説明

細胞内の顆粒状構造物の測定方法

【課題】 本発明は、真核生物細胞内で生ずる細胞内分子を含む顆粒状構造物の発生状態を、画像解析装置を使用して定量的に計測する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、顕微鏡と画像解析装置を組み合わせた装置によって取得した画像を、顆粒状構造物をその大きさによって分類して解析することにより、顆粒状構造物の生成状況をより正確に、かつ定量的に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、細胞内の顆粒状構造物を測定する方法であって、以下の工程によって細胞あたりの顆粒状構造物の数量を測定することを特徴とする方法を提供する:前記細胞内の核を含む領域を認識することと、前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、前記顆粒状構造物をその大きさによって分類することと、前記分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の顆粒状構造物の測定方法に関する。より詳細には、本発明は、真核生物細胞内で生ずる細胞内分子を含む顆粒状構造物の発生状態を、画像解析装置を使用して定量的に計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外環境からの物理的・化学的刺激に伴って、あるいは細胞の自律的な細胞内反応に伴って、細胞内の特定の構造の分子が特定の場所に集中的に集合あるいは発生する現象は、生命現象において頻繁にみられることが明らかになってきた。現在の医学・薬学・農学を含む生物学関連の研究の成果から、この現象を伴う分子の挙動は生命現象において重要な働きを担っていることが明らかになってきており、また、この現象に関する研究成果は、電離放射線の生体への影響を評価する指標として、医薬・農薬の化合物デザインするための基本情報として、またそれら化合物の効果や毒性を評価する指標と利用されるなど、応用分野でも重要である。
【0003】
従来、顆粒状の構造物の発生を定量的に計測するには、顕微鏡下で細胞検体を直接目視し、顆粒の数を計測する方法、フイルムあるいは電子的に画像を取得し、その画像から目視で顆粒の数を計測する方法(非特許文献1)、あるいはフイルムあるいは電子的に取得した画像にたいしてある種の画像解析ソフトウエアを流用する方法(非特許文献2)がとられてきた。
【0004】
非特許文献1に開示された方法では、培養細胞に電離放射線を照射すると、DNAの切断が生じその近傍にヒストン分子のリン酸化という分子構造変化が局部的に発生する。その分子の構造変化を蛍光免疫染色で可視化すると、顆粒状の構造物が観察されるようになる。その際に細胞核の構造も可視化し両者の画像を同一画面上(フイルムなど)に取得する。この後、目視にて細胞核上に位置する顆粒状の構造物を数え、電離放射線が引き起こす細胞内の反応を定量的に評価する指標として用いた。
【0005】
非特許文献2に開示された方法では、非特許文献1と同様に、培養細胞に電離放射線の照射を行い、蛍光免疫染色を行って取得した画像に染色体in situ hybridizationの画像解析用ソフトウエア(ISIS、カールツアイス社製)を流用して顆粒状構造物の形成状態を定量化した。
【0006】
さらに、非特許文献3には、細胞表面受容体の活性化につづいて凝集することが知られている生じるある種の細胞内タンパクにあらかじめ蛍光タンパク(GFP)で融合した分子を細胞内で発現させる。細胞外から薬剤を投与し細胞表面受容体を活性化させGFP融合タンパクの凝集によって生じた顆粒状の蛍光シグナルを、顕微鏡と画像解析を組み合わせたシステム(アマシャムバイオサイエンス社(現GEヘルスケア社)製)を使ってその数を網羅的に統計解析することによって薬剤の効果を示す指標とする。
【0007】
このように、従来の目視による方法では、測定者の恣意・熟練度・疲労度などによる測定結果の誤りが生じやすいこと、
従来の画像解析ソフトウエアの流用では、解析パラメータの自由度が制限されていること、
従来の方法では、形成された顆粒状の構造物を網羅的に計測していたので、多くの時間と手間を要し、多量の検体を計測するうえでの現実的な制限を加える要因になっていること、
などの問題があった。
【非特許文献1】K. Rothkamm and M. Lobrich et al.、Evidence for a lack of DNA double-strand break repair in human cells exposed to very low x-ray doses、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA”、(USA)、2003年、Vol. 100、p.5057-5062
【非特許文献2】K. Rothkamm et al.、Pathways of DNA Double-Stranded Break Repair during the Mammalian Cell Cycle、“Mol. Cell. Biol.”、2003年、 Vol. 23、p. 5706-5715
【非特許文献3】R. H. Oakley et al.、The cellular distribution of fluorescently labeled arrestins provides a robust, sensitive and univeersal assay for screening G protein-coupled receptors、“Assay Drug Dev Technol”、2002年、Vol. 1、p.21-30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、真核生物細胞内で生ずる細胞内分子を含む顆粒状構造物の発生状態を、画像解析装置を使用して定量的に計測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、顕微鏡と画像解析装置を組み合わせた装置によって取得した画像を、顆粒状構造物をその大きさによって分類して解析することにより、顆粒状構造物の生成状況をより正確に、かつ定量的に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、種々の形態乃至大きさの顆粒状構造を一緒に解析するよりも、適当な大きさまたは凝集度の顆粒状構造物だけを細胞ごとに抽出して解析する方法の方が細胞表面受容体の活性状態を明瞭かつ迅速に測定できることが判明した。この解析方法は、細胞全体に形成する顆粒状構造物を網羅的に測定するための3次元的な走査型画像取得装置を必ずしも必要としないので、細胞標本の観察に広く用いられる非共焦点系の画像解析装置にも有効に適用できる。さらに、本発明は、細胞全体ではなく、細胞核という限定された領域に形成された顆粒状構造物を測定するだけで効率よく解析を行う方法も提供する。
【0010】
すなわち、本発明は、細胞内の顆粒状構造物を測定する方法であって、以下の工程によって細胞あたりの顆粒状構造物の数量を測定することを特徴とする方法を提供する:
前記細胞内の核を含む領域を認識することと、
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、
前記顆粒状構造物をその大きさによって分類することと、
前記分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出すること。
【0011】
本発明は、上記方法であって、
前記核を含む領域は、細胞核を発光性色素で染色することによって認識されること、および、
前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる分子を蛍光標識することによって認識されること、
を特徴とする方法を提供する。
【0012】
本発明は、細胞に対する刺激の影響を測定するための方法であって、
細胞に対して所望の刺激を与えることと、
上記方法によって、前記刺激によって前記細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することと、
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0013】
本発明は、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
上記方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することと、
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0014】
本発明は、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
上記方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することと、
を含むことを特徴とする方法。
【0015】
本発明は、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法を提供する:
前記細胞内の核を含む領域を認識することと、
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
【0016】
本発明は、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法を提供する:
前記細胞内の核を含む領域を認識することと、
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
【0017】
本発明は、上記方法であって、
前記核を含む領域は、細胞核を発光性色素で染色することによって認識されること、および、
前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる受容体またはこれに結合する分子を蛍光標識することによって認識されること、
を特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の細胞内の顆粒状構造物を測定する方法は、顆粒状構造物をその大きさによって分類し、細胞あたりの特定の大きさの顆粒状構造物の数量を測定することを特徴とする。
【0019】
本発明によって測定される細胞内の顆粒状構造物は、細胞内に形成されるどのような顆粒状構造物であってもよい。たとえば、細胞外環境からの物理的・化学的刺激に伴って、または細胞の自律的な細胞内反応に伴って細胞内の特定の分子が特定の場所に集中的に集合もしくは発生する現象が、生命現象において頻繁にみられるが、このような顆粒状構造物が含まれる。より具体的には、培養細胞に電離放射線を照射するとDNAの切断が生じ、その近傍にヒストン分子のリン酸化による分子構造変化が局部的に発生する。この分子の構造変化を可視化すると、顆粒状の構造物が観察される。また、細胞表面受容体がエンドサイトーシスによって取り込まれる際に凝集して顆粒状構造物となることが知られている。たとえば、該受容体に対するリガンドによって活性化すると、これにつづいてある種の細胞内タンパク質の凝集を生じることが知られている。このような凝集されたタンパク質も、顆粒状構造物に含まれる。
【0020】
本発明の方法を使用する細胞は、いずれの細胞を使用してもよい。たとえば、培養細胞を使用することができ、末梢静脈血等の血液、臓器、および組織などに由来する細胞を使用してもよい。また、細胞は、いずれの種に由来するものであってもよく、ヒト、ヒト以外の動物及び植物、並びにウイルス、細菌、バクテリア、酵母およびマイコプラズマ等の微生物であってもよい。
【0021】
本発明において、細胞あたりの顆粒状構造物の数量を測定は、以下の工程によって行う:
細胞内の核を含む領域を認識する工程、
細胞に存在する顆粒状構造物を認識する工程、
顆粒状構造物をその大きさによって分類する工程、
分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出する工程。
【0022】
上記それぞれの工程は、細胞の画像取得と画像解析が可能な装置を使用して行うことができる。たとえば、蛍光顕微鏡と画像解析ソフトウエアを組み合わせたシステムを使用して行うことができる。
【0023】
上記システムを使用して顆粒状構造物の測定を行うための解析アルゴリズムの例を図1を参照して説明する。
【0024】
まず、細胞内の核を含む領域を認識するために細胞核を染色する。核の染色は、当業者に既知のいずれの方法を使用してもよく、たとえば、CHO細胞などの細胞をDNA染色性の色素によって染色することができる。DNA染色性色素は、当業者に既知のいずれの色素を使用してもよいが、微小物質を効率よく検出できる発光系の色素(化学発光色素、蛍光色素、生物発光色素、生物蛍光色素など)を用いるのが好ましく、たとえば、DRAQ5、ヘキスト33258、およびPIなどを使用することができる。
【0025】
核染色した細胞に適当な励起光を照射すると、固有の蛍光を生ずるようになる(図1c)。たとえば、色素としてDRAQ5を使用した場合、ヘリウムネオンレーザー(633nm)で励起し、650〜700nmの蛍光を検出する。
【0026】
検出された蛍光の画像を取得し、一定の蛍光強度閾値を設定することによりって画像上に地図等高線様の線を描く。このとき閾値は、細胞核の位置と形態を反映するように設定する(図1d)。たとえば、図1dでは、核輪郭2で囲まれた部分が細胞核と認識される。また、本発明の方法で認識する細胞内の核を含む領域は、細胞核だけではなく、細胞核の周囲の一定領域をも含む領域とすることができる。
【0027】
次いで、細胞に存在する顆粒状構造物を認識する。たとえば、顆粒状構造物を構成する分子を蛍光性色素で標識しておき、標識からの蛍光を検出することによって行うことができる。標識は、当業者に既知のいずれの方法を使用してもよく、たとえば、顆粒状構造物を構成する分子を認識する抗体を用いて標識することができる。この場合、抗体の標識は、FITCなどの蛍光物質を直接的に抗体に結合させてもよく、または標識された2次抗体を使用して間接的に標識してもよい。あるいは、GFP融合タンパク質などの発光性あるいは蛍光性タンパクをあらかじめ結合させた任意の分子を細胞内に発現させ、その発光/蛍光を検出してもよい。
【0028】
標識した細胞に適当な励起光を照射すると、固有の蛍光を生ずる(図1b)。たとえば、GFPによって標識した場合には、アルゴンイオンレーザー(488nm)で励起し、515〜545nmの蛍光を検出する。検出された蛍光の画像を取得し、一定の蛍光強度閾値を設定することによりって画像上に地図等高線様の線を描き、任意の分子の局部的な凝集を顆粒状構造物として認識する(図1e、f)。たとえば、図1eでは、構造物輪郭3、4、5で囲まれた部分が顆粒状構造物として認識される。また、発光性の物質で標識した場合には、励起光を照射する必要はない。
【0029】
上記核および顆粒状構造物の標識/染色は、いずれを先に行ってもよく、また同時に行ってもよい。さらに、蛍光の検出は、それぞれに由来する蛍光を同時に取得することもできるであろう。
【0030】
次いで、核輪郭の内部に存在するか、または核輪郭に接する領域内に存在する構造物輪郭を選択する。これらを構造物輪郭の面積によって分類する(図1eでは、分類の結果を3種の四角でマークしてある)。また、該面積、すなわち顆粒状構造物の大きさは、当業者であれば、種々の実験および経験に基づいて、所望の大きさを決定することができる。たとえば、アッセイ系ごとに本発明の方法によって種々の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出し、所望の細胞状態を反映する大きさの顆粒状構造物を選択してもよい。
【0031】
また、このように、細胞内の顆粒状構造物の大きさによって分類することにより、従来の方法のように顆粒状構造物の大きさを分類せずに解析する方法と比べて、顆粒状構造物の生成と細胞状態との相関をより反映することができ、より正確に細胞状態を測定することができるであろう。
【0032】
最後に、顆粒状構造物の大きさによって分類されたデータが得られる。得られたデータから、分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物について、細胞あたりの数量を算出する。
【0033】
上記方法によれば、測定される細胞内の顆粒状構造物の数量に基づいて、細胞における種々の生命現象を解析することができる。特に、上記方法を使用して、たとえば細胞に対する刺激の影響、すなわち細胞が一定の刺激によって受ける影響を測定することができる。この場合、あらかじめ所定の刺激により細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の分子あたりの数量を測定することにより、細胞に対する刺激の影響を測定することができる。
【0034】
たとえば、リン酸化をはじめ、細胞の活性化状態に相関して細胞内分子が構造変化する(すなわち、顆粒状に凝集する)ことが知られているが、この顆粒に含まれる部位を認識する抗体を用いて、該分子を介した活性化状態を測定することができる。
【0035】
まず、細胞に対して所望の刺激を与える。これにより、細胞には、当該刺激により凝集されることが予想されるタンパク質などを含む顆粒状構造物が形成されることとなる。次いで、あらかじめ標識した、上記タンパク質などに対する抗体を該タンパク質などと結合させて、抗原抗体反応を生じさせる。これにより、標識抗体を介して、タンパク質などの分子の局部的な構造変化を顆粒状の画像として認識することができる。また、あらかじめGFP融合タンパク質などの発光性あるいは蛍光性タンパク質との融合タンパク質を細胞内に発現させ、その発光/蛍光を検出してもよい。
【0036】
上述のとおり、本発明の方法に従って、所定の刺激によって細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することにより、細胞に対する該刺激の影響を測定することができる。たとえば、該刺激の強度などを定量的に測定することができる。
【0037】
さらに、上記方法を利用することにより、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングすることができる。Gタンパク質共役型受容体(G-protein coupled receptor, GPCR)などのある種の受容体は、そのリガンドの結合などにより活性化されると、引き続いて脱感作の機構による不活性化とリサイクルのプロセスが生じることが知られている。この脱感作機構は、多くのGPCRに共通のものでありアレスチンと活性化状態のGPCRが結合して細胞内へ局在移行する(エンドサイトーシス)する過程が含まれる。この脱感作の過程は、アレスチンを介して可視的に観察/測定することができ、GPCRの活性化によりGPCRと共に細胞内で顆粒状に凝集することと考えられている。
【0038】
従って、本発明の方法を使用してアレスチンの凝集状態を測定することにより、GPCRの機能を調節する物質をスクリーニングすることができる。まず、細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、本発明の方法によってアレスチンを含む顆粒状構造の細胞あたりの数量を測定する。試験物質の接触により、アレスチンを含む顆粒状構造の数が増加した場合は、該試験物質は、GPCRを介した細胞機能のアゴニストであると考えられる。このように、本発明の方法を利用して、試験物質がGCPRを介して細胞を活性化するか否かをスクリーニングすることができる。
【0039】
さらに、上記方法を利用して、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングすることができる。たとえば、GCPRとそのリガンドの相互作用に影響を与える物質をスクリーニングするには、まず細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、該試験物質を接触させた細胞にリガンドを投与する。次いで、本発明の方法によってアレスチンを含む顆粒状構造の細胞あたりの数量を測定する。試験物質の接触により、アレスチンを含む顆粒状構造の数が減少した場合は、該試験物質は、GPCR/リガンドを介した細胞機能のアンタゴニストであると考えられる。このように、試験物質がGCPRとそのリガンドの相互作用に影響を与えるか否かを精度よく測定することができる。各細胞ごとに最大輝度の構造物を測定する方法は、測定を簡易にし、スループットの向上につながるので自動化に適している。
【0040】
また、上記方法は、細胞内の顆粒状構造物の大きさによって分類することにより、従来の方法のように顆粒状構造物の大きさを分類せずに解析する方法と比べて、顆粒状構造物の生成と細胞状態との相関をより反映することができることに基づいているが、本発明者は、顆粒状構造物の凝集度を分類することにより、顆粒状構造物と細胞状態との相関をより反映することができることも見出した。すなわち、1つの細胞内の顆粒状構造物のなかで、最も凝集した顆粒状構造物の凝集度が、より正確に細胞状態を測定することを見出した。
【0041】
上記知見に基づいて、より正確に細胞状態を測定する方法を提供することができるであろう。すなわち、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするために、まず細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、物質を接触させた細胞に、受容体に対するリガンドを投与し、以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定する:細胞内の核を含む領域を認識することと、細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。このとき、顆粒状構造物に凝集される分子を蛍光標識することにより、凝集度の指標として、顆粒状構造物の蛍光の輝度を使用することができる。それぞれの細胞において最も高い輝度の顆粒状構造物を細胞状態の変化の指標とすることにより、顆粒状構造物の形成をより正確に判断することができる。各細胞において最も高い輝度の顆粒状構造物の、その輝度が高くなるにつれ、顆粒状構造物の形成も増大していることを示す。このように凝集度に基づいて顆粒状構造物の形成を定量的に測定することにより、試験物質が受容体を介して細胞に影響を与えるか否かを測定することができる。
【0042】
また、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングすることもできる。まず、細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、物質を接触させた細胞に、受容体に対するリガンドを投与し、以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定する:細胞内の核を含む領域を認識することと、細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。このとき、顆粒状構造物に凝集される分子を蛍光標識することにより、凝集度の指標として該蛍光による輝度を使用することができる。これにより、各細胞において最も高い輝度の顆粒状構造物の輝度に基づいて、試験物質が受容体を介して細胞に影響を与えるか否かを測定することができる。
【0043】
たとえば、GCPRとそのリガンドの相互作用に影響を与える物質をスクリーニングするには、まず細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、該試験物質を接触させた細胞にリガンドを投与する。次いで上記方法によってアレスチンを含む顆粒状構造の細胞あたりの凝集度を測定する。このように、試験物質がGCPRとそのリガンドの相互作用に影響を与えるか否かを測定すればよい。
【0044】
上記方法は、いずれの測定装置および解析ソフトを使用して、画像を取得し個々の細胞核の位置および形状を認識してもよいが、たとえば、CompuCyte社、Cambridge, MA, USA)の主力製品である顕微鏡ベースのサイトメータ(Laser Scanning Cytometer, LSC(登録商標))シリーズ(2,3)を基本として設計されたイメージングサイトメータiCute(商標)を使用して画像を取得し、また上記アルゴリズムに基づいて個々の細胞核の位置と形状を認識させることができる。
【0045】
上記のような装置を使用することにより、取得した細胞内分子に由来する顆粒状の画像中の個々の顆粒について、並行して取得した細胞核の画像との関連において選択を行うことができる。また、取得した細胞内分子に由来する個々の顆粒をその性状(総輝度・面積・最大輝度・真円度)などを基準として分類することができる。また、取得した細胞内分子に由来する個々の顆粒について、その性状および細胞核の画像との関連の複合的な基準を組み合わせによって分類することができる。
【0046】
さらに、分類された顆粒状について、その総数などを、細胞内での生化学的挙動を定量的に示す指標として用いることが出来る。
【実施例1】
【0047】
本発明の方法に使用するアルゴリズムによる解析
骨肉芽腫細胞株であるU2OS細胞に、GFPで標識したアレスチン(アレスチンGFP)およびアドレナリン受容体を強制発現させた細胞において、本発明の方法に使用するアルゴリズムに基づいて解析を行った。アドレナリン受容体を化合物で活性化させると、これと連動してアレスチンGFPが顆粒状の構造物を細胞質内に形成する。顕微鏡と画像解析を組み合わせたシステム」には、CompuCyte社製のiCyteを使用した。
【0048】
図1の画像を得るために以下の操作を行った。
【0049】
ヒト骨肉腫細胞株U2OSにアドレナリン受容体遺伝子およびアレスチンGFP遺伝子を人為的に導入して発現させた細胞を使用した。98マイクロウェルプレートに1×104細胞の濃度で細胞を播種し、細胞がプレート底面に十分接着してから無血清の培地に交換し、一晩飢餓状態においた。アドレナリン受容体のリガンドであるイソプロテレノールを段階稀釈的に添加し、数分間保温することでアドレナリン受容体を活性化させ、アレスチンGFPの凝集を発生させた。パラホルムアルデヒドを添加することによって細胞を固定し、DRAQ5を添加して細胞核DNAを染色した。iCyteに搭載されたアルゴンイオンレーザ(488nm)でアレスチンGFPを励起し、緑色の蛍光をPMTで取得した。また、同時にヘリウムネオンレーザ(633nm)でDNAに結合したDRAQ5を励起し、濃赤色の蛍光をPMTで取得した。
【0050】
図1に解析結果を示す。まずCHO細胞をDRAQ5色素で染色すると細胞核が強く染色される。これに、633nmの励起光を照射することで固有の蛍光を生ずる(c)。
【0051】
この画像を上記のように取得して、一定の蛍光強度閾値(たとえば2000ピクセル値)に設定することで、画像上に地図等高線様の線を描いた。このとき閾値は細胞核の位置と形態を反映するように設定した(核輪郭)(d)。一方、顆粒状構造物を生成する分子をGFP色素で標識し、その画像を取得する(b)。一定の蛍光強度閾値(8000ピクセル値)に設定し、(b)の画像に対してさらに輪郭線を描いた(構造物輪郭)(d)。核輪郭の内部に存在する構造物輪郭を選択し、それを面積のパラメータによって更に分類した(図1eでは分類の結果を3種の四角でマークした)。最終的にパラメータごとに分類されたシグナルの集合が得られた。これに対して、異なる面積の顆粒状構造物を網羅的に統計処理した場合には、測定数不足または分布状態の異常などの理由から、薬剤濃度に対する機能変化の相関はほとんど見られなかった。
【実施例2】
【0052】
本発明を使用して解析を行った結果を図2に示す。顕微鏡と画像解析を組み合わせたシステム」には、CompuCyte社製のiCyteを使用した。骨肉芽腫細胞株であるU2OS細胞に、GFPで標識したアレスチン(アレスチンGFP)およびアドレナリン受容体を強制発現させた細胞を使用した。アドレナリン受容体をイソプロテレノールで活性化させると、これと連動してアレスチンGFPが顆粒状の構造物を細胞質内に形成する。
【0053】
図1同様に、以下の操作により画像を得た。
【0054】
パラホルムアルデヒドを添加することによって細胞を固定し、DRAQ5を添加して細胞核DNAを染色した。iCyteに搭載されたアルゴンイオンレーザ(488nm)でアレスチンGFPを励起し、緑色の蛍光をPMTで取得した。また、同時にヘリウムネオンレーザ(633nm)でDNAに結合したDRAQ5を励起し、濃赤色の蛍光をPMTで取得した。
【0055】
図2a上段は、受容体が非活性な状態、図2b上段は強く活性化している状態である。上記解析アルゴリズムをこれらの画像に適用したものが図2下段に示してある。四角のマークの数を総計し、一画像ごとの細胞数の差異の補正のために画像内の核輪郭の総数で割り算を行い、細胞1個あたりの四角のマークの数を算出した。これをアドレナリン受容体の活性化状態の指標とみなした。
【実施例3】
【0056】
図3Aは、上記実施例の解析を幅広いイソプロテレノール濃度範囲に適用したものを用量反応曲線グラフとして表示したものである。
【0057】
図3Aグラフを得るために以下の操作を行った。
【0058】
iCyteで算出され、面積パラメータで分類された細胞1個あたりの四角のマークの数を縦軸に、イソプレ照れノール濃度の対数を横軸にしたグラフを作製し、シグモイド非直線回帰式を計算によりあてはめ、その式に従った回帰線をグラフ上に描いた。さらに、この回帰式から50%有効量(EC50値)を算出した。回帰式の計算、EC50値、およびグラフの作製には、統計計算用ソフトウエアであるグラフパッド・プリズム(米国グラフパッド・ソフトウエア社)を使用した。
【0059】
横軸に薬剤濃度、縦軸にアドレナリン受容体の活性化状態の指標を示している。このグラフからは薬剤どうしの効果を客観的かつ定量的に相互比較するために頻繁に用いられる50%有効量(EC50値)が求められた。
【0060】
図3Bは、細胞核の輪郭を上記実施例と同じ方法で認識し、その範囲に存在するGFPシグナルに由来する最大輝度の値を細胞核輪郭ごとに求めた図である。幅広いイソプロテレノール濃度範囲に適用したものを用量反応曲線グラフとして表示した。CompuCyte社製のiCyteを使用して、認識した輪郭の中から任意の蛍光波長の一番高い輝度のピクセル値を選択した。
【0061】
iCyteで算出された平均MaxPixel値を縦軸に、イソプレテノール濃度の対数を横軸にしたグラフを作製し、図3Aのグラフを作製した方法と同様にシグモイド非直線回帰式を計算によりあてはめ、その式に従った回帰線をグラフ上に描いた。さらに、この回帰式から50%有効量(EC50値)を算出した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明を使用して顆粒状構造物の測定を行うための解析手順を示す顕微鏡写真。
【図2】本発明を使用して解析を行った結果を示す顕微鏡写真。
【図3】本発明の解析を幅広い化合物濃度範囲に適用した用量反応曲線グラフ。
【符号の説明】
【0063】
1・・・GFPの蛍光画像を下に描いた顆粒状構造物の輪郭
2・・・DRAQ5で染色された画像を下に描いた細胞核の輪郭(核輪郭)
3・・・面積のパラメータ(1〜2平方マイクロメータ)に分類された顆粒状構造物の輪郭の位置
4・・・面積のパラメータ(3〜7平方マイクロメータ)に分類された顆粒状構造物の輪郭の位置
5・・・面積のパラメータ(8〜18平方マイクロメータ)に分類された顆粒状構造物の輪郭の位置
構造物輪郭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内の顆粒状構造物を測定する方法であって、以下の工程によって細胞あたりの顆粒状構造物の数量を測定することを特徴とする方法:
前記細胞内の核を含む領域を認識することと、
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、
前記顆粒状構造物をその大きさによって分類することと、
前記分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出すること。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記核を含む領域は、細胞核を発光性色素で染色することによって認識されること、および、
前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる分子を蛍光標識することによって認識されること、
を特徴とする方法。
【請求項3】
細胞に対する刺激の影響を測定するための方法であって、
細胞に対して所望の刺激を与えることと、
請求項1または2に記載の方法によって、前記刺激によって前記細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
請求項2に記載の方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
請求項2に記載の方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の細胞あたりの数量を測定することと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法:
前記細胞内の核を含む領域を認識することと、
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
【請求項7】
細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与する工程と、
以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法:
前記細胞内の核を含む領域を認識することと、
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
【請求項8】
請求項6または7に記載の方法であって、
前記核を含む領域は、細胞核を発光性色素で染色することによって認識されること、および、
前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる受容体またはこれに結合する分子を蛍光標識することによって認識されること、
を特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−71374(P2006−71374A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253316(P2004−253316)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】