細胞輸送組成物およびこれらの使用
毒性をほとんどまたは全く伴わずに、そして、適切な投与経路(すなわち、肺、胃腸(GI)管)を通って標的化される場合、免疫賦活をほとんどまたは全く伴わない、膜を横切って化合物を輸送するための組成物および方法が開発されている。この組成物は、他の方法では細胞に入らない化合物の細胞内送達を媒介し得、他の方法では非効率的に細胞に入る化合物の細胞内送達を増強し得る。この方法は、脂質二重層または膜の近位面(例えば、インタクトな細胞の表面)を化合物(例えば、治療剤)およびジケトピペラジン(DKP)を含有する複合体に接触させることによって実行される。DKPおよび化合物は、互いに非共有結合しているか、または、互いに共有結合している。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、薬物送達組成物およびこれらの使用方法に関する。
【0002】
多くの治療化合物は、臨床的に有用でない。なぜならば、これらは、商業的開発には適さなくする、溶解性の逆説の餌食となるためである。これらの化合物は、水性環境を通って移動して標的細胞に到達し得るが、次いで、細胞の非極性脂質二重層を横切ることが困難であるために、細胞内標的に達し得ない。薬物投与の標準的な手段は、標的の特定の組織に対するその効率とその能力とにおいて制限される。さらに、いくつかの薬物送達剤は、炎症および毒性のような望ましくない副作用を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、毒性をほとんどまたは全く伴わない膜を横切って化合物を輸送するための方法および組成物を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
毒性をほとんどまたは全く伴わずに、そして、適切な投与経路(すなわち、肺、胃腸(GI)管)を通って標的化される場合、免疫賦活をほとんどまたは全く伴わない、膜を横切って化合物を輸送するための組成物および方法が開発されている。この組成物は、他の方法では細胞に入らない化合物の細胞内送達を媒介し得、他の方法では非効率的に細胞に入る化合物の細胞内送達を増強し得る。
【0005】
脂質二重層を横切って組成物を輸送するための方法は、脂質二重層の近位面(例えば、インタクトな細胞の表面)を化合物(例えば、治療剤)およびジケトピペラジン(DKP)を含有する複合体に接触させることによって実行される。DKPおよび化合物は、互いに非共有結合しているか、または、互いに共有結合している。DKPと複合体化しない化合物の輸送速度と比べて、DKPと複合体化する化合物を含有する組成物の、脂質二重層の近位面(例えば、細胞外膜面)から脂質二重層の遠位面(例えば、細胞内膜面または細胞の細胞質)への輸送速度は、DKPの存在に起因して、より大きい。
【0006】
(詳細な説明)
本明細書中に記載される組成物および方法は、化合物をDKPと複合体化することによって、膜を通る化合物の輸送を改善する。DKPは、標的細胞および標的組織への効率的な送達によって分子の治療能率を改善し、従って、低用量での処置を可能にする。必要に応じて、DKPは、合成または天然のポリマーでコーティングされる。
【0007】
本明細書中で一般的に使用される「実質的に免疫応答がない」は、DKPの不在下と比べて、DKPの存在下で、免疫応答が50%未満増加することを意味する。好ましくは、免疫応答は、20%未満、10%未満、5%未満増加するか、または全く増加しない。免疫応答は、抗体産生、サイトカイン分泌(例えば、インターロイキン−2)、またはT細胞のような免疫細胞の増殖を検出することによって測定される。DKPまたは複合体は、先天性の免疫(例えば、病原性関連分子パターンを認識するもの)の誘導に関与するレセプターに結合する。例えば、DKPまたは化合物−DKP複合体は、トール様レセプター2に結合しない。
【0008】
(I.組成物)
(A.化合物)
種々の異なる化合物が、標的細胞(例えば、肺の肺胞細胞)への送達のために、FDKPと複合体化され得る。これらの化合物は、ペプチドまたはタンパク質、オリゴ糖または多糖、核酸分子、およびこれらの化合物の組み合わせであり得る。送達される化合物としては、合成分子、合成低分子、または金属のような分子が挙げられる。組成物は、DKPと結合体化されるか、または複合体化される。
【0009】
輸送される化合物としては、生物学的に活性な因子が挙げられる。送達される化合物としては、大きなタンパク質、ポリペプチド、核酸、炭水化物および低分子が挙げられる。好ましくは、化合物はポリペプチドである。免疫応答を最小にするために、ポリペプチドのアミノ酸配列は、組成物が送達される哺乳動物の種のメンバーにより発現される、天然に存在するポリペプチドと同一または相同である。例えば、化合物は、インシュリンもしくはその生物学的に活性なフラグメント、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ヒト成長ホルモン(HgH)、グルカゴン様ペプチド(GPL)、またはこれらのフラグメントのようなペプチドであり得る。化合物はまた、抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、病原性感染因子、悪性細胞または病原性分子に結合する抗体)であり得る。抗体は、インタクトなモノクローナル抗体または免疫学的に活性な抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント);遺伝子操作した単鎖Fv分子;またはキメラ分子(1つの抗体(例えば、マウス起源)の結合特異性を有し、残りの部分が別の抗体(例えば、ヒト起源)である抗体)であり得る。
【0010】
化合物は、サイトカインまたはケモカインであり得る。ケモカインは、感染および炎症に応答して炎症性細胞を組織に集めるのに重要な役割を果たす、低分子のスーパーファミリーである。ケモカインは、白血球の遊走、位置付けならびに、脈管新生および白血球の脱顆粒のような他のプロセスを促進する。サイトカインは、免疫応答および炎症性応答を調節するのを補助するためのメッセンジャーとして機能する。最適以下の濃度である場合、適切な免疫応答が惹起し損なう。過剰である場合、サイトカインは、有害であり得、種々の疾患に関連し得る。治療目的に従って、ブロッキングサイトカインおよび増殖因子を添加することが、すでに認可されているかまたは臨床開発中の多数の薬物を用いる、証明された治療的アプローチである。
【0011】
サイトカインスーパーファミリーは、エリスロポエチン、トロンボポエチン、顆粒球−コロニー刺激因子(GCSF)およびインターロイキン類(IL)のような因子を含む。専門的な抗原提示細胞(APC)の機能を調節することが示されているサイトカインおよびケモカインの例としては、IL−4およびIL−13が挙げられ、これらは、クラスII MHC(主要組織適合性抗原)の発現を誘導し、マクロファージおよびB細胞を活性化し、そして、IGクラスの切り換え(B細胞の成熟の重要なプロセスであり、これは、高親和性の体液性応答の生成に不可避である)の頻度を増加させることが知られている。
【0012】
インターロイキン4は、B細胞、T細胞および多くの非リンパ系細胞(単球、上皮細胞および線維芽細胞を含む)に複数の生物学的影響を有する、T細胞および肥満細胞由来の多面的なサイトカインである。インターロイキン4はまた、マウスB細胞によるIgG1およびIgEの分泌、ならびに、ヒトB細胞によるIgG4およびIgEの分泌を誘導する。IgE、そして、おそらくIgG1およびIgG4のIL4依存性の産生は、IL4誘導性のアイソタイプの切り換えに起因する。ヒトにおいて、IL4は、IL13とこの機能を共有する。
【0013】
インターロイキン13は、活性化されたT細胞により分泌され、LPS刺激単球により炎症性サイトカイン(IL1β、IL6、TNFαおよびIL8)の産生を阻害する。ヒトおよびマウスのIL13は、ヒトB細胞上のCD23発現を誘導し、抗Ig抗体または抗CD40抗体と組み合わせてB細胞の増殖を促進し、IgM、IgEおよびIgG4の分泌を刺激する。IL13はまた、ヒトの単球の生存を延長し、MHCクラスIIおよびCD23の表面発現を増加させることが示されている。ヒトおよびマウスのIL13は、マウスB細胞における活性は知られていない。
【0014】
クラスII MHCは、CD4+ T細胞(B細胞に支持を提供する(高親和性の免疫グロブリンを分泌する)ことに加え、エフェクター細胞として機能する)およびCD8+ T細胞(細胞傷害性Tリンパ球−CTL)に対する、抗原由来ペプチドの提示に重要である。
【0015】
(b.ジケトピペラジン)
ジケトピペラジン(DKP)は、会合した分子(例えば、薬物、治療剤またはワクチン)の細胞内および組織を横切る送達を促進する、細胞輸送体として機能する。
【0016】
FDKP微粒子は、不溶性であり、かつ、1つのpHで安定であり、別のpHでは不安定かつ/または溶解性になる、自己集合複合体である。FDKP微粒子は、一般に、直径2ミクロンである。好ましい実施形態において、DKPは、中性または生理学的なpHにおいて可溶性である。FDKP微粒子およびFDKP微粒子を作製する方法は、米国特許第5,352,461号;同第5,503,852号;および同第6,071,497号(本明細書中に参考として援用される)に記載される。米国特許第5,877,174号;同第6,153,613号;同第5,693,338号、同第5,976,569号;同第6,331,318号;および同第6,395,774号は、置換および誘導体化DKPを記載し、これらは、本明細書中に参考として援用される。FDKP(3,6−ビス[N−フマル酸−N−(n−ブチル)アミノ]―2,5−DKP、CAS登録番号176738−91−3)は、以下の構造を有する:
【0017】
【化1】
FDKP微粒子は、溶液中へのDKP液滴の沈殿により形成される。治療剤(例えば、インシュリン)のような組成物は、フマル酸DKPと共に酸性溶液中で沈殿させることによって、安定な複合体に処方された。個体への投与に際して、DKP微粒子は迅速に溶解し、DKP微粒子の周りに沈殿した天然または合成のポリマーによって形成される、回旋状の高表面領域マトリクスを放出する。試験される因子を用いてDKPを沈殿させることによって、マトリクス内の濃い濃度の因子が達成される。
【0018】
DKPは、左右対称に官能化されており、2つの側鎖は、同一である。あるいは、DKPは、非対称に官能化され得る。左右対称に官能化されたDKPおよび非対称に官能化されたDKPの両方が、酸性基、塩基性基またはこれらの組み合わせを含む側鎖を有し得る。
【0019】
2つの側鎖の各々に0、1および2の保護基を有するDKPは、溶媒および溶液のpHに依存して異なる溶解性を有し、沈殿により溶液から単離される。従って、1つの保護された側鎖を有するDKPを選択的に脱保護し、沈殿させて、非左右対称に置換されたDKPが得られる。その単保護化DKP誘導体自体は、酸性媒体中で可溶性であり、弱アルカリ性溶液中で不溶性である傾向がある。
【0020】
TECHNOSPHERE(登録商標)は、MannKind Corporation(以前は、Pharmaceutical Discovery Corporationとして知られていた)により開発された、DKPからなる微粒子に与えられた名称である。頻繁な肺投与を含む、複数の臨床治験において、TECHNOSPHERE(登録商標)は、I型およびII型の糖尿病患者におけるインシュリンの送達について、所望の安全プロフィールを示した。
【0021】
FKDP微粒子(TECHNOSPHERE(登録商標))は、不活性であり(図1a〜2bを参照のこと)、実質的に副作用を伴わずに、細胞内取り込みを増強する。
【0022】
FDKP粒子は、種々の分子(低分子、有機分子、生体高分子(例えば、タンパク質およびペプチド)、および核酸を含む)の、生物学的活性を保持したままでの細胞への取り込みを促進する。小さなタンパク質(例えば、インシュリン、約5〜6kDa)および大きなタンパク質(例えば、トリアルブミン;45kDa)の両方が、細胞内に効率的に輸送される。
【0023】
(c.微粒子のサイズと重量)
深部の肺組織への優先的な送達を達成するために、組成物/DKP複合体のサイズは、直径20ミクロン未満であり、好ましくは、直径10ミクロン未満であり、そして、より好ましくは、直径5ミクロン未満である。5ミクロンより大きい粒子は通常、大きすぎて、肺の深部組織(肺胞)にアクセスできない。肺胞送達のためには、例えば、サイズは直径2.5ミクロン未満であり、例えば、複合体の直径は、1.5ミクロン〜2.5ミクロンの範囲である。
【0024】
複合体のサイズ/構造は、細胞膜を横切る効率的な輸送に有利に働き、免疫賦活を最小限にする。この組成物の分子量は、200kDa未満(例えば、より好ましくは、100kDa未満)である。好ましくは、分子量は50kDa未満である。より好ましくは、組成物の分子量は、20kDa未満または10kDa未満(例えば、3〜6kDaの範囲)である。例えば、ヒトインシュリン(5〜6kDaの間の分子量)は、実質的に免疫賦活を伴わずに、効率的に送達される。
【0025】
(d.投薬量)
送達される組成物の用量は、高いゾーン耐性および/またはクローンアネルギーに有利に働き、それによって、投与される組成物に対して免疫非反応性を確実にする。例えば、組成物の用量は、単回投与あたり、0.5mg〜100mgの範囲である。好ましくは、吸入されるインシュリンの用量は、ヒトへの投与について、単回投与あたり500μg〜100μgの範囲(代表的には、単回投与あたり1mg〜4mgの範囲、または、1日あたり4mg〜16mgの範囲)である。
【0026】
(e.DKP上のコーティング)
DKP微粒子は、天然および/または合成のポリマー(最も好ましくは、生分解性ポリマー)のような材料でコーティングされ得る。代表的な天然ポリマーとしては、タンパク質(例えば、アルブミン(好ましくは、ヒトアルブミン)、フィブリン、ゼラチンおよびコラーゲン)および多糖(例えば、アリギネート、セルロース、デキストランおよびキトサン)が挙げられる。代表的な合成ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、これらのコポリマー(例えば、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA))、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシアルカノエート、ならびに、好ましくはないが、非生分解性のポリマー(例えば、ポリアクリル酸、ポリスチレンおよびポリエチレンビニルアセテート)が挙げられる。
【0027】
(II.組成物の作製方法)
FDKP微粒子は、好ましくは、以下の工程によってカプセル化される所望の化合物の存在下で形成される:
(1)1つ以上の酸性基を含むDKP誘導体の弱アルカリ性溶液の酸性化、
(2)1つ以上の塩基性基を含むDKP誘導体の弱酸性溶液の塩基性化、または
(3)酸性基と塩基性基との両方を含むDKP誘導体の酸性または塩基性溶液の中性化。
【0028】
必要に応じて、DKP微粒子は、天然または合成のポリマーのマトリクス内でDKP粒子を沈殿させることによって、ポリマーでコーティングされ得る。
【0029】
DKPの側鎖の改変、種々の反応物質の濃度、処方のために用いられる条件、および、形成に用いられるプロセスが、得られる微粒子のサイズを制御し得る。
【0030】
(III.組成物の使用)
標的細胞への輸送と、その後の、化合物会合DKP調製物の投与の加速および拡大は、治療適用を改善するためのこの方法の使用についての一例である。
【0031】
微粒子または懸濁物(pH7.4にて、リン酸緩衝化生理食塩水中で作製された)としてのDKP複合体調製物が、標的細胞(例えば、深部肺組織)に投与される。DKP−化合物複合体は、免疫応答を最小限にする計画および用量を用いて、粘膜表面(肺、鼻、膣、直腸または口)に投与される。適切な濃度および免疫計画は、標準的な技術を用いて決定され、各化合物について最適化される。治療組成物(例えば、インシュリン)は、mg用量範囲で投与される(そして、それによって、高いゾーン耐性の発生による免疫賦活を避ける)。
【0032】
ヒトまたは他の哺乳動物内の特定部位へと組成物を送達する方法は、化合物およびDKPを含む複合体に細胞または組織を接触させることによって実施される。好ましい実施形態において、組成物は、肺の小気道(例えば、肺胞)へと送達される。必要に応じて、組成物は、経口投与されるが、代表的には、皮下または皮内、静脈内、腹腔内、または筋肉内に投与される。1つの実施形態において、組成物は吸入により投与される。
【0033】
この方法は、好ましくは、所定の時間内に、複数の接触工程を包含する。例えば、接触工程間の間隔は、24時間未満であり得る。複合体は、1日に数回送達され得る。従って、接触工程間の時間は、12時間未満、6時間未満または3時間未満であり得る。複数の接触工程の後、組織内の免疫細胞は、その後の組成物との接触に非反応性である。
【0034】
計画に関して、免疫細胞は、最初の刺激に応答した後、強力な抗原特異的免疫応答を達成するための第2の刺激を受け取る前に、数日〜数週間または数ヶ月の休息期間を必要とする。インシュリンが吸入される場合、組成物は、代表的には、1日に3〜4回患者に投与される。この計画は、刺激間の間隔が非常に短いことによって特徴付けられ、従って、免疫細胞を、その後のシグナルに対して静止状態でありかつ受容性にする。この計画は、耐性、アネルギーまたは、抗原特異的免疫細胞のアポトーシスを引き起こすべきであり、正の免疫応答を生じない。
【0035】
(コーティングされたDKP微粒子の投与)
1つの実施形態において、コーティングされたジケトピペラジンが投与され、その結果、組成物が患者に投与された後に、貯蔵物(depot)を形成する。中性pHへの暴露の際のジケトピペラジンの溶解の後に、抗原が放出され、残りのコーティングは、抗原の高い局所濃度を含む、多面迷宮様構造(multi−faceted labyrinth−like structure)である。抗原は、末梢の免疫細胞を貯蔵物に引き付け、これにより、エフェクター細胞、サイトカインおよびケモカインの高濃度を生じる。貯蔵物は、種々の免疫応答を開始するか、または、抗原に対する免疫応答を調節するための必須の成分を提供する。
【0036】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して、さらに理解される。
【実施例】
【0037】
(実施例1:フマル酸DKPは、先天性免疫を刺激しない)
DKPがその化学組成または病原性配列(例えば、殺傷型M.tuberculosis)の模倣の可能性に起因する免疫賦活特性を保有するという可能性を排除するために、ナイーブBalb/cマウス由来の脾細胞を、微粒子として処方された「ブランク」のフマル酸DKP(FDKP)の3つのバッチと共にインキュベートし、種々の濃度において、OVAと会合したFDKP(「TCNSP*OVA」)と比較した。このアッセイは、これらの細胞の励起および増殖を生じる、微量の夾雑物または分裂促進因子に対する静止期のT細胞の高い感受性により選択した。脾細胞の増殖性応答を、3H−チミジン取り込みアッセイにより測定した。種々のバッチからのFDKPのブランク微粒子は、コントロール(培地のみ)に匹敵する増殖を誘導した。これらのデータは、FDKPが免疫賦活性でないことを示した。
【0038】
培養物から分泌されるサイトカイン(IFNγ、TNF−α、IL−4、IL−5およびIL−2)の分析をまた実施した。このアッセイを、5日間培養したナイーブマウスの脾臓細胞を用いてFDKPミクロスフェアの分裂促進性を試験するための二次的な確認アッセイとして使用した。図1aは、フマル酸DKP(FDKP)−ミクロスフェア(TECHNOSPHERE(登録商標))に対するナイーブ脾臓細胞の分裂促進的な応答を示す線グラフである。ナイーブマウスから回収した脾細胞のプールを用いて、分裂促進的アッセイを実施した。ナイーブ細胞を96ウェルu底組織培養処理プレート中、5×105細胞/ウェルにて播種した。細胞を、100μg/mlの種々のバッチのTECHNOSPHERE(登録商標)(臨床グレードのブランクTECHNOSPHERE(登録商標)バッチ、TWEEN(登録商標)を含まない臨床グレードのバッチおよび2つの粗製バッチを含む)と共にインキュベートした。TWEEN(登録商標)80(100%)をまた試験に含めた。全てのサンプルを、0.7μg/ml TECHNOSPHERE(登録商標)または0.7% TWEEN(登録商標)80の濃度に対して、2×で7回滴定した。分裂促進性のバックグラウンドレベルを評価するために、細胞を培地のみとインキュベートした。刺激の最大レベルを決定するために、細胞をコンカナバリンA(ConA)と共にインキュベートした。細胞を、37℃、5% CO2にて、72時間インキュベートした。この培養物を100μCi/mlの3H−チミジンでパルスし、さらに16時間インキュベートした。培地コントロールと比較して、アッセイについて記録された3H−チミジン取り込みの値から、取り込み率を算出した。
【0039】
BD Biosciences Pharmingen Cytometric Bead Array(CBA) Kit for Mouse Th1/Th2 Cytokine Analysisを用いて、サイトカイン分析を行った。100μg/mlのTECHNOSPHERE(登録商標)結合Ova(バッチ番号202.24.1、202.33.1および202.040)の存在下、およびブランクのTECHNOSPHERE(登録商標)(バッチ番号D−035U.02.002)の存在下でインキュベートした細胞から上清を回収した。IFN−γ、TNF−α、IL−5、IL−4およびIL−2のレベルを、各サイトカインの標準曲線を用いて定量した。
【0040】
図1bに示すように、高いレベルのγIFN、TNF−αおよびIL−2が、オボアルブミン(ポジティブコントロール)と共にインキュベートした培養物について示されたが、種々のバッチのFDKPミクロスフェアについては、わずかなレベルの任意のサイトカインを記録した。
【0041】
さらに、FDKPは、5日間の培養でヒト末梢血リンパ球(huPBL)を刺激し得る分裂促進因子を結合することを示した(図2a)。リンパ球プレップから単離したPBMCを用いて、分裂促進アッセイを実施した。ナイーブ細胞を、96ウェルu底組織培養処理プレートに5×105細胞/ウェルにて播種した。この細胞を、100μg/mlおよび、連続2倍段階希釈の破傷風トキソイドまたはいくつかのブランクのTECHNOSPHERE(登録商標)バッチ(TWEENを含まない臨床グレードのバッチおよびいくつかの粗製(TWEENなし)バッチを含む)と共にインキュベートした。分裂促進性のバックグラウンドレベルを評価するために、細胞を培地のみとインキュベートした。刺激の最大レベルを決定するために、細胞をフィトヘマグルチニン(PHA)と共にインキュベートした。細胞を、37℃、5% CO2にて、72時間インキュベートした。この培養物を100μCi/mlの3H−チミジンでパルスし、さらに16時間インキュベートした。培地と比較して、アッセイについて記録された3H−チミジン取り込みの値から、分裂促進率を算出した。
【0042】
種々のバッチの処方されたブランク(すなわち、負荷なし)のFDKP TECHNOSPHERE(登録商標)(D035U.02.002、D035U.02.002またはTWEENを含まない)または粗製の処方されていないFDKP TECHNOSPHERE(登録商標)(001.E.02−011および001.E.02−012)は、huPBLを刺激して、培地コントロールのベースラインを超えて増殖しなかった。強力な想起(recall)抗原である破傷風トキソイドを、抗原特異的な増殖応答を示すポジティブコントロールとして使用した(図2aを参照のこと)。
【0043】
これらの培養物により分泌されるサイトカインの分析を、HuPBLを用いてFDKPミクロスフェアの分裂促進性を試験するための二次確認アッセイとして使用した。高いレベルのγIFN、TNF−α、およびIL−2が、破傷風トキソイド(ポジティブコントロール)と共にインキュベートした培養物について示されたが、種々のバッチのFDKPミクロスフェアについては、わずかなレベルの任意のサイトカインを記録した(図2bを参照のこと)。従って、FDKPは、先天性の免疫応答を刺激し損ない、これは、その作用機構が、伝統的な細菌アジュバント、またはトール様レセプター(例えば、TLR−2、TLR−3、TLR−4、TLR−5またはTLR−9)に結合し得るDNAの切れ端とは異なることを示した。
【0044】
免疫原性を評価するための実験をまた、インビボで実施した。インシュリンDKP−ミクロスフェアを、吸入治療によりヒト被験体に投与した。FDKP(2ミクロンのメジアン直径を有する粒子および、1〜5ミクロンの範囲の直径を有する粒子)と共に処方された12U、24Uまたは48Uのインシュリン用量(それぞれ450μg、900μgおよび1.8mgのインシュリンに対応)を、処置の間に、一週間間隔で6回投与した。処置の前後に、血清サンプルを被験体から得た(6回の吸入の後)。図11は、吸入治療によりインシュリン/FDKP−ミクロスフェア複合体が投与される前(「ベースライン」)および後(「終点」)の、ヒト被験体における、インシュリン特異的IgG抗体力価を示す棒グラフである。図11に示すように、インシュリン−FDKP−ミクロスフェア複合体の肺投与は、処置された患者の血清においてインシュリン特異的抗体の増加をもたらさなかった。
【0045】
(実施例2:輸送反応速度論)
輸送化合物としてオボアルブミン(OVA)を用いて、取り込み実験を行った。
【0046】
一つの実験において、肺細胞を、種々のインキュベーション時間にて輸送化合物と共にインキュベートした。図3aおよび3bに示すように、37℃において、OVAについて約50%の輸送が、最初の10分で達成され、30分以内に完全飽和(100%)が生じた。これらのデータは、細胞による化合物の取り込みが、本発明のFDKPによって増加することを示す。
【0047】
図4は、37℃、4℃および0℃にてOVA−FITC−スクシニルまたはOVA−FITC−FDKP(OVA*TECH−FITC)の20μg/mlと共に30分間インキュベートした後の、A459ヒト肺細胞へのOVA−FITCの輸送を示す、棒グラフである。細胞を、OVAまたはOVA−FDKP−ミクロスフェア複合体またはOVA−スクシニルFDKP−ミクロスフェア複合体と、30分間接触させ、その後、(細胞内への化合物の輸送の指標として)蛍光を測定した。両方の複合体が、FDKPを伴わないOVA−FITCについての輸送と比べて、全ての温度について大いに改善された輸送を有した。OVA−FITC−FDKPは、輸送において最大の改善を有した。
【0048】
インシュリンの肺細胞への輸送をまた評価した(図10を参照のこと)。図10は、インシュリンは肺細胞へと輸送されなかったが、インシュリン/FDKP複合体は肺細胞に輸送されたことを示す棒グラフである。このデータは、30〜60分で有意な細胞内取り込みを示し、DKP−ミクロスフェアの非存在下におけるインシュリンと比較して、DKP−ミクロスフェアと結合した場合、インシュリンの取り込みを28〜40倍増加したことを示す。
【0049】
(実施例3:脾臓細胞における輸送増強)
未培養の初代細胞を用いて、化合物の標的細胞への輸送速度を研究した。単離されたマウス脾臓細胞を用いて、化合物の輸送速度との時間経過比較を行った。BALB/Cマウスから脾臓を摘出し、細胞懸濁物を調製した。単離された細胞を、4×106細胞/mlの密度にて、完全培地(RPMI 1640+10% FBS、1×Pen/Strep)中でインキュベートした。オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPを20μg/mlの濃度で添加し、細胞を37℃にて所定の時間インキュベートした。8容量のPBSを各インキュベーション期間の終わりに添加し、そして、全ての時点が終わるまで、細胞を氷上に置いた。細胞を遠心分離し、再懸濁して、FACSによりFITC取り込みについて分析した。
【0050】
図5は、37℃における、培養していない脾臓細胞での、試験化合物、オボアルブミンのFDKP−ミクロスフェア促進性輸送を示す棒グラフである。脾細胞によるオボアルブミンの取り込みの増強は、TECHNOSPHEREの存在下で10分以内に立証され、このことは、これまでに試験した細胞型における膜浸透の迅速かつ普遍的な増強を示した(図5を参照のこと)。OVA−FITS/FDKPとの60分間のインキュベーションの後、別の細胞集団の存在が明らかとなった。細胞の生存度は、悪影響を及ぼされていなかった。
【0051】
(実施例4:血清含有培地における輸送)
オボアルブミン−FITCの輸送を、血清の存在下、インビボ臨床適用に関連する条件下で測定した。K562細胞を、培地単独または10% FBSを含む培地中で、4×106細胞/mLの細胞密度にて、オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPのいずれかと共に、インキュベートした(30分間、37℃、20μg/mL)。洗浄後、細胞を、FITC取り込みについてFACSにて分析した。分析前に、細胞をVIAPROBE(細胞生存性染色)を用いて染色した。
【0052】
図6は、完全培地の存在下におけるA459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。細胞内オボアルブミン含量の5倍以上の増強が、37℃にて30分後に、血清の存在下で示された(図6を参照のこと)。
【0053】
(実施例5:広範囲のpHにわたる輸送の増強)
K562細胞を、pH3、4、5、7.4または9に調整したBD細胞染色溶液(BD Pharmingen)中で、4×106細胞/mLの細胞密度にて、オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPのいずれかと共にインキュベートした(30分間、37℃、20μg/mL)。洗浄後、細胞をVIAPROBE(BD Pharmingen)を用いて氷上で5分間染色し、生存細胞のFITC含量をFACS分析により決定した。
【0054】
TECHNOSPHEREによる輸送増強を、pH4および5を除く研究された全てのpHにおいて検出した(図9を参照のこと)。図9に示すように、増強は、pH9において特に有意であった(5倍近い増加)。これらのデータは、FDKP−ミクロスフェアが、広範囲のpHにより特徴付けられる身体の種々の領域(アルカリ条件により特徴付けられる領域(例えば、腸管組織)を含む)における、細胞膜を横切る会合した化合物の増大した輸送に特に効果的であることを示す。
【0055】
(実施例6:輸送の増強に対する架橋剤の効果)
DKPミクロスフェアが増強する輸送が、クラスリンで覆われた窩(これは、レセプター媒介性のエンドサイトーシスに関与し、特定の毒素、レクチン、ウイルス、血清輸送タンパク質、抗体、ホルモンおよび成長因子の細胞取り込みを担うことが述べられている)を介する、レセプター媒介性のエンドサイトーシスによって生じないことを確認するための研究を行った。これらの窩の形成は、高浸透性のスクロース溶液の存在下で阻害される。膜のチオール基の架橋は、エンドサイトーシスを防止する別の手段である。なぜならば、チオール基は、多数の分子(水、尿素およびアミノ酸を含む)の膜輸送において重要な役割を果たすためである。チオールの酸化還元状態はまた、膜障壁機能を維持する上で重要である。フェニラジンオキシドを用いて架橋した膜のチオール基を使用して、TECHNOSPHEREがエンドサイトーシスに依存するかどうかを決定した。
【0056】
K562細胞を、血清を含まないRPMI培地中、80μMフェニラジンオキシド(SIGMA)で前処理した(5分間、37℃)。細胞をPBSで2回洗浄し、その後、10%血清含有培地中で、オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPのいずれかと共に細胞をインキュベートした(30分間、37℃、以前の輸送研究について示した細胞および標識の条件にて)。高浸透性のスクロース溶液の効果について、0.5Mスクロースを含有する培地の存在下でインキュベーションを行った。細胞を洗浄し、FACSで分析した。処理後の細胞の生存度を、以前に示したように、VIAPROBEを用いて評価し、分析は、生存細胞のみを反映する。
【0057】
図7は、フェニラジンオキシドの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。図8は、スクロースの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。両方の処理に関して、TECHNOSPHERE媒介性の輸送の増強が、完全培地のみで見られる増強と比べて減少した。しかしながら、増強は依然として観察され、このことは、これらの処理による膜へのかなりの変更にも関わらず、TECHNOSPHEREの輸送増強機構が、依然として有効であることを示した(図7および8)。
【0058】
(実施例7:薬物送達を促進するための輸送体としてのDKPアナログ)
DKPのスクシニルアナログを、化合物の細胞内輸送の促進因子として評価した。DKPのスクシニルアナログをOVAと会合させ、ヒト肺細胞をこの複合体に接触させた。図4は、スクシニルDKPと会合したOVAおよびフマル酸DKPの、OVA単独と比べて増強された輸送を示す。
【0059】
(実施例8:DKP複合体の組織標的化送達は、免疫応答を刺激しない)
組成物の用量、投与計画、組成物の大きさ/構造および投与部位を、免疫系の最小限の刺激を伴うか、または刺激を伴わずに、細胞への効果的な薬物送達を達成するために、最適化した。例えば、深部肺への堆積を達成するための、1日あたり1〜20mg/kgの用量範囲における吸入によるインシュリンの送達(小さな(例えば、2ミクロン)のインシュリン/FDKP複合体(これは、肺の肺胞に堆積する)を用いる)は、免疫応答を刺激しなかった。深部肺(肺胞)は、免疫応答を生じない環境を提供し、それによって、吸入された小さな粒子に対する有害な応答の発生を回避する。ミクロンサイズの小さな粒子は、深部の呼吸器組織(例えば、肺胞)へのアクセス、および免疫抑制条件により特徴付けられる環境を獲得し得る。対照的に、より大きい粒子(>5〜10ミクロン)は、上部の呼吸器管に堆積する。このような大きい粒子は、肺胞組織の免疫抑制条件へのアクセスを獲得せず、従って、免疫応答を刺激し得る。
【0060】
1回の処理で与えられるインシュリンの用量は、免疫応答を惹起するのに用いられるペプチドの量をはるかに上回る。免疫応答を誘導するよりはむしろ(rather then inducing an immune response)、投与される用量は、免疫の非応答性(例えば、耐性、クローンアネルギー)を誘導する。例えば、μg用量範囲(例えば、50μg)で投与されるペプチド(例えば、i.m.ワクチン)は、免疫応答を刺激するが、吸入により与えられる5mgまたは10mgのインシュリン/FDKP複合体は、免疫応答の刺激をもたらさないことが予想される。
【0061】
(実施例9:送達される化合物の大きさの影響)
送達される化合物の構造および大きさはまた、その免疫原性に影響を有する。低分子ペプチドは、あまり免疫原性でなく、一方で、より大きな異種分子または複合体分子は、より免疫原性である。試験されるヒトインシュリン組成物(5807.6ダルトンの分子量)は、肺組織に送達される場合に、免疫応答を刺激する可能性が低いことが予想される。免疫刺激をさらに最小にするために、免疫適合性組成物を用いる。例えば、インシュリンのヒト形態は、ヒトにおいて弱い免疫原性抗原である。
【0062】
24人の患者について、臨床試験を行い、免疫応答性を評価した。患者を、吸入によりインシュリン/DKP複合体(インシュリン5806の分子量、約2ミクロンの複合体の大きさ)で4回処置した。処置後に検出された抗インシュリン抗体のレベルは、IgG ELISAにより測定すると、処置前のレベルと異ならなかった(図11)。これらのデータは、本明細書中に記載される薬物送達の組成物および方法が、臨床的に明らかな免疫応答を刺激しないことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1A】図1aは、ナイーブ脾臓細胞のフマル酸DKP(FDKP)−ミクロスフェア(TECHNOSPHERE(登録商標))に対する分裂促進的応答を示す、mcg/mlまたは% 対 刺激指数の線グラフである。
【図1B】図1bは、臨床グレードのTECHNOSPHERE(登録商標)の存在下におけるナイーブ脾臓細胞のインビトロ分裂促進研究から得た上清のサイトカイン分析を示す棒である。
【図2A】図2aは、臨床グレードまたは粗製のTECHNOSPHERE(登録商標)の異なるバッチの存在下における、ヒトPBMCのインビトロ分裂促進研究を示す、棒グラフである。
【図2B】図2bは、ナイーブ脾臓細胞のTECHNOSPHERE(登録商標)バッチの存在下におけるPBMCのインビトロ分裂促進研究から得た上清のサイトカイン分析を示す棒グラフである。
【図3】図3aは、37℃にて、OVA−FITCまたはOVA−FITC−FTS FDKP(「OVA*TECH−FITC」)のいずれかの調製物 20μg/mlと共にインキュベートした後の、A459ヒト肺細胞株へのオブアルブミン(OVA)−FITC輸送の動力学を示す、時間(分)対 平均蛍光強度(MFI)(単位)の棒グラフである。図3bは、37℃にて、OVA−FITCまたはOVA−FITC−FDKP(「OVA*TECH−FITC」)のいずれかの調製物 20μg/mlと共にインキュベートした後の、A459細胞へのOVA−FITCの輸送増加(%で表す)を示す、時間(分)対 MFIの棒グラフである。
【図4】図4は、37℃、4℃および0℃にてOVA−FITC−スクシニルまたはOVA−FITC−FDKP(OVA*TECH−FITC)のいずれか 20μg/mlと共に30分間インキュベートした後の、A459ヒト肺細胞へのFDKPミクロスフェアによるオブアルブミンの輸送の増加を示す、インキュベーション温度(℃)対 MFI(単位)の棒グラフである。
【図5】図5は、37℃における、培養していない脾臓細胞での、オボアルブミンのFDKP−ミクロスフェア促進性輸送を示す、時間(分)対 MFI(単位)の棒グラフである。
【図6】図6は、完全培地の存在下におけるA459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。
【図7】図7は、フェニラジンオキシドの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。
【図8】図8は、スクロースの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。
【図9】図9は、37℃および種々のpH条件(3、4、5、7.4および9)にて、OVA−FITCまたはOVA−FITC−FDKP(「OVA*TECH−FITC」)のいずれかの調製物 20μg/mlと共にインキュベートした後の、K562細胞へのFITC−OVAの輸送を示す棒グラフである。
【図10】図10は、37℃における、A459肺細胞への、インシュリンの輸送とインシュリン/FDKPの輸送とを比較した、時間(分)対 MFI(単位)の線グラフである。
【図11】図11は、吸入治療によりインシュリン/FDKP−ミクロスフェア複合体が投与される前(「ベースライン」)および後(「終点」)の、ヒト被験体における、インシュリン特異的IgG抗体力価を示す棒グラフである。
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、薬物送達組成物およびこれらの使用方法に関する。
【0002】
多くの治療化合物は、臨床的に有用でない。なぜならば、これらは、商業的開発には適さなくする、溶解性の逆説の餌食となるためである。これらの化合物は、水性環境を通って移動して標的細胞に到達し得るが、次いで、細胞の非極性脂質二重層を横切ることが困難であるために、細胞内標的に達し得ない。薬物投与の標準的な手段は、標的の特定の組織に対するその効率とその能力とにおいて制限される。さらに、いくつかの薬物送達剤は、炎症および毒性のような望ましくない副作用を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、毒性をほとんどまたは全く伴わない膜を横切って化合物を輸送するための方法および組成物を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
毒性をほとんどまたは全く伴わずに、そして、適切な投与経路(すなわち、肺、胃腸(GI)管)を通って標的化される場合、免疫賦活をほとんどまたは全く伴わない、膜を横切って化合物を輸送するための組成物および方法が開発されている。この組成物は、他の方法では細胞に入らない化合物の細胞内送達を媒介し得、他の方法では非効率的に細胞に入る化合物の細胞内送達を増強し得る。
【0005】
脂質二重層を横切って組成物を輸送するための方法は、脂質二重層の近位面(例えば、インタクトな細胞の表面)を化合物(例えば、治療剤)およびジケトピペラジン(DKP)を含有する複合体に接触させることによって実行される。DKPおよび化合物は、互いに非共有結合しているか、または、互いに共有結合している。DKPと複合体化しない化合物の輸送速度と比べて、DKPと複合体化する化合物を含有する組成物の、脂質二重層の近位面(例えば、細胞外膜面)から脂質二重層の遠位面(例えば、細胞内膜面または細胞の細胞質)への輸送速度は、DKPの存在に起因して、より大きい。
【0006】
(詳細な説明)
本明細書中に記載される組成物および方法は、化合物をDKPと複合体化することによって、膜を通る化合物の輸送を改善する。DKPは、標的細胞および標的組織への効率的な送達によって分子の治療能率を改善し、従って、低用量での処置を可能にする。必要に応じて、DKPは、合成または天然のポリマーでコーティングされる。
【0007】
本明細書中で一般的に使用される「実質的に免疫応答がない」は、DKPの不在下と比べて、DKPの存在下で、免疫応答が50%未満増加することを意味する。好ましくは、免疫応答は、20%未満、10%未満、5%未満増加するか、または全く増加しない。免疫応答は、抗体産生、サイトカイン分泌(例えば、インターロイキン−2)、またはT細胞のような免疫細胞の増殖を検出することによって測定される。DKPまたは複合体は、先天性の免疫(例えば、病原性関連分子パターンを認識するもの)の誘導に関与するレセプターに結合する。例えば、DKPまたは化合物−DKP複合体は、トール様レセプター2に結合しない。
【0008】
(I.組成物)
(A.化合物)
種々の異なる化合物が、標的細胞(例えば、肺の肺胞細胞)への送達のために、FDKPと複合体化され得る。これらの化合物は、ペプチドまたはタンパク質、オリゴ糖または多糖、核酸分子、およびこれらの化合物の組み合わせであり得る。送達される化合物としては、合成分子、合成低分子、または金属のような分子が挙げられる。組成物は、DKPと結合体化されるか、または複合体化される。
【0009】
輸送される化合物としては、生物学的に活性な因子が挙げられる。送達される化合物としては、大きなタンパク質、ポリペプチド、核酸、炭水化物および低分子が挙げられる。好ましくは、化合物はポリペプチドである。免疫応答を最小にするために、ポリペプチドのアミノ酸配列は、組成物が送達される哺乳動物の種のメンバーにより発現される、天然に存在するポリペプチドと同一または相同である。例えば、化合物は、インシュリンもしくはその生物学的に活性なフラグメント、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ヒト成長ホルモン(HgH)、グルカゴン様ペプチド(GPL)、またはこれらのフラグメントのようなペプチドであり得る。化合物はまた、抗体またはその抗原結合フラグメント(例えば、病原性感染因子、悪性細胞または病原性分子に結合する抗体)であり得る。抗体は、インタクトなモノクローナル抗体または免疫学的に活性な抗体フラグメント(例えば、Fabフラグメントまたは(Fab)2フラグメント);遺伝子操作した単鎖Fv分子;またはキメラ分子(1つの抗体(例えば、マウス起源)の結合特異性を有し、残りの部分が別の抗体(例えば、ヒト起源)である抗体)であり得る。
【0010】
化合物は、サイトカインまたはケモカインであり得る。ケモカインは、感染および炎症に応答して炎症性細胞を組織に集めるのに重要な役割を果たす、低分子のスーパーファミリーである。ケモカインは、白血球の遊走、位置付けならびに、脈管新生および白血球の脱顆粒のような他のプロセスを促進する。サイトカインは、免疫応答および炎症性応答を調節するのを補助するためのメッセンジャーとして機能する。最適以下の濃度である場合、適切な免疫応答が惹起し損なう。過剰である場合、サイトカインは、有害であり得、種々の疾患に関連し得る。治療目的に従って、ブロッキングサイトカインおよび増殖因子を添加することが、すでに認可されているかまたは臨床開発中の多数の薬物を用いる、証明された治療的アプローチである。
【0011】
サイトカインスーパーファミリーは、エリスロポエチン、トロンボポエチン、顆粒球−コロニー刺激因子(GCSF)およびインターロイキン類(IL)のような因子を含む。専門的な抗原提示細胞(APC)の機能を調節することが示されているサイトカインおよびケモカインの例としては、IL−4およびIL−13が挙げられ、これらは、クラスII MHC(主要組織適合性抗原)の発現を誘導し、マクロファージおよびB細胞を活性化し、そして、IGクラスの切り換え(B細胞の成熟の重要なプロセスであり、これは、高親和性の体液性応答の生成に不可避である)の頻度を増加させることが知られている。
【0012】
インターロイキン4は、B細胞、T細胞および多くの非リンパ系細胞(単球、上皮細胞および線維芽細胞を含む)に複数の生物学的影響を有する、T細胞および肥満細胞由来の多面的なサイトカインである。インターロイキン4はまた、マウスB細胞によるIgG1およびIgEの分泌、ならびに、ヒトB細胞によるIgG4およびIgEの分泌を誘導する。IgE、そして、おそらくIgG1およびIgG4のIL4依存性の産生は、IL4誘導性のアイソタイプの切り換えに起因する。ヒトにおいて、IL4は、IL13とこの機能を共有する。
【0013】
インターロイキン13は、活性化されたT細胞により分泌され、LPS刺激単球により炎症性サイトカイン(IL1β、IL6、TNFαおよびIL8)の産生を阻害する。ヒトおよびマウスのIL13は、ヒトB細胞上のCD23発現を誘導し、抗Ig抗体または抗CD40抗体と組み合わせてB細胞の増殖を促進し、IgM、IgEおよびIgG4の分泌を刺激する。IL13はまた、ヒトの単球の生存を延長し、MHCクラスIIおよびCD23の表面発現を増加させることが示されている。ヒトおよびマウスのIL13は、マウスB細胞における活性は知られていない。
【0014】
クラスII MHCは、CD4+ T細胞(B細胞に支持を提供する(高親和性の免疫グロブリンを分泌する)ことに加え、エフェクター細胞として機能する)およびCD8+ T細胞(細胞傷害性Tリンパ球−CTL)に対する、抗原由来ペプチドの提示に重要である。
【0015】
(b.ジケトピペラジン)
ジケトピペラジン(DKP)は、会合した分子(例えば、薬物、治療剤またはワクチン)の細胞内および組織を横切る送達を促進する、細胞輸送体として機能する。
【0016】
FDKP微粒子は、不溶性であり、かつ、1つのpHで安定であり、別のpHでは不安定かつ/または溶解性になる、自己集合複合体である。FDKP微粒子は、一般に、直径2ミクロンである。好ましい実施形態において、DKPは、中性または生理学的なpHにおいて可溶性である。FDKP微粒子およびFDKP微粒子を作製する方法は、米国特許第5,352,461号;同第5,503,852号;および同第6,071,497号(本明細書中に参考として援用される)に記載される。米国特許第5,877,174号;同第6,153,613号;同第5,693,338号、同第5,976,569号;同第6,331,318号;および同第6,395,774号は、置換および誘導体化DKPを記載し、これらは、本明細書中に参考として援用される。FDKP(3,6−ビス[N−フマル酸−N−(n−ブチル)アミノ]―2,5−DKP、CAS登録番号176738−91−3)は、以下の構造を有する:
【0017】
【化1】
FDKP微粒子は、溶液中へのDKP液滴の沈殿により形成される。治療剤(例えば、インシュリン)のような組成物は、フマル酸DKPと共に酸性溶液中で沈殿させることによって、安定な複合体に処方された。個体への投与に際して、DKP微粒子は迅速に溶解し、DKP微粒子の周りに沈殿した天然または合成のポリマーによって形成される、回旋状の高表面領域マトリクスを放出する。試験される因子を用いてDKPを沈殿させることによって、マトリクス内の濃い濃度の因子が達成される。
【0018】
DKPは、左右対称に官能化されており、2つの側鎖は、同一である。あるいは、DKPは、非対称に官能化され得る。左右対称に官能化されたDKPおよび非対称に官能化されたDKPの両方が、酸性基、塩基性基またはこれらの組み合わせを含む側鎖を有し得る。
【0019】
2つの側鎖の各々に0、1および2の保護基を有するDKPは、溶媒および溶液のpHに依存して異なる溶解性を有し、沈殿により溶液から単離される。従って、1つの保護された側鎖を有するDKPを選択的に脱保護し、沈殿させて、非左右対称に置換されたDKPが得られる。その単保護化DKP誘導体自体は、酸性媒体中で可溶性であり、弱アルカリ性溶液中で不溶性である傾向がある。
【0020】
TECHNOSPHERE(登録商標)は、MannKind Corporation(以前は、Pharmaceutical Discovery Corporationとして知られていた)により開発された、DKPからなる微粒子に与えられた名称である。頻繁な肺投与を含む、複数の臨床治験において、TECHNOSPHERE(登録商標)は、I型およびII型の糖尿病患者におけるインシュリンの送達について、所望の安全プロフィールを示した。
【0021】
FKDP微粒子(TECHNOSPHERE(登録商標))は、不活性であり(図1a〜2bを参照のこと)、実質的に副作用を伴わずに、細胞内取り込みを増強する。
【0022】
FDKP粒子は、種々の分子(低分子、有機分子、生体高分子(例えば、タンパク質およびペプチド)、および核酸を含む)の、生物学的活性を保持したままでの細胞への取り込みを促進する。小さなタンパク質(例えば、インシュリン、約5〜6kDa)および大きなタンパク質(例えば、トリアルブミン;45kDa)の両方が、細胞内に効率的に輸送される。
【0023】
(c.微粒子のサイズと重量)
深部の肺組織への優先的な送達を達成するために、組成物/DKP複合体のサイズは、直径20ミクロン未満であり、好ましくは、直径10ミクロン未満であり、そして、より好ましくは、直径5ミクロン未満である。5ミクロンより大きい粒子は通常、大きすぎて、肺の深部組織(肺胞)にアクセスできない。肺胞送達のためには、例えば、サイズは直径2.5ミクロン未満であり、例えば、複合体の直径は、1.5ミクロン〜2.5ミクロンの範囲である。
【0024】
複合体のサイズ/構造は、細胞膜を横切る効率的な輸送に有利に働き、免疫賦活を最小限にする。この組成物の分子量は、200kDa未満(例えば、より好ましくは、100kDa未満)である。好ましくは、分子量は50kDa未満である。より好ましくは、組成物の分子量は、20kDa未満または10kDa未満(例えば、3〜6kDaの範囲)である。例えば、ヒトインシュリン(5〜6kDaの間の分子量)は、実質的に免疫賦活を伴わずに、効率的に送達される。
【0025】
(d.投薬量)
送達される組成物の用量は、高いゾーン耐性および/またはクローンアネルギーに有利に働き、それによって、投与される組成物に対して免疫非反応性を確実にする。例えば、組成物の用量は、単回投与あたり、0.5mg〜100mgの範囲である。好ましくは、吸入されるインシュリンの用量は、ヒトへの投与について、単回投与あたり500μg〜100μgの範囲(代表的には、単回投与あたり1mg〜4mgの範囲、または、1日あたり4mg〜16mgの範囲)である。
【0026】
(e.DKP上のコーティング)
DKP微粒子は、天然および/または合成のポリマー(最も好ましくは、生分解性ポリマー)のような材料でコーティングされ得る。代表的な天然ポリマーとしては、タンパク質(例えば、アルブミン(好ましくは、ヒトアルブミン)、フィブリン、ゼラチンおよびコラーゲン)および多糖(例えば、アリギネート、セルロース、デキストランおよびキトサン)が挙げられる。代表的な合成ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、これらのコポリマー(例えば、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA))、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシアルカノエート、ならびに、好ましくはないが、非生分解性のポリマー(例えば、ポリアクリル酸、ポリスチレンおよびポリエチレンビニルアセテート)が挙げられる。
【0027】
(II.組成物の作製方法)
FDKP微粒子は、好ましくは、以下の工程によってカプセル化される所望の化合物の存在下で形成される:
(1)1つ以上の酸性基を含むDKP誘導体の弱アルカリ性溶液の酸性化、
(2)1つ以上の塩基性基を含むDKP誘導体の弱酸性溶液の塩基性化、または
(3)酸性基と塩基性基との両方を含むDKP誘導体の酸性または塩基性溶液の中性化。
【0028】
必要に応じて、DKP微粒子は、天然または合成のポリマーのマトリクス内でDKP粒子を沈殿させることによって、ポリマーでコーティングされ得る。
【0029】
DKPの側鎖の改変、種々の反応物質の濃度、処方のために用いられる条件、および、形成に用いられるプロセスが、得られる微粒子のサイズを制御し得る。
【0030】
(III.組成物の使用)
標的細胞への輸送と、その後の、化合物会合DKP調製物の投与の加速および拡大は、治療適用を改善するためのこの方法の使用についての一例である。
【0031】
微粒子または懸濁物(pH7.4にて、リン酸緩衝化生理食塩水中で作製された)としてのDKP複合体調製物が、標的細胞(例えば、深部肺組織)に投与される。DKP−化合物複合体は、免疫応答を最小限にする計画および用量を用いて、粘膜表面(肺、鼻、膣、直腸または口)に投与される。適切な濃度および免疫計画は、標準的な技術を用いて決定され、各化合物について最適化される。治療組成物(例えば、インシュリン)は、mg用量範囲で投与される(そして、それによって、高いゾーン耐性の発生による免疫賦活を避ける)。
【0032】
ヒトまたは他の哺乳動物内の特定部位へと組成物を送達する方法は、化合物およびDKPを含む複合体に細胞または組織を接触させることによって実施される。好ましい実施形態において、組成物は、肺の小気道(例えば、肺胞)へと送達される。必要に応じて、組成物は、経口投与されるが、代表的には、皮下または皮内、静脈内、腹腔内、または筋肉内に投与される。1つの実施形態において、組成物は吸入により投与される。
【0033】
この方法は、好ましくは、所定の時間内に、複数の接触工程を包含する。例えば、接触工程間の間隔は、24時間未満であり得る。複合体は、1日に数回送達され得る。従って、接触工程間の時間は、12時間未満、6時間未満または3時間未満であり得る。複数の接触工程の後、組織内の免疫細胞は、その後の組成物との接触に非反応性である。
【0034】
計画に関して、免疫細胞は、最初の刺激に応答した後、強力な抗原特異的免疫応答を達成するための第2の刺激を受け取る前に、数日〜数週間または数ヶ月の休息期間を必要とする。インシュリンが吸入される場合、組成物は、代表的には、1日に3〜4回患者に投与される。この計画は、刺激間の間隔が非常に短いことによって特徴付けられ、従って、免疫細胞を、その後のシグナルに対して静止状態でありかつ受容性にする。この計画は、耐性、アネルギーまたは、抗原特異的免疫細胞のアポトーシスを引き起こすべきであり、正の免疫応答を生じない。
【0035】
(コーティングされたDKP微粒子の投与)
1つの実施形態において、コーティングされたジケトピペラジンが投与され、その結果、組成物が患者に投与された後に、貯蔵物(depot)を形成する。中性pHへの暴露の際のジケトピペラジンの溶解の後に、抗原が放出され、残りのコーティングは、抗原の高い局所濃度を含む、多面迷宮様構造(multi−faceted labyrinth−like structure)である。抗原は、末梢の免疫細胞を貯蔵物に引き付け、これにより、エフェクター細胞、サイトカインおよびケモカインの高濃度を生じる。貯蔵物は、種々の免疫応答を開始するか、または、抗原に対する免疫応答を調節するための必須の成分を提供する。
【0036】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して、さらに理解される。
【実施例】
【0037】
(実施例1:フマル酸DKPは、先天性免疫を刺激しない)
DKPがその化学組成または病原性配列(例えば、殺傷型M.tuberculosis)の模倣の可能性に起因する免疫賦活特性を保有するという可能性を排除するために、ナイーブBalb/cマウス由来の脾細胞を、微粒子として処方された「ブランク」のフマル酸DKP(FDKP)の3つのバッチと共にインキュベートし、種々の濃度において、OVAと会合したFDKP(「TCNSP*OVA」)と比較した。このアッセイは、これらの細胞の励起および増殖を生じる、微量の夾雑物または分裂促進因子に対する静止期のT細胞の高い感受性により選択した。脾細胞の増殖性応答を、3H−チミジン取り込みアッセイにより測定した。種々のバッチからのFDKPのブランク微粒子は、コントロール(培地のみ)に匹敵する増殖を誘導した。これらのデータは、FDKPが免疫賦活性でないことを示した。
【0038】
培養物から分泌されるサイトカイン(IFNγ、TNF−α、IL−4、IL−5およびIL−2)の分析をまた実施した。このアッセイを、5日間培養したナイーブマウスの脾臓細胞を用いてFDKPミクロスフェアの分裂促進性を試験するための二次的な確認アッセイとして使用した。図1aは、フマル酸DKP(FDKP)−ミクロスフェア(TECHNOSPHERE(登録商標))に対するナイーブ脾臓細胞の分裂促進的な応答を示す線グラフである。ナイーブマウスから回収した脾細胞のプールを用いて、分裂促進的アッセイを実施した。ナイーブ細胞を96ウェルu底組織培養処理プレート中、5×105細胞/ウェルにて播種した。細胞を、100μg/mlの種々のバッチのTECHNOSPHERE(登録商標)(臨床グレードのブランクTECHNOSPHERE(登録商標)バッチ、TWEEN(登録商標)を含まない臨床グレードのバッチおよび2つの粗製バッチを含む)と共にインキュベートした。TWEEN(登録商標)80(100%)をまた試験に含めた。全てのサンプルを、0.7μg/ml TECHNOSPHERE(登録商標)または0.7% TWEEN(登録商標)80の濃度に対して、2×で7回滴定した。分裂促進性のバックグラウンドレベルを評価するために、細胞を培地のみとインキュベートした。刺激の最大レベルを決定するために、細胞をコンカナバリンA(ConA)と共にインキュベートした。細胞を、37℃、5% CO2にて、72時間インキュベートした。この培養物を100μCi/mlの3H−チミジンでパルスし、さらに16時間インキュベートした。培地コントロールと比較して、アッセイについて記録された3H−チミジン取り込みの値から、取り込み率を算出した。
【0039】
BD Biosciences Pharmingen Cytometric Bead Array(CBA) Kit for Mouse Th1/Th2 Cytokine Analysisを用いて、サイトカイン分析を行った。100μg/mlのTECHNOSPHERE(登録商標)結合Ova(バッチ番号202.24.1、202.33.1および202.040)の存在下、およびブランクのTECHNOSPHERE(登録商標)(バッチ番号D−035U.02.002)の存在下でインキュベートした細胞から上清を回収した。IFN−γ、TNF−α、IL−5、IL−4およびIL−2のレベルを、各サイトカインの標準曲線を用いて定量した。
【0040】
図1bに示すように、高いレベルのγIFN、TNF−αおよびIL−2が、オボアルブミン(ポジティブコントロール)と共にインキュベートした培養物について示されたが、種々のバッチのFDKPミクロスフェアについては、わずかなレベルの任意のサイトカインを記録した。
【0041】
さらに、FDKPは、5日間の培養でヒト末梢血リンパ球(huPBL)を刺激し得る分裂促進因子を結合することを示した(図2a)。リンパ球プレップから単離したPBMCを用いて、分裂促進アッセイを実施した。ナイーブ細胞を、96ウェルu底組織培養処理プレートに5×105細胞/ウェルにて播種した。この細胞を、100μg/mlおよび、連続2倍段階希釈の破傷風トキソイドまたはいくつかのブランクのTECHNOSPHERE(登録商標)バッチ(TWEENを含まない臨床グレードのバッチおよびいくつかの粗製(TWEENなし)バッチを含む)と共にインキュベートした。分裂促進性のバックグラウンドレベルを評価するために、細胞を培地のみとインキュベートした。刺激の最大レベルを決定するために、細胞をフィトヘマグルチニン(PHA)と共にインキュベートした。細胞を、37℃、5% CO2にて、72時間インキュベートした。この培養物を100μCi/mlの3H−チミジンでパルスし、さらに16時間インキュベートした。培地と比較して、アッセイについて記録された3H−チミジン取り込みの値から、分裂促進率を算出した。
【0042】
種々のバッチの処方されたブランク(すなわち、負荷なし)のFDKP TECHNOSPHERE(登録商標)(D035U.02.002、D035U.02.002またはTWEENを含まない)または粗製の処方されていないFDKP TECHNOSPHERE(登録商標)(001.E.02−011および001.E.02−012)は、huPBLを刺激して、培地コントロールのベースラインを超えて増殖しなかった。強力な想起(recall)抗原である破傷風トキソイドを、抗原特異的な増殖応答を示すポジティブコントロールとして使用した(図2aを参照のこと)。
【0043】
これらの培養物により分泌されるサイトカインの分析を、HuPBLを用いてFDKPミクロスフェアの分裂促進性を試験するための二次確認アッセイとして使用した。高いレベルのγIFN、TNF−α、およびIL−2が、破傷風トキソイド(ポジティブコントロール)と共にインキュベートした培養物について示されたが、種々のバッチのFDKPミクロスフェアについては、わずかなレベルの任意のサイトカインを記録した(図2bを参照のこと)。従って、FDKPは、先天性の免疫応答を刺激し損ない、これは、その作用機構が、伝統的な細菌アジュバント、またはトール様レセプター(例えば、TLR−2、TLR−3、TLR−4、TLR−5またはTLR−9)に結合し得るDNAの切れ端とは異なることを示した。
【0044】
免疫原性を評価するための実験をまた、インビボで実施した。インシュリンDKP−ミクロスフェアを、吸入治療によりヒト被験体に投与した。FDKP(2ミクロンのメジアン直径を有する粒子および、1〜5ミクロンの範囲の直径を有する粒子)と共に処方された12U、24Uまたは48Uのインシュリン用量(それぞれ450μg、900μgおよび1.8mgのインシュリンに対応)を、処置の間に、一週間間隔で6回投与した。処置の前後に、血清サンプルを被験体から得た(6回の吸入の後)。図11は、吸入治療によりインシュリン/FDKP−ミクロスフェア複合体が投与される前(「ベースライン」)および後(「終点」)の、ヒト被験体における、インシュリン特異的IgG抗体力価を示す棒グラフである。図11に示すように、インシュリン−FDKP−ミクロスフェア複合体の肺投与は、処置された患者の血清においてインシュリン特異的抗体の増加をもたらさなかった。
【0045】
(実施例2:輸送反応速度論)
輸送化合物としてオボアルブミン(OVA)を用いて、取り込み実験を行った。
【0046】
一つの実験において、肺細胞を、種々のインキュベーション時間にて輸送化合物と共にインキュベートした。図3aおよび3bに示すように、37℃において、OVAについて約50%の輸送が、最初の10分で達成され、30分以内に完全飽和(100%)が生じた。これらのデータは、細胞による化合物の取り込みが、本発明のFDKPによって増加することを示す。
【0047】
図4は、37℃、4℃および0℃にてOVA−FITC−スクシニルまたはOVA−FITC−FDKP(OVA*TECH−FITC)の20μg/mlと共に30分間インキュベートした後の、A459ヒト肺細胞へのOVA−FITCの輸送を示す、棒グラフである。細胞を、OVAまたはOVA−FDKP−ミクロスフェア複合体またはOVA−スクシニルFDKP−ミクロスフェア複合体と、30分間接触させ、その後、(細胞内への化合物の輸送の指標として)蛍光を測定した。両方の複合体が、FDKPを伴わないOVA−FITCについての輸送と比べて、全ての温度について大いに改善された輸送を有した。OVA−FITC−FDKPは、輸送において最大の改善を有した。
【0048】
インシュリンの肺細胞への輸送をまた評価した(図10を参照のこと)。図10は、インシュリンは肺細胞へと輸送されなかったが、インシュリン/FDKP複合体は肺細胞に輸送されたことを示す棒グラフである。このデータは、30〜60分で有意な細胞内取り込みを示し、DKP−ミクロスフェアの非存在下におけるインシュリンと比較して、DKP−ミクロスフェアと結合した場合、インシュリンの取り込みを28〜40倍増加したことを示す。
【0049】
(実施例3:脾臓細胞における輸送増強)
未培養の初代細胞を用いて、化合物の標的細胞への輸送速度を研究した。単離されたマウス脾臓細胞を用いて、化合物の輸送速度との時間経過比較を行った。BALB/Cマウスから脾臓を摘出し、細胞懸濁物を調製した。単離された細胞を、4×106細胞/mlの密度にて、完全培地(RPMI 1640+10% FBS、1×Pen/Strep)中でインキュベートした。オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPを20μg/mlの濃度で添加し、細胞を37℃にて所定の時間インキュベートした。8容量のPBSを各インキュベーション期間の終わりに添加し、そして、全ての時点が終わるまで、細胞を氷上に置いた。細胞を遠心分離し、再懸濁して、FACSによりFITC取り込みについて分析した。
【0050】
図5は、37℃における、培養していない脾臓細胞での、試験化合物、オボアルブミンのFDKP−ミクロスフェア促進性輸送を示す棒グラフである。脾細胞によるオボアルブミンの取り込みの増強は、TECHNOSPHEREの存在下で10分以内に立証され、このことは、これまでに試験した細胞型における膜浸透の迅速かつ普遍的な増強を示した(図5を参照のこと)。OVA−FITS/FDKPとの60分間のインキュベーションの後、別の細胞集団の存在が明らかとなった。細胞の生存度は、悪影響を及ぼされていなかった。
【0051】
(実施例4:血清含有培地における輸送)
オボアルブミン−FITCの輸送を、血清の存在下、インビボ臨床適用に関連する条件下で測定した。K562細胞を、培地単独または10% FBSを含む培地中で、4×106細胞/mLの細胞密度にて、オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPのいずれかと共に、インキュベートした(30分間、37℃、20μg/mL)。洗浄後、細胞を、FITC取り込みについてFACSにて分析した。分析前に、細胞をVIAPROBE(細胞生存性染色)を用いて染色した。
【0052】
図6は、完全培地の存在下におけるA459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。細胞内オボアルブミン含量の5倍以上の増強が、37℃にて30分後に、血清の存在下で示された(図6を参照のこと)。
【0053】
(実施例5:広範囲のpHにわたる輸送の増強)
K562細胞を、pH3、4、5、7.4または9に調整したBD細胞染色溶液(BD Pharmingen)中で、4×106細胞/mLの細胞密度にて、オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPのいずれかと共にインキュベートした(30分間、37℃、20μg/mL)。洗浄後、細胞をVIAPROBE(BD Pharmingen)を用いて氷上で5分間染色し、生存細胞のFITC含量をFACS分析により決定した。
【0054】
TECHNOSPHEREによる輸送増強を、pH4および5を除く研究された全てのpHにおいて検出した(図9を参照のこと)。図9に示すように、増強は、pH9において特に有意であった(5倍近い増加)。これらのデータは、FDKP−ミクロスフェアが、広範囲のpHにより特徴付けられる身体の種々の領域(アルカリ条件により特徴付けられる領域(例えば、腸管組織)を含む)における、細胞膜を横切る会合した化合物の増大した輸送に特に効果的であることを示す。
【0055】
(実施例6:輸送の増強に対する架橋剤の効果)
DKPミクロスフェアが増強する輸送が、クラスリンで覆われた窩(これは、レセプター媒介性のエンドサイトーシスに関与し、特定の毒素、レクチン、ウイルス、血清輸送タンパク質、抗体、ホルモンおよび成長因子の細胞取り込みを担うことが述べられている)を介する、レセプター媒介性のエンドサイトーシスによって生じないことを確認するための研究を行った。これらの窩の形成は、高浸透性のスクロース溶液の存在下で阻害される。膜のチオール基の架橋は、エンドサイトーシスを防止する別の手段である。なぜならば、チオール基は、多数の分子(水、尿素およびアミノ酸を含む)の膜輸送において重要な役割を果たすためである。チオールの酸化還元状態はまた、膜障壁機能を維持する上で重要である。フェニラジンオキシドを用いて架橋した膜のチオール基を使用して、TECHNOSPHEREがエンドサイトーシスに依存するかどうかを決定した。
【0056】
K562細胞を、血清を含まないRPMI培地中、80μMフェニラジンオキシド(SIGMA)で前処理した(5分間、37℃)。細胞をPBSで2回洗浄し、その後、10%血清含有培地中で、オボアルブミン−FITCまたはオボアルブミン−FITC/FDKPのいずれかと共に細胞をインキュベートした(30分間、37℃、以前の輸送研究について示した細胞および標識の条件にて)。高浸透性のスクロース溶液の効果について、0.5Mスクロースを含有する培地の存在下でインキュベーションを行った。細胞を洗浄し、FACSで分析した。処理後の細胞の生存度を、以前に示したように、VIAPROBEを用いて評価し、分析は、生存細胞のみを反映する。
【0057】
図7は、フェニラジンオキシドの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。図8は、スクロースの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。両方の処理に関して、TECHNOSPHERE媒介性の輸送の増強が、完全培地のみで見られる増強と比べて減少した。しかしながら、増強は依然として観察され、このことは、これらの処理による膜へのかなりの変更にも関わらず、TECHNOSPHEREの輸送増強機構が、依然として有効であることを示した(図7および8)。
【0058】
(実施例7:薬物送達を促進するための輸送体としてのDKPアナログ)
DKPのスクシニルアナログを、化合物の細胞内輸送の促進因子として評価した。DKPのスクシニルアナログをOVAと会合させ、ヒト肺細胞をこの複合体に接触させた。図4は、スクシニルDKPと会合したOVAおよびフマル酸DKPの、OVA単独と比べて増強された輸送を示す。
【0059】
(実施例8:DKP複合体の組織標的化送達は、免疫応答を刺激しない)
組成物の用量、投与計画、組成物の大きさ/構造および投与部位を、免疫系の最小限の刺激を伴うか、または刺激を伴わずに、細胞への効果的な薬物送達を達成するために、最適化した。例えば、深部肺への堆積を達成するための、1日あたり1〜20mg/kgの用量範囲における吸入によるインシュリンの送達(小さな(例えば、2ミクロン)のインシュリン/FDKP複合体(これは、肺の肺胞に堆積する)を用いる)は、免疫応答を刺激しなかった。深部肺(肺胞)は、免疫応答を生じない環境を提供し、それによって、吸入された小さな粒子に対する有害な応答の発生を回避する。ミクロンサイズの小さな粒子は、深部の呼吸器組織(例えば、肺胞)へのアクセス、および免疫抑制条件により特徴付けられる環境を獲得し得る。対照的に、より大きい粒子(>5〜10ミクロン)は、上部の呼吸器管に堆積する。このような大きい粒子は、肺胞組織の免疫抑制条件へのアクセスを獲得せず、従って、免疫応答を刺激し得る。
【0060】
1回の処理で与えられるインシュリンの用量は、免疫応答を惹起するのに用いられるペプチドの量をはるかに上回る。免疫応答を誘導するよりはむしろ(rather then inducing an immune response)、投与される用量は、免疫の非応答性(例えば、耐性、クローンアネルギー)を誘導する。例えば、μg用量範囲(例えば、50μg)で投与されるペプチド(例えば、i.m.ワクチン)は、免疫応答を刺激するが、吸入により与えられる5mgまたは10mgのインシュリン/FDKP複合体は、免疫応答の刺激をもたらさないことが予想される。
【0061】
(実施例9:送達される化合物の大きさの影響)
送達される化合物の構造および大きさはまた、その免疫原性に影響を有する。低分子ペプチドは、あまり免疫原性でなく、一方で、より大きな異種分子または複合体分子は、より免疫原性である。試験されるヒトインシュリン組成物(5807.6ダルトンの分子量)は、肺組織に送達される場合に、免疫応答を刺激する可能性が低いことが予想される。免疫刺激をさらに最小にするために、免疫適合性組成物を用いる。例えば、インシュリンのヒト形態は、ヒトにおいて弱い免疫原性抗原である。
【0062】
24人の患者について、臨床試験を行い、免疫応答性を評価した。患者を、吸入によりインシュリン/DKP複合体(インシュリン5806の分子量、約2ミクロンの複合体の大きさ)で4回処置した。処置後に検出された抗インシュリン抗体のレベルは、IgG ELISAにより測定すると、処置前のレベルと異ならなかった(図11)。これらのデータは、本明細書中に記載される薬物送達の組成物および方法が、臨床的に明らかな免疫応答を刺激しないことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1A】図1aは、ナイーブ脾臓細胞のフマル酸DKP(FDKP)−ミクロスフェア(TECHNOSPHERE(登録商標))に対する分裂促進的応答を示す、mcg/mlまたは% 対 刺激指数の線グラフである。
【図1B】図1bは、臨床グレードのTECHNOSPHERE(登録商標)の存在下におけるナイーブ脾臓細胞のインビトロ分裂促進研究から得た上清のサイトカイン分析を示す棒である。
【図2A】図2aは、臨床グレードまたは粗製のTECHNOSPHERE(登録商標)の異なるバッチの存在下における、ヒトPBMCのインビトロ分裂促進研究を示す、棒グラフである。
【図2B】図2bは、ナイーブ脾臓細胞のTECHNOSPHERE(登録商標)バッチの存在下におけるPBMCのインビトロ分裂促進研究から得た上清のサイトカイン分析を示す棒グラフである。
【図3】図3aは、37℃にて、OVA−FITCまたはOVA−FITC−FTS FDKP(「OVA*TECH−FITC」)のいずれかの調製物 20μg/mlと共にインキュベートした後の、A459ヒト肺細胞株へのオブアルブミン(OVA)−FITC輸送の動力学を示す、時間(分)対 平均蛍光強度(MFI)(単位)の棒グラフである。図3bは、37℃にて、OVA−FITCまたはOVA−FITC−FDKP(「OVA*TECH−FITC」)のいずれかの調製物 20μg/mlと共にインキュベートした後の、A459細胞へのOVA−FITCの輸送増加(%で表す)を示す、時間(分)対 MFIの棒グラフである。
【図4】図4は、37℃、4℃および0℃にてOVA−FITC−スクシニルまたはOVA−FITC−FDKP(OVA*TECH−FITC)のいずれか 20μg/mlと共に30分間インキュベートした後の、A459ヒト肺細胞へのFDKPミクロスフェアによるオブアルブミンの輸送の増加を示す、インキュベーション温度(℃)対 MFI(単位)の棒グラフである。
【図5】図5は、37℃における、培養していない脾臓細胞での、オボアルブミンのFDKP−ミクロスフェア促進性輸送を示す、時間(分)対 MFI(単位)の棒グラフである。
【図6】図6は、完全培地の存在下におけるA459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。
【図7】図7は、フェニラジンオキシドの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。
【図8】図8は、スクロースの存在下での、A459肺細胞へのオボアルブミンの輸送を示す棒グラフである。
【図9】図9は、37℃および種々のpH条件(3、4、5、7.4および9)にて、OVA−FITCまたはOVA−FITC−FDKP(「OVA*TECH−FITC」)のいずれかの調製物 20μg/mlと共にインキュベートした後の、K562細胞へのFITC−OVAの輸送を示す棒グラフである。
【図10】図10は、37℃における、A459肺細胞への、インシュリンの輸送とインシュリン/FDKPの輸送とを比較した、時間(分)対 MFI(単位)の線グラフである。
【図11】図11は、吸入治療によりインシュリン/FDKP−ミクロスフェア複合体が投与される前(「ベースライン」)および後(「終点」)の、ヒト被験体における、インシュリン特異的IgG抗体力価を示す棒グラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜または脂質二重層を横切って化合物を輸送するための方法であって、該方法は、該膜または二重層の近位面を該化合物とジケトピペラジン(DKP)を含有する複合体に接触させる工程を包含し、該脂質二重層の近位面から該脂質二重層の遠位面への該化合物の輸送は、該DKPの不在下と比べて、該DKPの存在下で増加する、方法。
【請求項2】
前記脂質二重層が、インタクトな細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞と前記複合体との接触の後に、免疫応答が実質的に誘導されない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記免疫応答が、前記DKPの存在下にて、該DKPの不在下と比べて、20%未満増加する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、生物学的に活性な因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的に活性な因子が、インシュリン、インシュリン前駆物質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ヒト成長ホルモン(HgH)、グルカゴン様ペプチド(GLP)、サイトカイン、ケモカインおよびこれらのフラグメントからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的に活性な因子が、抗体またはそのフラグメントである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記複合体の直径が5ミクロン未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複合体の直径が2.5ミクロン未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記複合体の直径が、1.5ミクロンと2.5ミクロンとの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫応答が、抗体、T細胞増殖またはサイトカインの産生によって検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記サイトカインがインターロイキン−2である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記DKPが、トール様レセプターと結合しない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
肺の組織または細胞が接触される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記肺の組織が、肺の小気道を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組織が、肺胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物の用量が、単回投与あたり、0.5mgと100mgとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物の用量が、単回投与あたり、500mgと1000mgとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物の用量が、1日あたり2mgと16mgとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物の分子量が200kDa未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物の分子量が100kDa未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記化合物の分子量が100kDa未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記化合物の分子量が、3kDaと6kDaとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物がポリペプチドである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリペプチドのアミノ酸配列が、哺乳動物の種のメンバーによって発現される、天然に存在するポリペプチドと同一である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリペプチドが、インシュリン、インシュリン前駆物質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ヒト成長ホルモン(HgH)、グルカゴン様ペプチド(GLP)、またはこれらのフラグメントである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリペプチドが、抗体またはこれらのフラグメントである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、複数の接触工程を包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
前記接触工程の間の時間間隔が、24時間未満である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記間隔が、12時間未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記間隔が、6時間未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記間隔が、3時間未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記複数の接触工程の後に、前記肺の組織における免疫細胞が、前記化合物との引き続く接触に対して非応答性である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記膜または脂質二重層が哺乳動物内に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記哺乳動物がヒトである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記複合体が経口投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の方法における使用のための組成物。
【請求項1】
膜または脂質二重層を横切って化合物を輸送するための方法であって、該方法は、該膜または二重層の近位面を該化合物とジケトピペラジン(DKP)を含有する複合体に接触させる工程を包含し、該脂質二重層の近位面から該脂質二重層の遠位面への該化合物の輸送は、該DKPの不在下と比べて、該DKPの存在下で増加する、方法。
【請求項2】
前記脂質二重層が、インタクトな細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞と前記複合体との接触の後に、免疫応答が実質的に誘導されない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記免疫応答が、前記DKPの存在下にて、該DKPの不在下と比べて、20%未満増加する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、生物学的に活性な因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的に活性な因子が、インシュリン、インシュリン前駆物質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ヒト成長ホルモン(HgH)、グルカゴン様ペプチド(GLP)、サイトカイン、ケモカインおよびこれらのフラグメントからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的に活性な因子が、抗体またはそのフラグメントである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記複合体の直径が5ミクロン未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複合体の直径が2.5ミクロン未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記複合体の直径が、1.5ミクロンと2.5ミクロンとの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫応答が、抗体、T細胞増殖またはサイトカインの産生によって検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記サイトカインがインターロイキン−2である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記DKPが、トール様レセプターと結合しない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
肺の組織または細胞が接触される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記肺の組織が、肺の小気道を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組織が、肺胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記化合物の用量が、単回投与あたり、0.5mgと100mgとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物の用量が、単回投与あたり、500mgと1000mgとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物の用量が、1日あたり2mgと16mgとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物の分子量が200kDa未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物の分子量が100kDa未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記化合物の分子量が100kDa未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記化合物の分子量が、3kDaと6kDaとの間である、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物がポリペプチドである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリペプチドのアミノ酸配列が、哺乳動物の種のメンバーによって発現される、天然に存在するポリペプチドと同一である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリペプチドが、インシュリン、インシュリン前駆物質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ヒト成長ホルモン(HgH)、グルカゴン様ペプチド(GLP)、またはこれらのフラグメントである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ポリペプチドが、抗体またはこれらのフラグメントである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、複数の接触工程を包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
前記接触工程の間の時間間隔が、24時間未満である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記間隔が、12時間未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記間隔が、6時間未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記間隔が、3時間未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記複数の接触工程の後に、前記肺の組織における免疫細胞が、前記化合物との引き続く接触に対して非応答性である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
前記膜または脂質二重層が哺乳動物内に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記哺乳動物がヒトである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記複合体が経口投与される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
請求項1〜37のいずれか1項に記載の方法における使用のための組成物。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2006−500961(P2006−500961A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506094(P2005−506094)
【出願日】平成15年8月1日(2003.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/024323
【国際公開番号】WO2004/012672
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(501348782)マンカインド コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年8月1日(2003.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/024323
【国際公開番号】WO2004/012672
【国際公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(501348782)マンカインド コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】
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