説明

細胞分取装置及び細胞分取方法

【課題】流路の設計ごとに遅延時間の設定が不要で、確実に細胞を分取することができる細胞分取装置及び細胞分取方法を提供すること。
【解決手段】この分取回路の前段の検出電極19a及び19bの間を細胞Cが通過すると、検出回路21がこの細胞Cの存在を検出する。このとき、ゲート回路23及び24に判定信号が入力されていると、検出したタイミングでフリップフロップ25がセットされ、スイッチ27がONとされ、作用電極に電圧が印加される。これにより、細胞Cの経路が変えられる。細胞Cが後段の検出電極20a及び20bの間を通過すると、これを検出回路22が検出し、ゲート回路24にその検出信号が入力され、フリップフロップ25がリセットされ、スイッチ27がOFFとされる。これにより、作用電極対18による作用電場の形成が解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を分取する細胞分取装置及び細胞分取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、細胞に固有の複素誘電率を測定し、その測定結果の情報を用いて細胞を分取する、誘電サイトメトリ装置が提案されている(例えば、特許文献1の図3、5等参照)。
【0003】
特許文献1では、例えば細胞の分取の前段階で細胞を分析して複素誘電率を得るために、細胞を含む流体を流す流路デバイスが開示されている。この流路デバイスに形成される流路の一部には、単一の細胞が通過する程度の細い流路断面積を持つ狭窄部が形成されている。この狭窄部を通過する細胞ごとに、複素誘電率の分散(誘電スペクトル)が測定され、その狭窄部より下流側で、分取系ユニット及びそれを制御する分別制御部により、細胞を分取することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2010−181399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電サイトメトリ装置では、その分取系ユニットの及び分別制御部等の具体的な構成や方法については明らかにされていない。現状では、これらの具体的な構成等を明らかにし、確実に細胞を分取できるようにすることが望まれている。
【0006】
その1つの方法として、例えば、流路デバイスの流路を流れる、細胞を含む流体の速度が実質的に一定とし、細胞もその流体の速度と同じ速度で流れると仮定し、細胞の複素誘電率の測定領域を細胞が通過した後、所定のタイミングを見計らって、分取系ユニットを作動させる、という方法が考えられる。つまり、流路の設計に応じて一定の遅延時間を設定するというものである。
【0007】
しかしながら、その場合、流路の設計が変わるたびにその遅延時間も設定しなければならない。また、実際には、細胞の構造、形状、寸法等によって、細胞の流速に異なると考えられる。したがって、一定の遅延時間後の分取では確実に細胞を分取できないという事態が起こる。
【0008】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、流路の設計ごとに遅延時間の設定が不要で、確実に細胞を分取することができる細胞分取装置及び細胞分取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る細胞分取装置は、測定電極と、作用電極と、検出電極と、出力手段とを具備する。
前記測定電極は、細胞を分取するための分岐路を有する、前記細胞を含む流体が流れる流路の、前記分岐路より上流側に設けられ、前記流路を流れる前記細胞ごとの複素誘電率を測定するために、前記流路内に測定電場を形成する。
前記作用電極は、前記測定電極が設けられる位置より下流側であって前記分岐路より上流側に設けられ、前記細胞に誘電泳動力を与えて前記分岐路を利用して細胞を分取するために、前記流路内に作用電場を形成する。
前記検出電極は、前記測定電極が設けられる位置より下流側であって前記分岐路より上流側で前記作用電極に近接して設けられ、前記流路を流れる前記流体内の前記細胞の存在を検出する。
前記測定された複素誘電率の情報に基づく分取信号、及び、前記検出電極で前記細胞が検出されたことを示す検出信号を取得であり、前記分取信号を取得した場合に前記検出信号を取得するタイミングで、前記作用電場を形成するための作用信号を前記作用電極に出力する。
【0010】
本発明では、細胞の存在を検出する検出電極が測定電極とは別個に設けられ、かつ、作用電極に近接して設けられており、検出電極からの検出信号の取得のタイミングで、作用電極に作用信号が入力される。これにより、流路の設計ごとの遅延時間の設定は不要となる。また、細胞が複素誘電率の測定領域を通過してから一定の遅延時間後に分取を行う場合に比べ、確実に細胞を分取することができる。
【0011】
前記作用電極は、前記流路内で前記流体が流れる方向に沿って複数段配列されてもよい。その場合、前記出力手段は、前記作用電極ごとに前記作用信号を出力する。これにより、流体が流れる方向で細胞の動きを細かく制御することができ、流体に含まれる細胞のピッチ(流体が流れる方向でのピッチ)を狭め、スループットを高めることができる。
【0012】
前記検出電極は、前記流路内で前記流体が流れる方向に沿って、前記作用電極を挟むように少なくとも2つ設けられてもよい。これにより、後段の検出電極により作用電極を通過した細胞を検出することができ、適切なタイミングで作用電極による電場の形成を停止することができる。
【0013】
前記検出電極及び前記作用電極が一体に設けられた1つの電極であってもよい。検出電極及び作用電極が物理的に離れていないため、出力手段は、検出信号を取得するタイミングで作用電場を形成するための作用信号を出力することにより、確実に細胞を分取することができる。
【0014】
本発明に係る細胞分取方法は、細胞を分取するための分岐路を有する、前記細胞を含む流体が流れる流路の、前記分岐路より上流側に、前記流路を流れる前記細胞ごとの複素誘電率を測定するために、前記流路内に測定電場を形成することを含む。
前記測定電場が形成される位置より下流側であって前記分岐路より上流側に、前記細胞に誘電泳動力を与えて前記分岐路を利用して細胞を分取するために、前記流路内に作用電場が形成される。
前記分岐路より上流側で、前記作用電場が形成される位置に近接する位置で、前記流路を流れる前記流体内の前記細胞の存在が検出される。
前記測定された複素誘電率の情報に基づく判定信号を取得した場合に、前記細胞の存在が検出されたことを示す検出信号を取得するタイミングで、前記作用電場を形成するための作用信号が発生される。
【0015】
本発明では、作用電場が形成される位置に近接する位置で、流路を流れる流体内の細胞の存在が検出され、その検出時に発生される検出信号の取得のタイミングで分取信号が発生する。これにより、流路の設計ごとの遅延時間の設定は不要となる。また、複素誘電率の測定領域(測定電場が形成される位置)を通過してから一定の遅延時間後に分取を行う場合に比べ、確実に細胞を分取することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明によれば、流路の設計ごとの遅延時間の設定が不要となり、また、確実に細胞を分取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る細胞分析/分取システムを示す概念的な図である。
【図2】図2は、図1に示した細胞分析/分取システムの一部を構成するマイクロ流路デバイスを示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示した分取部の構成を示す平面図である。
【図4】図4は、図3におけるA−A線断面図である。
【図5】図5は、電場印加部に電場が印加され、細胞の流れる方向が変わった様子を示す図である。
【図6】図6は、分取部の電気的な回路構成を示す図である。
【図7】図7は、他の実施形態に係る分取部の構成を示す平面図である。
【図8】図8は、図7に示した構成の分取部の動作を実現する分取回路(第2の実施形態に係る分取回路)を示す図である。
【図9】図9は、さらに別の実施形態(第3の実施形態)に係る分取回路を示す図である。
【図10】図10は、さらに別の実施形態(第4実施形態)に係る分取回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
[細胞分析/分取システムの構成]
図1は本発明の一実施形態に係る細胞分析/分取システムを示す概念的な図である。図2は、図1に示した細胞分析/分取システム1の一部を構成するマイクロ流路デバイスを示す斜視図である。
【0020】
図1に示すように、マイクロ流路デバイスMFに形成された流路2に沿って、その上流より投入部3、測定部4、分取部5、細胞取出部6、7、流出部10が設けられている。
【0021】
投入部3は、サンプリングされた細胞を含む液体(流体)が例えば図示しないポンプを使って投入される。
流路2では、投入部3より投入された液体が流れる。
測定部4は、流路2中を流れる一個一個の細胞に対して、細胞の誘電緩和現象が起こる周波数範囲(例えば0.1MHzから50MHz)の多点周波数(3点以上、典型的には10から20点程度)にわたり、それらの細胞の複素誘電率を測定する。測定部4に電気的に接続された図示しない細胞機能分析器は、測定した細胞の複素誘電率に基づき、マイクロ流路デバイスMFから取り出して使用(検査や再利用等)すべき細胞かを判断し、測定された細胞が取り出して使用すべき細胞の場合には分取信号(判定信号)を出力する。例えば、図示しない細胞機能分析器は、測定した細胞の複素抵抗または複素誘電率が、予め測定されてメモリに記憶された基準情報の範囲内にあるか否かを判定し、複素抵抗または複素誘電率が、その基準情報の範囲内にある場合に、分取信号を出力する。
【0022】
分取部5は、投入部3から投入された複数種類の細胞のうち、所望とする細胞を細胞取出部6に、それ以外の細胞を細胞取出部7に分取する。
【0023】
分取部5に設けられた電場印加部8は、流体が流れる方向Xとは異なる方向、例えばX方向とは直交するY方向に勾配を有する電場を印加することが可能である。例えば、電場印加部8は、分取信号が判定信号となって発生される作用信号(電圧信号)が入力されていないときには作用電場を印加しないが、作用信号が入力されると、作用電場を印加する。もちろん、その逆であっても構わない。
【0024】
分岐部9は、電場印加部8で電場が印加されない細胞については分岐路2bを通り細胞取出部7に流れるように分岐し、電場印加部8で電場が印加された細胞については分岐路2aを通り細胞取出部6に流れるように分岐する。
【0025】
細胞取出部6、7は流路2を介して流出部10へ通じており、細胞取出部6、7を通過した液体は流出部10より例えば図示しないポンプを使って外部に排出される。
【0026】
ここで、液体中に存在する細胞に電場を印加すると、媒質と細胞の分極率の違いにより誘起双極子モーメントが生じる。印加電場が不均一である場合、電場強度が細胞周囲で異なるために、誘起双極子によって誘電泳動力が生じる。
【0027】
[マイクロ流路デバイス]
図2に示すように、マイクロ流路デバイスMFは、基板12及び高分子膜等からなるシート状の部材13を有する。基板12には、流路2、この流路2の一部である分岐路2a、2b、投入部3としての液体投入部3a、流路2の一部である分岐部9、細胞取出部6、7、及び流出部10が設けられている。これらは、基板12の表面に溝などを形成し、その表面をシート状の部材13で覆うことで構成される。これにより流路2が形成される。
【0028】
細胞を含む液体が投入される細胞投入部3bは、シート状の部材13の微細な孔である狭窄路を設けて構成され、その上にピペットで細胞を含む液体を垂らすと、狭窄路を介して流路2を流れる液体に巻き込まれるように流路2の下流に流れていく。狭窄路は微細な孔であることから、細胞は複数まとめて流路2に流れ込むことなく、単一の細胞ごとに流路2に流れ込んでいく。
【0029】
狭窄路を挟むように、測定電極対4a、4bが設けられている。測定電極対4a及び4b間には、所定の交流電圧が印加され、狭窄路内に測定電場が形成される。一方の測定電極4aはシート状の部材13の表面に、他方の測定電極4bはシート状の部材13の裏面に設けられている。電場印加部8を構成する電極対(後述する)もシート状の部材13の裏面に設けられている。
【0030】
細胞取出部6、7はその上部がシート状の部材13により覆われているが、シート状の部材13にピペットを刺してピペットを介して細胞が取り出される。
【0031】
電極パッド14は測定電極対4a、4bで検出された信号を外部に取り出す。取り出された信号は例えば細胞機能分析器(図示を省略する。)に送られる。電極パッド15には細胞機能分析器から出力される判定信号をトリガとして生成される作用信号が入力されたり、電極パッド15を介して後述する検出電極からの検出信号が取り出されたりする。
【0032】
貫通孔26は、分析器等を有する装置本体にマイクロ流路デバイスMFが接続されたときの位置決め用の孔である。
【0033】
[分取部]
図3は図2に示した分取部5の構成を示す平面図、図4は図3におけるA−A線断面図である。
【0034】
図3及び4に示すように、分取部5は、流体内の細胞Cの存在を検出する、2つの検出電極対19(19a、19b)及び20(20a、20b)と、上記電場印加部8を構成する電極16及び17と、上記分岐部9とを有する。
【0035】
例えば、電極16と電極17とが流路2を流れる流体の方向(X方向)とは異なる例えばY方向に流路2を挟むように対向して配置されている。
【0036】
電極16、17は、シート状の部材13の裏面(流路2内の天面)に設けられている。電極16は、例えば信号が印加される電極で、電極17に向けて多数の電極指16aが突出するように構成される。電極17は、例えばコモン電極で、電極16に対して凹凸を持たないように構成される。以下では、一つの電極指16aと電極17との組み合わせを作用電極対18と呼ぶ。
【0037】
検出電極対19及び20は、作用電極対18にそれぞれ近接して設けられ、かつ、この作用電極対を挟むように設けられている。検出電極対19(及び20)が作用電極対18に近接して設けられるとは、それらの間の電気的絶縁を保つことが可能な状態であれば、極限まで接近していてもよい。
【0038】
また、検出電極19a、19bは、作用電極対18と同様にY方向に流路2を挟むように対向して配置されている。検出電極20a、20bも同様である。
【0039】
このように分取部5が構成されることで、検出電極対19により細胞Cの存在が検出され、電極16、17に信号が印加されたときに、作用電極対18でそれぞれY方向に勾配を有する電場が印加される。この電場を形成するための作用信号は、例えば交流電圧に直流バイアス電圧が重畳された信号が用いられる。
【0040】
流路2の電場印加部8より下流の所定の位置で、電場印加部8により電場が印加されて誘電泳動力によって流れ方向が変わった細胞Cが分岐路2aを利用して細胞取出部6へ導かれる。
【0041】
例えば、投入部3においては細胞が細胞取出部7側の偏った位置に投入される。このように細胞取出部7側の偏った位置に投入された細胞は、分取対象でない細胞が電場印加部8を通過するときには電場印加部8で電場が印加されず(non−active)、図3に示したように、流路2をその偏った位置側を流れそのまま分岐路2bを通り細胞取出部7に流れる。しかし、分取対象の細胞が電場印加部8を通過するときには電場印加部8で電場が印加されて(active)細胞に誘電泳動力が与えられ、図5に示すように、細胞の流れ方向が細胞取出部6側に変わり、その分取対象の細胞は分岐部9により分岐路2aを通り細胞取出部6側に分岐される。
【0042】
このように構成された電場印加部8では、作用電極対18でそれぞれY方向に勾配を有する作用電場が印加されるので、電場印加部8を通過する細胞が徐々に行路を変えて分岐路2aを通り細胞取出部6側に分岐することが可能となる。
【0043】
[分取部の回路(分取回路)]
次に、分取部の電気的な回路構成について説明する。図6は、主にその回路図を示している。
【0044】
図6では、流路2、検出電極対19、20、及び作用電極対18を模式的に示している。検出電極対19及び20には、検出回路21及び22がそれぞれ接続されている。検出回路21は、検出電極対19に交流電圧を印加することにより、検出電極19a及び19bの間に、流路2内のY方向に検出用の交流電場を形成する。検出回路21は、例えば、検出電極19a及び19bの間に細胞が通ることにより変化する(大きくなる)複素抵抗を監視し、例えばその複素抵抗が閾値を超えた場合に、そこに細胞が存在することを検出する。検出回路22も検出回路21と同様の機能を有する。
【0045】
検出回路21及び22には、例えばゲート回路23及び24がそれぞれ接続され、これらゲート回路23及び24には、検出回路21及び22からの検出信号が入力される。また、これらゲート回路23及び24のゲート信号として、上記したように細胞機能分析器から出力される判定信号(分取信号)が用いられる。
【0046】
ゲート回路23の出力信号は、フリップフロップ25のセット(S)に入力され、ゲート回路24の出力信号は、フリップフロップのリセット(R)に入力されるようになっている。フリップフロップ25は、セット入力でスイッチ27をONとし、リセット入力でスイッチ27をOFFとする。作用信号発生器28は作用電極対18に印加される作用信号を発生し、スイッチ27によりその印加のON/OFFが切り替えられる。
【0047】
「出力手段」は、本実施形態では、主に検出回路21、作用信号発生器28、ゲート回路23、フリップフロップ25及びスイッチ27等によって実現される。
【0048】
このように構成された分取回路の動作を説明する。
【0049】
この分取回路の前段の検出電極19a及び19bの間を細胞Cが通過すると、検出回路21がこの細胞Cの存在を検出する。このとき、ゲート回路23及び24に判定信号が入力されていると、細胞Cの存在が検出されたタイミングで、フリップフロップ25がセットされ、スイッチ27がONとされ、作用電極に電圧が印加される。これにより図3で示したように、細胞Cの経路が変えられる。
【0050】
細胞Cが後段の検出電極20a及び20bの間を通過すると、これを検出回路22が検出し、ゲート回路24にその検出信号が入力され、フリップフロップ25がリセットされ、スイッチ27がOFFとされる。これにより、作用電極対18による作用電場の形成が解除される。
【0051】
このような動作が、細胞取出部7で取り出されるべき単一の細胞Cごとに実行され、細胞取出部7で取り出されるべき細胞Cは分岐路2aへ導かれる。
【0052】
以上のように、本実施形態では、細胞Cの存在を検出する検出電極対19が測定電極対4a、4bとは別個に設けられ、かつ、作用電極対18に近接して設けられており、検出電極対19からの検出信号の取得のタイミングで、作用電極対18に作用信号が入力される。これにより、流路の設計ごとの遅延時間の設定は不要となる。また、本実施形態によれば、細胞が複素誘電率の測定領域を通過してから一定の遅延時間後に分取を行う場合に比べ、確実に細胞を分取することができる。
【0053】
[分取部の他の実施形態]
細胞が致命的ダメージを受けない程度の電場下で細胞が受ける誘電泳動力は、mm/s程度の流速で水中を流れる細胞が受ける粘性抵抗力に比べて、一般に非常に小さい。従って、流れに直交する方向の誘電泳動力を積極的に形成するための不均一電場、あるいはそれを形成するための作用電極対18の列(X方向に沿った列)は、多数必要になる。図3及び5に示したように、この多数の作用電極対18に同時に電圧を印加した場合、その電極列分取領域を排他的に使用せねばならず、スループットが上がらない場合がある。
【0054】
そこで、図7に示すように、図3に示した作用電極対18をX方向に沿って複数のグループG1〜G5に分けている。すなわち、例えば2つの電極指を有する電極161及びこれに対向する電極171とを1つの作用電極対とし、流れの方向に沿って作用電極を複数段配列させるように、電場印加部を形成する。
【0055】
これらの作用電極対G1〜G5に対して個別に印加電圧を制御することにより、電場印加部8を通過する細胞の多重化を許してスループット向上を図ることが可能である。すなわち、図3及び5に示した構成の電場印加部8では、1つの細胞が電場印加部8を通過するまでは、その後から来る細胞が電場印加部8に侵入しないようなタイミングで流路2に細胞を流すようにしなければならない。これに対して、図7に示した構成の電場印加部8では、例えば作用電極対G5を通過している細胞は電場を印加して、作用電極対G4を通過している細胞は電場を印加しないような制御が可能なので、結果として5つの作用電極対G1〜G5においてそれぞれ細胞の分取制御が可能となる。
【0056】
これらの作用電極対G1〜G5に対応するように、これらに近接するように検出電極対F1〜F6が配列され、また、作用電極対G1〜G5のそれぞれの間に挟まれるように検出電極対F2〜F5が配列されている。
【0057】
[第2の実施形態に係る分取回路]
図8は、図7に示した構成の分取部の動作を実現する分取回路を示す図である。この分取回路は、図6に示した分取回路が多段に接続された構成を有し、基本的な動作は、図6に示した分取回路のものと同様である。例えば、今、注目される細胞Cが細胞取出部6で取り出されるべき細胞であり、判定信号がゲート回路232に入力されているとする。この細胞Cが作用電極対G1を通り過ぎ、検出電極対F2に接続された検出回路212で検出されると、フリップフロップ251がリセットされることにより作用電極対G1による作用電場が解除され、かつ、フリップフロップ252がセットされることにより作用電極対G2による作用電場が印加される。
【0058】
本実施形態によれば、上述したように、流体が流れる方向で細胞の動きを細かく制御することができ、流体に含まれる細胞のピッチ(流体が流れる方向でのピッチ)を狭め、スループットを高めることができる。
【0059】
[第3の実施形態に係る分取回路]
図9は、さらに別の実施形態に係る分取回路を示す図である。
【0060】
本実施形態に係る分取回路は、これまで説明してきた検出電極及び作用電極が一体に設けられた電極対35(35a、35b)を備える。この電極対35の形状は、典型的には図3で示した作用電極対18の形状でよい。
【0061】
この電極対35には、検出信号発生器281が接続されるとともに、作用信号発生器282がスイッチ33を介して接続されている。検出信号発生器281は、周波数f1を持つ検出信号を発生し、作用信号発生器282は、周波数f2を持つ作用信号を発生する。これらの信号発生器281及び282により発生した各信号は重畳されて電極対35に加えられるようになっている。
【0062】
検出信号及び作用信号の周波数の組合せは、互いに干渉しない程度に十分に離れた値に設定される。例えば、検出信号の周波数f1は100kHz、その電圧は1Vに設定された場合、作用信号の周波数f2は10MHz、その電圧は20Vなどに設定される。
【0063】
「出力手段」は、本実施形態では、主に検出回路31、作用信号発生器282、ゲート回路23及びスイッチ33等によって実現される。
【0064】
分取回路が細胞Cの存在の検出状態にある時、スイッチ33はOFFとされており、検出信号発生器281からの検出信号によって電極35a及び35b間に検出用の電場が形成されている。この検出状態で、判定信号がゲート回路23に入力されている場合に、細胞Cがこの電極35a及び35b間に来た場合、上記と同様の原理(複素抵抗の変化)で検出回路31がこれを検出する。そうすると、スイッチ33がONとされ、作用信号発生器282からの作用信号が電極対35に入力され、検出電場に作用電場が加えられた電場が形成される。これにより、細胞Cに作用電場が印加されることにより細胞Cの経路が変えられる。
【0065】
細胞Cが電極35a及び35b間を過ぎると、検出回路31はそのことを検出し、ゲート回路23を介してスイッチ33をOFFとし、作用電場の形成を解除する。
【0066】
このように、本実施形態では、検出電極対と作用電極対とが一体的な電極対として構成されている。つまり、検出電極及び作用電極が物理的に離れていないため、検出回路31により細胞Cの存在が検出されるタイミングで作用電場を形成するための作用信号が出力されることにより、確実に細胞を分取することができる。
【0067】
[第4の実施形態に係る分取回路]
図10は、さらに別の実施形態に係る分取回路を示す図である。
【0068】
この実施形態に係る分取回路が、図9に示した分取回路と異なる主な点は、信号発生器128が、検出用及び作用用を兼ねている点、及びスイッチ33の代わりに抵抗減衰器34が設けられている点である。
【0069】
この分取回路が細胞Cの検出状態にある時、例えば信号発生器128から発生される交流電圧信号の出力電圧が第1の出力電圧とされる。したがって、この場合、電極35a及び35b間には、この第1の出力電圧に応じた交流電場が形成される。判定信号がゲート回路23に入力されている場合に、検出回路31がこの細胞Cの存在を検出すると、検出回路31から出力された信号によりゲート回路23を介して抵抗減衰器34が作動する。抵抗減衰器34は、例えば作用信号として、第1の出力電圧より大きい第2の出力電圧の信号が電極対35に印加されるように電流を制御する。
【0070】
本実施形態によれば、1つの信号発生器で分取回路を実現することができる。
【0071】
[その他の実施形態]
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が実現される。
【0072】
例えば、図3に示した作用電極の電極16及び検出電極対19等の形状は、図示された形状でなく、他の形状でもよい。例えば、各電極指16aのY方向の長さがそれぞれ異なるように形成されてもよい。
【0073】
例えば、図9または10に示した実施形態に係る分取回路が、図8に示した実施形態に係る分取回路と同様の趣旨で、多段に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0074】
C…細胞
2…流路
18、G1〜G5…作用電極対
19、20、F1〜F6…検出電極対
2a、2b…分岐路
16a…電極指
19a、19b、20a、20b…検出電極
21、211、212、31…検出回路
23、24、231、232…ゲート回路
25、251、252…フリップフロップ
27、33…スイッチ
34…抵抗減衰器
35…電極対
128…信号発生器
281…検出信号発生器
282…作用信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を分取するための分岐路を有する、前記細胞を含む流体が流れる流路の、前記分岐路より上流側に設けられ、前記流路を流れる前記細胞ごとの複素誘電率を測定するために、前記流路内に測定電場を形成する測定電極と、
前記測定電極が設けられる位置より下流側であって前記分岐路より上流側に設けられ、前記細胞に誘電泳動力を与えて前記分岐路を利用して細胞を分取するために、前記流路内に作用電場を形成する作用電極と、
前記測定電極が設けられる位置より下流側であって前記分岐路より上流側で前記作用電極に近接して設けられ、前記流路を流れる前記流体内の前記細胞の存在を検出する検出電極と、
前記測定された複素誘電率の情報に基づく分取信号、及び、前記検出電極で前記細胞が検出されたことを示す検出信号を取得であり、前記分取信号を取得した場合に前記検出信号を取得するタイミングで、前記作用電場を形成するための作用信号を前記作用電極に出力する出力手段と
を具備する細胞分取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞分取装置であって、
前記作用電極は、前記流路内で前記流体が流れる方向に沿って複数段配列され、
前記出力手段は、前記作用電極ごとに前記作用信号を出力する
細胞分取装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞分取装置であって、
前記検出電極は、前記流路内で前記流体が流れる方向に沿って、前記作用電極を挟むように少なくとも2つ設けられている
細胞分取装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の細胞分取装置であって、
前記検出電極及び前記作用電極が一体に設けられた1つの電極である
細胞分取装置。
【請求項5】
細胞を分取するための分岐路を有する、前記細胞を含む流体が流れる流路の、前記分岐路より上流側に、前記流路を流れる前記細胞ごとの複素誘電率を測定するために、前記流路内に測定電場を形成し、
前記測定電場が形成される位置より下流側であって前記分岐路より上流側に、前記細胞に誘電泳動力を与えて前記分岐路を利用して細胞を分取するために、前記流路内に作用電場を形成し、
前記分岐路より上流側で、前記作用電場が形成される位置に近接する位置で、前記流路を流れる前記流体内の前記細胞の存在を検出し、
前記測定された複素誘電率の情報に基づく判定信号を取得した場合に、前記細胞の存在が検出されたことを示す検出信号を取得するタイミングで、前記作用電場を形成するための作用信号を発生する
細胞分取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−98058(P2012−98058A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243650(P2010−243650)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】