説明

細胞培養用のマイクロスケール多流体流バイオリアクタ

マイクロ流体バイオリアクタ装置は、膜によって分離された2つのポリマー層に画定される相互に連通するマイクロ流路を特徴とすることができる。1つの層におけるマイクロ流路に関連する幾何学的パラメータは、それらの流路の長さに沿って変化することができる。マイクロ流体バイオリアクタ装置であって、内部に第1マイクロ流路、第2マイクロ流路および第3マイクロ流路を画定する少なくとも1つのポリマー層と、第1流路および第2流路を第3流路から、それらの間の幾何学的にオーバラップする部分において分離する膜であって、マイクロ流路の前記オーバラップする部分の間の連通を可能にする膜と、を具備し、マイクロ流路のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記オーラバップする部分においてその長さに沿って変化する、装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年10月5日に出願された同時係属米国特許出願第12/573,561号明細書に対する優先権およびその利益を主張し、それを全体として参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、概して、細胞を培養するシステムおよび方法に関する。より詳細には、さまざまな実施形態は、複数の相互に連通している流路を有する多層マイクロ流体細胞培養装置と、腎臓および他の細胞の制御された培養のためにこうした装置を使用する方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、腎臓病は深刻な健康リスクをもたらす。およそ9人に1人の成人の米国人が、慢性腎臓病(CKD)を患っており、およそ450,000人の患者が末期腎不全(ESRD)にかかっている。血液透析および血液濾過等の現行の標準治療は、損傷した器官を補助するが、通常、罹患組織の置換または再生を直接容易にはしない。一方、最新の腎臓組織工学法および再生法は、生存可能な腎臓特有の細胞および細胞−生体材料構成物を使用して腎臓組織を置換または修復しようとする。腎臓特有の細胞、前駆細胞または幹細胞を培養するには、一般に、適切な細胞成長および表現型機能を確実にするために、化学的手がかり刺激(cue)、生物学的手がかり刺激および生物物理学的てがかり刺激を厳密に制御する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、腎臓関連細胞は、プレート、皿およびフラスコで培養されており、細胞培養液および他の流体は、細胞に手作業で与えられ、静的状態で置かれる。より最近の細胞培養法は、複数のチャンバ、管状構造または中空糸を備えたバイオリアクタを利用して、制御されたレベルのせん断応力にまたはさまざまな化学的環境に細胞を晒すのを容易にする流体流を確立する。しかしながら、これらの方法では、一般に、使用者が指定した化学的刺激、生物学的刺激および生物物理学的刺激に、細胞を同時に晒すことはできず、または非常に限られた程度にしか晒すことができない。さらに、これらの方法は、通常、いくつかの細胞表現型およびマイクロスケールの血管状構造に近接している等、腎臓細胞が生体内で直面する状態および流体構造を模倣しない。細胞が直面する状態は、それらがいかに機能するかに影響するため、したがって、これらの方法は、細胞型の望まれる機能を引き起こさず、または望ましくない機能を引き起こす可能性がある。さらに、これらの方法では、通常、バイオリアクタ構造内の別個の位置における複数の細胞型の培養が可能ではない。したがって、医療用途に対して腎臓関連細胞の培養を改善するために、制御された培養状態下で複数の細胞型を成長させるシステムおよび方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、さまざまな実施形態において、複数の化学的パラメータ、生物学的パラメータおよび生物物理学的パラメータを制御する環境において細胞を培養し、それにより、たとえば生体内状態のより優れたシミュレーションを容易にする、マイクロ流体多流路バイオリアクタ装置を提供する。こうしたバイオリアクタシステムは、たとえば、透過性膜または半透過性膜によって分離された2つのポリマー層を含むことができる。各層は、1つまたは複数のマイクロ流路を画定し、マイクロ流路は、動作時、たとえば緩衝液、細胞培養液、血液または尿等の流体で充填される。流体流を、たとえば流路の入口と出口との間に圧力差を加えることにより、流路に誘導することができる。
【0006】
1つの層の流路は、他の層の1つまたは複数の流路と、膜を介して「連通する」ことができる。本明細書で使用する連通(communication)とは、本質的に化学的、物理的(たとえば、熱的、機械的あるいは流体力学的)または生物学的であるかに関らず、流路間のあらゆるタイプの相互作用を指す。たとえば、連通は、流体連通、すなわち、流路間の流体またはその成分の輸送、または機械的相互作用、すなわち一方の流路の他方の流路への圧力の付与等を含むことができる。同じ層内の流路が、膜、およびそれらの流路の両方と幾何学的にオーバラップしている他の層の流路を介して、互いに連通することも可能である。本明細書における流路の幾何学的オーバラップは、それら流路が同じ物理的空間を占有しなくても、膜に平行な(または、層および膜が平坦でない場合は膜に対して局所的に平行な)平面への流路の突出がオーバラップすることを意味する。
【0007】
1つの層における流路間の連通の程度は、他の要因もあるが特に、流路間の距離と、それらの断面の高さおよび幅とによって決まる。したがって、流路の長さに沿って(すなわち、最長寸法または軸に沿って)これらのパラメータの一部またはすべてを変化させることにより、連通のレベルを、流路に沿った位置に応じて制御することができる。そして、流路間の連通に対するこうした制御により、流体の注入を介して流路に沿った流体力学的パラメータおよび化学的パラメータに対する制御と、入力ポートおよび出力ポートにおける流量および圧力の制御とが容易になる。たとえば、組成が異なる2つの流体が、入口において隣接する流路内に注入されると、それら2つの流体は、流体間の化学的連通、すなわち物質移動により混合し、出口において第3の混合組成物をもたらすことができる。同様に、2つの流路のポート(入口および/または出口)に種々の圧力を加えることができ、それにより、個々の流路の幾何学的形状およびそれらの間の機械的連通のレベルによって(少なくとも部分的に)決まる流路長に沿った流体力学的パラメータのプロファイルをもたらすことができる。
【0008】
上述したようなマイクロ流体装置を、細胞の培養に有利に採用することができる。流路に、単一型または複数型の細胞を埋めることができ、それらの細胞を、流路内の別個の位置に配置することができる。流路の相対的な配置および形状、流路内の細胞位置、ならびに流体組成およびポートに加えられる圧力等の動作パラメータは、まとめて、培養細胞の微小環境および細胞に対する化学的信号、生物学的信号、機械的信号および生物物理学的信号の付与に対して従来にないレベルの制御を提供する。これらのパラメータに対する制御により、バイオリアクタを利用して、細胞機能に作用し、バイオリアクタ構造内の別個の位置における複数の細胞型の培養を容易にすることができる。使用者は、細胞機能を所望の方法でかつ/または特定の目的で変更するために、同時にまたは所定の方式に従って適時、パラメータの任意の組合せを与えることができる。そのように適合させることができる細胞機能としては、限定されないが、増殖の増大または制限、幹細胞分化万能性の維持、または所定の表現型に向かう細胞の分化が挙げられる。細胞を直接工学的に操作する(enginner)ことも可能である。
【0009】
本発明の実施形態は、種々の用途に対して細胞集団を培養し分化させるプラットフォームを提供する。たとえば、細胞培養を、所定の治療用途、たとえば新たな再生治療または先の細胞に基づく治療の高度化に対して適合させることができる。いくつかの実施形態では、バイオリアクタは、本来の器官を模倣するように設計されており、細胞分化および器官機能を研究するのに用いられる。バイオリアクタ装置は、生物工学でつくられた人工器官またはその一部に対する前駆体でもあり得る。種々の用途が、概して、本発明の種々の態様および特徴を利用することができる。
【0010】
一態様では、本発明は、内部に少なくとも3つのマイクロ流路を画定する少なくとも1つのポリマー層を含むマイクロ流体バイオリアクタ装置を提供する。膜が、マイクロ流路のオーバラップする部分の間の連通(たとえば流体連通または機械的連通)を可能にしながら、幾何学的にオーバラップする部分において第1流路および第2流路を第3流路(および任意選択的に第4流路)から分離する。第1流路および第2流路は、第3流路を介して互いに連通することができる。いくつかの実施形態では、装置は、膜によって分離された2つのポリマー層を含み、層のうちの一方は第1流路および第2流路を画定し、他方の層は第3流路を画定する。マイクロ流路のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの幾何学的パラメータは、オーバラップする部分において流路の長さに沿って変化する。マイクロ流路の長さに沿って変化する可能性がある幾何学的パラメータには、第1流路と第2流路との間の距離、ならびに/または流路のいずれかの幅および/もしくは深さが挙げられる。
【0011】
いくつかの実施形態では、ポリマー層は、バイオポリマーを含むかまたは本質的にバイオポリマーからなる。膜またはその一部は、半透過性であってもよく、多孔性または半バルク透過性材料によって形成され得る。いくつかの実施形態では、膜は、フリース、微細成形されたポリジメチルシロキサン(PDMS)、または他のシリコーンポリマー、ポリエーテルスルホン、エレクトロスピニング材料もしくはトラック−エッチ膜を含むかまたは本質的にそれから構成される。
【0012】
本明細書で使用する用語「バイオリアクタ装置」は、使用中であるか否かに関らず、上述したマイクロ流体構造を指す。細胞培養用に構成された実施形態では、バイオリアクタ装置は、マイクロ流体のうちの少なくともいくつかに細胞をさらに含む。たとえば、細胞は腎臓細胞であってもよく、マイクロ流体を、まとめて腎臓組織を模倣するようにさらに構成することができる。細胞は、膜または流路の壁に付着することができ、かつ/または、細胞を流路に収容された流体内に懸濁させることができる。細胞は複数の型を含むことができ、それは、いくつかの実施形態では流路の長さによって変化する。
【0013】
装置は、マイクロ流路に、たとえば細胞培養液、緩衝液、血液成分、全血、尿、透析物、水または濾液等の流体をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、流体は、体液を模倣する溶液であるかまたはそれを含む。流路内の流体には、流体力学的パラメータ(たとえば、圧力、流量、せん断速度、粘度等)が関連することができる。流体力学的パラメータの値は、あらゆる2つのマイクロ流路間で実質的に(たとえば、1.1倍を超えて、1.5倍を超えて、2倍を超えてまたは10倍を超えて)異なる可能性がある。たとえば、それらは、(第1層に形成することができる)第1流路または第2流路と(第2層に形成することができる)第3流路との間で、かつ/または第1流路と第2流路との間および/または第3流路と第4流路との間で異なってもよい。さらに、流体の成分の濃度または濃度勾配は、膜の同じ側または1つの異なる側の任意の2つの流路の間で変化してもよい。マイクロ流路の幾何学的パラメータは、流路長に沿って徐々に変化することができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のパラメータは、第1ポリマー層のマイクロ流路のうちの少なくとも1つにおける所定の流体力学的プロファイルに基づいて変化する。流体力学的プロファイルは、たとえば、結合(connective)輸送あるいは拡散輸送プロファイルまたはせん断応力プロファイルであり得る。いくつかの実施形態では、幾何学的形状パラメータの変動により、そのマイクロ流路の長さに沿った化学的刺激または機械的刺激のうちの少なくとも1つの変化が容易になる。
【0014】
別の態様では、本発明のさまざまな実施形態は、上述したようなバイオリアクタを提供し、マイクロ流路のうちの少なくとも1つに細胞を導入し、かつ細胞を培養することによって、細胞を培養する方法に関する。本方法はまた、マイクロ流路のうちの少なくとも1つに流体を導入することを含むことができる。いくつかの実施形態では、本方法は、細胞を機械的刺激、化学的刺激および/または生物学的刺激に晒すことと、任意に、刺激に対する細胞の応答(たとえば細胞機能の変化)を測定することとをさらに含む。細胞を、マイクロ流路の選択された位置に播種することができ、細胞種々の位置を種々の刺激に晒すことができる。さらに、マイクロ流体に種々の細胞型を導入することができる。いくつかの実施形態では、種々のマイクロ流体に種々の型の細胞が導入され、いくつかの実施形態では、同じマイクロ流体内の異なる位置に異なる型の細胞が播種される。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、腎臓を模倣する方法を提供する。本方法は、上述した特徴を有するバイオリアクタを提供することを含み、そこでは、パラメータが腎臓構造を模倣するように変化する。本方法は、マイクロ流体のうちの少なくとも1つに腎臓細胞を導入することと、細胞を培養することとをさらに含む。その後、バイオリアクタを、たとえば腎臓治療において体外で用いることができる。いくつかの実施形態では、バイオリアクタを患者に埋め込むことができる。
【0016】
これらの目的および他の目的は、本明細書に開示する本発明の実施形態の利点および特徴とともに、以下の説明、添付図面および特許請求の範囲を参照することによってより明らかとなろう。さらに、本明細書に記載するさまざまな実施形態の特徴は、相互に排他的ではなく、さまざまな組合せおよび順序で存在することができることが理解されるべきである。
【0017】
図面において、各図を通して同様の参照文字は概して同じ部分を指す。また、図面は必ずしも比例尺では描かれておらず、代りに、概して、本発明の原理を例示することに重きが置かれている。以下の説明において、本発明のさまざまな実施形態を、以下の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の一実施形態によるマイクロ流体装置の概略斜視図である。
【図1B】本発明の一実施形態によるマイクロ流体装置の概略斜視図である。
【図1C】本発明の一実施形態によるマイクロ流体装置の概略斜視図である。
【図2】図1A〜図1Cに示す装置の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図3A】本発明のさまざまな実施形態による、間隔、幅、深さが流路の長さに沿って変化する流路の概略平面図である。
【図3B】本発明のさまざまな実施形態による、間隔、幅、深さが流路の長さに沿って変化する流路の概略平面図である。
【図3C】本発明のさまざまな実施形態による、間隔、幅、深さが流路の長さに沿って変化する流路の概略平面図である。
【図4A】本発明の一実施形態による、1つの層の流路が別の層の3つの流路と連通している装置の概略側面図であり、連通のレベルに対する流路の距離、幅および深さの変化の影響を示す。
【図4B】本発明の一実施形態による、1つの層の流路が別の層の3つの流路と連通している装置の概略側面図であり、連通のレベルに対する流路の距離、幅および深さの変化の影響を示す。
【図4C】本発明の一実施形態による、1つの層の流路が別の層の3つの流路と連通している装置の概略側面図であり、連通のレベルに対する流路の距離、幅および深さの変化の影響を示す。
【図4D】本発明の一実施形態による、1つの層の流路が別の層の3つの流路と連通している装置の概略側面図であり、連通のレベルに対する流路の距離、幅および深さの変化の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、さまざまな実施形態において、膜によって分離された、2つの流路を含む層を特徴とし、その膜を介して、1つの層のマイクロ流路が他の層のマイクロ流路と連通することができる、マイクロ流体装置に関する。流路を含む層は、通常ポリマーから形成されるが、本発明はこのようには限定されない。いくつかの実施形態では、層は、セラミック、金属、ガラスまたは他の非ポリマー材料からなるかまたはそれを含むことができる。好適な非分解性ポリマー材料としては、ポリスチレン、PDMS、ポリカーボネートおよびポリウレタンが挙げられる。いくつかの用途に対して、ポリグリセロールセバシン酸、ポリエステルアミド、ポリオクタンジオールシトラート、ポリジオールシトラート、シルクフィブロインまたはポリカプロラクトン等の生物分解性材料または生物適合性材料の使用が有利な場合がある。さらに、いくつかの実施形態では、たとえばタンパク質またはゲル等のバイオポリマーを使用することができる。
【0020】
流路を含む層は、100ミクロンから数ミリメートルの範囲の厚さであり得る。一方、膜は、わずかにおよそ1ミクロンからおよそ100ミクロン厚さである。膜を横切る物質移動を可能にするために、膜または少なくともその一部は、透過性または半透過性である(すなわち、分子および膜の物理的特性または化学的特性に応じて、選択的にいくつかのイオンおよび分子に対して透過性であるが、他のイオンおよび分子に対しては透過性ではない)。透過性を、半多孔性または多孔性材料(ポリエーテルスルホン等)を使用することによって達成することができ、その場合、物質移動は、孔またはバルク透過性材料(PDMSまたはフリース状材料等)を通して発生する。いくつかの実施形態では、膜は、流路を含む層のうちの1つにポリマーをエレクトロスピニングすることによって生成され、そのプロセスにより、可撓性の多孔性ポリマーメッシュがもたらされる。
【0021】
図1A〜図1Cに、単純な例示的なマイクロ流体装置を概略的に示す。図1Aは、装置100の組み立てられた図であり、図1Bは、2つのポリマー層102、104および膜106を別々に示す装置100の組立分解図である。この例では、底層104は、層104に沿って延在しかつ両端においてポート110を介してアクセス可能である、単一の流路108を画定している。上層102は、5つの流路112を含み、各々、底層104の流路108より直径が小さい。これらの流路112は、流路長の大部分に沿って、狭い間隔で配置されかつ幅の広い方の流路108と横方向にオーバラップしているが、流路112の端部において分岐することにより、それらのそれぞれのポート114を介してそれらにアクセスする利便性を向上させる。
【0022】
図1Cは、わずかに間隔が空けられている膜106およびポリマー層102、104を示す断面の挿入図における拡大図とともに、組み立てられた装置100の半透明図を提供する。挿入図から分かるように、ポリマー層102、104の各々に画定される流路108、112は、各々、膜106に面している開放面を有している。その結果、上層102の流路112および底層104の広い流路108は、膜106を介して相互作用することができる。多くの実施形態では、流路108、112は、図1Cに示すように、矩形断面を有している。しかしながら、概して、流路断面は、任意の多角形状または丸い形状をとることができる。たとえば、流路断面は、半円形であって、直線状の境界が膜106によって形成されていてもよい。
【0023】
図2に、図1A〜図1Cに示す基本構造を有する装置100の断面のSEM画像を示す。多孔性層106は、厚さが約6μmである。上層102の5つのマイクロ流路112は、各々幅およそ50μmおよび深さおよそ50μmである。概して、典型的な実施形態は、流路の深さが数ミクロンから何百ミクロンまでの範囲であり、幅が数ミクロンから数ミリメートルまでの範囲である。
【0024】
一実施形態では、図1A〜図1Cおよび図2に示すもののような装置100の動作中、細胞を含むことができる流体は、ポート110、114を介してマイクロ流路108、112に運ばれる。各流路が別個の入口ポートおよび出口ポートを有するため、流体のタイプおよび流れ状態を、各流路に対して独立して制御することができる。したがって、1つの流路の流体力学的パラメータは、別の流路の流体力学的パラメータとは、他方の流路が同じ層にあるか別の層にあるかに関らず異なり得る。流体力学的パラメータとしては、たとえば、圧力、流量、せん断速度、せん断応力、層流性(laminarity)および粘性が挙げられる。流路108、112間で異なり得る他のパラメータには、流体の温度、熱伝導率、導電率、密度および化学組成が挙げられる。さらに、複数の流路108、112における並流、逆流、多孔性層106を横切る流れおよび静止状態のあらゆる組合せを採用することができる。パラメータを、所定の用途に対して選択することができる。たとえば、ヘンレのループ、すなわち老廃物流から水および塩が回収され濃縮した尿が形成される、腎臓の部分を模倣するために、一端において流体連結されている2つの隣接する流路の間の逆流を確立することができる。血液濾過が発生する糸球体を模倣するために、血液を1つの流路に流すことができ、一方で、透析物を隣接する流路に流すことができる。たとえば、本明細書に記載する装置を用いる血液濾過のようなプロセスのシミュレーションは、物質移動、圧力平衡化等により互いに連通する流路108、112の能力を利用する。
【0025】
膜106の両側の流路間とともに、膜106の他方の側の流路を介する同じ層における流路間の連通の程度は、流路の近接度およびそれらの断面の寸法とともに、膜106の特性(たとえば、材料、厚さ、孔サイズ等)を含むさまざまな幾何学的パラメータによって決まる。さらに、連通に対し、さまざまな流体成分の濃度および濃度勾配によって影響を与えることができる。
【0026】
図1A〜図1Cおよび図2に示す流路108、112の幾何学的形状は、流路108、112の長さに沿って変化しないが、そうである必要はない。むしろ、マイクロ流体バイオリアクタのさまざまな実施形態は、これらのパラメータのうちの1つまたは複数の変形を利用して、流路間の連通、したがって流路内の状態を、流路長に沿った位置に応じて制御することができる。図3A〜図3Cは、平面図において、5つのマイクロ流路301を有する装置層300を示し、マイクロ流路301の幾何学的特性は、流路301に沿った1つの箇所302において段階的に変化する。図3Aでは、2つの最外流路301から最内流路301までの距離は急峻に変化している。図3Bでは、2つの最外流路301は幅が広くなり、隣接する2つの内部流路301は幅が狭くなっているが、中心流路301は断面が変化していない。最後に、図3Cでは、流路301の深さが箇所302で変化している。
【0027】
幾何学的形状は、2つ以上の位置で変化してもよい。さらに、それは非常に徐々にであってもよい。たとえば、2つの直線状流路の間の距離は、流路の長さに沿って線形に増大することができる。その場合、流路はすでに平行ではないため、関連する幾何学的パラメータ(たとえば距離)の変動を、流路のうちのいずれか1つの長さまたは軸、流路間の対称軸、または概して、両流路が突出部分を有する(すなわち、流路のいずれにも平行ではない)任意の幾何学的軸に対して画定することができる。「流路の長さに沿って」という句は、これらのあり得る基準軸すべてを包含するように意図されている。膜の他方の側における層の別の流路を介する、あり得る最短経路での分岐する流路間の連通を確実にするために、その他方の流路は、概して、それにしたがって幅が変化する(たとえば、他方の層の相互連通流路が線形に分岐する場合に、層内への台形状突起を有する)。別法として、連通手段を提供する広い方の流路は、装置の関連部分における狭い方の流路間の少なくとも最大距離に等しい幅を有することができる。(図1A〜図1Cにおいてポート114に近い5つのマイクロ流路112の分岐が、5つの流路112が平行である領域を越えて、それらは底層104の広い方の流路108とオーバラップしないという点で、上述した幾何学的パラメータの変化とは区別されることに留意されたい。)
図4A〜図4Dに、流体間の相互作用に対する、特に同じ層の、膜を横切る、かつ他方の層の横方向にオーバラップする流路を介する相互作用に対する、流路の幾何学的形状の影響を概略的に示す。図4Aには、およそ同じ断面である3つのおよそ等距離の幅の狭い流路402と、下方の層の2つの外側の流路402と面一である、上方の層のより広い流路404とを備える、初期構造400を示す。マイクロ流体装置の特徴、特に流路において層流が優位であることにより、流路内の流体流にわたる溶液の混合は、拡散によって大幅に支配される。拡散は経路長によって決まるため、流路間および流路内の拡散の経路長を変更するように流路の幾何学的形状を変化させることにより、流路の長さに沿ったさまざまな領域に対する可溶性成分の送達を制御する手段が提供される。さらに、拡散は断面積によって決まるため、流路の幅または深さを変更することにより、膜を横切る拡散の量に影響を与えることができる。
【0028】
図4A〜図4Dの断面図において、膜405を横切る拡散の量は、垂直矢印の幅によって示され、上方の層における流路404の幅を横切る拡散経路長は、水平矢印によって示されている。底層における流路間の距離を縮小することにより、上流路を通る拡散経路長が低減し、その結果、底層における2つの流路間の拡散が増大する。したがって、図4Bに示す構成410では、2つの狭い間隔で配置された流路412、414の間の拡散輸送は、2つ以上のより広い間隔で配置された流路414、416の間の拡散輸送より大きい。図4Cに示す構成420では、膜405を横切る拡散は、底層における幅の広い方の流路422に対し、膜405との接触領域が拡大されるため増大する。したがって、広い方の流路422と狭い方の流路424、426の各々との間の拡散も同様に増大する。図4Dに示す構成430では、中心流路432の変更された流路深さは、流路432内の拡散流路長に影響を与え、それにより、所与の量の拡散に対して総流路容積が増大することにより連通の範囲が変化する。
【0029】
幾何学的パラメータが流路長に沿って変化する実施形態では、流体成分(たとえば、血液成分、栄養分または薬剤)の拡散に基づく送達を、流路の種々の領域に対して流路の幾何学的形状を介して調整することができる。これは、特に腎臓細胞の培養に有用であり、それは、たとえば、尿細管に沿った細胞が、細管の経路内のそれらの位置に応じて化学的性質が変化するためである。したがって、流路の幾何学的形状の変動は、マイクロ流体装置内の腎臓細胞を、それらが生体内において直面するものと同様の状態に直面するように培養する、一意の方法を提供する。
【0030】
本発明の実施形態によるマイクロ流体装置を、レプリカ成形、従来の機械加工、射出成形または固体自由形状製造を含む、本技術分野において既知であるさまざまな技法を用いて製造することができる。レプリカ成形によって個々のポリマー層を製造するために、所望の構造のネガ型レリーフを特徴とするマスターモールドが、各層に対して製造される。マスターモールドを作製する広く使用されている方法としては、ソフトリソグラフィ、ウェットエッチング、プラズマエッチングおよび電気メッキが挙げられる。
【0031】
たとえば、ソフトリソグラフィによってマスターモールドを製作する場合、本来不透明シートにおける透明な領域のように、最終的な層の圧痕に対応する、マスターモールドの隆起を画定するフォトマスクを設計する必要がある。マスクレイアウトを、コンピュータ図面において画定することができ、後にそれを、たとえばTanner L−Edit等のソフトウェアパッケージによって、電子ビームリソグラフィまたは同様の技法によって後にマスクを物理的に書くために好適なコンピュータ支援設計(CAD)レイアウトに変換することができる。
【0032】
別の予備ステップとして、たとえばシリコン製の基板ウェハを、たとえばSU−8等の好適なフォトレジストの粘稠溶液でコーティングすることができる。通常、ウェハは、数十秒から何分かまでの範囲の時間、1200回転/分〜4800回転/分で迅速に回転して、厚さが何十またはさらには何百マイクロメートルまでの均一な厚さのフォトレジストの層をもたらす。そして、フォトマスクをウェハの上に配置することができ、マスクの透明領域におけるフォトレジストを、UV光に露出させることによって化学的に安定化することができる。非露光領域のフォトレジストを、後に、化学的現像剤に露出させることによって除去することができ、残りのフォトレジストを、上昇した温度で硬化させることにより、耐久性のあるネガ型レリーフを形成することができる。エッチングステップでは、化学薬品を採用して、フォトレジストによって保護されていない領域における基板の最上層を除去することができ、それにより、ウェハのネガ型レリーフに流路パターンが生成され、この時これがマスターモールドを構成する。それ以上必要でないフォトレジストを、その後、基板から除去することができる。次に、液体ポリマーを、マスターモールド内に鋳造し、硬化させ、剥離することができ、それにより、装置の流路を含む層(たとえば、層102または104)のレプリカモールドがもたらされる。
【0033】
1つの層の流路を他の層の流路から分離する膜を、ウェハ上に好適な材料をコーティングし、適用可能な場合はそれを硬化させ、それを剥離することによって製造することができる。別の製造手法は、所望の多孔率、厚さおよび他の所望の特性を有する膜のエレクトロスピニングを含む。別法として、市販の膜(たとえば、Kent、WashingtonのSterlitechのトラック−エッチポリカーボネート膜)かまたは原位置で製造される膜を使用することができる。そして、ポリマー層および膜を、組み立て、位置合せし、互いにプラズマ接合するかまたは他の方法で一時的にもしくは永久的に取り付けることができる。
【0034】
上述した技法は、所望の幅、深さ、流れの経路および構造の流路を製造する際に優れた多様性を提供する。たとえば、流路を、湾曲した経路に沿って進み、複数の流路に分岐し、または複雑な網を形成するように設計することができる。したがって、装置を、たとえば微小血管またはネフロンの一部等、生物器官または組織の重要な特徴を模倣するように調整することができる。いくつかの実施形態では、流路は、流路における位置に応じて対流輸送もしくは拡散輸送特性または他の流体力学的パラメータによって定義されるプロファイル等、所望の流体力学的プロファイルに基づいて設計される。別法としてまたはさらに、流路設計を、装置内に注入される流体におけるいくつかの成分の所望の濃度プロファイルに基づいてもよい。所与の流体力学的プロファイルまたは濃度プロファイルから、こうしたプロファイルをもたらす流路の幾何学的形状および構造を計算する計算モデルを採用することができる。プロファイルを、特定の生物器官を模倣するように、または生物学的に関連するパラメータを最適化するように選択することができる。たとえば、流路から小分子を除去することを、流路を適切に浅くすることによって最適化することができる。別法として、流路または仕切り内の機械的微小環境、化学的微小環境または生物学的微小環境を、細胞の生存能力を増大させるのに好適な状態を引き起こすように最適化することができる。
【0035】
本発明により、マイクロ流体バイオリアクタ装置においてさまざまな変更および追加の特徴を実施することができる。いくつかの実施形態では、両層は複数の流路を含む。たとえば、1つの層は2つのより広い流路を含むことができ、その各々は、他の層の4つのより狭い流路のうちの2つと横方向にオーバラップしかつそれらとの連通を確立する。別の例示的な構造では、各層は、他の層の複数の流路と横方向にオーバラップする流路を含むことができる。いくつかの実施形態では、1つの層内の流路は、膜の他方の側の流路を介するのみでなく、その層における流路を分離する、開口部のある側壁または多孔性あるいは他の透過性材料を通して直接連通する。さらに、装置は、さまざまな層のポートを流体連結するヘッダ構成要素によって統合することができる3つ以上の層を含むことができる。したがって、3次元網を生成することができる。流路自体は、平滑な壁、平滑な分岐、膨張性壁および/または略完全な円形もしくは半円形断面を特徴とすることができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、本来、構造的にかつ機能的に上述したものに類似する可能性があるバイオリアクタを、単一のポリマー層またはブロックから製造することができる。流路を、さまざまな高さでブロックにドリル加工することができ、たとえば、それにより、2つの流路の中心軸が1つの平面にあるようになり、第3流路の中心軸が別の平行な平面にあることになる。いくつかの部分において、2つの平面における流路間の材料を、流路の間に膜状構造が形成されるように、部分的にエッチングにより除去するかまたは他の方法で除去することができる。別法として、2つの所望の流路深さに等しい垂直寸法を有する1つまたは複数の流路を、ブロックで形成することができ、流路を垂直に積層された流路に分割するように、膜を挿入することができる。
【0037】
細胞培養のために本装置を用意するために、流路壁の化学的特性を、ウシ血清アルブミン(BSA)または表面機能化溶液等の好適な溶液で流路を洗い流すことによって調整してもよい。用途に応じて、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンまたはエラスチン等、通常細胞外マトリックス(ECM)に見られるタンパク質を、表面機能化法を介して壁に付着させることができる。
【0038】
そして、管を入口および出口に取り付け、細胞を含むことができる流体を注入し、かつ/または本装置を他の機器に接続することにより、マイクロ装置を試験機構に組み込むことができる。細胞は、流路内に含まれるかまたは流路内を流れる流体に浮遊することができる。別法としてまたはさらに、細胞は、壁および/または膜に付着することができる。十分な孔サイズを有する膜では、細胞自体が孔を占有することができ、したがって多孔性細胞培養層が形成される。したがって、細胞を、膜の両側の流体からの刺激に晒すことができる。
【0039】
さまざまな実施形態において、バイオリアクタでは複数型の細胞が培養される。異なる型を、同じ位置で同時に培養するか、異なる流路内に注入するか、または同じ流路内の異なる位置に播種することができる。概して、壁および膜への細胞の付着は、いくつかの細胞型には見つかるが他の細胞型には見つからない結合部位に特有であり得る表面性状によって決まる。したがって、種々の細胞型を含む流路内の種々の位置を標的とすることを、流路長に沿って表面性状を変更することにより、たとえば表面付着分子を微細パターニングするか、または流路壁にナノトポグラフィを生成することにより、達成することができる。特定の細胞型が培養される場所に影響を与えるさらなる要素には、細胞型が流路内に導入される順序、および装置が細胞播種中に保持される(細胞を特定の位置に配置するために重力を利用する可能性がある)向きがある。
【0040】
細胞培養を、使用者が与える複数の化学的刺激、物理的刺激、生物学的刺激および/または生物物理学的刺激に晒すことができる。たとえば、流路構造により、常圧の生物物理学的刺激およびせん断応力の生物学的刺激の両方を可能にすることができる。せん断応力を、流路を通る流量を制御することによって調節することができ、流路内の圧力を、外部から供給される圧力によって設定することができる。圧力を、多孔性層の両側の複数の流路に対して制御することができる。膜の各側に複数の流路を採用することができるため、膜に対する(したがって、いくつかの実施形態では、多孔性細胞層に対する)圧力を、独立して複数の位置に対して制御することができる。細胞層に対する圧力制御は、腎臓に見られるさまざまな細胞等、生体内で輸送機能を行う細胞の状態を模倣するために特に重要である。
【0041】
制御可能な生物学的パラメータには、特定の細胞培養を包囲する細胞の密度および型が挙げられる。多孔性層の細胞は、一方の側の細胞種の1つのセットおよび他方の側の種の別のセットと相互作用することができる。いくつかの実施形態では、流路のマイクロスケール幅が、領域における細胞の数を制限し、それにより、細胞間の相互作用を制限する。さらに、流路のマイクロスケール深さが、多孔性層の細胞とその層に対向する流路壁の細胞との連通のレベルに影響を与える可能性がある。まとめて、これらの効果は、使用者が、局所的な流路の幾何学的形状を介して細胞間相互作用を制御する手段を提供する。さらに、上述したように、流路長に沿った流路の近接性、幅および深さの変動により、生体内で細胞が直面する可能性がある化学的環境の変化を近似するために使用することができる、流路の長さに沿った、たとえば尿細管の長さに沿った化学的環境に対する制御を容易にする。細胞型および機能が尿細管の長さに沿って変化するため、化学的性質を変化させることにより、バイオリアクタにおいて培養される時のそれらの細胞の機能を支援することができる。
【0042】
細胞は、互いにのみではなく、流路内の流体とも相互作用することができる。たとえば、細胞の増殖は、特定の薬剤、流体の栄養成分の変化、緩衝液のpH等に応じて変化する可能性がある。細胞はまた、吸収することも可能でありまたは秘密のいくつかの化合物、それによって流体組成を変化させる。一実施形態では、全血が膜の一方の側の流路を流れることができ、透析物が流路の他方の側の流路を流れることができ、それにより、腎臓内の逆流を模倣し、進路に沿って血液を濾過するように細胞を誘導する。
【0043】
細胞に対するさまざまな刺激の影響を、いくつかの方法で観察しかつ/または測定することができる。光学顕微鏡を使用して、細胞のサイズまたは形状のいかなる変化も検出することができる。流体を、出口において分岐させ、いくつかの成分に対して分析することにより、いくつかの化合物の分泌または吸収を確定することができ、それにより、細胞代謝および/またはタンパク質発現に関する情報を提供することができる。流体、粒子および分子種が膜を通過する速度、膜に対する圧力、または膜に対する電気抵抗の測定値を用いて、細胞が膜孔をいかに閉塞するかを評価することができる。
【0044】
当業者には理解されるように、本明細書に記載したマイクロ流体バイオリアクタは、特に、腎臓関連細胞または幹細胞の培養に関連するため、複数の研究用途および医療用途に対するプラットフォームを提供する。さまざまなパラメータの制御により、所望の細胞機能を引き出すために規定された環境における細胞の培養が容易になる。たとえば、所定の表現型に対する有効性を維持するかまたは分化を促進しながら、幹細胞を特定の治療用途のために培養することができる。
【0045】
バイオリアクタ装置はまた、生体内の細胞機能に極めて類似する条件下で、生体外で細胞機能を研究する可能性も増大させる。バイオリアクタにおける環境パラメータは適切に制御されるため、所与の条件のセットに対する既知の入力への細胞応答の観察が可能である。いくつかの実施形態では、腎臓細胞で埋められたバイオリアクタは、腎臓の重要な機能的構成要素を模倣する。したがって、腎臓治療に対する医薬を、適切に制御されたプラットフォームで開発することができる。薬剤損傷を受けた後の腎臓関連細胞を、バイオリアクタにおいて細胞の生存能力および細胞の健康のマーカに対して評価することにより、薬効および毒性を体外で安全に検査することができる。複数のパラメータに対する高レベルの制御により、従来の薬剤試験方法に比較して、実験の変動性を制限し、精度を向上させることができる。
【0046】
バイオリアクタ装置のいくつかの実施形態を、末期腎不全の治療に使用することができる。バイオリアクタおよび付着する細胞を、装置が腎臓のいくつかの機能を行うように構成することができ、それにより腎臓支援装置としての役割を果たし、それを、腎代替治療において体外で使用することができる。装置を、生体組織工学のための足場として採用してもよい。特に、腎臓の構造を模倣する制御されたアーキテクチャを提供し、細胞の付着を可能にすることにより、バイオリアクタは、腎臓特有の組織構成物を生成するための足場としての役割を果たすことができる。こうした構成物を、罹患腎臓組織と置換するために患者の体内に埋め込むことができる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、当業者には、本明細書に開示した概念を組み込んだ他の実施形態を、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく使用することができることが明らかとなろう。したがって、説明した実施形態は、すべての点において、限定するものではなく単に例示するものとみなされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体バイオリアクタ装置であって、
内部に第1マイクロ流路、第2マイクロ流路および第3マイクロ流路を画定する少なくとも1つのポリマー層と、
前記第1流路および前記第2流路を前記第3流路から、それらの間の幾何学的にオーバラップする部分において分離する膜であって、前記マイクロ流路の前記オーバラップする部分の間の連通を可能にする膜と、
を具備し、
前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記オーラバップする部分においてその長さに沿って変化する、装置。
【請求項2】
前記第1マイクロ流路が前記第3マイクロ流路を介して前記第2マイクロ流路と連通する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのポリマー層が、前記膜によって分離される2つのポリマー層を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリマー層が、バイオポリマーを含むかまたは本質的にバイオポリマー層からなる、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記マイクロ流路間の前記連通が、流体連通または機械的連通の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記第1マイクロ流路と前記第2マイクロ流路との間の距離である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記マイクロ流路のうちの1つの深さである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記マイクロ流路のうちの1つの幅である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記膜の少なくとも一部が半透過性である、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記膜の前記半透過性部分が、多孔性またはバルク半透過性のうちの少なくとも一方である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記膜が、フリース、エレクトロスピニング材料、微細成形ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルスルホンまたはトラック−エッチ膜のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つに細胞をさらに具備する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記細胞が腎臓細胞を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記マイクロ流路が、まとめて腎臓細胞を模倣するように構成される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記細胞のうちの少なくとも一部が前記膜に付着する、請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記細胞のうちの少なくとも一部が、前記マイクロ流路の壁に付着する、請求項12に記載の装置。
【請求項17】
前記細胞のうちの少なくとも一部が、前記マイクロ流路に収容される流体内に懸濁している、請求項12に記載の装置。
【請求項18】
前記細胞が複数の細胞の型を含む、請求項12に記載の装置。
【請求項19】
前記細胞の型が、前記マイクロ流路の長さに沿って変化する、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記マイクロ流路内に流体をさらに具備する、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
前記流体が、細胞培養液、緩衝液、血液成分、全血、尿、透析物、水または濾液のうちの少なくとも1つを含む、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記流体が、体液を模倣する溶液を含む、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記第1マイクロ流路および前記第2マイクロ流路のうちの少なくとも一方における流体力学的パラメータの値が、前記第3マイクロ流路における前記流体力学的パラメータの値とは実質的に異なる、請求項20に記載の装置。
【請求項24】
前記流体力学的パラメータが、圧力、流量、せん断速度または粘度のうちの1つである、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記第1マイクロ流路における流体力学的パラメータの値が、前記第2マイクロ流路における前記流体力学的パラメータの値とは実質的に異なる、請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記膜の前記第3マイクロ流路と同じ側に第4マイクロ流路をさらに具備し、前記第4マイクロ流路における流体力学的パラメータの値が、前記第3マイクロ流路における前記流体力学的パラメータの値とは実質的に異なる、請求項20に記載の装置。
【請求項27】
前記第1マイクロ流路および前記第2マイクロ流路のうちの少なくとも一方における前記流体の成分の濃度が、前記第3マイクロ流体における前記流体の前記成分の濃度と実質的に異なる、請求項20に記載の装置。
【請求項28】
前記第1マイクロ流路および前記第2マイクロ流路のうちの少なくとも一方における前記流体の成分の濃度勾配が、前記第3マイクロ流路における前記流体の前記成分の濃度勾配と実質的に異なる、請求項20に記載の装置。
【請求項29】
前記少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記マイクロ流路の長さに沿って徐々に変化する、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
前記少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記第1マイクロ流路および前記第2マイクロ流路のうちの少なくとも一方における所定の流体力学的プロファイルに基づいて変化する、請求項1に記載の装置。
【請求項31】
前記流体力学的プロファイルが、対流輸送プロファイル、拡散輸送プロファイルまたはせん断応力プロファイルのうちの少なくとも1つを含む、請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記マイクロ流路のうちの1つの前記長さに沿った前記少なくとも1つの幾何学的パラメータの前記変動が、そのマイクロ流路の前記長さに沿った化学的刺激または機械的刺激のうちの少なくとも1つの変化を容易にする、請求項1に記載の装置。
【請求項33】
細胞を培養する方法であって、
(a)(i)内部に第1マイクロ流路、第2マイクロ流路および第3マイクロ流路を画定する少なくとも1つのポリマー層と、(ii)前記第1流路および前記第2流路を前記第3流路から、それらの間の幾何学的にオーバラップする部分において分離する膜であって、前記マイクロ流路の前記オーバラップする部分の間の連通を可能にする膜と、を備え、前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの幾何学的パラメータが、前記オーラバップする部分においてその長さに沿って変化する、バイオリアクタを提供するステップと、
(b)前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つに細胞を導入するステップと、
(c)前記細胞を培養するステップと、
を含む方法。
【請求項34】
前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つに流体を導入するステップをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(c)が、機械的刺激、化学的刺激または生物学的刺激のうちの少なくとも1つに前記細胞を晒すことをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記刺激に対する前記細胞の応答を測定するステップをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記応答が、細胞機能の変化を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
ステップ(b)が、前記少なくとも1つのマイクロ流路内の選択された位置において細胞を播種することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
ステップ(c)が、前記選択された位置のうちの第1位置において播種された細胞を第1の刺激に晒すことと、前記選択された位置のうちの第2位置において播種された細胞を第2の刺激に晒すこととを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ステップ(b)が、前記少なくとも1つのマイクロ流路内に種々の型の細胞を導入することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
ステップ(b)が、種々のマイクロ流路に種々の型の細胞を導入することを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
ステップ(b)が、前記少なくとも1つのマイクロ流路内の種々の選択された位置において種々の型の細胞を播種することを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
腎臓を模倣する方法であって、
(a)(i)内部に第1マイクロ流路、第2マイクロ流路および第3マイクロ流路を画定する少なくとも1つのポリマー層と、(ii)前記第1流路および前記第2流路を前記第3流路から、それらの間の幾何学的にオーバラップする部分において分離する膜であって、前記マイクロ流路の前記オーバラップする部分の間の連通を可能にする膜と、を備え、前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの幾何学的パラメータが、腎臓構造を模倣するように、前記オーラバップする部分においてその長さに沿って変化する、バイオリアクタを提供するステップと、
(b)前記マイクロ流路のうちの少なくとも1つに腎臓細胞を導入するステップと、
(c)前記腎臓細胞を培養するステップと、
を含む方法。
【請求項44】
前記バイオリアクタを患者内に埋め込むステップをさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
腎臓治療において前記バイオリアクタを体外で使用するステップをさらに含む、請求項43に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公表番号】特表2013−506434(P2013−506434A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533243(P2012−533243)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/051461
【国際公開番号】WO2011/044117
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(591016976)ザ・チャールズ・スターク・ドレイパ・ラボラトリー・インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】