説明

経口投与可能な医薬製剤

本発明の主題は、バイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、プロテアーゼインヒビターならびに高分子量(天然)タンパク質の組み合わせを含む経口投与可能な医薬製剤である。本発明はまた、該医薬製剤の製造方法に関する。本発明の主題はまた、該医薬製剤の使用および哺乳動物の糖尿病の治療方法を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、バイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、プロテアーゼインヒビターならびに高分子量(天然)タンパク質の組み合わせを含む経口投与可能な医薬製剤である。本発明はまた、該医薬製剤の製造方法に関する。本発明の主題はまた、該医薬製剤の使用および哺乳動物の糖尿病の治療方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
経口投与可能なインスリン製剤の開発において、2つの基本的な問題:天然のペプチドのインスリンの分解の阻止;および腸内バリアを通過させること;を解決すべきである:
【0003】
文献にしたがって、インスリンを含む経口投与可能な医薬製剤を開発するための数多くの試みがなされている。本質的に、これらの製剤は、酵素不活化を阻害し、インスリンの吸収および再吸収を促進するために、インスリンに加えてそれらが異なる物質を含むという点において互いに相違する。
【0004】
文献番号EP1454631は、水性懸濁液中に治療有効量のインスリンおよび結晶性デキストラン微粒子を含む医薬製剤を記載している。該製剤は、単相または多相でありうるインスリンの制御放出を提供する。
【0005】
文献番号US1993005970は、オリゴマーに共有的に結合したインスリンを含む医薬製剤を開示する。
【0006】
国際公開公報WO0033866に開示された医薬製剤は、懸濁液の状態で、長鎖PEG種と混合して、非水性疎水性媒体中にインスリンを含む。
【0007】
国際公開公報WO9636352は、たとえば、サリチル酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸、リノレイン酸、レシチンなどの吸収を促進する少なくとも2種の化合物を含む、経口または経鼻投与に適したインスリン製剤を記載している。
【0008】
米国特許第5438040号の主題は、安定で、水溶性であり、同時に、消化器系で分解しない、インスリンが生体適合性ポリアルキレングリコール誘導体に共有的に結合している複合インスリン複合体を含む、経口投与可能な医薬製剤である。
【0009】
日本特許出願第54028807号に開示された製剤は、添加剤およびインスリナーゼインヒビターとしてムチンを含む。
【0010】
国際公開公報WO0166085に記載された医薬製剤は、インスリン、アルカリ金属(C8〜C22アルキル)硫酸塩、溶媒として水またはエタノール、フェノール性化合物、抗酸化剤およびバシトラシンまたはその誘導体、大豆トリプシンまたはアプロチニンなどのプロテアーゼインヒビターを含む。
【0011】
国際公開公報WO9310767は、消化管内で酵素的に不活性であるいずれかのペプチド型有効成分の経口投与の問題のための溶液を提供する。インスリンの場合、この目的は、インスリンをゼラチンマトリックス内に組み込むことによって達成される。ゼラチンは、ペプチダーゼの分解効果に長時間曝されないような様式で、有効成分が小腸および大腸に吸収されるのを可能にする
【0012】
文献番号EP0127535に開示された医薬製剤は、インスリン、胆汁酸およびプロテアーゼインヒビターを含む。胆汁酸は、吸収を促進し、プロテアーゼインヒビターは、タンパク質分解からインスリンを保護する。経口投与された製剤は、胃をすばやく通過し、腸内で放出され、迅速に吸収される。
【0013】
欧州特許出願EP0351651は、インスリンに加えて、吸収促進物質および担体物質としてポリオキシエチレングリコール−カルボン酸−グリセリドエステルを含む、経口およびバッカル投与に適した製剤を開示する。
【0014】
米国特許第3172814号に開示された製剤は、インスリンおよびインスリンの効果の減少を防止するために無水ホルムアルデヒドアニリンを含む。
【0015】
国際公開公報WO2007121318に記載の製剤は、インスリンおよび担体物質としてナトリウム4-CNABを含み、それらは一緒に凍結乾燥され、次いで、得られる粉末を錠剤化するか、またはゼラチンカプセルに充填する。
【0016】
国際公開公報WO9843615によれば、膨潤性のヒドロゲルマトリックスが用いられており、それは、メタクリル酸とポリアルキレングリコールの共重合体であり、インスリンが小腸に到達したときのみに、放出されるのを可能にする。ポリマーもまた、腸においてタンパク質分解酵素の活性を阻害し、吸収される前にインスリンが長時間活性を維持するのを補佐する。
【0017】
今までのところ知られている製剤は、一般に、インスリンのバイオアベイラビリティが低く、少量のインスリンしか消化管から吸収されず、迅速に分解され、血糖値に影響を及ぼすことができないという事実によって特徴付けられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、これまでに知られている製剤よりもバイオアベイラビリティの優れたインスリンを含む経口投与可能な医薬製剤を開発することである。
目的は、インスリン、プロテアーゼ阻害物質および高分子量天然タンパク質の組み合わせによって達成された。プロテアーゼ阻害物質とタンパク質の両方が腸壁を通過でき、適当な担体分子が同様に、ペプチド性質のインスリンを通過させられるように、両方が、腸の担体を有することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、バイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、プロテアーゼインヒビターならびに高分子量(天然)タンパク質の組み合わせを含む経口投与可能な医薬製剤に関する。
【0020】
ヒトインスリンは、B28位がAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaであり、B29位がLysまたはProであるアナログであるか;またはdes(B28-B30)、des(B27)もしくはdes(B30)ヒトインスリンである。
【0021】
本発明の好ましい実施態様によれば、プロテアーゼインヒビターは、ε−アミノカプロン酸であり、高分子量天然タンパク質は、カゼインである。
【0022】
本発明の医薬製剤は、40〜100 IUのヒト組換えインスリン、100〜1000 mgのε−アミノカプロン酸および1〜100 mgのカゼインならびに医薬的に許容しうる担体および添加物を含む。
【0023】
本発明の医薬製剤は、哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療に用いることができる。
【0024】
本発明の医薬製剤は、妊娠中の糖尿病の治療にも有利に用いることができる。
【0025】
本発明はまた、哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療に適した経口投与可能な医薬製剤の製造のための、治療有効量のバイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、ε−アミノカプロン酸およびカゼインの組み合わせの使用に関する。
【0026】
本発明の主題は、医薬的に許容しうる担体および添加物と混合された、40〜100 IUのバイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、100〜1000 mgのε−アミノカプロン酸および1〜100 mgのカゼインが、経口投与可能な投与剤形に製剤される、経口投与可能な医薬製剤の製造方法を包含する。
【0027】
経口投与可能な医薬製剤は、カプセル剤、錠剤またはフィルムコート錠でありうる。
【0028】
本発明はまた、患者が、治療有効量のバイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、ε−アミノカプロン酸およびカゼインを含む経口投与可能な医薬製剤を投与される、哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療方法に関する。より正確に言えば、患者は、40〜100 IUのヒト組換えインスリン、100〜1000 mgのε−アミノカプロン酸および1〜100 mgのカゼインを含む医薬製剤を投与される。
【0029】
本発明の医薬製剤は、30 %以上のバイオアベイラビリティを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】α−キモトリプシン(1.5 μg/10 μl)を含む溶液中の等量のインスリン/ε−アミノカプロン酸(アセプラミン、Sigma、MO)の存在下でのインスリン(100 μM;天然)安定性
【図2】ストレプトゾシン(50 mg/kg i.v.)誘発糖尿病の血糖値におけるインスリン(10 IU/kg)の単回経口用量の効果。皮下インスリン (10 IU/kg)との比較。* コントロールと比較した有意差。(p<0.05)。グループ当たりn=8。略語:insac1(経口インスリン+1 mg/kgのε−アミノカプロン酸;insac10:経口インスリン+10 mg/kgのε−アミノカプロン酸;insac100:経口インスリン+100 mg/kgのε−アミノカプロン酸;ins s.c.:皮下インスリン。
【図3】ストレプトゾシン(50 mg/kg i.v.)誘発糖尿病の血漿インスリン免疫反応性におけるインスリン(10 IU/kg)の単回経口用量の効果。皮下インスリン (10 IU/kg)との比較。* コントロールと比較した有意差。(p<0.05)。グループ当たりn=8。
【0031】
図1のデータは、120分後、調合されたインスリンの60 %が、損なわれておらず、天然のインスリンの80 %以上が減成していることを示す。
【0032】
図2および図3のデータは、インスリン欠乏性糖尿病において、調合された経口インスリンが、血漿インスリン値を増加させ、血糖値を効果的に低下させることを証明する。実験に基づくと、同じ標準インスリン(10 IU/kg)に関し、100 mg/kgのε−アミノカプロン酸含量は、10 mg/kgと比較して有利な効果を提供しない。皮下インスリンの60分値は、おそらくすでに下落している結晶濃度値である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1〜3および実施例において提示される試験結果を用いて、我々の発明をより詳細に記載する。
【実施例1】
【0034】
ε−アミノカプロン酸担体分子による経口インスリンの使用の可能性
雄性ウィスターラット(チャールズ−リバー研究所、ブダペスト、ハンガリー)を実験に用いた。実験前に、動物を16時間餓えさせた。実験は、朝の8〜9時の間に開始した。1グループ当たり4匹として、2 x 6のグループをランダムに作成した。以下の通り、フィーディングプローブを介して動物を前処理した:グループ1:1 g/kgのε−アミノカプロン酸;グループ2:0.1 U/kgのインスリン;グループ3:0.1 U/kgのインスリンおよび1 g/kgのε−アミノカプロン酸;グループ4:1.0 U/kgのインスリン;グループ5:1.0 U/kgのインスリンおよび1 g/kgのε−アミノカプロン酸;ならびにグループ6:溶媒。第1の6グループに対する処置から15分後および第2の6グループに対する処置から60分後の動脈血から血糖値および結晶インスリン値を決定した。得られた結果を第1表にまとめる。
【0035】
第1表
15分後の値

【0036】
60分後の値

【実施例2】
【0037】
標準カゼインを加えた場合の、インスリンの吸収におけるアセプラミンの効果
健康な雄性ウィスターラット(230-250 g)の十二指腸内に、標準カゼインを加えたε−アミノカプロン酸−ヒト組換えインスリン混合物を与えた。測定の終点は、インスリン-アセプラミン製剤(水性懸濁液)の投与後15分および60分の時点で、グルコースオキシダーゼ法で測定される血糖およびラジオイムノアッセイで測定される血漿インスリンであった。
【0038】
実験の結果を第2表に示す。
データ:平均±標準偏差、グループ当たり=8。統計:t-検定+ANOVA後のボンフェローニ補正。
【0039】
第2表

【実施例3】
【0040】
「インビトロ」安定性
インビトロ安定性は、天然インスリンと比較した場合の、タンパク質分解酵素の存在下でのインスリン−アセプラミン混合物の基本製剤(primitive formulation)の生分解を意味する(逆相HPLC試験の結果)。
【実施例4】
【0041】
実験的糖尿病におけるバイオアベイラビリティおよび有効性
ストレプトゾシンの単回静脈内投与によって、雄性スプラーグ−ドーリーラット(230-250 g)に実験的糖尿病を誘発した。10日後、15 mmol/l以上の空腹時(12時間の飢餓状態の後)血糖値を有する動物を用いて実験を継続した。動物に、経口または非経口(s.c.)でインスリン(10 IU/kg)を投与し、次いで、血糖値(第2表のデータ)および血漿インスリン免疫反応性(第3表のデータ)を測定した。
【0042】
本発明の医薬製剤は、血糖低下効果に関して、皮下投与されたインスリンとほぼ等価であり、糖尿病の哺乳動物を治療するために、異常に高い血糖値を低下させるのに適している。
【0043】
本発明の医薬製剤は、皮下投与されたインスリンへのインスリン感作効果を有する。
本発明の医薬製剤の排出半減期は、ラットにおいて約40分である。
本発明の医薬製剤は、亜慢性毒性を示さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、プロテアーゼインヒビターならびに高分子量天然タンパク質の組み合わせを含む経口投与可能な医薬製剤。
【請求項2】
ヒトインスリンが、B28位がAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaであり、B29位がLysまたはProであるアナログであるか;またはdes(B28-B30)、des(B27)もしくはdes(B30)ヒトインスリンである請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
プロテアーゼインヒビターが、ε−アミノカプロン酸である請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
高分子量天然タンパク質が、カゼインである請求項1または2に記載の医薬製剤。
【請求項5】
40〜100 IUのヒト組換えインスリン、100〜1000 mgのε−アミノカプロン酸および1〜100 mgのカゼインを含む請求項1〜4のいずれか1つに記載の医薬製剤。
【請求項6】
哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療に適した経口投与可能な医薬製剤の製造のための、治療有効量のバイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、ε−アミノカプロン酸およびカゼインの組み合わせの使用。
【請求項7】
医薬的に許容しうる担体および添加物と混合された、40〜100 IUのバイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、100〜1000 mgのε−アミノカプロン酸および1〜100 mgのカゼインが、経口投与可能な投与剤形に製剤される、経口投与可能な医薬製剤の製造方法。
【請求項8】
哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療のための請求項1〜5のいずれか1つに記載の医薬製剤の使用。
【請求項9】
妊娠中の糖尿病の治療のための請求項1〜5のいずれか1つに記載の医薬製剤の使用。
【請求項10】
患者が、治療有効量のバイオテクノロジーによって生産されたヒト組換えインスリンおよび/または修飾インスリンまたはその類縁体および/または誘導体、ε−アミノカプロン酸およびカゼインを含む経口投与可能な医薬製剤を投与される、哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療方法。
【請求項11】
患者が、40〜100 IUのヒト組換えインスリン、100〜1000 mgのε−アミノカプロン酸および1〜100 mgのカゼインを含む医薬製剤を投与される、哺乳動物の1型および2型糖尿病の治療方法。
【請求項12】
バイオアベイラビリティが、30 %以上である請求項1〜5のいずれか1つに記載の医薬製剤。

【公表番号】特表2013−501043(P2013−501043A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523416(P2012−523416)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053499
【国際公開番号】WO2011/015984
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(512027577)
【氏名又は名称原語表記】CERA−MED KFT.
【Fターム(参考)】