説明

細胞培養装置、細胞培養方法および細胞培養用プログラム

【課題】コンタミネーションしにくく、また不純物が混入しにくい細胞培養装置を提供すること。
【解決手段】外室10bおよび内室10aに区画された培養モジュール10と、培養モジュール10に供給するための培養液を収納する培養液容器4と、培養モジュール10を洗浄するための洗浄液を収納する洗浄液容器5と、培養液および洗浄液を供給するためのポンプP1,P2と、ポンプP1,P2の制御を行う制御部30と、を有し、洗浄液は、細胞を培養する前に供給されるものとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置、細胞培養方法および細胞培養用プログラムに関する。本発明は、特には、付着系細胞の培養装置、培養方法および培養用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体外において細胞を培養し、培養された細胞により組織を再構築するような技術が注目されている。そこで、細胞を大量にかつ簡便に培養するために、生体外における細胞培養およびそれにより培養された細胞の回収操作を半自動化または自動化することが求められている。
【0003】
たとえば、細胞培養器内の培養液を循環させることが可能な培養装置が提案されている(特許文献1および特許文献2参照)。また、細胞培養器内の培養液を交換することが可能な培養装置も提案されている(特許文献3参照)。更には、細胞培養容器内の培養液を自動的に交換することが可能な培養装置が開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−260958号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平5−276922号公報
【特許文献3】特開平8−172956号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2002−262856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述の特許文献1および特許文献2の細胞培養装置においては、細胞の培養に影響するような不純物の混入が少ない状態で、細胞を培養するのが好ましい。そこで、細胞を培養する前に、細胞培養装置の滅菌を行う場合がある。かかる滅菌には、たとえば、ガンマ線を照射することにより細胞培養装置の滅菌を行う。しかし、細胞培養装置にガンマ線を照射すると、細胞培養装置を構成する部材の一部がガンマ線により溶出する場合があり、その溶出等した不純物が培養する細胞に影響するという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる要望に鑑みてなされたものであって、本発明が解決しようとする課題は、コンタミネーションしにくく、また不純物が混入しにくい細胞培養装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る細胞培養装置は、外室および内室に区画された培養モジュールと、培養モジュールに供給するための培養液を収納する培養液容器と、培養モジュールを洗浄するための洗浄液を収納する洗浄液容器と、培養液および上記洗浄液を供給するためのポンプと、ポンプの制御を行う制御部とを有する細胞培養装置であって、ここで洗浄液は、細胞を培養する前に供給されるものである。
【0008】
本発明に係る細胞培養装置において、培養モジュール、培養液容器および洗浄液容器を含む培養用回路全体は、ポンプおよび制御部を有する制御装置に脱着可能に取り付けられている。
【0009】
また、本発明に係る細胞培養装置において、制御部は、培養液を供給する流速と、洗浄液を供給する流速とが異なるように制御するものであってもよい。
【0010】
さらに、本発明に係る細胞培養装置において、培養液容器および洗浄液容器の少なくとも一方は、培養モジュールよりも反重力方向側に配置されうる。
【0011】
さらに、本発明に係る細胞培養装置において、前記培養モジュールと各部とを接続する流路には、流路を開閉するバルブが設けられている。該バルブは、好ましくは、複数方向に突出する管と、流体の流路を切り換えるための回動可能な回動部材とを備える多方活栓と、該多方活栓の栓部を固定して回動部材を回動させる多方活栓切換装置を備えている。該多方活栓切換装置は、好ましくは、回動部材に対して回動駆動力を与えるための駆動源と、駆動源の回転軸に接続され、回動部材を把持する1以上の把持柱を備えるクランプとを備え、クランプは、制御部により制御された駆動源の回動動作に基づき回動部材を回動させる。また、バルブは、外部からの雑菌の侵入のない方式、例えば、ピンチバルブであってもよい。
【0012】
また、本発明の別の実施形態において、細胞培養方法は、外室および内室に区画された培養モジュールを洗浄する洗浄ステップと、培養液を培養モジュールに充填する培養液充填ステップと、外室に細胞を注入する細胞充填ステップと、培養液を上記内室へ供給しながら細胞を培養する培養ステップと、培養モジュールにて培養した細胞を回収する回収ステップとを有する。
【0013】
また、本発明の別の実施形態において、細胞培養プログラムは、外室および内室に区画された培養モジュールに洗浄液を供給する洗浄ステップと、培養液を培養モジュールに供給する培養液充填ステップと、培養液を上記内室へ供給しながら細胞を培養する培養ステップと、細胞を剥がすための剥離剤、上記洗浄剤および上記培養液の少なくとも1つを上記培養モジュールに供給する回収ステップとを制御部に実行させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンタミネーションしにくく、また不純物が混入しにくい細胞培養装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係る細胞培養装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の細胞培養装置が有する細胞培養回路の構成を示すブロック図である。
【図3】図1の細胞培養装置が有する培養モジュールの外観を示す斜視図である。
【図4】図3の培養モジュールに含まれる中空糸の外観を示す拡大斜視図である。
【図5】図3の培養モジュールをA−A線に沿って切断した場合の拡大断面図である。
【図6】図1の細胞培養装置が有する制御装置の外観を示す斜視図である。
【図7】図6の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本実施の形態に係る細胞培養方法の流れを示すフローチャートである。
【図9】図8のステップS101の流れを示すフローチャートである。
【図10】ステップS201における図1の細胞培養装置の状態を示すブロック図である。
【図11】ステップS202における図1の細胞培養装置の状態を示すブロック図である。
【図12】ステップS203における図1の細胞培養装置の状態を示すブロック図である。
【図13】ステップS204おける図1の細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。
【図14】図1の細胞培養装置において、図13の後の状態を示すブロック図である。
【図15】ステップS102およびステップS104における図1の細胞装置の状態を示すブロック図である。
【図16】ステップS102における図1の細胞装置の状態を示すブロック図である。
【図17】ステップS105における図1の細胞装置の状態を示すブロック図である。
【図18】ステップS105のうち、図17の後において、図1の細胞装置の状態を示すブロック図である。
【図19】本実施の形態の変形例に係る細胞培養装置に用いられる多方活栓の構造を示す分解斜視図である。
【図20】図19の多方活栓のうち、クランプと栓部とを組み立てた状態を示す斜視図である。
【図21】図19の多方活栓をパルスモータの回転に従動してクランプが回動した際の回動部材と三方活栓の流路との関係の一例を示す平面図であり、角度ゼロの際の状態を示す。
【図22】図19に示す多方活栓を、図21の状態から反時計方向に90度回転させた際の回動部材と栓部の流路との関係の一例を示す平面図である。
【図23】図19に示す多方活栓を、図22の状態から反時計方向に90度回転させた際の回動部材と栓部の流路との関係の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の細胞培養方法、細胞培養装置およびそのプログラムの好適な実施の形態について説明する。なお、本発明に係る細胞培養装置の実施の形態について最初に説明し、その装置の動作の説明と共に、細胞培養方法およびそのプログラムの各実施の形態について説明する。
【0017】
1.細胞培養装置
図1は、本実施の形態に係る細胞培養装置1の構成を示すブロック図である。図2は、図1の細胞培養装置1が有する細胞培養回路2の構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施の形態に係る細胞培養装置1は、細胞培養回路2と制御装置3とを有する。細胞培養回路2は、制御装置3に脱離可能に取り付けされている。
【0019】
細胞培養回路2は、細胞培養をするための回路である。細胞培養回路2は、培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6、剥離剤容器7、ガス交換機8および培養モジュール10を主に有する。なお、培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6および剥離剤容器7は、後述の廃液容器と交換されて用いられることがある。
【0020】
培養液容器4は、培地等の培養液を収納する容器である。培養液容器4に収納される培養液としては、培養する細胞に適した種々の培養液を用いることができる。
【0021】
洗浄液容器5は、細胞培養回路2を洗浄するための洗浄液を保持する容器である。洗浄液容器5が保持する洗浄液としては、培養する細胞に悪影響を与えないものであれば、一般的な洗浄液を用いることができる。たとえば、リン酸緩衝液(Phosphate Buffered Saline:PBS)若しくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(Tris)等の等張緩衝液、または、培養する細胞と浸透圧が略同一のショ糖溶液、食塩水等の等張液が好適に用いられる。その中でも、実質的にカルシウムを含まないものが好ましく、特に、PBSを用いるのが好ましい。
【0022】
回収容器6は、培養モジュール10で培養した細胞を回収する容器である。剥離剤容器7は、培養モジュール10にて培養した細胞を回収する際に、不織布等に接着した細胞を剥離し、回収率を向上させるために用いる剥離剤を保存する容器である。剥離剤容器7に入れる剥離剤としては、0.5mM〜10mMのEDTA、EGTA、DTPA、NTA若しくはTTHA等の2価金属のキレート剤、トリプシン若しくはコラーゲン等のタンパク質分解酵素、または、インテグリン若しくはカドヘリン等のタンパク質の接着を競合的に阻害するペプチドが好適に用いられる。かかる剥離剤を培養モジュール10に供給すると、培養モジュール10の筺体内壁や不織布に細胞を付着させているインテグリン等、および細胞同士を接着させているカドヘリン等の接着因子を切断できる。接着因子が切断されると付着性細胞が浮遊するため細胞の回収が容易となる。
【0023】
培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6および剥離剤容器7は、たとえば、可撓性樹脂から主になる袋型容器に各液体を保持している。かかる場合には、培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6および剥離剤容器7は、その内部に保持する溶液の量が増減した場合に、撓んでいくため、細胞培養回路2に空気が混入しにくい。また、培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6および剥離剤容器7は、培養モジュール10よりも地上から鉛直方向上方に配置され、流路を鉛直方向下方側に配置するのが好ましい。かかる場合には、たとえ培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6あるいは剥離剤容器7の内部に空気が混入しても、空気は、容器内で上方へ移動するため、細胞培養回路2に入りにくく、空気を介して混入した不純物が細胞に影響を与えるのを防ぐことができる。
【0024】
ガス交換機8は、二酸化炭素等を排出し、酸素等を細胞培養回路2に注入するために備えられる。細胞は、生存に必要な酸素を培養液から取り込むと共に、二酸化炭素を排出する。ガス交換機8が培養液中の二酸化炭素濃度と酸素濃度と適切に維持することにより、培養液のpHが高くなるのが防止されるため、細胞の活性低下を防ぐことができる。ガス交換機8は、たとえば、ガス交換膜を有し、そのガス交換膜を介して二酸化炭素や酸素を透過させることができる。また、ガス交換機8は、二酸化炭素センサを有し、二酸化炭素センサからの信号を受けて、二酸化炭素の供給量を調整するようにしてもよい。また、ガス交換機8には、培養液中の酸素濃度が低下することで細胞の活性が低下しないように、酸素濃度や流量を調整した気体を供給するのが好ましい。
【0025】
図3は、本実施の形態に係る細胞培養回路2が有する培養モジュール10の外観を示す斜視図である。図4は、図4の培養モジュール10が有する中空糸の構造を示す斜視図である。図5は、図3の培養モジュール10のA−A線断面図である。なお、図5においては、見易さを考慮して、各部材の縮尺を変更して図示していることに加え、中空糸11の数を減らし、中空糸11を直線的に図示している。
【0026】
培養モジュール10は、細胞を培養するためのモジュールである。培養モジュール10としては、公知のモジュールであればどのようなものを用いてもよい。たとえば、培養モジュール10は、その内部に、図4に示すような中空糸11を備えている。中空糸11は、中空の繊維である。また、培養モジュール10は、中空糸11により、内室10aと外室10bとの2室に区画されている。ここで、内室10aとは、中空糸11の中空部分をいい、外室10bとは、中空糸11の外側部分をいう。中空糸11の壁部は、培養液、洗浄液および剥離剤等(以後、培養液、洗浄液および剥離剤等をまとめて、「培養液等」という。)を透過させるが、培養する細胞を通さない繊維である。
【0027】
図4に示すように、培養モジュール10は、中空糸11の内室10aに培養液等を供給するための入口14と、内室10aからの培養液等を排出するための出口15とを有する。また、培養モジュール10は、中空糸11の延伸方向に略垂直な方向から外室10bに細胞や培養液等を供給するための供給口16と、外室10bから細胞や培養液等を排出するための排出口17とを有する。培養モジュール10は、外室10bに、担体として、たとえば、不織布を配置する。
【0028】
培養モジュール10において、中空糸11を用いる場合には、多数の中空糸11と不織布とを重ね合わせた積層体を巻き、棒状にする。続いて、その両端を接着剤で接着し、ばらばらにならないようにする。最後に、供給口16および排出口17が設けられた筒状の筺体に入れ、その筒状の筺体の開口部に、入口14が設けられたキャップと、出口15が設けられたキャップとを取り付ける。なお、培養した細胞を回収する際に、細胞が不織布に引っかかって回収率が低下するのを防ぐため、例えば、中空糸11より短い不織布を重ね合わせ、出口15側には不織布が存在しない空間を形成する。かかる構造により、培養した細胞が、出口15の手前で不織布に引っかからないため、細胞の回収率を向上できる。
【0029】
細胞培養回路2が予め一体として組み立てられ、一体として滅菌される場合には、細胞培養回路2の回路内部の汚染を避けることができるため好ましい。また、胞培養回路2は、内部に蒸留水や生理食塩水などの流体を充填した状態で滅菌されるのがさらに好ましい。細胞培養回路2の内部に蒸留水や生理食塩水などの流体を充填した状態で、細胞培養回路2を滅菌した場合には、輸送時あるいは細胞培養回路2を制御装置3に装着する際等に、充填された流体が細胞培養回路2の内部で移動しないように、細胞培養回路2のうち後述のバルブV1,V2,V3,V4,V5,V6,V7(以後、すべてのバルブを総称する場合には、「バルブV」という。)、ポンプP1およびポンプP2に取り付けられる部分を、着脱可能なディスポーザブルクリップにて挟み、細胞培養回路2内における流体の流通を遮断しておくのが好ましい。当該ディスポーサルクリップは、細胞培養回路2を制御装置3にセットし、電源スイッチを入れた後、あるいは、最初にバルブVを全閉とした後等の適切なステップにて除去される。
【0030】
図6は、本実施の形態に係る細胞培養装置1が有する制御装置3の外観を示す斜視図である。図7は、制御装置3の構成を示すブロック図である。なお、図6以外の図においては、カバー33の図示を省略している。
【0031】
制御装置3は、細胞培養回路2内で細胞が培養できるように、細胞培養回路2を配置し、各部の制御を行うための装置である。制御部30、ガス交換機ホルダ31、培養モジュールホルダ32、カバー33、ヒータ34、温度センサ35、ポンプP1,P2およびバルブVを有する。
【0032】
制御部30は、制御装置3の各部を制御する手段である。制御部30は、温度センサ35からの情報を取得し、ヒータ34を駆動させる温度調節手段30a、バルブVを開閉させるためのバルブ開閉手段30b、ポンプP1,P2を駆動させるポンプ駆動手段30c、およびユーザが入出力部39から入力した指示を取得したり、動作状況を入出力部39に表示させるための入出力手段30dとして機能する。制御部30は、たとえば、CPU、ROM、RAMおよびタイマ等で構成されている。制御部30のROMおよびRAMは、制御部30が実行するプログラムを格納したり、処理対象となるデータを一時的に格納したり、あるいは制御部30のワークメモリとして機能する。制御部30は、ROMあるいはRAMに格納されたプログラムにより各部を制御する。制御部30は、温度センサ35およびポンプP1,P2からの情報を処理する、あるいは、タイマにより計時することもある。また、制御部30は、ヒータ34、ポンプP1,P2およびバルブVの制御を行う。また、制御部30には、タッチパネル等から構成される入出力部39が接続されていてもよく、ユーザは、入出力部39から、制御部30へ指示するあるいは現在の状況を確認するようにしてもよい。
【0033】
ガス交換機ホルダ31は、ガス交換機8を保持するための固定具である。培養モジュールホルダ32は、培養モジュール10を保持するための固定具である。ガス交換機ホルダ31および培養モジュールホルダ32は、ガス交換機ホルダ31および培養モジュールホルダ32を固定できれば、どのようなものであってもよい。
【0034】
カバー33は、培養モジュールホルダ32を保護し、かつ、温度を一定にするために培養モジュールホルダ32およびその他の部分を覆う部材である。本実施の形態では、カバー33の内側に、ガス交換機ホルダ31、培養モジュールホルダ32、ヒータ34および温度センサ35が収納される。
【0035】
ヒータ34は細胞培養回路2の温度を一定にするために設けられる。細胞培養回路2の周囲温度の低下により、培養液の温度が低下し、培養中の細胞の活性が低下するのを防ぐためである。ヒータ34としては、たとえば、温風により、カバー33の内部の温度を一定温度に維持する、いわゆる温風ヒータを採用できる。なお、カバー33の内部には、少なくとも培養モジュールホルダ32およびヒータ34および温度センサ35が収納されていればよく、より好ましくは、培養モジュールホルダ32、ヒータ34および温度センサ35以外の細胞培養回路2も収納されている。特に、培養液容器4も一緒に保温されていることで、供給する培養液の温度を一定に保つことができる。
【0036】
ポンプP1およびポンプP2は、各部から培養モジュール10に培養液等を供給するための駆動部である。ポンプP1およびポンプP2としては、一般的なポンプであればどのようなものを用いてもよいが、流路として弾性に富むチューブを用いる場合には、いわゆるローラポンプを好適に用いることができる。ローラポンプは、弾性のあるチューブの一点をローラで押し潰し、ローラをそのまま移動させてチューブ内部の液体を押し出しながら移動するようなポンプである。ローラが移動すると、押し潰された箇所はチューブの復元力によって元の形状に戻る際に、チューブ内部に生じた真空により次の液体を吸引することができる。
【0037】
本実施の形態では、ポンプP1は、培養液容器4からガス交換機8を経て培養モジュール10の内室に培養液を供給するための流路に設けられている。したがって、ポンプP1を駆動させることで、培養液容器4から培養液がガス交換機8を経て培養モジュール10に供給される。また、ポンプP2は、洗浄液容器5および剥離剤容器7から培養モジュール10の外室に続く流路のうち、洗浄液容器5および剥離剤容器7よりも培養モジュール10側に設けられる。また、ポンプP2は、単位時間当たりの吐出量を調整できるのが好ましい。また、ポンプP2は、単位時間当たりの吐出量を、ポンプP1の吐出量より大きく設定できるものが好ましい。なぜなら、洗浄液により細胞培養回路2を洗浄する際には、流速が大きい程、流路壁部に付着している不純物を効率よく除去できるからである。
【0038】
バルブVは、流路を開閉するために用いられる。バルブVとしては、外部から雑菌等の混入が生じない方法であればどのように流路を開閉するものでもよい。たとえば、バルブVとしては、ピンチコックを用いることができる。バルブV1は剥離剤容器7の出口に、バルブV2は洗浄液容器6の出口に、バルブV3はポンプP2からガス交換機までの間の流路に、バルブV4はポンプP2と外室との間に、バルブV5は回収容器6と外室との間に、バルブV6は回収容器6と内室10aの出口15との間に、バルブV7は培養液容器4と内室10aの出口15との間に、それぞれ設けられる。
【0039】
上述のような細胞培養装置1を構成することで、細胞を培養する前に、流路や各部を洗浄液で洗浄できる。したがって、細胞培養回路2にガンマ線を照射して細胞培養回路2を滅菌する場合であっても、ガンマ線により細胞培養回路2を構成する部材の一部が溶出した後に、洗浄液により細胞培養回路2を洗浄するため、不純物を除去できる。
【0040】
また、上述のような細胞培養装置1とすることで、細胞培養回路2を制御装置3からそのまま取り外しできる。したがって、ある程度細胞を培養した場合に、細胞培養回路2をそのまま取り外して、冷凍保存すること等が可能となる。特に、培養液容器4、洗浄液容器5、回収容器6および剥離剤容器7等が袋状の容器である場合には、取り外した後、冷凍保存が容易である。また、細胞培養回路2を解凍して再び細胞の培養を開始する際に、不純物が混入しないため好ましい。
【0041】
また、上述のような細胞培養装置1とすることで、培養温度を一定に保つことができるため、細胞の培養効率が向上する。細胞培養装置1では、従来と異なり、培養液のみを一定温度にするのではなく、培養モジュール10を保温する、あるいは、培養モジュール10を含む細胞培養回路2の一部または全部を保温できるため、外気温により培養液の移送中に培養液の温度が変化するのを防止できる。特に、ヒータ34として温風ヒータを用いる場合には、温水や電熱式の場合と比較して、カバー33内部の温度が均一であるため好ましい。
【0042】
2.細胞培養方法
次に、本発明の実施の形態に係る細胞培養方法について説明する。なお、この実施の形態に係る細胞培養用プログラムは、本発明の実施の形態に係る細胞培養方法における各ステップを細胞培養装置1の制御部30に実行させるプログラムである。以下、本実施の形態に係る細胞培養方法およびプログラムを、細胞培養装置1の動作と共に説明する。
【0043】
図8は、本発明の実施の形態に係る細胞培養方法の流れを示すフローチャートである。
【0044】
回路2を制御装置3にセットした後、ユーザが電源を入れると、制御部30は、全てのバルブVを全閉とする。続いて、ユーザが入出力部39を介して制御部30にスタート指示を与えると、制御部30は、各流路および培養モジュール10を洗浄液で洗浄を開始する(ステップS101:洗浄ステップ)。
【0045】
図9は、図8のステップS101における処理の流れを説明するフローチャートである。図10は、ステップS201における細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。なお、図10〜図18では、洗浄液が通過中の流路を黒で示し、開放中のバルブVを白抜きで、閉止中のバルブVを黒で示す。
【0046】
ステップS101は、図9のステップS201〜204の4つのステップを含む。まず、制御部30は、内室10aを洗浄するため、バルブV2,V3,V6を開放し、バルブV1,V4,V5およびV7を閉止し、ポンプP1を停止し、ポンプP2を駆動するように制御する(ステップS201)。これにより、洗浄液容器5から供給された洗浄液は、培養モジュール10の内室10aを通過し、回収容器6の代わりに置かれた廃液容器に排出される。
【0047】
図11は、ステップS202における細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。
【0048】
次に、制御部30は、ステップS202において、中空糸11の膜壁を洗浄するため、バルブV2,V3およびV5を開放し、バルブV1、V4,V6およびV7のバルブを閉止して、ポンプP1を停止し、ポンプP2を駆動する。かかる洗浄により、入口14から内室に供給された洗浄液は、内室10aに接続されたバルブV6およびV7が閉止しているため、内室10aに供給された洗浄液は加圧されて中空糸11の膜壁を透過する。かかるステップにより、中空糸11の膜壁が洗浄され、洗浄液は、回収容器6の代わりに置かれた廃液容器に排出される。
【0049】
図12は、ステップS203における細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。
【0050】
次に、制御部30は、ステップS203において、外室10bを洗浄するため、図12に示すように、バルブV2,V4およびV5を開放し、バルブV1,V3,V6およびV7のバルブを閉止し、ポンプP1を停止し、ポンプP2を駆動する。かかる洗浄により、洗浄液は、培養モジュール10の外室10bを通過し、通過の際に外室10bを洗浄する。使用済みの洗浄液は、廃液容器に排出される。その際、外室に配置された不織布も同時に洗浄される。
【0051】
図13および図14は、ステップS204おける細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。
【0052】
最後に、制御部30は、ステップS204において、内室10aの出口15から培養液容器4までの流路、および培養液容器4からポンプP1を介して内室10aの入り口14まで到達する流路を洗浄する。まず、制御部30は、内室10aの出口15から培養液容器4までの流路を洗浄するため、図13に示すように、バルブV2,V3およびV7を開放し、バルブV1,V4,V5およびV6のバルブを閉止し、ポンプP1を停止し、ポンプP2を駆動する。かかる洗浄により、洗浄液は、培養モジュール10の内室10aを経て、培養液容器4の代わりに取り付けられた廃液容器に排出される。
【0053】
続けて、制御部30は、培養液容器4からポンプP1を介して内室10aの入り口14まで到達する流路を洗浄するため、図14に示すように、バルブV2、V3およびV7を開放し、バルブV1,V4,V5,およびV6を閉止して、ポンプP2を駆動し、ポンプP1を逆方向に駆動する。この時ポンプP1の流量とポンプP2の流量とは、ポンプP1の流量が、ポンプP2の流量と同じまたはそれよりも小さいのが好ましい。ポンプP1の流量がポンプP2の流量と同じまたはそれよりも小さく、かつ、ベントとしてバルブV7が開放された場合には、細胞培養回路2の内部の圧力を適正に保つことができるため、流路の破裂や潰れを防止できる。これにより洗浄液は、当該細胞培養回路2の内部を洗浄すると共に、余剰分の洗浄液が、内室10aとバルブV7を経由して培養液容器4の代わりに取り付けられた廃液容器に排出される。ポンプP1の流量およびポンプP2の流量を適切に設定することにより、ステップS204のうち、図13および図14で示す状態による洗浄工程を1つの洗浄工程とすることができると共に、その1つの工程にて内室10aの出口15から培養液容器4までの流路、および培養液容器4からポンプP1を介して内室10aの入り口14まで到達する流路を同時に洗浄できる。
【0054】
ステップS101(ステップS201〜S204を含む)を完了することで、細胞を培養する前に、流路や各部を洗浄液で洗浄できる。細胞培養回路2を洗浄することで、培養する細胞に影響する不純物が除去されるため、効率よく細胞を培養できる。
【0055】
なお、上記ステップS101の間に洗浄液容器5内の洗浄液が途切れることを防止するため、洗浄液容器5の出口とバルブV2との間に、液切れセンサ(不図示)を取り付けてもよい。たとえば、液切れセンサ(不図示)からの検知信号を制御部30が受けると、制御部30は、自動的にバルブV2を閉止し、ポンプP1およびポンプP2の少なくとも一方を停止し、液切れを知らせるブザーもしくはランプなどの警報手段、または、入出力部39の画面上への表示等により、洗浄液がなくなったことをユーザに通知する。ユーザは、洗浄液容器5に新たな洗浄液を補充する、もしくは、洗浄液容器5ごと新品に交換した後、再度スタートする旨、入出力部39から制御部30に指示する。かかる指示を制御部30が受信すると、制御部30は、ポンプP1およびポンプP2の少なくとも一方を駆動し、ステップS101を再開させる。
【0056】
接着性細胞を培養する場合には、ステップS101は、さらに、洗浄液容器5から剥離剤容器7までの流路を洗浄するステップを有しているのが好ましい。例えば、洗浄液容器5を剥離剤容器7よりも鉛直方向で高い位置に設けた場合には、制御部30が、バルブV1およびV2を開放し、バルブV3,V4,V5,V6およびV7を閉止して、ポンプP1およびP2を停止すると、洗浄液は、落差(水頭差)により洗浄液容器5から剥離剤容器7までの流路を洗浄し、剥離剤容器7の代わりに取り付けられた廃液容器(図示せず)に排出される。また、剥離剤が安定な組成であり、細胞培養を行っている間に剥離剤が変化しない場合には、剥離剤容器7をステップS101の前に細胞培養回路2に接続するのが好ましい。かかる場合には、制御部30は、ステップS101の前に、バルブV1,V4およびV5を開放し、バルブV2,V3,V6およびV7を閉止して、ポンプP2を駆動する。かかる制御により、剥離剤は、剥離剤容器7から回収容器6の代わりに配置された廃液容器までの流路、および、剥離剤容器7からポンプP2までの回路を洗浄できる。かかる工程の後、一旦、全てのバルブを閉止し、かつ、ポンプP1およびポンプP2を停止した後、ステップS101の洗浄を開始してもよい。なお、浮遊性細胞を培養する場合には、剥離剤容器7を用いないため、この工程は不要である。
【0057】
ユーザが上記ステップ101の終了を確認し、培養液充填ステップをスタートするよう入出力部39から制御部30に指示すると、制御部30は、培養液を内室10aおよび外室10bに充填する(ステップS102:培養液充填ステップ)。
【0058】
図15および図16は、ステップS102における細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。
【0059】
ステップS102では、制御部30は、まず、培養モジュール10の内室10aに培養液を充填し、次に、外室10bに培養液を充填する。制御部30は、培養モジュール10の内室10aに培養液を充填するために、図15に示すように、バルブV7を開放し、バルブV1,V2,V3,V4,V5およびV6を閉止し、ポンプP1を駆動し、ポンプP2を停止する。培養液容器4内の培養液は、ポンプP1およびガス交換機8を介して内室10aに培養液を供給する。なお、培養液は、培養モジュール10の内室10aを経て、出口15から培養液容器4へと循環する。
【0060】
続いて、制御部30は、培養モジュール10の外室10bに培養液を充填するために、図16に示すように、バルブV5を開放し、バルブV1,V2,V3,V4,V6およびV7を閉止し、ポンプP1を駆動し、ポンプP2を停止する。培養液容器4内の培養液は、培養モジュール10の内室10aへ加圧供給されるため、培養液が中空糸11の膜壁を透過して外室10bに透過することにより、外室10bに培養液が供給される。なお、過剰分の培養液は、回収容器6の代わりに配置された廃液容器に排出される。
【0061】
ユーザがステップS102の完了を確認し、細胞充填ステップをスタートするように入出力部39から制御部30へ指示すると、制御部30は、培養モジュール10の外室10bに細胞を充填する(ステップS103:細胞充填ステップ)。
【0062】
ステップS103では、制御部30は、バルブV1,V2,V3,V6およびV7を閉止し、バルブV4およびバルブV5を開放し、ポンプP1およびポンプP2を停止させる。その後、バルブV4と培養モジュール10との間に設けられた細胞充填ポート(不図示)に細胞注入用シリンジを自動又は手動で差しこみ、シリンジ内の細胞を培養器の外室10bに注入する。ステップS103により、培養モジュール10の外室10bに細胞が充填される。
【0063】
ユーザが、ステップS103の完了を確認し、培養液循環ステップをスタートするよう入出力部39から制御部30に指示すると、制御部30は、内室10aへの培養液の供給を開始する(ステップS104:培養液循環ステップ)。
【0064】
ステップS104では、培養液容器4から培養モジュール10の内室10aに培養液を循環供給する。具体的には、制御部30は、図15に示す様に、バルブV7を開放し、バルブV1,V2,V3,V4,V5およびV6を閉止し、ポンプP1を駆動し、ポンプP2を停止する。ステップS104では、内室10aにて循環する培養液が、膜間の圧力差あるいは拡散作用により中空糸11の膜壁を透過し、外室10bの培養液と置換するため、外室に注入された細胞は、外室10bにて栄養分である培養液を得られる。なお、ステップS104では、ポンプP1の回転数を変更することで、培養液の循環量を増減し、最適な培養状態を維持することができる。ステップS104は、細胞及び培養液の種類によって、通常1〜3週間、行われる。
【0065】
また、培養液の循環中に培養液中の酸素濃度が低下すると細胞の活性が低下するため、培養液容器4の培養液を新鮮な培養液と交換することが好ましい。培養液交換時には、ユーザがストップキーを押すことで、制御部30は、全バルブVとポンプP1を停止する。ユーザが、培養液容器4内の培養液の交換を完了した後、培養工程のスタートスイッチを再び押した場合、あるいは復旧スイッチを押した場合には、ストップキーを押す前の工程に復帰し、制御部30は、バルブV7を開放し、ポンプP1を駆動させることで、培養工程を再開させる。培養が終了すると次の回収工程に移行する。培養液の交換時期は、培養液のpHを測定することにより判断することもできる。
【0066】
ユーザがステップS104を完了し、かつ細胞の回収ステップをスタートするよう入出力部39から制御部30に指示すると、制御部30は、剥離剤の供給を開始する(ステップS105:回収ステップ)。
【0067】
図17および図18は、ステップS105における細胞培養装置1の状態を示すブロック図である。
【0068】
ステップS105では、制御部30は、まず、外室10bを剥離剤で満たし、その状態を一定時間維持した後で、培養液を内室10aおよび外室10bに供給し、排出口17から追い出された細胞を回収容器6にて回収する。まず、制御部30は、図17に示すように、バルブV1,V4およびV5を開放し、バルブV2,V3,V6およびV7を閉止し、ポンプP1を停止し、ポンプP2を駆動する。ステップS105では、剥離剤は、剥離剤容器7から、培養モジュール10の外室10bに供給され、外室10bを充満する。外室10bをオーバーフローした剥離剤は、排出口17から回収容器6に回収される。なお、浮遊性細胞を培養する場合には、細胞が不織布等の坦体に付着しないため、剥離剤を用いなくてもよい。
【0069】
次に、制御部30は、ポンプP2からの流量検知信号又はタイマからの信号を受けて、すべてのバルブVを閉止し、ポンプP1およびポンプP2を停止して、外室10bに剥離剤を充満させた状態を維持し、剥離剤が内壁と不織布等に細胞を付着させるタンパク質を分解して、細胞を剥離させるまで待機する。待機時間は、細胞及び剥離剤の種類によって決定されるが、通常3〜8分間である。
【0070】
続いて、タイマからの信号を受けた制御部30は、図18のように、バルブV3,V4およびV5を開放し、バルブV1,V2,V6およびV7を閉止し、ポンプP1を駆動し、ポンプP2を停止する。すると、培養液は、培養液容器4から培養モジュール10の内室10aおよび外室10bの両方へ供給され、細胞を外室10bの排出口17から追い出す。追い出された細胞は、回収容器6にて回収される。培養液を培養モジュール10の内室10aへ供給することで、内室10aと外室10b内の圧力が等しくなるため、培養した細胞が排出口17から追い出されて、回収容器6にて細胞を回収できる。
【0071】
なお、ステップS105においては、培養した細胞が不織布に引っかかり細胞の回収率が低下する場合がある。不織布に引っ掛かった細胞を回収する方法としては、培養モジュール10を揺動させたり、培養モジュール10の内室10aに供給される培養液を間歇的に加圧してもよい。たとえば、入口14の手前に、圧力センサ(不図示)を設ける。制御部30は、その圧力センサ(不図示)からの信号を受けて、入り口14近傍の流路の圧力が設定圧力を超えるとバルブV5を開放し、設定圧力以下になるとバルブV5を閉止する。このように、培養モジュール10の内室10aに供給される培養液の圧力を間歇的に変動させることで不織布に引っかかった細胞を取り外すことができる。
【0072】
さらに、ステップS105は、膜壁表面に浮遊する細胞を外室10bから追い出すステップを有していてもよい。膜壁表面に浮遊する細胞を外室10bから追い出すためには、タイマからの信号を受けた制御部30は、バルブV5を開放し、バルブV1,V2,V3,V4,V6およびV7を閉止し、ポンプP1を駆動し、ポンプP2を停止する。すると、培養液は、培養液容器4から培養モジュール10の内室10aへ供給する。培養モジュール10の内室10aへ加圧供給された培養液は、中空糸11の膜壁を透過して外室10bに移行するので、膜壁表面に浮遊する培養細胞を膜壁から剥がすことができる。膜壁から剥がされた細胞は、外室10bから追い出され、排出口17から回収容器6にて回収される。
【0073】
ユーザが、ステップS105の完了を確認し、入出力部39から制御部30に廃棄を開始するよう指示すると、全てのバルブVが開放される。ユーザは、全てのバルブVが開放されたことを確認した後、細胞培養回路2を細胞培養装置1から取り外すことができる。この際、制御部30がポンプP1およびポンプP2を停止し、全てのバルブVを閉止した状態で、ユーザは、廃棄開始に先立ち、バルブV5およびV6から細胞回収容器6に至る回路を着脱可能なクリップなどで閉止し、回収容器への万一の汚染を防止することが好ましい。
【0074】
なお、ステップS105の後で、回収した細胞をPBS等の洗浄液により洗浄してもよい。タンパク質分解酵素等の剥離剤が接着因子以外の細胞表面マーカー、チャネルやレセプターまでも分解、破壊し、培養細胞に悪影響を与えるのを防ぐために、回収された剥離剤をPBS等の洗浄液で置換するのが好ましいからである。たとえば、回収容器6の下部に排水流路を接続し、その排水流路には、細胞の透過を阻止する多孔膜を収容したフィルタを設ける。排水流路により、細胞と一緒に回収された培養液および剥離剤は透過され、廃棄される。溶液中の細胞は、フィルタの表面に堆積する。このフィルタに体積した細胞を、PBS等により洗浄するようにしてもよい。
【0075】
上述の細胞培養装置1を用いることで、初心者であっても容易に細胞培養を行うことができる。ユーザは、各容器に培養液、剥離剤、洗浄剤を用意し、細胞をシリンジに収容する。そして、ユーザは、洗浄ステップS101、培養液充填ステップS102、細胞充填ステップS103、培養ステップS104および回収ステップS105を開始するよう、制御部30に指示するだけ(たとえば、スタートスイッチを押すだけ)で、自動的に各工程が実施されるからである。また全てのステップが密閉系で実施されるため、細胞培養回路2内に雑菌が侵入しにくい。さらに、細胞を注入する前に、洗浄工程を有するため、細胞に有害な不純物を予め除去できる。
【0076】
3.変形例
以上、本発明の細胞培養装置1および細胞培養方法の実施の形態を説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々変形を施して実施可能である。たとえば、上述の実施の形態において、剥離剤は必須ではない。また、剥離剤として、洗浄液を用いてもよい。たとえば、浮遊系細胞を培養する場合には、剥離剤を用いなくても良く、剥離剤容器7は、必須ではない。
【0077】
また、上述の実施の形態では、細胞培養回路2は、制御装置3に脱離可能に取り付けされているが、このような形態に限らない。細胞培養回路2は、制御装置3から取り外しできないような形態であってもよい。また、上述の実施の形態では、ガス交換機8は、細胞培養回路2に設けられていたが、ガス交換機8は、必須ではない。また、ガス交換機8のうち、一部は、細胞培養回路2に設けられ、その他の部分は、制御装置3側に設けられていてもよい。たとえば、ガス透過性の膜から主に成るチューブ(培地が内部を流れる)部分は、細胞培養回路2に設けられて、二酸化炭素や空気等の気体を供給する部分は、制御装置3側に設けられていてもよい。係る場合には、ガス交換機8のうち制御装置3の側に設けられた部分と、細胞培養回路2の側に設けられた部分とが脱離可能であるのが好ましい。
【0078】
また、上述の実施の形態では、中空糸11を用いた培養モジュール10の例を示したが、このような形態に限らない。たとえば、培養モジュール10は、中空糸11を用いずに、平膜を用いるモジュールであってもよい。
【0079】
また、上述の実施の形態では、培養液容器4、洗浄液容器5および剥離剤容器7を培養モジュール10よりも鉛直方向上方に配置するものとしたが、さらに、回収容器6を培養モジュール10よりも低い位置に設置し、かつ、廃液容器を回収容器6よりも低い位置に設置するのが好ましい。また、回収容器6と廃液容器との間、および、培養モジュール10と回収容器6との間に開閉可能な流路を設けるのがより好ましい。かかる場合には、回収容器6と廃液容器との流路および培養モジュール10と回収容器6との流路を開放することにより、全ての廃液を培養モジュール10と回収容器6とを経由して廃液容器に集めることが可能なため、回収容器6の代わりに廃液容器を付け替えることなく、ステップS101を行うことができる。しかる後、回収容器6と廃液容器間の流路を閉止すれば、回収容器6と廃液容器との交換に起因する細胞培養回路2の内部に不純物あるいは雑菌等が侵入するリスクを低減できる。さらに、各流路の開閉には、外部から着脱可能なクランプ類あるいは鉗子などを補助的に用いることで、操作が簡便となる。また、培養液容器4、洗浄液容器5および剥離剤容器7を培養モジュール10よりも鉛直方向上方に配置することで、剥離剤、洗浄液、培養液をそれぞれ落差(水頭)で流すことができるので、細胞培養回路2の内部の洗浄と置換が可能であり、最終的に洗浄に使用した液体はすべて廃液容器に集められる。
【0080】
また、上述の実施の形態では、1つの流路の閉止あるいは開放を切り替えられるバルブVを用いたが、このような形態に限らない。たとえば、バルブとして、多方活栓40を用いることができる。図19は、多方活栓40の構造の一例を示す分解斜視図である。
【0081】
多方活栓40は、たとえば、パルスモータ41、仕切板43、クランプ50、栓部60を主に備える。パルスモータ41は、上方に延出する回転軸42を有している。パルスモータ41は、予め決めたパルス数に相当する角度だけ回転軸42を回転させることが可能である。なお、制御部30は、パルスモータ41の制御部として機能してもよく、制御部30は各ステップに応じて、回転軸42の長軸を軸として回転軸42を回転させることができる。
【0082】
パルスモータ41の上部に位置する仕切板43は、穴部44を有し、その穴部44からパルスモータ41の回転軸42が延出している。また、仕切板43上には、スイッチ45,46が配置されている。
【0083】
図20は、多方活栓40のうち、クランプ50と栓部60とを組み合わせた状態の斜視図である。
【0084】
クランプ50は、略円形の台座部51を有し、その台座部51の裏側中心には、凹部52がある。この凹部52には、パルスモータ41の回転軸42が嵌合する。したがって、回転軸42が回転すると、クランプ50も回転軸42と一体的に回転する。クランプ50は、さらに、台座部51の中心からクランプ50の径方向外側に向かって伸びる一本の押圧部材53を備える。押圧部材53の長さは、クランプ50が回転した場合に、スイッチ45,46に届く長さである。また、台座部51上面には、4本の把持柱54が立設されている。
【0085】
また、4本の把持柱54に囲まれるように、把持柱54よりも短い柱状部55を有する。把持柱は、ゴムのように柔軟性に富みかつ摩擦係数の高い材料で外周が構成されているのが好ましく、たとえば、芯としてねじを用いて、そのねじに、回動部材61の側面との隙間を十分に埋めることができる厚さを有する筒体を被せることで好適に構成される。ゴムよりも硬度の高い樹脂(例えば、フッ素樹脂)から成る筒の外表面にゴムをコートした多層構造の把持柱であってもよい。芯を金属製にし、その芯の外周に芯材よりも硬度の低い材料(たとえば、樹脂)で構成することにより、把持柱54は、それぞれ、回動部材61を強くグリップでき、かつ回動部材61の表面において滑りにくくなる。回動部材61は、把持柱54にて着脱自在なので、大きさ若しくは形状等に関わらず市販の三方活栓を栓部60として用いることができる。
【0086】
把持柱54は、略十字状の回動部材61をグリップする。また、芯体62は、上側から見た場合に、平面上で互いに直角である3方向に開となるT字状の流路63を有する。栓部60は、略十字状の回動部材61および略中央に上方へ伸びる芯体62を有する。芯体62と流路63とは、回転しないように固定されている。一方、芯体62の内部には、略十字状の回動部材61に固着されたT字状の流路を有する円筒が、シールを介して、回転可能に芯体62と液密的に接合されている。この例では回動部材61の回転により、回動部材61に固着された円筒のT字状の流路が回転し、芯体62より3方向に伸びる流路63のT字状の流路と一致したときに、その方向に流通する。また回動部材61が、芯体62より外部3方向に伸びる流路63に対し45度程傾いた位置にある場合、流路は全閉となる。
【0087】
図21〜23は、上面から見た場合の、クランプ50の回転運動に応じた回動部材61の向きと、それに固着された円筒のT字状の流路と、芯体62より外部3方向にT字状に伸びる流路63との流通状態を説明する平面図である。図21〜23では、右側の図の破線によって示される部分が、回動部材61に固着された円筒内のT字状の流路63であり、回動部材61の長軸方向と、その左側に開口したT字状の流路を有している。また図中の「管1」、「管2」、「管3」は、流路63の端部が「管1」、「管2」または「管3」の方向を向いている場合に流路63と接続される管を示している。
【0088】
図21に示す位置では、流路63は、管2と管3とを流通させ、管1は閉止状態にある。図21に示す状態からクランプ50が時計の針と反対方向に90度回転すると、図22に示す状態になる。図22に示す状態の場合、流路63は、管1と管3とを流通させる。また、図22に示す状態から、クランプ50がさらに半時計方向に90度回転すると、図23に示す状態となり、流路63は、管1と管2とを流通させる。
【0089】
上述のような三方活栓を用いた場合、本来手動にて使用する三方活栓を電動により回転させ、流路63の開閉を切り換えることができる。例えば、管1を培養モジュール10に接続し、管2を洗浄剤容器5に、管3を培養液容器4に接続する。管1と管3をつなぐ流路63を正確に開放状態とする必要がある場合には、クランプ50を正確に90度回転させるためのパルス数だけパルスモータ41を回転させなければならない。このため、角度ゼロの状態であるかどうか不確定であるクランプ50を数〜数十パルス分だけ時計の針と反対方向に回転させ、その位置から押圧部材53がスイッチ45を押し込むまで、クランプ50を時計の針と同方向に回転させる。スイッチ45が押し込まれてパルスモータ41が停止したときのクランプ50の位置は、確実に角度ゼロの位置である。この状態から角度90度に相当するパルス数だけクランプ50を回転させる。この結果、図21に示すクランプ50の状態は、正確に90度回転した状態となり、管1と管3とを結ぶ流路63は完全に開の状態となる。なお、流量の正確さを必要としない場合には、上述の方法を採用しなくてもよい。
【0090】
また、上述の実施の形態では、各ステップのスタート指示を入出力部39から制御部30が受け取った場合に、各ステップを実行するような形態としたが、このような形態に限らない。たとえば、制御部30は、所定のステップが完了したことを確認した後、あるいは、所定の時間が経過後に、自動的に次のステップを開始してもよい。
【0091】
また、上記実施の形態に係る細胞培養装置1の制御部30を動作させるプログラムは、制御部30が有するRAMあるいはROM等に記憶されるが、これらのプログラムは、これらの装置の出荷前に記憶されたものであっても、これらの機器の出荷後に記憶されたものであってもよい。また、これらのプログラムの一部が、これらの機器の出荷後に記憶されたものであってもよい。このように出荷後に細胞培養装置1の制御部が有するメモリに記憶されるプログラムは、たとえばCD−ROMや半導体メモリなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してサーバ装置などからダウンロードしたものであってもよい。
【0092】
また、上記実施の形態に係る細胞培養装置1のメモリに記憶されるプログラムおよび各種のデータは、その一部あるいは全部が、コンピュータ以外のたとえばHDDなどの外部記憶デバイスや、細胞培養装置1と着脱可能なたとえばメモリカードやCD−ROMに記憶されていてもよい。
【0093】
また、上記実施の形態に係る細胞培養装置1を構成する各部の機能は、全てまたはその一部をソフトウェアによって実現しても、あるいはその少なくとも一部をハードウェアで実現しても良い。例えば、制御部30における処理の全部またはその一部は、1または複数のプログラムによりコンピュータ上で実現してもよく、その少なくとも一部をハードウェアで実現してもよい。
【0094】
また、上記実施の形態おける細胞培養装置1の全部または一部として動作させるためのコンピュータプログラムを、メモリカードあるいはCD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、これを別のコンピュータ、例えば、携帯電話、オーディオ機器、電子時計等にインストールし、細胞培養装置1として動作させ、あるいは、細胞培養装置1が行なう工程の一部または全部を実行させてもよい。さらに、インターネット上のサーバ装置が有するディスク装置等にプログラムを格納しておき、例えば、搬送波に重畳させて、細胞培養装置1の制御部30となるコンピュータにダウンロード等するものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、細胞を培養するための細胞培養装置に適用できる。
【符号の説明】
【0096】
1・・・細胞培養装置
2・・・細胞培養回路
3・・・制御装置
4・・・培養液容器(細胞培養回路の一部)
5・・・洗浄液容器(細胞培養回路の一部)
10・・・培養モジュール(細胞培養回路の一部)
30・・・制御部(制御装置の一部)
40・・・多方活栓
41・・・パルスモータ(駆動源)
42・・・回転軸
50・・・クランプ
54・・・把持柱
60・・・栓部
61・・・回動部材
63・・・流路
P1,P2・・・ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外室および内室に区画された培養モジュールと、
上記培養モジュールに供給するための培養液を収納する培養液容器と、
上記培養モジュールを洗浄するための洗浄液を収納する洗浄液容器と、
上記培養液および上記洗浄液を供給するためのポンプと、
上記ポンプの制御を行う制御部と、を有し、
上記洗浄液は、少なくとも、細胞を培養する前に供給されることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養装置であって、
前記培養モジュール、前記培養液容器および前記洗浄液容器を含む培養用回路全体は、
前記ポンプおよび前記制御部を有する制御装置に脱着可能に取り付けられることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の細胞培養装置であって、
前記制御部は、前記培養液を供給する場合の流速と、前記洗浄液を供給する場合の流速とを変えることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養装置であって、
前記培養液容器および前記洗浄液容器の少なくとも一方は、前記培養モジュールよりも反重力方向側に配置されることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養装置であって、
さらに、前記培養モジュールと各部とを接続する流路には、バルブが設けられ、
上記バルブは、複数方向に突出する管と、流体の流路を切り換えるための回動可能な回動部材とを備える栓部に取り付けられることにより、当該栓部を固定して上記回動部材を回動させる多方活栓切換装置であって、
上記回動部材に対して回動駆動力を与えるための駆動源と、
上記駆動源の回転軸に接続され、上記回動部材を把持する1以上の把持柱を備えるクランプと、を備え、
前記制御部は、上記駆動源の回動動作を制御すると共に、
上記クランプは、前記制御部により制御された上記駆動源の回動動作に基づき上記回動部材を回動させることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項6】
培養液を充填する前に、外室および内室に区画された培養モジュールを洗浄する洗浄ステップと、
培養液を培養モジュールに充填する培養液充填ステップと、
上記外室に細胞を注入する細胞充填ステップと、
上記培養液を上記内室へ供給しながら細胞を培養する培養ステップと、
上記培養モジュールにて培養した細胞を回収する回収ステップと、を有することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項7】
入力手段からの入力により、
培養液を充填する前に、外室および内室に区画された培養モジュールに洗浄液を供給する洗浄ステップと、
培養液を培養モジュールに供給する培養液充填ステップと、
上記培養液を上記内室へ供給しながら細胞を培養する培養ステップと、
細胞を剥がすための剥離剤、上記洗浄剤および上記培養液の少なくとも1つを上記培養モジュールに供給する回収ステップと、
を制御部に実行させることを特徴とする細胞培養用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−103882(P2011−103882A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255253(P2010−255253)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(510302814)
【出願人】(510302825)
【出願人】(510302939)
【出願人】(510302836)
【Fターム(参考)】