説明

組織の修復を促進する方法

本発明により、筋肉組織を処置する方法であって、筋肉組織に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与えることによって行われる方法が提供される。また、本発明により、心筋梗塞を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ梗塞を起こした心筋組織中または心筋組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与えることによって行われる方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の修復を促進するための方法および医薬組成物に関し、特に、梗塞を起こした心筋組織のような損傷された筋肉組織の修復を促進するために組織内架橋可能な組成物を利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリマーゲル材料は、生物医学産業において広く利用される。例えば、多糖ゲルは、コンタクトレンズ、血液接触材料、制御放出製剤、創傷包帯、生体用接着剤、膜、超吸収剤、細胞カプセル化材料および免疫隔離材料、および組織工学的足場において適用されている(Suggsら、J.Biomater.Sci.Polym.9:653−666,1998;Aebischerら、Transplantation 58:1275−1277,1994;およびAtalaら、J.Urol.150:745−747,1993)。
【0003】
損傷された心臓組織を処置するための多糖ゲル材料の潜在的な用途は、過去10年の間に集中的に研究された。
【0004】
研究の主な焦点は、急性心筋梗塞(AMI)の後の心臓組織を処置するために多糖ゲルを利用することに置かれた。AMIは典型的には、心筋組織の急性の損失および左心室(LV)リモデリングを誘発する負荷状態の突然の増加を引き起こす。LVリモデリングの初期相は、梗塞領域の拡大を伴い、それは、しばしば初期の心室破裂または動脈瘤形成をもたらす。後期リモデリングは、全LVを包囲し、時間依存性の拡張、境界領域の心筋の瘢痕への動員、心室形状の湾曲、および壁の肥厚を伴う。その結果、それは、収縮機能における進行性の低下、心不全、そしてついには死をもたらすかもしれない(SuttonおよびSharpe,Circulation 101:2981−2988,2000;Mann,D.L.,Circulation 100:999−1008,1999;およびJugdutt,B.I.,Circulation 108:1395−1403,2003)。
【0005】
したがって、進行性の心室リモデリングの停止または逆転は、心不全治療の重要な目的である。AMIの痛烈な影響を最小にするための臨床的な試みは、心臓組織に対して加えられた不可逆的な損傷を今まで効果的に修復できなかった(Khandら、Eur.Heart J.22:153−164,2001;JessupおよびBrozena,S.N.Engl.J.Med.348:2007−2018,2003;およびRedfield,M.M.,N.Engl.J.Med.347:1442−1444,2000)。
【0006】
最近、損傷された心筋に生細胞を移植する試みが、組織再生を促進することによって損傷された組織を修復する希望を与えた(Etzionら、J.Mol.Cell Cardiol.33:1321−1330,2000;Leorら、Expert Opin.Biol.Ther.3:1023−39,2003;およびBeltramiら、Cell;114:763−776,2003)。このアプローチは、心筋におけるドナー細胞(例えば、心臓細胞または幹細胞)の移植を支持するための3−D生体適合材料足場の開発によってかなり進展した。最近、多糖ゲル製の3−D生体適合材料足場は、有望な結果と共に損傷された心筋上に成功裏に移植された(Leorら、Circulation 102:56−61,2000)。しかしながら、このような3−D生体適合材料足場に播種された細胞の臨床的使用は、好適なドナー細胞の稀少性および大手術に関与する高い危険のために制限される。
【0007】
本発明を実施に移しているとき、本発明者は、注射可能な非架橋ポリマー溶液が、ラットにおいて損傷された心筋組織の修復を効果的に促進できることを驚くことにかつ予期せず発見した。
【発明の概要】
【0008】
本発明の1つの態様によれば、筋肉組織を処置する方法が提供される。その方法は、筋肉組織に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与えることによって行われる。
【0009】
本発明の別の態様によれば、心筋梗塞を処置する方法が提供される。その方法は、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ梗塞を起こした心筋組織中または心筋組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与えることによって行われる。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、心臓の異常を処置する方法が提供される。その方法は、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ損傷された心筋組織中または心筋組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与え、それによって心臓の異常を処置することによって行われる。
【0011】
本発明のさらに別の態様によれば、虚血性の筋肉組織を処置する方法が提供される。その方法は、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ虚血性の筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与え、それによって虚血性の筋肉組織を処置することによって行われる。
【0012】
本発明のなおさらなる態様によれば、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ虚血性の筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液と、虚血性の筋肉組織の処置における使用についてそのポリマー溶液を同定する包装材料とを含む製品が提供される。
【0013】
以下に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、筋肉組織は心筋組織である。
【0014】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、筋肉組織は、自己ゲル化を引き起こすのに充分な多価カチオンの濃度を有するように選択される。
【0015】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、ポリマー溶液は多糖溶液である。
【0016】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、多糖溶液はアルギン酸塩溶液である。
【0017】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、アルギン酸塩溶液はアルギン酸ナトリウム溶液である。
【0018】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、アルギン酸塩は10kDa〜300kDaの範囲の平均分子量を有する。
【0019】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、アルギン酸塩濃度は0.1%(w/v)〜10%(w/v)の範囲である。
【0020】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、α−L−グルロン酸とβ−D−マンヌロン酸のアルギン酸塩モノマー比は、1:1〜3:1の範囲である。
【0021】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、筋肉組織にポリマー溶液を与える工程は、注射またはカテーテル法によって行われる。
【0022】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、カテーテル法は、動脈内カテーテル法である。
【0023】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、有効量は、約0.5ml〜5mlの範囲である。
【0024】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、ポリマー溶液は、少なくとも1種の治療剤をさらに含む。
【0025】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、少なくとも1種の治療剤は、増殖因子、ホルモン、抗虚血薬、抗炎症薬、抗アポトーシス薬、および抗生物質からなる群から選択される。
【0026】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、心臓の異常は鬱血性心不全である。
【0027】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、虚血性の筋肉組織は虚血性の心筋組織である。
【0028】
記載される好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、虚血性の筋肉組織は虚血性の横紋筋組織である。
【0029】
本発明は、組織中または組織の周りでの沈着後に可撓性ゲルを形成することができる治療的に有益なポリマー溶液を筋肉組織に安全に投与し、それによって損傷された筋肉組織に実質的に治療的な有益性を与えることによる、損傷された筋肉組織を処置する新規の方法を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、滅菌されており、かつ本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ組織中または組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できるポリマー溶液を、損傷された組織に送達することによって、梗塞を起こした心筋組織のような損傷された組織の修復を促進する新規の医薬組成物を利用する。
【0031】
本発明の原理および操作は、付随する説明を参照してより良く理解することができる。
【0032】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示されるまたは図面において例示される構成要素の配置および構造の細部に限定されないことが理解されるべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行される。また、本明細書で用いられる表現および用語は説明のためであり、限定として見なされるべきではないことが理解されるべきである。
【0033】
米国特許出願第11/229119号は、保存時に液体状態を維持することができ、かつ身体組織内での沈着後にゲル状態を呈することができる架橋ポリマー溶液を教示する。この架橋ポリマー溶液は、注射またはカテーテル法によって身体組織中に投与されることができる。この出願は、部分的に架橋されたアルギン酸塩溶液を提供し、したがって調製のために注意深い混合を必要とする。
【0034】
本発明者は、外因性のカチオンを含まないアルギン酸塩溶液が、筋肉組織内への投与の後にゲル足場を形成することができることを予期せず発見した。下記の実施例の節において示されるように、遊離多価カチオンを本質的に含まない滅菌アルギン酸ナトリウム溶液のAMI後の心筋組織中への投与は、そのような組織の細胞修復を促進し、したがって梗塞によって引き起こされた損傷を効果的に逆転させた。
【0035】
したがって、本発明の1つの態様によれば、筋肉組織を処置する方法が提供される。その方法は、筋肉組織に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に外因性の多価カチオンの添加無しで自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与えることによって行われる。その場でのポリマー溶液のゲルへの転移は、筋肉組織に存在する細胞外多価カチオンとの架橋によって行われることができる。
【0036】
米国特許出願第11/229119によって教示される架橋ポリマー溶液とは対照的に、本発明のポリマー溶液が、標的組織において沈着される前に部分的ではなく全体的に架橋されることに注意されるべきである。
【0037】
本明細書で使用される用語「処置する」は、組織機能を改善すること、機械的支持を提供すること、並びに組織の治癒プロセスおよび修復プロセスを促進することを含む、筋肉組織に本発明のポリマー溶液を投与することの治療的効能の全範囲を包含する。用語「処置する」は、虚血性筋肉組織と関連する疾患または障害の低減、緩和、および軽減をさらに含む。さらに、用語「処置する」は、損傷された組織に関連する疾患または障害の発症の予防または延期を含む。
【0038】
本明細書で使用される表現「筋肉組織」は、いかなる哺乳動物の筋肉組織も包含し、好ましくはヒトの筋肉組織を包含する。その表現はさらに、平滑筋組織、横紋筋組織、および心筋組織を含む。横紋筋(骨格筋)組織は、随意制御下にある。筋線維はシンシチウムであり、筋原線維、筋節の縦列を含む。平滑筋組織は、長い先細の細胞で構成されており、一般的には不随意であり、はるかに高いアクチン/ミオシン比、明白な筋節の存在しないこと、およびその静止長のはるかに小さな割合まで収縮する能力において横紋筋と異なる。平滑筋は、特に、腸(特に、鳥類の砂嚢)および子宮を囲む血管壁において見出される。心筋組織は、脊椎動物の心臓のポンプ活動を担う、縞はあるが不随意な組織である。個々の心筋細胞は、横紋筋組織における細胞のように多核構造体へと融合されない。本明細書で使用されるように、表現「心筋組織(cardiac muscle tissue)」および「心筋組織(myocardium tissue)」は交換可能である。
【0039】
理論に束縛されることなく、ポリマー溶液のゲル化は、筋肉組織の中および周りに存在する多価カチオンによるポリマーの架橋から生じることができる。したがって、本発明の筋肉組織は、ポリマー溶液のゲル化を引き起こすのに充分な多価カチオンの濃度を有するいかなる筋肉組織であることもできる。
【0040】
本明細書で使用される表現「ポリマー溶液」は、水のような溶媒にポリマーが均等に分散された液体を指す。
【0041】
本発明の教示による好適なポリマーは、多価カチオンにより架橋されてヒドロゲルを形成することができる、いかなる生体適合性の、非免疫原性の、そして好ましくは生体腐食可能なポリマーであることができる。ポリマーは、遊離塩基、酸、塩基、アニオン塩、または一価カチオン塩の形態であることができる。
【0042】
本明細書で使用される用語「滅菌」は、実質的に生細胞を含まない溶液を指す。本発明のポリマー溶液の滅菌状態は、例えば、以下のUSP 24における微生物学的試験を使用して確認されることができる:Microbial Limit Tests<61>、Sterility Tests<71>、およびSterilization and Sterility Assurance of Compendial Articles<12211>。
【0043】
本明細書で使用される表現「本質的に遊離多価カチオンを含まない」は、0.001%(w/v)未満の遊離多価イオンの濃度を有するポリマー溶液を指す。アルギン酸ナトリウムの場合、微量のカルシウムおよび他の多価カチオンが市販の調製物中に(しばしば、乾燥重量に基づいて1.5%まで)存在しうることは理解されるだろう。なぜなら、このような調製物はイオンを含有する藻類の抽出物に由来するからである。したがって、微量のイオンが本発明によって利用されるポリマー組成物中に存在しうるが、このような量はあまりにも少ないので本発明の組成物は本質的に多価イオンを含まないと見なされることができる。
【0044】
本明細書で使用される用語「ゲル」は、液体中の固体の半固体のコロイド状懸濁物を指す。本明細書で使用される用語「ヒドロゲル」は、液体として水を含有するゲルを指す。
【0045】
本発明のポリマーは、限定されないが、アルギン酸塩、またはキトサン、ジェランガム、コラーゲン、カラギーナン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸、ポリフォスファジン、およびポリアクリレートのような多糖であることができる。好ましくは、本発明のポリマーはアルギン酸塩である。
【0046】
本明細書で使用される用語「アルギン酸塩」は、海藻類(例えば、ラミナリア・ヒペルボレア(Laminaria hyperborea)、L.ディギタータ(L.digitata)、エクロニア・マキシマ(Eclonia maxima)、マクロシスティス・ピリフェラ(Macrocystis pyrifera)、レッソニア・ニグレッセンス(Lessonia nigrescens)、アスコフィルム・ノドスム(Ascophyllum codosum)、L.ジャポニカ(L.japonica)、ダービリア・アンタルティカ(Durvillaea antarctica)、およびD.ポタトラム(D.potatorum))に由来する多アニオン性の多糖コポリマーを指し、それはβ−D−マンヌロン酸(M)およびα−L−グルロン酸(G)の残基を様々な割合で含む。
【0047】
好ましくは、本発明のアルギン酸塩は、1:1〜3:1の範囲のα−L−グルロン酸とβ−D−マンヌロン酸のモノマー比を有し、10kDa〜300kDa、より好ましくは25kDa〜50kDaの範囲の分子量を有する。
【0048】
本発明のアルギン酸塩は、好ましくは、限定されないが、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸リチウム、アルギン酸ルビジウム、およびアルギン酸のセシウム塩のような溶解性のアルギン酸塩、ならびにアンモニウム塩、およびモノエタノールアミンアルギン酸塩、ジエタノールアミンアルギン酸塩、またはトリエタノールアミンアルギン酸塩、アニリンアルギン酸塩などのような有機塩基の溶解性アルギン酸塩である。より好ましくは、本発明のポリマーはアルギン酸ナトリウムである。欧州およびアメリカ合衆国(USA)の薬物行政当局の全ての品質および安全性要件を満たす医薬品等級のアルギン酸ナトリウムは、例えば、Novamatrix FMC Biopolymers(Drammen,ノルウェー)のような複数の民間の製造業者から容易に入手することができる。本発明のポリマー溶液中のアルギン酸ナトリウムの最終濃度は、好ましくは、0.1%(w/v)〜10%(w/v)の範囲である。
【0049】
いったん、本発明のポリマーが完全に溶解されると、溶液は、限定されないが、オートクレーブ処理(例えば、120℃で30分間)、ガンマ線照射、または濾過滅菌のような当該分野において良く知られている標準的な滅菌方法を用いて滅菌される。好ましくは、滅菌は0.2μm膜を用いる濾過滅菌によって行われる。
【0050】
任意選択的に、本発明のポリマー溶液は、少なくとも1種の治療剤をさらに含む。本発明のポリマー溶液に含まれうる好適な治療剤は、例えば、増殖因子(例えば、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、TGFファミリーのメンバー、骨形態形成タンパク質(BMP)、血小板由来増殖因子、アンギオポエチン)および筋形成因子、転写因子、サイトカイン、ホメオボックス遺伝子産物、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ホルモン、抗炎症薬、抗虚血薬、抗アポトーシス薬、または抗生物質のような他の因子であることができる。
【0051】
有利には、治療剤は本発明のポリマーと化学的に連結されることができる。このような連結は、任意の公知の化学的結合アプローチによって、好ましくは共有結合によって行われることができる。好適な共有結合は、例えば、エステル結合(例えば、カルボキシル化合物のエステル結合、オキシアルキルカルボキシル化合物のエステル結合、アミド結合、またはチオエステル結合)、グリコシド結合、炭酸結合、カルバメート結合、チオカルバメート結合、尿素結合、またはチオ尿素結合であることができる。
【0052】
好ましくは、ポリマーはアルギン酸塩であり、治療剤への結合は、アルギン酸塩ポリマーがグルクロン酸モノマー位置を介して架橋する能力を保持するように、マンヌロン酸モノマー位置で行われる。
【0053】
ポリマー溶液は、所望されるならば、有効成分を含有する1つ以上の単位投薬形態物を含有しうるパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キット)で提供されることができる。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパック)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随されることができる。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、容器に関連した通知によって適応されることができ、この場合、そのような通知は、治療組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、医療装置または薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであることができるか、または、承認された製品添付文書であることができる。治療組成物はまた、上で詳述されたように、指示された状態を処置するために調製され、適切な容器に入れられ、かつ標識されることができる。
【0054】
本発明のポリマー溶液を必要とする対象への本発明のポリマー溶液の投与は、標的筋組織中に直接的に注射によって、または非経口投与によって行われることができる。AMIを処置するために、ポリマー溶液は、動脈内に、好ましくは冠状動脈内に、バルーンカテーテルのような好適なカテーテルによって投与されることができる(例えば、Knightら、Circulation 95:2075−2081,1997を参照のこと)。
【0055】
ポリマー溶液は、再潅流の間または再潅流の開始後にAMIと同日に、好ましくはAMIの約1日後に、好ましくはAMIの約2日後に、好ましくはAMIの約3日後に、好ましくはAMIの約4日後に、好ましくはAMIの約5日後に、好ましくはAMIの約6日後に、好ましくはAMIの約7日後に投与されることができる。
【0056】
本明細書で使用される表現「有効量」は、有意な治療利益を提供するのに効果的な量を指す。投与される組成物の量は、もちろん、処置される対象、病気の重篤度、投与の方法、処方医の判断などに依存するだろう。有効量は、0.1%(w/v)〜10%(w/v)、好ましくは0.2%(w/v)〜5%(w/v)、好ましくは0.3%(w/v)〜2%(w/v)、好ましくは0.5%(w/v)〜1.5%(w/v)、好ましくは1%(w/v)の範囲の濃度の、0.1ml〜10ml(dwt 1mg〜1000mg)、好ましくは1ml〜5ml(dwt 10mg〜500mg)の範囲である。
【0057】
本発明のポリマー溶液は、心筋梗塞の処置を必要とする対象に、梗塞を起こした心筋中または心筋の周りにポリマー溶液の有効量を与えることによって心筋梗塞を処置するために使用されることができる。
【0058】
さらに、本発明のポリマー溶液は、心臓の異常の処置を必要とする対象に、損傷された心筋組織中または心筋組織の周りにポリマー溶液の有効量を与え、それによって心臓の異常を処置することによって、鬱血性心不全または僧帽弁逆流のような心臓の異常を処置するために使用されることができる。
【0059】
さらに、本発明のポリマー溶液は、虚血性の筋肉組織にポリマー溶液の有効量を与えることによって、虚血性の横紋筋組織のような虚血性の筋肉組織に関連する疾患または状態を処置するために使用されることができる。
【0060】
したがって、本発明は、筋肉組織に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつその場で自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液を与えることによって筋肉組織を処置する新規な方法を提供する。その処置は、筋肉組織に対して安全かつ効果的に実質的な治療利益を提供する。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「約」は±10%を示す。
【0062】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業界の技術者には明らかになるであろう。なお、これらの実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0063】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を非限定的態様で例示する。
【0064】
別途定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。
【0065】
実施例1
ラットの梗塞を起こした心筋組織に注射されたアルギン酸ナトリウムの効果
材料および方法
試験溶液:
1%(w/v)アルギン酸ナトリウム(UP−VLVG、Mw=41kDa;NovaMatrix FMC Biopolymers,Drammen,ノルウェー)の水溶液は、使用の前に0.2μm膜(Millipore)を使用して濾過滅菌された。架橋アルギン酸塩溶液(BL−1040)は、等量の2%(w/v)アルギン酸ナトリウムの濾過滅菌された水溶液と0.6%(w/v)カルシウムD−グルコン酸(USP/NF Grade Dr.Paul Lauman lot.623784)の濾過滅菌された水溶液を完全に混合することによって調製された。
【0066】
急性心筋梗塞(AMI)の誘発
AMIのラットモデルは、本質的に、Leorら(Circulation 102:III56−61,2000)、Battlerら(J MoI Cell Cardiol.33:1321−133,2001)およびLeorら(Circulation 114:I9.4−100,2006)によって記載される通りであった。簡単に記載すると、雄性Sprague−Dawleyラット(250g〜350g)は、40mg/kgケタミンおよび10mg/kgキシラジンの組合せで麻酔され、挿管され、機械での人工呼吸が行われた。AMIを誘発するために、左開胸術によって動物の胸部が開かれ、それらの心膜が取り除かれ、そして近位左冠状動脈が壁内縫合によって恒久的に閉塞された。
【0067】
試験溶液の投与
AMIの7日後に、動物は無作為化され、麻酔され、滅菌状態下でそれらの胸部が開かれた。梗塞を起こした心筋領域は、表面瘢痕および壁運動の消失の出現に基づいて視覚的に認識された。BL−1040(陽性コントロール)、生理食塩水(陰性コントロール)、または1%アルギン酸ナトリウムの単回注射(100μL〜150μL容量)が、29径針を使用して梗塞を起こした心筋領域内に投与された。注射の後、外科的切開は縫合して閉じられた。
【0068】
超音波心臓検査
経胸腔的な超音波心臓検査が、AMIの24時間以内(基準超音波心臓検査図)および30日後に行われた。超音波心臓検査は、Leorら(Circulation 114:I94−100,2006)によって記載されるように、12MHzのフェーズドアレイ変換器を備えた市販の超音波心臓検査システム(Sonos 5500,Philips,Andover,MA)を使用して実施された。拡張機能は、修正四腔断層図において実施された僧帽弁流入の脈派ドップラーインタロゲーション(Doppler interrogation)を使用して評価された。全ての測定値は3回の連続した心臓周期について平均され、処置群がどれかわからない状態で実施された。
【0069】
統計学的分析
超音波心臓検査による測定は、対応のあるt検定を用いて分析された。適用された全ての検定は両側検定であり、5%以下のp値を統計的に有意と見なした。
【0070】
結果
以下の表1において示されるように、ラットの梗塞を起こした心筋に1%アルギン酸ナトリウム溶液を投与することは、以下のことをもたらした:
1.生理食塩水コントロールと比べてLV収縮期面積変化の有意な減少(平均値間で49.2%の差異、p0.01)。
2.生理食塩水コントロールと比べてLV拡張期面積変化の有意な減少(平均値間で45.8%の差異、p0.01)。
3.生理食塩水コントロールと比べてLV収縮期直径変化の有意な減少(平均値間で28.4%の差異、p0.05)。
4.生理食塩水コントロールと比べてLV拡張期直径変化の有意な減少(平均値間で26.0%の差異、p0.05)。
5.生理食塩水コントロールと比べてLV質量変化の有意な減少(平均値間で51.5%の差異、p0.01)。
【0071】

【0072】
したがって、結果は、AMI後の動物の心筋組織に投与されたアルギン酸ナトリウム溶液が、梗塞を起こした組織に対する損傷を効果的かつ実質的に低減し、そして心臓機能を効果的に改善したことを明確に示す。
【0073】
実施例2
イヌの梗塞を起こした心筋組織へのアルギン酸ナトリウムの冠状動脈内投与
材料および方法
試験溶液:
試験溶液は、生理食塩水(陰性コントロール)、架橋アルギン酸塩溶液(BL−1040;陽性コントロール)、およびアルギン酸ナトリウム溶液(1%)である。アルギン酸ナトリウムおよびBL−1040溶液は、上記の実施例1に記載されたように調製される。
【0074】
急性心筋梗塞(AMI)の誘発
二年齢(20kg〜25kg)のイヌは、麻酔および挿管され、室内の空気で呼吸させられる。動物は、静脈内塩酸オキシモルホン(0.22mg/kg)およびジアゼパム(0.17mg/kg)で鎮静され、一定レベルの麻酔が1〜2%イソフルオランで維持される。処置は、胸部を閉じてかつ滅菌条件下で行われる。冠動脈の閉塞を起こすために、2.7 French PTCAバルーンカテーテルが、大腿動脈切開術により、4JL案内カテーテルを通して0.014インチワイヤ上に差し込まれ、前進される。4.0mm直径の15mmバルーンが使用される。案内カテーテルは、左主冠状動脈に配置され、そして蛍光透視案内下で前進されたワイヤは、遠位回旋冠状動脈に配置される。バルーンカテーテルはワイヤ上を冠状動脈中に前進され、最初の副枝の近くに配置される。全ての場合に、動物は、750USP〜1000USP単位の静脈内ヘパリンナトリウムで血液の凝固が阻止される。
【0075】
冠状動脈内投与
いったん所定の位置に配置されると、PTCAバルーンは冠状動脈を閉塞するために膨張される。冠状動脈の完全な閉塞は、心電図のST部分の上昇によって確認され、LV後壁の運動がほとんど無いことは、経胸腔的な二次元超音波心臓検査によって評価される。全ての場合に、冠状動脈の閉塞は3〜5時間維持される。閉塞の終わりに、バルーンは収縮されて冠状動脈を再潅流させる。
【0076】
試験溶液(2ml 容量)は、動物の回旋冠状動脈中に注射される。試験溶液の使用についてありそうな臨床的設定をシミュレートするために、試験溶液の冠状動脈注射はAMIの同日(再潅流開始の約1時間後)またはAMIの2〜5日後のいずれかに行われる。イヌは、試験溶液のいずれかを受容するように無作為に割り当てられる。全ての動物はAMI後の4ヶ月間追跡される。血管造影および超音波心臓検査による測定が、基線(AMIを誘発する前)、試験溶液を投与する直前、およびAMIの2ヶ月後および4ヶ月後に行われる。
【0077】
終点
1.LV収縮末期容積およびLV拡張末期容積の心室造影による測定に基づく漸進的なLV拡張の予防または軽減。
2.LVの駆出分画(EF)の心室造影による測定およびLVの短絡面積率(FAS)の超音波心臓検査による測定に基づくLV収縮機能の漸進的な低下の予防。
3.梗塞を起こしたLV壁の収縮肥厚の超音波心臓検査による測定に基づく梗塞拡大の予防または軽減。
【0078】
血管造影および超音波心臓検査による測定
全ての血管造影および超音波心臓検査による測定は、全身麻酔下かつ滅菌状態下で心臓カテーテル法の間に行われた。左心室造影は、右側を下にして配置されたイヌで得られ、20mlの造影剤(RENO−M−60 Squibb,Princeton,NJ)の注射の間にデジタル方式で記録される。画像倍率の補正は、LVのレベルに配置された放射線不透過性の較正グリッドを用いて行われる。LVの収縮末期容積(ESV)および拡張末期容積(EDV)は、面積−長さ法(area−length method)(Dodgeら、Am J Cardiol.1966;18:10−24,1966)を使用してLVのシルエットから計算される。左心室EFは、[(EDV−ESV)/EDV]×100として計算される(Sabbahら、Circulation 89:2852−2859,1994)。
【0079】
全ての2次元超音波心臓検査による測定は、右側臥位置に配置されたイヌで行われる。超音波心臓検査研究は、3.5MHzの変換器を備えたGeneral Electric VIVID 7 Dimension超音波システムを使用して行われ、オフライン分析のためにMitsubishi MD3000 VHSレコーダーに記録される。乳頭筋の中央の高さでのLVの短軸図が記録され、[(拡張末期面積−収縮末期面積)/拡張末期面積]×100と定義される短絡率(パーセント)を計算するために使用される(FAS;Konoら、J Am Coll Cardiol 1992;19:1101−1105,1992)。LVの前壁、後壁、および心室内中隔の収縮期壁厚(パーセント)もまた、短軸図を用いて測定され、それぞれ、[(拡張末期の壁厚−収縮末期の壁厚)/拡張末期の壁厚]×100として計算される。期外収縮および期外収縮後の拍動は、全ての分析から除かれる。
【0080】
統計学的分析
群内の血管造影データおよび超音波心臓検査データは、0.05のαセットでの反復測定分散分析(ANOVA)を用いて分析される。もし全体的なANOVAが有意であれば、処置前(PRE)群と2ヶ月群および4ヶ月群の間で二つ一組の比較が、スチューデント−ニューマン−クールズ検定を使用して行われる。この検定について、0.05より低いp値が有意であるとみなされる。処置効果を評価するために、PREから処置後2ヶ月まで、およびPREから処置後4ヶ月までの各測定値の変化(Δ)は、2つの研究手段の各々について計算される。Δの有意な差がコントロール群とアルギン酸ナトリウム処置群の間に存在したかどうか決定するために、2つの手段についてのt−検定がp<0.05を有意とみなして使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉組織を処置する方法であって、筋肉組織に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与え、それによって筋肉組織を処置することを含む方法。
【請求項2】
前記筋肉組織は心筋組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記筋肉組織は、前記自己ゲル化を引き起こすのに充分な前記多価カチオンの濃度を有するように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー溶液は多糖溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記多糖溶液はアルギン酸塩溶液である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルギン酸塩溶液はアルギン酸ナトリウム溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アルギン酸塩は、10kDa〜300kDaの範囲の平均分子量を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記アルギン酸塩の濃度は、0.1%(w/v)〜10%(w/v)の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記アルギン酸塩におけるα−L−グルロン酸とβ−D−マンヌロン酸のモノマー比は、1:1〜3:1の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記与えることは、注射またはカテーテル法によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記カテーテル法は、動脈内カテーテル法である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記有効量は約0.1ml〜10mlの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記有効量は約0.5ml〜5mlの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマー溶液は、少なくとも1種の治療剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種の治療剤は、増殖因子、ホルモン、抗虚血薬、抗炎症薬、抗アポトーシス薬、および抗生物質からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
心筋梗塞を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ梗塞を起こした心筋組織中または心筋組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与え、それによって心筋梗塞を処置することを含む方法。
【請求項17】
心臓の異常を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ損傷された心筋組織中または心筋組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液の有効量を与え、それによって心臓の異常を処置することを含む方法。
【請求項18】
心臓の異常は、鬱血性心不全である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
虚血性の筋肉組織を処置する方法であって、その処置を必要とする対象に、本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ虚血性の筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液を与え、それによって虚血性の筋肉組織を処置することを含む方法。
【請求項20】
前記虚血性の筋肉組織は虚血性の心筋組織である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記虚血性の筋肉組織は虚血性の横紋筋組織である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
本質的に遊離多価カチオンを含まず、かつ筋肉組織中または筋肉組織の周りでの沈着後に自己ゲル化できる滅菌ポリマー溶液と、ヒト対象の処置における使用について前記ポリマー溶液を同定する包装材料とを含む製品。

【公表番号】特表2010−521215(P2010−521215A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553279(P2009−553279)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/IL2008/000348
【国際公開番号】WO2008/111074
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507402749)バイオラインアールエックス リミテッド (4)
【Fターム(参考)】