細胞外幹細胞環境を調節することに関する方法および組成物
本発明は、一つには、幹細胞環境を調節する方法および組成物に関する。さらに具体的に、本発明は、一つには、幹細胞分化を調節する方法および組成物に関する。かかる調節を、本発明のいくつかの側面において、幹細胞微小環境において(すなわち幹細胞表面にまたは幹細胞表面上におよび/または細胞外マトリックス内の)グリコサミノグリカン類を調節する薬剤により達成する。したがって、幹細胞の微小環境においてグリコサミノグリカンの複数部分、例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)の複数部分を調節する方法および組成物を提供する。胚幹細胞分化(例えば内皮細胞への分化)を促進または阻害するための方法および組成物もまた、提供する。したがって、本発明はまた、一つには、提供される方法および組成物により産生することができる細胞集団(例えば、内皮細胞集団または内皮細胞が乏しい集団)に関する。さらに、本発明は、一つには、提供される方法および組成物により形成される組織およびそれらの使用に関する。さらに、本発明はまた、一つには、提供される方法および組成物を使う処置方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一つには、幹細胞環境を調節する方法および組成物に関する。さらに具体的に、本発明は、一つには、幹細胞分化を調節する方法および組成物に関する。かかる調節を、本発明のいくつかの側面において、幹細胞表面にまたは幹細胞表面上におよび/または細胞外マトリックス中に存在するグリコサミノグリカン類を調節する薬剤により達成する。したがって、幹細胞の微小環境においてグリコサミノグリカン類(例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類(HSGAG))を調節する方法および組成物を提供する。本発明はまた、一つには、本発明の方法および組成物により産生することができる細胞集団および組織に関する。さらに、本発明は、一つには、本明細書において提供される方法および組成物を使う処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
新生血管の形成は、生殖、発生、組織再生および創傷治癒などの多くの生理的過程にかかわっている。通常の生理的条件下で、新生血管の形成は、必要に応じて作動および停止するよう、高度に制御されている。しかしながら、多くの病態生理的状態もまた、新生血管の形成と関係がある。例えば、糖尿病、高コレステロール血症または高齢などいくつかの場合、内皮細胞機能障害の結果として血管の形成が妨げられ、虚血組織を生じる(Rivard et al., Circulation, 1999, 99:111-120; Rivard et al., Am. J. Pathol, 1999, 154:355-363; Van Belle et al., Circulation, 1997, 96:2667-2674)。
【0003】
かかる場合には、患者の処置において、内皮細胞の移植(transplantation)、再生および組織工学が、治療上の意義を有する可能性がある。対照的に、他の病態生理的ケースにおいて、新生血管の形成は、制御されない、持続的な形で行われる。例えば、関節炎においては、新生血管は関節に侵入して軟骨の破壊をもたらし、癌においては、腫瘍細胞が腫瘍自体を成長させるために新生血管の成長を継続的に刺激する。これらの状況下で、新生血管の形成阻害は、患者の処置において治療上の意義を有する。したがって、血管の形成を刺激する方法ならびに阻害する方法は、ヒト疾患の処置において用途を有する。
【0004】
内皮細胞は、血管の不可欠な構成要素であり、内皮細胞の発生は、新生血管の形成における重要なステップである。したがって、内皮細胞の発生を制御することを通じて新生血管の形成を制御することが可能である。内皮細胞の発生は、哺乳類において2つの機構により:既存の内皮細胞の増殖を通じて、および前駆幹細胞の分化を通じて生じる。いくつかの研究が、in vitroでの内皮前駆幹細胞(EPC)からの内皮細胞の形成を実証した(Ishikawa et al., Stem Cells Dev., 2004, 13(4): 344-9; Iwaguro et al., Circulation, 2002, 105(6): 732-8)。加えて、EPCは、異なる動物モデルにおいて新生血管を形成することが示された(Orlic et al., Ann N Y Acad Sci, 2003, 996:152-7; Asahara et al., Circ. Res., 1997, 85:221-228; Kawamoto et al., Circulation, 2001, 103:634- 637)。しかしながら、EPCは、循環血液細胞の0.1〜0.5%のみを表し、培養下で効果的に増殖せず、移植および再生治療におけるそれらの使用が困難であると考えられる。
【0005】
胚幹(ES)細胞もまた、研究され、組織の移植、再生および組織工学における使用が期待される;しかしながら、幹細胞治療におけるそれらの使用の重要な限界は、所望の細胞型への分化に加えて異なる細胞型への分化のそれらの可能性にある。分化の際、それらは1種類の同型の細胞集団よりむしろさまざまな細胞型の組合せを生み出す。さらに、マウスに注入したとき、ES細胞は、奇形癌と呼ばれる望ましくない発癌性細胞集合を生み出し得る。有効な治療効果のために、ES細胞分化を、所望の細胞型への分化を刺激するために制御すべきである。生体活性材料(例えば、成長因子、プロテオグリカンまたは下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP))、特別な培養、マトリックス、または足場による胚幹細胞分化の制御方法が議論されているにもかかわらず(例えば、米国特許第6,294,346号;5,851,832号;6,638,501号;6,399,369号;5,605,829号および5,912,177号;米国特許公開第20040092448号、20030175956号、20030224345号、20040126405号および20040009589号;および欧州特許EP1452594参照)、HSGAGの構造的内容またはそれらがどのように内皮細胞へのES細胞分化に作用するかについては取り組まれていない。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、一つには、幹細胞微小環境においてGAGの一部分または複数部分、例えば、HSGAGの一部分または複数部分を調節することにより、幹細胞(例えば、胚幹(ES)細胞)の、細胞型(例えば、内皮細胞)への分化を調節する方法および組成物に関する。調節はまた、いくつかの態様において、微小環境においてGAGの一部分または複数部分に影響を及ぼす細胞過程を調節することにより、達成することができる。GAGの複数部分に影響を及ぼす方法および組成物は、性質において、生化学的、薬理学的または遺伝学的なものであり得る。
【0007】
したがって、本発明の一面において、幹細胞の微小環境を、内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量のグリコサミノグリカン(GAG)調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることによって、幹細胞分化を調節する方法を提供する。GAG調節剤は、幹細胞微小環境におけるグリコサミノグリカンの存在、不在、もしくは変更、またはグリコサミノグリカンが発現するレベルをもたらすあらゆる薬剤であり得る。一態様において、GAG調節剤は、GAG分解剤である。別の態様において、GAG分解剤は、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)分解剤である。HSGAG分解剤は、細菌由来のHSGAG分解酵素であり得るが、それに限定されない。一態様において、細菌由来のHSGAG分解酵素は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼまたはN−スルファターゼまたはこれらのいくつかの組合せである。別の態様において、HSGAG分解剤は、哺乳類のHSGAG分解酵素である。一態様において、哺乳類のHSGAG分解酵素は、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼまたはこれらのいくつかの組合せである。
【0008】
別の態様において、GAG調節剤は、グリコサミノグリカンである。一態様において、グリコサミノグリカンは、HSGAGである。別の態様において、HSGAGは、ヘパリン、合成ヘパリン、ヘパラン硫酸、低分子量のヘパリンまたはその修飾されたバージョンである。また別の態様において、HSGAGは、高硫酸化二糖であるか、またはそれを含むものである。一態様において、高硫酸化二糖は、I/G−HNS,3S,6S;I/G2S−HNS,3S;I/G2S−HNS,6S;I/G2S−HNH/Ac,3S,6S;またはI/G2S−HNS,3S,6Sである。さらに別の態様において、HSGAGは、低硫酸化二糖であるか、またはそれを含むものである。また別の態様において、低硫酸化二糖は、I/G−HNH/Ac;I/G−HNS;I/G−HNH/Ac,3S;I/G−HNH/Ac,6S;I/G−HNS,3S;I/G−HNS,6S;I/G−HNH/Ac,3S,6S;I/G2S−HNH/Ac;I/G2S−HNS;I/G2S−HNH/Ac,3S;またはI/G2S−HNH/Ac,6Sである。
【0009】
一態様において、GAG調節剤を発現する細胞は、グリコサミノグリカンまたはGAGの合成もしくは分解にかかわる酵素を発現する。一態様において、細胞を、少なくとも1つのGAG調節剤を発現するかまたは変化した発現を有するように操作する。別の態様において、細胞を、少なくとも1つのGAG調節剤を発現するかまたは過剰発現するように操作する。さらに別の態様において、少なくとも1つのGAG調節剤のその発現が阻害されるよう、細胞を操作する。またさらなる態様において、少なくとも1つのGAG調節剤が発現されるかまたは過剰に発現される一方、少なくとも1つの他のGAG調節剤の発現が阻害されるよう、細胞を操作する。これらの態様におけるGAG調節剤は、例えばGAG合成(すなわち、生合成)またはGAG分解にかかわる酵素であり得る。一態様において、GAG調節剤は、HSGAG分解酵素である。別の態様において、少なくとも1つのGAG調節剤を発現するかまたは変化した発現を有するように変化したものは、幹細胞であり、この変化をもたらすものは、GAG調節剤である薬剤(例えば、結合分子、ベクターなど)である。
【0010】
GAG調節剤は、グリコサミノグリカンを改変するかまたはどうにかして修飾しおよび/またはその合成に影響を及ぼす酵素を含む。したがって、GAG調節剤は、あらゆるGAG生合成または生分解性酵素であり得る。一態様において、生合成酵素または生分解性酵素は、哺乳類の酵素である。別の態様において、生合成酵素または生分解性酵素は、グリコシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼである。一態様において、スルホトランスフェラーゼは、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ、2−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ、3−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼまたは6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼである。別の態様において、エンドグルクロニダーゼは、α−イズロニダーゼまたはβ−グルクロニダーゼである。また別の態様において、スルファターゼは、ヘパラン−N−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼまたはN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼである。さらに別の態様において、アセチルトランスフェラーゼは、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼである。
【0011】
内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進するためにGAG調節剤を使用することができることを見出した。したがって、内皮細胞への幹細胞分化をGAG調節剤の使用によって阻害する方法および組成物を、本明細書において提供する。別の態様において、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するGAG調節剤は、HSGAG分解酵素またはHSGAG分解酵素のいくつかの組合せである。一態様において、酵素は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIIIまたはそれらの組合せである。別の態様において、阻害剤は、GAG生合成経路の阻害剤である(例えば、GAGの生合成にかかわる酵素などの分子)。別の態様において、阻害剤は、HSGAGの硫酸化を促進する酵素の阻害剤である。さらに別の態様において、阻害剤は、スルホトランスフェラーゼ酵素の阻害剤である。別の態様において、阻害剤は、塩素酸ナトリウムである。さらなる態様において、阻害剤は、GAGの生合成にかかわる酵素に結合する抗体または薬剤であり得る。別の態様において、阻害剤は、GAGの生合成にかかわる酵素をエンコードする核酸(例えば、DNAまたはmRNA)に結合する核酸であり得る。
【0012】
また、内皮細胞への幹細胞分化をGAG調節剤の使用により促進する方法および組成物を提供する。一態様において、内皮細胞は、哺乳類内皮細胞である。別の態様において、内皮細胞への幹細胞分化を促進するGAG調節剤は、グリコサミノグリカンである。一態様において、グリコサミノグリカンは、HSGAG(例えば、ヘパリン)である。別の態様において、GAG調節剤は、ヘパラン硫酸である。さらに別の態様において、薬剤は、高硫酸化HSGAGである。さらに別の態様において、HSGAGは、高硫酸化二糖であるか、またはそれを含むものである。また別の態様において、GAG調節剤は、HSGAGの硫酸化を促進する酵素である。別の態様において、酵素は、スルホトランスフェラーゼである。
【0013】
本明細書中に提供される方法は、内皮細胞への幹細胞分化を調節するためのin vivo方法またはin vitro方法であり得、幹細胞微小環境を1または2以上のGAG調節剤および/またはGAG調節剤を発現する1または2以上の細胞と接触させる多くの手段がある。例えば、in vitro方法において、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を幹細胞の培養物に添加することにより、幹細胞をGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることができる。in vitroまたはin vivo方法のいずれかにおいて、例えば、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が共有または非共有結合する二次元構造体または三次元構造体を介して、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を幹細胞微小環境と接触させることができる。
【0014】
二次元構造体または三次元構造体は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が結合することができるあらゆる構造体である。一態様において、構造体は、足場である。別の態様において、構造体は、マトリックスである。さらに別の態様において、構造体は、支持体である。別の態様において、GAG調節剤をin vivo幹細胞微小環境と接触させる投与方法を通じて、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、幹細胞微小環境と接触させる。一態様において、投与は、全身、局部、局所または部位特異的投与である。別の態様において、投与は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を結合させる二次元構造体または三次元構造体の体内移植(implantation)または移植(transplantation)を通じて行うことができる。さらに別の態様において、投与は、部位特異的な体内移植または移植を通じて行う。さらに別の態様において、投与は、静脈内投与または皮下投与である。別の態様において、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞は、血管の形成または血管の形成阻害を必要とする部位を標的にする標的剤に結合する。かかる標的剤は、抗体などの結合タンパク質であり得、所望の標的部位に依存して変わる。
【0015】
一態様において、幹細胞微小環境は、血管の形成を必要とする部位内または付近である。別の態様において、幹細胞微小環境は、血管の形成阻害を必要とする部位内または付近である。さらに別の態様において、幹細胞微小環境は、虚血組織内または付近である。また別の態様において、幹細胞微小環境は、関節内または付近である。さらに別の態様において、幹細胞微小環境は、創傷内または付近である。本明細書中で使われる「内または付近」は、ある部位の中または近接近した場所である。
【0016】
本明細書中に提供される方法および組成物は、あらゆる幹細胞の分化に影響を及ぼすために使うことができる。一態様において、幹細胞は、胚幹(ES)細胞である。別の態様において、幹細胞は、全能性幹細胞、多能性幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞または前駆幹細胞である。さらに別の態様において、幹細胞は、哺乳類の幹細胞である。一態様において、哺乳類の幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0017】
本発明の別の側面において、幹細胞の微小環境を内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量の幹細胞の生合成経路または分解経路を変える薬剤と接触させることにより幹細胞分化を調節する方法を提供する。一態様において、薬剤は、GAGの存在を阻害または促進する。別の態様において、薬剤は、GAGの生合成経路または分解経路の阻害剤または活性剤である。さらに別の態様において、薬剤は、GAG生合成経路の阻害剤である。一態様において、阻害剤は、塩素酸ナトリウムである。さらに別の態様において、阻害剤は、GAG生合成酵素(例えば、スルホトランスフェラーゼ)の発現または機能を阻害する薬剤である。また別の態様において、阻害剤は、抗体または核酸である。別の態様において、薬剤は、幹細胞、または幹細胞微小環境が接触し得る他の細胞の、生合成または分解経路の遺伝子発現またはタンパク質発現の変更をもたらすあらゆる薬剤であり得る。したがって、1または2以上のGAG関連遺伝子の遺伝子発現またはタンパク質発現の変更をもたらす方法および組成物もまた、提供する。かかるGAG関連遺伝子は、GAGの生合成または分解に関与する遺伝子、ならびにGAGの生合成または分解のシグナル経路と関係がある遺伝子を含む。したがって、遺伝子またはタンパク質発現を修飾するのに有用なベクター、プローブまたは他の薬剤(例えば、抗体)もまた、GAG調節剤であると考えられる。提供された変更は最終的に、少なくとも1つのGAG調節剤の発現、過剰発現または阻害(すなわち、減少または除去)をもたらす。
【0018】
本発明の別の側面において、幹細胞の微小環境をGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させて内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進し、細胞の集団を得ることにより細胞の集団を産生するの方法を提供する。一態様において、幹細胞の内皮細胞への分化を促進し、得られる細胞の集団は、内皮細胞集団である。別の態様において、内皮細胞集団は、哺乳類の内皮細胞集団である。さらに別の態様において、哺乳類の内皮細胞集団は、ヒト内皮細胞集団である。一態様において、幹細胞を、内皮細胞への分化から阻害する。別の態様において、得られる細胞集団には、内皮細胞が乏しい。また別の態様において、得られる細胞集団には、筋肉細胞、神経細胞または血液細胞が豊富である。
【0019】
幹細胞微小環境とGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞との接触は、in vitroまたはin vivo方法のいずれかにより達成することができる。一態様において、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞の幹細胞含有培養物への添加により、接触を達成する。別の態様において、幹細胞微小環境を、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が結合する二次元支持体または三次元支持体と接触させることができる。
本発明の別の側面は、本明細書中に提供された方法により産生される細胞集団を含む組成物を提供する。一態様において、細胞集団組成物はまた、薬学的に許容しうる担体を含む。
【0020】
本発明の別の側面において、細胞集団を、組織工学において使用する。したがって、本明細書中に提供された方法により産生する細胞集団を含有する組織を含む組成物を提供する。組織工学によって作製するための本明細書中に提供された方法により産生される細胞集団の使用方法もまた、提供する。
【0021】
提供されるいかなる方法および組成物をも、処置目的のために使用することができる。本発明の一面において、本明細書中に提供されたGAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物を、対象を処置するために有効な量を対象に投与することを含む処置方法を提供する。一態様において、有効な量は、内皮細胞への幹細胞分化を促進するまたは阻害するのに有効な量である。別の態様において、対象はGAG調節剤による処置を必要とする。さらに別の態様において、対象は血管の形成を必要とする。さらなる態様において、対象は、血管の形成阻害を必要とする以外ではない。
【0022】
一態様において、対象は癌を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、癌を処置するのに有効な量である。さらに別の態様において、対象は、神経変性障害または神経系損傷を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、神経変性障害または神経系損傷を処置するのに有効な量である。別の態様において、対象は、関節炎を有する。また別の態様において、対象は、筋肉細胞、血液細胞または神経細胞の発生を必要とする。さらに別の態様において、有効な量は、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するのに有効な量である。
【0023】
また別の態様において、対象は慢性の創傷を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、慢性の創傷を処置するのに有効な量である。別の態様において、対象は虚血組織または虚血疾患(例えば、虚血組織は、血管の形成障害の結果として対象に存在する)を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、虚血疾患を処置するのに有効な量である。一態様において、対象は、糖尿病、冠動脈疾患または高コレステロール血症を有する。別の態様において、対象は高齢である。別の態様において、有効な量は、内皮細胞への幹細胞分化を促進するのに有効な量である。さらなる別の態様において、対象は、血液細胞の発生により処置することができる疾患を有する。
【0024】
したがって、一態様において、本明細書中に提供された方法を、対象への輸血の投与の代わりにまたはそれと併用して使用することができる。一態様において、対象は、輸血を必要とする者である。別の態様において、本明細書中に提供されたGAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物を、対象の関節に投与する。さらに別の態様において、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物を、異常な血管形成のある領域に投与する。かかる領域は異常な血管形成を有し、血管形成または血管形成阻害を必要とし得る。
【0025】
本発明の一面において、本明細書中に提供された方法のいずれも、さらに、内皮細胞への幹細胞分化を評価することを含む。一態様において、評価を、幹細胞マーカー(例えば、Oct−4)の発現を決定することにより達成する。別の態様において、評価を、内皮細胞マーカー(例えば、wVf、VEGF−R2、VE−カドヘリン、eNOS、Tie−2など)の発現を決定することにより達成する。さらに別の態様において、ERK(例えば、ERKのリン酸化を評価することができる)などのMAPK因子の発現を決定する。さらなる態様において、1または2以上のマーカーの発現を決定する。2以上のマーカーの発現を決定する場合には、あらゆる組合せのマーカーを使用することができる。一態様において、マーカーの発現を抗体により決定する。別の態様において、マーカーの発現を核酸プローブにより決定する。さらに別の態様において、マーカーの発現をリアルタイムPCR分析により決定する。
【0026】
一態様において、組成物は、本明細書中に提供される方法により産生される細胞集団を含む組成物である。一態様において、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、内皮細胞への幹細胞分化を阻害する。別の態様において、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物は、内皮細胞への幹細胞分化を促進する。別の態様において、GAG調節剤はHSGAG分解酵素である。さらに別の態様において、HSGAG分解酵素は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIIIまたは両方である。別の態様において、GAG調節剤は、塩素酸ナトリウムである。またさらなる態様において、GAG調節剤は、HSGAGである。またさらなる態様において、GAG調節剤は、高硫酸化HSGAGである。また別の態様において、GAG調節剤は、ヘパリンまたはヘパラン硫酸である。
【0027】
一態様において 対象は哺乳類である。別の態様において、対象は、ヒトである。別の態様において、対象は、本明細書中に提供される組成物および処置方法を必要とする以外ではない。かかる対象は、本明細書中に提供されるように内皮細胞への幹細胞分化の調節の必要性の実証なく提供された組成物および処置を受領しないであろう者である。
【0028】
本明細書中に提供された方法は、1種のみのGAG調節剤の使用、またはGAG調節剤を幹細胞環境と接触させる方法に限定されない。2以上のGAG調節剤、1または2以上のGAG調節剤を発現する2以上の細胞、および/または幹細胞環境をGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させる2以上の方法による方法を提供する。
提供する方法および組成物はさらに、1または2以上の追加の治療剤を含むことができる。
【0029】
本発明の別の側面において、幹細胞の培養方法を提供する。一態様において、方法は、ゼラチンBで被覆した培養容器の上または中に、FBS、β−メルカプトエタノールおよびピルビン酸塩の存在下で、およびLIFの不在の下で、さらに継代せずに、7〜15日間未分化細胞を置くステップを含む。一態様において、容器は、培養ディッシュである。別の態様において、方法はさらに、細胞を1.25×105細胞/100mm2ディッシュの濃度で播種することを含む。さらに別の態様において、FBSは15%FBSである。また別の態様において、FBSは15% Hyclone FBSである。またさらなる態様において、β−メルカプトエタノールは、30mMのβ−メルカプトエタノールである。また別の態様において、ピルビン酸ナトリウムは、1mMのピルビン酸ナトリウムである。さらに別の態様において、1または2以上の成長因子を、培養物に添加する。
【0030】
本発明の各々の限定は、本発明のさまざまな態様を包含し得る。したがって、要素のいずれか1つまたは要素の組合せを伴う本発明の各々の限定が、本発明の各側面において含まれると予想される。
【0031】
図面の簡単な説明
図1は、内皮細胞への胚幹(ES)細胞分化におけるHSGAGの効果を概略する図を示す。
図2は、内皮細胞への胚幹細胞分化におけるHSGAGの効果の概要を示す。内皮細胞が循環血液細胞のたった0.1〜0.5%を占め、in vitroで遅い増殖を示すことから、内皮前駆細胞からの内皮細胞の産生は、以前では最適化されていなかった。胚幹細胞からの内皮細胞の産生は、細胞の高増殖率をもたらし、そしてそれは血管工学(例えば、血管新生障害を修正するため)に使うことができる。
【0032】
図3は、ES細胞から他の細胞への分化のステップを概略する図を示す。
図4は、ES細胞の分化条件の最適化を概略する図を示す。ES細胞を内皮細胞にin vitroで形質転換する因子を提供する。
【0033】
図5は、胚幹細胞が内皮細胞に分化することを実証するデータを提供する。胚様体を、無白血病抑制因子(LIF)培地で一定期間培養した。内皮細胞への分化を、特定のマーカーを使って定量化した。図5Aは、フローサイトメトリー(FACS)分析の結果を示すグラフであり、7日目までに内皮細胞に分化したES細胞におけるフォン・ヴィレブランド因子(vWF)用の標識を示す。図5Bは、vWfに対する抗体(FITC標識)で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を示す。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。立体的分析を、定量化のために行った。内皮細胞への有意な分化が、7日目までに明白であり、細胞は10日目までに管を形成し始めた。図5Cは、リアルタイム定量PCRの結果を表すグラフを示し、幹細胞が徐々に分化するのに伴う異なる特定の内皮細胞マーカーの上方調節を明らかにした。y軸は、相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。
【0034】
図6は、内皮細胞への胚幹細胞分化を分析したデータを示す。内皮細胞へのES細胞の分化を、細胞特異的マーカーを使って検出した。vWF、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSを、内皮細胞特異的マーカーとして使用し、Octamer−4(Oct−4)を、ES細胞特異的マーカーとして使用した。図6Aは、分化の異なる段階でのvWFのフローサイトメトリー分析を表すグラフを示す。図6Bは、分化中のES細胞におけるvWFおよびOct−4染色の共焦点像の顕微鏡写真を示す。y軸は、時間(日)を表し、x軸は、染色の種類を表す。図6Cは、分化の異なる段階でのVEGF−R2、VE−カドヘリン、eNOSおよびOct−4のリアルタイムPCRデータを表すグラフを示す。相対的なmRNAレベルを、3日目に正規化し、ここで有意な分化は得られなかった。全体に、これらの結果は、Oct−4の転写および発現は分化と共に徐々に減少する一方、vWF、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写および発現は増加し、内皮細胞集団への効率的な分化を示唆している。y軸は、相対的なmRNAレベルを表し、x軸は、時間(日)を表す。代表的な画像を示す。
【0035】
図7は、HSGAGプロファイルが変化するかを決定するために使うことができる方法を提供する図を示す。
図8は、HSGAGを調節し、次にES細胞の分化に影響を及ぼすために使うことができる方法を提供する図を示す。
【0036】
図9は、分化中の細胞表面のHSGAGの変化を示すキャピラリー電気記録図(electrogram)を提供する。データを、特定の時点で胚様体から単離した細胞表面のHSGAGの組成分析から得た。糖類を、トリプシン消化を通じてタンパク質コアとともに回収し、イオン交換カラムにより精製した。精製したGAGを、ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII消化に供し、キャピラリー電気泳動法を使って分析した。画像に示すように、細胞数に対して正規化したとき、細胞が分化するのに伴いHSGAGシグナルの有意な増加があった。x軸は、時間(分)を表し、y軸は、吸光度(mAu)を表す。
【0037】
図10は、胚幹細胞が徐々に分化するのに伴うHSGAG合成酵素の発現の増加を実証するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフを提供する。グラフは、分化の異なる段階での2O−スルホトランスフェラーゼ類(2OST)、3O−スルホトランスフェラーゼ類(3OST)、6O−スルホトランスフェラーゼ類(6−OST)、N−デアセチラーゼ−スルホトランスフェラーゼ類(NDST)およびそれらのアイソフォームの相対的な転写レベルを示す。これらの酵素の転写は、ES細胞が分化するのに伴い徐々に増加した。y軸は、β−アクチンに対して正規化した相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。代表的な実験からのデータを示す。
【0038】
図11は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIII、NaClO3、およびNaClO3+ヘパリンで処置した細胞におけるHSGAG酵素の発現レベルを測定するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフを提供する。y軸は、β−アクチンに対して正規化した相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。
図12は、内皮細胞へのES細胞の分化におけるHSGAGの酵素的修飾または薬理学的修飾の効果のフローサイトメトリー分析からの結果を提供する。図12Aは、分化の異なる段階での(3日目または7日目の)処置の効果を、vWF染色を通じて示す。図12Bは、フローサイトメトリー実験においてvWFについて陽性に染色した細胞のパーセンテージの棒グラフを提供する。y軸は、vWF陽性の細胞のパーセンテージを表し、x軸は、使用した処置の種類を表す。ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII処置によるHSGAGの細胞外分解、ならびに塩素酸ナトリウムによるHSGAG生合成の阻害は、内皮細胞へのES細胞の分化を阻害する。
【0039】
図13は、ESの内皮細胞分化におけるヘパリナーゼおよび塩素酸塩処置の効果を示す。ヘパリナーゼ類による処置は、硫酸化残基の特定の部位でHSGAGを開裂し、一方、塩素酸塩処置は、HSGAGの合成を阻害する。図13Aは、vWFに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を描いた顕微鏡写真を提供する(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で画像を記録した。棒グラフにまとめたように、ヘパリナーゼ類または塩素酸塩による処置は、分化を阻害する。棒グラフのy軸は、視野あたりにみられるvWF染色のパーセントを表し、x軸は、さまざまな細胞の処置を表す。図13Bは、FACSを使って同じ効果の定量化を示すグラフである;細胞を、vWF、内皮細胞マーカーにより標識した。棒グラフは、定量化をまとめている。棒グラフのy軸は、視野あたりにみられるvWF陽性の染色を表し、x軸は、さまざまな細胞の処置を表す。
【0040】
図14は、分化に対するグライコーム制御の効果、およびシグナル経路の関与を示す。この結果は、内皮細胞への幹細胞分化におけるHSGAG再構成の効果を実証している。胚様体を、塩素酸塩の添加の結果として、グリコサミノグリカン(GAG)合成が阻害された条件下で培養した。外因性ヘパリンの添加は、塩素酸塩処理による内皮細胞への分化の阻害を覆した。図14Aは、vWfに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を示す(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。棒グラフにまとめたように、ヘパリナーゼ類または塩素酸塩による処置は、分化を阻害した。棒グラフのy軸は、視界あたりみられるvWF染色パーセントを表し、x軸は、さまざまな細胞の処置を表す。図14Bは、ESから内皮細胞への分化におけるHSGAGの役割におけるMAPK経路およびWnt経路の可能な関与を調べるウェスタンブロットからの結果を示す。さまざまな酵素的または薬理学的修飾による処置は、これらの2経路を常に変え、ヘパリンの外からの添加により回復した。棒グラフは、pERK対ERK比(ウェスタンブロットデータの濃度測定を基に)の定量化をまとめている。y軸は、pERK/ERK比を表し、x軸は、異なる細胞の処置を表す。
【0041】
図15は、内皮細胞へのES細胞の分化に対するHSGAGの酵素的修飾または薬理学的修飾の効果の共焦点顕微鏡分析からの結果を提供する。図15Aは、vWF染色を示す顕微鏡写真である。ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII処置によるHSGAGの細胞外分解、ならびに塩素酸ナトリウムによるHSGAG生合成の阻害は、vWF染色で検出された内皮細胞へのES細胞の分化を阻害した。図15Bは、Oct−4染色を示す顕微鏡写真である。内皮細胞への分化が阻害されたにもかかわらず、全体的な分化はOct−4染色で明白なように進行した。図15Cは、ヘパリンの添加を用いた再構成実験を示す顕微鏡写真である。塩素酸ナトリウム処理したES細胞への外因性ヘパリンの添加は、vWF染色の増加により検出されたように、内皮細胞への分化に有利に働く条件を再構築した。
【0042】
図16はさらに、共焦点顕微鏡結果を提供する。
図17は、JlマウスES細胞を分化する際のvWFおよびOct−4の発現を示す共焦点顕微鏡顕微鏡写真を提供する。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。y軸は、時間(日)を表し、x軸は使用した染色の種類を示す。
【0043】
図18は、HSGAGにより調節されるシグナル経路の解明を示す。具体的には、分化中のES細胞におけるMAPK経路に対するHSGAG調節の効果を実証している。図18Aは、ERKおよびホスホERK抗体により行われたウェスタンブロットからの結果を提供する。ウェスタンブロットは、ヘパリナーゼ類または塩素酸ナトリウムによる処置がERKのリン酸化を阻害したことを示した。この阻害は、外因性ヘパリンの添加により覆された。図18Bは、異なる処置(x軸)でのpERK/ERKの比(y軸)を示す棒グラフを提供する。これらの結果は、MAPK経路はES細胞の分化にかかわり、HSGAGはこの経路の調節剤であることを示唆する。
【0044】
図19は、ESの内皮細胞への分化における異なるグライコーム修飾処置(HSGAGの酵素的または薬理学的修飾)の効果を説明する。幹細胞が異なる処置条件下で内皮細胞へ分化する場合の、胚様体における特異的な内皮細胞マーカーの発現の増加のリアルタイムPCR測定の結果を示す一連のグラフを提供する。y軸は、相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。酵素または塩素酸塩による処置は、分化を防止する一方、外因性ヘパリンの添加は、内皮細胞への幹細胞の分化を促進する。図19Aについて、マーカーは、Oct−4およびVEGF−R2であった。Oct−4は、分化と共に低下する幹細胞マーカーである。これらの処置は、分化を防止することができなかった。VEGF−R2は、分化がビヒクル処理した細胞内で進むにつれて増加する内皮細胞マーカーである。しかしながら、酵素または合成阻害剤である塩素酸塩による処置は、増加を防止した。塩素酸塩の効果は、外因性ヘパリンの添加により覆された。図19Bについて、使用マーカーは、eNOSおよびVE−カドヘリンであり、いずれも内皮細胞マーカーである。発現は、ビヒクル処理した細胞内で進むにつれて増加する。しかしながら、酵素または合成阻害剤である塩素酸塩による処置は、増加を防止した。塩素酸塩の効果は、外因性ヘパリンの添加により覆された。
【0045】
図20は、特定のタンパク質を表す細胞の描画を提供し、HSGAGデータについていくつかの要点を提供する。
図21は、再生細胞治療および癌治療に関するいくつかの関連を提供する図形である。
【0046】
図22は、胚幹細胞が内皮細胞へ分化することを示す結果を提供する。Jl胚幹細胞により形成された胚様体を、無LIF培地で一定期間培養した。内皮細胞への分化を、特定のマーカーを使って定量化した。図22Aは、vWfに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を提供する(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。立体的分析を、定量化のために行った。Oct−4についての染色は、時間とともに分化によって徐々に減少する一方、有意な内皮細胞への分化は、7日目までに明白であった。図22Bは、3日間または7日間にわたり分化させられた胚様体から単離した細胞における内皮細胞マーカーであるvWFに対する標識を示すFACS分析からの結果を提供する。図22Cは、分化が進むにつれて異なる特異的内皮細胞マーカー(VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOS)の上方調節、および幹細胞マーカーであるOct−4の下方調節を明らかにするリアルタイム定量PCRからの結果を提供する。示したデータは、2〜3回の独立した実験の平均SEMである。図22Dは、胚様体の位相差画像を示す(差込図)。示した画像は、代表的な任意の画像である。図22Eは、決められた時点で胚様体から単離した細胞表面HSGAGの組成物分析を示すキャピラリー電気泳動図を提供する。糖類を、トリプシン消化を通じてタンパクコアとともに回収し、イオン交換カラムにより精製した。精製したGAGは、ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII消化に供し、キャピラリー電気泳動法を使って分析した。細胞数に対して正規化した場合、細胞が分化するのに伴いHSGAGシグナルの有意な増加があった。示した画像および図は、複製を有する2〜3回の独立した実験の代表的なものである。
【0047】
図23は、内皮細胞への幹細胞の分化における細胞表面のグライコームの酵素的または薬理学的修飾の効果を説明する。ヘパリナーゼによる処置によって、硫酸化した残基の特定の部位でHSGAGを開裂した一方、塩素酸塩処置は、HSGAGの合成を阻害した。vWfに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を提供する(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。ヘパリナーゼ類または塩素酸塩による処置は、分化を阻害した。グラフは、共焦点像の立体的分析を示し、グライコーム修飾が内皮細胞への胚幹細胞の分化を阻害することを定量的に示している。塩素酸塩の添加の結果として、胚様体を、GAG合成を阻害した条件下で培養した。外因性ヘパリンの添加は、内皮細胞への分化の、塩素酸塩処理による阻害を覆した。
【0048】
図24は、ESの内皮細胞分化におけるHSGAGの役割におけるMAPK経路の関与を示すウェスタンブロットからの結果を提供する。さまざまな酵素または薬理学的阻害剤による処置は、常にこの経路を変更し、この経路は、ヘパリンの外からの添加により回復した。(U=未分化、Hepl=ヘパリナーゼI、Hep3=ヘパリナーゼIII、ChI=塩素酸塩、Hep=ヘパリン)。
【0049】
発明の詳細な説明
幹細胞分化を、グリコサミノグリカン類の調節を通じて制御することができることを見出した。したがって、グリコサミノグリカン類、例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類(HSGAG)の調節を通じて幹細胞分化を制御するための方法および組成物を提供する。本明細書中に提供されたように幹細胞分化の調節を通じて産生した細胞集団に向けた処置方法ならびに方法および組成物も提供する。
【0050】
細胞外マトリックス(ECM)の重要な構成要素の1つは、グリコサミノグリカン類(GAG)と呼ばれる一群の複合糖類である。HSGAGなどのGAGは、ECMの常在構成要素であり、細胞のグライコームの主要部分を形成する。HSGAGは、多数のタンパク質と相互作用し、増殖、形態形成、接着、移動および細胞死、腫瘍転移および血管新生などのさまざまな細胞的事象において動的役割を担う(Sasisekharan, R. and Venkataraman, G. (2000) Curr Opin Chem Biol 4, 626-31)。興味深いことに、幹細胞分化のタンパク質異常(proteomal)および転写異常(transcriptomal)の分析についての報告があるにもかかわらず(Brandenberger, R., et al. (2004) Nat Biotechnol 22, 707-16)、幹細胞分化におけるグライコームの役割を解明する研究が行われていなかった。
【0051】
JlマウスES細胞を使って、ES細胞が内皮細胞へ分化するのに伴い、それらはそれらの幹細胞マーカー、Oct4を失い、フォン・ヴィレブランド因子(vWf)、VEGFR−2、Ve−カドヘリンおよびeNOSなどの内皮細胞特異的マーカーを発現し始めることが実証された。興味深いことに、ES細胞が分化するのに伴い、細胞のHSGAGプロファイルが急激に変化する。HSGAGをES細胞の異なる分化段階で収穫し、HSGAGの量が細胞が分化するのに伴い有意に増加することを示した。常に、リアルタイムPCR分析により測定したように、HSGAG合成酵素はまた、細胞が分化するのに伴い上方調節された。したがって、本明細書において、幹細胞の微小環境をグリコサミノグリカン(GAG)調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることにより幹細胞分化を調節する方法を提供する。本明細書中で使われるように、「幹細胞分化を調節すること」とは、幹細胞分化を阻害することまたは幹細胞分化を促進することを意図する。「幹細胞分化を阻害すること」とは、分化する幹細胞数を減少させ、幹細胞の分化を減速させるか、またはもう1つ幹細胞が分化するのを中断させることである。「幹細胞分化を促進すること」とは、分化する幹細胞数を増加させるまたは分化過程を加速させることである。いくつかの態様において、調節は、1または2以上の内皮細胞への1または2以上の幹細胞の分化の阻害または促進のことである。内皮細胞は、例えば、哺乳類の細胞であり得、さらに具体的に、それらはヒト内皮細胞であり得る。
【0052】
幹細胞分化の調節は、幹細胞微小環境におけるHSGAGなどのGAGの質(すなわち、構造体;例えば、GAGの開裂、GAGの硫酸化またはアセチル化などへの変化など)および/または量の調節であるが、それらに限定されない。さらなる態様において、幹細胞分化を制御するために、微小環境のHSGAGの一部分または複数部分を調節するための方法および組成物を提供する。方法は、生化学的、薬理学的および遺伝学的であり得、微小環境のHSGAGの質または量の変化をもたらす。これらの方法は、外因性および内因性の方法を含む。本明細書に記載のあらゆる内因性および/または外因性の方法のあらゆる組合せを、幹細胞分化を制御するために、微小環境のHSGAGを調節するために使うことができる。
【0053】
本明細書中で使われるように、「幹細胞の微小環境」とは、1または2以上の幹細胞および/または1または2以上の幹細胞の細胞外マトリックスの表面のことである。したがって、幹細胞の微小環境のGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞との接触は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、幹細胞表面、幹細胞の細胞外マトリックス、あるいは両方と接触させることであり得る。したがって、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、少なくとも1つの幹細胞の微小環境に導入することにより、幹細胞微小環境を、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることができる。
【0054】
これは、例えば、1または2以上のGAG調節剤または1または2以上のGAG調節剤を発現する細胞を、1または2以上の幹細胞を含有する培養物に添加することによってか、少なくとも1つのGAG調節剤または少なくとも1つのGAG調節剤を発現する細胞が結合する二次元デバイスまたは三次元デバイスを、幹細胞微小環境に導入することによってか、あるいは1または2以上のGAG調節剤または1または2以上のGAG調節剤を発現する1または2以上の細胞の対象への投与のいくつかのin vivo法により、達成することができる。対象への投与方法は、全身、局部、局所または部位特異的投与を含む。いくつかの態様において、二次元デバイスまたは三次元デバイスを、体内移植または移植により投与する。微小環境(すなわち細胞表面対細胞外マトリックス)の特定の小分画(subcompartment)におけるグリコサミノグリカン類の修飾または変更もまた、本明細書に提供された方法および組成物を使って行うことができる(例えば、ポジティブ/ネガティブなGAG介在成長因子シグナルのシフトを発生させること)。
【0055】
「GAG調節剤」は、少なくとも1つのグリコサミノグリカンの存在、不在、種類または量に影響を及ぼすあらゆる薬剤である。また、内皮細胞への幹細胞の分化は、塩素酸ナトリウムなどのGAG合成の阻害剤を使うことにより阻害することができることが決定された。したがって、幹細胞分化を、GAG合成経路の調節を介して制御することができる。用語「GAG調節剤」は、グリコサミノグリカンの合成または分解に影響を及ぼす剤(例えば、GAG生合成または生分解にかかわる酵素、GAG生合成または生分解経路にかかわる分子の遺伝子および/またはタンパク質発現に影響を及ぼす剤)、グリコサミノグリカン類を分解する剤(例えば、GAG分解酵素)およびグリコサミノグリカン類自体を含む。したがって、塩素酸ナトリウムならびにヘパラン硫酸グリコサミノグリカン分解酵素などのGAG生合成経路を阻害する薬剤も含む。
【0056】
本明細書中で使われる場合、「GAG分解酵素」または「HSGAG分解酵素」は、グリコサミノグリカンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンをそれぞれ、修飾する、開裂するまたはいくらか変更するあらゆる酵素である。本明細書において、内皮細胞へのES細胞の分化を、構造特異的に微小環境のHSGAGを分解するヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIIIなどのHSGAG分解酵素により阻害することを示す。興味深いことに、ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIIIの阻害的効果のレベルにおいて差異があり、リアルタイムPCRの結果は、ヘパリナーゼIおよびIIIの間でいくつかの直交(orthogonal)効果を示し、HSGAGの構造体(質)、ならびに量が、分化の成果に影響を与えることを示唆する。したがって、GAG分解酵素または他の分解剤などの生化学的方法を使うことにより、GAGの定性および定量調節を介して、幹細胞分化を制御することができる。
【0057】
グリコサミノグリカン類を、例えば、解重合、リン酸化、スルホン化、位置選択的なスルホン化および/または脱スルホン化により修飾または変えることができる。GAG分解酵素は、コンドロイチナーゼ類(例えばコンドロイチナーゼAC、コンドロイチナーゼB、コンドロイチナーゼABC)、ヒアルロン酸リアーゼ、ヘパリナーゼ類(例えば、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII)、ケラタナーゼ、D−グルクロニダーゼ、L−イズロニダーゼ、グリクロニダーゼ類(例えば、Δ4、5グリクロニダーゼ)、スルファターゼ類(例えば、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−Oスルファターゼ)、C5−エピメラーゼ、スルホトランスフェラーゼ類、(例えば、2−Oスルホトランスフェラーゼ、3−Oスルホトランスフェラーゼ、6−Oスルホトランスフェラーゼ、およびN−スルホトランスフェラーゼ(NDST))、それらの修飾型、変異型、機能的に活性なフラグメントおよび組合せを含むが、それらに限定されない。HSGAG分解酵素の例は、例えば、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼおよびN−スルファターゼならびにそれらの修飾型、変異型、機能的に活性なフラグメントおよび組合せを含む。
【0058】
グリコサミノグリカンの生合成または生分解に影響を及ぼす酵素の例は、例えば、グリコシルトランスフェラーゼ類、スルホトランスフェラーゼ類、ヘパラナーゼ類、エンドグルクロニダーゼ類、スルファターゼ類、アセチルトランスフェラーゼ類およびN−アセチルグルコサミニダーゼ類およびそれらの修飾型および組合せを含む。スルホトランスフェラーゼ類は、例えば、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ、2−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ、3−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼおよび6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼを含む。エンドグルクロニダーゼ類は、例えば、α−イズロニダーゼおよびβ−グルクロニダーゼを含む。スルファターゼ類は、例えば、ヘパラン−N−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼおよびN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼ類を含む。アセチルトランスフェラーゼは、例えば、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼを含む。
【0059】
本明細書中に提供された酵素は、細菌由来のまたは哺乳類の酵素であり得る。それらは、哺乳類のまたは細菌由来の細胞の培養物などの細胞培養物から産生し、組み換えにより発現し、または当該技術分野で周知の方法により合成することができる。フラボバクテリアは、それらの異化ライフサイクルの不可欠な部分として多くのグリコサミノグリカン分解酵素を合成する(Payza et al, J. Biol. Chem., 1956, 223, 853-858)。フラボバクテリアから単離され、以前HSGAGの特定の構造体−機能関係の解明に使われていた酵素の重要な部類は、ヘパリナーゼ類であり、ヘパリナーゼI、IIおよびIIIを含む(例えばVenkataraman et al, Science, 1999, 286, 537-542; Dongfang Liu et al, Proc Natl Acad Sd USA, 2002, 99(2):568-573)。3種のヘパリナーゼ類は、リアーゼ類であり、長鎖HSGAGをそれらの二量体構造体に開裂し、Δ4,5不飽和ウロニデート(uronidate)を非還元末端に残す。各々のヘパリナーゼ類は、そこで開裂するそれ自体独特のHSGAG配列を有し、これらの酵素が配列特異的な情報を得る際の有益な手段である。
【0060】
ヘパリナーゼIは、主としてヘパリン様領域で見られる−HNS,6X−I2S−連鎖などの高硫酸化領域でHSGAGを主として開裂する(Ernst et al., Crit, Rev. Biochem. MoI. Biol, 1995, 30, 387-444; Desai et al., Biochemistry, 1993, 32, 8140-8145; Jandik et al., Glycobiology, 1994, 4, 289-296)。ヘパリナーゼIIIは、ヘパラン硫酸で見られる主要な二糖であるHNAc−IおよびHNY,6X−G連鎖などの低硫酸化領域で開裂する(Ernst et al., Crit, Rev. Biochem. MoI. Biol, 1995; Linhardt et al., Biochemistry, 1990, 29, 2611-2617)。ヘパリナーゼIIは、基質連鎖の両方を認識および開裂する能力がある(Ernst et al., Crit, Rev. Biochem. MoI. Biol, 1995)。したがって、フラボバクテリアが配列特異的にHSGAGを分解するために合成するいくつかの他の酵素は、特定の構造体−機能の関係の解明において使用し得る可能性があり、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼおよびN−スルファターゼである。
【0061】
グリコサミノグリカン類はまた、化学剤により修飾または変更することができる。一部分において、グリコサミノグリカン類は、化学分解(例えば、過ヨウ素酸塩酸化および塩基開裂、アルカリ分解、亜硝酸開裂)により修飾することができる。したがって、GAGの修飾または変更に使うことができる化学剤はまた、GAG調節剤であるとも考えられる。
【0062】
本明細書中に提供されたように、薬剤(例えば、化学剤、酵素など)は、構造特異的にグリコサミノグリカン類を修飾するまたは変更するために使うことができる。それらを、あらゆる組合せまたはあらゆる順番で、1または2以上のグリコサミノグリカン類に修飾をもたらすのに使うことができる。一態様において、これらの薬剤は、特定のグリコサミノグリカン構造体の微小環境(特にグリコサミノグリカン類、配列またはそれらの部分)を激減させるのに使うことができる。これは、微小環境からの分解したグリコサミノグリカン類の除去および/または特定のグリコサミノグリカン構造体の破壊を含むことができる。別の態様において、これらの薬剤は、微小環境に特定のグリコサミノグリカン構造体を提供するのに使うことができる。これは、幹細胞微小環境における特定のグリコサミノグリカン構造体の産生および/または構造体の維持を含むことができる。
【0063】
加えて、微小環境がGAGの構造的に正しい組成物を欠如している条件下で(例えば、HSGAG合成を阻害することにより発生させた)、微小環境を外因性GAGの構造的に正しい組成物(例えば、ヘパリン)で補足することにより、内皮細胞への幹細胞(ES細胞)分化を誘導したことが実証された。したがって、GAG調節剤はまた、グリコサミノグリカン類であり得る。当該技術分野で既知の多くのグリコサミノグリカン類がある。複合多糖類のグリコサミノグリカン(GAG)族の仲間は、デルマタン硫酸(DS)、コンドロイチン硫酸(CS)、ヘパリン/ヘパラン硫酸(HSGAG)、ケラタン硫酸およびヒアルロン酸を含む。用語「グリコサミノグリカン」はまた、硫酸化または高硫酸化グリコサミノグリカン類のことである。グリコサミノグリカン類の他の例は、硫酸化ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類(HSGAG)、バイオテクノロジーによって調製したヘパリン、化学修飾したヘパリン、合成ヘパリン、ヘパリノイド類、エノキサパーム(enoxaparm)、低分子量ヘパリン(LMWH)またはコンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸Bまたはコンドロイチン硫酸Cなどの特定の種類のコンドロイチン硫酸を含む。グリコサミノグリカン類はまた、本明細書中に提供されたグリコサミノグリカンの仲間の修飾型ならびに当業者に既知のグリコサミノグリカン族のあらゆる他の仲間を含む。いくつかの態様において、グリコサミノグリカン類は、ヘパリンに類似で、天然または合成であるヘパリン様ポリアニオン類を含む。かかるヘパリン様ポリアニオン類は、ポリビニル硫酸)およびポリ(アネトールスルホネート)を含む。グリコサミノグリカン類はまた、ジ−、テトラ−、ヘキサ−、オクタ−またはより長い多糖単位であるグリコサミノグリカン類を含む。「多糖」は、2または3以上の連続的に結合した単糖単位を有するあらゆるポリマーを意図する。
【0064】
ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類は、既に提供されている多くのグリコサミノグリカン類を含む。HSGAGは、例えば、ヘパリン、ヘパラン、低分子量ヘパリン、合成ヘパリン、バイオテクノロジー由来のヘパリン、前述のものの修飾型などを含む。HSGAGはまた、高硫酸化二糖または低硫酸化二糖であるかまたはそれらを含むものを含む。HSGAGは、32の可能な二糖単位のあらゆる組合せを含むあらゆる多糖であり得る。
【0065】
HSGAGは、1,4位がα−D−ヘキソサミン(H)に結合したウロン酸[α−L−イズロン酸(I)またはβ−D−グルクロン酸(G)]からなる長鎖の二糖反復単位で構成された化学的に複合性および異種性の多糖類である(Linhardt et al, 1991, Chem. Ind., 2:45-50; Casu et al, 1985, Adv. Carbohydr. Chem. Biochem., 43:51-134)。HSGAGは、二糖反復単位の数に関して、ならびに各反復単位内部の化学修飾に関して、多様であり得る。生理的に行われ得る化学修飾は、ウロン酸の2−O炭素での硫酸化およびヘキソサミンの3−Oおよび6−O炭素での硫酸化、ならびにヘキソサミンのN−H(NH2)、N−硫酸化またはN−アセチル化である。
【0066】
同時に、4つの異なる修飾により、特にウロン酸異性体による二糖反復について24=16の異なる可能な構造体を生じる。2つのウロン酸異性体:IおよびGがあることから、HSGAGについて16×2=32の異なるもっともらしい二糖単位があり得る。32の構成要素の組合せにより、生物学的有意性が実証されたテトラ−、ヘキサ−、またはそれより長い多糖単位が生み出される(Venkataraman et al., Science, 1999, 286, 537-542)。32の可能な二糖構造体のうち、3または4部位における化学修飾(硫酸化)を有する構造体は、高硫酸化二糖類と考えられ得る一方、0、1または2の硫酸化した部位を有する構造体は、低硫酸化二糖類である。これらの二糖の連続結合はそして、HSGAG多糖鎖内で高および低硫酸化の領域をもたらし得る。したがって、以下の二糖が高硫酸化として分類し得る:I/G−HNS,3S,6S;I/G2S−HNS,3S;I/G2S−HNS,6S;I/G2S−HNH/Ac,3S,6S;およびI/G2S−HNS,3S,6S、以下の二糖が低硫酸化として分類し得る:I/G−HNH/Ac;I/G−HNS;I/G−HNH/Ac,3S;I/G−HNH/Ac,6S;I/G−HNS,3S;I/G−HNS,6S;I/G−HNH/Ac,3S,6S;I/G2S−HNH/Ac;I/G2S−HNS;I/G2S−HNH/Ac,3SおよびI/G2S−HNH/Ac,6S。
【0067】
DNAまたはRNAなどの他の構造的に複雑な荷電生体高分子とは違い、HSGAGは、鋳型を基にした生合成が行われない。かわりに、哺乳類における生合成は、ゴルジ体内で開始された複雑に連続した酵素の相互作用により制御される。HSGAGは、グルクロン酸−ガラクトース−ガラクトース−キシロースからなる四糖連鎖領域を介して、セリン残基でそれらのコアタンパク質に結合する。この連鎖四糖の初期形成後、グルクロン酸およびN−アセチル−グルコサミンのそれらのUDP糖ヌクレオチド前駆体への添加を変えることにより、反復1,4−結合二糖鎖を形成する。二糖鎖をさらに一連のスルホトランスフェラーゼ類により修飾し、それらのうちN−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ(NDST)および2−O、3−O、および6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ類は、重要な役割を担う。これらのスルホトランスフェラーゼ類のそれぞれの組織特異的アイソフォームおよび基質特異的アイソフォームが発見され、HSGAGの生合成における複雑性のさらなるレベルを示す(Habuchi et al, Biochim Biophys Acta, 2000, 1474 (2), 115-127; Lindahl et al, J Biol Chem 273, 1998, 273 (39), 24979-24982; Sasisekharan, et al , Curr Opin Chem Biol , 2000, 4 (6), 626-631)。これらのスルファターゼ酵素を介する硫酸の除去を通じて、合成したHSGAG構造体を修飾することができる。
【0068】
細胞のHSGAG組成を、多糖鎖の化学分解にかかわる一連の酵素によりさらに制御する。第一に、長い炭水化物鎖を、ヘパラナーゼ類と名づけられるエンドグリコシダーゼ類によって、より小さな多糖フラグメントに開裂する。ヘパラナーゼ発現は、癌の進行、血管形成、および発生を含むさまざまな生理的過程および病的過程に関与してきた(Vlodavsky et al, Semin Cancer Biol, 2002, 12(2), 121-9)。残りの多糖フラグメントを、エンドグルクロニダーゼ(α−イズロニダーゼまたはβ−グルクロニダーゼのいずれか)により末端で開裂することにより続いて分解し、エピマー特異的スルファターゼを介してこの残基の脱硫酸化が続く。得られる末端グルコサミンを、次にα−N−アセチルグルコアミニダーゼによって開裂し、ヘパラン−N−スルファターゼ、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼ、およびN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼを含むスルファターゼ類およびアセチルトランスフェラーゼ類の組合せによるこの残基の脱硫酸化およびN−アセチル化が続く。したがって、これらの酵素はまた、GAG調節剤であると考えられる。
【0069】
また、GAG調節剤として含まれるのは、上述の酵素などのGAG生合成または生分解経路にかかわる分子の遺伝子および/またはタンパク質発現に影響を及ぼす薬剤である。遺伝子および/またはそのタンパク質の発現レベルまたは機能の減少または除去を、様々な薬剤により達成することができる。発現レベルまたは機能を減少させるまたは除去する薬剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド類(例えば、Bredesenらのアンチセンスオリゴヌクレオチド類、米国特許第5,324,654号)、RNAi分子、結合ポリペプチド類、例えば、抗体または抗体フラグメント、細胞内発現抗体(intrabodies)、小分子、または結合し、発現および/または機能を阻害するあらゆる他の化合物などの結合分子を含むことは、当業者に明らかである。結合分子を、天然のソースから単離してもよく、または組み換え手段により合成または産生してもよい。特定の標的に結合する分子を調製または同定するための方法は、当該技術分野で周知である。抗体などの結合ポリペプチド類を、タンパク質(例えば、本明細書に記載の酵素)対する抗体を発生させる(または市販のものから得る)ことにより、または結合ペプチド類もしくは他の結合化合物を同定するためのライブラリをスクリーニングすることにより、簡単に調製し得る。
【0070】
本明細書中に提供されたように、GAG自体はまた、GAG調節剤と考えられる。GAGを、多くの周知の方法により産生することができる。それらのうちのいくつかを、本明細書に簡略に記載する。GAGを、GAG発現細胞(例えば、Flavoheparimunなど、哺乳類の細胞などの起源細胞から単離した)の表面から収集することにより、および組み換え方法(例えば、遺伝子操作した細胞)により、合成方法を通じて産生することができる。本明細書中に提供されたGAGを産生する方法はまた、GAG分解酵素、化学剤、プロテアーゼ類またはそれらのあらゆる組合せの使用を含むことができる。細胞からGAGを収集するために使用し得る化学剤は、例えば、塩、酸、塩基または界面活性剤を含む。例えば、GAG分解酵素を、細胞から特定の構造体のGAGを収集するために使用し得る。別の例として、プロテアーゼ類を、細胞表面にプロテオグリカンまたは糖タンパク質が生じる細胞からGAGを開裂するために使用し得る。GAGを収集することができる細胞は、原核および真核細胞を含む。1または2以上のGAGを、本明細書中に提供された方法および当該技術分野で既知のあらゆる組合せにより産生することができる。好ましくは、1または2以上のGAGは、構造的に特定のGAGの集団である、GAGの集団である。
【0071】
いくつかの態様において、GAG調節剤を、細胞により産生する。これらの細胞を、いくつかの態様において、幹細胞と共培養することができる。これらの細胞は、哺乳類の細胞、細菌由来の細胞または遺伝子操作した細胞など、あらゆる種類の細胞であり得る。これらの細胞は、1または2以上のGAG調節剤を発現するよう、または1または2以上のGAG調節剤の変化した発現を有するよう(例えば、遺伝子的に)変えられた細胞を含む。1または2以上のGAG調節剤の「変化した発現」を有する細胞は、変化の前の発現に対して相対的に増加または低減した1または2以上のGAG調節剤の発現を有するものを含む。これは、完全に除去された1または2以上のGAG調節剤の発現、または変化の前に1または2以上のGAG調節剤のいずれの発現も示さなかった細胞に導入された1または2以上のGAG調節剤の発現を含む。細胞を、当該技術分野で周知の遺伝学的および組み換え手段により変えることができる。例えば、細胞を、1または2以上のGAG調節剤の産生および好ましくは分泌を可能にするベクターで形質移入してもよい。また、細胞を、例えば、1または2以上のGAG調節剤の発現を減少させるまたは除去する目的のために、RNA転写物を産生するために使われるベクターで形質移入してもよい。これらの方法および他の方法は、当業者に周知である。一態様において、1または2以上のGAG調節剤を発現するかまたは変化した発現を有するように変えられ得るのは、幹細胞自体である。
【0072】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、in vivoまたはin vitroで幹細胞分化を阻害または促進するのに使うことができる。一態様において、内皮細胞への幹細胞分化は促進される。別の態様において、内皮細胞への幹細胞分化は阻害される。さらに別の態様において、内皮細胞が乏しい細胞集団が産生されるように、幹細胞分化が阻害される。「内皮細胞が乏しい細胞の集団」は、内皮細胞が(細胞の全集団のうち)少数であるか、または存在しない場合に産生される細胞の集団のいずれかを含む。したがって、かかる細胞集団は、50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、2%、1%またはそれより少ない内皮細胞を有し得る。別の態様において、幹細胞分化は、筋肉、神経または血液細胞が豊富である細胞集団が得られるように阻害される。細胞の集団は、細胞の1種類が豊富である場合、産生される細胞集団は、他の細胞と比較して特別な細胞型の量をより多く有する。いくつかの態様において、豊富な細胞は、全体の細胞集団の40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、99%またはそれ以上を表し得る。他の細胞型のそれぞれと比較して、豊富な細胞型は、より多くの量である。さらに他の態様において、幹細胞分化は、主として内皮細胞である細胞集団が産生されるように促進される。「主として内皮細胞である細胞集団」は、細胞の50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、99%またはそれ以上が内皮細胞である集団である。したがって、幹細胞分化を、特定の細胞集団を産生することができるよう調節することができる。産生された細胞は、哺乳類の細胞(例えば、ヒト細胞)などの細胞のあらゆる種類であり得る。
【0073】
したがって、方法は、細胞分化を阻害または促進するために幹細胞の微小環境と接触させ、細胞の集団を得ることにより、本明細書に記載のものなどの細胞の集団を産生することを提供する。該方法は、in vitroまたはin vivoであり得る。一態様において、方法を培養下で行う。別の態様において、方法を対象において行う。これらの細胞集団の構成をまた、これらの細胞集団で操作(engineer)された組織であるものとしてとして提供する。一態様において、得られた細胞集団は哺乳類である。別の態様において、得られた細胞集団はヒトである。さらに別の態様において、得られた細胞集団は、治療剤である。一態様において、得られる細胞集団は、組織工学において使われる。別の態様において、得られた細胞集団または操作された組織は、対象において疾患状態を処置するにために使われる。
【0074】
二次元構造体または三次元構造体は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞がその上に共有結合または非共有結合し得るあらゆる支持体である。これらの構造体は、例えば、体内移植することができない医療デバイスを含む。構造体は、例えば、足場、マトリックス、ステント、シャント、弁、ペースメーカー、パルス発生器、心臓細動除去器、脊髄刺激装置(spinal stimulator)、脳刺激装置(brain stimulator)、仙椎神経刺激装置(sacral nerve stimulator)、リード、インデューサー、センサー、ねじ、アンカー、ピン、接着シート、針、レンズ、関節、人工/整形外科用インプラント、カテーテル、管(例えば、ライン用およびドレーン用管)、縫合糸(suture)などであり得る。
【0075】
本明細書に提供される方法および組成物の幹細胞は、あらゆる幹細胞であることができる。幹細胞とは、分化していない幹細胞および分化し得る幹細胞について言及することを意図される。一態様において、幹細胞は、全能性幹細胞、多能性幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞または前駆幹細胞である。幹細胞は、哺乳類のものであり得、いくつかの態様において、幹細胞はヒトのものである。別の態様において、幹細胞は胚幹(ES)細胞である。
【0076】
ES細胞は、発生中の胚盤胞の内細胞塊由来の多能性細胞であり、あらゆる成体細胞型へ分化する特有の能力がある(Cowan, C. A.et al. (2004) N Engl J Med 350, 1353-6)。ES細胞は、in vitroで未分化多能性の状態において維持するのが容易であり、あらゆる細胞型への分化の可能性を有する。ES細胞は、マウス、非ヒト霊長類および最近はまたヒトを含むさまざまな哺乳類源から単離されてきた(Thomson et al, 1998, Science, 282: 1145-1147; Reubinoff et al, 2000, Nat Biotechnol, 18:399-404)。これらの細胞は自己再生能を有し、それらはまた、適切な条件下で培養したとき、造血(Keller et al, Mol Cell Biol, 1993, 13:473-486; Pacacios et al, Proc Natl Acad Sd USA, 1995, 92:7530-7534)、筋肉(Rohwedel et al, DevBiol, 1994, 164:87-101; Robbins et al, J Biol Chem, 1990, 265: 11905-11909)、神経(Bain et al, Dev Biol 1995, 168:342-357)および内皮(Risau et al, Development, 1988, 102:471-478)などさまざまな細胞系統を発生させるために分化することができる。
【0077】
それらをマウスに注射したとき、ES細胞由来の神経、軟骨、肝臓または内皮組織は、それらの生存能力を維持し、分化した構造体に特異的なタンパク質を発現し続けることを実証している(Levenberg et al, Proc Natl Acad Sd USA, 2003, 100: 12741-46; Hara et al, Brain Res., 2004, 999(2):216-21; Yamamato et al, Hepatology, 2003, 37(5): 983-93; Meyer et al Brain Res., 2004, 1014: 131-44; Levenberg et al, Proc Natl Acad Sci USA, 2002, 99(7): 4391-6)。ES細胞由来の内皮細胞は、VEGFR−2、Tie−2、vWFおよびVE−カドヘリンを含む最も知られた内皮細胞マーカーを発現し(Vittet et al, Blood, 1996, 88:3424-31)、それらはin vitroでキャピラリー様構造体を形成することができ、マウスに移植したとき、微小血管および脈管構造を形成することができる(Marchetti et al, J Cell Sci, 2002, 115:2075-85; Kaufman et al, Blood, 2004, 103(4): 1325-32)。したがって、ES細胞は、それらの自己再生能および多分化能により、全種類の組織を生み出すことができる無限の細胞のソースを提示し、したがって組織の移植、再生および操作のための貴重なソースを提供する。
【0078】
対象において幹細胞分化が促進されるまたは阻害される方法および組成物を提供する。したがって、本明細書に提供された方法および組成物を、様々な処置指標に使うことができる。本発明の一面において、対象を処置するための有効量での1または2以上のGAG調節剤または1または2以上のGAG調節剤を発現する1または2以上の細胞の投与により、対象を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、GAG調節剤を、内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量にて投与する。「内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量」とは、GAG調節剤単独のまたは別の薬剤と組み合わせての、内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進することができる任意の量を指す。「阻害する」とは、内皮細胞への幹細胞分化を減少させるまたは除去することであり、一方、「促進する」ことは、内皮細胞への幹細胞分化をもたらすことである。対象を処置する方法もまた、本明細書中に提供された方法により作られた細胞集団および操作された組織を使って達成することができる。
【0079】
上記の方法および組成物は、再生医療に有用である。再生医療のために魅力的な標的の1つは、生存能力のある脈管構造の確立である。脈管系は、初期発生段階中に築かれ、成体においては殆ど静止状態にある。血管新生(新生血管の形成)はまた、生殖周期、組織再生および創傷治癒などある生理的条件において正確に制御された形ではあるが、成体において起こり得る。それに対し、糖尿病、高コレステロール血症および高齢などのいくつかの病的状態は、虚血組織をもたらす血管新生障害と関連がある。この血管新生障害は主に、内皮細胞機能障害に起因し、かかる条件における血管新生の促進は、患者の処置において重要な治療上の可能性を有する。
【0080】
これを達成する1つの手段は、障害を有する脈管構造の構成要素のin vivoでの操作、またはex-vivo再生および再構成された脈管組織の移植を介するものである。血管新生において役割を担う脈管構造の必須の構成要素は、血管の内側を覆う内皮細胞である。他の研究は、初代内皮細胞および内皮前駆細胞を使って脈管組織を再生することを試みてきた(Joyce, N. C, and Zhu, C. C. (2004) Cornea 23, S8-S19 and Murasawa, S. (2004) Nippon Ronen Igakkai Zasshi 41, 48-50)。しかしながら、これらの取組みは、初代細胞の有限な寿命により、および循環血液における前駆細胞が少量であることにより限定される。
【0081】
したがって、本明細書において、血管新生(vascularization:血管の形成または血管新生)を必要とする対象を処置する方法および組成物が提供される。かかる対象は、慢性の創傷を有する者、心臓機能の回復が必要な者、虚血組織を有する者、ならびに冠動脈疾患、糖尿病、高コレステロール血症などを有するかまたはその危険性がある者を含むが、これらに限定されない。かかる対象はまた、高齢者を含む。いくつかの態様において、高齢である対象は、65、70、80、85、90または95歳より高齢の者である。内皮細胞への幹細胞分化を促進するために、GAG調節剤を使うことができることが見出された。したがって、提供されるGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、in vivoで内皮細胞への幹細胞分化を促進するために投与することができる。加えて、本明細書中に提供されたようにして産生された細胞集団および操作された組織の組成物をまた、血管の形成(例えば、血管新生)を必要とする対象の処置に使うことができる。内皮細胞への幹細胞分化の刺激により、または内皮細胞集団または操作した組織の使用により処置することができる疾患の例は、血管の形成障害の結果として虚血組織を対象内で形成する状態を含むが、これらに制限されない。これらの状態は、糖尿病、発作、狭心症、CAD、高コレステロール血症および高齢などの疾患を含む。血管の形成が望ましい疾患の状態の別の例は、慢性の創傷である。
【0082】
いくつかの病態生理的状態において、血管の形成は、制御されない持続的な形で行われる(例えば腫瘍血管新生、関節炎)。これらの状態に関して、血管の形成を阻害する方法は、重要な治療上の可能性を有する。内皮細胞が血管の必須の構成要素であることから、内皮細胞の発生の制御を通じて血管の形成を制御するのが可能である。哺乳類において、内皮細胞の発生は、2つの機構により生じる;既存の内皮細胞の増殖を通じておよび前駆幹細胞の分化を通じて。他のグループは、既存の内皮細胞の増殖の阻害を通じて血管の形成を阻害する方法を開示している(例えば、米国特許第6,743,428号;6,703,049号;6,683,051号;5,268,384号;5,001,116号)。しかしながら、有効な治療成果のためには、既存の内皮細胞の増殖を阻害するのみでは不十分である;内皮細胞への前駆幹細胞の分化を阻害する方法を開発することが重要である。かかる病態生理的症例については、提供された方法および組成物を、所望の治療成果を得るための前駆内皮細胞への幹細胞分化の阻害に適用することができる。
【0083】
したがって、方法および組成物を、望ましくない血管の形成を有する対象の処置に使用するために提供する。したがって、提供される組成物および方法は、内皮細胞への幹細胞分化の減少または除去をもたらし得る。したがって、方法および組成物を、血管の形成の阻害を通じて、癌(すなわち、腫瘍血管形成)および関節炎などの様々な病的条件を処置するのに使うことができる。これは、例えば、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するGAG調節剤の使用を通じて達成される。
【0084】
内皮および血管平滑筋細胞の増殖は、血管新生の主要な特徴である。したがって、本発明の基質は、増殖を防止するのに有用であり、したがって、全体的にまたは一部分においてかかる血管新生に依存する血管形成状態の進行を、全体に阻害または停止させる。提供される組成物および方法を、例えば、血管形成を阻害する方法において使ってもよい。「血管形成」は、内皮細胞が、新生血管の発生をもたらす内皮細胞の伸長および増殖をもたらす内皮にとってマイトジェン的な一群の成長因子を分泌するとき、腫瘍においてしばしば生じる。血管新生、または血管形成は、新しい動脈の成長および発生である。それは、損傷修復を含む脈管系の正常発生にとって重要である。
【0085】
しかしながら、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、関節リウマチ、およびある癌を含む異常な血管新生を特徴とする状態が存在する。例えば、糖尿病性網膜症は、失明の主要な原因である。2種類の糖尿病性網膜症、単純性および増殖性がある。増殖性網膜症は、血管新生および瘢痕を特徴とする。増殖網膜症を有する患者の約半数が、約5年以内に失明へと進行する。本明細書中で使われる場合、血管形成状態とは、血管新生を含む病変を有する疾患または望ましくない病状を意味する。癌血管形成状態は、それ以外に血管内皮腫、血管腫およびカポジ肉腫などの血管新生と関係がある固形腫瘍および癌または腫瘍である。
【0086】
癌の他の例は、黒色腫、肝腺癌、前立腺腺癌または骨肉腫を含む。他の癌は、胆道癌;膀胱癌;乳癌;グリア芽腫および髄芽腫を含む脳癌;バーキットリンパ腫、子宮頸癌;絨毛腫;結腸直腸癌腫を含む結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;胃癌;頭部および頸部癌;急性リンパ性および骨髄性白血病を含む血液新生物、多発性骨髄腫、AIDS関連白血病および成人T細胞白血病リンパ腫;ボーエン疾患を含む上皮内新生物;小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む肺癌;ホジキン疾患およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮細胞癌腫を含む口腔癌;食道癌;上皮細胞、間質細胞、胚細胞および間葉細胞から生じるものを含む卵巣癌;膵臓癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、および滑膜肉腫を含む肉腫;カポジ肉腫、基底細胞癌、および扁平上皮細胞癌を含む皮膚癌;セミノーマ、非セミノーマ(奇形腫、絨毛腫)、間質腫瘍、および胚細胞腫瘍などの胚腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌および髄様癌腫を含む甲状腺癌;腺癌およびウィルムス腫瘍を含む移行性癌および腎臓癌を含む。
【0087】
提供された方法および組成物を、本明細書中に提供されたまたはそれ以外に提供された教示により明らかである状態のいずれかを有するまたは有する危険性がある対象の処置において使うことができる。
【0088】
しかしながら、血管形成または血管新生の促進もまた、望ましい。例えば、血管形成は、ステント、プロステーシスインプラント、皮膚グラフト、人工皮膚、血管グラフトの使用などによる組織工学の用途において、または血管新生の増加が望ましいあらゆる用途において、望ましい。したがって、組成物および方法は、好ましくは組織工学用途のために血管形成の促進を提供する。一つには、提供される組成物および方法において、また、VEGF、FGF、EGF、PDGFまたは肝細胞成長因子(HGF)などの血管形成因子を含むことができる。
【0089】
提供される組成物および方法はまた、凝固と関係がある障害の処置において使うことができる。「凝固と関係がある疾患」とは、本明細書中で使われる場合、組織への血液の供給に関与する血管(心筋、脳梗塞または末梢血管疾患にみられるものなどの)の閉塞に起因して起こるか、または心房細動または深部静脈血栓症などの状態と関連する塞栓形成の結果として起こり得る、組織への血液供給の妨害により生じる炎症を特徴とする状態を指す。脳虚血発作または脳虚血は、脳への血液供給が阻止される虚血状態の一形態である。脳への血液供給における妨害は、様々な原因によりもたらされ得、血管自体の内部閉塞または閉鎖、閉鎖の遠隔起源、環流圧の減少または不十分な脳血流による血液粘度の増加、またはくも膜下腔または脳内組織における血管破裂を含む。凝固関連疾患/状態はまた、播種性血管内凝固、静脈うっ滞、妊娠、癌、血友病、凝固因子欠乏などを含む。
【0090】
本発明はまた、神経変性疾患などの神経変性障害を発生しているかまたはその危険性がある対象、または神経細胞への損傷を患う対象の処置を意図する。神経細胞は主に、それらの局所的/領域性シナプス結合(例えば、局所回路介在ニューロン対長距離投射ニューロン)および受容体のセット、および関連する二次メッセンジャー系に基づいて分類される。神経細胞は、中枢神経系(CNS)ニューロンおよび末梢神経系(PNS)ニューロンの両方を含む。多くの異なる神経細胞型がある。例としては、感覚ニューロンおよび交感ニューロン、コリン作動性ニューロン、背根神経節ニューロン、自己受容性ニューロン(三叉神経中脳路核における)、毛様体神経節ニューロン(副交感神経系における)などが挙げられるが、それらに限定されない。当業者は、神経細胞を簡単に同定し、それらを典型的に細胞形態学的特徴、細胞特異的マーカーの発現、ある分子の分泌などを利用する、グリア細胞などの非神経細胞から区別することができるだろう。
【0091】
「神経変性障害」は本明細書において、ニューロンの進行性消失が末梢神経系内または中枢神経系内のいずれかで生じる障害として定義されている。神経変性障害の例は:(i)家族性および特発性筋萎縮性側索硬化症(それぞれFALSおよびALS)、家族性および特発性パーキンソン病、ハンティントン病、家族性および特発性アルツハイマー病、多発性硬化症、オリーブ橋小脳萎縮症、多発性系萎縮症、進行性核上麻痺、広範性レヴィー小体疾患、皮質歯状核黒質変性症、進行性家族性ミオクローヌス癲癇、線条体黒質変性症、捻転ジストニア、家族性振戦、ダウン症、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、ハーラーフォルデン・シュパッツ病、糖尿病性末梢神経障害、拳闘家認知症、AIDS認知症、加齢に伴う認知症、加齢に伴う記憶障害、および感染性海綿状脳症(クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、スクレイピー、およびクールー)と関係があるプリオンタンパク質(PrP)が原因のものや過剰なシスタチンC蓄積(遺伝性シスタチンC血管症)が原因のものなどのアミロイドーシス関連神経変性疾患などの、慢性の神経変性疾患;
【0092】
および(ii)外傷性脳損傷(例えば、手術関連脳損傷)、脳浮腫、末梢神経障害、脊髄損傷、リー疾患、ギラン・バレー症候群、リポフスチン症などのリソソーム蓄積障害、アルパース病、CNS変性症によるめまい;例えば青斑核および小脳におけるニューロンの変性症を含む、慢性のアルコールまたは薬物乱用と共に生じる病態;認識および運動機能障害へと至らしめる小脳ニューロンおよび皮質ニューロンの変性症を含む、加齢と共に生じる病態;および運動機能障害へと至らしめる基底核ニューロンの変性症を含む慢性のアンフェタミン乱用と共に生じる病態;局所的外傷発作、局所的虚血、血管不全、低酸素性虚血性脳症、高血糖症、低血糖症または直接的な外傷などによる病的変化;治療薬および処置(例えば、NMDAクラスのグルタミン酸受容体作動薬の抗けいれん剤の投薬に応答した帯状回皮質ニューロンおよび嗅内皮質ニューロンの変性症)のネガティブな副作用として生じる病態、およびウェルニッケ・コルサコフ関連認知症など急性神経変性障害を含む。
【0093】
感覚ニューロンに影響を与える神経変性疾患は、フリードライヒ失調症、糖尿病、末梢神経障害、および網膜神経変性症を含む。辺縁系および皮質系の神経変性疾患は、脳アミロイドーシス、ピック萎縮症、およびレット症候群を含む。前述の例は、総合的であることを意図するものではないが、単に用語「神経変性障害」の説明としての機能を果たすものである。
【0094】
用語「処置する」および「処置すること」は、本明細書中で使われる場合、疾患または条件の症状を減少させるまたは除去すること、何らかの方法で対象の健康を改善すること、疾患または条件の進行を覆すことまたは全体に疾患または条件を除去することを指す。かかる用語はまた、対象における疾患または条件の発生の可能性の減少を含むことを意図する。疾患または条件が癌であるとき、「処置する」または「処置すること」は、癌または腫瘍細胞の増殖または転移を完全にまたは部分的に阻害すること、ならびに癌または腫瘍細胞の増殖または転移のいかなる増加をも阻害することをいう。処置するまたは処置することはまた、対象における腫瘍細胞の増殖または転移を抑制することをいう。さらに、処置するまたは処置することは、腫瘍細胞増殖または転移と関係がある症状の除去または減少を含んでもよい。「癌を有する対象」は、検出可能な癌細胞を有する対象のことである。癌は、悪性または非悪性癌であり得る。
【0095】
「危険性がある対象」は、ある疾患または障害が発生する確率が高い対象である。例として、「癌を有する危険性がある対象」は、癌を発生する確率が高い対象である。危険性がある対象は、例えば、遺伝的異常を有する対象が疾患または条件が発生するより高い可能性と相関関係を有することが実証されている者、薬剤に曝露された対象または疾患または条件と関係があるライフスタイルを有する対象、または疾患または状態について以前処置を受けたことがある対象を含む。危険性がある対象を、組成物および提供された方法により、単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて処置することができる。
【0096】
血液細胞、神経細胞および/または筋肉細胞の集団を産生するための内皮細胞への幹細胞分化の阻害と関係する方法および組成物をまた、提供する。一態様において、かかる集団は、血液細胞、神経細胞または筋肉細胞が豊富な集団である。別の態様においてかかる細胞の集団は、集団の内皮細胞よりも多量の少なくとも1種類の細胞(血液、神経または筋肉)を有する。かかる細胞集団は、様々な治療用途を有することができ、それは、血液細胞を輸血などの目的のために幹細胞から発生させる治療用途を含む。他の条件は、神経細胞を、神経変性疾患の処置のために幹細胞から発生させるものを含み、幹細胞から神経細胞を得る方法は、内皮細胞への幹細胞の分化の阻害を伴う。したがって、本明細書に提供された方法および組成物を、神経変性障害または神経系損傷を処置するのに使うことができる。
【0097】
提供された方法および組成物を、追加の治療剤の投与と組み合わせることができる。追加の治療剤は、抗癌剤を含む。抗癌剤は、アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール(Acodazole Hydrochloride);アクロニン;アドリアマイシン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン(Ambomycin);酢酸アメタントロン(Amethantrone);アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン(Asperlin);アザシチジン;アゼテパ(Azetepa);アゾトマイシン(Azotomycin);ベチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;塩酸ビサントレン;ビスナフィドジメシラート;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナルナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;塩酸カルビシン(Carubicin);カルゼレシン;セデフィンゴール;クロランブシル;シロレマイシン(Cirolemycin);シスプラチン;クラドリビン;メシル酸クリスナトール;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン(Dezaguanine);メシル酸デザグアニン;デアジクオン;ドセタキセル;ドキソルビシン;塩酸ドキソルビシン;ドロロキシフェン;クエン酸ドロロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;ドゥアゾマイシン(Duazomycin);
【0098】
エダトレキサート;塩酸エフロルニチン;エルサミトルシン(Elsamitrucin);エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;塩酸エピルビシン;エルブロゾール(Erbulozole);塩酸エソルビシン(Esorubicin);エストラムスチン;エストラムスチンリン酸ナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン(Etoprine);塩酸ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;リン酸フルダラビン;フルオロウラシル;フルロシタビン;ホスキドン;ホストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;塩酸ゲムシタビン;ヒドロキシウレア;塩酸イダルビシン;イホスファミド;イルモホシン;インターフェロンα−2a;インターフェロンα−2b;インターフェロンα−nl;インターフェロンα−n3;インターフェロンβ−1a;インターフェロンγ−1b;イプロプラチン;塩酸イリノテカン;酢酸ランレオチド;レトロゾール;酢酸ロイプロリド;塩酸リアロゾール(Liarozole);ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;塩酸ロソキサントロン(Losoxantrone);マソプロコール;マイタンシン(Maytansine);塩酸メクロレタミン;酢酸メゲストロール;酢酸メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトトレキサートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;マイトカルシン(Mitocarcin);マイトクロミン(Mitocromin);マイトジリン;マイトマルシン(Mitomalcin);マイトマイシン;ミトスペル(Mitosper);ミトタン;塩酸ミトキサントロン;マイコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;
【0099】
オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペガスパルガーゼ;ペリオマイシン(Peliomycin);ペンタムスチン(Pentamustine);硫酸ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;塩酸ピロキサントロン(Piroxantrone);プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン(Prednimustine);塩酸プロカルバジン;プロマイシン(Puromycin);塩酸プロマイシン;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール(Safingol);塩酸サフィンゴール;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセート(Sparfosate)ナトリウム;スパルソマイシン;塩酸スピロゲルマニウム(Spirogermanium);スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌル;タリソマイシン;テコガランナトリウム;テガフル;塩酸テロキサントロン(Teloxantrone);テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン(Thiamiprine);チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;塩酸トポテカン;クエン酸トレミフェン;酢酸トレストロン(Trestolone);リン酸トリシリビン(Triciribine);トリメトレキサート;グルクロン酸トリメトレキサート(Trimetrexate);トリプトレリン;塩酸ツブロゾール(Tubulozole);ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;硫酸ビネピジン(Vinepidine);硫酸ビングリシナート(Vinglycinate);硫酸ビンロウロシン(Vinleurosine);酒石酸ビノレルビン;硫酸ビンロシジン(Vinrosidine);硫酸ビンロリジン(Vinzolidine);ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;塩酸ゾルビシンを含むが、これらに限定されない。
【0100】
追加の薬剤はさらには、放射線治療の副作用処置する剤薬、例えば制吐剤、放射線保護剤などをを含む。
【0101】
抗癌剤はまた、細胞障害性薬剤および腫瘍血管新生構造に作用する薬剤を含むことができる。細胞障害性薬剤は、細胞障害性放射線核種、化学トキシンおよびタンパク質トキシンを含む。細胞障害性放射線核種または放射線治療アイソトープは、好ましくは、225Ac、211At、212Bi、213Bi、212Pb、224Raまたは223Raなどのα放射アイソトープである。代替的に、細胞障害性放射線核種は、186Rh、188Rh、177Lu、90Y、131I、67Cu、64Cu、153Smまたは166Hoなどのβ放射アイソトープであってもよい。さらに、細胞障害性放射線核種は、オージェおよび低エネルギー電子を放射してもよく、アイソトープ125I、123Iまたは77Brを含む。
【0102】
好適な化学トキシンまたは化学療法剤は、カリケアマイシンおよびエスペラマイシン(esperamicin)などのエンジイン分子群のメンバーを含む。化学トキシンを、メトトレキサート、ドキソルビシン、メルファラン、クロランブシル、ARA−C、ビンデシン、マイトマイシンC、cis−プラチナ、エトポシド、ブレオマイシンおよび5−フルオロウラシルからなる群から取ることができる。トキシンはまた、毒性レクチン類、リシン、アブリン、モデクシンなどの植物トキシン、ボツリヌストキシンおよびジフテリアトキシンを含む。さまざまなトキシンの組合せもまた、変化し得る細胞傷害性に適合するよう提供する。他の化学療法剤は、当業者に公知である。
【0103】
腫瘍脈管構造に作用する剤は、例えばコンブレスタチン(combrestatin)A4(Griggs et al., Lancet Oncol. 2:82, 2001)などのチューブリン結合剤、アンギオスタチンおよびエンドスタチン(本明細書に参考文献として組み込まれるRosen, Oncologist 5:20, 2000に掲載)、インターフェロン誘導プロテイン10(米国特許第5,994,292号)などを含む。抗癌剤はまた、α−インターフェロン、γ−インターフェロン、および腫瘍壊死因子α(TNFα)などの免疫調節剤を含む。
【0104】
本明細書中に提供された組成物および方法は、神経再生を促進するまたは神経変性疾患を処置するのに使われる他の治療剤と組み合わせることができる。
例えば、抗パーキンソン病剤は、メシル酸ベンズトロピン;ビペリデン;塩酸ビペリデン;乳酸ビペリデン;カルマンタジン;塩酸シラドパ;ドパマンチン;塩酸エトプロパジン;ラザベミド;レボドパ;塩酸ロメトラリン;塩酸モフェギリン;塩酸ナキサゴリド;硫酸パレプチド;塩酸プロシクリジン;塩酸キネロラン;塩酸ロピニロール;塩酸セレギリン;トルカポン;塩酸トリヘキシフェニジルを含むが、これらに限定されない。
筋萎縮性側索硬化症を処置するための薬剤は、リルゾールを含むが、これに限定されない。パジェット病を処置するための薬剤は、チルドロネート二ナトリウムを含むが、これに限定されない。
【0105】
追加の治療剤の例はまた、抗凝固剤、抗血小板剤および血栓溶解剤を含む。
抗凝固剤は、ヘパリン、修飾ヘパリン、デルマタン硫酸、過硫酸化デルマタン硫酸、ワルファリン、クマジン、ジクマロール、フェノクロプモン、アセノクマロール、ビスクマ酢酸エチル、およびインダンジオン誘導体を含むが、それらに限定されない。
抗血小板剤は、アスピリン、チクロポジン(ticlopodine)およびクロピドグレルなどのチエノピリジン誘導体、ジピリダモールおよびスルフィンピラゾン、ならびにRGD模倣剤、およびまたアンチトロンビン剤(ヒルジンなどであるが、これに限定されない)などを含むが、これらに限定されない。
【0106】
血栓溶解剤は、プラスミノーゲン、a2−抗プラスミン、ストレプトキナーゼ、アンチストレプラーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤(tPA)、およびウロキナーゼを含むが、それらに限定されない。
凝固の阻害のための追加の薬剤は、凝固因子およびアンチトロンビン3などのアンチトロンビン類を含む。
同様に、提供された組成物および方法が、創傷治癒を促進することができるように、追加の治療剤はまた、創傷の強度を高め、血小板凝集およびフィブリン形成を促進するためのコラーゲン;血小板由来の成長因子などの成長因子、血小板因子4、トランスフォーミング成長因子−β;組織因子VIIa、トロンビン、フィブリン、プラスミノーゲン−活性化剤開始剤、アデノシン二リン酸などを含む。
【0107】
さらに、抗炎症剤を使うことができ、追加の治療剤として含まれる。抗炎症剤は、アルクロフェナク;ジプロピオン酸アルクロメタゾン;アルゲストンアセトニド;αアミラーゼ;アムシナファル(Amcinafal);アムシナフィド(Amcinafide);アンフェナクナトリウム;塩酸アミプリロース;アナキンラ(Anakinra);アニロラク;アニトラザフェン;アパゾン;バルサラジド二ナトリウム;ベンダザック;ベノキサプロフェン;塩酸ベンジダミン;ブロメライン;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン(Cintazone);クリプロフェン;プロピオン酸クロベタゾール;酪酸クロベタゾン;クロピラク;プロピオン酸クロチカゾン;酢酸コルメタゾン(Cormethasone);コレトドキソン;デフラザコート(Deflazacort);デソニド;デソキシメタゾン(Desoximetasone);ジプロピオン酸デキサメタゾン;ジクロフェナクカリウム;ジクロフェナクナトリウム;ジフロラゾンジアセテート(Diflorasone Diacetate);ジフルミドンナトリウム;ジフルニサル;ジフルプレドナート;ジフタロン;ジメチルスルホキシド;ドロシノニド(Drocinonide);エンドリソン(Endrysone);エンリンモマブ(Enlimomab);エノリカムナトリウム;エピリゾール;エトドラク;エトフェナマート;フェルビナク;フェナモール;フェンブフェン;フェンクロフェナク;フェンクロラク;フェンドサール;フェンピパロン;フェンチアザク;フラザロン;フルアザコルト;フルフェナム酸;フルミゾール;酢酸フルニソリド;フルニキシン;フルニキシンメグルミン;フルオコルチンブチル;酢酸フルオロメトロン;フルクアゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;プロピオン酸フルチカゾン;フラプロフェン;フロブフェン;
【0108】
ハルシノニド;プロピオン酸ハルベタゾル(Halobetasol);酢酸ハロプレドン;イブフェナク;イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール;イロニダプ;インドメタシン;インドメタシンナトリウム;インドプロフェン;インドキソール;イントラゾール;酢酸イソフルプレドン;イソキセパク;イソキシカム;ケトプロフェン;塩酸ロフェミゾール;ロルノキシカム;エタボン酸ロテプレドノール;メクロフェナメートナトリウム;メクロフェナム酸;メクロリゾンジブチラート(Meclorisone Dibutyrate);メフェナム酸;メサラミン;メセクラゾン;スレプタン酸メチルプレドニゾロン;モルニフルマート;ナブメトン;ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジンナトリウム;オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;塩酸パラニリン(Paranyline);ペントサン多硫酸ナトリウム;フェンブタゾングリセリン酸ナトリウム(Phenbutazone Sodium Glycerate);ピルフェニドン;ピロキシカム;桂皮酸ピロキシカム;ピロキシカムオラミン(Olamine);ピルプロフェン;プレドナゼート(Prednazate);プリフェロン;プロドール酸;プロクアゾン;プロキサゾール;クエン酸プロキサゾール;リメキソロン;ロマザリット;サルコレクス;サルセナジン;サルサラート;塩化サングイナリウム;セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダク;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルマート;タロサラート;テブフェロン;テニダプ;テニダプナトリウム;テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン(Tetrydamine);チオピナク;ピバリン酸チキソコルトール(Tixocortol);トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド(Triclonide);トリフルミダート;ジドメタシン;およびゾメピラクナトリウムを含む。
【0109】
本明細書中に提供された方法はさらに、内皮細胞への幹細胞分化を評価するステップを含むことができる。本明細書中で使われる場合に、「内皮細胞への幹細胞分化を評価する」とは、内皮細胞への幹細胞分化が阻害されるか促進されるかを決定することをいう。内皮細胞への幹細胞分化を評価するために、多くの分子のいずれをも分析することができる。例えば、幹細胞特異的であるマーカーおよび/または内皮細胞特異的であるマーカーの発現を、決定することができる。幹細胞特異的マーカーは、Oct−4を含む。内皮細胞マーカーは、wVf、VEGF−R2、VE−カドヘリン、eNOSおよびTie−2を含む。かかるマーカーの発現は、幹細胞分化の指標を提供し、マーカーまたはマーカーをエンコードする核酸に結合するあらゆる分子を検出することができる。幹細胞分化はまた、ERKなどのMAPK因子を測定することにより、評価することができる。一例として、ERKのリン酸化を決定することができる。さらなる態様において、1または2以上のマーカーの発現を決定する。マーカーの発現を決定する方法は、当業者に既知であり、また、例において本明細書中に提供する。
【0110】
提供された治療剤の有効量を、かかる処置を必要とする対象に投与する。有効量とは、他の医学上許容できない副作用の原因とならずに、所望の治療目標、例えば細胞増殖の低下または転移の減少、神経再生の促進または阻害、内皮細胞集団への幹細胞分化の阻害または促進などをもたらす量である。かかる量をルーチンの実験程度で決定することができる。有効量とは、1つの治療剤が所望の治療目標に達するために有効な量で投与されることを意味し得、または、所望の治療目標に達するために治療剤の組合せが必要であることを意味し得る。投与方法に依存して1ng/kg〜100mg/kgの範囲の用量が効果的であると信じられている。絶対量は、(投与が、他の処置方法、用量の数、ならびに年齢、健康条件、大きさおよび重量を含む個々の患者のパラメータと連動するかどうかを含む)様々な因子に依存し、ルーチンの実験で決定することができる。一般的に、最大用量、すなわち、妥当な医療判断による最大限の安全用量を使うのが好ましい。
【0111】
対象は、あらゆるヒトまたは非ヒト脊椎動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタである。別の態様において、対象は、本明細書中に提供される組成物および処置方法を必要とする以外ではない。かかる対象は、本明細書中に提供される内皮細胞への幹細胞分化の調節の必要以外に提供される組成物および処置を受けないものである。一態様において、必要とは、内皮細胞への幹細胞分化の促進の必要である。別の態様において、必要とは、内皮細胞への幹細胞分化の阻害の必要である。
【0112】
本明細書に議論した表面および組成物を含むキットもまた、提供する。キットはさらには、標識物などの診断剤または追加の治療剤を含むことができる。
一般的に、治療目的のために投与する場合、本発明の医療デバイスを、薬学的に許容しうる形で適用する。
他の態様において、提供された医療デバイス/基質は、滅菌したものである。
【0113】
一般的に、治療目的のために投与する場合、本発明の処方を、薬学的に許容しうる溶液で適用する。かかる製剤は、慣用的に、薬学的に許容しうる濃度の塩、緩衝剤、保存剤、適合する担体、補助剤、および任意に他の治療成分を含有してもよい。
【0114】
本発明の組成物を、そのまま(他のものを入れずに(neat))または薬学的に許容しうる塩の形で投与してもよい。医薬中で使用するとき、塩は、薬学的に許容しうるものであるべきであるが、非薬学的に許容しうる塩を、それらの薬学的に許容しうる塩を調製するのに都合よく使ってもよく、発明の範囲から除外しない。かかる薬理学的および薬学的に許容しうる塩は、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸、およびベンゼンスルホン酸から調製したものを含むが、それらに限定されない。また、薬学的に許容しうる塩は、カルボン酸群のナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類塩として調製することができる。
【0115】
好適な緩衝剤は、酢酸および塩(1〜2%W/V);クエン酸および塩(1〜3%W/V);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%W/V);およびリン酸および塩(0.8〜2%W/V)を含む。好適な保存剤は、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%W/V);クロロブタノール(0.3〜0.9%W/V);パラベン類(0.01〜0.25%W/V)およびチメロサール(0.004〜0.02%W/V)を含む。
【0116】
本発明は、医療用途のための医薬組成物を、1または2以上の薬学的に許容しうる担体および任意に他の治療成分と共に提供する。用語「薬学的に許容しうる担体」は、本明細書中で使われるように、および以下により全体的に説明するように、ヒトまたは他の動物に投与するのに好適な1または2以上の適合する固体または液体の充填剤、希釈剤または封入物質を意味する。本発明において、用語「担体」は、適用を容易にするために活性成分を組み合わせる天然または合成の有機または無機成分を示す。医薬組成物の構成要素はまた、所望の薬学的効率を実質的に損なう相互作用がないような形で互いに混合されることができる。
【0117】
様々な投与経路が、利用可能である。選択された特定の方法はもちろん、選択された特定の活性剤、処置される特定の状態および治療の有効性に必要な投薬量に依存するだろう。本発明の方法は、一般的に、医学上許容しうるあらゆる投与様式を使って行ってもよく、それは臨床的に許容できない悪影響をもたらさずに有効レベルの免疫応答を作り出すあらゆる様式を意味する。好ましい投与様式は、非経口経路である。用語「非経口」は、皮下注射、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内への注射または注入技術を含む。他の投与様式は、全身、局所(local)、局所(topical)、部位特異的、経口、粘膜、直腸、膣、舌下、鼻腔内、気管内、吸入、眼内、経皮などを含む。他の様式は、医療デバイスなどの構造体の体内移植または移植を含む。いくつかの態様において、体内移植または移植は、部位特異的である(または、治療効果が有益であろう部位に局在化している)。いくつかの態様において、提供された組成物を、関節に投与する。他の態様において、提供される組成物は、血管の形成または血管の形成の阻害を必要とする領域を標的にする。
【0118】
経口投与のために、化合物は、活性化合物を当該技術分野で周知の薬学的に許容しうる担体と組み合わせることにより、容易に処方することができる。かかる担体により、本発明の化合物を、処置される対象が経口摂取するための、錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして処方することが可能となる。経口用途の医薬製剤は、固体の賦形剤として得、任意に得られる混合物を粉砕し、顆粒の混合物を加工し、所望の場合は好適な助剤の添加後、錠剤または糖衣錠のコアとして得ることができる。好適な賦形剤は特に、乳糖、ショ糖、マンニトール,またはソルビトールを含む糖類などの充填剤;例えば、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース製剤である。所望の場合、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を添加してもよい。任意に、経口処方を、内部の酸条件を中和するために生理食塩水または緩衝剤中で処方してもよく、またはいかなる担体も用いずに投与してもよい。
【0119】
糖衣錠コアを、好適な被覆剤と共に提供する。この目的のために、濃縮糖溶液を使ってもよく、この濃縮糖溶液は、任意にアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポール(carbopol)ゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶剤または溶剤混合物を含有してもよい。染料または色素を、識別のため、または活性化合物用量の異なる組合せのを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠被覆剤に添加してもよい。
【0120】
経口的に使うことができる医薬製剤は、ゼラチン製の押し込み型のカプセル、ならびにゼラチン製およびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤製の軟性の密封カプセルを含む。押し込み型のカプセルは、活性成分を、乳糖などの充填剤、スターチなどの結合剤、および/またはタルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および、任意に、安定化剤と共に、混和物中に含有することができる。軟性のカプセルにおいて、活性な化合物を、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコール類などの好適な液体中に溶解または懸濁させてもよい。加えて、安定化剤を加えてもよい。また、経口投与用に処方したマイクロスフィアを使ってもよい。かかるマイクロスフィアは、当該技術分野で明確に定義されている。経口投与用のすべての処方は、かかる投与に好適な投薬量であるべきである。
【0121】
口腔内投与のために、組成物は、従来の形に処方された錠剤またはトローチ剤の形態をとってもよい。
吸入による投与のために、本発明による使用のための化合物を、加圧パックまたは噴霧器からのエアゾールスプレー状の形態で、好適な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体を使って、都合よく送達してもよい。加圧エアゾールの場合、投薬量単位を、定量送達するための弁を提供することにより決定してもよい。吸入器(inhaler)または吸入器(insufflator)における使用のための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジを、化合物と乳糖またはスターチなどの好適な粉末基剤との粉末混合物を含有するよう処方してもよい。
【0122】
化合物は、全身に送達させるのが望ましいとき、注射による、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与用に処方してもよい。注射用処方は、保存剤を添加し、単位剤形、例えば、アンプルまたは複数の用量容器で、提示されてもよい。組成物は、油性または水性ビヒクルにおいて懸濁液、溶液または乳液などの形を採ってもよく、懸濁、安定化剤および/または分散剤などの調合(formulatory)剤を含有してもよい。
【0123】
非経口投与用の医薬処方は、水溶性の形態の活性化合物の水溶液を含む。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性注射懸濁液として調製してもよい。好適な親油性の溶剤またはビヒクルは、ゴマ油などの脂肪油、または、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル類、またはリポソームを含む。水溶液注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール,またはデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。任意に、懸濁液はまた、好適な安定化剤、または高濃度の溶液の製剤を可能にするために化合物の溶解度を増加させる薬剤を含有してもよい。
【0124】
代替的に、活性化合物は、使用の前に好適なビヒクル、例えば、発熱物質を含まない滅菌水と組成するための、粉末の形であってもよい。
化合物を、例えば、ココアバターまたは他のグリセリド類など従来の坐薬用ベースを含有する坐薬または停留浣腸などの直腸または膣用組成物中に処方してもよい。
上述の処方に加えて、化合物をまた、デポー製剤として処方してもよい。かかる長時間作用型処方は、好適なポリマーまたは疎水性材料(例えば許容しうる油において乳液として)またはイオン交換樹脂と共に、または難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として処方してもよい。
【0125】
医薬組成物はまた、好適な固相またはゲル相の担体または賦形剤を含んでもよい。かかる担体または賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、さまざまな糖類、スターチ、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコール類などのポリマー類を含むが、これらに限定されない。
【0126】
好適な液体または固体の医薬製剤は、例えば、吸入用の水溶液または生理食塩水の溶液、マイクロカプセル化したもの、コクリート化したもの(encochleated)、微細金粒子上に被覆されたもの、リポソーム内に含有されるもの、噴霧化したもの、エアゾール、皮膚内に体内移植するためのペレット、または皮膚内にこすり付けるための鋭利な物体上に乾燥させたものである。医薬組成物はまた、顆粒、粉末、錠剤、被覆錠剤、(マイクロ)カプセル、坐薬、シロップ、乳液、懸濁液、クリーム、ドロップ、または活性な化合物を持続的に放出する製剤を含み、これらの製剤において、崩壊剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、香味剤、甘味料または可溶化剤などの賦形剤および添加剤および/または助剤を、上記のように慣用的に使用する。医薬組成物は、様々な薬物送達系における使用に好適である。薬物送達の方法についての簡単な概説は、本明細書に参考文献として組み込まれるLanger, Science 249:1527-1533, 1990を参照のこと。
【0127】
組成物は、都合よく、単位剤形で存在してもよく、調剤分野で周知の方法のいずれかにより調製してもよい。
【0128】
他の送達系は、徐放性(time-release)、遅延放出(delayed release)または持続放出(sustained release)の送達系を含むことができる。かかる系により、本発明の化合物の反復投与を回避することができ、対象および医師への利便性を高める。多くの種類の放出送達系が利用可能であり、当業者に既知である。それらは、ポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリアンヒドリド(polyunhydride)類およびポリカプロラクトンなどのポリマーをベースとする系;コレステロール、コレステロールエステル類および脂肪酸などのステロール類またはモノ、ジおよびトリグリセリド類などの中性脂肪類を含む脂質である非ポリマー系;ヒドロゲル放出系;シラスティック系;ペプチドをベースとする系;ワックス被覆剤、従来の結合剤および賦形剤を使った圧縮錠剤、部分的に融合したインプラントなどを含む。特定の例は、(a)多糖がマトリックス内にある形で含有される侵食系(米国特許第4,452,775号(Kent);4,667,014号(Nestorら);および4,748,034号および5,239,660号(Leonard)に見出される)および(b)活性構成要素がポリマーを通じて制御された割合で浸透する拡散系(米国特許第3,832,253号(Higuchiら)および3,854,480号(Zaffaroni)に見出される)を含むが、これらに限定されない。加えて、ポンプベースのハードウェア送達系を使用することができ、これらのいくつかは、体内移植に適合する。
【0129】
制御放出は、また、生体適合性および生分解性である適切な賦形剤の材料により、達成することができる。減速放出に影響を与えるこれらのポリマー材料は、粒子を作るあらゆる好適なポリマー材料であり得、非生侵食性/非生分解性および生侵食性/生分解性のポリマー類を含むが、これらに限定されない。かかるポリマー類は、先行技術文献により詳細に説明してある。それらは、ポリアミド類、ポリカーボネート類、ポリアルキレン類、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレンオキシド類、ポリアルキレンテレフタレート類、ポリビニルアルコール類、ポリビニルエーテル類、ポリビニルエステル類、ポリビニルハライド類、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド類、ポリシロキサン類、ポリウレタン類およびそれらの共重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、セルロースエーテル類、セルロースエステル類、ニトロセルロース類、アクリルエステルおよびメタクリルエステル類のポリマー類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリ(エチルメタクリラート)、ポリ(ブチルメタクリラート)、ポリ(イソブチルメタクリラート)、ポリ(ヘキシルメタクリラート)、ポリ(イソデシルメタクリラート)、ポリ(ラウリルメタクリラート)、ポリ(フェニルメタクリラート)、ポリ(メチルアクリラート)、ポリ(イソプロピルアクリラート)、ポリ(イソブチルアクリラート)、ポリ(オクタデシルアクリラート)、ポリエチレン、ポリプロピレンポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルアルコール類)、ポリ(酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、およびコンドロイチン硫酸を含むが、これらに限定されない。
【0130】
好ましい非生分解性ポリマー類の例は、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド類、これらの共重合体および混合物を含む。
【0131】
好ましい生分解性ポリマー類の例は、乳酸およびグリコール酸のポリマー類、ポリアンヒドリド類、ポリ(オルト)エステル類、ポリウレタン類、ポリ(ブタン(butic)酸)、ポリ(バレアリン酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(乳酸−グリコリド酸共重合体(lactide-co-glycolide))およびポリ(乳酸−カプロラクトン共重合体(lactide-co-caprolactone))などの合成ポリマー類、ならびにアルギン酸、およびデキストランおよびセルロース、コラーゲン、それらの化学誘導体(置換、化学基の付加、例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化、および当業者により日常的に行われている他の修飾)を含む他の多糖類、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミン類および疎水性タンパク質などの天然ポリマー類、これらの共重合体および混合物を含む。一般的に、これらの材料は、in vivoでの酵素加水分解または水への曝露により、表面または大半の侵食により分解する。前述の材料を、単独で、物理的混合物(ブレンド)として、またはコポリマー類として使ってもよい。
【0132】
最も好ましいポリマー類は、ポリエステル類、ポリアンヒドリド類、ポリスチレン類およびそれらのブレンドである。
本発明を、以下の例によりさらに説明するが、これは、決してさらなる限定として解釈すべきではない。本出願を通して引用された全ての参考文献(文献参照、特許公報、公開特許出願、および同時係属特許出願を含む)の全体の内容は、参考文献として本明細書中に明示的に組み込まれている。
【0133】
例
ES細胞の指向された分化は、再生医療への可能性を保持する;したがって、自己再生および細胞運命決定を制御する機構を理解することは有用である。以前には、トランスクリプトームおよびプロテオミクスの手法を使って、分化の重要な制御構成要素を解明する試みが行われてきた;しかしながら、これらの研究は、この過程の完全な複雑性を捕らえることができなかった。グリコサミノグリカン類、例えば、HSGAGは、細胞外マトリックスの構成要素であり、細胞のグライコームの主要な構成要素の一つを構成する。マウスのES細胞は、無LIF条件下で分化に向かい、フローサイトメトリー、共焦点顕微鏡およびリアルタイムPCRにより示されるとおり、徐々に幹細胞マーカーであるOct−4を失い、フォン・ヴィレブランド因子、VE−カドヘリン、VEGF−R2およびeNOSなどの内皮細胞マーカーを得る。キャピラリー電気泳動法によるHSGAGの構造の組成分析により、重要なHSGAG生合成酵素の転写物のレベルの増加と平行して、HSGAGの量が進行する分化に伴い増加することが明らかになった。
【0134】
塩素酸ナトリウム処置を通じてのHSGAG生合成機械の消失、またはヘパリナーゼ類による処置を介してのHSGAGの酵素分解は、内皮細胞の形成を阻害したが、他の細胞型への分化は、Oct−4シグナルの進行性消失から証明されたように進んだ。ヘパリンの外からの添加により塩素酸ナトリウム処置した細胞におけるHSGAG部分の再構成により、内皮細胞の形成が部分的に回復し、これは、HSGAGが、内皮細胞へのES細胞の分化における役割を担うことを示唆する。ホスホERKレベルのウェスタンブロット分析は、HSGAGがおそらくMAPK経路を通じて内皮細胞へのES細胞の分化に影響を与えることを示唆する。したがって、グライコームの役割は、指向された幹細胞の分化に関与することである。
【0135】
材料および方法
細胞培養
マウス胚幹細胞(J1)(Bevin Engelward, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, Massachusettsより贈呈)を、100mMのピルビン酸ナトリウム、10mMの非必須のアミノ酸および1.5g/Lの重炭酸ナトリウムを、15%ウシ胎仔血清と共に(Hyclone, South Logan, UT)、および100単位/mLのペニシリンG(Sigma, St. Louis, MO)、l00μg/mLの硫酸ストレプトマイシン(Sigma)、30mMのβ−メルカプトエタノール(Sigma)および1000単位/mlのマウス白血病阻害剤因子、LIF(Chemicon, Temecula, CA)を補足して、含有するよう調整した、2mMのL−グルタミンと共にDMEM(GIBCO, Carlsbad, CA)中で増殖させる。細胞を、0.1%のゼラチンB(Sigma)で被覆した10cm2細胞培養ディッシュに播種し、37℃で5%CO2の加湿インキュベータ内で増殖させた。培養培地を2日毎に交換した。細胞を、80%〜90%密集度に達したとき、0.25%のトリプシン−EDTA溶液(Sigma)を使って、1:10の分割比で継代培養した。胚様体の形成および内皮細胞への分化を誘発するために、J1細胞を、1.25×l05細胞/l00mmディッシュ、または3×l04細胞/6ウェルの密度で播種し、LIFの不在の下で培養した。新しい培地を2日毎に補充した。
【0136】
細胞の酵素および化学処置
ヘパリナーゼIII(Hep−III)を、既述のように調製した(Godavarti, R., et al. (1996) Biochemistry 35, 6846-52)。ヘパリナーゼI(Hep−I)は、Momenta Pharmaceuticals(Cambridge, MA)の寛大な贈呈であった。塩素酸ナトリウムおよびヘパリンを、それぞれSigmaおよびCambrex BioWhittaker(East Rutherfordm, NJ)から購入した。細胞のHSGAGグライコームシグニチャー(signature)を酵素修飾するために、細胞、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、Hep−IまたはHep−IIIと共に、37℃で無血清DMEM中で毎日30分間インキュベートした。消化されたHSGAG残基を、細胞を洗浄することにより除去し、細胞に新しい培地を与えた。追加の実験において、細胞を、HSGAGの硫酸化を妨害する塩素酸ナトリウム含有培地で培養した。逆転実験において、ヘパリンを、塩素酸塩誘発の合成阻止を克服するために、培養物に添加した。処置細胞を、内皮細胞への分化について、3日目と15日目との間に分析した。Hep−IIIを、2.5μg/mLの濃度で細胞に添加し、Hep−Iを1.5μg/mLの濃度で、塩素酸ナトリウムを10mMで添加し、およびヘパリン(20μg)を添加した。酵素の濃度を、一定期間内ですべての細胞表面HSGAGを徹底的に開裂するよう最適化した。すべての酵素および化学剤を、無血清DMEMで希釈した。
【0137】
フローサイトメトリー
細胞を、分化中のさまざまな時点で収集し、Fcγ受容体を阻止するためにCD16/CD32(1:50希釈、Pharmingen, San Diego, CA)に対するラットモノクローナル抗体と共にインキュベートし、さらにフォン・ヴィレブランド因子(vWF)(Dako(Carpinteria, CA)、ウサギポリクローナル、1:100希釈で添加)に対して一次抗体と共にインキュベートした。アイソタイプ適合ポリクローナル抗体IgG(Pharmingen)を対照として使用した。そして細胞を2回洗浄し、FITC結合二次抗体(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)と共に1:100希釈でインキュベートし、2回洗浄し、OptiMEM(GIBCO/BRL, Carlsbad, CA)に取り上げ、およびBecton Dickinson(Franklin Lakes、NJ)FACScanフローサイトメータ(励起488nm、アルゴンレーザー;発光580/30)で分析した。
【0138】
共焦点顕微鏡
内皮細胞の顕微鏡分析のために、分化J1細胞を、指定された時点で冷メタノールで固定し、ヤギ血清中でブロッキングし、内皮細胞マーカーであるvWFまたは幹細胞マーカーであるOct−4に対するウサギ一次抗体と共に一晩プローブ付け(probe)した。切片を洗浄し、FITCに結合したヤギ二次抗体で再プローブ付けした。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Leica LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512ピクセル解像度で記録した(Leica、Bannockburn、IL)。蛍光色素を488nmおよび543nmレーザーで励起させ、画像を、505−530BPおよび565−615BPフィルタを使って512×512ピクセル解像度で記録した。
【0139】
リアルタイムPCR
RNAを、TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)およびRNAlater(Qiagen, Valencia, CA)を製造元の手順に従って使い、J1細胞から単離した。オリゴ−dTプライミングされた逆転写を介して一本鎖cDNAを生成させ、分化のためのマーカーとして働く遺伝子を、Abi Prism 7700リアルタイムPCRサーモサイクラー(thermocycler)(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使って定量化した。β−アクチンを対照として使って、マーカー遺伝子Oct−4、VE−カドヘリン、VEGF−R2およびeNOSについて発現レベルを得た。PCR条件は、10分間95℃での変性と、その後40サイクルの20秒間94℃での変性ならびに1分間60℃でアニーリングおよび拡張とを伴った。J1細胞から単離したcDNAおよび上述の遺伝子のためのプライマーを、製造元の指示に従ってリアルタイム定量化用SYBR Green PCR Mastermix(Applied Biosystems)と混合した。使用したプライマーは、5'-ccaatcagcttgggctagag-3'(配列番号:1)および5'-ctgggaaaggtgtccctgta-3'(配列番号:2)がOct−4用;5'-accgagagaaacaggctgaa-3'(配列番号:3)および5'-agacggggaagttgtcattg-3'(配列番号:4)がVE−カドヘリン用;5'-ggacagtgctccaaccaaat-3'(配列番号:5)および5'-gttcacactgcagacccaga-3'(配列番号:6)がTIE−2用;5'-gctttcggtagtgggatgaa-3'(配列番号:7)および5'-ggccttccatttctgtacca-3'(配列番号:8)がVEGF−R2用;5'-tcttcgttcagccatcacag-3'(配列番号:9)および5'-cctatagcccgcatagcgta-3'(配列番号:10)がENOS用;5'-agccatgtacgtagccatcc-'3(配列番号:11)および5'-ctctcagctgtggtggtgaa-'3(配列番号:12)がβ−アクチン用であった。スルホトランスフェラーゼのプライマーおよび条件を選択した。遺伝子発現の相対的および正規化レベルを、式:2-(Ct(遺伝子)-Ct(β-アクチン))(式中、Ctは、各遺伝子の増幅が増幅の対数期内で任意の閾値を交差したサイクル数)により得た。遺伝子発現レベルを、さらに分化前の発現レベルに正規化した。
【0140】
HSGAGの単離および組成分析
細胞表面HSGAGフラグメントを、分化のさまざまな段階でJ1細胞から単離した。簡潔には、細胞をPBSで洗浄し、37℃で25分間トリプシン/EDTA(GibcoBRL)処理し、細胞表面プロテオグリカンを収集した。得られる細胞/トリプシン溶液を10分間煮沸し、トリプシンおよび他のタンパク質を失活させた。溶液を4500gで遠心分離し、上清を回収し、Centriprep-3(Amicon, Beverly, MA)で遠心分離することにより濃縮した。濃縮した上清を、0.15MのNaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したultrafree−DEAE(Pharmacia, Piscataway, NJ)を通した。結合したHSGAGフラグメントを洗浄し、1.0MのNaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で溶出した。次いでフラグメントを濃縮し、緩衝液を、Microconフィルタ(分画分子量=3,000Da)へ適用することにより超純水に交換した。サンプルを、25mMの酢酸ナトリウムおよび1mMの酢酸カルシウム、pH7.0中でHep−IおよびHep−III(各lミリ単位(milliunit))の混合物と共に一晩徹底的に消化した。サンプルを、逆極性下で高感度フローセル(flow cell)を使って、50mMのTris/リン酸の泳動緩衝液(pH2.5)を用いて、キャピラリー電気泳動法により分析した。得られる単糖類の正体を、既知の基準物質との共移動性を基に決定した。
【0141】
ウェスタンブロット
細胞表面糖類の調節の下流で関与する生化学的経路を解明するために、胚様体のタンパク質含有物を、還元性条件下で3×SDSサンプル緩衝液を急速に混合することにより、可溶化した。サンプルあたり当量のタンパク質を、電気泳動的に4〜12%勾配ポリアクリルアミドゲルで分解し、ニトロセルロース(0.22μm)メンブレン上に移転した。このメンブレンを、続いて、ERKlおよび2のリン酸化形態を特異的に検出するホスホ−ERK抗体(1:800希釈、Cell Signal Technologies, Danvers, MA)でプローブ付けする。シグナルを、1:2000希釈の適切な西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(BioRad, Hercules, CA)を使って増幅し、免疫複合体を、強化化学発光検出法(Amersham Life Science, Piscataway, NJ)を使って可視化した。シグナルを、ERK1/2特異的抗体(Santa Cruz, Santa Cruz, CA、1:200希釈で使用)を使って同じブロットで検出した全ERK1/2の発現に対して正規化した。発光シグナルの定量化を、Kodak 2000R imagerにより行った。
【0142】
統計分析
統計的有意性を、スチューデントのt検定または一元配置分散分析、続いてDunnetsまたはFriedmanのPost-Hoc検定(Graphpad Prism 3ソフトウェア、Graphpad Software, San Diego, CA)を使って試験した。P<0.05が有意であると考えた。
【0143】
結果
ES細胞は内皮細胞集団へと有意に分化する
In vitroでの効率的な内皮細胞へのES細胞の分化の条件を最適化するために、ES細胞特異的および内皮細胞特異的マーカーの発現レベルを、異なる細胞培養条件下で分化の異なる段階で分析した。具体的には、細胞密度の効果、ECM含量(すなわち、ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、マトリゲル)、成長因子(すなわち、VEGF、FGF、HGFおよびインシュリン)の外からの添加、および異なる種類の血清(すなわち、Sigmaウシ胎仔血清(FBS)およびHyclone FBS)を試験した。
【0144】
最大30%の内皮細胞への分化をもたらした条件は、未分化細胞を、1.25×105細胞/100mmディッシュの濃度で、15%のHyclone FBS、30mMのβ−メルカプトエタノール、1mMのピルビン酸ナトリウムの存在下で、LIFなしで、さらに7〜15日継代することなく、ゼラチンBで被覆した組織培養ディッシュに播種することにより達成された。成長因子の外からの添加の効果は検出されなかったが、これは、FBS由来のまたはES細胞の自己分泌シグナルにより作られた成長因子の十分なレベルの存在によるものであろう。分析したES細胞特異的マーカーは、Octamer−4、Oct−4(Pesce, M., et al. (1998) Bioessays 20, 722-32)であり、分析した内皮細胞特異的マーカーは、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)(Sadler, J. E. (1991) J Biol Chem 266, 22777-80)、血管内皮成長因子受容体2(VEGF−R2)(Yamaguchi, T. P., et al. (1993) Development 118, 489-98)、血管内皮カドヘリン(VE−cad)(Lampugnani, M. G., et al. (1992) J Cell Biol 118, 1511-22)および内皮細胞特異的一酸化窒素合成酵素(eNOS)(Alderton, W. K., et al. (2001) Biochem J 357, 593-615)であった。
【0145】
分化中のES細胞におけるvWFの発現のフローサイトメトリー分析は、時間とともに検出可能なレベルのvWFを発現する細胞の比率の増加を示した(図6A)。同様に、分化中のES細胞の共焦点顕微鏡分析は、vWFタンパク質の発現レベルが分化中に増加し、7〜15日で最大に達することを示した(図6B)。常に、ES細胞マーカーであるOct−4の発現レベルは、時間と共に徐々に減少した(図6B)。この時間的に逆のvWFとびOct−4との発現は、内皮細胞集団への効率的なES細胞の分化を示した。vWFはまた、より低い程度ではあるが巨核球においても発現することから(Sadler, J. E. (1991) J Biol Chem 266, 22777-80)、上記の結果を、分化中の他の内皮細胞特異的マーカーであるVEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの一時的なトランスクリプトームの発現を分析することにより確認した。リアルタイムPCRの結果は、分化の誘導の7日後、Oct−4の転写物レベルの減少、およびVEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写物シグナルの増加を示した(図6C)。これらの結果は、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリー実験の結果と一致しており、内皮細胞集団への有意な分化を示唆する。
【0146】
HSGAG合成はES細胞の分化中に上方調節される
ES細胞の分化におけるHSGAGの役割を調査するため、分化中のHSGAGにおける組成変化を分析した。この目的のために、細胞表面HSGAGを分化の異なる段階で収集し、細胞数に対して正規化し、キャピラリー電気泳動法による含有二糖単位の組成分析の対象とした。未分化細胞に非常に低いレベルの検出可能なHSGAGが存在したにもかかわらず(3日目で)、分化に伴い硫酸化HSGAGの合計レベルの漸進的および劇的な増加があった(図9)。
【0147】
これらの結果をさらに確認するために、分化中のいくつかの重大なHSGAG生合成酵素の遺伝的発現における変化を調査した。哺乳類におけるHSGAGの生合成は、四糖連鎖(グルクロン酸−ガラクトース−ガラクトース−キシロース)のプロテオグリカンコアへの形成により開始された(Varki, et al. (1999) Essentials of Glvcobiology, Cold Spring Harbor, New York)。この四糖連鎖の初期形成後、グルクロン酸およびN−アセチル−グルコサミンのそれらのUDP糖ヌクレオチド前駆体からの交互添加により、反復型の1,4−結合二糖鎖を形成した。二糖鎖をさらに、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼおよび2−O、3−O、および6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ類が役割を果たす一連のスルホトランスフェラーゼ類により修飾した。これらのスルホトランスフェラーゼ類の多くの組織特異的アイソフォームおよび基質特異的アイソフォームが発見され、HSGAGの生合成のさらなる複雑性のレベルを示している(Lindahl, U., et al. (1998) J Biol Chem 273, 24979-82; Habuchi, O. (2000) Biochim Biophys Acta 1474, 115-27)。HSGAGにそれらの「シグナチャー」構造体を与えるのはスルホトランスフェラーゼ類であり、したがってこれらの酵素は、HSGAGの特定の構造体−機能関係の調節において重大である(Sasisekharan, R., and Venkataraman, G. (2000) Curr Opin Chem Biol 4, 626-31)。リアルタイムPCR分析を、2−O、3−Oおよび6−Oスルホトランスフェラーゼ類、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼおよびそれらのアイソフォームについて行った。この分析により、分化が時間に伴い進行するにつれて有意により高いレベルの全スルホトランスフェラーゼ転写物が存在することを実証し、HSGAGの組成分析からの結果を支持している(図10)。これらの結果はまた、ES細胞の分化におけるHSGAGの役割を示唆する。
【0148】
HSGAGは内皮細胞へのES細胞の分化を調節する
ES細胞分化におけるHSGAG構造の役割を細かく分析するために、分化中のES細胞細胞表面および細胞外のHSGAGの複数部分を、酵素的手法および薬理学的手法を使って修飾した。具体的には、分化中のES細胞を、Hep−IまたはHep−IIIと共に毎日30分間インキュベートし、構造的にはっきり異なる部位で細胞表面および細胞外マトリックス(ECM)HSGAGを開裂させるか、またはHSGAG生合成の薬理学的阻害剤である塩素酸ナトリウムで補足した培地で培養した(Safaiyan, F., et al. (1999) J Biol Chem 21 A, 36267-73)。Hep−1は、HSGAGを高硫酸化領域で開裂し、 Hep−III は、HSGAGを低硫酸化領域で開裂する (Linhardt, R. J., et al. (1990) Biochemistry 29, 2611-7; Godavarti, R., and Sasisefcharan, R. (1996) Biochem Biophys Res Commun 229, 770-7)。
【0149】
酵素分解の終了時に、酵素およびHSGAGフラグメントを含有する培地を、新しい培地と交換した。異なる時点で、内皮細胞へのES細胞の分化を、フローサイトメトリー、共焦点顕微鏡およびリアルタイムPCRを使ってモニタリングした。フローサイトメトリー分析により、異なる程度ではあるが、すべての処置がvWF因子の発現を阻害したことが明らかになった(図12A)。HSGAGを高硫酸化領域で開裂するHep−I、およびHSGAG生合成を阻害する塩素酸ナトリウムは共に、検出可能なレベルのvWFを発現する細胞の比率を約5分の1に減少させた。HSGAGを低硫酸化領域で開裂するHep−IIIはまた、より軽度であるにもかかわらず、約3倍の阻害効果を示した(図12B)。
【0150】
vWF発現に対するHep−I、Hep−IIIおよび塩素酸ナトリウム処置の阻害効果がまた、共焦点顕微鏡研究により確認された(図15A)。興味深いことに、処置のいずれも、分中の化細胞のOct−4レベルにおいて有意な効果を有しなかった(図15B)。これらの所見は、Hep−I、Hep−IIIまたは塩素酸ナトリウムによる処置は、ES細胞の分化を阻害しないが、具体的にはそれらの内皮細胞への分化を阻害することを示唆する。より重要なことに、塩素酸ナトリウム処理したES細胞への分化中のヘパリンの添加は、vWF染色の増加により検出されるように、内皮細胞への分化に有利に働く条件を再構成した(図15C)。
【0151】
リアルタイムPCR実験によりさらに、これらの所見が確認された。いずれの処置もOct−4転写物レベルに対して効果がなかったのに対し、Hep−Iおよび塩素酸ナトリウム処置は、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写物レベルを有意に減少させた(図19)。Hep−III処置もまた、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写物レベルを減少させたが、驚くことに、VEGF−R2の転写物レベルを増加させた(図19)。細胞表現型におけるHep−IおよびHep−IIIの直交効果が、他でも報告されており(Liu, D., et al. (2002) Proc Natl Acad Sd USA 99, 568-73)、これらの結果は、HSGAGが構造特異的に内皮細胞へのES細胞の分化を調節することを示唆する。共焦点顕微鏡の結果と一致して、リアルタイムPCRの結果もまた、塩素酸ナトリウム処理したES細胞へのヘパリンの添加は、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOS転写物レベルの増加により検出されるように、内皮細胞への分化に有利に働く条件を再構成した。
【0152】
HSGAGはMAPK経路を介してES細胞分化に対して影響を及ぼす
MAPK経路は、VEGF、FGF、HGF、EGF、PDGFおよびアンジオポイエチン類などのいくつかの血管形成因子のシグナルの下流集合点である(Sengupta, S., et al. (2003) Arterioscler Thromb Vasc Biol 23, 69-75)。内皮細胞増殖におけるこれらの因子の役割を考え(Le Querrec, A., et al. (1993) Baillieres Clin Haematol 6, 711-30)、HSGAG調節が分化ES細胞のMAPK経路に影響を与えるかどうかを調査した。図14および18に示すように、HSGAG修飾酵素であるHep−IまたはHep−III、または薬理学的阻害剤である塩素酸ナトリウムによる分化ES細胞の処置により、ERKl/2のリン酸化を阻害する。興味深いことに、この阻害は、外因性ヘパリンの添加により覆される。これらの結果は、MAPK経路がES細胞の分化にかかわり、HSGAGがこの経路の調節剤であることをを示唆する。
【0153】
考察
血管新生は、発生、生殖、組織再生および創傷治癒などの多くの生理的過程にかかわり、「血管形成スイッチ」を通じて高度に制御される(Folkman, J. (1997) Exs 79, 1-8; Zetter, B. R. (1988) Chest 93, 159S-166S)。しかしながら、異常血管新生は、多くの病態生理的状態の根底にある。例えば、糖尿病、高コレステロール血症および高齢において、内皮細胞機能障害および血管新生障害は、虚血組織をもたらし得る (Rivard, A., et al. (1999) Circulation 99, 111-20; Rivard, A., et al. (1999) Am J Pathol 154, 355-63; Van Belle, E., et al. (1997) Circulation 96, 2667-74)。これは、慢性の創傷に至らしめ得、全糖尿病の3%を超えて四肢の損失をもたらすか、または冠動脈疾患における心臓血管機能障害をもたらす。かかる場合には、内皮細胞の再生および移植は、患者の処置において治療上の意義を有する可能性がある。
【0154】
胚幹細胞が、in vitroおよびin vivoで、内皮細胞へ分化する可能性および血管様構造体を形成する可能性を示すことが実証されてきた(Levenberg, S., et al. (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99, 4391-6)。本明細書において、vWF、VE−カドヘリン、eNOSおよびVEGF−R2などの内皮特異的マーカーが、7〜15日にわたり内皮細胞へのES細胞の分化をたどるのに使われる。共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリー分析の両方が、幹細胞が徐々に内皮細胞へ分化することを示唆し、これはリアルタイムPCRデータにより支持された。加えて、共焦点顕微鏡により10日までに索状始原脈管構造体の形成を観察し、胚様体が、脈管形成および初期の血管形成の分子機構を研究するための興味深いモデルとしての役割を担うことを示す。
【0155】
内皮細胞への胚幹細胞の分化は以前から示唆されてきたが、この分化過程に影響を与える可能な因子について存在する知識は限定されていた。これらの因子および根底にある機構を解明するのを試みる他の研究は主として、トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス手法が基礎となっている。本明細書中に提供された、分化内皮へのES細胞細胞におけるHSGAGの役割を、細かく分析した。実験は、酵素分解または生合成の阻害のいずれかによる分化中のES細胞のHSGAG部分の調節が、それらの内皮細胞への分化を阻害することを提供する。興味深いことに、未分化ES細胞の表面において低レベルのHSGAGが検出され、分化と共に高硫酸化HSGAGシグナルの漸進的増加があった。全体に、これらの所見は、HSGAG構成要素が、分化過程がどの細胞系統を産生するかの決定において役割を果たすこをと示唆する。
【0156】
分化中のES細胞のHSGAGにより影響を与える可能なシグナル経路を細かく分析するために、MAPK経路に対するHSGAG調節の効果もまた、研究した。MAPKは、多発性血管形成因子のシグナル伝達経路における重要な集合点であり、FGF、VEGF、HGF、EGF、PDGFおよびアンジオポイエチン類などのチロシンキナーゼ受容体リガンドを含む(Sengupta, S., et al. (2003) Arterioscler Thromb Vasc Biol 23, 69-75; Griffioen, A. W., and Molema, G. (2000) Pharmacol Rev 52, 237-68)。幹細胞の内皮細胞への分化を促進するためのこれらの因子のいくつかの可能性が記載されていて(Keller, G. M. (1995) Curr Opin Cell Biol 7, 862-9; Darland, D. C, and D'Amore, P. A. (2001) Curr Top Dev Biol 52, 107-49; Hirashima, M., et al. (1999) Blood 93, 1253-63)、すべてのこれらの因子は、HSGAGを二次リガンド結合部位として使うことができる(Keiser, N., et al. (2001) Nat Med 7, 123-8)。本明細書に記載の研究は、HSGAG分解酵素または塩素酸ナトリウムによる処置の後のERKリン酸化の阻害を示す。これは、HSGAGが内皮細胞へのES細胞の分化における上流のMAPK経路の調節剤であることを示す。
【0157】
特別な理論により束縛されることなく、MAPK経路を通じて作用する成長因子を通じてのパラクリンまたは自己分泌シグナルが、分化の結果として内皮細胞の豊富化へと至らしめ得ることが可能である。面白いことに、MAPK経路の阻害が、胚幹細胞の自己再生を促進するように記載されている(Qi, X., et al. (2004) Proc Natl Acad Sci USA 101, 6027-32)。MAPK経路は、幹細胞分化における役割を果たし、シグナル経路を選択的に無力にするために、VEGFRに対するPTK787、またはFGFRに対する抗体などの薬理学的阻害剤の使用を、さらなる研究のために使うことができる。
【0158】
本出願に列挙した上述の特許、特許出願および参考文献のそれぞれは、それらの全体を参考文献として本明細書に組み込む。現在好ましい態様を記載することにより、本願発明に従って、他の修飾、変化および変更を、本明細書に記載の教示を考慮して当業者に示唆する。したがって、すべてのかかる変化、修飾、および変更は、添付の請求の範囲に定義したように本願発明の範囲内に収まると信じる。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】内皮細胞への胚幹(ES)細胞分化に対するHSGAGの効果を概略する図である。
【図2】内皮細胞への胚幹細胞分化に対するHSGAGの効果の概要を示す図である。
【図3】ES細胞から他の細胞への分化のステップを概略する図である。
【図4】ES細胞の分化条件の最適化を概略する図である。
【図5】胚幹細胞が内皮細胞に分化することを実証するデータを提供する図である。
【0160】
【図6】内皮細胞への胚幹細胞分化を分析したデータを示す図である。
【図7】HSGAGプロファイルが変化するか否かを決定するために使うことができる方法を提供する図である。
【図8】HSGAGを調節し、次にES細胞の分化に影響を及ぼすために使うことができる方法を提供する図である。
【図9】分化中の細胞表面のHSGAGの変化を示すキャピラリー電気記録図である。
【図10】胚幹細胞が徐々に分化するのに伴うHSGAG合成酵素の発現の増加を実証するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフである。
【0161】
【図11】ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIII、NaClO3、およびNaClO3+ヘパリンで処置した細胞におけるHSGAG酵素の発現レベルを測定するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフである。
【図12】内皮細胞へのES細胞の分化におけるHSGAGの酵素的または薬理学的修飾の効果のフローサイトメトリー分析からの結果を示す図である。
【図13】ESの内皮細胞への分化に対するヘパリナーゼおよび塩素酸塩処置の効果を示す図である。
【図14】分化におけるグライコーム制御の効果、およびシグナル経路の関与を示す図である。
【図15】内皮細胞へのES細胞の分化に対するHSGAGの酵素的または薬理学的修飾の効果の共焦点顕微鏡分析からの結果を提供する図である。
【0162】
【図16】共焦点顕微鏡結果を提供する図である。
【図17】分化中のJlマウスES細胞におけるvWFおよびOct−4の発現を示す共焦点顕微鏡顕微鏡写真を提供する図である。
【図18】HSGAGにより調節されるシグナル経路の解明を示す図である。
【図19A】ESの内皮細胞分化に対する異なるグライコーム修飾処置の効果を説明する図である。
【図19B】ESの内皮細胞分化に対する異なるグライコーム修飾処置の効果を説明する図である。
【図20】特定のタンパク質を表す細胞の描画を提供し、HSGAGデータについていくつかの要点を提供する図である。
【0163】
【図21】再生細胞治療および癌治療に関するいくつかの関連を提供する図である。
【図22】胚幹細胞が内皮細胞へ分化することを示す結果を提供する図である。
【図23】内皮細胞への幹細胞の分化に対する細胞表面のグライコームの酵素的または薬理学的修飾の効果を説明する図である。
【図24】ESの内皮細胞分化に対するHSGAGの役割におけるMAPK経路の関与を示すウェスタンブロットからの結果を提供する図である。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一つには、幹細胞環境を調節する方法および組成物に関する。さらに具体的に、本発明は、一つには、幹細胞分化を調節する方法および組成物に関する。かかる調節を、本発明のいくつかの側面において、幹細胞表面にまたは幹細胞表面上におよび/または細胞外マトリックス中に存在するグリコサミノグリカン類を調節する薬剤により達成する。したがって、幹細胞の微小環境においてグリコサミノグリカン類(例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類(HSGAG))を調節する方法および組成物を提供する。本発明はまた、一つには、本発明の方法および組成物により産生することができる細胞集団および組織に関する。さらに、本発明は、一つには、本明細書において提供される方法および組成物を使う処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
新生血管の形成は、生殖、発生、組織再生および創傷治癒などの多くの生理的過程にかかわっている。通常の生理的条件下で、新生血管の形成は、必要に応じて作動および停止するよう、高度に制御されている。しかしながら、多くの病態生理的状態もまた、新生血管の形成と関係がある。例えば、糖尿病、高コレステロール血症または高齢などいくつかの場合、内皮細胞機能障害の結果として血管の形成が妨げられ、虚血組織を生じる(Rivard et al., Circulation, 1999, 99:111-120; Rivard et al., Am. J. Pathol, 1999, 154:355-363; Van Belle et al., Circulation, 1997, 96:2667-2674)。
【0003】
かかる場合には、患者の処置において、内皮細胞の移植(transplantation)、再生および組織工学が、治療上の意義を有する可能性がある。対照的に、他の病態生理的ケースにおいて、新生血管の形成は、制御されない、持続的な形で行われる。例えば、関節炎においては、新生血管は関節に侵入して軟骨の破壊をもたらし、癌においては、腫瘍細胞が腫瘍自体を成長させるために新生血管の成長を継続的に刺激する。これらの状況下で、新生血管の形成阻害は、患者の処置において治療上の意義を有する。したがって、血管の形成を刺激する方法ならびに阻害する方法は、ヒト疾患の処置において用途を有する。
【0004】
内皮細胞は、血管の不可欠な構成要素であり、内皮細胞の発生は、新生血管の形成における重要なステップである。したがって、内皮細胞の発生を制御することを通じて新生血管の形成を制御することが可能である。内皮細胞の発生は、哺乳類において2つの機構により:既存の内皮細胞の増殖を通じて、および前駆幹細胞の分化を通じて生じる。いくつかの研究が、in vitroでの内皮前駆幹細胞(EPC)からの内皮細胞の形成を実証した(Ishikawa et al., Stem Cells Dev., 2004, 13(4): 344-9; Iwaguro et al., Circulation, 2002, 105(6): 732-8)。加えて、EPCは、異なる動物モデルにおいて新生血管を形成することが示された(Orlic et al., Ann N Y Acad Sci, 2003, 996:152-7; Asahara et al., Circ. Res., 1997, 85:221-228; Kawamoto et al., Circulation, 2001, 103:634- 637)。しかしながら、EPCは、循環血液細胞の0.1〜0.5%のみを表し、培養下で効果的に増殖せず、移植および再生治療におけるそれらの使用が困難であると考えられる。
【0005】
胚幹(ES)細胞もまた、研究され、組織の移植、再生および組織工学における使用が期待される;しかしながら、幹細胞治療におけるそれらの使用の重要な限界は、所望の細胞型への分化に加えて異なる細胞型への分化のそれらの可能性にある。分化の際、それらは1種類の同型の細胞集団よりむしろさまざまな細胞型の組合せを生み出す。さらに、マウスに注入したとき、ES細胞は、奇形癌と呼ばれる望ましくない発癌性細胞集合を生み出し得る。有効な治療効果のために、ES細胞分化を、所望の細胞型への分化を刺激するために制御すべきである。生体活性材料(例えば、成長因子、プロテオグリカンまたは下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP))、特別な培養、マトリックス、または足場による胚幹細胞分化の制御方法が議論されているにもかかわらず(例えば、米国特許第6,294,346号;5,851,832号;6,638,501号;6,399,369号;5,605,829号および5,912,177号;米国特許公開第20040092448号、20030175956号、20030224345号、20040126405号および20040009589号;および欧州特許EP1452594参照)、HSGAGの構造的内容またはそれらがどのように内皮細胞へのES細胞分化に作用するかについては取り組まれていない。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、一つには、幹細胞微小環境においてGAGの一部分または複数部分、例えば、HSGAGの一部分または複数部分を調節することにより、幹細胞(例えば、胚幹(ES)細胞)の、細胞型(例えば、内皮細胞)への分化を調節する方法および組成物に関する。調節はまた、いくつかの態様において、微小環境においてGAGの一部分または複数部分に影響を及ぼす細胞過程を調節することにより、達成することができる。GAGの複数部分に影響を及ぼす方法および組成物は、性質において、生化学的、薬理学的または遺伝学的なものであり得る。
【0007】
したがって、本発明の一面において、幹細胞の微小環境を、内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量のグリコサミノグリカン(GAG)調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることによって、幹細胞分化を調節する方法を提供する。GAG調節剤は、幹細胞微小環境におけるグリコサミノグリカンの存在、不在、もしくは変更、またはグリコサミノグリカンが発現するレベルをもたらすあらゆる薬剤であり得る。一態様において、GAG調節剤は、GAG分解剤である。別の態様において、GAG分解剤は、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)分解剤である。HSGAG分解剤は、細菌由来のHSGAG分解酵素であり得るが、それに限定されない。一態様において、細菌由来のHSGAG分解酵素は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼまたはN−スルファターゼまたはこれらのいくつかの組合せである。別の態様において、HSGAG分解剤は、哺乳類のHSGAG分解酵素である。一態様において、哺乳類のHSGAG分解酵素は、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼまたはこれらのいくつかの組合せである。
【0008】
別の態様において、GAG調節剤は、グリコサミノグリカンである。一態様において、グリコサミノグリカンは、HSGAGである。別の態様において、HSGAGは、ヘパリン、合成ヘパリン、ヘパラン硫酸、低分子量のヘパリンまたはその修飾されたバージョンである。また別の態様において、HSGAGは、高硫酸化二糖であるか、またはそれを含むものである。一態様において、高硫酸化二糖は、I/G−HNS,3S,6S;I/G2S−HNS,3S;I/G2S−HNS,6S;I/G2S−HNH/Ac,3S,6S;またはI/G2S−HNS,3S,6Sである。さらに別の態様において、HSGAGは、低硫酸化二糖であるか、またはそれを含むものである。また別の態様において、低硫酸化二糖は、I/G−HNH/Ac;I/G−HNS;I/G−HNH/Ac,3S;I/G−HNH/Ac,6S;I/G−HNS,3S;I/G−HNS,6S;I/G−HNH/Ac,3S,6S;I/G2S−HNH/Ac;I/G2S−HNS;I/G2S−HNH/Ac,3S;またはI/G2S−HNH/Ac,6Sである。
【0009】
一態様において、GAG調節剤を発現する細胞は、グリコサミノグリカンまたはGAGの合成もしくは分解にかかわる酵素を発現する。一態様において、細胞を、少なくとも1つのGAG調節剤を発現するかまたは変化した発現を有するように操作する。別の態様において、細胞を、少なくとも1つのGAG調節剤を発現するかまたは過剰発現するように操作する。さらに別の態様において、少なくとも1つのGAG調節剤のその発現が阻害されるよう、細胞を操作する。またさらなる態様において、少なくとも1つのGAG調節剤が発現されるかまたは過剰に発現される一方、少なくとも1つの他のGAG調節剤の発現が阻害されるよう、細胞を操作する。これらの態様におけるGAG調節剤は、例えばGAG合成(すなわち、生合成)またはGAG分解にかかわる酵素であり得る。一態様において、GAG調節剤は、HSGAG分解酵素である。別の態様において、少なくとも1つのGAG調節剤を発現するかまたは変化した発現を有するように変化したものは、幹細胞であり、この変化をもたらすものは、GAG調節剤である薬剤(例えば、結合分子、ベクターなど)である。
【0010】
GAG調節剤は、グリコサミノグリカンを改変するかまたはどうにかして修飾しおよび/またはその合成に影響を及ぼす酵素を含む。したがって、GAG調節剤は、あらゆるGAG生合成または生分解性酵素であり得る。一態様において、生合成酵素または生分解性酵素は、哺乳類の酵素である。別の態様において、生合成酵素または生分解性酵素は、グリコシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼである。一態様において、スルホトランスフェラーゼは、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ、2−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ、3−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼまたは6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼである。別の態様において、エンドグルクロニダーゼは、α−イズロニダーゼまたはβ−グルクロニダーゼである。また別の態様において、スルファターゼは、ヘパラン−N−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼまたはN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼである。さらに別の態様において、アセチルトランスフェラーゼは、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼである。
【0011】
内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進するためにGAG調節剤を使用することができることを見出した。したがって、内皮細胞への幹細胞分化をGAG調節剤の使用によって阻害する方法および組成物を、本明細書において提供する。別の態様において、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するGAG調節剤は、HSGAG分解酵素またはHSGAG分解酵素のいくつかの組合せである。一態様において、酵素は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIIIまたはそれらの組合せである。別の態様において、阻害剤は、GAG生合成経路の阻害剤である(例えば、GAGの生合成にかかわる酵素などの分子)。別の態様において、阻害剤は、HSGAGの硫酸化を促進する酵素の阻害剤である。さらに別の態様において、阻害剤は、スルホトランスフェラーゼ酵素の阻害剤である。別の態様において、阻害剤は、塩素酸ナトリウムである。さらなる態様において、阻害剤は、GAGの生合成にかかわる酵素に結合する抗体または薬剤であり得る。別の態様において、阻害剤は、GAGの生合成にかかわる酵素をエンコードする核酸(例えば、DNAまたはmRNA)に結合する核酸であり得る。
【0012】
また、内皮細胞への幹細胞分化をGAG調節剤の使用により促進する方法および組成物を提供する。一態様において、内皮細胞は、哺乳類内皮細胞である。別の態様において、内皮細胞への幹細胞分化を促進するGAG調節剤は、グリコサミノグリカンである。一態様において、グリコサミノグリカンは、HSGAG(例えば、ヘパリン)である。別の態様において、GAG調節剤は、ヘパラン硫酸である。さらに別の態様において、薬剤は、高硫酸化HSGAGである。さらに別の態様において、HSGAGは、高硫酸化二糖であるか、またはそれを含むものである。また別の態様において、GAG調節剤は、HSGAGの硫酸化を促進する酵素である。別の態様において、酵素は、スルホトランスフェラーゼである。
【0013】
本明細書中に提供される方法は、内皮細胞への幹細胞分化を調節するためのin vivo方法またはin vitro方法であり得、幹細胞微小環境を1または2以上のGAG調節剤および/またはGAG調節剤を発現する1または2以上の細胞と接触させる多くの手段がある。例えば、in vitro方法において、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を幹細胞の培養物に添加することにより、幹細胞をGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることができる。in vitroまたはin vivo方法のいずれかにおいて、例えば、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が共有または非共有結合する二次元構造体または三次元構造体を介して、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を幹細胞微小環境と接触させることができる。
【0014】
二次元構造体または三次元構造体は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が結合することができるあらゆる構造体である。一態様において、構造体は、足場である。別の態様において、構造体は、マトリックスである。さらに別の態様において、構造体は、支持体である。別の態様において、GAG調節剤をin vivo幹細胞微小環境と接触させる投与方法を通じて、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、幹細胞微小環境と接触させる。一態様において、投与は、全身、局部、局所または部位特異的投与である。別の態様において、投与は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を結合させる二次元構造体または三次元構造体の体内移植(implantation)または移植(transplantation)を通じて行うことができる。さらに別の態様において、投与は、部位特異的な体内移植または移植を通じて行う。さらに別の態様において、投与は、静脈内投与または皮下投与である。別の態様において、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞は、血管の形成または血管の形成阻害を必要とする部位を標的にする標的剤に結合する。かかる標的剤は、抗体などの結合タンパク質であり得、所望の標的部位に依存して変わる。
【0015】
一態様において、幹細胞微小環境は、血管の形成を必要とする部位内または付近である。別の態様において、幹細胞微小環境は、血管の形成阻害を必要とする部位内または付近である。さらに別の態様において、幹細胞微小環境は、虚血組織内または付近である。また別の態様において、幹細胞微小環境は、関節内または付近である。さらに別の態様において、幹細胞微小環境は、創傷内または付近である。本明細書中で使われる「内または付近」は、ある部位の中または近接近した場所である。
【0016】
本明細書中に提供される方法および組成物は、あらゆる幹細胞の分化に影響を及ぼすために使うことができる。一態様において、幹細胞は、胚幹(ES)細胞である。別の態様において、幹細胞は、全能性幹細胞、多能性幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞または前駆幹細胞である。さらに別の態様において、幹細胞は、哺乳類の幹細胞である。一態様において、哺乳類の幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0017】
本発明の別の側面において、幹細胞の微小環境を内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量の幹細胞の生合成経路または分解経路を変える薬剤と接触させることにより幹細胞分化を調節する方法を提供する。一態様において、薬剤は、GAGの存在を阻害または促進する。別の態様において、薬剤は、GAGの生合成経路または分解経路の阻害剤または活性剤である。さらに別の態様において、薬剤は、GAG生合成経路の阻害剤である。一態様において、阻害剤は、塩素酸ナトリウムである。さらに別の態様において、阻害剤は、GAG生合成酵素(例えば、スルホトランスフェラーゼ)の発現または機能を阻害する薬剤である。また別の態様において、阻害剤は、抗体または核酸である。別の態様において、薬剤は、幹細胞、または幹細胞微小環境が接触し得る他の細胞の、生合成または分解経路の遺伝子発現またはタンパク質発現の変更をもたらすあらゆる薬剤であり得る。したがって、1または2以上のGAG関連遺伝子の遺伝子発現またはタンパク質発現の変更をもたらす方法および組成物もまた、提供する。かかるGAG関連遺伝子は、GAGの生合成または分解に関与する遺伝子、ならびにGAGの生合成または分解のシグナル経路と関係がある遺伝子を含む。したがって、遺伝子またはタンパク質発現を修飾するのに有用なベクター、プローブまたは他の薬剤(例えば、抗体)もまた、GAG調節剤であると考えられる。提供された変更は最終的に、少なくとも1つのGAG調節剤の発現、過剰発現または阻害(すなわち、減少または除去)をもたらす。
【0018】
本発明の別の側面において、幹細胞の微小環境をGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させて内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進し、細胞の集団を得ることにより細胞の集団を産生するの方法を提供する。一態様において、幹細胞の内皮細胞への分化を促進し、得られる細胞の集団は、内皮細胞集団である。別の態様において、内皮細胞集団は、哺乳類の内皮細胞集団である。さらに別の態様において、哺乳類の内皮細胞集団は、ヒト内皮細胞集団である。一態様において、幹細胞を、内皮細胞への分化から阻害する。別の態様において、得られる細胞集団には、内皮細胞が乏しい。また別の態様において、得られる細胞集団には、筋肉細胞、神経細胞または血液細胞が豊富である。
【0019】
幹細胞微小環境とGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞との接触は、in vitroまたはin vivo方法のいずれかにより達成することができる。一態様において、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞の幹細胞含有培養物への添加により、接触を達成する。別の態様において、幹細胞微小環境を、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が結合する二次元支持体または三次元支持体と接触させることができる。
本発明の別の側面は、本明細書中に提供された方法により産生される細胞集団を含む組成物を提供する。一態様において、細胞集団組成物はまた、薬学的に許容しうる担体を含む。
【0020】
本発明の別の側面において、細胞集団を、組織工学において使用する。したがって、本明細書中に提供された方法により産生する細胞集団を含有する組織を含む組成物を提供する。組織工学によって作製するための本明細書中に提供された方法により産生される細胞集団の使用方法もまた、提供する。
【0021】
提供されるいかなる方法および組成物をも、処置目的のために使用することができる。本発明の一面において、本明細書中に提供されたGAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物を、対象を処置するために有効な量を対象に投与することを含む処置方法を提供する。一態様において、有効な量は、内皮細胞への幹細胞分化を促進するまたは阻害するのに有効な量である。別の態様において、対象はGAG調節剤による処置を必要とする。さらに別の態様において、対象は血管の形成を必要とする。さらなる態様において、対象は、血管の形成阻害を必要とする以外ではない。
【0022】
一態様において、対象は癌を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、癌を処置するのに有効な量である。さらに別の態様において、対象は、神経変性障害または神経系損傷を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、神経変性障害または神経系損傷を処置するのに有効な量である。別の態様において、対象は、関節炎を有する。また別の態様において、対象は、筋肉細胞、血液細胞または神経細胞の発生を必要とする。さらに別の態様において、有効な量は、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するのに有効な量である。
【0023】
また別の態様において、対象は慢性の創傷を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、慢性の創傷を処置するのに有効な量である。別の態様において、対象は虚血組織または虚血疾患(例えば、虚血組織は、血管の形成障害の結果として対象に存在する)を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、虚血疾患を処置するのに有効な量である。一態様において、対象は、糖尿病、冠動脈疾患または高コレステロール血症を有する。別の態様において、対象は高齢である。別の態様において、有効な量は、内皮細胞への幹細胞分化を促進するのに有効な量である。さらなる別の態様において、対象は、血液細胞の発生により処置することができる疾患を有する。
【0024】
したがって、一態様において、本明細書中に提供された方法を、対象への輸血の投与の代わりにまたはそれと併用して使用することができる。一態様において、対象は、輸血を必要とする者である。別の態様において、本明細書中に提供されたGAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物を、対象の関節に投与する。さらに別の態様において、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物を、異常な血管形成のある領域に投与する。かかる領域は異常な血管形成を有し、血管形成または血管形成阻害を必要とし得る。
【0025】
本発明の一面において、本明細書中に提供された方法のいずれも、さらに、内皮細胞への幹細胞分化を評価することを含む。一態様において、評価を、幹細胞マーカー(例えば、Oct−4)の発現を決定することにより達成する。別の態様において、評価を、内皮細胞マーカー(例えば、wVf、VEGF−R2、VE−カドヘリン、eNOS、Tie−2など)の発現を決定することにより達成する。さらに別の態様において、ERK(例えば、ERKのリン酸化を評価することができる)などのMAPK因子の発現を決定する。さらなる態様において、1または2以上のマーカーの発現を決定する。2以上のマーカーの発現を決定する場合には、あらゆる組合せのマーカーを使用することができる。一態様において、マーカーの発現を抗体により決定する。別の態様において、マーカーの発現を核酸プローブにより決定する。さらに別の態様において、マーカーの発現をリアルタイムPCR分析により決定する。
【0026】
一態様において、組成物は、本明細書中に提供される方法により産生される細胞集団を含む組成物である。一態様において、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞、または組成物は、内皮細胞への幹細胞分化を阻害する。別の態様において、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物は、内皮細胞への幹細胞分化を促進する。別の態様において、GAG調節剤はHSGAG分解酵素である。さらに別の態様において、HSGAG分解酵素は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIIIまたは両方である。別の態様において、GAG調節剤は、塩素酸ナトリウムである。またさらなる態様において、GAG調節剤は、HSGAGである。またさらなる態様において、GAG調節剤は、高硫酸化HSGAGである。また別の態様において、GAG調節剤は、ヘパリンまたはヘパラン硫酸である。
【0027】
一態様において 対象は哺乳類である。別の態様において、対象は、ヒトである。別の態様において、対象は、本明細書中に提供される組成物および処置方法を必要とする以外ではない。かかる対象は、本明細書中に提供されるように内皮細胞への幹細胞分化の調節の必要性の実証なく提供された組成物および処置を受領しないであろう者である。
【0028】
本明細書中に提供された方法は、1種のみのGAG調節剤の使用、またはGAG調節剤を幹細胞環境と接触させる方法に限定されない。2以上のGAG調節剤、1または2以上のGAG調節剤を発現する2以上の細胞、および/または幹細胞環境をGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させる2以上の方法による方法を提供する。
提供する方法および組成物はさらに、1または2以上の追加の治療剤を含むことができる。
【0029】
本発明の別の側面において、幹細胞の培養方法を提供する。一態様において、方法は、ゼラチンBで被覆した培養容器の上または中に、FBS、β−メルカプトエタノールおよびピルビン酸塩の存在下で、およびLIFの不在の下で、さらに継代せずに、7〜15日間未分化細胞を置くステップを含む。一態様において、容器は、培養ディッシュである。別の態様において、方法はさらに、細胞を1.25×105細胞/100mm2ディッシュの濃度で播種することを含む。さらに別の態様において、FBSは15%FBSである。また別の態様において、FBSは15% Hyclone FBSである。またさらなる態様において、β−メルカプトエタノールは、30mMのβ−メルカプトエタノールである。また別の態様において、ピルビン酸ナトリウムは、1mMのピルビン酸ナトリウムである。さらに別の態様において、1または2以上の成長因子を、培養物に添加する。
【0030】
本発明の各々の限定は、本発明のさまざまな態様を包含し得る。したがって、要素のいずれか1つまたは要素の組合せを伴う本発明の各々の限定が、本発明の各側面において含まれると予想される。
【0031】
図面の簡単な説明
図1は、内皮細胞への胚幹(ES)細胞分化におけるHSGAGの効果を概略する図を示す。
図2は、内皮細胞への胚幹細胞分化におけるHSGAGの効果の概要を示す。内皮細胞が循環血液細胞のたった0.1〜0.5%を占め、in vitroで遅い増殖を示すことから、内皮前駆細胞からの内皮細胞の産生は、以前では最適化されていなかった。胚幹細胞からの内皮細胞の産生は、細胞の高増殖率をもたらし、そしてそれは血管工学(例えば、血管新生障害を修正するため)に使うことができる。
【0032】
図3は、ES細胞から他の細胞への分化のステップを概略する図を示す。
図4は、ES細胞の分化条件の最適化を概略する図を示す。ES細胞を内皮細胞にin vitroで形質転換する因子を提供する。
【0033】
図5は、胚幹細胞が内皮細胞に分化することを実証するデータを提供する。胚様体を、無白血病抑制因子(LIF)培地で一定期間培養した。内皮細胞への分化を、特定のマーカーを使って定量化した。図5Aは、フローサイトメトリー(FACS)分析の結果を示すグラフであり、7日目までに内皮細胞に分化したES細胞におけるフォン・ヴィレブランド因子(vWF)用の標識を示す。図5Bは、vWfに対する抗体(FITC標識)で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を示す。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。立体的分析を、定量化のために行った。内皮細胞への有意な分化が、7日目までに明白であり、細胞は10日目までに管を形成し始めた。図5Cは、リアルタイム定量PCRの結果を表すグラフを示し、幹細胞が徐々に分化するのに伴う異なる特定の内皮細胞マーカーの上方調節を明らかにした。y軸は、相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。
【0034】
図6は、内皮細胞への胚幹細胞分化を分析したデータを示す。内皮細胞へのES細胞の分化を、細胞特異的マーカーを使って検出した。vWF、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSを、内皮細胞特異的マーカーとして使用し、Octamer−4(Oct−4)を、ES細胞特異的マーカーとして使用した。図6Aは、分化の異なる段階でのvWFのフローサイトメトリー分析を表すグラフを示す。図6Bは、分化中のES細胞におけるvWFおよびOct−4染色の共焦点像の顕微鏡写真を示す。y軸は、時間(日)を表し、x軸は、染色の種類を表す。図6Cは、分化の異なる段階でのVEGF−R2、VE−カドヘリン、eNOSおよびOct−4のリアルタイムPCRデータを表すグラフを示す。相対的なmRNAレベルを、3日目に正規化し、ここで有意な分化は得られなかった。全体に、これらの結果は、Oct−4の転写および発現は分化と共に徐々に減少する一方、vWF、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写および発現は増加し、内皮細胞集団への効率的な分化を示唆している。y軸は、相対的なmRNAレベルを表し、x軸は、時間(日)を表す。代表的な画像を示す。
【0035】
図7は、HSGAGプロファイルが変化するかを決定するために使うことができる方法を提供する図を示す。
図8は、HSGAGを調節し、次にES細胞の分化に影響を及ぼすために使うことができる方法を提供する図を示す。
【0036】
図9は、分化中の細胞表面のHSGAGの変化を示すキャピラリー電気記録図(electrogram)を提供する。データを、特定の時点で胚様体から単離した細胞表面のHSGAGの組成分析から得た。糖類を、トリプシン消化を通じてタンパク質コアとともに回収し、イオン交換カラムにより精製した。精製したGAGを、ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII消化に供し、キャピラリー電気泳動法を使って分析した。画像に示すように、細胞数に対して正規化したとき、細胞が分化するのに伴いHSGAGシグナルの有意な増加があった。x軸は、時間(分)を表し、y軸は、吸光度(mAu)を表す。
【0037】
図10は、胚幹細胞が徐々に分化するのに伴うHSGAG合成酵素の発現の増加を実証するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフを提供する。グラフは、分化の異なる段階での2O−スルホトランスフェラーゼ類(2OST)、3O−スルホトランスフェラーゼ類(3OST)、6O−スルホトランスフェラーゼ類(6−OST)、N−デアセチラーゼ−スルホトランスフェラーゼ類(NDST)およびそれらのアイソフォームの相対的な転写レベルを示す。これらの酵素の転写は、ES細胞が分化するのに伴い徐々に増加した。y軸は、β−アクチンに対して正規化した相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。代表的な実験からのデータを示す。
【0038】
図11は、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIII、NaClO3、およびNaClO3+ヘパリンで処置した細胞におけるHSGAG酵素の発現レベルを測定するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフを提供する。y軸は、β−アクチンに対して正規化した相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。
図12は、内皮細胞へのES細胞の分化におけるHSGAGの酵素的修飾または薬理学的修飾の効果のフローサイトメトリー分析からの結果を提供する。図12Aは、分化の異なる段階での(3日目または7日目の)処置の効果を、vWF染色を通じて示す。図12Bは、フローサイトメトリー実験においてvWFについて陽性に染色した細胞のパーセンテージの棒グラフを提供する。y軸は、vWF陽性の細胞のパーセンテージを表し、x軸は、使用した処置の種類を表す。ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII処置によるHSGAGの細胞外分解、ならびに塩素酸ナトリウムによるHSGAG生合成の阻害は、内皮細胞へのES細胞の分化を阻害する。
【0039】
図13は、ESの内皮細胞分化におけるヘパリナーゼおよび塩素酸塩処置の効果を示す。ヘパリナーゼ類による処置は、硫酸化残基の特定の部位でHSGAGを開裂し、一方、塩素酸塩処置は、HSGAGの合成を阻害する。図13Aは、vWFに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を描いた顕微鏡写真を提供する(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で画像を記録した。棒グラフにまとめたように、ヘパリナーゼ類または塩素酸塩による処置は、分化を阻害する。棒グラフのy軸は、視野あたりにみられるvWF染色のパーセントを表し、x軸は、さまざまな細胞の処置を表す。図13Bは、FACSを使って同じ効果の定量化を示すグラフである;細胞を、vWF、内皮細胞マーカーにより標識した。棒グラフは、定量化をまとめている。棒グラフのy軸は、視野あたりにみられるvWF陽性の染色を表し、x軸は、さまざまな細胞の処置を表す。
【0040】
図14は、分化に対するグライコーム制御の効果、およびシグナル経路の関与を示す。この結果は、内皮細胞への幹細胞分化におけるHSGAG再構成の効果を実証している。胚様体を、塩素酸塩の添加の結果として、グリコサミノグリカン(GAG)合成が阻害された条件下で培養した。外因性ヘパリンの添加は、塩素酸塩処理による内皮細胞への分化の阻害を覆した。図14Aは、vWfに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を示す(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。棒グラフにまとめたように、ヘパリナーゼ類または塩素酸塩による処置は、分化を阻害した。棒グラフのy軸は、視界あたりみられるvWF染色パーセントを表し、x軸は、さまざまな細胞の処置を表す。図14Bは、ESから内皮細胞への分化におけるHSGAGの役割におけるMAPK経路およびWnt経路の可能な関与を調べるウェスタンブロットからの結果を示す。さまざまな酵素的または薬理学的修飾による処置は、これらの2経路を常に変え、ヘパリンの外からの添加により回復した。棒グラフは、pERK対ERK比(ウェスタンブロットデータの濃度測定を基に)の定量化をまとめている。y軸は、pERK/ERK比を表し、x軸は、異なる細胞の処置を表す。
【0041】
図15は、内皮細胞へのES細胞の分化に対するHSGAGの酵素的修飾または薬理学的修飾の効果の共焦点顕微鏡分析からの結果を提供する。図15Aは、vWF染色を示す顕微鏡写真である。ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII処置によるHSGAGの細胞外分解、ならびに塩素酸ナトリウムによるHSGAG生合成の阻害は、vWF染色で検出された内皮細胞へのES細胞の分化を阻害した。図15Bは、Oct−4染色を示す顕微鏡写真である。内皮細胞への分化が阻害されたにもかかわらず、全体的な分化はOct−4染色で明白なように進行した。図15Cは、ヘパリンの添加を用いた再構成実験を示す顕微鏡写真である。塩素酸ナトリウム処理したES細胞への外因性ヘパリンの添加は、vWF染色の増加により検出されたように、内皮細胞への分化に有利に働く条件を再構築した。
【0042】
図16はさらに、共焦点顕微鏡結果を提供する。
図17は、JlマウスES細胞を分化する際のvWFおよびOct−4の発現を示す共焦点顕微鏡顕微鏡写真を提供する。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。y軸は、時間(日)を表し、x軸は使用した染色の種類を示す。
【0043】
図18は、HSGAGにより調節されるシグナル経路の解明を示す。具体的には、分化中のES細胞におけるMAPK経路に対するHSGAG調節の効果を実証している。図18Aは、ERKおよびホスホERK抗体により行われたウェスタンブロットからの結果を提供する。ウェスタンブロットは、ヘパリナーゼ類または塩素酸ナトリウムによる処置がERKのリン酸化を阻害したことを示した。この阻害は、外因性ヘパリンの添加により覆された。図18Bは、異なる処置(x軸)でのpERK/ERKの比(y軸)を示す棒グラフを提供する。これらの結果は、MAPK経路はES細胞の分化にかかわり、HSGAGはこの経路の調節剤であることを示唆する。
【0044】
図19は、ESの内皮細胞への分化における異なるグライコーム修飾処置(HSGAGの酵素的または薬理学的修飾)の効果を説明する。幹細胞が異なる処置条件下で内皮細胞へ分化する場合の、胚様体における特異的な内皮細胞マーカーの発現の増加のリアルタイムPCR測定の結果を示す一連のグラフを提供する。y軸は、相対的なmRNA発現レベルを表す。x軸は、時間(日)を表す。酵素または塩素酸塩による処置は、分化を防止する一方、外因性ヘパリンの添加は、内皮細胞への幹細胞の分化を促進する。図19Aについて、マーカーは、Oct−4およびVEGF−R2であった。Oct−4は、分化と共に低下する幹細胞マーカーである。これらの処置は、分化を防止することができなかった。VEGF−R2は、分化がビヒクル処理した細胞内で進むにつれて増加する内皮細胞マーカーである。しかしながら、酵素または合成阻害剤である塩素酸塩による処置は、増加を防止した。塩素酸塩の効果は、外因性ヘパリンの添加により覆された。図19Bについて、使用マーカーは、eNOSおよびVE−カドヘリンであり、いずれも内皮細胞マーカーである。発現は、ビヒクル処理した細胞内で進むにつれて増加する。しかしながら、酵素または合成阻害剤である塩素酸塩による処置は、増加を防止した。塩素酸塩の効果は、外因性ヘパリンの添加により覆された。
【0045】
図20は、特定のタンパク質を表す細胞の描画を提供し、HSGAGデータについていくつかの要点を提供する。
図21は、再生細胞治療および癌治療に関するいくつかの関連を提供する図形である。
【0046】
図22は、胚幹細胞が内皮細胞へ分化することを示す結果を提供する。Jl胚幹細胞により形成された胚様体を、無LIF培地で一定期間培養した。内皮細胞への分化を、特定のマーカーを使って定量化した。図22Aは、vWfに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を提供する(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。立体的分析を、定量化のために行った。Oct−4についての染色は、時間とともに分化によって徐々に減少する一方、有意な内皮細胞への分化は、7日目までに明白であった。図22Bは、3日間または7日間にわたり分化させられた胚様体から単離した細胞における内皮細胞マーカーであるvWFに対する標識を示すFACS分析からの結果を提供する。図22Cは、分化が進むにつれて異なる特異的内皮細胞マーカー(VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOS)の上方調節、および幹細胞マーカーであるOct−4の下方調節を明らかにするリアルタイム定量PCRからの結果を提供する。示したデータは、2〜3回の独立した実験の平均SEMである。図22Dは、胚様体の位相差画像を示す(差込図)。示した画像は、代表的な任意の画像である。図22Eは、決められた時点で胚様体から単離した細胞表面HSGAGの組成物分析を示すキャピラリー電気泳動図を提供する。糖類を、トリプシン消化を通じてタンパクコアとともに回収し、イオン交換カラムにより精製した。精製したGAGは、ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIII消化に供し、キャピラリー電気泳動法を使って分析した。細胞数に対して正規化した場合、細胞が分化するのに伴いHSGAGシグナルの有意な増加があった。示した画像および図は、複製を有する2〜3回の独立した実験の代表的なものである。
【0047】
図23は、内皮細胞への幹細胞の分化における細胞表面のグライコームの酵素的または薬理学的修飾の効果を説明する。ヘパリナーゼによる処置によって、硫酸化した残基の特定の部位でHSGAGを開裂した一方、塩素酸塩処置は、HSGAGの合成を阻害した。vWfに対する抗体で染色した胚様体の共焦点像を表す顕微鏡写真を提供する(FITC標識)。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512の解像度で記録した。ヘパリナーゼ類または塩素酸塩による処置は、分化を阻害した。グラフは、共焦点像の立体的分析を示し、グライコーム修飾が内皮細胞への胚幹細胞の分化を阻害することを定量的に示している。塩素酸塩の添加の結果として、胚様体を、GAG合成を阻害した条件下で培養した。外因性ヘパリンの添加は、内皮細胞への分化の、塩素酸塩処理による阻害を覆した。
【0048】
図24は、ESの内皮細胞分化におけるHSGAGの役割におけるMAPK経路の関与を示すウェスタンブロットからの結果を提供する。さまざまな酵素または薬理学的阻害剤による処置は、常にこの経路を変更し、この経路は、ヘパリンの外からの添加により回復した。(U=未分化、Hepl=ヘパリナーゼI、Hep3=ヘパリナーゼIII、ChI=塩素酸塩、Hep=ヘパリン)。
【0049】
発明の詳細な説明
幹細胞分化を、グリコサミノグリカン類の調節を通じて制御することができることを見出した。したがって、グリコサミノグリカン類、例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類(HSGAG)の調節を通じて幹細胞分化を制御するための方法および組成物を提供する。本明細書中に提供されたように幹細胞分化の調節を通じて産生した細胞集団に向けた処置方法ならびに方法および組成物も提供する。
【0050】
細胞外マトリックス(ECM)の重要な構成要素の1つは、グリコサミノグリカン類(GAG)と呼ばれる一群の複合糖類である。HSGAGなどのGAGは、ECMの常在構成要素であり、細胞のグライコームの主要部分を形成する。HSGAGは、多数のタンパク質と相互作用し、増殖、形態形成、接着、移動および細胞死、腫瘍転移および血管新生などのさまざまな細胞的事象において動的役割を担う(Sasisekharan, R. and Venkataraman, G. (2000) Curr Opin Chem Biol 4, 626-31)。興味深いことに、幹細胞分化のタンパク質異常(proteomal)および転写異常(transcriptomal)の分析についての報告があるにもかかわらず(Brandenberger, R., et al. (2004) Nat Biotechnol 22, 707-16)、幹細胞分化におけるグライコームの役割を解明する研究が行われていなかった。
【0051】
JlマウスES細胞を使って、ES細胞が内皮細胞へ分化するのに伴い、それらはそれらの幹細胞マーカー、Oct4を失い、フォン・ヴィレブランド因子(vWf)、VEGFR−2、Ve−カドヘリンおよびeNOSなどの内皮細胞特異的マーカーを発現し始めることが実証された。興味深いことに、ES細胞が分化するのに伴い、細胞のHSGAGプロファイルが急激に変化する。HSGAGをES細胞の異なる分化段階で収穫し、HSGAGの量が細胞が分化するのに伴い有意に増加することを示した。常に、リアルタイムPCR分析により測定したように、HSGAG合成酵素はまた、細胞が分化するのに伴い上方調節された。したがって、本明細書において、幹細胞の微小環境をグリコサミノグリカン(GAG)調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることにより幹細胞分化を調節する方法を提供する。本明細書中で使われるように、「幹細胞分化を調節すること」とは、幹細胞分化を阻害することまたは幹細胞分化を促進することを意図する。「幹細胞分化を阻害すること」とは、分化する幹細胞数を減少させ、幹細胞の分化を減速させるか、またはもう1つ幹細胞が分化するのを中断させることである。「幹細胞分化を促進すること」とは、分化する幹細胞数を増加させるまたは分化過程を加速させることである。いくつかの態様において、調節は、1または2以上の内皮細胞への1または2以上の幹細胞の分化の阻害または促進のことである。内皮細胞は、例えば、哺乳類の細胞であり得、さらに具体的に、それらはヒト内皮細胞であり得る。
【0052】
幹細胞分化の調節は、幹細胞微小環境におけるHSGAGなどのGAGの質(すなわち、構造体;例えば、GAGの開裂、GAGの硫酸化またはアセチル化などへの変化など)および/または量の調節であるが、それらに限定されない。さらなる態様において、幹細胞分化を制御するために、微小環境のHSGAGの一部分または複数部分を調節するための方法および組成物を提供する。方法は、生化学的、薬理学的および遺伝学的であり得、微小環境のHSGAGの質または量の変化をもたらす。これらの方法は、外因性および内因性の方法を含む。本明細書に記載のあらゆる内因性および/または外因性の方法のあらゆる組合せを、幹細胞分化を制御するために、微小環境のHSGAGを調節するために使うことができる。
【0053】
本明細書中で使われるように、「幹細胞の微小環境」とは、1または2以上の幹細胞および/または1または2以上の幹細胞の細胞外マトリックスの表面のことである。したがって、幹細胞の微小環境のGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞との接触は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、幹細胞表面、幹細胞の細胞外マトリックス、あるいは両方と接触させることであり得る。したがって、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、少なくとも1つの幹細胞の微小環境に導入することにより、幹細胞微小環境を、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞と接触させることができる。
【0054】
これは、例えば、1または2以上のGAG調節剤または1または2以上のGAG調節剤を発現する細胞を、1または2以上の幹細胞を含有する培養物に添加することによってか、少なくとも1つのGAG調節剤または少なくとも1つのGAG調節剤を発現する細胞が結合する二次元デバイスまたは三次元デバイスを、幹細胞微小環境に導入することによってか、あるいは1または2以上のGAG調節剤または1または2以上のGAG調節剤を発現する1または2以上の細胞の対象への投与のいくつかのin vivo法により、達成することができる。対象への投与方法は、全身、局部、局所または部位特異的投与を含む。いくつかの態様において、二次元デバイスまたは三次元デバイスを、体内移植または移植により投与する。微小環境(すなわち細胞表面対細胞外マトリックス)の特定の小分画(subcompartment)におけるグリコサミノグリカン類の修飾または変更もまた、本明細書に提供された方法および組成物を使って行うことができる(例えば、ポジティブ/ネガティブなGAG介在成長因子シグナルのシフトを発生させること)。
【0055】
「GAG調節剤」は、少なくとも1つのグリコサミノグリカンの存在、不在、種類または量に影響を及ぼすあらゆる薬剤である。また、内皮細胞への幹細胞の分化は、塩素酸ナトリウムなどのGAG合成の阻害剤を使うことにより阻害することができることが決定された。したがって、幹細胞分化を、GAG合成経路の調節を介して制御することができる。用語「GAG調節剤」は、グリコサミノグリカンの合成または分解に影響を及ぼす剤(例えば、GAG生合成または生分解にかかわる酵素、GAG生合成または生分解経路にかかわる分子の遺伝子および/またはタンパク質発現に影響を及ぼす剤)、グリコサミノグリカン類を分解する剤(例えば、GAG分解酵素)およびグリコサミノグリカン類自体を含む。したがって、塩素酸ナトリウムならびにヘパラン硫酸グリコサミノグリカン分解酵素などのGAG生合成経路を阻害する薬剤も含む。
【0056】
本明細書中で使われる場合、「GAG分解酵素」または「HSGAG分解酵素」は、グリコサミノグリカンまたはヘパラン硫酸グリコサミノグリカンをそれぞれ、修飾する、開裂するまたはいくらか変更するあらゆる酵素である。本明細書において、内皮細胞へのES細胞の分化を、構造特異的に微小環境のHSGAGを分解するヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIIIなどのHSGAG分解酵素により阻害することを示す。興味深いことに、ヘパリナーゼIおよびヘパリナーゼIIIの阻害的効果のレベルにおいて差異があり、リアルタイムPCRの結果は、ヘパリナーゼIおよびIIIの間でいくつかの直交(orthogonal)効果を示し、HSGAGの構造体(質)、ならびに量が、分化の成果に影響を与えることを示唆する。したがって、GAG分解酵素または他の分解剤などの生化学的方法を使うことにより、GAGの定性および定量調節を介して、幹細胞分化を制御することができる。
【0057】
グリコサミノグリカン類を、例えば、解重合、リン酸化、スルホン化、位置選択的なスルホン化および/または脱スルホン化により修飾または変えることができる。GAG分解酵素は、コンドロイチナーゼ類(例えばコンドロイチナーゼAC、コンドロイチナーゼB、コンドロイチナーゼABC)、ヒアルロン酸リアーゼ、ヘパリナーゼ類(例えば、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII)、ケラタナーゼ、D−グルクロニダーゼ、L−イズロニダーゼ、グリクロニダーゼ類(例えば、Δ4、5グリクロニダーゼ)、スルファターゼ類(例えば、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−Oスルファターゼ)、C5−エピメラーゼ、スルホトランスフェラーゼ類、(例えば、2−Oスルホトランスフェラーゼ、3−Oスルホトランスフェラーゼ、6−Oスルホトランスフェラーゼ、およびN−スルホトランスフェラーゼ(NDST))、それらの修飾型、変異型、機能的に活性なフラグメントおよび組合せを含むが、それらに限定されない。HSGAG分解酵素の例は、例えば、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼおよびN−スルファターゼならびにそれらの修飾型、変異型、機能的に活性なフラグメントおよび組合せを含む。
【0058】
グリコサミノグリカンの生合成または生分解に影響を及ぼす酵素の例は、例えば、グリコシルトランスフェラーゼ類、スルホトランスフェラーゼ類、ヘパラナーゼ類、エンドグルクロニダーゼ類、スルファターゼ類、アセチルトランスフェラーゼ類およびN−アセチルグルコサミニダーゼ類およびそれらの修飾型および組合せを含む。スルホトランスフェラーゼ類は、例えば、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ、2−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ、3−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼおよび6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼを含む。エンドグルクロニダーゼ類は、例えば、α−イズロニダーゼおよびβ−グルクロニダーゼを含む。スルファターゼ類は、例えば、ヘパラン−N−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼおよびN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼ類を含む。アセチルトランスフェラーゼは、例えば、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼを含む。
【0059】
本明細書中に提供された酵素は、細菌由来のまたは哺乳類の酵素であり得る。それらは、哺乳類のまたは細菌由来の細胞の培養物などの細胞培養物から産生し、組み換えにより発現し、または当該技術分野で周知の方法により合成することができる。フラボバクテリアは、それらの異化ライフサイクルの不可欠な部分として多くのグリコサミノグリカン分解酵素を合成する(Payza et al, J. Biol. Chem., 1956, 223, 853-858)。フラボバクテリアから単離され、以前HSGAGの特定の構造体−機能関係の解明に使われていた酵素の重要な部類は、ヘパリナーゼ類であり、ヘパリナーゼI、IIおよびIIIを含む(例えばVenkataraman et al, Science, 1999, 286, 537-542; Dongfang Liu et al, Proc Natl Acad Sd USA, 2002, 99(2):568-573)。3種のヘパリナーゼ類は、リアーゼ類であり、長鎖HSGAGをそれらの二量体構造体に開裂し、Δ4,5不飽和ウロニデート(uronidate)を非還元末端に残す。各々のヘパリナーゼ類は、そこで開裂するそれ自体独特のHSGAG配列を有し、これらの酵素が配列特異的な情報を得る際の有益な手段である。
【0060】
ヘパリナーゼIは、主としてヘパリン様領域で見られる−HNS,6X−I2S−連鎖などの高硫酸化領域でHSGAGを主として開裂する(Ernst et al., Crit, Rev. Biochem. MoI. Biol, 1995, 30, 387-444; Desai et al., Biochemistry, 1993, 32, 8140-8145; Jandik et al., Glycobiology, 1994, 4, 289-296)。ヘパリナーゼIIIは、ヘパラン硫酸で見られる主要な二糖であるHNAc−IおよびHNY,6X−G連鎖などの低硫酸化領域で開裂する(Ernst et al., Crit, Rev. Biochem. MoI. Biol, 1995; Linhardt et al., Biochemistry, 1990, 29, 2611-2617)。ヘパリナーゼIIは、基質連鎖の両方を認識および開裂する能力がある(Ernst et al., Crit, Rev. Biochem. MoI. Biol, 1995)。したがって、フラボバクテリアが配列特異的にHSGAGを分解するために合成するいくつかの他の酵素は、特定の構造体−機能の関係の解明において使用し得る可能性があり、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼおよびN−スルファターゼである。
【0061】
グリコサミノグリカン類はまた、化学剤により修飾または変更することができる。一部分において、グリコサミノグリカン類は、化学分解(例えば、過ヨウ素酸塩酸化および塩基開裂、アルカリ分解、亜硝酸開裂)により修飾することができる。したがって、GAGの修飾または変更に使うことができる化学剤はまた、GAG調節剤であるとも考えられる。
【0062】
本明細書中に提供されたように、薬剤(例えば、化学剤、酵素など)は、構造特異的にグリコサミノグリカン類を修飾するまたは変更するために使うことができる。それらを、あらゆる組合せまたはあらゆる順番で、1または2以上のグリコサミノグリカン類に修飾をもたらすのに使うことができる。一態様において、これらの薬剤は、特定のグリコサミノグリカン構造体の微小環境(特にグリコサミノグリカン類、配列またはそれらの部分)を激減させるのに使うことができる。これは、微小環境からの分解したグリコサミノグリカン類の除去および/または特定のグリコサミノグリカン構造体の破壊を含むことができる。別の態様において、これらの薬剤は、微小環境に特定のグリコサミノグリカン構造体を提供するのに使うことができる。これは、幹細胞微小環境における特定のグリコサミノグリカン構造体の産生および/または構造体の維持を含むことができる。
【0063】
加えて、微小環境がGAGの構造的に正しい組成物を欠如している条件下で(例えば、HSGAG合成を阻害することにより発生させた)、微小環境を外因性GAGの構造的に正しい組成物(例えば、ヘパリン)で補足することにより、内皮細胞への幹細胞(ES細胞)分化を誘導したことが実証された。したがって、GAG調節剤はまた、グリコサミノグリカン類であり得る。当該技術分野で既知の多くのグリコサミノグリカン類がある。複合多糖類のグリコサミノグリカン(GAG)族の仲間は、デルマタン硫酸(DS)、コンドロイチン硫酸(CS)、ヘパリン/ヘパラン硫酸(HSGAG)、ケラタン硫酸およびヒアルロン酸を含む。用語「グリコサミノグリカン」はまた、硫酸化または高硫酸化グリコサミノグリカン類のことである。グリコサミノグリカン類の他の例は、硫酸化ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類(HSGAG)、バイオテクノロジーによって調製したヘパリン、化学修飾したヘパリン、合成ヘパリン、ヘパリノイド類、エノキサパーム(enoxaparm)、低分子量ヘパリン(LMWH)またはコンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸Bまたはコンドロイチン硫酸Cなどの特定の種類のコンドロイチン硫酸を含む。グリコサミノグリカン類はまた、本明細書中に提供されたグリコサミノグリカンの仲間の修飾型ならびに当業者に既知のグリコサミノグリカン族のあらゆる他の仲間を含む。いくつかの態様において、グリコサミノグリカン類は、ヘパリンに類似で、天然または合成であるヘパリン様ポリアニオン類を含む。かかるヘパリン様ポリアニオン類は、ポリビニル硫酸)およびポリ(アネトールスルホネート)を含む。グリコサミノグリカン類はまた、ジ−、テトラ−、ヘキサ−、オクタ−またはより長い多糖単位であるグリコサミノグリカン類を含む。「多糖」は、2または3以上の連続的に結合した単糖単位を有するあらゆるポリマーを意図する。
【0064】
ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン類は、既に提供されている多くのグリコサミノグリカン類を含む。HSGAGは、例えば、ヘパリン、ヘパラン、低分子量ヘパリン、合成ヘパリン、バイオテクノロジー由来のヘパリン、前述のものの修飾型などを含む。HSGAGはまた、高硫酸化二糖または低硫酸化二糖であるかまたはそれらを含むものを含む。HSGAGは、32の可能な二糖単位のあらゆる組合せを含むあらゆる多糖であり得る。
【0065】
HSGAGは、1,4位がα−D−ヘキソサミン(H)に結合したウロン酸[α−L−イズロン酸(I)またはβ−D−グルクロン酸(G)]からなる長鎖の二糖反復単位で構成された化学的に複合性および異種性の多糖類である(Linhardt et al, 1991, Chem. Ind., 2:45-50; Casu et al, 1985, Adv. Carbohydr. Chem. Biochem., 43:51-134)。HSGAGは、二糖反復単位の数に関して、ならびに各反復単位内部の化学修飾に関して、多様であり得る。生理的に行われ得る化学修飾は、ウロン酸の2−O炭素での硫酸化およびヘキソサミンの3−Oおよび6−O炭素での硫酸化、ならびにヘキソサミンのN−H(NH2)、N−硫酸化またはN−アセチル化である。
【0066】
同時に、4つの異なる修飾により、特にウロン酸異性体による二糖反復について24=16の異なる可能な構造体を生じる。2つのウロン酸異性体:IおよびGがあることから、HSGAGについて16×2=32の異なるもっともらしい二糖単位があり得る。32の構成要素の組合せにより、生物学的有意性が実証されたテトラ−、ヘキサ−、またはそれより長い多糖単位が生み出される(Venkataraman et al., Science, 1999, 286, 537-542)。32の可能な二糖構造体のうち、3または4部位における化学修飾(硫酸化)を有する構造体は、高硫酸化二糖類と考えられ得る一方、0、1または2の硫酸化した部位を有する構造体は、低硫酸化二糖類である。これらの二糖の連続結合はそして、HSGAG多糖鎖内で高および低硫酸化の領域をもたらし得る。したがって、以下の二糖が高硫酸化として分類し得る:I/G−HNS,3S,6S;I/G2S−HNS,3S;I/G2S−HNS,6S;I/G2S−HNH/Ac,3S,6S;およびI/G2S−HNS,3S,6S、以下の二糖が低硫酸化として分類し得る:I/G−HNH/Ac;I/G−HNS;I/G−HNH/Ac,3S;I/G−HNH/Ac,6S;I/G−HNS,3S;I/G−HNS,6S;I/G−HNH/Ac,3S,6S;I/G2S−HNH/Ac;I/G2S−HNS;I/G2S−HNH/Ac,3SおよびI/G2S−HNH/Ac,6S。
【0067】
DNAまたはRNAなどの他の構造的に複雑な荷電生体高分子とは違い、HSGAGは、鋳型を基にした生合成が行われない。かわりに、哺乳類における生合成は、ゴルジ体内で開始された複雑に連続した酵素の相互作用により制御される。HSGAGは、グルクロン酸−ガラクトース−ガラクトース−キシロースからなる四糖連鎖領域を介して、セリン残基でそれらのコアタンパク質に結合する。この連鎖四糖の初期形成後、グルクロン酸およびN−アセチル−グルコサミンのそれらのUDP糖ヌクレオチド前駆体への添加を変えることにより、反復1,4−結合二糖鎖を形成する。二糖鎖をさらに一連のスルホトランスフェラーゼ類により修飾し、それらのうちN−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ(NDST)および2−O、3−O、および6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ類は、重要な役割を担う。これらのスルホトランスフェラーゼ類のそれぞれの組織特異的アイソフォームおよび基質特異的アイソフォームが発見され、HSGAGの生合成における複雑性のさらなるレベルを示す(Habuchi et al, Biochim Biophys Acta, 2000, 1474 (2), 115-127; Lindahl et al, J Biol Chem 273, 1998, 273 (39), 24979-24982; Sasisekharan, et al , Curr Opin Chem Biol , 2000, 4 (6), 626-631)。これらのスルファターゼ酵素を介する硫酸の除去を通じて、合成したHSGAG構造体を修飾することができる。
【0068】
細胞のHSGAG組成を、多糖鎖の化学分解にかかわる一連の酵素によりさらに制御する。第一に、長い炭水化物鎖を、ヘパラナーゼ類と名づけられるエンドグリコシダーゼ類によって、より小さな多糖フラグメントに開裂する。ヘパラナーゼ発現は、癌の進行、血管形成、および発生を含むさまざまな生理的過程および病的過程に関与してきた(Vlodavsky et al, Semin Cancer Biol, 2002, 12(2), 121-9)。残りの多糖フラグメントを、エンドグルクロニダーゼ(α−イズロニダーゼまたはβ−グルクロニダーゼのいずれか)により末端で開裂することにより続いて分解し、エピマー特異的スルファターゼを介してこの残基の脱硫酸化が続く。得られる末端グルコサミンを、次にα−N−アセチルグルコアミニダーゼによって開裂し、ヘパラン−N−スルファターゼ、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼ、およびN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼを含むスルファターゼ類およびアセチルトランスフェラーゼ類の組合せによるこの残基の脱硫酸化およびN−アセチル化が続く。したがって、これらの酵素はまた、GAG調節剤であると考えられる。
【0069】
また、GAG調節剤として含まれるのは、上述の酵素などのGAG生合成または生分解経路にかかわる分子の遺伝子および/またはタンパク質発現に影響を及ぼす薬剤である。遺伝子および/またはそのタンパク質の発現レベルまたは機能の減少または除去を、様々な薬剤により達成することができる。発現レベルまたは機能を減少させるまたは除去する薬剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド類(例えば、Bredesenらのアンチセンスオリゴヌクレオチド類、米国特許第5,324,654号)、RNAi分子、結合ポリペプチド類、例えば、抗体または抗体フラグメント、細胞内発現抗体(intrabodies)、小分子、または結合し、発現および/または機能を阻害するあらゆる他の化合物などの結合分子を含むことは、当業者に明らかである。結合分子を、天然のソースから単離してもよく、または組み換え手段により合成または産生してもよい。特定の標的に結合する分子を調製または同定するための方法は、当該技術分野で周知である。抗体などの結合ポリペプチド類を、タンパク質(例えば、本明細書に記載の酵素)対する抗体を発生させる(または市販のものから得る)ことにより、または結合ペプチド類もしくは他の結合化合物を同定するためのライブラリをスクリーニングすることにより、簡単に調製し得る。
【0070】
本明細書中に提供されたように、GAG自体はまた、GAG調節剤と考えられる。GAGを、多くの周知の方法により産生することができる。それらのうちのいくつかを、本明細書に簡略に記載する。GAGを、GAG発現細胞(例えば、Flavoheparimunなど、哺乳類の細胞などの起源細胞から単離した)の表面から収集することにより、および組み換え方法(例えば、遺伝子操作した細胞)により、合成方法を通じて産生することができる。本明細書中に提供されたGAGを産生する方法はまた、GAG分解酵素、化学剤、プロテアーゼ類またはそれらのあらゆる組合せの使用を含むことができる。細胞からGAGを収集するために使用し得る化学剤は、例えば、塩、酸、塩基または界面活性剤を含む。例えば、GAG分解酵素を、細胞から特定の構造体のGAGを収集するために使用し得る。別の例として、プロテアーゼ類を、細胞表面にプロテオグリカンまたは糖タンパク質が生じる細胞からGAGを開裂するために使用し得る。GAGを収集することができる細胞は、原核および真核細胞を含む。1または2以上のGAGを、本明細書中に提供された方法および当該技術分野で既知のあらゆる組合せにより産生することができる。好ましくは、1または2以上のGAGは、構造的に特定のGAGの集団である、GAGの集団である。
【0071】
いくつかの態様において、GAG調節剤を、細胞により産生する。これらの細胞を、いくつかの態様において、幹細胞と共培養することができる。これらの細胞は、哺乳類の細胞、細菌由来の細胞または遺伝子操作した細胞など、あらゆる種類の細胞であり得る。これらの細胞は、1または2以上のGAG調節剤を発現するよう、または1または2以上のGAG調節剤の変化した発現を有するよう(例えば、遺伝子的に)変えられた細胞を含む。1または2以上のGAG調節剤の「変化した発現」を有する細胞は、変化の前の発現に対して相対的に増加または低減した1または2以上のGAG調節剤の発現を有するものを含む。これは、完全に除去された1または2以上のGAG調節剤の発現、または変化の前に1または2以上のGAG調節剤のいずれの発現も示さなかった細胞に導入された1または2以上のGAG調節剤の発現を含む。細胞を、当該技術分野で周知の遺伝学的および組み換え手段により変えることができる。例えば、細胞を、1または2以上のGAG調節剤の産生および好ましくは分泌を可能にするベクターで形質移入してもよい。また、細胞を、例えば、1または2以上のGAG調節剤の発現を減少させるまたは除去する目的のために、RNA転写物を産生するために使われるベクターで形質移入してもよい。これらの方法および他の方法は、当業者に周知である。一態様において、1または2以上のGAG調節剤を発現するかまたは変化した発現を有するように変えられ得るのは、幹細胞自体である。
【0072】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、in vivoまたはin vitroで幹細胞分化を阻害または促進するのに使うことができる。一態様において、内皮細胞への幹細胞分化は促進される。別の態様において、内皮細胞への幹細胞分化は阻害される。さらに別の態様において、内皮細胞が乏しい細胞集団が産生されるように、幹細胞分化が阻害される。「内皮細胞が乏しい細胞の集団」は、内皮細胞が(細胞の全集団のうち)少数であるか、または存在しない場合に産生される細胞の集団のいずれかを含む。したがって、かかる細胞集団は、50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、2%、1%またはそれより少ない内皮細胞を有し得る。別の態様において、幹細胞分化は、筋肉、神経または血液細胞が豊富である細胞集団が得られるように阻害される。細胞の集団は、細胞の1種類が豊富である場合、産生される細胞集団は、他の細胞と比較して特別な細胞型の量をより多く有する。いくつかの態様において、豊富な細胞は、全体の細胞集団の40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、99%またはそれ以上を表し得る。他の細胞型のそれぞれと比較して、豊富な細胞型は、より多くの量である。さらに他の態様において、幹細胞分化は、主として内皮細胞である細胞集団が産生されるように促進される。「主として内皮細胞である細胞集団」は、細胞の50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%、99%またはそれ以上が内皮細胞である集団である。したがって、幹細胞分化を、特定の細胞集団を産生することができるよう調節することができる。産生された細胞は、哺乳類の細胞(例えば、ヒト細胞)などの細胞のあらゆる種類であり得る。
【0073】
したがって、方法は、細胞分化を阻害または促進するために幹細胞の微小環境と接触させ、細胞の集団を得ることにより、本明細書に記載のものなどの細胞の集団を産生することを提供する。該方法は、in vitroまたはin vivoであり得る。一態様において、方法を培養下で行う。別の態様において、方法を対象において行う。これらの細胞集団の構成をまた、これらの細胞集団で操作(engineer)された組織であるものとしてとして提供する。一態様において、得られた細胞集団は哺乳類である。別の態様において、得られた細胞集団はヒトである。さらに別の態様において、得られた細胞集団は、治療剤である。一態様において、得られる細胞集団は、組織工学において使われる。別の態様において、得られた細胞集団または操作された組織は、対象において疾患状態を処置するにために使われる。
【0074】
二次元構造体または三次元構造体は、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞がその上に共有結合または非共有結合し得るあらゆる支持体である。これらの構造体は、例えば、体内移植することができない医療デバイスを含む。構造体は、例えば、足場、マトリックス、ステント、シャント、弁、ペースメーカー、パルス発生器、心臓細動除去器、脊髄刺激装置(spinal stimulator)、脳刺激装置(brain stimulator)、仙椎神経刺激装置(sacral nerve stimulator)、リード、インデューサー、センサー、ねじ、アンカー、ピン、接着シート、針、レンズ、関節、人工/整形外科用インプラント、カテーテル、管(例えば、ライン用およびドレーン用管)、縫合糸(suture)などであり得る。
【0075】
本明細書に提供される方法および組成物の幹細胞は、あらゆる幹細胞であることができる。幹細胞とは、分化していない幹細胞および分化し得る幹細胞について言及することを意図される。一態様において、幹細胞は、全能性幹細胞、多能性幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞または前駆幹細胞である。幹細胞は、哺乳類のものであり得、いくつかの態様において、幹細胞はヒトのものである。別の態様において、幹細胞は胚幹(ES)細胞である。
【0076】
ES細胞は、発生中の胚盤胞の内細胞塊由来の多能性細胞であり、あらゆる成体細胞型へ分化する特有の能力がある(Cowan, C. A.et al. (2004) N Engl J Med 350, 1353-6)。ES細胞は、in vitroで未分化多能性の状態において維持するのが容易であり、あらゆる細胞型への分化の可能性を有する。ES細胞は、マウス、非ヒト霊長類および最近はまたヒトを含むさまざまな哺乳類源から単離されてきた(Thomson et al, 1998, Science, 282: 1145-1147; Reubinoff et al, 2000, Nat Biotechnol, 18:399-404)。これらの細胞は自己再生能を有し、それらはまた、適切な条件下で培養したとき、造血(Keller et al, Mol Cell Biol, 1993, 13:473-486; Pacacios et al, Proc Natl Acad Sd USA, 1995, 92:7530-7534)、筋肉(Rohwedel et al, DevBiol, 1994, 164:87-101; Robbins et al, J Biol Chem, 1990, 265: 11905-11909)、神経(Bain et al, Dev Biol 1995, 168:342-357)および内皮(Risau et al, Development, 1988, 102:471-478)などさまざまな細胞系統を発生させるために分化することができる。
【0077】
それらをマウスに注射したとき、ES細胞由来の神経、軟骨、肝臓または内皮組織は、それらの生存能力を維持し、分化した構造体に特異的なタンパク質を発現し続けることを実証している(Levenberg et al, Proc Natl Acad Sd USA, 2003, 100: 12741-46; Hara et al, Brain Res., 2004, 999(2):216-21; Yamamato et al, Hepatology, 2003, 37(5): 983-93; Meyer et al Brain Res., 2004, 1014: 131-44; Levenberg et al, Proc Natl Acad Sci USA, 2002, 99(7): 4391-6)。ES細胞由来の内皮細胞は、VEGFR−2、Tie−2、vWFおよびVE−カドヘリンを含む最も知られた内皮細胞マーカーを発現し(Vittet et al, Blood, 1996, 88:3424-31)、それらはin vitroでキャピラリー様構造体を形成することができ、マウスに移植したとき、微小血管および脈管構造を形成することができる(Marchetti et al, J Cell Sci, 2002, 115:2075-85; Kaufman et al, Blood, 2004, 103(4): 1325-32)。したがって、ES細胞は、それらの自己再生能および多分化能により、全種類の組織を生み出すことができる無限の細胞のソースを提示し、したがって組織の移植、再生および操作のための貴重なソースを提供する。
【0078】
対象において幹細胞分化が促進されるまたは阻害される方法および組成物を提供する。したがって、本明細書に提供された方法および組成物を、様々な処置指標に使うことができる。本発明の一面において、対象を処置するための有効量での1または2以上のGAG調節剤または1または2以上のGAG調節剤を発現する1または2以上の細胞の投与により、対象を処置する方法を提供する。いくつかの態様において、GAG調節剤を、内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量にて投与する。「内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量」とは、GAG調節剤単独のまたは別の薬剤と組み合わせての、内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進することができる任意の量を指す。「阻害する」とは、内皮細胞への幹細胞分化を減少させるまたは除去することであり、一方、「促進する」ことは、内皮細胞への幹細胞分化をもたらすことである。対象を処置する方法もまた、本明細書中に提供された方法により作られた細胞集団および操作された組織を使って達成することができる。
【0079】
上記の方法および組成物は、再生医療に有用である。再生医療のために魅力的な標的の1つは、生存能力のある脈管構造の確立である。脈管系は、初期発生段階中に築かれ、成体においては殆ど静止状態にある。血管新生(新生血管の形成)はまた、生殖周期、組織再生および創傷治癒などある生理的条件において正確に制御された形ではあるが、成体において起こり得る。それに対し、糖尿病、高コレステロール血症および高齢などのいくつかの病的状態は、虚血組織をもたらす血管新生障害と関連がある。この血管新生障害は主に、内皮細胞機能障害に起因し、かかる条件における血管新生の促進は、患者の処置において重要な治療上の可能性を有する。
【0080】
これを達成する1つの手段は、障害を有する脈管構造の構成要素のin vivoでの操作、またはex-vivo再生および再構成された脈管組織の移植を介するものである。血管新生において役割を担う脈管構造の必須の構成要素は、血管の内側を覆う内皮細胞である。他の研究は、初代内皮細胞および内皮前駆細胞を使って脈管組織を再生することを試みてきた(Joyce, N. C, and Zhu, C. C. (2004) Cornea 23, S8-S19 and Murasawa, S. (2004) Nippon Ronen Igakkai Zasshi 41, 48-50)。しかしながら、これらの取組みは、初代細胞の有限な寿命により、および循環血液における前駆細胞が少量であることにより限定される。
【0081】
したがって、本明細書において、血管新生(vascularization:血管の形成または血管新生)を必要とする対象を処置する方法および組成物が提供される。かかる対象は、慢性の創傷を有する者、心臓機能の回復が必要な者、虚血組織を有する者、ならびに冠動脈疾患、糖尿病、高コレステロール血症などを有するかまたはその危険性がある者を含むが、これらに限定されない。かかる対象はまた、高齢者を含む。いくつかの態様において、高齢である対象は、65、70、80、85、90または95歳より高齢の者である。内皮細胞への幹細胞分化を促進するために、GAG調節剤を使うことができることが見出された。したがって、提供されるGAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、in vivoで内皮細胞への幹細胞分化を促進するために投与することができる。加えて、本明細書中に提供されたようにして産生された細胞集団および操作された組織の組成物をまた、血管の形成(例えば、血管新生)を必要とする対象の処置に使うことができる。内皮細胞への幹細胞分化の刺激により、または内皮細胞集団または操作した組織の使用により処置することができる疾患の例は、血管の形成障害の結果として虚血組織を対象内で形成する状態を含むが、これらに制限されない。これらの状態は、糖尿病、発作、狭心症、CAD、高コレステロール血症および高齢などの疾患を含む。血管の形成が望ましい疾患の状態の別の例は、慢性の創傷である。
【0082】
いくつかの病態生理的状態において、血管の形成は、制御されない持続的な形で行われる(例えば腫瘍血管新生、関節炎)。これらの状態に関して、血管の形成を阻害する方法は、重要な治療上の可能性を有する。内皮細胞が血管の必須の構成要素であることから、内皮細胞の発生の制御を通じて血管の形成を制御するのが可能である。哺乳類において、内皮細胞の発生は、2つの機構により生じる;既存の内皮細胞の増殖を通じておよび前駆幹細胞の分化を通じて。他のグループは、既存の内皮細胞の増殖の阻害を通じて血管の形成を阻害する方法を開示している(例えば、米国特許第6,743,428号;6,703,049号;6,683,051号;5,268,384号;5,001,116号)。しかしながら、有効な治療成果のためには、既存の内皮細胞の増殖を阻害するのみでは不十分である;内皮細胞への前駆幹細胞の分化を阻害する方法を開発することが重要である。かかる病態生理的症例については、提供された方法および組成物を、所望の治療成果を得るための前駆内皮細胞への幹細胞分化の阻害に適用することができる。
【0083】
したがって、方法および組成物を、望ましくない血管の形成を有する対象の処置に使用するために提供する。したがって、提供される組成物および方法は、内皮細胞への幹細胞分化の減少または除去をもたらし得る。したがって、方法および組成物を、血管の形成の阻害を通じて、癌(すなわち、腫瘍血管形成)および関節炎などの様々な病的条件を処置するのに使うことができる。これは、例えば、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するGAG調節剤の使用を通じて達成される。
【0084】
内皮および血管平滑筋細胞の増殖は、血管新生の主要な特徴である。したがって、本発明の基質は、増殖を防止するのに有用であり、したがって、全体的にまたは一部分においてかかる血管新生に依存する血管形成状態の進行を、全体に阻害または停止させる。提供される組成物および方法を、例えば、血管形成を阻害する方法において使ってもよい。「血管形成」は、内皮細胞が、新生血管の発生をもたらす内皮細胞の伸長および増殖をもたらす内皮にとってマイトジェン的な一群の成長因子を分泌するとき、腫瘍においてしばしば生じる。血管新生、または血管形成は、新しい動脈の成長および発生である。それは、損傷修復を含む脈管系の正常発生にとって重要である。
【0085】
しかしながら、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、関節リウマチ、およびある癌を含む異常な血管新生を特徴とする状態が存在する。例えば、糖尿病性網膜症は、失明の主要な原因である。2種類の糖尿病性網膜症、単純性および増殖性がある。増殖性網膜症は、血管新生および瘢痕を特徴とする。増殖網膜症を有する患者の約半数が、約5年以内に失明へと進行する。本明細書中で使われる場合、血管形成状態とは、血管新生を含む病変を有する疾患または望ましくない病状を意味する。癌血管形成状態は、それ以外に血管内皮腫、血管腫およびカポジ肉腫などの血管新生と関係がある固形腫瘍および癌または腫瘍である。
【0086】
癌の他の例は、黒色腫、肝腺癌、前立腺腺癌または骨肉腫を含む。他の癌は、胆道癌;膀胱癌;乳癌;グリア芽腫および髄芽腫を含む脳癌;バーキットリンパ腫、子宮頸癌;絨毛腫;結腸直腸癌腫を含む結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;胃癌;頭部および頸部癌;急性リンパ性および骨髄性白血病を含む血液新生物、多発性骨髄腫、AIDS関連白血病および成人T細胞白血病リンパ腫;ボーエン疾患を含む上皮内新生物;小細胞肺癌および非小細胞肺癌を含む肺癌;ホジキン疾患およびリンパ球性リンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫;扁平上皮細胞癌腫を含む口腔癌;食道癌;上皮細胞、間質細胞、胚細胞および間葉細胞から生じるものを含む卵巣癌;膵臓癌;直腸癌;平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫、線維肉腫、および滑膜肉腫を含む肉腫;カポジ肉腫、基底細胞癌、および扁平上皮細胞癌を含む皮膚癌;セミノーマ、非セミノーマ(奇形腫、絨毛腫)、間質腫瘍、および胚細胞腫瘍などの胚腫瘍を含む精巣癌;甲状腺癌および髄様癌腫を含む甲状腺癌;腺癌およびウィルムス腫瘍を含む移行性癌および腎臓癌を含む。
【0087】
提供された方法および組成物を、本明細書中に提供されたまたはそれ以外に提供された教示により明らかである状態のいずれかを有するまたは有する危険性がある対象の処置において使うことができる。
【0088】
しかしながら、血管形成または血管新生の促進もまた、望ましい。例えば、血管形成は、ステント、プロステーシスインプラント、皮膚グラフト、人工皮膚、血管グラフトの使用などによる組織工学の用途において、または血管新生の増加が望ましいあらゆる用途において、望ましい。したがって、組成物および方法は、好ましくは組織工学用途のために血管形成の促進を提供する。一つには、提供される組成物および方法において、また、VEGF、FGF、EGF、PDGFまたは肝細胞成長因子(HGF)などの血管形成因子を含むことができる。
【0089】
提供される組成物および方法はまた、凝固と関係がある障害の処置において使うことができる。「凝固と関係がある疾患」とは、本明細書中で使われる場合、組織への血液の供給に関与する血管(心筋、脳梗塞または末梢血管疾患にみられるものなどの)の閉塞に起因して起こるか、または心房細動または深部静脈血栓症などの状態と関連する塞栓形成の結果として起こり得る、組織への血液供給の妨害により生じる炎症を特徴とする状態を指す。脳虚血発作または脳虚血は、脳への血液供給が阻止される虚血状態の一形態である。脳への血液供給における妨害は、様々な原因によりもたらされ得、血管自体の内部閉塞または閉鎖、閉鎖の遠隔起源、環流圧の減少または不十分な脳血流による血液粘度の増加、またはくも膜下腔または脳内組織における血管破裂を含む。凝固関連疾患/状態はまた、播種性血管内凝固、静脈うっ滞、妊娠、癌、血友病、凝固因子欠乏などを含む。
【0090】
本発明はまた、神経変性疾患などの神経変性障害を発生しているかまたはその危険性がある対象、または神経細胞への損傷を患う対象の処置を意図する。神経細胞は主に、それらの局所的/領域性シナプス結合(例えば、局所回路介在ニューロン対長距離投射ニューロン)および受容体のセット、および関連する二次メッセンジャー系に基づいて分類される。神経細胞は、中枢神経系(CNS)ニューロンおよび末梢神経系(PNS)ニューロンの両方を含む。多くの異なる神経細胞型がある。例としては、感覚ニューロンおよび交感ニューロン、コリン作動性ニューロン、背根神経節ニューロン、自己受容性ニューロン(三叉神経中脳路核における)、毛様体神経節ニューロン(副交感神経系における)などが挙げられるが、それらに限定されない。当業者は、神経細胞を簡単に同定し、それらを典型的に細胞形態学的特徴、細胞特異的マーカーの発現、ある分子の分泌などを利用する、グリア細胞などの非神経細胞から区別することができるだろう。
【0091】
「神経変性障害」は本明細書において、ニューロンの進行性消失が末梢神経系内または中枢神経系内のいずれかで生じる障害として定義されている。神経変性障害の例は:(i)家族性および特発性筋萎縮性側索硬化症(それぞれFALSおよびALS)、家族性および特発性パーキンソン病、ハンティントン病、家族性および特発性アルツハイマー病、多発性硬化症、オリーブ橋小脳萎縮症、多発性系萎縮症、進行性核上麻痺、広範性レヴィー小体疾患、皮質歯状核黒質変性症、進行性家族性ミオクローヌス癲癇、線条体黒質変性症、捻転ジストニア、家族性振戦、ダウン症、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、ハーラーフォルデン・シュパッツ病、糖尿病性末梢神経障害、拳闘家認知症、AIDS認知症、加齢に伴う認知症、加齢に伴う記憶障害、および感染性海綿状脳症(クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群、スクレイピー、およびクールー)と関係があるプリオンタンパク質(PrP)が原因のものや過剰なシスタチンC蓄積(遺伝性シスタチンC血管症)が原因のものなどのアミロイドーシス関連神経変性疾患などの、慢性の神経変性疾患;
【0092】
および(ii)外傷性脳損傷(例えば、手術関連脳損傷)、脳浮腫、末梢神経障害、脊髄損傷、リー疾患、ギラン・バレー症候群、リポフスチン症などのリソソーム蓄積障害、アルパース病、CNS変性症によるめまい;例えば青斑核および小脳におけるニューロンの変性症を含む、慢性のアルコールまたは薬物乱用と共に生じる病態;認識および運動機能障害へと至らしめる小脳ニューロンおよび皮質ニューロンの変性症を含む、加齢と共に生じる病態;および運動機能障害へと至らしめる基底核ニューロンの変性症を含む慢性のアンフェタミン乱用と共に生じる病態;局所的外傷発作、局所的虚血、血管不全、低酸素性虚血性脳症、高血糖症、低血糖症または直接的な外傷などによる病的変化;治療薬および処置(例えば、NMDAクラスのグルタミン酸受容体作動薬の抗けいれん剤の投薬に応答した帯状回皮質ニューロンおよび嗅内皮質ニューロンの変性症)のネガティブな副作用として生じる病態、およびウェルニッケ・コルサコフ関連認知症など急性神経変性障害を含む。
【0093】
感覚ニューロンに影響を与える神経変性疾患は、フリードライヒ失調症、糖尿病、末梢神経障害、および網膜神経変性症を含む。辺縁系および皮質系の神経変性疾患は、脳アミロイドーシス、ピック萎縮症、およびレット症候群を含む。前述の例は、総合的であることを意図するものではないが、単に用語「神経変性障害」の説明としての機能を果たすものである。
【0094】
用語「処置する」および「処置すること」は、本明細書中で使われる場合、疾患または条件の症状を減少させるまたは除去すること、何らかの方法で対象の健康を改善すること、疾患または条件の進行を覆すことまたは全体に疾患または条件を除去することを指す。かかる用語はまた、対象における疾患または条件の発生の可能性の減少を含むことを意図する。疾患または条件が癌であるとき、「処置する」または「処置すること」は、癌または腫瘍細胞の増殖または転移を完全にまたは部分的に阻害すること、ならびに癌または腫瘍細胞の増殖または転移のいかなる増加をも阻害することをいう。処置するまたは処置することはまた、対象における腫瘍細胞の増殖または転移を抑制することをいう。さらに、処置するまたは処置することは、腫瘍細胞増殖または転移と関係がある症状の除去または減少を含んでもよい。「癌を有する対象」は、検出可能な癌細胞を有する対象のことである。癌は、悪性または非悪性癌であり得る。
【0095】
「危険性がある対象」は、ある疾患または障害が発生する確率が高い対象である。例として、「癌を有する危険性がある対象」は、癌を発生する確率が高い対象である。危険性がある対象は、例えば、遺伝的異常を有する対象が疾患または条件が発生するより高い可能性と相関関係を有することが実証されている者、薬剤に曝露された対象または疾患または条件と関係があるライフスタイルを有する対象、または疾患または状態について以前処置を受けたことがある対象を含む。危険性がある対象を、組成物および提供された方法により、単独でまたは追加の治療剤と組み合わせて処置することができる。
【0096】
血液細胞、神経細胞および/または筋肉細胞の集団を産生するための内皮細胞への幹細胞分化の阻害と関係する方法および組成物をまた、提供する。一態様において、かかる集団は、血液細胞、神経細胞または筋肉細胞が豊富な集団である。別の態様においてかかる細胞の集団は、集団の内皮細胞よりも多量の少なくとも1種類の細胞(血液、神経または筋肉)を有する。かかる細胞集団は、様々な治療用途を有することができ、それは、血液細胞を輸血などの目的のために幹細胞から発生させる治療用途を含む。他の条件は、神経細胞を、神経変性疾患の処置のために幹細胞から発生させるものを含み、幹細胞から神経細胞を得る方法は、内皮細胞への幹細胞の分化の阻害を伴う。したがって、本明細書に提供された方法および組成物を、神経変性障害または神経系損傷を処置するのに使うことができる。
【0097】
提供された方法および組成物を、追加の治療剤の投与と組み合わせることができる。追加の治療剤は、抗癌剤を含む。抗癌剤は、アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール(Acodazole Hydrochloride);アクロニン;アドリアマイシン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アンボマイシン(Ambomycin);酢酸アメタントロン(Amethantrone);アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン(Asperlin);アザシチジン;アゼテパ(Azetepa);アゾトマイシン(Azotomycin);ベチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;塩酸ビサントレン;ビスナフィドジメシラート;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ブレキナルナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン;カルムスチン;塩酸カルビシン(Carubicin);カルゼレシン;セデフィンゴール;クロランブシル;シロレマイシン(Cirolemycin);シスプラチン;クラドリビン;メシル酸クリスナトール;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;塩酸ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン(Dezaguanine);メシル酸デザグアニン;デアジクオン;ドセタキセル;ドキソルビシン;塩酸ドキソルビシン;ドロロキシフェン;クエン酸ドロロキシフェン;プロピオン酸ドロモスタノロン;ドゥアゾマイシン(Duazomycin);
【0098】
エダトレキサート;塩酸エフロルニチン;エルサミトルシン(Elsamitrucin);エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;塩酸エピルビシン;エルブロゾール(Erbulozole);塩酸エソルビシン(Esorubicin);エストラムスチン;エストラムスチンリン酸ナトリウム;エタニダゾール;エトポシド;リン酸エトポシド;エトプリン(Etoprine);塩酸ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;リン酸フルダラビン;フルオロウラシル;フルロシタビン;ホスキドン;ホストリエシンナトリウム;ゲムシタビン;塩酸ゲムシタビン;ヒドロキシウレア;塩酸イダルビシン;イホスファミド;イルモホシン;インターフェロンα−2a;インターフェロンα−2b;インターフェロンα−nl;インターフェロンα−n3;インターフェロンβ−1a;インターフェロンγ−1b;イプロプラチン;塩酸イリノテカン;酢酸ランレオチド;レトロゾール;酢酸ロイプロリド;塩酸リアロゾール(Liarozole);ロメトレキソールナトリウム;ロムスチン;塩酸ロソキサントロン(Losoxantrone);マソプロコール;マイタンシン(Maytansine);塩酸メクロレタミン;酢酸メゲストロール;酢酸メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトトレキサートナトリウム;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;マイトカルシン(Mitocarcin);マイトクロミン(Mitocromin);マイトジリン;マイトマルシン(Mitomalcin);マイトマイシン;ミトスペル(Mitosper);ミトタン;塩酸ミトキサントロン;マイコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;
【0099】
オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペガスパルガーゼ;ペリオマイシン(Peliomycin);ペンタムスチン(Pentamustine);硫酸ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;塩酸ピロキサントロン(Piroxantrone);プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマーナトリウム;ポルフィロマイシン;プレドニムスチン(Prednimustine);塩酸プロカルバジン;プロマイシン(Puromycin);塩酸プロマイシン;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール(Safingol);塩酸サフィンゴール;セムスチン;シムトラゼン;スパルフォセート(Sparfosate)ナトリウム;スパルソマイシン;塩酸スピロゲルマニウム(Spirogermanium);スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾシン;スロフェヌル;タリソマイシン;テコガランナトリウム;テガフル;塩酸テロキサントロン(Teloxantrone);テモポルフィン;テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;チアミプリン(Thiamiprine);チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;塩酸トポテカン;クエン酸トレミフェン;酢酸トレストロン(Trestolone);リン酸トリシリビン(Triciribine);トリメトレキサート;グルクロン酸トリメトレキサート(Trimetrexate);トリプトレリン;塩酸ツブロゾール(Tubulozole);ウラシルマスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;硫酸ビンブラスチン;硫酸ビンクリスチン;ビンデシン;硫酸ビンデシン;硫酸ビネピジン(Vinepidine);硫酸ビングリシナート(Vinglycinate);硫酸ビンロウロシン(Vinleurosine);酒石酸ビノレルビン;硫酸ビンロシジン(Vinrosidine);硫酸ビンロリジン(Vinzolidine);ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;塩酸ゾルビシンを含むが、これらに限定されない。
【0100】
追加の薬剤はさらには、放射線治療の副作用処置する剤薬、例えば制吐剤、放射線保護剤などをを含む。
【0101】
抗癌剤はまた、細胞障害性薬剤および腫瘍血管新生構造に作用する薬剤を含むことができる。細胞障害性薬剤は、細胞障害性放射線核種、化学トキシンおよびタンパク質トキシンを含む。細胞障害性放射線核種または放射線治療アイソトープは、好ましくは、225Ac、211At、212Bi、213Bi、212Pb、224Raまたは223Raなどのα放射アイソトープである。代替的に、細胞障害性放射線核種は、186Rh、188Rh、177Lu、90Y、131I、67Cu、64Cu、153Smまたは166Hoなどのβ放射アイソトープであってもよい。さらに、細胞障害性放射線核種は、オージェおよび低エネルギー電子を放射してもよく、アイソトープ125I、123Iまたは77Brを含む。
【0102】
好適な化学トキシンまたは化学療法剤は、カリケアマイシンおよびエスペラマイシン(esperamicin)などのエンジイン分子群のメンバーを含む。化学トキシンを、メトトレキサート、ドキソルビシン、メルファラン、クロランブシル、ARA−C、ビンデシン、マイトマイシンC、cis−プラチナ、エトポシド、ブレオマイシンおよび5−フルオロウラシルからなる群から取ることができる。トキシンはまた、毒性レクチン類、リシン、アブリン、モデクシンなどの植物トキシン、ボツリヌストキシンおよびジフテリアトキシンを含む。さまざまなトキシンの組合せもまた、変化し得る細胞傷害性に適合するよう提供する。他の化学療法剤は、当業者に公知である。
【0103】
腫瘍脈管構造に作用する剤は、例えばコンブレスタチン(combrestatin)A4(Griggs et al., Lancet Oncol. 2:82, 2001)などのチューブリン結合剤、アンギオスタチンおよびエンドスタチン(本明細書に参考文献として組み込まれるRosen, Oncologist 5:20, 2000に掲載)、インターフェロン誘導プロテイン10(米国特許第5,994,292号)などを含む。抗癌剤はまた、α−インターフェロン、γ−インターフェロン、および腫瘍壊死因子α(TNFα)などの免疫調節剤を含む。
【0104】
本明細書中に提供された組成物および方法は、神経再生を促進するまたは神経変性疾患を処置するのに使われる他の治療剤と組み合わせることができる。
例えば、抗パーキンソン病剤は、メシル酸ベンズトロピン;ビペリデン;塩酸ビペリデン;乳酸ビペリデン;カルマンタジン;塩酸シラドパ;ドパマンチン;塩酸エトプロパジン;ラザベミド;レボドパ;塩酸ロメトラリン;塩酸モフェギリン;塩酸ナキサゴリド;硫酸パレプチド;塩酸プロシクリジン;塩酸キネロラン;塩酸ロピニロール;塩酸セレギリン;トルカポン;塩酸トリヘキシフェニジルを含むが、これらに限定されない。
筋萎縮性側索硬化症を処置するための薬剤は、リルゾールを含むが、これに限定されない。パジェット病を処置するための薬剤は、チルドロネート二ナトリウムを含むが、これに限定されない。
【0105】
追加の治療剤の例はまた、抗凝固剤、抗血小板剤および血栓溶解剤を含む。
抗凝固剤は、ヘパリン、修飾ヘパリン、デルマタン硫酸、過硫酸化デルマタン硫酸、ワルファリン、クマジン、ジクマロール、フェノクロプモン、アセノクマロール、ビスクマ酢酸エチル、およびインダンジオン誘導体を含むが、それらに限定されない。
抗血小板剤は、アスピリン、チクロポジン(ticlopodine)およびクロピドグレルなどのチエノピリジン誘導体、ジピリダモールおよびスルフィンピラゾン、ならびにRGD模倣剤、およびまたアンチトロンビン剤(ヒルジンなどであるが、これに限定されない)などを含むが、これらに限定されない。
【0106】
血栓溶解剤は、プラスミノーゲン、a2−抗プラスミン、ストレプトキナーゼ、アンチストレプラーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤(tPA)、およびウロキナーゼを含むが、それらに限定されない。
凝固の阻害のための追加の薬剤は、凝固因子およびアンチトロンビン3などのアンチトロンビン類を含む。
同様に、提供された組成物および方法が、創傷治癒を促進することができるように、追加の治療剤はまた、創傷の強度を高め、血小板凝集およびフィブリン形成を促進するためのコラーゲン;血小板由来の成長因子などの成長因子、血小板因子4、トランスフォーミング成長因子−β;組織因子VIIa、トロンビン、フィブリン、プラスミノーゲン−活性化剤開始剤、アデノシン二リン酸などを含む。
【0107】
さらに、抗炎症剤を使うことができ、追加の治療剤として含まれる。抗炎症剤は、アルクロフェナク;ジプロピオン酸アルクロメタゾン;アルゲストンアセトニド;αアミラーゼ;アムシナファル(Amcinafal);アムシナフィド(Amcinafide);アンフェナクナトリウム;塩酸アミプリロース;アナキンラ(Anakinra);アニロラク;アニトラザフェン;アパゾン;バルサラジド二ナトリウム;ベンダザック;ベノキサプロフェン;塩酸ベンジダミン;ブロメライン;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン(Cintazone);クリプロフェン;プロピオン酸クロベタゾール;酪酸クロベタゾン;クロピラク;プロピオン酸クロチカゾン;酢酸コルメタゾン(Cormethasone);コレトドキソン;デフラザコート(Deflazacort);デソニド;デソキシメタゾン(Desoximetasone);ジプロピオン酸デキサメタゾン;ジクロフェナクカリウム;ジクロフェナクナトリウム;ジフロラゾンジアセテート(Diflorasone Diacetate);ジフルミドンナトリウム;ジフルニサル;ジフルプレドナート;ジフタロン;ジメチルスルホキシド;ドロシノニド(Drocinonide);エンドリソン(Endrysone);エンリンモマブ(Enlimomab);エノリカムナトリウム;エピリゾール;エトドラク;エトフェナマート;フェルビナク;フェナモール;フェンブフェン;フェンクロフェナク;フェンクロラク;フェンドサール;フェンピパロン;フェンチアザク;フラザロン;フルアザコルト;フルフェナム酸;フルミゾール;酢酸フルニソリド;フルニキシン;フルニキシンメグルミン;フルオコルチンブチル;酢酸フルオロメトロン;フルクアゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;プロピオン酸フルチカゾン;フラプロフェン;フロブフェン;
【0108】
ハルシノニド;プロピオン酸ハルベタゾル(Halobetasol);酢酸ハロプレドン;イブフェナク;イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール;イロニダプ;インドメタシン;インドメタシンナトリウム;インドプロフェン;インドキソール;イントラゾール;酢酸イソフルプレドン;イソキセパク;イソキシカム;ケトプロフェン;塩酸ロフェミゾール;ロルノキシカム;エタボン酸ロテプレドノール;メクロフェナメートナトリウム;メクロフェナム酸;メクロリゾンジブチラート(Meclorisone Dibutyrate);メフェナム酸;メサラミン;メセクラゾン;スレプタン酸メチルプレドニゾロン;モルニフルマート;ナブメトン;ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジンナトリウム;オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;塩酸パラニリン(Paranyline);ペントサン多硫酸ナトリウム;フェンブタゾングリセリン酸ナトリウム(Phenbutazone Sodium Glycerate);ピルフェニドン;ピロキシカム;桂皮酸ピロキシカム;ピロキシカムオラミン(Olamine);ピルプロフェン;プレドナゼート(Prednazate);プリフェロン;プロドール酸;プロクアゾン;プロキサゾール;クエン酸プロキサゾール;リメキソロン;ロマザリット;サルコレクス;サルセナジン;サルサラート;塩化サングイナリウム;セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダク;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルマート;タロサラート;テブフェロン;テニダプ;テニダプナトリウム;テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン(Tetrydamine);チオピナク;ピバリン酸チキソコルトール(Tixocortol);トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド(Triclonide);トリフルミダート;ジドメタシン;およびゾメピラクナトリウムを含む。
【0109】
本明細書中に提供された方法はさらに、内皮細胞への幹細胞分化を評価するステップを含むことができる。本明細書中で使われる場合に、「内皮細胞への幹細胞分化を評価する」とは、内皮細胞への幹細胞分化が阻害されるか促進されるかを決定することをいう。内皮細胞への幹細胞分化を評価するために、多くの分子のいずれをも分析することができる。例えば、幹細胞特異的であるマーカーおよび/または内皮細胞特異的であるマーカーの発現を、決定することができる。幹細胞特異的マーカーは、Oct−4を含む。内皮細胞マーカーは、wVf、VEGF−R2、VE−カドヘリン、eNOSおよびTie−2を含む。かかるマーカーの発現は、幹細胞分化の指標を提供し、マーカーまたはマーカーをエンコードする核酸に結合するあらゆる分子を検出することができる。幹細胞分化はまた、ERKなどのMAPK因子を測定することにより、評価することができる。一例として、ERKのリン酸化を決定することができる。さらなる態様において、1または2以上のマーカーの発現を決定する。マーカーの発現を決定する方法は、当業者に既知であり、また、例において本明細書中に提供する。
【0110】
提供された治療剤の有効量を、かかる処置を必要とする対象に投与する。有効量とは、他の医学上許容できない副作用の原因とならずに、所望の治療目標、例えば細胞増殖の低下または転移の減少、神経再生の促進または阻害、内皮細胞集団への幹細胞分化の阻害または促進などをもたらす量である。かかる量をルーチンの実験程度で決定することができる。有効量とは、1つの治療剤が所望の治療目標に達するために有効な量で投与されることを意味し得、または、所望の治療目標に達するために治療剤の組合せが必要であることを意味し得る。投与方法に依存して1ng/kg〜100mg/kgの範囲の用量が効果的であると信じられている。絶対量は、(投与が、他の処置方法、用量の数、ならびに年齢、健康条件、大きさおよび重量を含む個々の患者のパラメータと連動するかどうかを含む)様々な因子に依存し、ルーチンの実験で決定することができる。一般的に、最大用量、すなわち、妥当な医療判断による最大限の安全用量を使うのが好ましい。
【0111】
対象は、あらゆるヒトまたは非ヒト脊椎動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタである。別の態様において、対象は、本明細書中に提供される組成物および処置方法を必要とする以外ではない。かかる対象は、本明細書中に提供される内皮細胞への幹細胞分化の調節の必要以外に提供される組成物および処置を受けないものである。一態様において、必要とは、内皮細胞への幹細胞分化の促進の必要である。別の態様において、必要とは、内皮細胞への幹細胞分化の阻害の必要である。
【0112】
本明細書に議論した表面および組成物を含むキットもまた、提供する。キットはさらには、標識物などの診断剤または追加の治療剤を含むことができる。
一般的に、治療目的のために投与する場合、本発明の医療デバイスを、薬学的に許容しうる形で適用する。
他の態様において、提供された医療デバイス/基質は、滅菌したものである。
【0113】
一般的に、治療目的のために投与する場合、本発明の処方を、薬学的に許容しうる溶液で適用する。かかる製剤は、慣用的に、薬学的に許容しうる濃度の塩、緩衝剤、保存剤、適合する担体、補助剤、および任意に他の治療成分を含有してもよい。
【0114】
本発明の組成物を、そのまま(他のものを入れずに(neat))または薬学的に許容しうる塩の形で投与してもよい。医薬中で使用するとき、塩は、薬学的に許容しうるものであるべきであるが、非薬学的に許容しうる塩を、それらの薬学的に許容しうる塩を調製するのに都合よく使ってもよく、発明の範囲から除外しない。かかる薬理学的および薬学的に許容しうる塩は、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸、およびベンゼンスルホン酸から調製したものを含むが、それらに限定されない。また、薬学的に許容しうる塩は、カルボン酸群のナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類塩として調製することができる。
【0115】
好適な緩衝剤は、酢酸および塩(1〜2%W/V);クエン酸および塩(1〜3%W/V);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%W/V);およびリン酸および塩(0.8〜2%W/V)を含む。好適な保存剤は、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%W/V);クロロブタノール(0.3〜0.9%W/V);パラベン類(0.01〜0.25%W/V)およびチメロサール(0.004〜0.02%W/V)を含む。
【0116】
本発明は、医療用途のための医薬組成物を、1または2以上の薬学的に許容しうる担体および任意に他の治療成分と共に提供する。用語「薬学的に許容しうる担体」は、本明細書中で使われるように、および以下により全体的に説明するように、ヒトまたは他の動物に投与するのに好適な1または2以上の適合する固体または液体の充填剤、希釈剤または封入物質を意味する。本発明において、用語「担体」は、適用を容易にするために活性成分を組み合わせる天然または合成の有機または無機成分を示す。医薬組成物の構成要素はまた、所望の薬学的効率を実質的に損なう相互作用がないような形で互いに混合されることができる。
【0117】
様々な投与経路が、利用可能である。選択された特定の方法はもちろん、選択された特定の活性剤、処置される特定の状態および治療の有効性に必要な投薬量に依存するだろう。本発明の方法は、一般的に、医学上許容しうるあらゆる投与様式を使って行ってもよく、それは臨床的に許容できない悪影響をもたらさずに有効レベルの免疫応答を作り出すあらゆる様式を意味する。好ましい投与様式は、非経口経路である。用語「非経口」は、皮下注射、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内への注射または注入技術を含む。他の投与様式は、全身、局所(local)、局所(topical)、部位特異的、経口、粘膜、直腸、膣、舌下、鼻腔内、気管内、吸入、眼内、経皮などを含む。他の様式は、医療デバイスなどの構造体の体内移植または移植を含む。いくつかの態様において、体内移植または移植は、部位特異的である(または、治療効果が有益であろう部位に局在化している)。いくつかの態様において、提供された組成物を、関節に投与する。他の態様において、提供される組成物は、血管の形成または血管の形成の阻害を必要とする領域を標的にする。
【0118】
経口投与のために、化合物は、活性化合物を当該技術分野で周知の薬学的に許容しうる担体と組み合わせることにより、容易に処方することができる。かかる担体により、本発明の化合物を、処置される対象が経口摂取するための、錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして処方することが可能となる。経口用途の医薬製剤は、固体の賦形剤として得、任意に得られる混合物を粉砕し、顆粒の混合物を加工し、所望の場合は好適な助剤の添加後、錠剤または糖衣錠のコアとして得ることができる。好適な賦形剤は特に、乳糖、ショ糖、マンニトール,またはソルビトールを含む糖類などの充填剤;例えば、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース製剤である。所望の場合、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を添加してもよい。任意に、経口処方を、内部の酸条件を中和するために生理食塩水または緩衝剤中で処方してもよく、またはいかなる担体も用いずに投与してもよい。
【0119】
糖衣錠コアを、好適な被覆剤と共に提供する。この目的のために、濃縮糖溶液を使ってもよく、この濃縮糖溶液は、任意にアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポール(carbopol)ゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶剤または溶剤混合物を含有してもよい。染料または色素を、識別のため、または活性化合物用量の異なる組合せのを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠被覆剤に添加してもよい。
【0120】
経口的に使うことができる医薬製剤は、ゼラチン製の押し込み型のカプセル、ならびにゼラチン製およびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤製の軟性の密封カプセルを含む。押し込み型のカプセルは、活性成分を、乳糖などの充填剤、スターチなどの結合剤、および/またはタルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および、任意に、安定化剤と共に、混和物中に含有することができる。軟性のカプセルにおいて、活性な化合物を、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコール類などの好適な液体中に溶解または懸濁させてもよい。加えて、安定化剤を加えてもよい。また、経口投与用に処方したマイクロスフィアを使ってもよい。かかるマイクロスフィアは、当該技術分野で明確に定義されている。経口投与用のすべての処方は、かかる投与に好適な投薬量であるべきである。
【0121】
口腔内投与のために、組成物は、従来の形に処方された錠剤またはトローチ剤の形態をとってもよい。
吸入による投与のために、本発明による使用のための化合物を、加圧パックまたは噴霧器からのエアゾールスプレー状の形態で、好適な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体を使って、都合よく送達してもよい。加圧エアゾールの場合、投薬量単位を、定量送達するための弁を提供することにより決定してもよい。吸入器(inhaler)または吸入器(insufflator)における使用のための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジを、化合物と乳糖またはスターチなどの好適な粉末基剤との粉末混合物を含有するよう処方してもよい。
【0122】
化合物は、全身に送達させるのが望ましいとき、注射による、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与用に処方してもよい。注射用処方は、保存剤を添加し、単位剤形、例えば、アンプルまたは複数の用量容器で、提示されてもよい。組成物は、油性または水性ビヒクルにおいて懸濁液、溶液または乳液などの形を採ってもよく、懸濁、安定化剤および/または分散剤などの調合(formulatory)剤を含有してもよい。
【0123】
非経口投与用の医薬処方は、水溶性の形態の活性化合物の水溶液を含む。さらに、活性化合物の懸濁液を、適切な油性注射懸濁液として調製してもよい。好適な親油性の溶剤またはビヒクルは、ゴマ油などの脂肪油、または、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル類、またはリポソームを含む。水溶液注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール,またはデキストランなどの懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。任意に、懸濁液はまた、好適な安定化剤、または高濃度の溶液の製剤を可能にするために化合物の溶解度を増加させる薬剤を含有してもよい。
【0124】
代替的に、活性化合物は、使用の前に好適なビヒクル、例えば、発熱物質を含まない滅菌水と組成するための、粉末の形であってもよい。
化合物を、例えば、ココアバターまたは他のグリセリド類など従来の坐薬用ベースを含有する坐薬または停留浣腸などの直腸または膣用組成物中に処方してもよい。
上述の処方に加えて、化合物をまた、デポー製剤として処方してもよい。かかる長時間作用型処方は、好適なポリマーまたは疎水性材料(例えば許容しうる油において乳液として)またはイオン交換樹脂と共に、または難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として処方してもよい。
【0125】
医薬組成物はまた、好適な固相またはゲル相の担体または賦形剤を含んでもよい。かかる担体または賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、さまざまな糖類、スターチ、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコール類などのポリマー類を含むが、これらに限定されない。
【0126】
好適な液体または固体の医薬製剤は、例えば、吸入用の水溶液または生理食塩水の溶液、マイクロカプセル化したもの、コクリート化したもの(encochleated)、微細金粒子上に被覆されたもの、リポソーム内に含有されるもの、噴霧化したもの、エアゾール、皮膚内に体内移植するためのペレット、または皮膚内にこすり付けるための鋭利な物体上に乾燥させたものである。医薬組成物はまた、顆粒、粉末、錠剤、被覆錠剤、(マイクロ)カプセル、坐薬、シロップ、乳液、懸濁液、クリーム、ドロップ、または活性な化合物を持続的に放出する製剤を含み、これらの製剤において、崩壊剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、香味剤、甘味料または可溶化剤などの賦形剤および添加剤および/または助剤を、上記のように慣用的に使用する。医薬組成物は、様々な薬物送達系における使用に好適である。薬物送達の方法についての簡単な概説は、本明細書に参考文献として組み込まれるLanger, Science 249:1527-1533, 1990を参照のこと。
【0127】
組成物は、都合よく、単位剤形で存在してもよく、調剤分野で周知の方法のいずれかにより調製してもよい。
【0128】
他の送達系は、徐放性(time-release)、遅延放出(delayed release)または持続放出(sustained release)の送達系を含むことができる。かかる系により、本発明の化合物の反復投与を回避することができ、対象および医師への利便性を高める。多くの種類の放出送達系が利用可能であり、当業者に既知である。それらは、ポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリアンヒドリド(polyunhydride)類およびポリカプロラクトンなどのポリマーをベースとする系;コレステロール、コレステロールエステル類および脂肪酸などのステロール類またはモノ、ジおよびトリグリセリド類などの中性脂肪類を含む脂質である非ポリマー系;ヒドロゲル放出系;シラスティック系;ペプチドをベースとする系;ワックス被覆剤、従来の結合剤および賦形剤を使った圧縮錠剤、部分的に融合したインプラントなどを含む。特定の例は、(a)多糖がマトリックス内にある形で含有される侵食系(米国特許第4,452,775号(Kent);4,667,014号(Nestorら);および4,748,034号および5,239,660号(Leonard)に見出される)および(b)活性構成要素がポリマーを通じて制御された割合で浸透する拡散系(米国特許第3,832,253号(Higuchiら)および3,854,480号(Zaffaroni)に見出される)を含むが、これらに限定されない。加えて、ポンプベースのハードウェア送達系を使用することができ、これらのいくつかは、体内移植に適合する。
【0129】
制御放出は、また、生体適合性および生分解性である適切な賦形剤の材料により、達成することができる。減速放出に影響を与えるこれらのポリマー材料は、粒子を作るあらゆる好適なポリマー材料であり得、非生侵食性/非生分解性および生侵食性/生分解性のポリマー類を含むが、これらに限定されない。かかるポリマー類は、先行技術文献により詳細に説明してある。それらは、ポリアミド類、ポリカーボネート類、ポリアルキレン類、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレンオキシド類、ポリアルキレンテレフタレート類、ポリビニルアルコール類、ポリビニルエーテル類、ポリビニルエステル類、ポリビニルハライド類、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド類、ポリシロキサン類、ポリウレタン類およびそれらの共重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、セルロースエーテル類、セルロースエステル類、ニトロセルロース類、アクリルエステルおよびメタクリルエステル類のポリマー類、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリ(エチルメタクリラート)、ポリ(ブチルメタクリラート)、ポリ(イソブチルメタクリラート)、ポリ(ヘキシルメタクリラート)、ポリ(イソデシルメタクリラート)、ポリ(ラウリルメタクリラート)、ポリ(フェニルメタクリラート)、ポリ(メチルアクリラート)、ポリ(イソプロピルアクリラート)、ポリ(イソブチルアクリラート)、ポリ(オクタデシルアクリラート)、ポリエチレン、ポリプロピレンポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルアルコール類)、ポリ(酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、およびコンドロイチン硫酸を含むが、これらに限定されない。
【0130】
好ましい非生分解性ポリマー類の例は、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド類、これらの共重合体および混合物を含む。
【0131】
好ましい生分解性ポリマー類の例は、乳酸およびグリコール酸のポリマー類、ポリアンヒドリド類、ポリ(オルト)エステル類、ポリウレタン類、ポリ(ブタン(butic)酸)、ポリ(バレアリン酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(乳酸−グリコリド酸共重合体(lactide-co-glycolide))およびポリ(乳酸−カプロラクトン共重合体(lactide-co-caprolactone))などの合成ポリマー類、ならびにアルギン酸、およびデキストランおよびセルロース、コラーゲン、それらの化学誘導体(置換、化学基の付加、例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化、および当業者により日常的に行われている他の修飾)を含む他の多糖類、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミン類および疎水性タンパク質などの天然ポリマー類、これらの共重合体および混合物を含む。一般的に、これらの材料は、in vivoでの酵素加水分解または水への曝露により、表面または大半の侵食により分解する。前述の材料を、単独で、物理的混合物(ブレンド)として、またはコポリマー類として使ってもよい。
【0132】
最も好ましいポリマー類は、ポリエステル類、ポリアンヒドリド類、ポリスチレン類およびそれらのブレンドである。
本発明を、以下の例によりさらに説明するが、これは、決してさらなる限定として解釈すべきではない。本出願を通して引用された全ての参考文献(文献参照、特許公報、公開特許出願、および同時係属特許出願を含む)の全体の内容は、参考文献として本明細書中に明示的に組み込まれている。
【0133】
例
ES細胞の指向された分化は、再生医療への可能性を保持する;したがって、自己再生および細胞運命決定を制御する機構を理解することは有用である。以前には、トランスクリプトームおよびプロテオミクスの手法を使って、分化の重要な制御構成要素を解明する試みが行われてきた;しかしながら、これらの研究は、この過程の完全な複雑性を捕らえることができなかった。グリコサミノグリカン類、例えば、HSGAGは、細胞外マトリックスの構成要素であり、細胞のグライコームの主要な構成要素の一つを構成する。マウスのES細胞は、無LIF条件下で分化に向かい、フローサイトメトリー、共焦点顕微鏡およびリアルタイムPCRにより示されるとおり、徐々に幹細胞マーカーであるOct−4を失い、フォン・ヴィレブランド因子、VE−カドヘリン、VEGF−R2およびeNOSなどの内皮細胞マーカーを得る。キャピラリー電気泳動法によるHSGAGの構造の組成分析により、重要なHSGAG生合成酵素の転写物のレベルの増加と平行して、HSGAGの量が進行する分化に伴い増加することが明らかになった。
【0134】
塩素酸ナトリウム処置を通じてのHSGAG生合成機械の消失、またはヘパリナーゼ類による処置を介してのHSGAGの酵素分解は、内皮細胞の形成を阻害したが、他の細胞型への分化は、Oct−4シグナルの進行性消失から証明されたように進んだ。ヘパリンの外からの添加により塩素酸ナトリウム処置した細胞におけるHSGAG部分の再構成により、内皮細胞の形成が部分的に回復し、これは、HSGAGが、内皮細胞へのES細胞の分化における役割を担うことを示唆する。ホスホERKレベルのウェスタンブロット分析は、HSGAGがおそらくMAPK経路を通じて内皮細胞へのES細胞の分化に影響を与えることを示唆する。したがって、グライコームの役割は、指向された幹細胞の分化に関与することである。
【0135】
材料および方法
細胞培養
マウス胚幹細胞(J1)(Bevin Engelward, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, Massachusettsより贈呈)を、100mMのピルビン酸ナトリウム、10mMの非必須のアミノ酸および1.5g/Lの重炭酸ナトリウムを、15%ウシ胎仔血清と共に(Hyclone, South Logan, UT)、および100単位/mLのペニシリンG(Sigma, St. Louis, MO)、l00μg/mLの硫酸ストレプトマイシン(Sigma)、30mMのβ−メルカプトエタノール(Sigma)および1000単位/mlのマウス白血病阻害剤因子、LIF(Chemicon, Temecula, CA)を補足して、含有するよう調整した、2mMのL−グルタミンと共にDMEM(GIBCO, Carlsbad, CA)中で増殖させる。細胞を、0.1%のゼラチンB(Sigma)で被覆した10cm2細胞培養ディッシュに播種し、37℃で5%CO2の加湿インキュベータ内で増殖させた。培養培地を2日毎に交換した。細胞を、80%〜90%密集度に達したとき、0.25%のトリプシン−EDTA溶液(Sigma)を使って、1:10の分割比で継代培養した。胚様体の形成および内皮細胞への分化を誘発するために、J1細胞を、1.25×l05細胞/l00mmディッシュ、または3×l04細胞/6ウェルの密度で播種し、LIFの不在の下で培養した。新しい培地を2日毎に補充した。
【0136】
細胞の酵素および化学処置
ヘパリナーゼIII(Hep−III)を、既述のように調製した(Godavarti, R., et al. (1996) Biochemistry 35, 6846-52)。ヘパリナーゼI(Hep−I)は、Momenta Pharmaceuticals(Cambridge, MA)の寛大な贈呈であった。塩素酸ナトリウムおよびヘパリンを、それぞれSigmaおよびCambrex BioWhittaker(East Rutherfordm, NJ)から購入した。細胞のHSGAGグライコームシグニチャー(signature)を酵素修飾するために、細胞、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、Hep−IまたはHep−IIIと共に、37℃で無血清DMEM中で毎日30分間インキュベートした。消化されたHSGAG残基を、細胞を洗浄することにより除去し、細胞に新しい培地を与えた。追加の実験において、細胞を、HSGAGの硫酸化を妨害する塩素酸ナトリウム含有培地で培養した。逆転実験において、ヘパリンを、塩素酸塩誘発の合成阻止を克服するために、培養物に添加した。処置細胞を、内皮細胞への分化について、3日目と15日目との間に分析した。Hep−IIIを、2.5μg/mLの濃度で細胞に添加し、Hep−Iを1.5μg/mLの濃度で、塩素酸ナトリウムを10mMで添加し、およびヘパリン(20μg)を添加した。酵素の濃度を、一定期間内ですべての細胞表面HSGAGを徹底的に開裂するよう最適化した。すべての酵素および化学剤を、無血清DMEMで希釈した。
【0137】
フローサイトメトリー
細胞を、分化中のさまざまな時点で収集し、Fcγ受容体を阻止するためにCD16/CD32(1:50希釈、Pharmingen, San Diego, CA)に対するラットモノクローナル抗体と共にインキュベートし、さらにフォン・ヴィレブランド因子(vWF)(Dako(Carpinteria, CA)、ウサギポリクローナル、1:100希釈で添加)に対して一次抗体と共にインキュベートした。アイソタイプ適合ポリクローナル抗体IgG(Pharmingen)を対照として使用した。そして細胞を2回洗浄し、FITC結合二次抗体(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)と共に1:100希釈でインキュベートし、2回洗浄し、OptiMEM(GIBCO/BRL, Carlsbad, CA)に取り上げ、およびBecton Dickinson(Franklin Lakes、NJ)FACScanフローサイトメータ(励起488nm、アルゴンレーザー;発光580/30)で分析した。
【0138】
共焦点顕微鏡
内皮細胞の顕微鏡分析のために、分化J1細胞を、指定された時点で冷メタノールで固定し、ヤギ血清中でブロッキングし、内皮細胞マーカーであるvWFまたは幹細胞マーカーであるOct−4に対するウサギ一次抗体と共に一晩プローブ付け(probe)した。切片を洗浄し、FITCに結合したヤギ二次抗体で再プローブ付けした。核を、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。画像を、Leica LSM510共焦点顕微鏡を使って512×512ピクセル解像度で記録した(Leica、Bannockburn、IL)。蛍光色素を488nmおよび543nmレーザーで励起させ、画像を、505−530BPおよび565−615BPフィルタを使って512×512ピクセル解像度で記録した。
【0139】
リアルタイムPCR
RNAを、TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)およびRNAlater(Qiagen, Valencia, CA)を製造元の手順に従って使い、J1細胞から単離した。オリゴ−dTプライミングされた逆転写を介して一本鎖cDNAを生成させ、分化のためのマーカーとして働く遺伝子を、Abi Prism 7700リアルタイムPCRサーモサイクラー(thermocycler)(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使って定量化した。β−アクチンを対照として使って、マーカー遺伝子Oct−4、VE−カドヘリン、VEGF−R2およびeNOSについて発現レベルを得た。PCR条件は、10分間95℃での変性と、その後40サイクルの20秒間94℃での変性ならびに1分間60℃でアニーリングおよび拡張とを伴った。J1細胞から単離したcDNAおよび上述の遺伝子のためのプライマーを、製造元の指示に従ってリアルタイム定量化用SYBR Green PCR Mastermix(Applied Biosystems)と混合した。使用したプライマーは、5'-ccaatcagcttgggctagag-3'(配列番号:1)および5'-ctgggaaaggtgtccctgta-3'(配列番号:2)がOct−4用;5'-accgagagaaacaggctgaa-3'(配列番号:3)および5'-agacggggaagttgtcattg-3'(配列番号:4)がVE−カドヘリン用;5'-ggacagtgctccaaccaaat-3'(配列番号:5)および5'-gttcacactgcagacccaga-3'(配列番号:6)がTIE−2用;5'-gctttcggtagtgggatgaa-3'(配列番号:7)および5'-ggccttccatttctgtacca-3'(配列番号:8)がVEGF−R2用;5'-tcttcgttcagccatcacag-3'(配列番号:9)および5'-cctatagcccgcatagcgta-3'(配列番号:10)がENOS用;5'-agccatgtacgtagccatcc-'3(配列番号:11)および5'-ctctcagctgtggtggtgaa-'3(配列番号:12)がβ−アクチン用であった。スルホトランスフェラーゼのプライマーおよび条件を選択した。遺伝子発現の相対的および正規化レベルを、式:2-(Ct(遺伝子)-Ct(β-アクチン))(式中、Ctは、各遺伝子の増幅が増幅の対数期内で任意の閾値を交差したサイクル数)により得た。遺伝子発現レベルを、さらに分化前の発現レベルに正規化した。
【0140】
HSGAGの単離および組成分析
細胞表面HSGAGフラグメントを、分化のさまざまな段階でJ1細胞から単離した。簡潔には、細胞をPBSで洗浄し、37℃で25分間トリプシン/EDTA(GibcoBRL)処理し、細胞表面プロテオグリカンを収集した。得られる細胞/トリプシン溶液を10分間煮沸し、トリプシンおよび他のタンパク質を失活させた。溶液を4500gで遠心分離し、上清を回収し、Centriprep-3(Amicon, Beverly, MA)で遠心分離することにより濃縮した。濃縮した上清を、0.15MのNaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化したultrafree−DEAE(Pharmacia, Piscataway, NJ)を通した。結合したHSGAGフラグメントを洗浄し、1.0MのNaClを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で溶出した。次いでフラグメントを濃縮し、緩衝液を、Microconフィルタ(分画分子量=3,000Da)へ適用することにより超純水に交換した。サンプルを、25mMの酢酸ナトリウムおよび1mMの酢酸カルシウム、pH7.0中でHep−IおよびHep−III(各lミリ単位(milliunit))の混合物と共に一晩徹底的に消化した。サンプルを、逆極性下で高感度フローセル(flow cell)を使って、50mMのTris/リン酸の泳動緩衝液(pH2.5)を用いて、キャピラリー電気泳動法により分析した。得られる単糖類の正体を、既知の基準物質との共移動性を基に決定した。
【0141】
ウェスタンブロット
細胞表面糖類の調節の下流で関与する生化学的経路を解明するために、胚様体のタンパク質含有物を、還元性条件下で3×SDSサンプル緩衝液を急速に混合することにより、可溶化した。サンプルあたり当量のタンパク質を、電気泳動的に4〜12%勾配ポリアクリルアミドゲルで分解し、ニトロセルロース(0.22μm)メンブレン上に移転した。このメンブレンを、続いて、ERKlおよび2のリン酸化形態を特異的に検出するホスホ−ERK抗体(1:800希釈、Cell Signal Technologies, Danvers, MA)でプローブ付けする。シグナルを、1:2000希釈の適切な西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(BioRad, Hercules, CA)を使って増幅し、免疫複合体を、強化化学発光検出法(Amersham Life Science, Piscataway, NJ)を使って可視化した。シグナルを、ERK1/2特異的抗体(Santa Cruz, Santa Cruz, CA、1:200希釈で使用)を使って同じブロットで検出した全ERK1/2の発現に対して正規化した。発光シグナルの定量化を、Kodak 2000R imagerにより行った。
【0142】
統計分析
統計的有意性を、スチューデントのt検定または一元配置分散分析、続いてDunnetsまたはFriedmanのPost-Hoc検定(Graphpad Prism 3ソフトウェア、Graphpad Software, San Diego, CA)を使って試験した。P<0.05が有意であると考えた。
【0143】
結果
ES細胞は内皮細胞集団へと有意に分化する
In vitroでの効率的な内皮細胞へのES細胞の分化の条件を最適化するために、ES細胞特異的および内皮細胞特異的マーカーの発現レベルを、異なる細胞培養条件下で分化の異なる段階で分析した。具体的には、細胞密度の効果、ECM含量(すなわち、ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、マトリゲル)、成長因子(すなわち、VEGF、FGF、HGFおよびインシュリン)の外からの添加、および異なる種類の血清(すなわち、Sigmaウシ胎仔血清(FBS)およびHyclone FBS)を試験した。
【0144】
最大30%の内皮細胞への分化をもたらした条件は、未分化細胞を、1.25×105細胞/100mmディッシュの濃度で、15%のHyclone FBS、30mMのβ−メルカプトエタノール、1mMのピルビン酸ナトリウムの存在下で、LIFなしで、さらに7〜15日継代することなく、ゼラチンBで被覆した組織培養ディッシュに播種することにより達成された。成長因子の外からの添加の効果は検出されなかったが、これは、FBS由来のまたはES細胞の自己分泌シグナルにより作られた成長因子の十分なレベルの存在によるものであろう。分析したES細胞特異的マーカーは、Octamer−4、Oct−4(Pesce, M., et al. (1998) Bioessays 20, 722-32)であり、分析した内皮細胞特異的マーカーは、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)(Sadler, J. E. (1991) J Biol Chem 266, 22777-80)、血管内皮成長因子受容体2(VEGF−R2)(Yamaguchi, T. P., et al. (1993) Development 118, 489-98)、血管内皮カドヘリン(VE−cad)(Lampugnani, M. G., et al. (1992) J Cell Biol 118, 1511-22)および内皮細胞特異的一酸化窒素合成酵素(eNOS)(Alderton, W. K., et al. (2001) Biochem J 357, 593-615)であった。
【0145】
分化中のES細胞におけるvWFの発現のフローサイトメトリー分析は、時間とともに検出可能なレベルのvWFを発現する細胞の比率の増加を示した(図6A)。同様に、分化中のES細胞の共焦点顕微鏡分析は、vWFタンパク質の発現レベルが分化中に増加し、7〜15日で最大に達することを示した(図6B)。常に、ES細胞マーカーであるOct−4の発現レベルは、時間と共に徐々に減少した(図6B)。この時間的に逆のvWFとびOct−4との発現は、内皮細胞集団への効率的なES細胞の分化を示した。vWFはまた、より低い程度ではあるが巨核球においても発現することから(Sadler, J. E. (1991) J Biol Chem 266, 22777-80)、上記の結果を、分化中の他の内皮細胞特異的マーカーであるVEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの一時的なトランスクリプトームの発現を分析することにより確認した。リアルタイムPCRの結果は、分化の誘導の7日後、Oct−4の転写物レベルの減少、およびVEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写物シグナルの増加を示した(図6C)。これらの結果は、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリー実験の結果と一致しており、内皮細胞集団への有意な分化を示唆する。
【0146】
HSGAG合成はES細胞の分化中に上方調節される
ES細胞の分化におけるHSGAGの役割を調査するため、分化中のHSGAGにおける組成変化を分析した。この目的のために、細胞表面HSGAGを分化の異なる段階で収集し、細胞数に対して正規化し、キャピラリー電気泳動法による含有二糖単位の組成分析の対象とした。未分化細胞に非常に低いレベルの検出可能なHSGAGが存在したにもかかわらず(3日目で)、分化に伴い硫酸化HSGAGの合計レベルの漸進的および劇的な増加があった(図9)。
【0147】
これらの結果をさらに確認するために、分化中のいくつかの重大なHSGAG生合成酵素の遺伝的発現における変化を調査した。哺乳類におけるHSGAGの生合成は、四糖連鎖(グルクロン酸−ガラクトース−ガラクトース−キシロース)のプロテオグリカンコアへの形成により開始された(Varki, et al. (1999) Essentials of Glvcobiology, Cold Spring Harbor, New York)。この四糖連鎖の初期形成後、グルクロン酸およびN−アセチル−グルコサミンのそれらのUDP糖ヌクレオチド前駆体からの交互添加により、反復型の1,4−結合二糖鎖を形成した。二糖鎖をさらに、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼおよび2−O、3−O、および6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ類が役割を果たす一連のスルホトランスフェラーゼ類により修飾した。これらのスルホトランスフェラーゼ類の多くの組織特異的アイソフォームおよび基質特異的アイソフォームが発見され、HSGAGの生合成のさらなる複雑性のレベルを示している(Lindahl, U., et al. (1998) J Biol Chem 273, 24979-82; Habuchi, O. (2000) Biochim Biophys Acta 1474, 115-27)。HSGAGにそれらの「シグナチャー」構造体を与えるのはスルホトランスフェラーゼ類であり、したがってこれらの酵素は、HSGAGの特定の構造体−機能関係の調節において重大である(Sasisekharan, R., and Venkataraman, G. (2000) Curr Opin Chem Biol 4, 626-31)。リアルタイムPCR分析を、2−O、3−Oおよび6−Oスルホトランスフェラーゼ類、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼおよびそれらのアイソフォームについて行った。この分析により、分化が時間に伴い進行するにつれて有意により高いレベルの全スルホトランスフェラーゼ転写物が存在することを実証し、HSGAGの組成分析からの結果を支持している(図10)。これらの結果はまた、ES細胞の分化におけるHSGAGの役割を示唆する。
【0148】
HSGAGは内皮細胞へのES細胞の分化を調節する
ES細胞分化におけるHSGAG構造の役割を細かく分析するために、分化中のES細胞細胞表面および細胞外のHSGAGの複数部分を、酵素的手法および薬理学的手法を使って修飾した。具体的には、分化中のES細胞を、Hep−IまたはHep−IIIと共に毎日30分間インキュベートし、構造的にはっきり異なる部位で細胞表面および細胞外マトリックス(ECM)HSGAGを開裂させるか、またはHSGAG生合成の薬理学的阻害剤である塩素酸ナトリウムで補足した培地で培養した(Safaiyan, F., et al. (1999) J Biol Chem 21 A, 36267-73)。Hep−1は、HSGAGを高硫酸化領域で開裂し、 Hep−III は、HSGAGを低硫酸化領域で開裂する (Linhardt, R. J., et al. (1990) Biochemistry 29, 2611-7; Godavarti, R., and Sasisefcharan, R. (1996) Biochem Biophys Res Commun 229, 770-7)。
【0149】
酵素分解の終了時に、酵素およびHSGAGフラグメントを含有する培地を、新しい培地と交換した。異なる時点で、内皮細胞へのES細胞の分化を、フローサイトメトリー、共焦点顕微鏡およびリアルタイムPCRを使ってモニタリングした。フローサイトメトリー分析により、異なる程度ではあるが、すべての処置がvWF因子の発現を阻害したことが明らかになった(図12A)。HSGAGを高硫酸化領域で開裂するHep−I、およびHSGAG生合成を阻害する塩素酸ナトリウムは共に、検出可能なレベルのvWFを発現する細胞の比率を約5分の1に減少させた。HSGAGを低硫酸化領域で開裂するHep−IIIはまた、より軽度であるにもかかわらず、約3倍の阻害効果を示した(図12B)。
【0150】
vWF発現に対するHep−I、Hep−IIIおよび塩素酸ナトリウム処置の阻害効果がまた、共焦点顕微鏡研究により確認された(図15A)。興味深いことに、処置のいずれも、分中の化細胞のOct−4レベルにおいて有意な効果を有しなかった(図15B)。これらの所見は、Hep−I、Hep−IIIまたは塩素酸ナトリウムによる処置は、ES細胞の分化を阻害しないが、具体的にはそれらの内皮細胞への分化を阻害することを示唆する。より重要なことに、塩素酸ナトリウム処理したES細胞への分化中のヘパリンの添加は、vWF染色の増加により検出されるように、内皮細胞への分化に有利に働く条件を再構成した(図15C)。
【0151】
リアルタイムPCR実験によりさらに、これらの所見が確認された。いずれの処置もOct−4転写物レベルに対して効果がなかったのに対し、Hep−Iおよび塩素酸ナトリウム処置は、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写物レベルを有意に減少させた(図19)。Hep−III処置もまた、VE−カドヘリンおよびeNOSの転写物レベルを減少させたが、驚くことに、VEGF−R2の転写物レベルを増加させた(図19)。細胞表現型におけるHep−IおよびHep−IIIの直交効果が、他でも報告されており(Liu, D., et al. (2002) Proc Natl Acad Sd USA 99, 568-73)、これらの結果は、HSGAGが構造特異的に内皮細胞へのES細胞の分化を調節することを示唆する。共焦点顕微鏡の結果と一致して、リアルタイムPCRの結果もまた、塩素酸ナトリウム処理したES細胞へのヘパリンの添加は、VEGF−R2、VE−カドヘリンおよびeNOS転写物レベルの増加により検出されるように、内皮細胞への分化に有利に働く条件を再構成した。
【0152】
HSGAGはMAPK経路を介してES細胞分化に対して影響を及ぼす
MAPK経路は、VEGF、FGF、HGF、EGF、PDGFおよびアンジオポイエチン類などのいくつかの血管形成因子のシグナルの下流集合点である(Sengupta, S., et al. (2003) Arterioscler Thromb Vasc Biol 23, 69-75)。内皮細胞増殖におけるこれらの因子の役割を考え(Le Querrec, A., et al. (1993) Baillieres Clin Haematol 6, 711-30)、HSGAG調節が分化ES細胞のMAPK経路に影響を与えるかどうかを調査した。図14および18に示すように、HSGAG修飾酵素であるHep−IまたはHep−III、または薬理学的阻害剤である塩素酸ナトリウムによる分化ES細胞の処置により、ERKl/2のリン酸化を阻害する。興味深いことに、この阻害は、外因性ヘパリンの添加により覆される。これらの結果は、MAPK経路がES細胞の分化にかかわり、HSGAGがこの経路の調節剤であることをを示唆する。
【0153】
考察
血管新生は、発生、生殖、組織再生および創傷治癒などの多くの生理的過程にかかわり、「血管形成スイッチ」を通じて高度に制御される(Folkman, J. (1997) Exs 79, 1-8; Zetter, B. R. (1988) Chest 93, 159S-166S)。しかしながら、異常血管新生は、多くの病態生理的状態の根底にある。例えば、糖尿病、高コレステロール血症および高齢において、内皮細胞機能障害および血管新生障害は、虚血組織をもたらし得る (Rivard, A., et al. (1999) Circulation 99, 111-20; Rivard, A., et al. (1999) Am J Pathol 154, 355-63; Van Belle, E., et al. (1997) Circulation 96, 2667-74)。これは、慢性の創傷に至らしめ得、全糖尿病の3%を超えて四肢の損失をもたらすか、または冠動脈疾患における心臓血管機能障害をもたらす。かかる場合には、内皮細胞の再生および移植は、患者の処置において治療上の意義を有する可能性がある。
【0154】
胚幹細胞が、in vitroおよびin vivoで、内皮細胞へ分化する可能性および血管様構造体を形成する可能性を示すことが実証されてきた(Levenberg, S., et al. (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99, 4391-6)。本明細書において、vWF、VE−カドヘリン、eNOSおよびVEGF−R2などの内皮特異的マーカーが、7〜15日にわたり内皮細胞へのES細胞の分化をたどるのに使われる。共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリー分析の両方が、幹細胞が徐々に内皮細胞へ分化することを示唆し、これはリアルタイムPCRデータにより支持された。加えて、共焦点顕微鏡により10日までに索状始原脈管構造体の形成を観察し、胚様体が、脈管形成および初期の血管形成の分子機構を研究するための興味深いモデルとしての役割を担うことを示す。
【0155】
内皮細胞への胚幹細胞の分化は以前から示唆されてきたが、この分化過程に影響を与える可能な因子について存在する知識は限定されていた。これらの因子および根底にある機構を解明するのを試みる他の研究は主として、トランスクリプトミクスおよびプロテオミクス手法が基礎となっている。本明細書中に提供された、分化内皮へのES細胞細胞におけるHSGAGの役割を、細かく分析した。実験は、酵素分解または生合成の阻害のいずれかによる分化中のES細胞のHSGAG部分の調節が、それらの内皮細胞への分化を阻害することを提供する。興味深いことに、未分化ES細胞の表面において低レベルのHSGAGが検出され、分化と共に高硫酸化HSGAGシグナルの漸進的増加があった。全体に、これらの所見は、HSGAG構成要素が、分化過程がどの細胞系統を産生するかの決定において役割を果たすこをと示唆する。
【0156】
分化中のES細胞のHSGAGにより影響を与える可能なシグナル経路を細かく分析するために、MAPK経路に対するHSGAG調節の効果もまた、研究した。MAPKは、多発性血管形成因子のシグナル伝達経路における重要な集合点であり、FGF、VEGF、HGF、EGF、PDGFおよびアンジオポイエチン類などのチロシンキナーゼ受容体リガンドを含む(Sengupta, S., et al. (2003) Arterioscler Thromb Vasc Biol 23, 69-75; Griffioen, A. W., and Molema, G. (2000) Pharmacol Rev 52, 237-68)。幹細胞の内皮細胞への分化を促進するためのこれらの因子のいくつかの可能性が記載されていて(Keller, G. M. (1995) Curr Opin Cell Biol 7, 862-9; Darland, D. C, and D'Amore, P. A. (2001) Curr Top Dev Biol 52, 107-49; Hirashima, M., et al. (1999) Blood 93, 1253-63)、すべてのこれらの因子は、HSGAGを二次リガンド結合部位として使うことができる(Keiser, N., et al. (2001) Nat Med 7, 123-8)。本明細書に記載の研究は、HSGAG分解酵素または塩素酸ナトリウムによる処置の後のERKリン酸化の阻害を示す。これは、HSGAGが内皮細胞へのES細胞の分化における上流のMAPK経路の調節剤であることを示す。
【0157】
特別な理論により束縛されることなく、MAPK経路を通じて作用する成長因子を通じてのパラクリンまたは自己分泌シグナルが、分化の結果として内皮細胞の豊富化へと至らしめ得ることが可能である。面白いことに、MAPK経路の阻害が、胚幹細胞の自己再生を促進するように記載されている(Qi, X., et al. (2004) Proc Natl Acad Sci USA 101, 6027-32)。MAPK経路は、幹細胞分化における役割を果たし、シグナル経路を選択的に無力にするために、VEGFRに対するPTK787、またはFGFRに対する抗体などの薬理学的阻害剤の使用を、さらなる研究のために使うことができる。
【0158】
本出願に列挙した上述の特許、特許出願および参考文献のそれぞれは、それらの全体を参考文献として本明細書に組み込む。現在好ましい態様を記載することにより、本願発明に従って、他の修飾、変化および変更を、本明細書に記載の教示を考慮して当業者に示唆する。したがって、すべてのかかる変化、修飾、および変更は、添付の請求の範囲に定義したように本願発明の範囲内に収まると信じる。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】内皮細胞への胚幹(ES)細胞分化に対するHSGAGの効果を概略する図である。
【図2】内皮細胞への胚幹細胞分化に対するHSGAGの効果の概要を示す図である。
【図3】ES細胞から他の細胞への分化のステップを概略する図である。
【図4】ES細胞の分化条件の最適化を概略する図である。
【図5】胚幹細胞が内皮細胞に分化することを実証するデータを提供する図である。
【0160】
【図6】内皮細胞への胚幹細胞分化を分析したデータを示す図である。
【図7】HSGAGプロファイルが変化するか否かを決定するために使うことができる方法を提供する図である。
【図8】HSGAGを調節し、次にES細胞の分化に影響を及ぼすために使うことができる方法を提供する図である。
【図9】分化中の細胞表面のHSGAGの変化を示すキャピラリー電気記録図である。
【図10】胚幹細胞が徐々に分化するのに伴うHSGAG合成酵素の発現の増加を実証するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフである。
【0161】
【図11】ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼIII、NaClO3、およびNaClO3+ヘパリンで処置した細胞におけるHSGAG酵素の発現レベルを測定するリアルタイムPCR分析からのデータを表すグラフである。
【図12】内皮細胞へのES細胞の分化におけるHSGAGの酵素的または薬理学的修飾の効果のフローサイトメトリー分析からの結果を示す図である。
【図13】ESの内皮細胞への分化に対するヘパリナーゼおよび塩素酸塩処置の効果を示す図である。
【図14】分化におけるグライコーム制御の効果、およびシグナル経路の関与を示す図である。
【図15】内皮細胞へのES細胞の分化に対するHSGAGの酵素的または薬理学的修飾の効果の共焦点顕微鏡分析からの結果を提供する図である。
【0162】
【図16】共焦点顕微鏡結果を提供する図である。
【図17】分化中のJlマウスES細胞におけるvWFおよびOct−4の発現を示す共焦点顕微鏡顕微鏡写真を提供する図である。
【図18】HSGAGにより調節されるシグナル経路の解明を示す図である。
【図19A】ESの内皮細胞分化に対する異なるグライコーム修飾処置の効果を説明する図である。
【図19B】ESの内皮細胞分化に対する異なるグライコーム修飾処置の効果を説明する図である。
【図20】特定のタンパク質を表す細胞の描画を提供し、HSGAGデータについていくつかの要点を提供する図である。
【0163】
【図21】再生細胞治療および癌治療に関するいくつかの関連を提供する図である。
【図22】胚幹細胞が内皮細胞へ分化することを示す結果を提供する図である。
【図23】内皮細胞への幹細胞の分化に対する細胞表面のグライコームの酵素的または薬理学的修飾の効果を説明する図である。
【図24】ESの内皮細胞分化に対するHSGAGの役割におけるMAPK経路の関与を示すウェスタンブロットからの結果を提供する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞分化を調節する方法であって:
幹細胞の微小環境を、内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量のグリコサミノグリカン(GAG)調節剤と接触させることを含む、
前記方法。
【請求項2】
GAG調節剤がGAG分解剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
GAG分解剤がヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)分解剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
HSGAG分解剤が細菌由来のHSGAG分解酵素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細菌由来のHSGAG分解酵素が、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼまたはN−スルファターゼまたはこれらのいくつかの組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
HSGAG分解剤が哺乳類のHSGAG分解酵素である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
哺乳類のHSGAG分解酵素が、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼまたはこれらのいくつかの組合せである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
GAG調節剤がGAGである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
グリコサミノグリカンがHSGAGである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
HSGAGが高硫酸化二糖を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
高硫酸化二糖が、I/G−HNS,3S,6S、I/G2S−HNS,3S、I/G2S−HNS,6S、I/G2S−HNH/Ac,3S,6S,またはI/G2S−HNS,3S,6Sである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
HSGAGが低硫酸化二糖を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
低硫酸化二糖が、I/G−HNH/Ac、I/G−HNS、I/G−HNH/Ac,3S、I/G−HNH/Ac,6S、I/G−HNS,3S、I/G−HNS,6S、I/G−HNH/Ac,3S,6S、I/G2S−HNH/Ac、I/G2S−HNS、I/G2S−HNH/Ac,3SまたはI/G2S−HNH/Ac,6Sである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
GAG調節剤が細胞によって発現され、該細胞が幹細胞微小環境と接触する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
細胞が、GAG調節剤を発現するようにまたは変化した発現を有するように操作されるか、あるいは両方に操作される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
GAG調節剤がHSGAG分解酵素である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞がGAG調節剤を過剰発現するよう操作される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
細胞がGAG調節剤の阻害された発現を有するよう操作される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
GAG調節剤が哺乳類の生合成酵素または生分解性酵素である、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
哺乳類の生合成酵素または生分解性酵素が、グリコシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
スルホトランスフェラーゼが、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ、2−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ、3−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼまたは6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
エンドグルクロニダーゼが、α−イズロニダーゼまたはβ−グルクロニダーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
スルファターゼが、ヘパラン−N−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼまたはN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
アセチルトランスフェラーゼが、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
GAG調節剤が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害する、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
GAG調節剤が、内皮細胞への幹細胞分化を促進する、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
細胞が哺乳類細胞である、請求項14〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
接触が、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞の幹細胞の培養物への添加により行われる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が二次元構造体または三次元構造体に共有結合または非共有結合し、GAG調節剤が結合したかまたはGAG調節剤を発現する細胞を有する該二次元構造または三次元構造体を、幹細胞微環境と接触させる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
幹細胞環境を追加のGAG調節剤と接触させることをさらに含む、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
方法がin vitro法である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
方法がin vivo法である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
GAG調節剤を、全身、局部、局所または部位特異的投与を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
GAG調節剤を、局部または部位特異的投与を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
幹細胞微小環境が血管形成を必要とする部位内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
幹細胞微小環境が血管形成の阻害を必要とする部位内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
幹細胞微小環境が虚血組織内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
幹細胞微小環境が関節内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
幹細胞微小環境が創傷内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が結合した二次元構造体または三次元構造体の体内移植または移植を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項30に記載の方法。
【請求項41】
体内移植または移植が部位特異的な体内移植または移植である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、静脈内または皮下投与を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
幹細胞が胚幹(ES)細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
幹細胞が全能性、多能性、造血、間葉系、神経または前駆幹細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
幹細胞が哺乳類の幹細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
哺乳類の幹細胞がヒト幹細胞である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
方法がさらに内皮細胞への幹細胞分化を評価することを含む、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
幹細胞分化を調節する方法であって:
幹細胞の微小環境を内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量のGAGの生合成または分解の経路を変える薬剤と接触させることを含む、
前記方法。
【請求項49】
薬剤がGAGの存在を阻害または促進する、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
薬剤がGAG生合成または分解の経路の阻害剤または活性剤である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
薬剤がGAG生合成経路の阻害剤である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
阻害剤が塩素酸ナトリウムである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
阻害剤がGAG生合成酵素と結合する、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
薬剤が、幹細胞が哺乳類の生合成酵素または生分解性酵素を発現するか、過剰発現するかまたは発現を阻害するよう幹細胞を遺伝子改変する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
細胞の集団の産生方法であり:
内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進するために幹細胞の微小環境をGAG調節剤と接触させること、および細胞の集団を得ることを含む、
前記方法。
【請求項56】
幹細胞の内皮細胞への分化を促進する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
内皮細胞が哺乳類の内皮細胞である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
哺乳類の内皮細胞がヒト内皮細胞である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
幹細胞の内皮細胞への分化を阻害する、請求項55に記載の方法。
【請求項60】
得られる細胞集団が、内皮細胞に乏しい、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
得られる細胞集団が、筋肉細胞、神経細胞または血液細胞を豊富に含む、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
接触が培養においてに行われる、請求項55〜61のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
請求項55〜61のいずれかから得られる細胞集団を含む組成物。
【請求項64】
薬学的に許容しうる担体をさらに含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
処置方法であり:
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または請求項63または64に記載の組成物を、対象に、対象を処置するのに有効な量において投与することを含む、
前記方法。
【請求項66】
対象がGAG調節剤による処置を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
対象が血管形成を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
対象が血管形成の阻害を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項69】
対象が、癌を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するのに有効な量である、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
対象が、神経変性障害または神経系損傷を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するのに有効な量である、請求項65に記載の方法。
【請求項71】
対象が、慢性の創傷を有し、GAG調節剤または組成物が、慢性の創傷を処置するのに有効な量である、請求項65に記載の方法。
【請求項72】
対象が虚血組織を有する、請求項65に記載の方法。
【請求項73】
対象が、糖尿病、高コレステロール血症、冠動脈疾患または関節炎を有する、請求項65に記載の方法。
【請求項74】
対象が高齢である、請求項65に記載の方法。
【請求項75】
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物を対象の関節に投与する、請求項65に記載の方法。
【請求項76】
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物を異常血管形成を有する領域に投与する、請求項65に記載の方法。
【請求項77】
対象が血液細胞、筋肉細胞または神経細胞の発生を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項78】
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害する、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
対象が哺乳類である、請求項65〜78のいずれかに記載の方法。
【請求項80】
哺乳類がヒトである、請求項79に記載の方法。
【請求項1】
幹細胞分化を調節する方法であって:
幹細胞の微小環境を、内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量のグリコサミノグリカン(GAG)調節剤と接触させることを含む、
前記方法。
【請求項2】
GAG調節剤がGAG分解剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
GAG分解剤がヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HSGAG)分解剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
HSGAG分解剤が細菌由来のHSGAG分解酵素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細菌由来のHSGAG分解酵素が、ヘパリナーゼI、ヘパリナーゼII、ヘパリナーゼIII、Δ4,5グリクロニダーゼ、2−Oスルファターゼ、3−Oスルファターゼ、6−OスルファターゼまたはN−スルファターゼまたはこれらのいくつかの組合せである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
HSGAG分解剤が哺乳類のHSGAG分解酵素である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
哺乳類のHSGAG分解酵素が、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼまたはこれらのいくつかの組合せである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
GAG調節剤がGAGである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
グリコサミノグリカンがHSGAGである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
HSGAGが高硫酸化二糖を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
高硫酸化二糖が、I/G−HNS,3S,6S、I/G2S−HNS,3S、I/G2S−HNS,6S、I/G2S−HNH/Ac,3S,6S,またはI/G2S−HNS,3S,6Sである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
HSGAGが低硫酸化二糖を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
低硫酸化二糖が、I/G−HNH/Ac、I/G−HNS、I/G−HNH/Ac,3S、I/G−HNH/Ac,6S、I/G−HNS,3S、I/G−HNS,6S、I/G−HNH/Ac,3S,6S、I/G2S−HNH/Ac、I/G2S−HNS、I/G2S−HNH/Ac,3SまたはI/G2S−HNH/Ac,6Sである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
GAG調節剤が細胞によって発現され、該細胞が幹細胞微小環境と接触する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
細胞が、GAG調節剤を発現するようにまたは変化した発現を有するように操作されるか、あるいは両方に操作される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
GAG調節剤がHSGAG分解酵素である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞がGAG調節剤を過剰発現するよう操作される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
細胞がGAG調節剤の阻害された発現を有するよう操作される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
GAG調節剤が哺乳類の生合成酵素または生分解性酵素である、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
哺乳類の生合成酵素または生分解性酵素が、グリコシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、ヘパラナーゼ、エンドグルクロニダーゼ、スルファターゼ、アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコサミニダーゼである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
スルホトランスフェラーゼが、N−デアセチラーゼ−N−スルホトランスフェラーゼ、2−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼ、3−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼまたは6−Oヘパラン硫酸スルホトランスフェラーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
エンドグルクロニダーゼが、α−イズロニダーゼまたはβ−グルクロニダーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
スルファターゼが、ヘパラン−N−スルファターゼ、N−アセチルグルコサミン−6−スルファターゼまたはN−アセチルグルコサミン−3−スルファターゼ類である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
アセチルトランスフェラーゼが、アセチル−coA:N−アセチルトランスフェラーゼである、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
GAG調節剤が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害する、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
GAG調節剤が、内皮細胞への幹細胞分化を促進する、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
細胞が哺乳類細胞である、請求項14〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
接触が、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞の幹細胞の培養物への添加により行われる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が二次元構造体または三次元構造体に共有結合または非共有結合し、GAG調節剤が結合したかまたはGAG調節剤を発現する細胞を有する該二次元構造または三次元構造体を、幹細胞微環境と接触させる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
幹細胞環境を追加のGAG調節剤と接触させることをさらに含む、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
方法がin vitro法である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
方法がin vivo法である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
GAG調節剤を、全身、局部、局所または部位特異的投与を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
GAG調節剤を、局部または部位特異的投与を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
幹細胞微小環境が血管形成を必要とする部位内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
幹細胞微小環境が血管形成の阻害を必要とする部位内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
幹細胞微小環境が虚血組織内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
幹細胞微小環境が関節内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
幹細胞微小環境が創傷内またはその付近にある、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞が結合した二次元構造体または三次元構造体の体内移植または移植を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項30に記載の方法。
【請求項41】
体内移植または移植が部位特異的な体内移植または移植である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
GAG調節剤またはGAG調節剤を発現する細胞を、静脈内または皮下投与を通じて幹細胞微小環境と接触させる、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
幹細胞が胚幹(ES)細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
幹細胞が全能性、多能性、造血、間葉系、神経または前駆幹細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
幹細胞が哺乳類の幹細胞である、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
哺乳類の幹細胞がヒト幹細胞である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
方法がさらに内皮細胞への幹細胞分化を評価することを含む、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
幹細胞分化を調節する方法であって:
幹細胞の微小環境を内皮細胞への幹細胞分化を調節するのに有効な量のGAGの生合成または分解の経路を変える薬剤と接触させることを含む、
前記方法。
【請求項49】
薬剤がGAGの存在を阻害または促進する、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
薬剤がGAG生合成または分解の経路の阻害剤または活性剤である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
薬剤がGAG生合成経路の阻害剤である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
阻害剤が塩素酸ナトリウムである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
阻害剤がGAG生合成酵素と結合する、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
薬剤が、幹細胞が哺乳類の生合成酵素または生分解性酵素を発現するか、過剰発現するかまたは発現を阻害するよう幹細胞を遺伝子改変する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
細胞の集団の産生方法であり:
内皮細胞への幹細胞分化を阻害または促進するために幹細胞の微小環境をGAG調節剤と接触させること、および細胞の集団を得ることを含む、
前記方法。
【請求項56】
幹細胞の内皮細胞への分化を促進する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
内皮細胞が哺乳類の内皮細胞である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
哺乳類の内皮細胞がヒト内皮細胞である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
幹細胞の内皮細胞への分化を阻害する、請求項55に記載の方法。
【請求項60】
得られる細胞集団が、内皮細胞に乏しい、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
得られる細胞集団が、筋肉細胞、神経細胞または血液細胞を豊富に含む、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
接触が培養においてに行われる、請求項55〜61のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
請求項55〜61のいずれかから得られる細胞集団を含む組成物。
【請求項64】
薬学的に許容しうる担体をさらに含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
処置方法であり:
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または請求項63または64に記載の組成物を、対象に、対象を処置するのに有効な量において投与することを含む、
前記方法。
【請求項66】
対象がGAG調節剤による処置を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
対象が血管形成を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
対象が血管形成の阻害を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項69】
対象が、癌を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するのに有効な量である、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
対象が、神経変性障害または神経系損傷を有し、GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害するのに有効な量である、請求項65に記載の方法。
【請求項71】
対象が、慢性の創傷を有し、GAG調節剤または組成物が、慢性の創傷を処置するのに有効な量である、請求項65に記載の方法。
【請求項72】
対象が虚血組織を有する、請求項65に記載の方法。
【請求項73】
対象が、糖尿病、高コレステロール血症、冠動脈疾患または関節炎を有する、請求項65に記載の方法。
【請求項74】
対象が高齢である、請求項65に記載の方法。
【請求項75】
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物を対象の関節に投与する、請求項65に記載の方法。
【請求項76】
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物を異常血管形成を有する領域に投与する、請求項65に記載の方法。
【請求項77】
対象が血液細胞、筋肉細胞または神経細胞の発生を必要とする、請求項65に記載の方法。
【請求項78】
GAG調節剤、GAG調節剤を発現する細胞または組成物が、内皮細胞への幹細胞分化を阻害する、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
対象が哺乳類である、請求項65〜78のいずれかに記載の方法。
【請求項80】
哺乳類がヒトである、請求項79に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19A】
【図19B】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2008−526258(P2008−526258A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551420(P2007−551420)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/001321
【国際公開番号】WO2006/076627
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/001321
【国際公開番号】WO2006/076627
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】
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