説明

細胞エネルギーの直接送達システム

安定小胞形成体であるリン脂質及び少なくとも1つの不安定小胞形成部材を含んでなり、該不安定小胞形成部材が、安定小胞形成体でない極性脂質、PEG、ラフト形成体及び融合タンパク質からなる群より選択される、脂質小胞が提供される。小胞は、例えばATPのような生体分子を更に含んでなることができる。生体分子の送達のために小胞を使用する方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2002年5月14日出願の米国仮特許出願第60/380,762号に基づきその優先権を主張する2003年3月25日出願の米国特許第10/397,048号の一部継続出願である、2006年2月7日出願の米国特許出願第11/349,023号の利益を主張する。これらの各々の開示は、その全体が本明細書中に組み込まれる。
【0002】
政府の権益
本開示の主題は、米国国立衛生研究所より受けた補助金HL 64186-01A1、HL073578-01、DK067702-01の下で米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は、本主題に一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本開示の主題は、細胞への生体分子の送達に有用な脂質小胞(lipid vesicle)及び該脂質小胞の使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
細胞及び組織は、例えばストレス性の環境条件に起因して、特定の生体分子が欠損することがある。細胞及び組織が生存するためには、欠損生体分子のレベルは、代謝要求を満たすように細胞及び組織内で上昇しなければならない。例えば、ATPは、細胞が主要エネルギー源として依拠する生体分子であり、代謝要求の増大又は細胞へのATP供給の不足は、要求が迅速に満たされなければ、細胞死を生じることがある。
【0005】
ATPは、全ての細胞−動物、植物、細菌、真菌などに力を与える燃料である。ガソリンのない自動車のように、ATP「タンク」が空のヒトや他の生き物は動かない。事実、それらは死ぬ。栄養物質の分解から引き出されるエネルギーは、最終的には、ATPの高エネルギーリン酸結合に保存される。これら結合は、崩壊すると、細胞、組織、臓器及び臓器系にアクセス可能なエネルギーを提供する。細胞はATPを継続的に合成し代謝する。ATPは、最終電子受容体として酸素を用い、副産物として二酸化炭素(CO2)及び水を生じる酸化的リン酸化により好気的に、又は解糖の間に嫌気的に生産され得る。解糖はエネルギーを細胞に提供できるが、その供給は限定的である。なぜなら、細胞環境が酸性になり、細胞を傷つけ、ATP産生を阻害するからである。
【0006】
血管循環系は、酸素及び栄養物質から引き出されるエネルギーの継続的な供給を送達する。脈管系では、内皮細胞の障壁は、供給される細胞と管内腔とを隔てている。脈管系の外側の細胞に到達するために、酸素及び栄養物質は、内皮細胞の裏打ち(endothelial lining)を通って間質腔中に入らなければならない。血液の流れ、したがって栄養物質及び酸素の流れは、疾患又は外傷の結果として遮断され又は減少することがある。例えば、心筋梗塞(心臓発作)、卒中、低血圧及び重篤な外傷(例えば、自動車事故での頸動脈切断)は、酸素の減少を生じ、ホメオスタシスの喪失を導き、おそらく死をもたらす。
【0007】
虚血事象(組織への酸素及び栄養物質の減少をもたらす事象)の後に血液供給が再樹立されると、虚血再灌流傷害が起こることがある。細胞はATP合成を試みるので、酸素の再供給後には毒性代謝産物(例えばフリーラジカル)が産生される。虚血は、傷害又は疾患に関連する現象であるだけでなく、手術(例えば、大動脈バイパス、開心術、大組織再構築、腫瘍摘出、腸切除及び臓器移植)の副作用として誘導されることもある。
【0008】
虚血は、組織及び臓器移植の成功にとって難題の代表である。米国では、毎年約14,000の腎臓及び約2500の心臓が移植されている。摘出後、臓器は、栄養物質及び酸素の不在下で寿命が制限される。心臓は、採取後4〜6時間以内に移植しなければならない一方で、腎臓は72時間以内に移植しなければならない。しばしばレシピエントはドナーから遠方にいるので、このような短い生存可能時間は移植を妨げる。血液は、4℃にて約45日間だけ保存でき、その後は廃棄しなければならない。手術を見越しての自己血液の取得は更に面倒である。患者は、通常、45日で2単位の血液を提供できるに過ぎない。多くの外科手順には3、4又はそれより多い単位の血液を使用するので、この量は十分ではない。
【0009】
低酸素供給の有害効果を克服するか又は阻害するための幾つかの試みがなされてきた。これらアプローチには以下が含まれる:(1)解糖中間体を提供して嫌気的ATP産生を増強すること;(2)代謝要求の削減、例えば、細胞、組織及び臓器を4℃で保存すること;及び(3)細胞、組織又は臓器に直接ATPを加えること。細胞へのエネルギー供給は、好ましくは、ATPの直接投与により達成されるであろう;しかし、細胞は、ATPレセプター又はチャンネルを欠いているので、外因性ATPを十分には取り込まない。更に、細胞形質膜は疎水性である一方で、ATPは親水性であり、このことは、ATPが細胞形質膜を通過することを妨げる。ATPは内皮障壁を横切ることができず、また加水分解し易いので、血流中へのATPの導入は効果がない。加えて、ATPはプリン作動性レセプターのアゴニストであり、静脈内投与すると、ATPは血管拡張及び低血圧を生じることがある。ATPを送達するためにリポソームを使用する試みは、大部分が成功せず、有効でなかった(Arakawaら,1998、Puisieuxら,1994)。例えば、Puisieuxらは、ATPをカプセル化したホスファチジルコリン、コレステロール及びホスファチジルセリン脂質小胞を構築した後、該小胞を精子細胞、肝臓及び脳組織とインキュベートした。幾らかの取込みは観察されたが、ATPに対する代謝要求に適合する制御送達は達成されなかった。血流に投与すると、リポソームは、通常、内皮細胞障壁を破ることができない;加えて、リポソームは、通常、細胞膜との融合(小胞が細胞中へ搭載ATPを送達するために必要な事象)が高率ではない。
【0010】
動物細胞形質膜は、総脂質の半分を超える4つの主要なリン脂質を含有する:ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン及びスフィンゴミエリン。ホスファチジルコリン及びスフィンゴミエリンは、ほとんどが外側リーフレットに見出される一方、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンは、基本的に、内側リーフレットに見出される。ホスファチジルコリンは、動物細胞中に見出される最も豊富なリン脂質である。よって、任意のリポソーム送達システムは、主にこのリン脂質から構成されるべきである。更に、ホスファチジルコリンは、閉じた脂質小胞(これは、小胞内容物を保護し漏れを減少させる)を形成する唯一の天然に存在するリン脂質である。形質膜は、細胞の完全性維持を助け、選択的に透過性である。膜を通って拡散することができる分子もあるが、ほとんどの分子(ATPを含む)は、他の進入手段(例えば、輸送タンパク質又はチャンネル)を必要とする。
【0011】
したがって、種々の適用のために生体分子を細胞に送達する(代謝要求を満たすに十分な量の生体分子(例えばATP)を受けていない細胞及び組織に生体分子を提供することを含むがこれに限定されない)新たなアプローチの必要性が存在し続けている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
要旨
本要旨は、本開示の主題の幾つかの実施形態を列挙し、多くの場合で、これら実施形態の変形物及び置換物を列挙する。本要旨は、多様な実施形態の単なる例示である。所与の実施形態の1又はそれより多い代表的特徴の言及も同様に例示である。このような実施形態は、代表的には、言及した特徴を有して、又は有さずに存在し得る;同様に、それら特徴は、本要旨に列挙されているかいないかにかかわらず、本開示の主題の他の実施形態にも当てはまり得る。過度の繰返しを避けるために、本要旨は、そのような特徴の全ての可能な組合せを列挙も示唆もしていない。
【0013】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、安定小胞形成体であるリン脂質と少なくとも1つの不安定小胞形成部材とを含んでなり、不安定小胞形成部材は安定小胞形成体でない極性脂質、PEG、ラフト形成体及び融合タンパク質からなる群より選択される、小胞を提供する。安定小胞形成体であるリン脂質又は安定小胞形成体でない極性脂質は、式(I)の構造:
X-L-(Z)2 (I)
[式中、XはH、Aであるか又は式(II)の構造:
【0014】
【化1】

【0015】
を有し、
Bはカチオン又はアルキル基であり;
AはH又はアルキル基であり;
Lは更に2つの水素を欠いているアルキルであり;
各Zは独立してH、E又は式(XI)の構造
【0016】
【化2】

【0017】
であり、ここで、Eはアルキル又はアルケニルであり、一方のZがHであるとき、他方のZはHではない]
を有することができる。
【0018】
本開示の小胞の幾つかの実施形態では、AはHであるか、又は式(III)、(IV)、(V)、(VI)及び(VII)
【0019】
【化3】

【0020】
[式中、nは0〜4の整数である]
からなる群より選択される構造を有し;
Lは式(VIII)、(IX)又は(X)
【0021】
【化4】

【0022】
からなる群より選択される構造を有し;
Eは(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)、(XVII)、(XVIII)、(XIX)、(XX)、(XXI)又は(XXII)
【0023】
【化5】

からなる群より選択される構造を有する。
【0024】
更に、幾つかの実施形態では、Eは細菌性脂肪酸であり得る。例示の細菌性脂肪酸としては、イソ-分枝鎖脂肪酸、アンテイソ-分枝鎖脂肪酸、15-メチル脂肪酸、トランス-不飽和若しくはシス-不飽和脂肪酸、a-ヒドロキシル脂肪酸、b-ヒドロキシル脂肪酸、a-ヒドロキシル-b-メチル脂肪酸、a,b-ジヒドロキシル脂肪酸、シクロヘキシル脂肪酸、(Z,Z)-不飽和脂肪酸、a-ヒドロキシル-(bE)-エン及び2-ヘキシルシクロプロパンデカン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
小胞の幾つかの実施形態では、安定小胞形成体であるリン脂質はホスファチジルコリンであり、幾つかの実施形態では、ホスファチジルコリンは、ダイズホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、イー.コリ(E. coli)抽出物ホスファチジルコリン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-ドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PDPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又はそれらの混合物である。更に、幾つかの実施形態では、不安定小胞形成部材は、式(XXIV)、(XXV)、(XXVI)、(XXVII)、(XXIX)、(XXXI)、(XXXII)、(XXXIII)及び(XXXIV)からなる群より選択される構造を有する、不安定小胞を形成する極性脂質である。他の実施形態では、不安定小胞形成部材は、約20〜約8000繰返し単位の重量、約3000〜約4000繰返し単位の重量又は約3350繰返し単位の重量を有するPEGである。なお更に、幾つかの実施形態では、不安定小胞形成部材は、コレステロール及びスフィンゴミエリンからなる群より選択されるラフト形成体であり、又は不安定小胞形成部材は、フェルチリン(fertilin)、可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質レセプター(SNARE)、sec1/munc18(SM)ポリペプチド、ウイルスエンベロープ融合タンパク質及びアネキシンからなる群より選択される融合タンパク質である。幾つかの実施形態では、小胞は、2又はそれより多い不安定小胞形成部材を含んでなる。
【0026】
小胞の幾つかの実施形態では、小胞は生体分子を更に含んでなる。幾つかの実施形態では、生体分子は脂溶性生体分子であり、この脂溶性生体分子は、α-トコフェロール(ビタミンE)、レチノール(ビタミンA)、フィロキノン(ビタミンK)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD)、コレステロール、コレステロールエステル、ステロイド、ホパノイド、界面活性剤、脂肪酸、細菌性分枝鎖脂肪酸、イソプレノイド、長鎖アルコール、脂溶性麻酔剤、ガングリオシド、リポ多糖、ビオチン標識リン脂質、膜イオンコンダクタンスチャンネル、輸送タンパク質、グルコース輸送体、粘着タンパク質(adhesion protein)、ギャップ結合タンパク質、シナプス接合タンパク質、カスパーゼ、接着タンパク質(adherence protein)、Gタンパク質、MHCタンパク質、補体タンパク質、脂溶性ウイルスタンパク質、細胞レセプター、脂溶性蛍光プローブ分子及び脂溶性放射性トレーサ分子からなる群より選択することができる。幾つかの実施形態では、生体分子は水溶性生体分子であり、この水溶性生体分子は、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、単糖類、二糖類、多糖類、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、水溶性ビタミン、ミネラル、高エネルギーホスフェート、解糖中間体、酸化中間体、ニコチンアデニンジヌクレオチド(NAD+又はNADH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD+又はFADH2)、水溶性細胞酵素、インスリン、水溶性蛍光プローブ分子、水溶性放射性トレーサ分子及び水溶性薬物からなる群より選択することができる。更に、幾つかの実施形態では、生体分子は、ATP、ADP、AMP、アデノシン、CTP、CDP、CMP、シトシン、UTP、UDP、UMP、ウラシル、GTP、GDP、GMP、グアノシン、TTP、TDP、TMP、チミン、ITP、IDP、IMP及びイノシンからなる群より選択される高エネルギーホスフェートである。
【0027】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、生体分子(例えばATP)とダイズホスファチジルコリンとDOTAPとを含んでなる小胞を提供する。幾つかの実施形態では、ATPは、約0.01mM〜約200mMの濃度で存在する。更に、幾つかの実施形態では、小胞は、約50:1のダイズホスファチジルコリン 対 DOTAPの比を有する。
【0028】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、生体分子(例えばATP)とDOPCとDOTAPとを含んでなる小胞を提供する。幾つかの実施形態では、ATPは、約0.01mM〜約200mMの濃度で存在する。更に、幾つかの実施形態では、小胞は、約50:1のダイズホスファチジルコリン 対 DOTAPの比を有する。
【0029】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、細胞を本開示の主題たる小胞と接触させることを含んでなる、生体分子を細胞に送達する方法を提供する。幾つかの実施形態では、小胞は生体分子を更に含んでなり、この生体分子は幾つかの実施形態ではATPである。更に、幾つかの実施形態では、小胞により細胞に送達されるATPの量は、低い酸素又は栄養物質の期間中にATP利用事象の埋め合わせをし、細胞の維持を助けるに十分である。
【0030】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、創傷を、本開示の主題たる小胞(これは生体分子を含んでなる)を含んでなる組成物と接触させることを含んでなる、創傷を治療する方法を提供する。幾つかの実施形態では、生体分子はATPである。幾つかの実施形態では、小胞は、ベカプレルミン(becaplermin)、線維芽球増殖因子、血管内皮増殖因子、抗生物質、銀含有組成物、皮膚移植組成物又はそれらの組合せを更に含んでなる。
【0031】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、細胞を小胞と接触させることを含んでなる、少なくとも1つの細胞を有するバイオリアクターの生産性を向上させる方法を提供する。小胞は生体分子を含んでなることができ、この生体分子は幾つかの実施形態ではATPである。
【0032】
幾つかの実施形態では、本開示の主題は、組織を本開示の主題たる小胞と接触させることを含んでなる、組織を保存する方法を提供する。小胞は生体分子を含んでなることができる。幾つかの実施形態では、生体分子はATPである。
【0033】
したがって、細胞への生体分子の送達用の脂質小胞及びそれを使用する方法を提供することが、本開示の主題の目的である。この目的及び他の目的は、全体又は一部が、本開示の主題により達成される。
【0034】
本開示の主題の1つの目的は上記のとおりであるが、他の目的は、下記の実施例及び図面と併せて、説明が進むに従って明らかになる。
【0035】
図面の簡単な説明
図1は、1時間後のヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)内でのATPの分配係数を示す棒グラフである。
図2は、ヌードマウスにおける創傷治癒に対する本開示の主題たる組成物の効果を示す折れ線グラフである。
図3は、ラットにおいて切断肢の再移植の成功を示す一対の写真である。肢は、再付着後完全に機能している。
【0036】
図4は、GC/MSにより決定したダイズホスファチジルコリン(PC)の脂肪酸組成を示すグラフである。ダイズPCは、非常に低い飽和/不飽和比(0.3)を有する。このことは不飽和脂質(これは融合を増大させることができる)の優位性を示す。
図5A〜5Cは、ダイズPC/DOTAP(50:1)を含んでなる小胞が細菌の増殖速度を増大させ(図5A)、また肝臓防腐の維持を助ける(図5B及び5C)ことを示すグラフである。
【0037】
図6A及び6Bは、大腿静脈へビオチン化脂質を送達するために使用した本開示の主題たる小胞を示す顕微鏡写真である。ビオチン化PEを含有する小胞でラット後肢を灌流した。図6Aは、ビオチン化小胞及び蛍光ストレプトアビジンでの灌流の14日後の顕微鏡写真である。図6Bは、非ビオチン化小胞及び蛍光ストレプトアビジンの顕微鏡写真である。図6A及び6Bの両方とも100×の倍率である。
【0038】
図7は、出血性ショックモデルにおいて、コントロール動物と比較して、ATP-SUVを投与した動物について増大した生存率を示す折れ線グラフである。
図8は、化学的に誘導した低酸素症モデルにおいて、コントロール動物と比較して、ATP-SUVを投与した動物について増大した生存率を示す棒グラフである。
【0039】
詳細な説明
本主題は、細胞脂質二重膜と吸収に関して適合性である小脂質小胞が、生体分子をカプセル化でき、該生体分子を細胞に直接送達できるという発見を利用するものである。生体分子の送達速度は、脂質小胞組成物を変えること及び他の手段により制御することができ、その結果、異なる吸収速度を生じる。加えて、小胞組成物は、異なる投与態様に適応するように調整することができる。例えば、小脂質小胞は、循環中に注射したとき、内皮細胞をバイパスし間隙を開け、その結果、標的細胞により効率的に吸収され得るように作ることができる。吸収を促進又は標的するために、小胞に他の成分(例えば、ある種のポリペプチド)を加えることができる。脂質小胞中に積載することにより、生体分子は、加水分解に対して安定化することができる。
【0040】
本開示の主題たる組成物及び方法は、細胞への効果的な生体分子送達(例えば、細胞へのATP送達を含む)の要件を満たす。細胞への生体分子の効果的な送達の4つのゴールは以下である:第1に、生体分子は、送達される生体分子に依存して、細胞膜を通過するか又は細胞膜中へ入らなければならない。第2に、生体分子の全量が、該生体分子についての細胞の基礎代謝要求(例えば、ATPについての種々の条件下の細胞の代謝要求)の埋め合わせを助けることができる速度で送達されなければならない。第3に、生体分子含有組成物は、投与経路に適合性でなければならない。最後に、効果的であるために、生体分子は、分解前に、細胞又は細胞膜に進入しなければならない。
【0041】
脂質小胞膜は形質細胞膜を模倣する;加えて、それらは作るのが簡単である。水性部分を有するので、脂質小胞は、種々の溶液(生体分子(例えばATP)を含有する溶液を含む)をカプセル化することができる。しかし、小胞はまた、疎水性成分も含んでなり、したがって細胞に疎水性生体分子を送達するためにも利用することができる。脂質小胞は、細胞膜により吸収されて脂質小胞の内容物の送達を可能にするように作ることができる。
【0042】
本開示の主題たる方法及び組成物は、出血性ショック、心臓発作、冠動脈性心疾患、卒中、低血圧、重篤な外傷、創傷治癒、組織及び臓器の保存、心肺蘇生術並びに移植の処置を含む種々の用途を有する。重篤な外傷の場合には、本開示の主題たる組成物は、医療救済が利用可能となるまで損傷を最小限にする分野で投与することができる。本方法及び組成物はまた、血液及び血小板の保存を延長させるために使用することができる。
【0043】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて、所与の化学式又は化学名は、存在する場合、全ての光学異性体及び立体異性体並びにラセミ混合物を包含するものとされる。
以下は実施者の手助けのために提供されたものであり、本開示の主題を制限することを意味せず、他の方法、技法、細胞、試薬及びアプローチも使用できる。
【0044】
定義
「アルキル」(又はアルキル-若しくはalk-)とは、置換又は未置換の、直鎖状、分枝鎖状又は環状の(好ましくは、1〜20の炭素原子を含有する)炭化水素鎖をいう。未置換のアルキル基の適切な例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、シクロブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。任意に、アルキル鎖に沿って、1又はそれより多い酸素、イオウ又は置換若しくは未置換の窒素原子が挿入されることがある。「アルキルアリール」及び「アルキル複素環式」基はそれぞれ、アリール又は複素環式基に共有結合しているアルキル基である。
【0045】
「アルケニル」とは、置換又は未置換の、直鎖状、分枝鎖状又は環式の、少なくとも1つの二重結合を含有する(好ましくは2〜22炭素原子を含有する)不飽和炭化水素鎖をいう。例示の未置換アルケニル基としては、エテニル(又はビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル(又はアリル)、1,3-ブタジエニル、ヘキセニル、ペンテニル、1,3,5-ヘキサトリエニルなどが挙げられる。好ましいシクロアルケニル基は、5〜8の炭素原子及び少なくとも1つの二重結合を含有する。シクロアルケニル基の例としては、シクロヘキサジエニル、シクロヘキセニル、シクロペンテニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタトリエニルなどが挙げられる。
【0046】
「アルコキシ」とは、置換又は未置換の-0-アルキル基をいう。例示のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシなどが挙げられる。
「アリール」とは、(好ましくは3〜10炭素原子の)任意の一価芳香族炭素環式又は複素環式基をいう。アリール基は、二環式(すなわちフェニル(又はPh))又は多環式(すなわちナフチル)であり得、未置換であることも置換していることもできる。好ましいアリール基としては、フェニル、ナフチル、フリル、チエニル、ピリジル、インドリル、キノリニル又はイソキノリニルが挙げられる。
【0047】
「アミノ」とは、未置換又は置換の-NRR'基をいう。アミンは、置換基(R又はR')の数に依存して、一級(-NH2)、二級(-NHR)又は三級(-NRR')であり得る。置換アミノ基の例としては、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、2-プロピルアミノ、1-プロピルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(イソ-プロピル)アミノ、メチル-n-プロピルアミノ、t-ブチルアミノ、アニリノなどが挙げられる。
【0048】
用語「四級窒素」とは、4つの単結合、2つの単結合及び1つの二重結合、1つの単結合及び1つの三重結合、又は2つの二重結合のいずれかに関与する窒素原子をいう。よって、本開示の主題の幾つかの実施形態では、用語「四級窒素」とは、4つの置換基(当該四級窒素を連結基「L」又は本明細書に開示される式(II)の化合物の酸素原子に付着させるために更に役立つ1つの基を含む)で置換された窒素原子をいう。よって、幾つかの実施形態では、四級窒素は以下の構造を有する:
【0049】
【化6】

【0050】
[式中、各R1は、独立して、H、アルキル、置換アルキル、分枝鎖アルキル、シクロアルキル、アルケニル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アリール、置換アリール及びアラルキルからなる群より選択される]。
【0051】
「複素環式基」とは、(好ましくは5〜10、より好ましくは5又は6の原子を含有する)安定な、飽和、部分的に不飽和又は芳香族の環をいう。この環は、置換基で1又はそれより多い回数(好ましくは1、2、3、4又は5回)置換することができる。環は、単環式、二環式又は多環式であり得る。複素環式基は、炭素原子と、独立して窒素、酸素及びイオウからなる群より選択される1〜3のへテロ原子とからなる。へテロ原子は、保護されていることもあり、保護されていないこともある。有用な複素環式基の例としては、置換又は未置換の、保護された又は保護されていない、アクリジン、ベンザチアゾリン、ベンズイミダゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンズチアゾール、ベンゾチオフェニル、カルバゾール、シンノリン、フラン、イミダゾール、1H-インダゾール、インドール、イソインドール、イソキノリン、イソチアゾール、モルホリン、オキサゾール(すなわち、1,2,3-オキサジアゾール)、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フタラジン、ピペラジン、プテリジン、プリン、ピラジン、ピラゾール、ピリダジン、ピリジン、ピリミジン、ピロール、キナゾリン、キノリン、キノキサリン、チアゾール、1,3,4-チアジアゾール、チオフェン、1,3,5-トリアジン、トリアゾール(すなわち、1,2,3-トリアゾール)などが挙げられる。
【0052】
「置換(した)」は、当該部分が少なくとも1つ、好ましくは1〜3の置換基を含有することを意味する。適切な置換基としては、水素(H)及びヒドロキシル(-OH)、アミノ(-NH2)、オキシ(-0-)、カルボニル(-CO-)、チオール、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロ、ニトリル、ニトロ、アリール及び複素環式基が挙げられる。これら置換基は、任意に、1〜3の置換基で更に置換することができる。置換した置換基の例としては、カルボキサミド、アルキルメルカプト、アルキルスルホニル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、四級窒素、カルボキシレート、アルコキシカルボニル、アルキルアリール、アラルキル、アルキル複素環式などが挙げられる。
【0053】
脂質小胞
脂質小胞は形質膜を模倣し、細胞膜により吸収されるように作ることができる。以前のリポソーム研究は、4つの主要なタイプの相互作用がリポソームと細胞膜との間に観察されることを示している:細胞表面への吸着;エンドサイトーシス(食細胞によるリポソームの能動的取込み);脂質交換(リポソームと形質膜との間の個々の脂質分子の移行を含む);及び融合(リポソーム膜は形質細胞膜と1つになる)。「吸収される」、「吸収」及び「吸収性の」は、本明細書中で使用される場合、リポソームと細胞膜との間の全ての相互作用(吸着、エンドサイトーシス、脂質交換及び融合を含む)を包含する。
【0054】
融合は、細胞中への小胞内容物の直接導入を可能にするので、興味対象の機序を提供する。吸収又は脂質交換もまた、標的細胞への脂溶性生体分子の送達が所望される場合には特に、興味対象である。エンドサイトーシスは或るタイプの細胞(例えば白血球)で起こることがあり、これもまた標的細胞による小胞の吸収機序であり得る。
【0055】
主に小胞の曲率半径の蓄積エネルギーが最小であるという理由から、ほとんどのリポソーム及び多重ラメラ小胞は、直ちには融合誘導性でない。しかし、本開示の主題たる小さな単一ラメラ小胞(これは非常に小さな(tight)曲率半径を有する)は、非常に吸収性(幾つかの実施形態では融合誘導性を含む)となるように操作することができる。本開示の主題たる小さな単一ラメラ小胞(SUV)の平均水力学的直径は、幾つかの実施形態では約20nm〜約600nmであり;幾つかの実施形態では約100nm〜約300nmであり;他の実施形態では約10nm〜約100nm、より好ましくは約20nm〜約60nm(約40nmを含む)である。このサイズにより、小胞は内皮細胞間の間隙を通過することが可能になる。本開示の主題たる有用な小胞はサイズが大きく変化してもよく、具体的な適用及び標的細胞への所望の送達機序(例えば、融合、脂質交換、エンドサイトーシスなど)に従って選択される。
【0056】
本開示の小胞を形成している組成物は、安定小胞形成体である極性リン脂質を、好ましくは少なくとも1つの不安定小胞形成部材と共に含有することができる。この不安定小胞形成部材は、安定小胞形成体でない極性脂質、PEG、ラフト形成体及び/又は融合タンパク質からなる群より選択することができる。
【0057】
極性脂質(リン脂質安定小胞形成体を含み、幾つかの実施形態では安定小胞形成体でない極性脂質を含む)は、疎水性末端及び親水性末端を有し、少なくとも6つの炭素原子を含有する有機分子である。これらは、式(I)の構造を有し得る:
X-L-(Z)2 (I)
[式中、Xは頭部基(head group)であり、Lは骨格基(back bone group)であり、各Zは脂肪基である]。2つのZ基は同じであり得るし、異なり得る。
【0058】
リン脂質は極性脂質であり、この極性脂質はリン脂質を含んでなる頭部基を有する。本開示の主題には、式(II)[式中、A及びBは頭部基の置換基である]の頭部基を有する化合物により包含されるリン脂質が含まれる。
【0059】
本開示の主題により包含される極性脂質の頭部基X(例えば、安定小胞を形成する脂質及び安定小胞形成体でない脂質を含む)は、任意の極性基、好ましくはカチオン性、アニオン性若しくは両性のイオン基、又はHであり得る。幾つかの実施形態では、Xは式(II)の基である。他の実施形態では、XはAである。Aは、H又はアルキル基であり得る。幾つかの実施形態では、Aはアミンで置換されたアルキル基であり、幾つかの実施形態では、Aは式(III)、(IV)、(V)、(VI)又は(VII)[式中、nは0〜4の整数である]の基である。Bは、カチオン(例えばNa+、K+又はテトラメチルアンモニウムイオン)又はアルキル基であり得る。
【0060】
本明細書を通じて、式はプロトン化形態の構造を示しているかもしれないが、非プロトン化形態もまた含む(逆もまた同じ)ことに留意すべきである;組成物中で存在する形態は、該組成物の正確なpH並びに水及び/又は適切な対イオンの存在に依存する。
【0061】
骨格基Lは、(合計で3つの開いている付着点を与えるために)更に2つの水素原子を欠いているアルキル基であり得、幾つかの実施形態では、アルコキシ、又はアミノ置換アルキルであり得る。特定の実施形態では、Lは式(VIII)、(IX)又は(X)の基である。
【0062】
脂肪基Zは同じであることも異なることもでき、幾つかの実施形態ではH、E基又は式(XI)[式中、Eはアルキル又はアルケニルである]の構造である。幾つかの実施形態では、Eは、6〜26の炭素原子を有する未置換直鎖アルキル又はアルケニルである。特定の実施形態では、Eは、式(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)、(XVII)、(XVIII)、(XIX)、(XX)、(XXI)又は(XXII)の基である。別の特定の実施形態では、Eは細菌性脂肪酸である。例示の細菌性脂肪酸としては、イソ-分枝鎖脂肪酸、アンテイソ-分枝鎖脂肪酸、15-メチル脂肪酸、トランス-不飽和又はシス-不飽和脂肪酸、a-ヒドロキシル脂肪酸、b-ヒドロキシル脂肪酸、a-ヒドロキシル-b-メチル脂肪酸、a,b-ジヒドロキシル脂肪酸、シクロヘキシル脂肪酸、(Z,Z)-不飽和脂肪酸、a-ヒドロキシル-(bE)-エン及び2-ヘキシルシクロプロパンデカン酸が挙げられるが、これらに限定されない。脂肪基の一方がHであるとき、他方は異なる。二重結合が存在するとき、シス配置が特定の実施形態では好ましい。
【0063】
【化7】

【0064】
【化8】

【0065】
安定小胞形成体であるリン脂質(又は極性脂質)は、下記のとおり製造したとき、その少なくとも50%が少なくとも1時間存続する小胞を形成するリン脂質(又は極性脂質)である:リン脂質をクロロホルムに溶解してガラス試験管内に置く。窒素ガスの定常流下での蒸発により溶媒を除去し、続いてサンプルを真空下に12時間供して溶媒を除去する。次いで、10mMのNa2HPO4中で脂質相転移温度を超える温度にて60分間、乾燥脂質材料を再水和する;所望の最終濃度は25mg/mlである。次いで、この脂質混合物を、マイクロチップ450ワットソニケータで40%のデューティサイクルを用いる超音波処理により撹拌する。幾つかの場合、高圧ホモジナイゼーション及び/又は固定半径(fixed-diameter)フィルターを通す高圧押出を利用することもまた好ましい。
【0066】
安定小胞形成部材としての使用に適切な極性脂質の例としては、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)(式XXIII)、1-パルミトイル-2-ドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PDPC)(式XXVIII)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ダイズホスファチジルコリン(ダイズPC)、卵ホスファチジルコリン、イー.コリ抽出物ホスファチジルコリン又はこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0067】
本開示の主題の幾つかの実施形態では、安定小胞を形成する極性脂質は、天然供給源に由来することができ、例えば、植物、動物、酵母及び細菌からの天然脂質の抽出から得ることができる。天然供給源からの極性脂質の抽出は、適切な脂質並びに費用節減利益を提供することができる。例えば、本開示の主題で有用な極性脂質は、ダイズ供給源から得ることができる。ダイズ油は、食品産業で大量に扱われる商品であり、ダイズレシチン(ダイズPC)の抽出に使用される。30%〜100%の種々の純度のダイズPCが利用可能である。ダイズPCは、この天然脂質抽出物の吸収能力を増大させ得る、ジ不飽和リノール酸及び混合鎖(例えば、sn-1飽和、sn-2不飽和)を優勢に有する(図4参照)。ダイズPCの主要な「混入物質」は、抽出及び純化プロセスの副産物である、リゾホスファチジルコリン(リゾPC)及び遊離脂肪酸である。興味深いことに、リゾPC及び遊離脂肪酸は共に、標的細胞による小胞の吸収を促進するように作用し得る。したがって、本開示の主題の幾つかの実施形態では、小胞は、例えば、安定小胞形成体としての95%のダイズPCと、不安定小胞形成部材として作用する5%のリゾPC及び遊離脂肪酸とを含んでなることができる。この処方物は、同じ所望の吸収速度を達成するために必要な他の不安定小胞形成部材(例えば、DOTAP又はPOPA)の量を低減させる。よって、この処方物は、所望の吸収速度に依存して、他の不安定小胞形成部材の添加を必要としてもよいし、しなくてもよい。
【0068】
特にダイズPCの上記の利点に加えて、動物、植物、酵母及び細菌からの脂質の天然抽出は、本開示の主題たる小胞の作製に使用する脂質用のリサイクル供給源として使用し得る。非限定的な例として、インスリン産生のためにイー.コリを使用するバイオリアクターは、本開示の主題たるリポソーム中の安定な小胞を形成する脂質用の(イー.コリからの)脂質材料の供給源として使用できる。この様式で、大きなバッチに必要な脂質材料の量は低減され、それにより費用が削減される。
【0069】
幾つかの実施形態では、安定小胞形成体であるリン脂質に加えて、少なくとも1つの他の極性脂質、例えば安定小胞形成体でない1又はそれより多い極性脂質を含ませる。
【0070】
不安定小胞形成部材として本主題に使用する極性脂質の例として、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(POPA)(式XXIV)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOPC-e)(式XXV)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)(式XXVI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-l-セリン](DOPS)(式XXVII)、代表的スフィンゴミエリン(例えば、式XXIX)(コレステロール(式XXX)は、スフィンゴミエリン及びDOPCの混合物から形成される小胞に添加される場合、ラフトを形成する)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール(式XXXI)、1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(XXXII)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)(式XXXIII)及び1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)(式XXXIV)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0071】
不安定小胞形成部材として本開示の主題の実施に有用な他の極性脂質としては、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、混合鎖ホスファチジルコリン(MPC)、ホスファチジルエタノール(PE)及びドコサヘキサエン酸を含有するリン脂質が挙げられる。Cit-DOPC及びcit-DOPC-eは、不安定小胞形成部材として有用な極性脂質の例である。ホスファチジルコリン(sn-1位及びsn-2位にドコサヘキサエン酸を有するもの(DHPC)を含む)を使用してもよい。他のジ不飽和脂質、例えば、ジアラキドニルホスファチジルコリン(例えば、20:4 DOPC:DArPC)、ジリノレノイルホスファチジルコリン(例えば、18:3 DOPC:DLnPC)もまた有用である。例えば、DOPCは、小胞調製の間に漸増量のDLnPC、DArPC及びDHPCと混合してもよい。有用な比としては、1〜1000:1、例えば25〜500:1(1:1、25:1、50:1、100:1、500:1及び1000:1を含む)の範囲の(DOPC:DLnPC、DArPC又はDHPC)が挙げられる。大きな平均分子領域(large mean molecular area)を有するリン脂質の組合せ(例えばDOPC:DLnPC:DHPC)もまた使用することができる。ジアシルグリセロール、非ラメラ相脂質もまた、DOPCと混合することができる。
【0072】
幾つかの実施形態では、不安定小胞形成部材は、DOTAP及び/又はDODAPである。DOTAP及びDODAPは、生理学的pHで正味の正電荷を有する改変脂質である。DOTAP及びDODAPと負荷電種との相互作用は複雑である。しかし、理論により限定されることは望まないが、DOTAP及び/又はDODAPを本開示の主題たる小胞組成物中の不安定小胞形成部材として利用する場合の可能性のある細胞内送達機序は、増大した膜透過性を介する受動的進入による。DOTAP及び/又はDODAPを例えばホスファチジルコリン脂質小胞に添加する場合、DOTAP及び/又はDODAPは、負荷電種への複合体化剤として使用することができ、また脂質小胞上の表面電荷密度を増加させる手段として使用することもできる。増加した表面電荷は、膜吸収事象における重要な要因であり得る。加えて、DOTAP及びDODAPは、少ない空間しか占めないために例えばホスファチジルコリン小胞中に配置される場合のパッキング制約問題(packing constraint issues)を引き起こすことがある、頭部基を有する。
【0073】
興味深いことに、DOTAP及び/又はDODAPから構成される脂質小胞がおそらく負荷電物質の細胞内送達を担う1より多い機序を有することが注目される。例えば、DOTAP及びDODAPは、脂質小胞の細胞への吸収を増大させ得、このことが細胞内内容物の送達を可能にするか、或いはDOTAP及び/又はDODAPは負荷電種に結合でき、細胞形質膜中に見出される負荷電種の量に関与することができる(すなわち、形質膜中へのDOTAP及び/又はDODAPの吸収は、膜(外側リーフレット及び内側リーフレットの両方)中の物質の堆積を生じ得る)。DOTAP及びDODAPはまた、商業的に製造されているので、容易に入手可能である。これらは、GMPプロセスでも使用されてきた。
【0074】
よって、DOTAP及びDODAPは、本開示の主題たる小胞中の不安定小胞形成部材の適切な例である。特定の実施形態では、小胞はダイズPC/DOTAP(50:1 モル/モル)を含んでなる。他の特定の実施形態では、小胞はDOPC/DOTAP(50:1 モル/モル)を含んでなる。更に、幾つかの実施形態では、小胞はATPを含んでなる(例えば、10mMの濃度で)。これら処方物は肝臓保存適用に使用した。この組合せの脂質は、肝臓ATPレベルの有意な維持を生じ、また長期のエキソビボ貯蔵時間にわたり肝臓保存が維持された(図5B及び5C)。更に、これら処方物の使用により、細菌増殖速度の増加に成功した(図5A)。
【0075】
【化9】

【0076】
【化10】

【0077】
【化11】

【0078】
【化12】

【0079】
ラフト形成体もまた、本開示の主題たる小胞における不安定小胞形成部材として利用することができる。ラフト形成体は、膜二重層内にラフト形成化合物を含有する離散領域を形成するか又はその形成を引き起こす化合物である。これら離散領域は、小胞を脱安定化する傾向があり、吸収性、例えば融合誘導性(fusogenicity)を増大させる。ラフト形成体の例は、コレステロール(式XXX)、スフィンゴミエリン、並びに膜に結合することが知られているタンパク質及びポリペプチドである。吸収性はまた、標的細胞のGouey-Chapman層の電荷(代表的には、Gouey-Chapman層は正に荷電している)と反対の表面電荷を小胞上に生じる極性脂質を選択することにより亢進させ得る。
【0080】
幾つかの実施形態では、1又はそれより多い融合タンパク質、すなわち膜融合に関与するポリペプチドを不安定小胞形成部材として利用して、小胞の吸収速度を操作することができる。本開示の主題たる小胞への組込みに有用な融合タンパク質の非限定的な例としては、膜融合に関与するポリペプチド、例えばフェルチリン、可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質レセプター(SNARE)、SM(sec1/munc18)ポリペプチド(例えばVps33p、Sly1p及びVps45pの哺乳動物アイソマー;(Jahn及びSudhof 1999)及びウイルスエンベロープ融合タンパク質(例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)からのもの(例えば、gp41)、セムリキ森林熱ウイルス及びインフルエンザからのもの)が挙げられる。哺乳動物のSNAREファミリーとしては、シンタキシン(1A、1B、1C;2(及びスプライシング変形体);3、3A、3B、3C、3D;4;5、5A、5B、6、7、8、10、11、12、13(12と同一であるかもしれない);16(A、B、C);及び17)、Hsyn 16、rbet1、GS15、GOS32、GOS28、メンブリン(Membrin)、SNAP(25、25a、25b;23、23A、23B;29)、vti1b、シナプトブレビン(1及びスプライシング変形体;2)、セルブレビン(Cellubrevin)、VAMP4、VAMP5/6、Ti-VAMP、エンドブレビン(Endobrevin)、トモシン及びmsec22b(Jahn及びSudhof 1999)が挙げられる。本明細書で使用する場合、用語「融合タンパク質」とは、たとえその主要な機能が膜融合を媒介することでなくとも、膜を脱安定化する両親媒性ペプチド(例えば、アネキシン(Jahn及びSudhof 1999))をもいう。
【0081】
特定の細胞を標的するために、(少なくとも小胞が投与された領域で)当該標的細胞に特異的なポリペプチドと相互作用(例えば、リガンド-レセプター相互作用)するポリペプチドか又は細胞特異的抗原を認識する抗体が、本開示の主題たる小胞中に組み込まれてもよく、これらもまた本明細書で使用される場合「融合タンパク質」とみなされる。他の標的性ポリペプチド(targeting polypeptide)としては、細胞間膜輸送の間に使用されるもの及びRab GTPaseタンパク質が挙げられる。ウイルス性融合タンパク質もまた、標的性分子として利用することができる。膜結合物質(例えばビオチン化脂質)及び炭水化物もまた使用し得る。
【0082】
加えて、幾つかの実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)を不安定小胞形成部材として使用することができる。PEGは、幾つかの実施形態では約20から約8,000繰返し単位までの重量、幾つかの実施形態では約1,000〜約6,000繰返し単位の重量、幾つかの実施形態では約3,000から約4,000繰返し単位までの重量を有することができる。特定の実施形態では、PEGは約3,350繰返し単位の重量を有する。PEGは、幾つかの実施形態では、安定小胞形成部材と同時に小胞中に組み込むことができる。例えば、安定小胞形成部材及びPEGは、小胞形成の前又は小胞形成中に一緒に混合される。
【0083】
安定小胞形成部材 対 不安定小胞形成部材の比(安定:不安定)は、幾つかの実施形態では1:9〜100,000:1、幾つかの実施形態では1:1〜1,000:1、幾つかの実施形態では1:1〜500:1、幾つかの実施形態では1:1〜250:1、より好ましくは10:1〜100:1(例えば、50:1)であり得る。非限定的な例としては、DOPC/DOPC-e(1:1);DOPC/POPA(50:1)、DOPC/POPA(1:1)、DOPC/DOTAP(50:1)、ダイズPC/DOTAP(50:1)及びダイズPC/PEG 3350(1:1)が挙げられる。
【0084】
脂質小胞の構築
脂質小胞を構築するために、1つの実施形態では、脂質をクロロホルム又は他の適切な有機溶媒に溶解し、容器(例えば、ガラス試験管)中に入れる。窒素又は他の不活性ガスの定常流下での蒸発により、続いて、サンプルを真空に0.1〜48時間(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、24、25、30、36、40、42又は48時間)供するような、風乾除去(air removal)により溶媒を除く。通常、12時間で十分である。次いで、乾燥脂質材料を適切な緩衝剤(例えば、ハンクス平衡化塩溶液(HBSS)又は10mMのNa2HPO4)中で30〜60分間、脂質相転移温度を超える温度にて再水和させる;望ましい最終濃度は、通常、約1〜30mg/ml、代表的には10mg/ml程度である。次いで、脂質混合物を撹拌する。例えば、超音波処理を使用することができる;例えば、SUVを作製するために、マイクロチップ450ワットソニケーターを40%のデューティーサイクルで使用する。超音波処理の時間的長さは、脂質材料の量に依存する;いずれの場合でも、パーセント透過率(percent transmission)の更なる減少が観察されなくなるか、又は粒子サイズアナライザーを用いる分析により妥当な小胞サイズが達成されたら、超音波処理を停止する。
【0085】
別の実施形態では、脂質小胞は、脂質材料(例えば、ベースの脂質及び融合誘導性脂質)を有機溶媒中に溶解し、溶媒を除去するに十分な期間(例えば、一晩)凍結乾燥させることにより構築する。脂質は、次いで約45℃にて緩衝剤を用いて水和させることができる。脂質小胞は、約1時間45℃にて撹拌する。小胞中にカプセル化すべき化合物(例えばトレハロース及びMg-ATPを含む)を溶液に加え、得られる多重ラメラ小胞を、ベース脂質の相転移温度を超える温度で高圧ホモジナイゼーションに付する。この工程から形成される単一ラメラ小胞は、追加的に、高圧押出により加工することができる。この様式で製造される小胞は、最終的な使用のために直ぐに凍結乾燥することができる。
【0086】
乳化したリポソームの直径を決定するために、動的光散乱(DLS)を実行することができ、パーセントカプセル化は、当該分野において一般的に知られているように、ルシフェリンベースのアッセイを用いるルミネセンスにより決定することができる。更に、脂質は、所望であれば、酸化の程度を評価するために、UV分光法及び薄層クロマトグラフィー(TLC)により分析することができる。
【0087】
乾燥脂質を再水和するときには、他の溶液を使用してもよい。これらとしては、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、ヒスチジン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-トリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS-Tris)、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'3-プロパンスルホン酸(EPPS又はHEPPS)、グリシルリシン(glyclclycine)、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタン-スルホン酸)(PIPES)、炭酸水素ナトリウム、3-(N-トリス(ヒドロキシメチル)-メチル-アミノ)-2-ヒドロキシ-プロパンスルホン酸(TAPSO)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-グリシン(Tricine)又はトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン(Tris)で緩衝化したものが挙げられる。適切な溶液の他の例としては、例えばアルゼベール溶液(Alseverr's Solution)、ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(DPBS)、イーグル平衡化塩溶液、ゲイ平衡化塩溶液(GBSS)、パック生理食塩水A(Puck's Saline A)、タイロード塩溶液、セントトーマス溶液(St. Thomas Solution)及びウイスコンシン大学溶液(University of Wisconsin Solution)のような塩溶液が挙げられる。
【0088】
生体分子のカプセル化及び送達
本開示の主題は、特定の条件(例えば、代謝性ストレス)下の細胞が当該特定条件下での代謝要求を満たすために必要とする生物学的分子(生体分子)のような分子を送達するために利用することができる脂質小胞を開示する。本開示の主題たる脂質小胞は、標的細胞形質膜により吸収され、小胞により運搬される生体分子を標的細胞に送達することができる。本開示の主題たる小胞は、疎水性脂質膜及び該膜に囲まれた水性区画の両方を含んでなるので、本明細書に開示の小胞は、2つの異なる物質群:小胞膜中に保有される疎水性分子及び小胞によりカプセル化された水溶性分子を送達することができる。
【0089】
小胞が保有する疎水性生体分子は、標的細胞形質膜中に堆積することができ、堆積速度は、小胞の吸収速度(例えば、サイズ、電荷、凝集剤、非類似脂質種)及び各小胞中の脂溶性生体分子の濃度を変化させることにより制御することができる。各脂溶性生体分子についての膜溶解度は、当業者に公知の方法を使用して、標的細胞二重層に生体分子を添加することにより実験的に決定することができる。小胞当たりの送達可能な各生体分子の量は、当業者に広く利用可能な放射性トレース実験により、標的組織中への脂溶性生体分子の取込みを測定することによって決定することができる。例えば、3H-ATPは、上記の脂質小胞中にカプセル化し、次いで細胞に添加することができる。所与の期間後、細胞を数回洗浄して、細胞により吸収されなかった小胞を除去する。細胞をディッシュから取り出し、次いで液体シンチレーション液中に置き、3H-ATPの組込みの程度をβカウンタを用いて定量することができる。
【0090】
脂溶性生体分子を含んでなる本明細書に開示の小胞により送達することができる脂溶性生体分子の例としては、α-トコフェロール(ビタミンE)、レチノール(ビタミンA)、フィロキノン(ビタミンK)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD)、コレステロール、コレステロールエステル、ステロイド、ホパノイド、界面活性剤、脂肪酸、分枝鎖脂肪酸(例えば、細菌中に見出されるもの)、イソプレノイド、長鎖アルコール及び麻酔剤、ガングリオシド、リポ多糖、ビオチン標識リン脂質、膜結合タンパク質、膜イオンコンダクタンスチャンネル(例えば、Na/K-ATPase、H-ATPase、Ca-チャンネル、Na-チャンネル、K-チャンネル、Cl-チャンネル)、輸送タンパク質、グルコース輸送体(GLUT-1、GLUT-2、GLUT-3、GLUT-4))、粘着タンパク質、ギャップ結合タンパク質、シナプス接合タンパク質、カスパーゼ、接着タンパク質(例えば、ICAM、PECAM、VCAM)、Gタンパク質、主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質、補体タンパク質、ウイルスタンパク質、細胞レセプター、脂溶性蛍光プローブ及び脂溶性放射性トレーサが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、図6A及び6Bは、本明細書に開示の脂質小胞を使用して送達した膜結合蛍光プローブで染色したラット大腿静脈の切片を示す。
【0091】
水溶性分子もまた、本明細書に開示の小胞の水性区画内に生体分子をカプセル化することにより、標的細胞に送達することができる。多種多様な水溶性分子が、その分子が脂質小胞の内部に収まることができるというようなわずかな制限基準で、本開示の主題たる脂質小胞により送達され得る。200nmの平均サイズで、ほとんどの生体分子がこの空間中に収まる。本開示の主題たる脂質小胞内にカプセル化することができる水溶性生体分子の例としては、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、単糖類、二糖類、多糖類、ヌクレオチド及びポリヌクレオチド(例えば、DNA、RNA、mRNA、tRNA、siRNA及びmiRNA)、水溶性ビタミン、ミネラル、高エネルギーホスフェート(例えば、ATP、ADP、AMP、アデノシン、CTP、CDP、CMP、シトシン、UTP、UDP、UMP、ウラシル、GTP、GDP、GMP、グアノシン、TTP、TDP、TMP、チミン、ITP、IDP、IMP及びイノシン)、ホスホクレアチン、解糖中間体(例えば、グルコース、グルコース-6-ホスフェート、グルコース-1,6-ビスホスフェート、FDP、DHA-P、G-3-P、PEP及びピルベート)、酸化中間体(例えば、アセチルCo-A、シトレート及びイソシトレート)、ニコチンアデニンジヌクレオチド(NADH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH2)、水溶性細胞酵素、インスリン、水溶性蛍光プローブ、水溶性放射性トレーサ及び水溶性薬物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
本開示の主題の幾つかの実施形態では、ATPが、脂質小胞中に組み込まれる生体分子である。本開示の主題で利用することができるアデノシン-5’-三リン酸(ATP)の幾つかの異なる塩(マグネシウムATP(Mg-ATP)、ATPの二ナトリウム塩、ATPの二カリウム塩及びAPTのジTris塩)が存在する。
【0093】
ATPのMg塩(Mg II)は、代表的な実施形態に利用される。ATPのMg塩は、僅かに大きなγホスフェートの加水分解ΔG’を有し、全ての細胞ATPの90%より多くがマグネシウム塩として見出される。Mg-ATPの加水分解ΔG’は−8.4kcal/molと報告されているが、細胞の細胞質ゾル内で異なることがある。例えば、Mg-ATPについての加水分解ΔG’は、pH及び他の二価金属の存在により影響されることがある。或る状況下では、Mg-ATPの加水分解ΔG’は、細胞内で−12.5kcal/mol程度に高くあり得る。
【0094】
Mg-ATPの重要な特徴は、供与体(例えば、グルコース-6-ホスフェート)として又は受容体(例えば、クレアチンホスフェート)としてのいずれかの高エネルギーホスフェートの究極的供給源としての中心的役割である。Mg-ATPは、細胞中でのネガティブフィードバック的役割により、全ての高エネルギーホスフェートの中心的調節物質として作用する。例えば、細胞内Mg-ATPレベルが増加するにつれて、ホスホフルクトキナーゼの阻害が起こり、グルコースの利用が減少する。中心的細胞内役割に加えて、Mg-ATPはまた、幾つかの異なる方法で細胞外役割も演じる。例えば、Mg-ATPは、プリン作動性レセプター(P2X)に結合してこれを活性化し、種々の細胞内影響(K+進入による脱分極、細胞内カルシウムの増加、タンパク質キナーゼの活性化、細胞収縮(cellular retraction)、一酸化窒素(NO)放出及び血管平滑筋細胞(VSMC)弛緩を含むがこれらに限定されない)を導く。生体反応又は合成のいずれかによるATPの合成的製造における最近の進歩は、市場で入手可能なMg-ATPの質及び量を顕著に改善した。
【0095】
幾つかの実施形態では、ATPのマグネシウム塩又は他の塩を小胞中に組み込むことができ、それらは脂質の再水和の時点で添加することができる。ATP濃度は変化し得、具体的適用に依存する。使用するATPの濃度としては、幾つかの実施形態では約0.001mM〜約1M、幾つかの実施形態では約1mM〜約200mM又は約1mM〜約50mMが挙げられる。特定の実施形態では、ATPの濃度は、約0.1mM、1mM、2.5mM、5mM、7.5mM、10mM、25mM又は50mMであり得る。ATPを含有する緩衝剤は、脂質材料の非特異的吸収の機会を減らすために、低いタンパク質含量を有し得る。ATPを含有するSUVは、便宜上、ATP-SUVと呼ぶ。
【0096】
SUVによるATPのカプセル化は、評価することができる。例えば、放射標識ATPのような、標識ATP分子(該標識は小胞形成に干渉しない)を使用する。放射標識としては、32P及び3Hが挙げられ、これは、乾燥後、撹拌前に脂質を再水和するときに添加する。この溶液をSephadex G-25カラム(又は他の適切なマトリクス)に適用してカプセル化されていないATPを除去する。カラムからの溶出液を集め、小胞の存在についてアッセイする。SUVは、通常、最も早期の画分に溶出する。パーセントカプセル化は、小胞画分中及び上清画分中の放射活性を定量し、カプセル化されたATPの割合を決定し100倍することにより決定する。好ましいカプセル化パーセンテージは、約1%〜20%の範囲である。
【0097】
ATP以外の分子(例えば、医薬品、ポリペプチド、核酸及び細胞内抗原と相互作用する抗体を含む、有機分子及び無機分子)を、SUVを用いて細胞に送達してもよい。
【0098】
SUV吸収性を測定するためのアッセイ
吸収速度は、1ウェル/秒(約106細胞)におけるHUVEC細胞により吸収される(例えば、融合する)脂質小胞の数を尺度として定量することができる。このアッセイは以下の工程を含んでなる:
【0099】
(1)HUVEC細胞(American Type Culture Collection(ATCC);Manassas、Virginia又はBioWhittaker;Maryland)を培養する;
(2)SUVを調製し、蛍光プローブ(例えば、カルボキシフルオレセイン)を積載し;
(3)SUVを細胞に接触させて吸収を可能にし;
(4)選択した時間に、残っているSUVを除去し;
(5)蛍光を測定する。
【0100】
SUV除去後の蛍光シグナルの存在及び強度は、SUVが細胞膜により吸収される能力及び内容物を送達する能力を示す。
【0101】
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を例として挙げる。標準的な12ウェル培養皿(例えば、COSTAR製)において内皮細胞増殖培地(EGM)で細胞をコンフルエンス(細胞数は約106である)まで増殖させる。次いで、HUVECを緩衝剤(例えば、HBSS)で3回洗浄する。調製した脂質小胞(例えば、DOPC/DOPC-e(1:1);DOPC/POPA(50:1)、DOPC/POPA(1:1)、PS、PG、MPC、PE、cit-DOPC及びcit-DOPCe)に、1mM カルボキシフルオレセインを積載する。小胞を細胞と120分間、5分の増分ごとに蛍光をアッセイしながら、37℃にて95%空気/5% CO2でインキュベートし、その後、緩衝剤で細胞を洗浄することにより残っている小胞を除去する。負に荷電した脂質小胞を使用する場合、カルシウム(最終濃度0.1〜10mM)を吸収工程で加える。
【0102】
トリプシンで処理することにより細胞を培養皿から取り除く。蛍光分光光度計又は他の適切な機器を用いて蛍光を測定する(励起495nm、発光520nm)。
【0103】
幾つかの実施形態では、生体分子-SUV組成物に関する吸収速度は、約20小胞吸収/秒/細胞〜8.0×1011小胞吸収/秒/細胞(500〜1×108小胞吸収;750,000〜50×107小胞吸収/秒/細胞;5×106〜1×107小胞吸収/秒/細胞を含む;1×106〜8×108小胞吸収/秒/細胞;1×107〜5×108小胞吸収/秒;及び5×107〜1×108小胞吸収/秒/細胞を含む)である。吸収速度の例は、少なくとも100、1000、104、105、106、107、108、109、1010及び1011小胞吸収/秒/細胞である。これら値の幾つかは、DOPC及びDOPC/DOPC-e及びDOPC/POPAの混合物をカルシウムなし及びありで用い、ヒト内皮細胞を用いて37℃にて実験的に得られた。脂質小胞の吸収速度は細胞ごとに変わり得る。加えて、吸収速度は、温度、イオン強度及び圧力により影響を受けることがある。
【0104】
形質膜の脂質組成は、細胞のタイプにより変わるので、アッセイに使用する細胞の選択は、注意深く考慮し、標的細胞のタイプとできる限り適合させるべきである。例えば、肝細胞の形質膜は、約7%のホスファチジルエタノールアミンからなる一方、赤血球の形質膜は18%含有する(Albertsら,2002)。初代培養細胞及び細胞株(American Type Tissue Collection(ATCC);Manassas,Virginiaから入手可能)が有用であるが、初代培養物が好ましい。なぜなら、形質膜の脂質組成は形質転換細胞において変化している可能性があるからである。細胞タイプとしては、膵臓、腸、免疫系、ニューロン(脳、眼、鼻及び耳のニューロンを含む)、肺、心臓、血液、循環(リンパ及び血液)、骨、軟骨、生殖、腺、エナメル質、脂肪、皮膚及び肝臓の細胞が挙げられる。細胞株としては、これら組織に由来するもの(例えば、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLaなど)が挙げられる。細胞は、他の生物、例えば植物、真菌(酵母を含む)及び細菌からのものであってもよい。これら他の細胞タイプについての吸収速度の例としては、少なくとも100、1000、104、105、106、107、108、109、1010及び1011小胞吸収/秒/細胞が挙げられる。他に特定されない場合、吸収速度は、上記の条件下でのHUVECに関するものである。他の細胞タイプに関する吸収速度は、緩衝剤(例えばHBSS)を伴う約106細胞についてであり、37℃にて95%空気/5%CO2で120分間小胞を細胞とインキュベートし、その後、細胞を緩衝剤で洗浄することにより、残っている小胞を取り除く。
【0105】
吸収速度を最適化するためのアッセイ
特定の小胞組成物の特定の細胞タイプによる吸収速度を最適化する場合、吸収速度のアッセイは更に改変することができる。例えば、脂質小胞は、小胞の膜二重層の一部である蛍光又は放射性トレーサを含有することができる。
【0106】
利用することができる蛍光プローブとしては、フルオレセインイソチオシアネート;フルオレセインジクロロトリアジン及びフルオレセインのフッ素化アナログ;ナフトフルオレセインカルボン酸及びそのスクシンイミジルエステル;カルボキシローダミン6G;ピリジルオキサゾール誘導体;Cy2、Cy3及びCy5;フィコエリトリン;スクシンイミジルエステル、カルボン酸、イソチオシアネート、塩化スルホニル及び塩化ダンシルの蛍光種(プロピオン酸スクシンイミジルエステル及びペンタン酸 スクシンイミジルエステルを含む);カルボキシテトラメチルローダミンのスクシンイミジルエステル;ローダミンRed-X スクシンイミジルエステル;テキサスレッド 塩化スルホニル;テキサスレッド-X スクシンイミジルエステル;テキサスレッド-X ナトリウム テトラフルオロフェノール エステル;Red-X;テキサスレッド色素;テトラメチルローダミン;リサミンローダミンB;テトラメチルローダミン;テトラメチルローダミン イソチオシアネート;ナフトフルオレセイン;クマリン誘導体;ピレン;ピリジルオキサゾール誘導体;ダポキシル色素(dapoxyl dyes);カスケードブルー及びカスケードイエロー(Cascade Blue and Yellow)色素;ベンゾフラン イソチオシアネート;ナトリウム テトラフルオロフェノール;及び4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセンが挙げられるが、これらに限定されない。励起波長は、これら化合物について変化する。脂質小胞は、例えば1:800の脂質/プローブ比でのトレーサの存在下で作られる。他の有用な比としては、1:200〜1:10,000(1:400、1:500、1:600、1:700、1:800、1:900及び1:1000を含む)が挙げられる。
【0107】
吸収速度の変更
任意の脂質小胞の吸収速度は、種々の要因(例えば、温度、イオン、脂質濃度、脂質小胞組成、流速、脂質小胞サイズなど)を変えることにより変更することができる。脂質小胞のリン脂質処方の変更は、吸収速度を最大化し、かつ毒性を最小化するために使用することができる。例えば、移植用臓器又は細胞を懸濁液(例えば血液)中に保存するために、より緩慢な、より遅延した吸収速度を有する脂質小胞が望ましい。このような速度は、DOPCのみを含んでなる小胞で得ることができる。他方、生体分子の細胞内濃度の即時の上昇が重大である場合(例えば、卒中、心臓発作又は外傷の病人のように)、非常に速い送達速度を有する脂質小胞が望ましい。例えばDOPC/POPA組成物は、例えば、5分未満で、罹患した組織の代謝要求を満たすに十分な濃度で、生体分子(例えばATP)を送達する(実施例を参照)。
【0108】
脂質組成を操作することにより吸収速度を変更するために、4つの一般的なアプローチを使用することができる:
(1)静電相互作用の増大;
(2)膜二重層の不安定化;
(3)非二重層相の増加;及び
(4)非類似脂質相の作製。
【0109】
静電相互作用の増大
吸収速度の増大のために静電相互作用を利用することができる。リン脂質は電荷により分類される(カチオン性、アニオン性及び両性イオン性)。カチオン性リン脂質(例えばPE)及びアニオン性リン脂質(例えばホスファチジン酸(POPA))の多くは、生理学的pHで閉じた小胞を形成しない。しかし、両性イオン性ホスファチジルコリンと混合したアニオン性及びカチオン性脂質は、生理学的pHで閉じた小胞を形成することができる。
【0110】
ほとんどの細胞の形質膜は正味の負電荷を有する。この負電荷のため、相殺イオン(counterbalancing ion)、代表的にはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム及びカリウム(これらは正味の正電荷を提示する)の層が存在する。リポソームと形質膜との間の静電相互作用を利用することにより、脂質小胞は、正味の負電荷を有し、よって細胞-脂質小胞吸収を最大化するように操作することができる。しかし、幾つかの細胞形質膜は、より多くのカチオン性脂質を含有し、それらはアニオン性イオン層により相殺されている。このような状況では、脂質小胞は、細胞-脂質吸収を最大化するために正味の正電荷を有するように操作される。
【0111】
非類似脂質相の作製
形質膜は、特定の脂質種に富む脂質ドメイン又はラフトを含有する。そのような膜の境界では、ラフトは非類似脂質種の領域である。これら領域は、不安定性について可能性を有し、当該膜が他の膜と相互作用する方法をもたらす。ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン及びコレステロールの混合物を含む幾つかのリン脂質は、脂質ラフト形成を増加させることが知られている。例えば、DOPC、18:0スフィンゴミエリン及びコレステロールは、脂質小胞製造の間に1:1:1の比で混合される。コレステロールは、優先的には、スフィンゴミエリン相に参加し、DOPCに富みコレステロールに乏しい領域と、スフィンゴミエリン及びコレステロールに富む領域を作製する。
【0112】
吸収、温度、濃度、イオン強度及び吸収期間といった物理学的パラメータの変更は、吸収速度に影響するように使用することができる。温度を変えることにより、この系の自由エネルギー(G)が変化し、異なる吸収速度を導く。脂質小胞濃度の増加もまた、特に非常に高い濃度で、膜吸収速度に影響する。吸収期間(吸収の長さ)及び吸収期間の数もまた、SUVのカプセル化内容物の送達率速度に影響する。
【0113】
温度
例えばATPを含有する脂質小胞は、組織と、5、10、15、30、60又は120分間、該組織が保存されている温度(4℃-低温(hypothermia)、22℃-室温、37℃-正常温(normothermia))でインキュベートされる。小胞溶液の温度の上昇は、小胞の動的エネルギーの増加を導き、したがって吸収能力の増大を導く。温度はまた、小胞の自由拡散にも影響する。
【0114】
濃度 対 小胞吸収
濃度の増大は、脂質小胞内容物送達の増加を導くと直感されるが、膜融合の速度は線形ではない。一旦、脂質小胞の脂質が利用可能な形質膜表面の全てを占めると、更なる吸収は制限される。形質膜による吸収の程度は、膜の容量及び特性(例えば、イオン透過性及び脂質構成(lipid organization))に影響する。したがって、SUVを投与する場合、SUV濃度は、標的細胞が効果的に処置されるように制御しなければならない。
【0115】
吸収期間
吸収を起こさせる時間的長さは、カプセル化された物質が送達される程度を制御する助けとなる。好ましい吸収期間としては、1〜180分、例えば1、5、10、30、60、120及び180分が挙げられる。吸収を停止するためには、小胞を除去する(例えば、緩衝剤での洗浄により)か、又は投与する小胞の濃度を、該小胞が所望の時間の終点で枯渇するような濃度とする。吸収はまた、小胞の総送達が1又は複数の投与を通じて制御されるように最適化されてもよい。例えば、標的吸収期間が120分である場合、2回の60分間の吸収期間を用いてもよいし、4回の30分間、12回の10分間又は24回の5分間の吸収期間を用いてもよい。適切な装置が利用可能であることを前提として、1分間又はそれ未満の吸収期間もまた達成され得るが、このような期間は不便であることが多く、技術的要求も厳しい。
【0116】
標的とする細胞及び組織の生体分子要件の決定
生体分子投与の最適速度は、その特定の生体分子に対する細胞の基礎的要求、例えば、細胞の基礎代謝ATP要求に近いものであり、これは、当該分野において公知の任意の方法により決定される。例えば、酸素消費速度、ピルベート、グルコース、ラクテート及びプロトンのリークは計算することができ、このデータから当該組織のATP消費を消費ATP/分と決定する。
【0117】
ATP加水分解速度の測定
細胞内ATPレベルは、当該分野において広く知られている幾つかの技法の1つを用いて測定することができる。例えば、HPLCは、細胞のヌクレオチド含有量の情報を提供するが、それは、所与の時間でのヌクレオチドレベルの「スナップショット」を提供する点で制限される。31P-NMRは、細胞内のATPレベルの動的測定を提供するので、或る状況下での細胞内ヌクレオチドを測定するより好ましい方法であり得る。
【0118】
膜電位及びプロトンリーク
組織サンプルを単離し、膜電位蛍光プローブMC540(Sigma;St. Louis,Missouri)とインキュベートする。種々の量のカリウムの添加に際するMC540の蛍光変化を、以前に記載(Brand、1995)されたように、膜電位及びプロトンリークの指標として測定する。
【0119】
グルコース、ピルベート及びラクテートのレベル
これら代謝中間体を標準的な方法又は市販の分析キット(例えば、Sigma社から入手可能なもの)を用いて決定する。これら中間体のレベルを、タンパク質レベルに調整し、120分間にわたって測定する。
【0120】
ATP消費の決定
ラクテート、ピルベート及びグルコースの蓄積、酸素消費、並びにプロトンリークの速度から、Ainscow及びBrand(1999)により記載されたように、反応化学量論を用いて当該系を通じての全ての流れ(flux)を算出することが可能である。
【0121】
投与
医薬組成物
多くの場合で、本開示の小胞は、該小胞(これはまた生体分子を含んでなってもよい)と該小胞を作るために用いた緩衝剤とを含んでなる単純な組成物として送達されてもよい。しかし、所望であれば、他の製品(例えば、医薬組成物中のキャリアとして伝統的に使用されるもの)を添加してもよい。
【0122】
「医薬的に許容され得るキャリア」としては、医薬投与に適合可能なありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌性及び抗真菌性物質、等張性物質及び吸収遅延剤などが挙げられる(Remington 2000)。このようなキャリア又は希釈剤の好ましい例としては、水、生理食塩水、リンゲル溶液及びデキストロース溶液が挙げられる。補助的な活性化合物もまた組成物中に組み込むことができる。
【0123】
投与についての全般的考察
本開示の主題たる医薬組成物は、意図する投与経路(静脈内、皮内、皮下、経口、吸入、経皮、経粘膜及び直腸投与を含む)に適合するように製剤化される。非経口、皮内又は皮下適用に使用される溶液及び懸濁液は、滅菌希釈剤(例えば、注射用の水、生理食塩水溶液、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒);抗菌性物質(例えば、ベンジルアルコール又はメチルパラベン(parabens));抗酸化剤(例えばアスコルビン酸又は二硫化ナトリウム);緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩)及び緊張度の調整用物質(例えば、塩化ナトリウム又はデキストロース)を含むことができる。pHは、酸又は塩基(例えば、塩酸又は水酸化ナトリウム)で調整することができる。非経口調製物は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ又は多用量バイアルに封入することができる。
【0124】
本明細書に開示の組成物において負に荷電した脂質小胞を用いる場合、吸収部位での最終濃度が好ましくは0.1mM〜10mM(0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10mMを含む)であるようにカルシウムを含ませることができる。
【0125】
例えばATP-脂質小胞では、ATPは、通常、ATP-SUVを取り囲む任意の溶液中のATPと平衡状態にある;代表的には総ATPの僅か1〜10%がATP-SUV内にある。残りのATPは、細胞外へのイオンの流出を引き起こしイオン平衡及びホメオスタシスに干渉する、レセプター(例えば、プリンレセプターP2y)に結合していてもよい。細胞は、通常、イオン平衡及びホメオスタシスを再樹立することができるが、このことにより更にATPが消費される。したがって、(例えば、臓器移植又は肢再付着(limb reattachment)の間に)機能の即時回復が望まれる組織では特に、組成物に1又はそれより多いプリンレセプターP2yアンタゴニストを含ませることが有利であり得る。プリンレセプターP2yアンタゴニストは、小胞形成後又は投与の直前に組成物に添加することができる。なぜなら、該アンタゴニストはSUV内にある必要はないからである。プリンレセプターP2yアンタゴニストの例としては、ピリドキサール5-ホスフェート、ビタミンB6(ピリドキサール-5-リン酸)及びReactive Blue 2(1-アミノ-4-[[4-[[4-クロロ-6-[[3(又は4)-スルホフェニル]アミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-3-スルホフェニル]アミノ-9,10-ジヒドロ-9,10-ジオキソ-2-アントラセンスルホン酸)及びそれらの組合せが挙げられる。プリンレセプターP2yアンタゴニストは、好ましくは0.1〜250マイクロモル/L、より好ましくは1〜100マイクロモル/Lの濃度で使用し得る。
【0126】
注射可能製剤
注射に適切な医薬組成物としては、滅菌注射溶液又は分散液の即時調製用の滅菌水性溶液又は分散液が挙げられる。静脈内投与用には、適切なキャリアとしては、生理学的生理食塩水、静菌性水、CREMOPHOR ELTM(BASF,Parsippany,N.J.)又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合で、組成物は滅菌性でなければならず、シリンジを用いて投与されるように流体であるべきである。そのような組成物は、製造及び貯蔵の間に安定であるべきであり、微生物(例えば、細菌及び真菌)の汚染に対して保護されなければならない。キャリアは、例えば水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール)及び他の共存可能な適切な混合物を含有する分散媒であり得る。種々の抗菌性物質及び抗真菌性物質(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸及びチメロサール)は、微生物混入物を含み得る。等張性物質、例えば、糖類、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール)及び塩化ナトリウムを組成物に含ませることができる。吸収を遅延させることができる組成物は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンのような物質を含む。
【0127】
滅菌注射溶液は、本明細書に開示の脂質小胞を必要な量で適切な溶媒中に、必要とされる1つの成分又は成分の組合せと共に組み込み、続いて滅菌することにより製造することができる。滅菌注射溶液の製造用の滅菌固体の製造方法としては、真空乾燥及び凍結乾燥して滅菌溶液中に脂質小胞及び任意の所望成分(例えば、生体分子(例えば、ATP))を含有する固体を生成することが挙げられる。
【0128】
経口組成物
経口組成物は、一般に、不活性な希釈剤又は食用のキャリアを含む。それらは、ゼラチンカプセル中に封入するか、または錠剤に圧縮することができる。治療的経口投与のために、活性化合物を賦形剤と共に組み込み、錠剤、トローチ又はカプセルの形態で使用することができる。経口組成物はまた、洗口剤として使用するための液体キャリアを用いて製造することもでき、その場合、液体キャリア中の化合物は経口で適用される。医薬的に適合可能な結合剤及び/又はアジュバント材料を含ませることができる。錠剤、ピル、カプセル、トローチなどは、以下の成分又は同様な性質の化合物の任意のものを含有することができる:バインダー(例えば、微結晶性セルロース、トラガカント又はゼラチン);賦形剤(例えば、デンプン又はラクトース)、崩壊剤(例えば、アルギン酸、PRIMOGEL又はコーンスターチ);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム又はSTEROTES);流動促進剤(例えば、コロイダル二酸化ケイ素);甘味剤(例えば、スクロース又はサッカリン);又は矯味矯臭剤(例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香味剤)。
【0129】
吸入用組成物
吸入による投与のために、化合物はエアロゾルスプレイとして、ネブライザー又は適切な噴射剤(例えば、二酸化炭素のようなガス)を含有する加圧容器から送達される。
【0130】
経粘膜又は経皮
投与は、経粘膜又は経皮であることができる。経粘膜投与又は経皮投与のために、標的障壁を透過することができる浸透剤が選択される。経粘膜浸透剤としては、界面活性剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が挙げられる。鼻スプレー又は坐剤は経粘膜投与に使用することができる。経皮投与には、活性化合物は、軟膏(ointment 、salve)、ゲル又はクリームに製剤化される。直腸送達用の坐剤(例えば、ココアバター及び他のグリセリドのような基剤を含む)又は貯留浣腸剤もまた製造され得る。
【0131】
キャリア
1つの実施形態では、活性化合物は、身体からの迅速な排泄に対して当該化合物を保護するキャリアを用いて、例えば徐放製剤(インプラント及びマイクロカプセル化送達システムを含む)に製造される。生分解性又は生体適合性のポリマー(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸)を使用することができる。このような材料は、ALZA Corporation(Mountain View、California)及びNOVA Pharmaceuticals,Inc.(Lake Elsinore、California)から商業的に取得することができるか又は当業者が製造することができる。
【0132】
投薬量
投薬量は、脂質小胞の独特な特性(これは異なる脂質組成により変化する)、特定の所望の治療効果及び投与経路により決まり、これらに直接依存する。任意の特定の患者又は適用に関する具体的な用量レベル及び頻度は変化し得る。考慮すべき因子としては、(1)投与がなされ、吸収が可能となる温度;(2)投与部位のイオン環境及び脂質小胞組成物のイオン強度;及び(3)吸収が可能な時間的長さが挙げられる。これら因子の制御は、カプセル化された物質(例えばATPを含む)が送達される程度の制御を手助けする。
【0133】
脂質小胞を投与する場合、脂質小胞の濃度は、標的細胞を効果的に処置する一方で形質膜が脂質小胞の脂質で飽和することによりその機能が阻害されないように制御する。脂質小胞の好ましい濃度は、脂質組成、標的細胞の散乱度及び投与すべき容量に依存して、0.5mg/ml〜100mg/ml、例えば0.5mg/ml、1mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、20mg/ml、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml及び100mg/mlであり得る。
【0134】
静電相互作用を介して生じる小胞吸収は、カルシウム及び/又はマグネシウムの濃度変化により顕著に、ナトリウム及び/又はカリウムの濃度変化によってはより少ない程度で影響を受ける。小胞投与前又は投与後の、脂質小胞を投与するために使用する組成物中又は標的部位へ投与する組成物中のいずれかのこれらイオン濃度の変調(modulating)は、投薬量の考慮に影響する。好ましくは、0.01nM〜1mM(0.1nM、1nM、10nM、100nM、1000nM、10マイクロモル/L及び100マイクロモル/Lを含む)のイオン濃度が使用される。これらイオン及び他のイオンの組合せもまた使用してもよい。
【0135】
慢性投与又は単回投薬のレジメンを使用することができ、治療のタイプ、投与経路及び小胞自体に応じて選択される。好ましい吸収期間としては、1〜180分間、例えば1、5、10、30、60、120及び180分間が挙げられる。吸収を停止するためには、小胞を(例えば、緩衝剤での洗浄により)除去するか、又は小胞の濃度を、当該小胞が所望期間の終点で枯渇するような濃度とする。吸収はまた、小胞の総送達が1回投与又は多回投与により制御されるように最適化することができる。例えば、吸収期間が120分間である場合、2回の60分間の吸収期間を用いてもよいし、4回の30分間、12回の10分間又は24回の5分間の吸収期間を用いてもよい。
【0136】
ATP-SUVのための使用
ATPに対する普遍的な細胞要件のため、ATP-SUV及び他のSUV/ATP組成物は、複数の生物学界に跨る広範な多くの適用を有する。
【0137】
静脈内(IV)注射した場合、単純な脂質小胞は、一般に、非常に短い循環時間(15分〜2時間のオーダー)を有すると確定されている(Okuら,1994)。医薬的使用には、このことは、該薬物が細網内皮系(RES)により迅速に取り除かれるので、最大組織分布にとって高度には有利でない。脂質小胞を「マスク」する潜在力がある物質(例えば、脂質小胞の一部としてのポリエチレングリコール、ガングリオシド、スルファチド)は、「ステルス小胞」を作製することができる(Okuら,1994)。ステルス小胞は、より遥かに長い循環時間(24時間を超えて最大2〜3日)を可能にする。抗生物質又は徐放を必要とする薬物のためには、このことは有利であり得る。しかし、組織への迅速なATP送達を必要とする虚血期間の間は、このタイプの脂質小胞は、送達特性に関して所望のものとは正反対である。例えば、心臓では、許容され得る最大虚血時間は約10分であり(Childs及びLower 1969)、「ステルス」の脂質小胞は、必要とされる心臓ATPレベルの迅速な増大には十分でない。
【0138】
ATP-SUVのRES系との相互作用は、インビボで考証されている。IVで与えられた場合、ATP-SUVは、内皮細胞及びマクロファージと非常に迅速に相互作用することができる。
【0139】
本発明者らによる最近10年にわたる研究は、血管内皮が虚血-再灌流傷害における主要な原因の1つであることを証明した。よって、重篤な虚血の間に内皮細胞ATPレベルを維持することは有益であり得る(Ehringerら,2000、Ehringerら,2006(印刷中)、Ehringerら,2001、Ehringerら,2002)。内皮細胞ATPレベルの減少は、ヒポキサンチンの蓄積を導くことがある。ヒポキサンチンは、再灌流に際して、キサンチン及び活性酸素に変換する(Albrechtら,2003)。加えて、内皮はまた、低流量虚血条件に対して遥かにより感受性である(Eltzschig & Collard 2004)。この低流量虚血条件は、最終的には、アシドーシス及び代謝性廃棄副産物の蓄積に至ることがある(例えば、生理食塩水で組織をフラッシュすることにより、再灌流傷害が減少することがある)。内皮細胞、血管、複合組織、臓器及び生物についての本発明者らによる研究は全て、内皮がATP-SUV取込みの有意な領域であり得ることを示唆している。或る割合のATP-SUVはまた実質空間中に漏れ、脈管系の外側の細胞により取り込まれ得る。良好な例は心臓でありそうである。心臓で、本発明者らは、ATP-SUVが存在するとき低酸素症下でほぼ倍増した心筋ATP(乳酸付加リンゲルのみと比較)を検出した。
【0140】
RESはまた、免疫細胞、特に単球から構成される。これらは、食作用により、これら細胞及び内皮におけるATP-SUVの蓄積を導く。RESのこれら細胞のうち最も活性な細胞は、低酸素症に高度に感受性である非常に重要な細胞である肝臓のKupfer細胞である(Arii及びImamura 2000)。Kupfer細胞、好中球、リンパ球、そしてRBCでさえも、種々の機序によりATP-SUV小胞を能動的に取り込む(融合又は食作用のいずれかによる)。このことにより、これらオキシダント感受性細胞中のATPレベルが維持され、少ない再灌流副産物が導かれる。
【0141】
ATP-SUVは、幾つかの理由で、RESによる最大取込みに関して選択的に標的付けられる。第一に、ATP-SUVは、流動性二重層(これは、幾つかの実施形態では、主としてホスファチジルコリンから構成され、ホスファチジルコリンに不安定小胞形成部材が添加される)又は「融合誘導原(fusogen)」を含んでなる。Pusieuxら(1994)は、PC、コレステロール及びスルファチド(ステルスリポソームの主要な構成要素)を含有し、本明細書に開示のATP-SUVの迅速送達特性を有さない小胞を使用した。Arkawaら(1998)は、PC及びコレステロールを種々の比で使用し、組織への非常に緩慢なATP送達で、ATPのより高い血漿レベルを達成した。事実、この同じグループは、「37℃にて90時間後に、カプセル化したATPの約35%がリポソームから放出された。」と報告した(Arkawaら,1998)。いずれの場合にも、虚血に対し最も感受性である細胞(内皮細胞及びWBC)へ送達されるATPの量は最小である。生理学的温度で、小胞の流体性質は、血流からRESへのATP-SUVのクリアランスを加速する。加えて、ATP-SUVは、正味の電荷(これは、RESの細胞に自由にアクセス可能である)を運ぶことができる。この電荷密度は、ATP-SUVクリアランス及びRESへの吸収を増大させる。加えて、小胞のサイズ(幾つかの実施形態では、100〜200nmのオーダー)は、小胞がRESの細胞により取り込まれる可能性を高くする。
【0142】
血液
血液は、冷蔵下に、赤血球が生存不能になる前の約45日間保存することができる。赤血球は、代表的には、循環中に約120日間生存する。その後、脾臓及び肝臓が赤血球を除去し、それらを破壊する。よって、生存不能な細胞が輸血された場合、それらは同様に直ぐに循環から除去される。
【0143】
採集した血液へのATP-SUV又は他のSUV-カプセル化ATP組成物の添加により、赤血球はより長く維持され、生存可能な貯蔵期間と細胞が循環中に残存し破壊されない可能性とが増大する。
【0144】
ATP送達を最適化するために脂質組成を変えてもよい。例えば、血液は4℃で保存されるので、ATPについての代謝要求は低い。SUVの吸収速度もまたこの温度で緩慢になるとはいえ、その速度は、生存可能な保存には高すぎるかもしれず、SUV脂質組成は、血液細胞の代謝要求により良好に適合するように導かれる。
【0145】
採集した全血を本開示の主題たる組成物と接触した状態で保存すると、白血球及び血小板にとっても有益であり、より長く生存可能に維持される。
【0146】
再移植のための切断身体部分の維持
身体部分の(通常は不注意の)切断後の再移植の成功は、大部分は、当該付属物(appendage)がその所有者から離れて生存する能力に依存する。虚血時間が長ければ長いほど、移植により機能的な付属物を生じる確率は少なくなるか、又は多少なりとも何らかの成功の確率さえも少なくなる。
【0147】
1つの例では、灌流のために、回復した切断肢の主要な供給動脈に挿管する。この肢にATP-SUVを4時間ごとに、又は組織ATPレベルの変化に起因して必要と決定されたように灌流する。灌流の間、この肢の動脈圧をモニターして、流量誘導傷害(flow-induced injury)の機会を減じ、切断肢の全体的保存をモニターする−より高い灌流圧は肢の病的状態を示し得る。保存期間後、肢をリンゲル又は他の適切な溶液でフラッシュして痕跡量のATP-SUVを除去する。次いで、周知の方法を使用して肢を外科的に再付着する。吻合術後の肢機能の外部指標(色、微小血栓の証拠、温度、脈動、酸素飽和度、ドップラ流量の測定)を評価して成功をモニターする。再移植の前及び後に、ヘパリンを適用し、抗生物質治療を開始して、感染の可能性を減じる。
【0148】
心停止
低酸素発生の直後又はその後できる限り直ぐに静脈内注射又は心臓内注射によりATP-SUVを心臓内に注射する。SUV脂質組成物は、ATP送達を心臓組織の代謝要求に注意深く適合させ、心臓の性能が最大となるように、操作される。虚血の危険が去るまで、ATP-SUVを生理学的条件で心臓へ継続的に灌流し得る。
【0149】
臓器保存のためのATPの送達
臓器(例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓又は膵臓)をドナーから取り出し、その臓器への主要な供給動脈に挿管する。生理食塩水、リンゲル溶液又は他の適切な溶液を用いて臓器内の血液をその臓器からフラッシュする。ATP-SUVを通常の保存溶液又は緩衝剤に加え、臓器中に穏やかに灌流する(≧ 80mmHg)。その頻度は臓器に依存する。
【0150】
動物実験設定で同じATP-SUVを使用することができる。例えば、ランゲンドルフの心臓(又は他の臓器)灌流装置を使用する。大動脈に挿管し、心臓を灌流チャンバーに置く。ATP-SUVを添加した酸素付加灌流液を心臓に灌流する。高濃度カリウム溶液を注射して心停止を引き起こしてもよい。保存期間の間、ATP-SUVを用いる心停止法も使用することができる。心臓は、機能研究のために再灌流することができ、又は虚血保存後に移植することができる。
【0151】
ATPの全身送達
ATP-SUVは種々の理由で生物に投与することができる。例えば、ATP-SUVは、身体のエネルギーを補充するために使用することができ(好ましい投与経路は経口、局所及び吸入である)、又は全身の酸素依存を減少させるために使用することができる(この場合の好ましい投与経路は静脈内であろう)。頸動脈を介する連続注入によりATP-SUVを動物に投与する場合、心拍及び血圧は減少し、呼吸は停止する。9分間の低酸素症の後でさえも動物を蘇生させることができる(実施例を参照)。
【0152】
創傷のためのATP-SUV
創傷への血流は減少するので、創傷及びその周りの細胞が利用可能な酸素は少なくなる。酸素送達の減少はATP産生の減少を生じる。このことは、創傷治癒に必要な多くの細胞事象(タンパク質及び核酸の合成、イオンチャンネル機能、シグナル伝達及び移動運動(locomotion)を含む)を緩慢にする。
【0153】
ATP-SUVは、創傷の治癒又はATP消費の程度による必要に応じて、創傷に適用する。例えば、創傷の境界の細胞に創傷閉鎖を加速するに十分なATPを提供するためには、ATP-SUVは、好ましくは1日あたり1〜12回、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12回/日で適用され得る。好ましくは、ATP-SUVは、水ベースのATP-SUVの創傷境界細胞との直接接触を維持する特別設計のアプリケータで、創傷の直接上に配置する。或いは、ATP-SUVは、クリーム又は他の局所医薬組成物として局所的に適用してもよい。
【0154】
ATP-SUVはまた、治癒を更に亢進させるために既に利用可能な治癒組成物と組み合せてもよい。例えば、ATP-SUVは、組成物中で、REGRANEX(登録商標)(Ethicon、Johnson & Johnson、Somerville、New Jerseyに見出されるようなベカプレルミンと組み合せることができる。加えて、ATP-SUVは、増殖因子(例えば、線維芽球増殖因子及び血管内皮増殖因子)、1又はそれより多い抗生物質、銀含有創傷軟膏及び/又は局所酸素療法と同時に適用することができ、又は組成物中で組み合せることができる。ATP-SUVと共に有用な別の創傷治療成分としては、防腐剤、抗生物質、麻酔剤及び皮膚移植組成物が挙げられる。用語「創傷治療成分」はSUVを含まない。
【0155】
本明細書中で使用する場合、用語「皮膚移植組成物」とは、例えば火傷による損傷のような損傷その他の皮膚外傷に、更には老化にさえ起因する皮膚組織の一時的又は永続的な置換に有用な天然材料及び製造材料をいう。「天然」材料としては、ドナー組織に由来する表皮組織及び/又は真皮組織が挙げられる。ドナー組織は、皮膚移植組成物を受ける患者に由来し得る(すなわち、自家組織)か、同じ種の異なる個体に由来し得る(すなわち、同種組織)か又はレシピエントとは異なる種のドナー生物に由来し得る(すなわち、異種組織)。移植前に、例えば、レシピエントによる免疫拒絶の危険を減少させ、又は組織の或る成分(例えば、真皮細胞(例えば、線維芽細胞)及び表皮細胞(例えば、ケラチノサイト)を含むがこれらに限定されない或る種の細胞)を富化若しくは枯渇させるように、ドナー組織を処理することができる。本明細書で使用される場合、「製造材料」としては、合成皮膚代替物(例えば、コラーゲンベースのマトリクス)並びに生組織(例えば、線維芽細胞及び/又はケラチノサイト)と合成生体材料(例えば、生分解性足場)との両方を含んでなるハイブリッド組成物の全てが挙げられる。特に、製造皮膚移植組成物としては、例えばTRANSCYTE(登録商標)(Smith & Nephew、San Diego、California)(これはヒト線維芽細胞由来の皮膚代替品を含んでなる)及びINTEGRA(登録商標)(Integra Life LifeSciences、Plainsboro、New Jersey)(これは真皮組織置換用の二重層膜システムを含んでなる)を含む「人工皮膚」組成物が挙げられる。例えば、米国特許第4,947,840号(参照により本明細書中に組み込まれる)を参照。この特許は、INTEGRA(登録商標)皮膚置換組成物の組成及び使用を開示する。本明細書に開示のATP-SUVは、創傷治癒を促進するために、皮膚移植組成物と共に同時適用することができる。
【0156】
出血性ショックのためのATP-SUV
出血性ショックは、内部又は外部の傷害により引き起こされる大量の血液の損失に起因する。血液が不十分にしか供給されないので、対象はしばしば低血圧になり、臓器不全及び切迫死を生じる。
【0157】
出血性ショックの効果に対抗するために、輸血への補充としてATP-SUVを静脈内注入する。その後、全身酸素度(oxygenation)が改善するにつれて、ATP-SUVを減らすことができる。出血性ショックの効果に対抗するためのATP-SUVの有効性を示すデータについては実施例9を参照。
【0158】
血小板保存のためのATP-SUV
血小板は約5日の保存期間を有し、その後は廃棄しなければならない。血小板機能の喪失は一部はATPの損失に起因する。
【0159】
単離した血小板に、細胞内ATPレベルを維持するに必要とされるATP-SUVを与える。その後、血小板の保存期間が延長される。ATP-SUVは、血小板保存用の適切な溶液(例えば、生理食塩水)中に懸濁される。SUV脂質組成物は、ATP投与を最適化するように改変してもよい。例えば、血小板は室温(22〜24℃)で保存されるので、ATPについての代謝要求は、生理学的温度(37℃)より低くなる。この温度でSUVの融合速度もまた緩慢になるが、その速度は生存可能な保存には高すぎるかもしれず、SUV脂質組成は、血小板の代謝要求により良好に適合するように導かれる。
【0160】
臓器及び組織の操作のためのATP-SUV
今や、組織は高効率でインビトロで成長させることができる。しかし、そのような組織は、血液供給に接続する脈管系を欠いている。ATP-SUVはこの欠陥を克服する手助けをする。
【0161】
ATP-SUVは、単離した組織(例えば、骨格筋)に由来する血管ネットワークを選択的に保存するため使用することができる。ATP-SUVの脂質組成物は、ATP-SUVが血管から容易に逃れないように作られる。ATP-SUVの投与は脈管系を維持し、柔組織(parenchyma)は維持しない(死ぬ)。次いで、インタクトな脈管系が播種され、特定の組織に分化する能力を有する幹細胞と共に適切な条件下で培養される。この様式で脈管形成が起り得るインビトロ産生組織としては、肝臓、膵臓、心臓、肺及び脾臓が挙げられる。
【0162】
或いは、既にインビトロ構築を経ている臓器は、この同じアプローチを用いて部分的に脈管形成をすることができる。ただし、臓器細胞が増殖を始めた後に脈管系が採集及び処理される場合を除く。
【0163】
手術中のATP-SUV
主な手術手順中は、血流及び酸素の減少に悩まされる。ATP-SUVは、虚血又は低酸素症のあらゆる損傷を最小化するために、全身又は該手術手順に関与する領域に投与することができる。ATP-SUVが有用である手術の例としては、冠動脈バイパス、開心手術、遊離皮弁移植及び幾つかの形成外科手順が挙げられる。
【0164】
幾つかの手術では、脊髄が該手順中に十分な酸素を受け取れないので、時折麻痺が生じる。これは主に大動脈瘤切除で起こる。ATP-SUVを罹患領域へ静脈内投与することにより、外科医が作業できる時間が増え、酸素喪失により引き起こされる傷害の可能性を減じ、結果的に病的状態を減少させる。
【0165】
卒中のためのATP-SUV
現在、卒中直後の高グルコース溶液の投与が、脳への血流の減少の効果を減少させるために使用されている。グルコースは、神経細胞のATPレベルを増大させ及び神経細胞死を減少させると期待されている。しかし、このゴールは、酸素供給が制限されている場合には達成することが困難である。ATP-SUVは、より効率的に神経組織へATPを提供する。
【0166】
呼吸系の問題のためのATP-SUV
多くの呼吸器疾患はクオリティー・オブ・ライフを減少させ、しばしば死に至らしめる。これらの場合、死の主要原因は、組織及び臓器の死をもたらす血液中の酸素の欠乏である。血液酸素レベルの減少の効果を減じるために、対象にATP-SUVを注入する。
【0167】
ガン患者のためのATP-SUV
末期ガン患者は合併症のために死亡する。ガン及び治療は患者を衰弱させるので、ガン患者はしばしば肺炎で死亡する。衰弱は、大切な代謝供給源を侵害し健常細胞を貧窮させるガン細胞若しくは治療中に破壊される非ガン健常細胞又はその両方のいずれかに起因する。全身ATPレベルを補って代謝供給源を盗用するガン細胞の効果を減少させるため、ATP-SUVを毎日患者に投与する。ATP-SUVの投与により、ガンの後遺症が減り、平均余命は延びる。
【0168】
化学毒のためのATP-SUV
ミトコンドリアのATP産生を遮断するか、そうでなければ細胞ATP産生を減少させるシアン化物その他の化学物質は、ATP-SUVの使用により阻まれる。ATP-SUVは、シアン化物中に浸されたときの細胞及び組織の生存可能性及び機能を維持する--ATP-SUVは、ミトコンドリアのATP産生の不在下で細胞質ATPを増大させる。ATP-SUVは、シアン化物及びシアン化物と同様に作用する他の毒の解毒剤として使用することができる。シアン化物中毒の効果を軽減するためのATP-SUVの有効性を示す実験データについては実施例10を参照。ATP-SUVはまた、一酸化炭素中毒の効果を減ずるために使用することができる。
【0169】
タンパク質、炭水化物、オリゴヌクレオチドその他の薬物の送達のための生体分子-SUV
本明細書に開示の高度に吸収性の脂質小胞は、水溶性の膜結合タンパク質、炭水化物、オリゴヌクレオチドその他の薬物の存在下で、該物質のいずれかの細胞質又は細胞膜への効率的な送達が得られるように、作製することができる。この薬物送達方法は、多くの伝統的な問題を回避することができ、(1)膜透過性である薬品の導入を可能にし、よって使用できる薬品の範囲を大きく広げ、同時に低い膜透過速度を有する薬品の効力を増大させる;及び(2)細胞膜へのポリペプチド及び炭水化物の直接組込みを可能にする。この最後の利点により、例えば、不確かな遺伝子治療アプローチを回避する置換療法が可能になる。例えば、対象が細胞上のレセプターを欠いている場合、そのレセプターを、本明細書に開示の脂質小胞中に組み込むことができ、適切に投与することができる。
【0170】
これら方法は、細胞中へATPを導入する方法を模擬する。ただし、SUVが小胞内に当該物質を含有し及び/又は膜組込み分子を含有する場合を除く。
【0171】
他の低酸素状態のためのATP-SUV
水中ダイビング、宇宙旅行、高高度及び酸素が希薄な他の状況は、身体への酸素送達の減少を導くことがある。酸素欠乏を補償するために、ATP-SUVを静脈内若しくは経口で、又は吸入により投与する。
【0172】
肉保存のためのATP-SUV
組織及び臓器保存並びに動物及び患者における使用に加えて、ATP-SUVは、酸素の不在下で生存している肉中の細胞を維持することができる。屠殺後、動物を瀉血し、残りの血液を死体からフラッシュする。動物に頸動脈又は他の大きな動脈を介してATP-SUVを注入し、脈管系をATP-SUVで満たす。次いで、ATP-SUVと共に動物を所定の場所に運び、生存している動物の細胞を維持し、よってATP-SUVが血液の保存期間を延長するのと同様に、肉の保存期間を延長する。ATP-SUVは内因性成分を使用するので、肉の味及び質感(texture)には影響しない。
【0173】
植物のためのATP-SUV
植物は、生命及び成長を持続するために光合成を利用する。光合成は2つの反応に分割することができる:明反応(日光からエネルギーを採集し、それを化学エネルギーであるATP及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)の還元形態に変換する);及び暗反応(これは、ATP及びNADPHを使用してCO2を固定する)。
【0174】
植物に、根系を介してか、又は葉、幹、花、成長点若しくは他の植物部分に直接適用してかのいずれかでATP-SUVを提供する。ATP-SUVは、暗反応に必要なATPを植物細胞に送達する。ATP-SUVを使用するATPの送達により、日光の必要性が減少するか又はその必要性を回避し、そのことにより、暗条件下又は明るさがより少ない条件下での成長が可能になる。加えて、ATP-SUVは植物の成長を増大させ、植物の生命を持続させる。このことは、市場での新鮮な野菜、切花産業及び水耕栽培に重要な観点である。
【0175】
バイオリアクターのためのATP-SUV
バイオリアクターの生産性に関する主要な制限因子は、細菌及び酵母(生体反応由来分子の一次生産体)が、ATPを作るための十分な基質を有さなければならないことである。よって、1つの培養物中の細菌又は酵母の数が制限される。バイオリアクター中にATP-SUVを注入して微生物の数を増大させ、バイオリアクターの出力を増大させる。この適用は、細菌及び真菌に限定されない。なぜなら、昆虫、動物、植物及び他の真核培養細胞は、ATP産生に関して同様な要件を有しているからである。
【実施例】
【0176】
実施例
以下の実施例は、本開示の主題を説明するために提示するものである。当業者は、本開示の主題たる組成物及び方法における然程重大でない変形を容易になすことができる。実施例は、如何なる様式でも本主題を制限することを意味するものではない。
【0177】
実施例1
脂質小胞の構築
1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOPC-e)及び1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(POPA)脂質から小胞を構築した(全てAvanti Polar Lipids(Alabaster,AL)から)。脂質は更なる精製をすることなく使用した。脂質をクロロホルムに溶解し、ガラス試験管中に配置した後、窒素ガスの定常流下での蒸発、続いて一晩の真空排気によりクロロホルムを除去した。乾燥脂質材料をHBSS実験緩衝剤(Sigma;St. Louis,MO)中で、相転移温度(25℃)を超える温度で30分間再水和した。2つのガラスビーズを緩衝剤/脂質混合物に加え、懸濁液を5分間ボルテックスして多重ラメラ小胞を作製した。次いで、マイクロチップBranson Sonifier 450を使用しマイクロチップを試験管中に配置して乳状溶液を超音波処理した。次いで、小胞を、40%デューティーサイクルのレベル5にて5分間超音波処理して、小さな単一ラメラ小胞(SUV)を作製した。
【0178】
実施例2
ATPのカプセル化
実施例1の小胞中へのATPの組込みを証明するために、多重ラメラ小胞を作製する前に、30μCiの3H-ATP(Amersham;Arlington Heights,IL)を実験緩衝剤に加えた。懸濁液をSephadex G-25(Sigma)カラム(1cm×40cm)に通して非カプセル化ATPを除去した。小胞を最初の50mlの溶出液中に採集した。小胞内に含有される放射活性及び上清中の放射活性を液体シンチレーションカウンティングにより測定することによって、パーセントカプセル化を決定した。DOPC、DOPC:DOPC-e(1:1)、DOPC:POPA(50:1)及びDOPC:POPA(1:1)を含んでなる小胞は全て、ほぼ同じATPのパーセントカプセル化を示した(溶液中の当初のATP量の1〜2.5%の間)。
【0179】
実施例3
HUVECへの小胞の吸収速度及び細胞質中へのカプセル化内容物の放出速度
SUVの吸収速度(例えば、融合速度)を決定するため、SUVに蛍光プローブを積載し、インビトロで細胞に提示し、洗浄し、次いで細胞蛍光について分析した。
【0180】
継代Iのヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)をBioWhitaker(Walkersville,MD)から購入した。継代8まで培養した後は、もはや使用しなかった。HUVECは、内皮細胞増殖培地(EGM;BioWhitaker)中で増殖させ、12ウェル培養ディッシュのEGM培地中でコンフルエンスまで増殖させた。次いで、HUVECをHBSSで3回洗浄した。脂質小胞は実施例1のように作製したが、小胞中には1mMのカルボキシフルオレセインを積載した。次いで、小胞を細胞と湿潤CO2インキュベータ中で5、10、30、45、60、90、120又は240分間37℃にてインキュベートし、その後小胞を細胞から洗い流し、トリプシンで穏やかに処理して細胞をディッシュから取り除いた。Perkin-Elmer LS5OBルミネセンス分光光度計(Wellesly,MA)を使用し495nmの励起光及び520nmの発光を用いて、HUVEC中のカルボキシフルオレセイン蛍光を測定した。幾つかの実験では、吸収事象の均一性を証明するために、細胞をトリプシン処理せず、細胞の顕微鏡写真を撮影した。本実験についての蛍光単位(FU)の幅は、0〜450単位であった。吸収速度は、SUVの脂質組成に高度に依存した。DOPCは、最初の30分間は吸収をほとんど示さないか又は全く示さず、その後吸収速度は対数的になり、約350FUに達した。対照的に、DOPC:DOPC-e(1:1)は、遥かにより急速な初期吸収速度を示し、より緩慢な最終吸収速度を示した(5分で約35FU;120分で約100FU)。最も急速な吸収速度は、DOPC:POPA(1:1)で観察され、これは5分以内にカルボキシフルオレセインの有意な送達を示した。設計されたとおり、3つの小胞の吸収速度は、急速、中程度及び緩慢と特徴付けることができる。
【0181】
解決した1つの問題は、小胞が細胞と実際に融合しているのか又は細胞表面上で単に凝集しているのかであった。このことを調べるために、脂質小胞に曝露したが培養ウェルから取り除かなかったHUVECを、蛍光顕微鏡観察により蛍光分布について検証した。3つの組成物に曝露した細胞はいずれも、5分後、斑点状蛍光よりむしろ細胞全体にわたる拡散蛍光を示した。斑点状蛍光は、リソソームが小胞を隔離しており、そのことによりカルボキシフルオレセインへの細胞の接近が防がれているか、或いは、小胞が細胞表面上に凝集していることを示唆する。これら結果は、脂質小胞が、細胞表面上に凝集しているか又はリソソームにより隔離されているというよりむしろ、細胞に融合し、細胞質内にカプセル化内容物を放出したことを証明している。
【0182】
ATPもまたカルボキシフルオレセインと同様に細胞中に導入されるかを決定するため、実施例2の3H-ATP含有小胞を用いて、小胞吸収及びHUVEC中へのATPの放出を続いて行った。小胞をHUVECと共に5、10、15、30、45、60、90、120又は240分間インキュベートした。図1に示す結果は、1時間後の細胞内部でのATPの分配係数である。この長期間(distant time period)で、DOPC/POPAが最も大きなパーセント組込みを示し、DOPC/DOPC-eが続き、その後に3H-ATPのみ、小胞なしである。細胞を繰返し洗浄すると、細胞の放射活性に有意な変化があった。DOPCは、僅かではあるが有意な放射活性の減少を示した;DOPC/DOPC-eは繰返し洗浄後に放射活性の減少を示さなかった一方で、フリーの3H-ATPは放射活性の完全な喪失を示した。このことは、フリーのATPが細胞膜を透過できないという観察を確証する。これらデータは、融合データと併せて、DOPC小胞がエンドサイトーシスを受けており、DOPC:DOPC-e小胞は融合しており、フリーのATPは細胞に進入しないことを示している。DOPC:POPA小胞もまた洗い流されることはなかった。このことは、該小胞も細胞と融合しており、細胞質中にカプセル化内容物を送達したことを示している。
【0183】
実施例4
内皮の高分子透過性
細胞に直接分子を送達することとは対照的に、循環系を通じてインビボでカプセル化分子を送達するための本開示の主題たる小胞の如何なる使用にも、小胞及び/又は分子が血管内皮を透過しなければならないことを必要とする。血管内皮は障壁を構成するが、細胞間(cell-to-cell)障壁は、例えば白血球が循環を出て間質腔に進入するときのように、乗り越えることができる。この問題に取り組むために、内皮透過性に対する本主題の脂質小胞の効果を測定した。
【0184】
EGM中の微小孔性フィルタ(0.8μm)上でコンフルエンスまでHUVECを増殖させた。内皮単層を横切るタンパク質の流れの測定を可能にする特別なチャンバ中に細胞を配置した。内皮透過性に対する脂質小胞の効果を調べるために使用したトレーサは、FITC-アルブミン(1mg/ml)であった。FITC-アルブミン及び脂質小胞を時間0で内皮細胞に加えた。5分ごとに、上清の500μlサンプルを採集し、次いでPerkin-Elmer LS 5OBルミネッセンス分光光度計を用いて蛍光について分析した。DOPC小胞は透過性に対して効果を有さなかった一方、HUVEC透過性はDOPC/DOPC-eの存在下で増大した。このことは、隣接する内皮細胞間に小さな間隙を創出したことを示している。
【0185】
実施例5
ATPの代謝要求
必要な最適速度を決定する実施例として、ATPに関するラット肝臓細胞の代謝要求を決定した。全ラット肝臓を単離し、単離緩衝剤(0.25Mスクロース、0.04M Tris(pH7.2))中に配置し、滅菌はさみで細かく切り、結合組織片を注意深くトリミングした。次いで、肝臓を#60ステンレス鋼ワイヤ網目篩に通し、細胞溶出液を氷上に採集した。懸濁液を4℃にて5分間遠心分離し、細胞をペレット化した。上清を廃棄し、酸素付加緩衝剤(200mMスクロース、70mM KCL、5mMマレイン酸塩及び40mM Tris(pH7.3))中に細胞を再懸濁した。5ミリリットルの酸素付加緩衝剤をYellow Springs Instruments Oxygen Meter(Yellow Springs,Ohio)中に配置し、37℃に平衡化させた。50μlの細胞抽出物をチャンバ中に配置し、2〜3mg/mlの最終タンパク質濃度を達成した。次いで、ベースラインの酸素消費を1分間モニターし、その後100mM ADPを細胞に加え、状態2(State 2)の呼吸を測定した。次に、5mMグルタメートを加え、状態3(State 3)の呼吸を測定した。ADP添加量 対 酸素消費量を測定することによりADP/O2比を決定した。このように、状態3の呼吸は、組織1mgあたりの細胞により1分あたりのATP消費量の尺度である。
【0186】
実施例6
ATP-SUVは創傷治癒を加速する
ヌードマウスの上部頭蓋領域の外皮に表在性創傷(約80mm2の円)を負わせた。次いで、1日に2回ATP-SUVを創傷に適用して、創傷の境界細胞にATPを提供した。水ベースのATP-SUVを創傷と直接接触させて維持する特別設計のアプリケーター中で、ATP-SUVを創傷の直接上に配置した。
【0187】
図2に見られるように、ATP-SUVで治療した創傷は、コントロール物質で治療したものと比較して、より迅速に治癒した。治癒時間に対して創傷面積をプロットしたATP-SUV治療創傷の曲線は対数曲線を示す一方、コントロールは、より線形の治癒速度を示した。4日目で、ATP-SUV治療(約30mm2;当初の創傷面積の半分未満)とコントロール治療(約60mm2)との間には約30mm2の差が観察される;一方、10日目で、創傷面積はATP-SUV治療創傷では事実上なくなったが、コントロールではそうではない(約25mm2)。定性的には、ATP-SUV治療創傷の4日目がコントロールの10日目に類似していた;一方、10日目は、コントロールの17日を模倣していた。創傷は、ATP-SUVで治療した創傷では17日目までに治癒した一方、同日のコントロールは、完全には治癒していなかった。
【0188】
実施例7
肢再付着
後肢をラットから切断し、ATP-SUV(1mM ATP)溶液の注入のために切断肢の主要な供給動脈に挿管した。肢にATP-SUV又はコントロール溶液(表1を参照)を、3時間ごとに、又は組織ATPレベルの変化により必要と見なされると灌流した。注入の間、肢の動脈圧をモニターし、フロー誘導傷害(flow-induced injury)の機会を減少させ、切断肢の全体的保存をモニターした(より高い灌流圧は肢の病的状態を示し得る)。保存期間後、リンゲルで肢をフラッシュして痕跡量のATP-SUVを除去した。次いで、肢を外科的に再付着し、吻合術後の肢機能の外部指標を評価した(肢の色、微小血栓の証拠、凝固、肢の温度)。移植前及び移植後の動物にヘパリンを与え、うっ血を予防した。加えて、動物を抗生物質治療に置き、感染を減少させた。コントロールの肢には、ビヒクルのみ、ビヒクル及びATPのみ、又はビヒクル及びSUVのみを灌流した。
【0189】
再移植の21時間後、ATP-SUV治療肢は、健康なピンク色を示し、生理学的温度に再到達した。150日以上後、ATP-SUV治療を受けた動物は、まるで切断がなかったかのように肢を使用していた。唯一の質的副作用は、その軽微な欠陥を多分修正するであろう理学療法の欠如におそらく起因する足指の反り返りであった。しかし、コントロールでは、肢は黒ずみ、触ると冷たかった。これは壊死の徴候を示している。保存後の後肢の組織学的検査により、ATP-SUV群は内皮細胞及び筋細胞の生存能を維持していることが示された。全てのコントロールは、生存不可能な内皮及び筋肉を有していた。これら結果のまとめを表1に示す。定性的結果は図3に示す。
【0190】
【表1】

【0191】
実施例8
ATP-SUVは単離心臓を低酸素症から保護する
ラットから取り出した心臓を、ランゲンドルフ心臓灌流装置を用いてモニターする。心臓に挿管し、心臓を特別設計チャンバ(これは心臓を灌流し、ATP-SUVの注入を可能にする)に置いた。(心臓に循環していた)酸素付加灌流液を停止し、ATP-SUVを心臓に注入した。次いで、高カリウム溶液を注入することにより、心臓を停止状態にした。ATP-SUVを心臓中に120分間37℃にて流れのない条件下で維持した。次いで、心臓を酸素付加灌流液溶液でフラッシュし、心臓の性能をモニターした。ATP-SUV治療心臓は、コントロールに匹敵する心機能を取り戻した。
【0192】
実施例9
ATP-SUVは出血性ショック後の生存率を増加させる
ペントバルビタールを用いてSprague-Dawleyラット(200〜250g)を麻酔した。頸動脈に挿管し、血圧及び心拍測定用に圧トランスデューサを挿入した。瀉血用に大腿動脈に挿管した。30分間の安定期間後、血液を動物から1cc/分の速度で、その動物の総血液供給の33%が除かれるまで抜き取った。この減少した血液容量で動物を60分間維持した。60分間の終時に、乳酸添加リンゲル生理食塩水(伝統的な晶質蘇生術(crystalloid resuscitation))又はATP-SUVを動物にIPで与えた。更に120分間、生存時間、血圧及び心拍をモニターした。実験の終時に、動物を安楽死させ、pCO2、酪酸の分析及び高エネルギーホスフェートの測定のために血液サンプルを取り出した。ATP-SUV処置動物は、図7に示されるデータによって明示されるように、生理食塩水治療のコントロール動物と比較すると、全ての時点にわたって生存率の増加を示した。加えて、ATP-SUV群は、pCO2、酪酸が有意に低下し、血液及び組織の高エネルギーホスフェートレベルが有意に増加した。
【0193】
実施例10
ATP-SUVは化学的に誘導した低酸素症の後の生存率を増加させる
ペントバルビタールを用いてSprague-Dawleyラット(200〜250g)を麻酔した。頸動脈に挿管し、血圧及び心拍測定用に圧トランスデューサを挿入した。シアン化カリウム(KCN)(2.5mM)の投与用に大腿動脈に挿管した。30分間の安定期間後、ATP-SUV(図8中では「Vitasol」と表示)又は乳酸添加リンゲル生理食塩水のいずれかを動物にIPで与えた。5分後、KCNをボーラスで大腿動脈を介して注射した。4時間の期間にわたって生存時間、血圧及び心拍を測定した。図8に示した結果は、ATP-SUVを投与した動物の生存率はコントロール動物に比較して増加したことを示す。
【0194】
実施例11
血液保存の改善(予測の実施例)
ATP含有小胞が血液を保存するかどうか及び解糖中間体ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びフルクトース-1,6-ジホスフェート(FDP)の添加が生存可能性を更に改善するかどうかを確かめるために、以下の実験を行う。DOPCのみを用い、実施例2の方法に従って小胞を構築する。血液を、標準的手順に従って、標準のデキストロース-クエン酸塩-アデニン-ホスフェート混合物(Baxter;Deerfield,Illinois)を含有するバッグに採集する。各実験セットのために、1単位の血液を等しいアリコートに小分けし、追加の添加物を含有しないポリエチレンバッグに無菌的に移す(コントロール)。以下のとおり、試験物質を他のアリコートに加える:
・ コントロール(添加物なし)
・ コントロール(PEP、FDP及びリボースを含有する小胞)
・ ATP-SUV。
【0195】
30日、45日、60日及び90日に、アリコートを取り出し、以下のパラメータに従い赤血球の状態を評価する:ATP含量、ヘマトクリット、ヘモグロビン及び細胞の生存可能性(トリパンブルー(Sigma)排除又はLIVE/DEADキット(Molecular Products;Eugene,Oregon)を使用)。予測される結果:ATP含有小胞の存在下で貯蔵した細胞は、コントロールより良好な状態にある;すなわち、ATP含量はより高く、pHの低下がより少なく(解糖がより少ないことを示す)、赤血球は機能的な赤血球に典型的な両凹形状を保持している。
【0196】
参考文献
下記に列挙する参考文献及び本明細書中で引用した全ての参考文献は、それらが本明細書中で用いた方法、技法及び/又は組成物を補充し、説明し、その背景を提供し、又は教示する範囲で、参照により本明細書中に組み込まれる。引用した特許及び本出願で言及した刊行物は全て、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0197】
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【0200】
本開示の主題の種々の詳細は本主題の範囲から逸脱することなく変更し得ることが理解される。更に、上記の記載は、説明のみを目的とするものであり、制限を目的とするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】1時間後のヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)内でのATPの分配係数を示す棒グラフである。
【図2】ヌードマウスにおける創傷治癒に対する本開示の主題たる組成物の効果を示す折れ線グラフである。
【図3】ラットにおいて切断肢の再移植の成功を示す一対の写真である。
【図4】GC/MSにより決定したダイズホスファチジルコリン(PC)の脂肪酸組成を示すグラフである。
【図5】ダイズPC/DOTAP(50:1)を含んでなる小胞が細菌の増殖速度を増大させ(A)、また肝臓防腐の維持を助ける(B及びC)ことを示すグラフである。
【図6】大腿静脈へビオチン化脂質を送達するために使用した本開示の主題たる小胞を示す顕微鏡写真である。
【図7】出血性ショックモデルにおいて、コントロール動物と比較して、ATP-SUVを投与した動物について増大した生存率を示す折れ線グラフである。
【図8】化学的に誘導した低酸素症モデルにおいて、コントロール動物と比較して、ATP-SUVを投与した動物について増大した生存率を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)安定小胞形成体であるリン脂質;及び
(b)少なくとも1つの不安定小胞形成部材
を含んでなり、該不安定小胞形成部材が安定小胞形成体でない極性脂質、PEG、ラフト形成体及び融合タンパク質からなる群より選択される、小胞。
【請求項2】
前記安定小胞形成体であるリン脂質又は前記安定小胞形成体でない極性脂質が式(I)の構造:
X-L-(Z)2 (I)
[式中、XはH、Aであるか又は式(II)の構造:
【化1】

を有し、
Bはカチオン又はアルキル基であり;
AはH又はアルキル基であり;
Lは更に2つの水素を欠いているアルキル基であり;
各Zは独立してH、E又は式(XI)の構造
【化2】

であり、Eはアルキル又はアルケニルであり、一方のZがHであるとき、他方のZはHではない]
を有する、請求項1に記載の小胞。
【請求項3】
AがHであるか、又は式(III)、(IV)、(V)、(VI)及び(VII)
【化3】

[式中、nは0〜4の整数である]
からなる群より選択される構造を有し;
Lは式(VIII)、(IX)又は(X)
【化4】

からなる群より選択される構造を有し;
Eは、イソ-分枝鎖脂肪酸、アンテイソ-分枝鎖脂肪酸、15-メチル脂肪酸、トランス-不飽和若しくはシス-不飽和脂肪酸、a-ヒドロキシル脂肪酸、b-ヒドロキシル脂肪酸、a-ヒドロキシル-b-メチル脂肪酸、a,b-ジヒドロキシル脂肪酸、シクロヘキシル脂肪酸、(Z,Z)-不飽和脂肪酸、a-ヒドロキシル-(bE)-エン及び2-ヘキシルシクロプロパンデカン酸からなる群より選択される細菌性脂肪酸であるか、又はEは(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)、(XVII)、(XVIII)、(XIX)、(XX)、(XXI)及び(XXII)
【化5】

からなる群より選択される構造を有する、請求項2に記載の小胞。
【請求項4】
前記安定小胞形成体であるリン脂質がホスファチジルコリンである、請求項1に記載の小胞。
【請求項5】
前記ホスファチジルコリンが、ダイズホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、イー.コリ抽出物ホスファチジルコリン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-ドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PDPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又はこれらの混合物である、請求項4に記載の小胞。
【請求項6】
前記不安定小胞形成部材が式(XXIV)、(XXV)、(XXVI)、(XXVII)、(XXIX)、(XXXI)、(XXXII)、(XXXIII)及び(XXXIV):
【化6】

【化7】

からなる群より選択される構造を有する不安定小胞形成極性脂質である、請求項1に記載の小胞。
【請求項7】
前記不安定小胞形成部材が約20〜約8000繰返し単位の重量を有するPEGである請求項1に記載の小胞。
【請求項8】
前記PEGが約3000〜約4000繰返し単位の重量を有する、請求項7に記載の小胞。
【請求項9】
前記PEGが約3350繰返し単位の重量を有する、請求項8に記載の小胞。
【請求項10】
前記不安定小胞形成部材がコレステロール及びスフィンゴミエリンからなる群より選択されるラフト形成体である、請求項1に記載の小胞。
【請求項11】
前記不安定小胞形成部材がフェルチリン、可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質レセプター(SNARE)、sec1/munc18(SM)ポリペプチド、ウイルスエンベロープ融合タンパク質及びアネキシンからなる群より選択される融合タンパク質である、請求項1に記載の小胞。
【請求項12】
前記小胞が生体分子を更に含んでなる、請求項1に記載の小胞。
【請求項13】
前記生体分子が脂溶性生体分子である、請求項12に記載の小胞。
【請求項14】
前記脂溶性生体分子がα-トコフェロール(ビタミンE)、レチノール(ビタミンA)、フィロキノン(ビタミンK)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD)、コレステロール、コレステロールエステル、ステロイド、ホパノイド、界面活性剤、脂肪酸、細菌性分枝鎖脂肪酸、イソプレノイド、長鎖アルコール、脂溶性麻酔剤、ガングリオシド、リポ多糖、ビオチン標識リン脂質、膜イオンコンダクタンスチャンネル、輸送タンパク質、グルコース輸送体、粘着タンパク質、ギャップ結合タンパク質、シナプス接合タンパク質、カスパーゼ、接着タンパク質、Gタンパク質、MHCタンパク質、補体タンパク質、脂溶性ウイルスタンパク質、細胞レセプター、脂溶性蛍光プローブ分子及び脂溶性放射性トレーサ分子からなる群より選択される、請求項13に記載の小胞。
【請求項15】
前記生体分子が水溶性生体分子である、請求項12に記載の小胞。
【請求項16】
前記水溶性生体分子がアミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、単糖類、二糖類、多糖類、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、水溶性ビタミン、ミネラル、高エネルギーホスフェート、解糖中間体、酸化中間体、ニコチンアデニンジヌクレオチド(NAD+/NADH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD+/FADH2)、水溶性細胞酵素、インスリン、水溶性蛍光プローブ分子、水溶性放射性トレーサ分子及び水溶性薬物からなる群より選択される、請求項15に記載の小胞。
【請求項17】
前記高エネルギーホスフェートがATP、ADP、AMP、アデノシン、CTP、CDP、CMP、シトシン、UTP、UDP、UMP、ウラシル、GTP、GDP、GMP、グアノシン、TTP、TDP、TMP、チミン、ITP、IDP、IMP、イノシン及びホスホクレアチンからなる群より選択される、請求項16に記載の小胞。
【請求項18】
前記高エネルギーホスフェート生体分子がATPである、請求項17に記載の小胞。
【請求項19】
前記ATPがMg-ATPである、請求項18に記載の小胞。
【請求項20】
前記ATPが約1M又はそれ未満の濃度で存在する、請求項18に記載の小胞。
【請求項21】
前記ATPが約0.001mM〜約200mMの濃度で存在する、請求項20に記載の小胞。
【請求項22】
前記ATPが約1mM〜約50mMの濃度で存在する、請求項21に記載の小胞。
【請求項23】
前記小胞が少なくとも1小胞吸収/秒/細胞の吸収速度を有する、請求項1に記載の小胞。
【請求項24】
前記小胞が少なくとも103小胞吸収/秒/細胞の吸収速度を有する、請求項23に記載の小胞。
【請求項25】
前記小胞が少なくとも106小胞吸収/秒/細胞の吸収速度を有する、請求項24に記載の小胞。
【請求項26】
前記小胞が1:9〜100,000:1の前記安定小胞形成部材 対 前記不安定小胞形成部材の比を有する、請求項1に記載の小胞。
【請求項27】
前記小胞が1:1〜1,000:1の前記安定小胞形成部材 対 前記不安定小胞形成部材の比を有する、請求項26に記載の小胞。
【請求項28】
前記小胞が単一ラメラ小胞である、請求項1に記載の小胞。
【請求項29】
前記小胞が約20nm〜約600nmの水力学的半径を有する、請求項1に記載の小胞。
【請求項30】
前記小胞が約100nm〜約300nmの水力学的半径を有する、請求項29に記載の小胞。
【請求項31】
生体分子;
ダイズホスファチジルコリン;及び
DOTAP
を含んでなる小胞。
【請求項32】
前記生体分子がATPである、請求項31に記載の小胞。
【請求項33】
前記ATPが約0.01mM〜約200mMの濃度で存在する、請求項32に記載の小胞。
【請求項34】
前記小胞が50:1のダイズホスファチジルコリン 対 DOTAPの比を有する、請求項31に記載の小胞。
【請求項35】
前記小胞が約100nm〜約300nmの水力学的半径を有する、請求項31に記載の小胞。
【請求項36】
生体分子;
DOPC;及び
DOTAP
を含んでなる小胞。
【請求項37】
前記生体分子がATPである、請求項36に記載の小胞。
【請求項38】
前記ATPが約0.01mM〜約200mMの濃度で存在する、請求項37に記載の小胞。
【請求項39】
前記小胞が50:1のDOPC 対 DOTAPの比を有する、請求項36に記載の小胞。
【請求項40】
前記小胞が約100nm〜約300nmの水力学的半径を有する、請求項36に記載の小胞。
【請求項41】
細胞を請求項12に記載の小胞と接触させることを含んでなる、生体分子を細胞に送達する方法。
【請求項42】
前記生体分子がATPである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞に送達するATPの量が該細胞の代謝要求を満たすに十分である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
創傷を請求項12に記載の小胞を含んでなる組成物と接触させることを含んでなる、創傷を治療する方法。
【請求項45】
前記組成物が、ベカプレルミン、線維芽球増殖因子、血管内皮増殖因子、抗生物質、銀含有組成物、皮膚移植組成物又はそれらの組合せを更に含んでなる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記創傷を請求項12に記載の小胞を含んでなる組成物及び皮膚移植組成物と接触させることを更に含んでなる、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
組織を請求項12に記載の小胞と接触させることを含んでなる、組織を保存する方法。
【請求項48】
細胞を請求項12に記載の小胞と接触させることを含んでなる、少なくとも1つの細胞を有するバイオリアクターの生産性を向上させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−526049(P2009−526049A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554254(P2008−554254)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際出願番号】PCT/US2007/001948
【国際公開番号】WO2007/092161
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(506217427)ユニバーシティー オブ ルイヴィル リサーチ ファウンデーション,インコーポレーテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF LOUISVILLE RESEARCH FOUNDATION,INC.
【住所又は居所原語表記】201 East Jefferson Street,Suite 215,MedCenter Three,Louisville,KY 40202,U.S.A.
【Fターム(参考)】