説明

組み換え法によって生物活性ビタミンK依存性タンパク質を製造する方法

本発明は、生物活性ビタミンK依存性タンパク質、特に第IX因子を製造する商業的に実現可能な方法に関する。第IX因子は、少なくとも約15mg/Lのレベルで産生され、少なくとも25%生物活性である。当該方法は、ビタミンK依存性タンパク質が、組み換え細胞によって効率的に産生及びプロセシングされるように、1つ又は複数の対になった塩基性アミノ酸変換酵素(PACE)、ビタミンK依存性エポキシド還元酵素(VKOR)及びビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)を好ましい比率で同時発現させることに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は一般的に、組み換えビタミンK依存性タンパク質、特に第IX因子の製造に関し、これはビタミンK依存性タンパク質のプロセシングに関連する1つ又は複数のタンパク質の同時発現によって完全に機能的である。これらのプロセシングタンパク質としては、対になった塩基性アミノ酸変換酵素(PACE)、ビタミンK依存性エポキシド還元酵素(VKOR)及びビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)が挙げられる。さらに、ビタミンK依存性タンパク質のプロペプチドを修飾し、γ−カルボキシル化を改善することもできる。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2005年12月21日に提出された米国仮特許出願第60/752,642号(参照により本明細書中に援用される)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
出血性障害は、正常な止血、すなわち血液凝固に必要とされる、1つ又は複数の血液タンパク質(集合的に血液凝固因子として知られる)の機能レベルの欠損に起因し得る。所定の出血性障害の重症度は機能的な凝固因子の血液レベルに依存する。軽度の出血性障害は、所定の凝固因子の機能レベルが正常なものの約5%に達する場合に一般的に認められるが、機能レベルが1%未満まで落ちる場合、血管系に対する何らかの損傷によって重度の出血が起こる可能性が高い。
【0004】
医療経験によって、本質的に正常な止血が1つ又は複数の血液凝固因子を含有する生物学的製剤の静脈内注入によって一次的に回復させることができることが示されている。出血が起こる場合(要求に応じて)、又は(予防的に)出血を防ぐために、欠損した血液凝固因子を含有する生物学的製剤が注入される、いわゆる補充療法が、多種多様な出血性障害の患者を管理するのに効果的であることが示されている。概して、効果的な補充療法のために、2〜3日間を超えて正常なものの5%を優に超えるレベルを達成するような欠損した(missing)凝固因子の静脈内注入を目的とする。
【0005】
歴史的に、血液凝固第VIII因子(血友病A)又は第IX因子(血友病B)のいずれかの欠損に起因する遺伝的に獲得した出血性障害である血友病を患う患者は、様々な純度の全血又は血漿分画の定期的な注入によって治療が成功した。
【0006】
近年になって、バイオテクノロジーの出現により、合成(組み換え)血液凝固因子の生物活性製剤が血液凝固障害の治療のために市販されてきている。組み換え血液凝固タンパク質によって、ヒト血液由来の高純度の市販製剤であっても付きまとう懸念事項であり続けるヒト病原菌混入の危険性が本質的になくなる。
【0007】
出血性障害の適切な治療は、主として世界の経済発展地域に限定される。血友病の場合、世界中で75%を超える患者集団が、この疾患の治療が十分に受けられないか、又は粗悪な治療しか受けられないか、又は治療を受けることができないと推測される。世界の多くの地域では、凝固因子の安全で効果的な市販製剤のコストは、出血性障害の日常的な管理のために高すぎて、場合によっては、寄付された製品による応急処置しか利用することができない。
【0008】
出血性障害の適切な治療が潜在的に利用可能である世界の地域では、コストが非常に高く、患者は、必要な市販製品を得るために、第三者の支払元(payors)、例えば健康保険
又は政府援助プログラムにほとんどの場合依存している。平均して、米国において血友病治療には、日常的に要望に応じたケアに必要な市販製品のために毎年1人の患者当たり約50000ドルかかると推測される。しかし、米国血友病財団の医学科学諮問委員会によって、患者が、成人の血友病患者の場合、毎年250000ドルをはるかに超える年間コストがかかり得る予防的治療を受けることを勧められている限り、このコストはますます高くなる可能性がある。約100万ドルという生命保険の上限額が一般的に米国のほとんどの政策に結び付いていると考えると、血友病患者がケアのために購入することができる市販製品の量は厳しく制約され、このことが少なくとも成人期の生活の質に影響し、最悪の場合生死にかかわる出血の危険性が増大する。
【0009】
ここ25年来、バイオテクノロジーによって低コストのバイオ医薬品を製造する見込みが出てきている。不運なことに、主に天然の生体分子の固有の複雑性、及び遺伝子操作した細胞におけるこれらの組み換えタンパク質相当物の合成に関する様々な制限のために、この見込みは果たされていない。合成に対して選択される細胞型、例えば動物、細菌、酵母、昆虫、植物等にかからわず、タンパク質は、安全で効果的な治療用途のために或る特定の最小限の構造的特性を達成する必要がある。幾つかの場合では、組み換えタンパク質は合成後に正しく単純に折り畳まれ、適切な機能に必要な三次元構造を達成する必要がある。他の場合では、コアタンパク質が細胞内で合成された後に、組み換えタンパク質は広範な酵素指向性の翻訳後修飾を受ける必要がある。多くの細胞内酵素活性のいずれか1つにおける活性の欠如によって、大部分の非機能的なタンパク質が形成され、商業的用途を目的とするバイオ医薬品の経済的製造のための遺伝子操作した細胞系の実用性が制限され得る。
【0010】
正常な血液凝固に必要な幾つかのタンパク質は、止血の制御、及び/又は血栓症の予防におけるタンパク質の全体的な有効性に必須である非常に明確な機能特性にそれぞれが関連する複数の構造ドメインを有するという点で非常に複雑である。特に、いわゆる「ビタミンK依存性」血液凝固タンパク質、例えば第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC及びプロテインSは非常に複雑なタンパク質であり、正常な機能のために広範な翻訳後修飾を受ける必要がある。組み換え技術によって高レベルの機能的ビタミンK依存性タンパク質を達成することが、これらのタンパク質の構造の複雑性、及び効率的で完全な翻訳後修飾が起こるのに必要な酵素活性の固有の欠如を克服する遺伝子操作した細胞系を作製することができないことによって制限されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
市販された最初の合成ビタミンK依存性血液凝固タンパク質は、遺伝子操作したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(BeneFix、凝固第IX因子(組み換え)指向性挿入、Weyth Pharmaceuticals, Inc. Philadelphia, PA 19101 CI 8020-3 WI0483C007, Rev 10/05)から今日もなお製造されている第IX因子である。組み換え第IX因子はCHO細胞を用いて産生することができるが、この因子は適切にプロセシングされておらず、その結果患者に対するバイオアベイラビリティが可変であるので、血友病Bの治療としては最適ではない。適度なレベルの組み換え第IX因子タンパク質、例えば最大188mg/Lを遺伝子操作したCHO細胞によって発現することができるが、glaドメインと称されるタンパク質のアミノ末端領域において、最初の12個のグルタミン酸残基を完全にγ−カルボキシル化するというCHO細胞の能力が限定されるために、産生される完全に機能的な第IX因子のレベルはわずか0.5mg/L程度である。第IX因子の翻訳後修飾のこの欠損に加えて、その後の研究によって、タンパク質の効果的な細胞内γ−カルボキシル化に必要なプロペプチドドメインを含有する第IX因子の形態であるプロ第IX因子(pro-Factor IX)は、CHO細胞からの分泌前では完全にプロセシングされないことが示された。結果として、遺伝子操作したCHO細胞から分泌された半分を優に超え
る第IX因子が依然としてプロペプチド領域を含有し、非機能的であることが見出された(Bond, M., Jankowski, M., Patel, H., Karnik, S., Strand, A., Xu, B.,他(1998)著「組み換え第IX因子の生化学的特徴(Biochemical characterization of recombinant factor IX)」. Semin. Hematol. 35 [2 Suppl.2], 11-17)。
【0012】
本願は、ビタミンK依存性タンパク質が活性であり、市販製品に対して十分な収率であるように適切にプロセシングされている第IX因子等のビタミンK依存性タンパク質を産生する方法の必要性に取り組む。血友病B等の出血性障害の治療に対する世界規模の医学的必要性を満たす、ビタミンK依存性血液凝固タンパク質のアベイラビリティを増大させるために、遺伝子操作した細胞からの完全に機能的なタンパク質、この例では第IX因子の産生の改善が要求される。具体的に、本質的に完全な翻訳後修飾を得るのに必要な酵素活性の欠如の同定及び追加が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施の形態は、組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を製造する方法であって、哺乳動物細胞を、プロモータと作用可能に連結するビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子と、少なくとも1つのプロモータと作用可能に連結するプロセシング因子をコードする少なくとも1つの遺伝子とで、同時に又は連続してトランスフェクトすること、及びビタミンK依存性タンパク質産物を回収することを含む、組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を製造する方法に関する。好ましくは、この細胞が、少なくとも約15mg/Lの量の生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を産生する。
【0014】
好ましい実施の形態において、ビタミンK依存性タンパク質産物は、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC又はプロテインSである。より好ましくは、ビタミンK依存性タンパク質は第IX因子又は第VII因子である。
【0015】
好ましい実施の形態において、プロセシング因子は、1つ又は複数のプロモータと作用可能に連結する、対になった塩基性アミノ酸変換酵素(PACE)、ビタミンK依存性エポキシド還元酵素(VKOR)、ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)、及びそれらの組合せから選択される核酸である。好ましくは、1つ又は複数のプロセシング因子タンパク質は、少なくとも約15mg/Lの組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物の産生を容易にするのに十分な量で産生される。より好ましくは、プロセシング因子タンパク質はVKOR及びVKGCを含む。好ましくは、この遺伝子の少なくとも1つが過剰発現する。より好ましくは、過剰発現した遺伝子は、チャイニーズハムスター伸長因子1−α(CHEF1)プロモータと作用可能に連結する。
【0016】
より好ましい実施の形態において、生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物のglaドメイン内の少なくとも約75%のグルタミン酸残基がγ−カルボキシル化する。
【0017】
幾つかの好ましい実施の形態において、ビタミンK依存性タンパク質産物はビタミンK依存性タンパク質産物のプロペプチドにおいて欠失を有する。
【0018】
幾つかの好ましい実施の形態において、ビタミンK依存性タンパク質産物は、ビタミンK依存性タンパク質産物とは異なるビタミンK依存性タンパク質由来である異種プロペプチド領域を含む。
【0019】
好ましくは、少なくとも10%の組み換えビタミンK依存性タンパク質が生物活性である。より好ましくは、少なくとも20%のビタミンK依存性タンパク質が生物活性である。さらに好ましくは、少なくとも50%のビタミンK依存性タンパク質が生物活性である
。さらに好ましくは、少なくとも80%のビタミンK依存性タンパク質が生物活性である。
【0020】
好ましい実施の形態において、哺乳動物細胞はCHO細胞又はHEK293細胞である。
【0021】
好ましい実施の形態において、生物活性ビタミンK依存性タンパク質は、少なくとも約20mg/Lの量で産生される。より好ましくは、生物活性ビタミンK依存性タンパク質が、少なくとも約30mg/Lの量で産生される。より好ましくは、生物活性ビタミンK依存性タンパク質が、少なくとも約50mg/Lの量で産生される。
【0022】
幾つかの好ましい実施の形態において、トランスフェクションが連続的であり、哺乳動物細胞をトランスフェクトすることが、高レベルのビタミンK依存性タンパク質産物又はプロセシング因子を発現する細胞を選択すること、選択された細胞をクローン化すること、及びクローン化した細胞を増幅することをさらに含む。幾つかの好ましい実施の形態では、プロセシング因子をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程が、ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程の前に行なわれる。代替的に好ましい実施の形態では、ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程が、プロセシング因子をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程の前に行なわれる。
【0023】
好ましい実施の形態において、哺乳動物細胞は、トランスフェクション前に、内因性レベルの1つ又は複数のプロセシング因子の発現に対して選択される。
【0024】
本発明の実施の形態は、プロモータと作用可能に連結するビタミンK依存性タンパク質に対する遺伝子と、少なくとも1つのプロモータと作用可能に連結する少なくとも1つのプロセシング因子に対する遺伝子とを含む組み換え哺乳動物細胞に関する。この細胞において、少なくとも1つのプロセシング因子に対する遺伝子によってコードされたタンパク質の発現が、好ましくは少なくとも約15mg/Lの量の生物活性ビタミンK依存性タンパク質の産生を容易にする。
【0025】
好ましくは、ビタミンK依存性タンパク質は、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC又はプロテインSである。より好ましくは、ビタミンK依存性タンパク質は第IX因子又は第VII因子である。
【0026】
好ましい実施の形態において、プロセシング因子は、上記細胞における発現に対する、1つ又は複数のプロモータと作用可能に連結する、PACE、VKOR、VKGC及びそれらの組合せから選択されるプロセシング遺伝子産物を産生する遺伝子である。より好ましくは、プロセシング因子はVKOR及びVKGCを含む。好ましくは、少なくとも1つのプロセシング遺伝子産物が、同じ系統のトランスフェクトしていない正常な細胞において見られたものよりも高いレベルで発現される。より好ましくは、過剰発現した遺伝子産物が、チャイニーズハムスター伸長因子1−α(CHEF1)プロモータと作用可能に連結する。
【0027】
好ましい実施の形態において、非修飾ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子によってコードされるビタミンK依存性タンパク質を発現する細胞から産生されるビタミンK依存性タンパク質に存在するカルボキシル化グルタミン酸残基の割合と比較して、カルボキシル化されるグルタミン酸残基の割合が増大するように、ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子を修飾する。
【0028】
幾つかの好ましい実施の形態において、修飾は、ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子のプロペプチド領域における欠失を含む。
【0029】
幾つかの好ましい実施の形態において、修飾は、ビタミンK依存性タンパク質のプロペプチド領域の、異種ビタミンK依存性タンパク質由来の異種プロペプチド領域への置換を含む。
【0030】
好ましくは、組み換え哺乳動物細胞は、CHO細胞又はHEK293細胞である。
【0031】
幾つかの好ましい実施の形態において、対応する血漿由来のビタミンK依存性タンパク質に存在する硫酸化レベルを少なくとも25%、及びリン酸化レベルを少なくとも25%含有するように翻訳後修飾されるアミノ酸から成るビタミンK依存性タンパク質を産生することができる天然の修飾酵素を含有する特異的組織培養細胞株の変異体を選択することによって、ビタミンK依存性タンパク質に対する遺伝子のトランスフェクションに用いる細胞を事前に選択する。好ましくは、ビタミンK依存性タンパク質は第IX因子である。
【0032】
好ましい実施の形態において、組み換え第IX因子タンパク質は、本明細書中に記載される方法工程のうち1つ又は複数の工程によって産生される。より好ましくは、記載される方法によって産生される組み換え第IX因子タンパク質は薬学的組成物に含まれる。幾つかの好ましい実施の形態は、本明細書中に記載される方法に従って産生された組み換え第IX因子タンパク質を備えるキットに関する。好ましくは、効果的な量の組み換え第IX因子タンパク質を、それを必要とする患者に投与することによって、血友病を治療する方法で組み換え第IX因子タンパク質を用いる。
【0033】
好ましい実施の形態は、組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を製造する方法であって、
(a)哺乳動物細胞を、プロモータと作用可能に連結するビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程、
(b)高レベルのビタミンK依存性タンパク質産物を発現する細胞を選択する工程、
(c)選択された細胞を、プロモータと作用可能に連結する1つ又は複数のプロセシング因子でトランスフェクトする工程、
(d)工程(b)を繰り返す工程、
(e)任意で、工程(a)及び/又は工程(c)の後に工程(b)を繰り返す工程、
(f)選択された細胞をクローン化する工程、
(g)クローン化した細胞を増幅する工程、並びに
(h)少なくとも15mg/Lの量の組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質でクローン化した細胞から産物を回収する工程、
を含む、組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を製造する方法に関する。
【0034】
本発明のさらなる態様、特徴及び利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになる。
【0035】
次に本発明のこれら及び他の特徴が好ましい実施形態(本発明を例示することを意図し、限定することは意図しない)の図面を参照して説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
記載の実施形態が本発明の好ましい実施形態を表すが、本発明の精神を逸脱することなく、当業者には変更形態が思い浮かぶことが理解される。したがって、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ確定される。
【0037】
本発明の好ましい実施形態は、世界規模の商業化に適切な量で高い割合の生物活性ビタミンK依存性タンパク質を産生する遺伝子操作した細胞を作製する方法に関する。本発明の実施形態は、第IX因子の産生に関して記載されている。しかし、開示された方法は、全てのビタミンK依存性タンパク質に適用可能である。
【0038】
世界規模の商業的使用のために低コストでビタミンK依存性タンパク質生物学的治療薬を製造するために、遺伝子操作した細胞は、(1)大量の所望の一次構造を有するポリペプチド鎖を産生し、(2)完全に機能的な合成バイオ医薬品を製造するのに必要な全ての必須の翻訳後修飾を効率的に行うことができる製造のために作製される必要がある。
【0039】
本明細書中で用いられるような「商業的使用」という用語は、組織培養細胞から産生される場合に、少なくとも10%が生物活性であり、少なくとも約30mg/Lのレベルで産生することができる第IX因子又は他のビタミンK依存性タンパク質を意味する。
【0040】
本明細書中で用いられるような「生物活性」は、ヒト血漿、例えばMONONINE(登録商標)(ZLB Behring)由来の第IX因子標準を参照して求められる。第IX因子標準の生物活性を100%にとる。好ましくは、本発明の実施形態による第IX因子は、第IX因子標準の活性の少なくとも20%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも25%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも30%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも35%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも40%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも45%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも50%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも55%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも60%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも65%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも70%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも75%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも80%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも85%、より好ましくは第IX因子標準の活性の少なくとも90%を有する。
【0041】
本発明によるビタミンK依存性タンパク質は、生物活性ビタミンK依存性タンパク質の少なくとも約20mg/L、好ましくは少なくとも約30mg/L、より好ましくは少なくとも約40mg/L、より好ましくは少なくとも約50mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約60mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約70mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約80mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約90mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約100mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約110mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約120mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約130mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約140mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約150mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約160mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約170mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約180mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約190mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約200mg/L、さらにより好ましくは少なくとも約210mg/Lのレベルで産生することができる。
【0042】
「プロセシング因子」という用語は、機能的なビタミンK依存性タンパク質の形成を促進する任意のタンパク質、ペプチド、非ペプチド補因子、基質又は核酸を含む広い用語である。このようなプロセシング因子の例としては、PACE、VKOR及びVKGCが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
「限界希釈クローン化」は通常の従来的な意味を有し、ポリクローナル集団の細胞から始まってモノクローナル細胞集団を得るプロセスを表す。モノクローナル培養物が得られ
るまで、開始(ポリクローナル)培養物を段階希釈する。
【0044】
Genetics Instituteによって、大量のビタミンK依存性タンパク質の産生が遺伝子操作したCHO細胞で可能であるが(米国特許第4,770,999号)、完全に機能的なタンパク質の割合は非常に低いことが示されている。本発明の目的は、完全に機能的なタンパク質の割合が世界規模での商業的使用のために、低コストでバイオ医薬品を製造するのに適切である、大量のビタミンK依存性タンパク質を産生する遺伝子操作したCHO細胞である。
【0045】
Stafford(米国特許第5,268,275号)は、高い割合のγ−カルボキシル化ビタミンK依存性タンパク質の産生が、ビタミンK依存性タンパク質のカルボキシル化を高める酵素を同時に発現するように作製される遺伝子操作したHEK293細胞において可能であるが、産生されるγ−カルボキシル化タンパク質の全量が非常に低いことを示している。本発明の目的は、完全に機能的なタンパク質の割合が、世界規模の商業的使用のために低コストでバイオ医薬品を製造するのに適切である、遺伝子操作したHEK293細胞、CHO細胞又は大量のビタミンK依存性タンパク質を産生する他の細胞である。
【0046】
大量の組み換えタンパク質を発現する遺伝子操作した細胞を作製する多くのトランスフェクション法が既知である。例えば、モノクローナル抗体は、1000mg/Lを超えるレベルでタンパク質を発現する遺伝子操作した細胞から日常的に製造される。本発明は、遺伝子操作した細胞を作製するのに用いられ得る任意の具体的なトランスフェクション法に依存しない。
【0047】
多くの発現ベクターを用いて、遺伝子操作した細胞を作製することができる。選択され強く発現された細胞を好む様々な条件下で、トランスフェクトした細胞の増幅後に、大量の組み換えタンパク質を発現するように、幾つかの発現ベクターを設計する。選択圧下で増幅の必要なく、大量の組み換えタンパク質を発現するように、幾つかの発現ベクターを設計する。本発明は、任意の具体的な発現ベクターの使用に依存しない。
【0048】
遺伝子操作した細胞を作製し、大量の所定のビタミンK依存性タンパク質を産生するために、タンパク質をコードするcDNAを含有する発現ベクターで細胞をトランスフェクトする。本発明は、最適培養条件下で最低でも20mg/Lの標的ビタミンK依存性タンパク質を産生することができる、トランスフェクトした細胞が作製されることを要求する。より高レベルの標的ビタミンK依存性タンパク質の産生が達成される可能性があり、本発明において有用であり得る。しかし、標的ビタミンK依存性タンパク質の最適な産生レベルは、標的タンパク質が、所定の細胞系で起こる標的タンパク質の適切な翻訳後修飾を引き起こす選択された同時トランスフェクト酵素によって発現される場合、有意に増大した機能的形態で得ることができる20mg/L以上のレベルである。
【0049】
完全に機能的な合成バイオ医薬品を製造するのに必要である全ての必須の翻訳後修飾を効率的に行うことができる遺伝子操作した細胞を作製するために、選択された酵素は、ビタミンK依存性タンパク質と同時にトランスフェクトされる。Genetics Instituteによって、大量のビタミンK依存性タンパク質(第IX因子)を産生する遺伝子操作したCHO細胞が、分泌前にはプロペプチド領域を取り除くように適切にプロセシングされていないことが示されている。この場合、Genetics Instituteによって、プロペプチド領域をビタミンK依存性タンパク質から取り除くことが知られている酵素(PACE)の同時発現が内因性細胞レベルの酵素の欠損を実質的に排除することが見出されている。しかし、Genetics Instituteは、内因性レベルの他の酵素の欠損によって、glaドメインの翻訳後のγ−カルボキシル化の割合が低いために、大部分のビタミンK依存性タンパク質が非機能的な遺伝子操作したCHO細胞によって産生されることも示している(Bond, M., Jankow
ski, M., Patel, H., Karnik, S., Strand, A., Xu, B.,他(1998)著「組み換え第IX因子の生化学的特徴(Biochemical characterization of recombinant factor IX)」 Semin. Hematol. 35 [2 Suppl.2], 11- 17)。
【0050】
本発明の方法は、大量のビタミンK依存性タンパク質、例えば第IX因子を産生するように遺伝子操作することができる細胞の一次選択に関する。
【0051】
細胞は、様々な供給源から選択することができるが、もしそうでなければビタミンK依存性タンパク質の核酸、好ましくはcDNAを含有する発現ベクターでトランスフェクトすることができる細胞である。
【0052】
トランスフェクトした細胞のプールから、市販製品の製造に最低限許容可能である最も高いレベルから最も低いレベルまで広がる範囲(標的範囲)で、大量のビタミンK依存性タンパク質を産生するクローンを選択する。標的範囲内で大量のビタミンK依存性タンパク質を産生する細胞クローンを混合し、クローンを、標的範囲内の高、中、又は低レベルのビタミンK依存性タンパク質を産生するクローンの集団に分ける単一プール又は複数のサブプールを得てもよい。
【0053】
標的範囲内のビタミンK依存性タンパク質を産生するトランスフェクトした細胞を分析し、完全に機能的なタンパク質が産生される範囲を求めることができることは、本発明の範囲内であると考えられる。このような分析によって、完全に機能的なタンパク質の産生を制限する特異的な酵素の欠損に対する見識が与えられる。さらに、標的範囲内の高、中、又は低レベルのビタミンK依存性タンパク質を産生する細胞クローンから成るサブプールの分析は、様々なレベルのビタミンK依存性タンパク質の産生で完全に機能的なタンパク質の産生を限定する特異的な酵素の欠損に対する見識を与えることが予想される。細胞クローン単一プールで又はサブプールで行われるかにかかわらず、このような分析によって、完全に機能的なタンパク質を産生するために排除する必要がある特異的な酵素の欠損が示され得る。
【0054】
標的範囲内の完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質の産生を制限するトランスフェクトしたクローンのプール内における酵素の欠損を排除するために、本発明の実施形態は、細胞クローンによって発現される場合に全体で又は部分的に酵素の欠損を軽減させる核酸、好ましくはタンパク質に対するcDNAを含有する発現ベクターによる細胞プールのトランスフェクションを提供する。好ましい実施形態では、2つ以上の酵素の欠損が軽減され得るか、又はビタミンK依存性タンパク質の翻訳後修飾における欠損の軽減には、所定のタンパク質に対するcDNAを含有するさらなる発現ベクターによる細胞クローンの同時又は後(連続)トランスフェクションによって本発明の方法で与えられ得る2つ以上の酵素又はタンパク質又は他のプロセシング因子の活性の存在を必要とすることがさらに考慮される。
【0055】
幾つかの実施形態において、宿主細胞は1つ又は複数のプロセシング因子をコードする遺伝子で最初にトランスフェクトし、その後ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトし得る。幾つかの実施形態では、宿主細胞はビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子で最初にトランスフェクトし、その後1つ又は複数のプロセシング因子でトランスフェクトされる。任意で、宿主細胞はプロセシング因子に対する遺伝子で、又は初期導入遺伝子と同じ、若しくは実質的に同じであるビタミンK依存性タンパク質に対する遺伝子でトランスフェクトし得る。それぞれのトランスフェクション後に、最適レベルの導入遺伝子を発現するクローンが選択される。
【0056】
幾つかの好ましい実施形態において、このようなタンパク質の1つがビタミンKエポキ
シド還元酵素(VKOR)の酵素活性を有する。幾つかの好ましい実施形態では、このような酵素の別の1つがビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)の酵素活性を有する。幾つかの好ましい実施形態では、このような酵素の別の1つが対になったアミノ酸切断酵素、すなわちPACE又はフリンの酵素活性を有する。
【0057】
本発明の目的は、標的範囲内の量でビタミンK依存性タンパク質を産生する細胞クローンから高い割合の完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質を得るためのタンパク質トランスフェクションの最低必要条件を同定する方法を提供することである。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、その後標的範囲内のビタミンK依存性タンパク質を産生する細胞クローンのプールをトランスフェクトし、様々な組合せで特異的なタンパク質又は複数のタンパク質を提供する。それから、トランスフェクトした細胞クローンのプールを分析し、様々なタンパク質を同時に発現するトランスフェクタントプールによってこれより産生される完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質の相対的な割合を求める。最小数の同時発現したタンパク質で、最も高い割合の完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質を産生するトランスフェクタントプールが、その後のクローン化に対して選択される。
【0059】
本発明の好ましい実施形態において、選択されたトランスフェクタントプールをクローン化して、さらなるタンパク質の同時発現によって達成される完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質の産生の最適レベルを求める。より高い割合の完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質は、標的範囲内で全量がより少ないビタミンK依存性タンパク質を産生する細胞クローンによって産生されることが考慮される。幾つかの実施形態では、幾つかの細胞クローンは、翻訳後プロセシングでの有意な改善なしで、ビタミンK依存性タンパク質を過剰に産生するもの(superproducer)であり得る。それにもかかわらず、全体的な産生レベルが高いので、このような過剰に産生するものの系統は有効量の機能的なタンパク質を産生する。好ましい実施形態では、産生の最適レベルは機能的なビタミンK依存性タンパク質の最大レベルである。
【0060】
本発明の実施は、他に示されない限り、当該技術分野の範囲内である、分子生物学、微生物学、組み換えDNA及び免疫学の従来の技法を利用する。このような技法は文献で完全に説明される。例えば、Sambrook他著、「分子クローニング:研究室用マニュアル(Molecular Cloning; A Laboratory Manual)」第2版(1989)、「DNAクローニング(DNA Cloning)」, Vols. I and II(D. N Glover編(1985))、「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」(M. J. Gait編(1984))、「核酸ハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」(B. D. Hames & S. J. Higgins編(1984))、「転写及び翻訳(Transcription and Translation)」(B. D. Hames & S. J. Higgins編(1984))、「動物細胞培養(Animal Cell Culture)」(R. I. Freshney編(1986))、「固定化細胞及び酵素(Immobilized Cells and Enzymes)」(IRL Press, 1986)、B. Perbal著、「分子クローニングの実践ガイド(A Practical Guide to Molecular Cloning)」(1984)、酵素学の方法(Methods in Enzymology)のシリーズ(Academic Press, Inc.)、特にVols. 154 and 155(それぞれWu及びGrossman並びにWu編)、「哺乳動物細胞に対する遺伝子導入ベクター(Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells)」(J. H. Miller and M. P. Calos編 1987, Cold Spring Harbor Laboratory)、「細胞及び分子生物学の免疫化学的方法(Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology)」、Mayer and Walker編(Academic Press, London, 1987)、Scopes著、「タンパク質精製:原理と実践(Protein Purification: Principles and Practice)」第2版(1987)(Springer-Verlag, N. Y.)、及び「実験免疫学便覧(Handbook of Experimental Immunology)」Vols I-IV(D. M. Weir and C. C. Blackwell編(1986))を参照されたい。背景技術及び本明細書に引用される(cited in the background and specification)全
ての特許、特許出願、及び刊行物は、参照によって本明細書に援用される。
【0061】
プロペプチドの修飾
幾つかの実施形態において、γ−カルボキシル化は、米国特許出願第2003/0220247号(参照により本明細書中に援用される)に記載されるように、天然のプロペプチド配列をγ−カルボキシラーゼに対して低親和性であるプロペプチド配列で置き換えることによって増大される。有用なプロペプチド配列としては、異種ビタミンK依存性タンパク質に対する代替形態の野生型配列若しくはプロペプチド配列、又はその組合せが挙げられる。ビタミンK依存性タンパク質のプロペプチド配列はタンパク質のγ−カルボキシル化を導く酵素に対する認識因子である。ビタミンK依存性タンパク質が高い割合のγ−カルボキシル化部分を含まない場合、ビタミンK依存性タンパク質は完全に機能的ではない。したがって、これらのタンパク質の組み換え型が生じる際にその完全なγ−カルボキシル化を確実にするように機構が整備されることが重要である。
【0062】
幾つかのプロペプチド配列の配列アライメントは米国特許出願第2003/0220247号の図3に示されている。したがって、本発明に有用であるプロペプチドは図3で示される配列を有するものであり、幾つかの有用なプロペプチドの18アミノ酸配列が、γ−カルボキシラーゼに対するこれらのプロペプチドの相対親和性と共に示される。低親和性のプロペプチドは、プロトロンビン又はプロテインCの9位のアミノ酸又は13位のアミノ酸のいずれか1つを修飾することによって生成することができる。好ましい修飾としては、9位のArg残基又はHis残基の置換、及び13位のPro残基又はSer残基の置換が挙げられる。他の好ましいキメラタンパク質としては、修飾された第IX因子、第X因子、第VII因子、プロテインS、プロテインC及びプロトロンビン、又は選択されたプロペプチド配列由来ではない成熟したビタミンK依存性タンパク質と組合せた非修飾プロペプチドから成る群より選択されるプロペプチドが挙げられる。
【0063】
「完全なγ−カルボキシル化タンパク質」という用語は、γ−カルボキシル化される必要があるアミノ酸の少なくとも約80%がカルボキシル化されるタンパク質を表すのに本明細書中で用いられる。好ましくは、γ−カルボキシル化される必要があるアミノ酸の少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、及びさらに好ましくは少なくとも約99%がγ−カルボキシル化される。
【0064】
対になった塩基性アミノ酸変換酵素(PACE)
本明細書中で用いられるように、「PACE」という用語は対になった塩基性アミノ酸変換(又は切断)酵素の頭文字である。元々はヒト肝細胞株から単離されたPACEはサブチリシン様エンドペプチダーゼ、すなわちポリペプチドの塩基性残基、例えば−Lys−Arg−、−Arg−Arg、又は−Lys−Lys−での切断に対して特異性を示すプロペプチド切断酵素である。PACEはカルシウムイオンによって刺激され、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)によって阻害される。PACE(又はフリン)をコードするDNA配列が、米国特許第5,460,950号(参照により本明細書中に援用される)の図1(配列番号1)で表される。PACEと、成熟タンパク質の産生にプロセシングが必要な前駆タンパク質との同時発現によって、成熟タンパク質が高レベルで発現される。さらに、PACEと、生物活性にγ−カルボキシル化が必要なタンパク質との同時発現によって、真核生物、好ましくは哺乳動物の細胞において高収率の機能的な生物活性成熟タンパク質が発現される。
【0065】
ビタミンK依存性エポキシド還元酵素
ビタミンKが補因子である反応中に、ビタミンKがビタミンKエポキシドに変換されるので、ビタミンK依存性エポキシド還元酵素(VKOR)はビタミンK依存性タンパク質に重要である。ヒトの食事におけるビタミンKの量は制限される。したがって、ビタミン
Kエポキシドは、枯渇を防ぐためにVKORによってビタミンKに戻し変換させる必要がある。結果として、VKORによる同時トランスフェクションによって、ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKCG)等のビタミンK依存性酵素を適切に機能させるのに十分なビタミンKが与えられる。ビタミンK依存性VKCGの適切な機能は、ビタミンK依存性凝固因子のglaドメインの適切なγ−カルボキシル化に不可欠である。
【0066】
ビタミンK依存性γ−カルボキシラーゼ
ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)は、ビタミンK依存性タンパク質の翻訳後修飾に関与するER酵素である。VKGCによって、CO2がグルタミン酸に取り込まれ、プロペプチドの約40残基内のビタミン依存性タンパク質内の複数の残基を修飾する。3つのカルボキシル化の喪失によって、ビタミンK依存性凝固因子等のビタミンK依存性タンパク質の活性が顕著に低減される。ヒトのビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼに対するcDNA配列は、米国特許第5,268,275号(参照により本明細書中に援用される)に記載される。この配列は、米国特許第5,268,275号の配列番号15で与えられる。
【0067】
遺伝子操作技法
遺伝子操作によるクローン遺伝子、組み換えDNA、ベクター、形質転換宿主細胞、タンパク質、及びタンパク質断片の産生は既知である。たとえば、Bell他への米国特許第4,761,371号の第6欄3行目〜第9欄65行目、Clark他への米国特許第4,877,729号の第4欄38行目〜第7欄6行目、Schillingへの米国特許第4,912,038号の第3欄26行目〜第14欄12行目、及びWallnerへの米国特許第4,879,224号の第6欄8行目〜第8欄59行目を参照されたい。
【0068】
ベクターは複製可能なDNA構築物である。本明細書中では、ビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAを増幅するのに、及び/又はビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAを発現するのにベクターを用いる。発現ベクターは、ビタミンK依存性タンパク質をコードするDNA配列が、好適な宿主においてビタミンK依存性タンパク質の発現をもたらすことができる好適な制御配列と操作可能に連結する、複製可能なDNA構築物である。このような制御配列に対する必要性は選択された宿主及び選ばれた形質転換法によって変わる。一般的に、制御配列には、転写プロモータ、制御転写に対する任意のオペレータ配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び翻訳の終結を制御する配列が含まれる。
【0069】
増幅ベクターは発現制御ドメインを必要としない。通常、複製起点によって与えられる宿主における複製能、及び形質転換体の認識を容易にさせる選択遺伝子があれば十分である。
【0070】
ベクターは、プラスミド、ウイルス(例えば、アデノウイルス、サイトメガロウイルス)、ファージ、及び統合可能なDNA断片(すなわち、組み換えによって宿主ゲノムに統合可能な断片)を含む。ベクターは、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能するか、又は場合によってはゲノム自身に統合されることもある。発現ベクターは、プロモータ及び発現される遺伝子と操作可能に連結され、宿主生物において操作可能なRNA結合部位を含有する必要がある。
【0071】
DNA領域は互いに機能的に関連する場合、操作可能に連結するか、又は操作可能に結び付く。例えば、プロモータが配列の転写を制御する場合、コード配列と操作可能に連結し、又はリボソーム結合部位が翻訳させるように位置付られている場合、コード配列と操作可能に連結している。
【0072】
形質転換した宿主細胞は、組み換えDNA技法を用いて構築した1つ又は複数のビタミンK依存性タンパク質ベクターによって形質転換又はトランスフェクトしている細胞である。
【0073】
複数のタンパク質の発現
本発明の実施形態は、より高収率の生物活性ビタミンK依存性タンパク質が達成されるように、ビタミンK依存性タンパク質をプロセシングするのに必要な酵素及び補因子を細胞に与えることに関する。適切なレベルの完全に機能的なビタミンK依存性タンパク質が組み換え細胞によって産生される場合、所望の産物から不要の部分修飾、又は非修飾のビタミンK依存性タンパク質を取り除くように設計された長期にわたる精製工程が避けられる。このことによって製造コストが抑えられ、患者にとって望ましくない副作用を有し得る不活性材料が排除される。
【0074】
好ましい実施形態において、PACE、VKGC及び/又はVKORによる同時発現によってビタミンK依存性タンパク質を産生する方法としては、以下の技法が挙げられ得る。最初に、PACE及びビタミンK依存性タンパク質等の2つ以上のタンパク質に対するコード配列を含有する単一ベクターを選択された宿主細胞に挿入することができる。代替的に、ビタミンK依存性タンパク質と1つ又は複数の他のタンパク質とをコードする2つ以上の個々のベクターを宿主に挿入することができる。選択された宿主細胞に好適な条件下での培養の際に、2つ以上のポリペプチドが産生され相互作用して、前駆タンパク質の成熟タンパク質への切断及び修飾が提供される。
【0075】
別の代替方法は2つの形質転換した宿主細胞の使用であり、この内の1つの宿主細胞はビタミンK依存性タンパク質を発現し、もう1つの宿主細胞は、培地に分泌される1つ又は複数のPACE、VKGC及び/又はVKORを発現する。これらの宿主細胞は、組み換えビタミンK依存性タンパク質及び同時に発現した組み換えポリペプチドの発現、及び分泌又は放出、例えば細胞外PACEによる成熟形態への切断、及びN末端のグルタミン酸のγ−カルボキシル化を可能にする条件下で同時に培養することができる。この方法では、PACEポリペプチドが培地に分泌されるように膜貫通ドメインを欠失していることが好ましい。
【0076】
場合によっては、複数のコピー、他の遺伝子に関してビタミンK依存性タンパク質を発現する2つ以上の遺伝子を有することが望ましい場合もあり、又はその逆も同様である(vice versa)。このことは様々な形で達成することができる。例えば、ポリヌクレオチドをコードするビタミンK依存性タンパク質を含有するベクターが、他のポリヌクレオチド配列を含有するベクターよりも高いコピー数を有する場合、個々のベクター又はプラスミドを用いてもよく、又はその逆も同様である。この状況では、宿主におけるプラスミドの連続維持を確実にするように、2つのプラスミドに対して異なる選択可能なマーカーを有することが望ましい。代替的に、1つ又は両方の遺伝子を宿主ゲノムに統合することができ、この遺伝子の1つを増幅遺伝子(例えば、dhfr又はメタロチオネイン遺伝子の1つ)と結び付けることができる。
【0077】
代替的には、様々な転写開始速度を有する2つの転写調節領域を利用することができ、ビタミンK依存性タンパク質の発現の増大、又はビタミンK依存性タンパク質に対する任意の他のプロセシング因子ポリペプチドの発現のいずれかが提供される。別の代替方法として、1つのプロモータは構成的発現が低レベルなビタミンK依存性タンパク質を提供するが、第2のプロモータは他の産物の高レベルの誘導発現を提供する。多種多様のプロモータ、例えば既知の哺乳動物プロモータであるCMV、MMTV、SV40又はSRαプロモータが選択された宿主細胞に対して知られており、当業者によって本発明で容易に選
択及び利用することができる。
【0078】
好ましい実施形態において、チャイニーズハムスター由来の伸長因子−1α(CHEF1)に対するプロモータを用いて、高レベル発現のビタミンK依存性凝固因子及び/又はプロセシング因子を提供する。CHEF1ベクターは、Deer他(2004)著「チャイニーズハムスターEF−1α遺伝子由来の転写調節配列を用いた哺乳動物細胞におけるタンパク質の高レベルの発現(High-level expression of proteins in mammalian cells using transcription regulatory sequences from the Chinese Hamster EF-1α gene)」(Biotechnol. Prog. 20: 880-889)及び米国特許第5,888,809号(参照により本明細書中に援用される)に記載されるように用いられる。CHEF1ベクターはチャイニーズハムスターEF−1α由来の5’及び3’のフランキング配列を利用する。CHEF1プロモータ配列には、EF−1αタンパク質のSpeI制限部位から開始メチオニン(ATG)コドンに広がる約3.7kbのDNAが含まれる。DNA配列は米国特許第5,888,809号の配列番号1に記載される。
【0079】
第IX因子等の生物活性ビタミンK依存性タンパク質の産生は、1つ又は複数のPACE、VKOR、及び/若しくはVKGCの過剰発現によって、並びに/又はγ−カルボキシル化を最大にするgla領域の修飾によって最大になる。すなわち、律速成分は、商業的に実現可能な量のビタミンK依存性タンパク質を産生するようにシステム全体が働くのに十分な量で発現される。
【0080】
宿主細胞
好適な宿主細胞としては、原核生物、酵母又はより高等な真核生物の細胞、例えば哺乳動物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多細胞生物由来の細胞は、組み換えビタミンK依存性タンパク質の合成に特に好適な宿主であり、哺乳動物細胞が特に好ましい。細胞培養下でのこのような細胞の増殖は決められた手順になっている(Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Patterson, editors (1973))。有用な宿主細胞株の例はVERO細胞及びHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、並びにWI138、HEK293、BHK、COS−7、CV、及びMDCK細胞株である。このような細胞に対する発現ベクターには通常、(必要であれば)複製起点、リボソーム結合部位と共に、発現するビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAの上流に位置し、操作可能に結び付くプロモータ、RNAスプライシング部位(イントロン含有ゲノムDNAを用いる場合)、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列が含まれる。好ましい実施形態では、米国特許第5,888,809号(参照により本明細書中に援用される)の発現系を用いて、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で発現が行われる。
【0081】
形質転換する脊椎動物細胞で用いられる発現ベクターにおける転写制御配列及び翻訳制御配列は、ウイルス源によって与えられることが多い。例えば、一般的に用いられるプロモータは、ポリオーマ、アデノウイルス2、及びシミアンウイルス40(SV40)に由来する。例えば、米国特許第4,599,308号を参照されたい。
【0082】
複製起点は、SV40又は他のウイルス(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV、又はBPV)源に由来し得る、又は宿主細胞の染色体複製機構によって与えられ得るように、外因性の起点を含むベクターの構成によって与えられ得る。ベクターが宿主細胞の染色体に統合される場合、後者は十分条件であることが多い。
【0083】
ウイルス複製起点を含有するベクターを用いることよりむしろ、選択可能なマーカー及びビタミンK依存性タンパク質に対するDNAによる同時トランスフェクトの方法によって哺乳動物細胞を形質転換することができる。好適な選択可能なマーカーの例は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)又はチミジンキナーゼである。この方法は、米国特許第4,
399,216号(参照により援用される)にさらに記載される。
【0084】
組み換え脊椎動物細胞の培養下でのビタミンK依存性タンパク質の合成に適用させるのに好適な他の方法としては、M-J. Gething他, Nature 293, 620 (1981)、N. Mantei他,
Nature 281, 40、A. Levinson他, 欧州特許出願第117,060A号及び同第117,058A号に記載されるものが挙げられる。
【0085】
昆虫細胞(例えば、培養スポドブテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞)等の宿主細胞、及びバキュロウイルス発現ベクター(例えばオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)MNPV、キンウワバ(Trichoplusia ni)MNPV、ラキプルシア・オウ(Rachiplusia ou)MNPV、ガレリア・オウ(Galleria ou)MNPV)等の発現ベクターは、Smith他への米国特許第4,745,051号及び同第4,879,236号に記載されるように、本発明を行うのに利用され得る。概して、バキュロウイルス発現ベクターは、バキュロウイルスポリヘドリンプロモータの転写制御下で、ポリへドリン転写開始シグナルからATG開始部位に及ぶ位置でポリへドリン遺伝子に挿入される発現遺伝子を含有するバキュロウイルスゲノムを含む。
【0086】
原核生物宿主細胞としては、グラム陰性生物又はグラム陽性生物、例えば大腸菌(Escherichia coli)(E.コリ)又はバチルスが挙げられる。より高等な真核生物細胞としては、以下で記載されるような哺乳動物由来の樹立細胞株が挙げられる。例示的な宿主細胞は、E.コリW3110(ATCC 27,325)、E.コリB、E.コリX1776(ATCC 31,537)、E.コリ294(ATCC 31,446)である。広範の好適な原核生物及び微生物のベクターが利用可能である。E.コリは典型的にpBR322を用いて形質転換される。組み換え微生物発現ベクターで最も一般的に用いられるプロモータとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)及びラクトースプロモータ系(Chang 他, Nature 275, 615 (1978)、及びGoeddel他, Nature 281, 544 (1979))、トリプトファン(trp)プロモータ系(Goeddel他, Nucleic Acids Res. 8, 4057 (1980)及び欧州特許出願公開第36,776号)並びにtacプロモータ(H. De Boer他, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 21 (1983))が挙げられる。プロモータ及びシャイン−ダルガーノ配列(原核生物の宿主発現に対する)は、ビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAと操作可能に連結し、すなわちこれらはビタミンK依存性タンパク質のDNAからのメッセンジャーRNAの転写を促進するように位置付けされる。
【0087】
酵母培養物等の真核微生物は、ビタミンK依存性タンパク質コード化ベクターで形質転換してもよい。例えば、米国特許第4,745,057号を参照されたい。他の多くの株が一般的に利用可能であるが、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、より下等な真核生物の宿主微生物の中で最も一般的に用いられる。酵母ベクターは、2ミクロンの酵母プラスミド又は自己複製配列(ARS)由来の複製起点、プロモータ、1つ又は複数のビタミンK依存性タンパク質をコードするDNA、ポリアデニル化及び転写終結に対する配列、並びに選択遺伝子を含有し得る。例示的なプラスミドはYRp7である(Stinchcomb他, Nature 282, 39 (1979)、Kingsman他, Gene 7, 141 (1979)、Tschemper他, Gene 10, 157 (1980))。酵母ベクターにおける好適な促進配列としては、メタロチオネインに対するプロモータ、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ(Hitzeman他, J. Biol. Chem. 255, 2073 (1980))又は他の糖分解酵素(Hess他, J. Adv. Enzyme Reg. 7, 149 (1968)、及びHolland他, Biochemistry 17, 4900 (1978))が挙げられる。酵母の発現における使用に好適なベクター及びプロモータは、R. Hitzeman他の欧州特許出願公開第73,657号にさらに記載される。
【0088】
本発明のクローン化遺伝子は、任意の起源種、例えばマウス、ラット、ウサギ、ネコ、ブタ、及びヒトをコードし得るが、好ましくはヒト由来のビタミンK依存性タンパク質を
コードし得る。本明細書中に開示されるタンパク質をコードするDNAでハイブリダイズ可能なビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAも包含される。このような配列のハイブリダイゼーションは、低減したストリンジェント条件、又はストリンジェントな条件(例えば標準的なin situハイブリダイゼーションアッセイにおける本明細書中で開示されるビタミンK依存性タンパク質をコードするDNAに対する60℃又はさらに70℃での0.3MのNaCl、0.03Mのクエン酸ナトリウム、0.1%のSDSの洗浄ストリンジェンシー(wash stringency)で表される条件)下であっても行うことができる。J. Sambrook他著「分子クローン化、研究所マニュアル)(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)(第2版)(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory))。
【0089】
上記のように、本発明の好ましい実施形態は、N末端のglu残基のカルボキシル化を含む方法によって、機能的なビタミンK依存性タンパク質を与える方法を提供する。戦略には、単一の宿主細胞において、VKOR、VKGC及び/又はPACEと共にビタミンK依存性タンパク質を同時発現することが含まれ得る。概して、この方法は、ビタミンK依存性タンパク質及び支持タンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、及びそれからタンパク質を培養物から回収することを含む。幾つかの宿主細胞は、基礎レベルで幾つかのビタミンK依存性タンパク質、VKOR、VKGC及び/又はPACEを与えることができるが、好ましい実施形態では、カルボキシル化を高める、PACE、VKGC及び/又はVKORをコードするベクターDNAが含まれる。培養は、培養培地を用いて、選択された特定の宿主細胞によるビタミンK依存性タンパク質の発現に適切な条件下で任意の好適な発酵容器中で行うことができる。培養物から回収したビタミンK依存性タンパク質は、宿主細胞における支持タンパク質の発現によってカルボキシル化されることが見出される。好ましい実施形態では、ビタミンK依存性タンパク質は、培養培地、又は溶解された宿主細胞及び宿主細胞から回収されたビタミンK依存性タンパク質から直接回収することができる。好ましい実施形態では、それから、ビタミンK依存性タンパク質を既知の技法に従ってさらに精製することができる。
【0090】
一般命題として、本発明に従って産生した組み換えタンパク質の純度は好ましくは、タンパク質の最適な活性及び安定性を導く当業者に既知の適切な純度である。例えば、組み換えタンパク質が第IX因子である場合、第IX因子は非常に高い純度であることが好ましい。好ましくは、組み換えタンパク質は複数のクロマトグラフ精製工程、例えばアフィニティクロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、並びに好ましくは製造、保存及び/又は使用中の組み換えタンパク質の断片化、活性化及び/又は分解を引き起こす物質を取り除くイムノアフィニティクロマトグラフィにかけられる。好ましくは精製によって取り除かれるこのような物質の例示的な例としては、トロンビン及び第IXa因子、他のタンパク質汚染物質、例えばPACE/フリン、VKOR及びVKGC等の修飾酵素、タンパク質、例えば組み換えタンパク質産生中に産生細胞から組織培養培地に放出されるハムスタータンパク質、非タンパク質汚染物質、例えば脂質、タンパク質汚染物質と非タンパク質汚染物質との混合物、例えばリポタンパク質が挙げられる。ビタミンK依存性タンパク質の精製手順は当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第5,714,583号(参照により本明細書中に援用される)を参照されたい。
【0091】
第IX因子のDNAコード配列は、それらの発現に関してベクター及び宿主細胞と共に、欧州特許出願第373012号、欧州特許出願第251874号、PCT特許出願第8505376号、PCT特許出願第8505125号、欧州特許出願第162782号、及びPCT特許出願第8400560号に開示される。他の凝固因子に対する遺伝子も知られており、例えば第II因子(アクセッション番号NM_000506)、第VII因子(アクセッション番号NM_019616)、及び第X因子(アクセッション番号NM_000504)が利用可能である。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
第IX因子の遺伝子によるCHO細胞の一次トランスフェクション
96ウェルプレートへの限界希釈によって、野生型の第IX因子の遺伝子をCHO細胞にトランスフェクトした。第IX因子の遺伝子はCHEF−1プロモータの制御下であった。細胞を14日間、5%の血清中で培養させた。細胞培養培地を回収し、第IX因子抗原の全量(μg/mL)を第IX因子のELISA法によって定量した。150個を超えるクローンを評価し、1つのクローン当たりに産生された第IX因子の全量を図1に示す。
【0093】
第IX因子の遺伝子でトランスフェクトしたCHO細胞は、第IX因子のELISAによって検出される第IX因子抗原を産生した。この量はクローン間で有意に変化した。培養下での14日後の全タンパク質産生の範囲は、0〜1.6μg/mLを超える培養培地であった。本実験では求められなかったが、一次トランスフェクタントで産生した第IX因子は、第IX因子欠損血漿を用いたAPTT凝固アッセイで求められるように、約20%の生物活性であった(データ図示せず)。したがって、第IX因子抗原は、野生型の第IX因子による細胞トランスフェクション後にCHO細胞で産生することができる。
【0094】
(実施例2)
VKGC遺伝子及びVKOR遺伝子による第IX因子産生CHO細胞のスーパートランスフェクション(Supertransfection)
第IX因子をトランスフェクトしたCHO細胞で産生した活性第IX因子の割合を増大させるために、一次トランスフェクタントをプールし、組織培養下に広げて、一般的に第IX因子の効果的なビタミンK依存性γ−カルボキシル化に重要であると考えられる酵素に対するcDNAを含有するベクターでスーパートランスフェクトした。第IX因子産生クローンを振盪フラスコにプールし、ビタミンK依存性γ−カルボキシラーゼ(VKGC)及びビタミンK依存性エポキシド還元酵素(VKOR)の両方に対するcDNAでスーパートランスフェクトした。個別にスーパートランスフェクトした細胞を5%血清の入った96ウェルプレートで限界希釈によって、14日間培養させた。1mL当たりに産生した第IX因子抗原の全量を第IX因子のELISAによって求めた。活性第IX因子の量を、基質として第IX因子欠損血漿、及び標準として血漿由来第IX因子を用いて、APTT凝固アッセイによって求めた。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示されるように、15個のクローンを個別に分析した。第IX因子抗原は、0.12〜2.2μg/mLの間で変化した。活性第IX因子の割合は、15〜72%に及んだ。結果として、VKGC及びVKORによる第IX因子産生細胞のスーパートランスフェクションは特異的なCHO細胞クローンによって産生される活性第IX因子の割合を有意に増大させる。
【0097】
産生が拡大されるのでより多くの抗原が産生されることに留意されたい。例えば、6ウェルプレートに対しては、96ウェルプレートと比較すると、約25倍多い抗原が産生される。結果として、6ウェルプレートでは、第IX因子抗原のレベルが3〜55μg/mlに及ぶことが予測される。
【0098】
(実施例3)
大量の生物活性組み換え第IX因子の大規模産生
VKGC及びVKORによってスーパートランスフェクトした第IX因子産生CHO細胞が大量の生物活性第IX因子を産生することができることを実証するために、2つの独立して単離したクローンをバイオリアクターで培養し、材料を精製した後に第IX因子産物の量及び質を評価した。血清無含有培地の入ったバイオリアクターを用いて、クローン130(12L容のバイオリアクター)及びクローン44(10L容のバイオリアクター)を培養した。これらのクローンの両方がヒトの第IX因子、VKGC及びVKORを発現した。バイオリアクターを培地を変えずに12日間培養させた。組織培養液を細胞から分離し、第IX因子を標準セットのクロマトグラフィカラムによって精製して、90%を超える純度の第IX因子タンパク質を得た。
【0099】
【表2】

【0100】
表2で示されるように、大量の第IX因子抗原が両方のバイオリアクターで産生された。クローン130は培養培地1L当たり44mgの第IX因子を産生し、クローン44は培養培地1L当たり28mgの第IX因子を産生した。上に示されたデータと一致して、活性第IX因子(%)は35〜61%であることが示された。結果として、翻訳後修飾酵素であるVKGC及びVKORでスーパートランスフェクトした場合の第IX因子産生CHO細胞は、相当な量の生物活性第IX因子を含有する第IX因子抗原を大量に産生する。
【0101】
(実施例4)
第IX因子、VKGC及びVKORを産生するクローンのVKORによる再トランスフェクション
トランスフェクトしたCHO細胞で生物活性組み換え第IX因子を産生することができるか否かを求めるために、VKGC及びVKORでスーパートランスフェクトした後に第IX因子を産生した2つのクローン、クローン130及びクローン44をVKORによって再びトランスフェクトさせた。クローン130及びクローン44の個別の単離物を限界希釈によってクローン化し、VKORに対するcDNAで再びトランスフェクトさせた。クローンは6ウェルプレートで培養させ、細胞が密集するまで9日間培養した。第IX因子のELISAによって全第IX因子抗原(μg/mL)を求め、第IX因子欠損血漿を用いたAPTT凝固アッセイによって活性(U/mL)を求めた。
【0102】
【表3】

【0103】
表3の結果によって、クローン130及びクローン44の両方のサブクローンが0.9〜3.0μg/mLに及ぶ相当な量の第IX因子抗原を産生したことが示される。さらに、VKORによる再トランスフェクションの結果として、両方のクローンは、生物活性タンパク質として第IX因子を100%産生した少なくとも1つのサブクローン、及び90%を超える活性第IX因子を有する幾つかのサブクローンをもたらした。これらのデータは、VKGC及びVKORの適切な同時発現が、野生型の第IX因子のcDNAによってトランスフェクトされたCHO細胞において全体的に活性が高い、又はさらに全体的に活性のある第IX因子の産生を容易にすることができることを示唆する。
【0104】
(実施例5)
翻訳後修飾酵素であるVKORで再びトランスフェクトした遺伝子操作細胞における生物活性第IX因子の大規模産生
この実験は、VKGC及びVKORによるトランスフェクション後に組み換え第IX因
子を産生し、VKORで再びトランスフェクトしたCHO細胞が生産規模で大量の第IX因子を産生することができることを実証するように設計された。VKORで再びトランスフェクトしたクローン130の個別の単離物を1.5L容の振盪フラスコで増殖させ(商業生産を表すため)、第IX因子抗原及び生物活性を求めた。上記の実施例4で記載されるクローン130の個別のサブクローン(第IX因子、VKGC及びVKORでトランスフェクトし、その後VKORで再びトランスフェクトしたCHOクローン)を6ウェルマイクロタイタープレートにおける限界希釈によって単離し、それから1.5L容の振盪フラスコに播種した。1.5L容の振盪フラスコ中の第IX因子の産生は、15L容以上のバイオリアクターの産生条件を反映することが知られている(データ図示せず)。細胞を血清無含有培地で18日間増殖させ、その時点のサンプルを採取し、第IX因子抗原に関しては第IX因子のELISAによって、及び生物活性に関しては第IX因子欠損血漿を用いたAPTT凝固アッセイによって評価した。
【0105】
【表4】

【0106】
クローン130自体及び5つのサブクローンに関するデータを表4に示す。大量の第IX因子抗原が全てのクローンで産生され、培養液1L当たり39.3〜52.2mgの第IX因子抗原に及んだ。活性第IX因子の割合も非常に高く、46.4%〜64.3%に及んだ。生物活性第IX因子の産生量も驚くほど高く、19.4〜31.0mg/Lに及んだ。結果として、商業レベルのバイオリアクターでの第IX因子の産生を反映する振盪フラスコシステムにおいて、第IX因子、VKGC及びVKORでトランスフェクトし、その後VKORで再びトランスフェクトした細胞で大量の第IX因子抗原及び活性第IX因子を産生することができる。
【0107】
本発明の精神を逸脱することなく、多くの様々な変更形態が為され得ることが、当業者によって理解される。したがって、本発明の形態は例示目的だけであり、本発明の範囲を限定することを意図しないことを明確に理解する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】野生型の第IX因子の遺伝子のCHO細胞へのトランスフェクション後に1つのクローン当たりに産生される第IX因子の全量を示す図である。第IX因子の遺伝子はCHEF−1プロモータの制御下であった。細胞は、14日間5%の血清中で培養させた。細胞培養培地を回収し、第IX因子抗原の全量(μg/mL)を第IX因子のELISA法によって定量した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞を、プロモータと作用可能に連結されたビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子と、少なくとも1つのプロモータと作用可能に連結されたプロセシング因子をコードする少なくとも1つの遺伝子とで、同時に又は逐次トランスフェクトする工程、及び
前記ビタミンK依存性タンパク質産物を回収する工程を含む、組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を製造する方法であって、前記細胞が、少なくとも約15mg/Lの量の生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を産生することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ビタミンK依存性タンパク質産物が、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC及びプロテインSから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビタミンK依存性タンパク質が第IX因子である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビタミンK依存性タンパク質が第VII因子である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記プロセシング因子が、1つ又は複数のプロモータと作用可能に連結された、対塩基性アミノ酸変換酵素(PACE)、ビタミンK依存性エポキシド還元酵素(VKOR)、ビタミンK依存性γ−グルタミルカルボキシラーゼ(VKGC)、及びそれらの組合せから成る群より選択される核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プロセシング因子タンパク質がVKOR及びVKGCを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子の少なくとも1つが過剰発現する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記過剰発現した遺伝子が、チャイニーズハムスター伸長因子1−α(CHEF1)プロモータと作用可能に連結された、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物のglaドメイン内の少なくとも約75%のグルタミン酸残基がγ−カルボキシル化された、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ビタミンK依存性タンパク質の少なくとも25%が生物的に活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ビタミンK依存性タンパク質の少なくとも50%が生物的に活性である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ビタミンK依存性タンパク質の少なくとも80%が生物的に活性である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞及びHEK293細胞から成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記生物活性ビタミンK依存性タンパク質が、少なくとも約20mg/Lの量で産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生物活性ビタミンK依存性タンパク質が、少なくとも約30mg/Lの量で産生さ
れる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生物活性ビタミンK依存性タンパク質が、少なくとも約50mg/Lの量で産生される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
トランスフェクションが逐次であり、前記哺乳動物細胞をトランスフェクトすることが、
高レベルの前記ビタミンK依存性タンパク質産物又は前記プロセシング因子を発現する細胞を選択すること、
前記選択された細胞をクローン化すること、及び
前記クローン化した細胞を増幅すること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記プロセシング因子をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程が、前記ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程の前に行なわれる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程が、前記プロセシング因子をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程の前に行なわれる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物細胞が、トランスフェクション前に、内因性レベルの1つ又は複数のプロセシング因子の発現に対して選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
プロモータと作用可能に連結されたビタミンK依存性タンパク質の遺伝子と、少なくとも1つのプロモータと作用可能に連結された少なくとも1つのプロセシング因子の遺伝子とを含む組み換え哺乳動物細胞であって、該細胞において、少なくとも1つのプロセシング因子の遺伝子によってコードされた前記タンパク質の発現が、少なくとも約15mg/Lの量の生物活性ビタミンK依存性タンパク質の製造を容易にする、組み換え哺乳動物細胞。
【請求項22】
前記ビタミンK依存性タンパク質が、第II因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、プロテインC及びプロテインSから成る群より選択される、請求項21に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項23】
前記ビタミンK依存性タンパク質が第IX因子又は第VII因子である、請求項22に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項24】
前記プロセシング因子が、前記細胞における発現のための、1つ又は複数のプロモータと作用可能に連結された、PACE、VKOR、VKGC及びそれらの組合せから成る群より選択されるプロセシング遺伝子産物を産生する遺伝子である、請求項21に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項25】
前記プロセシング因子がVKOR及びVKGCを含む、請求項21に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項26】
前記プロセシング遺伝子産物の少なくとも1つが、同じ系統のトランスフェクトしていない正常な細胞において見られるものよりも高いレベルで発現される、請求項24に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項27】
前記過剰発現した遺伝子産物が、チャイニーズハムスター伸長因子1−α(CHEF1)プロモータと作用可能に連結された、請求項26に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項28】
CHO細胞又はHEK293細胞である、請求項21に記載の組み換え哺乳動物細胞。
【請求項29】
請求項1に記載の方法によって産生される組み換え第IX因子タンパク質。
【請求項30】
請求項29に記載の第IX因子タンパク質を含む薬学的組成物。
【請求項31】
請求項29に記載の組み換え第IX因子タンパク質を含むキット。
【請求項32】
血友病を治療する方法における、請求項30に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項33】
請求項21に記載の細胞を選択する方法であって、対応する血漿由来のビタミンK依存性タンパク質に存在する硫酸化レベルの少なくとも25%、及びリン酸化レベルの少なくとも25%含有するように翻訳後修飾されるアミノ酸から成るビタミンK依存性タンパク質を産生することができる天然の修飾酵素を含有する特異的組織培養細胞株の変異体を選択することを含む、請求項21に記載の細胞を選択する方法。
【請求項34】
前記ビタミンK依存性タンパク質が第IX因子である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
(a)哺乳動物細胞を、プロモータと作用可能に連結されたビタミンK依存性タンパク質をコードする遺伝子でトランスフェクトする工程、
(b)高レベルの前記ビタミンK依存性タンパク質産物を発現する細胞を選択する工程、(c)前記選択された細胞を、プロモータと作用可能に連結された1つ又は複数のプロセシング因子でトランスフェクトする工程、
(d)工程(b)を繰り返す工程、
(e)任意で、工程(a)及び/又は工程(c)の後に工程(b)を繰り返す工程、
(f)前記選択された細胞をクローン化する工程、
(g)前記クローン化した細胞を増幅する工程、並びに
(h)少なくとも15mg/Lの組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質の量で前記クローン化した細胞から前記産物を回収する工程、
を含む、組み換え生物活性ビタミンK依存性タンパク質産物を製造する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−521224(P2009−521224A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547588(P2008−547588)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/048954
【国際公開番号】WO2007/075976
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(508188558)インスピレーション バイオファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (5)
【出願人】(508188477)ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (1)
【Fターム(参考)】