細胞観察装置
細胞観察チェンバー30と光学的観察手段70とを備え、チェンバー30は、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動することができるようにされ、光学的観察手段70は、流路を通って移動する細胞をチェンバー30の外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置10において、チェンバー30は、その一部がケーシング20から露出するようにして、ケーシング20内に収容され、光学的観察手段70は、チェンバー30の下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング20内に収容されている。これにより、小型化され、移動が容易で、操作性が大きく改善された細胞観察装置が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、細胞観察装置に関し、細胞が自力で一定の方向に移動するか否かの判定、細胞が自力で一定の方向に移動する状態の観察、自力で一定の方向に移動した細胞の数の計測等のために使用される細胞観察装置において、特に装置の小型化と操作性の向上とを図った細胞観察装置に関する。この装置は、また、自力で一定の方向に移動する細胞の分離のためにも使用されることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞観察装置としては、種々のものが提案され、市販されているが、特に走化性因子による細胞の走化性または走化性因子阻害剤による細胞の走化性阻害を検出するに当たり、少量の細胞試料を用いて、細胞の自力に基づく動きを正確に、しかも、その過程を容易に観察、定量し得るようにした装置として、特開2002−159287号公報、特開2003−180336号公報等に記載されたものがある。これらのものにおいては、また、細胞の走化性を利用して、細胞を分離することも可能である。
【0003】
上記公報に記載された細胞観察装置において、細胞観察チェンバー部分は、次のように構成されている。
図18に図示されるように、その細胞観察チェンバー00は、底部中央に細胞の動きを観察する窓01cを備えた円形の浅い皿状の底支持体01と、底支持体01の底部01a上に載置されるガラス基板08と、底支持体01に装着されて、後述するカバー04の底支持体01へのねじ結合により、ガラス基板08を上方から圧し、これを底部01a上に固定する皿状の中間支持体02と、中間支持体02の底部中央に形成された矩形状の開口部02cに嵌め込まれて、ガラス基板08上に定置される基板07およびパッキン部材010と、中間支持体02の中央凹部に嵌め込まれて、基板07をパッキン部材010を介して圧し、図示されない押しねじによりこれをガラス基板08上に固定するブロック体09と、底支持体01にねじ結合により装着されて、ブロック体09を上部から圧し、これを中間支持体02内に固定するカバー04とから成っている。基板07は、シリコン単結晶素材から製作されている。
【0004】
底支持体01と中間支持体02との結合は、底支持体01の胴体部内周面に形成された雌ねじ01dに、中間支持体02の胴体部外周面に形成された雄ねじ02dがねじ込まれることによって、さらに、底支持体01とカバー04とのねじ結合によってなされる。この底支持体01とカバー04とのねじ結合は、カバー04の袖部内周面に形成された雌ねじ04aを、底支持体01の外周面に形成された雄ねじ01eにねじ込むことによってなされる。中間支持体02は、そのフランジ部02bの下面に形成されたガイドピン受孔02fに底支持体01の胴体部上面に立設された図示されないガイドピンが挿通されることによって、底支持体01上に位置決めされる。また、ブロック体09は、その底面に形成されたガイドピン受孔09aに中間支持体02の底面に立設されたガイドピン013が挿通されることによって、中間支持体02内に位置決めされる。
【0005】
そして、これらの部品が一体に組み立てられて、使用される状態においては、基板07とガラス基板08との間に、少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とが形成される。これらのウエルのうちの一方のウエルには、細胞浮遊溶液が入れられ、他方のウエルには、走化性因子含有溶液が入れられて、細胞が、走化性因子に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動する。その状態の観察や移動する細胞の数の計測が、窓01cを通して顕微鏡観察により行なわれる。
【0006】
基板07とガラス基板08との間に形成される一方のウエルへの細胞浮遊溶液の注入、他方のウエルへの走化性因子含有溶液の注入は、マイクロピペットを用いて、ブロック体09、パッキン部材010、基板07にそれぞれ形成された専用の通孔を連ねて行なわれる。底支持体01、中間支持体02、カバー04を組み立てた後、底支持体01に充填された各溶液が漏れないように、中間支持体02とガラス基板08との間には、Oリング011が介装されている。他方、パッキン部材010も、基板07とブロック体09との間にあって、両ウエルとそれらの間を結ぶ流路から溶液が漏れないようにするのに役立つ。
【0007】
また、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動する細胞の状態の観察や、移動する細胞の数の計測を正確に行なうのには、これらの領域を満たしている細胞浮遊溶液や走化性因子含有溶液もしくはそれらを含む混合液の温度を、細胞の活動に適した温度に管理する必要がある。また、細胞の温度変化による反応等をより正確に計測、分析したいときにも、溶液の温度管理は必要である。そのために、この装置においては、細胞観察チェンバー00を図示されない発熱体から成る加熱部上に載置して、この加熱部の温度を所定の温度に管理しながら、底支持体01の壁を通して間接的にこれらの溶液を加熱して、これらの溶液の温度が所定の温度になるように調整する温度調整装置が用いられている。
【0008】
ところで、前記のようにして構成される細胞観察チェンバー00を用いて、走化性細胞の移動する状態の観察や移動する細胞の数の計測を窓01cを通して顕微鏡観察により行なうに際しては、この顕微鏡内の光学系光軸を垂直にして行なっていたので、これら細胞観察チェンバー00、顕微鏡設備等を内蔵する細胞観察装置全体が大型化し、移動が煩瑣で、操作性において、なお改善すべき余地のあるものとなっていた。
【特許文献1】特開2002−159287号公報
【特許文献2】特開2003−088357号公報
【特許文献3】特開2003−180336号公報
【特許文献4】特開平11−118819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願の発明は、従来の細胞観察装置が有する前記のような問題点を解決して、小型化され、移動が容易で、操作性が大きく改善された細胞観察装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明によれば、このような課題は、次のような細胞観察装置により解決される。すなわち、その細胞観察装置は、細胞観察チェンバーと、光学的観察手段とを備え、前記細胞観察チェンバーは、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、前記一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って移動することができるようにされ、前記光学的観察手段は、前記流路を通って移動する細胞を、前記細胞観察チェンバーの外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置において、前記細胞観察チェンバーは、その溶液供給もしくは採取側が前記細胞観察装置のケーシングから一部露出するようにして、前記ケーシング内に収容され、前記光学的観察手段は、前記細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、前記ケーシング内に収容されていることを特徴としている。
【0011】
この細胞観察装置によれば、その光学的観察手段は、細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング内に収容されているので、ケーシングの全高寸法を大きく節約することができ、細胞観察装置を小型化し、軽量化して、移動し易いものとすることができる。また、その操作が容易となり、操作性を大きく改善することができる。
【0012】
好ましい実施形態では、その光学的観察手段は、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズと、複数の反射鏡と、ハーフミラーと、光源と、カメラとから成る光学系を備え、対物レンズは、流路を通って移動する細胞を観察することができるように細胞観察チェンバーに設けられた窓に近く配置され、光源は、流路を通って移動する細胞を光学系を通して照らし、これをカメラに視覚可能に撮像させるようにされる。
【0013】
これにより、光学的観察手段は、その対物レンズが観察したい細胞が移動する流路の直下の位置に来るように移動し、位置合わせをして、そこの細胞を拡大し、視覚可能な映像としてカメラに撮像させ、この映像により細胞の移動の状態や数等を観察、計測することができるようにするので、細胞観察作業がきわめて容易になる。また、ハーフミラーを備えているので、光軸を任意の角度に変えることができ、細胞観察装置をさらに小型化することができる。
【0014】
別の好ましい実施形態では、その細胞観察装置は、温度調整手段をさらに備え、該温度調整手段は、ケーシング内およびケーシング本体の雰囲気を所定の温度に調整する手段をさらに有しているので、ケーシング内に収容される細胞観察装置を構成する個々の部品の温度変化が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、細胞観察の精度をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したとおり、本願の発明によれば、細胞観察装置を小型化し、軽量化して、移動し易いものとすることができ、また、その操作が容易となり、操作性を大きく改善することができる。
【0016】
また、その光学的観察手段は、流路を通って移動する細胞を所望の大きさに拡大して、視覚可能にカメラに撮像させるとともに、細胞観察装置の操作、細胞の状態の観察、データの収納、処理、分析等にパソコンを使用することも可能なので、細胞観察作業がきわめて容易になり、机上作業も可能になる。
【0017】
また、その細胞観察装置は、ケーシング内およびケーシング本体の雰囲気を所定の温度に調整する温度調整手段を有しているので、ケーシング内に収容される細胞観察装置を構成する個々の部品およびケーシング本体の温度変化が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、細胞観察の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願の発明の細胞観察チェンバーの作動原理を示す、ウエル、流路および通孔を含む装置ユニット部分の縦断面図である。
【図2】同下面図である。
【図3】同流路部分の拡大横断面図である。
【図4】同流路部分の下面図である。
【図5】同流路部分の縦断面図である。
【図6】本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置の全体斜視図である。
【図7】本実施例の細胞観察チェンバーの全体斜視図である。
【図8】同平面図である。
【図9】同前側面図である。
【図10】同右側面図である。
【図11】図8のXI−XI線矢視断面図である。
【図12】図8のXII−XII線矢視断面図である。
【図13】同細胞観察チェンバーの一部分解斜視図である。
【図14】さらに分解を進めた同一部分解斜視図である。
【図15】チェンバー内混合液の温度制御システムのブロック線図である。
【図16】本実施例の細胞観察装置のケーシング内部の斜視図である。
【図17】光学的観察手段の概略構成を模式的に示した図である。
【図18】従来の細胞観察チェンバーの分解図である。
【符号の説明】
【0019】
1…細胞の流路、2(2A、2B)…ウエル、3、3’、3−1、3−2…通孔、4、4’、4−1、4−2…通孔、5…溝、6…障壁、7…基板、8…ガラス基板、9…ブロック体、10…細胞走化性検出・走化性細胞分離装置、20…ケーシング、21…水準器、22…照度調整つまみ、23…位置調整つまみ、24…焦点調整ノブ、25…底板、26…支柱、27…傾き調整手段、28…据付け架台、29…ねじ棒、30…細胞観察チェンバー、31…底支持体、31a…底部、31b…胴体部、31c…窓、32…中間支持体、32a…底部、32b…フランジ部、32c…開口部、33…カバーブロック体、33a…底部、33b…フランジ部、33c…中央凹部、33d…通孔、34…ガイドブロック体、34a…中央膨大部、34b…アーム部、34c…通孔、35…温度センサー、35a…台座部分、35b…温度測定部、36…カム操作レバー、36a…脚部の端部、36b…カム溝、37…カム操作レバー、37a…脚部の端部、37b…カム溝、38…支持軸、39、40、41…ピン、42、43…Oリング、44…パッキン部材、45…液溜め室、46、47…ピン、50…ノート型パソコン、60…チェンバー内混合液温度制御システム、61…コンピュータ、62、63…温度調節器、64…加熱部、65…温度センサー、66…温度調節スイッチ、67…切り替えスイッチ、68…リレー、69…ソリッドステートリレー(SSR)、70…光学的観察手段(光学系もしくは光学系とカメラとの組合せ)、71…第1ステージ、72…リニアガイド、73…第2ステージ、74…リニアガイド、75…モータ(ステッピングモータ)、76…ねじ棒、80…光学系、81…光源、82…反射鏡、83…ハーフミラー、84…反射鏡、85…対物レンズ、86…カメラ、87…取付け台、88…リニアガイド、89…ねじ棒、90…ファン、100…ノイズフィルタ、110…制御回路部、120…コネクタ、130…電源部、131…電源ランプ、132、133…警報ランプ、a…中心線、L…液レベル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
細胞観察チェンバーと、光学的観察手段とを備え、細胞観察チェンバーは、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動することができるようにされ、光学的観察手段は、流路を通って移動する細胞を、細胞観察チェンバーの外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置において、細胞観察チェンバーは、その溶液供給もしくは採取側が細胞観察装置のケーシングから一部露出するようにして、ケーシング内に収容されるようにし、光学的観察手段は、細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング内に収容されるようにする。
【0021】
光学的観察手段は、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズと、複数の反射鏡と、ハーフミラーと、光源と、カメラとからなる光学系を備え、対物レンズは、流路を通って移動する細胞を観察することができるように細胞観察チェンバーに設けられた窓に近く配置され、光源は、流路を通って移動する細胞を光学系を通して照らし、これをカメラに視覚可能に撮像させるようにする。
【0022】
細胞観察装置には、さらに、温度調整手段を具備せしめ、この温度調整手段は、ウエルと流路とを満たしている溶液を所定の温度に調整するとともに、ケーシング内の雰囲気を所定の温度に調整する機能を有するものとする。
【0023】
ケーシングの上面には、温度調整手段による温度制御のプログラムや細胞観察データ等を収納し、データを処理し、所望のデータをそのディスプレイ上に表示し得るパソコンを設置するとともに、ケーシングの下面には、ケーシングの傾きを調整する傾き調整手段を取り付ける。
【実施例】
【0024】
次に、本願の発明の一実施例について説明する。
先ず、本願の発明の細胞観察装置の作動原理について説明する。
この細胞観察装置に内蔵される細胞観察チェンバーにおいては、複数のウエルが流路を挟んで結合し、互いに連通しており、それぞれのウエルには、試料を注入もしくは採取するための管およびおよび試料の注入もしくは採取によるウエル内の昇圧もしくは減圧を回避するための管の2本の管が設けられている。この管は、ブロックに形成された通孔により形成されてもよい。ここで、流路とは、2つのウエルを連通させている部分であり、一方のウエルから他方のウエルに細胞が移動するときに、細胞が通過する通路である。この装置によれば、試料を注入・採取する際、流路において相対するウエルに向かう方向の液流が生じにくく、流路の両端にあるウエルの液体が互いに混ざり合うことがなく、その結果、細胞が専ら走化性因子の作用のみによって移動する場合を検出することができる。
【0025】
図に基づいて、その原理を説明すると、図1および図2において、1は流路、2は細胞浮遊溶液や検体溶液等の試料を収納するウエルであり、一対のウエル2A、2Bから成る。これらの試料は、マイクロピペット等により、ブロック体9に形成された通孔3を通じてウエル2に供給され、また、ウエル2から採取される。ウエル2の一方のウエル2Aに細胞浮遊溶液を入れたとき、細胞は、他方のウエル2Bに入れられた検体溶液が走化性因子を含むもの(走化性因子含有溶液)である場合には、ウエル2Bに向かって移動しようとし、流路1を通過する。
【0026】
試料の1つである細胞浮遊溶液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Aに供給する際、注入する液圧により、細胞が流路1を通過して反対側のウエル2Bに移動してしまうことが生じる。この事態が生ずると、細胞の移動が検体の有する走化性因子によるのか否かの判定に混乱を与える要因になるとともに、細胞の分離を目的とする場合には、所望の細胞に他の細胞が混入してしまうことになり、目的が達せられないことになる。この問題点を解決するために、この装置においては、通孔3に加わる注入圧を通孔4の方に逃がし、流路1に向かって細胞が強制的に流されることを防止している。
【0027】
同様に、検体溶液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Bに供給する際にも、注入する液圧により、検体溶液が流路1を通過して反対側のウエル2Aに入り、細胞浮遊溶液と混合する事態が生じ、細胞がその走化性により流路1を通過する現象が混乱ないし阻害される。このような事態の発生を防止するために、検体を収納するウエル2Bにおいても、通孔4を設けるようにしている。
【0028】
このようにして、試料を注入する通孔3に連通する通孔4を設けることにより、水平方向への液圧の影響を最小にすることができ、検体溶液が走化性を有するか否かの判定をより正確に行なうことができる。通孔4による圧力差の緩和作用は、ウエルから細胞などの試料を採取する際の減圧を緩和する上でも有効であり、試料の採取を容易にする。
【0029】
本細胞観察チェンバーにおいて、ウエル2に試料を注入する場合を、図1により説明すると、予め各ウエル2A、2Bおよび流路1を細胞等張液で満たしておき、ウエル2Aの通孔3から細胞浮遊溶液を、ウエル2Bの通孔3から走化性因子含有溶液を、それぞれ略等量ずつ注入する。このようにすることにより、試料注入時の昇圧は、通孔4により緩和される。
【0030】
流路1は、図3ないし図5に図示されるように、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向と直交する方向に走る障壁6に、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向に沿わせて形成された1本ないし複数本、例えば、約100本の溝5により構成されている。これらの溝5は、細胞の径もしくはその変形能に合わせた幅に形成される。このような溝5を設けることによって、細胞を個々のレベルで観察することが可能になり、また、細胞を所望の種類毎に分離することが可能になる。なお、図1ないし図3における符号7aは、ウエル2Aとウエル2Bとの間に形成される土手を示し、図3および図4における符号7bは、土手7aに形成されるテラスを示している。テラス7bは、障壁6を囲む平坦部である。
【0031】
細胞が流路1を移動する状態の観察、流路1を通過中もしくは通過後の細胞数の計測は、図3に図示されるように、流路1に観察手段、例えば、顕微鏡または、後述するように、顕微鏡とビデオカメラあるいはCCDカメラ(電荷結合素子カメラ)とを組み合わせた構造の光学的観察手段70(図17参照)をセットすることによって行なわれる。このような光学的観察手段70を用いることにより、自動的に細胞が移動する経過を記録することができる。
【0032】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成る装置を1ユニットとして、複数のユニットを集積させることにより、他種類の検体または他種類の細胞を対象として、同時に細胞の移動(走化性)の検出や走化性細胞の分離を行なうことができる装置を構成することができる。このような装置は、全体的に小型化されており、試料の処理を微量で行なうことができる。また、液体の注入・採取量のプログラム制御により、処理を自動化して行なうことが容易である。
【0033】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットは、実際には、次のようにして製作される。
ウエル2A、2B、流路1の内部形状は、シリコン単結晶素材から成る基板7の表面上に、既知の集積回路の製作技術を応用することによって形成することができる。このようにして、その表面上にウエル2A、2B、流路1の内部形状を写した凹凸形状が刻設された基板7をガラス基板8と対面させて、重ね合わせれば、それら両基板7、8の間にウエル2A、2B、流路1が形成される。
【0034】
基板7には、また、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊溶液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通しているとともに、ブロック体9に上下方向に貫通形成された通孔3、4にそれぞれ連通している。なお、基板7とブロック体9との間には、実際には、パッキンが介在させられて、それらの間の液封がなされるようになっている。
【0035】
次に、前記したような、通孔3’、4’をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットが複数組み込まれて成る本実施例の細胞観察チェンバーについて、詳細に説明する。
先ず、本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞観察装置の全体構造のあらましについて説明する。
【0036】
図6に図示されるように、本実施例の細胞観察チェンバー30が適用される細胞観察装置10は、比較的高さの低い直方体形状のケーシング20の上面からその一部が露出するようにして、細胞観察チェンバー30が収納されている。また、そのケーシング20の上面には、ノート型パソコン50が取り外し可能に設置または載置されており、このノート型パソコン50の作動により、細胞浮遊溶液等含有溶液の温度制御部に対する指令、同温度データや細胞観察データの解析、記録、ディスプレイ表示等が行なわれる。このディスプレイ表示には、細胞の実際の動きの映像表示も含まれる。
【0037】
ケーシング20の上面には、他に水準器21が取り付けられており、装置10の水平を常時監視することができる。そして、水平から変移している場合には、ケーシング20の下面に取り付けられた傾き調整手段27(図16参照)の螺進量を調整することにより、水平を回復することができる。また、この傾き調整手段27の螺進量を種々に調整することにより、装置10を種々の角度に傾けることができ、細胞の走化性に及ぼす重力の影響による観察も可能になる。
【0038】
ケーシング20の前側面には、図6において右下方から左上方に向かって順に、光学的観察手段70による細胞観察画像の明るさ(ライトの照度)調整つまみ22、光学的観察手段70の位置調整つまみ23、焦点調整ノブ24等が取り付けられている。後述するように、光学的観察手段70の光軸は、ケーシング20内において水平に延びるように配置されているので、ケーシング20、牽いては装置10の全高を低くすることができ、机上に置かれた本装置10に対して、座位にて細胞走化性の検出、走化性細胞の分離、計数等の作業を行なうことができ、操作性が大きく改善される。ケーシング20内の諸装置の配置構成については、後で詳細に説明される。
【0039】
細胞観察チェンバー30は、次のようにして構成されている。
図7は、本細胞観察チェンバー30の全体斜視図、図8は、同平面図、図9は、同前側面図、図10は、同右側面図、図11は、図8のXI−XI線矢視断面図、図12は、図8のXII−XII線矢視断面図、図13は、同細胞観察チェンバー30の一部分解斜視図、図14は、さらに分解を進めた同一部分解斜視図である。
【0040】
図7〜図10、図13および図14に図示されるように、本細胞観察チェンバー30は、その外観および後述するカム操作レバー36、37の簡単な回動操作によるその一部分解から、次のようにして構成されていることが理解されるであろう。すなわち、最下段に配置される円形皿状の底支持体31の上には、同じく円形皿状の中間支持体32が装着され、中間支持体32の上には、同じく円形皿状で、底部33aが比較的厚く、外周フランジ部33bが比較的幅広のカバーブロック体33が装着され、カバーブロック体33の上には、該カバーブロック体33の中央凹部33cを跨ぎ、その中央膨大部34aを該中央凹部33cに沈めるようにして、ガイドブロック体34が装着され、カバーブロック体33の上面には、温度センサー35の台座部分35aが着座させられている。
【0041】
そして、カバーブロック体33は、カム操作レバー36を回動することにより、中間支持体32に上方から圧接され、これにより、中間支持体32が、底支持体31に上方から圧接されて、最終的には、カバーブロック体33が、底支持体31に装着される。また、中間支持体32は、カム操作レバー37を回動することにより、底支持体31に上方から圧接されて、これに装着される。なお、実際の装着の順序は、中間支持体32が底支持体31に装着されてから、カバーブロック体33が底支持体31に装着されることになる。分解の場合には、この逆の順序になる。カバーブロック体33は、従来の細胞観察チェンバー00(図18参照)におけるブロック体09とカバー04とが合体されたものに相当している。
【0042】
カム操作レバー36、37は、いずれも平面視コの字状をなしており、それらの両脚部の端部36a、37aは、円形皿状の底支持体31の胴体部31bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置に植設された一対の支持軸38の回りに回動自在に支持されている。また、それらの両脚部の端部36a、37aは、正面視矩形状に膨大化されていて、それらの内面には、カム操作レバー36については、カム溝36bが、カム操作レバー37については、カム溝37bが、それぞれ湾曲状に形成されている(図13、図14参照)。
【0043】
円形皿状のカバーブロック体33の外周フランジ部33bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン40が植設されている(図14、図11参照)。このピン40は、カム操作レバー36のカム溝36bに嵌まり込んで、カム操作レバー36が回動操作されるとき、カム溝36b内を滑動する。これにより、カバーブロック体33は、その外周フランジ部33bの下面が中間支持体32の外周フランジ部32bの上面に上方から接近して、これに当接し、底支持体31に装着される。また、カム操作レバー36を逆に回動操作することにより、カバーブロック体33は、底支持体31から取り外される。カバーブロック体33の外周フランジ部33bと中間支持体32の外周フランジ部32bとの間には、カバーブロック体33が中間支持体32に装着されたとき、これらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するために、Oリング42が介装されている。
【0044】
同様に、円形皿状の中間支持体32の外周フランジ部32bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン41が植設されている(図11参照)。このピン41は、カム操作レバー37のカム溝37bに嵌まり込んで、カム操作レバー37が回動操作されるとき、カム溝37b内を滑動する。これにより、中間支持体32は、その外周フランジ部32bの下面が底支持体31の胴体部31bの上面に上方から接近して、これに当接し、底支持体31に堅固に装着される。また、カム操作レバー37を逆に回動操作することにより、中間支持体32は、底支持体31から取り外される。
【0045】
ガイドブロック体34の中央膨大部34aには、上下方向に貫通し、ガイドブロック体34の長さ方向に一列に整列させられて、細い6個の通孔34cが形成されている。これらの通孔34cは、作業者が細胞浮遊溶液や検体溶液等の試料を含んだマイクロピペット(図示されず)の針先をチェンバー30内に挿入し、また、そこから抜き出すときに、マイクロピペットの針先をガイドするとともに、マイクロピペットから吐出されたそれらの溶液を後述するウエル(このウエルは、前記した、一対のウエル2A、2B(図1)のうちのいずれかのウエルと同じものである。)に導くのに役立つ。6個の通孔34cの整列位置は、ガイドブロック体34を平面視幅方向に二分する中心線aから片方にわずかに変位させられている(図8参照)。
【0046】
ガイドブロック体34は、その中央膨大部34aを挟んだ両側のアーム部34b、34bとカバーブロック体33のフランジ部33bとの間にピン39が通されることにより、位置決めされて、フランジ部33b上に着脱自在に装着されている。したがって、ガイドブロック体34は、これをカバーブロック体33から取り外し、両側のアーム部34b、34bの位置が入れ替わるように180度回転させて、反転前と同様にピン39により位置決めすることにより、カバーブロック体33のフランジ部33b上に再び着脱自在に装着することができる。このとき、6個の通孔34cの整列位置は、反転前の整列位置と中心線aに関して対称の位置にある。
【0047】
カバーブロック体33と中間支持体32との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン46a、46bが、カバーブロック体33と中間支持体32とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている(図12、図14参照)。同様に、中間支持体32と底支持体31との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン47a、47bが、中間支持体32と底支持体31とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている(図12参照)。ピン46aとピン46b、ピン47aとピン47bは、それぞれ異なる径を持ち、組立時の組み間違いを未然に防止する機能を果している。
【0048】
次に、本細胞観察チェンバー30の内部構造について、詳細に説明する。
底支持体31は、その底部31aの中央に、細胞の動きを観察する窓31cが設けられている。また、その底面上には、透明なガラス基板8が載置されている。このガラス基板8は、中間支持体32が底支持体31に装着されたとき、中間支持体32の底部32aにより底部31aに強く押し付けられて、そこに固定される。底部32aとガラス基板8との間には、それらの外周側に、Oリング43が介装されており、これにより、それらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するようになっている。
【0049】
ガラス基板8の中央部の表面上には、基板7が載置されている。これらガラス基板8、基板7は、前記した、図1におけるガラス基板8、基板7と基本的に同じ構造の同じものである。したがって、基板7のガラス基板8と対向する側の表面上には、一対のウエル2A、2Bと、これらを連通させる流路1の内部形状を写した凹凸形状が6ユニット分、刻設されており、これがガラス基板8と対面させられて、重ね合わされた状態においては、それら両基板7、8間に6ユニット分のウエル2A、2B、流路1の組合せ構造が形成される。
【0050】
基板7には、また、前記のとおり、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊溶液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通している。
【0051】
中間支持体32の底部32aの中央部には、開口部32cが形成されており、この開口部32cには、底部32aの厚さよりもわずかに厚いパッキン部材44が嵌め込まれ、そこから突出して、ガラス基板8上に載置された基板7を上方から圧し、これをガラス基板8に押し付けている。基板7は、非常に薄いので、図11、図12においては、ガラス基板8とパッキン部材44とに挟まれた太い実線の線分として描かれている。基板7に形成される通孔3’、4’、ウエル2A、2B、流路1の形状は、これらの図においては、図示されていない。
【0052】
このパッキン部材44には、基板7に貫通形成された通孔3’、4’にそれぞれ連通する通孔3−1、4−1が、通孔3’、4’の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。通孔3’、4’は、それらの一対がウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに形成されているから、1ユニットについて合計4個の通孔が形成されていることになり、それが6ユニット分集積されるから、総計24個の通孔(通孔3−1、4−1の群)が縦横に整列させられて形成されていることになる。通孔3−1は、図11において、紙面と直交する奥方および手前側にあり、図示されていない。
【0053】
なお、パッキン部材44に貫通形成される通孔3−1、4−1は、必ずしも分離して別々に形成される必要はなく、通孔3−1が通孔4−1に合体させられてもよい。このようにしても、例えば、流下する溶液と上昇しようとする気体とが混じり合ってしまうことはなく、気体は、流下する溶液中を抜けて、その上の通孔4−2を通って排気されるから、ウエル内の昇圧を緩和する機能に支障は生じない。図12には、このようにされたパッキン部材44の構造が図示されている。また、そのためには、カバーブロック体33に形成される通孔3−2、4−2の下端部をわずかな長さ切除して、そこに小さな空所を形成するようにすると、昇圧・降圧緩和の機能を一層確実に保持することができる(図12中、通孔3−2、4−2直下の左右2つの小さな空白部参照)。
【0054】
カバーブロック体33が底支持体31に装着されるとき、カバーブロック体33の底部33aの下面は、パッキン部材44の上面に当接して、これを圧する。したがって、基板7は、結局、パッキン部材44を介してカバーブロック体33により押圧されて、ガラス基板8上に固定されることになる。
【0055】
カバーブロック体33の底部33aの周縁寄りの1個所には、チェンバー30内の混合液が中央凹部33cに出入りするための比較的大径の通孔33dが上下方向に貫通形成されている。また、底部33aの中央部には、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1に連通する通孔3−2、4−2が、通孔3−1、4−1の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。これら底部33aの中央部に形成された通孔群のうち、ウエル2A側に属する通孔4−2の6ユニット分、すなわち、ウエル2A側に属する整列させられた6個の通孔4−2は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している。
【0056】
ガイドブロック体34を図8に図示される姿勢から180度回転させて、両側のアーム部34b、34bの位置を入れ替えれば、今度は、ウエル2B側に属する整列させられた6個の通孔4−2が、ガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応することになる。ガイドブロック体34のこのような姿勢の転換は、例えば、マイクロピペットによる細胞浮遊溶液のウエル2Aへの注入と、マイクロピペットによる走化性因子含有溶液のウエル2Bへの注入とが、引き続いて行なわれる場合に、採られることができる。
【0057】
以上の説明から明らかなとおり、基板7に貫通形成された通孔35、45、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1、カバーブロック体33の底部33aに貫通形成された通孔3−2、4−2は、それぞれ互いに連通し合っており、このようにして連通し合う通孔4’、4−1、4−2から形成される1本の通孔集合体の6ユニット分は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34に形成された6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している(図11、図12参照)。なお、基板7に貫通形成された通孔3’、4’は、非常に微小であるので、図11、図12においては、図示されていない。通孔4−1、4−2から成る通孔の集合体は、図1における通孔4に相当している。
【0058】
したがって、今、ウエル2A、2B、流路1に細胞等張液が満たされ、ウエル2Bに走化性因子含有溶液が注入されているとし、ウエル2Aにマイクロピペットにより細胞浮遊溶液を注入しようとするとき、マイクロピペットの針の先端を使用対称となるユニットのウエル2Aに通ずる通孔34cに挿入して、これにガイドさせながら所要深さまで進入させ、そこで細胞浮遊溶液を吐出すると、吐出された細胞浮遊溶液は、次いで、通孔4−2、4−1、4’を順次流下して、ウエル2Aに到る。このとき、ウエル2A内の圧力上昇は、通孔3’、3−1、3−2を経て外部に逃がすことができ、走化性因子含有溶液に反応する細胞の走化性に対する圧力変動の影響を最小限にすることができる。
【0059】
ウエル2Bにマイクロピペットにより走化性因子含有溶液を注入しようとするときも、同じ要領にて行ない、マイクロピペットから吐出された走化性因子含有溶液を、今度は、ウエル2B側に属する通孔4−2、4−1、4’を順次流下させて、ウエル2Bに到らせることができる。
なお、通孔3−2、3−1、3’を溶液供給用通路として用い、通孔4’、4−1、4−2を圧力緩和用通路として用いることも可能である。
【0060】
ウエル2Aに供給された細胞浮遊溶液中の細胞は、ウエル2B内の走化性因子含有溶液に反応すると、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する。その状態および数を、細胞レベルで、窓31cを通して顕微鏡により観察、計測することができる。
【0061】
このようにして、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する細胞の走化性の検出、その性質を利用した細胞の分離などの作業を行なうのには、これらの領域を満たしている混合液の温度を、その細胞の活動に適した温度に管理する必要がある。また、細胞の温度変化による反応等をより正確に計測、分析したいときにも、混合液の温度管理は必要である。なお、ここで、これらの領域を満たしている混合液とは、細胞等張液と細胞浮遊溶液との混合液、細胞等張液と走化性因子含有溶液との混合液であり、両混合液の温度は、略等しい。
【0062】
上記の目的のために、本実施例においては、図15に図示されるように、2台の温度調整器62、63を用い、そのうちの1台目の温度調整器62は、温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測し、ヒータにより加熱される加熱部64を、チェンバー30をその上にセットした状態で、温度制御して、温度管理の精度を高める。また、2台目の温度調整器63は、加熱部64を事前に加熱しておき、混合液の温度が所望の温度に調節できるまでの時間を短縮できるようにする。この温度調整器63は、また、加熱部64の過熱防止の機能をも備えている。
【0063】
温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測するために、温度センサー35の温度測定部35bは、図12に図示されるように、台座部分35aから下方に伸びて、混合液と同等の溶液で満たされた液溜め室45内に直接沈められている。この液溜め室45内の溶液は、加熱部64による間接的な加熱を一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液と等しく受けて、その溶液の温度と等しい温度に昇温することができ、温度センサー35は、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液の温度と略等しい温度を測定することができる。液溜め室45内の溶液の液位レベルは、カバーブロック体33の中央凹部33cを満たしている混合液の液位レベルLと略同等である。
【0064】
液溜め室45は、カバーブロック体33の胴体部の外周壁の一部が上下方向に削り取られて形成された凹部が、中間支持体32の内周壁により周囲を囲まれて形成されたものである。この液溜め室45は、ウエル2A、2B、流路1およびこれらに連通する領域から隔離されて設けられるのが望ましい。このために、液溜め室45の下方部において、液溜め室45がウエル2A、2B、流路1およびこれらに連通する領域と接続する個所にパッキン(図示されず)を介装する。このようにすることにより、1台目の温度調整器62の温度測定部35bは、一対のウエル2A、2Bや流路1内に満たされた細胞を含む溶液を汚染することなく、その溶液の温度を正確に測定することができる。
【0065】
図15に図示されるブロック線図により、チェンバー内混合液の温度制御システム60について、さらに詳細に説明すると、先ず、温度調節スイッチ66がONにされ、切り替えスイッチ67の予熱側がONにされることにより、温度調整器63による調節下での加熱部64の予熱が開始される。この予熱は、加熱部64の温度をセンサ65により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。予熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。このコンピュータ61は、ノート型パソコン50に内蔵されるものである。69は、ソリッドステートリレー(SSR)である。
【0066】
加熱部64の温度が所定の予熱温度に到達し、加熱部64の上に細胞観察チェンバー30が載置されると、切り替えスイッチ67の加熱側がONになるように切り替えられ、温度調整器62による調節下での加熱部64の加熱が開始される。この加熱は、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱することを目的としており、チェンバー内混合液の温度をセンサ35により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。加熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。加熱部64は、前記した予熱により、所定の温度にまで上昇しているので、この加熱により、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱するのは、短時間で行なわれる。
【0067】
チェンバー内混合液の温度が所定の温度に到達すると、温度調整器62は、その温度を維持するように加熱部64の加熱制御を行なう。何らかの原因、例えば、チェンバー30が加熱部64に接触していない、などにより、加熱部64の温度が異常(例えば、43°C)に上昇すると、温度調整器63がリレー68を作動させ、回路を遮断する。なお、温度調整器62も、チェンバー内混合液の温度が異常(例えば、38〜40°C)に上昇すると、リレー68を作動させ、回路を遮断するようになっている。
【0068】
コンピュータ61は、加熱部64の温度、チェンバー内混合液の温度、センサ35、65の状態等を常時モニターし、ディスプレイに表示し、また、温度調整器62、温度調整器63に加熱温度、予熱温度の指定をそれぞれ行なう。
【0069】
なお、ここで、本実施例の細胞観察チェンバー30の実際の組立の手順について、詳細に説明しておく。
先ず、底支持体31にガラス基板8を装着する。次いで、底支持体31に中間支持体32を嵌め合わせ、カム操作レバー37を回動することにより、中間支持体32を上方からOリング43を介して底支持体31に圧接させて、これに装着する。これにより、媒質の漏洩が防止されて、これらの部品組立体に容器としての機能を持たせることができる。次いで、中間支持体32の底部32aの中央部に形成された開口部32cにガイドさせながら、基板7をガラス基板8上に載置し、底面部にパッキン部材44が装着されたカバーブロック体33を中間支持体32に嵌め合わせ、カム操作レバー36を回動することにより、パッキン部材44を上方から基板7に圧接させるとともに、基板7をガラス基板8に圧接させる。同時に、カバーブロック体33は、Oリング42を介して中間支持体32に圧接されて、底支持体31に装着される。これにより、媒質の漏洩が防止され、これらの部品全体から成る組立体(細胞観察チェンバー30)にも、容器としての機能を持たせることができる。
【0070】
次に、図16および図17に図示される本実施例の細胞観察装置10の内部構造について説明する。
図16は、本実施例の細胞観察装置10のケーシング20内部の斜視図、図17は、光学的観察手段の概略構成を模式的に示した図である。
【0071】
本実施例の細胞観察装置10のケーシング20内には、前記のとおり、細胞観察チェンバー30が、ケーシング20の上面からその一部(溶液供給もしくは採取側の一部)が露出するようにして、ケーシング20の一隅寄りに収容されている。この細胞観察チェンバー30は、ケーシング20内に設置された据付け架台28の中央凹部内に沈められるようにして、そこにセットされ、必要に応じて容易に細胞観察チェンバー30を交換することを可能にしている。
【0072】
細胞観察チェンバー30の下方には、光学的観察手段70が設けられている。この光学的観察手段70は、図17に図示されるように、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズ85と、2つの反射鏡82、84と、これらの反射鏡82、84の間に配置されたハーフミラー83と、光源81と、CCDカメラ86とから成る光学系80を備えており、1点鎖線で示されるその光軸は、対物レンズ85を光が通過するわずかの部分で垂直をなすほかは、屈曲する部分を有しながらも、水平に延びている。この光学系80は、顕微鏡にCCDカメラ86を組み合わせた構造から成るものである。
【0073】
対物レンズ85は、一対のウエル2A、2Bを連通する流路1を通って移動する細胞を観察することができるように、細胞観察チェンバー30の底支持体31の底部31a中央に設けられた窓31cに近く、その直下に配置されている。
【0074】
光源81から発せられた光は、反射鏡82、ハーフミラー83、反射鏡84により順次反射されて、対物レンズ85に入り、ここを通過して、流路1にある細胞を照らす。このようにして明るく照らし出された細胞の姿は、対物レンズ85により所定の大きさに拡大されて、反射鏡84に入り、これにより反射されて、ハーフミラー83に入る。そして、ここを真っ直ぐに通過して、カメラ86により捕捉され、これにより視覚可能な像として撮像される。光源81の照度の調節は、照度調整つまみ22を操作することにより行なわれる。
【0075】
カメラ86は、取付け台87上に固定されており、この取付け台87は、後述する第2ステージ73上に、リニアガイド88に沿ってスライド可能に設置されている。そして、焦点調整ノブ24を操作することにより、該焦点調整ノブ24に連係するねじ棒89と取付け台87とのねじ結合を介して、ハーフミラー83方向にスライド可能であり、これにより、カメラ86の焦点調整が行なわれるようになっている。
【0076】
カメラ86により撮像された細胞の像は、デジタルデータ化されてパソコン50に送られ、そこに収納・記憶されるとともに、必要に応じてパソコン50のディスプレイ上に表示される。細胞の像の拡大度を変えるのには、対物レンズ85が交換される。また、パソコン50に内蔵されるズーム機能を用いて拡大・縮小することもできる。このようにして、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する細胞の状態および数を、細胞レベルで観察、計測することが可能になる。
【0077】
光学的観察手段70のベース(基台)をなす、XY二次元平面上を移動可能なステージは、次のようにして構成されている。
このステージは、図17に図示されるように、第1ステージ71と第2ステージ73との2段構成から成る。第1ステージ71は、リニアガイド72に沿ってケーシング20の底板25に対してX方向にスライド可能に、底板25上に設けられている。ここで、X方向とは、カメラ86と反射鏡84とを結ぶ光軸に直交する方向である。この第1ステージ71のX方向へのスライドは、位置調整つまみ23を操作することにより、該位置調整つまみ23と一体のねじ棒29と第1ステージ71とのねじ結合を介して、行なわれる。
【0078】
また、第2ステージ73は、リニアガイド74に沿って第1ステージ71に対してY方向(X方向に直角の方向)にスライド可能に、第1ステージ71上に設けられている。この第2ステージ73のY方向へのスライドは、モータ(ステッピングモータ)75の作動により、該モータ75の回転軸と一体のねじ棒76と第2ステージ73とのねじ結合を介して、行なわれる。モータ75の制御は、パソコン50を介して行なうことができる。
【0079】
なお、照度調整つまみ22、位置調整つまみ23、焦点調整ノブ24により、照度の調整、ステージの位置調整、焦点の調整を行なっているが、それぞれの調整機能をパソコンのプログラムに内蔵し、プログラムスイッチやパソコンに付随のスイッチキーにより、これらの調整を行なうようにしてもよい。また、それぞれの動作機能は、モータなどの自動起動機器で動作されるほか、それぞれの調整部分に調整つまみを用意し、手動で調整するようにしてもよい。
【0080】
ケーシング20内には、また、チェンバー内混合液の温度制御システム60の構成要素をなす第1の温度調整器62と第2の温度調整器63、ファン90、ノイズフィルタ100、制御回路部110、各種配線接続用のコネクタ120、電源部130等が収容されている。
【0081】
これらのうち、温度制御システム60は、前記のとおり、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液(混合液)を所定の温度に調整する手段(温度調整手段)をなす。ファン90は、外気を取り入れ、ケーシング20内に満遍なく流し、排出することにより、ケーシング20内の雰囲気温度が出来るだけ均一になるようにする。制御回路部110は、コネクタ120を介してパソコン50に接続されている。
【0082】
図には示されていないが、ケーシング20内には、さらに、ケーシング20内の雰囲気を所定の温度に調整するための手段(温度調整手段)を設けてもよい。この手段は、ヒータと、雰囲気温度測定用センサと、温度調整器とを有し、パソコン50に接続されて、ケーシング20内雰囲気の加熱あるいは冷却を行ない、ケーシング20内が一様な温度の雰囲気で満たされるようにすることも可能である。このようにすることにより、さらに、チャンバー30内の混合液への外部の温度変化による影響を緩和し、所定の温度に維持することも可能になる。
【0083】
ケーシング20の下面の4隅部には、ケーシング20の傾きを調整するための傾き調整手段27が取り付けられている。この傾き調整手段27は、座付きボルトのねじ部をケーシング20の下面4隅部の各々に形成された雌ねじ部に螺合させることにより構成されているので、水準器21によりケーシング20の水平が崩れていることが発見されたとき、崩れている個所に対応する隅部に設けられている傾き調整手段27を回動操作することにより、水平を回復することができる。また、細胞の走化性に及ぼす重力の影響を観察したいときには、対応する傾き調整手段27を所定量回動操作して、ケーシング20を所定の角度に傾斜させることにより、これを実行することができる。
【0084】
ケーシング20の前面の右上部には、電源ランプ131が設けられ、電源部130の入切状態が表示されるようになっている。また、警報ランプ132と133とが設けられている。警報ランプ132は、ヒーティングシステムに異常が発生した時に点灯する。例えば、ヒートプレートの温度がサーモスタットの設定温度を超えて高温(例えば、52°C)となった時などに点灯する。また、警報ランプ133は、警報ランプ132で、例えば、さらに高温(例えば、90°C)となった時などに点灯する。
ケーシング20の底板25上には、ケーシング20の蓋板を支える支柱26が複数本、適所に立設されている。
【0085】
本実施例の細胞観察装置10は、前記のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
光学的観察手段70は、細胞観察チェンバー30の下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング20内に収容されているので、ケーシング20の全高寸法を大きく節約することができ、細胞観察装置10を小型化し、軽量化して、移動し易いものとすることができる。また、その操作が容易となり、操作性を大きく改善することができる。
【0086】
また、光学的観察手段70は、その対物レンズ85が観察したい細胞が移動する流路1の直下の位置に来るように移動し、位置合わせをして、そこの細胞を拡大し、視覚可能な映像としてカメラ86に撮像させ、この映像により細胞の移動の状態や数を観察、計測することができるようにするので、細胞観察作業がきわめて容易になる。また、ハーフミラー83を備えているので、これを反射鏡84とカメラ86との間、反射鏡84と反射鏡82との間に配置することにより、光軸を任意の角度に変えることができ、細胞観察装置10をさらに小型化することができる。
【0087】
また、細胞観察装置10は、温度調整手段を備え、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液(混合液)やケーシング20内の雰囲気を所定の温度に調整するので、細胞の活動に適した温度において、細胞の走化性を正確に検出することができ、細胞の走化性の温度による影響を正確に計測、分析することができ、また、ケーシング20内に収容される、細胞観察装置10を構成する個々の部品の温度変化が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、これらにより、細胞観察の精度、深度を向上させることができる。
【0088】
殊に、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液を所定の温度に調整する温度調整手段(温度制御システム60)は、溶液の温度を直接に測定して、これを所定の温度になるように調整しているので、細胞観察の精度を一層向上させることができる。
【0089】
さらに、ケーシング20の上面には、温度調整手段による温度制御のプログラムや細胞観察データ等を収納し、データを処理し、所望のデータをそのディスプレイ上に表示し得るパソコン50が設置可能とされているので、細胞観察装置10の操作、細胞の状態の観察、データの収納、処理、分析等、一連の細胞観察作業が格段に容易になり、机上作業も可能になる。また、パソコン50の設置スペースを節約することができ、細胞観察装置10と一体に移動させることができるので、その移動も容易になる。
【0090】
さらに、また、ケーシング20の下面には、ケーシング20の傾きを調整する傾き調整手段27が取り付けられているので、重力が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、また、重力が細胞の走化性に及ぼす影響を正確に計測、分析することができる。
【0091】
なお、本願の発明は、以上の実施例に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、細胞観察装置に関し、細胞が自力で一定の方向に移動するか否かの判定、細胞が自力で一定の方向に移動する状態の観察、自力で一定の方向に移動した細胞の数の計測等のために使用される細胞観察装置において、特に装置の小型化と操作性の向上とを図った細胞観察装置に関する。この装置は、また、自力で一定の方向に移動する細胞の分離のためにも使用されることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞観察装置としては、種々のものが提案され、市販されているが、特に走化性因子による細胞の走化性または走化性因子阻害剤による細胞の走化性阻害を検出するに当たり、少量の細胞試料を用いて、細胞の自力に基づく動きを正確に、しかも、その過程を容易に観察、定量し得るようにした装置として、特開2002−159287号公報、特開2003−180336号公報等に記載されたものがある。これらのものにおいては、また、細胞の走化性を利用して、細胞を分離することも可能である。
【0003】
上記公報に記載された細胞観察装置において、細胞観察チェンバー部分は、次のように構成されている。
図18に図示されるように、その細胞観察チェンバー00は、底部中央に細胞の動きを観察する窓01cを備えた円形の浅い皿状の底支持体01と、底支持体01の底部01a上に載置されるガラス基板08と、底支持体01に装着されて、後述するカバー04の底支持体01へのねじ結合により、ガラス基板08を上方から圧し、これを底部01a上に固定する皿状の中間支持体02と、中間支持体02の底部中央に形成された矩形状の開口部02cに嵌め込まれて、ガラス基板08上に定置される基板07およびパッキン部材010と、中間支持体02の中央凹部に嵌め込まれて、基板07をパッキン部材010を介して圧し、図示されない押しねじによりこれをガラス基板08上に固定するブロック体09と、底支持体01にねじ結合により装着されて、ブロック体09を上部から圧し、これを中間支持体02内に固定するカバー04とから成っている。基板07は、シリコン単結晶素材から製作されている。
【0004】
底支持体01と中間支持体02との結合は、底支持体01の胴体部内周面に形成された雌ねじ01dに、中間支持体02の胴体部外周面に形成された雄ねじ02dがねじ込まれることによって、さらに、底支持体01とカバー04とのねじ結合によってなされる。この底支持体01とカバー04とのねじ結合は、カバー04の袖部内周面に形成された雌ねじ04aを、底支持体01の外周面に形成された雄ねじ01eにねじ込むことによってなされる。中間支持体02は、そのフランジ部02bの下面に形成されたガイドピン受孔02fに底支持体01の胴体部上面に立設された図示されないガイドピンが挿通されることによって、底支持体01上に位置決めされる。また、ブロック体09は、その底面に形成されたガイドピン受孔09aに中間支持体02の底面に立設されたガイドピン013が挿通されることによって、中間支持体02内に位置決めされる。
【0005】
そして、これらの部品が一体に組み立てられて、使用される状態においては、基板07とガラス基板08との間に、少なくとも一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とが形成される。これらのウエルのうちの一方のウエルには、細胞浮遊溶液が入れられ、他方のウエルには、走化性因子含有溶液が入れられて、細胞が、走化性因子に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動する。その状態の観察や移動する細胞の数の計測が、窓01cを通して顕微鏡観察により行なわれる。
【0006】
基板07とガラス基板08との間に形成される一方のウエルへの細胞浮遊溶液の注入、他方のウエルへの走化性因子含有溶液の注入は、マイクロピペットを用いて、ブロック体09、パッキン部材010、基板07にそれぞれ形成された専用の通孔を連ねて行なわれる。底支持体01、中間支持体02、カバー04を組み立てた後、底支持体01に充填された各溶液が漏れないように、中間支持体02とガラス基板08との間には、Oリング011が介装されている。他方、パッキン部材010も、基板07とブロック体09との間にあって、両ウエルとそれらの間を結ぶ流路から溶液が漏れないようにするのに役立つ。
【0007】
また、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動する細胞の状態の観察や、移動する細胞の数の計測を正確に行なうのには、これらの領域を満たしている細胞浮遊溶液や走化性因子含有溶液もしくはそれらを含む混合液の温度を、細胞の活動に適した温度に管理する必要がある。また、細胞の温度変化による反応等をより正確に計測、分析したいときにも、溶液の温度管理は必要である。そのために、この装置においては、細胞観察チェンバー00を図示されない発熱体から成る加熱部上に載置して、この加熱部の温度を所定の温度に管理しながら、底支持体01の壁を通して間接的にこれらの溶液を加熱して、これらの溶液の温度が所定の温度になるように調整する温度調整装置が用いられている。
【0008】
ところで、前記のようにして構成される細胞観察チェンバー00を用いて、走化性細胞の移動する状態の観察や移動する細胞の数の計測を窓01cを通して顕微鏡観察により行なうに際しては、この顕微鏡内の光学系光軸を垂直にして行なっていたので、これら細胞観察チェンバー00、顕微鏡設備等を内蔵する細胞観察装置全体が大型化し、移動が煩瑣で、操作性において、なお改善すべき余地のあるものとなっていた。
【特許文献1】特開2002−159287号公報
【特許文献2】特開2003−088357号公報
【特許文献3】特開2003−180336号公報
【特許文献4】特開平11−118819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願の発明は、従来の細胞観察装置が有する前記のような問題点を解決して、小型化され、移動が容易で、操作性が大きく改善された細胞観察装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明によれば、このような課題は、次のような細胞観察装置により解決される。すなわち、その細胞観察装置は、細胞観察チェンバーと、光学的観察手段とを備え、前記細胞観察チェンバーは、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、前記一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って移動することができるようにされ、前記光学的観察手段は、前記流路を通って移動する細胞を、前記細胞観察チェンバーの外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置において、前記細胞観察チェンバーは、その溶液供給もしくは採取側が前記細胞観察装置のケーシングから一部露出するようにして、前記ケーシング内に収容され、前記光学的観察手段は、前記細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、前記ケーシング内に収容されていることを特徴としている。
【0011】
この細胞観察装置によれば、その光学的観察手段は、細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング内に収容されているので、ケーシングの全高寸法を大きく節約することができ、細胞観察装置を小型化し、軽量化して、移動し易いものとすることができる。また、その操作が容易となり、操作性を大きく改善することができる。
【0012】
好ましい実施形態では、その光学的観察手段は、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズと、複数の反射鏡と、ハーフミラーと、光源と、カメラとから成る光学系を備え、対物レンズは、流路を通って移動する細胞を観察することができるように細胞観察チェンバーに設けられた窓に近く配置され、光源は、流路を通って移動する細胞を光学系を通して照らし、これをカメラに視覚可能に撮像させるようにされる。
【0013】
これにより、光学的観察手段は、その対物レンズが観察したい細胞が移動する流路の直下の位置に来るように移動し、位置合わせをして、そこの細胞を拡大し、視覚可能な映像としてカメラに撮像させ、この映像により細胞の移動の状態や数等を観察、計測することができるようにするので、細胞観察作業がきわめて容易になる。また、ハーフミラーを備えているので、光軸を任意の角度に変えることができ、細胞観察装置をさらに小型化することができる。
【0014】
別の好ましい実施形態では、その細胞観察装置は、温度調整手段をさらに備え、該温度調整手段は、ケーシング内およびケーシング本体の雰囲気を所定の温度に調整する手段をさらに有しているので、ケーシング内に収容される細胞観察装置を構成する個々の部品の温度変化が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、細胞観察の精度をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したとおり、本願の発明によれば、細胞観察装置を小型化し、軽量化して、移動し易いものとすることができ、また、その操作が容易となり、操作性を大きく改善することができる。
【0016】
また、その光学的観察手段は、流路を通って移動する細胞を所望の大きさに拡大して、視覚可能にカメラに撮像させるとともに、細胞観察装置の操作、細胞の状態の観察、データの収納、処理、分析等にパソコンを使用することも可能なので、細胞観察作業がきわめて容易になり、机上作業も可能になる。
【0017】
また、その細胞観察装置は、ケーシング内およびケーシング本体の雰囲気を所定の温度に調整する温度調整手段を有しているので、ケーシング内に収容される細胞観察装置を構成する個々の部品およびケーシング本体の温度変化が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、細胞観察の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願の発明の細胞観察チェンバーの作動原理を示す、ウエル、流路および通孔を含む装置ユニット部分の縦断面図である。
【図2】同下面図である。
【図3】同流路部分の拡大横断面図である。
【図4】同流路部分の下面図である。
【図5】同流路部分の縦断面図である。
【図6】本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞走化性検出・走化性細胞分離装置の全体斜視図である。
【図7】本実施例の細胞観察チェンバーの全体斜視図である。
【図8】同平面図である。
【図9】同前側面図である。
【図10】同右側面図である。
【図11】図8のXI−XI線矢視断面図である。
【図12】図8のXII−XII線矢視断面図である。
【図13】同細胞観察チェンバーの一部分解斜視図である。
【図14】さらに分解を進めた同一部分解斜視図である。
【図15】チェンバー内混合液の温度制御システムのブロック線図である。
【図16】本実施例の細胞観察装置のケーシング内部の斜視図である。
【図17】光学的観察手段の概略構成を模式的に示した図である。
【図18】従来の細胞観察チェンバーの分解図である。
【符号の説明】
【0019】
1…細胞の流路、2(2A、2B)…ウエル、3、3’、3−1、3−2…通孔、4、4’、4−1、4−2…通孔、5…溝、6…障壁、7…基板、8…ガラス基板、9…ブロック体、10…細胞走化性検出・走化性細胞分離装置、20…ケーシング、21…水準器、22…照度調整つまみ、23…位置調整つまみ、24…焦点調整ノブ、25…底板、26…支柱、27…傾き調整手段、28…据付け架台、29…ねじ棒、30…細胞観察チェンバー、31…底支持体、31a…底部、31b…胴体部、31c…窓、32…中間支持体、32a…底部、32b…フランジ部、32c…開口部、33…カバーブロック体、33a…底部、33b…フランジ部、33c…中央凹部、33d…通孔、34…ガイドブロック体、34a…中央膨大部、34b…アーム部、34c…通孔、35…温度センサー、35a…台座部分、35b…温度測定部、36…カム操作レバー、36a…脚部の端部、36b…カム溝、37…カム操作レバー、37a…脚部の端部、37b…カム溝、38…支持軸、39、40、41…ピン、42、43…Oリング、44…パッキン部材、45…液溜め室、46、47…ピン、50…ノート型パソコン、60…チェンバー内混合液温度制御システム、61…コンピュータ、62、63…温度調節器、64…加熱部、65…温度センサー、66…温度調節スイッチ、67…切り替えスイッチ、68…リレー、69…ソリッドステートリレー(SSR)、70…光学的観察手段(光学系もしくは光学系とカメラとの組合せ)、71…第1ステージ、72…リニアガイド、73…第2ステージ、74…リニアガイド、75…モータ(ステッピングモータ)、76…ねじ棒、80…光学系、81…光源、82…反射鏡、83…ハーフミラー、84…反射鏡、85…対物レンズ、86…カメラ、87…取付け台、88…リニアガイド、89…ねじ棒、90…ファン、100…ノイズフィルタ、110…制御回路部、120…コネクタ、130…電源部、131…電源ランプ、132、133…警報ランプ、a…中心線、L…液レベル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
細胞観察チェンバーと、光学的観察手段とを備え、細胞観察チェンバーは、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、一方のウエルから他方のウエルに流路を通って移動することができるようにされ、光学的観察手段は、流路を通って移動する細胞を、細胞観察チェンバーの外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置において、細胞観察チェンバーは、その溶液供給もしくは採取側が細胞観察装置のケーシングから一部露出するようにして、ケーシング内に収容されるようにし、光学的観察手段は、細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング内に収容されるようにする。
【0021】
光学的観察手段は、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズと、複数の反射鏡と、ハーフミラーと、光源と、カメラとからなる光学系を備え、対物レンズは、流路を通って移動する細胞を観察することができるように細胞観察チェンバーに設けられた窓に近く配置され、光源は、流路を通って移動する細胞を光学系を通して照らし、これをカメラに視覚可能に撮像させるようにする。
【0022】
細胞観察装置には、さらに、温度調整手段を具備せしめ、この温度調整手段は、ウエルと流路とを満たしている溶液を所定の温度に調整するとともに、ケーシング内の雰囲気を所定の温度に調整する機能を有するものとする。
【0023】
ケーシングの上面には、温度調整手段による温度制御のプログラムや細胞観察データ等を収納し、データを処理し、所望のデータをそのディスプレイ上に表示し得るパソコンを設置するとともに、ケーシングの下面には、ケーシングの傾きを調整する傾き調整手段を取り付ける。
【実施例】
【0024】
次に、本願の発明の一実施例について説明する。
先ず、本願の発明の細胞観察装置の作動原理について説明する。
この細胞観察装置に内蔵される細胞観察チェンバーにおいては、複数のウエルが流路を挟んで結合し、互いに連通しており、それぞれのウエルには、試料を注入もしくは採取するための管およびおよび試料の注入もしくは採取によるウエル内の昇圧もしくは減圧を回避するための管の2本の管が設けられている。この管は、ブロックに形成された通孔により形成されてもよい。ここで、流路とは、2つのウエルを連通させている部分であり、一方のウエルから他方のウエルに細胞が移動するときに、細胞が通過する通路である。この装置によれば、試料を注入・採取する際、流路において相対するウエルに向かう方向の液流が生じにくく、流路の両端にあるウエルの液体が互いに混ざり合うことがなく、その結果、細胞が専ら走化性因子の作用のみによって移動する場合を検出することができる。
【0025】
図に基づいて、その原理を説明すると、図1および図2において、1は流路、2は細胞浮遊溶液や検体溶液等の試料を収納するウエルであり、一対のウエル2A、2Bから成る。これらの試料は、マイクロピペット等により、ブロック体9に形成された通孔3を通じてウエル2に供給され、また、ウエル2から採取される。ウエル2の一方のウエル2Aに細胞浮遊溶液を入れたとき、細胞は、他方のウエル2Bに入れられた検体溶液が走化性因子を含むもの(走化性因子含有溶液)である場合には、ウエル2Bに向かって移動しようとし、流路1を通過する。
【0026】
試料の1つである細胞浮遊溶液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Aに供給する際、注入する液圧により、細胞が流路1を通過して反対側のウエル2Bに移動してしまうことが生じる。この事態が生ずると、細胞の移動が検体の有する走化性因子によるのか否かの判定に混乱を与える要因になるとともに、細胞の分離を目的とする場合には、所望の細胞に他の細胞が混入してしまうことになり、目的が達せられないことになる。この問題点を解決するために、この装置においては、通孔3に加わる注入圧を通孔4の方に逃がし、流路1に向かって細胞が強制的に流されることを防止している。
【0027】
同様に、検体溶液を、マイクロピペット等により、通孔3を通じてウエル2Bに供給する際にも、注入する液圧により、検体溶液が流路1を通過して反対側のウエル2Aに入り、細胞浮遊溶液と混合する事態が生じ、細胞がその走化性により流路1を通過する現象が混乱ないし阻害される。このような事態の発生を防止するために、検体を収納するウエル2Bにおいても、通孔4を設けるようにしている。
【0028】
このようにして、試料を注入する通孔3に連通する通孔4を設けることにより、水平方向への液圧の影響を最小にすることができ、検体溶液が走化性を有するか否かの判定をより正確に行なうことができる。通孔4による圧力差の緩和作用は、ウエルから細胞などの試料を採取する際の減圧を緩和する上でも有効であり、試料の採取を容易にする。
【0029】
本細胞観察チェンバーにおいて、ウエル2に試料を注入する場合を、図1により説明すると、予め各ウエル2A、2Bおよび流路1を細胞等張液で満たしておき、ウエル2Aの通孔3から細胞浮遊溶液を、ウエル2Bの通孔3から走化性因子含有溶液を、それぞれ略等量ずつ注入する。このようにすることにより、試料注入時の昇圧は、通孔4により緩和される。
【0030】
流路1は、図3ないし図5に図示されるように、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向と直交する方向に走る障壁6に、ウエル2Aからウエル2Bに、もしくはその逆に向かう方向に沿わせて形成された1本ないし複数本、例えば、約100本の溝5により構成されている。これらの溝5は、細胞の径もしくはその変形能に合わせた幅に形成される。このような溝5を設けることによって、細胞を個々のレベルで観察することが可能になり、また、細胞を所望の種類毎に分離することが可能になる。なお、図1ないし図3における符号7aは、ウエル2Aとウエル2Bとの間に形成される土手を示し、図3および図4における符号7bは、土手7aに形成されるテラスを示している。テラス7bは、障壁6を囲む平坦部である。
【0031】
細胞が流路1を移動する状態の観察、流路1を通過中もしくは通過後の細胞数の計測は、図3に図示されるように、流路1に観察手段、例えば、顕微鏡または、後述するように、顕微鏡とビデオカメラあるいはCCDカメラ(電荷結合素子カメラ)とを組み合わせた構造の光学的観察手段70(図17参照)をセットすることによって行なわれる。このような光学的観察手段70を用いることにより、自動的に細胞が移動する経過を記録することができる。
【0032】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成る装置を1ユニットとして、複数のユニットを集積させることにより、他種類の検体または他種類の細胞を対象として、同時に細胞の移動(走化性)の検出や走化性細胞の分離を行なうことができる装置を構成することができる。このような装置は、全体的に小型化されており、試料の処理を微量で行なうことができる。また、液体の注入・採取量のプログラム制御により、処理を自動化して行なうことが容易である。
【0033】
以上に説明したような、通孔3、4をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットは、実際には、次のようにして製作される。
ウエル2A、2B、流路1の内部形状は、シリコン単結晶素材から成る基板7の表面上に、既知の集積回路の製作技術を応用することによって形成することができる。このようにして、その表面上にウエル2A、2B、流路1の内部形状を写した凹凸形状が刻設された基板7をガラス基板8と対面させて、重ね合わせれば、それら両基板7、8の間にウエル2A、2B、流路1が形成される。
【0034】
基板7には、また、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊溶液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通しているとともに、ブロック体9に上下方向に貫通形成された通孔3、4にそれぞれ連通している。なお、基板7とブロック体9との間には、実際には、パッキンが介在させられて、それらの間の液封がなされるようになっている。
【0035】
次に、前記したような、通孔3’、4’をそれぞれ備えたウエル2A、2Bが流路1を介して連通されて成るユニットが複数組み込まれて成る本実施例の細胞観察チェンバーについて、詳細に説明する。
先ず、本実施例の細胞観察チェンバーが適用される細胞観察装置の全体構造のあらましについて説明する。
【0036】
図6に図示されるように、本実施例の細胞観察チェンバー30が適用される細胞観察装置10は、比較的高さの低い直方体形状のケーシング20の上面からその一部が露出するようにして、細胞観察チェンバー30が収納されている。また、そのケーシング20の上面には、ノート型パソコン50が取り外し可能に設置または載置されており、このノート型パソコン50の作動により、細胞浮遊溶液等含有溶液の温度制御部に対する指令、同温度データや細胞観察データの解析、記録、ディスプレイ表示等が行なわれる。このディスプレイ表示には、細胞の実際の動きの映像表示も含まれる。
【0037】
ケーシング20の上面には、他に水準器21が取り付けられており、装置10の水平を常時監視することができる。そして、水平から変移している場合には、ケーシング20の下面に取り付けられた傾き調整手段27(図16参照)の螺進量を調整することにより、水平を回復することができる。また、この傾き調整手段27の螺進量を種々に調整することにより、装置10を種々の角度に傾けることができ、細胞の走化性に及ぼす重力の影響による観察も可能になる。
【0038】
ケーシング20の前側面には、図6において右下方から左上方に向かって順に、光学的観察手段70による細胞観察画像の明るさ(ライトの照度)調整つまみ22、光学的観察手段70の位置調整つまみ23、焦点調整ノブ24等が取り付けられている。後述するように、光学的観察手段70の光軸は、ケーシング20内において水平に延びるように配置されているので、ケーシング20、牽いては装置10の全高を低くすることができ、机上に置かれた本装置10に対して、座位にて細胞走化性の検出、走化性細胞の分離、計数等の作業を行なうことができ、操作性が大きく改善される。ケーシング20内の諸装置の配置構成については、後で詳細に説明される。
【0039】
細胞観察チェンバー30は、次のようにして構成されている。
図7は、本細胞観察チェンバー30の全体斜視図、図8は、同平面図、図9は、同前側面図、図10は、同右側面図、図11は、図8のXI−XI線矢視断面図、図12は、図8のXII−XII線矢視断面図、図13は、同細胞観察チェンバー30の一部分解斜視図、図14は、さらに分解を進めた同一部分解斜視図である。
【0040】
図7〜図10、図13および図14に図示されるように、本細胞観察チェンバー30は、その外観および後述するカム操作レバー36、37の簡単な回動操作によるその一部分解から、次のようにして構成されていることが理解されるであろう。すなわち、最下段に配置される円形皿状の底支持体31の上には、同じく円形皿状の中間支持体32が装着され、中間支持体32の上には、同じく円形皿状で、底部33aが比較的厚く、外周フランジ部33bが比較的幅広のカバーブロック体33が装着され、カバーブロック体33の上には、該カバーブロック体33の中央凹部33cを跨ぎ、その中央膨大部34aを該中央凹部33cに沈めるようにして、ガイドブロック体34が装着され、カバーブロック体33の上面には、温度センサー35の台座部分35aが着座させられている。
【0041】
そして、カバーブロック体33は、カム操作レバー36を回動することにより、中間支持体32に上方から圧接され、これにより、中間支持体32が、底支持体31に上方から圧接されて、最終的には、カバーブロック体33が、底支持体31に装着される。また、中間支持体32は、カム操作レバー37を回動することにより、底支持体31に上方から圧接されて、これに装着される。なお、実際の装着の順序は、中間支持体32が底支持体31に装着されてから、カバーブロック体33が底支持体31に装着されることになる。分解の場合には、この逆の順序になる。カバーブロック体33は、従来の細胞観察チェンバー00(図18参照)におけるブロック体09とカバー04とが合体されたものに相当している。
【0042】
カム操作レバー36、37は、いずれも平面視コの字状をなしており、それらの両脚部の端部36a、37aは、円形皿状の底支持体31の胴体部31bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置に植設された一対の支持軸38の回りに回動自在に支持されている。また、それらの両脚部の端部36a、37aは、正面視矩形状に膨大化されていて、それらの内面には、カム操作レバー36については、カム溝36bが、カム操作レバー37については、カム溝37bが、それぞれ湾曲状に形成されている(図13、図14参照)。
【0043】
円形皿状のカバーブロック体33の外周フランジ部33bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン40が植設されている(図14、図11参照)。このピン40は、カム操作レバー36のカム溝36bに嵌まり込んで、カム操作レバー36が回動操作されるとき、カム溝36b内を滑動する。これにより、カバーブロック体33は、その外周フランジ部33bの下面が中間支持体32の外周フランジ部32bの上面に上方から接近して、これに当接し、底支持体31に装着される。また、カム操作レバー36を逆に回動操作することにより、カバーブロック体33は、底支持体31から取り外される。カバーブロック体33の外周フランジ部33bと中間支持体32の外周フランジ部32bとの間には、カバーブロック体33が中間支持体32に装着されたとき、これらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するために、Oリング42が介装されている。
【0044】
同様に、円形皿状の中間支持体32の外周フランジ部32bの外周面上であって、その軸心に関して対称の位置には、ピン41が植設されている(図11参照)。このピン41は、カム操作レバー37のカム溝37bに嵌まり込んで、カム操作レバー37が回動操作されるとき、カム溝37b内を滑動する。これにより、中間支持体32は、その外周フランジ部32bの下面が底支持体31の胴体部31bの上面に上方から接近して、これに当接し、底支持体31に堅固に装着される。また、カム操作レバー37を逆に回動操作することにより、中間支持体32は、底支持体31から取り外される。
【0045】
ガイドブロック体34の中央膨大部34aには、上下方向に貫通し、ガイドブロック体34の長さ方向に一列に整列させられて、細い6個の通孔34cが形成されている。これらの通孔34cは、作業者が細胞浮遊溶液や検体溶液等の試料を含んだマイクロピペット(図示されず)の針先をチェンバー30内に挿入し、また、そこから抜き出すときに、マイクロピペットの針先をガイドするとともに、マイクロピペットから吐出されたそれらの溶液を後述するウエル(このウエルは、前記した、一対のウエル2A、2B(図1)のうちのいずれかのウエルと同じものである。)に導くのに役立つ。6個の通孔34cの整列位置は、ガイドブロック体34を平面視幅方向に二分する中心線aから片方にわずかに変位させられている(図8参照)。
【0046】
ガイドブロック体34は、その中央膨大部34aを挟んだ両側のアーム部34b、34bとカバーブロック体33のフランジ部33bとの間にピン39が通されることにより、位置決めされて、フランジ部33b上に着脱自在に装着されている。したがって、ガイドブロック体34は、これをカバーブロック体33から取り外し、両側のアーム部34b、34bの位置が入れ替わるように180度回転させて、反転前と同様にピン39により位置決めすることにより、カバーブロック体33のフランジ部33b上に再び着脱自在に装着することができる。このとき、6個の通孔34cの整列位置は、反転前の整列位置と中心線aに関して対称の位置にある。
【0047】
カバーブロック体33と中間支持体32との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン46a、46bが、カバーブロック体33と中間支持体32とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている(図12、図14参照)。同様に、中間支持体32と底支持体31との間の円周方向の相対的な位置決めを行なうために、一対の位置決め用ピン47a、47bが、中間支持体32と底支持体31とに跨がるようにして、それぞれに形成された孔内に通されている(図12参照)。ピン46aとピン46b、ピン47aとピン47bは、それぞれ異なる径を持ち、組立時の組み間違いを未然に防止する機能を果している。
【0048】
次に、本細胞観察チェンバー30の内部構造について、詳細に説明する。
底支持体31は、その底部31aの中央に、細胞の動きを観察する窓31cが設けられている。また、その底面上には、透明なガラス基板8が載置されている。このガラス基板8は、中間支持体32が底支持体31に装着されたとき、中間支持体32の底部32aにより底部31aに強く押し付けられて、そこに固定される。底部32aとガラス基板8との間には、それらの外周側に、Oリング43が介装されており、これにより、それらの間に形成される内部空間から媒質が漏洩するのを防止するようになっている。
【0049】
ガラス基板8の中央部の表面上には、基板7が載置されている。これらガラス基板8、基板7は、前記した、図1におけるガラス基板8、基板7と基本的に同じ構造の同じものである。したがって、基板7のガラス基板8と対向する側の表面上には、一対のウエル2A、2Bと、これらを連通させる流路1の内部形状を写した凹凸形状が6ユニット分、刻設されており、これがガラス基板8と対面させられて、重ね合わされた状態においては、それら両基板7、8間に6ユニット分のウエル2A、2B、流路1の組合せ構造が形成される。
【0050】
基板7には、また、前記のとおり、ウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに対応させて、細胞浮遊溶液もしくは走化性因子含有溶液を通す通孔3’が上下方向に貫通形成されているとともに、それらの溶液をウエル2A、ウエル2Bに注入もしくはそこから採取するに際して生ずる昇圧、降圧を緩和させるための通孔4’が、通孔3’と対にされて、上下方向に貫通形成されている。これら一対の通孔3’、4’は、ウエル2Aもしくはウエル2Bを介して連通している。
【0051】
中間支持体32の底部32aの中央部には、開口部32cが形成されており、この開口部32cには、底部32aの厚さよりもわずかに厚いパッキン部材44が嵌め込まれ、そこから突出して、ガラス基板8上に載置された基板7を上方から圧し、これをガラス基板8に押し付けている。基板7は、非常に薄いので、図11、図12においては、ガラス基板8とパッキン部材44とに挟まれた太い実線の線分として描かれている。基板7に形成される通孔3’、4’、ウエル2A、2B、流路1の形状は、これらの図においては、図示されていない。
【0052】
このパッキン部材44には、基板7に貫通形成された通孔3’、4’にそれぞれ連通する通孔3−1、4−1が、通孔3’、4’の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。通孔3’、4’は、それらの一対がウエル2A、ウエル2Bのそれぞれに形成されているから、1ユニットについて合計4個の通孔が形成されていることになり、それが6ユニット分集積されるから、総計24個の通孔(通孔3−1、4−1の群)が縦横に整列させられて形成されていることになる。通孔3−1は、図11において、紙面と直交する奥方および手前側にあり、図示されていない。
【0053】
なお、パッキン部材44に貫通形成される通孔3−1、4−1は、必ずしも分離して別々に形成される必要はなく、通孔3−1が通孔4−1に合体させられてもよい。このようにしても、例えば、流下する溶液と上昇しようとする気体とが混じり合ってしまうことはなく、気体は、流下する溶液中を抜けて、その上の通孔4−2を通って排気されるから、ウエル内の昇圧を緩和する機能に支障は生じない。図12には、このようにされたパッキン部材44の構造が図示されている。また、そのためには、カバーブロック体33に形成される通孔3−2、4−2の下端部をわずかな長さ切除して、そこに小さな空所を形成するようにすると、昇圧・降圧緩和の機能を一層確実に保持することができる(図12中、通孔3−2、4−2直下の左右2つの小さな空白部参照)。
【0054】
カバーブロック体33が底支持体31に装着されるとき、カバーブロック体33の底部33aの下面は、パッキン部材44の上面に当接して、これを圧する。したがって、基板7は、結局、パッキン部材44を介してカバーブロック体33により押圧されて、ガラス基板8上に固定されることになる。
【0055】
カバーブロック体33の底部33aの周縁寄りの1個所には、チェンバー30内の混合液が中央凹部33cに出入りするための比較的大径の通孔33dが上下方向に貫通形成されている。また、底部33aの中央部には、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1に連通する通孔3−2、4−2が、通孔3−1、4−1の総数と同じ数だけ、上下方向に貫通形成されている。これら底部33aの中央部に形成された通孔群のうち、ウエル2A側に属する通孔4−2の6ユニット分、すなわち、ウエル2A側に属する整列させられた6個の通孔4−2は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している。
【0056】
ガイドブロック体34を図8に図示される姿勢から180度回転させて、両側のアーム部34b、34bの位置を入れ替えれば、今度は、ウエル2B側に属する整列させられた6個の通孔4−2が、ガイドブロック体34の6個の通孔34cに1対1で対応することになる。ガイドブロック体34のこのような姿勢の転換は、例えば、マイクロピペットによる細胞浮遊溶液のウエル2Aへの注入と、マイクロピペットによる走化性因子含有溶液のウエル2Bへの注入とが、引き続いて行なわれる場合に、採られることができる。
【0057】
以上の説明から明らかなとおり、基板7に貫通形成された通孔35、45、パッキン部材44に貫通形成された通孔3−1、4−1、カバーブロック体33の底部33aに貫通形成された通孔3−2、4−2は、それぞれ互いに連通し合っており、このようにして連通し合う通孔4’、4−1、4−2から形成される1本の通孔集合体の6ユニット分は、図8に図示される姿勢でカバーブロック体33に装着されたガイドブロック体34に形成された6個の通孔34cに1対1で対応して、それらの中心線を共有している(図11、図12参照)。なお、基板7に貫通形成された通孔3’、4’は、非常に微小であるので、図11、図12においては、図示されていない。通孔4−1、4−2から成る通孔の集合体は、図1における通孔4に相当している。
【0058】
したがって、今、ウエル2A、2B、流路1に細胞等張液が満たされ、ウエル2Bに走化性因子含有溶液が注入されているとし、ウエル2Aにマイクロピペットにより細胞浮遊溶液を注入しようとするとき、マイクロピペットの針の先端を使用対称となるユニットのウエル2Aに通ずる通孔34cに挿入して、これにガイドさせながら所要深さまで進入させ、そこで細胞浮遊溶液を吐出すると、吐出された細胞浮遊溶液は、次いで、通孔4−2、4−1、4’を順次流下して、ウエル2Aに到る。このとき、ウエル2A内の圧力上昇は、通孔3’、3−1、3−2を経て外部に逃がすことができ、走化性因子含有溶液に反応する細胞の走化性に対する圧力変動の影響を最小限にすることができる。
【0059】
ウエル2Bにマイクロピペットにより走化性因子含有溶液を注入しようとするときも、同じ要領にて行ない、マイクロピペットから吐出された走化性因子含有溶液を、今度は、ウエル2B側に属する通孔4−2、4−1、4’を順次流下させて、ウエル2Bに到らせることができる。
なお、通孔3−2、3−1、3’を溶液供給用通路として用い、通孔4’、4−1、4−2を圧力緩和用通路として用いることも可能である。
【0060】
ウエル2Aに供給された細胞浮遊溶液中の細胞は、ウエル2B内の走化性因子含有溶液に反応すると、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する。その状態および数を、細胞レベルで、窓31cを通して顕微鏡により観察、計測することができる。
【0061】
このようにして、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する細胞の走化性の検出、その性質を利用した細胞の分離などの作業を行なうのには、これらの領域を満たしている混合液の温度を、その細胞の活動に適した温度に管理する必要がある。また、細胞の温度変化による反応等をより正確に計測、分析したいときにも、混合液の温度管理は必要である。なお、ここで、これらの領域を満たしている混合液とは、細胞等張液と細胞浮遊溶液との混合液、細胞等張液と走化性因子含有溶液との混合液であり、両混合液の温度は、略等しい。
【0062】
上記の目的のために、本実施例においては、図15に図示されるように、2台の温度調整器62、63を用い、そのうちの1台目の温度調整器62は、温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測し、ヒータにより加熱される加熱部64を、チェンバー30をその上にセットした状態で、温度制御して、温度管理の精度を高める。また、2台目の温度調整器63は、加熱部64を事前に加熱しておき、混合液の温度が所望の温度に調節できるまでの時間を短縮できるようにする。この温度調整器63は、また、加熱部64の過熱防止の機能をも備えている。
【0063】
温度センサー35を用いて混合液の温度を直接計測するために、温度センサー35の温度測定部35bは、図12に図示されるように、台座部分35aから下方に伸びて、混合液と同等の溶液で満たされた液溜め室45内に直接沈められている。この液溜め室45内の溶液は、加熱部64による間接的な加熱を一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液と等しく受けて、その溶液の温度と等しい温度に昇温することができ、温度センサー35は、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液の温度と略等しい温度を測定することができる。液溜め室45内の溶液の液位レベルは、カバーブロック体33の中央凹部33cを満たしている混合液の液位レベルLと略同等である。
【0064】
液溜め室45は、カバーブロック体33の胴体部の外周壁の一部が上下方向に削り取られて形成された凹部が、中間支持体32の内周壁により周囲を囲まれて形成されたものである。この液溜め室45は、ウエル2A、2B、流路1およびこれらに連通する領域から隔離されて設けられるのが望ましい。このために、液溜め室45の下方部において、液溜め室45がウエル2A、2B、流路1およびこれらに連通する領域と接続する個所にパッキン(図示されず)を介装する。このようにすることにより、1台目の温度調整器62の温度測定部35bは、一対のウエル2A、2Bや流路1内に満たされた細胞を含む溶液を汚染することなく、その溶液の温度を正確に測定することができる。
【0065】
図15に図示されるブロック線図により、チェンバー内混合液の温度制御システム60について、さらに詳細に説明すると、先ず、温度調節スイッチ66がONにされ、切り替えスイッチ67の予熱側がONにされることにより、温度調整器63による調節下での加熱部64の予熱が開始される。この予熱は、加熱部64の温度をセンサ65により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。予熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。このコンピュータ61は、ノート型パソコン50に内蔵されるものである。69は、ソリッドステートリレー(SSR)である。
【0066】
加熱部64の温度が所定の予熱温度に到達し、加熱部64の上に細胞観察チェンバー30が載置されると、切り替えスイッチ67の加熱側がONになるように切り替えられ、温度調整器62による調節下での加熱部64の加熱が開始される。この加熱は、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱することを目的としており、チェンバー内混合液の温度をセンサ35により測定して、それをフィードバックしながら行なわれる。加熱温度の指定は、コンピュータ61により行なわれる。加熱部64は、前記した予熱により、所定の温度にまで上昇しているので、この加熱により、チェンバー内混合液を所定の温度にまで加熱するのは、短時間で行なわれる。
【0067】
チェンバー内混合液の温度が所定の温度に到達すると、温度調整器62は、その温度を維持するように加熱部64の加熱制御を行なう。何らかの原因、例えば、チェンバー30が加熱部64に接触していない、などにより、加熱部64の温度が異常(例えば、43°C)に上昇すると、温度調整器63がリレー68を作動させ、回路を遮断する。なお、温度調整器62も、チェンバー内混合液の温度が異常(例えば、38〜40°C)に上昇すると、リレー68を作動させ、回路を遮断するようになっている。
【0068】
コンピュータ61は、加熱部64の温度、チェンバー内混合液の温度、センサ35、65の状態等を常時モニターし、ディスプレイに表示し、また、温度調整器62、温度調整器63に加熱温度、予熱温度の指定をそれぞれ行なう。
【0069】
なお、ここで、本実施例の細胞観察チェンバー30の実際の組立の手順について、詳細に説明しておく。
先ず、底支持体31にガラス基板8を装着する。次いで、底支持体31に中間支持体32を嵌め合わせ、カム操作レバー37を回動することにより、中間支持体32を上方からOリング43を介して底支持体31に圧接させて、これに装着する。これにより、媒質の漏洩が防止されて、これらの部品組立体に容器としての機能を持たせることができる。次いで、中間支持体32の底部32aの中央部に形成された開口部32cにガイドさせながら、基板7をガラス基板8上に載置し、底面部にパッキン部材44が装着されたカバーブロック体33を中間支持体32に嵌め合わせ、カム操作レバー36を回動することにより、パッキン部材44を上方から基板7に圧接させるとともに、基板7をガラス基板8に圧接させる。同時に、カバーブロック体33は、Oリング42を介して中間支持体32に圧接されて、底支持体31に装着される。これにより、媒質の漏洩が防止され、これらの部品全体から成る組立体(細胞観察チェンバー30)にも、容器としての機能を持たせることができる。
【0070】
次に、図16および図17に図示される本実施例の細胞観察装置10の内部構造について説明する。
図16は、本実施例の細胞観察装置10のケーシング20内部の斜視図、図17は、光学的観察手段の概略構成を模式的に示した図である。
【0071】
本実施例の細胞観察装置10のケーシング20内には、前記のとおり、細胞観察チェンバー30が、ケーシング20の上面からその一部(溶液供給もしくは採取側の一部)が露出するようにして、ケーシング20の一隅寄りに収容されている。この細胞観察チェンバー30は、ケーシング20内に設置された据付け架台28の中央凹部内に沈められるようにして、そこにセットされ、必要に応じて容易に細胞観察チェンバー30を交換することを可能にしている。
【0072】
細胞観察チェンバー30の下方には、光学的観察手段70が設けられている。この光学的観察手段70は、図17に図示されるように、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズ85と、2つの反射鏡82、84と、これらの反射鏡82、84の間に配置されたハーフミラー83と、光源81と、CCDカメラ86とから成る光学系80を備えており、1点鎖線で示されるその光軸は、対物レンズ85を光が通過するわずかの部分で垂直をなすほかは、屈曲する部分を有しながらも、水平に延びている。この光学系80は、顕微鏡にCCDカメラ86を組み合わせた構造から成るものである。
【0073】
対物レンズ85は、一対のウエル2A、2Bを連通する流路1を通って移動する細胞を観察することができるように、細胞観察チェンバー30の底支持体31の底部31a中央に設けられた窓31cに近く、その直下に配置されている。
【0074】
光源81から発せられた光は、反射鏡82、ハーフミラー83、反射鏡84により順次反射されて、対物レンズ85に入り、ここを通過して、流路1にある細胞を照らす。このようにして明るく照らし出された細胞の姿は、対物レンズ85により所定の大きさに拡大されて、反射鏡84に入り、これにより反射されて、ハーフミラー83に入る。そして、ここを真っ直ぐに通過して、カメラ86により捕捉され、これにより視覚可能な像として撮像される。光源81の照度の調節は、照度調整つまみ22を操作することにより行なわれる。
【0075】
カメラ86は、取付け台87上に固定されており、この取付け台87は、後述する第2ステージ73上に、リニアガイド88に沿ってスライド可能に設置されている。そして、焦点調整ノブ24を操作することにより、該焦点調整ノブ24に連係するねじ棒89と取付け台87とのねじ結合を介して、ハーフミラー83方向にスライド可能であり、これにより、カメラ86の焦点調整が行なわれるようになっている。
【0076】
カメラ86により撮像された細胞の像は、デジタルデータ化されてパソコン50に送られ、そこに収納・記憶されるとともに、必要に応じてパソコン50のディスプレイ上に表示される。細胞の像の拡大度を変えるのには、対物レンズ85が交換される。また、パソコン50に内蔵されるズーム機能を用いて拡大・縮小することもできる。このようにして、流路1を通ってウエル2Aからウエル2Bへと移動する細胞の状態および数を、細胞レベルで観察、計測することが可能になる。
【0077】
光学的観察手段70のベース(基台)をなす、XY二次元平面上を移動可能なステージは、次のようにして構成されている。
このステージは、図17に図示されるように、第1ステージ71と第2ステージ73との2段構成から成る。第1ステージ71は、リニアガイド72に沿ってケーシング20の底板25に対してX方向にスライド可能に、底板25上に設けられている。ここで、X方向とは、カメラ86と反射鏡84とを結ぶ光軸に直交する方向である。この第1ステージ71のX方向へのスライドは、位置調整つまみ23を操作することにより、該位置調整つまみ23と一体のねじ棒29と第1ステージ71とのねじ結合を介して、行なわれる。
【0078】
また、第2ステージ73は、リニアガイド74に沿って第1ステージ71に対してY方向(X方向に直角の方向)にスライド可能に、第1ステージ71上に設けられている。この第2ステージ73のY方向へのスライドは、モータ(ステッピングモータ)75の作動により、該モータ75の回転軸と一体のねじ棒76と第2ステージ73とのねじ結合を介して、行なわれる。モータ75の制御は、パソコン50を介して行なうことができる。
【0079】
なお、照度調整つまみ22、位置調整つまみ23、焦点調整ノブ24により、照度の調整、ステージの位置調整、焦点の調整を行なっているが、それぞれの調整機能をパソコンのプログラムに内蔵し、プログラムスイッチやパソコンに付随のスイッチキーにより、これらの調整を行なうようにしてもよい。また、それぞれの動作機能は、モータなどの自動起動機器で動作されるほか、それぞれの調整部分に調整つまみを用意し、手動で調整するようにしてもよい。
【0080】
ケーシング20内には、また、チェンバー内混合液の温度制御システム60の構成要素をなす第1の温度調整器62と第2の温度調整器63、ファン90、ノイズフィルタ100、制御回路部110、各種配線接続用のコネクタ120、電源部130等が収容されている。
【0081】
これらのうち、温度制御システム60は、前記のとおり、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液(混合液)を所定の温度に調整する手段(温度調整手段)をなす。ファン90は、外気を取り入れ、ケーシング20内に満遍なく流し、排出することにより、ケーシング20内の雰囲気温度が出来るだけ均一になるようにする。制御回路部110は、コネクタ120を介してパソコン50に接続されている。
【0082】
図には示されていないが、ケーシング20内には、さらに、ケーシング20内の雰囲気を所定の温度に調整するための手段(温度調整手段)を設けてもよい。この手段は、ヒータと、雰囲気温度測定用センサと、温度調整器とを有し、パソコン50に接続されて、ケーシング20内雰囲気の加熱あるいは冷却を行ない、ケーシング20内が一様な温度の雰囲気で満たされるようにすることも可能である。このようにすることにより、さらに、チャンバー30内の混合液への外部の温度変化による影響を緩和し、所定の温度に維持することも可能になる。
【0083】
ケーシング20の下面の4隅部には、ケーシング20の傾きを調整するための傾き調整手段27が取り付けられている。この傾き調整手段27は、座付きボルトのねじ部をケーシング20の下面4隅部の各々に形成された雌ねじ部に螺合させることにより構成されているので、水準器21によりケーシング20の水平が崩れていることが発見されたとき、崩れている個所に対応する隅部に設けられている傾き調整手段27を回動操作することにより、水平を回復することができる。また、細胞の走化性に及ぼす重力の影響を観察したいときには、対応する傾き調整手段27を所定量回動操作して、ケーシング20を所定の角度に傾斜させることにより、これを実行することができる。
【0084】
ケーシング20の前面の右上部には、電源ランプ131が設けられ、電源部130の入切状態が表示されるようになっている。また、警報ランプ132と133とが設けられている。警報ランプ132は、ヒーティングシステムに異常が発生した時に点灯する。例えば、ヒートプレートの温度がサーモスタットの設定温度を超えて高温(例えば、52°C)となった時などに点灯する。また、警報ランプ133は、警報ランプ132で、例えば、さらに高温(例えば、90°C)となった時などに点灯する。
ケーシング20の底板25上には、ケーシング20の蓋板を支える支柱26が複数本、適所に立設されている。
【0085】
本実施例の細胞観察装置10は、前記のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
光学的観察手段70は、細胞観察チェンバー30の下方に、その光軸が水平に延びるようにして、ケーシング20内に収容されているので、ケーシング20の全高寸法を大きく節約することができ、細胞観察装置10を小型化し、軽量化して、移動し易いものとすることができる。また、その操作が容易となり、操作性を大きく改善することができる。
【0086】
また、光学的観察手段70は、その対物レンズ85が観察したい細胞が移動する流路1の直下の位置に来るように移動し、位置合わせをして、そこの細胞を拡大し、視覚可能な映像としてカメラ86に撮像させ、この映像により細胞の移動の状態や数を観察、計測することができるようにするので、細胞観察作業がきわめて容易になる。また、ハーフミラー83を備えているので、これを反射鏡84とカメラ86との間、反射鏡84と反射鏡82との間に配置することにより、光軸を任意の角度に変えることができ、細胞観察装置10をさらに小型化することができる。
【0087】
また、細胞観察装置10は、温度調整手段を備え、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液(混合液)やケーシング20内の雰囲気を所定の温度に調整するので、細胞の活動に適した温度において、細胞の走化性を正確に検出することができ、細胞の走化性の温度による影響を正確に計測、分析することができ、また、ケーシング20内に収容される、細胞観察装置10を構成する個々の部品の温度変化が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、これらにより、細胞観察の精度、深度を向上させることができる。
【0088】
殊に、一対のウエル2A、2Bと流路1とを満たしている溶液を所定の温度に調整する温度調整手段(温度制御システム60)は、溶液の温度を直接に測定して、これを所定の温度になるように調整しているので、細胞観察の精度を一層向上させることができる。
【0089】
さらに、ケーシング20の上面には、温度調整手段による温度制御のプログラムや細胞観察データ等を収納し、データを処理し、所望のデータをそのディスプレイ上に表示し得るパソコン50が設置可能とされているので、細胞観察装置10の操作、細胞の状態の観察、データの収納、処理、分析等、一連の細胞観察作業が格段に容易になり、机上作業も可能になる。また、パソコン50の設置スペースを節約することができ、細胞観察装置10と一体に移動させることができるので、その移動も容易になる。
【0090】
さらに、また、ケーシング20の下面には、ケーシング20の傾きを調整する傾き調整手段27が取り付けられているので、重力が細胞の走化性に及ぼす影響を一定にすることができ、また、重力が細胞の走化性に及ぼす影響を正確に計測、分析することができる。
【0091】
なお、本願の発明は、以上の実施例に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞観察チェンバーと、光学的観察手段とを備え、
前記細胞観察チェンバーは、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、前記一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って移動することができるようにされ、
前記光学的観察手段は、前記流路を通って移動する細胞を、前記細胞観察チェンバーの外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置において、
前記細胞観察チェンバーは、その溶液供給もしくは採取側が前記細胞観察装置のケーシングから一部露出するようにして、前記ケーシング内に収容され、
前記光学的観察手段は、前記細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、前記ケーシング内に収容されている
ことを特徴とする細胞観察装置。
【請求項2】
前記光学的観察手段は、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズと、複数の反射鏡と、ハーフミラーと、光源と、カメラとから成る光学系を備え、
前記対物レンズは、前記流路を通って移動する細胞を観察することができるように前記細胞観察チェンバーに設けられた窓に近く配置され、
前記光源は、前記流路を通って移動する細胞を前記光学系を通して照らし、これを前記カメラに視覚可能に撮像させる
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞観察装置。
【請求項3】
温度調整手段をさらに備え、
前記温度調整手段は、前記ケーシング内および前記ケーシング本体の雰囲気を所定の温度に調整する手段を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞観察装置。
【請求項1】
細胞観察チェンバーと、光学的観察手段とを備え、
前記細胞観察チェンバーは、その内部に一対のウエルと、これらのウエルを連通する流路とを備え、前記一対のウエルのうちの一方のウエルに貯蔵された細胞浮遊溶液中の細胞が、他方のウエルに貯蔵された走化性因子含有溶液に反応して、前記一方のウエルから前記他方のウエルに前記流路を通って移動することができるようにされ、
前記光学的観察手段は、前記流路を通って移動する細胞を、前記細胞観察チェンバーの外部から光学的に観察することができるようにされて成る細胞観察装置において、
前記細胞観察チェンバーは、その溶液供給もしくは採取側が前記細胞観察装置のケーシングから一部露出するようにして、前記ケーシング内に収容され、
前記光学的観察手段は、前記細胞観察チェンバーの下方に、その光軸が水平に延びるようにして、前記ケーシング内に収容されている
ことを特徴とする細胞観察装置。
【請求項2】
前記光学的観察手段は、XY二次元平面上を移動可能なステージ上に、対物レンズと、複数の反射鏡と、ハーフミラーと、光源と、カメラとから成る光学系を備え、
前記対物レンズは、前記流路を通って移動する細胞を観察することができるように前記細胞観察チェンバーに設けられた窓に近く配置され、
前記光源は、前記流路を通って移動する細胞を前記光学系を通して照らし、これを前記カメラに視覚可能に撮像させる
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞観察装置。
【請求項3】
温度調整手段をさらに備え、
前記温度調整手段は、前記ケーシング内および前記ケーシング本体の雰囲気を所定の温度に調整する手段を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞観察装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【国際公開番号】WO2005/054425
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515901(P2005−515901)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017299
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(391032358)平田機工株式会社 (107)
【出願人】(500201406)株式会社 エフェクター細胞研究所 (12)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/017299
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(391032358)平田機工株式会社 (107)
【出願人】(500201406)株式会社 エフェクター細胞研究所 (12)
【Fターム(参考)】
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