説明

細胞内エストラジオール結合タンパク質、このタンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびこのタンパク質を過剰発現する細胞

新規の細胞内エストラジオール結合タンパク質(「IEBP」)、ならびに、このタンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびにこのタンパク質を産生および/または過剰発現する種々の細胞および細胞株が本明細書中に記載される。IEBPは、エストロゲンのシグナル伝達の調節、およびエストロゲンに対する生理学的抵抗において役割を果たすと考えられている。従って、IEBPレベルの異常な上昇または下降は、エストロゲンのシグナル伝達とほぼ相関する疾患(一例として、乳癌および骨粗鬆症)の病因の要素となり得る。本発明の種々の実施形態は、例えば、治療化合物をスクリーニングするための手段を提供することによって、そして、治療のための遺伝子標的を同定することによって、これらの状態のための処置を開発するための重要なツールを提供すると考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下で、米国仮特許出願第60/468,717号(2003年5月7日出願)の優先権を主張し、この仮特許出願の内容は、本明細書に参考として援用される。
【0002】
(政府の権利)
本明細書に記載される発明は、National Institutes of HealthとCedars−Sinai Medical CenterのDivision of Endocrinology and Metabolismとで、助成金番号1 RO1 DK55843−01lA1の過程で生まれた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、エストロゲンのシグナル伝達およびこのシグナル伝達に対する抵抗性に関する。特定の実施形態において、本発明は、細胞内エストラジオール結合タンパク質、このタンパク質をコードする遺伝子、およびこのタンパク質を過剰発現する種々の細胞に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
エストロゲンは、男性および女性の両方において臨床的に重要である。エストロゲンは、成長、分化、および生殖組織の発生に影響を及ぼし、また、種々の疾患において役割を果たす。例えば、エストロゲンは、骨密度を維持し、心血管系においては、エストロゲンは、循環コレステロールレベルを低下させることによって、抗アテローム硬化性の効果を発揮する。
【0005】
エストロゲンのレベルおよび/または効果を制御することは、乳癌の大部分の形態において重要である。1200万人を超える人々が、今年、全世界で乳癌と診断される。米国単独で、ほぼ211,300名の女性および1,300名の男性が、毎年新たに乳癌と診断されている。今日、乳癌は、女性における癌の死亡の第2位の原因であり、皮膚の癌を除いて、女性では最も一般的な癌である。
【0006】
エストロゲンレセプターは、エストロゲンに結合する特化されたタンパク質である。これらのタンパク質は、特定のエストロゲン感受性組織内で有意な量で見出される。乳房組織内の細胞は、エストロゲンレセプターを含み、例えば、エストロゲンレセプターへのエストロゲンの結合は、これらの細胞を増殖するように刺激する。多くの乳癌腫瘍はまた、有意なレベルのエストロゲンレセプターを含み、従って、「エストロゲンレセプター陽性(「ER+」)」といわれる。
【0007】
乳癌細胞の成長および増殖を中断するかまたは遅らせるために使用された1つの従来の方法は、エストロゲンの効果を減少させることである。ER+乳癌細胞の増殖は、一般に、エストロゲンレセプターをブロックすること、ホルモンレベルを低下させること、および/または増殖シグナルを受容するために利用可能なレセプターの数を減少させることによって制御され得る。乳癌を処置するかまたは乳癌の発生の防止を補助する従来の方法は、選択的エストロゲンレセプター調節物質(「SERM」)を投与することによる。このモジュレーターは、増殖シグナルが細胞に達しないようにすることによって、エストロゲンレセプターをブロックする。SERMは、身体における特定のエストロゲンレセプターを標的とし、特定の器官に依存して、エストロゲン様応答を刺激または抑制する。乳房細胞において、SERMは、アンタゴニスト特性を有し、エストロゲンの効果をブロックし、それにより、乳癌細胞の増殖を遅らせる。
【0008】
タモキシフェン(AstraZenica PLC;London,UKから商標名NOLVADEXで入手可能)は、一般に使用されるSERMであり、これは、進行性の初期の乳癌を処置するために使用される。タモキシフェンはまた、乳癌の主な要望のための治療として使用される。タモキシフェンはほぼ20年近く乳癌を処置するために使用されてきたが、いくつかの重大な欠点を有する。タモキシフェン治療は、子宮内層の癌(すなわち、子宮内膜癌および肉腫)、深部静脈内の血餅(すなわち、深部静脈血栓)、肺における血餅(すなわち、肺塞栓症)、および白内障の危険性を増大させ得る。他の有害な副作用としては、のぼせ、膣分泌物、および月経不順が挙げられ得る。
【0009】
エストロゲンのレベルおよび/または効果の制御は、骨粗鬆症の処置および予防においても重要である。骨粗鬆症は、骨量および骨密度における進行性の減少;骨が異常に細くなり、弱くなり、そして骨折しやすくなることによって特徴づけられる一般的な骨格の障害である。骨密度は、ほぼ35歳で自然に減少し始めるが、女性は、エストロゲンの生成が減少し始めるせいで、閉経後に骨粗鬆症の危険性は不均衡である。閉経後、ホルモン療法を受けていない女性において、エストラジオールレベルは、一般に約10〜20pg/mlである。閉経後の女性において健康な骨を維持するために必要とされるエストレジオールの平均レベルは、約40〜50pg/mlである。骨粗鬆症は、閉経と関連して最も重大な健康上の問題である;65歳を超えた女性の25%が、骨粗鬆症に罹っている。
【0010】
骨粗鬆症は、推定4400万人の米国人についての重大な公衆衛生上の脅威である。今日、米国において、1000万人の個体が、既にこの疾患を有すると推定されており、ほぼ3400万人以上が、低骨量を有すると予測されており、骨粗鬆症の危険性が増大している。1000万人の米国人のうち、骨粗鬆症を有すると推定されているのは、800万人が女性であり、男性は、わずか200万人にすぎない。
【0011】
エストロゲンは、細胞の増殖と関連しているので、骨粗鬆症処置における臨床目的は、エストロゲンの効果を増大させることである(多くの乳癌処置の臨床目的とは反対である)。従来の骨粗鬆症治療は、抗再吸収薬物、骨形成剤(bone−building agent)、および非薬理学的介入が挙げられる。ビスホスホネートは、抗再吸収薬物であり、骨粗鬆症の予防および処置のために広く利用されている;ビスホスホネートは、骨の分解および除去(すなわち、再吸収)を阻害し、代表的には、骨粗鬆症の処置および予防のための第1の選択肢である。しかし、有害な副作用(例えば、腹痛、悪心、ならびに筋肉痛および関節痛)に加えて、ビスホスホネートを摂取しているいくらかの患者は、重篤な消化性の反応を発生させ、この反応としては、食堂の過敏(irritation)、炎症または潰瘍形成が挙げられる。これらの反応は、胸痛、胸焼けまたは嚥下困難または嚥下の際の疼痛を引き起こす。ラロキシフェンは、骨粗鬆症を処置するために一般に使用されている別のSERMであるが、血餅の危険性を有し、種々の副作用(喀血、重篤な頭痛、発語、協調もしくは視力の喪失、腕、胸部もしくは足の疼痛もしくはしびれ、および息切れ)を引き起こしうる。骨粗鬆症のためのさらに別の従来の処置は、エストロゲン−プロゲスチン治療であるが、このアプローチは、副作用(例えば、膣からの出血、腫脹、悪心、頭痛、および流体の停滞が挙げられる)と関連する。エストロゲン−プロゲスチン治療は、もはや、閉経後の女性における骨粗鬆症の第1線にたつ処置ではない。なぜなら、乳癌、発作、血餅、およびおそらく冠状動静脈疾患の危険性が増えるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
エストロゲン関連疾患の従来の処置は、実質的な欠点を有する;多くは、部分的に有効であるに過ぎず、有害な副作用を有し、関連した状態の治癒をほとんど提供しない。現在のエストロゲン関連疾患を処置するための従来の方法は、全ての患者に適切でなくてもよい。前述および他の理由から、エストロゲンシグナル伝達の調節を制御するために使用されうる臨床的介入の必要性がある。このような介入は、エストロゲンのレベルに関連した疾患状態および健康状態;例えば、乳癌および骨粗鬆症、を処置または予防するための重要なツールである。これらの状態を担う生体分子経路の理解は、これらの状態を処置し、そして最終的には治癒させることにおいて非常に重要である。治療的介入の試験および診断技術における臨床モデルとして使用されうる細胞株は、この点において非常に有用でもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明の種々の実施形態は、新規細胞内エストラジオール結合タンパク質(「IEBP」)、およびこのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、エストロゲンの生物学的活性は、例えば、その発現またはシグナル伝達を阻害または増強することによるのと同様に、IEBPによって調節されうる。より具体的には、IEBPのレベルを増大させることによって、エストロゲンのシグナル伝達は阻害されると考えられる。逆に、IEBPのレベルを抑制するか、阻害するかまたは他の方法で低下させることは、エストロゲンシグナル伝達を増強する。IEBPは、17β−エストラジオール(E2)に結合し、エストロゲンレセプター(ER)と競合させることによって、E2へ結合するエストロゲン応答エレメント転写活性化を阻害する。
【0014】
本発明のさらなる実施形態は、IEBPをコードするポリヌクレオチドを含む、細胞および細胞株を記載する。本発明のなおさらなる実施形態は、IEBPを生成および/または過剰発現する、細胞および細胞株を記載する。
【0015】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面とともに、以下の詳細な説明から明らかになる。添付の図面は、本発明の実施形態の種々の特徴を例示によって示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、エストロゲンシグナル伝達を調節する方法が、新世界ザルにおけるホルモン抵抗性を理解することから得られ得ることを見出した。旧世界ザル(ヒトを含む)と比較すると、新世界ザルは、副腎(adrenal)ホルモン、副腎(gonadal)ホルモンおよびビタミンDステロール/ステロイドホルモン(17β−エストラジオールを含む)に対する相対的抵抗性を示す。メスの新世界ザルにおいて、このホルモン抵抗性表現型は、血漿エストラジオールおよびプロゲステロンの濃度の上昇によって特徴づけられる。この新世界ザルにおけるホルモン抵抗性についての正確な機構は、十分には理解されていないが、特定のホルモンに対する核レセプターの異常な発現(これは、ヒトにおけるホルモン抵抗性の主要な原因である)には関連しない。代わりに、新世界ザル細胞におけるホルモン抵抗性は、低親和性レセプター−ステロイド結合動態またはレセプター−DNA相互作用が弱くなることのいずれかを生じる後生的な要因に起因するようである。例えば、新世界ザル細胞におけるグルココルチコイド抵抗性の研究により、熱ショックタンパク質(hsp)90に関連した、FK506に結合するイムノフィリン(immunophilin)FKBP51(これは、グルココルチコイドレセプターへのリガンド結合を74%阻害する)の発現の上昇を示した。
【0017】
新世界ザルにおけるビタミンD抵抗性は、hsp−70様細胞内ビタミンD結合タンパク質(「IDBP」)のおよびドミナントネガティブ活性化ビタミンDエレメント結合タンパク質(「VDRE−BP」)の異常な発現に起因するようであり、VDRE−BPは、ヘテロ核リボ核タンパク質A(「hnRNPA」)に相同である。ビタミンDと類似の様式で、新世界ザルにおけるエストロゲン抵抗性は、2つの補償的タンパク質の過剰発現と関連する:細胞内エストラジオール結合タンパク質(「IEBP」)および非レセプター関連性エストロゲン応答エレメント結合タンパク質(「ERE−BP」)。
【0018】
新世界ザルにおけるエストロゲン抵抗性および高レベルの循環ステロイドホルモンの裏側にある生化学的機構の理解を増すことによって、エストロゲンおよび他のステロイドホルモンに関連する疾患を処置および診断するための新たな機会が得られた。本発明は、新世界ザルにおけるエストロゲン抵抗性に関する本発明者らの研究の驚くべき結果に基づく。上記のように、彼らは、このエストロゲンに対する抵抗性が、2つの補償的タンパク質:IEBPおよびERE−BPの過剰発現と関連したことを見出した。
【0019】
エストロゲン効果は、一般に、エストロゲンレセプター(「ER」)を通じて媒介される。代表的には、ERは、そのリガンド結合ドメイン(すなわち、エストロゲン)に結合する場合に活性化する。そのERシグナル伝達に関する古典的な経路は、エストロゲン応答エレメント(「ERE」)へのレセプター結合により媒介され、EREは、ERが高親和性で結合する特異的DNA配列である。そのERは、リガンド結合、DNA結合および細胞シグナル伝達経路によるリン酸化の結果として、コンホメーション変化を受ける。このコンホメーション変化は、転写を活性化させることを可能にする。そのERリガンドが阻害されるかまたはERダイマーに十分なエストロゲンが存在しない場合、ERは、活性化され得ず、EREの転写は、減少するかまたは進まない。
【0020】
IEBPは、熱ショックタンパク質−27(「hsp27」)ファミリーのメンバーであると考えられている。Hsp27は、ヒト乳癌細胞の抽出物中で、熱ショック応答性タンパク質(IEBPに特徴的である特徴)として、およびエストロゲン応答性タンパク質として、初めて同定された。新世界ザルにおけるヒトhsp27とIEBPとの間のcDNAの相同性の比較により、292nt重複において89.4%同一性があることが示唆される。
【0021】
以下でさらに詳細に記載されるように、用語「IEBP」は、本明細書で使用される場合、天然に存在するIEBP(例えば、ヒトhsp27タンパク質)のアミノ酸残基配列を有するタンパク質に言及するのみならず、他の等価なタンパク質(例えば、その天然に存在するIEBPまたは合成IEBPの機能的誘導体および改変体)、ならびにIEBPに類似の様式で機能する活性部位を有する化合物にも言及する(これらの化合物が、それら自体天然に存在しようが合成であろうが関係ない)。
【0022】
hsp27と同様に、IEBP発現は、熱ショックに応答して増大した。さらに、IEBP発現は、男性よりも女性において顕著であるが、卵巣摘出後の女性の乳房においては減少していた。これらの特徴は、IEBP発現のエストロゲン応答性を立証する。Chenら,「Purification and Characterization of a Novel Intracellular 17β−Estradiol Binding Protein in Estrogen−Resistant New World Primate Cells」,J.Clin.Endocrinol.Metab.,88:501−504(2003)。いかなる理論にも拘束されることを望まないが、そのhsp27関連したIEBPは、エストロゲンレセプターα(ERα)のリガンド結合ドメインに結合し、17β−エストラジオール(「E2」)−ERα媒介性転写を抑制するように作用すると考えられる。ERα(すなわち、E2)のリガンド結合ドメインへの結合によって、IEBPは、E2についてERαと競合するので、EREトランス活性化を阻害すると考えられる。IEBPは、リガンド結合についてERαと競合し、17β−エストラジオール−ER指向性シグナル伝達を抑制する。IEBPは、EREと結合もせず、EREに結合して、トランス活性化を阻害するためにERと競合もしないとさらに考えられる。
【0023】
IEBPは、そのIEBPが連結されているERとは異なる様式でのエストロゲン結合のための核外蓄積物として作用する。IEBPは、ERα発現には直接的には影響を及ぼさないようである。本発明者らの研究からのデータは、hsp27関連IEBPは、細胞質ERについてのコレプレッサーまたはシャペロンとして作用し、エストロゲン結合の際にこの機能が解離または不活化のいずれかをする。
【0024】
ERE−BPは、hnRNP C(ヘテロ核リボヌクレオタンパク質)ファミリーのメンバーである。ERE−BPの中心RNPを含有するドメインは、他のhnRNPに対して高度の配列類似性を保有するが、これらの同じRNA結合部位もまた、DNAに対するERE−BPの結合を担うか否かは明らかではない。hnRNPとERE−BPとの間の一次構造の類似性にも関わらず、EREは、いくつかの局面ではhnRNPの古典的プロフィールとは異なる。例えば、ERE−BPは、細胞の核区画には制限されない。最近の研究に基づくと、ERE−BPは、新世界ザルの細胞の核後抽出において、ならびにエストロゲン抵抗性細胞の細胞質区画および核区画の両方から、単離された。さらに、ERE−BPは、それが核酸に結合する能力において多様であるようである。ERE−BPは、一本鎖DNAまたは二本鎖DNAに結合し得、そしてまたRNAとも相互作用し得る。Chenら、「Cloning and Expression of a Novel Dominant−Negative−Acting Estrogen Response Element−Binding Protein in the Heterogeneous Nuclear Ribonucleoprotein Family」J Biol Chem,273:31352−31357(1998)。
【0025】
ERE−BPは、ERと競合してEREに結合することによって、ER−EREのトランス活性化を抑制するように作用すると、考えられる。ERE−BPは、EREに結合し、Eのリガンドには結合しない。ERE−BPは、ドミナントネガティブなシス作用様式で作用して、その応答エレメントについてERと競合することによって、トランス活性化を抑制する。EREと直接作用しER結合に干渉することによって、ERE−BPは、ER作用をサイレンシングする。
【0026】
IEBPは、Eについての細胞内貯蔵所として作用することにより、またはERのリガンド結合ドメインへの結合により、ERE−BPと協働し得る。いずれの場合においても、正味の効果は、ERBPが、ER−ERホモダイマー化を妨害し、それによりエストロゲン抵抗性を成立させることである。
【0027】
エストロゲン抵抗性NWP細胞の核後抽出物からE親和性クロマトグラフィーにより精製されたタンパク質のトリプシン消化ペプチドのアミノ酸配列に基づいて、本発明者らは、「小さい熱ショックタンパク質」(ヒトhsp27ならびにクリスタリンAおよびクリスタリンBが挙げられる)に対する類似性によりIEBP cDNAの増幅を可能にする縮重プライマーを設計することが可能であった(図1A)。新世界ザルのIEBPと、ヒトhsp27との間の、高度の配列同一性(87%)(図1B)は、IEBPが、おそらくヒトhsp27の種間ホモログであることを示す。小さい熱ショックタンパク質(sHsp;15〜42kDa)のファミリー(これは、hsp27を含む)は、原核生物および真核生物の両方において見出される。ヒトゲノムにおいて、hsp27は、第3染色体、第7染色体、第9染色体、およびX染色体上の4つの異なる遺伝子によってコードされる。そのような重複性は、コードされたタンパク質がその宿主の生存のために重要であることを示す。それらのタンパク質の70kDa、90kDaおよび60kDaの分子量範囲にある対応物と同様に、上記sHspは、(1)細胞「ストレス」(hsp遺伝子のプロモーター中の特異的熱ショックエンハンサーエレメントと相互作用する熱ショック因子により伝達される熱ストレスを含む)によってアップレギュレートされ、(2)それらのsHspが結合している細胞内タンパク質の構造および機能の完全性を保護する「分子シャペロン」として機能し得る。上記の70kDaファミリー、90kDaファミリー、および60kDaファミリーの熱ショックタンパク質とは異なり、sHspは、(1)そのアミノ酸配列があまり相同ではなく、(2)アポトーシスを防止することにおいて中心的役割を果たし、(3)細胞骨格およびその中の細糸構造の組織化のために重要であり、(4)自己オリゴマー化のために必要とされて、ヒトの水晶体の難治性質を提供するようである。
【0028】
そのN末端アミノ酸配列およびC末端アミノ酸配列は、sHspファミリーのメンバー間および種間でかなり変化し得るが、そのsHsp分子の一般的ドメイン構造は、進化の間を通して高度に保存されたままである。約90残基の中心αクリスタリンドメインには、可変のN末端伸長部およびC末端伸長部が隣接する。このC末端伸長部(極性構造)は、現在、その分子のシャペロン機能の主要媒介因子であると考えられており、一方、保存されたα−クリスタリンおよび可変のN末端ドメインは、そのsHspの多量体化のために必須であると考えられる。ヒトhsp27と高度に相同であることに加えて、α−クリスタリンと比較した場合(図1Aおよび図1B)、エストロゲン抵抗性新世界ザル細胞から単離されたIEBPは、本明細書中で、可変のN末端伸長部およびC末端伸長部が隣接した、代表的な保存された中心α−クリスタリンコアドメインを保有することが決定された。IEBPは、それがE親和性支持体に付着する能力により単離されたことを考慮して、IEBP配列は、エストロゲン結合部位の存在について走査された。図1Aにおいて示されるように、ERαのリガンド結合ドメインのうちの21アミノ酸ストレッチに対して38%同一性を有する配列が、上記分子の高度に保存されたα−クリスタリンコアドメインにおいて検出された。公式なマッピング研究が完了しなかったが、IEBPを構成的に過剰発現する細胞においてE結合の増強を担うのは、IEBPのこの部分とそのヒトホモログhsp27であることが、推定される(図3B)。さらに、推定E結合サブドメインは、sHspの保存されたα−クリスタリンドメイン中に存在するので、エストロゲン結合は、sHsp27ファミリーの他のメンバーの関数であり得ることが、可能である。上記の保存されたα−クリスタリンドメイン中にある大きな方の熱ショックタンパク質(例えば、hsp70、hsp90、およびhsp60)の原型であるATP結合/ATPアーゼドメインに対するいくらかの配列同一性が存在するが、IEBPおよび他のhsp70様タンパク質の機能を支配することにおいてATPが有する役割は、もしあったとしても、決定されるべき状態のままである。
【0029】
熱ショック因子と相互作用し得る上記のエンハンサーシスエレメントを保有することに加えて、hsp27プロモーターはまた、Sp1部位およびTATAボックスに直接隣接する、エストロゲン応答エレメント(ERE)の半分の部位を含む。このEREの半分の部位は、ERαと相互作用することが示され得るが、多数の実験室により報告されたようなhsp27遺伝子のE指向的トランス活性化は、このEREの半分の部位を必要としない。本発明者らの研究によって、抗ヒトhsp27反応性IEBPは、エストロゲン応答性遺伝子産物であり、ER飽和濃度のEに対して一晩暴露された後に顕著にアップレギュレートされることが確認される(図5A)。従って、IEBPは、そしておそらくはそのヒトホモログであるhsp27は、エストロゲンによりアップレギュレートされる遺伝子産物であり、この遺伝子産物は、その後、同じホルモンに結合し得る。これらの結果は、Eが、E相互作用タンパク質の発現をアップレギュレートし得、このE相互作用タンパク質は、その後、E−ERα−ERE指向的トランス活性化を鎮静し得ることを示す(図2および図3)。このことは、IEBP遺伝子発現またはhsp27遺伝子発現の転写的ダウンレギュレーションは、その遺伝子産物がエストロゲン駆動性発現を鎮静するが完全に抑制するわけではない(図2、バー3およびバー4)能力を介してその遺伝子産物により達成され得ることを、示唆する。換言すると、hsp27またはIEBPは、自己調節され得る(すなわち、E−ERα指向性hsp27発現が増加した場合、これは、hsp27プロモーターのレベルにてその後のE2−ERエンハンサー作用を弱めるタンパク質を生じる)ことが、可能である。そのようなネガティブフィードバックシステムは、Eにより促進されるトランス活性化を抵抗して調節するように作用する。
【0030】
ERαを保有するヒト乳癌は、エストロゲン指向性増殖の利点に対して感受性である。このことは、この疾患における補助化学療法剤としてのSERMの広範な使用をもたらしている。EによりERαが占有されると腫瘍細胞の成長および増殖におけるこの変化に影響を与える機構は、集中的に調査される領域のままである。Eへの暴露によりヒトERα発現乳癌細胞において活性化される遺伝子のうちの1つは、hsp27(本明細書中で報告される新世界ザルIEBPのヒトホモログ)である。同様に、エストロゲン駆動性hsp27発現は、SERMに対して細胞を暴露することによって鎮静され得る。このことは、ERαと同様に、hsp27の調査をもたらした。なぜなら、hsp27腫瘍発現を伴うヒト乳癌腫瘍マーカーは、現在、腫瘍細胞におけるエストロゲン−ERα相互作用の「下流」指標であると示唆されるからである。いくつかの(しかし全てではない)研究において、hsp27発現は、ERα発現と相関することが示された。従って、本件急の一部として実行された共免疫沈降、酵母ツーハイブリッドアッセイおよびGST沈下(pull down)アッセイ(図5Bおよび図6)において、hsp27様IEBPとERαとの間に直接的タンパク質−タンパク質相互作用についての証拠が存在し、この相互作用は、Eの存在下で促進され、臨床的に有用なSERMタモキシフェンに対して暴露することにより妨害されたことに、注目すべきである。これらのデータは、乳癌細胞によるERαおよびIEBPの同時発現が、互いに対して機能的かつ時間的に連結され得ることを示唆する。インビトロでの乳癌細胞の挙動に対する、IEBP(hsp27)およびhnRNP関連ERE−BPのE−ERα−ERE指向性転写の、付加的なドミナントネガティブに作用する鎮静の結果は、現在調査中である。
【0031】
従って、本発明は、新規なIEBP、およびそのIEBPをコードするポリヌクレオチドに関し、特に、単離および/または精製されたIEBPと、その対応するコード配列とに関する。本発明のさらなる実施形態は、IEBPをコードするポリヌクレオチドを含む細胞および細胞株、ならびにIEBPを生成および/または過剰発現する細胞および細胞株に関する。本発明のIEBPの推定ペプチドが、配列番号1として示される。このIEBPペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号2として示される。本発明の種々の実施形態において使用されるIEBPの全長cDNAに対応するポリヌクレオチド配列は、配列番号3として示される。このcDNAは、後の実施例においてより詳細に記載されるように、エストロゲン抵抗性細胞株であるB95−8からクローン化された。
【0032】
DNA、RNA、ポリペプチドもしくはタンパク質の修飾語としての本明細書および特許請求の範囲における用語「単離(された)」および/または「精製(された)」の使用は、そのように示されるDNA、RNA、ポリペプチドもしくはタンパク質が、人工的にそのような形態で生成されており、従って、その天然のインビボ細胞環境から分離されていることを、意味する。この人の介入の結果として、本発明の組換えDNA、組換えRNA、組換えポリペプチド、および組換えタンパク質は、それらが天然で存在したようなDNA、RNA、ポリペプチド、もしくはタンパク質ではない本明細書中に記載される様式で、有用である。
【0033】
本発明の現在好ましいIEBPタンパク質としては、配列番号1のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列およびそのフラグメント、ならびにそれらの生物学的に活性な改変形態が挙げられる。当業者は、上記の配列のうちの多数の残基が、化学的、立体的、および/または電気的に類似する残基によって、生じるレセプター種の生物学的活性を実質的には改変することなく置換され得ることを、認識する。さらに、配列番号1と実質的に同じ配列を中に含む、より大きなポリペプチド配列(例えば、スプライス改変体)が、企図される。
【0034】
本明細書中で使用される場合、用語「実質的に同じアミノ酸配列」とは、参照アミノ酸配列に対して少なくとも約70%の同一性を有し、かつその参照アミノ酸配列により規定されるタンパク質が特徴とする匹敵する機能的かつ生物学的な活性を保持する、アミノ酸配列を指す。好ましくは、「実質的に同じアミノ酸配列」を有するタンパク質は、参照アミノ酸配列に対して少なくとも約80%(より好ましくは90%)のアミノ酸同一性を有し、約95%を超える同一性が、特に好ましい。しかし、スプライス改変体として生じるか、保存的アミノ酸置換により改変されるか、または縮重コドンの置換により生じる、記載されたレベルに満たない配列同一性を含むポリペプチド(もしくは本明細書中上記で核酸と呼ばれる)もまた、本発明の範囲内に包含されることが、認識される。
【0035】
用語「生物学的に活性な」または「機能的な」とは、本明細書中で本発明のIEBPタンパク質またはそのポリペプチドフラグメントの修飾語として使用される場合には、IEBPに帰せられる機能的特徴のうちの少なくとも1つを示すポリペプチドを指す。例えば、IEBPのある生物学的活性は、哺乳動物細胞中で過剰発現された場合にその哺乳動物細胞にエストロゲン抵抗性を付与する能力である。
【0036】
本発明のIEBPタンパク質は、当該分野で周知の方法によって、例えば、種々の組換え発現系、沈殿、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、およびアフィニティクロマトグラフィーなどによって、単離され得る。他の周知の方法が、例えば、Deutscher ら、Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology Vol.182,(Academic Press,(1990))(これは、本明細書中に参考として援用される)に記載される。あるいは、本発明の単離されたポリペプチドは、例えば、Sambrook ら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されるような周知の組換え方法を使用して、入手され得る。
【0037】
本発明のポリペプチドを調製するための手段の例は、当該分野で周知の方法を使用して、IEBPをコードする核酸を適切な宿主細胞(例えば、細菌細胞、酵母細胞、両生類細胞(例えば、卵母細胞)または哺乳動物細胞)において発現し、これもまた周知の方法を使用して、発現されたポリペプチドを回収することである。本発明のIEBPポリペプチドは、本明細書中で記載されるような発現ベクターで形質転換された細胞から、直接単離され得る。本発明のポリペプチド、その生物学的に活性なフラグメントおよび機能的等価物もまた、化学合成により生成され得る。例えば、合成ポリペプチドは、Applied Biosystems,Inc.のModel 430AまたはModel 431Aの自動ペプチド合成機(Foster City,CA)を使用して、製造業者により提供される化学物質を使用して、生成され得る。
【0038】
また、用語IEBPにより包含されるものは、そのポリペプチドフラグメントまたはポリペプチドアナログである。用語「ポリペプチドアナログ」とは、本明細書中で具体的に示される配列(すなわち、配列番号1)に対して実質的に同一であるアミノ酸残基配列(機能的に類似する残基で1つ以上の残基が保存的に置換されている)を有し、かつ本明細書中に記載されるIEBPを模倣する能力を示す、任意のポリペプチドを包含する。保存的置換の例としては、ある非極性(疎水性)残基(例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン、もしくはメチオニン)で別の非極性(疎水性)残基で置換すること、ある極性(親水性)残基で別の極性(親水性)残基を(例えば、アルギニン−リジン間、グルタミン−アスパラギン間、グリシン−セリン間)置換すること、ある塩基性残基(例えば、リジン、アルギニン、もしくはヒスチジン)で別の塩基性残基を置換すること、またはある酸性残基(例えば、アスパラギン酸もしくはグルタミン酸)で別の酸性残基を置換することが、挙げられる。句「保存的置換」はまた、非誘導体化残基の代わりに化学的に誘導された残基を使用すること(但し、そのようなポリペプチドは、必要な結合活性を示す場合)を包含する。
【0039】
「化学的誘導体」とは、官能側鎖の反応により化学的に誘導体化された1つ以上の残基を有する対象ポリペプチドを指す。そのような誘導体化分子としては、例えば、遊離アミノ基が、塩酸アミン、p―トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、またはホルミル基を形成するように誘導体化された、分子が挙げられる。遊離カルボキシ基は、塩、メチルエステルおよびエチルエステル、もしくは他の型のエステル、またはヒドラジドを形成するように誘導体化され得る。遊離ヒドロキシ基は、O‐アシル誘導体またはO−アルキル誘導体を形成するように誘導体化され得る。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N−イム−ベンジルヒスチジンを形成するように誘導体化され得る。また、化学的誘導体として包含されるのは、20種の標準アミノ酸の1種以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含むペプチドである。例えば、4−ヒドロキシプロリンが、プロリンの代わりにされ得る。5−ヒドロキシリジンが、リジンの代わりにされ得る。3−メチルヒスチジンが、ヒスチジンの代わりにされ得る。ホモセリンが、セリンの代わりにされ得る。オルニチンが、リジンの代わりにされ得る。本発明のポリペプチドはまた、本明細書中に配列が示されるポリペプチドの配列と比較して、1つ以上の残基の付加および/または欠失を有する任意のポリペプチドを、必須活性が維持される限りは包含する。
【0040】
本発明はまた、受容可能なキャリアと、単離された精製IEBPポリペプチド、その活性フラグメントもしくはポリペプチドアナログ、またはそれらの精製された成熟タンパク質およびその活性フラグメントとを、単独でかまたは互いに組み合わせて含む、組成物を提供する。これらのポリペプチドまたはタンパク質は、組換え誘導されても、化学合成されても、または天然供給源から精製されてもよい。本明細書中で使用される場合、用語「受容可能なキャリア」とは、標準的な薬学的キャリア(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」)溶液、水、およびエマルジョン(例えば、水中油エマルジョンもしくは油中水エマルジョン))のうちのいずれか、ならびに種々の型の湿潤剤を包含する。
【0041】
本発明の別の実施形態に従って、本発明のIEBPタンパク質をコードする単離された核酸、およびそのフラグメントが、提供される。本明細書中に記載される核酸分子は、当業者にとって公知である種々のタンパク質発現系中にそのような核酸が組み込まれた場合に、本発明のタンパク質を生成するために有用である。さらに、そのような核酸分子またはそのフラグメントは、容易に検出可能な置換基で標識され得、そして所定のサンプル中のIEBP遺伝子もしくはmNRA転写物の存在および/または量についてアッセイするためのハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。本明細書中に記載される核酸およびそのフラグメントはまた、本明細書中に記載される本発明のタンパク質をコードする遺伝子を増幅するためのPCR反応において、プライマーおよび/またはテンプレートして有用である。
【0042】
用語「核酸」(また、ポリペプチドとも呼ばれる)は、リボ核酸(「RNA」)またはデオキシリボ核酸(「DNA」)、プローブ、オリゴヌクレオチド、およびプライマーを包含する。DNAは、相的DNA(「cDNA」)またはゲノムDNA(例えば、IEBPタンパク質をコードする遺伝子)のいずれかであり得る。IEBPポリペプチドをコードする核酸を単離するための一手段は、哺乳動物ゲノムライブラリーを、当該分野で周知の方法を使用して、天然のDNAプローブまたは人工的に設計したDNAプローブを用いてプロービングすることである。IEBP遺伝子から誘導されたDNAプローブは、この目的のために特に有用である。IEBPポリペプチドをコードするDNA分子およびcDNA分子は、哺乳動物供給源(例えば、旧世界のザル、新世界ザル、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ブタなど)もしくは他の動物供給源から相補的なゲノムDNA、cDNA、もしくはRNAを得るため、または従来の方法によるcDNAライブラリーもしくはゲノムライブラリーのスクリーニングにより、関連するcDNAクローンもしくはゲノムクローンを単離するために、使用され得る。核酸の例は、IEBPポリペプチドをコードする、RNA、cDNA、または単離されたゲノムDNAである。そのような核酸としては、配列番号2を含む核酸、配列番号3を含む核酸、それらの対立遺伝子改変体を含む核酸、またはそれらのスプライス改変体cDNA配列を含む核酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書中で使用される場合、句「スプライス改変体」または「選択的にスプライシングされた」とは、本発明のポリペプチドをコードする特定のヌクレオチド配列を記載するために使用された場合には、周知の真核生物RNAスプライシングプロセスから生じるcDNA配列を指す。そのRNAスプライシングプロセスは、真核生物の一次RNA転写物からのイントロンを除去しエキソンを連結して、細胞質の成熟RNA分子を生成することを包含する。スプライス改変体ヌクレオチド配列を単離する方法は、当該分野で周知である。例えば、当業者は、配列番号2のIEBPコードDNAから誘導されたヌクレオチドプローブ、配列番号3のIEBPコードDNAから誘導されたヌクレオチドプローブ、それらの対立遺伝子改変体から誘導されたヌクレオチドプローブ、それらのスプライス改変体から誘導されたヌクレオチドプローブ、または約10〜150ヌクレオチド長のそのフラグメントから誘導されたヌクレオチドプローブ、およびそれらのアンチセンス核酸を使用して、本明細書中に記載されるように同じ種または他の種のcDNAライブラリーもしくはゲノムライブラリーをスクリーニングし得る。
【0044】
本発明の一実施形態において、本発明のIEBPタンパク質をコードするDNAは、配列番号2、配列番号3、それらの対立遺伝子、およびそれらのスプライス改変体、ならびにそれらのアンチセンス核酸を包含する。
【0045】
本明細書中で使用される場合、用語「実質的に同じヌクレオチド配列」とは、参照ポリヌクレオチドに対して十分な同一性を有しており、中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で参照ヌクレオチドにハイブリダイズするようになっている、DNAを指す。一実施形態において、参照ヌクレオチド配列と同じヌクレオチド配列を有するDNAは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列をコードするか、または配列番号1を含むそれより大きなアミノ酸配列をコードする。別の実施形態において、参照ヌクレオチド配列と「実質的に同じヌクレオチド配列」を有するDNAは、その参照ヌクレオチド配列に対して少なくとも60%の同一性を有する。参照ヌクレオチド配列に対して少なくとも70%(より好ましくは少なくとも90%、なおより好ましくは少なくとも95%)の同一性を有するDNAが、好ましい。
【0046】
本発明はまた、配列番号2および配列番号3に示される核酸とは異なるが、同じ表現型を有する核酸を包含する。表現型が類似する核酸は、「機能的に等価な核酸」とも呼ばれる。本明細書中で使用される場合、句「機能的に等価な核酸」は、本明細書中に開示される核酸と同じタンパク質産物を産生するのと実質的に同じ様式で機能する、わずかな重要ではない配列バリエーションによって特徴付けられる核酸を包含する。特に、機能的に等価な核酸は、本明細書中に開示されるポリペプチドと同じであるか、または保存的アミノ酸改変を有するか、あるいは配列番号1を含むより大きなポリペプチドをコードするポリペプチドをコードする。例えば、保存的改変は、別の非極性残基での非極性残基の置換、または類似の荷電した残基での荷電した残基の置換を包含する。これらの改変としては、タンパク質の三次構造を実質的に変更しない改変のような当業者によって認識される改変が挙げられる。
【0047】
遺伝コードの縮重によって、特異的ハイブリダイゼーション条件下で本発明の核酸に必ずしもハイブリダイズしないIEBPポリペプチドをコードする核酸をさらに提供する。本発明のIEBPポリペプチドをコードする好ましい核酸は、配列番号1をコードする核酸およびそのフラグメントを含む。本発明のIEBPタンパク質をコードする例示的な核酸は、以下から選択され得る:
(a)配列番号1に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)中程度にストリンジェントな条件下でDNAにハイブリダイズするDNAであって、このDNAが生物学的に活性なIEBPをコードする、DNA、および
(c)上記(a)または(b)のいずれかに関するDNA縮重物であって、このDNAが、生物学的に活性なIEBPをコードする、DNA縮合物。
【0048】
本明細書中で使用される場合、用語「縮重」は、参照核酸(例えば、配列番号2または配列番号3)とは少なくとも1つのヌクレオチドが異なるが、参照核酸と同じアミノ酸をコードするコドンをいう。例えば、トリプレット「UCU」、「UCC」、「UCA」および「UCG」によって特定されるコドンは、互いに対して縮重している。なぜなら、これらのコドンの4つ全てが、アミノ酸セリンをコードするからである。
【0049】
ハイブリダイゼーションとは、水素結合による核酸の相補鎖の互いへの結合(すなわち、センス:アンチセンス鎖またはプローブ:標的−DNA)をいう;染色体DNAにおいて天然に存在する結合に類似する。所定のプローブを標的−DNAにハイブリダイズするために使用されるストリンジェンシーレベルは、当業者によって容易に変更され得る。
【0050】
句「ストリンジェントハイブリダイゼーション」は、ポリ核酸ハイブリッドが安定である条件をいうために本明細書中で使用される。当業者に公知なように、ハイブリッドの安定性は、ハイブリッドの融解温度(T)に反映される。一般的に、ハイブリッドの安定性は、ナトリウム濃度および温度の関数である。代表的に、ハイブリダイゼーション反応は、より低いストリンジェンシーの状態で実行され、続いて、種々のより高いストリンジェンシーで洗浄される。ハイブリダイゼーションストリンジェンシーに対する参照は、このような洗浄条件に関連する。
【0051】
本明細書中で使用される場合、句「中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション」とは、標的DNAに対して、約60%の同一性、好ましくは、約75%の同一性、より好ましくは、約85%の同一性を有する相補核酸に標的−DNAが結合し得る条件をいう;標的−DNAに対する約90%を超える同一性が特に好ましい。好ましくは、中程度にストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5×デンハート溶液、5×SSPE、0.2%SDS(42℃)でのハイブリダイゼーション、続く、0.2×SSPE、0.2%SDS(65℃)での洗浄に等しい条件である。
【0052】
句「高ストリンジェシーハイブリダイゼーション」とは、0.018M NaCl(65℃)において安定なハイブリッドを形成する核酸配列のみのハイブリダイゼーションを可能にする条件をいう(すなわち、ハイブリッドが0.018M NaCl(65℃)において安定でない場合、本明細書中に企図されるように、高ストリンジェシー条件下で安定ではない)。高ストリンジェンシー条件は、例えば、50%ホルムアミド、5×デンハート溶液、5×SSPE、0.2%SDS(42℃)でのハイブリダイゼーション、続く、0.1×SSPE、0.1%SDS(65℃)での洗浄によって提供され得る。
【0053】
句「低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション」とは、10%ホルムアミド、5×デンハート溶液、6×SSPE、0.2%SDS(42℃)でのハイブリダイゼーション、続く、1×SSPE、0.2%SDS(50℃)での洗浄に等しい条件をいう。デンハート溶液およびSSPEは、当業者に周知であり、他の適切なハイブリダイゼーション緩衝液も周知である。例えば、Sambrookら、上記を参照のこと。
【0054】
本発明のポリペプチド(単数または複数)をコードする好ましい核酸は、中程度にストリンジェントな条件(好ましくは、高ストリンジェンシー条件)下で、実質的に全ての配列または実質的な部分(すなわち、これに関して、より長いフラグメントが本発明の範囲内であるとして企図されるものの、代表的には、配列番号2または配列番号3の少なくとも15〜30ヌクレオチド)にハイブリダイズする。
【0055】
IEBP cDNAの任意の領域の部位特異的変異誘発は、変異IEBP cDNAの産生のために本明細書中において企図される。例えば、Transformer Mutagenesis Kit(Clontechから入手可能)を使用して、IEBP cDNAに対して種々のミスセンスおよび/またはナンセンス変異を構築し得る。
【0056】
本発明の核酸は、当該分野で周知の種々の方法によって産生され得る(例えば、本明細書中に記載される方法、配列番号2の種々の領域由来のオリゴヌクレオチドプライマーを使用するPCR増幅の使用、など)。
【0057】
本発明のさらなる実施形態に従って、必要に応じて標識されたIEBPコードcDNAまたはそのフラグメントは、関連する新規哺乳動物IEBPタンパク質をコードするさらなる核酸配列に対するライブラリー(例えば、cDNA、ゲノムなど)をプローブするために使用され得る。哺乳動物cDNAライブラリーおよびゲノムライブラリー(好ましくは、ヒトライブラリー)の構築は、当該分野において周知である。このようなcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーのスクリーニングは、最初に、低ストリンジェンシー条件下で実施され、これは、約42℃未満の温度、約50%未満のホルムアミド濃度および中程度〜低の塩濃度を含む。
【0058】
現在好ましいプローブベースのスクリーニング条件は、約37℃の温度、約20%のホルムアミド濃度および約5×標準生理食塩水シトレート(SSC;20×SSCは、3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸ナトリウム;pH7.0)を含む。このような条件は、完全な相同性を必要としないが、プローブ配列と実質的な程度の類似性を有する配列の同定を可能にする。句「実質的な類似性」とは、少なくとも50%の相同性を共有する配列をいう。好ましくは、プローブと少なくとも70%の相同性を有する配列の同定を可能にするが、プローブとより低い程度の相同性を有する配列を識別するハイブリダイゼーション条件が選択される。結果として、本発明の核酸のコード領域と実質的に同じ(すなわち、類似)の配列を有する核酸が得られる。
【0059】
本明細書中で使用される場合、核酸「プローブ」は、配列番号2または配列番号3のいずれかに記載の任意の14個以上の連続した塩基と同じ(またはその相補体の)少なくとも14個、好ましくは少なくとも20個、より好ましくは、少なくとも50個の連続した塩基の配列を有する一本鎖DNAまたはRNAあるいはこれらのアナログである。プローブを構築する好ましい領域は、配列番号2の5’コード領域および/または3’コード領域を含む。さらに、本発明のIEBPタンパク質の全cDNAコード領域、または配列番号2もしくは配列番号3に対応する全配列が、プローブとして使用され得る。プローブは、本明細書中において以下に記載されるような当該分野で周知の方法によって標識され得、そして種々の診断キットにおいて使用され得る。
【0060】
本発明のなお別の実施形態に従って、上記核酸配列を適切な宿主細胞において発現させることによって本発明のIEBPタンパク質の組換え産生するための方法が提供される。任意の細胞または細胞株が、本発明の代替の実施形態に従って宿主細胞として使用され得、IEBPを産生するかまたは過剰発現する細胞または細胞株を作製し得る。宿主細胞から作製される改変細胞または細胞株は、例えば、エストロゲン反応性(例えば、Old World primate 6299胸細胞)またはエストロゲン耐性(例えば、B95−8細胞)であり得る。このような細胞および細胞株は、例えば、薬学的調製物のスクリーニングにおいて、または種々の本発明の組成物における含有のために有意な量のIEBPを作製するために使用され得る。これらの細胞および細胞株についての他の用途は、当業者に容易に明らかである。本明細書中に記載されるIEBPタンパク質を産生するために適切な組換えDNA発現系もまた、当該分野において周知である。例えば、上記ヌクレオチド配列は、さらなる操作のためにベクター中に組み込まれ得る。本明細書中で使用される場合、「ベクター(または「プラスミド」)とは、その発現または複製のいずれかのために、細胞中に異種DNAを導入するために使用される別個のエレメントをいう。
【0061】
適切な発現ベクターは、当該分野において周知であり、これには、調節配列(例えば、このようなDNAの発現を調節し得るプロモーター領域)に作動可能に連結されるDNAを発現し得るベクターが挙げられる。このように、発現ベクターとは、適切な宿主細胞への導入の際に、挿入されるDNAの発現を生じるファージミド、ファージ、組換えウイルスまたは他のベクターのような組換えDNA構築物または組換えRNA構築物をいう。適切な発現ベクターは、当業者に周知であり、これには、真核生物細胞および/または原核生物細胞において複製可能なベクター、ならびにエピソームのままであるベクターまたは宿主細胞ゲノム内に組み込まれるベクターが挙げられる。さらに、ベクターは、「ウイルスベクター」の形成を生じる多くのウイルスビリオン(例えば、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス)によってベクターをパッケージ化し得る適切なパッケージングシグナルを含み得る。
【0062】
本明細書中で使用される場合、「プロモーター領域」とは、作動可能に連結するDNAの転写を制御するDNAのセグメントをいう。プロモーター領域は、RNAポリメラーゼ認識、結合および転写開始に十分な特定の配列を含む。さらに、プロモーター領域は、RNAポリメラーゼのこの認識、結合および転写初期活性を調節する配列を含む。これらの配列は、シス作動性因子であり得るか、またはトランス作動性因子に応答性であり得る。プロモーター(調節の性質に依存する)は、構成的であり得るかまたは調節され得る。本発明の実施における使用に企図される例示的プロモーターとしては、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(「CMV」)プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(「MMTV」)ステロイド誘導性プロモーター、モロニーマウス白血病ウイルス(「MMLV」)プロモーターなどが挙げられる。
【0063】
本明細書中で使用される場合、用語「作動可能に連結」とは、DNAと調節およびエフェクターヌクレオチド配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写部位および翻訳停止部位、ならびに他のシグナル配列)との機能的関係をいう。例えば、プロモーターへのDNAの作動的連結とは、このようなDNAの転写が、そのDNAを特異的に認識し、結合し、そして転写するRNAポリメラーゼによってプロモーターから開始するような、DNAとプロモーターとの間の物理的および機能的関係をいう。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「発現」とは、ポリ核酸がmRNAに転写され、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるプロセスをいう。ポリ核酸がゲノムDNAに由来する場合、発現は、適切な真核生物宿主細胞または生物が選択される場合、mRNAのスプライシングを含み得る。
【0065】
真核生物形質転換ベクターは、当該分野において周知であり、これには、pBlueskriptおよびファージLambda ZAPベクター(Stratagene;La Jolla、CAから入手可能)などが挙げられる。他の適切なベクターおよびプロモーターは、米国特許第4,798,885号(この開示は、その全体が、本明細書中において参考として援用される)に詳細に記載される。
【0066】
E.coli細胞の形質転換のための他の適切なベクターとしては、pET発現ベクター(Novagenから入手可能;米国特許第4,952,496号を参照のこと);例えば、pET11a(これは、T7プロモーター、T7ターミネーター、誘導性E.coli lacオペレーターおよびlacリプレッサー遺伝子を含む)、およびpET 12a−c(これは、T7プロモーター、T7ターミネーター、およびE. coli ompT分泌シグナルを含む)が挙げられる。別の適切なベクターは、pIN−IIIompA2(Duffaudら,Meth.in Enzymology,153:492−507,1987を参照のこと)(これは、lppプロモーター、lacUV5プロモーターオペレーター、ompA分泌シグナルおよびlacリプレッサー遺伝子を含む)である。
【0067】
例示的な真核生物形質転換ベクターとしては、クローン化ウシパピローマウイルスゲノム、pSV−2gpt系(Mulligan and Berg,1979,Nature,vol.277:108−114)、Okayama−Bergクローニング系(Mol.Cell Biol.Vol.2:161−170,1982)のようなマウスレトロウイルスおよび真核生物カセットのクローン化ゲノム、ならびにGenetics Instituteによって記載される発現クローニングベクター(Science,vol.228:810−815,1985)が挙げられる。各々は、入手可能であり、形質転換真核生物細胞株での目的のタンパク質の少なくともいくらかの発現の実質的な保証を提供する。
【0068】
哺乳動物細胞のトランスフェクションのために本発明のIEBPをコードするDNAに連結され得る調節エレメントを含む特に好ましいベースベクターは、CMVプロモーターに基づくベクター(例えば、pcDNA1(Invitrogen;San Diego, CAから入手可能));MMTVプロモーターに基づくベクター(例えば、pMAMNeo(Clontechから入手可能)およびpMSG(Pharmacia;Piscataway,NJから入手可能);ならびにSV40プロモーターに基づくベクター(例えば、pSVβ(Clontechから入手可能)である。
【0069】
本発明の別の実施形態に従って、本発明の核酸分子(すなわち、DNAまたはmRNA)を含む「組換え細胞」が提供される。適切な宿主細胞(好ましくは、細菌細胞、より好ましくは、E.coli細胞)を形質転換する方法、ならびに異種タンパク質をコードする遺伝子を含むこの細胞を培養するために適用可能な方法は、当該分野において一般的に公知である。例えば、Sambrookら、上記を参照のこと。
【0070】
本発明の核酸を含む発現ベクターを宿主細胞に導入して、形質導入組換え細胞(すなわち、組換え異種核酸を含む細胞)を作製する例示的な方法は、当該分野において周知である(例えば、Friedmann,1989,Science,244:1275−1281;Mulligan,1993,Science,260:926−932を参照のこと(これらのそれぞれが、その全体において本明細書中で参考として援用される)。形質導入の例示的方法としては、例えば、ウイルスベクターを使用する感染(例えば、米国特許第4,405,712号および同第4,650,764号を参照のこと)、リン酸カルシウムトランスフェクション(例えば、米国特許第4,399,216号および同第4,634,665号を参照のこと)、デキストラン硫酸トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション(例えば、米国特許第4,394,448号および同第4,619,794号を参照のこと)、サイトフェクション(cytofection)、粒子ビーズボンバードメントなどが挙げられる。異種核酸は、必要に応じて、その染色体外(すなわち、エピソーム)維持を可能にする配列を含み得るか、または異種DNAは、宿主のゲノム内に組み込まれ得る(宿主での安定な維持を確実にするための代替の手段として)。
【0071】
本発明の実施における使用を企図される宿主生物としては、異種タンパク質の組換え産生が実施された生物が挙げられる。このような宿主生物の例としては、細菌(例えば、E.coli)、酵母(例えば、Saccharomyces cerevisiae、Candida tropicalis、Hansenula polymorpha and P. pastoris;例えば、米国特許第4,882,279号、同第4,837,148号、同第4,929,555号、および同第4,855,231号を参照のこと)、哺乳動物細胞(例えば、B95−8細胞、Old World primate 6299細胞、HEK293細胞、CHO細胞およびLtk細胞)、昆虫細胞などが挙げられる。現在好ましい宿主生物は、細菌である。最も好ましい細菌は、E.coliである。
【0072】
1つの実施形態において、本発明のIEBPタンパク質をコードする核酸は、当該分野において周知の適切なウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターなど)を使用して、インビボまたはインビトロのいずれかで、哺乳動物細胞内に送達され得る。
【0073】
ウイルスに基づく系は、種々の細胞内に比較的高レベルの異種核酸を導入し得るという利点を提供する。IEBPタンパク質をコードするIEBP核酸を哺乳動物細胞内に導入するための適切なウイルスベクターは、当該分野において周知である。これらのウイルスベクターとしては、例えば、単純ヘルペスウイルスベクター(Gellerら,1988, Science,241:1667−1669)、ワクシニアウイルスベクター(例えば、Picciniら,1987,Meth.in Enzymology,153:545−563);CMVベクター(Mocarskiら,Viral Vectors;Y.Gluzman and S.H.Hughes,Eds.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988,pp.78−84)、MMLVベクター(Danosら,1980,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,85:6469)、アデノウイルスベクター(例えば、Loganら,1984,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,81:3655−3659;Jonesら,1979,Cell,17:683−689;Berkner,1988,Biotechniques,6:616−626;Cottenら,1992,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,89:6094−6098;Grahamら,1991,Meth.Mol.Biol.,7:109−127)、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。例えば、米国特許第4,405,712号および同第4,650,764号を参照のこと。特に好ましいウイルスベクターは、アデノウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターである。
【0074】
本明細書中で使用される場合、「レトロウイルスベクター」とは、2つのレトロウイルスLTR間に存在する異種遺伝子をコードする発現カセットを有する周知の遺伝子移動プラスミドをいう。レトロウイルスベクターは、代表的に、適切なパッケージングシグナルを含み、このパッケージングシグナルによって、レトロウイルスベクターまたはテンプレートとしてレトロウイルスベクターを使用して転写されるRNAが、適切なパッケージング細胞株中のウイルスビリオン内にパッケージされ得る。本明細書中で使用するための適切なレトロウイルスベクターは、例えば、米国特許第5,252,479号、および WIPO公報WO 92/07573、WO 90/06997、WO 89/05345、WO 92/05266およびWO 92/14829(これらは、本明細書中で参考として援用される)に記載され、これは、このようなレトロウイルスベクターを使用して、核酸をヒト細胞内に効率的に導入するための方法を提供する。他のレトロウイルスベクターとしては、例えば、MMTVベクター(例えば、Shacklefordら,1988, Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,85:9655−9659を参照のこと)などが挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、IEBPの生物学的活性、ならびにIEBPを産生および/または過剰発現する細胞および細胞株を調製するための方法を例示する。以下の実施例において、示される場合、実験的平均は、独立Studentのt検定を使用して統計的に比較した。
【0076】
(実施例1 細胞培養)
全ての細胞株を、American Type Culture Collection(ATCC;Rockville,MD)から入手した。エストロゲン抵抗性のNWP細胞株であるB95−8(ホルモン抵抗性の一般的なマーモセット(Callithrix jacchus)由来を、RPMI−1640培地中で維持した。エストロゲン応答性のOWP乳房細胞株である6299(アカゲザル(Macaca mulatta)由来)を、DMEM(Irvine Scientific Irvine;CA)中で維持した。全ての培養物を、10%ウシ胎仔血清(FCSI,Gemini Bioproducts;Calabasas,CA)、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのL−グルタミン(共に、GIBCO−BRL;Grand Island,NY製)を慣用的に補充し、95%空気、5% COの雰囲気下に置いた。いくつかの実験において、コンフルエントな培養物を、回収および抽出物の調製の前に48時間まで、E(10nM)を含む培地中で予めインキュベートした。
【0077】
(実施例2 細胞抽出物の調製)
各細胞株の後核抽出物(postnuclear extract)を、Chenら「Vitamin D and Gonadal Steroid−Resistant New World Primate Cells Express an Intracellular Protein Which Competes with the Estrogen Receptor for Binding to Estrogen Response Element」、J Clin Invest,99:669−675(1997)に記載されるように調製した。回収した細胞を、氷冷したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で2回洗浄し、そして、1mMフェニルメチルスルホニルフロウリド(PMSF)を含有するETD緩衝液(1mM EDTA、10mM Tris−HCL、5mMジチオスレイトール(pH7.4))で2回洗浄した。この細胞ペレットを、次いで、ETD緩衝液中に再懸濁し、5回の10秒バーストで氷上にてホモジェナイズした。核ステロイドレセプタータンパク質を伴った核を、4℃にて、10,000×gで30分間ペレット化した。
【0078】
(実施例3 相補末端の迅速増幅(RACE)によるIEBPの分子クローニング)
以前の研究において、本発明者らは、NWP B95−8細胞における推定IEBPに対応する、E−親和性カラム精製タンパク質の代表的なフラグメントを同定し、特徴づけた。Chenら「Purification and Characterization of a Novel Intracellular 17β−Estradiol Binding Protein in Estrogen−Resistant New World Primate Cells」、J.Clin.Endocrinol.Metab.,88:501−504(2003)。このタンパク質に対応するmRNAをクローニングするために、本発明者らは、代表的なペプチドのアミノ酸配列に対応する変性オリゴヌクレオチドを使用して、候補cDNAのRACE生成を行なった。得られたIEBPについての推定アミノ酸配列の配列分析(図1A)により、ヒトhsp27に対して87%の配列同一性、ヒトα−クリスタリンA鎖に対して40%の配列同一性、そしてB鎖に対して44%の配列同一性が明らかになった(図1B)。このアミノ酸配列はまた、ERαのリガンド結合ドメインにおける21アミノ酸の重なりと28〜38%の同一性を示したが、ステロイドホルモンレセプターに代表的なLXXLLモチーフは存在しなかった(データ示さず)。
【0079】
IEBPのN末端に代表的なペプチド(RVPFSL)のアミノ酸に基づいて、本発明者らは、5’−RACEおよび3’−RACEのために、IEBP特異的なセンスオリゴヌクレオチドプライマーおよびその反転アンチセンスプライマーを設計した。ポリ(A)+ B95−8細胞に由来するRNA(2.5μg)を鋳型として使用し、BD MARATHON cDNA増幅キット(Clontech Laboratories Inc.;Palo Alto,CA)を用いて、IEBP cDNAの5’末端および3’末端を生成した。第2鎖cDNA合成およびアダプターライゲーションを、添付のマニュアルに指示されるように実施した。次いで、このアダプターライゲーションしたcDNAをRACE反応のためのアダプターおよびIEBP特異的なプライマーのための鋳型として使用した:IEBPの5’−RACEおよび3’−RACEについて、それぞれ、5’−CGCAGGAGCGAGAAGGGGACGCG−3’(配列番号4)および5’−CGCGTCCCCTTCTCGCTCCTGC−3’(配列番号5)。IEBPについてのcDNAを、特異的な5’プライマーおよび3’プライマーを使用する端端増幅により生成した。次いで、この増幅産物をpcDNA3.1/V5/His/TOPO発現ベクターにサブクローニングして、色素ターミネーターサイクル配列反応およびABI自動シーケンサーを使用して、Cedars−Sinai Medical Center Sequencing Core Facilityにより配列決定した。
【0080】
(実施例4 一過的トランスフェクション)
5×105個のエストロゲン抵抗性NWP B95−8細胞またはエストロゲン応答性OWP乳房6299細胞を、10%活性炭ストリップしたウシ胎仔血清(「FCS」)を含有する、フェノールレッドを含まない培地中、6ウェルプレートに蒔き、80〜90%のコンフルエンシーまで増殖させた。表1に示すDNA調製物の組み合わせを、LIPOTAXI溶液(Stratagene;La Jolla,CA)中20μg DNA/mlの最大最終濃度までで用いて、トランスフェクションを3連で実施した。
【0081】
【表1】

トランスフェクションの5時間後に、等容量の20% FCSを補充した、抗生物質を含まない培地を各ウェルに添加し、その後、10nMのEを添加した。37℃にてさらに48時間後、細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性およびβガラクトシダーゼ活性を測定した(図2)。
【0082】
(実施例5 IEBPを過剰発現する細胞株の作製)
細胞株6299由来のE応答性のOWP乳房細胞を、5.0μgのpcDNA3.1/v5−His−TOPO IEBPプラスミドと共に、LIPOTAXI溶液中で5時間インキュベートし、その後、等容量の20% FCSを補充した培地を添加した。一晩インキュベートした後、細胞をスプリットし(1:10比)、500μg/mlのジェネティシン選択的抗生物質であるG418硫酸塩(Life Technology;Grand Island,NY)を含有する新しい培地と共にインキュベートした。適切なコロニーが形成するまで、この培地を、3〜4日毎に交換した。単一のコロニーをピックアップし、新しいディッシュに移し、そして、さらなる研究のために、選択的抗生物質G418を含有する培地と共に、コンフルエントになるまでインキュベートした。
【0083】
(実施例6 リガンド結合分析)
特異的な[H]17βエストラジオール(「[H]E」)結合を、ベクター単独および3つのIEBPを安定にトランスフェクトした細胞株の後核抽出物において測定した(図3B)。簡単には、上記のように単離した後核抽出物を、NaClを含有するETD緩衝液(pH8.0)中に再構成し、0.5M NaClの最終塩濃度を達成し、0.1〜100nMの非標識の競合リガンドの存在下または非存在下にて、4nMの[H]Eと共に、4℃にて一晩インキュベートした。タンパク質結合[H]Eを、デキストランコーティングした活性炭と共にインキュベートすることにより、未結合のステロールから分離した。実験は、三連で実施した。
【0084】
(実施例7 ウェスタンブロット分析)
変性した細胞抽出物または精製したタンパク質を、Chenら、「Cloning and Expression of a Novel Dominant−Negative−Acting Estrogen Response Element−Binding Protein in the Heterogeneous Nuclear Ribonucleoprotein Family」、J Biol Chem,273:31352−31357(1998)に記載されるように、4〜12%のSDS−ポリアクリルアミドゲルを使用する電気泳動に供し、ニトロセルロース膜に移した。この膜を5%無脂肪ドライミルクで1時間ブロッキングし、次いで、抗ヒトhsp27モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology Inc;Santa Cruz,CA;以後「Santa Cruz」)と共に2時間、そして、HRP結合体化二次抗体と共にさらに1時間インキュベートし、その後、化学発光試薬(ECL;Amersham Pharmacia Biotech)を用いて抗体応答性のタンパク質を検出した。
【0085】
(実施例8 免疫沈降)
細胞をPBSで2回洗浄し、氷上で10分間インキュベーションすることによって、RIPA緩衝液(1%のノニデット p−40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1mMのPMSF、30μl/mlのアプロチニン、10mMのオルトバナジン酸ナトリウムを含有する1×PBS)(Sigma−Aldrich Corp.;St.Louis,MOから入手)で溶解した。次いで、この得られた溶解物を、23ゲージ針を通して繰り返し吸引することにより破壊し、遠心分離(14,000×g、10分間)により細胞上清を得た。次いで、上清のアリコート(各々50μgのタンパク質を含む)を抗ERα抗体または抗hsp27抗体と共に、4℃にて一晩インキュベートした。20μlのプロテインA/Gアガロース(Santa Cruzから入手)を添加し、4℃にてさらに1時間インキュベートした。次いで、このタンパク質混合物を、RIPA緩衝液(×4)およびPBS(×1)中で繰り返し遠心分離することにより洗浄した。得られたペレットを、2×SDSサンプル緩衝液に再懸濁した。煮沸後、サンプルを、4〜20%のSDS−PAGEにより分析し、分離したタンパク質をニトロセルロース膜に移した。次いで、抗ERα抗体および抗hsp27抗体を用いてウェスタンブロット分析を行い、ECLにより可視化した(図5)。
【0086】
(実施例9 酵母2ハイブリッドスクリーニング)
全長ERα cDNAを、オリゴヌクレオチド5’−GGGGAATTCCATATGACCATGACCCTCCACACCAAAGCATCAGGG−3’(配列番号6)および5’−GCCAGGGGGATCCTCAGACTGTGGCAGGGAAACCCTC−3’(配列番号7)を使用して増幅した。このERα cDNAを、GAL4 DNA結合ドメインベクター(GAL4 DNA−BD/ER)のNdeI部位およびBamHI部位にクローニングした。全長ヒトhsp27 cDNAを、オリゴヌクレオチド5’−GCCGAATTCGCCCAGCGCCCCGCATTTT−3’(配列番号8)および5’−CCCCTCGAGGGTGGTTGCTTTGAACTTTATTTGAG−3’(配列番号9)を使用して増幅した。IEBP cDNAを、GAL4 DNA活性化ドメインベクターのEcoRI部位およびXhoI部位にクローニングした。GAL4 DNA−BD/ERを、GAL4 DNA−AD/hsp27プラスミドと共に、Yeast Transformation System 2 kit(Clonthech;Palo Alto,CAから入手)を製造業者の指示に従って使用して同時に形質転換した;いくつかのプレートを、水(コントロール)、E(10〜100nM)、またはタモキシフェン(10〜100nM)で処理した。
【0087】
このプラスミドを、自動配列決定により確認した。Yeast Two−Hybrid System 3 kit(Clontechから入手)を使用して、製造業者の指示に従って酵母2ハイブリッド分析を行なった;再び、例外として、このプレートを、水、E(10〜100nM)またはタモキシフェン(10〜100nM)で処理した。
【0088】
(実施例10 GST−プルダウンアッセイ)
ERα(残基246〜595)のリガンド結合ドメイン(「LBD」)とのGST融合タンパク質を、E.coli株DH5αにおいて発現させ、製造業者(Pharmacia Biotech;Piscataway,NJ)の指示に従ってグルタチオンセファロースビーズにより精製した。後核抽出物を、GSTビーズにアプライし、1時間インキュベートした。次いで、この充填されたGST−抽出物混合物を、5mM DTTおよび1mM PMSFを含有するPBS緩衝液で繰り返し(5×)洗浄し、2×SDSサンプル緩衝液に再懸濁し、5分間煮沸した。変性したタンパク質を、4〜20% SDS−PAGEゲル上で分離し、ニトロセルロース膜に移し、適切な抗体(Santa Cruzから入手)でプローブし、ECLにより可視化した。
【0089】
(実施例11 IEBPの発現)
以前に報告された、エストロゲン結合に対するその高い能力(capacity)が確認されているEアフィニティカラム抽出を使用するIEBPの精製は、NWP細胞におけるタンパク質の機能的関連性を明らかにしなかった。従って、IEBPの過剰発現がエストロゲン誘導性のトランス活性化に拮抗するか、促進するか、または無関係であるかどうかを明らかにするために、実験を行なった。エストロゲン応答性の旧世界霊長類細胞を、IEBP cDNAおよびERE−プロモーター−レポーター構築物を一過的に同時トランスフェクションした。トランスフェクション後、ERE指向型のルシフェラーゼ活性は、ベクターのみでトランスフェクトした旧世界霊長類細胞と比べて50%減少した。ERE−BPの過剰発現はまた、ERE媒介性の転写を抑制し、IEBPおよびERE−BPを同時トランスフェクションした場合に、EREルシフェラーゼレポーター活性の付加的な減少が生じた。IEBPの作用は、部分的に排除されたが、Eでの前処理により正常まで回復せず、そしてまた、コントロール細胞内でのERE媒介性の転写を刺激した。類似の結果がまた、IEBPの旧世界霊長類細胞への安定なトランスフェクションの後に得られた。これらの細胞におけるIEBP発現の増加を、抗hsp27抗体を使用するウェスタンブロット分析により確認した。これらの研究はまた、野生型のコントロール細胞において、Eがhsp27の発現を用量依存性の様式で刺激することを示した。その後のプロモーター−レポーターデータは、EREルシフェラーゼレポーター活性は、野生型の細胞と比べると、IEBPの存在下で、2〜3倍減少することを示した。一過性のトランスフェクト体(transfectant)と同様に、この作用は、Eでの前処理によって部分的にのみ排除された。安定なトランスフェクト体改変体を使用して、IEBPにより調節される転写とEの後核結合との間の関係性に取り組むことがまた可能となった。
【0090】
(実施例12 IEBPの特徴づけ)
一過性のトランスフェクト体および安定なトランスフェクト体の両方の分析は、IEBPがERE指向性の遺伝子の転写を沈めるように作用することを示した。このことは、少なくとも部分的に、エストロゲンの増強された結合によるものと考えられる。IEBPがまた、ERE結合についての直接的な競合因子として機能するか否かを決定するために、本発明者らは、理想化されたEREをプローブとして、組換えERαおよび/またはOWP−IEBPの安定なトランスフェクト体クローン1からの後核抽出物を結合タンパク質として使用して、電気泳動移動度シフト分析(EMSA)を実施した。データは、IEBPが、EREとも結合せず、ERαともEREへの結合について競合しないことを示した。IEBPはEREに直接結合するようではなかったが、そのER媒介性の転写を沈める能力は、ERαとの可能な直接相互作用と一致していた。この可能性を評価するために、抗ERα抗体および抗hsp27抗体を用いて、免疫共沈降を実施した。抗ヒトERα抗体を使用して、ERα未処理のタンパク質を、野生型およびIEBPを安定にトランスフェクトした細胞の両方の後核抽出物において免疫共沈降した。この免疫共沈降物を、hsp27抗体を使用することによって、ウェスタンブロット分析に供した。データは、ERαとhsp27との間の会合を確認した。類似の結果がまた、hsp27を用いる最初の免疫沈降、その後のERαブロッティングにより得られた。
【0091】
(実施例13 ERαとhsp27とのリガンド依存性の相互作用)
IEBPトランスフェクト体とは対照的に、未処理の野生型細胞からの抽出物においてERαとhsp27との間には比較的わずかな会合しか存在しなかった。しかし、データは、Eを用いた野生型細胞(IEBPトランスフェクト体ではない)の一晩の処理が、hsp27発現を強力に増加させ、ER−Hsp27/IEBP相互作用を決定する際のリガンドの重要度の可能性を高めることを示した。従って、酵母2ハイブリッドシステムは、ERαとのリガンド依存性の相互作用を確認するために採用された。全長ERα cDNAを、GAL4活性化ドメインを含む融合タンパク質としてクローン化し、そして、酵母の同時形質転換において使用した。リガンド特異的な様式でERαと相互作用するタンパク質を同定するために、10nMのEまたはタモキシフェンを補充したか、または補充していないSD leu−/Trp−/His−/Ade−培地において酵母のコロニーを選択した。全長hsp27およびER挿入物は、Eの存在下でのみ増殖した。ERアゴニストであるタモキシフェンの存在下、または、Eなしの選択培地においては、増殖が観察されなかった。
【0092】
最後に、hsp27とERとの相互作用を確認するために、GST−プルダウンアッセイを行なった。IEBPを過剰発現する細胞のタンパク質抽出物を、ERを表すGST−レセプターリガンド結合ドメイン融合タンパク質と共にインキュベートした。グルココルチコイドレセプター(GR)−融合タンパク質またはGSTタンパク質単独を使用するコントロールアッセイを採用した。いずれの場合においても、hsp27を示したSDS−PAGEの分離を、抗hsp27抗体を用いて評価した。データは、hsp27のみが、ER−GSTによりプルダウンされたが、GR−GSTまたはGST単独はプルダウンされなかったことを示した。
【0093】
上記説明は、本発明の特定の実施形態に言及しているが、多くの改変が、本発明の精神から逸脱することなくなされ得ることが理解される。添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲および精神の範囲内に含まれるような改変を網羅することを意図される。従って、ここで開示された実施形態は、全ての観点において、例示的であり、限定的ではないと考えられるべきであり、本発明の精神は、上記の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示され、それゆえ、特許請求の範囲と等価な意味および範囲の中にある全ての変更は、特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従って、新世界ザル(「NWP」)細胞に由来するIEBPとヒト熱ショックタンパク質−27(「hsp27」)との間の相同性の比較分析を示す。図1Aは、ヒトhsp27、ならびにヒトα−クリスタリンA(「hCrys A」)およびヒトα−クリスタリンB(「hCrys B」)と比較した、IEBPの全長推定アミノ酸配列を示す。陰を付けた領域は、4つ全ての分子の中での高い配列相同性の領域を示す。下線を付した領域は、−90ファミリーおよび−70ファミリーにおけるヒト熱ショックタンパク質のATP結合ドメインおよび基質結合ドメインとの配列相同性の領域を示す。図1Bは、hsp27、hCrys AおよびhCrys Bと比較した、IEBPアミノ酸配列の相同性%値を示す。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に従って、IEBPおよびエストロゲン応答エレメント結合タンパク質(「ERE−BP」)のエストロゲン応答エレメント(「ERE」)ルシフェラーゼ活性の分析を示す。新世界ザルERE−BPおよび/または新世界ザルIEBPのcDNAを含む発現構築物を、10nM 17β−エストラジオール(E2)の非存在下または存在下で、エストロゲン応答性ルシフェラーゼレポータープラスミドとERa+ヒトMCF−7乳癌細胞株に一過性に同時トランスフェクトした。データは、ルシフェラーゼ活性の三連での測定の平均である。*=コントロールトランスフェクト体と比較して、統計学的に有意(P<0.001)。図2は、IEBPはERE−BPと、ERE指向性トランス活性化を抑制する(squelch)ように協働することを示唆する。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に従って、ERE指向性トランス活性化のIEBP媒介性抑制におけるエストロゲンの役割を例示し、細胞質結合の分析を示す。図3Aは、17β−エストラジオール(E2 10nM;黒棒)の非存在下(左パネル)または存在下(右パネル)で、ベクター単独(白棒)で安定にトランスフェクトした新世界ザル宿主由来の野生型6299乳癌細胞および全長IEBP cDNAで安定にトランスフェクトした細胞の3種の異なるサブクローンにおけるIEBPまたはEREのプロモーター−レポータールシフェラーゼ活性の効果を示す。データは、ルシフェラーゼ活性の三連での測定の平均である。*=コントロールトランスフェクト体と比較して、統計学的に有意(P<0.001)。図3Bは、IEBPで安定にトランスフェクトした細胞株の後核抽出物中の[H]17β−エストラジオール(E2)の置き換えを示す。データは、ベクターのみのコントロールおよび3種のIEBP安定トランスフェクト体細胞株における、E2の漸増用量(0.1〜100nM)により置き換えられた最大[H]17B−エストラジオール%の三連での測定の平均である。図3は、ERE指向性トランス活性化のIEBP媒介性抑制が、エストロゲンの細胞質結合の増加と関連することを示唆する。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に従って、プローブとして二本鎖コンセンサスERE、およびタンパク質として組換えヒトERαおよび/またはEREアフィニティー生成したERE−BPを使用して、電気移動度シフトアッセイ(electromobility shift assay)(「EMSA」)を示す。IEBP(レーン7、パネルA;レーン3および4、パネルB)は、100nM 17β−エストラジオール(E2)の存在下または非存在下で、EREに結合もせず、EREへの結合についてERと競合することもなかった(レーン6、パネルA;レーン2および3、パネルC)。そのER−ERE複合体は、100nM E2ありまたはなしで抗hsp27抗体を添加することによって(レーン4および5;パネルC)スーパーシフトした。図4は、ERE媒介性転写に対するIEBPの効果が、EREとの直接的相互作用にも、ER−ERE複合体形成の破壊にも起因しないことを示唆する。
【図5】図5Aは、本発明の一実施形態に従って、プローブとして二本鎖コンセンサスERE、ならびに複合体化するタンパク質として100nM 17β−エストラジオール(E2)の存在下または非存在下で組換えヒトERα、ヒトhsp27および抗ヒトhsp27抗体を使用するEMSAを記載する。図5Bは、ベクター単独またはIEBPでトランスフェクトした新世界ザル6299乳癌細胞の後核抽出物のタンパク質構成成分と抗ヒトhsp27(左パネル)および抗ヒトERα(右パネル)との免疫沈降、続いてそれぞれ、抗ヒトERα抗体および抗ヒトhsp27抗体での検出を示す。図5は、ヒトERαとhsp27様タンパク質との間に直接関連性があることを示唆する。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に従って、IEBPの17β−エストラジオール調節性発現およびそのERαとの相互作用を示す。図6Aは、野生型乳房細胞におけるhsp27の発現における17β−エストラジオール媒介性増大を示す。示されるのは、漸増用量のE2(0.1〜100nM)の非存在下または存在下での、野生型乳房細胞におけるhsp27のウェスタンブロット分析である。図6Bは、hsp27とERαとのリガンド17β−エストラジオール(E2)依存性相互作用の酵母ツーハイブリッド分析を示す。AH109酵母細胞を、Gal4 DNA結合ドメイン−ERα融合タンパク質プラスミドで同時トランスフェクトし、E(10nM)、ERアンタゴニストであるタモキシフェン(Tam,10nM)またはビヒクルのみ(なし)のいずれかを含むLeu培地/Trp培地/His培地/Ade培地を用いてコロニー増殖により選択した。図6Cは、ER相互作用タンパク質のGSTプルダウン分析(pull−down analysis)を示す。IEBPを過剰発現する細胞のタンパク質抽出物を、ER−GSTまたはグルココルチコイドレセプター(GR)−GST融合タンパク質またはGSTタンパク質単独のいずれかとともにインキュベートした。GST結合したタンパク質をSDS−PAGEで分離し、抗hsp27抗体でプローブした。これらの結果は、ER−IEBP相互作用がリガンド17β−エストラジオールにより促進されるが、SERMであるタモキシフェンにより促進されないことを示唆する。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に従って、ER−ERE指向性トランス活性化の通常のおよびIEBP媒介性抑制を示す。図7Aは、17β−エストラジオール(E2)に結合したERホモダイマーがEREと相互作用する、通常の転写事象を示す。図7Bは、IEBPの影響下での「抑制された」転写事象を示す;ERαとリガンドとの間のE2結合IEBPの介在が、ERダイマー化、ER−ERE相互作用およびトランス活性化の妨害をもたらす。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内エストラジオール結合タンパク質(IEBP)を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1に示されるものと実質的に同じアミノ酸配列をさらに含む、生物学的に活性なIEBPポリペプチドを含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
細胞内エストラジオール結合タンパク質(IEBP)を含む単離されたポリペプチド;およびキャリアを含む、組成物。
【請求項5】
前記単離されたポリペプチドが、配列番号1に示されるものと実質的に同じアミノ酸配列をさらに含む、生物学的に活性なIEBPポリペプチドをさらに含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記単離されたポリペプチドが、配列番号1に示されるアミノ酸配列をさらに含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記キャリアは、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)溶液、水、エマルジョンおよび湿潤剤からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)中等度にストリンジェントな条件下で該(a)のDNAにハイブリダイズするDNAであって、該DNAは、生物学的に活性なIEBPをコードする、DNA、
(c)(a)または(b)のいずれかに関して変性したDNAであって、該DNAは、生物学的に活性なIEBPをコードする、DNA、および
(d)(a)、(b)または(c)のいずれかに対して完全に相補的なDNA、
からなる群より選択される、細胞内エストラジオール結合タンパク質(IEBP)をコードする、単離された核酸。
【請求項9】
前記単離された核酸は、ゲノムDNAおよびcDNAからなる群より選択される、請求項8に記載の単離された核酸。
【請求項10】
配列番号2に示されるものと実質的に同じ核酸配列をさらに含む核酸を含む、請求項8に記載の単離された核酸。
【請求項11】
配列番号3に示されるものと実質的に同じ核酸配列をさらに含む核酸を含む、請求項8に記載の単離された核酸。
【請求項12】
請求項8に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載のベクターを保有する、宿主細胞。
【請求項14】
請求項8に記載の単離された核酸を保有する、組換え宿主細胞。
【請求項15】
前記宿主細胞が、B95−8細胞、6299乳房細胞およびE.coli細胞からなる群より選択される、請求項14に記載の組換え宿主細胞。
【請求項16】
前記宿主細胞が、IEBPを過剰発現する、請求項14に記載の組換え宿主細胞。
【請求項17】
請求項14に記載の宿主細胞およびキャリアを含む、組成物。
【請求項18】
前記キャリアは、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)溶液、水、エマルジョンおよび湿潤剤からなる群より選択される、請求項17に記載の組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−525030(P2006−525030A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514300(P2006−514300)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/014028
【国際公開番号】WO2005/000198
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】