説明

組成物、水中不分離ヒドロゲル組成物及びそれを使用した地盤強化方法

【課題】均一なゲル組成物を形成し、漏水箇所でもゲル組成物が溶解せず、有機物溶出量を下げることができる水中不分離ヒドロゲル組成物の提供。
【解決手段】アンモニウム濃度15質量%以下の低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物水溶液とポリビニルアルコールと水を含有するA材60〜95質量部と、カルシウムアルミネート化合物と増粘剤と水を含有するB材5〜40質量部とを、含有してなる組成物。増粘剤はセルロース系が好ましく、A材がアルカリ金属を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築分野の漏水箇所において使用される組成物、水中不分離ヒドロゲル組成物及びそれを使用した地盤強化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下構造物の周囲を弾性組成物で改質することで、地震による地下構造物の被害を軽減する技術が検討されている。弾性組成物としてポリビニルアルコールを用いたヒドロゲル組成物が検討されている(特許文献1、2、3、4)。水溶性チタン化合物として有機チタンペルオキソ化合物やその製法が開示されている(特許文献5、6、7)。
【0003】
【特許文献1】特開平06−207071号公報
【特許文献2】特開平05−117003号公報
【特許文献3】特開2005−162984号公報
【特許文献4】特願2007−017568号公報
【特許文献5】特開2000−159786号公報
【特許文献6】特開2004−43353号公報
【特許文献7】特開2007−177212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの材料は、ゲル化前は液状であるため、充填性が高い特徴を有する。しかしながら、湧水箇所や漏水箇所などの水流がある箇所ではゲル組成物が溶解し、有機物の溶出量が水質基準より高くなる課題があった。カルシウムアルミネ−ト化合物に代表される固化材を粉で添加するため、施工性に劣り、均一混合できない課題があった。特許文献7は、低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物のアンモニウム濃度を15質量%以下に低減することにより、組成物のアンモニア臭を低減することについて記載がない。
【0005】
本発明者は、鋭意努力を重ね、種々の実験検討を通して、上記課題を解決した組成物を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、アンモニウム濃度15質量%以下の低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物水溶液とポリビニルアルコールと水を含有するA材60〜95質量部と、カルシウムアルミネート化合物と増粘剤と水を含有するB材5〜40質量部とを、含有してなる組成物であり、増粘剤がセルロース系である該組成物であり、A材中のチタン濃度が0.1〜2.5質量%、A材中のポリビニルアルコールの固形分濃度が5.0〜10.0質量%である該組成物であり、B材の水量がカルシウムアルミネート化合物と水の合計100質量部中15〜80質量部であり、B材中の増粘剤の使用量がカルシウムアルミネート化合物100質量部に対して0.1〜5.0質量部である該組成物であり、A材がアルカリ金属を含有する該組成物であり、該組成物からなる水中不分離ヒドロゲル組成物であり、A材とB材を混合して注入してなる該組成物を使用してなる地盤強化方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物は、均一なゲル組成物を形成し、漏水箇所でもゲル組成物が溶解せず、アンモニア臭が少なく、施工性に優れ、有機物溶出量を下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
なお、本発明で使用する部、%は、特に規定しない限り質量基準である。
【0009】
本発明で使用するポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)は、完全ケン化型PVA、部分ケン化型PVAをはじめとして、水酸基を有し実質的に水溶性を保持しているものであればアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、アクリルアミドなどを付加した各種変性PVAを用いることもできる。本発明に使用するPVAの平均重合度は、500〜3000が好ましく、1000〜2000がより好ましい。また、PVAの鹸化度は80mol%以上のものが好ましく、90mol%以上がより好ましい。PVAの重合度や鹸化度が前記範囲外の場合には、ヒドロゲル形成材料がゲル化した後の物理的強度、弾力性、耐水性に影響する場合がある。
【0010】
A材に含まれるPVAの固形分濃度は、通常、5〜10質量%が好ましく、6〜9質量%がより好ましい。5質量%未満ではヒドロゲル組成物が硬化し弾性が不足する場合があり、10質量%を超えるとヒドロゲル組成物が脆くなり、有機物の溶出濃度が高くなる場合がある。
【0011】
本発明で使用する低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物は、特許文献8,9に示されているチタンペルオキソ化合物の合成方法を改良することにより、合成できる。チタンペルオキソ化合物は、チタンの配位子としてはクエン酸、リンゴ酸、グリコール酸などが知られている。チタンペルオキソ化合物は、塩としてはアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、セシウム塩、ルビジウム塩などが知られている。
【0012】
【特許文献8】特開2000−159786号公報
【特許文献9】特開2004−43353号公報
【0013】
アンモニウム型チタンペルオキソ化合物をアンモニア臭のしない低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物に改良する方法としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩を用いてアンモニウム塩を除去する方法、イオン交換樹脂でアンモニアを除去する方法が挙げられる。
【0014】
本発明で使用する低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物水溶液のアンモニウム濃度は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。15%を超えると強いアンモニア臭が生じる場合がある。アンモニウム濃度の定量方法はイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0015】
本発明で使用するA材に含まれるアルカリ金属の濃度は3.5%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましい。3.5%を超えるとポリビニルアルコールとの相互作用により沈殿が生じ、ヒドロゲル組成物の弾力性が不十分になる場合がある。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0016】
また、A材に含まれるチタン濃度は0.1〜2.5%が好ましく、0.5〜2.0%がより好ましい。0.1%未満ではヒドロゲル組成物の弾力性、物理的強度、耐水性が不十分になる場合があり、2.5%を超えるとヒドロゲル組成物が硬化し、弾力性が不十分になる場合がある。
【0017】
本発明で使用するカルシウムアルミネート化合物は、石灰石や石灰や消石灰などのカルシウム原料、ボーキサイトやアルミ残灰などのアルミニウム原料を所定の割合で配合し、熱処理した後、粉砕したものである。
【0018】
熱処理温度は、1200〜2000℃が好ましく、1400〜1600℃の範囲がより好ましい。1200℃未満では、所定の化合物が得られない場合があり、2000℃を超えると不経済になる場合がある。焼成中の雰囲気は酸化雰囲気でも還元雰囲気でも構わない。また、焼成設備はロータリーキルンや電気炉などが使用可能である。
【0019】
原料としては、主成分であるCaO、Alの他にSiO、Fe、MgO、TiO、P、NaO、KO、フッ素、塩素、重金属類などの不純物を含む場合があるが、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならない。
【0020】
本発明で使用するカルシウムアルミネート化合物のCaO/Alモル比は、特に限定されるものではないが、0.4〜2.5が好ましく、0.6〜0.9がより好ましい。0.4未満ではヒドロゲル組成物の圧縮強度が低くなる場合があり、2.5を超えるとヒドロゲル組成物の弾力性が低下する。本発明のヒドロゲル形成材料は、カルシウムアルミネートを添加してゲル化すると、アルカリ性を呈する。
【0021】
カルシウムアルミネート化合物の粉末度は、ブレーン比表面積で1500〜8000cm/gが好ましく、3000〜6000cm/gがより好ましい。1500cm/g未満では充分な強度が得られない場合があり、8000cm/gを超えると反応性が高くなりすぎ、充分な可使時間を確保できない場合がある。ただし、有機酸などを併用して可使時間を調整する場合はこの限りではない。
【0022】
カルシウムアルミネート化合物のガラス化率は、特に限定されるものではなく、結晶質でも非晶質でも本発明には使用可能である。結晶質のカルシウムアルミネート化合物としては、3CaO・Al、12CaO・7Al、CaO・Al、3CaO・5Al、CaO・2Al、CaO・6Alなどが挙げられる。これらのうち2種以上を併用することも可能である。
【0023】
本発明では、次に示すX線回折リートベルト法により、ガラス化率の測定を行った。粉砕した試料に酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施する。測定結果を定量ソフトで解析し、ガラス化率を求める。定量ソフトには、Sietronics社の「SIROQUANT」を用いた。
【0024】
カルシウムアルミネート化合物および増粘剤を使用する際には、事前にスラリー化することにより、施工性が向上する。スラリー化することにより、均一なヒドロゲル組成物が形成される上、架橋割合が増大し、漏水箇所でも溶解しにくいヒドロゲル形成物を得ることができる。
【0025】
B材中に含まれる水量は、カルシウムアルミネート化合物と水の合計100質量部中、15〜80質量部が好ましく、30〜60質量部がより好ましい。15質量部未満ではスラリーの粘性が上昇し施工性に劣る場合があり、80質量部を超えると架橋割合が減少し、ヒドロゲル組成物の弾力性が不十分になる場合がある。
【0026】
さらに本発明の組成物においては比較的少量の増粘剤を添加することにより、他の性能に対する影響を最小限に抑えつつ、ヒドロゲル組成物の溶解を効果的に抑制できる。
【0027】
増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、および水溶性ポリマー系などを用いることができる。これらの中では、セルロース系が好ましい。
【0028】
また、後に配合試験を基に詳述するように、セルロース系の増粘剤の中でも、電気化学工業株式会社製のスタビコンA(「スタビコンA」は電気化学工業株式会社の登録商標)は特に有効である。スタビコンAの主成分はメチルセルロースである。
【0029】
増粘剤の使用量は、カルシウムアルミネート化合物100質量部に対し、0.1〜 5.0質量部が好ましく、0.3〜2.0質量部がより好ましい。0.1質量部未満ではヒドロゲル組成物の不溶性が不十分である場合があり、5.0質量部を超えるとスラリーの粘性が上昇し施工性に劣り、不経済である場合がある。
【0030】
低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物水溶液とポリビニルアルコールと水を含有するA材と、カルシウムアルミネート化合物と増粘剤と水を含有するB材とを、含有するヒドロゲル組成物を調製する場合、A材とB材の合計100質量部中、B材の使用量は5〜40質量部が好ましく、10〜35質量部がより好ましい。5質量部未満では耐水性や強度が低下する場合があり、40質量部を超えると強度が高くなりすぎて弾力性が損なわれる場合がある。
【0031】
本発明のヒドロゲル組成物は、架橋剤を、本発明の効果を損なわない範囲で併用することができる。架橋剤としては、脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類、トリメチロールメラミンなどのメチロール基を有する化合物、ホウ砂やホウ酸などのホウ素化合物、Zr、Alなどが有機物質と結合した金属アルコキシド類、イソシアネート基を有する化合物などが挙げられる。
【0032】
本発明のヒドロゲル組成物は、硬化速度を調整する目的で、硬化遅延剤や硬化促進剤を併用することができる。硬化遅延剤としては、オキシカルボン酸類、糖類、高分子有機酸類、燐酸類、ケイフッ化物などが挙げられる。硬化促進剤としては、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、水酸化アルカリ、水酸化カルシウム、アルミン酸類、アミン類などが挙げられる。
【0033】
本発明のヒドロゲル組成物は、硬化体の強度や弾性率、密度をコントロールする目的で、フィラーを併用することができる。フィラーは、特に限定されることはなく、無機系や有機系のものが使用することができる。無機系フィラーとしては、シリカ質微粉末、珪石、石灰石などの骨材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体などが挙げられる。有機系フィラーとしては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質、イオン交換樹脂などが挙げられる。これらを本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0034】
本発明におけるヒドロゲル組成物の混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、ナウタミキサなどが挙げられる。
【0035】
本発明のヒドロゲル組成物は、カルシウムアルミネート化合物の水和反応に伴い、酸性領域からアルカリ性領域へと変化し、ゲル化する。低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物は、カルシウムアルミネート化合物の水和遅延剤として働き、混合からしばらくの間、pH8未満に保つことができる。ヒドロゲル組成物は、その粘度および作業の安全性の観点から、酸性〜中性領域であること、具体的にはpHで5〜8程度であることが好ましい。pHが8以上では皮膚に付着した際アルカリ薬傷を起す場合がある。カルシウムアルミネート化合物の代わりに普通セメントを使用した場合は、pHは混合直後に9を超えてしまい、好ましくない場合がある。
【0036】
本発明のヒドロゲル組成物を用いた地盤強化方法としては、トンネルおよび下水管などの地下構造物周囲の空洞や土壌中に注入する方法などが挙げられ、特に限定されるものではない。例えば、空洞や漏水が見られるコンクリート壁やコンクリート床版にドリルで穴を開け、注入プラグをセットした後、本発明のヒドロゲル組成物を各種ポンプで注入し、空洞部を充填し、コンクリート背部や下部に遮水や免震に優れた弾性体を形成する方法、地上から空洞部や構造物周囲に注入管を挿入し、各種注入ポンプを用いて注入する方法などが挙げられる。
【0037】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0038】
「実験例1」
PVAを水道水に加えて80℃に加温し、所定の固形分濃度を有するPVA水溶液を調製した。PVA水溶液とチタン水溶液を混合して表1に示す質量%のA材を調製した。必要に応じてA材に水を混合した。カルシウムアルミネート化合物と水と増粘剤を混合して表1に示す質量%のB材を調製した。
A材70質量部とB材30質量部を混合し、ヒドロゲル組成物を調製した。ヒドロゲル組成物の復元率、圧縮強度、全有機炭素溶出濃度を測定した。結果を表1に示した。
【0039】
「使用材料」
PVA:電気化学工業社製、商品名「K17」、重合度1700、鹸化度98.7mol%
チタン水溶液(ア):金属チタン粉末(350メッシュ)約0.25g、30%過酸化水素水20ml、30%アンモニア水5mlをビーカーの中で混合し、ウォーターバスで冷却しながら溶かし、黄色い透明なチタンペルオキソ溶液を得た。この溶液に、チタン1モルに対して1倍モル以上のクエン酸を加えた。クエン酸が完全に溶解した後、ホットプレート上にて80℃で加熱乾燥し、化合物を得た。この化合物を蒸留水に再溶解し、チタン濃度を0.125M/Lに調整し、混合溶液(A)を得た。混合溶液(A)を、NaClでNa型にしたハイポーラス型用イオン交換樹脂に滴下し、最終的にアンモニウム濃度0.5質量%、チタン濃度5.0質量%、ナトリウム濃度6.4質量%のチタン水溶液を調製した。
カルシウムアルミネート化合物:カルシウム原料(石灰石)とアルミニウム原料(ボーキサイト)を所定の割合で配合し、電気炉で1500℃に熱処理した後、徐冷し、粉砕した試作品を使用した。CaO29%、Al65%、SiO3%、TiO3%、CaO/Alモル比0.8、ガラス化率30%、ブレーン比表面積5000cm/g、密度3.05g/cm
増粘剤:セルロース系増粘剤、電気化学工業社製、商品名「スタビコンA」
水:水道水
【0040】
「試験方法」
アンモニウム濃度:イオン交換樹脂にてイオン交換したチタン水溶液のアンモニウム濃度を濃縮することなく、イオンクロマトグラフィーで測定した。イオンクロマトグラフィーの測定機種としては、島津製作所社製、HIC−NSを使用した。
復元率:ヒドロゲル組成物を5×5×5cmの型枠に流し込み、材齢1日で脱型した。市販の耐圧試験機を用いて上部から1cm裁荷した後、除荷した。除荷後の供試体の高さ(xcm)を測定して復元率を測定した。復元率は式[1−(5−x)]×100(%)で算出し、弾力性の指標とした。
圧縮強度:ヒドロゲル組成物を4×4×4cmの型枠に流し込み、材齢1日で脱型後,JIS R 5201に準拠して測定した。荷重をかけても供試体が降伏しない場合には、供試体が50%変位した時の荷重から圧縮強度を算出した。
全有機炭素溶出濃度:ヒドロゲル組成物を、その表面積の10倍量の純水に浸漬した。浸漬してから3日経過後に上澄み液を採取して全有機炭素濃度を測定した。
全有機炭素溶出濃度:島津製作所社製、全有機炭素分析計、機種名TOC−VCSHを使用した。全炭素濃度から無機炭素濃度を除外して全有機炭素濃度を測定した。全炭素濃度は、以下により算出した。試料を700℃に燃焼し、分解することにより、二酸化炭素に変換した。この二酸化炭素を測定することにより、全炭素濃度を算出した。無機炭素濃度は、以下により算出した。試料を酸性化し、通気処理することにより、二酸化炭素に変換した。この二酸化炭素を測定することにより、無機炭素濃度を算出した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1より以下のことが判った。A材に含まれるPVA固形分濃度、チタン濃度、アルカリ金属濃度を適量にすることにより、復元率が大きいので弾力性が大きい、圧縮強度が大きい、有機物の溶出量が小さいので水質を汚染しにくく耐水性が大きい、といったヒドロゲル組成物が得られた。
【0043】
「実験例2」
A材に含まれるPVA固形分濃度を8質量%、チタン濃度を1.0質量%、アルカリ金属濃度を1.3%とし、表2に示す質量%のカルシウムアルミネート化合物と水と増粘剤を混合してB材とし、A材70質量部とB材30質量部を混合し、ヒドロゲル組成物を調製したこと以外は、実験例1と同様に行った。ヒドロゲル組成物の復元率、圧縮強度、全有機炭素溶出濃度、遮水性、B材のスラリー状況を測定した。結果を表2に示した。
【0044】
「試験方法」
遮水性:容量3Lの直方体状ポリプロピレン製容器の側面の下部に直径2mmの穴を開け、川砂2.7kgを充填した。さらに漏水させるため、上部より水道水600mlを加え、模擬試験体を作製した。模擬試験体を作製した直後に、容量10mlのシリンジを用いて、下部の穴からヒドロゲル組成物を、毎秒1mlの速度で合計10mlを注入した。注入後、穴をテープで塞ぎ、3hr後にテープを取り外した。注入してから24時間経過後に模擬試験体の質量を測定して、漏水量を算出した。漏水量により遮水性を評価した。
B材のスラリー状況:カルシウムアルミネート化合物と水と増粘剤をハンドミキサーにて2分間練り混ぜた後のスラリーを目視観察した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2より以下のことが判った。B材中のカルシウムアルミネート化合物量、水量、増粘剤量を適量にすることにより、B材中のダマが少なくなるので施工性が良好である、といったヒドロゲル組成物が得られた。カルシウムアルミネート化合物量、水量、増粘剤量を適量にすることにより、復元率が大きいので弾力性が大きい、圧縮強度が大きい、有機物の溶出量が小さいので水質を汚染しにくく耐水性が大きい、といったヒドロゲル組成物が得られた。増粘剤を使用しない場合、有機物の溶出量が大きいので水質を汚染するおそれがあり、本発明の効果が得られなかった。
【0047】
「実験例3」
A材に含まれるPVA固形分濃度を8質量%、チタン濃度を1.0質量%、アルカリ金属濃度を1.3%とし、B材に含まれるカルシウムアルミネート化合物をカルシウムアルミネート化合物と水の合計100質量部中50質量部とし、B材に含まれる水量をカルシウムアルミネート化合物と水の合計100質量部中50質量部とし、B材に含まれる増粘剤をカルシウムアルミネート化合物100質量部に対して0.5質量部とし、A材とB材を表3に示す割合で混合し、ヒドロゲル組成物を調製したこと以外は、実験例1と同様に行った。ヒドロゲル組成物の復元率、圧縮強度、全有機炭素溶出濃度を測定した。結果を表3に示した。
【0048】
【表3】

【0049】
表3より以下のことが判った。A材とB材の割合を適量にすることにより、復元率が大きいので弾力性が大きい、圧縮強度が大きい、有機物の溶出量が小さいので水質を汚染しにくく耐水性が大きい、といったヒドロゲル組成物が得られた。A材とB材の割合が本発明の範囲外である場合、本発明の効果が得られなかった。
【0050】
「実験例4」
表4に示すチタン水溶液を使用し、表1に示す質量%のA材を調製し、B材に含まれるCAをCAと水の合計100質量部中50質量部、B材に含まれる水量をCAと水の合計100質量部中50質量部、B材に含まれる増粘剤をCA100質量部に対して0.5質量部とし、A材70質量部とB材30質量部を混合し、ヒドロゲル組成物を調製したこと以外は、実験例1と同様に行った。ヒドロゲル組成物のアンモニウム臭を測定した。結果を表4に示した。
【0051】
「使用材料」
チタン水溶液(イ):チタン水溶液(ア)における混合溶液(A)をNaClでNa型にしたハイポーラス型用イオン交換樹脂に滴下し、最終的にアンモニウム濃度1.0質量%、チタン濃度5.0質量%、ナトリウム濃度6.4質量%のチタン水溶液を調製した。
チタン水溶液(ウ):チタン水溶液(ア)における混合溶液(A)をNaClでNa型にしたハイポーラス型用イオン交換樹脂に滴下し、最終的にアンモニウム濃度5.0質量%、チタン濃度5.0質量%、ナトリウム濃度6.4質量%のチタン水溶液を調製した。
チタン水溶液(エ):チタン水溶液(ア)における混合溶液(A)をNaClでNa型にしたハイポーラス型用イオン交換樹脂に滴下し、最終的にアンモニウム濃度10.0質量%、チタン濃度5.0質量%、ナトリウム濃度6.4質量%のチタン水溶液を調製した。
チタン水溶液(オ):チタン水溶液(ア)における混合溶液(A)をNaClでNa型にしたハイポーラス型用イオン交換樹脂に滴下し、最終的にアンモニウム濃度15.0質量%、チタン濃度5.0質量%、ナトリウム濃度6.4質量%のチタン水溶液を調製した。
チタン水溶液(カ):チタンペルオキソクエン酸アンモニウム(化学式(NH[Ti(C(O]・4HO、フルウチ化学社製、商品名「TAS−fine」)を50質量%水溶液となるように純水で溶解し、アンモニウム濃度16.7質量%、チタン濃度7.1質量%のチタン水溶液を調製した。


【0052】
「試験方法」
アンモニウム臭:チタン水溶液を嗅いで試験した。アンモニウム臭が弱い順に1、2、3、4、5、6とした。例えば、1はアンモニウム臭がかなり弱いとし、6はアンモニウム臭がかなり強いと評価した。
【0053】
【表4】

【0054】
表4より以下のことが判った。アンモニウム濃度が小さい程、アンモニア臭が弱いヒドロゲル組成物が得られた。本発明のヒドロゲル組成物は、特許文献7記載のチタンペルオキソ化合物(本明細書、表4のチタン水溶液(カ))よりも、アンモニア臭が弱い傾向を示した。


【0055】
「実験例5」
CAの代わりにセメントを使用したこと以外は、実験例No.1−4と同様に行った。ヒドロゲル組成物のpHを測定した。結果を表5に示した。
【0056】
「使用材料」
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
【0057】
「試験方法」
pH:A材とB材を混合した直後のpHを、HORIBA社製、pH測定計、機種名D−53Sにより測定した。
【0058】
【表5】

【0059】
表5より以下のことが判った。カルシウムアルミネート化合物を使用することにより、ヒドロゲル組成物のpHを中性〜弱アルカリ性領域に維持でき、作業の安全性を確保できた。セメントを使用した場合、混合直後にpHが9を超えてしまい、本発明の効果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の組成物は、水中不分離ヒドロゲル組成物である。本発明は、均一なゲル組成物を形成し、漏水箇所でもゲル組成物が溶解せず、充填性が高く、アンモニア臭が少ないことから、高範囲に地盤を強化し、有機物溶出量を下げることができる。従って、本発明は、主に土木・建築分野の漏水箇所に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウム濃度15質量%以下の低アンモニウム型チタンペルオキソ化合物水溶液とポリビニルアルコールと水を含有するA材60〜95質量部と、カルシウムアルミネート化合物と増粘剤と水を含有するB材5〜40質量部とを、含有してなる組成物。
【請求項2】
増粘剤がセルロース系である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
A材中のチタン濃度が0.1〜2.5質量%、A材中のポリビニルアルコールの固形分濃度が5.0〜10.0質量%である請求項1又は2のいずれか1項記載の組成物。
【請求項4】
B材の水量がカルシウムアルミネート化合物と水の合計100質量部中15〜80質量部であり、B材中の増粘剤の使用量がカルシウムアルミネート化合物100質量部に対して0.1〜5.0質量部である請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
A材がアルカリ金属を含有する請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物からなる水中不分離ヒドロゲル組成物。
【請求項7】
A材とB材を混合して注入してなる請求項6項のいずれか1項記載の組成物を使用してなる地盤強化方法。

【公開番号】特開2009−197072(P2009−197072A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38085(P2008−38085)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】