説明

組合せピストンリング

【課題】オイル消費量を低減でき、かつ、ピストンへの組み付け性にも優れる組合せピストンリングを提供する。
【解決手段】合口を有する樹脂製リング7と金属製リング6とを備える組合せピストンリング5において、樹脂製リング7の上の燃焼室側に金属製リング6が配置され、前記樹脂製リング7は合口端部の上面に突出部10を有し、金属製リング6の合口隙間に前記突出部10が配置され、前記樹脂製リング7はシリンダ1装着時に合口が閉じられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製リングと樹脂製リングとを備える組合せピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、金属製のピストンリングでは、常温時に合口隙間を設けることで、高温時に合口が突き当たることにより面圧、応力が上昇してスカッフィングや折損が生じることを防止している。しかし、合口隙間があるため、負圧時には、オイルの吸い上げによるオイル消費が増大する。一方、樹脂製のピストンリングは低ヤング率のため、合口が突き当たっても面圧、応力は上昇しないが、材料に耐熱性がなく、高温時の耐久性が不足する。
【0003】
特許文献1は、樹脂リング部材と、樹脂リング部材よりも燃焼室側において、樹脂リング部材と当接して配置される金属リング部材とを備える組合せピストンリングを記載している。これらのリング部材はそれぞれ合口を有し、合口同士を互い違いになるように配置し、合口同士がピストン往復動方向に連通しないようにしている。更に、樹脂リング部材の上面に設けられた回り止め凸部を金属リング部材の合口隙間に配置し、両リング部材が相対的に回転しないようにして、合口同士がピストン往復動方向に連通しないようにしている。このようにして、合口隙間を通じたブローバイガスの漏出や吸気管負圧時のオイルの吸い上げによるオイル消費を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−353577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す組合せピストンリングは、樹脂リング部材と金属リング部材の合口を周方向にずらしているため、ピストンへの組付時、2本のリング部材を各々別々に組み込む必要があり、組み付けの時間と手間がかかる問題がある。
【0006】
本発明の目的は、オイル消費量を低減でき、かつ、ピストンへの組み付け性にも優れる組合せピストンリングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、合口を有する樹脂製リングと金属製リングとを備える組合せピストンリングにおいて、樹脂製リングの上の燃焼室側に金属製リングが配置され、前記樹脂製リングは合口端部の上面に突出部を有し、金属製リングの合口隙間に前記突出部が配置され、前記樹脂製リングはシリンダ装着時に合口が閉じられることを特徴とする。
【0008】
前記樹脂製リングの突出部が金属製リングの合口端面が臨んでいる面に凹所を有し、この凹所に金属製リングの合口端部が挿入配置されていることが好ましい。
【0009】
前記金属製リングの下面にブラスト処理又は窒化処理が施され、前記両リングが一体に組み付けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1によれば、高温となる燃焼室側に金属製リングを配置することで材料の劣化を抑えられる。シリンダ装着時に樹脂製リングの合口が閉じられており、金属製リングの合口隙間に樹脂製リングの突出部が配置しているため、合口隙間を通じたオイル消費の低減を図れる。また、金属製リングと樹脂製リングの合口部分が周方向の同じ箇所にあるため、一体でピストンに組み付けることができ、ピストンへの組み付け性に優れる。
【0011】
請求項2によれば、金属製リングが樹脂製リングから外れにくく、常に樹脂製リングの突出部が金属製リングの合口隙間に配置できる。
【0012】
請求項3によれば、金属製リングと樹脂製リングの接合力が向上し、金属製リングが樹脂製リングから外れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示し、組合せピストンリングを装着したピストンがシリンダに挿入された状態を示す縦断面図である。
【図2】シリンダ装着時の組合せピストンリングの正面図である。
【図3】本発明の別の実施形態を示し、シリンダ装着時の組合せピストンリングの正面図である。
【図4】本発明の更に別の実施形態を示し、シリンダ装着時の組合せピストンリングの正面図である。
【図5】本発明の更に別の実施形態を示し、シリンダ装着時の組合せピストンリングの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1及び図2において、シリンダ1内のピストン2の外周面3に形成されているリング溝4に組合せピストンリング5が装着されている。組合せピストンリング5は金属製リング6と樹脂製リング7とから構成されている。
【0016】
金属製リング6は合口を有し、合口端面8a,8b間に合口隙間を有しており、樹脂製リング7の上側、すなわち燃焼室側に配置されている。樹脂製リング7は合口を有しているが、シリンダ1内に装着されているとき、合口は閉じられて合口隙間がなくなるように構成されている。すなわち、樹脂製リング7の合口端面9a,9bは、シリンダ1装着時は、互いに突き合わされている。
【0017】
樹脂製リング7は合口位置の両端部の上面に突出部10を有している。一対の突出部10は周方向に切った断面形状が矩形形状を有しており、合口端面9a,9b側の面は樹脂製リング7の合口端面9a,9bの延長上にある。樹脂製リング7の一対の突出部10は金属製リング6の合口隙間に配置されており、金属製リング6の合口隙間を閉塞している。
【0018】
本発明の組合せピストンリング5によれば、高温となる上側位置に金属製リング6が配置されているので、材料の劣化を抑えられる。また、シリンダ1装着時に樹脂製リング7の合口が閉じられており、金属製リング6の合口隙間に樹脂製リング7の突出部10が配置しているため、吸気管負圧時の合口隙間を通じた吸い上げによるオイル消費を低減できる。また、金属製リング6と樹脂製リング7の合口部分が周方向の同じ箇所にあるため、一体でピストン2のリング溝4に組み付けることができ、ピストン2への組み付け性に優れる。
【0019】
図3は本発明の別の実施形態を示している。本実施形態は、樹脂製リング7が突出部10を合口位置の一方の端部にのみ有している点で上記実施形態と相違している。
【0020】
図4は本発明の更に別の実施形態を示している。本実施形態は、樹脂製リング7の突出部10の断面形状と金属製リング6の合口部分の形状が最初の実施形態と相違している。
【0021】
本実施形態の樹脂製リング7の突出部10は、周方向に切った断面形状が逆台形形状を有しており、合口端面9a,9b側の面は樹脂製リング7の合口端面9a,9bの延長上にあり、合口端面9a,9bと反対側の面は上方に向かって周方向幅が大きくなるテーパ面とされている。したがって、突出部10は合口端面9a,9bと反対側すなわち金属製リング6の合口端面が臨んでいる側に断面三角形形状の凹所11を有する。この凹所11に金属製リング6の合口端部が挿入配置される。したがって、金属製リング6の合口は合口端面8a,8bが斜め上方を向いたテーパ面とされている。
【0022】
このように構成すれば、樹脂製リング7の突出部10の凹所11に金属製リング6の合口端部が挿入配置されるので、金属製リング6が樹脂製リング7から外れにくくなり、樹脂製リング7の突出部10が常に金属製リング6の合口隙間に配置できるので、オイル消費の低減をより確実にできる。
【0023】
図5は本発明の更に別の実施形態を示している。本実施形態も、樹脂製リング7の突出部10の断面形状と金属製リング6の合口部分の形状が最初の実施形態と相違している。
【0024】
本実施形態の樹脂製リング7の突出部10は、周方向に切った断面形状が逆L字形状を有しており、合口端面9a,9b側の面は樹脂製リング7の合口端面9a,9bの延長上にある。したがって、突出部10は合口端面9a,9bと反対側すなわち金属製リング6の合口端面が臨んでいる側に断面矩形形状の凹所12を有する。この凹所12に金属製リング6の合口端部が挿入配置される。したがって、金属製リング6の合口は、合口端部の上部が切欠されたステップ形状とされている。
【0025】
このように構成すれば、樹脂製リング7の突出部10の凹所12に金属製リング6の合口端部の下部突出部13が挿入配置されるので、金属製リング6が樹脂製リング7から外れにくくなり、樹脂製リング7の突出部10が常に金属製リング6の合口隙間に配置できるので、オイル消費の低減をより確実にできる。
【0026】
なお、以上の実施形態において、金属製リング6の下面にブラスト処理や窒化処理を施せば、金属製リング6と樹脂製リング7の接合力が向上するので、金属製リング6が樹脂製リング7から一層外れにくくなる。
【符号の説明】
【0027】
1・・シリンダ、2・・ピストン、3・・ピストン外周面、4・・リング溝、5・・組合せピストンリング、6・・金属製リング、7・・樹脂製リング、8a,8b・・金属製リングの合口端面、9a,9b・・樹脂製リングの合口端面、10・・突出部、11,12・・凹所、13・・下部突出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合口を有する樹脂製リングと金属製リングとを備える組合せピストンリングにおいて、樹脂製リングの上の燃焼室側に金属製リングが配置され、前記樹脂製リングは合口端部の上面に突出部を有し、金属製リングの合口隙間に前記突出部が配置され、前記樹脂製リングはシリンダ装着時に合口が閉じられることを特徴とする組合せピストンリング。
【請求項2】
前記樹脂製リングの突出部が金属製リングの合口端面が臨んでいる面に凹所を有し、この凹所に金属製リングの合口端部が挿入配置されていることを特徴とする請求項1記載の組合せピストンリング。
【請求項3】
前記金属製リングの下面にブラスト処理又は窒化処理が施され、前記両リングが一体に組み付けられることを特徴とする請求項1又は2記載の組合せピストンリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−127392(P2012−127392A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277977(P2010−277977)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000215785)TPR株式会社 (80)
【Fターム(参考)】