説明

組換えIGF発現系

本発明は,容易に加工して適切なN末端を有するIGFを与える高レベルの融合蛋白質を生じさせる融合コンストラクトを用いて,成熟インスリン様成長因子(IGF)を製造するための核酸配列,発現系,宿主細胞,ポリペプチドおよび方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は,米国特許仮出願60/477,941(2003年6月13日出願)に基づく優先権を主張する。この出願は,本明細書の一部としてここに引用する。
【0002】
本発明は,高レベルの生成物が得られ,これを容易に加工してヒトで使用するのに適切なN末端を有するIGFを得ることができる,組換えインスリン様成長因子(IGF)発現系を提供する。
【背景技術】
【0003】
組換え製造は,治療用の蛋白質を,天然の起源から蛋白質を精製するうえでの困難性および危険性を回避しながら,大量に製造することを可能とする。ヒト蛋白質の場合,組換え製造は,しばしば治療用製品の商業的な販売に必要な量の蛋白質を製造する唯一の実用的な方法である。組換え製造はまた,労働者がヒト体液および組織に曝露されることをなくし,ウイルスなどの感染性病原体に曝露される可能性を回避する。
【0004】
組換え製造は,組換え宿主細胞において所望の蛋白質をコードするDNAコンストラクトを発現させることを含む。宿主細胞は原核生物(例えば,Escherichia coli等の細菌)であっても真核生物(例えば酵母または哺乳動物細胞株)であってもよい。大規模組換え製造においては,細菌または酵母宿主細胞が最も一般に用いられている。これは,これらの生物の操作および増殖が簡単であること,およびこれらの生物が比較的単純な成長培地を必要とするためである。
【0005】
しかし,組換え製造には困難も伴う。特定の蛋白質に,および特定の宿主細胞について,発現コンストラクトを最適化しなければならない。宿主細胞において組換え蛋白質を発現させることは,組換え蛋白質を新たな組の宿主細胞酵素,例えばプロテアーゼに曝露することであり,これらの酵素は,組換え蛋白質を改変する可能性があり,分解することもできる。組換え蛋白質の改変および分解は,収率を低下させ,組換え蛋白質の精製を複雑なものにする場合があるため,望ましくない。細菌の細胞質で過剰発現されたポリペプチドは,しばしば不溶性の"インクルージョンボディー"として蓄積する(Williams et al.,Science 215:687−688(1982);Schoner et al.,Biotechnology 3:151−154(1985))。インクルージョンボディーの形で蓄積されたポリペプチドはあまり役にたたない。この不溶性物質を活性な可溶性のポリペプチドに変換するためには,遅くかつ困難な可溶化および再フォールディングのプロトコルが必要であり,これはしばしば生物学的に活性なポリペプチドの正味収率を低下させる。この問題はIGFの製造に特に影響を与えており,“再フォールディング問題”を解決するために多くの試みがなされてきた。ポリペプチドが細菌の細胞質中で可溶性の形で発現された場合であっても,これらはしばしば宿主プロテアーゼによる分解のためにほとんど蓄積されない。さらに,蓄積されたポリペプチドはしばしば所望のアミノ末端を欠失している。この問題は一般に,所望のポリペプチドのN末端をキャリア蛋白質に融合させた融合蛋白質の発現による取り組みがされている。
【0006】
しかし,融合ポリペプチドの使用には欠点がある。酵素的または化学的手段により所望のポリペプチドを融合パートナーから切り離すことがしばしば必要である。これは,融合パートナーと所望のポリペプチドとの間に切断用の適当な標的配列を配置することにより達成することができる。残念ながら,ポリペプチド切断に最も広く使用されている酵素は高価であるか,その切断が不十分または不正確であり,ほとんどの融合コンストラクトに首尾良く適用することができない。例えば,哺乳動物酵素であるエンテロキナーゼおよび第Xa因子は,製造が高価であり切断効率に大きな変動を示す。一方,ズブチリシンなどの酵素は,製造は比較的安価であるが,その正確性は現在の"適正製造基準(Good Manufacturing Practices)"(GMP)の元での商業的な規模のプロセスでは許容しえないものである。ヒトライノウイルス14プロテアーゼ(3Cプロテアーゼと称される)は,グリシン残基のすぐN末端側のアミノ酸配列E−(VまたはT)−L−F−Q−G−Pを切断する,丈夫な,正確な,安価な酵素である。3Cプロテアーゼは,dsbA−IGF融合コンストラクトからIGFを切断するのに用いられている(Olson et al.,Protein Expr Purif.14:160−166(1998))。しかし,dsbA−IGFの実質的な部分は切断に抵抗性であるため,3Cプロテアーゼは,3C部位を含有するIGF融合コンストラクトに普遍的に適用することはできない。
【0007】
特許文献は,IGFの製造のための多数の融合系を記述し,そのそれぞれはある種の利点および欠点を有する。例えば,天然の成熟IGF−1をコードするコンストラクト(追加のメチオニンを含む)の発現レベルは低い。発現を増強するために様々な方法が開発された。これには,例えば,融合パートナーの使用(Schulz M.F.et al.,J.Bact.169:585−53921(1987)),および多数のプロテアーゼの欠損宿主の使用(Buell et al.,Nucleic Acids Res.13:1923−1938(1985))が含まれる。しかし,これらのプロテアーゼ欠損宿主の成長特性は,高強度発酵には理想的ではない。また,単にN末端にMet−Arg−Lysを付加することにより良好な発現が得られることが見いだされているが,この方法によっては真正のIGF−1を製造することができない(Belagaje et al.Protein Sci.6:1953−19623(1997))。
【0008】
IGF融合コンストラクトを設計する際にしばしば見逃される別の問題点は,融合パートナーは本質的には無駄な生成物であるということである。原核生物は限定された量の組換え蛋白質しか発現することができず,典型的には,細胞の乾燥重量の40%までである。融合パートナーがIGFと比較して大きい蛋白質であれば,IGFの有効量は減少する。例えば,dsbA−IGF融合蛋白質は約31,500ダルトンであり,このうちIGFは約7,500ダルトン,すなわち,総融合蛋白質の約24パーセントである。米国特許5,629,172を参照。すなわち,比例して小さい融合パートナーを用いることによりIGF蛋白質製造の効率を増強することができる。
【0009】
効率的な融合パートナーを同定することは,典型的には多くの試行錯誤を伴う困難な課題である。したがって,組換えIGFの産生を高めるためには,より効率的な融合パートナーを用いる改良されたコンストラクトが必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって,本発明の種々の観点においては,核酸配列,発現系,宿主細胞,ポリペプチド,および組換えインスリン様成長因子(IGF)を製造する方法が提供される。
【0011】
1つの態様においては,本発明は,以下のポリペプチド配列:
MQIFVKTLTGK[X10-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は0−30アミノ酸のポリペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;IGFはN末端IGF−Iである]
をコードする核酸配列を提供する。別の態様においては,本発明は,式中,X1がTITLEVまたはTITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ,またはアミノ酸なし(すなわちゼロ)を表す,上述のポリペプチドをコードする核酸を提供する。
【0012】
別の態様においては,本発明は,以下のポリペプチド配列:
MQIFVKTLTGK[X10-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は0−30アミノ酸のポリペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;IGFはN末端IGF−Iである]
をコードする蛋白質発現ベクターを提供する。別の態様においては,本発明は,式中,X1がTITLEVまたはTITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ,またはアミノ酸なし(すなわちゼロ)を表す,上述のポリペプチドをコードする蛋白質発現ベクターを提供する。
【0013】
別の態様においては,本発明は,以下の配列:
MQIFVKTLTGK[X10-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は0−30アミノ酸のポリペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;IGFはN末端IGF−Iである]
の蛋白質を提供する。別の態様においては,本発明は,式中,X1がTITLEVまたはTITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ,またはアミノ酸なし(すなわちゼロ)を表す,上述の配列の蛋白質を提供する。
【0014】
さらに別の態様においては,本発明は以下の配列:
MQIFVKTLTGK[X10-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は0−30アミノ酸のポリペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;IGFはN末端IGF−Iである]
の蛋白質を発現する組換え宿主細胞を提供する。別の態様においては,本発明は,式中,X1がTITLEVまたはTITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ,またはアミノ酸なし(すなわちゼロ)を表す,上述の配列の蛋白質を提供する。1つの態様においては,宿主細胞は原核生物である。別の態様においては,宿主細胞は真核生物である。
【0015】
別の態様においては,本発明はIGFを発現させる方法を提供し,この方法は,宿主細胞を上述の発現ベクターでトランスフェクトし,これらの細胞を蛋白質発現を可能とする条件下で培養し,細胞,上清または培養液から蛋白質を単離することを含む。1つの態様においては,発現ベクターは,式中,X1がTITLEVまたはTITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ,またはアミノ酸なし(すなわちゼロ)を表す,上述の配列の蛋白質をコードする。1つの態様においては,宿主細胞は原核生物であり,別の態様においては,宿主細胞は真核生物である。
【0016】
本発明はまた,N末端IGFを製造する方法を提供し,ここで,切断混合物は,カオトロピック溶液,3Cプロテアーゼ,および以下の配列:
MQIFVKTLTGK[X10-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は0−30アミノ酸のポリペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;IGFはN末端IGF−Iである]
のポリペプチドを含むよう調製される。1つの観点においては,本発明の方法は,式中,X1がTITLEVまたはTITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQであるか,またはアミノ酸なし(すなわちゼロ)を表す,上述の配列の蛋白質を含む切断混合物を用いる。切断混合物はさらに還元剤,例えばジチオスレイトールを含み,溶液/液体の形でありうる。
【0017】
本発明の他の目的,特徴および利点は,以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。詳細な説明および特定の実施例は,好ましい態様を示すが,例示のためにのみ提供されるものであり,当業者にはこの詳細な説明から本発明の精神および範囲内での種々の変更および改変が明らかとなるであろう。さらに,実施例は本発明の原理を示しており,従来技術の分野の当業者に明らかに有用なすべての例に対する本発明の適用を特定的に例示していると期待することはできない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面の説明
図1は,ヒトIGFの核酸配列(配列番号13)およびアミノ酸配列(配列番号21)を提供する。
【0019】
図2は,本明細書に記載される7つのIGF−I融合コンストラクトのアミノ酸配列(配列番号14から配列番号20)を提供する。
【0020】
図3は,本明細書に記載される7つのIGF−I融合コンストラクトの分子量,発現の特性,発現収率,およびプロテアーゼ切断の比較を記載する。
【0021】
図4は,全長ユビキチン−3C−IGFおよびTR41 Ubi−3C−IGF蛋白質の可溶性および不溶性の特性を示す。SDS−PAGEゲルに以下を負荷した:(M)分子量標準;(1)ユビキチン−IGF標準物質;(2)空レーン;(3)全長ユビキチン−3C−IGF総細胞抽出物;(4)全長ユビキチン−3C−IGF可溶性細胞抽出物;(5)全長ユビキチン−3C−IGF不溶性細胞抽出物;(6)空レーン;(7)TR41 Ubi−3C−IGF総細胞抽出物;(8)TR41 Ubi−3C−IGF可溶性細胞抽出物;および(9)TR41 Ubi−3C−IGF不溶性細胞抽出物。
【0022】
図5は,TR11 Ubi−3C−IGFおよびTR17 Ubi−3C−IGF蛋白質の可溶性および不溶性の特性を示す。SDS−PAGEゲルに以下を負荷した:(M)分子量標準;(1)空レーン;(2)TR11 Ubi−3C−IGF総細胞抽出物;(3)TR11 Ubi−3C−IGF可溶性細胞抽出物;(4)TR11 Ubi−3C−IGF不溶性細胞抽出物;(5)空レーン;(6)空レーン;(7)TR17 Ubi−3C−IGF総細胞抽出物;(8)TR17 Ubi−3C−IGF可溶性細胞抽出物;および(9)TR11 Ubi−3C−IGF不溶性細胞抽出物。
【0023】
図6は,dsba−3C−IGF,全長ユビキチン−3C−IGF,およびTR41 Ubi−3C−IGFの相対的分子量,およびこれらの蛋白質の切断産物,例えば,成熟IGFを表す。SDS−PAGEゲルに以下を負荷した:(M)分子量標準;(1)IGF標準物質;(2)IGF標準物質;(3)dsbA−3C−IGF細胞抽出物;(4)dsbA−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(5)dsbA−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(6)dsbA−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(7)全長ユビキチン−3C−IGF細胞抽出物;(8)全長ユビキチン−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(9)全長ユビキチン−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(10)全長ユビキチン−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(11)TR41 Ubi−3C−IGF細胞抽出物;(12)TR41 Ubi−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;(13)TR41 Ubi−3C−IGF細胞抽出物/3C切断;および(14)TR41 Ubi−3C−IGF細胞抽出物/3C切断。
【0024】
詳細な説明
IGFを製造するためのDNAコンストラクトが提供される。本発明のコンストラクトは,ユビキチン由来ペプチド,3Cプロテアーゼ切断部位,およびN末端IGFを含む融合コンストラクトを用いる発現系の収率を劇的に改善することにより,IGFの産生を高める。
【0025】
1つの態様においては,約11個の連続するアミノ酸からなる蛋白質ユビキチンからの短いペプチド配列を用いて,E.coliにおけるIGFの高レベル発現を与える。別の態様においては,3C蛋白質からのプロテアーゼ切断部位をIGF融合コンストラクト中に組み込むことができる。別の態様においては,配列E−V/T−L−F−QのC末端を有する小さい蛋白質をIGFとインフレームで融合させることができる。IGFのN末端はアミノ酸G−Pで始まるため,得られる融合蛋白質はプロテアーゼ切断部位E−V/T−L−F−Q//G−Pを含む。3Cプロテアーゼはこの切断部位(本明細書においては“//”で表す)を認識し,コンストラクトからIGFを放出する。すなわち,本発明の1つの観点においては,ヒトIGFを効率よく製造するための原核生物発現系が提供される。さらに,本発明のコンストラクトおよび方法は,組換えIGFの収率を劇的に改善する。
【0026】
定義
特に定義しない限り,本明細書において用いられるすべての技術的および科学的用語は,本発明の属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。同様に,本明細書において用いられる術語は特定の態様を記述するのみであり,本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0027】
核酸コードおよびアミノ酸コードは,IUB Nomenclature Committee(Eur.J.Biochem.150:1−5(1985),本明細書の一部としてここに引用する)に記載されている1文字表記により表すことができる。同様に,遺伝子および蛋白質,例えば制限エンドヌクレアーゼは,当該技術分野においてよく認識されている短縮形で表現することができる(KotykA.,ed.,Quantities,Symbols,Units,and Abbreviations in the Life Sciences:A Guide for Authors and Editors,Totowa,N.J.,Humana Press(1999))。
【0028】
本明細書において用いる場合,“N末端IGF”とは,IGF−I,特にヒトIGF−Iをコードするポリペプチドであって,N末端の最初の2つのアミノ酸がそれぞれグリシン(G)およびプロリン(P)であるものを表す。N末端IGFとしては,限定されないが,全長IGF,C末端トランケート型のIGF,N末端IGFのキメラ,およびN末端アミノ酸GおよびPが改変されていないIGFの点突然変異体が挙げられる。N末端IGFの特定の例は,図に単独でまたは完全な融合コンストラクトのメンバーとして示されている。さらなる例として,“N末端IGF”は,N末端の最初の3アミノ酸が欠失した天然に生ずるトランケート型のIGF−I(以下“des(1−3)−IGF−I”と称する)を包含しない。Hedingら(J.Biol.Chem.,271:13948−13952(1996))を参照。
【0029】
本明細書において用いる場合,“GP−IGF”とは,融合コンストラクトから切断されてヒトIGFの適切なアミノ末端配列を有するポリペプチドとして得られたIGFを表す。
【0030】
本明細書において用いる場合,“成熟IGF”とは,有用な生物学的特性を示すように再フォールディングされ任意に単離されているGP−IGFを表す。当該技術分野においては,細胞または同化成長を刺激する(アゴニスト活性により)IGF分子,細胞または同化成長をアンタゴナイズする(アンタゴニスト活性により,またはアゴニストIGFを置き換えることにより[いわゆる“ヌルIGF”])IGF分子,および1またはそれ以上のインスリン様成長因子結合蛋白質に結合するIGF分子における有用性が認識されている。
【0031】
本明細書において用いる場合,“発現系”とは,標的核酸の発現またはポリペプチドの産生および/または組立てを指示するために用いられる単一の核酸または複数の核酸を表す。本発明の発現系は,その形態において特に制限はなく,プラスミドに基づく形であってもよく,標的配列の染色体インテグレーションを指示する形であってもよい。Sambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual,New York,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989));米国特許5,470,727を参照。
【0032】
本明細書において用いる場合,“宿主細胞”とは,1つの態様においては,細菌,特にE.coli宿主株を表し,これには,K株およびB株およびこれらの誘導体,例えばプロテアーゼ欠損株が含まれる。別の態様においては,この用語は,真核生物細胞,例えば酵母または実験室において繁殖するよう不死化されている組織培養細胞株を表す。さらに別の態様においては,この用語は,動物,植物,菌類,または昆虫組織に由来する細胞を表す。
【0033】
本明細書において用いる場合,“3Cプロテアーゼ”とは,アミノ酸配列E−(VまたはT)−L−F−Q−G−Pを認識するプロテアーゼを表す。プロテアーゼはグリシンのN末端側の配列を切断する。“3Cプロテアーゼ”との命名は,ヒトライノウイルス14プロテアーゼに由来し,当業者には3Cとして知られている。Stanwayら(Nucleic Acids Res.12:7859−75(1984))を参照。
【0034】
以下の実施例は,本発明の種々の態様を例示するために提供され,いかなる意味においても本発明の範囲を制限するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0035】
実施例1. Ubiq−3C−IGF−1発現ベクターの製造
5’3Cプロテアーゼ切断部位を含むヒトIGF−1遺伝子(以下3C−IGF−1と称する)を3つの発現ベクター中にクローン化した。
【0036】
A.発現ベクターのクローニングおよび確認
ヒトIGF−1(Celtrix Pharmaceuticals,Inc.,Glen Allen,VA)(そのヌクレオチドおよびアミノ酸配列が図1に示される)を,3Cプロテアーゼ切断部位の6個のアミノ酸およびメチオニンをコードするオリゴヌクレオチドとともにベクターpET29aおよびpPopにクローニングした。この融合戦略は,IGF−1の可能な最も小さい融合パートナーを表し,これを用いて蛋白質の蓄積および分解を研究した。
【0037】
3C−IGF−1を,pUC19のLacZ遺伝子(23アミノ酸)の下流にクローニングして,2番目に小さい融合遺伝子を作成した。
【0038】
それぞれの例において,IGF遺伝子は,プラスミドp10723(Celtrix Pharmaceuticals,Inc.,Glen Allen,VA)中に存在するE.coliコドン最適化IGF配列からPCRを用いて増幅した。pPopおよびpET29a−PCRプライマーは,ベクターへのクローニングを容易にするために,それぞれ5’末端および3’末端にNdeIおよびBamHI部位を組み込むように設計した。3Cプロテアーゼ切断部位は5’NdeI部位のすぐ下流にIGF配列とインフレームになるように組み込んだ。pUC19−PCRプライマーは,ベクターへのクローニングを容易にするため,それぞれ5’末端および3’末端にSacIおよびEcoRI部位を組み込むように設計した。3Cプロテアーゼ切断部位はSacI部位の下流に組み込んだ。PCRプライマーは下記の表に示される。
【0039】
【表1】

【0040】
各3C−IGFコンストラクトについて,IGF遺伝子をExpand High Fidelity PCRシステム(Roche Diagnostics Corporation,Indianapolis,IN)を用いて製造元の指針にしたがって増幅した。典型的なPCR反応においては,2μlのプラスミドDNAを,5μlのMgCl2を含む10xExpandバッファ,1μg/μlの各プライマー1μl,2μlの10mMヌクレオチドミックスと混合し,滅菌脱イオン水で最終容量50μlとした。
【0041】
PCRサイクルは,サーモサイクラー(Eppendorf Master Cycler,Brinkmann Instruments,Inc.)で行い,変性,アニーリングおよび重合を含むものであった。各PCRについて同じサイクルを用いた。PCRの第1段階では,テンプレートDNAを94℃で2分間加熱することにより変性させた。反応混合物にExpand High Fidelity Taqポリメラーゼを加えた。第2段階においては,反応液を94℃で1分間変性させ,60℃で30秒間冷却してプライマーをアニーリングさせ,72℃で1分間加熱してDNA伸長を行わせた。続いて35サイクルを行った。35サイクルの後,72℃で最終の10分間の加熱工程を行った後,サンプルを4℃に冷却した。
【0042】
得られた3C−IGFPCR産物はアガロースゲル電気泳動により分析した。PCR産物が正しいサイズの約230bpであることを確認した後,これをTOPOTAクローニングキット(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA)を用いて製造元の指針にしたがってベクターpCR2.1(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA)にサブクローニングした。ライゲーションの後,pCR2.1/3C−IGF−1をE.coli Top10F’細胞(Invitrogen Corporation,Carlsbad,CA)にトランスフォームした。トランスフォーマントはカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天上で選択した。
【0043】
推定3C−IGF−1PCRクローンは,まず全細胞溶解調製物を用いて分析して,プラスミドDNAの存在およびそのおよそのサイズを決定した。クローンを制限酵素で消化して,3C−IGF−1遺伝子を切り出し,その存在を確認した。pPopへのライゲーションを意図して,3C−IGF−1をサブクローンから切り出すためにNdeIおよびBamHIを用いた。典型的には,18μlのプラスミドDNAを1μlの各酵素で2μlの10X酵素特異的バッファの存在下で消化した。消化産物は37℃の水浴中で4時間放置し,アガロースゲルで電気泳動を行った。
【0044】
上で同定された3C−IGF−1を有するクローンは,Top10F’::pCR2.1/3C−IGF−1,およびTop10F’::pCR2.1/3C−IGF−1(LacZ)と名付け,これをpPop,pET29aおよびpUC19中にライゲーションするための3C−IGF−1の起源として用いた。
【0045】
B.pPopおよびpET29aへの3C−IGF−1のライゲーション
プラスミドDNAは,Top10F’::pCR2.1/3C−IGF−1,MSD3363pPopおよびXL1−BlueMR::pET29aの5ml一晩培養物から,QIAGENプラスミドミニプレップキット(QIAGEN Inc.,Valencia,CA)を用いて製造元の指針にしたがって単離した。ベクターpPopおよびpET29aは,BamHIおよびNdeIで消化することにより,3C−IGFへのライゲーション用に用意した。同様に,3C−IGF遺伝子は,BamHIおよびNdeIで消化することによりpCR2.1/3C−IGF−1から直接切り出した。次に,3C−IGF−1遺伝子をT4DNAリガーゼを用いてリン酸化pPopおよびpET29aに17℃で一晩ライゲーションした。得られたコンストラクトであるpPop/3C−IGF−1およびpET29a/3C−IGF−1をE.coli XL1−BlueMR株(Stratagene,LaJolla,CA)に製造元の指針にしたがってトランスフォームした。トランスフォーマントは,pPop/3C−IGF−1についてはテトラサイクリン(10μg/ml),およびpET29a/3C−IGF−1についてはカナマイシン(50μg/ml)に対する耐性を用いて選択した。
【0046】
トランスフォーマントは,pPop/3C−IGF−1についてはテトラサイクリン(10μg/ml),pET29a/3C−IGFについてはカナマイシン(50μg/ml)を含むLB寒天上に格子状に播種し,37℃で一晩インキュベートした。クローンは,全細胞溶解調製物を用いてNdeIおよびBamHIでの制限酵素消化により分析した。3C−IGF−1を有することが示された得られたコンストラクトは,XL1−BlueMR::pPop/3C−IGF−1およびXL1−BlueMR::pET29a/3C−IGF−1と名付けた。
【0047】
C.3C−IGF−1のpUC19へのライゲーション
プラスミドDNAは,QIAGENプラスミドミニプレップキット(QIAGEN Inc.,Valencia,CA)を用いて製造元の指針にしたがってTop10F’::pCR2.1/3C−IGF−1(LacZ)の5mlの一晩培養物から単離した。ベクターpUC19をEcoRIおよびSacIで消化することにより3C−IGF−1へのライゲーション用に用意した。同様に,3C−IGF−1遺伝子は,pCR2.1/3C−IGF−1(LacZ)からEcoRIおよびSacIで消化することにより直接切り出した。次に,3C−IGF−1遺伝子をT4DNAリガーゼを用いてリン酸化pUC19に17℃で一晩ライゲーションさせた。得られたコンストラクトpUC19/3C−IGF−1を,製造元の指針にしたがってE.coli XL1−Blue MR株(Stratagene)にトランスフォームした。トランスフォーマントはアンピリシン耐性(100μg/ml)を用いて選択した。
【0048】
トランスフォーマントは,アンピシリン(100μg/ml)を含むLB寒天上に格子状に播種して,37℃で一晩インキュベートした。クローンは,全細胞溶解調製物を用いてSacIおよびEcoRIでの制限酵素消化により分析した。3C−IGF−1を有することが示された得られたコンストラクトは,XL1−BlueMR::pUC19/3C−IGF−1と名付けた。
【0049】
D.pPop/3C−IGF−1およびpET29a/3C−IGF−1のE.coli宿主株へのエレクトロポレーション
発現ベクターを有するそれぞれのXL1−BlueMR株から得た各1μlのpPop/3C−IGF−1およびpET29a/3C−IGF−1を,5つのE.coli DE3エレクトロポレーション可能宿主株,すなわちBL21,MSD68,MSD2252,UT5600およびMSD2254pLysSにエレクトロポレーションした。
【0050】
宿主は,Bio−Rad Gene Pulserを用いて製造元の指針にしたがってエレクトロポレーションした(パラメータ:25μF,200Ω,2.5kV)。pPop/3C−IGF−1を有するトランスフォーマントは,10μl/mlのテトラサイクリンを含むLB寒天上で選択した。pET29a/3C−IGF−1を有するトランスフォーマントは,50μg/mlのカナマイシンを含むLB寒天上で選択した。トランスフォーマントを適当な抗生物質を含むLB寒天上に格子状に播種し,4℃で保存した。それぞれの株のグリセロールストックを作成し,−70℃で保存した。
【0051】
E.pPopからの3C−IGF−1の発現
最初に,実験室規模の振盪フラスコを用いて,pPop/3C−IGF−1をエレクトロポレーションしたそれぞれのE.coli宿主株から,3C−IGF−1が細胞内プロテアーゼにより分解されずに(分子のサイズが小さいため)発現されるか否かを調べた。
【0052】
10μg/mlのテトラサイクリンを含む5mlのLB培地にpPop/3C−IGF−1を有するE.coli宿主株を接種した。細胞は旋回インキュベータで良好な通気条件で(200rpm)37℃で一晩増殖させた。次に各0.5mlの一晩培養物を用いて,10μg/mlのテトラサイクリンを含む50mlのLB培地に接種した。 培養物を37℃でOD600が約0.4−0.6となるまでインキュベートした。この時点で,培養物を1mMイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)で2.5時間誘導した。
【0053】
誘導の後,誘導前および誘導後のサンプルを,製造元の指針にしたがって還元変性条件下で,4−12%Bis−Tris NuPAGEゲルに等量負荷し,電気泳動した。
【0054】
ゲルではいずれの宿主細胞(BL21,MSD68,MSD2252,UT5600およびMSD2254pLysS)からも3C−IGF−1の発現が見られなかった。この結果は,(a)蛋白質が発現されなかったか,または(b)融合蛋白質は発現されたが,融合蛋白質のサイズが小さいために細胞内プロテアーゼにより分解されたことを示唆する。プロモーター/誘導の強さから,蛋白質が発現されなかったことはほとんどありそうにないため,蛋白質が分解されたことが示唆される。
【0055】
F.ユビキチン−3C−IGF融合遺伝子の構築
SOE−PCR手法(Warrens et al.,Gene 186:29−35(1997))を用いて,現存するユビキチンIGF−Iコンストラクト(pER10088;Celtrix Pharmaceuticals,Inc.,Glen Allen,VA)をpPOP発現ベクター中にクローン化し,同時にユビキチンとIGF遺伝子との間に3C切断配列を導入した。融合蛋白質のアミノ酸配列は図2に示される。
【0056】
4つのプラスミドを構築した。全長ユビキチン(FL)は,pER10088に見いだされるユビキチン融合パートナーと正確に同じものを有していたが,ただし,ユビキチンと成熟IGF−1のN末端との間に挿入された6アミノ酸の3C認識部位を有する。
【0057】
TR41(41位トランケート型)は,ユビキチンの最初の41アミノ酸,続いて3C認識部位およびIGF−1から構成され;TR11(41位トランケート型)は,ユビキチンの最初の11アミノ酸,続いて3C認識部位およびIGF−1から構成され;TR17(41位トランケート型)は,ユビキチンの最初の11アミノ酸,続いて3C認識部位およびIGF−1から構成された。
【0058】
プライマーは,NdeI/BamHIで切断したpPopまたはpETベクターへのクローニングを可能とするよう設計し,商業的な合成者から購入した。
【0059】
表2に示されるプライマーを用いて,UQ1およびUQ2から3C−IGFオーバーハングを有する全長ユビキチンを得た。UQ1およびUQ5から3C−IGFオーバーハングを有するトランケート型(41aa)ユビキチンを得た。UQ3およびUQ4から全長ユビキチンオーバーハングを有する3C−IGFを得た。UQ6およびUQ4からトランケート型ユビキチンオーバーハングを有する3C−IGFを得た。UQ13およびUQ4から3C−IGFオーバーハングを有するトランケート型(11aa)ユビキチンを得た。UQ16およびUQ4から3C−IGFオーバーハングを有するトランケート型(11aa)ユビキチンを得た。
【0060】
【表2】

【0061】
上述のプライマー対を用いて,Expand High Fidelity PCRシステムを用いて製造元の指針にしたがってPCRを行った。各PCR反応において,2μlのプラスミドDNA(pER10088またはp10724)を,MgCl2を含む5μlの10xExpandバッファ,1μg/μlの各プライマー1μl,2μlの10mMヌクレオチドミックスと混合し,滅菌脱イオン水で最終容量50μlとした。
【0062】
サーモサイクラーで変性,アニーリングおよび重合を含むPCRサイクルを行った。各PCRについて同じサイクルを用いた。PCRの最初の工程では,テンプレートDNAを94℃で2分間加熱することにより変性した。次にExpand High Fidelity Taqポリメラーゼを加えた。第2工程においては,反応液を94℃で1分間変性し,68℃で45秒間冷却してプライマーをアニーリングさせ,次に72℃で1分間加熱してDNAを伸長させた。続いて33サイクルを行った。次に,72℃で最終の10分間の加熱工程を行い,サンプルを4℃に冷却した(この温度で保持)。
【0063】
PCR産物はアガロースゲル電気泳動で分析した。ゲルからバンドを切り出し,市販の抽出キット(QIAGEN Inc.,Valencia,CA)を用いてDNAを抽出し,DNAを30μlのバッファ中に溶出した。
【0064】
第2ラウンドのPCRは,これらのPCR産物をテンプレートとして用い,UQ1およびUQ4をプライマーとして用いて行った。PCR反応は先に用いたものと同じであったが,ただし,1μlのDNAを用い,アニーリング温度は65℃であった。
【0065】
PCR産物はアガロースゲル電気泳動により分析した。ゲルからバンドを切り出し,市販の抽出キットを用いてDNAを抽出し,DNAを30μlのバッファ中に溶出した。
【0066】
3μlの精製PCR産物を,TOPOTAクローニングキットを用いて製造元の指針にしたがってベクターpCR2.1にサブクローニングした。ライゲーションの後,プラスミドをE.coli Top10F’細胞にトランスフォームした。トランスフォーマントはカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天上で選択した。
【0067】
PCRクローンはまず,全細胞溶解調製物を用いて分析して,プラスミドDNAの存在およびそのおよそのサイズを検出した。クローンを制限酵素で消化して,3C−IGF−1遺伝子を切り出してその存在を確認した。
【0068】
pPop中にライゲーションするために,NdeIおよびBamHIを用いてサブクローンから3C−IGF−1を切り出した。典型的には,2μlの10X酵素特異的バッファの存在下で18μlのプラスミドDNAを1μlの各酵素を用いて消化した。切断産物は37℃の水浴中に4時間放置し,アガロースゲルで電気泳動を行った。
【0069】
ベクターpPopをBamHIおよびNdeIで消化してライゲーション用に準備した。次に,T4DNAリガーゼを用いて3C−IGF1融合遺伝子をリン酸化pPopに17℃で一晩ライゲーションさせた。得られたコンストラクトをE.coli XL1−BlueMR株に製造元の指針にしたがってトランスフォームした。トランスフォーマントはテトラサイクリン耐性(10μg/ml)を用いて選択した。
【0070】
トランスフォーマントをテトラサイクリン(10μg/ml)を含むLB寒天上に格子状に播種し,37℃で一晩インキュベートした。クローンは全細胞溶解調製物を用いて,NdeIおよびBamHIを用いる制限酵素消化により分析した。
【0071】
実施例2. エレクトロポレーションによるE.coliストックの作成
この実施例においては,エレクトロポレーションにより発現ベクターを有するE.coliストック株を作成した。
【0072】
エレクトロポレーション可能株であるE.coli W3110およびBL21を,発現ベクターを有するそれぞれのXL1−BlueMR株から単離した1μlのプラスミドDNAでエレクトロポレーションした。宿主は,Bio−Rad Gene Pulserを用いて,製造元の指針にしたがってエレクトロポレーションした(パラメータ:25μF,200(,2.5kV)。トランスフォーマントは10μg/mlのテトラサイクリンを含むLB寒天上で選択した。トランスフォーマントを適当な抗生物質を含むLB寒天上に格子状に播種し,4℃で保存した。各株のグリセロールストックを作成し,−70℃で保存した。
【0073】
実施例3. IGF1の発現
実験室スケールの撹拌フラスコを用いて,種々の宿主株における37℃での発現を調べた。
【0074】
A.発現ベクターを有するE.coliストック株の増殖
発現ベクターを含む宿主株を適当な抗生物質を含む5mlのLB培地に接種した。細胞は旋回インキュベータで良好な通気条件で37℃で一晩増殖させた。各0.5mlの一晩培養物を適当な抗生物質を含む50mlのLB培地に接種した。培養物を37℃でOD600が約0.4−0.6となるまでインキュベートした。この時点で培養物を1mMイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG)で2.5時間誘導した。
【0075】
誘導の後,誘導前および誘導後の両方のサンプルを4−12%Bis−Tris NuPAGEゲルで製造元の指針にしたがって還元変性条件下で電気泳動した。それぞれ1.5mlの誘導前および誘導後のサンプルを実験ベンチマイクロ遠心器で13,000rpmで2分間回収した。上清をデカントし,ペレットを脱イオン水に再懸濁した。各ペレットを再懸濁した水の量は様々であり,ゲルのトラック間の比較を意味のあるものとするために,同等の光学密度の懸濁液を与えるように計算した。ゲルへの負荷量はサンプルレーンの後の括弧内に示される。各ゲルはデンシトメトリを用いて定量した。
【0076】
B.可溶性および不溶性蛋白質の分画
約2,500gで10分間の遠心分離により細胞ペレットを回収し,元の体積の1/4の10mM PBS(pH7.4)に再懸濁した。細胞懸濁液を,Heat Systems XL 2020超音波照射器で間に30秒間の冷却を挟み7x30秒間で超音波処理した。
【0077】
超音波処理産物をSorvall RC−5B遠心器で12,000rpm(4(C),15分間の遠心分離により回収した。上清(可溶性画分)をデカントし,氷上に保存した。ペレット(不溶性画分)を10mlの滅菌脱イオン水に再懸濁した。それぞれのサンプルをSDS−PAGEゲルで分析した。
【0078】
C.ユビキチン−IGFポリペプチドの3Cプロテアーゼによる切断
上述のようにして構築した種々のUbi−3C−IGF−1融合物およびDsb−3C−IGF融合物(p10723;Celtrix Pharmaceuticals,Inc.,Glen len,VA)を,3つの異なる起源の3Cプロテアーゼで処理した。
【0079】
2つの異なるDsb3Cプロテアーゼ含有株から振盪フラスコ調製物を作成した。一方の株は染色体にインテグレートした3Cプロテアーゼ遺伝子を含み,他方の株はプラスミド上に3Cプロテアーゼを有する(Zhang et al.,Protein Expr Purif.12:159−165(1998))。超音波処理および続く遠心分離により無細胞溶解物を調製した。3Cプロテアーゼの第3の供給源は,Amersham Biosciencesから商品名PRECISSION PROTEASEで市販されているものであった。
【0080】
以下をチューブ内で混合し室温で一晩インキュベートした:IGF融合を含む2mlの無細胞抽出物,3Cプロテアーゼを含む0.4mlの無細胞抽出物,または5μlのPrescissionプロテアーゼ,4.8μlの0.5M DTT,および2.4μlの1M EDTA。サンプルはSDS−PAGEで分析した。
【0081】
D.IGF1の発現
1.ユビキチンのアミノ末端はIGF融合蛋白質の高レベル発現を与える
本発明において設計したコンストラクトは,E.coli株において高レベルの発現を与える,3Cプロテアーゼ切断部位を組み込んだ最小のIGF融合コンストラクトを見いだすことを意図したものである。図3に示されるように,Met−3C−IGFおよびLacZ−3C−IGFは発現の際に有意な程度には蓄積しなかったが,全ユビキチン−3C−IGFコンストラクトは大量に発現された。図4はまた,ユビキチン−IGF,ユビキチン−3C−IGF,およびTR41 Ubi−3C−IGFの相対的発現レベルを示す。さらに,トランケート型ユビキチン−3Cコンストラクトは,全長ユビキチン−3Cコンストラクトと同等にまたはそれより高く発現された。すなわち,E.coliにおけるヒトIGFの高レベル発現を与えるためには,N末端の11アミノ酸で十分である。
【0082】
2.IGFのトランケート型ユビキチンコンストラクトはIGF蛋白質の収率を増加させる
図3に示されるように,トランケート型ユビキチンコンストラクトはIGFのより高い収率を与えた。これは,(1)総融合蛋白質と比較してIGFの相対的パーセンテージが増加した,および(2)クローンは親のユビキチン−IGFコンストラクトより蛋白質発現の効率が高いためである。さらに,これらはもっぱら不溶性蛋白質として単離されるため,これらのコンストラクトは下流のプロセシングの量を減少させることによりIGFの収率を効率よく増加させる。当該技術分野においてよく知られているように,それぞれのプロセシング工程は,それに伴う損失ならびにプロセシングに伴う対応するコストを有している。蛋白質をもっぱら1つの形で局在させることにより,可溶性蛋白質を追加の沈殿工程により細胞抽出物から加工する必要性がなくなる。
【0083】
3.トランケート型ユビキチンコンストラクトはユビキチン可溶化特性を有しない
図4は,全長ユビキチン−3C−IGFが比較的可溶性であり,蛋白質の約50%が可溶性細胞抽出物中に存在し,蛋白質の約50%が不溶性型として単離されたことを示す。反対に,図5は,TR41 Ubi−3C−IGFおよびTR11 Ubi−3C−IGFがもっぱら不溶性の形で単離されたことを示す。このことにより,蛋白質の特性が細胞抽出物中でもっぱら1つの形であるため,蛋白質の有利な単離が可能となる。3つのトランケート型蛋白質はすべて比較的不溶性であり,これらを可溶化するためには高濃度(>4M尿素)のカオトロピック剤を必要とする。特に,TR11 Ubi−3C−IGFおよびTR17 Ubi−3C−IGFはTR41 Ubi−3C−IGFよりも不溶性であり,これらはいずれも,蛋白質を実質的に可溶化するためには非常に高いレベル(>8M尿素)のカオトロピック剤を必要とする。
【0084】
4.IGFのトランケート型ユビキチンコンストラクトは3Cプロテアーゼにより切断されて,正しいN末端を有する成熟IGFが生ずる
図6は,3つの異なる起源の3Cプロテアーゼ(上述の実施例3Cにおいて記載されるように)による,dsbA−3C−IGF,全長ユビキチン−3C−IGF,およびTR41 Ubi−3C−IGFの切断を示す。それぞれの場合において,IGF標準物質と同じ分子量に相当するバンドの比較により見られるように,IGFが遊離される。dsbA−3C−IGFおよびTR41 Ubi−3C−IGFの切断は本質的に定量的であるが,全長ユビキチン−3C−IGFはいくらかの未切断産物を有することに注意されたい。実験は,切断条件については最適化しなかった。すなわち,定量的切断がなかったことは,コンストラクトの質に負の影響を与えない。TR11 Ubi−3C−IGFおよびTR17 Ubi−3C−IGFの1回の実験においては,これらのコンストラクトは3Cプロテアーゼにより全く切断されなかった。しかし,本発明者らは,反応液中のカオトロピック剤の量が酵素を不活性化したと判定した。妨害するカオトロピック剤が基本溶液から十分に除かれていれば,これらのコンストラクトは3Cプロテアーゼにより切断されたであろうと考えられる。
【0085】
3Cプロテアーゼで切断されたTR41 Ubi−3C−IGFから単離されたIGFおよび成熟IGFについてN末端アミノ酸配列決定を行ったところ,ヒトIGFの正しいN末端配列が示された。
【0086】
上述の代表的な態様を参照して本発明を広く開示し例示してきたが,当業者は本発明の精神および範囲から逸脱することなく本発明に種々の改変をなしうることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は,ヒトIGFの核酸配列およびアミノ酸配列を提供する。
【図2】図2は,本明細書に記載される7つのIGF−I融合コンストラクトのアミノ酸配列を提供する。
【図3】図3は,本明細書に記載される7つのIGF−I融合コンストラクトの分子量,発現の特性,発現収率,およびプロテアーゼ切断の比較を記載する。
【図4】図4は,全長ユビキチン−3C−IGFおよびTR41 Ubi−3C−IGF蛋白質の可溶性および不溶性の特性を示す。
【図5】図5は,TR11 Ubi−3C−IGFおよびTR17 Ubi−3C−IGF蛋白質の可溶性および不溶性の特性を示す。
【図6】図6は,dsba−3C−IGF,全長ユビキチン−3C−IGF,およびTR41 Ubi−3C−IGFの相対的分子量,およびこれらの蛋白質の切断産物,例えば,成熟IGFを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列:
MQIFVKTLTGK[X1]0-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は,0−30個のアミノ酸の配列を有するペプチドであり;X2はVまたはTであり;およびIGFはN末端IGF−1である]
を含むポリペプチドをコードする単離された核酸配列。
【請求項2】
1が,(A)0個のアミノ酸,(B)配列TITLEVの6個のアミノ酸,および(C)配列TITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ
の30個のアミノ酸からなる群より選択される,請求項1記載の核酸。
【請求項3】
以下の蛋白質:
MQIFVKTLTGK[X1]0-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は,0−30個のアミノ酸を有するペプチドであり;X2はVまたはTであり;およびIGFはN末端IGF−1である]
をコードする蛋白質発現ベクターを含む蛋白質発現系。
【請求項4】
1が,(A)0個のアミノ酸,(B)配列TITLEVの6個のアミノ酸,および(C)配列TITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQの30個のアミノ酸からなる群より選択される,請求項3記載の蛋白質発現系。
【請求項5】
宿主細胞,および
以下のポリペプチド:
MQIFVKTLTGK[X1]0-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は,0−30個のアミノ酸のペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;およびIGFはN末端IGF−1である]
をコードする蛋白質発現ベクター,
を含む蛋白質発現系。
【請求項6】
1が,(A)0個のアミノ酸,(B)配列TITLEVの6個のアミノ酸,および(C)配列TITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQの30個のアミノ酸からなる群より選択される,請求項5記載の蛋白質発現系。
【請求項7】
宿主細胞が原核生物である,請求項5記載の蛋白質発現系。
【請求項8】
宿主細胞が真核生物である,請求項5記載の蛋白質発現系。
【請求項9】
N末端IGFを発現させる方法であって,
(A)宿主細胞を,以下のポリペプチド:
MQIFVKTLTGK[X1]0-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は,0−30個のアミノ酸を有するペプチドであり;X2はVまたはTであり;およびIGFはN末端IGF−1である]
をコードする発現ベクターでトランスフェクトし;
(B)前記宿主細胞を前記ポリペプチドの発現を可能とする条件下で培養し;そして
(C)ポリペプチドを単離する,
の各工程を含む方法。
【請求項10】
1が,(A)0個のアミノ酸,(B)配列TITLEVの6個のアミノ酸,および(C)配列TITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQの30個のアミノ酸からなる群より選択される,請求項9記載の方法。
【請求項11】
宿主細胞が原核生物である,請求項9記載の方法。
【請求項12】
宿主細胞が真核生物である,請求項9記載の方法。
【請求項13】
組換えN末端IGFを製造する方法であって,
(A)(1)約1M−約3Mのカオトロピック剤,ここで,前記カオトロピック剤は尿素またはグアニジン塩酸塩であり;
(2)3Cプロテアーゼ;および
(3)以下の配列:
MQIFVKTLTGK[X1]0-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は,0−30個のアミノ酸を有するペプチドであり;X2はVまたはTであり;およびIGFはN末端IGF−1である]
を含むポリペプチド,
の切断混合物を調製し;
(B)切断混合物を約4℃−約37℃の温度でプロテアーゼがポリペプチドを切断するのに十分な時間インキュベートし;そして
(C)N末端IGFを単離する,
の各工程を含む方法。
【請求項14】
1が,(A)0個のアミノ酸,(B)配列TITLEVの6個のアミノ酸,および(C)配列TITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQの30個のアミノ酸からなる群より選択される,請求項13記載の方法。
【請求項15】
以下のポリペプチド配列:
MQIFVKTLTGK[X1]0-30LE[X2]LFQ[IGF]
[式中,X1は,0−30個のアミノ酸のペプチド配列であり;X2はVまたはTであり;およびIGFはN末端IGF−1である]
を含むポリペプチド。
【請求項16】
1が,(A)0個のアミノ酸;(B)配列"TITLEV"の6個のアミノ酸;および(C)配列"TITLEVESSDTIDNVKSKIQDKEGIPPDQQ"の30個のアミノ酸からなる群より選択される,請求項15記載のポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−530010(P2007−530010A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533801(P2006−533801)
【出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/019070
【国際公開番号】WO2004/113382
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505458278)インスメッド,インコーポレイテッド (2)
【出願人】(505458407)アベシア リミテッド オブ マンチェスター (1)
【Fターム(参考)】