説明

組み換え微生物を利用した(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの製造方法

本発明は、変異微生物を利用した光学活性(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの合成方法に関し、さらに詳細には、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用変異微生物;上記変異微生物を利用した(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法;β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸エステル製造用変異微生物及び上記変異微生物を利用した(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの製造方法に関する。本発明によれば、微生物の該当過程によって生成されたアセチルCoAを高価の金属触媒や基質を使用せず、微生物に導入された組換え遺伝子によって代謝経路を操作することによって、工程が簡単であり、光学純度が高い(S)−3−ビドロキシ酪酸を生産することができる。また、リパーゼを利用して本発明による方法で生産された(S)−3−ビドロキシ酪酸から簡単に(S)−3−ヒドロキシブチレートエステル及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルのラクトンを生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換え微生物を利用した光学活性(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの合成方法に関し、さらに詳細には、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物;上記組み換え微生物を利用した(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法;β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸エステル製造用組み換え微生物及び上記組み換え微生物を利用した(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルは、プラスチック材料、芳香剤、医薬品、農薬など活用範囲が非常に広いキラル中間体としてその効用性が非常に大きい(Speciality Chemicals Magazine, April: 39, 2004)。例えば、エチル(S)−3−ヒドロキシブチレートを還元して多様な抗生剤とフェロモンなどを作る中間体物質である(S)−1、3−ブタンジオールを合成することができ(T. Ferreira et al., Tetrahedron, 46: 6311, 1990)、除草剤である(S)−スルカトールの前駆体として利用され(K. mori et al., Tetrahedron, 37: 1341, 1981)、b−ラクタム系の抗生剤であるカルバペネムの前駆体としても利用され(T. Chiba et al., Chemistry letters, 16: 2187, 1987)、類似ビタミン(vitamin-like nutrient)であるL−カルニチンの前駆体としても利用される(B. -N. Zhou et al., Journal of American Chemical society, 105: 5925, 1983)。
【0003】
既存のエステルの製造方法としては、プロキラル前駆体である3−ケトエステルを利用して触媒ジホスフィン−ルテニウム(diphosphine-ruthenium)で還元的不斉水素化(asymmetric reductive hydrogenation)する方法があるが(R. Noyori et al., Journal of the American Chemical Society, 109: 5856, 1987)、使用する金属触媒が非常に高価であり、純粋な基質を必要とし、水素化反応は、非常に高圧の反応器を必要とするという短所がある。また、酵母を全細胞触媒として使用してb−ケトエステルを生体触媒による還元(biocatalytic reduction)し、収率58%、光学純度94%eeのエチル(S)−3−ヒドロキシブチレートを生産する方法は、微生物内に存在する多様なオキシドレダクターゼによって光学活性が低くなるという短所がある(Tetrahedron Letters, 34: 3949, 1993)。
【0004】
微生物の代謝経路を操作してブドウ糖から生合成された光学活性(R)−3−ヒドロキシアルカン酸を生産する報告は知られている(Lee et al., Biotechnol Bioeng, 65: 363, 1999;Lee and Lee., Appl Environ Microbiol, 69: 1295, 2003;Gao et al., FEMS Microbiol Lett, 213: 59, 2002)。(R)−3−ヒドロキシアルカン酸を生産する経路は、大きく2つに分けることができる。第一に、生分解性高分子であるポリヒドロキシアルカン酸の自己分解を利用したこと(Lee et al., Biotechnol Bioeng, 65: 363, 1999;Lee and Lee., Appl Environ Microbiol, 69: 1295, 2003)、第二に、生分解性高分子の自己分解ではなく、ブドウ糖から、まず(R)−3−ヒドロキシアルカノイルCoAを生産し、生産された(R)−3−ヒドロキシアルカノイルCoAからCoAを除去した後、(R)−3−ヒドロキシアルカン酸を生産することである(Gao et al., FEMS Microbiol Lett, 213: 59, 2002)。第二の方法の場合、ブドウ糖からβ−ケトチオラーゼ(PhaA)と、(R)−3−ヒドロキシブチリルCoAレダクターゼ(PhaB)を利用してまず(R)−3−ヒドロキシブチリルCoAを生産し、生産された(R)−3−ヒドロキシブチリルCoAからCoA除去することは、ホスホトランスブチラーぜ(ptb)とブチリルキナーゼ(BuK)を利用する(Gao et al., FEMS Microbiol Lett, 213: 59, 2002)。
【0005】
光学活性(S)−3−ヒドロキシブチレートを生産する化学的経路と、生触媒経路が知られているが、微生物の代謝経路を操作してブドウ糖から生合成された光学活性(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステル生産することは未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Ferreira et al., Tetrahedron, 46: 6311, 1990
【非特許文献2】K. mori et al., Tetrahedron, 37: 1341, 1981
【非特許文献3】T. Chiba et al., Chemistry letters, 16: 2187, 1987
【非特許文献4】B. -N. Zhou et al., Journal of American Chemical society, 105: 5925, 1983
【非特許文献5】R. Noyori et al., Journal of the American Chemical Society, 109: 5856, 1987
【非特許文献6】Lee et al., Biotechnol Bioeng, 65: 363, 1999
【非特許文献7】Lee and Lee., Appl Environ Microbiol, 69: 1295, 2003
【非特許文献8】Gao et al., FEMS Microbiol Lett, 213: 59, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これより、本発明者は、光学活性(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルを生合成するために鋭意努力した結果、微生物の該当過程によって生成されたアセチルCoAを高価の金属触媒や基質を使用せず、微生物に導入された組換え遺伝子によって代謝経路を操作することによって、工程が簡単であり、光学純度が高い(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルが生合成されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の主な目的は、(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物、及び上記組み換え微生物を培養することを含む(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、(S)−3−ヒドロキシブチレートエステル製造用組み換え微生物、及び上記組み換え微生物を培養することを含む(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物を提供する。
【0011】
また、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びホスホトランスブチラーぜをコーディングする遺伝子(ptb)及びブチレートキナーゼをコーディングする遺伝子(Buk)で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記組み換え微生物を培養することを特徴とする(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、上記組み換え微生物の培養液または菌株抽出液をアセチル−CoA、アセトアセチルCoA及び(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAで構成された群から選択される基質と反応させることを特徴とする(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸エステル製造用組み換え微生物を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記組み換え微生物を培養することを特徴とする(S)−3−ビドロキシ酪酸エステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微生物の該当過程によって生成されたアセチルCoAを高価の金属触媒や基質を使用せず、微生物に導入された組換え遺伝子によって代謝経路を操作することによって、工程が簡単であり、光学純度が高い(S)−3−ビドロキシ酪酸及び(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの生合成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(S)−3−HB生合成経路を示す図である。
【図2】(S)−3−HB生合成経路を示す図である。
【図3】(S)−3−HBエステルを合成する経路を示す図である。
【図4】pTacReA−hbdベクターの切断地図を示す図である。
【図5】pET21aBCHベクターの切断地図を示す図である。
【図6】pK28BCH、pET28bBCHベクターの切断地図を示す図である。
【図7】pET21aHBD、pK21HBDベクターの切断地図を示す図である。
【図8】本発明によって生産された(S)−3−HBをメチル化させて分析したGC−MSD分析結果である。
【図9】本発明によって生産された(S)−3−HBをメチル化させてキラリティーを分析した結果である。
【図10】本発明による流加培養を用いた(S)−3−HBを生産する時の時間プロファイル結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の方法によって製造される(S)−3−ビドロキシ酪酸は、化学式1に示されたように、(R)−3−ビドロキシ酪酸とは異なるキラリティーを有する光学活性化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
上記(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造のために、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物を提供する。
【0021】
本発明によるβ−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物は、図1に示した生合成経路を経て(S)−3−ビドロキシ酪酸を生産する。
【0022】
まず、ブドウ糖から該当過程を通じてアセチルCoAが生成されれば、アセチルCoAは、β−ケトチオラーゼによってアセトアセチルCoAに転換され、上記アセトアセチルCoAは、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼによって(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAに転換され、最終的に、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAは、アシルCoAヒドロラーゼによって(S)−3−ビドロキシ酪酸に転換されるようになる。
【0023】
また、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びホスホトランスブチラーぜをコーディングする遺伝子(ptb)及びブチレートキナーゼをコーディングする遺伝子(Buk)で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物を提供する。
【0024】
本発明によるβ−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びホスホトランスブチラーぜをコーディングする遺伝子(ptb)及びブチレートキナーゼをコーディングする遺伝子(Buk)で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物は、上記図2に示した経路を通じて(S)−3−ビドロキシ酪酸を生産するようになる。
【0025】
ブドウ糖から該当過程を通じてアセチルCoAが生成されれば、アセチルCoAは、β−ケトチオラーゼによってアセトアセチルCoAに転換され、上記アセトアセチルCoAは、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼによって(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAに転換され、上記(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAは、ホスホトランスブチラーぜ(Ptb)またはホスホトランスアセチラーゼ(Pta)によって(S)−3−ヒドロキシブチリルホスフェートに転換されて、上記(S)−3−ヒドロキシブチリルホスフェートは、ブチレートキナーゼ(BuK)またはプロピオネートキナーゼ(Puk)によって最終的に(S)−3−ビドロキシ酪酸に転換されるようになる(図2)。
【0026】
本発明の一具体例において、上記(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で構成された群のうち1つ以上の遺伝子を含有する1つ以上の組換えベクターによって形質転換されたものであることができる。
【0027】
例えば、上記(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクター、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクター及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクターによって形質転換されたものであることができる。他の例において、上記(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子及び(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクター及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクターによって形質転換されたものであることができる。
【0028】
本発明の一具体例において、上記β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子は、(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物の染色体に挿入されているものであることができる。
【0029】
また、本発明は、(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルの製造のために、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物を提供する。
【0030】
本発明による、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物は、図3に示したように、上記図1の(S)−3−ビドロキシ酪酸の生合成経路を経て生産された(S)−3−ビドロキシ酪酸がリパーゼによってエステル化しながら、(S)−3−ヒドロキシブチレートエステルを生成するようになる。
【0031】
本発明において、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子は、上記酵素をコーディングする遺伝子なら特別な制限なくいずれのものでも利用可能である。下記実施例においては、特定の遺伝子を利用しているが、本発明の遺伝子が実施例に開示された特定の遺伝子に限定されるものではないことは当業者に自明であろう。
【0032】
本発明の一具体例において、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子は、配列番号1の塩基配列で表示されるものであることができる。
【0033】
本発明の一具体例において、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子は、配列番号2または配列番号3の塩基配列で表示されるものであることができる。
【0034】
本発明の一具体例において、アシルCoAヒドロラーゼは、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼであることができる。本発明の一具体例において、上記(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼは、配列番号4の塩基配列によってコーディングされるものであることができる。
【0035】
本発明において、ベクターは、適当な宿主内でDNAを発現させることができる適当な発現調節配列に作動可能に連結されたDNA配列を含むDNA製造物を意味する。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、または簡単に潜在的ゲノム挿入物であることができる。適当な宿主で形質転換されれば、ベクターは、宿主ゲノムと関係なく複製し機能することができるか、または一部の場合に、ゲノムその自体に統合されることができる。プラスミドが現在ベクターの最も通常的に使用される形態なので、本発明において、「プラスミド」及び「ベクター」は、時々に相互交換的に使用される。しかし、本発明は、当業界に知られた、または知られるようになることと同等な機能を有するベクターの他の形態をも含む。
【0036】
「発現調節配列(expression control sequence)」という表現は、特定の宿主生物で作動可能に連結されたコーディング配列の発現に必須なDNA配列を意味する。このような調節配列は、転写を実施するためのプロモータ、転写を調節するための任意のオペレータ配列、適当なmRNAリボソーム結合部位をコーディングする配列、及び転写及び解読の終決を調節する配列を含む。例えば、原核生物に適した調節配列は、プロモータ、任意のオペレータ配列及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモータ、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーがこれに含まれる。プラスミドにおいて遺伝子の発現量に最も影響を及ぼす因子は、プロモータである。高発現用のプロモータとして、SRαプロモータ、サイトメガロウイルス来由プロモータなどが好ましく使用されることができる。
【0037】
本発明のDNA配列を発現させるために、非常に多様な発現調節配列のうちいずれのものでもベクターに使用されることができる。有用な発現調節配列の例として、例えば、SV40またはアデノウイルスの初期及び後期プロモータ、lacシステム、trpシステム、TACまたはTRCシステム、T3及びT7プロモータ、ファージラムダの主要オペレータ及びプロモータ領域、fdコードタンパク質の調節領域、3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他のグリコール分解酵素に対するプロモータ、上記ホスファターゼのプロモータ、例えばPho5、酵母アルファ−交配システムのプロモータ及び原核細胞または真核細胞またはこれらのウイルスの遺伝子の発現を調節するものとして知られた構成と誘導のその他の配列及びこれらの様々な組合が含まれる。
【0038】
核酸は、他の核酸配列と機能的関係で配置されるとき、「作動可能に連結(operably linked)」される。適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)は、調節配列に結合されるとき、遺伝子発現を可能にする方式で連結された遺伝子及び調節配列であることができる。例えば、前配列(pre-sequence)または分泌リーダー(leader)に対するDNAは、ポリペプチドの分泌に参加する全タンパク質として発現される場合、ポリペプチドに対するDNAに作動可能に連結され;プロモータまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コーディング配列に作動可能に連結されるか;またはリボソーム結合部位は、配列の転写に影響を及ぼす場合、コーディング配列に作動可能に連結されるか;またはリボソーム結合部位は、翻訳を容易にするように配置される場合、コーディング配列に作動可能に連結される。一般的に、「作動可能に連結された」は、連結されたDNA配列が接触し、また、分泌リーダーの場合、接触し、リーディングフレーム内に存在することを意味する。しかし、エンハンサーは、接触する必要がない。これら配列の連結は、便利な制限酵素部位でライゲーション(連結)によって行われる。このような部位が存在しない場合、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)またはリンカー(linker)を使用する。
【0039】
本願発明において使用された用語「発現ベクター」は、通常、異種のDNA断片が挿入された組換えキャリア(recombinant carrier)であって、一般的に、二重鎖のDNA断片を意味する。ここで、異種のDNAは、宿主細胞で天然的に発見されないDNAである異形DNAを意味する。発現ベクターは、宿主細胞内にあれば、宿主染色体DNAと関係なく複製することができ、ベクターの数個のコピー及びその挿入された(異種)DNAが生成されることができる。
【0040】
当業界に周知のように、宿主細胞で形質感染遺伝子の発現水準を高めるためには、当該遺伝子が選択された発現宿主内で機能を発揮する転写及び解読発現調節配列に作動可能に連結されなければならない。好ましくは、発現調節配列及び当該遺伝子は、細菌選択マーカー及び複製起点(replication origin)を一緒に含んでいる1つの発現ベクター内に含まれるようになる。発現宿主が真核細胞の場合には、発現ベクターは、真核発現宿主内で有用な発現マーカーをさらに含まなければならない。
【0041】
本発明において、組換えベクターとしては、プラスミドベクター、バクテリオファージベクター、コスミドベクター、YAC(Yeast Artificial Chromosome)ベクターなどを含む多様なベクターが導入されることができる。例えば、プラスミドベクターは、(a)宿主細胞当たり数百個のプラスミドベクターを含むように複製が効率的に行われるようにする複製起点、(b)プラスミドベクターで形質転換された宿主細胞が選ばれるようにする抗生剤耐性遺伝子及び(c)外来DNA断片が挿入されることができる制限酵素切断部位を含む構造を有することができる。適切な制限酵素切断部位が存在しなくても、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを使用すれば、ベクターと外来DNAを容易にライゲーション(ligation)することができる。
【0042】
本発明による組換えベクターは、適切な宿主細胞で通常の方法によって形質転換することができる。宿主細胞としては、バクテリア、酵母、かびなどが可能であるが、これらに限定されるものではない。本発明に好ましく使用される宿主細胞は、原核細胞であり、大膓菌が好ましい。適当な原核宿主細胞の例として、E.coli菌株BL21、E.coli菌株DH5a、E.coli菌株JM101、E.coli K12菌株294、E.coli菌株W3110、E.coli菌株X1776、E.coli XL−1Blue(Stratagene)、E.coli Bなどを含む。しかし、FMB101、NM522、NM538及びNM539のようなE.coli菌株及び他の原核生物の種及び属なども使用されることができる。前述のE.coliに加えて、アグロバクテリウムA4のようなアグロバクテリウム属菌株、枯草菌(Bacillus subtilis)のようなバシラス(bacilli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)または セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)のような他の腸内細菌及び多様なシュードモナス(Pseudomonas)属菌株が宿主細胞として利用されることができ、本発明は、上記記述した例示に制限されるものではない。
【0043】
また、原核細胞の形質転換は、Sambrook et al., supraの1.82セクションに記述されたカルシウムクロライド方法を使用して容易に達成されることができる。選択的に、電気穿孔法(Neumann et al., EMBO J., 1: 841(1982))も、このような細胞を形質転換するのに使用されることができる。
【0044】
また、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物を製造し、上記組み換え微生物を培養することを含む(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法を提供する。上記培養は、適当な炭素源を含む培地で行われることができる。
【0045】
また、本発明は、上記組み換え微生物の培養液または菌株抽出液をアセチル−CoA、アセトアセチルCoA及び(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAで構成された群から選択される基質と反応させることを特徴とする(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法を提供する。
【0046】
また、本発明は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸エステル製造用組み換え微生物を製造し、上記組み換え微生物を培養することを含む(S)−3−ビドロキシ酪酸エステルの製造方法を提供する。
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1:β−ケトチオラーゼ及び(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクター(pTacReA−HBD)の製作
まず、Ralstonia eutropha H16菌株(ATCC17699)をLB液体培地3mLに18時間培養した後、培養液を遠心分離して細胞を収得し、10mLバッファーを利用して洗浄した後、Wizard Genomic DNA purification Kit(Promega社、USA)を利用して菌株の染色体を分離した。
【0049】
次に、上記分離した染色体をReAf−EcoRIプライマー(配列番号5)及びReAb1259プライマー(配列番号6)を使用して上記分離された染色体を鋳型にしてRalstonia eutropha菌株のβ−ケトチオラーゼ遺伝子(配列番号1)を増幅した。PCR反応混合物100μLは、dNTP 250μM、プライマー各々20pmol、1.5mM MgCl、10バッファ 10μL、DNA鋳型100ng、pfuポリメラーゼ5unitsを添加し、95℃で5分間初期変性過程を進行した後、95℃で1分間変性、50℃で1分間アニーリング及び72℃で1分間重合過程を25回繰り返した。
【0050】
ReAf−EcoRI:5′−ggaattc ATGACTGACGTTGTCATCGTATCC−3′(配列番号5)
ReAb1259:5′−gtc cac tcc ttg att ggc ttc g−3′(配列番号6)
【0051】
また、同一の条件でCahbdfプライマー(配列番号7)、Cahbdb−XbaIプライマー(配列番号8)を利用してクロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)菌株(ATCC824)の(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子(配列番号2)を増幅した。
【0052】
Cahbdf:5′−GAA GCC AAT CAA GGA GTG GAC ATGAAAAAGGTATGTGTTATAGG−3′(配列番号7)
Cahbdb−XbaI:5′−gc tctaga tta ttt tga ata atc gta gaa acc−3′(配列番号8)
【0053】
増幅された遺伝子を1%アガロースゲルで精製し、これら2つの遺伝子をPCR反応を利用して融合(fusion)させた。まず、各々1pmol濃度で2つの遺伝子を混合してPCRのための鋳型として利用し、他の条件は、上記とすべて同一であり、重合過程を2.5分にして増幅を行った。増幅された遺伝子は、1%アガロースゲルで精製し、EcoRI、XbaI制限酵素でDNA断片を切断し、同一の制限酵素で切断したpTac99Aベクター(Park and Lee, J.Bacteriol.185, 5391-5397, 2003)にライゲーションし、pTacReA−HBDを製作した(図4)。
【0054】
実施例2:(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクター(pET21aBCH、pET28bBCH及びpK28BCH)の製作
まず、セレウス菌(Bacillus cereus)(ATCC14579)菌株をLB液体培地で18時間培養した後、実施例1と同一の方法で染色体を分離した。分離した染色体を鋳型にしてACH_NdeIプライマー(配列番号9)及びACH_BamHIプライマー(配列番号10)を利用して実施例1と同一の条件でPCRを利用して3−ヒドロキシイソブチリルCoAヒドロラーゼ(BCH)遺伝子(配列番号4)を増幅した。
【0055】
ACH_NdeI5′−CGC CAT ATG ACT GAA CAA GTT TTATTT−3′(配列番号9)
ACH_BamHI5′−ATA GGA TCC TTA TGC ATT AAG TAA GTT AAA G−3′(配列番号10)
【0056】
増幅した遺伝子を実施例1と同一の条件に精製し、制限酵素NdeI、BamHIを利用して切断した後、同一の制限酵素で切断したpET21a(Novagen、USA)、peET28B(Novagen、USA)及びpK28に各々ライゲーションし、pET21aBCH、pET28bBCH及びpK28BCHを製作した(図5)。
【0057】
上記pK21ベクターは、PET21aベクターを制限酵素BglII及びXbaI制限酵素で切断した後、EZ::TN<KAN>2トランスポゾン(Epicenter、USA;Cat#:MOD 1503)のプロモータ疑心部位をKAN2 P−bgl IIプライマー(配列番号11)及びKAN2−P−XbaIプライマー(配列番号12)を利用してPCRで増幅した後、同一の制限酵素で切断した後にライゲーションして自体製作した。増幅したDNA配列は、配列番号13に示した。
【0058】
KAN2 P−bgl II:TATA AGA TCT CAA CCA TCA TCG ATG AAT TGT(配列番号11)
KAN2−P−XbaI:TAT TCT AGA AAC ACC CCT TGT ATT ACT GTT(配列番号12)
EZ::TNKAN2トランスポゾン:5′−TACACATCTCAACCATCATCGATGAATTGTGTCTCAAAATCTCTGATGTTACATTGCACAAGATAAAAATATATCATCATGAACAATAAAACTGTCTGCTTACATAAACA GTAATACAAG GGGTGTT−3′(配列番号13)
【0059】
実施例3:(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を含有する組換えベクター(pET21aHBD及びpK21HBD)の製作
まず、実施例1で分離したクロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)(ATCC824)染色体を鋳型としてhbd_NdeIプライマー(配列番号14)及びhbd_BamHIプライマー(配列番号15)を利用して実施例1と同一の条件で(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子(配列番号2)を増幅した。
【0060】
hbd_NdeI:5′−ATA CAT ATG AAA AAG GTA TGT GTT ATA GGT GCA GGT−3′(配列番号14)
hbd_BamHI5′−ATA GGA TTC TTA TTT TGA ATA ATC GTA GAA ACC TTT−3′(配列番号15)
【0061】
増幅された遺伝子は、NdeI及びBamHI制限酵素で切断した後、同一の制限酵素で切断したpET21aベクターとpK21ベクターとライゲーションし、pET21aHBD及びpK21HBDを製作した(図6)。
【0062】
実施例4:(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ(HBD)遺伝子の活性確認
実施例3で製作したpET21aHBDを電気穿孔法を利用して大膓菌BL21(DE3)に導入して形質転換し、LBアンピシリン平板培地に塗抹して37℃で一晩培養した。培養されたコロニーをアンピシリン100μg/mLを含有するLB液体培地3mLに接種し、振とう培養器(Jeio Tech社、韓国)で200rpm、37℃、OD600値が0.5になるまで培養した後、IPTGを最終濃度1mMになるように添加してタンパク質発現を誘導させた後、一晩培養した。その後、培養液を遠心分離して菌体を収得した後、超音波処理して細胞を破砕した後、遠心分離して無細胞抽出液(cell free extract)を確保した。このように確保した無細胞抽出液を酵素活性確認試料として利用した。
【0063】
試料の(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ活性は、1mMアセトアセチルCoA、3mM NADH及び5mg/mL 無細胞抽出液20μLが含有された反応液を5分間37℃で反応させた後、生成された(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAをHPLC(shimadzu、Japan)を利用して確認した。
【0064】
HPLC条件は、移動相として水とアセトニトリルを97:3割合で5分間流してから、アセトニトリルの割合を15%まで25分間増加させながら分析した。溶媒の流速は、1mL/minであり、C18 Capcel PAKカラム(Shisheido、Japan)を利用し、生成される(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAは、210nmで検出した。
【0065】
その結果、表1に示されたように、実施例3で製造された(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子を含有する組換えベクターで形質転換された大膓菌BL21(DE3)は、活性型(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼを生産することを確認することができた。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例5:(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼ(BCH)遺伝子の活性確認
実施例2で製作したpET21aBCHを実施例4と同一の方法で大膓菌BL21に形質転換させた後に培養して、無細胞抽出液を確保し、3−ヒドロキシイソブチリルCoAヒドロラーゼ活性の確認に利用した。
【0068】
3−ヒドロキシイソブチリルCoAヒドロラーゼ活性は、1mM(S)−3−ヒドロキシブチリルCoA及び5mg/mL無細胞抽出液20μLが含有された反応液を30分間37℃で反応させた後、生成された3−ビドロキシ酪酸をHPLC(shimadzu、Japan)を利用して確認した。HPLCは、実施例4と同一の条件で行った。
【0069】
その結果、表2に示されたように、実施例2で製造された(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼ遺伝子を含有する組換えベクターで形質転換された大膓菌BL21(DE3)は、活性型3−ヒドロキシイソブチリルCoAヒドロラーゼを生産することを確認することができた。
【0070】
【表2】

【0071】
実施例6:β−ケトチオラーゼ、HBD及びBCH遺伝子を含有するベクターで形質転換された微生物の細胞抽出液を利用した(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造
実施例1乃至実施例3で製作したpTacReA−HBD、pET21aBCH及びpK28BCHを電気穿孔法を利用して同時に大膓菌BL21(DE3)に形質転換させ、実施例4と同一の方法で無細胞抽出液を収得し、酵素活性の確認に利用した。
【0072】
(S)−3−ビドロキシ酪酸の生成は、1mMアセチルCoA、3mM NADH、及び5mg/mL無細胞抽出液20μLが含有された反応液を30分間37℃で反応させた溶液をHPLC(shimadzu、Japan)を利用して確認した。
【0073】
分析は、実施例5と同一の方法で行い、加水分解されて生成されたCoAを検出して測定した。
【0074】
その結果、表3に示されたように、pTacReA−HBD、pET21aBCH及びpK28BCHで形質転換された大膓菌BL21(DE3)は、活性型β−ケトチオラーゼ、3−ヒドロキシイソブチリルCoAヒドロラーゼ及び(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼを生産することを確認することができた。
【0075】
【表3】

【0076】
実施例7:β−ケトチオラーゼ、HBD、BCH遺伝子を含有するベクター、上記組換えベクターで形質転換された微生物及びこれを利用した(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造(In−vivo)
実施例1及び実施例2で製作したpTacReA−HBD及びpET28bBCHを電気穿孔法を利用して大膓菌BL21(DE3)に同時に形質転換させ、アンピシリン100μg/mLとカナマイシン50μg/mLを含有するLB平板培地に塗抹して37℃で一晩培養した。培養されたコロニー2個を100μg/mLを含有するLB液体培地3mLが含まれた15mLチューブ(Falcon、USA)に接種し、37℃で200rpmに一晩振とう培養して種菌を培養した。このように培養された種菌をさらに50mL2%グルコース及びアンピシリン100μg/mLを含有するLB液体培地に接種し、37℃で200rpmで振とう培養して、OD600が0.5になった時、IPTGを最終濃度1mMになるように添加してタンパク質発現を誘導した後、一晩培養した。
【0077】
その後、培養液を遠心分離した後、上澄み液を収得し、HPLC分析を通じて生成された3−ビドロキシ酪酸を定量分析した。HPLC条件は、移動相として0.01N硫酸を含有する水を利用し、流速は、0.6mL/minであった。カラムは、Aminex87H(Bio−rad、USA)を利用し、生成される3−ビドロキシ酪酸は、RI(Refractive Index)検出器を利用して測定し、その結果を表4に示した。
【0078】
【表4】

【0079】
また、さらに正確な定性分析及び定量分析のために、生成された3−ビドロキシ酪酸を含有する培養液を凍結乾燥した後、生成物をメチル化させ、メチル(S)−3−ヒドロキシブチレートのGC−MSD(質量分析)及びキラリティー分析を行った。分析は、ガスクロマトグラフィー(Agilent、USA)を利用し、分析条件は、表4に示した。質量分析も行い、その結果でも、生成された産物が3−ビドロキシ酪酸であることを確認することができ、上記結果は、図8及び図9に示した。キラリティーの分析結果、光学純度99.9%ee以上の(S)−3−ビドロキシ酪酸が生産されたことを確認し、鏡像体過剰率(Enantiomeric excess)(ee)値は、下記数式(1)から求めた。
【0080】
【数1】

【0081】
【表5】

【0082】
実施例8:pET21aBCH−ReA−HBD、pET21aBCH−ReA−ReHBDベクターの製作
実施例1と同一の方法でR.eutropha来由のHBD(ReHBD)遺伝子(配列番号3)をReHBD−RBS−UPプライマー及びReHBD−DN−XhoIプライマーを利用して増幅した。
【0083】
ReHBD−RBS−UP:5′−GAAGCCAATCAAGGAGTGGACATGAGCATCAGGACAGTGGG−3′(配列番号16)
ReHBD−DN−XhoI:5′−ATACTCGAGTTACTTGCTATAGACGTACACGCCGCGGCC−3′(配列番号17)
【0084】
実施例1と同一の条件でReAf−EcoRIプライマー(配列番号5)とReHBD−DN−XhoIプライマー(配列番号17)を利用してReA遺伝子とReHBD遺伝子を融合(fusion)してReAReHBD遺伝子を完成した。また、実施例1で製作したpTacReA−HBDベクターを鋳型として上記ReAf−EcoRIプライマーと上記ReHBD−DN−XhoIプライマーを利用してReA−HBD遺伝子を増幅した。上記融合して増幅された2つの遺伝子をEcoRIとXhoI制限酵素で処理し、実施例2で製作したpET21aBCHも同一の制限酵素で切断した後に精製してライゲーションし、pET21aBCH−ReA−HBD及びpET21aBCH−ReA−ReHBDを完成した。
【0085】
HBD−DN−XhoI:5′−ATACTCGAGTTATTTTGAATAATCGTAGAAACCTTTTCCTG−3′(配列番号18)
【0086】
実施例9:pET21aBCH−ReA−HBD、pET21aBCH−ReA−ReHBDベクターで形質転換された大膓菌を利用した(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造
実施例8で製作したpET21aBCH−ReA−HBD及びpET21a−BCH−ReA−ReHBDを電気穿孔法を利用して大膓菌Codon Plus(DE3)に各々形質転換させ、LB/アンピシリン平板培地に塗抹して37℃で一晩培養した。培養されたコロニー2個をLB/アンピシリン培地3mLが含まれた15mL使い捨てチューブ(Falcon、USA)に接種し、37℃で200rpmで振とう培養して一晩培養した。培養された種菌をさらに100mL2%グルコースを含有するMR液体培地に接種し、37℃で200rpmで10時間振とう培養して、1.5L発酵槽に接種して培養を開始した。培養開始後、ODが120になった時、IPTGを最終濃度1mMになるように添加してタンパク質発現を誘導した後、2時間ごとに生成される(S)−3−ビドロキシ酪酸を実施例7と同一の方法で分析し、その結果、約10g/Lの(S)−3−HBが生成された(図10及び表6)。
【0087】
【表6】

【0088】
以上より、本発明内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は、ただ好ましい実施例に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるものではないことは自明であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物によって定義される。
【0089】
本発明の単純な変形乃至変更は、この分野における通常の知識を有する者によって容易に利用されることができ、このような変形や変更は、すべて本発明の領域に含まれるものと解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸製造用組み換え微生物。
【請求項2】
β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子は、配列番号1の塩基配列で表示される、請求項1に記載の組み換え微生物。
【請求項3】
(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子は、配列番号2または配列番号3の塩基配列で表示される、 請求項1に記載の組み換え微生物。
【請求項4】
アシルCoAヒドロラーゼは、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼである、請求項1に記載の組み換え微生物。
【請求項5】
(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAヒドロラーゼは、配列番号4の塩基配列によってコーディングされる 請求項4に記載の組み換え微生物。
【請求項6】
上記組み換え微生物は、β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で構成された群のうち1つ以上の遺伝子を含有する1つ以上の組換えベクターによって形質転換されたものである、請求項1に記載の組み換え微生物。
【請求項7】
β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物を製造する工程、ならびに
上記組み換え微生物を培養する工程を含む、(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法。
【請求項8】
β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子及びアシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された組み換え微生物の培養液または菌株抽出液を、アセチル−CoA、アセトアセチルCoA及び(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAからなる群から選択される基質と反応させる工程を含む(S)−3−ビドロキシ酪酸の製造方法。
【請求項9】
β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸エステル製造用組み換え微生物。
【請求項10】
β−ケトチオラーゼをコーディングする遺伝子、(S)−3−ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子、アシルCoAヒドロラーゼをコーディングする遺伝子及びリパーゼをコーディングする遺伝子で形質転換された(S)−3−ビドロキシ酪酸エステル製造用組み換え微生物を製造する工程、
上記組み換え微生物を培養する工程を含む、(S)−3−ビドロキシ酪酸エステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−535497(P2010−535497A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519852(P2010−519852)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【国際出願番号】PCT/KR2008/003217
【国際公開番号】WO2009/020279
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】