説明

細菌によって媒介される遺伝子サイレンシングのための組成物およびその使用方法

【課題】1以上の小さな干渉性RNA(siRNA)を安全に真核生物細胞に送達する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、細菌を用いてsiRNAを真核生物細胞に送達する方法を提供する。また、本発明は、RNA干渉を用いて真核生物細胞において遺伝子発現を調節するためにこの細菌を用いる方法、および細胞増殖性障害から癌を治療する方法も提供する。該細菌は1以上のsiRNA、または1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含む。真核生物細胞においてRNA干渉を引き起こすための本発明の細菌と共に用いるためのベクターもまた、本発明によって提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(背景)
短い干渉性RNA(siRNA)の使用によるRNAi(RNA−干渉)を通じての遺伝子サイレンシングは分子生物学のための強力なツールとして出現し、治療的遺伝子サイレンシングで用いられる潜在能力を保有する。標的細胞内で小さなDNAプラスミドから転写された短いヘアピンRNA(shRNA)は、化学的に合成されたsiRNAでのトランスフェクションによって得られたものに匹敵するレベルにおいて、安定な遺伝子サイレンシングを媒介し、遺伝子ノックダウンを達成することも示されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0002】
治療目的でのRNAiの可能な適用は高価であって、癌遺伝子またはウイルス遺伝子のような病気遺伝子のサイレンシングおよびノックダウンを含む。RNAiの治療的使用のための1つの主な障害は、標的細胞へのsiRNAの送達である(非特許文献3)。事実、送達は、RNAiについての現在主なハードルとして記載されてきた(Nature news featureによって引用された非特許文献4)。
【0003】
マウスモデルで用いることができる2つの方法が記載されている:
(1)siRNAまたはshRNA−コーディングプラスミドの直接的流体力学的静脈内注射:この方法を用い、幾人かの著者は、種々の疾患、例えば、B型肝炎(非特許文献5)、劇症肝炎(非特許文献6)、腫瘍異種移植片(非特許文献7)、肝臓導入遺伝子の発現(非特許文献8、非特許文献9)に対するRNAiの適用を記載してきた。この方法は、マウス尾静脈への高圧および高容量注射(2.5ml)を用いる。細胞へのsiRNA/DNA取り込みのメカニズムは明らかでないが、恐らくは、血管内皮細胞層への機械的損傷が関連する。この方法の明らかな不利は、これはかなりの容量のチャージおよび完全に知られていない作用メカニズムを含むので、ヒト適用に開発することができる方法ではない点である。
【0004】
(2)siRNAをコードするアデノウイルスベクターの標的組織(脳)への直接的注射(非特許文献10)。この方法は、アデノウイルスベクターによって到達された脳組織における導入遺伝子(GFP)発現のサイレンシングを示した。しかしながら、サイレンシングの領域は信頼性を持って予測できなかった。この方法はさらに開発し、局所的な、例えば、腫瘍内注射に適用できるようになろう。ウイルスベクターは遺伝子治療目的で広く用いられてきたが、遺伝子治療実験から学んだ1つのレッスンは、ウイルス拡大が時々予測できず、望まない副作用に導きかねないことである(非特許文献11)。干渉性RNAの哺乳動物への安全かつ予測可能な投与のための新しい方法が要求される。
【非特許文献1】T.R.Brummelkamp,R.Bernards,R.Agami,Science,2002年,第296巻,p.550
【非特許文献2】P.J.Paddison,A.A.Caudiy,G.J.Hannon.,PNAS,2002年,第99巻,p.1443
【非特許文献3】ZamorePD,Aronin,N.Nature Medicine,2003年,第9巻,第3号,p.266−8
【非特許文献4】Phillip Sharp,2003年,第425号,p.10−12
【非特許文献5】A.P.McCaffreyら,Nat Biotechonol.,2003年6月,第21巻,第6号,p.639−44
【非特許文献6】E.Song S.K.Lee,J.Wang N.Ince,J.Min,J.Chen,P.Shankar,J.Lieberman.,Nature Medecine,2003年,第9巻,p.347
【非特許文献7】Spaenkuch B,ら,JNCI,2004年,第96巻,第1号,p.862−72
【非特許文献8】D.L.Lewis,J.E.Hagstrom,A.G.Loomis,J.A.Wolff.H.Hereijer,Nature Genetics2002年,第32巻,p.107
【非特許文献9】D.R.Sorensen DR,M.Leirdal,M.Sioud,JMB,2003年,第327巻,p.761
【非特許文献10】H.Xia,Q.Mao,H.L.Paulson,B.L.Davidson,Nat Biotechnol,2002年,第20巻,p.1006
【非特許文献11】Marshall E.Science,1999年,第286巻,第5448号,p.2244−5
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、一般には、細菌を細胞に導入することによって1以上のsiRNAを真核生物細胞に送達する方法に関し、ここで、該細胞は1以上のsiRNAまたは1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含有する。
【0006】
この方法の1つの具体例において、該真核生物細胞はイン・ビトロである。本発明のもう1つの具体例において、該真核生物細胞はイン・ビトロである。
【0007】
また、本発明は、細菌を細胞に導入することによって、真核生物細胞における遺伝子発現を調節する方法に関し、ここで、該細菌は1以上のsiRNAまたは1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含有し、ここで、発現されたsiRNAは調節すべき遺伝子のmRNAと干渉し、それにより、遺伝子の発現を調節する。
【0008】
この方法の1つの具体例において、発現されたsiRNAは細胞の多酵素複合体RISC(RNA−誘導サイレンシング複合体)に指令して、調節すべきmRNAと相互作用させる。この複合体はmRNAを分解する。これは遺伝子の発現を減少させるか、または阻害させる。この方法のもう1つの具体例において、該遺伝子はrasまたはβ−カテニンである。この具体例の1つの態様において、該rasはk−Rasである。
【0009】
本発明の前記方法の1つの具体例において、該真核生物細胞は哺乳動物細胞である。この具体例の1つの態様において、該哺乳動物細胞はヒト細胞である。
【0010】
また、本発明は、細菌を細胞に導入することにより、細胞増殖を増加させることが知られている細胞において遺伝子またはいくつかの遺伝子の発現を調節することによって、哺乳動物において癌または細胞増殖障害を治療または予防する方法に関する。該細菌は1以上のsiRNAまたは1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含有する。
【0011】
本発明のこの方法の1つの具体例において、該哺乳動物はヒトである。この方法のもう1つの具体例において、発現されたsiRNAは調節すべき遺伝子のmRNAと干渉する。この具体例の1つの態様において、発現されたsiRNAは、細胞の多酵素複合体RISC(RNA−誘導サイレンシング複合体)が、調節すべきmRNAと相互作用するよう指令する。この複合体はmRNAを分解する。これは遺伝子の発現を減少させるか、または阻害する。
【0012】
この方法のもう1つの具体例において、該遺伝子はrasまたはβ−カテニンである。この具体例の1つの態様において、該rasはk−Rasである。
【0013】
本発明のこの方法のもう1つの具体例において、該細胞は結腸癌細胞または膵臓癌細胞である。この具体例の1つの態様において、該結腸癌細胞はSW480細胞である。この具体例のもう1つの態様において、該膵臓癌細胞はCAPAN−1細胞である。
【0014】
本発明の前記方法の1つの具体例において、該細菌は非−病原性または非−ビルレントである。この具体例のもう1つの態様において、該細菌は治療用である。この具体例のもう1つの態様において、該細菌はListeria、Shigella、Salmonella、E.coliおよびBifidobacteriaeよりなる群から選択される減弱化株である。所望により、該Salmonella株はSalmonella typhimurium種の減弱化株である。所望により、該Salmonella typhimurium株はSL 7207またはVNP20009である。所望により、該E.coli株はBM 2710である。
【0015】
本発明の前記方法のもう1つの具体例において、1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子は真核生物細胞内で転写される。この具体例の1つの態様において、1以上のsiRNAはshRNAとして真核生物細胞内で転写される。この具体例のもう1つの態様において、1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子はRNA−ポリメラーゼIIIプロモーターを含有する。所望により、RNAポリメラーゼIIIプロモーターはU6プロモーターまたはH1プロモーターである。
【0016】
本発明の前記方法のもう1つの具体例において、1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子は細菌内で転写される。この具体例の1つの態様において、1以上のDNA分子は原核生物プロモーターを含有する。所望により、該原核生物プロモーターはT7プロモーターである。
【0017】
本発明の前記方法のもう1つの具体例において、1以上のDNA分子は、タイプIII輸出または細菌溶解を通じて真核生物細胞に導入される。この具体例の1つの態様において、細菌溶解は、細胞内活性抗生物質の添加によってトリガーされる。所望により該抗生物質はテトラサイクリンである。この具体例のもう1つの態様において、該細菌溶解は細菌代謝の減弱を介してトリガーされる。所望により、該代謝減弱は栄養要求性である。
【0018】
また、本発明は、1以上のsiRNAまたは1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含有する細菌に関する。
【0019】
本発明の1つの具体例において、該細菌は非−病原性または非−ビルレント細菌である。この具体例の1つの態様において、該細菌は治療用細菌である。
【0020】
本発明のもう1つの具体例において、該細菌はListeria、Shigella、Salmonella、E.coli、およびBifidobacteriaeよりなる群のメンバーから選択される減弱化株である。所望により、該Salmonella株はSalmonella typhimurium種の減弱化株である。所望により、該Salmonella typhimurium株はSL 7207またはVNP20009である。所望により、該E.coli株はBM 2710である。
【0021】
また、本発明は、1以上のsiRNAをコードするDNA、およびRNA−ポリメラーゼIII適合性プロモーター(compatible promoter)または原核生物プロモーターを含有する原核生物ベクターに関する。
【0022】
本発明のこのベクターの1つの具体例において、該RNAポリメラーゼIIIプロモーターはU6プロモーターまたはH1プロモーターである。本発明のこのベクターのもう1つの具体例において、原核生物プロモーターはT7プロモーターである。
【0023】
他に定義されない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同一の意味を有する。本明細書中に記載されたのと同様なまたは同等な方法および材料を本発明の実施またはテストで用いることができるが、適当な方法および材料を以下に記載する。本明細書中で言及する全ての刊行物、特許出願、特許および他の文献はここに引用して援用する。矛盾する場合には、定義を含めた本明細書が支配する。加えて、材料、方法および実施例は説明のためだけのものであり、限定的であることを意図しない。
【0024】
上記に加えて、本発明は以下を提供する:
(項目1)
1以上のsiRNAを動物細胞に送達する方法であって、動物細胞を、1以上のsiRNA、または1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含有する生きた侵入性細菌で感染させることを含む方法。
(項目2)
動物細胞において遺伝子発現を調節する方法であって、1以上のsiRNA、または1以上のsiRNAをコードする1以上のDNAを含有する生きた侵入性細菌で動物細胞を感染させ、ここで、発現されたsiRNAは調節すべき遺伝子のmRNAに干渉し、それにより、該遺伝子の発現を調節することを含む方法。
(項目3)
哺乳動物において癌または細胞増殖障害を治療または予防する方法であって、1以上のsiRNA、1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含有する生きた侵入性細菌で哺乳動物の細胞を感染させることによって細胞増殖を増加させることが知られた細胞において遺伝子の発現を調節することを含む方法。
(項目4)
1以上のsiRNA、または1以上のsiRNAをコードする1以上のDNA分子を含む生きた侵入性細菌。
(項目5)
siRNAをコードするDNA分子およびRNA−ポリメラーゼIII適合性プロモーターまたは原核生物プロモーターを含む原核生物ベクター。
(項目6)
前記生きた侵入性細菌が非病原性細菌または非−ビルレント細菌である項目1〜3に記載の方法。
(項目7)
前記生きた侵入性細菌が治療性細菌である項目6に記載の方法。
(項目8)
前記生きた侵入性細菌がListeria、Shigella、Salmonella、E.coli、およびBifidobacteriaeよりなる群のメンバーから選択される減弱化株である項目6に記載の方法。
(項目9)
前記Salmonella株がSalmonella typhimurium種の減弱化株である項目8に記載の方法。
(項目10)
前記Salmonella typhimuriumの減弱化株がSL7207またはVNP20009である項目9に記載の方法。
(項目11)
前記減弱化E.coli株がBM2710である項目8に記載の方法。
(項目12)
前記生きた侵入性細菌が、Shigella種、Listeria種、Rickettsia種、または腸侵入性E.coli種の侵入性特性を模倣するように遺伝子工学的に作製されたYersinia種、Escherichia種、Klebsiella種、Bordetella種、Neisseria種、Aeromonas種、Franciesella種、Corynebacterium種、Citrobacter種、Chlamydia種、Hemophilus種、Brucella種、Mycobacterium種、Legionella種、Rhodococcus種、Pseudomonas種、Helicobacter種、Salmonella種、Vibrio種、Bacillus種、Leishmania種、およびErysipelothrix種よりなる群のメンバーである項目1〜3に記載の方法。
(項目13)
前記動物細胞がイン・ビボまたはイン・ビトロである項目1に記載の方法。
(項目14)
前記動物細胞が哺乳動物細胞である項目1〜2に記載の方法。
(項目15)
前記哺乳動物細胞がヒト細胞、ウシ細胞、ヒツジ細胞、ブタ細胞、ネコ細胞、ブァッファロー細胞、イヌ細胞、ヤギ細胞、ウマ細胞、ロバ細胞、シカ細胞、および霊長類細胞よりなる群のメンバーである項目14に記載の方法。
(項目16)
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である項目14に記載の方法。
(項目17)
前記哺乳動物がヒトである項目3に記載の方法。
(項目18)
前記1以上のsiRNAをコードする前記1以上のDNA分子が前記動物細胞内で転写される項目1〜3に記載の方法。
(項目19)
前記1以上のsiRNAがshRNAとして前記動物細胞内で転写される項目18に記載の方法。
(項目20)
前記1以上のsiRNAをコードする前記1以上のDNA分子がRNA−ポリメラーゼIIIプロモーターである項目18に記載の方法。
(項目21)
前記RNA−ポリメラーゼIIIプロモーターがU6プロモーターまたはH1プロモーターである項目20に記載の方法。
(項目22)
前記1以上のsiRNAをコードする前記1以上のDNA分子が前記細菌内で転写される項目1〜3に記載の方法。
(項目23)
前記1以上のsiRNAをコードする前記1以上のDNA分子が原核生物プロモーターを含む項目22に記載の方法。
(項目24)
前記原核生物プロモーターがT7プロモーターである項目23に記載の方法。
(項目25)
前記1以上のDNA分子がタイプIII輸出または細菌溶解を通じて前記細胞に導入される項目1〜3に記載の方法。
(項目26)
前記細菌溶解が細胞内活性抗生物質の添加によってトリガーされる項目25に記載の方法。
(項目27)
前記抗生物質がテトラサイクリンである項目26に記載の方法。
(項目28)
前記細菌溶解が細菌代謝減弱化を通じてトリガーされる項目25に記載の方法。
(項目29)
前記代謝減弱化が栄養要求性である項目28に記載の方法。
(項目30)
前記動物細胞を約10〜1011個の生きた侵入性細菌で感染させる項目1〜3に記載の方法。
(項目31)
前記動物細胞を約10〜10個の生きた侵入性細菌で感染させる項目30に記載の方法。
(項目32)
前記動物細胞を約0.1〜10の範囲の感染多重度で感染させる項目1〜3に記載の方法。
(項目33)
前記動物細胞を約10〜10の範囲の感染多重度で感染させる項目32に記載の方法。
(項目34)
発現されたsiRNAが調節すべき遺伝子のmRNAと干渉する項目3に記載の方法。
(項目35)
発現されたsiRNAが細胞のマルチ酵素複合体RNA誘導サイレンシング複合体を指令して、調節すべき遺伝子のmRNAと相互作用させる項目2または34に記載の方法。
(項目36)
前記複合体が前記mRNAを分解させる項目35に記載の方法。
(項目37)
遺伝子の発現が減少されるか、または阻害される項目35に記載の方法。
(項目38)
前記遺伝子がrasまたはβ−カテニンである項目2〜3に記載の方法。
(項目39)
前記rasがk−Rasである項目38に記載の方法。
(項目40)
前記細胞が結腸癌細胞または膵臓癌細胞である項目3に記載の方法。
(項目41)
前記結腸癌細胞がSW480細胞である項目40に記載の方法。
(項目42)
前記膵臓癌細胞がCAPAN−1細胞である項目40に記載の方法。
(項目43)
前記肝臓侵入性細菌が非病原性細菌または非−ビルレント細菌である項目4に記載の生きた侵入性細菌。
(項目44)
前記生きた侵入性細菌が治療性細菌である項目43に記載の細菌。
(項目45)
項目4に記載の細菌および医薬上許容される担体を含む組成物。
(項目46)
項目4に記載の細菌および医薬上許容される担体を含む真核生物宿主細胞。
(項目47)
前記生きた侵入性細菌がListeria、Shigella、Salmonella、E.coli、およびBifidobacteriaeよりなる群のメンバーから選択される減弱化株である項目4に記載の細菌。
(項目48)
前記Salmonella株がSalmonella typhimurium種の減弱化株である項目47に記載の細菌。
(項目49)
前記Salmonella typhimurium種の減弱化株がSL7207またはVNP20009である項目48に記載の細菌。
(項目50)
前記減弱化E.coli株がBM2710である項目47に記載の細菌。
(項目51)
前記RNA−ポリメラーゼIIIプロモーターがU6プロモーターまたはH1プロモーターである項目5に記載の原核生物ベクター。
(項目52)
前記原核生物プロモーターがT7プロモーターである項目5に記載の原核生物ベクター。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は以下の詳細な記載および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明は、細菌の非−病原性株または治療用株を用いて、小さな干渉性RNA(siRNA)を真核生物細胞に送達する方法に関する。細菌は、RNAをコードするDNAまたはRNA自体を送達して、RNA干渉(RNAi)を行う。本発明の干渉性RNAは真核生物細胞において遺伝子発現を調節する。それは、標的細胞内部の注目する遺伝子をサイレントとし、またはそれをノックダウンする。干渉性RNAは、細胞が所有する多酵素−複合体RISC(RNA−誘導サイレンシング複合体)に指令して、遺伝子のmRNAをサイレントとさせる。RISCおよびmRNAの相互作用の結果、mRNAは分解する。これは、注目する遺伝子の効果的な翻訳後サイレンシングに導く。この方法を細菌媒介遺伝子サイレンシング(BMGS)という。
【0027】
細菌送達は、抗生物質、および増殖することができない減弱化細菌株の使用によって制御することができるので、それはウイルス送達よりも魅力的である。また、細菌はずっと遺伝子操作しやすく、これは、ある種の適用に対して特別に仕立てたベクター株の生産を可能とする。本発明の1つの具体例において、本発明の方法を用いて、RNAiを組織特異的に引き起こす細菌を作り出す。
【0028】
siRNAは直接的にまたはトランスフェクションによって標的細胞に導入されるか、あるいはRNA−ポリメラーゼIII適合性プロモーター(U6,H1)を持つ特異的プラスミドからのヘアピン−構造dsRNA(shRNA)として標的細胞内で転写することができる(P.J.Paddison,A.A.Caudiy,G.J.Hannon,PNAS 99,1443(2002),T.R.Brummelkamp,R.Bernards,R.Agami,Science 296,550(2002))。
【0029】
細胞内細菌からのsiRNAコーディングプラスミドの遊離は、活性なメカニズムを通じて起こる。1つのメカニズムは、細胞の外側へのビルレンス因子の分泌により標的細胞に対するシグナリングを可能とする機能を含むが、細菌溶解および細菌内容物の細胞質への遊離を通じて標的細胞へ抗原を送達するのにも用いることができる、細菌細胞膜にわたる特殊な多蛋白質複合体である、S.typhimuriumにおけるタイプIII輸出系を含む(Russmann H.Int J Med Microbiol,293:107−12(2003))。細胞内細菌の溶解は、細胞内で活性な抗生物質(テトラサイクリン)の付加を通じてトリガーされるか、あるいは細菌代謝減弱(栄養要求性)を通じて天然で起こる。真核生物転写プラスミドの遊離の後、shRNAまたはsiRNAは標的細胞内で生産され、mRNA分解の高度に特異的なプロセスをトリガーし、その結果、標的化遺伝子がサイレンシングされる。
【0030】
本発明の非−ビルレント細菌は侵入特性を有し、種々のメカニズムを介して哺乳動物宿主細胞に進入することができる。特殊化されたリソソーム内での細菌の破壊を通常はもたらす専門的なファゴサイトによる細菌の取込みとは対照的に侵入的細菌株は、非−ファゴサイトーシス的に宿主細胞に侵入する能力を有する。そのような細菌の天然に存在する例はListeria、ShigellaおよびSalmonellaのような細胞内病原体であるが、この特性は、侵入−関連遺伝子の導入を通じてのプロバイオティックを含め、E.coliおよびBifidobacteriaeのような他の細菌に移すこともできる(P.Courvalin,S.Goussard,C.Grillot−Courvalin,C.R.Acad.Sci.Paris 318,1207(1995))。本発明の他の具体例において、干渉性RNAを宿主細胞に送達するのに用いられる細菌はShigella flexneri(D.R.Sizemore,A.A.Branstrom,J.C.Sadoff,Science 270,299(1995))、侵入性E.coli(P.Courvalin,S.Goussard,C.Grillot−Couravalin,C.R.Acad.Sci.Paris 318,1207(1995)C.Grillot−Courvalin,S.Goussard,F.Huetz,D.M.Ojcius,P.Courvalin,Nat Biotechnol 16,862(1998))、Yersinia enterocolitica(A.Al−Mariri A,A.Tibor,P.Lestrate,P.Mertens,X.De Belle,J.J.Letesson Infect Immun 70,1915(2002))、およびListeria monocytogenes(M.Hense,E.Domann,S.Krusch,P.Wachholz,K.E.Dittmer,M.Rohde,J.Wehland,T.Chakraborty,S.Weiss,Cell Microbiol 3,599(2001),S.Pilgrim,J.Stritzker,C.Schoen,A.Kolb−Maurer,G.Geginat,M.J.Loessner,I.Gentshcev,W.Goebel,Gene Therapy10,2036(2003))を含む。いずれの侵入性細菌も真核生物細胞へのDNA導入で有用である(S.Weiss,T.Chakraborty,Curr Opinion Biotechol 12,467(2001))。
【0031】
BMGSは、天然で侵入的な病原体Salmonella typhimuriumを用いて行われる。この具体例の1つの態様において、Salmonella typhimuriumの株はSL 7207およびVNP20009を含む(S.K.Hoiseth,B.A.D.Stocker,Nature 291.238(1981);Pawelek,JM,Low KB,Bermudes D.Cancer Res.57(20):4537−44(Oct.15 1997))。本発明のもう1つの具体例において、BMGSは減弱化されたE.coliを用いて行われる。この具体例の1つの態様において、E.coliの株はBM 2710である(C.Grillot−Courvalin,S.Goussard,F.Huetz,D.M.Ojcius,P.Courvalin,Nat Biotechnol 16,862(1998))。この具体例のもう1つの態様において、BM2710株は、侵入プラスミドを介して細胞−侵入特性を保有するように作製される。本発明の1つの態様において、このプラスミドはpGB2inv−hlyである。
【0032】
また、二重「トロイの木馬」技術を真核生物転写プラスミドを保有する侵入性かつ栄養要求性細菌で用いる。このプラスミドは、今度は、標的細胞によって転写されて、RNAiの細胞内プロセスをトリガーするヘアピンRNA構造を形成する。本発明のこの方法は、種々の遺伝子の有意な遺伝子サイレンシングを誘導する。この具体例のある態様において、遺伝子は導入遺伝子(GFP)、突然変異した癌遺伝子(k−Ras)および癌関連遺伝子(β−カテニン)をイン・ビトロで含む。
【0033】
また、本発明は、細菌転写遺伝子サイレンシング(BTGS)と言われる記載された方法の変形に関する。本発明のこの態様において、siRNAは、標的細胞とは反対に侵入性細菌によって直接的に生産される。原核生物プロモーター(T7)によって制御される転写プラスミドを、標準的な形質転換プロトコルを通じてキャリアー細菌に挿入する。siRNAは該細菌内で生産され、栄養要求性によって、また抗生物質の適時の添加によってのいずれかでトリガーされた細菌溶解の後に哺乳動物標的細胞内で放出される。
【0034】
BMGSおよびBTGSを含めた本発明のRNAi方法を、癌療法として、または癌を予防するのに用いる。この方法は、細胞増殖または他の癌表現型に関連するサイレンシングまたはノックダウン遺伝子によって行われる。これらの遺伝子の例はk−Rasおよびβ−カテニンである。具体的には、k−Rasおよびβ−カテニンは結腸癌のRNAiベースの療法に対する標的である。これらの癌遺伝子は、臨床的症例の大部分において活性であり、関連する。BMGSは、結腸癌の治療および予防のために適用されて腸管に到達する。これらの方法は、異種移植片腫瘍を保有する動物を治療し、腸腫瘍形成のk−Ras V12モデルにおいて癌を治療し、予防するのに、および腺腫結腸ポリポシスminマウスモデル(APC−minモデル)において腫瘍を予防し、治療するのにも用いられる。このモデルにおいて、該マウスは、ヒト家族性腺腫結腸ポリポシス(FAP)についての腸腫瘍形成の動物モデルとして用いられる多数の腸および結腸ポリープの形成をもたらす欠陥APC遺伝子を有する。
【0035】
また、本発明は、細菌−転写遺伝子サイレンシング(BTGS)を行うのに侵入性細菌で用いられる原核生物shRNA−コーディング転写プラスミドも含む。これらのプラスミドは、治療実験用のトランスジェニックならびに野生型動物において異なる癌−関連標的をスクリーニングするのに用いられる。
【0036】
BMGSおよびBTGSを含めた本発明のRNAi方法は、ウイルス病(例えば、肝炎)および遺伝的障害を治療し、または予防するのにも用いられる。
【0037】
BMGSおよびBTGSを含めた本発明のRNAi方法は、特に、GI管または肝臓の標的に関して用いられる癌−予防「プロバイオティック細菌」を作り出すのにも用いられる。
【0038】
BMGSおよびBTGSを含めた本発明のRNAi方法は、炎症性疾患、例えば、肝炎、炎症性腸疾患(IBD)または結腸炎に対する療法として用いられる。これらの方法は、非−癌遺伝子標的(B、C型肝炎の治療および予防ではウイルス遺伝子;炎症性腸疾患の治療および予防では炎症性遺伝子)およびその他をサイレントとし、またはノックダウンするのに用いられる。
【0039】
BMGSおよびBTGSを含めた本発明のRNAi方法は、遺伝子機能を発見するための遺伝子工学により作製されたノックアウトマウスとは反対に、一過性「ノックダウン」遺伝的動物モデルを作製するのに用いられる。該方法は、研究および薬物開発のためのイン・ビトロトランスフェクションツールとしても用いられる。
【0040】
これらの方法は、所望の特性(侵入性、減弱、操縦性)を持つ細菌を用い、例えば、BifidobacteriaおよびListeriaを用いて、BMGSおよびBTGSを行う。侵入性ならびに1つまたは数個のshRNAの真核生物または原核生物転写が、プラスミドを用いる細菌に付与される。
【0041】
BMGSおよびBTGSを含めた本発明のRNAi方法は、遺伝子サイレンシングを腸および結腸に送達するのに、および種々の病気の治療での経口適用のために、すなわち、結腸癌の治療および予防のために用いられる。この具体例のもう1つの態様において、遺伝子サイレンシングの送達は腸外である。
【0042】
1.RNAを真核生物細胞に送達する細菌
本発明によると、膜を横切り、細胞の細胞質に進入する等して、分子、例えば、RNA分子を標的細胞の細胞質に送達することができるいずれかの微生物を用いて、RNAをそのような細胞に送達することもできる。好ましい具体例において、該微生物は原核生物である。なおより好ましい具体例において、該原核生物は細菌である。また、RNAを細胞に送達するのに用いることができる細菌以外の微生物も本発明の範囲内のものである。例えば、該微生物は真菌、例えば、Cryptocococcus neoformans、原生動物、例えば、Trypanosoma cruzi、Toxoplasma gondii、Leishmania donovani、およびplasmodiaであり得る。
【0043】
本明細書中で用いるように、用語「侵入性」とは、微生物、例えば、細菌に言及する場合、少なくとも1つの分子、例えば、RNAまたはRNA−コーディングDNA分子を標的細胞に送達することができる微生物をいう。侵入性微生物は、細胞膜を通過し、それにより、当該細胞の細胞質に進入し、その内容物の少なくともいくらか、例えば、RNAまたはRNA−コーディングDNAを標的細胞に送達することができる微生物であり得る。少なくとも1つの分子の標的細胞への送達のプロセスは、好ましくは、侵入装置を有意には修飾しない。
【0044】
好ましい具体例において、該微生物は細菌である。好ましい侵入性細菌は、真核生物細胞の細胞質に進入する等して少なくとも1つの分子、例えば、RNAまたはRNA−コーディングDNA分子を標的細胞に送達することができる細菌である。好ましい侵入性細菌は生きた細菌、例えば、生きた侵入性細菌である。
【0045】
侵入性微生物は、細胞膜、例えば、真核生物細胞膜を通過し、該細胞膜に進入する等して、少なくとも1つの分子を標的細胞に天然で送達することができる微生物、ならびに天然では侵入性でないが、修飾され、例えば、侵入性となるように遺伝的に修飾された微生物を含む。もう1つの好ましい具体例において、天然では侵入性でない微生物は、細菌を「侵入因子」または「細胞質−標的化因子」ともいわれる「侵入因子」にリンクさせることによって侵入性となるように修飾することができる。本明細書中で用いるように、「侵入因子」は、非−侵入性細菌によって発現されると、当該細菌を侵入性とする因子、例えば、蛋白質または蛋白質の群である。本明細書中で用いるように、「侵入因子」は、「細胞質−標的化遺伝子」によってコードされる。
【0046】
天然では侵入性の微生物、例えば、細菌はある種の向性を有することができ、すなわち、好ましい標的細胞である。別法として、微生物、例えば、細菌を例えば、遺伝的に修飾して、第二の微生物の向性を模倣することができる。
【0047】
少なくとも1つの分子の標的細胞への送達は、当該分野で公知の方法に従って決定することができる。例えば、それによりサイレントとされたRNAまたは蛋白質の発現の減少による分子の存在は、ハイブリダイゼーションまたはPCR方法によって、あるいは抗体の使用を含むことができる免疫学的方法によって検出することができる。
【0048】
本発明で用いるのに微生物が充分に侵入性であるか否かの判断は、宿主細胞と接触した微生物の数に対して、充分なRNAが宿主細胞に送達された否かの判断を含むことができる。もしRNAの量が用いた微生物の数に対して低いならば、該微生物をさらに修飾して、その侵入性能力を増大させるのが望ましいであろう。
【0049】
細胞への細菌の進入は種々の方法によって測定することができる。細胞内細菌はアミノグリコシド抗生物質による処理に対して生き残り、他方、細胞外細菌は迅速に死滅する。細菌取り込みの定量的な見積もりは、細胞単層を抗生物質ゲンタマイシンで処理して、細胞外細菌を不活化することによって、次いで、温和な洗剤で、生き残る細胞内生物を放出する前に該抗生物質を除去し、標準的な細菌学的培地で生存カウントを決定することによって達成することができる。さらに、例えば、細胞層の薄い−セクション−透過型電子顕微鏡によって、または免疫蛍光技術によって、細胞への細菌進入を直接的に観察することができる(Falkow et al.(1992) Annual Rev.Cell Biol.8:333)。かくして、種々の技術を用いて、特定の細菌が特定の細胞型に侵入することができるか否かを判断することができ、または第二の細菌のそれを模倣するための細菌の向性の修飾のような細菌の修飾に続いて細菌の侵入を確認することができる。
【0050】
本発明の方法に従ってRNAを送達するのに用いることができる細菌は好ましくは非−病原性である。しかしながら、それらの病原性が減弱化され、それが投与される対象に対して該細菌を無害とされているならば、病原性細菌を用いるともできる。本明細書中で用いるように、用語「減弱化された細菌」は、対象に対するその有害性を有意に低下させ、または排除するように修飾された細菌を言う。病原性細菌は後に記載する種々の方法によって減弱化することができる。
【0051】
特定の作用メカニズムに制限されるつもりはないが、RNAを真核生物細胞に送達する細菌は、細菌のタイプに応じて細胞の種々の区画に進入することができる。例えば、細菌は小胞、例えば、ファゴサイトーシス小胞中に存在できる。一旦細胞の内部に入れば、該細菌は破壊され、または溶解され、その内容物は真核生物細胞に送達され得る。細菌は、ファゴソーム分解酵素を発現して、ファゴソームからのRNAの漏出を可能とするように作製することもできる。いくつかの具体例において、細菌は真核生物細胞において種々の時間生きて留まることができ、継続してRNAを生産することができる。次いで、例えば、漏出によって、RNAまたはRNA−コーディングDNAを細菌から細胞へ放出することができる。本発明のある具体例において、細菌は真核生物細胞において複製することもできる。好ましい具体例において、細菌複製は宿主細胞を死滅させない。本発明は特定のメカニズムによるRNAまたはRNA−コーディングDNAの送達に限定されず、送達のメカニズムとは独立した細菌によるRNAまたはRNA−コーディングDNAの送達を許容する方法および組成物を含むことを意図する。
【0052】
天然で侵入性であると文献に記載されている細菌(セクション1.1)、ならびに天然で非−侵入性細菌であると文献に記載されている細菌(セクション1.2)、ならびに天然で非−病原性であり、あるいは減弱化された細菌の例は後に記載する。いくつかの細菌は非−侵入性であると記載されているが(セクション1.2)、これらは本発明での使用では依然として十分に侵入性であり得る。天然で侵入性または非−侵入性であると伝統的に記載されているか否かを問わず、(例えば、セクション1.3に記載されているように)いずれの細菌株も、その侵入性特徴を変調し、特に、増大させるように修飾することができる。
【0053】
1.1 天然に侵入性の細菌
本発明で使用される特定の天然に侵入性の細菌は本発明にとって重要ではない。そのような天然に生じる侵入性細菌の例は、限定されるものではないが、Shigella種、Salmonella種、Listeria種、Rickettsia種、および腸侵入性Escherichia coliを含む。
【0054】
使用される特定のShigella株は本発明では重要でない。本発明で使用することができるShigella株の例はShigella flexneri 2a(ATCC No.29903)、Shigella sonnei(ATCC No.29930)、およびShigella disenteriae(ATCC NO.13313)を含む。Shigella flexneri 2a 2457T aroA virG突然変異体CVD1203(Noriega et al. supra)、Shigella flexneri M90T icsA突然変異体(Goldberg et al.Infect.Immun.,62:5664−5668(1994))、Shigella flexneri Y SFL114 aroD突然変異体(Karnell et al. Vacc.,10:167−174(1992))、およびShigella flexneri aroA aroD突然変異体(Verma et al.Vacc.,9:6−9(1991))のような減弱化Shigella株を、好ましくは、本発明で使用する。別法として、減弱突然変異を単独で、または1以上のさらなる減弱突然変異を導入することによって、新しい減弱化Shigella種下部を構築することができる。
【0055】
Shigella RNAワクチンベクターに対する少なくとも1つの利点は、結腸粘膜表面におけるリンパ系組織に対するそれらの向性である。加えて、Shigella複製の一次的部位は樹状細胞およびマクロファージ内にあると考えられ、それらは、通常は、粘膜リンパ系組織におけるM細胞の基底側方表面で見出される。McGhee,J.R.et al.(1994)Reproduction,Fertility,&Development 6:369;Pascual,D.W.et al.(1994)Immunomethods 5:56によってレビューされている)。このように、Shigellaベクターは、これらの専門的抗原提示細胞において抗原を発現する手段を提供することができる。Shigellaベクターのもう1つの利点は、減弱化Shigella株がイン・ビトロおよびイン・ビボにおいて核酸レポーター遺伝子を送達することである(Sizemore,D.R.et al.(1995)Science 270:299;Courvalin,P.et al.(1995)Comptes Rendus de 1 Academie des Sciences Serie III−Sciences. de la Vie−Life Sciences 318:1207;Powell,R.J.et al.(1996)In:Molecular approaches to the control infectious diseases.F.Brown,E.Norrby,D.Burton and J.Mekalanos,eds.Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York.183;Anderson,R.J.et al(1997)Abstracts for the 97th General Meeting of the American Society for Microbiology:E)。実施的な見地では、Shigellaのかなり制限された宿主特異性は、中間宿主を介したShigellaベクターの食物連鎖における拡大を防止する。さらに、げっ歯類、霊長類およびボランティアにおいて高度に減弱化された減弱化株が開発されている(Anderson et al.(1997)supra;Li,A.et al.(1992)Vaccine 10:395;Li,A.et al.(1993)Vaccine 11:180;Karnell,A.et al.(1995)Vaccine 13:88;Sansonetti,P.J.and J.Arondel(1989)Vaccine 7:443;Foantaine,A.et al.(1990)Research in Microbioloy141:907;Sansonetti,P.J.et al(1991)Vaccine 9:416;Noriega,F.R.et al.(1994)Infection&Immunity 62:5168;Noriega,F.R.et al.(1996)Infection&Immunity 64:3055;Kotloff,K.L.et al.(1996)Infection&Immunity 64:4542)。この後者の知識は、ヒトで用いるための良く仕立てられたShigellaべクターの開発を可能とするであろう。
【0056】
非−特異的突然変異誘発を化学的に用い、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンのような剤を用い、または組換えDNA技術;Tn10突然変異誘発、P22−媒介形質導入、λファージ媒介クロスオーバー、および結合導入のような古典的遺伝的技術;または組換えDNA技術を用いる部位特異的突然変異誘発を用い、減弱突然変異を細菌病原体に導入することができる。組換えDNA技術は好ましい。というのは、組換えDNA技術によって構築された株はかなり規定されているからである。そのような減弱突然変異の例は限定されるものではないが、以下のものを含む:
(i)aro(Hoiseth et al.Nature,291:238−239(1981))、gua(McFarland et al.Microbiol.Path.,3:129−141(1987))、nad(Park et al.J.Bact.,170:3725−3730(1988))、thy(Nnalue et al.Infect.Immun.,55:955−962(1987))、およびasd(Curtiss,supra)突然変異のような栄養要求性突然変異;
(ii)cya(Curtiss et al.Infect.Immun.,55:3035−3043(1987))、crp(Curtiss et al.(1987),supra)、phoP/phoQ(Groisman et al.Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,6:7077−7081(1989);and Miller et al.Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86:5054−5058(1989))、phop(Miller et al.J.Bact .,172:2485−2490(1990))またはompR(Dorman et al.Infect.Immun,.57:2136−2140(1989))突然変異のような全体的調節機能を不活化する突然変異;
(iii)recA(Buchmeier et al. Mol.Micro.,7:933−)936(1993))、htrA(Johnson et al.Mol.Micro.,5:401−407(1991))、htpR(Neidhardt et al.Biochem.Biophys.Res.Com.,100:894−900(1981))、hsp(Neidhardt et al.Ann.Rev.Genet.,18:295−329(1984))およびgroEL(Buchmeier et al.Sci.,248:730:732(1990))突然変異のようなストレス応答を修飾する突然変異;
(iv)IsyA(Libby et al. Proc.Natl.Acad.Sci,.USA,91:489−493(1994))、pagまたはprg(Miller et al(1990),supra;and Miller et al(1989),supra)、iscAまたはvirG(d’Hauteville et al.Mol.Micro.,6:833−841(1992))、plcA(Mengaud et al.Mol.Microbiol.,5:367−72(1991);Camilli et al,J.Exp.Med,173:751−754(1991))およびact(Brundage et al,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:11890−11894(1993))突然変異のような特異的ビルレンス因子における突然変異;
(v)topA(Galan et al.Infect.Immun.,58:1879−1885(1990))のようなDNAのトポロジーに影響する突然変異;
(vi)min(de Boer et al.Cell,56:641−649(1989))のような細胞周期を破壊するまたは修飾する突然変異;
(vii)sacB(Recorbet et al.App.Environ.Micro.,59:1361−1366(1993):Quandt et al.Gene,127:15−21(1993))、nuc(Ahrenholtz et al.App.Environ.Micro.,60:3746−3751(1994))、hok、gef、kil、またはphlA(Molin et al.Ann.Rev.Microbiol.,47:139−166(1993))のような自殺システムをコードする遺伝子の導入;
(viii)rFb(Raetz in Esherishia coli and Salmonella typhimurium, Neidhardt et al.,Ed.,ASM Press, Washington D.C.pp1035−1063(1996))、galE(Hone et al. J.Infect Dis.,156:164−167(1987))およびhtrB(Raetz,supra)、msbB(Reatz,supra)のような、リポ多糖および/または脂質Aの生合成を改変する突然変異;
(ix)P22によってコードされるリソゲン(Rennell et al.Virol,143:280−289(1985))、λムレイントランスグリコシラーゼ(Bienkowska−Szewczyk et al.Mol.Gen.Genet.,184:111−114(1981))、またはS−遺伝子(Reader et al.Virol,43:623−628(1971))のような、バクテリオファージ溶解システムの導入。
【0057】
減弱化突然変異は、構成的に、あるいはプロモーターの温度感受性ヒートショックファミリー(Neidhardt et al.supra)のような誘導性プロモーター、または嫌気的に誘導されたnirBプロモーター(Harborne et al.Mol.Micro.,6:2805−2813(1992))、またはuapA(Gorfinkiel et al. J.Biol.Chem.,268:23376−23381(1993))またはgcv(Stauffer et al.J.Bact.,176:6159−6164(1994))のような抑制可能なプロモーターの制御下で発現させることができる。
【0058】
使用される特定のListeria株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるListeria株の例はListeria monocytogetogenes(ATTC No.15313)を含む。L.monocytogenes actA突然変異体(Brundage et al.supra)またはL.monocytogenes plcA(Camilli et al.J.Exp.Med.,173:751−754(1991))のような減弱化Listeria株が好ましくは本発明で用いられる。別法として、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Listeria株を構築することができる。
【0059】
使用される特定のSalmonella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるSalmonella株の例はSalmonella typhi(ATCC No.7251)およびS.typhimurium(ATCC No.13311)を含む。減弱化Salmonella株が好ましくは本発明で用いられ、S.typhi−aroC−aroD(Hone et al.Vacc.9:810(1991))およびS.typhimurium−aroA突然変異体(Mastroeni
et al.Micro Pathol.13:477(1992))を含む。別法として、前記Shigella種について記載したように、1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Salmonella株を構築することができる。
【0060】
使用される特定のRickettsia株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるRickettsia株の例はRickettsia Rickettsiae(ATCC Nos.VR149 and VR891)、Ricketsia prowaseckii(ATCC No.VR233)、Rickettsia tsutsugamuchi(ATCC Nos.VR312,VR150 and VR609)、Rickettsia mooseri(ATCC No.VR144)、Rickettsia sibirica(ATCC No.VR151)、およびRochalimaea quitana(ATCC No.VR358)を含む。減弱化Rickettsia株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載されたように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0061】
使用される特定の腸侵入性Escherichia株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができる腸侵入性Escherichia株の例は、Escherichia coli株4608−58、1184−68、53638−C−17、13−80、および6−81(Sansonetti et al.Ann Microbiol.(Inst.Pasteur),132A:351−355(1982))を含む。減弱化腸侵入性Esherichia株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載されたように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0062】
さらに、細菌以外のある種の微生物も細胞取り込みのために(ある種の侵入因子についての受容体である)インテグリン分子とやはり相互作用できるので、そのような微生物もRNAを標的細胞に導入するのに用いることができる。例えば、ウイルス、例えば、口蹄疫ウイルス、エコウイルス、およびアデノウイルス、ならびに真核生物病原体、例えば、Histoplasma capsulatumおよびLeishmania majorはインテグリン分子と相互作用する。
【0063】
1.2 より侵入性でない細菌
本発明で用いることができ、非−侵入性であって、または前記セクション(1.1)にリストした細菌よりも少なくとも侵入性が低いとして文献で記載されている細菌の例は、限定されるものではないが、Yersinia種、Escherichia種、Klebsiella種、Bordetella種、Neisseria種、Aeromonas種、Franciesella種、Corynebacterium種、Citrobacter種、Chlamydia種、Hemophilus種、Brucella種、Mycobacterium種、Legionella種、Rhodococcus種、Pseudomonas種、Helicobacter種、Vibrio種、Bacillus種、およびErysipelothrix種を含む。これらの細菌を修飾して、それらの侵入能力を増大させる必要があろう。
【0064】
使用される特定のYersinta株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用できるYersinia株の例は、Y.enterocolitica(ATCC No.9610)またはY.pestis(ATCC No.19428)を含む。Y.enterocolitica Ye03−R2(al−Hendy et al.Infect. Immun.,60:870−875(1992))またはY.entercolitica aroA(O’Gaora et al,Micro.Path.,9:105−116(1990))のような減弱化Yersinia株は本発明で好ましく用いられる。別法として、前記Shigella種について記載されたように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Yersinia株を構築することができる。
【0065】
使用される特定のEscherichia株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるEscherichia株の例はE.coli H10407(Elinghorst et al.Infect.Immun.,60:2409−2417(1992))、およびE.coli EFC4、CFT325およびCPZ005(Donnenberg et al.J.Infect.Dis.,169:831−838(1994))を含む。減弱化シチメンチョウ病原体E.coli 02 carAB突然変異体(Kwaga et al.Infect Immun.,62:3776−3772(1994))のような減弱化Escherichia株は本発明で好ましく用いられる。別法として、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異体を導入することによって新しい減弱化Escherichia株を構築することができる。
【0066】
使用される特定のKlebsiella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるKlebsiella株の例はK.pneumoniae(ATCC No.13884)を含む。減弱化Klebsiella株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0067】
使用される特定のBordetella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるBordetella株の例はB.bronchiseptica(ATCC No.19395)を含む。減弱化Bordetella株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0068】
使用される特定のNeisseria株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるNeisseria株の例はN.meningitidis(ATCC No13077)およびN.gonorrhoeae(ATCC No.19424)を含む。N.gonorrhoeae MS11 aro突然変異体(Chamberlain et al.Micro.Path.,15:51−63(1993))のような減弱化Neisseria株は本発明で好ましく用いられる。別法として、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Neisseria株を構築することができる。
【0069】
使用される特定のAeromonas株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるAeromonas株の例はA.eucrenophila(ATCC No.23309)を含む。別法として、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Aeromonas株を構築することができる。
【0070】
使用される特定のFranciesella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるFranciesella株の例はF.tularensis(ATCC No.15482)を含む。減弱化Franciesella株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0071】
使用される特定のCorynebacterium株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるCorynebacterium株はC.pseudotuberculosis(ATCC No.19410)を含む。減弱化Corynebacterium株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0072】
使用される特定のCitrobacter株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるCitrobacter株の例はC.freundii(ATCC No.8090)を含む。減弱化Citrobacter株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0073】
使用される特定のChlamydia株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるChlamydia株の例はC.pneumoniae(ATCC No.VR1310)を含む。減弱化Chlamydia株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0074】
使用される特定のHemophilus株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるHemophilus株の例はH.sornnus(ATCC No.43625)を含む。減弱化Hemophilus株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0075】
使用される特定のBrucella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるBrucella株の例はB.abortus(ATCC No.23448)を含む。減弱化Brucella株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0076】
使用される特定のMycobacterium株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるMycobacterium株の例はM.intracellulare (ATCC No.13950)およびM.tuberculosis(ATCC No.27294)を含む。減弱化Mycobacterium株は、本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0077】
使用される特定のLegionella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるLegionella株の例はL.pneumophila(ATCC No.33156)を含む。L.pneumophila mip mutant(Ott,FEMS Micro.Rev.,14:161−176(1994))のような減弱化Legionella株は本発明で好ましく用いられる。別法として、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Legionella株を構築することができる。
【0078】
使用される特定のRhodococcus株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるRhodococcus株の例はR.equi(ATCC No.6939)を含む。減弱化Rhodococcus株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0079】
使用される特定のPseudomonas株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるPseudomonas株の例はP.aeruginosa(ATCC No.23267)を含む。減弱化Pseudomonas株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0080】
使用される特定のHelicobacter株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるHelicobacter株の例はH.mustelae(ATCC No.43772)を含む。減弱化Helicobacter株は本発明で好ましく用いられ、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0081】
使用される特定のSalmonella株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるSalmonella株の例はSalmonella typhi(ATCC No.7251)およびS.typhimurium(ATCC No.13311)を含む。減弱化Salmonella株は本発明で好ましく用いられ、S.typhi aroC aroD(Hone et al.Vacc.,9:810−816(1991))およびS.typhimurium aroA突然変異体(Mastroeni et al.Micro.Pathol,13:477−491(1992))を含む。別法として、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって、新しい減弱化Salmonella株を構築することができる。
【0082】
使用される特定のVibrio株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるVibrio株の例はVibrio cholerae(ATCC No.14035)およびVibrio cincinnatiensis(ATCC No.35912)を含む。減弱化Vibrio株は本発明で好ましく用いられ、V.cholerae RSIビルレンス突然変異体(Taylor et al.J.Infect.Dis.,170:1518−1523(1994))およびV.cholerae ctxA、ace、zot、cep突然変異体(Waldor et al.J.Infect.Dis.,170:278−283(1994))を含む。別法として、新しい減弱化Vibrio株は、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0083】
使用される特定のBacillus株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるBacillus株の例はBacillus subtilis(ATCC No.6051)を含む。減弱化Bacillus株は本発明で好ましく用いられ、B.anthracis突然変異体pX01(Welkos et al.Micro.Pathol,14:381−388(1993))および減弱化BCG株(Stover et al.Nat.,351:456−460(1991))を含む。別法として、新しい減弱化Bacillus株は、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0084】
使用される特定のErysipelothrix株は本発明にとって重要ではない。本発明で使用することができるErysipelothrix株の例はErysipelothrix rhusiopathiae(ATCC No.19414)およびErysipelothrix tonsillarum(ATCC No.43339)を含む。減弱化Erysipelothrix株は本発明で好ましく用いられ、E.rhusiopathiae Kg−1aおよびKg−2(Watarai et al.J.Vet.Med.Sci.,55:595−600(1993))およびE.rhusiopathiae ORVAC突然変異体(Markowska−Daniel et al.Int.J.Med.Microb.Virol.Parisit.Infect.Dis.,277:547−553(1992))を含む。別法として、新しい減弱化Erysipelothrix株は、前記Shigella種について記載したように、群(i)ないし(vii)における1以上の減弱化突然変異を導入することによって構築することができる。
【0085】
1.3 細菌株の侵入特性を増大させる方法
生物が伝統的に侵入性または非−侵入性として記載されてきたかに拘らず、これらの生物は、例えば、Shigella種、Listeria種、Rickettsia種、または腸侵入性E.coli種の侵入特性を模倣することによって、それらの侵入特性を増大させるように作製することができる。例えば、微生物を細胞、例えば、該非−侵入性細菌の天然宿主における細胞の細胞質にアクセスするのを可能とする1以上の遺伝子を微生物に導入することができる。
【0086】
「細胞質−標的化遺伝子」と本明細書中においていうそのような遺伝子の例は、Shigellaによる侵入を可能とする蛋白質をコードする遺伝子、または腸−侵入性Escherichia、またはListeriaのリステリオリシンOの同様な侵入遺伝子を含み、そのような技術は広範な侵入性細菌を動物細胞の細胞質に侵入しかつ進入できるようにすることが知られている(Formal et al.Infect.Immun.,46:465(1984);Bielecke et al.Nature,345:175−176(1990);Small et al.In:Microbiology−1986,pages 121−124,Levine et al.Eds.,American Society for Microbiology,Washington,D.C.(1986);Zychlinsky et al.Molec.Micro.,11:619−627(1994);Gentschev et al.(1995)Infection & Immunity 63:4202;Isberg, R.R.and S.Falkow(1985)Nature 317:262;and Isberg,R.R.et al.(1987)Cell 50:769)。前記細胞質−標的化遺伝子を細菌株に導入する方法は当該分野でよく知られている。それらの侵入特性を増大させるために細菌に導入することができるもう1つの好ましい遺伝子は、Yersinia pseudotuberculosis,(Leong et al.EMBO J.,9:1979(1990))からの侵入蛋白質をコードする。侵入は、リステリオリシンと組み合わせて導入することもでき、それにより、これらの遺伝子のいずれかの導入に対して細菌の侵入特徴を増大させることもできる。前記遺伝子は説明目的で記載されるが、しかしながら、微生物からの、分子、特にRNAまたはRNA−コーディングDNA分子の送達に参加する、1以上の源からのいずれかの遺伝子または遺伝子の組合せは十分であることは当業者に明白であろう。かくして、そのような遺伝子は細菌遺伝子に限定されず、エンドスモリシスを促進するインフルエンザウイルスヘマグルチニンHA−2のようなウイルス遺伝子を含む(Plank et al.J.BIol.Chem.,269:12918−12924(1994))。
【0087】
前記細胞質−標的化遺伝子は、例えば、所望の細胞質−標的化遺伝子を運ぶ侵入性細菌から単離されたDNAからのPCR増幅によって得ることができる。PCRのためのプライマーは、例えば、前記リスト文献において、および/またはGenBankにおいてインターネット(www.ncbi.nlm.nih.gov/)で公に入手可能な、当該分野で入手可能なヌクレオチド配列から設計することができる。PCRプライマーは、細胞質−標的化遺伝子、細胞質−標的化オペロン、細胞質−標的化遺伝子のクラスター、または細胞質−標的化遺伝子のレグロンを増幅するように設計することができる。使用されるPCR戦略は、標的侵入性細菌における細胞質−標的化遺伝子または複数遺伝子の遺伝子構成に依存するであろう。PCRプライマーは、標的DNA配列の始まりおよび終わりにおいてDNA配列に相同な配列を含有するように設計される。次いで、細胞質−標的化遺伝子は、例えば、Hfr導入またはプラスミドモビライゼーション(Miller,A Short Course in Bacterial Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1992);Bothwell et al.supra;and Ausubel et al.supra)、バクテリオファージ−媒介形質導入(de Boer,supra;Miller,supra;and Ausubel et al.supra)、化学的転換(Bothwell et al.supra;Ausubel et al.supra)、エレクトロポレーション(Bothwel et al.supra;Ausubel et al.supra:and Sambrook,Molechlar Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.)および物理的転換技術(Johnston et al.supra;and Bothwell,supra)を用いることによって、標的細菌株に導入することができる。細胞質−標的化遺伝子は、溶原性バクテリオファージ(de Boer et al.Cell,56:641−649(1989))、プラスミドベクター(Curtiss et al.supra)に取り込むことができ、あるいは標的株の染色体にスプライスすることができる(Hone et
al.supra)。
【0088】
それらの侵入特性を増大させるように細菌を遺伝子操作するに加え、前記したように、細菌は、侵入因子を細菌にリンクさせることによって修飾することもできる。従って、1つの具体例において、細菌は、侵入因子、例えば、蛋白質インバシン、インバシン誘導体、または侵入性に十分なその断片で共有結合によりまたは非共有結合的に細菌をコーティングすることによってより侵入性とされる。事実、Yersinia pseudotuberculosisからの精製されたインバシン、またはインバシンのカルボキシル−末端192アミノ酸でコーティングされた非−侵入性細菌は哺乳動物細胞に進入することができることが示されている(Leong et al.(1990)EMBO J.9:1979)。さらに、インバシンのカルボキシル末端領域でコーティングされたラテックスビースは、抗体−固定化インバシンでコーティングされたStaphylococcus aureusの株のように、哺乳動物細胞によって十分に内部化されるIsberg and Tran van Nhier(1994)Ann.Rev.Genet.27:395でレビューされている。)別法として、細菌は、抗体、その変種、または細菌侵入因子によって認識される表面分子に特異的に結合するその断片でコーティングすることもできる。例えば、もし細菌をインテグリン分子、例えば、それと細菌インバシン蛋白質が相互作用する表面分子であることが知られているα5β1に対して向けられたモノクローナル抗体でコーティングすれば、それらは内部化されることが示されている(Isberg and Tran van Nhieu,supra)。そのような抗体は当該分野で知られた方法に従って調製することができる。抗体は、例えば、細菌を抗体でコーティングし、細菌を抗体によって認識される表面受容体を有する真核生物細胞と接触させ、次いで、前記した方法に従って細胞内細菌の存在をモニターすることによって、細菌侵入性を媒介するにおける効果についてテストすることができる。侵入因子を細菌の表面にリンクさせる方法は当該分野で知られており、架橋を含む。
【0089】
2.標的細胞
本発明は、RNAをいずれかのタイプの標的細胞に送達する方法を提供する。本明細書中で用いるように、用語「標的細胞」とは、細菌によって侵入され得る細胞、すなわち、細菌による認識のために必要な表面受容体を有する細胞をいう。
【0090】
好ましい標的細胞は真核生物細胞である。なおより好ましい標的細胞は動物細胞である。「動物細胞」は、その系統学的位置が動物界内に存在する多細胞生物に由来するか、またはそれに存在する有核非−クロロプラスト含有細胞と定義される。該細胞は無傷動物、初代細胞培養、外植体培養または形質転換した細胞系に存在し得る。細胞の特定の組織源は本発明にとって重要ではない。
【0091】
本発明で使用される受容体動物細胞は本発明にとって重要ではなく、哺乳動物、魚、鳥類、爬虫類の科のような動物界内の全ての生物に存在するか、またはそれに由来する細胞を含む。
【0092】
好ましい動物細胞はヒト、ウシ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、ヤギ、ウマ、および霊長動物細胞のような哺乳動物細胞である。最も好ましい動物細胞はヒト細胞である。
【0093】
好ましい具体例において、標的細胞は粘膜表面にある。ある種の腸病原体、例えば、E.coli、Shigella、Listeria、およびSalmonellaはこの適用に天然で適合する。というのは、これらの生物は宿主粘膜表面に付着し、それに侵入する能力を保有するからである。(Kreig et al.supra)。従って、本発明においては、そのような細菌は、宿主粘膜区画における細胞へ、RNA分子またはRNA−コーディングDNAを送達することができる。
【0094】
あるタイプの細菌はある向性を有することができるが、すなわち、好ましい標的細胞であるが、RNAまたはRNA−コーディングDNAのあるタイプの細胞への送達は、所望の細胞タイプに対する向性を有する、または所望の細胞タイプに侵入することができるように修飾された細菌を選択することによって達成することができる。かくして、例えば、細菌は、前記したように、粘膜組織向性および侵入特性を模倣し、それにより、該細胞が粘膜組織に侵入することができるようにし、RNAまたはRNA−コーディングDNAをそれらの部位における細胞に送達するように遺伝的に作製することができる。
【0095】
細菌は、他のタイプの細胞に標的化することもできる。例えば、細菌は、ヒトおよび霊長類における赤血球に特異的に結合するPlasmodium vivax網状赤血球結合蛋白質−1および−2のいずれか、または双方をそれらの表面に細菌が発現するように修飾することによって、ヒトおよび霊長類の赤血球に標的化することができる(Galinski et al.Cell,69:1213−1226(1992))。もう1つの具体例において、細菌は肝細胞上のアシロ糖蛋白質受容体に対するリガンドであるアシアロオロソムコイドをそれらの表面に有するように修飾される(Wu et al.J.Biol.Chem.,263:14621−14624(1998))。なおもう1つの具体例において、細菌は、プラスミド取り込みをインスリン受容体を持つ細胞に標的化することが示されているインスリン−ポリ−L−リシンでコーティングされる(Rosenkranz et al.Expt.Cell Res.,199:323−329(1992))。また、肝細胞に対する向性を可能とするListeria monocytogenesのp60(Hess et al.Infect.Immun.,63:2047−2053(1995))、またはヘパリン、ヘパリン硫酸およびコラーゲンに結合することによって、哺乳動物細胞外マトリックスへの特異的結合を引き起こすTrypanosoma cruziからの60kD表面蛋白質(Ortega−Barria et al.Cell,67:411−421(1991))をそれらの表面に有するように修飾された細菌は本発明の範囲内のものである。
【0096】
なおもう1つの具体例において、細胞は、RNAの送達のために細菌の標的細胞となるように修飾することができる。従って、細胞は、細胞へのその進入のために細菌によって認識される表面抗原、例えば、侵入因子の受容体を発現するように修飾することができる。細胞は、表面抗原が所望の条件で発現されるように、侵入因子の受容体をコーディングする核酸を細胞に導入することによって修飾することができる。別法として、細胞は侵入因子の受容体でコーティングすることができる。侵入因子の受容体は、インテグリン受容体スーパーファミリーに属する蛋白質を含む。種々の細菌および他の微生物によって認識されるインテグリン受容体のタイプのリストは、例えば、Isberg and Tran Van Nhieu(1994)Ann.Rev.Genet.27:395に見出すことができる。インテグリンサブユニットについてのヌクレオチド配列は、例えば、インターネットで公に入手可能なGenBankに見出すことができる。
【0097】
前記したように、なお他の標的細胞は魚類、鳥類および爬虫類細胞を含む。天然で魚類、鳥類、および爬虫類細胞に対して侵入性である細菌の例を以下に記載する。
【0098】
魚類細胞の細胞質に天然で接近可能な細菌の例は、限定されるものではないが、Aeromonas salminocida(ATCC No.33658)およびAeromonas schuberii(ATCC No.43700)を含む。減弱化細菌は本発明で好ましく用いられ、A.saomonicidia vapA(Gustafson et al.J.Mol.BIol.,237:452−463(1994))またはA.salmonicidia芳香族−依存性突然変異体(Vaughan et al.Infect.Immun.,61:2172−2181(1993))を含む。
【0099】
天然で鳥類細胞の細胞質に接近可能な細菌の例は、限定されるものではないが、Salmonella galinarum(ATCC No.9184)、Salmonella enteriditis(ATCC No.4931)およびSalmonella typhimurium(ATCC No.6994)を含む。減弱化細菌は本発明にとって好ましく、S.galinarum cya crp突然変異体(Curtiss et al.(1987)supra)またはS.enteritidis aroA芳香族−依存性突然変異体CVL30(Cooper et al.Infect.Immun.,62:4739−4746(1994))のような減弱化Salmonella株を含む。
【0100】
爬虫類細胞の細胞質に天然で接近可能な細菌の例は、限定されるものではないが、Saomonella typhimurium(ATCC No.6994)を含む。減弱化細菌は本発明にとって好ましく、S.typhimurium芳香族−依存性突然変異体(Hormaeche et al.supra)のような減弱化株を含む。
【0101】
また、本発明は、天然で、あるいは侵入性となるように修飾された後に、当該細胞に侵入できる微生物が存在する限り、他の真核生物細胞、例えば、植物細胞へのRNAの送達を提供する。植物細胞に侵入できる微生物の例はAgrobacterium tumerfaciumを含み、これは、特異的受容体を介し、次いで、細菌コンジュゲーションに似たプロセスを介して植物細胞に結合し、その内容物の少なくともいくらかを植物細胞に送達する毛−様構造を用いる。
【0102】
以下の記載は、本発明の方法に従ってRNAを送達することができる細胞系の例である。
【0103】
ヒト細胞系の例は、限定されるものではないが、ATCC Nos.CCL62、CCL159、HTB151、HTB22、CCL2、CRL1634、CRL8155、HTB61、およびHTB104を含む。
【0104】
ウシ細胞系の例はATCC Nos.CRL6021、CRL1733、CRL6033、CRL6023、CCL44、およびCRT1390を含む。
【0105】
ヒツジ細胞系の例はATCC Nos.CRL6540、CRL6538、CRL6548およびCRL6546を含む。
【0106】
ブタ細胞系の例はATCC Nos.CL184、CRL6492、およびCRL1746を含む。
【0107】
ネコ細胞系の例はCRL6077、CRL6113、CRL6140、CRL6164、CCL94、CCL150、CRL6075およびCRL6123を含む。
【0108】
バッファロー細胞系の例はCCL40およびCRL6072を含む。
【0109】
イヌ細胞の例はATCC Nos.CRL6213、CCL34、CRL6202、CRL6225、CRL6215、CRL6203およびCRL6575を含む。
【0110】
ヤギ由来細胞系の例はATCC No.CCL73およびATCC No.CRL6270を含む。
【0111】
ウマ由来細胞系の例はATCC Nos.CCL57およびCRL6583を含む。
【0112】
シカ細胞系の例はATCC Nos.CRL6193−6196を含む。
【0113】
霊長類由来細胞系の例はATCC Nos.CRL6312、CRL6304、およびCRL1868のようなチンパンジー細胞系;ATCC Nos.CRL1576、CCL26、およびCCL161のようなサル細胞系;オランウータン細胞系ATCC No.CRL1850;およびゴリラ細胞系ATCC No.CRL1854を含む。
【0114】
4.医薬組成物
本発明の好ましい具体例において、RNA分子、および/またはそれをコードするDNAを含有する侵入性細菌は静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、経口、鼻腔内、眼内、直腸内、膣内、骨内、口腔、浸漬および尿道内接種経路によって動物に導入される。
【0115】
対象に投与される本発明の侵入性細菌の量は、対象の種、ならびに治療すべき病気または疾患に依存して変化するであろう。一般に、使用される容量は対象当たり約10ないし1011の生きた生物、好ましくは約10ないし10の生きた生物であろう。
【0116】
本発明の侵入性細菌は、一般には、医薬上許容される担体および/または希釈剤と共に投与される。使用される特定の医薬上許容される担体および/または希釈剤は本発明にとって重要ではない。希釈剤の例はリン酸緩衝化生理食塩水、スクロースを含有するクエン酸緩衝液(pH7.0)、炭酸水素塩緩衝液(pH7.0)単独(Levine et
al.J.Clin,Invest.,79:888−902(1987);and Black et al.J.Infect.Dis.,155:1260−1265(1987))、またはアスコルビン酸、ラクトース、および所望によりアスパルテーム(Levine et al.Lancet, II:467−470(1988))を含有する炭酸水素塩緩衝液(pH7.0)のような、胃における胃酸に対して緩衝化するための緩衝液を含む。担体の例は、例えば、スキムミルクで見出される蛋白質、糖類、例えば、スクロース、またはポリビニルピロリドンを含む。典型的には、これらの担体は約0.1ないし30%(w/v)、好ましくは1ないし10%(w/v)の範囲の濃度で用いられるであろう。
【0117】
以下に記載するのは、送達特異的経路で用いることができる他の医薬上許容される担体または希釈剤である。細菌が依然として標的細胞に侵入することができる限り、いずれのそのような担体または希釈剤も本発明の細菌の投与で用いることができる。侵入性についてのイン・ビトロまたはイン・ビボテストを行って、適当な希釈剤および担体を決定することができる。本発明の組成物は、全身および局所または局所化投与を含めた、種々のタイプの投与用に処方することができる。細菌が標的細胞との接触に際して、または対象への投与に際して侵入性である限り、凍結乾燥形態も含まれる。技術および処方は、一般には、Remmington’s Pharmaceutical Sciences,Meade Pablishing Co.,Easton,Pa.に見出すことができる。全身投与では、筋肉内、静脈内、腹腔内および皮下を含めた注射が好ましい。注射では、本発明の組成物、例えば、細菌は液体溶液、好ましくは、ハンクス溶液またはリンゲル溶液のような生理学的に適合する緩衝液中に処方することができる。
【0118】
経口投与では、医薬組成物は、結合剤(例えば、プレゼラチン化トウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、マイクロクリスタリンセルロースまたはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉またはナトリウム澱粉グリコレート);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のような医薬上許容される賦形剤にて、慣用的な手段によって調製することができる錠剤またはカプセル剤の形態を取ることができる。錠剤は当該分野でよく知られた方法によってコーティングすることができる。経口投与のための液体製剤は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形態を取ることができ、あるいはそれらは使用前に水または他の適当なビヒクルでの復元のための乾燥製品として呈することができる。そのような液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非−水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコールまたは分別植物油);および保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル、またはソルビン酸)のような医薬上許容される添加剤にて、慣用的手段によって調製することができる。製剤は適切には、緩衝塩、フレーバー、着色および甘味剤を含有することができる。
【0119】
経口投与用の製剤は、活性化合物の制御された放出を実現するように適切に処方することができる。バッカル投与では、組成物は、慣用的に処方された錠剤またはロゼンジの形態をとることができる。
【0120】
吸入による投与では、本発明に従って使用される医薬組成物は、便宜には、適当なプロペラント、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適当なガスを用い、圧縮されたパックまたはネビュライザーからのエアロゾルスプレーの形態で投与される。圧縮エアロゾルの場合には、投与単位は、計量された量を送達するためのバルブを供することによって決定することができる。例えば、吸入器またはインスフレーターで用いられるゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、組成物の粉末ミックス、例えば、細菌、およびラクトースまたは澱粉のような適当な粉末基剤を含有するように処方することができる。
【0121】
医薬組成物は注射による、例えば、ボーラス注射または継続的注入による非経口投与用に処方することができきる。注射のための処方は、保存剤を加えた、例えば、アンプルまたは多用量容器中にて単位投与形態で供することができる。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンのような形態を取ることができ、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤のような処方剤を含有することができる。別法として、有効成分は、使用前の、適当なビヒクル、例えば、滅菌されたパイロジェン−フリー水での復元のために粉末形態とすることができる。
【0122】
医薬組成物は、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドのような慣用的坐薬基剤を含有する坐薬または停留浣腸のような直腸、膣内または尿道内組成物に処方することもできる。
【0123】
全身投与は経粘膜または経皮手段によることもできる。経粘膜または経皮投与では、浸透させるべきバリアーに適切な浸透剤を処方で用いる。そのような浸透剤は当該分野で一般的に知られており、例えば、経皮投与では、胆汁塩およびフシジン酸誘導体を含む。加えて、洗剤を用いて浸透を促進することができる。経粘膜投与は鼻スプレーを介し、または坐薬を用いることができる。局所投与では、本発明の細菌は、細菌が標的細胞との接触に際して依然として侵入性である限り、当該分野で一般的に知られている軟膏、膏薬、ゲル、またはクリームに処方される。
【0124】
組成物は、所望であれば、有効成分を含有する1以上の単位投与形態を含有することができるパックまたはディスペンサーデバイスおよび/またはキットにて供することができる。該パックは、例えば、ブリスターパックのような金属またはプラスティックホイルを含むことができる。該パックまたはディスペンサーデバイスは投与のための指示書を伴わせることができる。
【0125】
導入すべきRNAまたはRNA−コーディングDNAを含有する侵入性細菌を用いて、対象から得られた細胞のような、イン・ビトロで培養される動物細胞を感染させることができる。次いで、これらのイン・ビトロ−感染細胞は動物、例えば、それから細胞が最初に得られた対象に、静脈内、筋肉内、皮内、または腹腔内、あるいは細胞が宿主組織に進入するのを可能とするいずれかの接種経路によって導入することができる。RNAを個々の細胞に到達する場合、投与すべき生きた細胞の用量は、細胞当たり約0.1ないし10、好ましくは約10ないし10細菌の範囲の多重度におけるものであろう。
【0126】
本発明のなおもう1つの具体例において、細菌は、それから蛋白質が後に収穫し、または精製することができる細胞、例えば、動物細胞に蛋白質をコードするRNA分子を送達することもできる。例えば、蛋白質は組織培養細胞で生産することができる。
【0127】
本発明をその詳細な記載と共に記載してきが、これまでの記載は、添付の請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を説明するものであり、限定するものでないことが意図される。他の態様、利点、および修飾は以下の請求の範囲の範囲内のものである。
【0128】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、断じて限定的であると解釈されるべきではない。本出願を通じて引用された文献、発行された特許、公開された特許出願を含めたすべての引用された文献の内容は、ここに、明示的に引用して援用する。本発明の実施は、他に示されない限り、生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の慣用的技術を使用するが、それらは当該分野の技量内のものである。そのような技術は文献に十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Ed.,ed.by Sambrook,Fritsch and Maniatis(Cold Spring Harbor Laboratory Press:(1989);DNA Cloning,Volumes I and II(D.N.Glover ed.,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.,1984);Mullis et al.U.S.Pat.No:4,683,195;Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Transcription And Translation(B.D.Hames & S.J.Higgins eds.1984);Culture Of Animal Cells(R.I.Ereshney,Alan R.Liss,Inc.,1987);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);the treatise,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,Vols.154 and 155(Wu et al.eds.),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I−IV(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.,1986);Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)参照。
【実施例】
【0129】
(方法)
siRNAを生じるプラスミドの構築:
オリゴヌクレオチドはPAGE精製にてQIAGENから0.2μモルで得られた。アニーリングの後に、製造業者の指示に従って、オリゴヌクレオチドをpSilencer
2.0−U6(Ambion,Inc.)内のBamhiおよびHindIII結合部位に挿入した。
【0130】
以下の配列を用いた:
k−RAS−1および−2 64−量体は、V12の特異的突然変異にわたるk−Ras蛋白質のアミノ酸9ないし15をコードするヌクレオチドを標的とする。
【0131】
k−Ras−1(64−量体):
【0132】
【化1】

(配列番号:1)
k−Ras−2(64−量体):
【0133】
【化2】

(配列番号:2)
β−カテニン−1および−2 64−量体は、カテニン蛋白質内のアミノ酸79ないし85をコードするヌクレオチドを標的とする。
β−カテニン−1(64−量体):
【0134】
【化3】

(配列番号:3)
β−カテニン−2(64−量体):
【0135】
【化4】

(配列番号:4)
EGFP−1および−2 64−量体は、EGFPのアミノ酸22ないし28についてコードするヌクレオチドを標的とする。
【0136】
EGFP−1(64−量体):
【0137】
【化5】

(配列番号:5)
EGFP−2(64−量体):
【0138】
【化6】

(配列番号:6)
トランスキングダムRNA干渉プラスミドの構築:
作製されたプラスミドpT7RNAi−Hly−Inv,TRIPはpGB2Ωinv−hly(Milligan et al.,Nucleic Acids Res.15,8783(1987))およびpBleuScript II KS(+)から構築した。多重クローニング部位(MCS)、T7プロモーター、エンハンサーおよびターミネーターQiagenから合成)を含有するオリゴヌクレオチドはKSII(+)の平滑末端BssHII部位に連結し、β−カテニンヘアピンオリゴをMCSのBamHIおよびSalI部位に挿入して、プラスミドpT7RNAiを得た。pGB2Ωinv−hlyのinv遺伝子座を含有するPstI断片をKSII(+)のPsiI部位に挿入した。pGB2Ωinv−hlyを鋳型として用い、プライマー、hly−1:
【0139】
【化7】

(配列番号:7)およびhly−2:
【0140】
【化8】

(配列番号:8)でのPCR(Pfx DNAポリメラーゼ,Invitrogen Inc.)によって増幅し、KSII(+)/InvのEcoRV部位にクローン化した。Hly−Inv断片をBamHIおよびSalIで切り出した。平滑末端とした後、それを、pT7RNAiのT7ターミネーター内に取り込まれたEcoRV部位に連結した。細菌:
この実験においてプラスミドのキャリアーとして用いた栄養要求性Salmonella tyhimurium aroA 7207(S.typhimurium 2337−65誘導体hisG46、DEL407[aroA544::Tn10(Tc−s)])は、Prof.BAD Stocker教授,Stanford University,CAから親切にも贈られた。Escherichia coil XL−1 Blueを用いて、プラスミド(Strategene)を維持した。
【0141】
適合させたエレクトロポレーションプロトコル(1)を用いて、SL 7207の形質転換を達成した。コンピテントなSL7207および1μgのプラスミドを、冷却された0.2cmのエレクトロポレーションキュベット中にて氷上で5分間インキュベートした。BioRad Genepulserを用い、2.5kV、25μF、200Ωインパルスを適用した。1mLの予め温めたSOC培地を加え、225RPM振盪しつつ細菌を37℃にて1時間回収し、その後、選択寒天プレート上で平板培養した。プラスミドの存在は、アルカリ性溶解および0.7%アガロースゲルでの分離の後にミニ調製を用いて確認した。
【0142】
イン・ビトロ実験では、振盪することなく、100μg/mLアンピシリン(SL−siRAS、SL−siGFPおよびSL−siCAT用)を補足したルリアブロス(LB)中でSL7202を37℃にて一晩増殖させた。翌朝、0.4ないし0.6のOD600に到達するまで、一晩の培養からの1%接種の後に、細菌を新鮮な培地中で増殖させた。細菌を遠心し(3500RPM,4℃)、リン酸−緩衝化生食塩水(PBS)中で一回洗浄し、PBS中に所望の濃度で再度懸濁させた。細菌の数および濃度の全ての決定のために、細菌の密度を分光学的に測定し、式c=OD600*8×10/mLに従って計算した。
【0143】
動物実験では、必要な場合、SL7207を適当な抗生物質を補足した安定な一晩の培養にてブレインハードインフージョンブロス(Sigma)中で増殖させた。細菌を洗浄し、2.5×1010/mLの濃度にてPBS中に再度懸濁させた。系列希釈を行い、投与した細菌の現実の数を確認するための実験の間に、数回、選択寒天上で平板培養した。
【0144】
また、製造業者の指示に従って、プラスミドをBL21DE3株(Gene Therapy Systems)に形質転換した。細菌を、100μg/mLアンピシリンを加えたブレイン−ハート−インフュージョン−ブロス中で37℃で増殖させた。細菌の数はOD600測定を用いて計算した。細胞感染のために、一晩培養を他の2時間の増殖のために新鮮な培地に接種した。
細胞培養:
ヒト結腸癌細胞系(SW480)をここでは用いた。それは、β−カテニンの増大した基礎レベルをもたらすAPC蛋白質の突然変異を有する。黄身包上皮に由来する安定にGFPを発現する細胞系、CRL2583(ATCC,Rockville,MD)をGFP−ノックダウン実験で用いた。細菌感染前30分まで、CRL2583を200μg/mL G418中で維持した。10%胎児ウシ血清を補足したRPMI−1640中でSW480を増殖させた。供給業者によって推奨されているように、15%FBSを補足した高グルコース、高NaHCO DMEM中でCRL2583を増殖させた。全ての増殖培地は抗生物質:100U/mlペニシリンG、10μg/mLストレプトマイシン、2.5μg/mLアンフォテリシンをルーチン的に補足した(全ての培地添加剤はSigma,St.Louisから購入した)。
【0145】
プラスミドの直接的トランスフェクションのために、500,000細胞を6cmのペトリ皿に播き、一晩増殖させ、その後、標準的なCaP−供沈殿プロトコルを用いてそれらをトランスフェクトした。
【0146】
簡単に述べれば、15μgのプラスミド−DNAを500μL反応ミックス(2×HEPES緩衝液,60μL CaP)中で混合し、FBSを含まない新鮮な培地中の細胞に滴下した。沈殿を9時間継続させ、その後、沈殿を洗浄した。細胞を異なる時点(36、48、60、72、および96時間)において収穫した。
【0147】
標準的な細菌感染アッセイのために、500,000細胞を6cmのペトリ皿に播き、一晩付着させた。細菌の添加に30分先立って、増殖培地を抗生物質および胎児ウシ血清を含まない新鮮な培地で交換した。SL 7207−siRAS、−siCAT、−siGFPを500μL PBSに加えて、100、500または1000の示された感染多重度(MOI)に到達させ、感染を37℃、5%COでの標準インキュベータ中で行った。示された感染期間の細部までに、プレートを4mlの無血清RPMI培地で1回、4mlのPBSで3回洗浄し、次いで、100μg/mLのアンピシリンおよび150μg/mLのゲンタマイシンを含有する5mlの新鮮な完全RPMI培地を加えた。24時間後に、テトラサイクリンを15μg/mLの最終濃度まで加えた。細菌侵入後の示された異なる時点(24ないし96時間)において、ウエスタンブロットまたはフローサイトメトリーのために細胞を収穫した。
【0148】
細胞内細菌の染色のために、細胞をLab−Tek II Chamber Slides(Nalgane Nunc,USA)で増幅させた。前記した細菌侵入後に、細胞をPBSで洗浄し、1%パラホルムアルデヒド中で10分間固定した。アクリジンオレンジ(Sigma)溶液(0.01%)を45秒間で加え、次いで、PBSで洗浄した。クリスタルバイオレット(Crystal Violet)染色(Sigma)を45秒間適用し、次いで、PBSで洗浄した。カバーグラスを、PERMOUNTTM設置培地を用いて設置し、供焦点顕微鏡を用いて侵入を評価した。
MTTアッセイ
SL7207−siRASおよび/またはSL7207−siCATでの処理の後に、細胞をトリプシン処理し(24時間または48時間後)、希釈し、5000細胞/ウェルの濃度にて96−ウェルプレートに播いた。次いで、細胞を4日間まで増殖させた。所望のインキュベーション時点において、細胞を取り出し、100μLのMTT溶液(5mg/mL)を各ウェルに加えた。4時間のインキュベーション時間の後、MTT溶液を排出し、100μLの可溶化試薬(イソプロパノール:1N HCl:10%SDS 43:2:5)を各ウェルに加えることによって細胞を溶解させた。暗い青色のホルマザン−生成物の得られたシグナルを570nm波長において分光学的に測定した。色形成の量はウェル当たりの生存する細胞の数に依存する。
コロニー形成テスト:
SL7207−siRASおよび/またはSL7207−siCATでの処理の後、細胞をトリプシン処理し(トランスフェクション後24時間)、希釈し、750細胞/ウェルの濃度で6−ウェルMTPに播いた。細胞をさらに2週間増殖を維持して、生きたコロニーを形成させた。2週間後、培地を取り出し、1mlのギムザ染色(7.415g/L)を各ウェルに加えた。37℃における10分間のインキュベートの後、ギムザ染色を排出し、細胞をPBSで洗浄した。8を超える細胞の群を陽性コロニーとしてカウントした。
ウエスタンブロット:
細胞を冷却したPBSで洗浄し、掻き落とし、0.1%プロテアーゼ阻害剤ミックス(Sigma)を含有する溶解干渉液(50mM HEPES pH7.5、150mM NaCl,1mM EDTA,2.5mM EGTA, 1%NP−40,1mM DTT)中で溶解させた。11%SDS−Pageゲルを用いて20μgの蛋白質を分離し、0.4μmのPVDF膜(Schleicher and Schuell)に移した。5%ミルクを用いて膜をブロックし、示された濃度の特異的抗生物質:Living Colors(登録商標)抗体(Clontech)−1:500,β−カテニン抗体(Santa Cruz)−1:500(k−RAS抗体)(Santa Cruz)−1:300およびβ−アクチン(Santa Cruz)1:500と共に1時間インキュベートした。各々に続いて、ホースラディッシュ−ペルオキシダーゼコンジュゲーテッド抗−ウサギまたは抗−ヤギ二次抗体(Santa Cruz)−1:1000−1:2000と共にインキュベートした。ECL(登録商標)ケモルミネセンス検出(Amersham)を用いてバンドを検出した。
フローサイトメトリー:
フローサイトメトリーでは、細胞を3分間トリプシン処理し、新鮮な培地に再度懸濁させ、PBS中で洗浄した。遠心の後、細胞を4℃にて1%パラホルムアルデヒド/PBS中で10分間固定した。FACScan(Becton Dickinson)を用いてフローサイトメトリーを行い、CellQuest(登録商標)ソフトウェアを用いてデータ分析を行った。
動物技術:
6ないし8週齢雌GFP+トランスジェニックマウス(CgTg5Nagy)はJackson Laboratoriesから入手した。それらをBIDMC動物研究施設に収容して、標準的なげっ歯類食餌および飲料水に自由に接近させた。処理は10週齢で開始した。iv処理プロトコルでは、50μLのPBS中に溶解させた4用量の106cfu SL−siRASまたはSL−siGFPを各日に尾静脈に注射した。毎日マウスの体重を測定し、病気の兆候についてモニターした。
【0149】
最終処理から1日後にマウスを犠牲にし、その時点で、組織化学およびフローサイトメトリー分析のために組織試料を採取した。組織をパラフィン包埋し、組織化学および蛍光顕微鏡測定工程のために6μmで切片化した。フローサイトメトリーでは、細胞ストレイナー(Falcon)の使用を介して、肝臓細胞および脾臓細胞懸濁液を調製した。器官懸濁液を4%ホルマリン中で固定し、FACScan(Becton Dickinson)を用いてフローサイトメトリーを行い、CellQuest(登録商標)ソフトウェアを用いてデータ解析を行った。
【0150】
異種移植片癌モデルでは、雌BALB/cヌードマウス(Charles River
Laboratories)を2つの群(n=6)にランダム化した。処理の3週間前に、1×10のSW480細胞を皮下移植した。腫瘍が直径約10mmに到達すると、処理を開始した。処理群には、PBS中のβ−カテニンに対するshRNAを発現する1×10cfuのE.coliで尾静脈を介して注射した。E.coliがshRNAインサートを含まないTRIPベクターを含有する以外は、対照群を同様に処理した。合計3回の処理について5日毎に処理を行った。最後の処理から5日後にマウスを犠牲にした。組織を凍結し、リアル−タイムPCRによるβ−カテニンmRNAレベル、および免疫組織化学によるβ−カテニン蛋白質の分析のために固定化した。
【0151】
イン・ビボサイレンシング実験のため、雌C57/BL6マウス(Charles River Laboratories)を2つの群にランダムに分割した。処理群には、200μLのリン酸―緩衝化生理食塩水(PBS)中の、β−カテニンに対するshRNAを発現する5×1010cfu E.coliを経口投与した。E.coliがshRNAインサートを含まないTRIPベクターを含有する以外は、対照群を同様に処理した。2つの独立した実験を各々、用いる群当たり6および5匹のマウスで行った。処理は合計して4週間の間、1週間当たり5日間毎日行った。最後の処理から2日後にマウスを犠牲にし、組織をパラフィン−包埋した。
免疫組織化学
製造業者による指示に従って、Vectastain Elite ABCアビジン−ビオチン染色キット(Vector laboratories,Burlingame,CA)を用いて、免疫染色を6μmの組織切片で行った。標準的なプロトコルを用い、スライドを脱パラフィン化し、再度水和させた。抗原の回復のために、5%尿素中でスライドをマイクロ波によって5分間加熱した。非特異的結合部位を1%ウシ血清アルブミンで10分間ブロックし、内因性ペルオキシダーセ活性を、メタノール中の3%Hでの処理によって10分間抑制した。切片を、1:500希釈にて、一次抗体LIVING
COLORSTMウサギポリクローナル抗体(Clontech)に対して4℃にて曝露した。用いた発色団は3,3’ジアミノ−エンジジン(DAB)Vector)であって、逆染色はヘマトキシリンで行った。
インターフェロン応答検出:
1:1000のMOIにて、ヒトβ−カテニンまたは突然変異体k−Rasに対するshRNAをコードするTRIPで形質転換されたE.coliでSW480細胞を2時間処理した。未処理細胞を対照として用いた。細胞を24、48および72時間に収穫した。OAS1、OAS2、MX1、ISGF3γおよびIFITM1遺伝子の発現レベルは、インターフェロン応答検出キット(SBI System Biosciences,CA)を用いてRT−PCRによって測定した。
【0152】
(実施例1:イン・ビトロおよびイン・ビボで細菌媒介遺伝子サイレンシングを用いる緑色蛍光蛋白質のノックダウン)
以下の実験において、Salmonella typhimurium(SL7207,BAD Stocker,Stanford Universityから入手)の減弱化株を用いた。概念が一般的なアプローチとして有用であることを証明するために、我々は、Salmonella typhimurium(VNP70009,VION Pharmaceuticals,New Havenから入手)のもう1つの減弱化株、およびE.coil(BM2710,P.Courvalin,Institut Pasteur,Parisから入手)の侵入性かつ減弱化された株でも確認試験を行った。
【0153】
サイレンシングプラスミドは、標的遺伝子GFP、β−カテニンおよび癌遺伝子k−RAS(V12G)をノックダウンするように、商業的に入手可能なプラスミド(pSilencer,Ambion)に基づいて設計した。これらのプラスミドはエレクトロポレーションによってSL7207に形質転換し、選択寒天上での増殖およびDNA調製によって陽性クローンを確認した。
【0154】
イン・ビトロで用いるために、安定なGFP+細胞系CRL2598(ATCC,Rockland,Va)を用い、GFP発現のノックダウンを証明した。癌遺伝子k−Ras(V12G)およびβ−カテニンのノックダウンは、結腸癌細胞系SW480および膵臓癌細胞系CAPAN−1を用いて証明した。
【0155】
侵入性細菌株、S.typhimuriumを用いる細菌送達のシステムは、商業的に入手可能な真核生物転写プラスミド、pSilencer(Ambion)で開発した。(B.Stocker,Stanford Universityから親切にも贈られた)S.typhimurium株SL7207は、芳香族アミノ酸についての合成経路における栄養要求性を介して減弱化させ、栄養の欠如による標的細胞への侵入後に迅速に死滅した。この株は、主として、DNAワクチン接種の目的で、イン・ビトロでのDNAの送達のために、およびマウスモデルにおいて首尾よく用いられてきた。
【0156】
上皮細胞への細菌の進入を証明するために、侵入アッセイを行った。SW480細胞をSL−siRASで2時間感染させ、続いて、ゲンタマイシンで2時間処理した。アクリジンオレンジ/クリスタルバイオレット染色は良好な侵入効率を明らかにした。SW480細胞の90%は生きているSL7207細菌を保有した。細胞内細菌の平均数は6(範囲,2ないし8)であった。(図1)。(顕微鏡写真A1は透過イメージである。顕微鏡写真A2は蛍光イメージである。顕微鏡写真A3は合わせたイメージである)。生きた細胞内細菌の数は経時的に迅速に減少した。24時間および48時間後に、細胞の10%および3%のみが依然として細菌を含有することが判明した。
【0157】
次の実験において、GFP+細胞系におけるGFP発現の効果的な低下が示された。癌遺伝子k−Rasおよびβ−カテニンの成功したノックダウンは、ウエスタンブロットおよびRT−PCRを用いて確認した。癌遺伝子ノックダウンの結果、成長の遅延がもたらされ、異種移植片動物モデルにおいて腫瘍形成を減少させた。
【0158】
GFPを安定に発現する細胞(CRL2583)を、GFP mRNAをサイレントとする配列を含めたpSilencer2.0を運ぶSL7207で感染させた(SL−siGFP)(前記参照)。48時間後、SL−siGFPで処理した細胞は、SL−siRASで処理した細胞および未処理対照と比較して、GFP発現の顕著な減少を示した(図1Bおよび1C)。SL−siGFPでの処理は、適用した感染多重度(MOI)に依存して、GFPシグナルの喪失に導いた。未処理細胞において、4.3%のみが低い蛍光を呈するかまたは蛍光を呈しない。SL−siGFP処理細胞においては、この画分は78.1%(MOI 1:500で処理)および92.3%(MOI 1:1000)まで増加した。SL−siRASでの対照処理は、蛍光のわずかな喪失に導いた(MOI 1:500において7・5%およびMOI 1:1000において8・4%)。これは、図1Cにおいて蛍光顕微鏡写真においても示されている。頂部写真はSL−siRASおよびSL−siGFP(下記)処理CRL 2583細胞の底部のものである(200×)。この知見は、フローサイトメトリーを用いて確認された。
【0159】
安定にGFPを発現するマウスでの一連の動物実験では、我々は、GFP−サイレンシングプラスミドを有するL7207の経口および静脈内適用後に、肝臓および結腸におけるGFP発現のノックダウンを示すことができた(双方の器官において、GFP発現のほぼ50%低下)。
【0160】
動物実験においては、S.typhimuriumを用いて、トランスジェニックマウスモデル(GFP+)において遺伝子サイレンシングを達成した。この方法を用い、動物実験における制限された毒性での導入遺伝子のサイレンシングをmRNAレベルにおいて、ならびに蛋白質レベルおよび種々の器官(肝臓、胃腸管)の組織切片において示した。
【0161】
(実施例2 細菌媒介遺伝子サイレンシングを用いるk−Rasおよびβ−カテニンのノックダウン)
次に、BMGSを適用して、特異的病気−関連遺伝子をノックダウンした。ヒト結腸癌腫細胞系、SW480に存在するk−Ras遺伝子、k−RasV12Gにおける特異的癌遺伝子点突然変異を標的化した。
【0162】
サイレンシングプラスミドの構築の後、それらを減弱化SL7207にエレクトロポレーションする前に、CaP共沈殿を用いてそれらをSW480細胞にトランスフェクトすることによってそれらの活性をテストした。
【0163】
ウェスタンブロット(図4A)は、36時間および48時間ポストトランスフェクションにおいて、pSilencer−k−Ras(V12G)インサートを用いるk−Rasの効果的なノックダウンを示す。後の時点において、蛋白質発現は回復し、これは、増殖に不利益を有するトランスフェクトされたクローンの増殖−対−癌遺伝子k−Rasが依然として複製を駆動するトランスフェクトされていないクローンの増殖に起因する。キャリアーとしてのSL7207と共にBMGSを用いてノックダウンを媒介した場合、1:500および1:1000のMOIにおいて、k−Rasレベルを減少させた。PMGSを用い、k−Ras蛋白質のノックダウンは、リン酸カルシウム共沈殿を用いるサイレンサープラスミドの直接的トランスフェクションと比較して同様な効率で観察されたが、ノックダウンの開始は12時間だけわずかに遅れた(図4A)。1:1000のMOIでは、結果がより長い時間(72時間まで)観察された(図2A)。
【0164】
β−カテニンについてのウェスタンブロット(図4B)は、トランスフェクション後における遅延されたノックダウンを示し、最大の効果はトランスフェクションから96時間後に見られた。この遅延は、プラスミドが遊離される前の細胞内でSL7207の生存時間によって引き起こされると推定される(図2A)。
【0165】
SL−siRASでの処理、および癌遺伝子k−Rasの得られたノックダウン(V12G)の後、SW480細胞は、有意に低下した生存率およびコロニー形成能力を呈した(図2B)。細胞は、等量(2.5×10)のSL−siRASおよびSL−siCAT細菌と共インキュベートした。対照細胞は形質転換されていないSL207で処理した。トランスフェクションから48時間後に、細胞をMTTテストのために96ウェルプレートに、およびコロニー形成アッセイのために6ウェルプレートに播いた。処理から120時間後に、MTTアッセイによって評価された生存率は、SL−siRAS処理後には62.5%まで、SL−siCAT処理後には51%まで低下した。合わせた処理は、生存率を対照細胞の29%までさらに低下させた。SL−siRAS処理およびSL−siCAT処理は、各々、37.7%および50%だけコロニーを形成するSW480の能力を低下させた。合わせた処理は63.3%低下に導いた。
【0166】
さらに、SL−RASでの処理は、ヌードマウスに皮下注射した場合に、SW480細胞の腫瘍形成能力を完全に阻害し、他方、空のSL−7207での処理は腫瘍を形成するそれらの能力に影響しなかった。(図2C)。(SL7207またはSL−siRASで処理されていない、または処理された)SW480細胞をヌードマウスに皮下注射した(4×10細胞,群当たりn=4動物)。SL−siRASでの処理は、腫瘍を形成する能力を完全にはなくしなかった(4匹の動物のいずれにおいても腫瘍は見えなかった,40日)(図2C)。
【0167】
このアプローチを普遍的に使用できるか否かをテストするために、もう1つの癌―関連遺伝子、β―カテニンを標的化した(図2A)。β―カテニンの基礎レベルは、突然変異したAPC―遺伝子のためSW480細胞では高いが、pSilencer(siCAT)トランスフィクション後にヘアピンsiRNAでの処理を通じて低下させることができる(図2A)。β―カテニン構築体を持つpSilencerを有するSL7207(SL−siCAT)での処理の後、β―カテニン発現の有意なノックダウンが達成され、その結果、低下した生存率およびコロニー形成能力がもたらされた(図2A)。β―カテニンは96時間からノックダウンされたが、144時間から回復した。
【0168】
(実施例3:イン・ビボ細菌媒介遺伝子サイレンシング)
RNAiの細菌媒介の方法は、1を超える遺伝子を一度に選択的に標的化する可能性を提供し、将来の適用、例えば、複数の癌遺伝子経路との干渉を通じての抗癌処理についての効率の増大を可能とする。そのようなアプローチの使用可能性をテストするために、突然変異したk−Ras癌遺伝子およびβカテニン双方を同時に標的化した。SL−siRasおよびSL−siCATでの同時処理の後、双方の遺伝子のノックダウンが蛋白質レベルで観察され、さらに減少した生存性およびコロニー形成能力がもたらされた(図2)。これらの知見は、細菌媒介遺伝子サイレンシングの提案された概念が、異なる標的遺伝子に対してイン・ビトロにおいておよび異なる細胞系において首尾よく用いることができることを示す。
【0169】
このアプローチを用いてイン・ビボで標的遺伝子をサイレントとすることができるか否かをテストするためにマウスモデルを選択した。CgTg5−Nagyマウスは全ての組織において高レベルのGFPを発現する。別の日にSL−siGFPまたはSL−siRASいずれかの10cfuの4回の用量を静脈内で受け取るように、14匹のマウスをランダムに割り当てた(群当たり7匹の動物)。この処理はよく許容され、体重の喪失や病気の臨床的に明らかな兆候は伴わなかった。最後の処理から1日後に全てのマウスを犠牲にした。
【0170】
肝臓組織スライドは、蛍光顕微鏡測定およびGFP抗体での免疫組織化学によって評価した(図3A)。SL−siGFPでの静脈内処理は、SL−siRAS処理対照動物と比較して、処理された動物の肝臓切片における蛍光の減少を導いた。抗―GFP抗体での組織化学染色は、蛍光の変化がGFPの低下によって引き起こされ、バックグラウンド蛍光レベルの変化によっては引き起こされないことを証明した(図5)。処理したマウスの肝臓切片における蛍光の低下が現実にはバックグラウンド蛍光の変化によるものではなく、GFP発現レベルの変化によって、引き起こされることを確認するために、組織スライドをGFP特異的抗体で染色した。
【0171】
免疫組織化学染色パターンは蛍光顕微鏡測定イメージとよく相関し、蛍光の変化が低下したGFP発現によって引き起こされることが確認される。対照(上側列)および静脈内処理した(下側列)動物からの肝臓切片の蛍光顕微鏡測定(50×)および対応する免疫組織化学イメージ(50×)。
【0172】
染色パターンは蛍光イメージとよく相関した。引き続いてのイメージ分析は、SL−siGFP処理後における9ないし25%の間のGFP発現細胞の数の低下を明らかにした。これらの知見は、肝臓細胞の単細胞懸濁液のフローサイトメトリー分析によって確認され、これは、SL−siGFP処理―対―SL―siRAS処理動物におけるGFP−陽性肝細胞の数の有意な減少を示した(図3B)。肝細胞および脾臓細胞懸濁液のフローサイトメトリー測定を行った。SL―siGFPでの静脈内処理の後に、GFP+肝細胞の数は、対照処理(SL−siRAS)動物と比較して有意に低下した(SL−siRAS:50.0%[45.4−53.2%],SL―siGFP:39.9%[26.1−53.2%],p<0.05)。
【0173】
これらの結果は、有意な遺伝子サイレンシングはこのアプローチを用いてイン・ビボで達成することができることを示す。減弱化S.typhymuriumの静脈内適用を用い、我々は、イン・ビトロでの知見をマウスモデルまで拡大し、肝臓における有意な遺伝子サイレンシングを達成することができた。他の器官は、異なる侵入性細菌株の使用または異なる適用経路を介して接近可能となるであろう。特に専門的な食細胞は、細菌―媒介遺伝子サイレンシングについての有望な標的であろう。というのは、トランスフェクション効率は、上皮系列の細胞と比較してこれらの細胞でより高いことが報告されているからである。
【0174】
(実施例4:トランスキングダムRNA干渉)
高等生物における細菌―媒介RNAiの使用は、C.elegansで既に証明されているように哺乳動物系における機能的ゲノミックスに対する可能性を示し、およびRNAiの他のイン・ビボ適用に対する可能性を示す。この可能性を調べるために、TRIP(トランスキングダムRNA干渉プラスミド)と命名された細菌プラスミドpT7RNAi―Hly―Invを構築した(図6A)。この新規なプラスミド構築体においては、shRNAの発現は、哺乳動物プロモーターまたはエンハンサーよりはむしろバクテリオファージT7プロモーター(Milligan and Uhlenbeck,Methods Enzymol.180,51−62 1989)Miliigan et al.,Nucleic Acids Res. 15,8783−8798(1987))下で指令された。shRNAは細菌システムによってのみ生産され得る。TRIPベクターは、侵入をコードするInv遺伝子座を含有し(Isberg et al.、Cell 50,769−778(1987))、これは非―侵入性E.coliがβ1−インテグリン−陽性哺乳動物細胞に入るのを可能とする(Young et al.、J.Cell Biol.116,197−207(1992))。 TRIPベクターは、また、遺伝物質を進入小胞から逃がすディステリオリシンOをコードするHly A遺伝子を含有する(Mathew et al.,Gene Ther.10.1105−1115(2003)およびGrillot−Courvalin et al.,Nat.Biotechnol 16,862−866(1998))。TRIP構築体を、shRNAを発現するためのT7 RNAポリメラーゼを含有する非病原性E.coliのコンピテント株BL21DE3に導入した。癌遺伝子β―カテニンに対するTRIPは例として構築した。β―カテニンの過剰発現または腫瘍形成遺伝子突然変異によるβ―カテニン経路の活性化は、結腸癌の大部分の開始を担い、これは、種々の他の癌タイプに関与する(Kim et al,Oncogene 24,597−604(2005))。癌治療標的としてのβ―カテニンの能力にも拘らず、β―カテニン経路は小分子による阻害に従順でなかった。β―カテニンは、新しいRNAiアプローチの能力をテストするための概念的実験の証明では好ましい選択である。なぜならば、それは普通には癌細胞中で安定化されているからである。TRIPは、細菌が、注目する種々の遺伝子に対する干渉性RNAを発現するのを可能とするように修飾することができる。
【0175】
遺伝子サイレンシングをこのトランスキングダムシステムを介して達成できるかを判断するために、ヒト結腸癌細胞(SW480)を、E.coliと共に2時間(図6Bおよび6D)または異なる時点に(図6C)イン・ビトロで培養し、次いで、抗生物質で処理して、細胞外細菌を除去した。遺伝子サイレンシングの分析のための収穫前に、細胞をさらに48時間培養した。図6Bないし6Dに示すようにβ―カテニンは蛋白質およびmRNAレベルにおいて強くかつ特異的にサイレントとされ、他方、β―アクチン、k−Ras,およびグリセルアルデヒドー3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)は影響されなかった。キングダムRNAiの特異性をさらにテストするために、突然変異体k−Ras(コドン12においてGGT→GTT)に対するTRIPを含有するE.coliは、同一コドン12突然変異を持つSW480細胞におけるk−Ras発現をサイレントとしたが、k−Rasの異なるコドンでの突然変異(コドン13におけるGGC→GAC,、図6E)を持つDLD1細胞ではそうはならなかった。shRNA対照として、野生型k−Rasに対するTRIPを含有するE.coliは、SW48細胞において突然変異したk−Rasに対して遺伝子―サイレンシング効果を発揮しなかった(図6F)。この結果は、トランスキングダムRNA干渉が点突然変異を区別するのに十分なくらい高度に遺伝子―特異的であることを示す。
【0176】
トランスキングダムシステムによる遺伝子サイレンシングの能力に影響する変数を調べるために、異なる感染多重度(MOI)においてE.coliと共に2時間インキュベートした。図6Bに示すように、遺伝子サイレンシングの能力は、MOIに依存し、1:1,000のMOIにおいてほとんど完全な遺伝子サイレンシングであった。遺伝子サイレンシングに対する供培養時間の効果を決定するために、細胞を、1:500MOIにてE.coliと共に異なる時間インキュベートした。図6Cに示すように、遺伝子―サイレンシング能力は、2時間までのインキュベーション時間と共に増大した。MOIおよび供培養時間に対する遺伝子サイレンシングの依存性は、種々の適用における遺伝子サイレンシングについての制御可能な柔軟性を提供する。
【0177】
β―カテニン遺伝子サイレンシングがshRNAによって特異的に媒介されることをさらに確認するために、5’RACE(cDNA末端の迅速な増幅)PCR技術を用いることによって、β―カテニンmRNAの特異的切断断片同定を試みた。RNAi−媒介遺伝子サイレンシングの特異的ホールマークは、shRNA配列から予測されるように、mRNAの特異的部位におけるβ―カテニンmRNAの切断である。β―カテニンサイレンシングの時間経過に基づいて(図7A)、β―カテニンに対するshRNAを発現するE.coliでの処理から8時間および16時間後にSW480細胞から全RNAを単離して、mRNAの切断された断片を同定した。切断されたβ―カテニンmRNAは、shRNAを発現するE.coliでの処理から8時間後に早く見出された:対照において断片は検出されなかった(図7Bおよび7C)。β―カテニンmRNAの切断された中間体の配列分析により、切断部位は標的化配列内に位置することが確認された。この結果は、細菌によって生産されたshRNAが、RNAi−媒介遺伝子サイレンシングを介するβ―カテニンmRNAの特異的切断をトリガーすることを示す。
【0178】
インターフェロン応答の誘導は、いくつかのRNAiアプローチの特異性に対する潜在的挑戦として報告されている(Bridge et al.,Nat.Genet.34,263−264(2003)およびHornung et al.,Nat.Med.11,263−270(2005))。トランスキングダムRNAiによって誘導される遺伝子サイレンシングはインターフェロン応答誘導に関連するかをテストするために、鍵となるインターフェロン応答遺伝子を測定した。2’,5’―オリゴアデニル酸シンテターゼ(OAS1およびOAS2)は、ウイルス感染後の細胞蛋白質合成の阻害についての重要なインターフェロン―誘導遺伝子である。MX1遺伝子、インターフェロン―誘導ミクソウイルス耐性蛋白質ファミリー(MX蛋白質)のメンバーは、RNAウイルスに対する先天的宿主防御に参加する。IFITM1、インターフェロン―誘導性膜貫通蛋白質のメンバーは、インターフェロンの抗―増殖活性を媒介する。ISGF3γは、インターフェロン―誘導転写調節および刺激に関与する細胞インターフェロン受容体の一部である。これらの遺伝子は、干渉性RNAによるインターフェロン応答誘導を分析するための標準的なパネルとして用いられてきた(Interferon Response Detection Kit,SBI Systems Biosciences,CA)。5つのインターフェロン応答遺伝子のmRNAを、半定量的RT―PCRで分析した。図7Dに示すように、β―カテニンに対するshRNAをコードするE.coliでの処理に続いて、OAS1、OAS2、MX1、ISGF3γおよびIFITM1の誘導は検出されなかった。これらのデータは、トランスキングダムRNAiによって誘導された遺伝子サイレンシングが、非特異的インターフェロン応答誘導に関連しないことを示す。
【0179】
トランスキングダムRNAi導入のメカニズムを調べた。E.coliの細胞進入がRNAiを誘導するのに必要であるかを判断するために、E.coliの遺伝子―サイレンシング活性をInv遺伝子座の有りまたは無しで比較した。Invは、β1−インテグリンと相互作用して、E.coliの細胞への進入を容易とするインバシンをコードする。予測されるように、Inv無しのE.coliは細胞に進入しなかった(図8A)。驚くべきことにInv単独は、E.coliが結腸癌細胞に進入するのを可能とするのに十分ではなく(図8A)、検出可能な遺伝子サイレンシングは細胞内細菌の不存在下で観察されなかった(図8B)。Hly A遺伝子は導入され、これは、送達された遺伝物質が進入小胞から逃げるのを容易にすると考えられる(Grillot−Courvalin et al.,Nat.Biotechlol.16,862−866(1998)。予測されるように、Hlyは単独ではE.coliの細胞進入を可能としなかったが、InvおよびHly双方を持つプロバイオティックE.coliは高い効率でもって結腸癌に進入した(図8A)。これらの条件下で、β―カテニンは潜在的に96時間までサイレントとされた(図8C)。これらの結果は、細胞に進入して、トランスキングダムRNAiを誘導するのにE.coliはInvおよびHlyの双方を必要とすることを示す。
【0180】
遺伝子サイレンシングが標的細胞内部で細菌複製を必要とするか否かを判断するために、テトラサイクリングを使用して、細胞内細菌複製をブロックし、ゲンタマイシンを使用して、細胞外細菌を除去した。SW480細胞をE.coliと共に2時間インキュベートし、続いて、異なる時間においてテトラサイクリング処理を開始した。図8Dに示すように、最初の2時間の感染時間に続いて、テトラサイクリングを含まないさらに2時間のインキュベーション時間はほとんど最大の遺伝子サイレンシングを誘導し;テトラサイクリング処理のさらなる遅延は、遺伝子サイレンシングの程度に対するさらなる増強効果を有しなかった。驚くべきことには、6時間および48時間におけるテトラサイクリングの不存在下での有意な細胞内細菌複製の証拠はなく(図8E)、これはリソソームおよび他の細胞内抗―細菌メカニズムの機能によるものらしい(Roy et al.,Science 304,1515−1518(2004)およびBattistoni et al.,Infect.Immun.68,30−37(2000))。これらの結果は、最初の感染(2時間)およびインキュベーション時間(2時間)の後に、トランスキングダムRNAiが標的細胞内の持続的な細菌複製に依存しないことを示す。
【0181】
次に、トランスキングダムRNAiアプローチがイン・ビボで働くかを判断した。β―カテニンに対するshRNAを発現するE.coliをマウスに経口投与した。5×1010の接種物を1週間当たり5回経口投与し、これは、プロバイオティックE.coli Nissle 1917のヒト用量に匹敵する。接種物のほとんどは、上方GI管における殺菌環境の通過の間に排除される。マウスβ―カテニンに対するshRNAを発現するE.coliで、または対応するプラスミドベクターを含有するE.coliでマウスを処理した。処理は、免疫組織化学による遺伝子サイレンシングの分析前に4週間継続した。図9Aおよび9Bに示されるように、β―カテニン発現は、β―カテニンshRNAを発現するE.coliによって腸上皮においてサイレントとされ(P<0.01)、対照E.coliによってはそうはならなかった。対照として、GAPDH発現は低下しなかった(図10)。遺伝子サイレンシング効果は、ペイヤーパッチの領域において、またはそれに隣接する領域においてより顕著であった(図9B)。処理はよく許容され、上皮損傷または潰瘍形成の目に見えるまたは顕微鏡的兆候は伴わなかった(図9B)。これらの結果は、哺乳動物が、イン・ビボにおいて、強力な局所的RNAiを持つ特異的shRNAを発現するE.coliに応答することを示す。
【0182】
トランスキングダムRNAiアプローチを調べて、それを用いて全身投与後に病気遺伝子をサイレントとすることができるかを判断した。治療的細菌の静脈内投与は、癌患者における証明された安全性でもって臨床試験でテストされた(Toso et al.,J.Clin.Oncol.20,142−52(2002))。異種移植片を移植したヒト結腸癌を持つヌードマウスを、ヒトβ―カテニンに対するshRNAをコードする10cfuのE.coliで静脈内で処理した、5日間隔で3つの用量を与えた。処理は有害な効果なくしてよく許容された。図9に示すように、β―カテニンに対するshRNAをコードするE.coliでの処理の結果、腫瘍組織におけるβ―カテニンmRNAの有意な減少(p<0.005,図9C)および蛋白質の有意な減少(p<0.01,図9Dおよび9E)がもたらされた。これらのデータは、細菌―媒介トランスキングダムRNAiが、全身投与の後に身体の末端部分における病気遺伝子をサイレントとすることができるのを示す。
【0183】
これらの結果は、トランスキングダムシステムを通じて遺伝子サイレンシングを達成することができるのを示す。重要なことには、RNAiの能力および特異性は維持される。非病原性E.coliは証明された安全性でもってプロバイオティックとして臨床的に用いられてきた(Rembacken et al.,Lancet 354,635(1999))。従って、このトランスキングダムシステムは、医学的症例についてRNA干渉を送達する現実的かつ臨床的に適合する方法を提供する。このE.coliベースのRNAi技術は、遺伝子のRNAi−ベースの機能的研究を行うための便利なベクターシステムを提供する。最後に、該結果は、干渉性RNAのそのような変化が共棲的、感染性または共生的条件化で天然で起こり得るという魅力的な確率を導く。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1A】図1Aは、SL7207のSW480細胞への侵入の顕微鏡写真を示す。
【図1B】図1Bは、CRL2583細胞における緑色蛍光蛋白質発現のノックダウンのFACS分析を示す。
【図1C】図1Cは、CRL2583細胞における蛍光の喪失を示す顕微鏡写真を示す。
【図2A】図2AはSW480細胞におけるk−Rasおよびβ−カテニンのウエスタンブロットを示す。
【図2B】図2Bは、種々の処理方法下でのSW480細胞の生存性を示す一連の棒チャートである。
【図2C】図2Cは、種々のsiRNAでトランスフェクトしたSW480細胞を注射したヌードマウスにおける腫瘍形成性の写真を示す。
【図3A】図3Aは、トランスジェニックマウス肝臓セクションの顕微鏡写真を示す。
【図3B】図3Bは、肝細胞および脾臓細胞懸濁液のフローサイトメトリー測定を示す。
【図4】図4は、サイレンサープラスミドでトランスフェクトされたSW480細胞からのk−Rasおよびβ−カテニンのウエスタンブロットを示す。
【図5】図5は、GFP発現レベルの変化を示すマウスの肝臓セクションの組織化学染色の顕微鏡写真を示す。
【図6−1】図6Aは、Transkingdom RNA Interference Plasmid (TRIP)を示す模式図である。
【図6−2】図6Bは、TRIPでトランスフェクトされたSW480細胞からのβ−カテニンのイムノブロットを示す写真である。図6Cは、30ないし120分間の曝露時間に対する、TRIPでトランスフェクトされたSW480細胞からのβ−カテニンのイムノブロットを示す写真である。図6Dは、TRIPでトランスフェクトされたSW480細胞からのβ−カテニンおよびk−Ras mRNAのRT−PCR写真を示す。図6Eは、突然変異体k−Ras(コドン12においてGGT→GTT)または突然変異体k−Ras(コドン13においてGGC→GAC)に対するTRIPでのトランスフェクションに続いてのSW480およびDLD1細胞におけるk−Rasのイムノブロットを示す写真である。図6Fは、野生型k−Rasに対するTRIPでトランスフェクトされたSW480細胞のイムノブロットを示す写真である。
【図7】図7Aは、E.coli発現shRNAでの処理に続いてのβ−カテニンのサイレンシングを示すRT−PCRの写真である。図7Bは、β−カテニンにおける特異的切断部位を示す模式図である。図7Cは、特異的切断産物を示す5’−RACE−PCRの写真である。図7Dは、種々の遺伝子のmRNA発現を示すブロットの写真である。
【図8】図8Aは、InvおよびHlyの双方が細菌進入に必要であることを示す細胞染色の写真である。図8Bは、Hlyを欠くTRIPが標的遺伝子のノックダウンを誘導できないことを示すRNAブロットの写真である。図8Cは、効果的なトランスキングダムiRNAを促進するのにInvおよびHly双方が必要なことを示すRNAブロットの写真である。図8Dは、遺伝子サイレンシングに対するテトラサイクリンの遅延された添加の効果を示すRNAブロットの写真である。図8Eは、2時間のインキュベーションを超えて抗生物質の不存在下における有意な細菌複製の欠如を示す細胞染色の写真である。
【図9】図9Aは、マウスにおけるβ−カテニンに対するshRNAを発現するE.coliの経口投与が、腸上皮におけるβ−カテニン発現の有意な低下に導くことを示すグラフである。図9Bは、処理の有りまたは無しでの、腸上皮の免疫組織化学染色の写真である。図9Cは、処理後の、β−カテニンmRNA発現の減少を示すグラフである。図9Dは、処理後の、β−カテニン蛋白質発現の減少を示すグラフである。図9Eは、処理後の、β−カテニン蛋白質発現の減少を示す免疫組織化学染色の写真である。
【図10】図10は、GAPDH発現が、マウスにおける経口投与後のβ−カテニンに対するshRNAを発現するE.coliによって変化されないことを示す免疫組織化学染色の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の細菌を含む組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−92956(P2008−92956A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324071(P2007−324071)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【分割の表示】特願2007−546917(P2007−546917)の分割
【原出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(305049506)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター (8)
【Fターム(参考)】