説明

細菌で発現させる抗体融合タンパク質の質および収量を改善するために最適化された抗体のDNA配列およびそのタンパク質配列

本発明の目的は、scFv(FRP5)抗体断片をコードする、最適化されたDNA塩基配列を提供することである。この新規な配列により、scFv(FRP5)−ETA融合タンパク質だけでなく、恐らく、scFv(FRP5)を含む他の融合タンパク質を細菌で発現させる場合においても、望ましくない副産物の生成を防ぐことができる。特質的なコドンを置換することにより、scFv(FRP5)−ETAのscFv(FRP5)ドメインのDNA塩基配列を変異させて、タンパク質の翻訳が内部から開始されるのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
抗体毒素scFv(FRP5)−ETAは、遺伝子融合により緑膿菌(Pseudomonas)外毒素Aの末端切断型断片と連結した、ErbB2特異的抗体FRP5由来の一本鎖抗体断片からなる組換え融合タンパク質である。scFv(FRP5)−ETAは、in vitro、動物モデルおよび癌患者において、ErbB2を発現する癌細胞に対して選択的かつ高い抗腫瘍活性を示すことが文献に詳細に記載されている。現在の方法論を用いて大腸菌発現系でscFv(FRP5)−ETAを産生すると、主生成物である完全なscFv(FRP5)−ETAに加えて、副産物として末端切断型scFv(FRP5)−ETA断片が生じる。これまで古典的なタンパク質精製技術では、この望ましくない断片を完全に除去することはできなかった。
【0002】
本発明の目的は、scFv(FRP5)抗体断片をコードする、最適化されたDNA塩基配列を提供することである。この新規な配列により、scFv(FRP5)−ETA融合タンパク質だけでなく、恐らく、scFv(FRP5)を含む他の融合タンパク質を細菌で発現させる場合においても、望ましくない副産物の生成を防ぐことができる。特質的なコドンを置換することにより、scFv(FRP5)−ETAのscFv(FRP5)ドメインのDNA塩基配列を変異させて、タンパク質の翻訳が内部から開始されるのを防ぐ。
【背景技術】
【0003】
ほとんどの臓器の上皮細胞では、受容体型チロシンキナーゼErbB2(HER2)の発現レベルは一般的に低い。しかし、いくつかの癌腫においては、多くの場合遺伝子増幅の結果、ErbB2の発現が著しく亢進している。受容体型チロシンキナーゼErbB2が、多くの上皮由来の腫瘍で選択的優位に発現していること、細胞外間隙から接近しやすいこと、および癌化プロセスに関与することから、ErbB2は、標的化癌治療のターゲットとして望ましい。
【0004】
毒素が本来有する細胞結合ドメインが欠失した末端切断型緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A誘導体に基づいて、この毒素をErbB2にターゲティングさせるために、ErbB2特異的なモノクローナル抗体FRP5の一本鎖Fv抗体断片を用いた組換え毒素が開発された(非特許文献1)。in vitro細胞致死実験において、細菌で発現させたこのscFv(FRP5)−ETA分子は、乳癌腫および卵巣癌腫(非特許文献1〜3)、扁平上皮癌(非特許文献4および5)、および前立腺癌腫(非特許文献6)を含む広範囲の株化ヒト腫瘍細胞および初代培養ヒト腫瘍細胞に対して強力な抗腫瘍活性を示した。実験動物においても、scFv(FRP5)−ETAは、生着したヒト腫瘍異種移植片(非特許文献1および3〜5)、ならびにヒトc−erbB2コンストラクトが安定導入されたマウスおよびラットの腫瘍細胞(非特許文献7および8)の増殖を効果的に抑制した。癌患者に対して、scFv(FRP5)−ETAを、ErbB2を発現する腫瘍の皮膚病変へ腫瘍内投与したところ、60%の患者で反応が見られた。その内訳として、40%の患者では、処置した腫瘍で腫瘍結節の完全な退縮が見られ、残りの20%では、処置した腫瘍で腫瘍の部分的な縮小が見られた(非特許文献9)。最近行われたフェーズI臨床試験において、scFv(FRP5)−ETAを静脈注射した際の最大耐用量(MTD)、用量規定毒性および種々の薬物動態パラメーターが調べられた(非特許文献10)。その結果、18人の患者のうち3人で病状が安定し、別の3人の患者では症状において臨床的効果の兆候が見られた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wels W, Harwerth IM, Mueller M, Groner B, Hynes NE. Selective inhibition of tumor cell growth by a recombinant single-chain antibody-toxin specific for the erbB-2 receptor. Cancer Res 1992;52:6310-7.
【非特許文献2】Spyridonidis A, Schmidt M, Bernhardt W, et al. Purging of mammary carcinoma cells during ex vivo culture of CD34+ hematopoietic progenitor cells with recombinant immunotoxins. Blood 1998;91:1820-7.
【非特許文献3】Schmidt M, McWatters A, White RA, et al. Synergistic interaction between an anti-p185HER-2 Pseudomonas exotoxin fusion protein [scFv(FRP5)-ETA] and ionizing radiation for inhibiting growth of ovarian cancer cells that overexpress HER-2. Gynecol Oncol 2001;80:145-55.
【非特許文献4】Wels W, Beerli R, Hellmann P, et al. EGF receptor and p185erbB-2-specific single-chain antibody toxins differ in their cell-killing activity on tumor cells expressing both receptor proteins. Int J Cancer 1995;60:137-44.
【非特許文献5】Azemar M, Schmidt M, Arlt F, et al. Recombinant antibody toxins specific for ErbB2 and EGF receptor inhibit the in vitro growth of human head and neck cancer cells and cause rapid tumor regression in vivo. Int J Cancer 2000;86:269-75.
【非特許文献6】Wang L, Liu B, Schmidt M, Lu Y, Wels W, Fan Z. Antitumor effect of an HER2-specific antibody-toxin fusion protein on human prostate cancer cells. Prostate 2001;47:21-8.
【非特許文献7】Altenschmidt U, Schmidt M, Groner B, Wels W. Targeted therapy of schwannoma cells in immunocompetent rats with an erbB2-specific antibody-toxin. Int J Cancer 1997;73:117-24.
【非特許文献8】Maurer-Gebhard M, Schmidt M, Azemar M, et al. Systemic treatment with a recombinant erbB-2 receptor-specific tumor toxin efficiently reduces pulmonary metastases in mice injected with genetically modified carcinoma cells. Cancer Res 1998;58:2661-6.
【非特許文献9】Azemar M, Djahansouzi S, Jager E, et al. Regression of cutaneous tumor lesions in patients intratumorally injected with a recombinant single-chain antibody-toxin targeted to ErbB2/HER2. Breast Cancer Res Treat 2003;82:155-64.
【非特許文献10】von Minckwitz G, Harder S, Hovelmann S, et al. Phase I clinical study of the recombinant antibody-toxin scFv(FRP5)-ETA specific for the ErbB2/HER2 receptor in patients with advanced solid malignomas. Breast Cancer Res 2005;7:R617-R26.
【非特許文献11】Wels W, Harwerth IM, Zwickl M, Hardman N, Groner B, Hynes NE. Construction, bacterial expression and characterization of a bifunctional single-chain antibody-phosphatase fusion protein targeted to the human erbB-2 receptor. Biotechnology (NY) 1992;10:1128-32.
【非特許文献12】Harwerth IM, Wels W, Marte BM, Hynes NE. Monoclonal antibodies against the extracellular domain of the erbB-2 receptor function as partial ligand agonists. J Biol Chem 1992;267:15160-7.
【非特許文献13】Kabat EA, Wu TT, Perry HM, Gottesman KS, Foeller C Sequences of proteins of immunological interest, 5 edition, Vol. 1. Washington: U.S. Department of Health and Human Services, 1991.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヒト患者の治療に用いる治療用タンパク質製剤は、規制当局から承認を受けるために、純度および均質性の面で非常に高い基準を満たさなければならない。副産物が混在する活性化合物の製剤は、患者に対して毒性反応などの副作用をもたらす可能性、および/または望ましくない免疫応答を誘導する可能性がある。したがって、このような副産物を技術的に可能な限り除去する必要があり、副産物が残存する場合は、副産物毎に、見込まれる生物活性を、または生物活性がないことを示さなければならない。その結果、このような望ましくない副産物を除去するために高度かつ高価な精製技術が必要となり、かつ/または特定の副産物を除去できない場合はさらなる試験が必要となるため、生産コストが著しく増加する。
【0007】
in vivo投与用のscFv(FRP5)−ETA抗体毒素を生成するために、これまでのところ、主として細菌発現系の発現ベクターpSW220−5が使用されてきた(非特許文献7)。このプラスミドは、野生型毒素の第252〜613番目のアミノ酸残基で示される末端切断型緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A(ETA)と遺伝子的に融合した、モノクローナル抗体FRP5由来のErbB2特異的なscFv抗体断片scFv(FRP5)(非特許文献11および12)からなる融合タンパク質をコードする。上記融合タンパク質の精製および検出用に、プラスミドpSW220−5のscFv(FRP5)−ETA発現ユニットは、2つのヘキサヒスチジン(His)クラスターおよびN末端FLAGタグをそれぞれコードする配列をさらに含む(図1A)。pSW220−5を用いて形質転換した細菌発現系の培養物から得られたタンパク質調製物には、全長scFv(FRP5)−ETAに相当する主生成物、および主要なバンドの直下に現れる主要な副産物(約10%)が含まれる。この2つのタンパク質はいずれも、精製後のタンパク質調製物に対してSDS−PAAゲルのクマシー染色(図2A、左レーンを参照)、およびETA特異的抗体を用いたイムノブロット実験(データ示さず)を行うことによって、検出できる。また、以前行なったイムノブロット実験において、上記の副産物がscFv(FRP5)−ETAの外毒素A部分に対する抗体によって認識されることが明らかになった。したがって、この副産物は、全長scFv(FRP5)−ETAの発現の過程または発現後に、細菌由来のプロテアーゼによるタンパク質分解によって生成されると考えられてきた。これまで標準的なタンパク質精製技術では、この末端切断型タンパク質断片を除去することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】抗体毒素scFv(FRP5)−ETAの各種誘導体の概観と各配列の特徴(A)細菌発現系に用いるscFv(FRP5)−ETA誘導体のコンストラクト すべての発現カセットは、IPTGで誘導可能なtacプロモーターの制御下にあり、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)外毒素A(ETA)(野生型毒素の第252〜613番目の残基に相当)と融合した、ErbB2特異的なscFv(FRP5)をコードする。プラスミドpSW220−5は、N末端FLAGタグ(F)および2つのHisクラスター(H)をそれぞれコードする配列を有する。pSES212およびpSES213においては、このFLAGタグとHisクラスターが欠失している。pSES213は、scFv(FRP5)配列内に変異を有し、92番目のメチオニン(M)がセリン(S)に置換されている。その他の点では、pSES213はpSES212と同一である。 (B)プラスミドpSES212およびpSES213におけるscFv(FRP5)−ETAの部分的DNA塩基配列(配列番号10)および部分的タンパク質配列(配列番号9) 92番目のコドンが、潜在的な内部開始コドンATGからTCGに置換されていることを示す。下線部は、シャイン−ダルガノ配列と中程度の類似性を持つ配列である。
【図2】抗体毒素scFv(FRP5)−ETAの各種誘導体の発現およびその生物学的抗腫瘍活性 (A)scFv(FRP5)−ETA(220−5)、scFv(FRP5)−ETA(212)およびscFv(FRP5−M92S)−ETA(213)の各タンパク質調製物のSDS−PAGE分析 発現プラスミドpSW220−5、pSES212またはpSES213で形質転換された大腸菌DH5αは、それぞれのscFv(FRP5)−ETA誘導体を発現した。封入体を単離して変性させた後、再生させた。各タンパク質試料をSDS−PAGEによって分離し、クマシー染色を行いタンパク質を検出した。全長scFv(FRP5)−ETAタンパク質およびscFv(FRP5−M92S)−ETAタンパク質に相当するバンドを白矢印で示す。プラスミドpSW220−5およびpSES212の発現産物を含む試料には、主要な分解産物が含まれる(黒矢印)。scFv(FRP5−M92S)−ETA(213)調製物には、この望ましくない副産物は含まれない。 (B)scFv(FRP5)−ETA(220−5)およびscFv(FRP5−M92S)−ETA(213)の生物活性 ヒトc−erbB2 cDNAが安定導入されたマウスRenca−lacZ/ErbB2腎癌細胞(左パネル)、およびErbB2陰性Renca−lacZコントロール細胞(右パネル)に、表示した濃度のscFv(FRP5)−ETA(220−5)またはscFv(FRP5−M92S)−ETA(213)を加えて48時間インキュベートした。各濃度あたり3ウェルずつ用いた。MTT代謝アッセイで590nmの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を求めた。PBSで処理した細胞をコントロールとした。エラーバーは、平均値の標準偏差を示す。 (C)scFv(FRP5−M92S)−ETA(213)のscFv(FRP5)−ETA(220−5)に対する活性比 表示した各タンパク濃度で処理した抗原陽性標的細胞および抗原陰性標的細胞において、(B)で求めたA590値を、scFv(FRP5−M92S)−ETA(213)処理群のscFv(FRP5)−ETA(220−5)処理群に対する比で示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の目的は、全長scFv(FRP5)−ETAが有する、治療上意味のある生物活性に影響を与えることなく、この全長タンパク質の末端切断型断片の生成を防ぐことである。本発明を適用すると、細菌発現系を用いた発現を行う際に、このような望ましくない副産物は生成しない。したがって、高純度のタンパク質調製物が容易に得られる。
【0010】
本発明には、細菌発現系で得られた培養物から、上述した末端切断型の副産物を含まない均質なタンパク質調製物が得られるように、scFv(FRP5)−ETAをコードする発現ユニットを変更することが包含される。本発明者らは、先の考察とは異なり、このような副産物の生成は全長タンパク質の分解によって起こるのではなく、scFv(FRP5)−ETA mRNAのscFv(FRP5)配列内にある内部AUGコドンからも翻訳が開始された結果であるという仮説を立てた。
【0011】
第1の態様において、本発明は、配列番号11の第2〜120番目のアミノ酸残基を含む第1のアミノ酸配列と、配列番号11の第136〜242番目のアミノ酸残基を含む第2のアミノ酸配列とを含むポリペプチドであって、前記第1のアミノ酸配列と前記第2のアミノ酸配列がペプチドスペーサー基によって連結しているポリペプチドに関する。好ましくは、本発明のポリペプチドは下記の構造を含む。
−Sp−V
(式中、Vは第1のアミノ酸配列を示し、Spはペプチドスペーサー基を示し、Vは第2のアミノ酸配列を示す。)
【0012】
従って、第1のアミノ酸配列は、通常ポリペプチドのN末端に位置する。通常、本発明のポリペプチドは、スペーサー基、好ましくはペプチドによって、重鎖の可変ドメインと軽鎖の可変ドメインが連結されている1本鎖抗体である。本発明のポリペプチドの第1のアミノ酸配列は、重鎖の可変ドメインを表し、第2のアミノ酸配列は、軽鎖の可変ドメインを表す。重鎖の可変ドメインが組換え抗体のN末端に位置する一本鎖抗体が最も好ましい。
【0013】
第1のアミノ酸配列は、配列番号11の第2〜120番目のアミノ酸残基を含み、好ましくは、配列番号11の第1〜120番目のアミノ酸残基を含むか、または配列番号11の第1〜120番目のアミノ酸残基からなる。さらに好ましい実施形態において、第1のアミノ酸配列は、配列番号1の第2〜120番目のアミノ酸残基を含み、好ましくは、配列番号1の第1〜120番目のアミノ酸残基を含むか、または配列番号1の第1〜120番目のアミノ酸残基からなる。
【0014】
第2のアミノ酸配列は、配列番号11の第136〜242番目のアミノ酸残基を含み、好ましくは、配列番号11の第136〜242番目のアミノ酸残基からなる。
【0015】
ペプチドスペーサー基の長さは、3〜30アミノ酸残基、好ましくは5〜25アミノ酸残基、より好ましくは10〜20アミノ酸残基、最も好ましくは約15アミノ酸残基(例えば、13、14、15、16または17アミノ酸残基など)である。また、ペプチドスペーサー基は、グリシンおよびセリンから選ばれるアミノ酸から構成されることが好ましい。スペーサー基は、3つのGly−Gly−Gly−Gly−Ser反復サブユニットから構成される15アミノ酸残基のペプチドであることが特に好ましい。
【0016】
本発明のポリペプチドは、配列番号11で表されるアミノ酸配列を含むことが好ましく、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むことがより好ましい。
【0017】
配列番号11のアミノ酸Xaaは、メチオニン以外の任意のアミノ酸であってもよく、または存在しなくてもよい。後者の場合、91番目と93番目のアミノ酸が直接ペプチド結合によって連結する。配列番号11のXaaとしては、天然アミノ酸、非天然アミノ酸および修飾アミノ酸を含む、メチオニン以外の任意のアミノ酸などが挙げられる。Xaaが天然アミノ酸である場合、Xaaとしては、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、バリン、トリプトファン、チロシンまたはセレノシステインなどが挙げられる。Xaaは、セリン、アラニン、トレオニンおよびシステインからなる群より選ばれるのが好ましく、セリンが最も好ましい。Xaaが非天然アミノ酸または修飾アミノ酸である場合、Xaaとしては、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、エチルグリシンまたはエチルアスパラギンなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、Xaaは、WIPO標準ST.25の表4で定義されるような任意の修飾アミノ酸であってもよい。この表は、参照により本明細書に援用される。
【0018】
また、Xaaが「存在しなくてもよい」とは、FRP5配列の92番目のメチオニン(例えば、配列番号9を参照)が欠失し、かつ別のアミノ酸によって置換されていないことを意味する。この実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号12で表されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0019】
本発明の一本鎖組換え抗体は、エフェクター分子および/または宿主細胞内で産生された抗体のプロセシングを促進するためのシグナル配列をさらに含んでもよい。
【0020】
エフェクター分子とは、治療上または診断上有用な分子を意味する。例えば、検出可能な反応を起こす酵素、例えばホスファターゼ(例えば、E.coli由来のアルカリホスファターゼや、ウシ由来のアルカリホスファターゼなどの哺乳動物由来アルカリホスファターゼ)、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、炭酸脱水酵素、アセチルコリンエステラーゼ、リゾチーム、リンゴ酸脱水素酵素またはグルコース−6−リン酸;特異的な結合特性を有するペプチド、例えば、ビオチンと強力に結合する、ストレプトミセス属アビジニイ由来のストレプトアビジン;または抗体が結合した細胞を攻撃する酵素、毒素またはその他の薬剤、例えば、プロテアーゼ、細胞溶解素、外毒素(例えば、リシンA、ジフテリア毒素A、緑膿菌(Pseudomonas)外毒素など)などが挙げられる。以下、エフェクター分子をさらに含む一本鎖組換え抗体は、「融合タンパク質」と表すか、あるいは該当する場合、「一本鎖(組換え)抗体」または「組換え抗体」の定義に含まれるものとする。エフェクター分子は、細胞致死活性を有するポリペプチドであってもよい。細胞致死活性は、本出願の実施例3に従い測定することができる。
【0021】
「エフェクター分子」は、生物活性を有する、上述のタンパク質の変異体も包含する。例えば、in vitroで突然変異させたDNAから生成される変異体が挙げられるが、このDNAによってコードされるタンパク質が、対応する天然タンパク質の生物活性を保持していることが前提である。このような変異としては、アミノ酸の付加、置換または欠失が挙げられ、欠失が起こった場合、全長が短い変異体が得られる。例えば、コード遺伝子のクローニングを容易にするためにDNAを修飾して、ホスファターゼなどの酵素を生成してもよい。または、細胞に対する結合ドメインを欠失させる、および/または細胞致死活性を増強または軽減させるようにDNAを変異させて、緑膿菌(Pseudomonas)外毒素などの外毒素を生成してもよい。
【0022】
エフェクターポリペプチドは、配列番号1の第245〜606番目のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0023】
また、「エフェクター分子」には、細胞致死活性を有する化学物質も含まれる。細胞致死活性は、本出願の実施例3に従い測定することができる。このような化学物質としては、化学療法剤、細胞毒性化合物または細胞増殖抑制性化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。化学療法剤および細胞毒性化合物の例としては、下記が挙げられる。
−アルキル化剤
−細胞毒性を有する抗生物質
−代謝拮抗剤
−ビンカアルカロイドおよびエトポシド
−その他
【0024】
アルキル化剤は、DNA合成に使われるヌクレオチド前駆体に存在する化学物質のような求核性残基と反応する。アルキル化剤は、これらのヌクレオチドをアルキル化することにより、ヌクレオチドが結合してDNAが構築されるのを阻害し、細胞分裂の過程に影響を与える。アルキル化剤としては、例えばマスタージェン(Mustargen)、リン酸エストラムスチン、メルファラン、クロラムブチル、プレドニムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミド、ブスルファン、トレオサルファン、チオテパ、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ニムスチン(ACNU)、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、シスプラチンまたはカルボプラチンなどが好ましく挙げられる。
【0025】
細胞毒性を有する抗生物質は、直接DNA合成またはRNA合成を阻害することによって作用し、細胞周期を通して効力を発するものである。細胞毒性を有する抗生物質としては、例えばアクチノマイシンD、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、イリノテカン(CPT−11)またはトポテカンなどが好ましく挙げられる。
【0026】
代謝拮抗剤は、細胞分裂過程に関わる細胞内酵素または天然代謝物質と拮抗して、細胞分裂を阻害する。代謝拮抗剤としては、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、ペントスタチン、リン酸フルダラビン、クラドリビン、5−フルオロウラシル、カペシタビン、シタラビン、ゲムシタビンまたはヒドロキシ尿素などが好ましく挙げられる。
【0027】
植物アルカロイドおよびエトポシドは、植物由来の薬剤で、細胞分裂に必要な細胞成分の集合を阻害することにより、細胞の複製を阻害する(例えば、ビンカアルカロイド、エトポシドなど)。植物アルカロイドおよびエトポシドとしては、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、エトポシド(VP16)またはテニポシド(VM26)などが好ましく挙げられる。
【0028】
「その他」の化合物群としては、主としてタキサン剤(例えば、パクリタキセル、タキソール、ドセタキセル、タキソテールなど)や金属錯体(例えば、シスプラチン)が挙げられ、シグナル伝達阻害剤(STI)や特定の酵素機能に対する阻害剤(例えば、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、キナーゼ阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤などが挙げられるが、これらに限定されない)も挙げられる。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は、例えば、ボリノスタット、ベリノスタット、PCI−24781、CHR−3242、JNJ−16241199、MGCD−0103、ロミデプシン、MS−275、酪酸塩、バルプロ酸およびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。キナーゼ阻害剤は、例えば、イマチニブ、セディラニブ、ゲフィチニブ、バンデタニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、レスタウルチニブ、エンザスタウリン、パゾパニブ、アルボシディブ、ニロチニブ、バタリニブ、エルロチニブ、スニチニブおよびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。プロテアーゼ阻害剤は、例えば、WX−UK1、ボルテゾミブおよびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
【0029】
また、細胞致死活性を有する化学物質は、例えばコバルト60などの放射性物質であってもよい。
【0030】
エフェクター分子は、共有結合または非共有結合によって本発明のポリペプチドと結合していてもよい。エフェクター分子が、共有結合によって本発明のポリペプチドに結合している場合、該ポリペプチドのN末端、C末端のいずれの部分と融合していてもよい。エフェクター分子が、第2のアミノ酸配列のC末端と融合して、融合ポリペプチドを形成するのが好ましい。この融合ポリペプチドにおいては、第2のアミノ酸配列とエフェクター分子のアミノ酸配列との間に1以上(例えば2、3、4または5)のアミノ酸が存在していてもよい。
【0031】
最も好ましい本発明のポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列の第2〜606番目のアミノ酸残基を含むか、配列番号3のアミノ酸配列の第1〜606番目のアミノ酸残基を含むか、または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる。
【0032】
本発明のポリペプチドは、別のペプチド、例えば、精製を容易にするためのペプチド、特に、抗体の適用が可能なエピトープペプチド(例えば、FLAGペプチドなど)を適宜含んでもよい。このようなペプチドを含む融合タンパク質は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによる精製を、迅速、特異的かつ/または穏和に実施できるため有利である。前記ペプチドは、融合タンパク質のN末端、組換え抗体とエフェクター分子との間、融合タンパク質のC末端のいずれに配置されてもよいが、融合タンパク質のN末端またはC末端に配置されるのが好ましく、N末端に配置されるのが特に好ましい。これらのコンストラクトは、さらに切断部位を含むことが好ましく、それにより、例えば、エンテロキナーゼ、ファクターXaなどの酵素による切断、または当技術分野で公知の化学的方法によってこの切断部位から融合タンパク質を遊離することができる。これらのコンストラクトは、前記ペプチドおよび/または前記切断部位と、組換え抗体とが容易に結合できるように、1以上、例えば、1〜10、とりわけ2程度のアミノ酸からなるペプチドスペーサーをさらに含んでもよい。前記切断部位は、組換え抗体およびエフェクター分子を含む融合タンパク質を必要に応じて容易に遊離できるように、好ましくはin vitroで容易に遊離できるように配置される。例えば、scFv(FRP5)−ETAで示される融合タンパク質を含むタンパク質コンストラクトにおいて、FLAGペプチドおよびエンテロキナーゼ切断部位がスペーサーに連結され、Fv重鎖/軽鎖の可変ドメインおよび外毒素Aを含む融合タンパク質の上流に配置される。必要に応じて、好ましくは上記タンパク質のアフィニティ精製の後に、エンテロキナーゼによってFLAGペプチドを切り離すことにより、一本鎖抗体Fv(FRP5)および外毒素Aを含む融合タンパク質を生成できる。
【0033】
本発明の別の態様は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。一般に、「ポリヌクレオチド」とは、変更を加えたRNAまたはDNAであっても、変更を加えていないRNAまたはDNAであってもよい、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを表す。ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のDNAであっても、一本鎖または二本鎖のRNAであってもよい。本明細書に用いられる「ポリヌクレオチド」には、1つ以上の修飾塩基および/または例外的な塩基(例えば、イノシンなど)を含むDNAやRNAも含まれる。当然のことながら、当業者に公知の多くの有用な目的に合致するように、様々な変更をDNAやRNAに対して加えてもよい。このように、本明細書で用いられる「ポリヌクレオチド」は、例えば単純細胞や複雑型細胞を含むウイルスおよび細胞に特有のDNAやRNAの化学的形態だけでなく、化学的、酵素的または代謝的に変化した形態のポリヌクレオチドも包含する。
【0034】
配列番号11で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが好ましく、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがより好ましい。配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがさらに好ましい。最も好ましいポリヌクレオチドは、配列番号2で表されるヌクレオチド配列または配列番号4で表されるヌクレオチド配列を含む。
【0035】
本発明のポリヌクレオチドは、単離ポリヌクレオチドが好ましい。「単離」ポリヌクレオチドとは、他の核酸配列、例えば他の染色体のDNAやRNA、他の染色体外のDNAやRNAなど(ただし、これらに限定されない)を実質的に含まないポリヌクレオチドを表す。単離ポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製されたものでもよく、当業者に公知の慣用の核酸精製方法を用いて、単離ポリヌクレオチドを得ることができる。「単離」ポリヌクレオチドはさらに、組換えポリヌクレオチドおよび化学合成されたポリヌクレオチドを含む。
【0036】
本発明のさらに別の態様は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターのプラスミドである。「プラスミド」および「ベクター」は、染色体外構成要素を意味し、該構成要素は多くの場合細胞の中央代謝に属さない遺伝子を含み、通常、環状の二本鎖DNA断片の形態をとる。このような構成要素としては、自律複製配列、ゲノム組込み型配列、ファージ、またはあらゆる起源の一本鎖もしくは二本鎖のDNAやRNAで鎖状もしくは環状のヌクレオチド配列などが挙げられる。このような構成要素において、様々なヌクレオチド配列の連結または組換えによって独自のコンストラクトが形成され、このコンストラクトによって、選択した遺伝子産物を得るためのプロモーター断片やDNA塩基配列が、適切な3’非翻訳配列と共に細胞へ導入される。通常、プラスミドまたはベクター内の本発明のポリヌクレオチドは、1つ以上の発現調節配列に作用可能に連結している。
【0037】
「作用可能に連結する」とは、1つの核酸断片上で核酸配列同士が連結して、一方が他方の機能に影響を及ぼすことができる状態を意味する。例えば、プロモーターがコード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合(すなわち、コード配列がプロモーターの転写調節下にある場合)、前記プロモーターは、前記コード配列と作用可能に連結していることになる。コード配列は、センス方向、アンチセンス方向のいずれの向きにも調節配列と作用可能に連結できる。「プロモーター」は、遺伝子の転写開始点より上流に位置するDNA塩基配列で、遺伝子の転写開始に必要なRNAポリメラーゼおよび/またはその他のタンパク質の認識と結合に関わる。通常、遺伝子の発現条件はプロモーターによって決まる。本明細書に用いられるプロモーターと、該プロモーターに作用可能に連結された本発明のポリヌクレオチドの起源は通常異なる。
【0038】
ベクターは、一般に、互換性のある宿主細胞と共同で2つの機能を発揮する。1つの機能は、免疫グロブリンの可変領域をコードする核酸のクローニングを促進すること、つまり、利用可能な量の核酸を産生することである(クローニングベクター)。もう一方の機能は、ベクターが染色体外因子として保持される、または宿主染色体に組込まれることによって、適切な宿主内で組換え遺伝子コンストラクトの複製と発現を行うことである(発現ベクター)。クローニングベクターは、上記のような組換え遺伝子コンストラクト、複製開始点または自律複製配列、および優性のマーカー配列を含み、任意でシグナル配列および追加の制限酵素認識部位を含む。発現ベクターは、これらに加えて、組換え遺伝子の転写と翻訳に不可欠な発現調節配列をさらに含む。
【0039】
複製開始点または自律複製配列は、シミアンウイルス40(SV40)といったウイルスなどに由来する外来性の複製起点を含むベクターを構築することにより提供されるか、または宿主細胞の染色体機構から提供される。
【0040】
マーカーは、当該ベクターを含む宿主細胞の選択を可能にする。選択マーカーとしては、銅などの重金属、もしくはジェネティシン(G−418)、カナマイシン、ハイグロマイシンなどの抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子、またはチミジンキナーゼ、ヒポキサンチンホスホリル転移酵素、ジヒドロ葉酸還元酵素等の欠損といった宿主細胞の遺伝子損傷を補完する遺伝子などが挙げられる。
【0041】
シグナル配列としては、例えば、組換え抗体の分泌を指示するプレ配列や分泌リーダー、またはスプライシングシグナルなどが挙げられる。組換え抗体の分泌を指示するシグナル配列としては、例えば、ompA遺伝子、pelB(ペクチン酸リアーゼ)遺伝子またはphoA遺伝子のシグナル配列が挙げられる。
【0042】
ベクターDNAは、発現調節配列として、プロモーター、転写の開始と終結に必要な配列、およびmRNAの安定化に必要な配列を含み、任意でエンハンサーおよびさらなる制御配列を含む。
【0043】
宿主細胞の特徴に応じて、種々のプロモーター配列を用いることができる。強力で規則正しく機能するプロモーターが最も有用である。翻訳開始配列としては、例えば、シャイン−ダルガノ配列が挙げられる。転写の開始と終結に必要な配列、およびmRNAの安定化に必要な配列は、一般に、ウイルスcDNAまたは真核生物cDNAの5’非コード領域および3’非コード領域のもの(例えば、発現宿主由来のもの)をそれぞれ利用できる。エンハンサーとしては、ウイルス(例えば、シミアンウイルス、ポリオーマウイルス、ウシ乳頭腫ウイルスまたはモロニー肉腫ウイルス)由来、またはゲノム由来(特にマウス由来)の転写促進に関わるDNA塩基配列が挙げられる。
【0044】
大腸菌株内での複製と発現に好適なベクターとしては、例えばバクテリオファージλ誘導体などのバクテリオファージや、プラスミド、具体的には、プラスミドColE1およびその誘導体(例えばpMB9、pSF2124、pBR317、pBR322およびその誘導体(例えば、pUC9、pUCK0、pHRi148およびpLc24など)など)が挙げられる。好適なベクターは、完全なレプリコン、マーカー遺伝子および制限酵素認識配列を含み、外来性DNAと、該当する場合、発現調節配列とを上記制限酵素認識配列に挿入することができる。また、好適なベクターは、任意でシグナル配列とエンハンサーを含む。
【0045】
微生物由来プロモーターとしては、例えば、温度感受性リプレッサーにより制御され、左方向への転写開始に関わる、バクテリオファージλ由来の強力なPLプロモーターが挙げられる。また、例えば、lac(ラクトース)リプレッサーにより調節され、イソプロピル−β−D−チオガラクトシドにより誘導されるlacプロモーター、trp(トリプトファン)リプレッサーにより調節され、トリプトファン欠乏などにより誘導されるtrpプロモーター、およびlacリプレッサーにより調節されるtacプロモーター(trp−lacハイブリッドプロモーター)などの大腸菌プロモーターも好適である。
【0046】
酵母内での複製と発現に好適なベクターは、酵母の複製開始点および酵母選択的な遺伝子マーカーを含む。このようなベクターとして、複製開始点としていわゆるars配列(自律複製配列)を含むベクター群が挙げられる。このベクター群は、酵母細胞を形質転換した後、酵母細胞内の染色体外に保持され、自律的に複製する。さらに、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来の2ミクロンプラスミドDNAの全配列またはその一部を含むベクターを用いることもできる。このベクターは、組換えによって、細胞内に既に存在する2ミクロンプラスミドに組み込まれるか、または自律的に複製する。高い形質転換率と高いコピー数が求められる場合、この2ミクロン配列は特に好適である。
【0047】
酵母内での発現に好適な発現調節配列としては、例えば高発現する酵母遺伝子の発現調節配列が挙げられる。したがって、TRP1遺伝子、ADHIもしくはADHII遺伝子、酸性ホスファターゼ(PHO3またはPHO5)遺伝子、およびイソチトクロム遺伝子のプロモーター;またはエノラーゼ遺伝子、グリセロアルデヒド−3−リン酸キナーゼ(PGK)遺伝子、ヘキソキナーゼ遺伝子、ピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子、ホスホフクルトキナーゼ遺伝子、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ遺伝子、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ遺伝子、ピルビン酸キナーゼ遺伝子、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子、ホスホグルコースイソメラーゼ遺伝子およびグルコキナーゼ遺伝子のプロモーターなどの、解糖系に関わるプロモーターを用いることができる。
【0048】
哺乳動物細胞内での複製と発現に好適なベクターは、シミアンウイルス40(SV40)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、アデノウイルス2型、ウシ乳頭腫ウイルス(BPV)、パポーバウイルスBK変異体(BKV)、またはマウスもしくはヒトサイトメガロウイルス(CMV)などのウイルスのDNAに由来するプロモーター配列を備えていることが好ましい。また、上記ベクターは、アクチン、コラーゲン、ミオシンなどの、哺乳動物の発現産物に対するプロモーター、または所望の遺伝子配列に通常関連する内因性のプロモーターや調節配列(すなわち、免疫グロブリンの重鎖プロモーターまたは軽鎖プロモーター)を含んでもよい。
【0049】
原核、真核のいずれの宿主細胞にも好適で、ウイルス複製システムに基づくベクターが好ましく、シミアンウイルスプロモーター(例えば、pSVgpt、pSVneoなど)を含み、エンハンサー(例えば、免疫グロブリン遺伝子配列に通常関連するエンハンサー、具体的にはマウスIgの重鎖エンハンサーまたは軽鎖エンハンサー)をさらに含むベクターが特に好ましい。
【0050】
例えば、形質転換した宿主細胞を培養し、適宜、調製したDNAを単離することにより、本発明の組換え抗体をコードする組換えDNAを調製できる。
【0051】
本発明の別の態様は、本発明のプラスミドもしくはベクターによって形質転換された、かつ/または該プラスミドもしくはベクターを含む宿主細胞である。好適な宿主細胞としては、原核細胞、真核細胞(例えば哺乳動物細胞)、酵母細胞、細菌(例えば大腸菌)などが挙げられるが、好ましくは、大腸菌である。好適な宿主細胞と形質転換手技は、米国特許第5,939,531号に記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0052】
また本発明は、宿主細胞の培養方法および本発明のポリペプチドの調製方法に関する。本発明の1つの態様は、本発明のポリペプチドの調製方法で、該方法は、本明細書に記載の宿主細胞を好適な条件下で培養する工程と、本発明のポリペプチドを回収する工程とを含む。米国特許第5,939,531号に、宿主細胞の培養方法、ならびに一本鎖組換え抗体およびその断片の生成方法が記載されている。これらの方法は、本発明の宿主細胞および本発明のポリペプチドに準用可能で、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0053】
本発明の別の態様は、ErbB2の異常な活性および/または発現を伴う疾患(例えば癌や腫瘍)に対する治療剤を製造するための、本発明のポリペプチドまたは本発明のポリヌクレオチドの使用である。このような疾患としては、例えば、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、扁平上皮癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、膵癌、胃癌、唾液腺癌、耳下腺腫瘍、黒色腫、子宮頚癌、膵癌、結腸癌および結腸直腸癌、膀胱癌、髄芽腫、腎臓癌、肝臓癌ならびに胃癌などが挙げられるが、これらに限定されない。このような疾患には、転移および/または微小残存病変も含まれる。
【0054】
したがって、本発明は、医薬組成物(例えば、成長因子受容体c−erbB−2を過剰発現する腫瘍の治療に用いる)にも関する。該医薬組成物は、治療上有効量の本発明のポリペプチドおよび、薬学的に許容されるキャリア、希釈液または溶媒を含み、好ましくは、非経口用医薬組成物である。筋肉内、皮下、または静脈内投与用の組成物としては、例えば、等張の水溶液剤または懸濁剤などが挙げられ、使用直前に凍結乾燥製剤または濃縮製剤より調製されたものであってもよい。油中懸濁剤は、油状成分として、注射用に通常用いられる植物油、合成油または半合成油を含む。本発明の医薬組成物は滅菌されていてもよく、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩類、緩衝剤および/または粘性を調節する化合物(例えば、カルボキシセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストラン、ポリビニルピロリジン、ゼラチンなど)などが挙げられる。
【0055】
本発明の医薬組成物は、約0.001〜50%の有効成分を含む。本発明の医薬組成物の形態としては、例えば、即時使用可能なアンプルまたはバイアルなどの投与単位剤形、または凍結乾燥した固形物などが挙げられる。
【0056】
本発明のポリペプチドの哺乳動物に対する治療上有効量は、ポリペプチドの種類、患者の状態および投与方法によって異なるが、一般にkg体重当たり約0.1〜100μg、より好ましくは1〜50μg、さらに好ましくは5〜25μgである。具体的な投与方法や適切な投与量は、主治医が患者の特性、病状および治療する腫瘍の種類などを考慮して選択する。本発明の医薬組成物は、当技術分野で公知の方法、例えば、混合、溶解、調合(confectioning)、凍結乾燥などの慣用的な操作によって調製される。注射用医薬組成物は、当技術分野で公知の方法に従って処理され、次いでアンプルまたはバイアルへ充填され無菌状態で密封される。
【0057】
一実施形態において、本発明のポリペプチドを別の抗癌治療と組み合わせて投与する。国際公開公報WO03/024442 A2において「第2の治療薬」として指定された抗癌治療は、すべて本明細書に援用される。
【0058】
さらに別の態様において、本発明は、受容体型チロシンキナーゼErbB2の細胞外ドメインに対する一本鎖組換え抗体の産生量を向上させる方法に関する。該方法は、配列番号9のコドン92からの翻訳開始を防ぐことを含む。これは、内部コドン92(メチオニン92)から翻訳が開始されることのないように配列番号10の第262〜270番目のヌクレオチドのうち1つ以上を変異させることにより達成できる。ヌクレオチドの置換は、コードされるアミノ酸配列が変わらないような形で行われてもよい。
【0059】
第262〜270番目のヌクレオチド配列として、3つの例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【表1】

【0060】
また、第262〜270番目のヌクレオチド配列がコードするアミノ酸残基、すなわちリジン、セリンまたはグルタミン酸を、天然または非天然の、化学的に類似したまたは類似しない他のアミノ酸で置換してもよく、これらのアミノ酸残基が、化学修飾されたヌクレオチドによりコードされていてもよい。
【0061】
また、上述の通り、配列番号9のアミノ酸配列においてメチオニン92を他のアミノ酸で置換してもよい。他のアミノ酸としてはセリンが好ましい。さらに、上述の通り、配列番号9のアミノ酸配列においてメチオニン92を他のアミノ酸で置換せずに欠失させてもよい。この実施形態を、配列番号12のアミノ酸配列に示す。
【実施例】
【0062】
<実施例1> 変異体発現コンストラクトの分子クローニング
【0063】
方法
scFv(FRP5)−ETA発現ベクターの構築
プラスミドpSW220−5については既に文献に記載されている(非特許文献7)。該プラスミドは、1つのオープンリーディングフレームにN末端FLAGタグ、第1のHisクラスター、ErbB2特異的なscFv(FRP5)、第2のHisクラスターおよび末端切断型緑膿菌(Pseudomonas)外毒素A(野生型毒素の第252〜613番目の残基に相当)をそれぞれコードする配列を含む。プラスミドpSES211(未発表;TopoTarget Germany AGより提供)は、pSW220−5に由来する、scFv(FRP5)−ETA発現のためのオープンリーディングフレームを含む。pSW220−5と同様に第1のN末端Hisクラスターは保持されているが、N末端FLAGタグおよび、scFv(FRP5)配列と外毒素A配列との間の内部Hisクラスターは欠失している。pSES211に残存するN末端Hisクラスターを欠失させることにより、プラスミドpSES212が得られた。このプラスミドを作製するために、まず、プラスミドpSES211を鋳型として、オリゴヌクレオチドプライマー5’NdeI−scFv(FRP5)、すなわち5’−CGATTAGCATATGCAGGTACAACTGCAGCAGTCAGGACC−3’(配列番号5)と3’XbaI−scFv(FRP5)、すなわち5’−GCTGCCGCCCTCTAGAGCTTTGATCTC−3’(配列番号6)(BioSpring, Frankfurt, Germany)を用いてPCRを行った。この反応によって、N末端Hisクラスターのコード配列を持たないscFv(FRP5)断片の配列が増幅された。このPCR産物を、TA−クローニング(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を用いてベクターpCR2.1へサブクローニングした。得られたプラスミドをNdeIおよびXhoIで消化し、得られたscFv(FRP5)断片を、同じ酵素で消化したpSES211に挿入することにより、プラスミドpSES212が得られた。プラスミドpSES212を鋳型として、オリゴヌクレオチドプライマーpSES212_M92S_sense、すなわち5’−CCTCAAAAGTGAAGACTCGGCTACATATTTCTGTGC−3’(配列番号7)とpSES212_M92S_as、すなわち5’−GCACAGAAATATGTAGCCGAGTCTTCACTTTTGAGG−3’(配列番号8)(BioSpring)を用いてPCRを行った。これによりメチオニン92からセリンへの部位特異的変異が起こり、この変異をプラスミドpSES212に導入することにより、プラスミドpSES213が得られた。すべての発現ベクターのDNA塩基配列をDNAシークエンスにより確認した。
【0064】
結果
scFv(FRP5)−ETAコード領域の変異に対する基準物質として、発現プラスミドpSES212(未発表)を用いた。pSES212内のscFv(FRP5)−ETAコード領域は、pSW220−5の対応領域に存在する、N末端FLAGタグおよび2つのHisクラスターをそれぞれコードする配列が欠失している(図1Aを参照)。さらに、pSES212は、scFv(FRP5)−ETA配列以外のベクターのバックボーンもpSW220−5とは異なる。しかし、これらの違いは、本発明においては大して重要ではない。図2A(左レーンと中央レーン)に示すように、pSES212またはpSW220−5発現ベクターを用いた場合、副産物である末端切断型scFv(FRP5)−ETAが同程度産生される。シークエンス分析によって、scFv(FRP5)抗体の重鎖内にある相補性決定領域3(CDR3)に近いフレームワーク領域3内、すなわちオープンリーディングフレームの第274〜276番目のヌクレオチド(pSES212のscFv(FRP5)−ETAのコドン92に対応する(図1Bを参照))に内部ATGコドン(mRNAレベルではAUGに相当し、内部の潜在的な開始コドンとなる)が存在することをつきとめた。さらに、この潜在的な開始コドンの上流にある第262〜270番目のヌクレオチド(図1B;下線部)に、シャイン−ダルガノ配列と中程度の類似性を持つ配列が存在する。
【0065】
この内部ATG/AUGコドンを変異させることによって望ましくない副産物の生成を防ぐことが可能かどうか調べるために、変異体発現プラスミドpSES213を作製した。pSES213は、変異を有し、92番目のコドンがATGからTCGに置換されている。その結果、該コドンがコードするアミノ酸残基はメチオニン(Met;M)ではなくセリン(Ser;S)になる(図1を参照)。その他の点においては、pSES213はpSES212と同一である。メチオニンの代わりにセリンを選んだ理由としては、サブグループVに属する他のマウス抗体重鎖では、対応する位置にセリンが存在すること(非特許文献13)、さらに、セリンとメチオニンでは等電点や側鎖の長さが類似していることが挙げられる。
【0066】
本発明の別の実施形態において、メチオニン以外のアミノ酸をコードするようにコドン92を置換するもしくはコドン92を欠失させる、および/またはシャイン−ダルガノ配列に類似しないようにもしくはシャイン−ダルガノ配列として機能しないように第262〜270番目のヌクレオチド配列を変異させることによって、同様に上記の問題を解決してもよい。
【0067】
<実施例2> 大腸菌におけるscFv(FRP5)−ETA誘導体の発現
【0068】
方法
大腸菌におけるscFv(FRP5)−ETA誘導体の発現、封入体の調製、可溶化およびリフォールディング
発現プラスミドpSW220−5、pSES212またはpSES213を用いて、大腸菌DH5αを形質転換した。1Lの発現培養物(LB、0.5%グルコース、および50μg/mlカナマイシン(pSES212またはpSES213の場合)または100μg/mlアンピシリン(pSW220−5の場合)を含む)を、OD600が0.8になるまで37℃で培養した。その後、培養物に0.5mM IPTGを添加して、3時間発現誘導を行った。遠心分離(7,500g、10min)により回収した細胞を、PBSに再懸濁し、フレンチプレス細胞破砕機(French pressure cell)を用いて溶解した。遠心分離(10,000g、10min、4℃)により回収した封入体を、洗浄バッファー(2M尿素、2%Triton X−100および500mM NaClを含有するPBS(pH8))に再懸濁し、その後遠心分離(10,000g、10min、4℃)を行って封入体を洗浄した。精製した封入体を可溶化バッファー(8M尿素および500mM NaClを含有するPBS(pH8))に再懸濁した。これを遠心分離した後、上清画分をPBS(pH7.4)で透析した。遠心分離(40,000g、30min、4℃)後、0.22μmフィルターでろ過して沈殿を除去した。得られたタンパク質を小分けにして−80℃で保存した。
【0069】
結果
scFv(FRP5)−ETA誘導体を生成するために、pSW220−5、pSES212またはpSES213を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、それぞれLBKan寒天プレート(pSES212およびpSES213の場合)またはLBAMP寒天プレート(pSW220−5の場合)上で形質転換体を選別した。シングルコロニーを1Lの発現培養液に植菌し、これを下記「材料と方法」セクションに記載の通りに培養して発現誘導を行った。この培養物から得られた細胞ペレットをPBSに再懸濁し、フレンチプレス細胞破砕機(French pressure cell)を用いて細胞を溶解した。scFv(FRP5)−ETAタンパク質は、主に、この溶解物の不溶性画分に存在した(データ示さず)。遠心分離により回収した封入体を、2M尿素および2%Triton X−100を含むバッファーで洗浄した後、8M尿素を含むバッファーを用いて変性させた。これを遠心分離した後、上清画分をPBSで透析することによりタンパクを再生させた。この部分的に精製された再生タンパク質に対して、SDS−PAGEと次いでクマシー染色を実施し分析を行った(図2Aを参照)。各タンパク質をscFv(FRP5)−ETAまたはscFv(FRP5−M92S)−ETAとして表し、続いて、括弧内に発現ベクター名を表示した[scFv(FRP5)−ETA(220−5)、scFv(FRP5)−ETA(212)、scFv(FRP5−M92S)−ETA(213)]。いずれの発現培養物においても、再生された可溶性タンパク質の収量は、一様に約30〜50mgであった。図2Aに示すように、得られたscFv(FRP5)−ETA(220−5)とscFv(FRP5)−ETA(212)のそれぞれのタンパク質調製物は、主要な副産物(黒矢印)を含み、この副産物は、SDS−PAGEにおいて全長生成物(白矢印)のバンドの直下に現れた。一方、このような望ましくない副産物は、全く同様のプロトコールに従って単離したscFv(FRP5−M92S)−ETA(213)調製物には含まれなかった。
【0070】
驚くべきことに、これらのデータから、コドン92をATGからTCGに置換して、これに対応するアミノ酸残基をメチオニンからセリンに置換することは、副産物の生成を完全に防ぐ上で必要十分であることが示された。
【0071】
<実施例3> scFv(FRP5−M92S)−ETAの生物活性
【0072】
方法
細胞および培養条件
大腸菌β−ガラクトシダーゼ単独、または大腸菌β−ガラクトシダーゼおよびヒトErbB2を安定発現するマウス腎癌細胞(それぞれ、Renca−lacZ、Renca−lacZ/ErbB2)(非特許文献8)を、10%熱不活化FBS、2mMグルタミン、100unit/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、0.25mg/ml Zeocin(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)および0.48mg/ml G418(Renca−lacZ/ErbB2の場合のみ)を含むRPMI1640培地でそれぞれ維持した。
【0073】
細胞の生存率アッセイ
通常の増殖培地を用いて、1.5×10細胞/ウェルの濃度になるように96穴プレートに細胞を播種した。希釈液のみまたは様々な濃度に調製したscFv(FRP5)−ETA融合タンパク質をそれぞれ加え、これらの細胞を5%CO−95%加湿空気の環境下で37℃、48時間インキュベートした。各試料につき3ウェルずつ用いた。各ウェルに10mg/ml MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(Sigma, Deisenhofen, Germany))含有PBS溶液を10μlずつ加えて、細胞をさらに3時間インキュベートした。その後、20%SDSを含む50%ジメチルフォルムアミド溶液(pH4.7)を90μl添加して、細胞を溶解した。可溶化処理後、マイクロプレートリーダーで590nmの吸光度を測定することにより、茶色を呈するホルマザン代謝物質の形成に基づく発色の強度を定量化した。細胞の入っていないセルをブランクとした。
【0074】
結果
ヒトErbB2を発現するマウスRenca−lacZ/ErbB2腎癌細胞および、コントロールとしてErbB2陰性Renca−lacZ腎癌細胞を用いたMTT代謝アッセイ(非特許文献8)により、各scFv(FRP5)−ETA誘導体の腫瘍細胞に対する殺細胞能における選択性と有効性を評価した。scFv(FRP5−M92S)−ETA(213)タンパク質と並行して発現・精製を行って得られたscFv(FRP5)−ETA(220−5)タンパク質を細胞傷害活性アッセイの標準物質として用いた。標的細胞を漸増濃度(increasing concentrations)の融合タンパク質とともに48時間インキュベートした。細胞を溶解し、可溶化処理を行った後、マイクロプレートリーダーで590nmの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を定量化した(図2B)。細胞の入っていないセルをブランクとした。10μg/ml以下の供試濃度では、scFv(FRP5)−ETA融合タンパク質およびscFv(FRP5−M92S)−ETA融合タンパク質は、ErbB2陰性Renca−lacZ細胞の生存に影響を及ぼさなかった(図2B)。一方、ErbB2陽性Renca−lacZ/ErbB2細胞に対しては、scFv(FRP5)−ETA融合タンパク質およびscFv(FRP5−M92S)−ETA融合タンパク質は、濃度依存的に十分な殺細胞能を同等に発揮した(図2B)。図2Cは、様々な供試濃度における、scFv(FRP5−M92S)−ETAのscFv(FRP5)−ETAに対する殺細胞活性比を示す。1.00に近い値は、有意差がないことを示す。得られた値から、生物活性においてscFv(FRP5−M92S)−ETAとscFv(FRP5)−ETAとの間に有意差は見られないことが示された。
【0075】
驚くべきことに、これらのデータから、コドン92をATGからTCGに置換して、これに対応するアミノ酸残基をメチオニンからセリンに置換しても、scFv(FRP5)−ETAの生物活性は影響を受けないことが示された。scFv(FRP5−M92S)−ETAの抗腫瘍活性は、scFv(FRP5)−ETAと区別できないほど類似しており、また、ErbB2を発現する腫瘍細胞に対する選択性も保持される。
【0076】
本明細書に記載の本発明の様々な実施形態は、互いに組み合わせることができる。
【0077】

【0078】

【0079】

【0080】

【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号11の第2〜120番目のアミノ酸残基を含む第1のアミノ酸配列と、配列番号11の第136〜242番目のアミノ酸残基を含む第2のアミノ酸配列とを含むポリペプチドであって、前記第1のアミノ酸配列と前記第2のアミノ酸配列がペプチドスペーサー基によって連結しているポリペプチド。
【請求項2】
前記第1のアミノ酸配列が、配列番号1の第2〜120番目のアミノ酸残基を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記第1のアミノ酸配列が、配列番号1の第1〜120番目のアミノ酸残基からなることを特徴とする請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号11、配列番号1および配列番号12から選ばれるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項5】
エフェクター分子をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
エフェクター分子が、細胞致死活性を有するポリペプチドであることを特徴とする請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項7】
細胞致死活性を有するポリペプチドが毒素であるか、または生物活性を有するその変異体であることを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
毒素が緑膿菌(Pseudomonas)外毒素であるか、または生物活性を有するその変異体であることを特徴とする請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
エフェクター分子が、細胞致死活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項5に記載のポリペプチド。
【請求項11】
細胞致死活性を有する化学物質が、化学療法剤、細胞毒性化合物および細胞増殖抑制性化合物からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項12】
細胞致死活性を有する化学物質が、放射性物質であることを特徴とする請求項10に記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号2で表されるヌクレオチド配列を含む請求項13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号4で表されるヌクレオチド配列を含む請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
1つ以上の発現調節配列と作用可能に連結した請求項13〜15のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むプラスミドまたはベクター。
【請求項17】
複製開始点または自律複製配列、1つ以上のマーカー配列および、任意で追加の制限酵素認識部位をさらに含む請求項16に記載のプラスミドまたはベクター。
【請求項18】
請求項16または17に記載のプラスミドまたはベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項19】
大腸菌であることを特徴とする請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
請求項18または19に記載の宿主細胞を好適な条件下で培養する工程と、一本鎖組換え抗体またはその断片を回収する工程とを含む、一本鎖組換え抗体またはその断片の調製方法。
【請求項21】
ErbB2の異常な活性および/または発現を伴う疾患に対する治療剤を製造するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは請求項13〜15のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドの使用。
【請求項22】
治療対象の疾患が、癌であることを特徴とする請求項21に記載の使用。
【請求項23】
癌が、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、扁平上皮癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、膵癌、胃癌、唾液腺癌、耳下腺腫瘍、黒色腫、子宮頚癌、膵癌、結腸癌および結腸直腸癌、膀胱癌、髄芽腫、腎臓癌、肝臓癌ならびに胃癌からなる群より選ばれることを特徴とする請求項22に記載の使用。
【請求項24】
配列番号10のコドン92からの翻訳開始を防ぐことを含む、受容体型チロシンキナーゼErbB2の細胞外ドメインに対する一本鎖組換え抗体の産生量を向上させる方法。
【請求項25】
配列番号10を含むポリヌクレオチドにおいて、配列番号10の第262〜270番目の塩基配列中の1つ以上のヌクレオチドを変異させることを含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
配列番号10のヌクレオチド配列において、コドン92をメチオニン以外のアミノ酸をコードするコドンで置換することを含む請求項24に記載の方法。
【請求項27】
メチオニン以外のアミノ酸が、セリンであることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
コドン92を欠失させることを含む請求項24に記載の方法。

【図2】
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【公表番号】特表2010−532977(P2010−532977A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515413(P2010−515413)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005632
【国際公開番号】WO2009/010228
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(506361904)トポターゲット ジャーマニィ アーゲー (4)
【Fターム(参考)】