説明

組み合わされた超音波撮像及び分光分子分析装置及び方法

本発明は。超音波及び分光技術により生物学的構造の組み合わされた撮像及び分析のための装置を提供する。本発明の診断装置は、超音波信号及び表面改善ラマン分光信号の同時取得のために適合されている。本発明は、特に、一方で、超音波エコー信号のために改善された反射効率を与え、他方で、表面改善ラマン分光を可能にする造影剤を用いる。造影剤は、従来の微小な気泡及び固体金属ナノ粒子又はそれらの組み合わせを有する。本発明は、それ故、血液の非侵襲的な生体内分析並びに血流の検出及び視覚化を効果的に提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波技術及び分光学的技術により生物学的構造の画像化及び分析の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
医療診断分析のフレームワークにおいて、血液の分析は非常に重要である。血液の分析は、循環器系における血流の情報及び患者の血液の組成の分析に関するものである。血流を検出し、視覚化するように、今日、超音波診断及び超音波撮像は、成功裏に応用されている。それらの超音波撮像技術は、患者の血流に注入される超音波造影剤(UCA)を効果的に使用するものである。典型的には、UCAは、超音波に関して著しい反射特性を特徴付けるガスで満たされた微小な気泡に基づいている。それ故、患者の循環器系への造影剤の注入及び続いて超音波撮像システムを用いることにより、患者の血流を効果的に検出し、視覚化することが可能である。血流情報は、患者の心臓機能を調べ、監視するために、心臓緊急救命、緊急事態及び手術において極めて重要である。
【0003】
一般に、超音波撮像システムは、血管を流れる血液の血流特性に関する情報及び血管の位置に関する十分な情報を提供する。しかしながら、超音波撮像技術により、一般に、血液の組成又は血液中の所定の物質、例えば、コレステロール又はグルコースの割合のような、血液の特定の特性を特定することは可能ではない。典型的には、血液の組成は、生体外で調査される。このことは、血液サンプルが患者から採取され、続いて、サンプルの組成分析を行う化学研究室に提出される。このかなり時間集約的な及びときどき扱いにくい調査方法は、分光学的技術に基づく非侵襲的血液分析を用いることにより効果的に回避することができる。そのような非侵襲的血液分析のための分析装置については、例えば、国際公開第02/057759号パンフレットに開示されている。
【0004】
文献“Intravascular ultrasound combined with Raman spectroscopy to localize and quantify cholesterol and calcium salts in atherosclerotic coronary arteries”,by Romer et al.,“Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology”,Feb.2000,pages.478−483において、そのままの動脈壁を評価するための血管内超音波法(IVUS)及びラマン分光法の組み合わせについて開示されていて、この文献の援用により、本発明の説明の一部を代替する。ここで、IVUS画像は、種々の病気の段階に人間の冠動脈部からそのまま収集される。それらの画像は、径方向の部分に分割され、それらの各々は、石灰化又は非石灰化組織として視覚的に分類された。動脈は長手方向に開かれ、ラマンスペクトルが、動脈管腔の周囲における0.5mm間隔の位置から収集された。そのスペクトルは、検査される位置における血管壁の化学組成を演算するために用いられた。一般に、ラマン分光法により決定される大量のカルシウム塩を有する位置は、IVUSにより石灰化されたとして分類される。
【0005】
IVUS測定中、石灰化は、US画像によりリアルタイムのエコー密領域の後の影により確認された。それらの血管面は、石灰化の反対側に位置する曲線化した外科用針により印を付けられ、更に、ラマン分光法による測定は、同じ軸面から得られることを確実にするために役立つ。ラマン分光測定は、バイアスを禁止するように別個の場合にオフラインで実行される。この文献は、均質の動脈組織における組成を定量化するために、血管内超音波技術を使用し、ラマン分光技術を適用することにより、動脈壁構造を評価することに焦点を当てている。
【特許文献1】国際公開第02/057759号パンフレット
【非特許文献1】“Intravascular ultrasound combined with Raman spectroscopy to localize and quantify cholesterol and calcium salts in atherosclerotic coronary arteries”,by Romer et al.,“Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology”,Feb.2000,pages.478−483
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、患者の循環器系内の生物学的構造又は物質を位置付け、追跡しそして分析するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対象ボリュームの撮像のための超音波撮像システムと、対象ボリューム内に位置付けられた生物学的構造の特性を判定するための超音波撮像システムを有する装置を提供する。それ故、本発明は、例えば、患者の循環器系内の生物学的構造を位置付け、追跡し、分析するように、超音波撮像技術及び分光学的分析の組み合わせを提供する。その装置は、好適には、血液の視覚化及び血液の組成の同時分析のためにデザインされている。更に、生物学的構造はまた、血管を通って流れる血液が対象のボリューム内に位置付けられるように、生物学的物質で呼ぶことが可能である。それ故、本発明の装置は、例えば、血管のような、対象のボリュームのそのままの調査のためにデザインされている。
【0008】
本発明の更なる好適な実施形態にしたがって、その装置は、対象ボリュームに励起ビームを方向付けるため及び対象ボリュームから戻る放射線を収集するために少なくとも対物レンズを有するフレキシブルなプローブヘッドを有する。そのフレキシブルなプローブヘッドは、時間間隔中に対象ボリュームかの超音波エコー信号の取得のために、超音波撮像センサとして機能する超音波検出要素を更に有する。プローブヘッドは、分子組成及び位置並びに/若しくは対象ボリューム内の物質の流れ情報のそれぞれを表す超音波データの取得のための手段及び分光学的データの取得のための手段を有する。
【0009】
フレキシブルなプローブヘッドの対物レンズは、対象ボリュームに励起ビームをコリメートするように機能する。好適には、対物レンズは、対象ボリュームに励起ビームを狭小点滴にフォーカシングするための共焦点光学構成の一部である。例えば、ラマン分光法を用いる場合、励起ビームは、典型的には、赤外線(NIR)領域にある。照射される励起放射線の少なくとも一部は、対象領域内に位置付けられた物質と相互作用し、例えば、ストークス又は反ストークス散乱過程のような非弾性過程の影響下に置かれるようになる。
【0010】
被弾性散乱放射線は、典型的には、周波数シフトし、それ故、物質の分子の振動エネルギーレベルを示す。非弾性散乱した及び、それ故、周波数シフトした放射線は、対象ボリュームからの戻り放射線としてプローブヘッドに再入射する。戻り放射線のスペクトル分析は、物質の分子組成についての情報を最終的に与える。そのような血液分析の分光学的技術を適用することにより、例えば、コレステロール、グルコース、血液酸素及び血液の他の分析対象物の相対的重量を決定することが可能である。
【0011】
フレキシブルなプローブヘッドの超音波検出要素は、ある時間期間中の対象ボリュームからの超音波エコー信号の取得のために適合される。このように、対象ボリュームは、超音波撮像により効果的に視覚化される。更に、ある時間期間中に対象ボリュームを監視することにより、超音波画像の全体的シーケンスが得られ、その超音波画像の全体的シーケンスは、その時間期間中に適用することが可能である動的変化の有効な観測を可能にする。それ故、超音波撮像システムは、例えば、血管を通って流れる血液の流れ情報を与えるように適合される。好適には、超音波検出要素は超音波センサのための基準として機能し、対象ボリュームからの超音波エコー信号を受信し、更なる処理のために受信信号を電気信号及び/又は光信号に変換するように適合される超音波検出要素の何れの種類として実施されることが可能である。超音波センサは、対象ボリュームの超音波撮像を効果的に与え、それ故、超音波撮像センサとして効果的に実施されることが可能である。
【0012】
本発明の更なる好適な実施形態にしたがって、対物レンズは、プローブヘッドの超音波検出要素に統合される。好適には、超音波センサ又は超音波検出要素は、対物レンズのための切り欠きを特徴付ける。超音波センサ及び対物レンズは、好適な携帯型のフレキシブルなプローブヘッドの下部の統合部分である。動作時に、超音波センサは患者の皮膚に接触していて、対物レンズは患者の皮膚表面に近接している。更に、超音波センサは、超音波エコー信号を取得するばかりでなく、対象ボリュームに超音波信号を送信するように適合されることが可能である。超音波センサは、それ故、超音波トランスジューサとして実施されることが可能である。
【0013】
本発明の更なる好適な実施形態にしたがって、装置は、戻り放射線のスペクトル分析を実行するように適合されたスペクトル分析ユニットを有するベースステーションを更に有する。ベースステーションは、取得された超音波エコー信号に基づいて、対象ボリュームの画像を生成するように低号された超音波分析ユニットを更に有する。更に、ベースステーションは、プローブヘッドにより取得された超音波エコー信号及び戻り放射線を受信するように、装置のプローブヘッドに接続されている。ベースステーションは、例えば、血液の流れ情報及び物質の位置を表す超音波信号及び物質の組成を表すスペクトル信号のどちらかの汎用的な信号分析のための有効な手段を与える。ベースステーションに装置のスペクトル及び超音波分析手段を実施することにより、フレキシブルなプローブヘッドをコンパクトな方式でデザインすることができる。したがって、装置のそのプローブヘッドは、好適には、ベースステーションに接続された携帯型装置としてデザインされる。
【0014】
フレキシブルなプローブヘッド及びベースステーションの接続は、典型的には、例えば、励起及び戻り放射線の双方向送信を与える単一の又は複数の光ファイバのような光送信手段を備えている。更に、その接続は、プローブヘッドの超音波センサにより取得された超音波エコーを表す電気信号の送信のために少なくとも1つの電気接続要素を有する。
【0015】
本発明の更に好適な実施形態にしたがって、装置は、分光システムによる物質のスペクトル分析を実行し、そして超音波撮像システムにより対象ボリュームの画像を同時に生成するように適合される。ここでは、同時の分光分析及び超音波画像の生成は、分光分析及び超音波画像生成のための少なくとも部分的に重なり合った時間間隔をいう。代替として、物質の分光分析及び超音波画像生成は、連続して実行されることが可能である。例えば、超音波画像又は超音波画像のシーケンスが取得され、装置のユーザに供給されることができる。ユーザは、それ故、分光分析が適用される必要がある対象ボリュームにおける特定の領域を特定することが可能である。
【0016】
更に、ユーザは、指定領域の分光分析を選択的に開始することが可能である。分光分析及び超音波画像生成が同時に、部分的に同時に又は連続的に実行されるかどうかに拘わらず、本発明の装置は、対応するスペクトル分析の結果と組み合わされた超音波画像を供給するように適合される。
【0017】
本発明の更に好適な実施形態にしたがって、装置のフレキシブルなプローブヘッドは、患者の皮膚表面に取り付けられるように適合された携帯型装置として実施される。このことは、超音波エコー信号の非侵襲的取得及び分光データの非侵襲的取得を可能にする。そのような診断データの非侵襲的取得は、一方で、患者にとって快適であり、他方で、検査中に患者に怪我を与える潜在的リスクを最小化する。
【0018】
本発明の更に好適な実施形態にしたがって、フレキシブルなプローブヘッドは、患者の循環器系に挿入されるように適合されたカテーテル又は内視鏡として実施される。このようにして、血管内の生体内及びその場検査を実施することができる。このことは、例えば、血液分析と結び付けて、血管内プラーク形成を位置決めすることを可能にする。それ故、血管の種々の位置で取得される分光データの全体の集合を、血管の血管壁の形態情報に有効に関連付けることができる。分光データは血液の分子組成を表すため、例えば、血管壁におけるアテローム硬化性生成に関連付けられる、例えば、血液の特定の分析対象の空間的変動は、危険なプラークラプチャを表すことが可能である。
【0019】
本発明の更に好適な実施形態にしたがって、超音波撮像システムは、増影剤として対象ボリュームに注入された固体金属ナノ粒子から超音波エコー信号を取得し、処理するように更に適合されている。好適には、固体金属ナノ粒子は生体親和性で無害であり、1nm乃至100nmの範囲内、特に、1nm乃至50nmの範囲内の直径を有する。特に、クラスタ化されるとき、その金属ナノ粒子は、体組織との強い音響インピーダンスの差異のために、音響リフレクタとして機能し、安定している市販のUCA(微小な気泡)に対して優位性を有し、現在、ターゲット化されている造影剤と同じ方式で修正されるものである。更に、そのような造影剤を、ソノグラフィ、例えば、Dモード、ドップラシフトソノグラフィ等の全ての方式と共に有効に使用することができる。
【0020】
超音波エコー信号の改善は、造影剤により、特に、造影剤としての金属ナノ粒子により、複数の異なる構成で得られる。金属ナノ粒子は、典型的には、患者の循環器系に注入される。超音波エコー信号の改善は、患者の血管流における金属ナノ粒子の存在により既に得られている。更に、信号の改善は、複数のナノ粒子がクラスタを形成するときに生じる。更に、金属ナノ粒子がターゲット化されるとき、即ち、それらの金属ナノ粒子が、細胞、組織、寄生虫等の微生物、例えばタンパク質等の生体分子、DNA又はRNA固有のターゲット物質を有するとき、金属ナノ粒子は、対象ボリュームにおける特定の生物学的構造に吸着することが可能である。例えば、そのターゲット化ナノ粒子は血管壁に吸着する。更に、そのターゲット化ナノ粒子は、市販のUCA、例えば、微小な気泡に吸着されることが可能である。それ故、金属ナノ粒子は、従来の超音波造影剤の代替として、又は、微小な気泡のような超音波造影剤と組み合わさるかのどちらかで用いられることが可能である。
【0021】
本発明の更に好適な実施形態にしたがって、装置の分光システムは、固体金属ナノ粒子によりもたらされる表面改善ラマン散乱過程(SERS)による戻り放射線を取得し、処理するように更に適合される。一般に、分子振動量子状態を表す非常に弱いラマン信号は、分子がナノメートルサイズの金属構造に付着される場合、明らかに改善されることができる。表面改善ラマン散乱(SERS)の改善係数は最大14桁の大きさであり、SERSは、従来のラマン分光技術より明らかに大きい検出効率を特徴とするものである。本発明については、一方で、患者の血流中への固体金属ナノ粒子の注入は、超音波撮像のために造影剤を与え、他方で、表面改善ラマン分光を可能にする。それ故、金属ナノ粒子を使用することは、分光分析及び超音波撮像の両方に対して有利である。
【0022】
他の特徴においては、本発明は、対象ボリュームを撮像するために及び対象ボリュームに位置している生物学的構造の特性を決定するために装置のプローブヘッドを提供する。本発明は、対象ボリュームに励起ビームを方向付けるために及び対象ボリュームからの戻り放射線を収集するために少なくとも対物レンズを有する。プローブヘッドは、ある時間期間中に対象領域からの超音波エコーシングの取得のための超音波センサを更に有する。
【0023】
本発明の更に好適な実施形態にしたがって、対物レンズは超音波センサに隣接している。それ故、対物レンズは、超音波センサの一体部分としてデザインされる。超音波センサ及び対物レンズの両方は、典型的には、超音波エコー信号及び分光放射線のそれぞれの取得のために患者の皮膚表面に面するようにプローブヘッドの底部側に備えられている。例えば、超音波センサは、リング形状の幾何学的形状を有する圧電結晶として実施される。対物レンズは、それ故、このようなリング形状の圧電結晶の中央に位置付けられている。このように、超音波画像取得ボリューム及び分光学的信号取得ボリュームは、実質的且つ本質的に重なり合うことが可能であり、それ故、結合データ取得ボリュームを規定することが可能である。そのような実施形態は、超音波及び分光システムのための画像及び/又は信号取得ボリュームが手動で結合される必要がないために有利である。
【0024】
他の更なる特徴においては、本発明は、対象ボリュームを撮像するために及び対象ボリューム内に位置している生物学的構造の特性を決定するために装置のベースステーションを提供する。ベースステーションは、対象ボリュームから戻る戻り放射線の分光分析を実行するように適合された少なくとも分光分析ユニットを有する。ベースステーションは、対象ボリュームからの超音波エコー信号に基づいて対象ボリュームの画像を生成するように適合された超音波分析ユニットを更に有する。
【0025】
他の更なる特徴においては、本発明は、対象ボリュームを撮像するため及び対象ボリューム内に位置している生物学的構造の特性を決定するための方法を提供する。その方法は、ある時間期間中に対象ボリュームから超音波エコー信号を取得する段階と、対象ボリュームに励起ビームを方向付ける段階と、対象ボリュームからの戻り放射線を収集する段階と、収集された戻り放射線の分光分析を実行する段階とを有する。対象ボリュームからの超音波エコー信号の取得は、対象ボリュームの超音波画像を生成することを可能にする。例えば、患者の循環器系に注入された造影剤を用いることにより、患者の血流は、超音波エコー信号の取得により有効に視覚化されることができる。対象ボリュームからの戻り放射線を収集し、その収集された戻り放射線を分光分析することにより、対象ボリューム内に位置している生物学的構造の特性を有効に決定することができる。収集された戻り放射線は、ストークス過程又は反ストークス過程のような固有の散乱過程の対象であるため、そのスペクトル分析は、生物学的構造の分子組成を決定することを可能にする。
【0026】
本発明の更なる好適な実施形態にしたがって、その方法は、対象ボリュームに固体金属ナノ粒子の造影剤を注入する段階を更に有する。造影剤は、超音波エコー信号を改善するように及び戻り放射線の強度を同時に改善するように適合される。それ故、金属ナノ粒子は、表面改善ラマン分光(SERS)を促進するように、超音波造成剤及び有効な手段として機能する。典型的には、その金属粒子は、その金属は、約35.10g/cmsecの音響インピーダンスであって、特に、50.10g/cmsecの音響インピーダンスを有する金属、又は1つ又はそれ以上の金属の混合物を有する。特に、本発明にしたがって、金属粒子は貴金属、例えば、金、銀、白金である。任意に、金属粒子は金属酸化物を有し、安定な薄い酸化物層を有し、又は、生体的にニュートラルな生体親和性コーティングを有することが可能である。
【0027】
本発明の更なる好適な実施形態にしたがって、金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の表面に付着した生体ターゲット物質を有する。生体ターゲット物質は、例えば、細胞、組織、寄生虫等の微生物、例えばタンパク質等の生体分子、DNA又はRNA固有のターゲット物質であり、そのターゲット物質の抗体又は部分は単なる一例である。生体ターゲット物質により、ナノ粒子は、血管壁又は組織に付着することが可能である。一方で、ターゲット化ナノ粒子の超音波撮像により、血管壁又は特定の組織を位置決めすることができ、その特定の組織又は血管壁を、SERSにより分光分析することができる。
【0028】
更に、ターゲット化ナノ粒子は、複数のナノ粒子のクラスタを形成するように集まることが可能である。そのようなナノ粒子のクラスタにより与えられる造影剤の大きさが増加することは、超音波エコー信号の反射の改善のために特に有利である。
【0029】
本発明の更なる好適な実施形態にしたがって、超音波撮像のための造影剤として従来から用いられている微小な大きさの気泡は、ターゲット化金属ナノ粒子として機能する。それ故、ターゲット化ナノ粒子は、それらの気泡のメンブレンに付着し、それ故、超音波コントラスト改善及び分光学的信号の表面改善を一般に支援する複合物を形成するように適合されている。気泡及びナノ粒子は、それ故、超音波及び分光学的データ取得のそれぞれの効率を選択的に改善する。
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について、図を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、分光システム104及び超音波システム106を有する装置100のブロック図である。装置100は、対象ボリューム102の調査のために適合されている。装置100の超音波システム106は、対象ボリューム102の視覚的表示を生成するように、対象ボリュームから超音波エコー信号を取得するように適合される。分光システム104はまた、対象ボリューム102内に位置している生物学的構造を分光分析するように適合されている。分光システム104は、好適には、ラマン分光法に適合されるが、それに限定されるものではない。他の光分光技術をまた、適用することが可能である。それらの技術には、誘導等面分光法及びコヒーレント反ストークスラマン分光法のような非線形ラマン分光法、特に赤外吸収分光法、フーリエ変換赤外分光法及び近赤外拡散反射分光法である赤外分光法に基づく種々の方法がある。更に、蛍光分光法、多光子蛍光分光法及び反射分光法のような他の散乱分光技術、並びに、光音響分光法、偏光解析及びポンププローブ分光法のような他の分光技術を適用することができる。本発明への適用のための好適な分光技術はラマン分光法及び蛍光分光法である。
【0032】
分光システム104により、対象ボリューム102内に位置する生物学的構造の少なくとも1つの特性が決定される。好適には、その分光システムは、生物学的構造の分子組成の相対的重みを決定することを可能にする。例えば、対象ボリュームが患者の呼吸器系にあるとき、分光システムは、例えば、コレステロール、グルコース、カルシウム塩、血液酸素等の相対的重みを決定するように好適に適合されている。このように、装置100は、血液の組成分析と組み合わされた血流の検出及び視覚化のために有効に用いられる。分光及び超音波信号の両方の取得は、生体内で非侵襲的方式において実行される。
【0033】
図2は、プローブヘッド110及びベースステーション112を有する装置100のブロック図である。また、装置100は、対象ボリューム102から得られる分光データ及び超音波データを取得し、処理するように適合されている。図1と比較して、ベースステーション112及びプローブヘッド110は、分光システム104及び超音波システム106の全体の機能を備えている。好適には、分光システム104は、ベースステーション112とプローブヘッド110に分割され、超音波システム104は、それに応じて分割される。分光システム104及び超音波システム106の両方はデータ取得手段及びデータ処理手段を有するため、プローブヘッド110は、データ取得目的で特に適合され、ベースステーション112は、分光データを処理するため及び超音波データを処理するために適切な手段を備えている。このように、装置100のプローブヘッド110はコンパクトな方式にデザインされることが可能である。
【0034】
プローブヘッド110の極めてコンパクトなデザインは、血管内データ取得のためにカテーテル又は内視鏡として全体的なプローブヘッド110をデザインすることを可能にする。それ故、プローブヘッド110は、超音波エコーデータの取得のための超音波トランスジューサと、対象ボリューム102に励起ビームを方向付けルため及び対象ボリューム102からの被弾性散乱戻り放射線を収集するための対物レンズとを有する。
【0035】
プローブヘッド110及びベースステーション112は、光ファイバ及び/又は導電性要素のような特定のデータ伝送手段で好適に接続されている。
【0036】
図3は、患者の皮膚124の表面に取り付けられたプローブヘッド110の断面図を模式的に示している。皮膚124の表面に対向するそのプローブヘッドの底部側に、ブロー部ヘッド110は超音波検出要素116及び対物レンズ118を有する。超音波検出要素116及び対物レンズ118は、プローブヘッド110のハウジングの統合部分としてデザインされている。プローブヘッド110は、ベースステーション112に取得された超音波及び分光信号を伝送するように適合されている伝送モジュール114を有する。超音波検出要素116は超音波センサとして機能し、それ故、その超音波検出要素116は超音波エコー信号を検出するように適合され、圧電ベース要素として実施さえることが可能である。更に、超音波検出要素は、対象ボリュームに対して超音波信号を生成し、伝送するように更に適合されることが可能である。超音波センサは、それ故、超音波トランスジューサとして実施されることが可能である。
【0037】
対物レンズ118は、対象ボリューム102に励起ビームをコリメートするように及び対象ボリューム102からの被弾性散乱戻り放射線120を収集するように適合されている。超音波トランスジューサとして好適に実施される超音波検出要素116は、超音波取得領域122からの超音波エコー信号を取得するように適合されている。対象ボリューム102は、超音波取得領域122内に全体的に位置している。それ故、超音波画像及び分光分析を、対象ボリューム102から同時に得ることができる。
【0038】
図4は、プローブヘッド110の底部側の有効な実施形態の模式図である。ここで、患者の皮膚に対向しているプローブヘッド110の底部側は略矩形形状を有し、矩形形状の超音波検出要素116及び円形形状の対物レンズ118を有する。このような特定の実施形態においては、対物レンズ118は、超音波検出要素116の切り込み内に備えられている。代替の実施形態においては、超音波検出要素116及び対物レンズ118はまた、互いに隣接して備えられることが可能である。プローブヘッド110のデザインは、対物レンズ118及び超音波検出要素116が互いに妨げないことだけは確実にする必要がある。
【0039】
図5は、プローブヘッド110の代替の実施形態を模式的に示していて、超音波検出要素116は、対物レンズ118に対して隣接するように備えられている。ここで、対物レンズ118は、超音波検出要素の統合部分ではないが、プローブヘッドの底面の他の場所に位置付けられている。このような特定の実施形態においては、対象ボリューム及び対応する超音波エコー信号から放射される分光分析のための戻り放射線は、対物レンズ118及び超音波検出要素116により検出可能である必要がある。それ故、分光システム及び超音波システムの両方のための検出ボリュームは、対象ボリュームと実質的に重なり合う必要がある。
【0040】
図6は、患者の循環器系に注入された、それ故、血管130内を流れている造影剤132の活用する分光及び超音波データ取得の模式図である。図6の模式図は、図3に示すプローブヘッド110の実施形態を参照することができる。プローブヘッド110は、対象ボリューム102からの戻り放射線120を収集するために、超音波検出要素116及び対物レンズ118を有する。それ故、対象ボリューム102は、患者の皮膚124の表面の下の血管130内に全体的に位置している。図6の模式図は、血流の視覚化と組み合わせて生体内の非侵襲的血液分析を示している。
【0041】
造影剤132は、矢印で示すように、血流と共に流れている固体金属ナノ粒子を有する。固体金属ナノ粒子は、一方で、超音波撮像のための増影剤として機能し、他方で、表面改善ラマン分光法(SERS)を提供する。それ故、それらのナノ粒子の注入により、超音波反射及び分光分析の感度の両方が明らかに改善される。金属ナノ粒子は、患者の血管壁又は特定の組織に入るため、血流ばかりでなく、血流の近傍の組織を十分に分析することができる。
【0042】
典型的には、金属粒子は金属を有し、その金属は、約35.10g/cmsecの音響インピーダンスであって、特に、50.10g/cmsecの音響インピーダンスを有する金属、又は1つ又はそれ以上の金属の混合物を有する。特に、その金属粒子は貴金属、例えば、金、銀、白金である。好適には、金属ナノ粒子は、1nm乃至100nmの範囲内、特に、1nm乃至50nmの範囲内の直径を有する。このように、金属ナノ粒子は有効な生体親和性を有し、ある意味でそれらは無害である。更に、金属ナノ粒子の粒子サイズを増加させることにより、それら粒子の超音波反射特性が改善することが知られている。更に、高超音波周波数を適用することにより、向上した反射改善がもたらされる。SERS及び超音波撮像の両方のために造影剤を有効に使用する場合、好適には、例えば、最大400MHzまでの比較的高い超音波周波数を適用する。
【0043】
図7は、図6に既に示しているような分光及び超音波データ取得と類似する模式図である。ここでは、造影剤132が、ターゲット化ナノ粒子としてデザインされている。このことは、造影剤132が、細胞、組織、寄生虫等の微生物、例えばタンパク質等の生体分子、DNA又はRNA固有のターゲット物質のような生体ターゲット物質を有し、そのターゲット物質の抗体又は部分は単なる一例である。一般に、ターゲット化造影剤は、指定された生物学的構造への付着のためにデザインされている。例えば、それらのターゲット化造影剤は、対象ボリューム内の血管壁、プラーク又は他の指定された組織に付着するようにデザインされている。図7は、血管壁130により吸着されたターゲット化ナノ粒子を模式的に示している。一方で、これは超音波エコー信号のために血管壁の近くの明らかな反射の改善を与え、他方で、これは血管壁の近くの組織、形成されたプラーク又は血液からのSERS信号を与える。これは血管壁の組織の形態及び蘇生を選択的に調べるために特に有利である。更に、この種のターゲット化ナノ粒子により、冠動脈における破裂し易いアテローム硬化性プラークを、非侵襲的方法で適切に検出することができる。
【0044】
図8は、造影剤134のクラスタを用いる分光及び超音波データ取得についての模式図である。この場合、金属ナノ粒子のクラスタは、血管130内の血流と共に流れる。また、ナノ粒子のクラスタは造影剤として機能し、超音波エコー信号の改善及びラマン分光信号の改善を与える。特に、特定の組織に付着するように適合されたターゲット化ナノ粒子を用いるとき、ターゲット化ナノ粒子から形成された全体のクラスタは、ターゲット化クラスタに有効に成ることが可能である。このように、超音波エコー信号及びラマン分光信号は、特に関心のある特定の組織について効果的に改善される。それ故、組織特有のコントラスト及び信号改善が基本的に実現する。
【0045】
図9は、分光及び超音波データ取得についての模式図であって、微小サイズの気泡136及び金属ナノ粒子が血流中に注入される、模式図である。好適には、気泡136は、金属ナノ粒子により囲まれ、それ故、超音波撮像のための従来の造影剤として機能する。金属ナノ粒子はまた、表面改善分光効果を与え、それ故、気泡136の機能は2倍になる。第1に、気泡自体は、超音波撮像のための従来の造影剤として機能する。第2に、気泡の外殻に付着したナノサイズの金属粒子は、分光効果が改善された十分な表面を可能にする。このように、超音波エコー信号の反射の改善が、μmのオーダーの直径を有する気泡により主に与えられ、表面改善ラマン分光が、気泡の外殻に吸着した金属ナノ粒子により与えられる。それらの気泡の直径は、典型的には、数μmのオーダーであり、好適には、1乃至8μmの範囲内にある。更に、気泡は、それらの寿命を延ばすように、保護メンブレン外殻を有する。
【0046】
代替として、気泡及び金属粒子はまた、患者の血流に別個に注入されることができる。血流に注入されるとき、金属ナノ粒子及び気泡の両方は、そのとき、分光及び超音波信号を改善するための物質として選択的に機能する。このように、気泡のメンブレンへのナノ粒子の付着は、必ずしも調整される必要はない。
【0047】
図10は、金属ナノ粒子132の付着のために適合された外殻140を有する気泡136の断面を示している。この場合、気泡136の比較的大きい外殻140は、主に、超音波撮像のための造影剤の反射効率を改善するように機能し、nmのオーダーのサイズを特徴とする金属ナノ粒子132は、ラマン分光信号の有効な表面改善を与える。
【0048】
それ故、気泡の外殻140に付着するターゲット化金属ナノ粒子132を用いることにより、付着した金属ナノ粒子を有する、結果的に得られた全体の気泡の外殻は、特定の組織をターゲットにするために付着するように適合されたターゲット化クラスタ136に有効になることが可能である。また、このように、超音波エコー信号及びラマン分光信号を参照する組織特有のコントラスト及び信号改善を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の装置のブロック図である。
【図2】ベースステーション及びプローブヘッドを有する本発明の装置のブロック図である。
【図3】皮膚の表面に取り付けられたプローブヘッドのブロック図である。図1に関する方法を実施するためのフィンガープリント抽出の模式図である。
【図4】プローブヘッドの底を示す図である。
【図5】プローブヘッドの他の実施形態の底を示す図である。
【図6】血管に注入された金属ナノ粒子を用いる分光及び超音波データ取得についての模式図である。
【図7】血管壁に付着したターゲット化ナノ粒子を用いる分光及び超音波データ取得についての模式図である。
【図8】クラスター化ナノ粒子を用いる分光及び超音波データ取得についての模式図である。
【図9】微小気泡の外殻に付着したターゲット化ナノ粒子を用いる分光及び超音波データ取得についての模式図である。
【図10】微小気泡の外殻の金属ナノ粒子の付着の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって:
対象ボリュームを撮像するための超音波撮像システム;及び
前記対象ボリュームにおいて位置している生物学的構造の特性を決定するための分光システム;
を有する装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、フレキシブルなプローブヘッドを更に有する装置であり、前記プローブヘッドは:
前記対象領域に励起ビームを方向付けるため及び前記対象領域からの戻り放射線を収集するための対物レンズ;並びに
ある時間期間中に前記対象領域からの超音波エコー信号の取得のための超音波検出要素;
を有する、装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、ベースステーションを更に有する装置であり、前記ベースステーションは:
前記戻り放射線の分光分析を実行するように適合された分光分析ユニット;及び
前記超音波エコー信号に基づいて前記対象ボリュームの画像を生成するように適合された超音波分析ユニット;
を有する、装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置であって、前記分光システムにより前記生物学的構造の分光分析を実行するように、及び前記超音波撮像システムにより前記対象ボリュームの画像を同時に生成するように更に適合されている、装置。
【請求項5】
請求項2に記載の装置であって、前記フレキシブルなプローブヘッドは、患者の皮膚の表面に取り付けられるように適合された携帯用装置として実施される、装置。
【請求項6】
請求項2に記載の装置であって、前記フレキシブルなプローブヘッドは、患者の循環系に注入されるように適合されたカテーテルとして実施される、装置。
【請求項7】
請求項1に記載の装置であって、前記超音波撮像システムは、造影剤として前記対象ボリュームに注入された固体金属ナノ粒子からの超音波エコー信号を取得し、処理するように適合されている、装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置であって、前記分光システムは、前記固体金属ナノ粒子によりもたらされた表面改善ラマン散乱過程による戻り放射線を取得し、処理するように適合されている、装置。
【請求項9】
対象ボリュームを撮像するため及び対象ボリュームにおいて位置している生物学的構造の特性を決定するための診断装置のプローブヘッドであって:
前記対象ボリュームに励起ビームを方向付けるため及び前記対象ボリュームからの戻り放射線を収集するための対物レンズ;並びに
ある時間期間中に前記対象ボリュームからの超音波エコー信号の取得のための超音波検出要素;
を有するプローブヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載のプローブヘッドであって、前記対物レンズは前記超音波検出要素の統合部分である、プローブヘッド。
【請求項11】
対象ボリュームを撮像するため及び対象ボリュームにおいて位置している生物学的構造の特性を決定するための診断装置のベースステーションであって:
前記対象ボリュームから戻る戻り放射線の分光分析を実行するように適合された分光分析ユニット;並びに
前記対象ボリュームからの超音波エコー信号に基づいて、前記対象ボリュームの画像を生成するように適合された超音波分析ユニット;
を有するプローブヘッド。
【請求項12】
対象ボリュームを撮像するため及び対象ボリュームにおいて位置している生物学的構造の特性を決定するための方法であって:
前記対象ボリュームの超音波画像を生成するために、ある時間期間中、前記対象ボリュームからの超音波エコー信号を取得する段階;
前記対象ボリュームに励起ビームを方向付け、そして前記対象ボリュームからの戻り放射線を収集する段階;並びに
前記対象ボリュームにおいて位置している生物学的構造の特性を決定するように、前記の収集された戻り放射線の分光分析を実行する段階;
を有する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって:
前記対象ボリュームに固体金属ナノ粒子の造影剤を注入する段階であって、前記造影剤は、超音波エコー信号のコントラストを改善するように及び前記戻り放射線の強度を同時に改善するように適合されている、段階;
を更に有する方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記金属ナノ粒子は、前記金属ナノ粒子の表面に付着した生体ターゲット化物質を有する、方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法であって、前記対象ボリュームに造影剤として金属ナノ粒子を有する微小サイズの気泡を注入する段階であって、前記気泡は超音波エコー信号の反射効率を改善するように適合され、そして前記金属ナノ粒子は前記戻り放射線の強度を改善すするように適合されている、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−502408(P2008−502408A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516122(P2007−516122)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【国際出願番号】PCT/IB2005/051943
【国際公開番号】WO2005/124336
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】