルに添加した。免疫細胞化学のため、封入された細胞から培養培地を除去し、PAゲル全体を固定液に浸すことにより、IKVAV-PAに封入された細胞を、室温で20分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。ラミニン上に播種された細胞については、カバーグラスを固定液中に置いた。0.2%トリトン-Xとの5分間のインキュベーションの前に、PBSで2回洗浄した。これに続き、PBSでさらに2回洗浄し、4℃で一夜、5%ヤギ血清を含有しているPBS中での一次抗体(1:400抗β-チューブリンIII IgG2aまたは1:400抗GFAP IgG1、Sigma)インキュベーションを行った。PBSで3回洗浄した後、室温で1時間、PBS中でTRITC-またはFITC-接合二次抗体と共に細胞をインキュベートした。PBSでさらに3回洗浄した後、β-チューブリンおよびGFAP陰性細胞を含む全ての細胞の核を可視化するため、室温で10分間、Hoechst染色(1:5000、Sigma)により染色した。細胞画像化は、PC実行AxioVision画像化ソフトウェア(Zeiss)とインターフェースで接続されたZeiss Axiovert 200蛍光顕微鏡に取り付けられたAxiocamカメラを用いて実施された。
【0177】
ペプチド両親媒性物質の流動学的測定
測定は、25mm平行プレート構成を有するPaar Physica Modular Compact Rheometerを使用してなされた。3%ひずみで、各PAについて、0.1〜100Hzの周波数掃引(Frequency sweeps)を得た。
【0178】
実施例2
自己集合性足場の作製
細胞分化を指図するための自己集合性人工足場の使用をインビトロで研究するため、マウス神経前駆細胞(NPC)を使用した。NPCは、(例えば、変性性または外傷性の傷害の後の)失われた中枢神経系細胞の補充において有用である(例えば、Okano,J.Neurosci.Res.69,698(2002);Storch and Schwarz,Curr.Opin.Invest.Drugs 3,774(2002);Mehler and Kessler,Arch.Neurol.56,780(1999);Pincus et al.,Neurosurgery 42,858(1998)参照)。足場の分子設計は、ラミニンに見出され、神経突起発芽を促進し、かつ神経突起成長を指図することが公知であるペンタペプチド・エピトープ、イソロイシン(isolucine)-リジン-バリン-アラニン-バリン(IKVAV)を組み入れた(例えば、Kam et al.,Biomaterials 22,1049(2001);Matsuzawa et al.,Int.J.Dev.Neurosci.14,283(1996);Powell et al.,J.Neurosci.Res.61,302(2000);Cornish et al.,Mol.Cell.Neurosci.20,140(2002);Chang et al.,Biosens.Bioelectron.16,527(2001);Wheeler et al.,J.Biomech.Eng.121,73(1999);Lauer et al.,Biomaterials 23,3123(2002);Thiebaud et al.,Biosens.Bioelectron.17,87(2002).Yeung et al.,Neurosci.Lett.301,147(2001)参照)。生理活性に関する対照として、それを非生理学的配列グルタミン酸-グルタミン-セリン(EQS)に交換して、天然エピトープを欠く類似した分子を合成した。これらの分子は、自己集合により物理的に類似した足場を形成するが、EQSゲル内に封入された細胞は、神経突起を発芽せず、形態学的にも組織学的にも分化しなかった。
【0179】
IKVAV含有ペプチド両親媒性物質(IKVAV-PA)の化学構造およびその自己集合の分子的な図解は、図1Aに示され、それが形成する足場の走査型電子顕微鏡写真は、図1Bに示される。神経突起出芽エピトープに加え、分子は、細胞培養培地中の陽イオンが、それらの間の静電気的反発を遮蔽し、細胞懸濁物が添加された際の自己集合を促進することができるように、pH7.4という正味の負の電荷を与えるGlu残基を含有している。配列の残りは、4個のAla残基および3個のGly残基(A4G3)、それに続く炭素16個のアルキル・テールからなる。A4G3およびアルキル・セグメントは、エピトープから遠ざかる程、疎水性になる配列を作出する。メカニズムの理解は本発明を実施するのには必要でなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも制限されないが、いくつかの態様において、静電気的反発が電解質により遮蔽された後は、分子が、水素結合形成、ならびに疎水性セグメントおよび水分子の間の不都合な接触により集合するよう駆動されることが企図される。
【0180】
水性媒体中で自己集合するナノファイバーは、ファンデルワールスのパッキング距離(van der Waals packing distances)で、表面上に生理活性エピトープを置いている(例えば、Hartgerink et al.,Science 294,1684(2001);Hartgerink et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,5133(2002)参照)。これらのナノファイバーは、束になり、3Dネットワークを形成し、ゲル様の固体を生じる(図1C、1D、および1E参照)。ナノファイバーは、直径5〜8nm、長さ数百ナノメートル〜数マイクロメートルで、高い縦横比および高い表面積を有する。3Dで細胞周囲に形成されるナノファイバーは、天然細胞外マトリックスに比べて人工的に高い密度でエピトープを提示することができる。従って、いくつかの好ましい態様において、本発明は、細胞へのシグナル(例えば、ペプチド・シグナル配列)提示のための媒体(例えば、(例えば、ナノファイバーを含む自己集合性の足場)を提供する。
【0181】
実施例3
ナノファイバー足場の特徴決定
1重量%(wt%)ペプチド両親媒性物質水性溶液を、1:1の容積比で媒体または生理学的液体の中のNPC懸濁物と混合すると、図1Cおよび1Dに示される透明なゲル様固体が数秒以内に入手された。この固体は、封入された解離したNPC、またはニューロスフェアとして公知の細胞のクラスターを含有していた。細胞は、自己集合過程に耐え、観察期間中(22日)生存可能なままであった(図2A〜2D参照)。ポリ(D-リジン)(PDL、多くの細胞型を培養するために使用されている標準的な基質)上で培養された細胞と、ナノファイバー・ネットワークに封入された細胞との間に、生存率の有意な差は存在しなかった(図2D参照)。従って、本発明は、これらの高度水和ネットワークを通した栄養素、生理活性因子、および酸素の拡散が、より長い期間の多数の細胞の生存にとって十分であることを証明している。自己集合性分子により形成された人工足場は、99.5wt%の水を含有しており、メカニズムの理解は本発明を実施するのには必要でなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも制限されないが、ナノファイバーの高い縦横比が、ペプチド両親媒性物質のそのような低い濃度での、機械的に支持性のマトリックスの形成を可能にすることが企図される。従って、人工細胞外マトリックスは、細胞のための機械的支持を提供するのみならず、可溶性因子の拡散および細胞の遊走が起こり得る媒体としても役立つ。
【0182】
実施例4
足場に曝された(例えば、足場に封入された)神経前駆細胞の増強された分化
生理活性足場において、免疫細胞化学により決定されるようなニューロンに分化したNPCの細胞体面積および神経突起長は、PDLまたはラミニンでコーティングされた基質上で培養された細胞と比較して統計的に有意な差を示した。ナノファイバー・ネットワーク内のニューロンは、対照培養物中のニューロンより顕著に大きかった。ネットワークに封入された前駆細胞の平均細胞体面積は、1および7日後に有意に大きかった(図2E参照)。ナノファイバー足場への封入は、わずか1日後に大きな神経突起の形成に至ったが(約57±26μm、平均値±SD)、PDLおよびラミニンで培養された細胞は、この初期の時点で神経突起を発達させていなかった。7日後にも、足場内のニューロンは、PDL基質で培養された細胞と比較して、有意に長い突起を有していた(P<0.01)。7日後、PA足場で培養された細胞と、ラミニンでカバーされた基質で培養された細胞との間に、神経突起長の統計的な差は存在しなかった。7日間生理活性足場に封入されていたNPCの透過型電子顕微鏡検(TEM)は、横断面全体に可視の豊富な突起を含む、健康で正常な超微細構造的形態学を示した(図2F参照)。
【0183】
実施例5
ナノファイバー足場内の細胞遊走
ナノファイバー足場内の細胞遊走の可能性を査定するために、三つの封入されたニューロスフェアを14日間追跡した(図3Aおよび3B参照)。構成細胞が外側へ遊走するにつれ、三つのニューロスフェア全てが中心から拡散した(図3B参照)。各ニューロスフェアの中心と外辺部の細胞体との間の距離を複数回測定することにより、この効果を定量化し(例えば、Zhu et al,J.Neurosci.Res.59,312(2000)参照)、個々の細胞が、細胞塊の中心から離れて遊走するのが見られた。ナノファイバー・マトリックス内の細胞の遊走は、時間の関数として統計的に有意であった(P<0.05)(図3A参照)。対照的に、より密で、より強固なネットワーク(99.5%水に対して98%)に封入されたNPCは、生存しなかった。生理活性IKVAV配列の代わりにEQS配列を含むナノファイバーを含有している非生理活性足場においては、細胞は、生存可能なままではあったが、ニューロスフェアから離れて遊走しなかった。IKVAV-PAにおいては、非生理活性EQS-PAと比較して、より大きな神経突起伸長の程度も観察された(図3C参照)。
【0184】
実施例6
神経前駆細胞の分化
免疫細胞化学を使用して、培養1および7日後の前駆細胞のインビトロの分化を確立した。それぞれニューロンおよびアストロサイト(中枢神経系(CNS)グリアのサブクラス)のためのβ-チューブリンIIIおよびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)マーカー(図4A〜4E参照)。免疫細胞化学により示されたように、表面上にIKVAVを提示するナノファイバーを含むネットワークに封入されたNPCは、ニューロンへと迅速に分化し、わずか1日後に全細胞の約35%がβ-チューブリン染色陽性となった。対照的に、7日後ですら、GFAP+アストロサイト分化はほとんど存在しなかった(<5%)。アストロサイト増殖の阻害は、CNS外傷後の軸索延長の公知の障壁であるグリア性瘢痕の防止において重要であると考えられる(例えば、Rabchevsky and Smith,Arch.Neurol.58,721(2001);Chen et al.,Mol.Cell.Neurosci.20,125(2002);Costa et al.,Glia 37,105(2002)参照)。
【0185】
足場内の増強されたニューロン数は、培養わずか1日後に検出可能となり、7日後にも持続していた。対照的に、GFAP発現は、ナノファイバー・ネットワークで培養された細胞に比べて、PDLおよびラミニンでコーティングされた基質で培養された細胞において有意に大きかった(図4Fおよび4G参照)。以前に研究されたPDLまたはラミニンでコーティングされた基質に比べて(例えば、Gage et al.,Annu.Rev.Neurosci.18,159(1995);Parmar et al.,Mol.Cell.Neurosci.21,645(2002);Wu et al.,J.Neurosci.Res.72,343(2003);Alsberg et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,12025(2002)参照)、IKVAVナノファイバー足場は、前駆細胞のより大きく、より速いニューロンへの分化を促進した。非生理活性EQS配列を含有しているPA分子により形成された足場内で同細胞を培養することにより、観察された分化がIKVAVナノファイバー・ネットワークに特異的であることが確立された。これらの足場およびアルギン酸(様々な種類の細胞のための3Dマトリックスとしてよく研究されている主として褐藻に由来するゼラチン状化合物(例えば、Canaple et al,J.Biomater.Sci.Polym.Ed.13,783(2002);Chang et al.,J.Biomed.Mater.Res.55,503(2001);Marler et al.,Plast.Reconstr.Surg.105,2049(2000);Rowley and Mooney,Biomed.Mater.Res.60,217(2002)参照))において、封入された細胞は、定量可能な量のβ-チューブリンIIIまたはGFAPを発現しなかった。3D EQS対照のさらなる試験として、IKVAV可溶性ペプチドを、100μg/mlの濃度で、EQS-PA細胞懸濁物混合物へ投与した。選択的なニューロン分化、または神経突起を発芽する細胞は、観察されなかった。従って、本発明は、足場にただ存在するだけでなく、自己集合したナノファイバーの中に生理活性エピトープが物理的に捕獲されていることが、観察された細胞分化において重要であることを証明している。
【0186】
細胞に提示された生理活性エピトープの高い密度が、観察された迅速かつ選択的な分化において重要であるか否かを決定するために、変動する量のIKVAV-PAおよびEQS-PAを含むネットワークを使用して、「滴定」実験を実施した。四つの異なる増加する濃度のIKVAV-PAを、EQS-PAと混合し、先に記載されたような懸濁NPCを含有しているナノファイバー足場を形成させた。使用されたモル比は、100:0、90:10、50:50、40:60、および10:90であった。これらの混合PAネットワークにおけるナノファイバーの存在は、TEMにより確証された。これらのネットワークのナノファイバーは、IKVAV-PAもしくはEQS-PAのいずれか、または両方のPA分子の混合物を含有していた。いずれの場合にも、鍵となる変数は、細胞環境中の生理活性エピトープの密度である。
【0187】
1日後のこれらの系における免疫細胞化学データ(図4H参照)は、細胞周囲の利用可能なエピトープの密度が、観察されたニューロン分化において役割を果たすことを示している。非生理活性EQS-PA足場における細胞分化も調査した。これらの足場において、増加する量の可溶性IKVAVペプチドを用いた滴定は、IKVAV-PAナノファイバー足場において観察されたニューロン分化の程度を誘導せず(図4H参照)、このことから、ナノファイバー上のエピトープの細胞への提示が、観察された分化にとって重大であることが再び示された。
【0188】
実施例7
二次元(2D)基質におけるNPC分化
IKVAV-PAナノファイバーでコーティングされた二次元(2D)基質におけるNPC分化を調査した。PA分子は、乾燥により表面上で自己集合するが(例えば、Hartgerink et al.,Science 294,1684(2001);Hartgerink et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.99,5133 (2002)参照)、そのことをTEMにより確証した。細胞をこれらの表面に1日間播種し、免疫細胞化学により示されるように、2D表面は、ニューロンへの分化を誘導する効果が同等であった。実験誤差内で、2D基質においてニューロンに分化した細胞の百分率は、3D足場と比べて、同一であった(図5参照)。IKVAV可溶性ペプチドまたはラミニンでコーティングされた基質(図4参照)は、同一の期間にIKVAV-PAナノファイバーで観察された有意なニューロン分化に至らなかった。IKVAVペプチドでコーティングされた基質で培養された前駆細胞は、観察期間中、ほぼ定量不可能な量のβ-チューブリンIIIおよび/またはGFAPを発現した。従って、本発明は、ナノファイバーが、2D培養においても3D培養においても、分化を促進する高密度の利用可能なエピトープを細胞に提示することを証明している。さらに(Futhermore)、本発明は、エピトープ提示の次元というよりむしろ密度が、迅速かつ選択的な細胞のニューロンへの分化において重要な役割を果たすことを提供する。ネットワーク中の平均サイズのナノファイバーは、推定7.1×1014IKVAVエピトープ/cm2を含有している。固体基質上の二次元格子内に密接にパックされたラミニン・タンパク質分子は、推定7.5×1011IKVAVエピトープ/cm2を有する。従って、本発明のIKVAVを含むナノファイバーは、ラミニン単層に比べてエピトープ密度をおよそ103倍増幅する。
【0189】
実施例8
組織における足場の自己集合
足場の自己集合は、ペプチド両親媒性物質溶液の組織への注射によっても誘発され得る。1wt%ペプチド両親媒性物質溶液10〜80μlを、新鮮に眼球除去されたラット目調製物、および索を露出させるための椎弓切除の後のインビボのラット脊髄へと注射した。このように、これらのペプチド両親媒性物質溶液は、組織との接触により固体の足場へと変換され得る。この過程は、組織にネットワークを局在化し、注射部位の中心点からの分子の受動拡散を防止する。さらに、脊髄へのペプチド両親媒性物質溶液の注射の後、より長い期間、動物が生存することが公知である。
【0190】
本発明の方法は、二次元培養物において使用するのにも適していることが見出された。図5は、IKVAV-PAナノファイバーでコーティングされた基質、およびIKVAVペプチドでコーティングされた基質での二次元培養におけるニューロンに分化した全細胞の百分率を示す。
【0191】
実施例9
本発明の組成物の特徴決定のためのインビボ・モデル
本発明の開発の過程で作製され特徴決定されたペプチド両親媒性物質のいくつかの態様の模式図が、図6および7に提示される。上記実施例1〜4に記述されたように、これらのバイオマテリアルは、水性溶液から、生理活性であるよう設計された明確な超分子ナノファイバーから構築された3次元マトリックスへと自己集合する。個々のナノファイバーは、6〜8ナノメーターの範囲の明確な直径を有する円柱状の形を有し、繊維軸に垂直な生理活性ペプチド配列を提示することができる(図9a〜9bおよび図7a参照)。上記のバイオマテリアルの一例は、ラミニンの向神経活性ペンタペプチド・エピトープ、イソロイシン(isolucine)-リジン-バリン-アラニン-バリン(IKVAV)が組み入れられたナノファイバーを形成する。これらのナノファイバー・マトリックスは、培養されたニューロンからの突起の伸長を促進し、培養された胚性および出生後の(実施例1〜4および図8を参照)神経前駆細胞のアストロサイト分化を抑制することが見出された。従って、神経損傷(例えば、脊髄損傷)後の(例えば、(例えば、水性溶液に製剤化された)ペプチド両親媒性物質を含む)本発明の組成物の、傷害を受けた神経組織の部位への注射が、ニューロン軸索伸長を促進し、かつ/または脊髄損傷後の軸索再生に対する主要な障壁であるアストログリオーシスおよびグリア性瘢痕の形成を低下させ得るか否かを決定するための実験が、本発明の開発の過程で実施された。
【0192】
脊髄損傷(SCI)のクリップ圧迫モデルは、げっ歯動物において一貫した損傷を提供するために使用されている。このモデルは、初期の影響の後に、ヒトSCIのほとんどの例において見られるものと類似した持続性の圧迫が続く損傷を生じる(例えば、Joshi and Fehlings,J Neurotrauma 19,191-203(2002);Joshi and Fehlings,J Neurotrauma 19,175-190(2002)参照)。本発明の開発の過程で実施された研究は、損傷後の慢性の段階ですら、ほとんどまたは全く機能しない体重負荷後肢運動をもたらす、マウスにおける重度の損傷(24g重量)を使用した。成体(10週齢)129SvJ雌マウスに麻酔をかけ、両方の後肢の完全な麻痺をもたらす胸索のT13レベルにおいて、記載されたようにして(例えば、Joshi and Fehlings,J Neurotrauma 19,175-190(2002)参照)、クリップを適用した。損傷の24時間後に何らかの後肢運動を示したマウスは、研究から排除した。
【0193】
実施例10
ペプチド両親媒性物質のインビボ特徴決定
損傷脊髄における生分解性ペプチド両親媒性物質の安定性を評価するため、UV範囲の光による励起による索内の足場の可視化を可能にするための蛍光性の誘導体を合成した(図6a参照)。インビボ注射の間に、よりゆっくりとゲル化する系を作出するためにも、両親媒性物質を修飾した(図6および7参照)。等張グルコース中の1%ペプチド両親媒性物質溶液を、ガラス・キャピラリー・マイクロピペットを使用して、損傷の24時間後に、損傷部位に注射した。図9c(注射の24時間後に実施された画像化)に示されるように、蛍光性のゲルが索内に形成され、注射の5週間後にも依然として、損傷を受けた索にレムナントが見られた(図9d参照)。注射の5週間後、蛍光性のゲルは、注射の部位から索内を拡散し始めた(例えば、メカニズムの理解は本発明を実施するのには必要でなく、本発明はいかなる特定の作用機序にも制限されないが、これは、ペプチドおよび脂質に基づくマトリックスの生分解を反映しているのかもしれない)。従って、本発明は、インビボのナノファイバー足場の寿命が、ほぼ数週間であることを証明している。
【0194】
実施例11
アストログリオーシスに対するナノファイバー足場の効果
神経損傷後のアストログリオーシスは、初期の肥大応答(細胞サイズの増加)および後期の過形成応答(細胞数の増加)を含む(例えば、Faulkner,J.R.et al.,J Neurosci 24,2143-55(2004);Steward et al.,J Comp Neurol 459,1-8(2003);および図10参照)。アストログリオーシスに対するゲルの効果を分析するために、脊髄損傷の24時間後に、損傷部位に、グルコースで1:1に希釈されたペプチド両親媒性物質または媒体(グルコース、実施例1参照)のいずれかを注射した。処置は、所見を臨床的に関連するようにするため(例えば、ヒト対象において起こり得る事象を表すため)、損傷の24時間後まで遅らせた。媒体注射群は、偽操作動物と比較してわずかに増強された回復を有していることが実験で証明されたため、媒体注射動物を対照群として使用した(図10b参照)。これおよび全てのその後の実験について、実験者は、動物の同一性を知らされないままであった。
【0195】
損傷の4日後または11週間後のいずれかに、免疫組織化学分析のためにマウスを屠殺した。アストログリオーシスを定量化するため、病変部周囲のGFAP免疫蛍光の強度を、索の非損傷部分における基線レベルと比較して測定した(方法論に関しては実施例1を参照のこと)。SCIの4日後、GFAP免疫組織化学は、処置された動物と対照動物との間に明白な差を示さず、その時点におけるGFAPのレベルの定量化も同様に差を示さなかった(図9f参照)。従って、この初期の段階で、ナノファイバー・ゲルは、アストロサイトの肥大を防止しなかった。しかしながら、損傷の11週間後、GFAP免疫組織化学は、ゲル注射群におけるアストロサイトの数の明白な低下を示し(図9e参照)、GFAP免疫蛍光の定量化(図9f)は、処置された群における有意な低下を示した(平均:ゲル注射群で2.0+0.1;媒体注射群で2.7+0.2、p<0.04)。従って、本発明は、ペプチド両親媒性物質溶液の注射が、病変部位におけるアストログリア増殖および瘢痕形成を抑制しつつ、血液脳関門の修復およびホメオスタシスの回復にとって重要な最初の反応性の肥厚は改変しないままであったことを証明している(例えば、Faulkner,J.R.et al.J Neurosci 24,2143-55(2004)参照)。
【0196】
実施例12
損傷を受けた運動および感覚軸索の復元を促進する、ナノファイバー・ゲルのインビボ投与
本発明の組成物の投与が、損傷を受けた運動および感覚軸索の実際の再生を促進し得るか否かを、次に決定した。下行性皮質脊髄運動線維(CST)の分析のため、ビオチン化デキストラン・アミン(BDA)を、損傷の9週間後に感覚運動皮質に注射した(方法論に関しては実施例1を参照のこと)。2週間後、動物を屠殺し、連続する20μm厚さの縦方向切片の分析のため各群3匹の動物から組織を加工した。切片から切片まで個々の軸索を追跡することができるように、連続切片を収集し、病変部に対して吻側500μmの距離内で、標識された各軸索についてNeurolucida画像化ソフトウェアを使用してコースを追跡した。ゲル注射動物および媒体注射動物からの代表的な軌跡は、(11週で分析された)損傷の9週間後にBDA注射を受容した処理群と対照群との間の著しい差を示す(図11参照)。ナノファイバー・ゲル群においては、標識された軸索のほぼ80%が病変部に入ったのに対し、対照動物においては繊維の約50%であった(図11参照)。対照動物においては、病変部を通る進路の25%まで、繊維が検出されなかった。対照的に、ナノファイバー・ゲル処理群においては、繊維のおよそ50%が、病変部を通る進路の半分まで侵入し、繊維の約45%がその距離の4分の3まで侵入した。驚くべきことに、繊維の約35%が、実際に病変部を通って増殖し、損傷に対して尾側の脊髄に入った。使用された損傷の重度では、軸索が保存されていた可能性は低い。
【0197】
それにもかかわらず、軸索保存の可能性をより確実に排除するため、損傷の1日後にBDAを感覚運動皮質に注射し、2週間後に路追跡を調査した。この時点においては、ゲル処理群における繊維の15%のみが病変部に入り、媒体処理群においては病変部に入った繊維は全くないことが観察された。より重要なこととして、この時点においては、いずれの群における繊維も、病変部を通る進路の25%にすら観察されず、保存された繊維は存在しなかったことが証明された。さらに、軸索の保存から再生を区別するための厳密な基準を適用することも重要である(例えば、Steward et al.,J Comp Neurol 459,1-8(2003)参照)。ナノファイバー・ゲル処理群における軸索は、瘢痕の組織に入り、組織環境を通る異常な経過をたどった。軸索が推移した距離は、妥当性のある再生速度と一致しており、軌跡に示されたように、繊維は病変部を過ぎてすぐに停止した。これらの軸索においては、異常な分岐パターンおよびその他の非定型の形態学的特徴も観察された。従って、本発明は、ナノファイバー・ゲルが、皮質脊髄路運動線維の再生を促進することを証明している。
【0198】
感覚軸索再生の分析のため、損傷の9週間後、坐骨神経の入口を目印として使用して、BDAをL5後根(感覚)神経節に注射し、2週間後に分析のため動物を屠殺した。連続切片化およびNeurolucida画像化を使用した軸索の追跡を、下行性運動線維の追跡と類似した様式で、各群4匹の動物について実施した。ゲル注射動物および媒体注射動物からの追跡は、損傷の9週間後にBDA注射を受容した処置群と対照群との間の著しい差を例示している(図12参照)。ゲル群における標識された軸索のおよそ60%が病変部に入ったのに対し、対照動物においては繊維の約20%のみであった(図12参照)。対照動物においては、病変部を通る進路の25%まで成長した繊維は極稀であり、対照動物において50%まで侵入した繊維はなかった。対照的に、処置群においては、繊維のおよそ35%が、病変部を通る進路の25%まで侵入し、繊維の約25%がその距離の50%まで侵入した。重要なこととして、繊維の約10%は、実際、病変部を通って増殖し、病変部に対して吻側の脊髄に入った。これらの軸索は、保存された軸索に対する再生した軸索の基準を満たした(例えば、Steward et al.,J Comp Neurol 459,1-8(2003)参照)。
【0199】
軸索の保存の可能性をより決定的に排除するため、損傷の1日後にBDAをL5後根(感覚)神経節に注射し、2週間後に路追跡を調査した。この時点においては、いずれの群においても、病変部を通る進路の25%まで侵入しているのが観察された繊維はなく、このことから、保存された繊維は存在しなかったことが証明された。従って、本発明は、生理活性ナノファイバー・ネットワークが、感覚線維および皮質脊髄路運動線維の再生を促進したことを証明している。
【0200】
実施例13
行動学的回復に関連している解剖学的改善
観察された解剖学的改善が、行動学的回復に関連しているか否かを、マウスのために修飾されたBasso、Beattie、およびBresnahan(BBB)の歩行運動スケールを使用して決定した(例えば、Joshi and Fehlings,J Neurotrauma 19,175-190(2002);Bresnahan et al.,Exp Neurol 95,548-70(1987);Basso et al.,Exp Neurol 139,244-56(1996)参照)。行動学的試験は、処置後9週間、週1回、実施された(図13a)。最初の5週間は、対照と自己集合性分子が注射された群との間に区別可能な差は存在しなかったが、5週目以降は、ゲル注射群は、対照群と比較して有意な行動学的改善を示した。9週目、対照群についての平均BBBスコアは7.03+0.8であり、ゲル注射群についての平均スコアは9.2+0.5であった(p<0.04)。7というスコアは、後肢における三つの関節全てにおける広範囲の運動にもかかわらず機能的な運動がないことを意味し、9というスコアは、動物が歩行運動中に足の背側に歩く背側歩行(dorsal stepping)(例えば、後肢運動は機能的な使用を有する)を示すため、これは有意な機能的回復を表す。とりわけ、群間の差は、損傷後の後期の段階において明白であり、このことは、保護効果より再生応答と一致している。
【0201】
異なる、より広範に使用されている脊髄損傷の挫傷モデルである、ラットにおけるMASCISインパクターにおいても、行動学的回復に対する生理活性ゲルの効果を、BBB歩行運動スケールを使用して評価した(例えば、Young,Prog Brain Res.137:231-55(2002)参照)(図13b参照)。結果は、マウスにおけるクリップ挫傷モデルによる所見と類似していた。媒体注射群およびゲル注射群は、最初の5週間は、相互にほぼ区別不能であった。注射群はいずれもわずかに高いスコアの傾向を有していたが、これらの群と偽注射群との間にも有意な差は存在しなかった。5週目以降、ゲル注射群は、偽注射群および媒体注射群の両方と比較して、有意な行動学的改善を示した。9週目、偽注射対照についての平均BBBスコアは9.4+0.6であり、媒体注射群についての平均スコアは9.9+0.5であった。対照的に、ゲル注射群についての平均BBBスコアは、いずれの対照群よりも有意に高い(p<0.02)12.7+0.6であった。機能的に、これは著しい改善であり、対照群における背側歩行と、自己集合性生理活性マトリックスを有する群における高頻度の前肢後肢協調による一貫した重量に支持された足底歩行との差を表している。
【0202】
上記明細書中に言及された全ての公開および特許が、参照により本明細書に組み入れられる。本発明の記載された方法および系の様々な修飾および変動が、本発明の範囲および本旨を逸脱することなく、当業者には明白になるであろう。本発明は特定の好ましい態様に関して記載されたが、特許請求の範囲に記載されたような本発明は、そのような特定の態様に過度に制限されるべきではないことを理解されたい。実際、当業者にとって明白な、本発明を実施するための記載されたモードの様々な修飾が、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】図1(A)は、IKVAV含有ペプチド両親媒性物質分子およびそのナノファイバーへの自己集合の分子的図解を示す。図1(B)は、ペプチド両親媒性物質水性溶液に細胞培地(DMEM)を添加することにより形成されたIKVAVナノファイバー・ネットワークの走査型電子顕微鏡写真を示す。図1(CおよびD)は、IKVAVペプチド両親媒性物質溶液に(C)細胞培養培地および(D)脳脊髄液を添加することにより形成されたゲルの顕微鏡写真を示す。図1(E)は、ペプチド両親媒性物質溶液の眼内注射の後の、眼球除去されたラットの目から外科的に抽出されたIKVAVナノファイバー・ゲルの顕微鏡写真を示す。
【図2】IKVAV-PAゲルに封入された、またはポリ(D-リジン)(PDL)でコーティングされたカバーガラスの上で培養されたNPCの細胞生存および形態学を示す。細胞生存は、インビトロ(A)1日目、(B)7日目、および(C)22日目に決定された。図2(D)は、全細胞に対する百分率として表された細胞生存の定量化を示す。図2(E)は、1日目および7日目の両方において、IKVAV-PAゲルにおける分化したニューロンの細胞体面積が、対照のものより有意に大きかったことを示す(P<0.05、**P<0.01)。図2(F)は、7日目のIKVAV-PAゲルに封入されたNPCのTEMを示す。
【図3】ナノファイバー・ネットワーク内の細胞遊走の定量化を示す。図3(A)は、IKVAV-PAゲルに封入された三つの代表的なニューロスフェアからのNPCの遊走の定量化を示す。図3(B)は、インビトロ1日目(上)および14日目(下)に(A)におけるデータが収集された三つのニューロスフェアを示す。図3(C)は、播種後24時間以内のIKVAV-PAゲルに封入されたNPCニューロスフェアの明視野画像を示す。
【図4】図4(AおよびB)は、異なる実験条件の下で培養されたNPCを示す。図4(C)は、7日目のIKVAV-PAナノファイバー・ネットワークに封入されたNPCニューロスフェアの免疫細胞化学を示す。図4(D)は、1日目のラミニンでコーティングされたカバーガラスの上で培養されたNPCを示す。図4(E)は、7日目のラミニンでコーティングされたカバーガラスの上で培養されたNPCを示す。図4(F)は、ニューロン(β-チューブリン)へと分化した全細胞の百分率を示す。図4(G)は、アストロサイト(GFAP+)へと分化した全細胞の百分率を示す。図4Hは、異なる量のIKVAV-PAおよびEQS-PAを含有しているナノファイバー・ネットワーク(実線)ならびに異なる量の可溶性IKVAVペプチドが添加されたEQS-PAナノファイバー・ネットワーク(点線)における1日後のニューロンへと分化した全細胞の百分率を示す。
【図5】図5は、IKVAV-PAナノファイバーによりコーティングされた基質およびIKVAVペプチドによりコーティングされた基質における二次元培養物におけるニューロンへと分化した全細胞の百分率を示す。
【図6】図6は、PA1およびPA2の構造および特徴決定を示す。(a)本発明のいくつかのPAの化学構造。ペプチド配列は、パルミチル・テール(PA1)または蛍光型のピレンブチル・テール(PA2)をN末端に有している。このペプチド配列は、他に記載されたもの(例えば、Nomizu,M.et al.,FEBS Lett 365,227-31(1995)参照)から修飾され、ゲル化のより遅い動力学のために使用された。(b)PA1(左)およびPA2(右)のMALDI-TOF質量スペクトル。いずれの場合にも、親ピークから-30および-60のピークは、セリン側鎖からのCH2=OH(+)の欠損による。(c)凝集を最小限に抑えるためにdTFAにおいて得られたPA1(左)およびPA2(右)の1H-NMRスペクトル。ppm0〜6からの領域が、視感度のため拡大されている。6を超える領域は、PA1のスペクトルに出現するピレニル・プロトンによる芳香族性のピーク、および両方のスペクトルにおける交換可能なアミド・プロトンからの小さな広いピークを除き、空である。
【図7】原子間力顕微鏡検および流動学的データを使用したナノファイバー・ゲルの特徴決定を示す。図7(a)は、ゲル化状態の、より遅くゲル化するPA1(パルミチル-IKVAV-PA繊維)を示す原子間力顕微鏡検画像を示す。幅約7nmの個々の繊維が、部分的な繊維ネットワークと共にこの画像中に見られる。図7(b)〜(d)は、PA1およびPA2(ピレン-IKVAV-PAまたは蛍光性IKVAV-PAゲル)についての流動学的データを提示する。示されたデータは、三つのPA全てについて直線的な粘弾性レジメに入る4.22Hzおよび3%ひずみで得られたものである。エラー・バーは、1標準偏差である。図7(b)は、複素弾性率を示す。PA1種およびPA2種は堅さに関しては比較可能である。図7(c)は、複素粘性率を示す。図7(d)は、二つのPAについての減衰係数(G''/G')を示す。両方の材料が、DMEMの添加によりゲル化した(G''/G'<0.2)。
【図8】IKVAVゲルが、インビトロの出生後の神経前駆細胞によるアストロサイト系統コミットメントを減少させることを示す。IKVAVゲルに封入された出生後の神経前駆細胞からは、ポリD-リジン(PDL)/ラミニンでコーティングされたカバーガラスの上で培養された細胞より少ないアストロサイト(GFAP+細胞)が発生した。t検定によりp<0.01。
【図9】IKVAVペプチド両親媒性物質(PA)溶液が、インビボで自己集合し、グリア性瘢痕形成を減じることを示す。図9(a)は、ゲルが生じるよう織り合せられたナノファイバーの束へと集合した個々のPA分子を示す模式図を示す。図9(b)は、ナノファイバーのネットワークを示す走査型電子顕微鏡写真を示す。スケール・バー:200nm。図9(c)は、注射の24時間後の損傷脊髄における蛍光性IKVAVゲルを示す縦断面図を示す。図9(d)は、注射跡(矢じり)周囲、および注射部位から離れた場所(蛍光画像中の長い垂直の矢印)における5週目のゲルを示す脊髄の縦断面図を示す(cおよびdにおけるスケール・バー:200μm)。図9(e)および(f)は、IKVAVゲルが、脊髄損傷後のインビボにおけるアストログリオーシスを減弱させることを示す。図9(e)は、ゲル処置動物の病変部位においては、対照と比較して、GFAP免疫蛍光が低下していることを示す。スケール・バー:20μm。図9(f)は、対照群とゲル注射群とが、4日目には異ならないが、77日目には、ゲルを注射された脊髄におけるGFAP免疫蛍光レベルが、対照と比較して有意に低下していることを示す(t検定によりp<0.04)。
【図10】脊髄損傷が、初期にはグリアの肥大応答をもたらし、後期には過形成応答をもたらすことを示す。非損傷脊髄、ならびに脊髄損傷の4日後および11週間後の病変部位を示す、GFAPに関して免疫染色された切片の代表的な共焦点Zスタック。損傷後4日目の反応性アストロサイトの肥大した形態学(矢じり)、および損傷後11週間目のGFAP+細胞の数の明白な増加に注意すること。スケール・バー;20μm。
【図11】IKVAVゲルが、脊髄損傷後の運動軸索の再生を促進することを示す。媒体注射動物およびゲル注射動物における損傷に対して吻側500μmの距離内のBDAで標識された下行性運動線維の代表的なNeurolucida追跡。灰色点線は、病変部の境界を画定している。棒グラフは、標識された皮質脊髄軸索が損傷に侵入した程度を示す。11週間までに、ゲル注射群(黒バー)の軸索の50%が、病変部への進路の半分まで伸張し、ゲル注射群の軸索の40%が、病変部を越えて尾側脊髄へと成長した。対照的に、媒体注射動物においては、病変部への進路の25%まで通過する軸索すら見られなかった(赤バー)。(130の個々の軸索の追跡を表す)群は、ウィルコクソン(Wilcoxon)順位検定によりp<0.03で相互に異なる。示された全ての切片において、吻側が上であり、背側が左である。全てのスケール・バー:100μm
【図12】IKVAVゲルが脊髄損傷後の感覚軸索の再生を促進することを示す。媒体注射動物およびゲル注射動物における病変部に対して尾側500μmの距離内のBDAで標識された上行性感覚繊維の代表的なNeurolucida追跡。灰色点線は、病変部の境界を画定している。標識された軸索が損傷に入り成長した程度を示す棒グラフ。損傷後2週間目には、極少数の繊維しか病変部に入らず、いずれの群の繊維も病変部を通る進路の25%まで侵入しなかった。11週間までに、ゲル注射動物(黒バー)の標識された軸索のおよそ60%が病変部に入ったのに対し、対照動物では繊維の約20%のみであった(赤バー)。11週間目、ゲル注射動物(黒バー)においては、媒体注射群(赤バー)より有意に多くの軸索が、損傷に侵入し、ゲル注射群においてのみ、繊維が病変部の50%まで、またはそれを超えて成長した。**群はウィルコクソン順位検定によりp<0.05で相互に異なる。
【図13】IKVAVゲルが、BBBオープン・フィールド歩行運動スケールによって分析されるような機能的な回復を促進することを示す。図13(a)は、平均マウスBBB歩行運動スコアを示すグラフを示す。群は、反復測定ANOVAによりp<0.04で相互に異なる。*チューキー(Tukey's)HSDポスト・ホックt検定は、損傷の5週間後以降の全ての時点において、スコアがp<0.045で異なることを示した。図13(b)は、平均ラットBBB歩行運動スコアを示すグラフを示す。反復測定ANOVAは、群が相互に異なることを示した(p<0.03)。チューキーHSDポスト・ホックt検定は、偽処理動物と媒体処理動物との間の差を示さなかったが、ゲル注射群は、5週間後(p<0.03)およびそれ以降の全ての時点において(**p<0.02)、他の群と異なっていた。
【図14】本発明のペプチド両親媒性物質を示す。
【図15】本発明のゲル化の遅いペプチド両親媒性物質を示す。
【図16】本発明のヘテロ原子ドーパントを含む様々なペプチド両親媒性物質を示す。
【図17】本発明の分枝基を含むペプチド両親媒性物質(amphiles)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロンの発達を改変する方法であって、該ニューロンをペプチド両親媒性物質を含む組成物と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
ニューロンの発達の改変が、軸索の成長を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
軸索の成長が、下行性運動繊維の成長を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
軸索の成長が、上行性感覚繊維の成長を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
発達の改変が、病変部位を通って起こる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ニューロンの発達の改変が、アストログリオーシス(astrogliosis)の減少を伴う、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ペプチド両親媒性物質がIKVAV配列を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ニューロンが、傷害を受けた脊髄の中のニューロンである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
脊髄が、外傷性脊髄損傷により傷害を受けている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ニューロンが感覚ニューロンである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ニューロンが運動ニューロンである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ニューロンの発達の改変が、ニューロンの発達の促進を含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
ニューロンの発達の改変が、傷害を受けたニューロンの発達の再生を含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
ペプチド両親媒性物質を含む組成物が、さらに増殖因子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
増殖因子が神経栄養因子を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ニューロンが神経突起である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、対象を処置する方法:
a)傷害を受けた神経を有する対象を提供する工程、および
b)該対象においてニューロンの成長が起こるような条件の下で、ペプチド両親媒性物質を含む組成物を該対象に投与する工程。
【請求項18】
ニューロンの成長が、軸索の成長を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
軸索の成長が、下行性運動繊維の成長を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
軸索の成長が、上行性感覚繊維の成長を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
ニューロンの成長が、傷害を受けた神経の部位における軸索の成長を含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
ニューロンの成長が、対象におけるアストログリオーシスの減少を伴う、請求項17記載の方法。
【請求項23】
ニューロンの成長が、対象における瘢痕形成の減少を伴う、請求項17記載の方法。
【請求項24】
アストログリオーシスの減少および瘢痕形成の減少が、神経傷害の部位において起こる、請求項22記載の方法。
【請求項25】
ペプチド両親媒性物質がIKVAV配列を含む、請求項17記載の方法。
【請求項26】
傷害を受けた神経が、傷害を受けた脊髄の中の神経である、請求項17記載の方法。
【請求項27】
傷害を受けた神経が、外傷性脊髄損傷により傷害を受けている、請求項26記載の方法。
【請求項28】
傷害を受けた神経が、傷害を受けた感覚ニューロンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項29】
傷害を受けた神経が、傷害を受けた運動ニューロンを含む、請求項17記載の方法。
【請求項30】
ニューロンの成長が、傷害を受けたニューロンの発達の再生を含む、請求項17記載の方法。
【請求項31】
ペプチド両親媒性物質を含む組成物が、さらに増殖因子を含む、請求項17記載の方法。
【請求項32】
増殖因子が神経栄養因子を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
投与が、ペプチド両親媒性物質を含む水性溶液の非経口投与を含む、請求項17記載の方法。
【請求項34】
ペプチド両親媒性物質が、傷害を受けた神経との接触の際、ナノファイバー・ゲルを形成する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
ペプチド両親媒性物質が蛍光剤を含む、請求項17記載の方法。
【請求項36】
蛍光剤がピレンブチル部分を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
ペプチド両親媒性物質を含む組成物が、一つまたは複数の他の薬剤と同時投与される、請求項17記載の方法。
【請求項38】
一つまたは複数の他の薬剤が、神経栄養因子、ニューロン成長阻害剤の阻害剤、ニューロンの成長誘引物質、およびニューロン成長阻害剤からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
神経栄養因子が、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、白血病阻害因子=コリン作動性ニューロン分化因子(chol.neuronal diff.factor)(LIF/CDF)、カルジオトロフィン(Cardiotrophin)-1、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)、繊維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)、インスリン、インスリン様増殖因子I(IGF-I)、インスリン様増殖因子Ii(IGF-II)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)、トランスフォーミング増殖因子β2(TGFβ2)、トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)、アクチビン、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ミッドカイン・ヘパリン結合性神経栄養因子(HBNF)、プレイオトロフィン、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、シュワン腫由来増殖因子、ヘレグリン(ニューレグリン、ARIA)、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン6、軸索リガンド(Axon ligand)-1(Al-1)、elf-1、ehk1-L、およびLERK2からなる群より選択される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
ニューロン成長阻害剤の阻害剤が、Nogo、Ryk、Ryk様阻害剤、sFRP、sFRP様物質、MAG、Omgp、Wnt、またはCSPGの発現および/または活性を阻害する、請求項38記載の方法。
【請求項41】
IKVAV配列を含むペプチド両親媒性物質を含む薬学的組成物であって、対象におけるニューロンの成長を改変するために構成される薬学的組成物。
【請求項42】
ニューロンの成長の改変が、ニューロンの成長の促進を含む、請求項41記載の組成物。
【請求項43】
ペプチド両親媒性物質がSLSL配列を含む、請求項41記載の組成物。
【請求項44】
SLSL配列が、治療的に有用なペプチド両親媒性物質の自己集合を提供する、請求項43記載の組成物。
【請求項45】
ペプチド両親媒性物質がA3配列を含む、請求項41記載の組成物。
【請求項46】
A3配列が、治療的に有用なペプチド両親媒性物質の自己集合を提供する、請求項45記載の組成物。
【請求項47】
ペプチド両親媒性物質がヘテロ原子を含む、請求項41記載の組成物。
【請求項48】
ヘテロ原子が、Br、I、およびFからなる群より選択される、請求項47記載の組成物。
【請求項49】
ペプチド両親媒性物質が分枝基を含む、請求項41記載の組成物。
【請求項50】
分枝基が、ペプチド両親媒性物質内に存在するペプチド・エピトープの利用可能性を改良する、請求項49記載の組成物。
【請求項51】
分枝基が、N末端に修飾されたリジン残基を含む、請求項49記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−500001(P2009−500001A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552353(P2007−552353)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/002354
【国際公開番号】WO2006/079036
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(596057893)ノースウエスタン ユニバーシティ (35)
【Fターム(参考)】