説明

細菌増殖増進物質

本発明者らは、バショウ属種、好ましくはバナナから得た抽出物の製造及び乳酸菌などのグラム陽性菌の増殖促進におけるその使用を記載している。この抽出物はまた、環境ストレスを受けたグラム陰性菌の増殖増進のためにも有用である。かかる抽出物を含有する発酵食品も記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌、特に乳酸菌の増殖を増進または促進させるための方法及び組成物に関する。本発明の態様は、かかる組成物を含有する食材及び栄養補助食品に関する。本発明のある種の態様は、培養物中の細菌汚染を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌(LAB)は、食品の保存においても数千年間使用されてきた哺乳動物の消化管のグラム陽性共生細菌である。より近年の工業化時代には、科学分野としての微生物学の発展と同時に、これらはより体系的に使用されるようになっており、今では世界的な酪農業及び発酵食品工業(チーズ、ヨーグルト、発酵ハム及びソーセージ、魚醤及び醤油などの調味料)の基礎を形成している。ここ数十年では、LABはヒト及び動物の健康目的でプロバイオティックヨーグルト、飲料及び他の栄養補助食品の形態で直接摂取されてきた。環境としてはどこにでもあるが、LABは栄養上の選り好みの多い細菌であり、その培養は複雑であり、特殊化された微好気性雰囲気及び個別の多成分培地を必要とする。従って、既存の発酵槽技術の顕著な変更の必要なく、どちらかの培養パラメーターを単純化し得るいかなる新たな革新でも、幅広い規模の用途があると考えられる。
【0003】
酪農、発酵食品及びより近年ではヘルスケア関連の産業においては非常に重要であるが、LABは、ビール醸造及びワイン製造産業では歓迎されない汚染物と見なされている。乳酸菌は酸性、冷温、及び嫌気性の液体培地中で生存する目覚しい能力を有している。これらはビール、ラガー及びワインに通常の物理的特徴であり、また大部分の他の微生物には非常に敵対的な環境条件である。かかる条件に対する耐性に加えて、乳酸菌は、それらが遭遇するビールまたはワイン中の残留糖類をすべて乳酸に発酵する傾向を有し、乳酸は他のLAB代謝産物と共に、望ましくない酸味や類似の「外れた」味を与えることができる。従って、飲料発酵産業では、LAB診断のための培地に相当な世界的市場がある。ビール及びワインからのLAB単離物は、それらが経験するであろう様々な発酵手順の間にかなりの環境ストレスを受けた後なので、一般的に培養が困難であり、かつしばしば活発な増殖に戻るのが遅い。ビールのLAB汚染物をLABの最適培地であるMRS培地上で培養するには最長1週間かかることがあり、また実際にLAB汚染物の中には回復するのにこれより長くかかるものさえあり、このことはその後の長期の貯蔵/熟成工程の間に、汚染された飲料の最終結果に悲惨な影響をもたらす可能性がある。
【0004】
従って、LABの増殖を高めるまたは促進することができる因子の同定には多大な商業上の重要性がある。
【0005】
バナナ(バショウ属種(Musa spp.))は、細菌の増殖に影響し得るいくつかの性質を有することが知られている。バナナからの抽出物は、大腸菌(E.coli)などのグラム陰性菌の増殖を促進させることが報告されている(Lyte、1997年、FEMS Microbiology Letters、154:245〜250頁)。バナナ抽出物の増殖誘導効果は、バナナ抽出物中のノルアドレナリン(ノルエピネフリン)及びドーパミンなどの神経化学物質の存在に起因することが見出された。
【0006】
米国特許第5629349号は、細菌の増殖増進における神経化学物質の最初の使用を記載しており、食物ノルアドレナリン及びドーパミンの供給源としてバナナ及びプランテンなどの参考食材を引き合いに出している。しかし、Lyteの1997年の刊行物は、バナナ抽出物補充剤または神経化学物質補充剤のどちらもグラム陽性菌の増殖に対する効果は見られなかったと述べている。
【0007】
国際特許出願WO2004/069143は、炎症性腸疾患に対するバナナ抽出物またはプランテン抽出物の薬剤としての使用を記載しており、この刊行物は、バナナ抽出物は細菌の増殖を防止または抑制するであろうし、また腸壁への細菌の付着を防止する可能性があると示唆している。
【特許文献1】米国特許第5629349号
【特許文献2】WO2004/069143
【非特許文献1】Lyte、1997年、FEMS Microbiology Letters、154:245〜250頁
【非特許文献2】Freestoneら(2000年)、Journal of Bacteriology、182:6091〜6098頁
【非特許文献3】Freestoneら、2002年、Shock 18:465〜470頁
【非特許文献4】Freestoneら、2003年、FEMS Microbiol.Lett.222:39〜43頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは意外にも、報告されたバナナのグラム陽性菌増殖に対する抑圧的効果とは逆に、バナナ抽出物が、グラム陽性菌、及び特にLABの増殖を実際に促進することができることを見出した。本発明者らはまた、この抽出物が、環境ストレスを受けた細菌の増殖を効果的に促進させることを確認した。本発明者らはさらに、この抽出物が細菌サンプルの生存能力を改善させるために使用することができると考えている。
【0009】
同じまたは類似の性質を有する抽出物が、他の植物、特にリンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーから得られるとも考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様においては、グラム陽性菌の増殖を促進させる方法が提供され、その方法は、細菌にバショウ属種から得ることができる抽出物を提供することを含む。
【0011】
「増殖を促進させる」は、この抽出物が不在の場合に得られる増殖を超えて細菌の増殖を増進させることを意味する。本発明のある種の実施形態では、細菌の増殖が、その種の細菌を増殖させるために通常使用される培地から普通に予想される増殖を超えて増進される。例えば、MRS寒天培地(MRS Agar)は、乳酸菌(LAB)の増殖に通常使用され、本明細書で記載する通り、LABの増殖はバショウ属抽出物を組み入れたMRS Agar上で増進される。
【0012】
好ましくは抽出物はバショウ属種、より好ましくはバナナから得る。本発明者らは、バナナの多くのまたは大部分の市販されているバナナの変種を使用することができると考えており、他のバナナ変種またはプランテンも有用な抽出物を提供する。使用するバナナは、好ましくはムサ・パラディシアカ(Musa x paradisiaca)である。抽出物は好ましくは皮全体、果肉全体、またはこの果物の皮と果肉の両方から得ることができる、または得る。抽出物の有効成分はまだ決定されていないが、好ましくは抽出物はカテコールアミン及び/またはフルクトオリゴ糖を多くは含まない。もっぱら血清補充培地を使用してバナナ及びカテコールアミンの増殖増進を実証したLyte(1997年)の報告に基づいて、抽出物の有効成分はカテコールアミンではないと考えられている。本明細書で報告する観察は、バナナ抽出物が血清に基づかない培地中で増殖を高める能力があることを示しており、一方Freestoneら(2000年)(Journal of Bacteriology 182:6091〜6098頁)は、ノルアドレナリンなどのカテコールアミンは血清を含有しない培地中で増殖を高めなかったことを示した。まとめると、このことは、観察された増殖に関与しているバナナ中の成分はカテコールアミンではないことを示唆している。
【0013】
好ましくは細菌は、乳酸菌であり、好都合にはラクトバチルス及びビフィドバクテリウムから選択される。特に好ましい種にはラクトバチルス属種が含まれる。細菌には、抽出物を用いる増殖の前に環境ストレスを加えてもよい。
【0014】
本方法は、非嫌気的環境で細菌を増殖させる工程を含んでもよいが、好都合には標準的雰囲気中である。意外にも本発明の抽出物は、LABなどの嫌気性細菌を、特別な嫌気性条件ではなく、空気中で増殖させることを可能にする。
【0015】
本発明はまた、環境ストレスを受けたグラム陰性菌の増殖を促進させる方法も提供し、その方法は細菌にバショウ属種から得ることができる抽出物を提供することを含む。本発明者らは、本発明の抽出物が、グラム陽性菌の増殖を促進させることに加えて、ストレスを受けたグラム陰性菌の回復及び増殖も促進させることを見出した。細菌は、好都合には大腸菌、リステリア属種(Listeria sp.)などの病原細菌及び/または腸内細菌を含む。
【0016】
本発明はさらに、サンプル中の細菌の生存能力を改善させる方法を提供し、この方法は細菌にバショウ属種から得ることができる抽出物を提供することを含む。好ましくは、細菌はグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌、最も好ましくはラクトバチルス属種である。サンプルは、食材、好都合には発酵食材、例えばヨーグルトである。
【0017】
本発明の他の一態様は、基材への細菌の付着を促進させる、及び/または細菌サンプルの粘度を増大させる方法を提供し、その方法は細菌にバショウ属種から得ることができる抽出物を提供することを含む。細菌は、好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌、最も好ましくはラクトバチルス属種である。サンプルは、食材、好都合には発酵食材、例えばヨーグルトである。表面は培養皿または培地などの人工の基材でよいが、ある種の実施形態では生体基材、例えば腸壁などでもよい。
【0018】
本発明の他の一態様によって、バショウ属種から得ることができる抽出物を含む細菌増殖培地が提供される。培地は液体または固形でよく、好ましくは、培地は最小限のさらなる栄養成分を含み、好ましい培地はdeMann Rogan Sharpe(MRS)培地またはLuria培地(Luria broth)に基づくが、代わりに他の基本培地を使用することもできる。培地は好ましくは血清を含まない。抽出物は培地中に0.01〜10%、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは1〜2%の濃度で存在すればよい。培地は、好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌の増殖用である。しかし、培地は他の細菌種にも適する。
【0019】
本発明はさらに、バショウ属種から得ることができる抽出物を含む細菌増殖補充剤を提供する。この補充剤は増殖培地への添加用に配合することができる。補充剤は固形または液体でよく、凍結乾燥された抽出物でもよい。
【0020】
本発明の他の一態様によって、サンプル中のグラム陽性菌の存在を検出する方法が提供され、この方法は、前記サンプルを、バショウ属種から得ることができる抽出物を含む細菌増殖培地に導入し、かつサンプルをこの培地上で培養することを含む。サンプルは食品、発酵食品、またはビール醸造もしくはワイン製造の生成物から採取してもよい。培養工程は非嫌気性または嫌気性条件で行うことができる。細菌は好ましくは乳酸菌である。細菌は環境ストレスを受けていてもよい。
【0021】
本発明はまた、サンプル中の環境ストレスを受けたグラム陰性菌の存在を検出する方法も提供し、その方法はサンプルをバショウ属種から得ることができる抽出物を含む細菌増殖培地に導入し、かつサンプルをこの培地上で培養することを含む。
【0022】
サンプル中のグラム陽性菌、または環境ストレスを受けたグラム陰性菌の存在を検出するキットも提供され、このキットはバショウ属種から得ることができる抽出物を含む細菌増殖培地を含む。
【0023】
本発明はまた、細菌増殖培地中で使用するバショウ属種からの抽出物を製造する方法も提供する。この方法は、バショウ属果物の少なくとも一部分を適当な希釈剤中にブレンドする工程を含む。希釈剤は好ましくは水である。この方法は、果実全体、果肉、または果皮をブレンドする工程を含む。この方法はまた、以下の工程のいずれかまたはすべてを含む:ブレンドされた抽出物をろ過及び/または遠心分離して破片を除去する工程;抽出物を乾燥または凍結乾燥する工程;抽出物を好ましくは-20℃以上で凍結させる工程;及び抽出物を例えば、ろ過滅菌、低温殺菌、またはオートクレーブによって滅菌する工程。本発明はかかる方法によって製造された抽出物にも及ぶ。
【0024】
本発明のさらに他の態様は、発酵食品を調製する方法を提供し、この方法はバショウ属種から得ることができる抽出物を、前記食品、または前記食品の未発酵または部分発酵された前駆体に添加する工程を含む。食品は、好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌の作用によって発酵される。食品は酪農食品、例えばチーズ、ヨーグルトなどを含むことができ、また肉製品を含むことができる。
【0025】
バショウ属種から得ることができる抽出物を含む発酵食品も提供される。本発明はまた、細菌増殖増進物質を含む発酵食品も提供し、この増殖増進物質はバショウ属種から得ることができる抽出物である。食品は好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌も含む。
【0026】
本発明はまたさらに、バショウ属種から得ることができる抽出物を含む栄養補充剤を提供する。この栄養補充剤は、細菌、好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌も含むことができる。本発明は、バショウ属種から得ることができる抽出物を含むプロバイオティック栄養補助食品も提供する。この栄養補充食品は細菌も含むことができる。
【0027】
本発明はまた、バショウ属種から得ることができる抽出物の、細菌、好ましくはグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌の増殖のための補充剤の調製における使用も提供する。この補充剤は、ヒトまたは動物が消費する食材もしくは栄養補助食品の形態であってよく、または細菌増殖培地などに添加する補充剤であってもよい。
【0028】
本発明者らは、抽出物の活性成分は、バショウ属種に加えて、他の植物種に見出され得ると考えている。抽出物は好ましくは植物の果実から得られるが、葉(例えば、植物が茶である場合)または根(例えば、植物がニンジンである場合)から得てもよい。従って、本発明はまた、乳酸菌の増殖を促進させる方法を提供し、その方法は乳酸菌にリンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を提供することを含む。本発明はまた、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地、並びにサンプル中の乳酸菌の存在を検出する方法であって、前記サンプルを、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地中に導入し、かつ培地中または培地上でサンプルを培養することを含む方法も提供する。
【0029】
本発明の他の態様は、発酵食品を調製する方法を提供し、この方法は、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を、前記食品、または前記食品の未発酵または部分発酵された前駆体に添加することを含む。本発明はさらに、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む発酵食品、並びに細菌増殖増進物質を含み、増殖増進物質は、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物である発酵食品を提供する。
【0030】
本発明の複数の態様は、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む栄養補充剤、並びにリンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択された植物から得ることができるまたは得た抽出物を含むプロバイオティック栄養補助食品を提供する。
【0031】
本発明のこれら及び他の態様は、ここからは実施例のみによって添付の図面を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
バナナ抽出物の製造
本発明者らは、本明細書においてバナナ抽出物のことを「バナナ要素(ファクター)」またはBFと呼ぶ。この抽出物を、バナナの果肉から、またはバナナの皮から製造することができる。
【0033】
バナナ果肉
1.皮を剥いた果肉を水と共に、果肉250g当たり蒸留水100mlの比率で、フードブレンダー中で滑らかなペーストに液化する。次いで液化した果肉を、8000rpmで20分間遠心分離して種及びその他の破片を取り除く。次いで得られた粘性液体、粗製バナナジュースをデカンテーションする。次いで、このジュースは、以下の4つの方法の1つでさらに加工することができる。
【0034】
2.それ以上加工することなく直接培地に添加し、培地は次いで滅菌しなければならない(下記4参照)。推奨される1〜2% v/vの補充で、少量の果物組織の斑点を有する培地になるが、これはコロニーの可視化には影響を与えない。この粗製果肉ジュースを凍結乾燥し、(灰色がかったハニカム様物質である)乾燥材料をコーヒーミルを使用して細かくし、粉末にすることも可能である。この乾燥バナナ粉末は、乾燥培地中に直接混ぜ込むこともできる。
【0035】
3.これ以上の加工をしなくても、粗製果肉は-20℃で(微生物汚染を防ぎ、かつ内因性オキシダーゼからの酸化修飾を最小限にするために)、使用(上記2で詳述したものなど)のために必要となるまで貯蔵することができる。
【0036】
4.粗製バナナ果肉の滅菌は、抽出物を0.2または0.45マイクロメートルフィルターに通過させることによって達成することができるが、かかる調製物中ではフェノレートオキシダーゼはまだ活性であるので、この抽出物を直接培地に加えるか(次いで、培地をオートクレーブ処理しなければならない)、または-20℃で貯蔵するかのいずれかが推奨されている。
【0037】
5.オートクレーブ処理は、これが大部分の分解酵素活性を不活性化し、果肉抽出物の滅菌もするので、バナナ抽出物を保存するために使用することができる。BF中の有効な増殖誘導剤はオートクレーブ処理に対して十分に安定である。しかし、連続的な低温殺菌及びろ過の工程が、安定化及び滅菌を合わせて行う満足のいく、よりエネルギー消費の少ない方法を提供することは当業者には明白であろう。
【0038】
6.オートクレーブ処理による保存のためには、抽出物を耐熱ガラスボトル中へデカンテーションし、かつ121℃、15 lbs in-2(103kPa)で15分間加熱する。オートクレーブ処理後、得られた調製物は無菌の遠心分離管中へ無菌でデカンテーションし、8000rpmで遠心分離してすべての沈降物質を除去する。この抽出物は、これでBFと名づけられ、新しい無菌の管またはボトル中へ無菌でデカンテーションすると、4℃または-20℃での貯蔵に安定である。
【0039】
7.BF活性の2つ目のバッチも、上記1で記載した種及び細胞破片ペレットを、遠心分離されたバナナ果肉の容積の半分の比率の水で、例えば元の果肉容積1000mlからのバナナ破片を抽出するためには水500mlで、再抽出することによって得ることができる。抽出の手順は、破片ペレットの水中での再懸濁に続いて約5分間の活発な撹拌を必要とする。この2つ目のBF抽出物を、8000rpmで20分間再遠心分離する。さらなる抽出が可能であるが、これらは相当低い活性しか有しておらず、それ故に行うだけのコスト効果はない。
【0040】
8.通常の抽出からの活性の回収を表1に示す。BF活性レベルを、以下に定義する生物学的増殖アッセイを使用して測定する。BF活性の「活性の単位」は次のように定義されている。活性の1単位(U)は、約102CFU/ml〜107CFU/mlの当初接種材料からの試験株E.coli E2346/89の以下の培養条件下での増殖を刺激するのに必要なBF調製物の量である。5% CO2/空気加湿培養器中の血清SAPI培地中37℃で18時間静置増殖。血清SAPI培地は6.25mM NH4NO3、1.84mM KH2PO4、3.35mM KCl、1.01mM MgSO4及び2.77mMグルコース(pH 7.5)、成ウシ血清30%(v/v)で補充。
【0041】
9.BFは直接使用する、または凍結乾燥する、及び抽出物の元の容積の20%までの容積の水で再構成することができる(すなわち、少なくとも5倍に濃縮する)。
【0042】
バナナ皮抽出物の調製
1.果肉を取り除いたバナナ皮を約1cmの断片に切り刻んで、次いで皮100g当たり100mlの水と滑らかであるが繊維質の抽出物が得られるまでブレンドする。次いで、この抽出物を8000rpmで20分間遠心分離してセルロース及びその他の破片を取り除く。次いで、得られた液体をデカンテーションする。
【0043】
2.この抽出物は果肉抽出物よりも粘度が低く、従ってフィルター滅菌しやすいが、皮中の高い内因性オキシダーゼ活性のために、この抽出物は培地に組み入れたら直ちにオートクレーブ処理すること、または皮抽出物は使用前にオートクレーブ処理することが推奨される。
【0044】
3.バナナ皮の増殖誘導活性は果肉よりも少ないが、皮抽出物1〜2% v/vの培地補充が高レベルの増殖刺激を誘導するのに足る。凍結乾燥された皮抽出物を少なくとも10倍に濃縮することが可能である。
【0045】
【表1】

【0046】
安定性解析
熱安定性
バナナジュース抽出物は熱処理に対して高度に安定であり、活性の顕著な損失なくオートクレーブ処理(121℃、20分間)することができる。これは図1に示され、血清SAPI培地中の試験株E.coli E2346/89の、対照及びオートクレーブ処理BFの一連の希釈に対する増殖応答を示す。増殖条件は上記項8に記載の通り(37℃で18時間培養)であり、示した値は2連プレートの生菌数の平均である。
【0047】
BF内の増殖を可能にする成分の予備解析
1.BFと食物フェノレートの比較
BFはバナナ果実の果肉から調製されるが、バナナ皮も多少の増殖増進活性を有する。バナナ果肉抽出物は、様々な研究者達によってLABの増殖を調節し得ることが示されてきた種々の化合物を含有しており、それらには糖類、ミネラル及び様々な食物フェノレートが含まれる。図2にはこれらのフェノレートに対するL.カゼイ(L.casei)の応答を、BF調製物に対する増殖応答と比較して示す。示されているすべてのフェノレート化合物が、ヒトが消費するのに適当であるが、精製された形態で使用する場合はとても高価であり、個々には、ずっと経済的なBFよりも効果が低い。下に示す増殖解析は、in vivoで受けるものを反映した免疫学的及び栄養上の難関を含む、ストレスに満ちた培養環境を意図的に提供する最少塩類微生物培地である血清に基づくSAPI中で実施されたin vitroアッセイであることに留意されたい。この培地中では、少ない細胞数で培養された場合、LABは通常不十分にしか増殖しない。しかし、培地をBF及びBF中に存在する個々のフェノレートで補充した場合には、増殖における実質的に対数倍の改善が得られ、生菌LABと共摂取される場合には、BFはin vivoのLAB増殖の増大において機能する可能性が高いことを示唆している。しかし、BFは血清に基づかない培地中の増殖を増大させる能力があるが、図2に示した食物フェノレートはその能力がない(Freestone、データは示さず)。これは、個々の食物フェノレートは血清補充培地中では増殖を増大させることができるが、MRSまたはLuria brothなどの実験室培地中でのLABまたは他の種の増殖の増進への寄与は、機能的に重要性がより低いことを示唆している。
【0048】
2.BF及び食物フェノレートがLAB増殖を誘導する機序の解析
1997年にある論文(Lyte、1997年)が発表され、バナナ果肉抽出物(ブレンド及びフィルター滅菌のみで造られた)の病原性内因性細菌の増殖を誘導する能力を詳述している。この著者、Mark Lyteは、バナナ皮及び果肉の抽出物はグラム陽性菌(LABはグラム陽性であると分類されている)に対して効果を持たないことを見出した。数件の実験の結果からの結論は、バナナ果肉及び皮中の活性成分はカテコールアミンのノルアドレナリン及びドーパミンであるということであった。この発表の中のこれらの解析はすべて血清に基づく培地中で行われた。LABはノルアドレナリン及びドーパミンに応答して約2対数倍の増大を示すが、この増殖増進は血清に基づく培地中でのみ起こる(本発明者らの未発表データ)。以前の研究は、カテコールアミンのノルアドレナリン及びドーパミンは、血清などの鉄制限培地中でトランスフェリンまたはラクトフェリンなどのホスト鉄封鎖タンパク質からのFe供給によって増殖を誘導することを示した(Freestoneら、2000年、Journal of Baceriology 182:6091〜6098頁;Freestoneら、2002年、Shock 18:465〜470頁;Freestoneら、2003年、FEMS Microbiol.Lett.222:39〜43頁)(血清中の主な静菌性因子はトランスフェリンであり、粘膜分泌物中ではラクトフェリンである)。バナナ抽出物内に存在するカテコールアミン及び他のフェノレート化合物はホスト鉄結合タンパク質からの鉄をE.coli(表2)などのグラム陰性種に送達することができるが、同じ化合物がグラム陽性のL.カゼイについて同様には作用、すなわちFeの開放はしない。バナナ由来の化合物による増殖の誘導の異なる方法に関するさらなる証拠は、本発明者らの、標準的な非血清含有のLAB用に特定された培地及び他の微生物培地における細菌の増殖を増進させるための、オートクレーブ処理されたBFの有用性の実証に由来するものである(図3〜7参照)。従って、BFによる増殖刺激の機序は、特にBF内に含まれる食物フェノレート及びカテコールアミンは、グラム陽性LAB種において、E.coliなどのグラム陰性菌において実証されたものとは異なることは明らかである。
【0049】
【表2】

【0050】
L.カゼイ及びE.coliを、約5×106CFU/mlで、表2に示す添加物及び55Fe錯体化ヒトラクトフェリン2×105を含有する3連の血清SAPI培地1mlに加えた。タンニン酸は50μg/ml、他の化合物はすべて100μMの最終濃度で使用し、BFは2% v/vで使用した。培地を図2の説明に記載した通りに培養し、増殖をMRS寒天(L.カゼイ)またはLuria寒天(E.coli)上で数えた。55Feの取込みは、3つの洗浄された細菌培養物のシンチレーションカウント法によって決定した。
【0051】
すべての培養物は最終細胞数について類似であったが、より高い55Fe取込みカウントを与えた遠心分離され洗浄されたバナナ(BF)-補充LAB培養物は、大量のエキソ多糖類を生成していたことが見出され、かつ非常に粘性であり、より高い55Feの取込み(この特定の一組の増殖条件の下でLABによって生成された粘着性のエキソ多糖類内の55Fe-ラクトフェリンのトラッピングに起因する)を説明している可能性がある。
【0052】
寒天プレートアッセイ
図3〜6は、様々な条件下及び様々な希釈率でのLactobacillus casei試験株の増殖に使用したバナナ抽出物を有する及び有さない寒天プレートの写真である。これらの写真はバナナ抽出物の増殖促進性を示している。
【0053】
図3は、BF(右の写真)を添加したMRS培地(左の写真)で作製した寒天プレートを示す。MRS培地(非常に広く使用されるLAB用に特定の培地)を、細菌用寒天1.5%で固形化した(以後MRS寒天と呼ぶ)。使用したLABは、DanacolブランドのL.カゼイ生菌補充剤懸濁液から直接採取し、MRS液体培地中に1:100[-2希釈]、1:1000[-3]、1:10,000[-4]及び1:100,000[-5]の工程で一連の希釈を行った。次いで、それぞれの希釈液50μlをMRS寒天プレートにピペットで入れ、これらを37℃で36時間、加湿CO2培養器中で培養した。
【0054】
MRS培地は栄養上の選り好みの多いLABの培養のために好ましい培地ではあるが、それでも環境ストレスを受けていないLABが個々のコロニーの目に見える増殖を示すまでに3日以上かかることが通常である。反対に、MRS寒天をBFで補充すると、すべての希釈率の目に見えるレベルまでの増殖がこの時点で可能になる。
【0055】
ほとんどの微生物種に対して敵対的な酸性、嫌気性環境内で生存するLABの能力、及び入手可能な糖の乳酸への発酵が、それらをビール醸造及びワイン製造産業においては望ましくない酸味料としている(LABはある種の醸造酢発生器中で粘液性の原因となる)。現在、ビール及びワインの品質管理(QC)分析は、サンプルのMRS寒天上での3〜7日間のプレート試験を含む(対照LAB株はMRS寒天上で増殖するのに3日までかかり得る;環境から分離したものは7日までまたはそれより長くさえかかり得る)。検出までの時間を約1日に短縮することの経済的利点は明白である。
【0056】
図4は、Luria寒天のみ(左画像)及びLuria寒天プラスBF(右画像)を有するプレートを示す。Luria寒天(LA)は、一般的に栄養上の選り好みがより少ないE.coli及びサルモネラ(Salmonella)などの細菌のための実験用培地である。LAはMRS寒天よりも相当安価であるが、その上ではLABが非常にゆっくりしか増殖せず、目に見えるコロニーのサイズまで増殖するのに少なくとも5日はかかるので、この培地はLABの培養には普通は使用されない。しかし、LAがBF抽出物2% v/vで補充された場合には、LABの強く目に見える増殖が37℃で1晩のインキュベーション後に見られた。この実験の重要性は、L.カゼイなどのLABが、今やより複雑でない(かつかなり安い)BF抽出物補充された培地上で増殖させることができるということである。さらに、この結果は、LABを増殖させるための培地組成物が、BF抽出物を補充された場合に、いかに単純になり得るかという論点を巧みに避ける。
【0057】
図5は、BFのない(左画像)及びBFを有する(右画像)MRS寒天上の嫌気性条件下での細菌の増殖を示す。この実験では(MRS寒天のみ[画像上の-ve]またはBF2%を有するMRS寒天[画像上のB])、逐次希釈されたL.カゼイ(生菌飲料ブランド名Danacolからの、製造者ダノン)の30℃、嫌気性条件下で36時間後の増殖レベルを見ることができる。MRS寒天のみのプレート上で増殖があるが、BF補充培地上では大幅により多くあることは明らかである。この結果は、図3、4、6及び7からのデータと合わせて、BFは大部分の好気性及び嫌気性のLAB培養手順において機能的であり得ることを示している。
【0058】
図6は、環境ストレスを受けた細菌のBF存在下での増殖の増大を示している。腸病原性大腸菌(E.coli)(EPEC)E2348-69株の静止期のLuria Broth培養物を0〜4℃で連続的に3カ月間貯蔵した。次いでこの培養物を無菌のリン酸緩衝生理食塩水中に逐次希釈し、示すようにMRS寒天+/- BF2%上に蒔いて培養した(MRS寒天のみ、左画像;BFあり、右画像)。プレートは37℃で16時間インキュベートした。結果は、BFがこの中の「生存能力はあるが培養不可能」な個体群を、この古くかつ冷害を受けた/栄養素が欠乏した培養物内で蘇生させるのに役立つことを示している。
【0059】
LAB増殖の時間的経過
BFの存在下で好気的に増殖させたLABの増殖の時間的経過を図7に示す。市販のヨーグルトドリンク調製物(Danacolブランド、製造者ダノン)から直接採取したLABをMRS培地+/- BF2%中に逐次希釈した。2連の培養物を振とうしながら、かつ増殖を連続的に24時間モニターしながら好気的にインキュベートした。元のヨーグルト1ml当たりの生菌数は1.06×10E8 CFU/mlであり、これはそれぞれの増殖の時間的経過の初めの当初の細胞数は次の通りであることを意味する。-3希釈(1:1000希釈)は約1.06×10e5 CFU/mlに等しく、-4希釈(1:10000希釈)は約1.06×10e4 CFU/mlに等しく、-5希釈(1:100000希釈)は約1060 CFU/mlに等しく、-6希釈(1:10000000希釈)は約100 CFU/mlに等しい。時間的経過のそれぞれの終点の生菌数は、OD 600nm値0.25が細菌細胞数値約5〜6×10e7 CFU/mlと等価であるという解釈を可能にし、BFの存在下では約100個のLAB出発接種菌の増殖が100,000倍を超えて増大したことを示している。
【0060】
これらの十分に好気性の条件下のMRS培地中でBFが不在では、24時間の培養後でさえ顕著な増殖はないことに留意されたい。他のプロバイオティック栄養補助食品及びヨーグルト調製物からのLABについてのデータも類似の結果を示す。
【0061】
LAB及び他の種の増殖増大方法におけるBFの適用
本発明者らのデータは、プロバイオティック栄養補助食品中で広く使用されるラクトバチルス及びビフィドバクテリウムなどの様々な乳酸菌株の増殖を高めるための果肉及び皮両方のバナナ抽出物の有用性を示唆している。本発明者らは、バナナ抽出物の、通常の培地調製に含まれるオートクレーブ処理(121℃、15 lbs in-2で30分間までの加熱)及び凍結乾燥などの条件に対する安定性を特徴付けた。本発明者らはまた、バナナ抽出物の取込みは、より安価な特殊化されていない液体及び固体寒天ベース両方の培地を、乳酸菌が高価な特注のLAB培地と同様に快適に増殖することができる培地に、転換させることができることも示した。本発明者らはまた、リステリア菌(Listeria monocytogenes)及び病原性大腸菌などの食中毒源の増殖を加速することにおけるBFの有用性を示すデータも有している。従って、本発明者らは、ヒトに危険をもたらし得るこれらの微生物種のより迅速な検出のための用途も有し得る、これらの経済的に重要で有益な乳酸菌の増殖のための、新たな大いに改良された培地の創出のための原理的なデータからなる豊富な証拠を有している。
【0062】
他の可食植物由来の抽出物によるLAB及び他の微生物種の増殖の促進
バショウ属果実から調製された抽出物は、図3〜7で示したデータによって示唆される大いに強力な増殖増進化合物を含有しているが、本発明者らは飲料の調製に使用される果実、野菜及び植物組織から調製される抽出物も、LAB及び他の細菌種の増殖並びに蘇生に有益であり得る活性を有することを発見した。図8は、リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジンからのジュース(2% v/v)、並びに茶からの煎出液(2% v/v)(ティーバッグ1つを200mlの沸騰水中に60秒間漬けて調製した)及びコーヒー(インスタントコーヒー3gを200mlの沸騰水中に溶解させて調製した)の血清SAPI培地中のL.カゼイの増殖に対する効果を示し、同じ培養物の希釈液のバナナ(BF)抽出物への応答を比較のために示す。培養物を図2の説明文中に記載した通りに培養し、増殖をMRS寒天上で数えた。示されている抽出物は全体的にバナナと同等の増殖のレベルを誘導することから、これらの、バショウ属由来の抽出物について示唆されたものと類似の用途での使用の可能性が明らかである。
【0063】
BFの使用によるヨーグルト生存能力及び有効性の改善
プロバイオティックヨーグルトの品質及び保持性を改善させるBFの潜在的な利点を実証するために、本発明者らは市場で有力な様々なプロバイオティックヨーグルト及びヨーグルトドリンクを使用する一連の試験を構成した。
【0064】
1.本発明者らは、BFの添加が、冷蔵された生菌細菌の1日1回での用量中に生存している生存可能細菌の全数に対して、有益な効果を有し得るかどうかを調べるために、有力な1日1回のプロバイオティックヨーグルトについて効果を解析した。
【0065】
この実験の構成は、市販の生菌ヨーグルト細菌の懸濁液を無菌でデカンテーションする工程と、これらを3連のBF1%(15単位/ml)で補充された無菌の25mlプラスチック管中に等分する工程を含む。これらの管のふたは、微生物に関する無菌性を損なうことなく大気酸素への露出を維持するために、緩く閉じて4℃に設定された冷蔵庫中に垂直で貯蔵した。示された時間に、培養物サンプルを無菌で抜き出し、生菌数をMRS寒天上の培養物を使用して決定した。すべての生菌数は3連計数で行い、2%未満の標準誤差を示した。すべての実験は少なくとも2回、個別に実施したが、完全に再現可能である。
【0066】
試験したヨーグルトに関して、この調製物の当初の生菌数(コロニー形成単位、CFU/ml)の製造者のウェブサイトの推定は約108 CFU/mlであったということに留意しなければならない。しかし、図9に示されている時間0での当初の測定は、より105CFU/mlに近い生菌数を示している。図9に示されている時間経過の7日間にわたって、対照培養物内では生存能力の顕著な減少はなかった。しかし、添加されたBFを有するヨーグルトサンプルからのデータは、BFの存在下で生じる生存可能細胞のレベルに顕著な差(P<0.001)があることを示している。約3日間のBFを用いる予備インキュベーション以後は、ヨーグルト懸濁液内の細菌の全体的な生存能力の顕著な増加があり、約7日目でピークに達した(実験はさらに4日間継続したが、生菌数にそれ以上の顕著な変化はなかった。データは示さず)。全体で、BFは(プレート培養によって決定された)生存可能な乳酸菌のレベルを140倍を超えて増加させた。乳酸菌、特にプロバイオティック株は、増殖最適温度では中温性なので、図9で観察された生菌数の増加が、細胞分裂の結果としての数の増加を表しているということはありそうにない。また、培養物の光学濃度の測定値は実験経過の間に増加しなかったが、細胞バイオマスの100倍を超える増加が起こっていたとすれば、これが増加するものと予想される。従って、図9のデータは、調べられたヨーグルト調製物中の細菌のかなりの比率が休眠中であったこと及びBFが培養物を当初ヨーグルトが製造されたときに存在した生存能力のレベルに戻したということを示している。
【0067】
2.図9に示すヨーグルトの調製における培養物のさらなる試験は、BFが、粘度及び試験されたプロバイオティック乳酸菌の表面に付着する能力を増大させているように見えることも示しており、この効果は4℃でのインキュベーション3日以内で見られる(図10)。この図はヨーグルト懸濁液中のプロバイオティック乳酸菌の倒置1分後及び5分後の付着を示している。BFの存在下では、プラスチック管の背面への細菌の付着が、補充されていない対照培養物と比較して大幅に大きいことがはっきり見られる。この効果は、少なくとも20件の個別の実験で観察された。BF補充培養物はまた、空気-水界面のより多い泡の数に見ることができるように、より粘性である。
【0068】
図10のデータの説明として、観察された粘度の増大及び表面付着は、部分的には細菌による増大したエキソ多糖類の生成が間接的な原因である。これは、図9で観察される改善した生存能力に加えて、乳酸菌のエキソ多糖類のヨーグルトの口当たりへの寄与はよく認識されているので、重要な利点であり得る。加えて、乳酸菌の表面に付着する能力の増大は、これらの細菌が消化管上皮に付着する能力に直接の効果を有し、従って、プロバイオティック乳酸菌のホストである腸に定着する能力においても有益であると考えられる。
【0069】
増殖を増進させることと同様に、図9及び10のデータから、今では、BFはさらに、以前は生存不可能であった環境ストレスを受け、かつ損傷された乳酸菌を蘇生させる能力があり、それらの代謝を促進し、それが乳酸菌を完全に培養可能にし、さらにそれらのホストに定着する能力を高める可能性があるようにも見える。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】オートクレーブ処理されたバナナ抽出物の熱安定性を示すグラフである。
【図2】食物カテコレートに対するL.カゼイの増殖応答を示すグラフである。タンニン酸は50μg/mlで使用され、他の成分はすべて最終濃度100μMで使用され、BFは2% v/vで使用された。培養物は静的に37℃で24時間、加湿培養器中で増殖させた;示した値は数回の類似の分析の代表データであり、かつ3連プレートの生菌数の平均である。
【図3】バナナ抽出物ありとなしの寒天プレート上でのL.カゼイの増殖を示す写真である。
【図4】バナナ抽出物2% v/vあり(右の写真)となし(左の写真)のLuria寒天培地上で画線培養したL.カゼイ(108コロニー形成単位(CFU)/ml懸濁液)50μlの16時間後の細菌増殖を示す写真である。
【図5】嫌気性条件下でバナナ抽出物ありの場合の細菌増殖を示す写真である。
【図6】バナナ抽出物ありの場合の環境ストレスを受けたE.coliの増殖を示す写真である。
【図7】好気性条件下でのバナナ抽出物ありとなしの場合の乳酸菌増殖の時間的経過を示すグラフである。
【図8】様々な果物、野菜及び飲料の抽出物に対するL.カゼイの増殖応答をバナナ抽出物と比較して示すグラフである。
【図9】生菌乳酸菌の生存能力に対するバナナ抽出物の効果を示すグラフである。
【図10】ある表面への乳酸菌の付着に対するバナナ抽出物の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を細菌に提供する工程を含む、グラム陽性菌の増殖促進方法。
【請求項2】
抽出物がバナナから得ることができるまたは得たものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抽出物がバショウ属種の果実の皮から得ることができるまたは得た、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
抽出物がバショウ属種の果実の果肉から得ることができるまたは得た、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
抽出物がカテコールアミン及び/またはフルクトオリゴ糖を実質的に含まない、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
細菌が乳酸菌である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細菌が抽出物を用いた増殖前に環境ストレスを受ける、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
細菌を非嫌気性環境中で増殖させる工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を細菌に提供する工程を含む、環境ストレスを受けたグラム陰性菌の増殖促進方法。
【請求項10】
細菌が病原性細菌及び/または腸内細菌を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を細菌に提供する工程を含む、環境ストレスを受けた細菌の増殖促進方法。
【請求項12】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地。
【請求項13】
最小限の追加の成分を含む、請求項12に記載の培地。
【請求項14】
抽出物が0.01〜10%の間の濃度で存在する、請求項12または13に記載の培地。
【請求項15】
抽出物が0.5〜2%の濃度で存在する、請求項14に記載の培地。
【請求項16】
グラム陽性菌の増殖用の、請求項12から15のいずれか一項に記載の培地。
【請求項17】
乳酸菌の増殖用の、請求項16に記載の培地。
【請求項18】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖補充剤。
【請求項19】
増殖培地に添加するために配合された、請求項18に記載の補充剤。
【請求項20】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地にサンプルを導入する工程と、前記培地中または前記培地上でサンプルを培養する工程とを含む、サンプル中のグラム陽性菌の存在の検出方法。
【請求項21】
サンプルが食品から採取される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
サンプルが醸造製品またはワイン製品から採取される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
培養が非嫌気性条件下で行われる、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
細菌が乳酸菌である、請求項20から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
細菌が培養前に環境ストレスを受ける、請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地にサンプルを導入する工程と、前記培地中または前記培地上でサンプルを培養する工程とを含む、サンプル中の環境ストレスを受けたグラム陰性菌の存在の検出方法。
【請求項27】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地を含む、サンプル中のグラム陽性菌、または環境ストレスを受けたグラム陰性菌の存在を検出するためのキット。
【請求項28】
バショウ属果実の少なくとも一部分を適当な希釈剤中にブレンドする工程を含む、細菌増殖の促進に使用するためのバショウ属種からの抽出物の製造方法。
【請求項29】
希釈剤が生理的に不活性である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
希釈剤が水である、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
果実全体をブレンドする工程を含む、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
果実の果肉をブレンドする工程を含む、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
果実の皮をブレンドする工程を含む、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ブレンドされた抽出物をろ過及び/または遠心分離して破片を除去する工程、抽出物を乾燥または凍結乾燥する工程、抽出物を好ましくは-20℃以下で凍結させる工程、並びに抽出物を、例えばろ過滅菌、低温殺菌、またはオートクレーブ処理によって滅菌する工程のいずれかまたはすべての追加の工程を含む、請求項28から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項28から34のいずれか一項に記載の方法に従って製造される抽出物。
【請求項36】
細菌増殖を促進させるのに使用するための、バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物。
【請求項37】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を、食品または食品の未発酵もしくは部分発酵させた前駆体に添加する工程を含む、発酵食品の調製方法。
【請求項38】
食品が乳酸菌の作用によって発酵される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
食品が酪農食品を含む、請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む発酵食品。
【請求項41】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物である細菌増殖増進物質を含む発酵食品。
【請求項42】
乳酸菌をさらに含む、請求項40または41に記載の食品。
【請求項43】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含む栄養補助食品。
【請求項44】
乳酸菌をさらに含む、請求項43に記載の栄養補助食品。
【請求項45】
バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物を含むプロバイオティック栄養補助食品。
【請求項46】
細菌増殖を促進させるための補充剤の調製における、バショウ属種から得ることができるまたは得た抽出物の使用。
【請求項47】
細菌が乳酸菌である、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
補充剤が食材の形態である、請求項46または47に記載の使用。
【請求項49】
補充剤が細菌増殖培地などへの添加のためのものである、請求項46または47に記載の使用。
【請求項50】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を乳酸菌に提供する工程を含む、乳酸菌の増殖促進方法。
【請求項51】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地。
【請求項52】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む細菌増殖培地にサンプルを導入する工程と、前記培地中または前記培地上でサンプルを培養する工程とを含む、サンプル中の乳酸菌の存在の検出方法。
【請求項53】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を、食品または食品の未発酵もしくは部分発酵させた前駆体に添加する工程を含む、発酵食品の調製方法。
【請求項54】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む発酵食品。
【請求項55】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物である細菌増殖増進物質を含む発酵食品。
【請求項56】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を含む栄養補助食品。
【請求項57】
リンゴ、オレンジ、プラム、ニンジン、茶、及びコーヒーを含む群から選択される植物から得ることができるまたは得た抽出物を含むプロバイオティック栄養補助食品。
【請求項58】
バショウ属種から得ることができる抽出物を細菌に提供する工程を含む、サンプル中の細菌の生存能力の改善方法。
【請求項59】
細菌がグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌、最も好ましくはラクトバチルス属種である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
サンプルが食材である、請求項58または59に記載の方法。
【請求項61】
バショウ属種から得ることができる抽出物を細菌に提供する工程を含む、基材への細菌の付着を促進する、及び/または細菌サンプルの粘度を増大させる方法。
【請求項62】
細菌がグラム陽性菌、より好ましくは乳酸菌、最も好ましくはラクトバチルス属種である、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
表面が生体基材、例えば腸壁である、請求項61または62に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−514519(P2009−514519A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538428(P2008−538428)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050371
【国際公開番号】WO2007/052081
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(508135507)ユニヴァーシティー・オブ・レスター (1)
【Fターム(参考)】