説明

細胞成長に対する高周波電磁場の効果及び腹腔鏡処置のための方法

本発明は、高周波/マイクロ波処置装置の使用、並びに細胞成長及び細胞生存に対するその効果に関し、より特定の実施形態では、子宮内膜症の細胞に対するその効果に関する。別の態様では、本発明は、隣接又は近接する細胞に対する有害な加熱・破壊効果を実質的に避けながら、所望の集団において細胞成長をもたらすための、高周波/マイクロ波エネルギーの使用に関する。該装置の使用、特定の処置計画、並びに細胞及び組織に対するエネルギー出力の制御により、ヒトの特定の細胞及び疾患、例えば、制御されていない又は有害な細胞成長を伴う疾患がもたらされ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年11月14日出願の米国仮出願第60/996,377号への優先権の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、組織の処置のための装置及び方法、並びに細胞に対するエネルギー移動の効果に関する。特定の一態様では、本発明は、高周波/マイクロ波処置装置の使用、並びに細胞成長及び細胞生存に対するその効果に関し、より特定の実施形態では、子宮内膜症の細胞に対するその効果に関する。別の態様では、本発明は、有害な加熱、及び隣接又は近接する細胞に対する破壊的な効果を実質的に避けながら、所望の集団において細胞成長をもたらすための、高周波/マイクロ波エネルギーの使用に関する。したがって、一態様では、本発明は、細胞及び組織へのエネルギー処置の制御に関する。以下に示すように、簡潔に言えば、細胞の集中的な処置により、細胞の増殖率の有意な低下、及び/又は細胞DNAの分解が生じる。ある種の細胞及び組織への効果に基づき、処置は、周囲の細胞の熱的破壊を避ける又は実質的に避けるように、設計又は制御することができる。処置の装置及び方法は、子宮内膜症を含むがこれに限定されないいくつもの疾患状態に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
高周波(RF)エネルギーへの曝露によって、生細胞への毒性効果を引き起こすための様々な方法が存在する。大抵、これらの処置に用いるRF電磁場は、細胞を熱し、結局、細胞死又は細胞損傷が生じる。細胞間及び組織内での熱移動を含むいくつかの理由で、この効果は一般的に比較的広い領域に渡り、特定の細胞に限定されるものではない。
【0004】
細胞増殖疾患の1つのタイプとして、子宮内膜症は、子宮内膜、すなわち子宮の内壁に似た組織が、子宮以外又は子宮の外側で成長することを特徴とするよくある病状である。この疾患には、世界中で推定9千万人の女性(普通は、妊娠したことのない30歳から40歳くらいの女性)が罹患している。その他の稀な症例では、子宮内膜症は、皮膚、肺、眼、横隔膜、及び脳組織でも見出されている。
【0005】
処置は一般的に手術によるものであり、代替手段としては、特に、腹腔鏡又は侵襲性が最小限の方法が望ましい。しかし、典型的なRF装置及び処置は特異的ではなく、副作用を有し、細胞成長に対する制御された効果を利用していない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様では、増殖又は損傷している細胞を処置する改善された方法に対する必要性を満たす。その他の態様では、本方法は、細胞損傷を引き起こし、細胞の特定のセット又は組織における修復を誘導するために使用することができる。したがって、様々な細胞処置の方法及び計画を、本発明の範囲に含めることができる。部分的には、これらの処置は、処置される細胞に対するある種の効果、すなわち、組織内で制御し、大きさ及び広がりを制限することができる効果の認識に基づいている。別の態様では、本発明の方法は、細胞及び組織に対する、高周波/マイクロ波処置の効果の測定に関する。別の態様では、本発明は、細胞の成長又は増殖を低下させる処置に関する。
【0007】
より特定すれば、本発見は、高周波/マイクロ波(RF/EMF)電磁場による、子宮内膜症細胞、間質細胞、及び線維芽細胞の処置が、それらの増殖能及びコロニー形成能を阻害することを示す。したがって、RF/MW処置は、子宮内膜症の病変の腹腔鏡処置、老化又は損傷した皮膚の処置、並びにヒト及び動物の同様の処置を含む、様々な細胞及び組織を処置方法するための重要な手段及び方法となり得る。
【0008】
この開示全体に渡って、出願人は、雑誌論文、特許文書、出版文献、ウェブページ、及びその他の情報源を参照している。当業者は、引用された任意の情報源の全内容を使用して、本発明の態様を作り、使用することができる。引用されたあらゆる情報源は、その全体が参照により本明細書に明確に組み込まれる。これらの情報源の一部は、許容又は要求されたとき、本文書に含めることができる。しかし、本開示で明確に定義又は説明された、全ての用語又は表現の意味は、いかなる情報源の内容によっても変更してはならない。以下に続く説明及び実施例は、本発明の範囲及び本文書の内容の、単なる典型的な例であり、本発明の範囲を限定するものではない。実際に、当業者は、本発明の範囲から逸脱しなければ、以下に記載の実施例への多くの変更を考案し、構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】様々な時間のMWエネルギーによる処置から8時間後に測定した増殖細胞の%を示すグラフである。子宮内膜(EM Che−1)細胞を、正常な子宮内膜細胞及び皮膚線維芽細胞と比較する。
【図2】様々な時間のMWエネルギーによる処置から72時間後に測定した増殖細胞の%を示すグラフである。同じように、子宮内膜(EM Che−1)細胞を、正常な子宮内膜細胞及び皮膚線維芽細胞と比較する。3秒以上処置した後に存在する増殖細胞の割合(%)は、非常に低く、3〜5秒のこの処置が、当該条件下で増殖を阻害するのに十分であることを示している。
【図3】対照処置後の培養細胞を示す図である。
【図4】2秒のMW処置後の培養細胞を示す図である(2s)。
【図5】5秒のMW処置後の培養細胞を示す図である(5s)。
【図6】対照処置後の培養細胞を示す図である。
【図7】2秒のMW処置後の培養細胞を示す図である(2s)。
【図8】5秒のMW処置後の培養細胞を示す図である(5s)。
【図9】対照(図9A)とMW処置した(図9B)細胞におけるコロニー形成能の対比を示す図である。
【図10】対照処置の細胞、MWで1秒間(1s)、2秒間(2s)、及び3秒間(3s)処置した細胞から分離したゲノムDNAのゲル電気泳動を示す図である。マーカーDNA(M)は左に示されている。DNAの顕著な分解は、特に2秒及び3秒のバンドに見ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一態様では、本発明は、子宮内膜症細胞及び線維芽細胞を含む様々な細胞型に対するRF/MWエネルギーの使用に関する。子宮内膜症の細胞系EM.Che−1、正常な子宮内膜の間質細胞、及びヒト皮膚線維芽細胞を、10%FCS、L−グルタミン及び抗生物質を含むDMEM培地で培養する。RF/MW処置のために、Nymax装置(係属中の出願PCT/EP2007/059486又はUS11/882,453に記載のような装置)を細胞処置のために使用する。細胞を96穴マイクロプレートで成長させ、様々な時間、所望エネルギーの電磁場(2450MHz)に曝露する。経時/経日的な細胞成長の進行、経時的なコロニー形成能、及びDNA断片化の発生を評価する。BrDU取込みアッセイ、MATRIGEL膜中での三次元細胞成長法、及び細胞DNAの電気泳動を含む様々な方法を、処置した細胞におけるこれらの特徴又は効果を測定するために使用することができる。
【0011】
処置後、3時間、24時間及び49時間培養した後の、処置したEM.Che−1細胞、間質細胞及び皮膚線維芽細胞の成長曲線は、増殖率の有意な低下を示す。EM.Che−1細胞の成長阻害は、間質細胞及び皮膚線維芽細胞の成長阻害と比べて強かった。さらに、処置からおよそ8日後に評価し、対照と比較したEM.Che−1細胞のコロニー形成能は、処置(3秒)後に、42%±3減少した。
【0012】
本明細書に記載の処置方法は、Chapronら(Hum Reproduct.14:329−332(1999))に記載のような子宮内膜症の処置、並びにPCT/EP2007/059486又はUS11/882,453に記載のような皮膚の染み及びしわの処置を含む、多くのヒト及び動物の処置計画に組み込むことができる。増殖細胞の選択的破壊を伴う癌などのその他の状態にも、本明細書に記載の方法は有益になり得る。
【実施例】
【0013】
(例1)子宮内膜症細胞培養モデル
【0014】
Em Che−1と命名したヒト細胞系は、35歳の患者に由来する腹膜小結節の生検から入手する。この細胞を、基底膜基質(MATRIGEL(商標)基底膜マトリックス;BD Biosciences)上で、10%FCS、L−グルタミン及び抗生物質を含むDMEM中で成長させる。この細胞は、間質様の接着細胞形態を示し、マトリックス中でコロニーを形成する能力を有する。この細胞は異常な核型に類似しているが、サイトケラチン8、9、18のマーカータンパク質、エストロゲン受容体(ER)、及びプロゲステロン受容体(PR)の安定した発現量を有する。この細胞は図4及び5に示す。
【0015】
(例2)子宮内膜症細胞培養モデル
【0016】
培養した自己の子宮内膜間質細胞(図7及び8に示す)を、10%FCS、L−グルタミン及び抗生物質が追加されたDMEM培地中で維持する。
【0017】
ヒト皮膚線維芽細胞(図3及び6)も、MW処置に使用でき、増殖する子宮内膜細胞と比較するときの対照用に使用することができる。
【0018】
細胞増殖率は、例えばTACS(商標)XTT細胞増殖アッセイ(Trevigen社)などの、当技術分野で知られているアッセイを使用して確立することができる。同様に、コロニー形成能は、MATRIGEL(商標)(BD Biosciences)中で培養することによって決定でき、細胞DNAの断片化は、分離したゲノムDNAの標準的なゲル電気泳動を使用して評価することができる。
【0019】
RF/MW曝露系
【0020】
(係属中の出願PCT/EP2007/059486又はUS11/882,453に記載のような)RE/MW処置装置を使用することにより、手持ち型バイポーラプローブを通る非常に正確なエネルギー移動が可能になる。細胞を96穴プレート中でサブコンフルエント状態まで維持し、例えば、約1秒から約12.5秒の範囲の様々な時間で、平均出力10Wの2.45GHzに曝露することができる。典型的なエネルギー送達量は、約5から約125ジュールの間とすることができる。
【0021】
結果
【0022】
細胞成長に対するRF/MWの効果
【0023】
異なる時間(0から5秒間)、RFに曝露した後、EM.Che−1子宮内膜症細胞、自己の子宮内膜間質細胞、及びヒト皮膚線維芽細胞の成長曲線(8時間及び76時間後、図1及び2)は、増殖率の有意な低下を示した。図3〜8における細胞の顕微鏡写真は、同じ結果を示している。図9A及び9Bの顕微鏡写真においてコロニー形成能を比較すると、MW処置をした子宮内膜症細胞(9B)は、処置していない子宮内膜症細胞と比較したとき、25から125ジュールの処置から8日後に、コロニー数の顕著な減少を示す。従来の方法を用いてゲノムDNAを単離し、ゲル電気泳動によりDNAを分離することによって、細胞ゲノムDNAの分解を測定することができる。典型的な結果を、図10のゲル中のバンドの比較により示す。
【0024】
腹腔鏡処置
【0025】
当技術分野で利用できる装置(例えば、Karl Storz、テュービンゲン、ドイツを参照されたい)などの腹腔鏡処置装置を使用して、処置中及び処置後の、細胞に対する効果を可視化し、最適な処置計画をモニターすることができる。この装置は、上記のRF/MW処置装置と併せて使用することができる。子宮内膜症細胞を示す蛍光プローブも、特定の処置部位を可視化できるように、この処置に加えることができる。
【0026】
上述の実施例及び本出願の内容は、本発明に包含される多くの方法、処置計画、ヒトの処置、及び細胞測定法のほんのいくつかの例を明示し、説明している。追加の産物、装置及び方法を、本発明に従って作り、又は使用することができる。いかなる実施例及び説明の一部も、本発明全体の範囲、又は以下の請求項の意味する範囲を限定するものと見なすべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1秒から15秒の所望の時間で平均出力10Wの約2.45GHz、又は約5から約125ジュール、のうちの1つ又は複数のRF/MWエネルギーで細胞を処置するステップと、
経時的な細胞の成長又は増殖の低下、コロニー形成能、又はゲノムDNA分解、のうちの1つ又は複数を測定するステップと
を含む、細胞増殖を防止するために細胞を処置する方法。
【請求項2】
バイポーラ装置から細胞にRF/MWエネルギーを照射するステップと、
経時的な細胞の成長又は増殖の低下、コロニー形成能、又はゲノムDNA分解、のうちの1つ又は複数を測定するステップと
を含む、細胞に対する細胞成長阻害性RF/MW処置を判定するための方法。
【請求項3】
RF/MW放射装置を用意するステップと、
約5から約125ジュールを送達するステップとを含み、それによって細胞の成長能又はコロニー形成能が低下する、子宮内膜症を処置する方法。
【請求項4】
侵襲性が最小限の技法を用いて、前記放射装置を身体に挿入する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
腹腔鏡手術用の細管に組み込まれた、MW放射用の手持ち型バイポーラチップを含み、約25から約125ジュール、又は1から15秒間で約10Wの約2.54GHzを送達できる、子宮内膜症又は細胞増殖疾患を処置するためのMW放射装置。
【請求項6】
ヒトにおける子宮内膜症の腹腔鏡処置用に構成された、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
RF/MWエネルギーを送達する装置が、ヒトにおける腹腔鏡手術用に構成されており、これによって、処置により子宮内膜症に関連する増殖細胞に細胞損傷が生じる、それを必要とする患者において子宮内膜症を処置するための、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
蛍光又は自家蛍光化合物で、細胞又は組織を処置することをさらに含み、それによって処置領域又は細胞が蛍光で示される、請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−502671(P2011−502671A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533606(P2010−533606)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065620
【国際公開番号】WO2009/063083
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510132509)ルネウェーブ メディカル システムズ エスエイ. (1)
【Fターム(参考)】