説明

細胞損傷の治療法

本発明は一般に、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法、およびこれに有用な薬剤に関する。さらに詳細には、本発明は、細胞内におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節することで、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を調節する方法に関する。本発明の方法は、とりわけ、高血糖を特徴とするコンディション、および/または真性糖尿病そのものに関連する、血管内皮細胞の有害な機能の治療および/または予防に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法、およびこれに有用な薬剤に関する。さらに詳細には、本発明は、細胞内におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節することで、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を調節する方法に関する。本発明の方法は、とりわけ、高血糖を特徴とするコンディション、および/または真性糖尿病そのものに関連する、血管内皮細胞の有害な機能の治療および/または予防に有用である。
【背景技術】
【0002】
本明細書で発明者らによって言及された出版物の書誌的詳細は、本明細書の最後にアルファベット順にまとめた。
【0003】
本明細書における任意の先行技術に関する言及は、そのような先行技術が、オーストラリアにおける共通の一般的な知識の一部を構成することを認めたこと、または何らかの示唆を行うことであると理解されないし、かつ理解されるべきではない。
【0004】
真性糖尿病(diabetes mellitus)は、血液中および尿中の両方におけるグルコースレベルの上昇を生じる糖質代謝異常を特徴とする。人体がグルコースを適切に代謝できなくなることは、インスリン分泌の異常、またはインスリンの使用に起因する。インスリンは、小島(islet)中のβ細胞によって産生され、および身体がグルコースをエネルギー源として使用することを可能とする。この過程が起こらないと、身体は体脂肪などの代替的なエネルギー源を使用することで補う。しかしながら、これは広範な脂肪代謝の発生のために、血糖値が急上昇し、および血流中にケトン体が蓄積する。
【0005】
糖尿病は大きく、1型糖尿病と2型糖尿病と呼ばれる2群に分類される。1型糖尿病(小児期または青年期早期に発症することから若年発症性糖尿病としばしば呼ばれる)は、インスリンを産生する小島β細胞の選択的な破壊に起因する消耗性の自己免疫疾患である。その発症は突然であり、および典型的には20歳前に発症する。しかしながら今日では、1型糖尿病は成人に増えつつある。同疾患は、β細胞の機能の欠損、およびインスリンの非産生を特徴とし、このためインスリン療法が必要となる。しかしながら、2型糖尿病は、肥満および他の代謝疾患をしばしば伴う、身体がインスリンを適切に使用できなくなるコンディションであるインスリン耐性を特徴とする。明白な症状が観察されない場合が多い。インスリン分泌障害は、病因に差があるにもかかわらず、1型および2型の糖尿病の両方において、疾患のごく初期に明らかとなる。
【0006】
微小血管と巨大血管の両方に影響を及ぼす糖尿病性の血管合併症は、1型および2型の糖尿病の患者に見られる障害および死亡の主な要因である。糖尿病は現在、冠血管、脳血管、および末梢のアテローム硬化性疾患の発症の強力かつ独立したリスク因子であると認識されている(Beckman et al., 2002, JAMA 287:2570-2581)。複数の大規模前向き臨床試験および疫学的研究では、集中的血糖コントロールによって、糖尿病性の微小血管疾患の発生または進行を抑制可能なことも報告されており(The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. 1993 N. Engl. J. Med. 329:977-986;UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. 1998. Lancet 352:837-853)、高血糖が血管病変を引き起こす際に牽引的な役割を果たすことがわかっている。したがって、高血糖によって血管病変に至る機構を深く理解することは、糖尿病患者の臨床転帰を改善するための治療戦略に大きな影響を及ぼすと考えられる。したがって、高血糖状態の発生が、細胞損傷、特に内皮細胞の損傷に影響を及ぼす機構の詳細を明らかにすることは依然として必要である。
【0007】
本発明に至る研究では、高血糖状態の発生に関連する、内皮細胞の有害な転帰が実際には、高血糖が介在するスフィンゴシンキナーゼ活性のアップレギュレーションに起因することが明らかにされた。この細胞シグナル伝達機構の詳細な研究により、今日では、糖尿病などの高血糖を特徴とするコンディションに関与する有害な血管機能の治療に関する方法の合理的な設計に弾みがついている。
【発明の開示】
【0008】
本明細書および請求項の全体を通して、文脈上で他の意味に解すべき場合を除き、「〜を含む(comprise)」、ならびに「〜を含む(comprises)」および「〜を含む(comprising)」などの類似表現は、記載された整数もしくは段階、または一群の整数もしくは段階が含まれるが、任意の他の整数もしくは段階、または一群の整数もしくは段階は除外されないことを意味すると理解される。
【0009】
本件は、文献情報の後に記載された、プログラムPatentInバージョン3.1で作製されたヌクレオチド配列情報を含む。個々のヌクレオチド配列は配列表で、数値の表示<210>と、これに続く配列識別子(例えば、<210>1、<210>2など)によって指定される。個々のヌクレオチド配列の長さ、配列のタイプ(DNAなど)、および供給源となる生物は、それぞれ<211>、<212>、および<213>の数値表示フィールドに提供された情報によって記載される。本明細書で言及されたヌクレオチド配列は、「SEQ ID NO:」と、これに続く配列識別子(例えばSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2など)という表記で記載される。本明細書で言及される配列識別子は、配列表の数値表示フィールド<400>に提供される情報と、これに続く配列識別子(例えば、<400>1、<400>2など)に関連づけられる。すなわち、本明細書で詳述されるSEQ ID NO:1は、配列表で<400>1と記載された配列と関連づけられる。
【0010】
本発明の1つの局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法に関する。
【0011】
本発明の別の局面は、より好ましくは、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を調節する方法を提供する。
【0012】
本発明のさらに別の局面は、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに別の局面は、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能をダウンレギュレートする段階を含む、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能不全をダウンレギュレートする方法に関する。
【0014】
関連する局面では、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、哺乳類における高血糖誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法に関する。
【0015】
本発明の別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を調節する方法を提供する。
【0016】
本発明の別の局面は、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能をダウンレギュレートする段階を含む、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法を提供する。
【0017】
本発明のさらに別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性を調節する段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法に関する。
【0018】
本発明のさらに別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性を調節する段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法に関する。
【0019】
本発明のさらに別の局面は、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性をダウンレギュレートする段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法に関する。
【0020】
本発明はさらに、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性をダウンレギュレートする段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を特徴とする、糖尿病の症状の治療法および/または予防法を提供する。
【0021】
本発明の別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類における高血糖誘発性の内皮細胞の機能の調節用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節可能な薬剤の使用に関する。
【0022】
本発明のさらに別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能の調節用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節可能な薬剤の使用に関する。
【0023】
本発明のさらに別の局面は、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能の調節用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレート可能な薬剤の使用に関する。
【0024】
さらに別の局面では、本発明は、既に定義された調節薬剤を、1種類もしくは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤とともに含む薬学的組成物を想定している。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は部分的には、高血糖誘発性の内皮細胞の機能には、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達が介在するという決定に基礎を置いている。この開発によって今日、高血糖を特徴とする病的コンディション、および/または真性糖尿病そのものと関連する内皮細胞の有害な機能的転帰を治療するための治療法および/または予防法の合理的な設計が可能となっている。
【0026】
したがって、本発明の1つの局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法に関する。
【0027】
「内皮細胞」という表現は、血管、リンパ管、または体液が満たされた空胞などの他の漿膜腔を裏打ちする内皮細胞を意味すると理解されるべきである。「内皮細胞」という表現は、内皮細胞の変異体を意味するとも理解されるべきである。「変異体」は、遺伝的に修飾された細胞などの、天然または非天然に修飾された内皮細胞を含むが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の内皮細胞は、発生の任意の分化段階にある可能性があるとも理解されるべきである。したがって、内皮細胞系列に分化することが決定されてはいるものの、細胞は未成熟な場合があるので、CD34+前駆細胞などに、さらに分化することなしには完全に機能するわけではない。好ましくは、対象となる内皮細胞は血管内皮細胞である。
【0029】
したがって本発明は、より好ましくは、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を調節する方法を提供する。
【0030】
内皮細胞の「機能」という表現は、内皮細胞が発揮可能な任意の1つもしくは複数の機能活性を意味すると理解されるべきである。これは例えば、増殖、分化、遊走、細胞表面分子の発現、サイトカイン刺激に対する感作、炎症誘導性サイトカインの産生、好中球との結合、炎症、および/または血管形成を含む。本発明と関連して、高血糖状態の誘導が、スフィンゴシンキナーゼの活性のアップレギュレーション、ひいては内皮細胞の有害な機能の発現、特に網膜、糸球体、末梢神経、心血管組織、創傷治癒、および妊娠に影響を及ぼす糖尿病性血管障害の発症などの、特に血管内皮の機能不全をもたらすことが確認されている。糖尿病性血管障害の例は、細胞表面接着分子のアップレギュレーション(炎症およびアテローム動脈硬化症を含む、いくつかの転帰に至る場合がある)、ならびにこれに続く血管病変の形成を含む。
【0031】
「高血糖に伴う(hyperglycaemia-induced)」内皮細胞の機能という表現は、対象細胞の細胞外環境における高血糖状態の出現によって誘導される、内皮細胞の任意の1つもしくは複数の機能を意味すると理解されるべきである。「高血糖性の〜」という表現は、対象となる細胞環境で一般に観察されるより高いグルコース濃度を意味する。このため、対象の高血糖状態は、局在状態または全身状態である可能性があると理解されるべきである。高血糖状態が糖尿病に起因する限り、高血糖状態は全身性である(具体的には、高い血中グルコースレベル)。任意の細胞環境に関する「正常な」レベル、または「正常な」観察という表現は、正常なグルコース代謝を示す個体の置かれた対応する細胞環境で見られるグルコースのレベルを意味する。この点に関しては、哺乳類の正常な全身グルコース代謝は、哺乳類の栄養摂取に関してグルコースレベルが多様であることを特徴とする。したがって、哺乳類における正常レベルのグルコースは、インスリン分泌に対して連続周期を形成するレベルの範囲と相関することになる。高血糖レベルは、グルコース代謝のこの一定の周期に関して考慮する場合に、上記の正常範囲を上回るレベルである。類似の定義は、局所的なグルコースレベルに関して適用されると理解されるべきである。一般に、血中グルコースレベル(すなわち全身レベル)は、当業者に周知のグルコース負荷試験により、空腹時のグルコースレベルに対して計算される。この試験では、摂取されたグルコース量に対する個体の反応が実際に高血糖反応であるか否かの正確な尺度が得られる。状況によっては、正常な標準レベルが、本発明の方法で処置される対象に対する、関連コホートの1人もしくは複数の対象から決定されるレベルであることが好ましい場合があるとも理解されるべきである。「関連コホート」という表現は、治療対象の特徴でもある1つもしくは複数の特性を特徴とするコホートを意味する。これらの特性は例えば、年齢、性別、民族、または健康状態を含むが、これらに限定されない。
【0032】
高血糖状態によって誘導される内皮細胞の機能活性は、血管病変の形成に至る反応などの完全に異常な反応と相関する可能性があるほか、または正常な生理学的反応と実際に相関するが、それでも望ましくない反応である可能性があると理解されるべきである。例えば、多くの高血糖性エピソードでは、血管炎症反応の1つもしくは複数の局面が観察される。状況によっては、これは正常な反応と実際に相関する可能性がある。しかしながら、このような反応が望ましいか否かは、高血糖イベントの要因に大きく依存する可能性が高い。高血糖イベントが異常なインスリン産生またはインスリンの作用に起因する限りは、後の炎症反応は生理学的に正常であるが、それでも極めて望ましくない可能性がある。したがって本発明は、生理学的に正常な反応か、または完全に異常かつ破壊的な反応と相関するか否かに関わりなく、高血糖イベントによって誘導されるが望ましくない反応である血管内皮の機能的反応をダウンレギュレートする手段を提供する。
【0033】
本発明は最も好ましくは、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法を提供する。
【0034】
本研究は、スフィンゴシンキナーゼが、STZ誘導性糖尿病のラットに由来する心血管組織(大動脈および心臓)では増加することを証明する。さらに、糖尿病ラットで正常血糖がインスリン投与によって達成される際は、スフィンゴシンキナーゼ活性の亢進は完全に妨げられる。糖尿病に伴う、インスリン投与後の血管系におけるスフィンゴシンキナーゼ活性の亢進の、この可逆性は、これまで不明であった分子機構が高血糖性損傷の基礎であることを意味するだけでなく、糖尿病患者における血管病変の予防のための薬物療法の標的になることも意味する。
【0035】
本発明を任意の1つの理論または作用様式に制限することなく、インビボにおけるスフィンゴシンキナーゼの、インスリン誘導性の阻害の機構は、細胞内/細胞外のグルコース濃度の低下と関連すると考えられる。この考え方はさらに、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼの活性化に高グルコースが直接的に作用するが、インスリンそのものには、インビトロにおける酵素活性に対する阻害作用は無いことを示すインビトロ研究によって明らかにされている。HUVECまたはBAECを長期の高グルコースコンディションで処理すると、スフィンゴシンキナーゼ活性だけでなくS1Pの産生も顕著に増加する。グルコースのこの作用は時間に依存し、スフィンゴシンキナーゼ活性およびS1P産生の増加は処理の3日後に明らかとなる。短期間(数分〜<3日)では、スフィンゴシンキナーゼ活性またはS1P産生に有意な変化は観察されないことから、高グルコースの長期作用性がわかる。内皮細胞とは異なり、大動脈平滑筋細胞は、高グルコースコンディションでスフィンゴシンキナーゼ活性に有意な変化をもたらさない正常な細胞内グルコース濃度を維持することができる。さらに、代謝されない22 mmol/LのL-グルコースまたはマンニトールは、スフィンゴシンキナーゼを活性化できないか、またはS1P産生に作用できないことから、高血糖が、主に細胞内におけるD-グルコースの過剰な細胞代謝物によって、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼの活性化に特異的な作用を及ぼすことがわかる。
【0036】
したがって、本発明の別の局面は、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能をダウンレギュレートする段階を含む、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能不全をダウンレギュレートする方法に関する。
【0037】
好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、血管障害を生じる内皮細胞における細胞異常であり、および、さらにより好ましくは、内皮細胞表面における接着分子の発現のアップレギュレーション、内皮透過性の上昇、血管再生、収縮、および血流の異常、凝固異常、または血管炎症である。
【0038】
関連する局面では、糖尿病の発症そのものが、内皮細胞の有害な機能を誘導することも明らかにされている。糖尿病の特徴である高血糖は、内皮細胞の有害な機能を誘導することが確認されているものの、これが内皮細胞の有害な機能を引き起こす唯一の引き金ではないことも明らかにされている。むしろ糖尿病は、内皮細胞の有害な機能、およびこれに続く血管合併症のいくつかの他の引き金を提供する。
【0039】
したがって、本発明の関連する局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、糖尿病によって誘導される内皮細胞の機能を調節する方法に関する。
【0040】
好ましくは、このような内皮細胞は血管内皮細胞である。
【0041】
より好ましくは、内皮細胞の機能はダウンレギュレートされ、および内皮細胞の有害な機能は、血管障害を生じる細胞異常であり、ならびに、さらにより好ましくは、細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、内皮透過性の上昇、血管再生、収縮、および血流の異常、凝固異常、または血管炎症である。
【0042】
「糖尿病」という表現は、生物学的に正常なグルコースレベルを維持するために産生されるインスリンのレベルおよび活性が不十分であるコンディションを意味すると理解されるべきである。既に詳述したように、本発明の対象となる糖尿病は、島細胞(islet cell)の先天性欠損、膵臓β細胞に対する自己免疫反応の発生(例えば1型糖尿病/IDDM、成人における潜在性自己免疫性糖尿病すなわちLADAと呼ばれることもある緩徐進行性の成人発症型IDDM)、食事因子もしくはストレスに起因するインスリンの作用および島細胞の機能の欠損(例えば2型糖尿病/成人発症型糖尿病、非インスリン依存性の真性糖尿病、NIDDM)、物理的損傷によって引き起こされる損傷などがあるが、これらに限定されない島細胞の損傷、いくつかの非自己免疫性コンディションの任意の1つによる、または無関係の疾患コンディションの発症もしくは治療の副作用としての島細胞の変性のいずれかに起因する可能性がある。したがって、本明細書で言及される「糖尿病」は、1型糖尿病、2型糖尿病、および妊娠性糖尿病を含む他の糖尿病コンディションを含む。
【0043】
「スフィンゴシンキナーゼ」という表現は、あらゆる形状の同タンパク質、ならびに、その機能的誘導体および相同体を意味すると理解されるべきである。これは例えば、対象となるスフィンゴシンキナーゼのmRNAの選択的スプライシングによって生じる任意のイソ型、または、これらのタンパク質の機能性変異体もしくは多型性の異型を含む。例えば、この定義は、イソ型であるスフィンゴシンキナーゼ-1およびスフィンゴシンキナーゼ-2に拡張される。
【0044】
「スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達」という表現は、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の一方もしくは両方、またはこれらの機能的誘導体または相同体を利用する細胞内シグナル伝達経路を意味すると理解されるべきである。スフィンゴシンキナーゼは、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の活性における重要な調節酵素であり、および内因性のスフィンゴ脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸を産生するように機能する。さらに、本発明をいかなる様式においても制限することなく、スフィンゴシンキナーゼおよびスフィンゴシン-1-リン酸は、ERK1/2がスフィンゴシンキナーゼをリン酸化して活性化するように作用するシグナル伝達カスケードの一部であると考えられている。同様にPKCも、スフィンゴシンキナーゼの活性化に役割を果たすことが知られているが、PKCはERK1/2を介して作用すると考えられている。究極的には、このシグナル伝達経路は、多くの炎症性遺伝子のプロモーター領域に対するNK-κBの結合活性の亢進に至るであると考えられている。
【0045】
既に詳述したように、高血糖患者で観察される内皮細胞の有害な機能活性が、グルコースレベルの上昇によって誘導されるスフィンゴシンキナーゼの活性の亢進の結果であることがわかっている。したがって、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の「機能」を調節するという表現は、スフィンゴシンキナーゼの濃度そのものに対して、任意の細胞に存在するスフィンゴシンキナーゼ活性のレベルを調節することを意味すると理解されるべきである。スフィンゴシンキナーゼの細胞内濃度の低下は一般に、細胞で観察されるスフィンゴシンキナーゼの機能活性のレベルの低下と相関するが、当業者であれば、活性のレベルの低下が、細胞内におけるスフィンゴシンキナーゼの絶対濃度を単に低下させる以外の手段によって達成され得ることも理解するであろう。例えば、スフィンゴシンキナーゼの半減期を短縮させたり、同分子とその基質の結合を立体的に阻害したりする手段を利用することができる。
【0046】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の調節、特にそのダウンレギュレーションという表現が、このシグナル伝達経路の活性が生理学的に正常なレベルに戻る必要があることを必ずしも意味しないことも理解されるべきである。むしろ、このレベルは、治療前のレベルに対して変化する必要があるだけである。したがって、本発明の方法は、一部の状況における血管内皮細胞の有害な機能を改善するために応用可能であり、他の場合では、血管内皮細胞の機能を完全に正常化することが望ましいか、または必要な場合がある。対象となる調節は、特定の状況の要件に依存して、一過性または長期の場合がある。
【0047】
したがって、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の「活性」の調節は、シグナル伝達機構をアップレギュレートすること、またはダウンレギュレートすることのいずれかを意味すると理解されるべきである。内皮細胞の有害な機能を示す高血糖患者に関して好ましい方法は、対象となるシグナル伝達をダウンレギュレートすることであるが、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をアップレギュレートすることが望ましい特定の状況、例えばグルコースレベルが低い状況(例えばインスリン投与後)、および本発明に記載の方法によってシグナル伝達活性のレベルが低くなりすぎた状況が存在する場合がある。したがって、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達のレベルを正常化させるために、アップレギュレーションが必要な場合がある。いずれの調節様式とも、任意の適切な手段で達成可能であり、以下の段階を含む:
(i)スフィンゴシンキナーゼ、および/またはスフィンゴシン-1-リン酸などの、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の成分の絶対レベルを、これらの分子が活性化に多かれ少なかれ利用可能となるか、および/または下流の標的と相互作用するように調節する段階。
(ii)スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸などの、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の成分を、これらの分子の任意の1つもしくは複数の機能的有効性が上昇もしくは低下するように作用または拮抗する段階。例えば、スフィンゴシンキナーゼの半減期の延長は、スフィンゴシンキナーゼの絶対細胞内濃度の上昇を実際に必要とすることなく、スフィンゴシンキナーゼ活性の全体的なレベルの上昇を達成可能である。同様に、例えばこれらの分子と、下流の標的との結合と関連して、いくつかの立体障害を導入する成分の共役による、スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシン-1-リン酸の部分的な拮抗作用は、これが提供するシグナル伝達の有効性を減じるように作用する可能性があるが、必ずしも有効性を除去するものではない。したがって、これは、必ずしもこの経路の成分の絶対濃度をダウンレギュレートすることなく、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレートする手段を提供する可能性がある。
【0048】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションの達成に関して、この目的を達成する手段は、当業者に周知であると考えられ、および、以下の段階を含むが、これらに限定されない:
(i)スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の成分、またはそれらの機能的等価体、誘導体、または類似体をコードする核酸分子を、細胞によるスフィンゴシンキナーゼ媒介性の経路の成分の発現能力をアップレギュレートするために細胞に導入する段階;
(ii)スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の成分、特にスフィンゴシンキナーゼもしくはスフィンゴシン-1-リン酸、またはこの機能的部分の任意の成分の可能性のある遺伝子、またはスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の成分の発現を直接的もしくは間接的に調節する他のいくつかの遺伝子の転写および/または翻訳を調節するタンパク性分子もしくは非タンパク性分子を細胞に導入する段階;
(iii)スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の1つもしくは複数の成分の発現産物(活性型もしくは不活性型のいずれか)、またはこれらの機能的誘導体、相同体、類似体、等価体、または模倣体を細胞に導入する段階;
(iv)スフィンゴシン-1-リン酸受容体を占有して不活性化する、スフィンゴシン-1-リン酸のアンタゴニスト、またはスフィンゴシン-1-リン酸受容体の機能をダウンレギュレートするスフィンゴシン-1-リン酸受容体の阻害因子として機能するタンパク性分子もしくは非タンパク性分子を導入する段階;
(v)スフィンゴシン-1-リン酸受容体の発現および/または機能を調節するタンパク性分子(例えば百日咳毒素)もしくは非タンパク性分子を細胞に導入する段階;
(vi)GF109203X(PKC阻害剤)、PD98059(MEK1/2阻害剤)、U0126(MEK1/2阻害剤)、N'N'-ジメチルスフィンゴシン(スフィンゴシンキナーゼの化学的阻害剤)、またはSphKG82D(変異型スフィンゴシンキナーゼの優性抑制型)などの、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の発現産物の任意の1つもしくは複数の成分に対するアンタゴニストとして機能するタンパク性分子もしくは非タンパク性分子を導入する段階;
(vii)スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の発現産物のアゴニストとして機能するタンパク性分子もしくは非タンパク性分子を導入する段階;
(viii)スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の活性化を誘導するグルコースの能力をダウンレギュレートするか、または無効にするタンパク性分子もしくは非タンパク性分子を導入する段階。
【0049】
上記のタンパク性分子は、天然の供給源、組換え型の供給源、または合成の供給源などの任意の適切な供給源に由来する場合があり、および例えば天然物のスクリーニングによって同定された融合タンパク質または融合分子を含む。非タンパク性分子という表現は例えば、核酸分子を意味する場合があるほか、例えば天然物スクリーニング用などの天然の供給源に由来する分子の場合があるほか、または化学的に合成された分子の場合がある。本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の成分の類似体、またはアゴニストもしくはアンタゴニストとして作用可能な小分子を想定している。
【0050】
化学的アゴニストは、必ずしもスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の産物の成分に由来しない場合があるが、特定の立体構造上の類似性を共有する場合がある。または化学的アゴニストは、特定の生理化学的特性に適合するように特異的に設計可能である。アンタゴニストは、活性化を妨げるか、または活性化された分子の下流の機能を妨げる分子などの、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の成分のブロック、阻害、または正常な生物学的機能の発揮の防止が可能な任意の化合物の場合がある。アンタゴニストは、モノクローナル抗体、優性抑制型のスフィンゴシンキナーゼの変異体、および哺乳類細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達経路の成分の遺伝子またはmRNAの転写もしくは翻訳を妨げるアンチセンス核酸を含む。発現の調節は、抗原、RNA(特にsiRNA)、リボソーム、DNAzyme、RNAアプタマー、抗体、またはコサプレッションにおける使用に適した分子を使用することで達成される場合もある。上記の(i)〜(v)で言及されたタンパク性分子および非タンパク性分子は、本明細書でまとめて「調節薬剤(modulatory agent)」と呼ばれる。
【0051】
既に定義された調節薬剤のスクリーニングは、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子(もしくはスフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の成分をコードする任意の他の遺伝子)、またはこれらの機能的等価物もしくは誘導体を含む細胞に薬剤を接触させる段階、ならびにスフィンゴシンキナーゼタンパク質の産生もしくは機能活性の調節、スフィンゴシンキナーゼをコードする核酸分子の発現の調節、またはスフィンゴシンキナーゼの下流の細胞標的の活性もしくは発現の段階に関するスクリーニングを行う段階を含むが、これらに決して限定されない、複数の適切な方法の任意の1つによって達成可能である。このような調節の検出は、ウェスタンブロッティングや電気泳動移動度シフトアッセイ法などの手法、および/またはルシフェラーゼやCATなどのレポーターによるスフィンゴシンキナーゼ活性の読み値で達成可能である。
【0052】
スフィンゴシンキナーゼ遺伝子、またはこの機能的等価物もしくは誘導体は、検討対象の細胞内で天然のものである可能性があるほか、検討目的で宿主細胞にトランスフェクトされたものである可能性があると理解されるべきである。さらに、天然の遺伝子、またはトランスフェクトされた遺伝子が構成的に発現されることで、とりわけ、スフィンゴシンキナーゼの活性をダウンレギュレートする薬剤の、核酸レベルもしくは発現産物レベルのいずれかにおけるスクリーニングに有用なモデルを提供する可能性があるほか、遺伝子が活性化を必要とすることで、とりわけ、スフィンゴシンキナーゼの発現をアップレギュレートする薬剤のスクリーニングに有用なモデルを提供する可能性がある。さらに、スフィンゴシンキナーゼの核酸分子が細胞にトランスフェクトされる限りは、そのような分子は、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子の全体を含む場合があるほか、スフィンゴシンキナーゼ産物の発現を調節する部分などの、遺伝子の一部を単に含む場合がある。例えば、スフィンゴシンキナーゼのプロモーター領域が、検討対象となる細胞にトランスフェクトされる場合がある。この点に関して、プロモーターのみが使用される場合は、プロモーターの活性の調節の検出は例えば、プロモーターをレポーター遺伝子に連結することで達成され得る。例えば、プロモーターは、ルシフェラーゼレポーターまたはCATレポーターに連結可能であり、このような遺伝子の発現の調節は、それぞれ蛍光強度もしくはCATレポーター活性の調節を介して検出可能である。
【0053】
別の例では、検出の対象はスフィンゴシンキナーゼそのものではなく、下流のスフィンゴシンキナーゼの調節標的(例えばスフィンゴシン-1-リン酸)の場合がある。さらに別の例は、最小レポーターに連結されたスフィンゴシンキナーゼ結合部位を含む。例えば、スフィンゴシンキナーゼの活性の調節は、内皮細胞の機能活性の調節のスクリーニングによって検出可能である。これは、スフィンゴシンキナーゼの発現そのものの調節が検出対象ではない間接的な系の一例である。代りに、スフィンゴシンキナーゼによって発現が調節される分子の調節がモニタリングされる。
【0054】
このような方法は、合成ライブラリー、コンビナトリアルライブラリー、化合物ライブラリー、および天然物ライブラリーを含む、タンパク性薬剤または非タンパク性薬剤などの仮想調節薬剤の高処理能スクリーニングを実施するための機構を提供する。これらの方法は、スフィンゴシンキナーゼの核酸分子もしくは発現産物そのもののいずれかに結合する薬剤、または後にスフィンゴシンキナーゼの発現もしくは発現産物の活性を調節する上流分子の発現を調節する薬剤の検出も容易にするであろう。したがって、これらの方法は、スフィンゴシンキナーゼの発現および/または活性を直接的もしくは間接的に調節する薬剤を検出する機構を提供する。
【0055】
本発明の方法で使用される薬剤は、任意の適切な形状を取り得る。例えば、タンパク性薬剤は、さまざまな程度にグリコシル化もしくは非グリコシル化される場合があり、リン酸化もしくは脱リン酸化される場合があり、および/またはアミノ酸などのタンパク質、脂質、糖質、または他のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質とともに使用される、連結する、結合する、または会合する、さまざまな他の分子を含む場合がある。同様に、対象となる非タンパク性分子も任意の適切な形状を取り得る。本明細書に記載されたタンパク性薬剤および非タンパク性薬剤はいずれも、任意の他のタンパク性分子もしくは非タンパク性分子と連結するか、結合するか、または会合する可能性がある。例えば、本発明の1つの態様では、薬剤は、局所領域への標的輸送を可能とする分子と会合する。
【0056】
対象となるタンパク性分子もしくは非タンパク性分子は直接的または間接的に作用して、スフィンゴシンキナーゼの発現またはスフィンゴシンキナーゼ発現産物の活性を調節する場合がある。このような分子は、スフィンゴシンキナーゼの核酸分子または発現産物と会合して、それぞれ発現もしくは活性を調節する場合には、直接的に作用する。このような分子は、スフィンゴシンキナーゼの核酸分子もしくは発現産物の発現もしくは活性をそれぞれ直接的もしくは間接的に調節するスフィンゴシンキナーゼの核酸分子または発現産物以外の分子と会合する場合には、間接的に作用する。したがって、本発明の方法は、調節段階のカスケードの誘導を介する、スフィンゴシンキナーゼの核酸分子の発現または発現産物の活性の調節を含む。
【0057】
「発現」という表現は、核酸分子の転写および翻訳を意味する。「発現産物」という表現は、核酸分子の転写および翻訳によって産生される産物を意味する。「調節」という表現は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを意味すると理解されるべきである。
【0058】
本明細書に記載された分子の「誘導体」(例えば、スフィンゴシンキナーゼ、スフィンゴシン-1-リン酸、または他のタンパク性薬剤もしくは非タンパク性薬剤)は、天然もしくは非天然の供給源のいずれかに由来する断片、部分、一部、または異型を含む。非天然の供給源は例えば、組換え型または合成の供給源を含む。「組換え型の供給源」という表現は、対象分子が回収される細胞供給源が遺伝的に改変されていることを意味する。これは例えば、そのような特定の細胞供給源による産生の速度および容積を高めるか、または促すために存在する可能性がある。部分または断片は例えば、分子の活性領域を含む。誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失、または置換に由来する場合がある。アミノ酸の挿入誘導体は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端における融合体、ならびに1個もしくは複数のアミノ酸の配列内挿入を含む。挿入アミノ酸配列の異型は、1個もしくは複数のアミノ酸残基がタンパク質中の所定の部位に導入された変異であるが、結果として得られる産物の適切なスクリーニングによってランダムな挿入も可能である。欠失型異型は、配列からの1個もしくは複数のアミノ酸の除去を特徴とする。置換型のアミノ酸異型は、配列中の少なくとも1個の残基が除去されて、異なる残基が同じ場所に挿入された置換である。アミノ酸配列への付加は、詳しく上述したように、他のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質との融合体を含む。
【0059】
誘導体も、ペプチド、ポリペプチド、または他のタンパク性分子もしくは非タンパク性分子と融合したタンパク質全体の特定のエピトープまたは部分を有する断片を含む。例えば、スフィンゴシンキナーゼ、またはこの誘導体は、対象分子の細胞内への移行を促すために、対象分子と融合可能である。本発明で想定される分子の類似体は、側鎖の修飾、非天然のアミノ酸、および/またはそれらの誘導体の、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質の合成中における組み入れ、ならびにタンパク性分子もしくはその類似体に立体構造上の制約を課す架橋剤および他の方法の使用を含むが、これらに限定されない。
【0060】
本発明の方法で使用可能な核酸配列の誘導体は同様に、1個もしくは複数のヌクレオチドの置換、欠失、および/または他の核酸分子との融合を含む付加に由来する場合がある。本発明で使用される核酸分子の誘導体は、オリゴヌクレオチド、PCRプライマー、アンチセンス分子、核酸分子のコサプレッションおよび融合における使用に適した分子を含む。核酸配列の誘導体は、縮重した異型も含む。
【0061】
スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシン-1-リン酸の「異型」は、異型であるスフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシン-1-リン酸の状態の機能活性の少なくとも一部を示す分子を意味すると理解されるべきである。変異は任意の形状をとる場合があり、および天然または非天然の場合がある。変異型分子は、修飾された機能活性を示す分子である。
【0062】
「相同体」という表現は、分子が、本発明の方法に従って治療される種以外の種に由来することを意味する。これは例えば、治療対象の種以外の種が、天然の状態で、治療を受けた対象によって産生されるスフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシン-1-リン酸と類似の、および適切な機能的特徴を示す、スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシン-1-リン酸の一形態を産生すると判定される場合に、存在する場合がある。
【0063】
化学的および機能的な等価物は、化学的に合成されるか、または天然物のスクリーニングなどのスクリーニング過程で同定されるような任意の供給源に機能的等価物が由来する可能性がある、対象分子の任意の1つもしくは複数の機能活性を示す分子であると理解されるべきである。例えば化学的または機能的な等価物は設計可能であり、および/または組換えライブラリーのコンビナトリアル化学もしくは高処理能スクリーニングなどの周知の方法で、または天然物のスクリーニングによって同定可能である。
【0064】
例えば、多数の特異的な親官能基の置換が使用される低分子量の有機分子を含むライブラリーをスクリーニングすることができる。一般的な合成スキームは、公開された方法(例えば、Bunin BA, et al., (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:4708-4712;DeWitt SH, et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909-6913)に従うことができる。簡単に説明すると、個々の連続的な合成段階において、複数の異なる選択された置換基の1つが、アレイ状のチューブの個々の選択されたサブセットに追加される。チューブのサブセットの選択は、ライブラリーの作製に使用される異なる置換基の全ての可能な組み合わせを生じるようになされる。1つの適切な組み合わせ戦略は、米国特許第5,763,263号で概説されている。
【0065】
生物学的に活性のある化合物を探索するためのランダムな有機分子のコンビナトリアルライブラリーの使用に関しては今日、広く関心が寄せられている(例えば米国特許第5,763,263号を参照)。このタイプのライブラリーのスクリーニングで発見されるリガンドは、天然のリガンドを模倣もしくはブロックする際に、または生物学的標的の天然のリガンドに干渉する際に有用な可能性がある。例えば本明細書の文脈では、これらは、より強力な薬理効果などの特性を示すスフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の類似体を開発するための出発点として使用することができる。スフィンゴシンキナーゼ、および/またはスフィンゴシン-1-リン酸、またはこれらの機能的部分は、本発明にしたがって、さまざまな固相または液相の合成法で作製される組み合わせライブラリーで使用することができる(例えば、米国特許第5,763,263号、および同明細書に引用された参考文献を参照)。米国特許第5,753,187号に開示された手法を用いることで、数百万個の新しい化学的化合物および/または生物学的化合物を常用の手段で数週間以内にスクリーニングすることができる。同定された多数の化合物の中で、適切な生物学的活性を示すもののみが、後の解析対象となる。
【0066】
ライブラリーの高処理能スクリーニング法に関しては、生体分子、巨大分子の複合体、または細胞などの、選択された生物薬剤と特異的に相互作用可能なオリゴマーまたは小分子のライブラリーの化合物が、当業者によって、上述されたような、さまざまな周知の方法から容易に選択されるコンビナトリアルライブラリー装置を使用してスクリーニングされる。このような方法では、ライブラリーの個々のメンバーが、選択された薬剤と特異的に相互作用する能力に関してスクリーニングされる。このような方法を実施する際は、生物薬剤を、化合物を含むチューブ内に引き込むことで、各チューブ内の個々のライブラリー化合物と相互作用させる。この相互作用は、所望の相互作用の存在のモニタリングに使用可能な検出可能なシグナルを発するように設計される。好ましくは、生物薬剤は水溶液中に存在し、および所望の相互作用に依存して、他のコンディションに適合される。検出は例えば、物質を検出する任意の周知の機能ベースまたは非機能ベースの方法で実施することができる。
【0067】
スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の活性を模倣する分子のスクリーニングに加えて、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の機能活性を、平滑筋細胞の活性の調節に関してアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることを目的として、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸と作用的に、または最も好ましくは拮抗的に機能する分子を同定して使用することも望ましい場合がある。このような分子の使用に関しては、以下に詳述する。対象分子がタンパク性分子の場合は、これは例えば、天然の供給源、もしくは融合タンパク質を含む組換え型の供給源に由来する可能性があるほか、例えば上記のスクリーニング法で得られる場合がある。非タンパク性分子は例えば、上記の方法に従って同定または生成された化合物または合成分子の場合がある。したがって本発明は、アゴニストまたはアンタゴニストとして作用可能な、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の化学的類似体の使用を想定している。化学的アゴニストは、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸に必ずしも由来しない場合があるが、特定の立体構造上の類似性を共有する場合がある。または化学的アゴニストは、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の特定の生理化学的特性を模倣するように特異的に設計可能である。アンタゴニストは、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の正常な生物学的機能の発揮のブロック、阻害、または防止が可能な任意の化合物の場合がある。アンタゴニストは、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸、またはスフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の一部分に特異的なモノクローナル抗体を含む。
【0068】
本発明で想定される、スフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸の類似体、またはスフィンゴシンキナーゼおよび/またはスフィンゴシン-1-リン酸のアゴニスト薬剤もしくはアンタゴニスト薬剤の類似体は、側鎖の修飾、および/またはペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の合成中における非天然のアミノ酸および/または誘導体の組み入れ、ならびに架橋剤および類似体に立体構造上の制約を課す他の方法の使用を含むが、これらに限定されない。このような修飾が取り得る特異的な形状は、対象分子がタンパク性または非タンパク性かに依存する。特定の修飾の性質および/または適合性は、当業者であれば常用の手段で決定可能である。
【0069】
例えば、本発明で想定される側鎖の修飾の例は、アルデヒドとの反応による還元的アルキル化と、これに続くNaBH4による還元などのアミノ基の修飾;メチルアセチミデート(methylacetimidate)によるアミド化(amidination);無水酢酸によるアシル化;シアン酸塩によるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトロニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびにピリドキサール-5-リン酸によるリシンのピリドキシル化(pyridoxylation)と、これに続くNaBH4による還元を含む。
【0070】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサール、およびグリオキサールなどの試薬による複素環縮合産物の形成によって修飾可能である。
【0071】
カルボキシル基は、O-アシルイソウレアの形成を介するカルボジイミドの活性化と、これに続く、例えば対応するアミドへの誘導体化によって修飾可能である。
【0072】
スルフヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセタミドによるカルボキシメチル化;システイン酸の過ギ酸による酸化;他のチオール化合物による混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸、または他の置換マレイミドとの反応;4-クロロ安息香酸水銀、4-クロロフェニルスルホン酸水銀、塩化フェニル水銀、2-クロロ水銀-4-ニトロフェノール、および他の水銀剤を使用する水銀誘導体の形成;アルカリ性pHにおけるシアン酸塩によるカルバモイル化などの方法で修飾可能である。
【0073】
トリプトファン残基は例えば、N-ブロモスクシニミドによる酸化、または2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドもしくはスルフェニルハライドによるインドール環のアルキル化によって修飾可能である。一方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによるニトロ化によって3-ニトロチロシン誘導体を形成させることで改変可能である。
【0074】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル化、またはジエチルピロカルボン酸によるN-カルボエトキシル化によって達成可能である。
【0075】
タンパク質合成中に非天然のアミノ酸および誘導体を組み入れる例は、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン、および/またはアミノ酸のD-異性体の使用を含むが、これらに限定されない。本発明で想定される非天然のアミノ酸のリストを表1に示す。
【表1】



【0076】
架橋剤を、例えば3次元立体構造を安定化させるために、n=1〜6の(CH2)nスペーサー基を有する二機能性のイミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシニミドエステルなどのホモ2機能性架橋剤、ならびにN-ヒドロキシスクシニミド、および別の基特異的な反応部分などのアミノ反応部分を通常含むヘテロ-2機能性試薬を使用することができる。
【0077】
本発明の方法は、インビトロおよびインビボの両方における、高血糖が誘導する内皮細胞の機能の調節を想定している。好ましい方法は、個体をインビボで処理することであるが、それにもかかわらず、本発明の方法が、例えば、血管病変の形成、または単なる高血糖関連コンディション以外の疾患コンディションに関与する可能性のある他の症状などの血管異常の解析用のインビトロモデルを提供するために、インビトロ環境で応用可能なことが望ましい場合があると理解されるべきである。別の例では、インビトロ環境への本発明の方法の応用は、上述したようなスクリーニング法用の読み出し機構(readout mechanism)を提供するように拡張される場合がある。すなわち、これらのスクリーニング法で同定された分子は、高血糖誘発性の内皮細胞の機能に対する機能的作用の程度および/または性質を観察するために検討することができる。
【0078】
好ましい方法は、(例えば、糖尿病関連の血管疾患の進行をダウンレギュレートするために)高血糖が関与する内皮細胞の機能をダウンレギュレートすることであるが、(例えば、心筋梗塞の創傷治癒および救済時に血管再生をアップレギュレートするために)対象となる機能活性をアップレギュレートすることが望ましい状況も存在し得ると理解されるべきである。
【0079】
関連する局面では、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、哺乳類における高血糖誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法に関する。
【0080】
さらに詳細には、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を調節する方法を提供する。
【0081】
好ましくは、血管内皮細胞の機能は血管内皮細胞の機能不全であり、および機能活性の調節は活性のダウンレギュレーションである。
【0082】
より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害(microvasculopathy)、および冠血管または末梢大血管における病変を含む巨大血管障害(macrovasculopathy)の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞の表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0083】
最も好ましくは、本発明は、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能をダウンレギュレートする段階を含む、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法を提供する。
【0084】
この好ましい態様では、血管内皮細胞の機能は好ましくは、血管内皮細胞の機能不全である。より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害、および冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0085】
最も好ましい態様では、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションは、GF109203X、PD98059、U0126、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、またはSphKG82Dを投与することで達成される。
【0086】
別の関連する局面では、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、哺乳類における糖尿病誘発性の内皮細胞の機能を調節する方法に関する。
【0087】
さらに詳細には、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能を調節する段階を含む、哺乳類における糖尿病誘発性の血管内皮細胞の機能を調節する方法を提供する。
【0088】
好ましくは、血管内皮細胞の機能は血管内皮細胞の機能不全であり、および機能活性の調節は活性のダウンレギュレーションである。
【0089】
より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害、および冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0090】
最も好ましくは、本発明は、哺乳類における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の糖尿病誘発性の血管内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法を提供する。
【0091】
最も好ましい態様では、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションは、GF109203X、PD98059、U0126、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、またはSphKG82Dを投与することで達成される。
【0092】
本発明の別の局面は、疾患コンディションの治療および/または予防と関連する、本発明の使用に関する。本発明を任意の1つの理論または作用様式に制限することなく、西洋社会で拡大の一途をたどる糖尿病は、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能不全を重大な問題にしており、その調節は、このような疾患の管理の不可欠の要素となる可能性が高い。したがって、本発明の方法は、高血糖状態の発生によって誘導された異常か、または望ましくない内皮細胞の機能を調節するための有用なツールを提供する。この目的のために、本発明のこの局面が、「高血糖を関与する血管内皮細胞が誘導する機能を特徴とするコンディション」の治療について論じている限りにおいては、本発明は、高血糖そのものというより糖尿病などのいくつかの高血糖性コンディションの症状である、望ましくない血管内皮細胞の機能の治療にも関すると理解されるべきである。
【0093】
したがって、本発明のさらに別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性を調節する段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法に関する。
【0094】
さらに詳細には、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性を調節する段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法に関する。
【0095】
好ましくは、血管内皮細胞の機能は血管内皮細胞の機能不全であり、および機能活性の調節は活性のダウンレギュレーションである。
【0096】
より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害、および冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0097】
最も好ましくは、本発明は、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性をダウンレギュレートする段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖に伴う血管内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法に関する。
【0098】
この好ましい態様に従って、血管内皮細胞の機能は好ましくは、血管内皮細胞の機能不全である。より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害、および冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0099】
さらにより好ましくは、コンディションは、1型もしくは2型の糖尿病、クッシング病、クッシング症候群、甲状腺機能亢進、メタボリック症候群、または先端巨大症である。
【0100】
最も好ましい態様では、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションは、GF109203X、PD98059、U0126、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、またはSphKG82Dを投与することで達成される。
【0101】
したがって本発明は、最も特異的には、血管内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の機能活性をダウンレギュレートする段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な血管内皮細胞の機能を特徴とする、糖尿病の症状の治療法および/または予防法を提供する。
【0102】
好ましくは、血管内皮細胞の機能は血管内皮細胞の機能不全であり、および機能活性の調節は活性のダウンレギュレーションである。
【0103】
より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害、および冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞の表面における接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0104】
最も好ましくは、症状は、網膜、腎臓、末梢神経、およびアテローム動脈硬化症を含む糖尿病関連の血管疾患である。
【0105】
さらにより好ましくは、症状は高血糖によって誘導される。
【0106】
さらにより好ましい態様では、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションは、GF109203X、PD98059、U0126、百日咳毒素、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、またはSphKG82Dを投与することで達成される。
【0107】
本発明のこの局面の最も好ましい態様は、好ましくは、対象となる内皮細胞の機能の低下、遅延、または阻害を促進する。「低下、遅延、または阻害する」という表現は、内皮細胞の機能の部分的もしくは完全な阻害の誘導または促進を意味すると理解されるべきである。
【0108】
治療または予防の対象は一般に、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕獲された野生動物(例えば、キツネ、シカ)を含むが、これらに限定されない哺乳類である。好ましくは、哺乳類はヒトまたは霊長類である。最も好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0109】
「有効量」は、所望の反応を少なくとも部分的に達成するために、または治療対象の特定のコンディションの発生を遅らせるか、または進行を阻害するか、または発生もしくは進行をまとめて停止させるために必要な量を意味する。有効量は、治療対象の個体の健康状態および身体コンディション、治療対象の個体の分類群、望ましい保護の程度、組成物の組成、医学的コンディションの評価、および他の関連する諸因子に依存して変動する。有効量は、常用の試験法で決定可能な比較的広い範囲に含まれることが期待される。
【0110】
本明細書で用いられる「治療」および「予防」は、極めて広い文脈で理解される。「治療」という表現は、対象が完全に回復するまで治療を受けることを必ずしも意味しない。同様に「予防」は、対象が最終的に疾患コンディションに罹患しなくなることを必ずしも意味しない。したがって、治療および予防は、特定のコンディションの症状の改善、または特定のコンディションの発症を防いだり、発症するリスクを低下させたりする段階を含む。「予防」という表現は、特定のコンディションの重症度または発症を減じることであると見なされる場合がある。「治療」も、既存のコンディションの重症度を低下させる可能性がある。
【0111】
本発明はさらに、糖尿病との関連でインスリン投与などの対象コンディションの治療に関して有用な可能性のある他の薬剤、薬物、または治療を伴う薬剤の哺乳類への投与などの治療の併用を想定している。
【0112】
薬学的組成物の形状における調節薬剤の投与は、任意の簡便な手段で実施され得る。薬学的組成物の調節薬剤は、特定の症例に依存する量で投与時に治療活性を示すことが想定される。差は例えば、ヒトまたは動物の違い、および選択される調節薬剤に依存する。広範囲の用量が適用され得る。患者については、例えば約0.1 mg〜約1 mgの調節薬剤が、1日当たり1 kgの体重当たりに投与され得る。投与法は、最適な治療反応を提供するために調節できる。例えば、複数回に分割された用量を、1日に1回、週に1回、月に1回、もしくは他の適切な間隔で投与することが可能なほか、用量を、状況の要件に応じて比例的に減じることができる。
【0113】
調節薬剤は、経口経路、静脈内経路(水溶性の場合)、腹腔内経路、筋肉内経路、皮下経路、皮内経路、もしくは座剤経路、またはインプラントの使用(例えば徐放性分子を使用)などの簡便な様式で投与され得る。調節薬剤は、酸付加塩、または例えば亜鉛や鉄などとの金属複合体などの薬学的に許容される非毒性の塩の状態(本出願の目的において塩と見なされるもの)で投与することができる。このような酸付加塩の例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩などである。仮に活性成分が、錠剤の状態で投与されるのであれば、錠剤は、トラガカント、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;アルギン酸などの崩壊剤;およびステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤を含む場合がある。
【0114】
投与経路は、呼吸器経由、気管内経由、鼻咽頭経由、静脈内経由、腹腔内経由、皮下経由、頭蓋内経由、皮内経由、筋肉内経由、眼内経由、髄腔内経由、脳内経由、鼻腔内経由、注入、経口、直腸経由、IVドリップパッチ経由、およびインプラントを含むが、これらに限定されない。
【0115】
これらの方法に従って、本発明で定義される薬剤は、1種類もしくは複数の他の化合物または分子と同時に投与することができる。「同時投与される」という表現は、同じ剤形か、または2種類の異なる剤形での、同じか、もしくは異なる経路、または同じか、もしくは異なる経路による連続投与による同時投与を意味する。例えば対象薬剤は、その作用を高めるためにアゴニスト薬剤とともに投与可能である。「連続的な」投与という表現は、2つのタイプの分子の投与間に秒、分、時間、または日の時間差が存在することを意味する。このような分子は、任意の順で投与することができる。
【0116】
本発明の別の局面は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類における高血糖誘発性の内皮細胞の機能の調節用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節可能な薬剤の使用に関する。
【0117】
さらに詳細には、本発明は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達をダウンレギュレートする段階が血管内皮細胞の活性をダウンレギュレートする、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能の調節用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節可能な薬剤の使用に関する。
【0118】
好ましくは、血管内皮細胞の機能は血管内皮細胞の機能不全であり、および機能活性の調節は活性のダウンレギュレーションである。
【0119】
より好ましくは、血管内皮細胞の機能不全は、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害、および冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害の両方、ならびに、さらにより好ましくは、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、またはアテローム病変を含む血管障害である。
【0120】
最も特異的には、本発明は、哺乳類における高血糖に伴う血管内皮細胞の機能の調節用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレート可能な薬剤の使用に関する。
【0121】
最も好ましくは、コンディションは糖尿病である。
【0122】
最も好ましい態様では、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションは、GF109203X、PD98059、U0126、百日咳毒素、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、またはSphKG82Dを投与することで達成される。
【0123】
さらに別のさらなる局面では、本発明は、既に定義された調節薬剤を、1種類もしくは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤とともに含む薬学的組成物を想定している。このような薬剤は活性成分と呼ばれる。
【0124】
注射に適した薬学的形状は、無菌性水溶液(水溶性の場合)または分散液、および無菌性の注射溶液もしくは分散液の即時調製用の無菌性粉末を含むか、または局所塗布に適切なクリームもしくは他の形状を取り得る。これは、製造および保存のコンディションで安定でなければならず、ならびに細菌および真菌などの微生物の混入作用を防がなければならない。担体は例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、ならびに植物油を含む溶媒または分散媒の場合がある。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで、分散媒の場合は必要な粒径を維持することで、および界面活性剤を使用することで維持できる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって達成可能である。多くの場合、等張剤、例えば、糖や塩化ナトリウムを含めることが望ましいであろう。注射可能な組成物の長期吸収は、薬剤の吸収を遅延させる組成物に、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンを使用することで達成可能である。
【0125】
無菌性の注射用の溶液は、必要量の活性化合物を、必要であれば上記のさまざまな他の内容物とともに適切な溶媒と混合後に濾過滅菌することで調製される。一般に分散液は、さまざまな無菌性活性成分を、基礎分散媒および上記に由来する必要な他の内容物を含む無菌性溶媒中に混合することで調製される。無菌性の注射用溶液の調製用の無菌性粉末の場合、好ましい調製法は、活性成分の粉末に加えて、その濾過滅菌済みの溶液に由来する任意の追加的な所望の内容物を得る真空乾燥法および凍結乾燥法である。
【0126】
活性成分を適切に保護する場合、それらは経口的に、例えば不活性の希釈剤とともに、もしくは吸収され得る食用に適する担体とともに投与可能であるか、硬シェルもしくは軟シェルのゼラチンカプセルに包含可能であるか、または錠剤に圧縮可能であるか、または食物に直接混合可能である。経口的な治療薬の投与の場合、活性化合物を、賦形剤と混合して、摂取可能な錠剤、舌下錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハースなどの形状で使用することができる。このような組成物および調製物は、重量で少なくとも1%の活性化合物を含むべきである。組成物および調製物のパーセンテージは変動する場合があり、かつ好都合には、単位重量の約5〜約80%の場合があることは言うまでもない。このような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量が適切な用量で得られる。本発明による、好ましい組成物または調製物は、経口投与単位剤形が約0.1μg〜2000 mgの活性化合物を含むように調製される。
【0127】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、以下に挙げる成分も含む場合がある:ガム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンなどの結合剤;第二リン酸カルシウム(dicalcium phosphate)などの添加剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;ならびにショ糖、乳糖、もしくはサッカリンなどの甘味剤、またはペパーミント、冬緑油、もしくはチェリー香料などの香味剤。単位投与剤形がカプセルの場合、上記の材料に加えて液体の担体を含む場合がある。さまざまな他の材料が、コーティング剤として、または用量単位の物理的形状を修飾するために存在する場合がある。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤を、セラック、糖、またはこれらの両方でコーティングすることができる。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてショ糖、保存剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、色素、ならびにチェリー香料またはオレンジ香料などの香料を含む場合がある。任意の単位投与剤形の調製に使用される任意の材料が、使用される量に関して薬学的に純粋で、かつ実質的に非毒性であるべきことは言うまでもない。加えて、活性化合物は、徐放性の調製物および製剤中に混合することが可能である。
【0128】
薬学的組成物は、標的細胞をトランスフェクト可能な、調節薬剤をコードする核酸分子を担うベクターなどの遺伝的分子を含む場合もある。ベクターは例えば、ウイルスベクターの場合がある。
【0129】
遺伝子治療とも呼ばれる、遺伝子産物であるタンパク質を発現させるために、DNAを細胞に移すか、または輸送するさまざまな方法は、参照により本明細書に組み入れられる、Gene Transfer into Mammalian Somatic Cells in vivo, N. Yang, Grit. Rev. Biotech. 12(4):335-356 (1992)に記載されている。
【0130】
このような医学的問題の遺伝子治療による治療戦略は、欠損遺伝子もしくはタンパク質を同定後に、欠損遺伝子の機能を置換するか、または機能性の弱い遺伝子を増強するために機能性遺伝子を追加するような治療戦略;またはコンディションを治療するための、または組織もしくは器官の治療法に対する感受性を高めるための産物であるタンパク質をコードする遺伝子を追加するような予防戦略を含む。予防戦略の一例として、スフィンゴシンキナーゼのアンタゴニストをコードするような遺伝子を患者の体内に配置させることで、高血糖誘発性の内皮細胞の有害な機能の発生を予防したり軽減したりすることができる。
【0131】
本発明では、遺伝子調節配列を移すための多くのプロトコルが想定される。プロモーター配列、またはスフィンゴシンキナーゼもしくは他の関連シグナル伝達分子の発現および/または活性を調節する他の配列のトランスフェクションも遺伝子治療の方法として想定される。この手法の一例は、相同組換えを使用してエリトロポイエチン遺伝子を細胞内で発現させる「遺伝子スイッチ」を挿入する、マサチューセッツ州・ケンブリッジのTranskaryotic Therapies社が有する。これについては、1994年4月15日付けのGenetic Engineering Newsを参照されたい。このような「遺伝子スイッチ」を使用して、対象遺伝子を活性化することが可能である。
【0132】
遺伝子治療のための遺伝子輸送法は、以下の大きく3つのカテゴリーに分けられる:物理的輸送法(例えば、エレクトロポレーション、直接的な遺伝子輸送、および微粒子銃)、化学的輸送法(脂質ベースの担体、または他の非ウイルスベクター)、ならびに生物学的輸送法(ウイルス由来のベクターおよび受容体による取り込み)。例えば、DNAでコーティングされたリポソームを含む非ウイルスベクターを使用することができる。このようなリポソーム/DNA複合体を、静脈経由で患者に直接注入することができる。加えて、ベクターまたは遺伝子の「裸の」DNAを、治療用DNAの標的輸送のために、所望の器官、組織、または腫瘍に直接注入することができる。
【0133】
遺伝子治療の方法は、輸送部位によっても説明できる。遺伝子を輸送する基本的な方法には、エクスビボ遺伝子輸送、インビボ遺伝子輸送、およびインビトロ遺伝子輸送がある。
【0134】
遺伝子治療の化学的方法は、細胞膜を越えてDNAを送り込むために、必ずしもリポソームではない脂質ベースの化合物を含む場合がある。負に帯電したDNAに結合する脂質ベースの陽イオンである、リポフェクチン(Lipofectin)またはサイトフェクチン(cytofectin)を使用して、細胞膜経由でDNAを細胞内に送り込むことができる。他の化学的方法には、特異的なリガンドの細胞表面受容体への結合、ならびに被覆および細胞膜を越える輸送が関与する、受容体ベースのエンドサイトーシスなどがある。
【0135】
多くの遺伝子治療法では、遺伝子を細胞内に挿入するために、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用する。ウイルスベクターは、例えばカテーテルによってインビボ部位に直接送り込むことができるので、ウイルスの特定領域のみへの感染が可能となり、長期の部位特異的な遺伝子発現が可能となる。レトロウイルスベクターを使用するインビボ遺伝子輸送も、改変型ウイルスの、対象臓器に至る血管への注射による乳腺組織および肝臓組織で報告されている。
【0136】
ウイルスベクターは、レトロウイルス、ポリオウイルスやシンドビスウイルスなどの他のRNAウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、SV40、ワクシニアウイルス、および他のDNAウイルスからなる群より選択される場合があるが、これらに限定されない。複製欠損型のマウスのレトロウイルスベクターが、最も広く使用されている遺伝子輸送ベクターであり、かつ好ましい。
【0137】
アデノウイルスベクターは、コラーゲンでコーティングされたステントに結合する抗体に結合させた状態で輸送可能である。
【0138】
DNAの機械的な輸送法を使用することが可能であり、この方法は、膜融合用のリポソームや他の小胞などの融合誘導(fusogenic)脂質小胞、リポフェクチン(lipofectin)などのDNAを組み入れる陽イオン性脂質の脂質粒子、ポリリシンによるDNAの輸送、生殖細胞や体細胞へのDNAのマイクロインジェクションなどのDNAの直接注入、「遺伝子銃」に使用される金粒子などの、含気的に輸送されるDNAでコーティングされた粒子、リン酸カルシウムによるトランスフェクションなどの無機化学的方法、およびポリマーでコーティングされたステント中に組み入れられるプラスミドDNAを含むが、これらに限定されない。リガンドを利用する遺伝子治療でも、DNAを特定の細胞または組織に輸送するために、DNAと特定のリガンドの複合体を形成させてリガンド-DNAコンジュゲートを形成させる段階を含むように使用可能である。
【0139】
プラスミドのDNAは、細胞のゲノムに組込まれる場合もあれば、組込まれない場合もある。トランスフェクトされたDNAが組込まれないことで、遺伝子産物であるタンパク質のトランスフェクションおよび発現が、最終分化した非増殖性の組織において長期間にわたって、細胞またはミトコンドリアのゲノム上に変異を生じる挿入、欠失、または変化を引き起こす恐れなく可能となる。特定の細胞への治療的遺伝子の、必ずしも永久的ではないが長期の輸送は、遺伝疾患の治療、または予防的使用を可能とする場合がある。DNAは、レシピエント細胞のゲノム上に変異を生じさせることなく遺伝子産物のレベルを維持するために周期的に再注入することができる。外来DNAが組込まれないことで、1つの細胞内における、さまざまな遺伝子産物を発現するあらゆるコンストラクトとの、複数の異なる外来DNAコンストラクトの存在が可能となる場合がある。
【0140】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の遺伝子調節は、例えばスフィンゴシンキナーゼ遺伝子、またはスフィンゴシンキナーゼ遺伝子と関連する制御領域、または対応するRNA転写物に結合して、転写もしくは翻訳の速度を変える化合物を投与することで達成可能である。加えて、スフィンゴシンのアンタゴニストまたはアゴニストをコードするDNA配列でトランスフェクトされた細胞を患者に投与することで、スフィンゴシンキナーゼの調節因子のインビボ供給源を提供することができる。例えば細胞には、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の調節因子をコードする核酸配列を含むベクターをトランスフェクトすることができる。
【0141】
本明細書で用いる「ベクター」という表現は、特定の核酸配列を細胞内に輸送するように機能する、特定の核酸配列を含むか、または特定の核酸配列と結合し得る担体を意味する。ベクターの例には、プラスミド、およびウイルスなどの感染性微生物、またはリガンド-DNAコンジュゲート、リポソーム、脂質-DNA複合体などの非ウイルスベクターなどがある。DNA配列は、発現制御配列に使用可能に連結されて、遺伝子を調節可能な発現ベクターを形成する。トランスフェクトされた細胞は、患者の正常組織や患者の疾患組織(疾患血管組織など)に由来する細胞である場合があるほか、非患者の細胞である場合がある。例えば、患者から採取された血管細胞に、本発明の調節分子を発現可能なベクターをトランスフェクトして、再び患者に導入することができる。患者は、ヒトまたは非ヒト動物の場合がある。細胞には、非ベクターによって、またはエレクトロポレーション、組込み(incorporation)、もしくは「遺伝子銃」などの、当技術分野で既知の物理的もしくは化学的な方法でトランスフェクトすることもできる。加えて、担体を使用することなくDNAを患者に直接注入することができる。
【0142】
調節分子を患者に輸送する遺伝子治療のプロトコルは、調節分子のDNAの細胞ゲノムへの組込みか、ミニ染色体への組込みか、または、細胞質もしくは細胞の核質中における別個の複製型もしくは非複製型のDNAコンストラクトとしての、いずれかの場合がある。遺伝子の発現および/または活性の調節は、長期間続く場合があるほか、細胞、組織、または器官における遺伝子の発現および/または活性の所望のレベルを維持するために周期的に再注入することが可能である。
【0143】
調節される細胞は、細胞の既存の生物学的機能が調節されるように既存の細胞と置換され得る。または、調節された細胞を、疾患の既存の領域に浸潤するように使用することで、疾患の進行を停止させることができる。置換される細胞は、治療対象のコンディションで組織特異的な場合がある。置換される細胞は、特定の系統に分化するように誘導可能な幹細胞の場合もある。
【0144】
本発明のさらに別の局面は、本発明の方法で使用される、既に定義された薬剤に関する。
【0145】
本発明の別の局面は、細胞、またはスフィンゴシンキナーゼ、またはこの機能的等価物もしくは誘導体を含む細胞抽出物に推定薬剤を接触させる段階、ならびに内皮細胞の機能と関連する発現表現型の変化を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達を調節可能な薬剤の検出法を提供する。
【0146】
「スフィンゴシンキナーゼ」という表現は、スフィンゴシンキナーゼの発現産物、または細胞膜に局在するスフィンゴシンキナーゼの部分もしくは断片のいずれかを意味すると理解されるべきである。この点に関しては、スフィンゴシンキナーゼの発現産物は細胞内で発現される。細胞は、スフィンゴシンキナーゼの核酸分子がトランスフェクトされた宿主細胞の場合があるほか、天然の状態でスフィンゴシンキナーゼの遺伝子を含む細胞の場合がある。「この抽出物」という表現は、無細胞転写系を意味すると理解されるべきである。
【0147】
「内皮細胞の機能と関連する発現表現型の変化」を検出するという表現は、スフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達の調節と関連する機能性の細胞変化の検出と理解されるべきである。これらは例えば、細胞内における変化、または接着分子の発現の変化などの、細胞外で観察される変化として検出可能な場合がある。
【0148】
本発明のさらに別の局面は、本明細書に記載されたスクリーニング法で同定される薬剤、および本発明の方法に使用される薬剤に関する。
【0149】
本発明を、以下の非制限的な例を参照して説明する。
【0150】
実施例1
高グルコースによるスフィンゴシンキナーゼのシグナル伝達経路の活性化には内皮細胞の炎症誘発性の表現型が介する
方法
動物
270〜290 gの雄のスプラギー・ドーレー(Sprague-Dawley)ラットを、制御温度条件(22℃)、および12/12時間の明暗周期で室内で飼育した。単回の腹腔内注射として投与される、クエン酸緩衝液(20 mM、pH 4.5)に溶解した80 mg/kgのストレプトゾトシン(STZ)(Sigma-Aldrich)を使用して糖尿病を誘導した。対照ラットには等容量の溶媒のみを注射した。注射の24時間後に、高血糖の発生(>14 mmol/Lの血中グルコース)によって糖尿病の診断を下した。半数の糖尿病ラットをランダムに選択してインスリンを投与した(Linplant、1つのインプラント/200 g体重;LinShin, Canada)。血中グルコースレベルを4日毎にGlucostix試薬ストリップ(Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN)を使用してモニタリングした。糖尿病発症の2週間後にラットを殺して調べた。全ての実験は、医学・獣医学研究所(Institute of Medical and Veterinary Science; IMVS)のPC-2法に準じて実施し、およびIMVS動物倫理委員会による承認を受けた。
【0151】
細胞培養
ヒト臍静脈EC(HUVEC)およびウシ大動脈EC(BAEC)を当実験室で常用の手順で、文献(Verrier et al., 2004, Circ. Res. 94:1515-1522)に記載された手順で培養した。全ての実験で2〜6回継代したECを使用した。実験的試験では、ECを通常の成長培地で集密化させた。次に培地を以下と交換した:(i)1% FCSおよび5.5 mMグルコース(標準グルコース、NG)を含むEBM(Clonetics, Walkersville, MD);(ii)追加のグルコースを最終濃度が22 mM(高グルコース)となるように添加したNG培地;または(iii)高グルコース培地に対する浸透圧を制御するように作用する16.5 mMのL-グルコースまたはマンニトールを含むNG培地。
【0152】
プラスミドおよびトランスフェクション
FLAG標識ヒト野生型SphK1のcDNAおよび優性抑制型のSphK1G82Dを、文献(Pitson et al., 2000, J. Biol. Chem. 275:33945-33950)に記載の手順でpcDNA3プラスミド(Invitrogen, Melbourne, Australia)にサブクローニングした。リポフェクタミン(Lipofectamine) 2000(Invitrogen)によるトランスフェクションをBAECを対象に、製造業者のプロトコルに従って実施した。安定な発現に関して、800μg/mlのG418(Invitrogen)を含む培地で形質移入体を選択した。結果として得られたG418耐性の形質移入細胞の非クローン性プールを回収して、クローン多様性(clonal variability)を避けるためにに使用した。FLAG標識導入遺伝子の発現は、FLAGに対する抗体(M2, Sigma, Clayton, Australia)を使用したウェスタンブロットアッセイ法で判定した。
【0153】
SphK活性およびS1P形成のアッセイ法
文献(Xia et al., 1999, J. Biol. Chem. 274:34499-34505)に記載された手順で、SphKの活性をD-エリスロ-スフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA)、および[γ32P]ATP(Geneworks, Adelaide, Australia)を基質として使用して常用の手順で決定し、および1 mgのタンパク質当たり1分間に形成されるピコモルレベルのS1Pとして決定した。インビボにおけるS1Pの形成を、文献(Xia et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 14196-14201)に記載された手順で透過処理した細胞を対象に測定した。
【0154】
PKC活性のアッセイ法
PKCの活性を、文献(Xia et al., 1996, J. Clin. Invest 98:2018-2026)に記載の手順でインサイチューで測定した。簡単に説明すると、細胞を24ウェルプレートに播種し、NGまたはHGに3日間、暴露した。所定の処理を行った後に、総PKC活性を、10μMの[γ32P]ATP(5000 cpm/pmol)およびPKCに特異的なペプチド基質(RKRTLRRL, 200μM)の存在下で、透過処理した細胞を対象に決定した。次に活性をシンチレーション測定で定量し、総タンパク質レベルに対して標準化した。
【0155】
フローサイトメトリー解析
所定の処理を行った後に、HUVECをVCAM-1、ICAM-1、およびE-セレクチンに対する一次モノクローナル抗体、またはアイソタイプをマッチさせた非関連抗体と30分間インキュベートした。次に細胞をFITC結合二次抗体とインキュベートし、2.5%ホルムアルデヒドで固定した。細胞表面における接着分子の発現を、Coulter Epics Profile XLフロー血球計算器を文献(Verrier et al., 2004、前掲)に記載された手順で使用して、蛍光強度として測定した。
【0156】
ECに対するU937細胞の接着
U937細胞(CRL 1593.2; ATCC)を、10% FCSを含むRPMI-1640培地(GIBCO BRL)で成長させ、低速遠心分離法で回収し、および2×105細胞/ml(溶媒はFCSを含まない培地)の密度で再懸濁した。ECを24ウェルプレートに播種し、NG培地またはHG培地とともに集密化してから3日間、培養した。保温したRPMI-1640培地による2回の洗浄後に、U937細胞懸濁物(100μl/ウェル)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。非接着細胞を、プレートをPBSで3回洗浄して除去した後に、接着細胞数を顕微鏡下で、定量対象の1ウェルの培養物あたり少なくとも6視野について数えた。
【0157】
電気泳動移動度シフトアッセイ法
所定の処理を実施、または実施せずNGまたはHGに暴露したECから核抽出物を調製した。E-セレクチンプロモーター中のコンセンサスのNF-κB結合部位(下線を付した)を含む

の2本鎖オリゴヌクレオチドを実験でプローブとして使用した。コンセンサスのNF-κBオリゴヌクレオチドのゲル移動度シフト実験を、文献(Xia et al., 1998、前掲)に記載された手順で、32P標識NF-κBプローブを4μgの核タンパク質とインキュベートすることで実施した。特異的なDNA-タンパク質複合体は、50倍モル過剰の非標識E-セレクチンNF-κBオリゴヌクレオチドを添加すると完全に消失した。
【0158】
統計解析
データは平均±SEMで表記する。nは実験の回数を示す。対のないスチューデントのt-検定を2群間の比較に使用した。多重比較では、結果をANOVAと、これに続くダネット検定で解析した。p<0.05の場合に、統計的に有意であると見なした。
【0159】
結果
STZで誘導された糖尿病ラットにおけるSphK活性に対する高血糖の作用
SphKが血管系における高血糖性の損傷に介在する重要な因子ではないかという発明者らの仮説を検証するために、発明者らは最初に、STZで誘導された糖尿病ラットに由来する血管組織におけるSphK活性の程度を調べた。明らかな糖尿病および一貫した高血糖を示す個体(表1)の中で、大動脈および心臓における総SphK活性を、糖尿病発症の2週間後に測定した。図1に示すようにSphK活性は、対照動物から採取された試料と比較して糖尿病ラットでは、大動脈で42%(p<0.05)、および心臓で68%(p<0.01)、有意に上昇した。インスリンポンプを使用する血糖値管理の実施によって、数時間以内に、ほぼ正常血糖に達した。これは、糖尿病ラットの大動脈および心臓の両方におけるSphK活性の有意な低下と相関していた(図1)。総合すると、これらのデータは、高血糖が、糖尿病個体の血管組織におけるSphK活性の亢進の重要な因子である可能性が高いことを示唆していた。
【0160】
ECにおけるSphK活性に対する高グルコースの作用
高血糖がSphK活性に及ぼす作用の有無を確認するために、およびどのタイプの血管細胞が高グルコース条件でSphKを活性化する傾向があるかを調べるために、確立された細胞培養モデルを使用した。高グルコース(22 mmol/L)培地で3日間培養したHUVECでは、標準グルコース条件で培養された細胞と比較してSphK活性の60%の上昇が見られた(p<0.01)(図2A)。酵素活性の亢進と矛盾することなく、細胞内におけるS1P産生は、高グルコースに3日間暴露したHUVECで40%増加した(図2B)。しかしながら、細胞を、高グルコースに48時間未満、暴露した場合には、SphK活性に有意な変化は認められず(データは提示していない)、高グルコースに対する長期暴露がHUVECにおけるSphKの活性化に必要であることがわかった。高グルコースとの3日間のインキュベーション後に、SphK活性はBAECでも1.7倍上昇した(図2Aおよび図2B)が、大動脈平滑筋細胞では活性の亢進は検出されなかった(データは提示していない)ことから、SphKに対する高グルコースの内皮細胞特異的な作用の存在がわかる。対照として使用した、22 mmol/LのマンニトールもL-グルコースも、HUVECまたはBAECにおけるSphK活性に任意の有意な作用がなかったことから、浸透圧ストレスの影響の可能性は除外された。
【0161】
高グルコースが誘導するSphK活性には内皮細胞の活性化が関与する
内皮細胞におけるSphK活性に高グルコースが作用することを踏まえ、発明者らは、高グルコースによって誘導されるSphK活性化の機能的な結果を見極めることにした。発明者らの過去の報告(Verrier et al., 2004、前掲)と一致して、高グルコースに対するHUVECの3日間の暴露は、VCAM-1、ICAM-1、およびE-セレクチンの細胞表面における発現を、それぞれ3.1倍、2.7倍、および4.2倍、有意に上昇させた(図3A)。興味深いことに、VCAM-1、ICAM-1、およびE-セレクチンの発現の高グルコースが誘導する上昇は、SphKの特異的な阻害剤である、2.5 μmol/Lの濃度のN'N'-ジメチルスフィンゴシン(DMS)の存在下では完全に消失した(図3A)。この低濃度でDMSは、高グルコースが誘導するSphK活性を阻害可能であったが、PKC活性に対する阻害作用は検出されず(図3B)、DMSによる阻害の特異性を示す過去の報告(Edsall et al., 1998, Biochemistry 37:12892-12898)と矛盾しない。総合すると、これらの結果は、SphKの活性が、長期の高暴露によって生じる内皮細胞の活性化に重要な役割を果たすことを示唆している。
【0162】
SphKの活性化は、内皮細胞の高グルコースが誘導する炎症誘導表現型に必要である
高グルコースが誘導する内皮細胞の活性化におけるSphKの役割をさらに検証するために、発明者らは、一連の遺伝的方法で実験を実施した。BAECに、内皮細胞におけるSphKの主要イソ型(Pitson et al., 2000, Biochem. J. 350 Pt 2:429-441)である野生型ヒトSphK1(SphKWT)のFLAG標識タンパク質、またはSphK1の点変異体であるSphKG82Dを構成的に発現するように安定にトランスフェクトした。SphKG82Dは過去に、酵素活性のみを欠くだけでなく、これまで検討された任意の刺激に反応してSphKの活性化もブロックする優性抑制型の変異体であることが報告されている(Pitson et al., 2000、前掲)。プールされた安定形質移入体を、1つの形質移入細胞に由来する個々のクローンの選択および増殖に起因する可能性のある表現型アーティファクトを避けるために使用した。SphKWTをトランスフェクトしたBAECがSphK活性の10倍高い基礎レベルを有するにかかわらず(図4A)、高グルコース条件で培養された細胞は、親細胞または空のベクターのみがトランスフェクトされた細胞で見られる上昇に対して、同程度(〜70%)にSphK活性のさらなる上昇を生じたことから、SphKの導入遺伝子がBAECで機能的に発現されており、および高グルコースに反応して容易に活性化されることがわかる。対照的にSphKの活性化は、高グルコース条件ではSphKG82Dを発現する細胞では観察されなかった(図4A)ことから、トランスフェクトされたBAECでSphKG82Dが優性抑制的な役割を果たすことが確認された。既に述べたように、SphKが高グルコースが誘導する接着分子の発現に関与する可能性があることから、発明者らは次に、この現象の病態生理学的な重要性を検証するために、内皮細胞と白血球の相互作用について調べた。発明者らの過去の報告(Verrier et al. 2004、前掲)と矛盾することなく、長期の高グルコース条件に暴露されたBAECには、白血球の内皮細胞への接着の有意な上昇が認められた(図5)。興味深いことに、高グルコースで刺激されたBAECに接着する白血球の数は、SphKWTの過剰発現によって顕著に増加したが、SphKG82Dを発現する細胞では著しく抑えられていた(図5)ことから、SphKの活性化が、高グルコースが誘導する内皮細胞の炎症誘導性の表現型に役割を果たすことも支持される。
【0163】
SphKを介する内皮細胞の活性化に対するS1P受容体の作用
SphKの活性化の生物学的な重要性は、細胞外(S1P受容体を介して)、または細胞内のいずれかにおいて機能するS1Pの産生に依存する。高グルコースによって誘導されるSphK媒介性の内皮細胞の活性化にS1P受容体が関与するか否かを検証するために、発明者らは、内皮細胞で発現されるS1P受容体の大半をブロックすることが過去に報告されている(Sanchez et al., 2004. J Cell Biochem. 92:913-922)、Giタンパク質の阻害剤である百日咳毒素を使用した。図6Aに示すように、百日咳毒素でHUVECを処理すると、VCAM-1、ICAM-1、およびE-セレクチンの高グルコースが誘導する発現が、非処理細胞と比較してそれぞれ30%、42%、および35%と、部分的に阻害されるだけであった。さらに、高グルコースによって刺激されたECに接着する白血球の数も、百日咳毒素で処理されたHUVECを部分的に、ただし有意に減じた(図6B)。これらの結果は、高グルコースによって誘導される、SphK媒介性の内皮細胞の活性化に対するGタンパク質共役S1P受容体の関与が部分的にとどまることを示唆している。この仮説をさらに調べるために、次にHUVECをS1P、リゾホスファチジン酸(LPA)、またはS1P受容体に高親和性で特異的に結合するが有意な細胞内作用の無いことが報告されている(Van Brocklyn et al., 1998, J Cell Biol 142:229-240)S1P類似体であるジヒドロ-S1P(スフィンガニン-1-リン酸)のいずれかで処理した。S1PおよびLPAによるHUVECの処理は、同程度のE-セレクチン発現の有意な上昇を生じた(図6C)。これとは対照的に、ジヒドロ-S1Pは、E-セレクチンの発現に有意な作用を及ぼさなかった(図6C)。興味深いことに、百日咳毒素による処理は、LPAによって誘発されるE-セレクチン発現を完全に阻害したが、S1Pの作用は部分的に(32%)阻害しただけであった(図6C)。総合すると、これらの結果は、S1Pの細胞内および細胞外の作用がいずれも、HGによって誘導されるSphK依存性の内皮細胞の活性化に関与することを示唆している。
【0164】
PKCおよびERK1/2は高グルコースが誘導するSphKの活性化に関与する
高グルコースが、内皮細胞においてDAGのデノボ合成を介してPKCを活性化する能力については詳しく調べられている(Xia et al., 1994, Diabetes 43:1122-1129)。過去の研究では、PKCがHEK 293細胞におけるSphKの活性化およびS1Pの産生に役割を果たすことが示唆されている(Johnson et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:35257-35262)。したがって、発明者らは、内皮細胞における高グルコースが誘導するSphKの活性化に対するPKCの潜在的な役割について調べた。興味深いことに、PKC特異的阻害剤であるGF109203XでHUVECを処理すると、高グルコースが誘導するSphK活性の亢進は弱まった(〜50%;図7)。最近、発明者らは、ERK1/2がSphKを、同酵素のリン酸化を介して直接的に活性化可能なことを報告した(Pitson et al., 2003, EMBO J. 22:5491-5500)。ERK1/2シグナル伝達経路の特異的な阻害剤であるPD98059またはU0126のいずれかを使用したところ、高グルコースが誘導するSphK活性の亢進が完全に妨げられた(図7)。総合すると、これらの結果は、ERK1/2が、高グルコースに暴露された内皮細胞で観察されるSphKの活性化に重要な役割を果たし、PKCは弱く役割を果たすことを示唆する。
【0165】
高グルコースが誘導するNF-κBの活性化はSphK活性に依存する
高グルコースは、接着分子を含む炎症誘導性の遺伝子群(Read et al., 1994, J. Exp. Med. 179:503-512)の重要な転写調節因子の1つである転写因子NF-κBを活性化することが報告されている(Morigi et al., 1998, J. Clin. Invest 101:1905-1915;Pieper et al., 1997, J. Cardiovasc. Pharmacol. 30:528-532)。発明者らは過去に、S1PがNF-κBを活性化可能であること、およびSphKの活性がTNFαによって誘導されるNF-κBの活性化に必要なことを報告している(Xia et al., 1998, supra;Xia et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:7996-8003)。したがって、発明者らは、高グルコースが誘導するSphK活性がNF-κBの活性化に及ぼす作用を調べた。発明者らは、電気泳動移動度シフトアッセイ法で、HUVECまたはBAECの高グルコースとのインキュベーションが、特にDNA-p50サブユニット複合体の状態での、NF-κBの有意な核内蓄積をもたらすことを示した(図8)。注目すべきことに、SphKに特異的な阻害剤であるDMSの存在下では、高グルコースが誘導するNF-κBの活性化は完全に阻害された(レーン3、図8)。さらに高グルコースは、SphKG82Dを発現する細胞ではNF-κBを活性化できなかった(レーン8、図8)。
【0166】
総合すると、これらのデータは、SphKが内皮細胞における高グルコースが誘導するNF-κBの活性化に重要な役割を果たすことを意味する。
【0167】
当業者であれば、本明細書に記載された発明が、具体的に記載された以外に、変形および修飾を受ける可能性があることを理解するであろう。本発明は、そのような全ての変形および修飾を含むと理解されたい。本発明は、個別に、または集合的に本明細書で言及されたか、または指定された、あらゆる段階、特性、組成物、および化合物、ならびに任意の2つか、または2つ以上の段階もしくは特性の、あらゆる組み合わせも含む。
【0168】
参考文献



【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】インビボで高血糖がSphK活性に及ぼす作用を示すグラフ図。SphK活性を、週齢をマッチさせた対照(Cont)、STZ誘導による糖尿病ラット(DM)の大動脈および心臓を対象に、またはインスリンを投与した糖尿病ラット(DM+Ins)の大動脈および心臓を対象に測定した。データは平均±SEM(n=7;ラットの個体数)。*p<0.05;†p<0.01。
【図2】高グルコースが内皮細胞におけるSphK活性に及ぼす作用のグラフ図。SphK活性(A)およびS1P形成(B)を、5.5 mMグルコース(NG)、22 mMグルコース(HG)、NG+16.5 mMマンニトール(Mtol)、またはNG+16.5 mM L-グルコース(L-glu)に3日間暴露されたHUVEC(灰色のバー)およびBAEC(黒いバー)を対象に、「方法」に記載の手順で測定した。データは平均±SEM(n=3〜5)。*p<0.01 vs NG。
【図3】高グルコースが誘導する、内皮細胞による接着分子の発現にSphKが及ぼす作用のグラフ図。HUVECの集密状態の単層を、5.5 mMグルコース(NG)、22 mMグルコース(HG)、またはHG+2.5μM DMS(HG+DMS)と3日間インキュベートした。次に、(A)接着分子の細胞表面発現をフローサイトメトリーで解析し、および(B)SphKまたはPKCの活性を、「方法」に記載の手順で測定した。データは平均±SEM(n=4〜6)。*p<0.01 vs 5.5 mMグルコース(パネルA)。†p<0.01 vs HG単独(パネルB)。
【図4】内皮細胞におけるSphKの過剰発現のイメージ。(A)5.5 mMグルコース(NG)もしくは22 mMグルコース(HG)に3日間、暴露された、野生型のSphK(SphKWT)、優性抑制型のSphK(SphKG82D)、または空のベクター(ベクター)を安定に過剰発現するようにトランスフェクトされたBAECを対象にSphK活性を測定した。データは、3回の独立した実験の平均±SEM。*p<0.01 vs NG。(B)イムノブロットを、抗FLAGモノクローナル抗体(M2)でプローブ処理した結果、トランスフェクトされたBAECにおけるSphKWTおよびSphKG82Dの発現がわかる。
【図5】高グルコースが誘導する白血球と内皮細胞の接着にSphKが及ぼす作用のイメージ。SphKWT、SphKG82D、または空のベクターを安定に過剰発現する、トランスフェクトされたBAECを、5.5 mM(NG)グルコースもしくは22 mMグルコース(HG)に3日間暴露させた。(A)処理されたBAECに対するU937細胞の接着を顕微鏡撮影した(20倍)。(B)BAECに接着したU937細胞の数を、1つの培養ウェルあたり6つの顕微鏡視野を対象に肉眼で3回カウントすることで決定した(n=12)。データは、1回の実験の平均± S.D.であり、および3回の独立した実験の代表的結果。*p<0.01。
【図6】SphK介在型の内皮の表現型にGiタンパク質が果たす役割を示すグラフ図。HUVECの集密状態の単層を、5.5 mMグルコース(NG)、22 mMグルコース(HG)、またはHG+50 ng/ml百日咳毒素(HG+PTX)と3日間インキュベートした。次に、細胞表面における接着分子の発現(A)、および白血球との接着(B)を測定した。(C)E-セレクチン発現を、5μMのS1P、LPA、ジヒドロ-S1P、または溶媒のみで6時間、PTX(50 ng/ml)の存在下もしくは非存在下で処理したHUVECを対象に調べた。データは平均±SEM(n=3)。*p<0.01、†p<0.05 vs PTX処理なしの細胞。
【図7】PKCおよびERKが、高グルコースが誘導するSphK活性に及ぼす作用のグラフ図。HUVECを5.5 mMグルコース(NG)、または22 mMグルコース(HG)に3日間、暴露させた。SphK活性を、GF109203X(GFX、5μM)、PD98059(PD9、10μM)、またはU0126(U01、2μM)との、または薬剤なしの30分間の処理後に測定した。データは平均±SEM(n=3)。*p<0.01、†p<0.05 vs HGのみ。
【図8】SphKが高グルコースが誘導するNF-κBの活性化に及ぼす作用のグラフ図。SphKG82Dまたは空のベクター(ベクター)を過剰発現するHUVECおよびBAECの集密状態の単層を、5.5 mMグルコース(NG)、22 mMグルコース(HG)、もしくはHG+2.5μM DMS(HG+DMS)と3日間インキュベートするか、または5μM S1Pと30分間処理した。次にNF-κBの活性を、NF-κBとDNAの結合複合体を対象としたゲルシフトアッセイ法で、「方法」に記載の手順で決定した。*は、50倍モル過剰の非標識NF-κBオリゴヌクレオチドの添加による競合解析によって定義されるNF-κB結合が特異的であることを示す。データは、少なくとも3回の別個の実験における、同様の結果の代表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレートする段階を含む、高血糖誘発性の内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法。
【請求項2】
内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレートする段階を含む、哺乳類における高血糖誘発性の内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法。
【請求項3】
内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレートする段階を含む、異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療法および/または予防法。
【請求項4】
コンディションが、糖尿病、クッシング病、クッシング症候群、甲状腺機能亢進、メタボリック症候群、または先端巨大症である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
内皮細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレートする段階を含む、哺乳類における糖尿病に伴う内皮細胞の機能をダウンレギュレートする方法
【請求項6】
糖尿病が、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠性糖尿病、緩徐進行性の成人発症型IDDM、または成人における潜伏性自己免疫性糖尿病である、請求項4または5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
内皮細胞が血管内皮細胞である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
血管内皮細胞の機能が血管内皮細胞の機能不全である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
血管内皮細胞の機能不全が血管障害である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
血管障害が、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害(microvasculopathy)である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
血管障害が、冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害(macrovasculopathy)である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
血管障害が、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、アテローム病変、内皮透過性の上昇、血管再生、収縮、もしくは血流の異常、または凝固異常である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ発現産物に対するアンタゴニストとして機能するタンパク性分子または非タンパク性分子を内皮細胞に接触させることで達成される、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
アンタゴニストが、GF109203X、PD98059、U0126、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、または82位のG残基のD残基との置換を特徴とする変異型スフィンゴシンキナーゼタンパク質である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子の転写および/または翻訳の調節をダウンレギュレートするタンパク性分子もしくは非タンパク性分子と内皮細胞の接触によって達成される、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが、スフィンゴシン-1-リン酸受容体の機能をダウンレギュレートするスフィンゴシン-1-リン酸のアンタゴニストもしくはスフィンゴシン-1-リン酸受容体阻害剤と内皮細胞の接触によって達成される、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
アンタゴニストが百日咳毒素である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の活性化を誘導するグルコースの能力をダウンレギュレートすることで達成される、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
高血糖誘発性の内皮細胞の機能をダウンレギュレートする薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレート可能な薬剤の使用。
【請求項20】
哺乳類における高血糖誘発性の内皮細胞の機能をダウンレギュレートする薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレート可能な薬剤の使用。
【請求項21】
異常か、望ましくないか、もしくは不適当な、高血糖誘発性の内皮細胞の機能を特徴とする、哺乳類におけるコンディションの治療用および/または予防用の薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレート可能な薬剤の使用。
【請求項22】
コンディションが、糖尿病、クッシング病、クッシング症候群、甲状腺機能亢進、メタボリック症候群、または先端巨大症である、請求項21記載の使用。
【請求項23】
哺乳類における糖尿病に伴う内皮細胞の機能をダウンレギュレートする薬物の製造における、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達をダウンレギュレート可能な薬剤の使用。
【請求項24】
糖尿病が、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠性糖尿病、緩徐進行性の成人発症型IDDM、または成人における潜在性自己免疫性糖尿病である、請求項22または23に記載の使用。
【請求項25】
内皮細胞が血管内皮細胞である、請求項19〜24のいずれか一項記載の使用。
【請求項26】
血管内皮細胞の機能が血管内皮細胞の機能不全である、請求項25記載の使用。
【請求項27】
血管内皮細胞の機能不全が血管障害である、請求項26記載の使用。
【請求項28】
血管障害が、網膜、腎糸球体、または神経組織の微小血管床における病変を含む微小血管障害である、請求項27記載の使用。
【請求項29】
血管障害が、冠血管または末梢の大血管における病変を含む巨大血管障害である、請求項27記載の使用。
【請求項30】
血管障害が、内皮細胞表面の接着分子の発現のアップレギュレーション、血管炎症、アテローム病変、内皮透過性の上昇、血管再生、収縮、もしくは血流の異常、または凝固異常である、請求項27記載の使用。
【請求項31】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが可能な薬剤が、スフィンゴシンキナーゼ発現産物に対するアンタゴニストとして機能するタンパク性分子または非タンパク性分子である、請求項19〜30のいずれか一項記載の使用。
【請求項32】
アンタゴニストが、GF109203X、PD98059、U0126、N'N'-ジメチルスフィンゴシン、または82位のG残基とD残基との置換を特徴とする変異型スフィンゴシンキナーゼタンパク質である、請求項31記載の使用。
【請求項33】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが可能な薬剤が、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子の転写および/または翻訳の調節をダウンレギュレートするタンパク性分子もしくは非タンパク性分子である、請求項19〜30のいずれか一項記載の使用。
【請求項34】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが可能な薬剤が、スフィンゴシン-1-リン酸のアンタゴニスト、またはスフィンゴシン-1-リン酸受容体の機能をダウンレギュレートするスフィンゴシン-1-リン酸受容体の阻害剤である、請求項19〜30のいずれか一項記載の使用。
【請求項35】
アンタゴニストが百日咳毒素である、請求項34記載の使用。
【請求項36】
スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達のダウンレギュレーションが可能な薬剤が、スフィンゴシンキナーゼ媒介性のシグナル伝達の活性化を誘導するグルコースの能力をダウンレギュレート可能な薬剤である、請求項19〜30のいずれか一項記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2008−528450(P2008−528450A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551514(P2007−551514)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【国際出願番号】PCT/AU2006/000054
【国際公開番号】WO2006/076767
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(507244851)メドベット サイエンス ピーティーワイ. リミティッド (5)
【Fターム(参考)】