説明

細胞傷害性活性を有する化合物

【課題】 細胞傷害性活性、特に、腫瘍細胞に対する細胞傷害性活性を必要とする医薬品
の分野において有用な化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】
[1]魚類の卵の破砕液を遠心分離して上清を得、前記上清を有機溶媒により抽出して得
られた有機溶媒抽出画分を除去することにより、前記上清に残る水溶性画分から得られる
細胞傷害性活性を有する化合物。
[2]前記魚類の卵の破砕液を遠心分離して得られた上清に対し、親水性有機溶媒を添加
することにより生じた沈殿物を前もって除去しておくことを特徴とする、前記上清に残る
水溶性画分から得られる上記[1]に記載の細胞傷害性活性を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞傷害性活性を有する化合物に関し、より詳細には、魚類の卵から得られる親水性の細胞傷害性活性を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体においては、細胞傷害性活性に関連して形態学的に分類される2種類の細胞死が知られている。一方はプログラムされた細胞死といわれるアポトーシスであり、他方は細胞の壊死(ネクローシス)である。こうした細胞の死は、ウイルス感染の場合を例に挙げれば、感染成立後に生体防御機構が作動してT細胞とB細胞とが協同的に作用し、ウイルスに感染した細胞を非自己と認識して死滅させるものである。
細胞の壊死は、ウイルス感染のみならず、近年、死亡原因の上位に位置する癌の場合にも起こることが知られている。癌細胞が出現すると、腫瘍細胞の壊死作用を有するTNF等の生体因子やNK細胞等が作用し、生体の恒常性の維持が図られる(非特許文献1参照)。
一方、動植物に含まれる種々の活性を有する化合物については、植物精油等の主要成分等に関する報告も多く、研究も進んでいる(非特許文献2参照)。また、魚類や介類においても、シガトキシン等を初めとする海産毒については研究が進み、いろいろな報告もなされている(非特許文献3参照)が、腫瘍壊死活性を有する物質を含むかどうかについての報告は少ない。
【非特許文献1】BioScience用語ライブラリー 免疫 14〜15頁 1995年11月1日 第1刷発行
【非特許文献2】エッセンシャルオイルの化学 1990年1月30日 第1版発行 裳華房
【非特許文献3】http://www.jst.go.jp/pr/report/report193/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
生体の恒常性とのバランス上、これらの細胞壊死活性を含む細胞傷害性活性を有する物質の生体内における産生量は限られているため、腫瘍を有している生体そのものから、腫瘍細胞を選択的に攻撃することができる物質を大量に得ることは難しい。
【0004】
しかし、こうした活性を有する化合物は、ウイルス感染や癌の治療においては有用性が高いと考えられており、腫瘍等に対する細胞傷害性活性を有する化合物を、あるまとまった量で定常的に確保することについては、強い要請がある。
本発明の目的は、腫瘍等に対する細胞傷害性活性を有する化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記のような事情の下で鋭意研究を進め、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1]魚類の卵から前記卵に含まれる液体成分を得、前記液体成分を有機溶媒により抽出して得られた有機溶媒抽出画分を除去することにより、前記液体成分に残る水溶性画分から得られる細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[2]前記卵に含まれる液体成分に対し、親水性有機溶媒を添加することにより生じた沈殿物を前もって除去しておくことを特徴とする、前記液体成分に残る水溶性画分から得られる上記[1]に記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[3]前記魚類の卵は、ニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモからなる群より選ばれる少なくとも一つの卵であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[4]前記有機溶媒は、n−ヘキサン、トルエン、キシレン及びベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[5]前記親水性有機溶媒は、アセトン、メタノール、エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、上記[2]に記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[6]前記細胞傷害性活性は、肺癌患者由来の癌細胞を用いたハイブリドーマ、ヒト大腸癌由来細胞、マウス大腸癌由来細胞及びヒト末梢血リンパ球からなる群より選ばれる少なくとも一つに対するものであることを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[7]前記細胞傷害性活性を有する化合物は、分子量の範囲が50〜1000の範囲であることを特徴とする、上記[6]に記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものであり、
[8]前記細胞傷害性活性を有する化合物は、カスパーゼ阻害剤の存在下に失活するものであることを特徴とする、請求項6又は7に記載の細胞傷害性活性を有する化合物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、魚類の卵から細胞傷害性活性を有する化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
まず、本発明の化合物の抽出に使用する魚類の卵について説明する。
前記魚類としては、例えば、ニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ、シシャモ等が挙げられる。
前記魚類は一種もしくは二種以上を使用することができる。
また本発明に使用する魚類の卵としては、ニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモ等の卵を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
中でもニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモからなる群より選ばれる少なくとも一つの卵を使用することが好ましく、ニシンの卵であるカズノコを使用することが、一定の質の材料を容易に入手できることからさらに好ましい。
【0008】
上記の魚類の卵から、後述する細胞傷害性活性を有する化合物を抽出するにあたっては、最初に前記卵から液体成分を得る。
前記液体成分を得る手段としては、例えば、前記卵を破砕して破砕液としてから不溶物を除く手段等が挙げられる。
なお、前記液体成分とは前記卵を破砕して得られるものであり、0℃を超える温度において流動性を有するものをいう。
【0009】
この破砕は、水や溶媒を加えて実施してもよいが、特に水や溶媒を加えることなく、所定量の魚類の卵を秤量し、容器中で、フードプロセッサー、ホモジナイザー等を使用して行うことができる。こうした破砕器具の中でも、フードプロセッサーを使用すると破砕効率が高い。
ついで得られた破砕液から不溶物を除く。
前記不溶物を除く手段としては、例えば、遠心分離や濾過等の手段を挙げることができる。
例えば、前記破砕液に対し前記遠心分離を行うことにより、上清を得ることができる。得られた上清に対し、さらに超遠心分離を行うことが好ましい。
上記遠心分離および超遠心分離を行うときの温度は、1〜10℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは2〜5℃の温度範囲である。
この様にして前記液体成分として前記上清を得ることができる。
【0010】
次に、前記液体成分と親水性有機溶媒とを混合することにより生じた沈殿物を除去する。
前記液体成分と親水性有機溶媒とを混合する方法に限定はなく、例えば、前記液体成分を親水性有機溶媒に添加する方法、前記親水性有機溶媒を前記液体成分に添加する方法、両者を同時に混合する方法等を採用することができる。
前記液体成分と親水性有機溶媒とを混合し十分に撹拌した後、超遠心分離を行うことにより沈殿物を分離することができ、前記親水性有機溶媒を含む液体画分を得ることができる。
【0011】
前記親水性有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性有機溶媒類を挙げることができる。
前記親水性有機溶媒は、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール等であれば好ましい。
前記親水性有機溶媒は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0012】
前記親水性有機溶媒の使用量は、前記液体成分の10体積%〜200体積%の範囲であることが好ましく、50体積%〜150体積%の範囲であればさらに好ましい。
【0013】
次に前記液体画分に含まれる親水性有機溶媒を除去する。
前記親水性有機溶媒を除去する方法としては、例えば、常圧下もしくは減圧下において蒸留操作を行う方法等を挙げることができる。
この様にして、前記液体画分に含まれる親水性有機溶媒を除去することにより、可溶性画分を得ることができる。
【0014】
次に前記可溶性画分と有機溶媒とを混合し、この混合液を良く撹拌した後、両者を分液し、有機溶媒層、すなわち有機溶媒抽出画分を除去する。この操作により、細胞傷害性活性を有する化合物を含有する水溶性画分を得ることができる。
この有機溶媒による抽出操作は一回もしくは二回以上繰り返すことができるが、この操作は二〜三回繰り返すことが好ましい。
前記可溶性画分と有機溶媒とを混合する方法は、先に説明した前記液体成分と親水性有機溶媒とを混合する方法の場合と同様である。
【0015】
前記有機溶媒としては、水と分液できる疎水性有機溶媒が好ましく、この様な疎水性有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類等を挙げることができる。
前記有機溶媒は、ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン等であれば好ましく、n−ヘキサンであればさらに好ましい。
前記疎水性有機溶媒は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0016】
前記疎水性有機溶媒の使用量は、前記可溶性画分の10体積%〜200体積%の範囲であることが好ましく、50体積%〜150体積%の範囲であればさらに好ましい。
【0017】
次に本発明における細胞傷害性活性は、肺癌患者由来のリンパ球細胞とリンパ腫細胞であるNAT−30細胞とを融合して作製したハイブリドーマ、ヒト大腸癌由来細胞、マウス大腸癌由来細胞、ヒト末梢血リンパ球等の一種もしくは二種以上に対するものであることが好ましい。
ここで、肺癌患者由来のリンパ球細胞とリンパ腫細胞であるNAT−30細胞とを融合して作製したハイブリドーマとしては、HB4C5、HF10B4等を挙げることができる。HB4C5を使用することが、培養及び細胞活性の測定が容易であるという理由から好ましい。
【0018】
前記ヒト大腸癌由来細胞としては、Colo−201、LoVo、Caco−2、LS180等を挙げることができる。Colo−201、及びCaco−2からなる群より選ばれる少なくとも一つの株化細胞を使用することが、培養が容易であることから好ましく、Colo−201を使用することがさらに好ましい。
【0019】
前記マウス大腸癌由来細胞としては、Colon−26、RKO−E6、CT26、CL25等を挙げることができる。Colon−26を使用することが、in vivo(動物実験)において効果を検討することが容易であることから好ましい。
【0020】
また、上記のような株化細胞以外に、ヒト末梢血リンパ球細胞に対して、細胞傷害性活性を有するものであってもよい。
【0021】
前記細胞傷害性活性を有する化合物は、トリプシン等のタンパク質分解酵素により処理した場合であっても、前記細胞傷害性活性を保持するものが好ましい。
【0022】
また前記細胞傷害性活性を有する化合物は、温度100℃、20分間の加熱処理により前記細胞傷害性活性を保持するものが好ましい。
【0023】
さらに、前記細胞傷害性活性を有する化合物は、分子量50〜1000の範囲のものが好ましく、100〜1000の範囲であればさらに好ましい。
【0024】
また前記細胞傷害性活性を有する化合物は、アポトーシス誘導において発現されるカスパーゼの阻害剤の存在下に細胞傷害性活性が消失するものが好ましい。
前記カスパーゼ阻害剤は公知であり、市販品を入手し使用することができる。
【0025】
以下に、本発明の細胞傷害性活性を有する化合物を得るための手順を、魚類の卵としてカズノコを、有機溶媒としてn−ヘキサン、親水性有機溶媒としてアセトンを用い、細胞傷害性活性についてマウス大腸ガン細胞Colon26を用いた場合を例に挙げて説明する。
操作の手順については図1のフローチャートに示した通りである。
【0026】
カズノコを、秤量して遠心可能なチューブにとり、例えば、フードプロセッサーを用いて破砕し、破砕液を得る。この破砕液を低速で遠心分離し、不溶物を除去した後に超遠心分離し、液体成分として上清を得る。
【0027】
遠心分離可能なチューブとしては、例えば、15mLコニカルチューブ(コーニング社製)、50mLコニカルチューブ(コーニング社製又はヌンク社製)等を挙げることができる。
【0028】
得られた上清に、4℃に冷却したアセトンを等量加えて、一夜静置することにより沈殿物を析出させる。一夜静置した後、超遠心分離して沈殿物を除き、上清を回収する。なお、上清が複数層に分かれる場合には、各層ごとに回収する。
続いて前記上清からアセトンを減圧下に留去することにより可溶性画分を得ることができる。
【0029】
次に可溶性画分に対してn−ヘキサンを等量加えて良く混合撹拌し、静置後、n−ヘキサン層を除去する。
この操作を2〜3回繰り返すことにより、水溶性画分を得ることができる。
この様にして目的とする細胞傷害性活性を有する化合物を含む画分(以下、「粗精製画分」ということがある)を得ることができる。
【0030】
上記のようにして得た粗精製画分を試料として、以下の手順に従い、この画分の細胞傷害性活性を測定する。
【0031】
継代培養した上記のハイブリドーマ、ヒト大腸癌由来株化細胞、マウス大腸癌由来株化細胞を、それぞれ2〜3日間前培養する。
【0032】
ついで、所定の倍率に希釈した上述した粗標品を、所定量であらかじめ用意した大きさのシャーレに分注し、所定量のあらかじめ調製しておいたITESをこのシャーレに所定量ずつ分注する。
【0033】
次に、あらかじめ調製したEDRF培地を用いて、上述の各細胞を約2×10 cells/mLに調製し、これを上記のシャーレそれぞれに、所定量ずつ分注する。
【0034】
細胞の分注を終えた後に、これらのシャーレを5%COインキュベータ中、37℃にて約2日〜3日間培養し、各シャーレ中の細胞数(全数)と、生細胞数とを測定し、生存率を求めて細胞傷害性活性とする。
【0035】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
[カズノコからの細胞傷害性活性を有する化合物の抽出]
(1−1)材料等
カズノコは、オランダ産の市販品(−20℃にて冷凍保存されたもの)を購入したものを使用した。
【0037】
アセトンは和光純薬工業(株)より特級品を購入したものを使用した。また、水は、超純水を蒸留して使用した。マイクロチューブは、容量1,500μLのものをアシスト社より購入したものを使用した。
【0038】
(1−2)水溶性画分の調製
図1に示したフローチャートに従い、上述したカズノコ(冷凍重量10g)を室温で解凍した後に、フードプロセッサーにより破砕し、破砕液約7mLを得た。この破砕液を、4℃、70,000rpmにて60分間遠心し、不溶物を除去して上清約4mLを得た。
【0039】
この上清に対し、4℃に冷却した等量のアセトンを加え、4℃にて12時間静置し、その後、4℃、10,000rpmにて10分間遠心して沈殿を除去した。
続いて減圧下にアセトンを除去することにより可溶性画分を得た。
得られた可溶性画分に対して同じ体積のn−ヘキサンを加え、混合液を激しく混合した後、静置した。次に分液によりヘキサン層を除去した。
この操作を2回繰り返すことにより、水溶性画分を得た。この水溶性画分を試験用サンプルとした。
【0040】
(1−2)試料、試薬等
上記の実施例1で得られた、カズノコから得られた水溶性画分について細胞傷害性活性を検討した。
【0041】
細胞傷害性活性は、Colon−26を後述する条件にて培養し、総細胞数に対する生細胞数(生存率)を指標として評価した。
【0042】
マウス大腸癌細胞株Colon−26は、東北大学加齢医学研究所より分与を受けた。Colon−26の培養には、2%ウシ胎児血清(以下、FBSということがある)を添加したEDRF培地を使用した。FBSは56℃で30分間、非動化処理を行っている。
前記EDRF培地を、極東製薬工業(株)より購入して使用した。添加物であるインスリン、トランスフェリン、エタノール及びセレナイトは、シグマ社より購入して使用した。
【0043】
(1−3)マウス大腸癌細胞株Colon−26に対する水溶性画分の細胞傷害性活性の測定
継代培養したマウス大腸癌細胞株Colon−26を、カズノコから得られた水溶性画分の存在下に58cmのシャーレで2日間培養した後、生存率の測定を行った。
マウス大腸癌細胞株Colon−26の細胞の生存率は、WSR−8色素還元法(測定波長450nm)またはトリパンプルー色素排除法を用いて実施した。
その結果、図2に示した様に、カズノコから得られた前記水溶性画分の濃度に依存して細胞傷害性活性が認められ、前記EDRF培地の重量に対する前記水溶性画分の重量の割合が12.5%のときにマウス大腸癌細胞株Colon−26は完全に死滅した。
【実施例2】
【0044】
実施例1により得られたカズノコから得られた前記水溶性画分を、トリプシンにより処理した。その後、前記水溶性画分に残存する細胞傷害性活性を実施例1の場合と同様に実験を行った。
その結果、図3に示した様に、カズノコから得られた前記水溶性画分の細胞傷害性活性はトリプシンによる処理の影響を全く受けないことが判明した。
【実施例3】
【0045】
実施例1により得られたカズノコから得られた前記水溶性画分に対して100℃、20分間の加熱処理を行った。その後、前記水溶性画分に残存する細胞傷害性活性を実施例1の場合と同様に実験を行った。
その結果、図4に示した様に、カズノコから得られた前記水溶性画分の細胞傷害性活性は加熱処理による処理の影響を全く受けないことが判明した。
【実施例4】
【0046】
実施例1により得られたカズノコから得られた前記水溶性画分に対して、分子量1000で分画する限外濾過膜を用いて分画を実施した後、濾液、すなわち分子量1000以下の成分と、前記水溶性画分とを用いて実施例1の場合と同様に実験を行った。
前記濾液と前記水溶性画分とのそれぞれに含まれる成分濃度(タンパク質に換算した濃度、単位はμg/ml)に対する細胞傷害性活性の効果を測定したところ、図5に示した様に、前記濾液の活性は前記水溶性画分の活性に対して約10倍上昇しており、前記水溶性画分に含まれる活性因子は分子量1000以下であることが判明した。
【実施例5】
【0047】
実施例1により得られたカズノコから得られた前記水溶性画分に対して、アポトーシス誘導において発現されるCaspaseの阻害剤であるZ−VAD−FMK(Caspase Inhibitor VI、品番219007、コスモ・バイオ社)を共存させて実施例1の場合と同様の実験を実施した。その結果を図7に示す。
図6のうち、一番左のクロマトグラムは前記水溶性画分およびZ−VAD−FMKの双方を含まないもの、中央のクロマトグラムは前記水溶性画分のみを含むもの、一番右のクロマトグラムは前記水溶性画分およびZ−VAD−FMKの双方を含む場合のマウス大腸癌細胞株Colon−26の生存率を示す。
前記水溶性画分の細胞傷害性活性は消失し、マウス大腸癌細胞株Colon−26は、前記水溶性画分の存在しないコントロールレベルまで上昇した。
このことから、前記水溶性画分に含まれる化合物の細胞死誘導は、Caspase経路によるアポトーシスによるものであることが判明した。
【実施例6】
【0048】
生体内で常時発生しているスーパーオキサイドラジカルはガンの発生や様々な疾病の発症に関連があると言われている。
生体内でスーパーオキサイドラジカルの消去に関連している酵素はスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)であり、このSODはスーパーオキサイドラジカルを酸素と過酸化水素に変換する。
このSOD活性に類似するSOD様活性が実施例1により得られたカズノコから得られた前記水溶性画分が示すかどうかについて検討を行った。
SOD様活性の測定に際しては、同人化学社により販売されているSOD Assay
Kit−WSTを使用した。
その結果、前記水溶性画分は13.8unit/mlという比較的高いSOD様活性を示した。
しかしながら、100℃、20分間の加熱処理によりSOD様活性は消失したことから、前記水溶性画分の示す細胞傷害性活性因子と、SOD様活性因子とは関連性が無いことが判明した。
【0049】
[比較例1]
魚類の卵にはDHA(ドコサヘキサエン酸)の混入していることが予想される。このDHAによる細胞傷害性活性を測定し、実施例1により得られたカズノコから得られた前記水溶性画分の示す細胞傷害性活性と比較することとした。
DHAを100℃、20分間の条件で加熱処理したところ、図7に示す様に、DHAの細胞傷害性活性は明らかに低下した。この結果は、DHAに代表される多価不飽和脂肪酸類が熱により変性し易い事実と合致するものである。
従って、前記水溶性画分の示す細胞傷害性活性は、DHAに代表される多価不飽和脂肪酸類の示す細胞傷害性活性とは異なるものであることが判明した。
なお、前記水溶性画分の示す細胞傷害性活性と、DHAに代表される多価不飽和脂肪酸類の示す細胞傷害性活性とは異なることが顕微鏡観察により確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、細胞傷害性活性、特に、腫瘍細胞に対する細胞傷害性活性を必要とする医薬品の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】魚類の卵からの水溶性画分に含まれる化合物の抽出手順を示す図である。
【図2】魚類の卵からの水溶性画分の細胞傷害性活性を示す図である。
【図3】トリプシン処理の有無による魚類の卵からの水溶性画分の細胞傷害性活性に対する影響を示す図である。
【図4】加熱処理の有無による魚類の卵からの水溶性画分の細胞傷害性活性に対する影響を示す図である。
【図5】魚類の卵からの水溶性画分に含まれる化合物の分子量の影響を示す図である。
【図6】Caspaseの阻害剤の有無による魚類の卵からの水溶性画分の細胞傷害性活性に対する影響を示す図である。
【図7】DHAの有無による細胞傷害性活性の影響を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 魚類の卵からの水溶性画分に含まれる化合物が存在する系
2 魚類の卵からの水溶性画分に含まれる化合物が存在しない系
3 トリプシン処理を行った系
4 トリプシン処理を行なわなかった系
5、9 加熱処理を行った系
6、10 加熱処理を行なわなかった系
7 限外濾過による濾液による系
8 限外濾過を行なわなかった系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の卵から前記卵に含まれる液体成分を得、前記液体成分を有機溶媒により抽出して得られた有機溶媒抽出画分を除去することにより、前記液体成分に残る水溶性画分から得られる細胞傷害性活性を有する化合物。
【請求項2】
前記卵に含まれる液体成分に対し、親水性有機溶媒を添加することにより生じた沈殿物を前もって除去しておくことを特徴とする、前記液体成分に残る水溶性画分から得られる請求項1に記載の細胞傷害性活性を有する化合物。
【請求項3】
前記魚類の卵は、ニシン、タラ、サケ、トビウオ、ホキ及びシシャモからなる群より選
ばれる少なくとも一つの卵であることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞傷害
性活性を有する化合物。
【請求項4】
前記有機溶媒は、n−ヘキサン、トルエン、キシレン及びベンゼンからなる群より選ば
れる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞傷害性活性
を有する化合物。
【請求項5】
前記親水性有機溶媒は、アセトン、メタノール、エタノール及びイソプロパノールから
なる群より選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項2に記載の細胞傷害
性活性を有する化合物。
【請求項6】
前記細胞傷害性活性は、肺癌患者由来の癌細胞を用いたハイブリドーマ、ヒト大腸癌由
来細胞、マウス大腸癌由来細胞及びヒト末梢血リンパ球からなる群より選ばれる少なくと
も一つに対するものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞傷害
性活性を有する化合物。
【請求項7】
前記細胞傷害性活性を有する化合物は、分子量の範囲が50〜1000の範囲であるこ
とを特徴とする、請求項6に記載の細胞傷害性活性を有する化合物。
【請求項8】
前記細胞傷害性活性を有する化合物は、カスパーゼ阻害剤の存在下に失活するものであ
ることを特徴とする、請求項6又は7に記載の細胞傷害性活性を有する化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−56598(P2008−56598A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234658(P2006−234658)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(590006398)マルトモ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】