説明

細胞増殖抑制剤

下記の構造式で示されるAT−264が PepT1活性阻害作用を介して細胞増殖を抑制することを見出した。さらに、AT−264が、ヒト膵臓癌株AsPC−1に対して細胞増殖抑制作用を有するか否かを検討した結果、同様に細胞増殖を抑制することを見出した。これらの知見は、ペプチドトランスポーターの活性を阻害することにより、細胞増殖を抑制しうることを示すものである。癌細胞などの増殖抑制剤の開発において、ペプチドトランスポーターの活性の抑制は重要な指標となると考えられる。


【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、ペプチドトランスポーター阻害物質を有効成分とする細胞増殖抑制剤に関する。
背景技術
哺乳動物は、生体外から栄養源を取り込む必要性があり、細胞には多くの輸送タンパク質が存在することが知られている。ペプチドの輸送を行っているのはペプチドトランスポーター(ペプチド輸送タンパク質)であり、現在までに多数のペプチドトランスポーターが見出されている(J.Biol.Chem.,270(12);6456−6463,(1995)、Biochim.Biophys.Acta.,1235;461−466,(1995)、Mol.Microbiol.,Vol.16,p825,(1995)、特開平6−261761、特開平11−172、US5849525など)。ペプチドトランスポーターはペプチドの細胞内への流入を行うタンパク質と細胞外への流出を行うタンパク質に分けられる。又、輸送の際に利用するエネルギー源の違いによっても分類することができ、細胞内外のプロトンの濃度差を利用して輸送を行うプロトン駆動型ペプチドトランスポーターは、PTRファミリーに属する(Mol.Microbiol.,Vol.16,p825,(1995))。一方生体内のATPを使用して輸送を行うペプチドトランスポーターはABCファミリーに属する(Annu.Rev.Cell.Biol.,Vol8,p67,(1992))。
ペプチドトランスポーターはジペプチド、トリペプチドなどの小分子ペプチドだけでなく、β−ラクタム抗生物質、ACE阻害剤などの薬剤の輸送にも関与していることが報告されている(Ganapathy,Leibach.,Curr.Biol.3,695−701,(1991)、Nakashima et al.,Biochem.Pharm.33,3345−3352,(1984)、Friedman,Amidon.,Pharm.Res.,6,1043−1047,(1989)、Okano et al.,J.Biol.Chem,261,14130−14134,(1986)、Muranushi et al.,Pharm.Res.,6,308−312,(1989)、Friedman,Amidon.,J.Control.Rel.,13,141−146,(1990))。
PepT1およびPepT2は小分子ペプチドを細胞内に取り込むことによりタンパク質の吸収やペプチド性窒素源の維持に寄与しているプロトン駆動型ペプチドトランスポーターであり、PepT1、PepT2はそれぞれアミノ酸708個、729個からなる12回膜貫通型タンパク質である(J.Biol.Chem.,270(12);6456−6463,(1995)、Biochim.Biophys.Acta.,1235;461−466,(1995)、Terada,Inui,Tanpakusitsu Kakusan Kouso.,Vol.46,No5,(2001))。
PepT1およびPepT2もβ−ラクタム抗生物質やベスタチンなどの薬物を輸送することが報告されている(Saito,H.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,275,1631−1637,(1995)、Saito,H.et al.,Biochim.Biopys.Acta,1280,173−177,(1996)、Terada,T.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,281,1415−1421(1997))。
PepT1は主に小腸で発現し、腎臓、膵臓での発現も確認されている。PepT2は腎臓、脳、肺、脾臓での発現が確認されている。PepT1、PepT2は小腸や腎尿細管上皮細胞の刷子縁膜に局在していることが報告されている(Ogihara,H.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.220,848−852,(1996)、Takahashi,K.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,286,1037−1042(1998)、Hong,S.et al.,Am.J.Physiol.Renal.Physiol.,276,F658−F665(1999)、Terada,Inui,Tanpakusitsu Kakusan Kouso.,Vol.46,No5,(2001))。
また、ヒト膵管癌株でPepT1が細胞膜に過剰発現していること(Cancer Res.,58,519−525,(1998)、およびPepT2のmRNAがヒト膵管癌株で発現していること(Millennium World Congress of Pharmaceutical Sciences,(2000))が報告されている。しかしながら、PepT1およびPepT2の癌細胞増殖への関与は不明であり、PepT1およびPepT2の機能を阻害することにより癌細胞の増殖に影響を与えるか否かの議論は行われていなかった。
発明の開示
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ペプチドトランスポーター阻害物質を有効成分とする細胞増殖抑制剤、特に膵臓癌などの癌細胞増殖抑制剤を提供することにある。
本発明者らは、AT−264がPepT1活性阻害作用を介して細胞増殖を抑制することを見出した。さらに、AT−264が、ヒト膵臓癌株AsPC−1に対して細胞増殖抑制作用を有するか否かを検討した結果、同様に細胞増殖を抑制することを見出した。これらの知見は、ペプチドトランスポーターの活性を阻害することにより、細胞増殖を抑制しうることを示すものである。癌細胞などの増殖抑制剤の開発において、ペプチドトランスポーターの活性の抑制は重要な指標となると考えられる。
本発明は、より詳しくは、
〔1〕ペプチドトランスポーター阻害物質を有効成分とする細胞増殖抑制剤、
〔2〕ペプチドトランスポーターがプロトン駆動型ペプチドトランスポーターである、〔1〕に記載の細胞増殖抑制剤、
〔3〕ペプチドトランスポーターがPepT1またはPepT2である、〔1〕に記載の細胞増殖抑制剤、
〔4〕ペプチドトランスポーター阻害物質が、ペプチドトランスポーターに結合することによりペプチドトランスポーターの輸送機能を阻害する物質である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤、
〔5〕ペプチドトランスポーター阻害物質が下記一般式(1)で示されるスルファミド誘導体である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤、
一般式(1)

(式中、Rは水素原子、低級アルキル基またはアミノ保護基を示し、Rは置換基を有していてもよく、また縮合されていてもよい窒素原子含有の複素環を示し、Rは基A−(CH)m−、水素原子または置換されていてもよい低級アルキル基を示す。ここでAは置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環または置換されていてもよい低級シクロアルキル基を、mは0〜6の整数を示す。また−(CH)m−部分は1個以上の置換基で置換されていてもよい。Rは水素原子、低級アルキル基またはアミノ保護基を示し、Rは基−C(=NR)NH、基−NH−C(=NR)NHまたは基−(CH)n−NHRを、ここでRは水素原子、低級アルキル基、水酸基、アシル基、アシルオキシ基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニルオキシ基または低級ヒドロキシアルキルカルボニルオキシ基を示し、nは0〜2の整数を示す。また−(CH)n−の部分は1個以上の置換基で置換されていてもよい)
〔6〕癌細胞の増殖を抑制する、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤、
〔7〕癌細胞が膵臓癌細胞である、〔6〕に記載の細胞増殖抑制剤、
を、提供するものである。
本発明は、ペプチドトランスポーター阻害物質を有効成分とする細胞増殖抑制剤を提供する。本発明の細胞増殖抑制剤の標的となるペプチドトランスポーターは特に限定されないが、好ましいのはプロトン駆動によりペプチドを細胞内に取り込むペプチドトランスポーターであり、さらに好ましいのはPepT1またはPepT2であり、特に好ましいのはPepT1である。
PepT1およびPepT2の塩基配列、アミノ酸配列は既に知られている(ヒトPepT1:GenBank XM_007063、J.Biol.Chem.,270(12);6456−6463,(1995)、ヒトPepT2:GenBank XM_002922、Biochim.Biophys.Acta.,1235;461−466,(1995))。
本発明のペプチドトランスポーター阻害物質は、ペプチドトランスポーターを介した輸送を阻害し、細胞の増殖を抑制するものであれば、特に限定はされない。ペプチドトランスポーターを介した輸送を阻害する物質としては、例えば、ペプチドトランスポーターに結合してペプチドトランスポーターの輸送機能を阻害する物質、ペプチドトランスポーターの発現を抑制する物質などが挙げられるが、好ましいのはペプチドトランスポーターに結合してペプチドトランスポーターの輸送機能を阻害する物質である。
ペプチドトランスポーターに結合する物質としては、例えば、合成低分子化合物、抗体、蛋白質、ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、好ましくは下記一般式(1)で示される化合物(WO97/19919参照)または抗体である。
一般式(1)

(式中、Rは水素原子、低級アルキル基またはアミノ保護基を示し、Rは置換基を有していてもよく、また縮合されていてもよい窒素原子含有の複素環を示し、Rは基A−(CH)m−、水素原子または置換されていてもよい低級アルキル基を示す。ここでAは置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環または置換されていてもよい低級シクロアルキル基を、mは0〜6の整数を示す。また−(CH)m−部分は1個以上の置換基で置換されていてもよい。Rは水素原子、低級アルキル基またはアミノ保護基を示し、Rは基−C(=NR)NH、基−NH−C(=NR)NHまたは基−(CH)n−NHRを、ここでRは水素原子、低級アルキル基、水酸基、アシル基、アシルオキシ基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニルオキシ基または低級ヒドロキシアルキルカルボニルオキシ基を示し、nは0〜2の整数を示す。また−(CH)n−の部分は1個以上の置換基で置換されていてもよい)で表されるスルファミド誘導体。
本発明において、特に限定がない場合は次の用語は以下の意味を示す。
低級アルキル基とは、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
低級アルコキシ基とは、炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状のアルキルオキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
アミノ保護基とは、一般式(1)の合成過程において、R1が結合するアミノ基を保護できる基であればよく、一般的に使用できるアミノ保護基が用いられる。このようなアミノ保護基としては、例えばホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、トリフルオロアセチル基、ベンジルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、フタロイル基、ベンジル基、トシル基等が挙げられ、好ましくはt−ブトキシカルボニル基が挙げられる。
また、置換されていてもよいアミノ基とは、置換基として前述のアミノ保護基のほか、水酸基、置換されていてもよい低級アルキル基、置換されていてもよいアシル基、例えば置換されていてもよい低級アルコキシカルボニル基もしくは置換されていてもよい低級アルキルアミノカルボニル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環基、置換されていてもよい低級アルコキシ基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環オキシ基、置換されていてもよいシリル基等が1個以上置換されていてもよいアミノ基を意味し、例えばメチルアミノ基、エチルアミノ基、アセチルアミノ基、ジメチルアミノカルボニルアミノ基、フェニルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基、メタンスルホニルアミノ基、4−ピペリジニルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、シクロプロピルアミノ基などが挙げられ、好ましくはメチルアミノ基、エチルアミノ基、アセチルアミノ基、p−トルエンスルホニルアミノ基、メタンスルホニルアミノ基、シクロプロピルアミノ基等が挙げられる。
置換されていてもよい低級アルキル基とは、置換基として、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアシル基、例えば置換されていてもよい低級アルコキシカルボニル基もしくは置換されていてもよい低級アルキルアミノカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環基、置換されていてもよいカルボキシル基、置換されていてもよい低級アルコキシ基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいシクロアルキルオキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよい低級アルキルチオ基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環オキシ基、置換されていてもよいシクロアルキルチオ基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環チオ基、置換されていてもよいアリールチオ基、置換されていてもよいスルホニルオキシ基、置換されていてもよいシリル基等が1個以上置換されていてもよい低級アルキル基を意味し、例えば、2−(ピロリジン−1−イルカルボニル)エチル基、3−フェニル−2−(ピロリジン−1−イルカルボニル)−n−プロピル基、3,3,−ジフェニル−n−プロピル基、2,2−ジフェニルエチル基、2−シクロヘキシルオキシエチル基等が挙げられ、好ましくは3−フェニル−2−(ピロリジン−1−イルカルボニル)−n−プロピル基、3,3−ジフェニル−n−プロピル基、2,2−ジフェニルエチル基等が挙げられる。
また置換されていてもよい低級アルコキシ基とは、置換基として前記の低級アルキル基で示したものと同様な基が置換された低級アルコキシ基を意味し、例えば、フルオロメトキシ基、フルオロエトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
アリール基とは芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた基であり、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、キシリル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
置換されていてもよいアリール基とは、前記のアリール基の任意の水素原子が1個以上の置換されていてもよい低級アルキル基、置換されていてもよい低級アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアシル基、置換されていてもよい低級アルキルチオ基、ニトロ基、シアノ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアリールアルキル基、置換されていてもよいアリールオキシ基、置換されていてもよいスルホニル基、置換されていてもよいカルボキシル基、置換されていてもよい低級アルキルスルホニル基、置換されていてもよい低級アルキルスルホニルアミノ基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環基、置換されていてもよいシクロアルキルチオ基、置換されていてもよいスルホニルオキシ基、置換されていてもよいアリールチオ基、置換されていてもよいシリル基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環オキシ基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環チオ基等で置換されていてもよい基を意味し、例えばo−メチルフェニル基、m−ヒドロキシフェニル基、p−カルボキシルフェニル基、2−フェネチルフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2−メチル−4−アミノフェニル基、フェノキシフェニル基、3−フェネチルフェニル基、5−シアノナフチル基、4−アミノ−1−ナフチル基、6−ヒドロキシ−1−ナフチル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、2−ベンジルフェニル基、3−ブロモ−1−ナフチル基、6−メトキシ−1−ナフチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、好ましくは2−フェネチルフェニル基、6−ヒドロキシ−1−ナフチル基、3−ブロモ−1−ナフチル基、2,3−ジメトキシフェニル基等が挙げられる。置換されていてもよいシクロアルキル基とは、炭素数3〜7、好ましくは4〜6のシクロアルキル基の任意の水素原子が、1個以上の置換基で置換されていてもよい基を示し、置換基の例としては、前記のアリール基と同様の基を示す。このような例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−フルオロシクロプロピル基、2−ベンジルシクロヘキシル基、2−アミノシクロペンチル基、2−カルボキシシクロペンチル基、2−(6−メトキシ−1,4−ベンゾキノン)等が挙げられ、好ましくはシクロヘキシル基等が挙げられる。
置換されていてもよく、また縮合されていてもよい窒素原子含有複素環とは、ヘテロ原子として1個以上の窒素原子を含有し、さらに酸素原子、イオウ原子等のヘテロ原子を含有していてもよい、3〜7員環の飽和または不飽和の複素環を意味し、さらに3〜7員環の他の芳香環、複素環、シクロアルキル環が1個以上縮合していてもよい。環上の炭素原子に結合する任意の水素原子は、1個以上の置換基で置換されていてもよく、このような置換基の例は、前述のアリール基の置換基と同様のものが挙げられる。窒素原子含有複素環の例としては、例えばアジリジン環、アゼチジン環、ピロール環、ピロリン環、ピロリジン環、インドール環、インドリン環、イソインドール環、オクタヒドロインドール環、カルバゾール環、ピリジン環、ピペリジン環、キノリン環、ジヒドロキノリン環、テトラヒドロキノリン環、デカヒドロキノリン環、イソキノリン環、テトラヒドロイソキノリン環、デカヒドロイソキノリン環、キノロン環、アクリジン環、フェナントリジン環、ベンゾキノリン環、ピラゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ベンゾイミダゾール環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環、ベンゾジアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール環、トリアジン環、テトラゾール環、テトラジン環、プリン環、キサンチン環、テオフィリン環、グアニン環、プテリジン環、ナフチリジン環、キノリジン環、キヌクリジン環、インドリジン環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イソオキサゾール環、オキサジン環、フェノキサジン環、チアゾール環、チアゾリジン環、ベンゾチアゾール環、イソチアゾール環、チアジン環、オキサジアゾール環、オキサジアジン環、チアジアゾール環、チアジアジン環、ジチアジン環、モルホリン環等が挙げられ、このうち、ピペリジン環、ピペラジン環、イソキノリン環、テトラヒドロイソキノリン環等が好ましい。置換基を有するものとしては、例えばN−アセチルピペラジン環、N−p−トルエンスルホニルピペラジン環、4−メチルピペリジン環等が好ましい例として挙げられる。
また、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環とは、ヘテロ原子として1個以上の窒素原子、酸素原子またはイオウ原子を含有している3〜7員環の飽和または不飽和の複素環を意味し、さらに3〜7員環の他の芳香環、複素環、シクロアルキル環が1個以上縮合していてもよい。環上の炭素原子に結合する任意の水素原子は、1個以上の置換基で置換されていてもよく、このような置換基の例は、前述のアリール基の置換基と同様のものが挙げられる。このような複素環の例としては、前述の窒素原子含有複素環のほかに、例えばピラン環、フラン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジヒドロベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、クロマン環、クロメン環、ジベンゾフラン環、イソクロラン環、フェノキサチン環、キサンチン環、チアンスレン環、ベンゾジオキサン環、ベンゾジオキソラン環、チオラン環等が挙げられ、好ましくはベンゾチオフェン環が挙げられる。
アシル基とは、カルボン酸のカルボキシル基のOHを除いた基であり、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、ベンゾイル基、トルオリル基、ナフトイル基、フタロイル基、ピロリジンカルボニル基、ピリジンカルボニル基等が挙げられ、好ましくはアセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。また、置換されていてもよいアシル基とは、置換基として低級アルキル基、その他前記低級アルキル基で示したものと同様な基で置換されたアシル基を意味し、例えば、置換されていてもよい低級アルキルカルボニル基、置換されていてもよい低級アルキルアミノカルボニル基、置換されていてもよい低級アルキルオキシカルボニル基、アミノカルボニルカルボニル基等が挙げられる。
アシルオキシ基とは、アシル基に酸素原子が結合した基を意味し、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
低級アルコキシカルボニル基とは、低級アルコキシ基にカルボニル基が結合した基を意味し、アルコキシ部分の炭素数が1〜6、好ましくは1〜4の基を示す。例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボキル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、i−ブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等が挙げられ、好ましくはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
低級アルコキシカルボニルオキシ基とは、低級アルコキシカルボニル基に酸素原子が結合した基で、アルコキシ部分の炭素数が1〜6、好ましくは1〜4の基を示す。例えば、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボキルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、i−プロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基、i−ブトキシカルボニルオキシ基、s−ブトキシカルボニルオキシ基、t−ブトキシカルボニルオキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。ヒドロキシアルキルカルボニルオキシ基とは、前記の低級アルキル基に1個以上の水酸基が置換した基にカルボニルオキシ基(COO)が結合した基を示し、例えばヒドロキシメチルカルボニルオキシ基、2−ヒドロキシエチルカルボニルオキシ基、2,3−ジヒドロキシプロピルカルボニルオキシ基等のアルキル部分の炭素数が1〜6、好ましくは1〜4の基が挙げられる。
ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
低級アルキルスルホニル基とは、前記の低級アルキル基にスルホニル基が結合した基で、炭素数1〜6、好ましくは1〜4のものが挙げられ、例えばメチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、i−プロピルスルホニル基等が挙げられる。
またアリールスルホニル基とは、前記のアリール基にスルホニル基が結合した基を意味し、例えばフェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が好ましい例として挙げられる。
置換されていてもよい低級アルキルスルホニル基および置換されていてもよいアリールスルホニル基は、前記低級アルキルスルホニル基及びアリールスルホニル基の炭素原子に結合する任意の水素原子が1個以上の置換基で置換されていてもよい基を示し、置換基の例としては前記アリール基の置換基として記載したものと同様のものが挙げられる。このような例としては、例えば、p−トルエンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基等が挙げられる。
置換されていてもよいアミノスルホニル基とは、前記の置換されていてもよいアミノ基にスルホニル基が結合した基で、例えばメチルアミノスルホニル、ベンジルアミノスルホニル基等が挙げられる。
置換されていてもよい低級アルコキシスルホニル基とは、前記の置換されていてもよい低級アルコキシ基にスルホニル基が結合した基を意味し、例えばメトキシスルホニル基、ベンジルオキシスルホニル基等が好ましい例として挙げられる。置換されていてもよいシクロアルキルオキシスルホニル基とは、置換されていてもよいシクロアルキル基に、酸素原子を介して、スルホニル基が結合した基を意味し、例えばシクロヘキシルオキシスルホニル基、シクロペンチルオキシスルホニル基等が挙げられる。
置換されていてもよいシクロアルキルスルホニル基とは、前記の置換されていてもよいシクロアルキル基にスルホニル基が結合した基で、例えばシクロヘキシルスルホニル基、シクロペンチルスルホニル基等が挙げられる。
置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環スルホニル基とは、置換されていてもよい複素環基にスルホニル基が結合した基を意味し、例えば4−キノリルスルホニル基、8−テトラヒドロキノリルスルホニル基等が好ましい例として挙げられる。
さらに、置換されていてもよいスルホニル基とは、置換されていてもよい低級アルキルスルホニル基、置換されていてもよいシクロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいシクロアルキルオキシスルホニル基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよく、縮合されていてもよい複素環スルホニル基、置換されていてもよい低級アルコキシスルホニル基あるいは置換されていてもよいアリールスルホニル基を示す。
置換されていてもよいカルボキシル基とは、前記の置換されていてもよいアシル基にオキシ基が結合した基を意味し、例えばメチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
低級アルコキシアルキル基とは、前記の低級アルコキシ基に低級アルキル基が結合した基を意味し、例えばメトキシメチル基、メトキシエチル基、t−ブトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−(イソプロポキシ)エチル基等が挙げられる。また低級アルコキシアルキル基のアルコキシ基またはアルキル基の部分は、前記のアルキル基で示した置換基と同様な基で置換されていてもよい。
低級ヒドロキシアルキル基とは、前記の低級アルキル基に1個以上の水酸基が置換された基を意味し、例えばヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシ−n−プロピル基、2,3−ジヒドロキシ−n−ブチル基等が挙げられる。また、低級ヒドロキシアルキル基のアルキル基の部分は、前記アルキル基で示した置換基と同様な基で置換されていてもよい。
低級アミノアルキル基とは、前記の置換されていてもよいアミノ基に前記低級アルキル基が結合した基を意味し、例えばt−ブチルアミノメチル基、アミノメチル基、2−アミノエチル基、ベンジルアミノメチル基、メチルアミノメチル基、2−メチルアミノエチル基等が挙げられる。また、低級アミノアルキル基のアルキル基の部分は、前記アルキル基で示した置換基と同様な基で置換されていてもよい。
低級カルボキシルアルキル基とは、前記の置換されていてもよいカルボキシル基に前記の低級アルキル基が結合した基で、例えばアセチルオキシメチル基、2−アセチルオキシエチル基、エチルカルボニルオキシメチル基、シクロヘキシルカルボニルオキシメチル基、シクロプロピルカルボニルオキシメチル基、イソプロピルカルボニルオキシメチル基等が挙げられる。また低級カルボキシルアルキル基のアルキル基の部分は、前記アルキル基で示した置換基と同様な基で置換されていてもよい。
低級カルボニルアミノアルキル基とは、前記の置換されていてもよいアシル基に前記低級アミノアルキル基が結合した基を意味し、例えばアセチルアミノメチル基、t−ブチルオキシカルボニルアミノメチル基、エチルカルボニルアミノメチル基、アセチルアミノエチル基、ベンジルオキシカルボニルアミノエチル基等が挙げられる。また、低級カルボニルアミノアルキル基のアミノ基またはアルキル基の部分は、前記アルキル基で示した置換基と同様な基で置換されていてもよい。
置換されていてもよい低級アルキルチオ基とは、前記の置換されていてもよい低級アルキル基にチオ基が結合した基で、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、t−ブチルチオ基等が挙げられる。
置換されていてもよいシクロアルキルチオ基とは、前記の置換されていてもよいシクロアルキル基にチオ基が結合した基を意味し、例えばシクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
置換されていてもよいアリールチオ基とは、前記の置換されていてもよいアリール基にチオ基が結合した基で、例えばフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基等が挙げられる。
置換されていてもよく、縮合されていてもよい複素環チオ基とは、前記の置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環基にチオ基が結合した基を意味し、例えば4−キノリルチオ基、8−テトラヒドロキノリルチオ基等が挙げられる。
置換されていてもよいスルホニルオキシ基とは、前記の置換されていてもよいスルホニル基にオキシ基が結合した基で、例えばp−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基等が挙げられる。
置換されていてもよいシクロアルキルオキシ基とは、前記の置換されていてもよいシクロアルキル基にオキシ基が結合した基で、例えばシクロプロピルオキシ基、シクロベンチルオキシ基、4−アミノシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環オキシ基とは、前記の置換されていてもよく、縮合されていてもよい複素環基にオキシ基が結合した基を意味し、例えば4−キノリルオキシ基、8−テトラヒドロキノリルオキシ基等が挙げられる。
置換されていてもよいシリル基とは、前記の置換されていてもよい低級アルキル基または置換されていてもよいアリール基が、同一または異なる1〜3個結合したシリル基を示し、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリイソプロピルシリル基等が挙げられる。
また−(CH)m−部分および−(CH)n−部分で置換されていてもよい置換基としては、前記アリール基の置換基として記載したものと同様のものが挙げられる。
本発明の細胞増殖抑制剤の有効成分として使用される抗体は、抗原と結合する限り特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、キメラ抗体、ヒト型化抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウイルスを用いた方法(WO98/46777など)等に準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler.G.and Milstein,C.,Methods Enzymol.(1981)73:3−46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。
また、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl,A.K.Borrebaeck,James,W.Larrick,THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES,Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD,1990参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト型化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res.(1993)53,851−856)。
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングにによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO,COS,ミエローマ、BHK(baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9,sf21,Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。 また、抗体はPepTに結合し、PepTの機能を阻害するかぎり、抗体の断片又はその修飾物であってもよい。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、Fv、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンなどで処理し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co,M.S.et al.,J.Immunol.(1994)152,2968−2976、Better,M.& Horwitz,A.H.Methods in Enzymology(1989)178,476−496,Academic Press,Inc.、Plueckthun,A.& Skerra,A.Methods in Enzymology(1989)178,476−496,Academic Press,Inc.、Lamoyi,E.,Methods in Enzymology(1989)121,663−669、Bird,R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137参照)。scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A(1988)85,5879−5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えば12−19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらの抗体も包含される。
前記のように発現、産生された抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法により精製することができる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。
抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual.Ed Harlow,David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。
特定の分子がペプチドトランスポーターに結合するか否かは、公知の方法により測定することができる。公知の方法としては、例えば、免疫沈降法、ウエストウエスタンブロッティング法、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)、蛍光免疫法、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法、などが挙げられる。
このようなペプチドトランスポーターへの結合活性を指標に、本発明の細胞増殖抑制剤の候補化合物をスクリーニングすることが可能である。具体的には、ペプチドトランスポーターに被検試料を接触させ、ペプチドトランスポーターと被検試料との結合を検出し、ペプチドトランスポーターに結合する化合物を選択すればよい。被検試料としては特に制限はなく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製蛋白質(抗体を含む)、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。ペプチドトランスポーターは、例えば、精製した蛋白質として、担体に結合させた形態として、他の蛋白質との融合蛋白質として、細胞膜上に発現させた形態として、膜画分として被検試料に接触させることができる。このようにして得られたペプチドトランスポーターに結合する化合物から、本発明の細胞増殖抑制剤の有力な候補を選択するために、これら化合物がペプチドトランスポーターの輸送機能を阻害するか否かを検出することが有用である。特定の分子がペプチドトランスポーターの輸送機能を阻害しているか否かは、公知の方法、例えば、放射性物質(14Cなど)、蛍光物質などでペプチドなどの基質を標識し、該基質がペプチドトランスポーター発現細胞に取り込まれた量を測定すること等により判断することができる。
本発明の細胞増殖抑制剤の有効成分としては、ペプチドトランスポーターの発現を抑制する物質を使用することもできる。このような物質としては、例えば、ペプチドトランスポーター遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、ペプチドトランスポーターをコードするDNAまたはmRNAのいずれかの箇所にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくはペプチドトランスポーターのDNAまたはmRNA中の連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに好ましくは、連続する少なくとも15個以上のヌクレオチドが翻訳開始コドンを含むアンチセンスオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができ、例えば、メチルホスホネート型やエチルホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾体、ホスホロチオエート修飾体又はホスホロアミデート修飾体等が挙げられる。
本発明の細胞増殖抑制剤の標的となる細胞としては特に限定はされないが、好ましいのは膵臓癌、肝臓癌、肺癌、食道癌、乳癌、大腸癌などの癌細胞であり、特に好ましいのは膵臓癌細胞である。本発明の細胞増殖抑制剤は、細胞増殖に起因する疾患、特に膵臓癌などの癌の治療、予防を目的として使用される。
本発明の細胞増殖抑制剤は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の治療薬はこれらの投与量に制限されるものではない。また、発明の治療薬は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science,latest edition,Mark Publishing Company,Easton,U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を供に含むものであってもよい。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] AT−264のPepT1活性阻害作用
AT−264は下記構造式で示される構造を有している。本化合物がペプチドトランスポーター(PepT)の阻害剤であることを以下の実験により確認した。

AT−264のPepT阻害能力をヒト結腸癌細胞株(Caco−2細胞)で検討した。その結果、放射性基質[14C]グリシルサルコシンの細胞内への取込みに対するIC50は100μMであった(図1)。Caco−2細胞ではPepT1のみが発現しており、AT−264はPepT1の機能を阻害したと考えられた。なお、本実験で使用したAT−264は純度が約50〜60%であり、実際のIC50は50μM程度であると考えている。
[実施例2] AT−264のヒト膵臓癌株AsPC−1に対する細胞増殖抑制作用
AT−264をRPMI1640−10mM Hepes(以下、培地と略す)、0.5%エタノール、0.5%DMSOで溶解し、2.5mM AT−264溶液を調製した。また、この溶液を培地で希釈して0.625ならびに0.0625mM AT−264溶液を調製した。
ヒト膵臓癌株AsPC−1を50%FBSを含む培地で5×10細胞/mLに調製した。この懸濁液を40μL/well(2×10細胞)でCollagen type Iコート済みの96wellプレートに蒔き、160μLのAT−264溶液を添加した。COインキュベーターで6日間培養し(培養2日後に100units/mLペニシリン、0.1mg/mLストレプトマイシンを添加)、培養6日後に、生細胞数をMTS assayで定量化した。
図2に細胞増殖試験結果を示した。2mM AT−264存在下で約30%、0.5mMでも若干ではあるが細胞増殖抑制が認められた。顕微鏡下での観察において、AsPC−1の形態変化はAT−264存在下でも見られなかった。また、RT−PCRの結果から、AsPC−1ではPepT1の発現がPepT2に比べて優勢であった。以上より、AT−264による細胞増殖抑制は、非特異的細胞毒性ではなくPepT1の機能阻害によると考えられた。
[実施例3] AT−264のPepT2活性阻害作用
マウス骨髄由来細胞株BaF3にヒトPepT2を強制発現させた細胞(以下、BaF3/PepT2と略す)を用いて、AT−264のPepT2阻害能力を検討した。その結果、放射性基質[H]グリシルザルコシンの細胞内への取り込みは濃度依存的に阻害された(図3)。以上より、AT−264はPepT1のみならず、PepT2の機能を阻害することが明らかとなった。
[実施例4] AT−264のヒト膵臓癌株BxPC−3に対する細胞増殖抑制作用
AT−264をRPMI1640−10mM Hepes,100units/mLペニシリン,0.1mg/mLストレプトマイシン(以下、培地と略す)、0.5%エタノール、0.5%DMSOで溶解し、2.5mM AT−264溶液を調製した。また、この溶液を培地で希釈して0.625ならびに0.0625mM AT−264溶液を調製した。
BxPC−3を50%FBSを含む培地で5×10細胞/mLに調製した。この懸濁液を40μL/well(2×10細胞)でCollagen type Iコート済みの96wellプレートに蒔き、160μLのAT−264溶液を添加した。COインキュベーターで6日間培養し、培養6日後に生細胞数をMTS assayで定量化した。
図4に細胞増殖試験結果を示した。2mM AT−264存在下で約75%、0.5mMでも約20%の細胞増殖抑制が認められた。顕微鏡下での観察において、BxPC−3の形態変化はAT−264存在下でも見られなかった。また、RT−PCRの結果から、BxPC−3ではPepT2の発現がPepT1に比べて優勢であった。以上より、AT−264による細胞増殖抑制は、細胞毒性ではなくPepT2の機能阻害によると考えられた。
産業上の利用の可能性
本発明により、ペプチドトランスポーターの活性を阻害することにより、細胞増殖を抑制することが可能であることが見出された。これによりペプチドトランスポーターを標的として、細胞増殖抑制剤を開発することが可能となった。このような細胞増殖抑制剤は、癌(例えば、膵臓癌等)の増殖の抑制に利用されることが大いに期待される。
【図面の簡単な説明】
図1は、Caco−2細胞におけるAT−264のPepT1阻害能を示す図である。
図2は、AT−264のヒト膵臓癌株AsPC−1に対する細胞増殖抑制効果を示す図である。データは平均±S.D.(n=3−4)で表示した。
図3は、BaF3/PepT2におけるAT−264のPepT2阻害能を示す図である。データは平均±S.D.(n=3−4)で表示した。
図4は、AT−264のヒト膵臓癌株BxPC−3に対する細胞増殖抑制効果を示す図である。データは平均±S.D.(n=6)で表示した。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドトランスポーター阻害物質を有効成分とする細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
ペプチドトランスポーターがプロトン駆動型ペプチドトランスポーターである、請求項1に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
ペプチドトランスポーターがPepT1またはPepT2である、請求項1に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
ペプチドトランスポーター阻害物質が、ペプチドトランスポーターに結合することによりペプチドトランスポーターの輸送機能を阻害する物質である、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
ペプチドトランスポーター阻害物質が下記一般式(1)で示されるスルファミド誘導体である、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤。一般式(1)

(式中、Rは水素原子、低級アルキル基またはアミノ保護基を示し、Rは置換基を有していてもよく、また縮合されていてもよい窒素原子含有の複素環を示し、Rは基A−(CH)m−、水素原子または置換されていてもよい低級アルキル基を示す。ここでAは置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよく、また縮合されていてもよい複素環または置換されていてもよい低級シクロアルキル基を、mは0〜6の整数を示す。また−(CH)m−部分は1個以上の置換基で置換されていてもよい。Rは水素原子、低級アルキル基またはアミノ保護基を示し、Rは基−C(=NR)NH、基−NH−C(=NR)NHまたは基−(CH)n−NHRを、ここでRは水素原子、低級アルキル基、水酸基、アシル基、アシルオキシ基、低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルコキシカルボニルオキシ基または低級ヒドロキシアルキルカルボニルオキシ基を示し、nは0〜2の整数を示す。また−(CH)n−の部分は1個以上の置換基で置換されていてもよい)
【請求項6】
癌細胞の増殖を抑制する、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
癌細胞が膵臓癌細胞である、請求項6に記載の細胞増殖抑制剤。

【国際公開番号】WO2003/033024
【国際公開日】平成15年4月24日(2003.4.24)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−535826(P2003−535826)
【国際出願番号】PCT/JP2002/010743
【国際出願日】平成14年10月16日(2002.10.16)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】