説明

細胞破砕装置及びその温度制御方法

【課題】 試料の温度を一定に維持して破砕することを可能にする細胞破砕装置を提供する。
【解決手段】 回転駆動される回転軸8に固定された傾斜軸体11に相対回転自在に外嵌する環状体15に取り付けられた環状保持体20に、試料と破砕媒体32とを収容した多数の破砕容器30を収容する冷却容器61を取り付け、冷却容器61に冷媒を供給して破砕容器30を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、植物の組織や種子類、動物の組織、鉱物材料などの試料を分析・分画分離するために、破砕容器に試料を破砕媒体と共に収容し、破砕容器に振動を加えて試料を破砕する細胞破砕装置及びその温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料を破砕するために破砕装置が用いられ、試料と破砕媒体とを収容した破砕容器に振動を加えることにより、試料に破砕媒体が衝突することによる圧縮と回転による磨砕とによって試料を破砕する。
【0003】
このような破砕装置として、試料と破砕媒体とを収容した破砕容器に8の字状の振動を加えることにより、効率的且つ安定した試料の破砕を行うことができる破砕装置を本願出願人は先に提案している(特許文献1参照)。また、破砕効率及び安定化の向上を図るために、細長い破砕容器の軸心に沿った姿勢を維持して軸心方向に相対移動する形状、寸法の単一の破砕媒体を用いた破砕装置(特許文献2参照)などを本願出願人は提案している。
【0004】
図10は、上記破砕装置の構成を示すもので、回転軸8にその軸芯に対して軸芯が傾斜した傾斜軸体11を設け、傾斜軸体11に相対回転自在に環状体15を外嵌させると共に、この環状体15に取り付けられた磁石16と、これに対極する固定磁石18とにより環状体15の回転を弾性的に拘束し、環状体15に取り付けられた環状保持体20の外周部に破砕媒体32と試料とを収容した細長い破砕容器30を環状保持体20の軸芯と平行な姿勢で保持できるように構成したものである。前記回転軸8を図外のモータにより回転駆動すると、破砕容器30にはその軸芯方向の比較的長い行程の主往復移動とそれに直交する方向の比較的短い行程の副往復移動とが組み合わされた8の字状の往復振動が加わり、破砕媒体32が相対回転しながら破砕容器30の底部に衝突することにより、破砕容器30が乳鉢、破砕媒体32が乳棒のように作用して、試料が植物組織や動物組織、あるいはプラスチック材料や鉱物材料であっても効率的に破砕することができる。
【特許文献1】特開2000−023660号公報(第3〜5頁、図1)
【特許文献2】特開2001−178444号公報(第3〜5頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記細胞破砕装置において、破砕容器30に試料と破砕媒体とを収容して振動を加えると、破砕に伴う熱の発生や装置の温度上昇により、試料の種類によっては熱による変質を来し、例えば、細胞内の熱変成を受けやすい物質の回収ができなくなったり、分析等の作業に支障を及ぼす問題があり、所定の温度条件のもとで細胞破砕を行うことができる細胞破砕装置が要求されていた。
【0006】
本発明が目的とするところは、所定の温度条件下で細胞破砕が実施できるようにした細胞破砕装置及びその温度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本願第1発明に係る細胞破砕装置は、有底筒状に形成された外筒内に内筒を所定間隔を隔てて配置した両筒間に冷媒が循環するように形成された冷却容器に、試料と破砕媒体とを投入した細長い破砕容器を前記内筒内に保持した状態にして、前記破砕容器の軸方向及びそれと交差する方向に往復振動が加わるように前記冷却容器を振動させることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、試料を収容した破砕容器は冷却容器に収容されて冷媒によって冷却されるので、破砕に伴う温度上昇や周囲温度の上昇にかかわらず温度上昇が抑制され、試料に熱による変質を生じさせることなく破砕を行うことができる。
【0009】
上記構成において、内筒は、破砕容器の外面と所定間隔を隔てる内径に形成され、破砕容器と熱伝導液を介して接触するように構成することにより、破砕容器は熱伝導液を介して内筒に熱結合した状態になるので、破砕容器の温度は速やかに内筒に伝導して冷却される。前記熱伝導液は、水又は不凍液がコンタミネーションの発生などを防止する上で好適である。
【0010】
また、冷却容器は円環状に形成された環状保持体の円周上に複数個を固定し、温度制御手段から供給される冷媒を各冷却容器に並列供給する冷媒配給部を前記環状保持体上に設けることにより、複数の破砕容器について冷却しながら破砕を行うことができる。
【0011】
また、内筒内の温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段による検出温度に基づいて外筒内への冷媒の温度又は循環を制御する温度制御手段とを設けることにより、破砕容器を設定した温度に温度制御して破砕を行うことができる。
【0012】
また、回転駆動される回転軸に、その軸心に対して軸心の傾斜した傾斜軸部を設け、この傾斜軸部に環状体を相対回転自在に外嵌させると共に、この環状体の回転を拘束する回転拘束手段を設け、前記環状体に冷却容器を保持した環状保持体を取り付けることにより、効率的な破砕を実施することができる。
【0013】
また、本願第2発明に係る細胞破砕装置の温度制御方法は、有底筒状に形成された外筒内に内筒を所定間隔を隔てて配置した両筒間に冷媒が循環するように形成された冷却容器に、試料と破砕媒体とを投入した細長い破砕容器を前記内筒内に保持し、前記破砕容器の軸方向及びそれと交差する方向に往復振動が加わるように前記冷却容器を振動させると共に、前記破砕容器内の温度が所定温度以下となるように冷却容器に供給する冷媒を冷却することを特徴とするものである。この温度制御方法により、冷却された冷媒によって冷却される冷却容器内に収容された破砕容器は所定温度以下に冷却されるので、破砕容器に収容された試料は破砕に伴う温度上昇により変質を生じることなく破砕される。
【0014】
また、本願第3発明に係る細胞破砕装置の温度制御方法は、有底筒状に形成された外筒内に内筒を所定間隔を隔てて配置した両筒間に冷媒が循環するように形成された冷却容器に、試料と破砕媒体とを投入した細長い破砕容器を前記内筒内に保持し、前記破砕容器の温度が所定温度以下となるように破砕容器に加える往復振動の振動速度又は駆動/停止を制御することを特徴とするものである。この温度制御方法により、破砕に伴って破砕容器が温度上昇したとき、破砕するための振動速度を低下させる制御あるいは振動を停止する制御により所定温度以上に温度上昇することが防止され、破砕容器に収容された試料は破砕に伴う温度上昇により変質を生じることなく破砕される。
【0015】
上記温度制御方法における破砕容器の温度は、冷却容器に供給される冷媒の温度と、冷却容器から排出される冷媒の温度との差、あるいは内筒と破砕容器との間に介在させた熱伝導液の温度、あるいは冷媒の温度から検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料を収容した破砕容器は冷却容器に収容されて冷媒によって冷却されるので、破砕に伴う温度上昇や周囲温度の上昇にかかわらず温度上昇が抑制され、試料の熱による変質を生じさせることなく破砕を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下に示す実施の形態は本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、従来技術と共通する構成要素には同一の符号を付している。
【0018】
図1は、実施形態に係る細胞破砕装置1の全体構成を示すもので、外装体2内に配置されたケーシング29に防振コイル4を介して吊設されたベース板40に、モータ5aや減速機5bからなる駆動手段5が垂下状態に支持され、その出力軸が軸継手6を介してベース板40上に配設された軸受部7により鉛直な軸心回りに回転自在に支持された回転軸8に連結されている。詳細は後述するが、ケーシング29内には回転軸8に接続して破砕機能部50が配設されている。また、外装体2の上方に開口するケーシング29の開口部は開閉可能に扉9によって閉じられている。また、外装体2内には制御装置44や操作部45、温度制御部46(図5)が配設され、操作部45の外部に配置された操作パネル45aから当該細胞破砕装置1の運転を操作することができる。
【0019】
図2は、前記破砕機能部50の構成を断面図として示すもので、回転軸8の上部には、その軸心に対して軸心が角度θに傾斜した状態で傾斜軸体11が嵌合され、傾斜リング12を介して回転軸8の上端部に螺合したナット13にて押圧固定されている。傾斜軸体11の外周には軸受14を介して相対回転自在に環状体15が装着されている。前記環状体15の側面には磁石16が取り付けられ、この磁石16に対向するように対極磁石18がブラケット17に取り付けられている。磁石16と対極磁石18とは、異極が対向するようにして異極間吸引によって環状体15の回転を拘束する。磁石16と対極磁石18との間の対向間隔距離は、環状体15の振れ運動により変化するので、複数位置に磁石16及び対極磁石18を対向配置するのが好ましい。
【0020】
前記環状体15には破砕容器30(図4)を保持する環状保持体20が着脱交換可能に取り付けられる。環状保持体20は破砕容器30のサイズ毎に複数種類が用意され、小さいサイズの破砕容器30の場合では円周上に多数を直接保持して同時に破砕処理を行うことができるが、本実施形態における環状保持体20では、比較的大きいサイズの破砕容器30を冷却しながら破砕処理できるように、冷却容器61を介して破砕容器30を保持するように構成されている。
【0021】
図3に示すように、本実施形態に係る環状保持体20は、3箇所に冷却容器61が取り付けられ、各冷却容器61に冷媒を分配循環させる冷媒分配部59が取り付けられ、取付穴20aにより環状体15に取り付けられる。前記冷却容器61は、図4に示すように、外筒62の内側に所定間隔を隔てて内筒63が固定され、外筒62と内筒63との間に形成された閉鎖空間に冷媒を循環させ得るように外筒62に冷媒供給口64と冷媒排出口65とが設けられている。3箇所の各冷却容器61それぞれの冷媒供給口64及び冷媒排出口65は冷媒分配パイプ66によって冷媒分配部59に並列接続されている。
【0022】
前記冷媒分配部59から引き出された冷媒供給パイプ70a、冷媒排出パイプ70bは、図1、図2に示すように、ケーシング29の底面に取り付けられた中継部69に着脱可能に中継され、外装体2に取付けられた接続口80a、80bから図外の温度制御部46に接続されている。前記温度制御部46は、図5に示すように、冷媒を設定された所定温度に冷却する冷媒冷却装置46aと、冷媒を冷媒分配部59に供給する冷媒ポンプ46bと、中継部69に設けられた温度センサ67によって検出された冷媒の温度に基づいて冷媒温度が設定温度になるように制御する温度制御装置46cとを備えて構成され、操作部45から設定入力される冷却温度が得られるよう温度制御を実行する。
【0023】
温度制御部46から供給される冷媒は前記接続口80aから冷媒供給パイプ70a、中継部69を経て冷媒分配部59に送給され、冷媒分配部59で3分岐されて冷媒分配パイプ66から各冷却容器61の冷媒供給口64に供給される。冷却容器61で熱交換して温度上昇した冷媒は冷媒排出口65から冷媒分配部59、冷媒排出パイプ70b、中継部69を経て前記接続口80bから温度制御部46に戻されて冷媒冷却装置46aにより冷却されて再循環される。前記中継部69には冷媒供給パイプ70aとの接続部及び冷媒排出パイプ70bとの接続部にそれぞれ温度センサ67が設けられているので、供給側及び排出側の冷媒温度を検出することができ、検出された冷媒の温度差から冷却温度を制御することができる。温度制御方法については後述する。
【0024】
冷却容器61の内筒63内には水又は不凍液からなる熱伝導液が注入され、その中に試料と破砕媒体とを投入した破砕容器30を収容して、冷却容器61の開口部はキャップ60によって閉じられる。
【0025】
上記破砕容器30は、図6(a)(b)に示すように、細長い円筒容器から成り、その開口部外周にねじ30aが形成され、開口部に蓋体31を螺合して密閉できるように構成されている。破砕容器30は、試料の材質や量に応じて2ml〜50mlの容積のものが用いられ、環状保持体20もこの破砕容器30の大きさに応じた冷却容器61が装着できるように構成される。
【0026】
また、破砕容器30内に試料とともに収容される破砕媒体32は、図7、図8に示すように、破砕容器30の内径Dより大きい長さLの単一部材にて構成されたものが使用でき、その一端部に破砕容器30の底部形状に対応して載頭円錐状又は載頭円球状の突出端部32aが形成されている。また、他端部は、蓋体31の内周の環状シール部31aと干渉したり、嵌まり込むことがないように小径部32bに形成されている。また、破砕媒体32の外径dは、破砕容器30の内径Dに対して2mm以下、内径dが小さい場合には1mm以下程度小さく設定されている。例えば、破砕容器30の容量が2mlの場合で、その内径Dは8mm、破砕媒体32の外径dは7mmに設定されている。また、図7(b)(c)及び図8(b)(c)に示すように、破砕媒体32の突出端部32aには必要に応じて放射状又は螺旋状に1又は複数の溝34が形成されたものを用いると、植物繊維などのように破砕され難い試料を切断しながら破砕することができる。
【0027】
被破砕物が微生物の場合においては、破砕媒体32は上記のごとき単一部材のものでなく、グラスビーズ、ジルコニアビーズなど多数小球を用いるのが好適で、微生物とビーズとが効率よく混合されて良好な破砕を得ることができる。
【0028】
環状保持体20に試料と破砕媒体32とを収容した破砕容器30を装着して細胞破砕装置1を運転させ、回転軸8を例えば1200〜2800r/minで高速回転させると、回転する傾斜軸体11に相対回転自在に外嵌された環状体15は傾斜軸体11と共に回転しようとするが、磁石16及び対極磁石18によって共回転が拘束されているので、回転軸8が1回転する毎に環状体15は軸心方向両側に振れ運動する。
【0029】
このとき、環状体15の任意の点は、図9(a)(b)に示すように、8の字状に移動することになる。即ち、図9(a)に実線で示すように、環状体15が紙面の上下方向に傾斜した状態を基準位置として、そのときの環状体15の外周上におけるa点位置の挙動を見てみると、実線位置から回転軸8が矢印方向に90度回転すると、環状体15は仮想線で示すように紙面の表裏方向に傾斜した状態に移行し、その間a点に対応していた位置は経路bを経てc点に移動する。回転軸8が更に90度回転すると、環状体15は図9(b)に実線で示すように、紙面の上下方向で且つ逆向きに傾斜した状態に移行し、a点に対応していた位置はc点から経路dを経て元のa点に戻る。更に回転軸8が90度回転すると、環状体15は仮想線で示すように紙面の表裏方向に逆向きに傾斜した状態に移行し、a点に対応していた位置は経路eを経てf点に移動し、更に回転軸8が元の回転位置まで90度回転すると、a点に対応していた位置はf点から経路gを経て元のa点に戻る。
【0030】
従って、環状体15に取り付けられた環状保持体20に保持された破砕容器30は、回転軸8の回転に伴って8の字状の振動形態により振動が加えられ、破砕容器30内では試料に破砕媒体32が効果的に衝突し、その衝撃によって試料は速やかに且つ均一に細胞破砕される。特に、図7及び図8に示した破砕容器30の底部形状に対応する先端形状を備えた破砕媒体32では、破砕容器30の軸心にほぼ沿った姿勢を保持したまま相対回転しながら破砕容器30の底部に衝突する動きを繰り返し、破砕容器30が乳鉢、破砕媒体32が乳棒のように作用するので、試料が大型の植物細胞や動物組織などであっても効率的に破砕がなされる。
【0031】
破砕が実施されると破砕媒体32の摩擦や衝突、更には装置の稼動に伴う温度上昇などにより試料に温度上昇が生じる。温度上昇が問題とならない試料の場合は必要ないが、温度上昇により変質が生じる恐れがある試料の場合には本実施形態の構成に示すように、冷却容器61に破砕容器30を収容して試料を一定の温度条件下で破砕することが必要となる。
【0032】
冷却容器61には冷媒供給口64から供給され、冷媒排出口65から排出されるように冷媒が循環するので、冷媒の温度を調節することにより破砕容器30は内筒63及び内筒63に収容された純水を通じて冷却されるので、破砕容器30は一定の温度に維持することができ、試料の温度上昇は抑制される。前記冷媒として、ここでは濃度30%のエタノールを用いており、純水を通じて内筒63に伝熱される被破砕容器30の熱は効率よく熱交換される。
【0033】
破砕容器30の冷却温度は、動物組織などの細胞破砕を行う場合、蛋白質の失活を防止するために4℃以下の温度条件が得られるよう制御することが望ましい。上記構成における温度制御は、冷却容器61に供給及び排出される冷媒の温度を検出する温度センサ67による検出出力に応じて温度上昇の原因となっている細胞破砕装置1の運転を制御する方法を適用することができる。
【0034】
操作部45からの設定入力により冷媒冷却装置46aによる冷媒の冷却温度を0℃に設定し、回転軸8の回転速度を2500r/minに設定して細胞破砕装置1の運転を開始すると、破砕容器30内の破砕媒体32の動きにより試料が破砕されることに伴う発熱や装置の温度上昇に伴う周囲温度の上昇によって破砕容器30内の温度は上昇する。この温度上昇を温度センサ67によって検出して、所定の上限温度(例えば、4℃)が検出されたとき、細胞破砕装置1の運転を停止する。運転が停止されると破砕容器30内の温度は低下してくるので、所定の下限温度(例えば、2℃)が検出されたとき、再び細胞破砕装置1の運転を開始する。この制御により破砕容器30内は4℃以下に維持され、試料が蛋白質を含むものである場合でも蛋白質の失活を生じさせることなく破砕を実施することができる。
【0035】
細胞破砕装置1の運転を制御する場合、上記のように運転をON/OFFするのでなく、温度上昇が所定の上限温度に達したとき、回転軸8の回転速度を設定回転数から低下させて破砕に伴う温度上昇を抑え、下限温度にまで温度低下したとき回転軸8の回転速度を設定回転速度に戻すように制御することもできる。
【0036】
また、温度センサ67によって検出される冷媒温度の供給側と排出側との温度差から破砕容器30の温度上昇を検知し、冷媒冷却装置46aにより供給する冷媒の温度を下げるように制御することもできる。
【0037】
また、破砕容器30内の温度を検出する方法として、内筒63に温度センサを設けて内筒63と破砕容器30との間に介在する熱伝導液の温度を検出する方法を適用することもできる。
【0038】
以上説明した構成において、冷却容器61に供給される冷媒は破砕容器30を間接的に冷却し、冷媒の循環経路と破砕容器30とは隔離された状態になるように構成しているので、破砕容器30に試料の一部が付着していたり、万が一破砕容器30から試料が漏れたりした場合でも冷媒を通じて外部に飛散することがない。細胞破砕する試料が例えばBSEの検体や病原菌を含むものであっても、それらが外部に漏れることがない。
【0039】
また、上記構成になる細胞破砕装置1は、環状体15の上部開口部分は封止キャップ43によって閉じられ、環状体15と軸受部7との間はゴム筒27によって被覆され、更にはケーシング29の底面に回転軸8及び軸受部7を通すために形成された開口部は遮蔽ゴム28によって閉じられているので、ケーシング29の中に位置する軸受14などの可動部分は全て被覆される。従って、ケーシング29の内部は蒸気洗浄、薬品洗浄等によって洗浄することができる。破砕処理の繰り返しによってケーシング29の内部が塵埃等によって汚れることは勿論のこと、試料を飛散させてしまうこともあり得る。特に試料が有害なものであったり、病原菌などを含むものであった場合には、ケーシング29の内部を滅菌消毒して洗浄する必要がある。このときにも蒸気や薬品類が噴射されても、可動部分に侵入することはなく、完全に洗浄することができる。また、洗浄時にケーシング29の内部に溜まった液体は、図1、図2に示すように、ケーシング29の底面に設けられた排水栓53を開くと、液体は排水ホース54から外部に排出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上説明した通り本発明によれば、破砕容器を一定の温度状態に維持して破砕することができるので、細胞破砕する試料が温度上昇により変質等を生じるものであっても所要の温度条件下で破砕することを可能にする細胞破砕装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態に係る細胞破砕装置の全体構成を示す側面図。
【図2】同上構成における破砕機能部の構成を示す断面図。
【図3】環状保持体の構成を示す(a)は平面図、(b)は側面図。
【図4】冷却容器の構成を示す断面図。
【図5】冷却構成を示すブロック図。
【図6】破砕容器の構成を示す断面図。
【図7】破砕媒体の構成を示す側面図。
【図8】破砕媒体の構成を示す側面図。
【図9】環状体の運動を説明する説明図。
【図10】従来技術に係る破砕装置の要部構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0042】
1 細胞破砕装置
8 回転軸
11 傾斜軸体
15 環状体
16 磁石(回転拘束手段)
18 対極磁石(回転拘束手段)
20 環状保持体
30 破砕容器
31 蓋体
32 破砕媒体
46 温度制御部
50 破砕機能部
59 冷媒分配部
61 冷却容器
62 外筒
63 内筒
64 冷媒供給口
65 冷媒排出口
67 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状に形成された外筒内に内筒を所定間隔を隔てて配置した両筒間に冷媒が循環するように形成された冷却容器に、試料と破砕媒体とを投入した細長い破砕容器を前記内筒内に保持し、前記破砕容器にその軸方向及びそれと交差する方向に往復振動が加わるように振動させることを特徴とする細胞破砕装置。
【請求項2】
内筒は、破砕容器の外面と所定間隔を隔てる内径に形成され、破砕容器と熱伝導液を介して接触するように構成されてなる請求項1に記載の細胞破砕装置。
【請求項3】
冷却容器は円環状に形成された環状保持体の円周上に複数個が固定され、温度制御手段から供給される冷媒を各冷却容器に並列供給する冷媒分配部が前記環状保持体上に設けられてなる請求項1又は2に記載の細胞破砕装置。
【請求項4】
冷媒の温度を検出する温度検出手段と、この温度検出手段による検出温度に基づいて冷媒の温度又は循環を制御する温度制御手段とが設けられてなる請求項1〜3いずれか一項に記載の細胞破砕装置。
【請求項5】
回転駆動される回転軸に、その軸心に対して軸心の傾斜した傾斜軸部を設け、この傾斜軸部に環状体を相対回転自在に外嵌させると共に、この環状体の回転を拘束する回転拘束手段を設け、前記環状体に冷却容器を保持した環状保持体が取り付けられてなる請求項1〜4いずれか一項に記載の細胞破砕装置。
【請求項6】
冷媒は、エチレングリコール又はエタノール又はメタノールの水溶液である請求項1〜5いずれか一項に記載の細胞破砕装置。
【請求項7】
熱伝導液は、水又は不凍液である請求項2に記載の細胞破砕装置。
【請求項8】
有底筒状に形成された外筒内に内筒を所定間隔を隔てて配置した両筒間に冷媒が循環するように形成された冷却容器に、試料と破砕媒体とを投入した細長い破砕容器を前記内筒内に保持し、前記破砕容器の軸方向及びそれと交差する方向に往復振動が加わるように前記冷却容器を振動させると共に、前記破砕容器内の温度が所定温度以下となるように冷却することを特徴とする細胞破砕装置の温度制御方法。
【請求項9】
有底筒状に形成された外筒内に内筒を所定間隔を隔てて配置した両筒間に冷媒が循環するように形成された冷却容器に、試料と破砕媒体とを投入した細長い破砕容器を前記内筒内に保持し、前記破砕容器の温度が所定温度以下となるように破砕容器に加える往復振動の振動速度又は駆動/停止を制御することを特徴とする細胞破砕装置の温度制御方法。
【請求項10】
破砕容器の温度は、冷却容器に供給される冷媒の温度と、冷却容器から排出される冷媒の温度との差から検出する請求項8又は9に記載の細胞破砕装置の温度制御方法。
【請求項11】
破砕容器の温度は、内筒と破砕容器との間に介在させた熱伝導液の温度を検出する請求項8又は9に記載の細胞破砕装置の温度制御方法。
【請求項12】
破砕容器の温度は、冷媒の温度から検出する請求項8又は9に記載の細胞破砕装置の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−42657(P2006−42657A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226605(P2004−226605)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(592054661)安井器械株式会社 (7)
【Fターム(参考)】