説明

経口投与剤

【課題】経口摂取により、血液又はリンパ液中のプラスマローゲンを効率的に増加させることができる経口投与剤を提供する。
【解決手段】コリン型プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする血液又はリンパ液中の経口投与剤によって解決することができる。本発明の経口投与剤により、プラスマローゲンの増加によって予防又は治療可能な疾患を効果的に予防又は治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有するプ経口投与剤に関する。本発明によれば、経口摂取により、血液又はリンパ液中のプラスマローゲン量を増加させることができる。
【背景技術】
【0002】
プラスマローゲンとはsn−1位にビニルエーテル結合による極性基を持ち、sn−2位には脂肪酸が結合しているグリセロリン脂質のサブクラスであり、アルケニルアシル型リン脂質ともいう。動物では脳、心臓、脾臓などに比較的多く含まれる。極性基はエタノールアミンとコリンがほとんどで、sn−2位にはヒトの場合、アラキドン酸やドコサヘキサエン酸等の多価不飽和脂肪酸に富むこと等が知られている。
【0003】
プラスマローゲンの機能は未だ不明な点が多いが、プラスマローゲン合成部位であるペルオキシソームに障害を持つペルオキシソーム病では、神経障害を初めとする種々の重篤な症状を呈することから、プラスマローゲンが正常な細胞や生体の機能維持に重要な役割を果たしていることが推測される。
また、このような先天的な異常がなくても、血液又はリンパ液中のプラスマローゲンが加齢と共に減少すること、アルツハイマー病患者では脳のプラスマローゲンが減少していること、プラスマローゲンがLDLコレステロールの酸化を抑制すること等、プラスマローゲンが加齢や酸化ストレスが関与する疾病と関係していることが明らかになりつつある(非特許文献1及び非特許文献2)。
つまり、生体内のプラスマローゲンが減少することがさまざまな疾患の原因となっていると考えられている。従って、生体内のプラスマローゲン量を増加させることは種々の疾病の改善、予防に有効と思われることから、血液又はリンパ液中のプラスマローゲンを増加させる方法が求められている。特に飲食品や経口医薬品は、継続的に且つ簡易に摂取可能なことから、経口摂取により血液又はリンパ液中のプラスマローゲン含量を増加させることができるプラスマローゲン増加剤が提案されている。
【0004】
現在までに報告されている生体内でプラスマローゲンを増加させる効果のあるものとして、たとえば、アルキルグリセロール(非特許文献3及び特許文献1)、プラスマローゲンに富む牛脳リン脂質(非特許文献4)、イノシトール(特許文献2)等が開示されている。
【0005】
しかし、アルキルグリセロールやイノシトール摂取によるプラスマローゲン増加は1.5倍程度と弱かった。また、牛脳リン脂質摂取では血中プラスマローゲンが数倍に増加することが示されているが、より効果の高い方法が求められていた。また、極性基の異なるプラスマローゲンの効果の差に関する報告はこれまでなかった。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6177476号明細書
【特許文献2】特開2007-51132号公報
【特許文献3】特開昭62−273908号公報
【非特許文献1】「オレオサイエンス(Oleoscience)2002年、(日本)第2巻、p.27−36
【非特許文献2】「オレオサイエンス(Oleoscience)2005年、(日本)第5巻、p.405−415
【非特許文献3】「リピッド(Lipids)」1991年、(米国)第26巻、p.166−169
【非特許文献4】「リピッド(Lipids)」2003年、(米国)第38巻、p.1227−1235
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、プラスマローゲンを構成する成分とその作用について研究を重ねる過程で、従来注目されることのなかった極性基部分の効果について各種比較検討を行ったところ、ある特定の極性基を持つプラスマローゲン、すなわち極性基としてコリンが結合した、コリン型のプラスマローゲンにのみ、極めて強い生体中のプラスマローゲンを増加させる機能を有することを見出した。また、生体内でプラスマローゲンの濃度が上昇することにより、コリン型プラスマローゲンを、ペルオキシソーム病、アルツハイマー病、又は酸化ストレスの異常を呈する疾患の治療又は予防に用いることができることを見出した。
本発明は、前記知見に基づくものであり、コリン型プラスマローゲンを有効成分とし、経口摂取により、血液又はリンパ液中のプラスマローゲンを効率的に増加させることができる経口投与剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする経口投与剤に関する。
また、本発明はコリン型プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする飲食品にも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経口投与剤は、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含んでおり、経口摂取により、血液やリンパ液中のプラスマローゲン含量を増加させることが可能である。特に、エタノールアミン型プラスマローゲンと比較して、リンパ液中のプラスマノーゲンの濃度を特異的に上昇させることができる。従って、本発明の経口投与剤は、プラスマローゲン増加剤として用いることが可能である。また、本発明の経口投与剤を含有する医薬組成物は、プラスマローゲンの増加によって予防又は治療可能な疾患を効果的に予防又は治療することができる。
更に、本発明による飲食品は、コリン型プラスマローゲンを含むことにより、生体内、特にリンパ液や血液中のリン脂質中の、プラスマローゲン含量を増加させることが可能である。従って、飲食品の摂取のみで、血液又はリンパ液中のプラスマローゲン含量の低下又は消失に起因する疾患の予防又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[1]経口投与剤
本発明の、経口投与剤は、一般式(I)
【化1】

[式中、Rは、炭素数1から20のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜26の脂肪酸残基であり、Xはコリンである]
で表されるコリン型プラスマローゲンを有効成分として含む。
前記炭素数1から20のアルキル基としては、具体的には、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等を挙げることができる。
また、前記炭素数6〜26の脂肪酸残基としては、具体的には、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸等を挙げることができる。
【0011】
本発明に用いることのできるコリン型プラスマローゲンは、グリセリンをアルケニルグリセロールエーテルに変換し、エステル化やリン酸化を行い、化学合成することも可能であり、化学合成したコリン型プラスマローゲンを用いることも可能であるが、入手の容易性や生産性から、天然物から抽出及び分離したものが好ましい。
【0012】
上記プラスマローゲンを分離及び抽出する天然物としては、各種動物、植物、微生物、例えば、経口投与する際の安全性や入手し易さから牛肉、豚肉、鶏肉などの畜産物及びその副産物、マグロ、サケ、ホタテ、カキ、ホヤ等の水産物及びその副産物などが挙げられる。本発明ではコリン型プラスマローゲンの含有量が特に高い点でこれらの中でも、畜産物あるいは水産物の心臓や骨格筋を使用することが好ましい。
【0013】
本発明の経口投与剤では、これら各種動物、植物、微生物から、溶剤抽出などによって抽出された、プラスマローゲン含有脂質、更には、必要に応じて、該プラスマローゲン含有脂質を液々抽出やカラムクロマトグラフィー、酵素処理などでプラスマローゲンを濃縮、精製した、プラスマローゲン含有リン脂質や、また、上記プラスマローゲン含有脂質やプラスマローゲン含有リン脂質から、更にプラスマローゲンを濃縮、精製した精製プラスマローゲンを使用することができる。
上記各種動物、植物、微生物等の組織からのコリン型プラスマローゲン含有脂質の抽出方法としては、Folch法(Folch et al.:J. Biol. Chem., 226, 497-505, 1957)、Bligh & Dyer法(Bligh et al.:Can. J. Biochem. Physiol., 37, 911-917, 1959)、あるいは安全性の高い有機溶媒であるヘキサンや低級アルコールを用いた混合溶媒を用いる方法(Hara et al.:Anal. Biochem., 90(1):420-6,1978、特開2005-179340)などがある。また、抽出効率を高めるために、上記動物組織を脱水処理したものを用いてもよい。
【0014】
また、上記コリン型プラスマローゲン含有脂質は、アセトン沈殿法(山川民夫監修:生化学実験講座3,脂質の化学(日本生化学会編),p.19−20,1963,東京化学同人)、カラムクロマトグラフィー法(James et al.:Lipids, 23, 1146-1149, 1988)等により、トリグリセリドや部分グリセリドを除去し、コリン型プラスマローゲンを含むリン脂質画分のみを分離精製することができる。
更に、上記コリン型プラスマローゲン含有脂質は、弱アルカリ処理(Frosolono et al:Chem. Phys. Lipids. 10, 203-14, 1973)、あるいは哺乳動物膵臓由来リパーゼ又は微生物由来のホスホリパーゼA1処理によるジアシル型リン脂質の分解(Woelk et al. : Z Physiol. Chem. 354, 1265-70, 1973)の方法を用いて、コリン型プラズマローゲンを濃縮することができる。
【0015】
本発明の経口投与剤におけるコリン型プラスマローゲン含有量は、好ましくは5〜100%、より好ましくは30〜100%、更に好ましくは50〜100%である。また、本発明の経口投与剤は、エタノールアミン型プラスマローゲン又は他の極性基を有するプラスマローゲンを含むこともできるが、プラスマローゲンに対するコリン型プラスマローゲンの比率は、コリン型プラスマローゲンが60%以上であり、好ましくは、80%以上であり、より好ましくは、90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。
【0016】
本発明の経口投与剤では、上記以外のその他の成分を含有することができる。該その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、乳脂坊球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。
これらのその他の成分の含有量は、本発明の経口投与剤中、合計で好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0017】
本発明の経口投与剤は、広範な各種飲食品や医薬品に配合・添加することができ、その摂取量としては、成人の場合、コリン型プラスマローゲンとして1日あたり、好ましくは100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20gを摂取することが望ましい。
【0018】
また、本発明の経口投与剤は、通常経口で用いるものであるが、消化管から吸収させるために、カテーテルなどを用いて、直接、胃や十二指腸などに投与することも可能である。
【0019】
[2]飲食品
本発明の飲食品は、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する。また、本発明の飲食品は、前記のコリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する経口投与剤を含有することもできる。
本発明の飲食品における、コリン型プラスマローゲンの含有量は、使用する飲食品により異なるが、成人の場合、コリン型プラスマローゲンとして1日当たり100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20g摂取できる量の経口投与剤を飲食物中に含有できれば良い。具体的には、飲食品中0.1〜100質量%であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明における飲食品としては、特に限定されるものではなく、例えば味噌、醤油、めんつゆ、たれ、だし、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ、ウスターソース、とんかつソース、ふりかけ等の調味料、お吸い物の素、カレールウ、ホワイトソース、お茶漬けの素、スープの素等の即席調理食品、味噌汁、お吸い物、コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類、焼肉、ハム、ソーセージ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、佃煮、珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、煎餅等のスナック類、食パン、菓子パン、クッキー等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー、シチュー、グラタン、ごはん、おかゆ、おにぎり等の調理食品、パスタ、うどん、ラーメン等の麺類食品、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、風味ファットスプレッド等の油脂加工食品、フラワーペースト、餡等の製菓製パン用素材、パン用ミックス粉、ケーキ用ミックス粉、フライ食品用ミックス粉等のミックス粉、チョコレート、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、ガム等の菓子類、饅頭、カステラ等の和菓子類、コーヒー、コーヒー牛乳、紅茶、ミルクティー、豆乳、栄養ドリンク、野菜飲料、食酢飲料、ジュース、コーラ、ミネラルウォーター、スポーツドリンク等の飲料、ビール、ワイン、カクテル、サワー等のアルコール飲料類、牛乳、ヨーグルト、チーズ等の乳や乳製品等があげられる。
【0021】
本発明のコリン型プラスマローゲンを含有する飲食品は、コリン型プラスマローゲンを原料として含むこと以外は、公知の飲食品の製造方法を用いて製造することができる。
【0022】
本発明の飲食品は、コリン型プラスマローゲンを含有することにより、生体内においてプラスマローゲン含量を増加させることが可能であり、機能性食品又は健康食品(飲料も含む)として用いることができる。また動物には、飼料として与えることができる。本発明の飲食品は、例えば、畜産物あるいは水産物の心臓や骨格筋から分離及び生成したコリン型プラスマローゲンを含むことが好ましい。
【0023】
[3]医薬組成物
医薬組成物は、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有するため、血液又はリンパ液中のプラスマローゲンを増加させることが可能である。前記のコリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する経口投与剤を使用することもできる。
【0024】
医薬組成物における、本発明の経口投与剤の含有量は、使用する医薬組成物により異なるが、成人の場合、コリン型プラスマローゲンとして1日当たり100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20g摂取できる量の経口投与剤を医薬組成物中に含有できれば良い。具体的には、コリン型プラスマローゲン量は医薬組成物中、0.1〜100質量%であることが好ましく、0.5〜99質量%であることが好ましく、1〜80質量%であることが最も好ましい。
医薬組成物は、コリン型プラスマローゲンを単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することができる通常の担体又は希釈剤とともに、プラスマローゲンの低下又は消失に起因する疾患の治療及び/又は予防が必要な対象[例えば、動物、好ましくは哺乳動物(特にヒト)]に有効量で投与することができる。
【0025】
医薬組成物は、プラスマローゲンの濃度を上昇させることのできる物質を含むこともできる。このような物質としては、例えばアルキルグリセロール、イノシトールを挙げることができる。
医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤が好ましい。
【0026】
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
本発明の医薬組成物を用いる場合の投与量は、例えば、使用する有効成分の種類、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、生上の程度、又は投与方法に応じて適宜決定することができ、経口的に又はカテーテルなどを用いて直接消化管に投与することが可能である。
更に、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料も含む)、又は飼料として飲食物の形態で与えることも可能である。
【0027】
本発明の経口投与剤を含有する医薬組成物の製造方法は、前記コリン型プラスマローゲンを有効成分として含むこと以外は、公知の医薬品の製造方法を用いて製造することができる。
【0028】
プラスマローゲンは、LDLコレステロールの酸化を抑制する。LDLコレステロールの酸化は、動脈硬化症を誘導するため、プラスマローゲンを増加させることによって、動脈硬化症を予防又は治療することが可能である。更に、動脈硬化を基礎疾患とする、心筋梗塞及び脳梗塞を予防又は治療することが可能である。更に、加齢及び酸化ストレスがプラスマローゲンにより、抑制されると考えられている。加齢及び酸化ストレスが関与する疾患として癌、動脈硬化症、糖尿病、及びアルツハイマー病があり、プラスマローゲンを増加させることにより、癌、動脈硬化症、糖尿病、及びアルツハイマー病を予防又は治療することが可能である。従って本発明による経口投与剤、飲食品、又は医薬組成物が、予防又は治療することのできるプラスマローゲンの低下又は消失に起因する疾患としては、癌、動脈硬化症、糖尿病、及びアルツハイマー病を挙げることができる。更に加齢を抑制することも可能である。
【0029】
本発明の経口投与剤、飲食品、又は医薬組成物を生体内に投与、特には経口投与することにより、生体内特にリンパ液や血液中のプラスマローゲンを増加させることが可能である。すなわち、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する本発明の経口投与剤、飲食品、又は医薬組成物を生体内に投与、特には経口投与することにより、生体内においてプラスマローゲンを増加させる方法を提供することが可能である。
本発明の飲食品や医薬組成物を経口摂取する場合の摂取量は、前記のとおり、例えば成人の場合、コリン型プラスマローゲンとして1日当たり100mg〜40g、より好ましくは200mg〜20g摂取できる量の経口投与剤を医薬組成物中に含有できる量である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0031】
〔製造例1〕
コリン型プラスマローゲンの含有比が高い動物組織として、ウシの心臓を利用し、コリン型プラスマローゲン含有脂質を製造した。
ウシ心臓から筋肉部分6kg(水分含有量80質量%)を切り出し、ホモジナイザーを用いてペースト状にした組織を、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒18Lを加え、10分間攪拌した。その後、吸引濾過により得たろ液の上層であるヘキサン層を脂質抽出液として回収した。続いて、ろ液下層と濾過残渣を合わせ、それに新たにヘキサン10Lを加え、10分間攪拌して脂質画分を抽出後、上記同様に抽出液を回収した。更に、ろ液下層と濾過残渣に同一の操作をもう1回繰り返し、回収した合計3回分の抽出液を併せ、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去し、残渣としてプラスマローゲン含有脂質181gを得た。
得られたプラスマローゲン含有脂質100gをヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒300mLに溶解したものを、ヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒でけん濁したシリカゲル(Wakosil200)400gを充填したガラスカラム(100cm×3cm)に添加した。ヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒を4L通液させて中性脂質を溶出した後、エタノール8Lを通液させてエタノールアミン型リン脂質を溶出させた。更にエタノール/水=80:20の混合溶媒11Lを通液させてコリン型リン脂質を溶出させた。
得られた溶出液をエバポレーターで濃縮して得られた残渣13.4gをコリン型プラスマローゲン含有脂質とした。
得られたコリン型プラスマローゲン含有脂質は、プラスマローゲンを50%含有し、そのうち99%がコリン型プラスマローゲンであった。
【0032】
〔製造例2〕
エタノールアミン型プラスマローゲンの含有比が高い動物組織として、ブタの脳を利用し、エタノールアミン型プラスマローゲン含有脂質を製造した。
ブタ脳5kg(水分含有量75質量%)を切り出し、ホモジナイザーを用いてペースト状にした組織を、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒18Lを加え、10分間攪拌した。その後、吸引濾過により得たろ液の上層であるヘキサン層を脂質抽出液として回収した。続いて、ろ液下層と濾過残渣を合わせ、それに新たにヘキサン10Lを加え、10分間攪拌して脂質画分を抽出後、上記同様に抽出液を回収した。更に、ろ液下層と濾過残渣に同一の操作をもう1回繰り返し、回収した合計3回分の抽出液を併せ、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去し、残渣としてプラスマローゲン含有脂質230gを得た。
得られたプラスマローゲン含有脂質100gをヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒300mLに溶解したものを、ヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒でけん濁したシリカゲル(Wakosil200)400gを充填したガラスカラム(100cm×3cm)に添加した。ヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒を4L通液させて中性脂質を溶出した後、エタノール8Lを通液させてエタノールアミン型リン脂質を溶出させた。
得られた溶出液をエバポレーターで濃縮して得られた残渣84.5gをエタノールアミン型プラスマローゲン含有脂質とした。
得られたエタノールアミン型プラスマローゲン含有脂質は、プラスマローゲンを52%含有し、そのうち99%がエタノールアミン型プラスマローゲンであった。
【0033】
〔実施例1〜2、比較例1〜2〕
カプセル剤として経口投与した場合を想定し、十二指腸に脂質投与用、胸管にリンパ液採取用カテーテルを留置したWistar−ST系雄ラット(10週齢)に、製造例1で得たコリン型プラスマローゲン含有脂質100%(実施例1)とコリン型プラスマローゲン含有脂質25%と大豆油75%の混合物(実施例2)、製造例2で得たエタノールアミン型プラスマローゲン含有脂質100%(比較例1)とエタノールアミン型プラスマローゲン含有脂質25%と大豆油75%の混合物(比較例2)を、タウロコール酸ナトリウムで10%エマルジョンとし、それぞれを1.0mL経腸投与した。投与開始から4時間、経時的に胸管リンパ液を全量採取し、リンパ液からリン脂質を抽出後、プラスマローゲン含量をLC/MSにて測定し、投与後4時間までのリンパ液へのプラスマローゲン放出量及びリンパ液への吸収率を算出し、その結果を表1に記載した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果から、コリン型プラスマローゲンを投与した場合にのみ、リンパ液へのプラスマローゲン放出がおこり、リンパ液中のプラスマローゲン含量が増加すること、及び、その作用機構として、コリン型プラスマローゲンを投与した場合に、リンパ液へのプラスマローゲン放出量が増加するためであることが示された。
【0036】
〔実施例3、比較例3〕
6週齢のWistar−ST系雄ラットをステンレスケージに個別に入れて飼育し、飼料及び水(水道水)を自由に摂取させた。毎朝同一時刻に体重及び摂食量を計測した。試験飼料は毎日、飲水は3日毎に交換した。なお、飼育室を、室温23±1℃、湿度60%前後、明暗周期を12時間(明期8:00〜20:00、暗期20:00〜8:00)に設定した。
AIN93Gに準じた精製飼料(基本食)で5日間飼育した後、基本食の大豆油の50%を、製造例1で得られたコリン型プラスマローゲン含有脂質(実施例3)、製造例2で得られたエタノールアミン型プラスマローゲン含有脂質(比較例3)に置き換えて飼育した。基本食(コントロール食)及びエルシン酸を添加したAIN93Gに準じた精製飼料(試験食)の各組成を下記の表2に示す。
【0037】
試験飼料で10日間飼育した後、ペントバルビタール麻酔下において腹部大動脈血を採取した。採取した腹部大動脈血(10mL)は、遠心分離して血球成分と血漿を分け、血漿200μLに1% KCl溶液800μL加えた後、メタノール2.5mL、クロロホルム1.25mLを加え混合、遠心分離してクロロホルム層採取し、残った上清に再度クロロホルム1mLを加えて振とうし、同様に遠心分離して下層を採取して先程の下層と合わせ血清脂質を得た。
抽出した血清脂質は、湿式灰化後、リンを測定することによってリン脂質含量を算出し、また、プラスマローゲン含量をLC/MSにより測定し、その結果を表3に記載した。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
上記表3の結果からわかるとおり、コリン型プラスマローゲンを有効成分として含有する、本発明の経口投与剤を摂取した実施例3では、エタノールアミン型を含有するがコリン型を含有しないプラスマローゲンを摂取した比較例3に比べて、3倍以上のプラスマローゲン含量となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の経口投与剤、飲食物、及び医薬組成物は、血液又はリンパ液中のプラスマローゲン量を増加させることができるため、プラスマローゲンの低下又は消失に起因する疾患の予防又は治療に用いることが可能であるが、特には、リンパ液中のプラスマローゲン量を、特異的に増加させることができるため、リンパ液中のプラスマローゲンの低下又は消失に起因する疾患の予防又は治療に有効に用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリン型プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする経口投与剤。
【請求項2】
コリン型プラスマローゲンを有効成分として含むことを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2009−269865(P2009−269865A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122390(P2008−122390)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 文部科学省 委託事業「さっぽろバイオクラスター構想“Bio−S”」委託研究,産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】