説明

細胞脱分化方法、細胞脱分化装置及び細胞脱分化評価方法

【課題】ウイルスによる遺伝子導入は行わずに細胞が本来有する内在性の遺伝子の発現をオンにすることで細胞の脱分化反応を促進するものである。電界及び磁場刺激を神経細胞、血管細胞などの培養細胞に供給して細胞内在性遺伝子を発現させて該培養細胞を脱分化することで再生を促進させる。
【解決手段】細胞脱分化方法は、脳及び脊髄に電界及び又は磁場による刺激を与えて神経細胞、血管細胞などの培養細胞に細胞内在性遺伝子を発現させて該培養細胞を脱分化することで該培養細胞を増殖させて再生を促進してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界及び又は磁場刺激により培養細胞を脱分化させる細胞脱分化方法、細胞脱分化装置及び細胞脱分化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最終分化をした細胞は細胞周期のG0期に不可逆的に停止しており,もはや分裂しないと考えられていた.しかし最終分化をした骨格筋細胞(筋管細胞)にSV40large T抗原遺伝子を発現させることにより,筋管細胞が再び細胞周期にはいり細胞分裂をすることが報告されている。また、ヒトの皮膚の細胞に4つの遺伝子(Oct3/4,Sox2,c−Myc,Klf4)を導入すると、皮膚細胞の形態が変わり、ES細胞(embryonic stem)のように分化する能力を獲得した細胞が樹立されることが報告されている。
【0003】
高頻度経頭蓋的磁気刺激(rTMS)は、神経損傷疾患および精神医学領域で異状の治療療法として潜在的有効性が確認されている。また海馬神経細胞では脱分化が促進され神経幹細胞が誘導されることが確認されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ウイルスによる遺伝子導入は行わずに細胞が本来有する内在性の遺伝子の発現をオンにすることで細胞の脱分化反応を促進するものである。電界及び磁場刺激を神経細胞、血管細胞などの培養細胞に供給して細胞内在性遺伝子を発現させて該培養細胞を脱分化することで再生を促進させてなる細胞脱分化方法、細胞脱分化装置及び細胞脱分化評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る細胞脱分化方法は、脳及び脊髄に電界及び又は磁場による刺激を与えて神経細胞、血管細胞などの培養細胞に細胞内在性遺伝子を発現させて該培養細胞を脱分化することで該培養細胞を増殖させて再生を促進してなる。
【0006】
請求項2に係る細胞脱分化方法は、前記細胞の脱分化が、Sox2の発現が関与していること、及びRhoDがRhoAに拮抗することにより,アクチンストレスファイバーと接着斑の形成を阻害し,細胞分裂や細胞遊走を抑制していることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る細胞脱分化方法は、前記電界及び磁場刺激が、刺激強度;0.01〜1.5テスラ、好ましくは0.4〜0.6Tテスラ、周波数;5Hz−35Hz、電流密度;20〜200mA/m2、刺激波形は正弦波またはパルス波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給してなることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る細胞脱分化方法は、前記細胞が、海馬神経細胞、人もしくはラット、マウスの細胞であることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る細胞脱分化装置は、脳及び脊髄に刺激強度;0.01〜1.5テスラ、好ましくは0.4〜0.6Tテスラ、周波数;5Hz−35Hz、電流密度;20〜200mA/m2、刺激波形は正弦波またはパルス波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給してなる電界及び又は磁場生成装置を備える。
【0010】
請求項5に係る細胞脱分化評価方法は、生体および細胞に電界及び又は磁場刺激を与えて脱分化を促進して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させ、その後脊髄損傷、パーキソン病患者の下肢及び又は腕の運動誘発電位を測定して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経の再生を評価する。
【発明の効果】
【0011】
ウイルスによる遺伝子導入は行わずに細胞が本来有する内在性の遺伝子の発現をオンにすることで細胞の脱分化反応を促進することができる。
電界及び又は磁場刺激を神経細胞、血管細胞などの培養細胞に供給して細胞内在性遺伝子を発現させて該培養細胞を脱分化することで再生を促進させることができる。
脳及び脊髄に電界及び又は磁場刺激を与えて細胞を脱分化させることで神経幹細胞を増殖させることにより中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明によれば、ウイルスなどによる遺伝子導入なしに分化した細胞をES細胞様に変化させることができる。電界及び又は磁場刺激が細胞の核に作用しES様性質を発現するのに必要な遺伝子群を発現させていると考えられる。本発明の実験によりSox2の発現が関与していることと、RhoDがRhoAに拮抗することにより,アクチンストレスファイバーと接着斑の形成を阻害し,細胞分裂や細胞遊走を抑制していることが考えられる(図2−4)。
【実施例1】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳述する。
電界及び磁場生成コイル10は、内径:10mm〜50mm、外形:60mm〜250mm、厚さ:10mm〜20mmの鉄製中空円形体からなり、コードで電源に接続される。コイル10は、ラット12の脳の上11cmに載置する。コイル10は、コイルの中心で間隔238μsのbiphasicパルスと最大1.25T(最大渦電流=5.5A/m)を生じる。コイル10は日本光電製SMN−1200を使用した。
【0014】
ラットの脳に刺激強度;0.01〜1.5テスラ、好ましくは0.4〜0.6Tテスラ、周波数;7Hzから35Hz電流密度;20〜200mA/m2、刺激波形は正弦波またはパルス波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)で曝露した(図1−1)。その後、解剖を行い凍結切片およびパラフィン切片を作製し、免疫組織化学的方法を用いて病理学的に解析した。
【0015】
その結果、曝露群において以下の結果が得られた。
正常ラットの脳に曝露を施行したところ、7Hzから35Hzにおいて海馬領域で神経幹細胞様の細胞が増殖していた。
【0016】
図1−2(a);生理食塩水投与、非刺激群、図1−2(b);生理食塩水投与、磁気刺激群
海馬CA3領域の顆粒細胞および錐体細胞層を比較した。損傷ラットの脳に曝露を施行したところ、7Hzから35Hzにおいて海馬領域でグリア細胞の細胞が増殖していた。
【0017】
図1−3(a);MPTP投与、非刺激群、図1−3(b);MPTP投与、磁気刺激群
損傷した海馬CA3錐体細胞と顆粒細胞と磁気刺激後の再生した海馬CA3錐体細胞と顆粒細胞
【0018】
図1−4(a);MPTP投与、非刺激群、図1−4(b);MPTP投与、磁気刺激群
損傷ラットにおける海馬神経細胞でのグリア細胞のGFAPによる染色画像
磁気刺激群でGFAPの染色が増加していることからアストロサイトが活性化していた。
【0019】
図1−5;損傷ラットでの磁気刺激による海馬神経細胞の増減
磁気刺激群では非刺激群に比べて35%位損傷細胞が少なかった。
【0020】
図1−6;HE染色による海馬神経細胞の再生画像
海馬CA3神経細胞層での比較、非刺激群では損傷細胞が明らかに多く、磁気刺激群では正常細胞が多い。
【0021】
また、ミクログリアは減少していた。これより、曝露により海馬領域に存在すると言われている神経幹細胞様の細胞が誘導されたと考えられる。脱分化反応が促進した結果と考えられる。この結果からES細胞様変化に必要なSox2遺伝子が増加していたと考えられる。
【実施例2】
【0022】
電界及び又は磁場生成コイル10は、内径:10mm〜50mm、外形:60mm〜250mm、厚さ:10mm〜20mmの鉄製中空円形体からなり、コードで電源に接続される。コイル10は、コイルの中心で間隔238μsのbiphasicパルスと最大1.25T(最大渦電流=5.5A/m)を生じる。コイル10は日本光電製SMN−1200を使用した。コイル10上には、アクリル板14を介して細胞培養皿16が載置される。細胞培養皿16は、コイル10から11mmの距離に置かれた(図2−1)。
【0023】
細胞は、刺激強度;0.01〜1.5テスラ、好ましくは0.4〜0.6Tテスラ、周波数;7Hzから35Hz、電流密度;20〜200mA/m2、刺激波形は正弦波またはパルス波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)で曝露した。
【0024】
その後細胞固定を行い、細胞内のJNK/SAPKリン酸化反応を同定する抗体と蛍光色素を用いて蛍光免疫染色を行った。さらに、サンプルをNikon共焦点レーザー顕微鏡で観察し、画像解析した。HEK293細胞に曝露を施行したところ、7Hzから35Hzにおいて細胞内のJNK/SAPKリン酸化反応とMAPKリン酸化反応が促進されていた。
【0025】
図2−2;HEK293細胞における磁気刺激後の核近傍のストレス応答性酵素のリン酸化の変化
図の左から非刺激群、7Hz磁気刺激群、25Hz磁気刺激群
7Hz磁気刺激群で最もリン酸化反応が顕著に見られた。細胞核の近傍で染色が顕著にみられた。
【0026】
コントロール25%、7HzrTMS62.5%、25HzrTMS14.8%
【0027】
図2−3;HEK293細胞におけるストレス応答性酵素のリン酸化の変化領域の比較
非磁気刺激群では25%、25Hz磁気刺激群では15%、7Hz磁気刺激群では63%とリン酸化領域が最も多い。
RhoAによる蛍光染色の結果ではアクチンストレスファイバーと接着斑の形成を阻害し,細胞分裂や細胞遊走を抑制していると考えられる。
また、曝露実験においてはSox2遺伝子が有意に増加しているというデータが得られた。
【0028】
本実施例では、HEK293細胞にrTMSを与えることにリン酸化反応が促進もしくは抑制される効果を調査解析した。培養細胞は1日に8秒(=600パルス)間に25パルス/秒列を受けた。パルス列は、10〜15分間隔で行なわれた。シャムなコントロールネズミは刺激の間、同じノイズにさらされた。
【0029】
統計分析はソフトウェアパッケージ(GBスタットversion6.0、Dynamicマイクロシステムズ、シルバースプリング、MD)で実行された。統計的な重要性は、グループ間で繰り返し測定(グループ及び日数)のため相違の双方分析(ANOVA)を使用することで決定された。Student t−テストは、各日でMPTPかrTMS処理されたグループの間の統計分析に使用された。承認時に、ポストpost hoc New−man−Keulstテストが使用された。0.05未満の確率水準が、統計的に重要であると考えられる。イメージは、IP Lab Spectrumソフトウェアを使用することで分析した。有限要素法(FEM)を使用してTMSの分布を計算して求めた。
【0030】
哺乳類の中枢神経系では、損傷後の神経軸索の再生がきわめて困難であり、これが現在脊髄損傷による後遺症で多くの人が不自由を極めている現況である。そこで、新生仔から成体にいたるマウスを用いて海馬神経細胞での神経幹細胞の増殖を詳細に観察した。その結果、新生仔では神経幹細胞が増殖し、細胞の脱分化が促進されることを見出した。
【0031】
最終分化をした骨格筋細胞(筋管細胞)にSV40 large T抗原遺伝子を発現させることにより,筋管細胞が再び細胞周期にはいり細胞分裂をする。すなわち最終分化細胞も可塑性をもち,脱分化をする。
電磁波刺激を与えて細胞の脱分化を促進して幹細胞状態にする機構は細胞のもつ時計を逆回しにする脱分化と考えられる。
【0032】
脳及び脊髄、血管に電界及び又は磁場刺激を与えて細胞の脱分化を促進して幹細胞状態にすることで中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させ、その後脊髄損傷、パーキソン病患者の下肢及び又は腕の運動誘発電位を測定して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経の再生を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
パーキンソン病、脊髄損傷、など中枢神経系損傷疾患において回復又は神経を再生させる。
またアレルギー疾患において炎症反応を抑制する因子を発現させることで炎症を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1−1】磁気刺激方法を示す概略図
【図1−2(a)】、
【図1−2(b)】正常ラットにおける磁気刺激の海馬神経細胞図
【図1−3(a)】、
【図1−3(b)】損傷ラットにおける磁気刺激の海馬神経細胞図
【図1−4(a)】、
【図1−4(b)】損傷ラットにおける海馬神経細胞でのグリア細胞のGFAPによる染色画像図
【図1−5】損傷ラットにおける磁気刺激の海馬神経細胞の増減を示す図
【図1−6(a)】、
【図1−6(b)】HE染色による海馬神経細胞の再生画像図
【図2−1】電磁波刺激装置の概略図
【図2−2】HEK293細胞における磁気刺激後の核近傍のストレス応答性酵素のリン酸化の変化を示す図
【図2−3】HEK293細胞におけるストレス応答性酵素のリン酸化の変化領域の比較図
【図2−4】電磁波刺激による細胞内在性遺伝子発現のモデル図
【符号の説明】
【0035】
10;コイル
12;ラット
14;アクリル板
16;細胞皿











【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳及び脊髄に電界及び又は磁場による刺激を与えて神経細胞、血管細胞などの培養細胞に細胞内在性遺伝子を発現させて該培養細胞を脱分化することで該培養細胞を増殖させて再生を促進してなる細胞脱分化方法。
【請求項2】
前記細胞の脱分化は、Sox2の発現が関与していること、及びRhoDがRhoAに拮抗することにより,アクチンストレスファイバーと接着斑の形成を阻害し,細胞分裂や細胞遊走を抑制していることを特徴とする請求項1記載の細胞脱分化方法。
【請求項3】
前記電界及び磁場刺激は、刺激強度;0.01〜1.5テスラ、好ましくは0.4〜0.6Tテスラ、周波数;5Hz−35Hz、電流密度;20〜200mA/m2、刺激波形は正弦波またはパルス波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給してなることを特徴とする請求項1記載の細胞脱分化方法。
【請求項4】
前記細胞が、海馬神経細胞、人もしくはラット、マウスの細胞であることを特徴とする請求項1記載の細胞脱分化方法。
【請求項5】
脳及び脊髄に刺激強度;0.01〜1.5テスラ、好ましくは0.4〜0.6Tテスラ、周波数;5Hz−35Hz、電流密度;20〜200mA/m2、刺激波形は正弦波またはパルス波、パルス幅;200〜300μ秒、かつ200パルスを5分〜10分間隔で3〜10ターム(合計600〜2000パルス)を供給してなる電界及び又は磁場生成装置を備える細胞脱分化装置。
【請求項6】
生体および細胞に電界及び又は磁場刺激を与えて脱分化を促進して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経を再生させ、その後脊髄損傷、パーキソン病患者の下肢及び又は腕の運動誘発電位を測定して中枢神経系損傷疾患及び傷害を回復又は神経の再生を評価する細胞脱分化評価方法。

【公開番号】特開2010−82400(P2010−82400A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267956(P2008−267956)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(391059159)株式会社ベステック (9)
【出願人】(505453125)
【Fターム(参考)】