説明

組換えフィブリノゲン

本発明は、フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードするヌクレオチド配列に関する。配列は、真核細胞培養系での発現に最適化されている。このような最適化されたヌクレオチド配列は、インタクト形態の組換えフィブリノゲンやその変異体の真核細胞培養系での効率的な発現を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えフィブリノゲン、それを哺乳動物細胞において高レベルで産生する方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノゲンは、主に肝実質細胞によりヒト体内で合成される可溶性の血漿糖タンパク質である。これは、ジスルフィド架橋で繋がれた、Aα、Bβ、およびγと表される3つのポリペプチド鎖2対からなる二量体分子である。この3つのポリペプチド鎖は、3つの別々の遺伝子によってコードされている。野生型Aα鎖は、625アミノ酸の前駆体として合成され、610アミノ酸のタンパク質として血漿中に存在し、Bβは461個のアミノ酸を含み、γ鎖は411個のアミノ酸を含む。3つのポリペプチドは、3つのmRNAから個別に合成される。3つの構成要素鎖(Aα、Bβ、およびγ)の6本鎖2量体(Aα、Bβ、γ)2としてのその最終形態への会合は、小胞体(ER)の内腔で起こる。
【0003】
フィブリノゲンは、高濃度(1〜2g/L)で血液中を循環し、高い不均一性を示す。変動は、遺伝的多型、グリコシル化やリン酸化の違い、Aα鎖のカルボキシ末端部分の(部分的)タンパク質分解、および選択的スプライシングにより生じる(総説については、De MaatおよびVerschuur(2005)Curr.Opin.Hematol.12,377;Laurensら(2006)J.Thromb Haemost.4,932;Henschen−Edman(2001)Ann.N.Y.Acad.Sci.USA 936,580を参照されたい)。各個体で約100万個の異なるフィブリノゲン分子が循環していると推測されている。フィブリノゲン全体のごく一部(ほとんどの場合、数パーセント以下)を占めるに過ぎない、これらの変異体のほとんどは、機能と構造が異なる。Aα鎖のカルボキシ末端部分のタンパク質分解により、明白に異なる分子量を有する3つの主な循環型フィブリノゲンが生じる。フィブリノゲンは、高分子量型(HMW;分子量340kDa;循環中の優勢型のAα鎖は、610個のアミノ酸を含む)で合成される。Aα鎖のうちの1つが分解されると、低分子量型(LMW;MW=305kDa)が生じ、LMW’型(270kDa)は、両方のAα鎖がカルボキシ末端で部分分解された変異体である。正常血液中では、フィブリノゲンの50〜70%がHMWであり、20〜50%が1つまたは2つの分解されたAα鎖を有するフィブリノゲンである(de MaatおよびVerschuur(2005)Curr.Opin.Hematol.12,377)。HMW変異体とLMW’変異体は、凝固時間とフィブリンポリマーの構造に明確な相違を示す(Hasegawa N,Sasaki S.(1990)Thromb.Res.57,183)。
【0004】
選択的スプライシングの結果であるよく知られた変異体は、いわゆるγ’変異体とFib420変異体である。
【0005】
γ’変異体は、γ鎖全体の約8%に相当する。これは、最も豊富に存在するγ鎖に対する411個のアミノ酸ではなく、427個のアミノ酸からなり、4個のC末端アミノ酸(AGDV)は、2個の硫酸化チロシンを含む20個のアミノ酸に置き換わっている。フィブリノゲンγ’鎖は、血小板凝集の調節に極めて重要である血小板フィブリノゲン受容体IIbβ3に結合することができない。
【0006】
420kDaの分子量を有するFib420変異体は、循環フィブリノゲン全体の1〜3%を占める(de MaatおよびVerschuur(2005)Curr.Opin.Hematol.12,377)。選択的スプライシングにより、余分なオープンリーディングフレームがAα鎖のC末端に含まれ、その結果、Aα鎖が237アミノ酸伸長する。追加のアミノ酸はノジュール構造を形成する。
【0007】
血漿由来フィブリノゲンは、止血するためにおよび血液や体液の損失を減らすために外科的介入時に臨床適用される市販のフィブリンシーラントの重要な成分である。さらに、これは、フィブリンの凝集特性を用いて組織の接着を促進するためにおよび創傷治癒を改善するために使用される。フィブリノゲンは、遺伝性フィブリノゲン血症患者や後天性フィブリノゲン欠損症患者のフィブリノゲン欠損を補うためにも臨床的に使用されている。高投薬量のフィブリノゲン(3〜10グラム)の静脈内投与は、血液凝固を正常化させ、様々な臨床的状況における重篤な出血を止めるまたは防ぐことが示されている。
【0008】
組換えによるヒトフィブリノゲン産生は、野生型(HMW)フォーマットであれ、変異体として(例えば、Fib420として)であれ、血漿由来材料の使用に優る多くの利点を有する。これらの利点には、その好ましい安全性プロファイル、混ざりけがない形で変異体を作製することができる可能性、および無制限の供給が含まれる。しかしながら、これを経済的に実行可能な形で産生するためには、インタクトで機能的なフィブリノゲンの高い発現レベルが必要となる。さらに、特定の用途(例えば、静脈(IV)止血剤としてのフィブリノゲンの使用)のために、適切な翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)が必要となる。
【0009】
翻訳後修飾のため、哺乳動物系での発現が好ましい。それゆえ、生物活性のある組換えフィブリノゲンが、ベビーハムスター腎臓(BHK)(例えば、Farrellら(1991)Biochemistry 30,9414)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、Lord(米国特許第6037457号)、Binnieら(1993)Biochemistry 32,107)、またはアフリカミドリザル由来COS細胞(例えば、Royら(1991)J.Biol.Chem.266,4758)などの、様々な細胞で発現されている。しかしながら、これらの発現レベルは、わずか1〜15μg/ml程度であり、臨床現場で必要とされる大量の血漿フィブリノゲンの代わりにするには不十分であると考えられる。さらに、酵母のピキア・パストリス(P.pastoris)でヒトフィブリノゲンを発現させると8μg/ml生産されたが、これも商業的製造に十分ではない(Tojoら(2008)Prot.Expr.and Purif.59,289)。
【0010】
欧州特許第1661989号では、少なくとも100mg/Lの生産量が実行可能な商業的生産に必要であると報告されている。この出願では、スピナーフラスコ中のCHO細胞による最大631.5mg/Lのレベルが報告されている。しかしながら、そのようなレベルに到達するために、細胞は、バキュロウイルスのP35抗アポトーシスタンパク質を共発現しなければならず、ベクターを増幅するために、代謝拮抗物質のメトトレキサートを使用しなければならない。細胞密度は、この業界で標準とされているもの(例えば、Wurm(Nature Biotechnol.(2004)22,1393)は、3〜4日の継代培養で2×10細胞/mlの日常的な細胞密度を報告している)と比較して相対的に低い(スピナーフラスコでの最大値、15日間で9.4×10細胞/ml)。
【0011】
組換えフィブリノゲン産生の成功にとって最も重要な問題は、インタクトで、適切に会合した、十分な高純度の生物活性産物をどのようにして作製するかということである。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、真核細胞培養系での発現に最適化されたフィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードするヌクレオチド配列に関する。本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、インタクト形態の組換えフィブリノゲンの真核細胞培養系での効率的な発現を可能にする。最適化されたヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質配列は、対応する最適化されていないヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質配列と同一である。
【0013】
本発明の文脈において、「フィブリノゲン」という用語は、任意の形態のフィブリノゲンを指すことができ、遺伝的多型、グリコシル化やリン酸化の違い、Aα鎖のカルボキシ末端部分の(部分的)タンパク質分解、および選択的スプライシングにより生じる変異体を含む。本発明の文脈において、「アルファ鎖」および「Aα鎖」という用語は互換的に使用される。これらの用語は、アルファ鎖の野生型と変異体の両方を指すことができ、これらには、シグナル配列を含む644アミノ酸のフィブリノゲンアルファ鎖(配列番号8)、シグナル配列を含まない625アミノ酸の前駆体フィブリノゲンアルファ鎖(配列番号8のアミノ酸20〜644)、循環中に見られる610アミノ酸の切断型フィブリノゲンアルファ鎖(配列番号8のアミノ酸20〜629)、およびシグナル配列を含む866アミノ酸のFib420変異体アルファ鎖(配列番号11)またはシグナル配列を含まないFib420変異体アルファ鎖(配列番号11のアミノ酸20〜866)が含まれる。
【0014】
本発明の文脈において、「ベータ鎖」および「Bβ鎖」という用語は互換的に使用される。これらの用語は、ベータ鎖の野生型と変異体の両方を指すことができ、これらには、シグナル配列を含む491アミノ酸のフィブリノゲンベータ鎖(配列番号9)およびシグナル配列を含まない461アミノ酸のフィブリノゲンベータ鎖(配列番号9のアミノ酸31〜491)が含まれる。
【0015】
本発明の文脈において、「ガンマ鎖」および「γ鎖」という用語は互換的に使用される。これらの用語は、ガンマ鎖の野生型と変異体の両方を指すことができ、これらには、シグナル配列を含む437アミノ酸のフィブリノゲンガンマ鎖(配列番号10)、シグナル配列を含まない411アミノ酸のフィブリノゲンガンマ鎖(配列番号10のアミノ酸27〜437)、シグナル配列を含むガンマプライム鎖である453アミノ酸のフィブリノゲンガンマ鎖(配列番号13)、およびシグナル配列を含まないガンマプライム鎖である427アミノ酸のフィブリノゲンガンマ鎖(配列番号13のアミノ酸27〜453)が含まれる。
【0016】
本発明の文脈において、フィブリノゲンまたはフィブリノゲン鎖は、アミノ酸配列が、ヌクレオチド配列によってコードされた全てのアミノ酸(場合により、通常の細胞(分泌)プロセシングの間に除去されるアミノ酸は含まない)を含む場合、「インタクト形態」である。それゆえ、644個、625個、または610個のアミノ酸を有するアルファ鎖は、インタクト形態のアルファ鎖の例である。
【0017】
本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、少なくとも55%、好ましくは少なくとも58%、より好ましくは少なくとも60または65%のGC含有量を有する。一実施形態では、本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、約55〜70%の範囲のGC含有量を有する。別の実施形態では、本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、約60〜65%の範囲のGC含有量を有する。
【0018】
フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、およびガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、真核細胞培養系での発現に最適化されている。好ましくは、これらは、哺乳動物細胞培養系での発現、例えば、COS細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、CHO細胞、PER.C6細胞、HEK293細胞での発現、または昆虫細胞培養系での発現に最適化されている。より好ましくは、ヌクレオチド配列は、ヒト細胞培養系での発現、例えば、PER.C6細胞またはHEK293細胞培養系での発現に最適化されている。
【0019】
本発明の最適化は、少なくとも0.90、好ましくは少なくとも0.95、より好ましくは少なくとも0.97のコドン適応指数を有する。一実施形態では、本発明のヌクレオチド配列は、少なくとも0.95のコドン適応指数で、コドン使用頻度をCHO細胞に適応させることにより最適化される。
【0020】
本発明のヌクレオチド配列は、任意のタイプのフィブリノゲン鎖をコードし得る。好ましくは、これらは哺乳動物フィブリノゲン鎖をコードし、より好ましくは、これらは霊長類フィブリノゲン鎖をコードし、最も好ましくは、これらはヒトフィブリノゲン鎖をコードする。例えば、2つまたは1つの齧歯類フィブリノゲン鎖と組み合わせた1つまたは2つの哺乳動物フィブリノゲン鎖などの、組合せも可能である。最適化されるヌクレオチド配列は、DNAであってもRNAであってもよい。好ましくは、これはcDNAである。
【0021】
フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、そのそれぞれの最適化されていない対応物と少なくとも70%の同一性を示す。一実施形態では、フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、およびガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、そのそれぞれの最適化されていない対応物と70〜80%の同一性を示す。好ましくは、フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、スプライス部位やポリ(A)シグナルなどの、cis作用部位を含まない。
【0022】
フィブリノゲンアルファ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、ヒトフィブリノゲンのアルファ鎖をコードする遺伝子に通常存在する39塩基対の直列反復配列を含まない。アルファ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列において、反復配列は、コードされるタンパク質配列を変化させることなく改変されている。
【0023】
好ましい実施形態では、アルファ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号4または7の配列を含む。フィブリノゲンアルファ鎖をコードするヌクレオチド配列およびこれらの配列の部分を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。一実施形態では、本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号4のヌクレオチド60〜1932を含む。別の実施形態では、本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号4のヌクレオチド60〜1887を含む。さらに別の実施形態では、本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号7のヌクレオチド60〜2598を含む。配列番号4または7と少なくとも85%、少なくとも87%または少なくとも90%、より好ましくは少なくとも92%、少なくとも94%、96%、最も好ましくは少なくとも98%または少なくとも99%同一であり、かつフィブリノゲンアルファ鎖、例えば、配列番号8もしくは11の配列またはこれらの配列の部分(例えば、上で例示されたもの)を有するフィブリノゲンアルファ鎖をコードする配列を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。
【0024】
好ましい実施形態では、ベータ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号5の配列を含む。フィブリノゲンベータ鎖をコードするヌクレオチド配列およびこの配列の部分を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。一実施形態では、本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号5のヌクレオチド93〜1473を含む。配列番号5と少なくとも85%、少なくとも87%または少なくとも90%、より好ましくは少なくとも92%、少なくとも94%、96%、最も好ましくは少なくとも98%または少なくとも99%同一であり、かつフィブリノゲンベータ鎖、例えば、配列番号9の配列またはこの配列の部分(例えば、配列番号9のアミノ酸31〜491)を有するフィブリノゲンベータ鎖をコードする配列を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。
【0025】
好ましい実施形態では、フィブリノゲンガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号6の配列を含む。フィブリノゲンガンマ鎖をコードするヌクレオチド配列およびこの配列の部分を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。一実施形態では、フィブリノゲンガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号6のヌクレオチド81〜1311を含む。配列番号6と少なくとも85%、少なくとも87%または少なくとも90%、より好ましくは少なくとも92%、少なくとも94%、96%、最も好ましくは少なくとも98%または少なくとも99%同一であり、かつフィブリノゲンガンマ鎖、例えば、配列番号10の配列またはこの配列の部分(例えば、配列番号10のアミノ酸27〜437)を有するフィブリノゲンガンマ鎖をコードする配列を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。
【0026】
別の好ましい実施形態では、フィブリノゲンガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号12の配列を含む。フィブリノゲンガンマ鎖をコードするヌクレオチド配列およびこの配列の部分を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。一実施形態では、フィブリノゲンガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列は、配列番号12のヌクレオチド81〜1359を含む。配列番号12と少なくとも85%、少なくとも87%または少なくとも90%、より好ましくは少なくとも92%、少なくとも94%、96%、最も好ましくは少なくとも98%または少なくとも99%同一であり、かつフィブリノゲンガンマ鎖、例えば、配列番号13の配列またはこの配列の部分(例えば、配列番号13のアミノ酸27〜453)を有するフィブリノゲンガンマ鎖をコードする配列を含むヌクレオチド配列も本発明により包含される。
【0027】
別の態様では、本発明は、フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列を含むヌクレオチドコンストラクトに関する。ヌクレオチドコンストラクトは、フィブリノゲン鎖の発現に影響を及ぼす調節配列を含んでいてもよく、これらには、プロモーター、ターミネーター、およびエンハンサーが含まれる。一実施形態では、ヌクレオチドコンストラクトは、例えば、クローニングベクターまたは発現ベクターなどの、ベクターである。ヌクレオチドコンストラクトはまた、選択マーカーを含んでいてもよい。
【0028】
別の態様では、本発明は、フィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードする本発明の最適化されたヌクレオチド配列を含む細胞に関する。細胞内で、本発明のヌクレオチドは、それ自体として、またはコンストラクト中に、例えば、発現ベクターもしくはクローニングベクター中に存在していてもよい。細胞は、典型的には、フィブリノゲンの産生に使用される宿主細胞である。本発明のヌクレオチド配列を含む細胞は、好ましくは哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞の好適な例としては、COS細胞、BHK細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、CHO細胞、PER.C6細胞、およびHEK293細胞が挙げられる。
【0029】
本発明の細胞は、大量のインタクトな生物活性のあるフィブリノゲンを産生する。細胞は、典型的には、細胞株の部分である。この文脈において、「大量のインタクトなフィブリノゲンを産生する細胞または細胞株」という語句は、85%よりも多く、好ましくは90%、95%、または99%よりも多くのインタクトな産物を産生する細胞または細胞株を指す。これは、10、20、または30回の集団倍加の間、より好ましくは40または50回の集団倍加の間、測定されることが好ましい。本発明の文脈において、「生物活性のある」フィブリノゲンは、トロンビンの存在下でフィブリンへと重合するフィブリノゲンを指す。このような細胞または細胞株も本発明により包含される。好ましい実施形態では、本発明の細胞株は、少なくとも3ピコグラム/細胞/日、より好ましくは少なくとも4または5ピコグラム/細胞/日、さらにより好ましくは少なくとも7または10ピコグラム/細胞/日のレベルでインタクトな組換えフィブリノゲンを産生する。30×10細胞/mlの細胞密度の反応器では、3ピコグラム/細胞/日は、フィブリノゲン90mg/リットル反応器容量/日に相当し、5ピコグラム/細胞/日は、フィブリノゲン150mg/リットル/日に相当し、7ピコグラム/細胞/日は、フィブリノゲン210mg/リットル/日に相当する。好ましくは細胞集団の少なくとも50%、より好ましくは細胞集団の少なくとも60%、70%、または80%、最も好ましくは細胞集団の少なくとも90%、95%、または99%が、少なくとも3ピコグラム/細胞/日、より好ましくは少なくとも5ピコグラム/細胞/日、さらにより好ましくは少なくとも7ピコグラム/細胞/日を産生する。
【0030】
大量のインタクトなフィブリノゲンを産生する細胞または細胞株の選択は、プロテアーゼ阻害因子を発現させることなく行なわれることが好ましい。一実施形態では、選択は、抗体、好ましくはアルファ鎖のインタクトなN末端およびアルファ鎖のインタクトなC末端に結合するモノクローナル抗体を用いて行なわれる。このような抗体の好適な市販例としては、Koppertら(1985)Blood 66,503によって記載されているY18抗体およびHoegee−de Nobelら(1988)Thromb.Haemost.60(3)415によって記載されているG8抗体が挙げられる。この選択は、無血清環境で行なわれることが好ましい。インタクトなフィブリノゲンを産生する細胞株のこうした選択方法も本発明の一部である。
【0031】
別の態様では、本発明は、真核細胞培養系でフィブリノゲンを産生する方法に関する。本方法は、フィブリノゲンが産生される条件下で本発明の宿主細胞または宿主細胞株を培養することを含む。任意で、産生されたフィブリノゲンを回収する。最適化された鎖と最適化されていない鎖を組み合わせてもよい。最適化されていない鎖は、遺伝子工学によってまたは合成によって得られてもよく、最適化された鎖と異なる源に由来するものであってもよい。一実施形態では、フィブリノゲン1分子当たり1つの鎖だけが、本発明のコドンが最適化されたヌクレオチド配列によってコードされるが、2つの他の鎖は、最適化されていない2つのヌクレオチド配列によってコードされる。別の実施形態では、フィブリノゲン1分子当たり3つのフィブリノゲン鎖のうちの2つが、本発明のコドンが最適化されたヌクレオチド配列によってコードされる。好ましい実施形態では、3つ全てのフィブリノゲン鎖が、最適化されたヌクレオチド配列によってコードされる。血漿由来フィブリノゲンとは対照的に、本方法により産生されるフィブリノゲン製剤は、特定のフィブリノゲン鎖が産生されるために、かなり均質である。本方法は、血漿中にわずかな量でしか存在しない、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%よりも多く、好ましくは95%、98%、または99%よりも多くの変異体から構成されるフィブリノゲン製剤の産生を可能にする。
【0032】
別の態様では、本発明は、いくつかの医療用途用のフィブリノゲンの調製における本発明のヌクレオチド配列の使用に関する。1つの用途では、本発明のヌクレオチド配列は、止血するためにおよび血液や体液の損失を減らすために外科的介入時に臨床適用されるフィブリンシーラントに使用されるフィブリノゲンを調製するために使用される。別の用途では、本発明のヌクレオチド配列は、フィブリンの凝集特性を用いて組織の接着を促進するためのおよび創傷治癒を改善するためのフィブリノゲンを調製するために使用され得る。また別の用途では、本発明のヌクレオチド配列は、フィブリノゲンの静脈内投与によって先天性または後天性(例えば、外傷後もしくは手術中の出血による)のフィブリノゲン欠損症患者の急性出血症状を治療するために臨床的に使用されるフィブリノゲンを調製するために使用され得る。市販の血漿由来フィブリノゲン製剤は、Riastap(CSL Behring LLC;米国で市販)およびHaemocomplettan(CSL Behring AG;欧州で市販)である。組換えフィブリノゲン製剤は、血漿由来製剤に優るいくつかの利点を有し、これには、好ましい安全性プロファイル、無制限の供給、およびこうした特定の適応に対する好ましい活性プロファイルを有するフィブリノゲン変異体を混ざりけがない形で製造することができる可能性が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】Aα鎖、Bβ鎖、およびγ鎖をコードする野生型コンストラクトならびにAα鎖、Bβ鎖、およびγ鎖をコードするコドンが最適化されたコンストラクトをCHO細胞にトランスフェトしてから1、2、3、および6日後の組換えヒトフィブリノゲン発現のレベル。実験は2回1組で行なわれた。(opt)最適化された配列;(wt)野生型配列。
【図2】Aα鎖、Bβ鎖、およびγ鎖をコードする、コドンが最適化されたコンストラクトならびにコドンが最適化されたコンストラクト(Aα(opt)+Bβ(opt)+γ(opt)と表示)であって、Aα伸長鎖、Bβ鎖、およびγ鎖を含むコンストラクト(Aα−ext.(opt)+Bβ(opt)+γ(opt)と表示)をCHO細胞にトランスフェクトしてから1、2、3、および6日後の組換えヒトフィブリノゲン発現のレベル。実験は2回1組で行なわれた。
【図3】組換えヒトフィブリノゲンを発現するクローンM21、M25、およびM57のバッチ処理から得られた培養上清のウェスタンブロット解析。対照レーン(contr)は、血漿由来の野生型フィブリノゲン(FIB3、Enzyme Research Laboratories)を含む。矢印は、Aα鎖の分解産物を示す。
【図4】伸長型Aα鎖を有する変異体ヒトフィブリノゲン(Fib420)を発現するクローンP40のバッチ処理から得られた培養上清のウェスタンブロット解析。レーン1は、血漿由来の野生型フィブリノゲン(FIB3、Enzyme Research Laboratories)を含む対照である。レーン2および3は、それぞれ、バッチ処理4日目および7日目に採取された、クローンP40 Aα伸長型の培養上清を含む。
【図5】γ’を含むヒトフィブリノゲンを一過性にトランスフェクトしたPER.C6細胞の培養上清のウェスタンブロット解析(詳細は実施例9に記載)。レーン1は、組換えγ’フィブリノゲンを発現するPER.C6細胞の培養上清を含む。レーン2は、血漿由来の野生型フィブリノゲン(FIB3、Enzyme Research Laboratories)を含む対照である。
【図6】PNGアーゼF処理とその後のSDS−PAGE解析によるフィブリノゲンのN−グリコシル化の解析。 レーンには次のものを充填した。 MW:分子量マーカー(BenchMark,Invitrogen)。 ERL FIB3:PNGアーゼF処理された(+)またはPNGアーゼF処理されていない(−)、血漿由来フィブリノゲン(ERL)。 PER.C6 fbg:PNGアーゼF処理された(+)またはPNGアーゼF処理されていない(−)、PER.C6由来フィブリノゲン。 各レーンにフィブリノゲン2μgを充填し、クマシーブルーを用いて染色を行なった。 解析は、還元10%BisTrisゲル(NuPage,Invitrogen)を用いて行なった。
【図7】ROTEM解析:凝固時間。 凝固時間をROTEM解析で測定した。プール正常(クエン酸)血漿200μlまたはHaemocomplettan(CSL Behring GmbH,Marburg,Germany)もしくはPER.C6フィブリノゲン(両方ともTBS中に2mg/ml)と1:1で混合したプール正常(クエン酸)血漿100μl。 CaClを最終濃度17mMになるまで添加した。凝固を開始させるために、α−トロンビンを最終濃度1IU/mlになるまで添加した。合計の反応容量は、240μlであった。図は、フィブリノゲンと1:1で混合した血漿の凝固時間(秒)を示す。 1.血漿由来フィブリノゲン(CSL Behring,Marburg,Germany) 2.PER.C6由来フィブリノゲン 全ての測定を2回1組で行なった。
【図8】ROTEM解析:凝血塊の硬度。凝血塊の硬度をROTEM解析で測定した。図は、フィブリノゲンと1:1で混合した血漿の10分の時点での凝血塊の硬度であるA10値(mm)を表す。実験の詳細は、図7の説明に記載されているものと同じである。 1.血漿由来フィブリノゲン(CSL Behring,Marburg,Germany) 2.PER.C6由来フィブリノゲン 全ての測定を2回1組で行なった。
【図9】ROTEM解析:凝血塊の形成時間。健康個体由来のクエン酸血を乳酸リンゲル(Baxter,Utrecht,The Netherlands)で希釈するかまたは希釈しないかのいずれかにした。その後、乳酸リンゲルで希釈した血液に血漿由来フィブリノゲンまたは組換えフィブリノゲンを補充するかまたは補充しない(対照)かのいずれかにした。 図は、次のものを示す。 1.血液300μl 2.血液150μl、乳酸リンゲル(RL) 100μl、TBS 50μl 3.血液150μl、RL 100μl、Haemocomplettan(6.5mg/ml) 50μl(最終濃度1.1mg/ml) 4.血液150μl、RL 100μl、組換えhFbg(6.5mg/ml) 50μl(最終濃度1.1mg/ml) 全ての条件において、凝固を開始させるために、star−TEM試薬20μlおよびex−TEM試薬20μl(Pentapharm GmbH,Munich,Germany)を使用した。 正常範囲(35〜160秒)は健康個体に見られる値である。160〜220秒のCFT値は、通常止血は損なわれていないが、貯蔵が減少している患者に見られる。
【図10】ROTEM解析:凝血塊の硬度。健康個体由来のクエン酸血を乳酸リンゲル(Baxter,Utrecht,The Netherlands)で希釈するかまたは希釈しないかのいずれかにした。その後、乳酸リンゲルで希釈した血液に血漿由来フィブリノゲンまたは組換えフィブリノゲンを補充するかまたは補充しない(対照)かのいずれかにした。 測定条件は、次の通りであった。 1.血液300μl 2.血液150μl、乳酸リンゲル(RL) 100μl、TBS 50μl 3.血液150μl、RL 100μl、Haemocomplettan(6.5mg/ml) 50μl(最終濃度1.1mg/ml) 4.血液150μl、RL 100μl、組換えhFbg(6.5mg/ml) 50μl(最終濃度1.1mg/ml) 全ての条件において、凝固を開始させるために、star−TEM試薬20μlおよびex−TEM試薬20μl(Pentapharm GmbH,Munich,Germany)を使用した。 正常範囲(53〜72mm)は凝固障害がない健康患者に見られる値である。患者に見られる45〜40mmのMCF値は、出血リスクを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0034】
実施例1 最適化されたcDNAコンストラクトの調製
ヒトフィブリノゲンポリペプチド鎖Aα、Bβ、γ、Aα伸長型(Fib420)、およびγ’をコードするcDNAは、野生型フォーマット(本実施例中では、最適化されていないフォーマットと呼ぶ)およびコドンが最適化されたフォーマットの両方でGeneArt(Regensburg,Germany)により合成された。(i)cis作用部位(スプライス部位、ポリ(A)シグナル)を除去し、(ii)Aα鎖の反復配列を修飾し、(iii)mRNA半減期を延長するためにGC含有量を増大させ、(iv)コドン使用頻度をCHOに適応させた(コドン適応指数−CAI− >0.95)。使用された野生型参照は、アルファ鎖についてはNM_021871、ベータ鎖についてはNM_005141、およびガンマ鎖についてはNM_000509であった。
【0035】
野生型フォーマットのAα鎖(配列番号1)、Bβ鎖(配列番号2)、およびγ(配列番号3)鎖をコードするcDNAならびに最適化されたAα(配列番号4)、Bβ(配列番号5)、およびγ(配列番号6)をコードするcDNAを比較した。結果を表1に示す。最適化されたAα伸長型(Fib420)配列(配列番号7)およびγ’配列(配列番号12)も表1に示す。
【0036】
野生型のアルファ鎖(配列番号1)、ベータ鎖(配列番号2)、およびガンマ鎖(配列番号3)のcDNAならびに最適化されたアルファ鎖(配列番号4)、ベータ鎖(配列番号5)、およびガンマ鎖(配列番号6)のcDNAをpcDNA3.1誘導体にサブクローニングした。両方(野生型と最適化型)のAα鎖と両方のAα伸長型(Fib420)をpcDNA3.1(+)neoに、両方のBβ鎖をpcDNA3.1(+)hygroに、ならびに両方のγ鎖をpcDNA3.1(−)hygro(Invitrogen,Carlsbad,USA)にサブクローニングした。最適化されたγ’鎖をpcDNA3.1(+)hygroにサブクローニングした。
【表1】

【0037】
実施例2 コドンが最適化されたフィブリノゲン配列および野生型フィブリノゲン配列のCHO細胞における一過性発現
最適化された配列がタンパク質発現を向上させるかどうかを検証するために、製造元の指示に従って、CHO−S細胞(Invitrogen,Carlsbad,USA)で一過性トランスフェクションを行なった。簡潔に述べると、トランスフェクション前日に、8mMのL−グルタミンを補充したFreeStyle培養培地中に0.6×10細胞/mlでCHO−S細胞を播種した。トランスフェクション当日に、125mlの振盪フラスコ(Corning Life Sciences,Corning,USA)中の15mlの培地に1×10細胞/mlの濃度になるまで細胞を希釈した。合計18.75μgの発現プラスミド(各々の個々の鎖について6.25μg)を0.3mlのOptiPro SFMと混合した。その後、0.3mlのFreeStyle MAXトランスフェクション試薬(16×、OptiPro SFMに希釈)を添加して、穏やかに混合した。室温で10分間のインキュベーションの後、振盪フラスコをゆっくりと撹拌しながら、DNA−FreeStyle MAX混合液をCHO−S細胞に穏やかに添加した。実験は2回1組で行なった。
【0038】
トランスフェクトした細胞を、125rpmで回転するオービタルシェーカープラットフォーム上、37℃、5%COでインキュベートした。トランスフェクションの1、2、3、および6日後、組換えフィブリノゲン発現を測定するために試料を回収した。
【0039】
タンパク質発現は、ヒトフィブリノゲンに特異的なELISAで測定した。品質保証済みのMaxisorb Elisaプレート(Nunc,Thermofisher Scientific,Roskilde,Denmark)を、4℃で一晩、PBS(Invitrogen)中のヒトフィブリノゲンに対する10μg/mlのG8モノクローナル抗体(Hoegee−de Nobelら(1988)Thromb.Haemost.60(3)415)(TNO KvL,Leiden,The Netherlands)100μlでコーティングした。次に、プレートをPBST(PBS/0.05% Tween20錠剤、Calbiochem,EMD,SanDiego,USA)で洗浄し、100μlの培養上清試料またはフィブリノゲン標準品のいずれかを添加した。フィブリノゲン標準品には、以下の濃度、すなわち、100−75−50−25−12.5−6.25−3.125−0ng/mlでPBSTに溶解および希釈したフィブリノゲン(FIB3ヒトフィブリノゲン,Enzyme Research Laboratories(ERL),Swansea,UK)が含まれていた。組織培養上清試料は、1:10〜1:500でPBSTに希釈した。室温で1時間のインキュベーションの後、プレートを1ウェル当たり200μlのPBSTで3回洗浄し、ペーパータオル上で軽く叩いて乾燥させた。次に、1:10,000でPBSTに希釈した100μlのHRPコンジュゲートY18モノクローナル抗体(TNO KvL,Leiden,The Netherlands)を添加した。これを室温で1時間インキュベートした後、プレートを1ウェル当たり200μlのPBSTで4回洗浄し、各洗浄工程の後、プレートをペーパータオル上で軽く叩いて乾燥させた。次に、100μlのTMB Ultra(Pierce,Thermofisher Scientific,Rockford,USA)を各ウェルに添加し、その後、室温で4〜30分間インキュベートした。各ウェルに2MのHSO(Merck KGaA,Darmstadt,Germany)を100μl添加することにより反応を停止させ、ELISAプレートリーダーを用いてOD450を測定した。
【0040】
結果を図1に示す。データは、試料が解析された全ての時点で、最適化された配列がフィブリノゲン発現を劇的に向上させることを明白に示している。最適化されたコンストラクトの発現レベルの増加は、7.9〜10.5倍の範囲である。
【0041】
実施例3 コドンが最適化されたフィブリノゲン420の無血清培養CHO細胞における一過性発現
トランスフェクションと解析は、実施例2に記載した通りに行なった。本実験で使用された伸長型Aα鎖cDNA配列は、最適化された伸長型Aα配列(配列番号7)であり、847アミノ酸の分泌型ポリペプチド(配列番号11)をコードしている。
【0042】
結果を図2に示す。これは、フィブリノゲン変異体(この場合、伸長型Aα鎖を有するFib420変異体)の発現レベルは、最適化された「野生型」Aα鎖変異体の増強レベルと同じ範囲にあることを明白に示している。
【0043】
実施例4 コドンが最適化されたフィブリノゲンcDNAから無血清条件下でヒトフィブリノゲンを安定に発現するCHO細胞の作製
本報告に記載の細胞株を作製するために、配列が最適化されたpcDNA3.1由来プラスミドを実施例1に記載した通りに使用した。簡潔に述べると、CHO−S細胞(Invitrogen)を、製造元の指示に従って、8mMのL−グルタミン(Invitrogen)が補充されたFreeStyle培地(Invitrogen)に植え継いだ。ごく普通に、10%(v/v)培養培地(=12.5ml)を含む125mlの振盪フラスコフォーマットで細胞を培養した。125rpmの水平振盪プラットフォーム上の37℃、5%COの加湿インキュベーターに培養物を入れた。製造元の指示に従って、CHO−S細胞(invitrogen)のトランスフェクションを行なった。トランスフェクション後、125rpmの水平振盪プラットフォーム上の37℃、5%COの加湿インキュベーターで培養物を一晩インキュベートした。
【0044】
トランスフェクション翌日、細胞を計数し、8mMのLグルタミンと選択薬剤のジェネティシン(Invitrogen)およびハイグロマイシンB(Invitrogen)(両方とも最終濃度500μg/ml)を補充したFreeStyle培地(これ以降、「選択培地」)中で96ウェルプレート(播種密度200細胞/ウェル)に播種した。各ウェルの培養容量は、100〜200μlであった。静止状態の37℃、5%COの加湿インキュベーターにプレートを入れた。週に2回、培地を100μlの選択培地と交換した。プレートを顕微鏡で細胞増殖についてスクリーニングした。10日後、耐性クローンが出現し始めた。これらのクローンを、500μlの選択培地を含む48ウェルプレートに移した。
【0045】
クローンが約50%コンフルエンスに達した時に、培地をサンプリングし、フィブリノゲン発現レベルについてのELISA解析を行なうまで−20℃で保存した(実施例2参照)。ELISA結果に基づいて、フィブリノゲン陽性のクローンを6ウェルプレートに植え継いだ。再び約50%コンフルエンスで、各クローンの培地をサンプリングし、ELISAで発現を解析した。ELISAデータに基づいて、選択された高発現クローンをT25フラスコに移し、3〜5日後にT75cmフラスコに移した。次に、細胞をシェーカー培養液に移し、この培養液中で、12.5mlの選択培地を含む125mlの振盪フラスコ中に0.2×10生細胞/mlの濃度で細胞を播種した。37℃、5%COの加湿インキュベーター中の125rpmのELMI水平シェーカー上にフラスコを置いた。0.5×10生細胞/mlを上回る細胞密度に達した後、再現性のある増殖特性が確立するまで(通常2週間以内)、週に3回、新鮮培地を含む新しい125ml振盪フラスコ中に0.2×10生細胞/mlの播種濃度で細胞を植え継いだ。選択クローンの培養物を選択培地中で維持した。
【0046】
バッチ試験のために、8mMのL−グルタミンを補充した12.5mlのFreeStyle培地を含む125mlの振盪フラスコ中で、選択クローンのシェーカー培養を開始した。培養物を0.2×10生細胞/mlで播種した。37℃、5%COの加湿インキュベーター中の125rpmのDOS−10−ELMI水平シェーカー上にフラスコを置いた。播種してから1、2、3、4、および7日後に試料を回収し、全体の細胞数と生存率(トリパンブルー染色による)を測定した。300×gの遠心分離で細胞から試料を取り除き、フィブリノゲン濃度の測定が可能になるまで上清を−20℃で保存した。
【0047】
ウェスタンブロッティングのために、フィブリノゲンを含む試料を、5μlの4×濃縮NuPAGE LDS試料緩衝液(Invitrogen,Paisley,UK)および2μlの10×濃縮NuPAGE試料還元剤(Invitrogen)と混合した。最終容量を脱イオン水(Invitrogen/Gibco)で20μlに合わせた。試料を70℃で10分間加熱し、製造元の指示に従って、NuPAGE Novexゲル(10%;Bis−Tris Miniゲル,Invitrogen)に充填した。ゲルを200ボルトで1時間泳動した。44mlの25×Novex Tris−グリシン転写緩衝液(Invitrogen)、836mlの脱塩水、および220mlのメタノール(Merck)を混合することにより、ブロッティング緩衝液を調製した。この溶液を−20℃で最低30分間予冷した。1枚のPVDFメンブレン(Pierce)をメタノール中で約15秒間活性化する。次に、このメンブレンと6枚のゲルブロッティング紙と2枚のブロッティングパッドを、数分間、ブロット緩衝液中でインキュベートした。−20℃で凍らせたコールドパックを入れたブロッティングチャンバー(Bio−Rad Laboratories,Hercules,USA)に置かれたブロットカセット中のゲルの上にメンブレンを置いた。タンパク質の転写は、ゲル/メンブレンアセンブリを挟んで100ボルトで1時間行なった。
【0048】
メンブレン上のフィブリノゲンバンドを可視化するために、プラットフォームシェーカー上の50mlのブロッティング緩衝液(PBS中3%の低脂肪粉乳(Elk,Campina,Meppel,The Netherlands))中で、ブロットをインキュベートした。次に、このブロットを50mlの洗浄緩衝液(PBS中0.05%のTween20)中で10分間洗浄し、1/2000希釈のHRPコンジュゲートモノクローナル抗体Y18/PO(Koppertら(1985)66,503)を含む10mlのブロッティング緩衝液とともに1時間インキュベートした。次に、このブロットを、50mlの洗浄緩衝液中で、短く(1分未満)2回、15分間1回、および5分間3回洗浄し、その後、50mlのPBS中で10分間インキュベートした。
【0049】
バンドをECL(カタログ#32209,Pierce)で可視化した。ChemiDoc−IT画像撮影システム(UVP,California,US)を用いて画像を取得した。
【0050】
安定クローンの作製を複数回行なった。7日間のバッチ培養で3ピコグラム/細胞/日(pcd)よりも多くを産生するクローンのみを回収した。いくつかのクローンは、7日間のバッチ培養で5pcdよりも多くを産生した。
【0051】
先に示したように、フィブリノゲン産生と産生されたフィブリノゲンの品質の両方について、クローンを試験した。高レベルのインタクトなフィブリノゲンを産生するクローンもあれば、インタクトな産物を産生するだけでなく、分解産物も示すクローンもあった。Aα鎖は、Bβやγと比較して、タンパク質分解に最も感受性があるので、スクリーニングツールによる主なスクリーニングは、第一に、Aα鎖の完全性を試験することに重点を置いた。典型的な例を図3に示す。図中、クローンM21がAα鎖の分解を明白に示しているのに対し、M25とM57はAα鎖の分解を示していない。これらの試料のBβとγの完全性についてのウェスタンブロット解析により、Aα鎖がタンパク質分解による分解を示す場合でも、これらの鎖はインタクトなままであることが示された。
【0052】
実施例5 ヒト変異体Fib420を発現する安定細胞株の作製
ヒトフィブリノゲンの変異体、すなわち、伸長型Aα鎖(625アミノ酸ではなく847アミノ酸)を有するFib420変異体を発現する安定細胞株を作製した。コドンが最適化されたコンストラクト(配列番号7)を使用し、実施例5に記載した通りに、無血清条件下でクローンを作製した。
【0053】
7日間のバッチ培養で3pcdよりも多くを産生する2つの陽性クローンの上清を、インタクトな伸長型Aα鎖(Fib420)について、ウェスタンブロット解析を用いて検討した。高産生クローンでも、Fib420のAα鎖は伸長しており、かつインタクトであることが明らかとなった(図4)。
【0054】
実施例6 コドンが最適化されたフィブリノゲンcDNAから無血清条件下でヒトフィブリノゲンを安定に発現するPER.C6細胞の作製
PER.C6細胞(Fallauxら(1998)Hum.GeneTher.9(13)1909)を組換えヒトフィブリノゲン発現のための宿主として使用した。簡潔に述べると、PER.C6細胞をmAb培地(SAFC,Hampshire,UK)中で懸濁培養し、AMAXA(Lonza,Cologne,Germany)ヌクレオフェクション装置(プログラムA−27)を用いて、NucleofectorキットTを用いて、ヒトフィブリノゲンタンパク質の3つの異なる鎖(Aα鎖、Bβ鎖、およびγ鎖)をコードする3つのベクターならびに最適化されたcDNA鎖(それぞれ、配列番号4、配列番号5、および配列番号6)を含む3つのベクターをトランスフェクトした。
【0055】
ヌクレオフェクション後、細胞をT−フラスコ中で1日間培養し、その後、96ウェルプレート(Greiner,Alphen a/d Rijn,The Netherlands)に1000〜3000細胞/ウェルの密度で播種した。次に、125μg/mlのジェネティシン(Invitrogen)を含むmAb培地を添加した。約3週間後、96ウェルプレートの個々のウェルの約10〜30%を占めるクローンが現れ、その後、これらのクローンを48ウェルプレート、24ウェルプレート、および6ウェルプレートに拡大し、次に、T25培養フラスコとT80培養フラスコに植え継いだ。拡大期間中、ヒトフィブリノゲンの発現レベルについて培養物をスクリーニングした。発現が少ない細胞と発現していない細胞は廃棄した。その後、細胞を振盪フラスコ(125ml、Corning)中で培養した。
【0056】
全体で、579個のクローンが96ウェルプレート中で同定された。拡大期間中のフィブリノゲン発現レベルに基づいて、43個のクローンを選択し、振盪フラスコに植え継いだ。増殖特性と産生特性に基づいて、これら43個の組換えヒトフィブリノゲン産生PER.C6細胞株のうちの10個を最初のバッチ試験用に選択した。6個の選択されたPER.C6(登録商標)細胞株のVPRO培地(SAFC)中でのバッチ試験により、容量産生レベルが最大279mg/L組換えヒトフィブリノゲンであり、具体的な生産性が19.8pcdであることが示された。最後に、サンプリングの時点で培地交換をしてVPRO培地中でのバッチ培養を行ない、これにより、累積的容量産生レベルが最大515mg/L組換えヒトフィブリノゲンとなった。
【0057】
実施例7 610アミノ酸のAα鎖を有するヒトフィブリノゲンを発現する安定なPER.C6細胞株の作製
血液循環中の優勢型の血漿フィブリノゲンのAα610をコードする発現プラスミドを作製するために、Aα鎖のアミノ酸1〜610をコードする、先に記載したように最適化されたcDNA断片(配列番号8)を、標準的な手順に従って、発現プラスミドpcDNA3.1(+)neoにクローニングした。組換えヒトフィブリノゲンを産生するPER.C6細胞株の作製は、先に記載したものと同様である(実施例6参照)。Aα鎖、Bβ鎖、およびγ鎖に用いた配列は、それぞれ、配列番号8、配列番号5、および配列番号6である。
【0058】
PER.C6細胞のトランスフェクションと96ウェルプレートへのプレーティングの後、310個のクローンを移し、48ウェルプレート中でスクリーニングした。拡大コースの最後に、これら310個のうちの24個をシェーカーフラスコに移し、そのうちの8個を、最初のバッチ試験の後に、バッチ培養での安定性試験と生産性試験のために選択した。
【0059】
バッチ培養での生産量は、625アミノ酸フォーマットのAα鎖を発現する細胞株で得られる生産量と同様であり、610アミノ形態をコードするcDNAからのAα鎖の発現によって発現レベルが損なわれないことが明白に示された。
【0060】
SDS−PAGEとウェスタンブロッティング解析を用いたタンパク質解析により、組換えフィブリノゲンはインタクトなフォーマットで産生されることが示された。
【0061】
実施例8 伸長型Aα鎖ベースの組換えヒトフィブリノゲン(Fib420変異体)を発現するPER.C6細胞株
組換えヒトフィブリノゲンを産生するPER.C6細胞株の作製は、先に記載したものと同様である(実施例6および7参照)。手短に述べると、Aα鎖、Bβ鎖、およびγ鎖に用いた配列は、それぞれ、配列番号7、配列番号5、および配列番号6である。
【0062】
トランスフェクションと96ウェルプレートへのプレーティングの後、325個のクローンを移し、48ウェルプレート中でスクリーニングした。拡大コースの最後に、24個のクローンをシェーカーフラスコに移し、そのうちの8個を、継続的なバッチ培養試験での安定性解析と発現解析のために選択した。
【0063】
バッチ培養での生産量は、610または625アミノ酸フォーマットのAα鎖を発現する細胞株で得られる生産量と同様であり、Aα鎖の伸長によって発現レベルが損なわれないことが示された。血漿由来フィブリノゲンは、610/625Aα鎖を含むフィブリノゲンと比較して、1〜3%の伸長型Aα鎖しか含まないので、これは事前に予想されなかった。SDS−PAGEとウェスタンブロッティング解析を用いたタンパク質解析により、組換えフィブリノゲンはインタクトなフォーマットで産生され、α鎖は予想されるサイズ(図4に示される、CHOにより産生されるFib420由来Aα鎖と類似している)を有することが示されている。
【0064】
実施例9 γ’コドンが最適化されたフィブリノゲンの無血清培養CHO細胞における一過性発現
一過性トランスフェクションと解析は、実施例2に記載した通りに行なった。本実験で使用された伸長型γ’鎖cDNA配列は、最適化された伸長型γ’配列(配列番号12)であり、453アミノ酸のポリペプチドをコードしている。シグナル配列の除去後、427アミノ酸の分泌型ポリペプチド(配列番号13のアミノ酸27〜453)。
【0065】
結果は、γ’鎖を有するフィブリノゲン変異体の発現レベルは、最適化された「野生型」変異体の増強レベルと同じ範囲にあることを示した。培養上清をウェスタンブロッティング解析で解析した。結果(図5)は、レーン1のγ’鎖組換えフィブリノゲンが、レーン2の「野生型」フィブリノゲンよりもゆっくりと泳動することを示している。このことは、組換えフィブリノゲン中のγ’鎖は、血漿由来フィブリノゲン中のγ鎖と比較して伸長していること、およびγ’鎖はインタクトであり、分解されていないことを示している。
【0066】
実施例10 組換えヒトフィブリノゲンの精製
実施例6の組換えヒトフィブリノゲンを、標準的な方法に従って、細胞培養上清から精製した。簡潔に述べると、(NH)2SOを40%飽和になるまで培養上清に添加し、沈殿を遠心分離により回収した。その後、沈殿をTBS(50mM Tris−HCl、pH7.4、100mM NaCl)に溶解し、ローディング緩衝液(5mM Tris−HCl pH7.4、0.01% Tween−20、0.5M (NH)2SO)に希釈し(10倍)、HiTrap Butyl FF(20ml)(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)疎水性相互作用カラム(HIC)に充填した。結合タンパク質を、20カラム容量中0.5−0Mの(NH)2SOの(NH)2SO勾配を含むローディング緩衝液で溶出した。HIC精製のピーク画分を、TMAEローディング緩衝液(5mM Tris−HCl pH8.5、0.01% Tween−20)に対する透析により緩衝液交換にかけ、その後、Fractogel EMD TMAE(m) 40−90μm(20ml)(Merck KGaA,Darmstadt,Germany)イオン交換カラムに充填した。その後、20カラム容量中0−1MのNaClの連続塩勾配を用いて、組換えヒトフィブリノゲンを溶出した。(NHSOを40%飽和になるまで添加することにより、ピーク画分中の組換えヒトフィブリノゲンを再び沈殿させ、遠心分離により回収した。最後に、この物質をTBS(50mM Tris−HCl、pH7.4、100mM NaCl)に溶解し、TBSに対して透析して、残りの(NHSOを全て除去した。
【0067】
実施例11 組換えフィブリノゲンの機能性
品質と機能性を評価するためにおよび血漿由来フィブリノゲンと比較するために、実施例6で作製された細胞株により産生された、精製組換えPER.C6フィブリノゲンをいくつかの試験にかけた。フィブリノゲンのN−グリコシル化は、N−結合型の糖質構造をタンパク質から除去するアミダーゼ(Maley,Fら(1989)Anal.Biochem.180,195)である、PNGアーゼFでフィブリノゲンを処理することにより試験した。PER.C6培養物に由来する精製フィブリノゲンと血漿由来フィブリノゲン(FIB3ヒトフィブリノゲン、ERL)の試料を、製造元の指示に従って、PNGアーゼF(New England Biolabs,Ipswich,MA,US)で処理した。
【0068】
結果(図6)は、PNGアーゼF処理により、血漿由来FIB3(ERL)とPER.C6ベースのフィブリノゲンの両方について、SDS−PAGEで測定されるように、Bβ鎖とγ鎖の分子量が減少することを示している。これは、両方の鎖がN−グリコシル化部位を1つ含むという事実(Henschen−Edman(2001)Ann.N.Y.Acad.Sci.USA 936,580)と一致している。データは、PNGアーゼF処理の前と後の両方で、Bβ鎖とγ鎖の両方について、はっきりと異なる単一バンドが見られることを示している。これは、血漿由来フィブリノゲンに関して、組換えフィブリノゲン中のこれらの鎖の全てがグリコシル化されていることを示している。ヒトフィブリノゲンのAα鎖はN−グリカンを含まないので、分子量はPNGアーゼF処理で変化しない。結論として、これらのデータは、PER.C6ベースのフィブリノゲンのN−グリコシル化パターンが血漿由来の対応物と同様であることを示している。
【0069】
PER.C6由来フィブリノゲンの生物活性を、Koopmanら(1992)Blood 80(8):1972に記載の通りに実行される、重合アッセイでさらに試験した。得られた結果は、CHO由来ヒトフィブリノゲンで得られた結果と同様であった。このアッセイは、フィブリノゲンがトロンビン作用下で重合してフィブリンを形成するのを測定する。重合は、時間内にOD350nmを記録することにより測定する。血漿中の組換えPER.C6フィブリノゲンの重合は、血漿由来フィブリノゲンやCHO由来フィブリノゲンと同等であった。
【0070】
記載したように精製されたPER.C6由来フィブリノゲンの凝固能は、α−トロンビン(7.5IU/ml)(ERL,Swansea,UK)とCaCl2(最終濃度2mM)を添加し、その後、37℃で1時間インキュベートすることにより試験した。次に、得られた凝血塊をエッペンドルフバイアル中で遠心分離により回収した(15分、5000rpm、エッペンドルフ遠心分離機)。上清を新しいチューブに移し、凝血塊をアルカリ尿素に溶解した。タンパク質をA280測定により上清中と凝血塊中で測定した。上清のフィブリノゲン含有量をELISA(G8−Y18抗体)で測定した。結果は、血漿由来フィブリノゲンとPER.C6由来フィブリノゲンについて同じであり、それぞれ、タンパク質の97%と94%が、溶解した凝血塊中で測定された(上清中に5%と8%)。フィブリノゲンをELISAで上清中に検出することができなかった。これらの結果は、血漿由来フィブリノゲンと組換えヒトフィブリノゲンの生物学的類似性をさらに裏付ける。
【0071】
組換えフィブリノゲンと血漿由来フィブリノゲンの凝固時間や凝血塊硬度を、ROTEM解析を用いて測定した。ROTEM(登録商標)(Pentapharm GmbH,Munich,Germany)は、ROtation ThromboElastoMetry(回転血栓弾性測定法)を表す。この技術は、使い捨てキュベット中の(血液)試料に浸した回転軸を利用する。様々な凝固条件下での弾性変化が軸の回転の変化を生じさせ、この変化を、機械的な凝血塊パラメータを反映するトロンボエラストグラムで可視化する(例えば、Luddington R.J.(2005)Clin Lab Haematol.2005 27(2):81を参照されたい)。プール正常(クエン酸)血漿を、Haemocomplettan(CSL Behring GmbH,Marburg,Germany)またはPER.C6フィブリノゲン(両方ともTBS中に2mg/ml)と1:1で混合した。CaClを最終濃度17mMになるまで添加した。凝固を開始させるために、α−トロンビンを最終濃度1IU/mlになるまで添加した。凝固時間と凝血塊強度をROTEMで解析した。
【0072】
クエン酸血漿を希釈すると、凝固時間と凝血塊硬度の両方が低下した。この結果は、精製フィブリノゲンの添加によって希釈血漿中のフィブリノゲンレベルを回復させると、凝固時間(図7)と凝血塊強度(図8)の両方が、血漿由来フィブリノゲンや組換えフィブリノゲンと同じ程度にまで回復することを示している。同様のデータは、CHOベースの組換えフィブリノゲンでも得られた。
【0073】
これらの結果は、組換えヒトフィブリノゲンが遺伝性フィブリノゲン血症患者や後天性フィブリノゲン欠損症患者のフィブリノゲン欠損を補うための優れた代替物であることを示している。
【0074】
実施例12 ヒト血液でのROTEM解析
組換えヒトフィブリノゲンをフィブリノゲン欠損症患者の治療に使用することができることをさらに示すために、健康なヒト個体由来の血液で実験を行なった。血液を乳酸リンゲル(Baxter,Utrecht,The Netherlands)と1:1に希釈することにより、フィブリノゲン欠損を模倣した。次に、実施例11に記載されたROTEM解析を用いて、凝血塊形成時間と凝血塊硬度を測定した。乳酸リンゲルで1:1に希釈した血液中のフィブリノゲンレベルを回復させるために、血漿由来フィブリノゲンまたは組換えフィブリノゲンのいずれかを添加した。
【0075】
データ(図9)は、低いフィブリノゲンレベルを有する患者の臨床症状と同様に、乳酸リンゲルで希釈した血液の凝血塊形成時間が正常範囲から外れていたことを示している。組換えフィブリノゲンまたは血漿由来フィブリノゲンのいずれかを添加すると、凝血塊形成時間が正常範囲内のレベルにまで回復した。これは、フィブリノゲンレベルの低い患者の静脈内治療に対する組換えフィブリノゲンの可能性を示している。
【0076】
血液を乳酸リンゲルで希釈した場合、最大凝血塊硬度(MCF)は、患者の出血リスクと関連するレベルにまで低下した(図10)。フィブリノゲンレベルを血漿由来フィブリノゲンまたは組換えフィブリノゲンで補った場合、MCFは正常レベルにまで回復し、それにより、フィブリノゲンレベルの低い患者の静脈内治療に対する組換えフィブリノゲン使用の可能性が強調される。米国でのRiastapの承認に関して、臨床的有効性は代用エンドポイントに基づくものであり、これがトロンボエラストグラフィーで測定される最大凝血塊硬度であったことに注目すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞培養系での発現に最適化されたフィブリノゲンアルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖をコードするヌクレオチド配列。
【請求項2】
COS細胞、BHK細胞、NS0細胞、CHO細胞、Sp2/0、またはヒト細胞培養系での発現に最適化された、請求項1に記載のヌクレオチド配列。
【請求項3】
PER.C6細胞またはHEK293細胞培養系での発現に最適化された、請求項1または2に記載のヌクレオチド配列。
【請求項4】
好ましくは少なくとも0.95のコドン適応指数で、コドン使用頻度をCHO細胞に適応させるにことより最適化された、請求項1〜3に記載のヌクレオチド配列。
【請求項5】
少なくとも55%のGC含有量を有する、請求項1〜4に記載のヌクレオチド配列。
【請求項6】
そのそれぞれの最適化されていない対応物と少なくとも70%の同一性を示す、請求項1〜5に記載のヌクレオチド配列。
【請求項7】
コドンが最適化されたフィブリノゲン鎖がcis作用部位を含まない、請求項1〜6に記載のヌクレオチド配列
【請求項8】
配列番号4もしくは7のヌクレオチド配列、もしくはその部分、または配列番号4もしくは7と少なくとも85%同一な配列を有し、かつフィブリノゲンアルファ鎖をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項1〜7に記載のヌクレオチド配列。
【請求項9】
配列番号5もしくは8のヌクレオチド配列、もしくはその部分、または配列番号5と少なくとも85%同一な配列を有し、かつフィブリノゲンベータ鎖をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項1〜7に記載のヌクレオチド配列。
【請求項10】
配列番号6もしくは12のヌクレオチド配列、もしくはその部分、または配列番号6もしくは12と少なくとも85%同一な配列を有し、かつフィブリノゲンガンマ鎖をコードするヌクレオチド配列を有する、請求項1〜7に記載のヌクレオチド配列。
【請求項11】
請求項1〜10に記載のヌクレオチド配列を含むヌクレオチドコンストラクト。
【請求項12】
請求項1〜10に記載のヌクレオチド配列または請求項11に記載のヌクレオチドコンストラクトを含む細胞。
【請求項13】
インタクトな組換えフィブリノゲンを少なくとも3ピコグラム/細胞/日のレベルで産生する細胞または細胞株。
【請求項14】
真核細胞培養系でフィブリノゲンを産生する方法であって、フィブリノゲンが産生される条件下で請求項12または13に記載の細胞または請求項13に記載の細胞株を培養すること、および任意で、産生された該フィブリノゲンを回収することを含む、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法により調製されるフィブリノゲン製剤。
【請求項16】
前記アルファ鎖、ベータ鎖、またはガンマ鎖の10%よりも多くが変異体型であるフィブリノゲン製剤。
【請求項17】
前記変異体型がガンマプライム鎖またはアルファ伸長鎖である、請求項16に記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項18】
医薬品として、組織シーラントとして、または組織の接着を促進するために使用される、請求項14〜17に記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項19】
フィブリノゲン欠損症の治療または予防用の医薬品を調製するための請求項14〜18に記載のフィブリノゲン製剤の使用。
【請求項20】
前記フィブリノゲンの85%よりも多くがインタクト形態である、組換え技術により産生されるフィブリノゲン製剤。
【請求項21】
インタクトな組換えフィブリノゲンを産生する細胞または細胞株を選択する方法であって、2つの抗体の使用を含み、ここで、一方の抗体が前記アルファ鎖のインタクトなN末端に選択的に結合し、もう一方の抗体が前記アルファ鎖のインタクトなC末端に選択的に結合する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−527190(P2011−527190A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517161(P2011−517161)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058754
【国際公開番号】WO2010/004004
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(511006214)プロフィブリックス ビーブイ (3)
【Fターム(参考)】