説明

細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置のためのバイオマーカーとしてのp53野生型

提供されるのは、癌のような増殖性疾患の治療剤、特に細胞毒性因子、特にDNAの完全性を損なうかもしくは完全性に影響する細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤の感受性の測定のためのバイオマーカーである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、癌のような増殖性疾患の治療剤、特に細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤に対する感受性を測定するためのバイオマーカーに関する。
【0002】
多くのmTOR阻害剤は強力な抗増殖性特性を有し、それにより、それらは特に固形腫瘍、とりわけ進行した固形腫瘍の、癌化学療法として有用である。mTOR阻害剤はまた、例えばWO02/66019に記載の通り、処置の効果をさらに改善するために、または副作用を軽減するために、ある種の細胞毒性因子と組み合わせて使用されている。しかしながらmTOR阻害剤を基礎とする組み合わせ治療のより標的化した使用の必要性がまだ存在し、それは、このような組み合わせ剤での処置に応答しそうである患者の同定を必要とする。従って、患者における良性または悪性増殖性疾患、例えば腫瘍の、細胞毒性因子と併用したmTOR阻害剤に対する応答の予測ができる、例えば臨床試験において有用なバイオマーカーの必要性がある。
【0003】
本発明により、驚くべきことに、野生型p53腫瘍抑制遺伝子(他の態様で、P53遺伝子としても既知)の存在が、mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせでの処置に対する増殖性疾患の感受性を予測する、バイオマーカーとして有用であることが判明した。特に、ヒト癌細胞系における野生型p53遺伝子の存在が、DNAの完全性を損なうかもしくは完全性に影響する細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に由来する細胞死滅/プログラム細胞死/アポトーシスの増加とよく相関することが判明した。故に、細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤は、野生型p53を保持する癌細胞の処置に使用したとき、おそらく、より著しい抗増殖性/殺細胞効果を示す。p53タンパク質(TP53遺伝子によりコード)は、哺乳動物における細胞サイクル停止、老化、分化およびプログラム細胞死/アポトーシスの制御において主要な役割を有する、腫瘍抑制因子である。特に、p53経路は、ストレス(例えばDNA損傷、発癌性ストレス、低酸素、生存シグナルの欠損)に曝された哺乳類細胞における細胞サイクル停止および/またはアポトーシスを誘発する。TP53における変異はヒト癌のほぼ半分で起こり、p53応答を誘発する能力が、多くの癌細胞で損なわれている(Vousden and Lu, Nature Reviews, 2002,2: 594-604)。ヒトp53の配列(mRNA[コード配列;1182ヌクレオチド]およびタンパク質[393アミノ酸])は、GenBank accession numbers NM 000546またはP04637の下に入手可能である。ヒトTP53遺伝子の完全配列は、GenBank accession number U94788の下に入手可能である。
【0004】
従って、本発明は、異常増殖の傾向がある細胞における野生型p53(TP53)遺伝子の存在の決定に基づく。
【0005】
本発明は、一つの局面において、細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に対する増殖性疾患の感受性を測定するためのバイオマーカーとしての野生型p53(TP53)遺伝子の存在(その存在は、p53[TP53]遺伝子の不在、欠損もしくは欠失または変異p53[TP53]遺伝子の存在と対立する)の利用を提供する。
【0006】
ここで、野生型p53(TP53)遺伝子は、イントロンおよびエクソンだけでなく、イントロンおよびエクソン、特に5’から最も5’−のエクソンに関連した、および、物理的に近い制御領域をも意味する。それは、例えば天然遺伝子の全長DNA配列と、それが野生型p53タンパク質またはその機能的等価物、例えばその細胞アポトーシス誘発特性を保持した機能的p53タンパク質を発現する限り、所望によりヌクレオチド置換(逆位を含む)、コドンの挿入および欠失を含む。逆に言えば、p53(TP53)遺伝子の不在、欠損、欠失または変異は、p53(TP53)遺伝子発現の喪失または、例えばもはや細胞アポトーシス誘発特性を保持しない変異p53タンパク質の発現をもたらす変異遺伝子の発現をもたらす、遺伝的および後成的変化、例えば増幅、メチル化、多型、ヌクレオチド変異、欠失、逆位または転座およびヘテロ接合性欠失(LOH)を意味する。
【0007】
さらなる局面において、本発明は、対象における増殖性疾患の細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に対する感受性を測定する方法であって、該対象由来のサンプルにおけるp53(TP53)状態(野生型対変異体もしくは欠損/不在)を測定する方法を提供する。
【0008】
他の局面において、本発明は、増殖性疾患を有する対象を細胞毒性因子と併用したmTOR阻害剤での処置のために選択する方法であって、上記方法により各対象における増殖性疾患の組み合わせ処置に対する感受性を測定し、そして、野生型p53(TP53)遺伝子を保持する対象を該組み合わせ処置のために選択することを含む方法。
【0009】
本明細書で使用する“mTOR阻害剤”なる用語は、ラパマイシン(シロリムス)またはその誘導体を含むが、これに限定されない。ラパマイシンは、ストレプトマイセス・ヒグロスコピカスにより産生されるマクロライド系抗生物質である。ラパマイシンの適当な誘導体は、例えば式A
【化1】

〔式中、
1aaはCHまたはC3−6アルキニルであり、
2aaはHまたは−CH−CH−OH、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−プロパノイルまたはテトラゾリルであり、そして
aaは=O、(H,H)または(H,OH)である。
ただし、Xaaが=Oであり、そしてR1aaがCHであるとき、R2aaはH以外である。〕
の化合物、またはR2aaが−CH−CH−OHであるとき、そのプロドラッグ、例えばその生理学的に加水分解可能なエーテルを含む。
【0010】
式Aの化合物は、例えばWO94/09010、WO95/16691、WO96/41807、USP5,362,718またはWO99/15530に記載され、これらは引用により本明細書に包含する。それらは、これらの引用文献に記載の通りにまたは記載の方法に準じて製造できる。
【0011】
式Iの代表的ラパマイシン誘導体は、例えば32−デオキソラパマイシン、16−ペント−2−イニルオキシ−32−デオキソラパマイシン、16−ペント−2−イニルオキシ−32(SまたはR)−ジヒドロ−ラパマイシン、16−ペント−2−イニルオキシ−32(SまたはR)−ジヒドロ−40−O−(2−ヒドロキシエチル)−ラパマイシン、40−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート]−ラパマイシン(別名CCI779)または40−エピ−(テトラゾリル)−ラパマイシン(別名ABT578)である。好ましい化合物は、例えばWO94/09010の実施例8に記載の通りの40−0−(2−ヒドロキシエチル)−ラパマイシン、またはWO96/41807に記載の通りの32−デオキソラパマイシンもしくは16−ペント−2−イニルオキシ−32(S)−ジヒドロ−ラパマイシンである。ラパマイシン誘導体はまた、例えばWO98/02441およびWO01/14387に記載の通りの、いわゆるラパログ、例えばAP23573、AP23464、AP23675またはAP23841も含み得る。ラパマイシン誘導体のさらなる例は、TAFA−93(ラパマイシンプロドラッグ)、バイオリムス−7またはバイオリムス−9の名前の下に記載されているものである。
【0012】
特許出願または科学文献の引用が記載されている各場合、化合物に関する課題を、本明細書に引用により包含する。包含されるのは同様に、それらの中に開示されている、その薬学的に許容される塩、対応するラセミ体、ジアステレオ異性体、エナンチオマー、互変異性体ならびに、存在するとき、上記の化合物の結晶修飾体、例えば溶媒和物、水和物および多形である。本発明の組み合わせ剤において活性成分として使用する化合物は、各々引用文献に記載の通り製造および投与できる。
【0013】
本明細書で使用する“細胞毒性因子”なる用語は、細胞構造および機能にとって危険である因子、例えばDNAの完全性を損なうかもしくは完全性に影響し、最終的に細胞死の原因となり得る因子、例えば抗新生物剤、例えば微小管活性化剤またはとりわけDNAを損傷させる薬剤、例えば抗新生物代謝拮抗剤、白金化合物、アルキル化剤またはトポイソメラーゼIもしくはII阻害剤である。“細胞毒性因子”なる用語はまたDNA損傷をもたらす放射線照射治療、例えば電離放射線、例えば放射活性ヨウ素も含む。このような放射線照射治療はまた細胞毒性因子治療と組み合わせ得る。“細胞毒性因子”なる用語はまた、1個、2個またはそれ以上の細胞毒性因子も含み、それは“カクテル”療法の形で投与され得る。
【0014】
本明細書で使用する“トポイソメラーゼI阻害剤”は、トポテカン、イリノテカン、ギマテカン(gimatecan)、9−ニトロカンプトテシンおよび巨大分子カンプトテシン結合PNU−166148(WO99/17804における化合物A1)を含むが、これらに限定されない。イリノテカンは、例えば、商品名CAMPTOSARTMの下、例えば、市販の形で投与できる。トポテカンは、例えば、商品名HYCAMTINTMの下、例えば、市販の形で投与できる。
【0015】
本明細書で使用する“トポイソメラーゼII阻害剤”なる用語は、ドキソルビシン(リポソーム製剤、例えばCAELYXTMを含む)、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシンおよびネモルビシン(nemorubicin)のようなアントラサイクリン類、アントラキノン類ミトキサントロンおよびロソキサントロン、およびポドフィロトキシン類エトポシドおよびテニポシドを含むが、これらに限定されない。エトポシドは、例えば、商品名ETOPOPHOSTMの下、例えば、市販の形で投与できる。テニポシドは、例えば、商品名VM 26-BRISTOLTMの下、例えば、市販の形で投与できる。ドキソルビシンは、例えば、商品名ADRIBLASTINTMの下、例えば、市販の形で投与できる。エピルビシンは、例えば、商品名FARMORUBICINTMの下、例えば、市販の形で投与できる。イダルビシンは、例えば、商品名ZAVEDOSTMの下、例えば、市販の形で投与できる。ミトキサントロンは、例えば、商品名NOVANTRONTMの下、例えば、市販の形で投与できる。
【0016】
“微小管活性化剤”なる用語は、タキサン類、例えばパクリタキセルおよびドセタキセル、ビンカアルカロイド、例えば、ビンブラスチン、とりわけビンブラスチンスルフェート、ビンクリスチン、とりわけビンクリスチンスルフェート、およびビノレルビン、ディスコデルモライドならびにエポチロンおよびその誘導体、例えばエポチロンBもしくはその誘導体を含む、微小管安定化および微小管脱安定化剤を含むが、これらに限定されない。パクリタキセルは、例えばその市販の形、例えばTAXOLTMで投与し得る。ドセタキセルは、例えば、商品名TAXOTERETMの下、例えば、市販の形で投与できる。ビンブラスチンスルフェートは、例えば、商品名VINBLASTIN R.P.TMの下、例えば、市販の形で投与できる。ビンクリスチンスルフェートは、例えば、商品名FARMISTINTMの下、例えば、市販の形で投与できる。ディスコデルモライドは、例えば、US5,010,099に記載の通りに得ることができる。
【0017】
本明細書で使用する“アルキル化剤”は、シクロホスファミド、イフォスファミド、メルファランまたはニトロソウレア(BCNUまたはGliadelTM)を含むが、これらに限定されない。シクロホスファミドは、例えば、商品名CYCLOSTINTMの下、例えば、市販の形で投与できる。イフォスファミドは、例えば、商品名HOLOXANTMの下、例えば、市販の形で投与できる。
【0018】
“抗新生物代謝拮抗剤”なる用語は、5−フルオロウラシル、テガフール、カペシタビン、クラドリビン、シタリビン(cytaribine)、フルダラビンホスフェート、フルオロウリジン、ゲムシタビン、6−メルカプトプリン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、エダトレキサートおよびこのような化合物の塩、およびさらにZD1694(RALTITREXEDTM)、LY231514(ALIMTATM)、LY264618(LOMOTREXOLTM)およびOGT719を含むが、これらに限定されない。カペシタビンは、例えば、商品名XELODATMの下、例えば、市販の形で投与できる。ゲムシタビンは、例えば、商品名GEMZARTMの下、例えば、市販の形で投与できる。
【0019】
本明細書で使用する“白金化合物”は、カルボプラチン、シスプラチンおよびオキサリプラチンを含むが、これらに限定されない。カルボプラチンは、例えば、商品名CARBOPLATTMの下、例えば、市販の形で投与できる。オキサリプラチンは、例えば、商品名ELOXATINTMの下、例えば、市販の形で投与できる。
【0020】
増殖性疾患は、良性または悪性増殖性疾患、例えば良性前立腺肥大、または新生物疾患、好ましくは悪性増殖性疾患、例えば癌、例えば腫瘍および/または転移巣(どこに位置していても)、例えば脳および他の中枢神経系腫瘍(例えば髄膜、脳、脊髄、脳神経および中枢神経系の他の部分の腫瘍、例えば膠芽細胞腫または髄質芽腫(medulla blastoma));頭頚部癌;乳房腫瘍;循環器系腫瘍(例えば心臓、縦隔および胸膜、および他の胸腔内臓器、血管腫瘍および血管組織関連腫瘍);排泄系腫瘍(例えば腎臓、腎盂、尿管、膀胱、他のおよび非特異的泌尿器);胃腸管腫瘍(例えば食道、胃、小腸、結腸、結腸直腸、直腸S状部、直腸、肛門および肛門管)、肝臓および肝内胆管、胆嚢、胆管の他のおよび非特異的部位、膵臓、その他および消化器が関与する腫瘍;頭頚部;口腔(唇、舌、歯肉、口腔底、口蓋、および口の他の部位、耳下腺、および唾液腺の他の部位、扁桃、中咽頭、上咽頭、梨状陥凹、下咽頭、ならびに唇、口腔および咽頭における他の部位);生殖器系腫瘍(例えば陰門、膣、子宮頸部、子宮体、子宮、卵巣、および女性生殖器に関連する他の部位、胎盤、陰茎、前立腺、精巣、および男性生殖器に関連する他の部位);呼吸器腫瘍(例えば鼻腔および中耳、副洞、喉頭、気管、気管支および肺、例えば小細胞肺癌または非小細胞性肺癌);骨格系腫瘍(例えば骨および肢の関節軟骨、骨関節軟骨および他の部位);皮膚腫瘍(例えば皮膚の悪性黒色腫、非黒色腫皮膚癌、皮膚の基底細胞癌腫、皮膚の扁平上皮細胞癌腫、中皮腫、カポジ肉腫);および末梢神経および自律神経系、結合および軟部組織、後腹膜および腹膜、眼および付属器、甲状腺、副腎および他の内分泌腺および関連構造を含む他の組織が関連する腫瘍、リンパ節の続発性および不特定悪性新生物、呼吸および消化系の続発性悪性新生物ならびに他の部位の続発性悪性新生物、血液およびリンパ系の腫瘍(例えばホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、AIDS関連リンパ腫、悪性免疫増殖性疾患、多発性骨髄腫および悪性血漿細胞新生物、リンパ性白血病、急性または慢性骨髄性白血病、急性または慢性リンパ球性白血病、単球性白血病、特定細胞系の他の白血病、非特定細胞系の白血病、リンパの他のおよび不特定悪性新生物、造血性および関連組織、例えばびまん性大細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫または皮膚T細胞リンパ腫)を含む。骨髄性癌は、例えば急性または慢性骨髄性白血病を含む。
【0021】
前記および後記で腫瘍、腫瘍疾患、癌腫または癌が記載されているとき、また原発臓器もしくは組織におけるおよび/または全ての他の位置における転移巣も、腫瘍および/または転移巣の位置にかかわらず、それに代えてまたはそれに加えて意味する。
【0022】
細胞毒性因子なる用語は、リンパまたは骨髄性癌の場合、例えばブスルファン、シタラビン、6−チオグアニン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、プロカルバジン、ブレオマイシンまたはメトトレキサートでもあり得る。トポイソメラーゼII阻害剤、例えばダウノルビシンまたはイダルビシンまたは、特に、PDGFRまたはc−AbIファミリーメンバーおよびそれらの遺伝子融合産物の活性を標的とし、減少させ、または阻害する化合物、例えばイマチニブ、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、Ara−C、VP−16、テニポシド、ミトキサントロン、カルボプラチンまたはミドスタウリンが、リンパまたは骨髄性癌の場合の細胞毒性因子として好ましい。
【0023】
本発明の方法によって、このような増殖性疾患を有する対象を、mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせ処置に対するそれらの感受性を予測するためにスクリーニングできる。該方法は、インビトロで、例えば該対象由来の生物学的組織サンプルで行い得る。該サンプルは、例えば組織、細胞系、血漿もしくは血清、細胞または細胞融解物、好ましくは腫瘍組織のような、哺乳類身体から単離された、任意の生物学的材料であり得る。
【0024】
p53(TP53)遺伝子の状態を、該生物学的サンプルにおいて、例えば遺伝的および後成的変化についてのDNA分析、例えば増幅、メチル化、多型、ヌクレオチド変異(例えばコドン175Arg、245Gly、248Arg、249Arg、273Arg、282Argおよびその他の変異)、ヌクレオチド欠失、逆位および/または翻訳およびヘテロ接合性欠失(LOH)についてのDNA走査に基づく何らかの技術的手段によりアッセイする。p53(TP53)状態を、生物学的サンプルにおいて、例えばノーザンブロッティングまたはRT−PCRの技術を使用した、例えばRNA発現に基づく、または例えばイムノアッセイ、免疫沈降および電気泳動アッセイを含むウェスタンブロッティング、免疫組織化学またはELISAの技術を使用した、例えばタンパク質発現/修飾に基づく何らかの技術的手段によりアッセイする。
【0025】
例えば、p53タンパク質またはリン酸化(例えばSer46のリン酸化)、ユビキチン化もしくはアセチル化のようなp53翻訳後修飾に特異的な抗体を、標準イムノアッセイ形態に使用して、p53タンパク質/リン酸化/ユビキチン化/アセチル化レベルを測定する。例えばモノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用した、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)型アッセイ、免疫沈降型アッセイ、慣用のウェスタンブロッティングアッセイおよび免疫組織化学アッセイもまた、バイオマーカーとしてのp53タンパク質/翻訳後修飾のレベルの測定に利用される。
【0026】
p53タンパク質/翻訳後修飾に特異的なポリクローナルおよびモノクローナル抗体は、既知の免疫化法により産生するか、または、商業的に入手可能である(例えばSanta Cruz Biotechnology Inc catalogue #sc6253)。
【0027】
p53状態はまた、二次元(2−D)ゲル電気泳動により測定できる。2−Dゲル電気泳動は当分野で既知であり、第一次元に沿った等電点電気泳動(IEF)、続く第二次元に沿ったSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を含む。得られる電気泳動図を、例えば、抗体を使用した免疫ブロット分析により、分析する。
【0028】
本発明は、故に、上記の方法でp53(TP53)状態を測定することを含む、増殖性疾患を有する患者を、それらのmTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせ処置に対する感受性を予測するためにスクリーニングする方法を提供する。
【0029】
さらなる局面において、本発明は、処置を必要とする対象における増殖性疾患の処置法であって、該対象由来のサンプルにおけるp53(TP53)遺伝子の状態またはp53発現および/または翻訳後修飾レベルを上記の方法で測定し、該対象を細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤で処置することを含む、方法を提供する。
【0030】
別の態様において、本発明は、処置を必要とする対象における細胞毒性因子または、細胞毒性因子の活性を増強するまたは細胞毒性因子に対する耐性を克服する方法であって、該対象由来のサンプルにおけるp53(TP53)遺伝子/発現を上記の方法で測定し、該対象に治療的有効量のmTOR阻害剤を、該細胞毒性因子と同時にまたは連続的に投与することを含む、方法を提供する。
【0031】
対象の特定の組織、例えば腫瘍組織サンプル中のp53(TP53)状態を、対照サンプル、例えば該疾患を有しない対照由来の正常組織サンプル、または同じ対照由来の正常(すなわち非腫瘍)組織由来のサンプルと比較すればよい。細胞毒性因子と併用したmTOR阻害剤の使用が指示されるp53(TP53)野生型状態レベルは、mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせの優れた治療的効果(すなわち抗増殖性および/また増加した殺細胞効果)の指標である。
【0032】
さらに、本方法は、各患者に対する個々に最適化された治療のための、細胞毒性因子および/またはmTOR阻害剤の適切な投与量の選択の助けとして使用できる。患者におけるp53野生型状態のレベルに依存して、組み合わせの活性成分の低用量を使用できる;例えば、投与量がしばしば少ないだけでなく、少ない頻度で投与でき、または、望ましくない増殖を制御しながら、副作用の発生を減少させるために使用できる。この状況について考慮すべき因子は、処置している特定の状態、処置している特定の哺乳類、個々の患者の臨床状態、活性化合物の送達部位、活性化合物の特定のタイプ、投与法、投与のスケジュール、疾患の重症度ならびに医者に既知の他の因子を含む。
【0033】
本明細書で使用する“組み合わせ処置”または“と組み合わせた”または“と併用した”などの用語は、選択したmTOR阻害剤および細胞毒性因子を単一患者に投与することを含み、該薬剤を必ずしも同じ投与経路でまたは同時に投与するものではない処置レジメンを含むことを意図する。例えば、mTOR阻害剤と細胞毒性因子を患者に別々の物として同時に、一緒にまたは具体的時間制限なしに連続的に投与してよく、ここで、このような投与は体内で2成分の治療的有効レベルを提供する。
【0034】
組み合わせの各活性成分の投与すべき治療的有効量は、上記の通りの斟酌により支配され、該疾患を予防、軽減または処置するのに必要な最少量である。このような量は、好ましくは、宿主に対して毒性であるか、または、宿主に感染に対する著しい危険性を与える量より少ない。
【0035】
mTOR阻害剤の適当な投与量は、例えばWO02/66019に記載の通りであり、例えば1回量または分割用量として、または、断続的に例えば1週間に1回で、1日あたりp.o.で約0.1から30mg、例えば約0.05から20mg活性成分の桁の投与割合である。ラパマイシンまたはその誘導体、例えば式Aの化合物は、任意の慣用の経路で、特に経腸的に、例えば経口で、例えば錠剤、カプセル、飲溶液の形で、または非経腸的に、例えば、約0.1%から約99.9%、好ましくは約1%から約60%の活性成分を含む、例えば注射用溶液または懸濁液の形で投与できる。
【0036】
トポテカンは、ヒトに約1から5mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。イリノテカンは、ヒトに約50から350mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。
【0037】
パクリタキセルは、ヒトに約50から300mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。ドセタキセルは、ヒトに約25から100mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。
【0038】
シクロホスファミドは、ヒトに約50から1500mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。メルファランは、ヒトに約0.5から10mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。
【0039】
5−フルオロウラシルは、ヒトに約50から1000mg/m日で変化する範囲の投与量、例えば500mg/m日で投与し得る。カペシタビンは、ヒトに約10から1000mg/m日で変化する範囲の投与量で投与し得る。ゲムシタビンヒドロクロライドは、ヒトに約1000mg/m/週で変化する範囲の投与量で投与し得る。
【0040】
カルボプラチンは、ヒトに約4週間毎に約200から400mg/mで変化する範囲の投与量で投与し得る。シスプラチンは、ヒトに約3週間毎に約25から75mg/mで変化する範囲の投与量で投与し得る。オキサリプラチンは、ヒトに2週間毎に約50から85mg/mで変化する範囲の投与量で投与し得る。
【0041】
イマチニブは、ヒトに約2.5から850mg/日、より好ましくは5から600mg/日および最も好ましくは20から300mg/日の範囲の投与量で投与できる。
【0042】
本発明に記載の方法において使用する好ましい組み合わせは、例えばラパマイシン、40−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート]−ラパマイシンまたは40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンと、ゲムシタビンまたはシスプラチンのような細胞毒性因子の組み合わせである。本発明の方法において使用すべき別の組み合わせは、例えば上記の通りの、相乗的用量のmTOR阻害剤と、細胞毒性因子、例えばゲムシタビンまたはシスプラチンの組み合わせである。
【0043】
好ましくはTP53はヒト遺伝子である。
好ましくは本発明の方法は、p53(TP53)野生型状態を提示する腫瘍細胞上で行う。
【0044】
さらなる態様において、p53(TP53)野生型細胞における、細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に由来する増加した細胞死滅/プログラム細胞死/アポトーシスは、以後p21と呼ぶ、p21Waf1/Cip1(CDKN1A、WAF1、CIP1、SDI1、CAP20、MDA−6、p21としての既知)タンパク質発現の細胞毒性誘発上方制御の強い減弱化と相関する。
【0045】
p21はサイクリンキナーゼ“阻害剤”のcip/kipファミリーのメンバーであり、それは、細胞サイクル進行の許可ならびにアポトーシスの予防に役割を有する。本発明の状況において、p21の、活性化p53に応答して、ストレスシグナル、例えばDNA損傷に応答して細胞増殖を阻止する機能は十分確立されている。実際、増加したp21タンパク質発現が、このようなストレスを受けた細胞の生存を可能にする、例えば細胞がDNA修復過程を完了することを可能にすると仮定されている。故に、細胞毒性物での処置に応答した、増加したp21発現の減弱化は、細胞死滅/プログラム細胞死/アポトーシスを促進し得る(Weiss, Cancer Cell, 2003,4: 425-429)。ヒトp21の配列(mRNA[コード配列:495ヌクレオチド]およびタンパク質生成物[164アミノ酸])は、GenBank accession number NM 000389、NM 078467またはAAH01935の下に入手可能である。ヒトp21遺伝子の完全配列は、GenBank accession number NM 078467の下に入手可能である。
【0046】
さらに、癌患者の幾分かは増加した合計またはサイトソル腫瘍p21発現を有し、これは悪い予後および化学療法に対する乏しい応答と関連している(Weiss, supra)。癌患者における基底のp21発現の評価は、患者を、例えば1個以上の細胞毒性因子および所望により放射線療法と組み合わせたmTOR治療に基づく具体的化学療法処置について選択することを可能にし得る。
【0047】
従って、本発明は、さらに下記を提供する:
i. 対象における細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に対する増殖性疾患の感受性または応答を測定するためのバイオマーカーとしてのp21の使用;
【0048】
ii. 増殖性疾患を有する対象を細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置のために選択する方法であって、各対象における増殖性疾患の細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に対する感受性を測定し、増加した基底p21発現を示す対象を組み合わせ処置のために選択することを含む、方法;
【0049】
iii. 対象における増殖性疾患の細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤に対する感受性または応答を測定する方法であって、該対象由来のサンプルにおけるp21発現レベルを細胞毒性因子単独およびmTOR阻害剤との組み合わせでの処置の前および/または後に測定することを含む、方法;
【0050】
iv. 細胞毒性因子で処置している対象における、該細胞毒性因子の活性を増強するまたは細胞毒性因子に対する耐性に打ち勝つ方法であって、
−上記の方法により、該対象由来のサンプルにおけるp21発現レベルを測定し、
− p21発現が細胞毒性因子投与後に上方制御されているとき、該対象に治療的有効量のmTOR阻害剤を細胞毒性因子と組み合わせて投与し、
− mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせ処置後の該対象由来の新規サンプルにおけるp21発現を再び測定し、そして
− p21発現が下方制御されているとき、該対象を、細胞毒性因子と同時にまたは連続的に、mTOR阻害剤でさらに処置する
ことを含む、方法。
【0051】
既に上記の通り、p21タンパク質レベルはp53について上記の通りに測定できる;しかしながら、p53に特異的な抗体を使用する代わりに、例えば市販の(例えばOncogene Research products, Clone EA10, catalogue #OP64)、p21に特異的な抗体、例えばモノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用することは理解されるべきである。
【0052】
対象の特定の組織、例えば腫瘍組織サンプルにおいて見られたレベルを、対照サンプル、例えば該疾患を有しない対照由来の正常組織サンプル、または同じ対照由来の正常(すなわち非腫瘍)組織由来のサンプルと比較し得る。p21発現の欠損または誘発の減弱化(細胞毒性因子単独で観察される誘発と比較して、細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤の組み合わせで処置したときの)は、細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤の優れた治療的効果(すなわち抗増殖性/殺細胞効果)の指標である。細胞毒性因子によるp21発現誘発のおよび/またはmTOR阻害剤によるp21発現レベルに対する逆転効果の評価は、また、例えば、細胞毒性用量を減少させるための、細胞毒性因子の用量の調整にも有用であり得る。
【0053】
記載の実施例は、本発明を何ら限定することなく、説明する。
【0054】
実施例1
p53(TP53)野生型ヒト腺癌A549(CCL−185)腫瘍細胞(American Type Culture Collection, Rockville, MD., USA)を、96ウェルプレートに2×10細胞/100μl/ウェルの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞を、最適濃度以下のゲムシタビン(例えば5から17.5nM)と、20nM 40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンまたは媒体対照DMSOのいずれかとの組み合わせでさらに72時間インキュベートする。YO−PRO色素(YO−PRO−1アイオダイド[491/509]、cat #Y3603, Molecular Probes)を細胞に添加し、Cytofluor II蛍光プレートリーダーを使用して細胞死または細胞毒性を、そして、細胞溶解後、相対的細胞増殖を測定する。このアッセイにおいて、mTOR阻害剤、例えば40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンは、最適濃度以下のゲムシタビンの殺細胞効果の統計学的有意な増強をもたらす(p<0.05;Tukey検定を伴うANOVA)。同様の結果が、ヒト肺腺癌A549以外のp53(PT53)野生型細胞系、例えばヒトMCF7乳癌腫細胞(HTB-22; American Type Culture Collection)を使用したときに、得られる。
【0055】
p53(TP53)変異/欠損腫瘍細胞系、例えばPC3Mヒト前立腺癌腫細胞(0.8×10細胞/100μlの密度で播種)またはMDA−MB231ヒト乳癌腫細胞(2×10細胞/100μlの密度で播種;HTB-26; American Type Culture Collection)を使用する以外、この方法を繰り返す。p53(TP53)変異/欠損細胞系において、著しいまたは一貫した細胞死の増強は見られない。
【0056】
A549細胞を、0.1×10細胞/10ml/10cmプレートの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞を、最適濃度以下のゲムシタビン(例えば5から12.5nM)と、20nM 40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンまたは媒体対照DMSOのいずれかとの組み合わせでさらに72時間インキュベートする。50μg 総タンパク質に対応する細胞抽出物を、8%SDS−PAGE電気泳動により分離し、免疫ブロット分析を、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)に対して惹起させたウサギポリクローナル抗体(Cell Signalling Technology catalogue #9542)を使用して行う。このアッセイにおいて、mTOR阻害剤、例えば40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンの存在は、最適濃度以下のゲムシタビンで、増加したPARP開裂(アポトーシスのマーカー)をもたらす(同じ濃度のゲムシタビンまたはmTOR阻害剤単独と比較して)。これは、p53(TP53)野生型A549細胞において、mTOR阻害剤の存在が、最適濃度以下のゲムシタビンでの高いレベルの細胞死をもたらすとの上記結果を確認する。
【0057】
実施例2
p53(TP53)野生型ヒト肺腺癌A549細胞を、96ウェルプレート中5×10細胞/100μl/ウェルの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞を、最適濃度以下のシスプラチン(例えば3から10μg/ml)と、20 nM 40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンまたは媒体対照DMSOのいずれかとの組み合わせでさらに24時間インキュベートする。YO−PRO(登録商標)アッセイを上記の通り行い、細胞死または細胞毒性を、そして、細胞溶解後、相対的細胞増殖を測定する。このアッセイにおいて、mTOR阻害剤、例えば40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンは、最適濃度以下のシスプラチンの殺細胞効果の統計学的有意な増強をもたらす(p<0.05;Tukey検定を伴うANOVA)。二元配置ANOVAを使用した続く分析は、RAD001とシスプラチンの間の相互作用が非常に有意であることを示した(p<0.001)。上記と同様の結果が、ヒト肺腺癌A549以外のp53(PT53)野生型細胞系、例えばヒトMCF7乳癌腫細胞を使用したときに、得られる。後者の場合、化合物とのインキュベーションは30時間である。
【0058】
p53(TP53)変異/欠損腫瘍細胞系、例えばPC3M(3×10細胞/100μlの密度で播種)またはDU145(5×10細胞/100μlの密度で播種:HTB−81;American Type Culture Collection)を使用する以外、この方法を繰り返す。この場合、化合物とのインキュベーションはDU145については22時間またはPC3Mについては30時間である。p53(TP53)変異/欠損細胞系において、著しいまたは一貫した細胞死の増強は見られない。
【0059】
A549細胞を、0.1×10細胞/10ml/10cmプレートの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞を、最適濃度以下のシスプラチン(例えば0.5から4μg/ml)と、20nM 40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンまたは媒体対照DMSOのいずれかとの組み合わせでさらに24時間インキュベートする。50μg 総タンパク質に対応する細胞抽出物を、8%SDS−PAGE電気泳動により分離し、免疫ブロット分析を、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP)およびp53に対して惹起させたウサギポリクローナル抗体を使用して行う。このアッセイにおいて、mTOR阻害剤、例えば40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンの存在は、最適濃度以下のシスプラチンで、増加したPARP開裂(アポトーシスのマーカー)をもたらす(同じ濃度のシスプラチンまたはmTOR阻害剤単独と比較して)。これは、p53(TP53)野生型A549細胞において、mTOR阻害剤の存在が、最適濃度以下のシスプラチンでの高いレベルの細胞死をもたらすとの上記結果を確認する。
【0060】
p53(TP53)状態は、例えば、対象における腫瘍の、mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせに対する感受性の予測となる。p53状態は、mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせに対する応答の可能性を予測するために、上記の通り腫瘍組織から得たDNA、RNAまたはタンパク質を使用して評価できる。
【0061】
実施例3
p53(TP53)野生型A549およびMCF7細胞を、各々0.3×10および0.4×10細胞/4ml/6cmプレートの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞を、最適濃度以下のシスプラチン(例えば0.5から4μg/ml)と、20nM 40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンまたは媒体対照DMSOのいずれかとの組み合わせでさらに各々24時間および30時間インキュベートする。30μg 総タンパク質に対応する細胞抽出物を、15%SDS−PAGE電気泳動により分離し、免疫ブロット分析を、p21に対して惹起させたマウスモノクローナル抗体(Oncogene Research Products, Clone EA10, catalogue #OP64)を使用して行う。両方の細胞系において、シスプラチン単独は、用量依存的方法で増加したp21タンパク質発現を誘発する。著しくは、mTOR阻害剤、例えば40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシンの存在が、p21タンパク質発現のシスプラチン誘発上方制御を減弱する。対照的に、p53制御アポトーシス促進性タンパク質である、Baxタンパク質発現は、薬剤単独または組み合わせのいずれでも影響を受けない。このアッセイにおいて、細胞毒性誘発p21タンパク質発現は、mTOR阻害剤の存在により阻害する。これは、シスプラチンとmTOR阻害剤の組み合わせで観察される、増加した細胞死滅/アポトーシス応答の説明を提供する。
【0062】
実施例4
p53(TP53)野生型A549細胞を、0.1×10細胞/5ml/6cmプレートの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞をトランスフェクトしないままか、または、ヒトp53(Accession number: NM000546; 標的配列: 5'-GCA TCT TAT CCG AGT GGA A-3')をターゲティングするもしくはLacZ(Accession number: M55068; 標的配列: 5'-GCG GCT GCC GGA ATT TAC CTT-3')コントロールsiRNAのいずれか100nM siRNAで、オリゴフェクタミン(Invitrogen, Cat # 12252-011)を使用して一過性にトランスフェクトする。30時間インキュベーション後、細胞を増加した濃度のシスプラチン(例えば0.5から6μg/ml)と、さらに24時間インキュベートする。30μg(p21)および50μg(p53およびPARP)総タンパク質に対応する細胞抽出物を、15%(p21)および10%(p53およびPARP)SDS−PAGE電気泳動で分離し、免疫ブロット分析を、各々p21およびp53/PARPに対して惹起させたマウスモノクローナルおよびウサギポリクローナル抗体を使用して行う。トランスフェクトしていないまたはLacZ siRNAコントロールでトランスフェクトした細胞のシスプラチン処置は、p53およびp21タンパク質発現を濃度依存的方法で誘発し、高濃度シスプラチン(2から6μg/ml)ではPARP開裂(アポトーシスのマーカー)の証拠を伴う。著しくは、シスプラチン誘発p53タンパク質発現の減弱化が、p53 siRNAでトランスフェクトした細胞で起こり、それは、p21発現の劇的減弱化、PARP開裂および細胞生存能の損失と相関する。p53発現、p21発現およびPARP開裂に対する同様の効果が、2種の他のヒトp53(標的配列:5'-GGA AGA CTC CAG TGG TAA T-3'および5'-GAT ATT GAA CAA TGG TTC A-3')をターゲティングするsiRNAでも観察される。これらのデータは、シスプラチンおよびmTOR阻害剤組み合わせで観察される増加した細胞死滅/アポトーシス応答が、p53依存性機構を介して顕在化することを直接確認する。
【0063】
実施例5
p53(TP53)野生型A549細胞を、0.1×10細胞/5ml/6cmプレートの密度で播種し、24時間、37℃および5%COでインキュベートする。細胞トランスフェクトしないままか、または、p21(Accession number: NM000389; 標的配列: 5'-GTG GAC AGC GAG CAG CTG A-3')またはLacZ(上記の通り)コントロールsiRNAのいずれか100nM siRNAで、オリゴフェクタミン(Invitrogen, Cat # 12252-011)を使用して一過性にトランスフェクトする。30時間インキュベーション後、細胞を、最適濃度以下のシスプラチン(例えば1から2μg/ml)でさらに24時間インキュベーションする。30μg(p21)および50μg(PARP)総タンパク質に対応する細胞抽出物を、各々15および10%SDS−PAGE電気泳動で分離し、免疫ブロット分析を、各々p21およびPARPに対して惹起させたマウスモノクローナルおよびウサギポリクローナル抗体を使用して行う。トランスフェクトしていないまたはLacZ siRNAコントロールでトランスフェクトした細胞のシスプラチン処置は、濃度依存的方法でp21タンパク質発現を誘発し、PARP開裂(アポトーシスのマーカー)の証拠はほとんどない。著しくは、シスプラチン誘発p21タンパク質発現の減弱化が、p21 siRNAでトランスフェクトした細胞で起こり、それは、PARP開裂の劇的誘発と相関する。これらのデータは、細胞毒性誘発p21タンパク質発現の減弱化が、シスプラチンおよびmTOR阻害剤組み合わせで観察される増加した細胞死滅/アポトーシス応答の原因であることを直接確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖性疾患を有する対象において、細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に対する該対象の感受性を測定するためのバイオマーカーとしての、p53(TP53)状態の使用。
【請求項2】
p53(TP53)遺伝子分析およびp53の発現/翻訳後修飾レベルの使用を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせ処置に対する、増殖性疾患の感受性を対象において測定する方法であって、該対象由来のサンプルにおけるp53(TP53)遺伝子の状態および/またはp53の発現/翻訳後修飾レベルを測定することを含む、方法。
【請求項4】
増殖性疾患が癌を含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項5】
p53(TP53)の遺伝的状態および/またはp53の発現レベルの測定を含む、請求項3から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
サンプルが対象における腫瘍由来である、請求項3から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
増殖性疾患を有する対象をmTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせ処置のために選択する方法であって、請求項3から6のいずれかに記載の方法により各対象における増殖性疾患の該組み合わせ処置に対する感受性を測定し、野生型p53(TP53)状態を示す対象を組み合わせ処置のために選択することを含む、方法。
【請求項8】
mTOR阻害剤がラパマイシンまたはラパマイシン誘導体を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項9】
ラパマイシン誘導体が40−O−(2−ヒドロキシエチル)ラパマイシン、40−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロパノエート]−ラパマイシンまたは40−エピ−(テトラゾリル)−ラパマイシンを含む、請求項8記載の方法または使用。
【請求項10】
細胞毒性因子が抗新生物代謝拮抗剤、白金化合物、アルキル化剤、トポイソメラーゼIまたはII阻害剤、微小管活性化剤および放射線照射から選択される、請求項1から9のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項11】
対象における細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤での処置に対する増殖性疾患の感受性または応答を測定するためのバイオマーカーとしてのp21の使用。
【請求項12】
p21発現のレベルを測定することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
対象における増殖性疾患の細胞毒性因子と組み合わせたmTOR阻害剤に対する感受性または応答を測定する方法であって、該対象由来のサンプルにおける細胞毒性因子単独での処置後の、および、細胞毒性因子とmTOR阻害剤の組み合わせ処置後のp21発現レベルを測定することを含む、方法。
【請求項14】
細胞毒性因子で処置している対象における、該細胞毒性因子の活性を増強するまたは細胞毒性因子に対する耐性を克服する方法であって、
− 該対象由来のサンプルにおけるp21発現レベルを測定し、
− p21発現が細胞毒性因子投与後に上方制御されているとき、該対象に治療的有効量のmTOR阻害剤を細胞毒性因子と組み合わせて投与し、
− mTOR阻害剤と細胞毒性因子の組み合わせ処置後の該対象由来の新規サンプルにおけるp21発現を再び測定し、そして
− p21発現が下方制御されているとき、該対象を、細胞毒性因子と同時にまたは連続的に、mTOR阻害剤でさらに処置する
ことを含む、方法。

【公表番号】特表2007−522812(P2007−522812A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553567(P2006−553567)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001849
【国際公開番号】WO2005/080593
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【Fターム(参考)】