説明

細菌懸濁装置およびそれを備えた細菌検査装置

【課題】簡単な装置および方法で細菌の検査を行うことができる、細菌懸濁装置およびそれを備えた細菌検査装置を提供する。
【解決手段】本発明の細菌懸濁装置10は、細菌を含む試料を採取した試料採取具、試料液35、および攪拌子36を収容する検出容器1と、検出容器1の内壁の底面近傍に設けられた凸部2と、検出容器1の内壁の凸部2よりも上部に設けられた電極3と、を備え、攪拌子は、試料採取具を回転させて試料採取具を凸部に接触させることによって、試料採取具の細菌を試料液に懸濁して電極の表面に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出容器内に収容した試料液中で攪拌子を回転させて試料の攪拌を行いながら細菌を懸濁させる細菌懸濁装置と、それを備えた細菌検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、試料液中に含まれる細菌等の検体の反応解析を行う際に、ケース部の外部から磁気力を付与してケース部内に貯留された攪拌子を回転させながら、試料液の攪拌を行う攪拌装置が用いられている。例えば、特許文献1は、試験サンプルおよび懸濁液体を含む袋を外側から叩くことで、懸濁液体中において細菌を効果的に懸濁させる振動叩打具を有する袋叩き式細菌懸濁装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000−509989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の細菌懸濁装置では、細菌検査の前段階で試料液を懸濁装置にかけ、その後この懸濁液体を検査装置に入れて検査する必要がある。つまり、検査装置以外に、懸濁専用の装置が別途必要になるので、構造が複雑になり、また懸濁液体を作った後に、それを検査装置に入れなくてはならないので、検査工程が複雑化してしまうという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、簡単な装置および方法で細菌の検査を行うことができる、細菌懸濁装置およびそれを備えた細菌検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態の細菌懸濁装置は、細菌を含む試料を採取した試料採取具、試料液、および攪拌子を収容する検出容器と、前記検出容器の内壁の底面近傍に設けられた凸部と、前記検出容器の内壁の前記凸部よりも上部に設けられた電極と、を備え、前記攪拌子は、前記試料採取具を回転させて前記試料採取具を前記凸部に接触させることによって、前記試料採取具の前記細菌を前記試料液に懸濁して前記電極の表面に供給する。
【0007】
前記凸部は、前記検出容器の内壁の円周方向に連続的に設けられることが好ましい。
【0008】
前記凸部は、前記検出容器の内壁の円周方向に離間して設けられた第1の凸部および第2の凸部を有していてもよい。
【0009】
前記検出容器の中心軸を含む平面に直交する平面で切った前記凸部の断面形状は、三角形であることが好ましい。
前記検出容器の中心軸を含む平面で切った前記凸部の断面形状は、テーパ形状であってもよい。
【0010】
本発明のある実施形態の細菌検査装置は、上記細菌懸濁装置と、前記電極に交流電圧を印加するための電源部と、前記電極の表面に供給された細菌の数をインピーダンスの変化から測定する測定部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の細菌懸濁装置は、細菌を含む試料を採取した試料採取具、試料液、および攪拌子を収容する検出容器と、検出容器の内壁の底面近傍に設けられた凸部と、検出容器の内壁の凸部よりも上部に設けられた電極と、を備え、攪拌子は、試料採取具を回転させて試料採取具を凸部に接触させることによって、試料採取具の細菌を試料液に懸濁して電極の表面に供給するので、懸濁液体の作成と検査が連続して行える、その結果として構成が簡素化され、また検査工程も簡素化することが出来るものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る細菌懸濁装置および細菌検査装置を模式的に示すブロック図
【図2】本発明の一実施形態に係る細菌懸濁装置および細菌検査装置の外観図
【図3】(a)は細菌懸濁装置およびその周辺を示す模式図、(b)は(a)の装置を上から見た模式図
【図4】(a)および(b)は検出容器の斜視図
【図5】(a)は検出容器の側面図、(b)は(a)のA―A断面図
【図6】(a)は検出容器の正面図、(b)は(a)のB―B断面図
【図7】検出容器の平面図
【図8】(a)および(c)は細菌懸濁装置およびその周辺を示す模式図、(b)は(a)の検出容器を上から見た模式図
【図9】本実施形態の効果を説明するためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を添付図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る細菌懸濁装置および細菌検査装置を模式的に示すブロック図であり、図2はその外観図である。図1および図2に示すように、細菌検査装置20は、細菌懸濁装置10、測定部11、電源部12、制御部13、および表示部14、スターラ15を有する。細菌検査装置20は、例えば口腔内に存在する細菌(微生物)の検出を行う。
【0015】
細菌懸濁装置10は検出容器1を有する。検出容器1は、その内壁の底面近傍に設けられた凸部2と、凸部2よりも上部に設けられた電極3とを有する。検出容器1は、細菌を含む試料を採取した試料採取具30(図3参照)、試料液35、および攪拌子36を収容することができる。攪拌子36は検出容器1内で回転する。攪拌子36は、試料採取具30を回転させて試料採取具を凸部2に接触させる。これにより、試料採取具の細菌は、試料液35中に懸濁され、電極3の表面に供給される。
【0016】
電極3には電源部12によって交流電圧が印加される。細菌は誘電泳動によって電極3の所定の位置に移動する。細菌検査装置20は、電極3におけるインピーダンスの変化を検出することで試料液35中の細菌の数を検出する。
【0017】
本実施形態では、検出容器1の内壁の底面近傍に凸部2を設け、試料採取具30を回転させて試料採取具30を凸部2に接触させることによって、試料採取具30の細菌を試料液に懸濁して電極3の表面に供給する。本実施形態は凸部2を有しない細菌懸濁装置を用いる場合に比べて、すなわち、試料採取具30を検出容器の平坦な内壁面に接触させる場合に比べて、試料採取具30から高い効率で細菌を採取、懸濁し、電極表面に供給できる。これにより、より高精度に細菌を検出することができる。また、より短時間で細菌を検出することもできる。
【0018】
以下、図3から図9を参照しながら、本実施形態をより詳細に説明する。図3(a)は細菌懸濁装置10およびその周辺を示す模式図であり、図3(b)は図3(a)の検出容器を上から見た模式図である。
【0019】
検出容器1は円筒状の樹脂製容器であり、試料採取具30、試料液35および攪拌子36を収容している。試料採取具30は例えば棒の先端に綿球32を有する綿棒である。綿球32は、棒体に巻きつけられた綿球状の脱脂綿である。綿球32は一般的には水滴型である。攪拌子36は、検出容器1の底面(内壁面)に近接配置されるスターラ15と磁気力を介して結合され、回転する。攪拌子36は、略円柱状を有する金属製の部材であって、スターラ15から付与される磁気によって、検出容器1の底面に沿って回転する。
スターラ15は、検出容器1の底面に対向配置された回転可能なマグネット15Aを有しており、金属製の攪拌子36に対して図中矢印A方向に磁気力(吸引力)を付与する。スターラ15は、攪拌子36を吸引した状態で、モータ15Bによってマグネット15Aを回転させることで、試料液35中において例えば図中矢印A方向に攪拌子36を回転させる。攪拌子36の回転によって試料液35の攪拌が行われる。さらに、攪拌子36は、綿球32を押し、試料採取具30を図中矢印B方向に自転させながら、図中矢印A方向に綿球32を回転させる。
【0020】
試料採取具30の綿球32は攪拌子36に押されて回転する際に、凸部2に衝突しながら、検出容器1の中心軸方向(上下方向、矢印C方向)に振動すると共に、検出容器1の底面の半径方向(矢印D方向)に振動する。また、綿球32と凸部2とが接触するので、これらの間で摩擦が生じる。この綿球32の振動および摩擦によって、綿球32に付着していた細菌が試料液35中に放出される。攪拌子36の回転によって試料液35は攪拌されているので、細菌は試料液35中に懸濁される。
【0021】
電極3は、誘電泳動によって試料液中の細菌を所定位置に移動させて細菌を検出するものであって、櫛歯状の電極が微小隙間(例えば5μm)を介して対向配置されている。電極3は、導電体をスパッタリングや蒸着やメッキ等の方法によって電極基板上に被覆して形成される。電極3に電圧を印加すると、電極3の櫛歯状の交差部分に構成される微小隙間付近の電界が最も強くなる。細菌は、最も電界が集中する微小隙間付近に向かって泳動される。電源部12は、薄膜電極3に対して、誘電泳動を生じさせるために必要な交流電圧を印加する。測定部11は、図示しないマイクロプロセッサ、測定データ等を一時的に保存するメモリ等を含むように構成されている。測定部11は、電極3におけるインピーダンスの変化を検出することで、試料液中の細菌数を検出する。
【0022】
制御部13は、図示しないマイクロプロセッサと、予め設定されたプログラムを保存するためのメモリ、タイマ、操作ボタン等を含むように構成されている。制御部13は、予め設定されたプログラムに従って、電源部12を制御して電極3に対して誘電泳動のための電圧を印加する。また、制御部13は、測定部11との間において信号の送受信を行うとともに、測定結果や動作状況等を表示するように表示部14を制御する。表示部14は、LCD等のディスプレィやプリンタ、スピーカ等であって、評価結果として、口腔内の衛生状態を試料液中の微生物数で表示する。検出容器1内に貯留される試料液としては、例えば、水、油類、糖アルコール類、およびこれらの混合物等の様々な液体を用いることができる。
【0023】
次に本実施形態の細菌懸濁装置10およびそれを備えた細菌検査装置の使用方法を説明する。
【0024】
まず、綿棒等の試料採取具30を用いて口腔内から試料(細菌)を採取する。被験者の口腔内から得られる試料としては、歯牙や舌や口腔内壁を拭った布や綿棒や、唾液や唾液
を染みこませた布状のもの、歯間からピック状のもので掻き取られた試料等である。なお、本実施形態では口腔内の衛生状態を評価する試料として、歯牙表面を綿棒等の試料採取具30を用いて拭ったものを用いている。また、測定評価のための準備として、測定セル1内に試料液35を注入する。
【0025】
次に、口腔内から試料採取した試料採取具30の綿球32を試料液35中に浸漬させる。また、スターラ15を用いて攪拌子36を回転させる。試料液35中に浸漬させた試料採取具30の綿球32を、試料液35中において回転する攪拌子36に対して接触させる。試料採取具30の綿球32は攪拌子36に押されて回転する。綿球32は、凸部2に衝突しながら、検出容器1の中心軸方向(矢印C方向)と検出容器1の底面の半径方向(矢印D方向)に振動する。また、綿球32と凸部2とが接触するので、これらの間で摩擦が生じる。この綿球32の振動および摩擦によって、綿球32に付着していた細菌が試料液35中に放出される。攪拌子36の回転によって試料液35は攪拌されているので、細菌は試料液35中に懸濁される。
【0026】
次に、制御部13が、検出容器1の側壁面に設置された電極基板上の電極3に対して交流電圧を印加するように、電源部12を制御する。測定部11において、電極3におけるインピーダンスの変化を検出することで、試料液35中の細菌数を検出する。制御部13が、測定部11における検出結果を表示部14において表示させて処理を終了する。
【0027】
本実施形態では、以上のような工程を経て、試料採取から試料液中への細菌の放出、試料液の攪拌、細菌検出を行う。
【0028】
図4から図8は本実施形態に用いる検出容器1を説明するための図である。図4(a)および(b)は検出容器1の斜視図である。図5(a)は検出容器1の側面図であり、図5(b)は図5(a)のA―A断面図である。図6(a)は検出容器1の正面図であり、図6(b)は図6(a)のB―B断面図である。図7は、検出容器1の平面図である。
凸部2は、検出容器1の内壁の円周方向に連続的に設けられるのが好ましい。凸部2の数が多いほど、綿球32が検出容器1底面の半径方向(図3(b)の矢印D方向)に振動する回数を多くできるので、より高い効率で綿球32に付着している細菌が試料液35中に放出される。凸部2は、検出容器1の中心軸を含む平面に直交する平面で切った断面形状が、複数の連続した三角形であるのが好ましい。凸部2との衝突によって綿球32にかかる力の方向を考慮すると、断面形状を四角形にする場合に比べて、検出容器1の内壁の円周方向に沿って、綿球32をスムーズに回転させることができる。
【0029】
凸部2の構成は上述したものに限られない。図8は本実施形態の改変例を説明するための図である。図8(a)および(c)は細菌懸濁装置10およびその周辺を示す模式図であり、図8(b)は図8(a)の検出容器1を上から見た模式図である。
【0030】
図8(a)および(b)に示すように、凸部2は、検出容器1の内壁の円周方向に離間して設けられた少なくとも2以上の凸部で構成されてもよい。例えば90度ごとに設けられた、検出容器1の中心軸を含む平面に直交する平面で切った断面形状が四角形の4つの凸部2で構成される。この場合も、綿球32は攪拌子36に押されて回転する際に、凸部2に衝突しながら、検出容器1の中心軸方向に振動すると共に、検出容器1の底面の半径方向に振動する。これらの綿球32の振動によって、綿球32に付着していた細菌が試料液35中に放出され、懸濁される。図8では凸部2の形状を四角形にしているが、図3(b)を参照しながら説明したのと同様に三角形状がより好ましい。
【0031】
以下、攪拌子36や綿球32の好ましい形状について説明する。なお、以下の説明は、図3から図7を参照して説明した実施形態についても、同様に適用される。図8(b)に
示すように、攪拌子36の長辺方向の長さ36Lは綿球32の先端の回転直径32D以上で、凸部2の厚み2T(検出容器1の底面の半径方向の長さ)は綿球32の最大半径32r以下が好ましい。攪拌子36と検出容器1の内壁との間に綿球32が挟み込まれにくくすることができ、また、凸部2が綿球32の回転の障壁になることがないので、綿球32が回転し易くなる。
【0032】
また、図8(a)に示すように、凸部2の高さ2L(検出容器1の中心軸方向の長さで、検出容器の底面からの長さ)は、綿球32を検出容器1に浸漬させた場合の高さ32L(検出容器の中心軸方向の長さ)と攪拌子36の高さ36T(検出容器の中心軸方向の長さ)との和以上であり、電極3は、検出容器1の底面からの高さが、攪拌子36の高さ36Tと綿球32の検出容器に対する接触長さ32Mとの和以上が好ましい。接触長さ32Mは、綿球32が振動しながら回転する際に、検出容器の内壁に接触し得る長さ(検出容器の中心軸方向の長さ)である。綿球32を広い接触面積で凸部2に接触させることができ、また、綿球32が電極2に接触して誤測定されるのを回避できる。
【0033】
図8(c)に示すように、凸部2は、検出容器の中心軸を含む平面で切った凸部2の断面形状が、テーパ形状であればより好ましい。綿球32表面と凸部2の表面との接触面積が大きくなるので、綿球表面が凸部表面で掻きとられ、より高い効率で綿球に付着している細菌が試料液中に放出される。
【0034】
図9は、本実施形態の効果を説明するためのグラフである。図9は、図3から図7に示す実施形態の細菌検査装置と、細菌懸濁装置に凸部を設けない構成の細菌検査装置(比較例)とのそれぞれにおいて、時間に対する細菌検出濃度の変化を示すグラフである。細菌検出濃度100%は、綿球に付着している細菌の全てが検出された場合を示す。図9から分かるように、本実施形態によると、細菌懸濁装置に凸部を設けない構成の細菌検査装置に比べて、きわめて高い精度で細菌を検出できることがわかる。また、短時間で、細菌を検出できることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の細菌懸濁装置およびそれを備えた細菌検査装置は、簡単な装置および方法で細菌の検査を行うことができるので、溶液中の細菌を検出するための検査装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 検出容器
2 凸部
3 電極
10 細菌懸濁装置
11 測定部
12 電源部
13 制御部
14 表示部
15 スターラ
20 細菌検査装置
35 試料液
36 攪拌子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌を含む試料を採取した試料採取具、試料液、および攪拌子を収容する検出容器と、
前記検出容器の内壁の底面近傍に設けられた凸部と、
前記検出容器の内壁の前記凸部よりも上部に設けられた電極と、を備え、
前記攪拌子は、前記試料採取具を回転させて前記試料採取具を前記凸部に接触させることによって、前記試料採取具の前記細菌を前記試料液に懸濁して前記電極の表面に供給する、細菌懸濁装置。
【請求項2】
前記凸部は、前記検出容器の内壁の円周方向に連続的に設けられる、請求項1に記載の細菌懸濁装置。
【請求項3】
前記凸部は、前記検出容器の内壁の円周方向に離間して設けられた第1の凸部および第2の凸部を有する、請求項1に記載の細菌懸濁装置。
【請求項4】
前記検出容器の中心軸を含む平面に直交する平面で切った前記凸部の断面形状は、三角形である、請求項1から3のいずれかに記載の細菌懸濁装置。
【請求項5】
前記検出容器の中心軸を含む平面で切った前記凸部の断面形状は、テーパ形状である、請求項1から4のいずれかに記載の細菌懸濁装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の細菌懸濁装置と、
前記電極に交流電圧を印加するための電源部と、
前記電極の表面に供給された細菌の数をインピーダンスの変化から測定する測定部とを備える、細菌検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249683(P2010−249683A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99823(P2009−99823)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】