説明

経口用グリチルリチン可溶化製剤及びその製造方法

【課題】グリセリン脂肪酸エステルとグリチルリチンが溶解した状態で存在し、高い腸管吸収性を示す経口用グリチルリチン可溶化製剤、及び、該経口用グリチルリチン可溶化製剤の製造方法の提供。
【解決手段】グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒と、を含有することを特徴とする経口用グリチルリチン可溶化製剤、及び、該経口用グリチルリチン可溶化製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリチルリチンが溶解した状態で存在する経口用グリチルリチン可溶化製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリチルリチン(以下、GLと略記する)及びその塩は、抗アレルギー作用、抗炎症作用、免疫調節作用、肝細胞障害抑制作用、肝細胞増殖促進作用、ウィルス増殖抑制作用等の幅広い生理活性作用を有することが知られており、古くから臨床薬として用いられている。現在では、単独で、もしくはアミノ酸との配合剤として、肝臓疾患や皮膚疾患、各種アレルギー、炎症等に幅広く使用されている。
【0003】
既存のGL製剤には、一般的に静脈注射剤と経口剤があり、臨床現場においては主に静脈注射剤が用いられている。しかし、静脈注射は患者への侵襲性が高く、また、慢性肝疾患の治療では、長期にわたる静脈注射により血管硬化が引き起こされ、投薬が困難になる場合も多い。さらに、投与のため頻繁に通院しなければならない現状が、特に高齢の患者におけるQOL(Quality of life)を著しく低下させている。このため、特に慢性肝疾患治療においては、患者への侵襲性が低い経口剤の方が望ましい。
【0004】
しかしながら、GLを経口投与した場合、腸内ではそのほとんどがアニオン性の解離型で存在するため腸管吸収性に乏しく、十分な治療効果が得られない場合が多い。そこで、GLの腸管吸収性を改善するため、多くの製剤的工夫がなされてきた。
【0005】
例えば、GLにグリセリン脂肪酸エステルを配合し、腸溶性被膜で被覆したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。界面活性作用を有するグリセリン脂肪酸エステルはGLの腸管吸収性を高める効果を有する。
【特許文献1】特開平3−255037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、グリセリン脂肪酸エステルはGLの溶解性に乏しいため、上記の経口製剤は、グリセリン脂肪酸エステルにGLを分散したのみであって、媒体にGLが溶解していない。このため、カプセルに充填しても、分散していたGLがカプセル内で沈降する結果、再現性のある安定した高吸収性は望むことができない。
【0007】
高濃度のGLを可溶化させるには、通常、アンモニア水や希エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の水性溶媒を使用する。しかし、水性溶媒に溶解させたGLは腸管吸収性に乏しい。再現性のある安定した吸収性を有するためには、GLが製剤中で可溶化状態を保つ必要がある。一方、高吸収性を有するためには、優れた腸管吸収促進効果を有するグリセリン脂肪酸エステルとGLを同一製剤中に含むことが望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、グリセリン脂肪酸エステルとGLが溶解した状態で存在し、高い腸管吸収性を示す経口用GL可溶化製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、GLが2質量%以上溶解しうる溶媒を少量用いることにより、GLとグリセリン脂肪酸エステルが溶解した状態で存在する経口用GL可溶化製剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、GL及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記GL及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒と、を含有することを特徴とする経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、前記グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステルである経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、前記溶媒が、水、アンモニア水、アンモニウム塩水溶液、アルカリ水溶液、アルカリ塩溶液、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンからなる群より選ばれる1以上である経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、前記溶媒が、アンモニア水及び/又はアンモニウム塩水溶液である経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、前記グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステルであり、前記溶媒がアンモニア水及び/又はアンモニウム塩水溶液であり、さらに油脂及び/又は脂肪酸を含有するものである経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、GL及び/又はその薬学的に許容される塩の含有量が1〜40質量%であり、前記グリセリン脂肪酸エステルの含有量が30〜90質量%であり、前記溶媒の含有量が、前記GLとその薬学的に許容される塩のGLとしての合計含有量に対して0.1〜100質量%である経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、剤型がカプセルである経口用GL可溶化製剤を提供するものである。
また、本発明は、GL及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記GL及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒を混合、撹拌し、前記GL及び/又はその薬学的に許容される塩を溶解させることを特徴とする経口用GL可溶化製剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の経口用GL可溶化製剤は、溶解性と腸管吸収性の両方に優れており、再現性のある安定した高吸収性を示す新規経口用GL可溶化製剤である。本発明のGL製剤、すなわち、既存のGL静脈注射剤と同様に十分な治療効果を有する経口製剤が提供されることにより、患者のQOLの改善、医療従事者側の負担軽減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の経口用GL可溶化製剤は、GL及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記GL及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒と、を含有することを特徴とする経口用GL可溶化製剤である。GL又はその塩が2質量%以上溶解し得る溶媒を用いることにより、グリセリン脂肪酸エステル存在下において、GL又はその塩を溶解させるための溶媒量を少量に抑えることができる一方、腸管吸収性向上のためのグリセリン脂肪酸エステル含有量を高くすることができる。
つまり、本発明の経口用GL可溶化製剤の投与により、可溶化状態の高濃度のGLが、充分量のグリセリン脂肪酸エステルによって、非常に効果的に腸管へ吸収されることが期待できる。
【0013】
本発明において用いられるGL及びその薬学的に許容される塩は、生体内において、GLと同様の薬理効果を有する塩であれば、特に限定されるものではない。例えば、現在、臨床現場で使用されているGLアンモニウム塩等のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等がある。
【0014】
本発明において用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、特に限定されるものではない。好ましくはモノグリセリン脂肪酸エステルであり、より好ましくはC〜C18のモノグリセリン脂肪酸エステルである。GLの腸管吸収促進効果が、より大きいためである。モノグリセリン脂肪酸エステルには、グリセロールと、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸等とのエステルが挙げられる。1種類のモノグリセリン脂肪酸エステルを単独で用いてもよいし、複数種類のモノグリセリン脂肪酸エステルの混合物として用いてもよい。その他、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びトリグリセリン脂肪酸エステルの混合物として用いてもよい。このような市販品としては、例えば、Sasol社製の「インバイター742」、「インバイター988」、理研ビタミン株式会社製の「ポエムM100」、「ポエムM200」、「ポエムM300」、花王株式会社製の「ホモテックスPT」等が挙げられる。
【0015】
本発明において用いられる溶媒は、GL及び/又はその薬学的に許容される塩を2質量%以上溶解し得るものであり、かつ、経口用GL可溶化製剤の他の構成成分の析出・沈降を起こさないものであれば、すなわち、可溶化状態を維持し続け得るものであれば、特に限定されるものではない。
なお、本発明において溶解するとは、溶液を入れた透明な試験管を通して、紙に書いた字が読める程度に透明な溶液となることをいう。
【0016】
該溶媒は、水性溶媒、無機塩溶液等でもよい。水性溶媒には、例えば、水、エタノール、希エタノール、アンモニア水等のアルカリ水溶液、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等がある。無機塩溶液には、例えば、アンモニウム塩水溶液や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の水溶液がある。アンモニウム塩水溶液には、例えば、炭酸アンモニウム塩、塩化アンモニウム塩、酢酸アンモニウム塩等の水溶液がある。また、グリシン、メチオニン、システイン、アルギニン等のアミノ酸、セルロース誘導体、デカン酸ナトリウム、大豆レシチン、卵黄レシチン等の有機物、その他の界面活性剤の溶液でもよい。
【0017】
また、アルカリ水溶液又はアルカリ塩溶液を用いることにより、製剤中に含有されるGLと他成分との化学反応を抑制し、GLの化学的安定性を向上させることができる。該アルカリ水溶液又はアルカリ塩溶液として、例えば、アンモニア水やアンモニウム塩水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素ジナトリウム、リン酸水素ジカリウム、炭酸水素ジナトリウム、炭酸水素ジカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の水溶液等がある。
【0018】
該溶媒は、上記溶液のうち、一種類の溶液であってもよいし、複数種類からなる混合溶液であってもよい。多種多様な溶液を適宜溶媒として用いることにより、様々な保存条件下において、経口用GL可溶化製剤中のGLあるいは他の構成成分の析出・沈降を防止することができるとともに、GL濃度及び経口用GL可溶化製剤の粘度を自在に調節することができる。
【0019】
該溶媒は、水、アンモニア水、アンモニウム塩水溶液、アルカリ水溶液、アルカリ塩溶液、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンからなる群より選ばれる1以上であることが好ましい。GLの溶解度が高いためである。アンモニア水及び/又はアンモニウム塩水溶液であることがより好ましい。GLのアンモニウム塩を用いた場合に、GLの化学的安定性を向上させることができる上に、GLのアンモニウム塩を維持することができるためである。
【0020】
本発明の経口用GL可溶化製剤に、アルカリ水溶液又はアルカリ塩を添加することにより、GLの化学的安定性を向上させることができる。
【0021】
本発明の経口用GL可溶化製剤に、さらに油脂及び/又は脂肪酸を含有することも好ましい。油脂等により、経口用GL可溶化製剤の粘度を自在に調整することができるためである。経口製剤の粘度は、製剤上、重要な因子であり、経口剤として適当な粘度を有することが望まれる。通常、高濃度のGL溶液は粘度も高くなる傾向があるが、油脂等を添加することにより、カプセル等における充填を可能とする程度まで経口用GL可溶化製剤の粘度を低下させることができる。該油脂又は脂肪酸として、例えば、大豆油、ゴマ油、ヤシ油、パーム核油、オリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、シソ油、トリグリセリン中鎖脂肪酸エステル、オレイン酸、サフラワー油脂肪酸等がある。
【0022】
本発明の経口用GL可溶化製剤の、それぞれの構成成分の含有比率は、経口用GL可溶化製剤中のGLあるいは他の構成成分が、析出・沈降を起こさず、可溶化状態を維持できる限り、特に限定されるものではないが、GL及び/又はその塩の含有量が1〜40質量%であり、グリセリン脂肪酸エステルの含有量が30〜90質量%であり、溶媒の含有量が、GLとその塩のGLとしての合計含有量に対して0.1〜100質量%であることが好ましい。
GL及び/又はその塩の含有量が1質量%未満では、充分なGLの薬効が期待できず、一方、40質量%超では、経口用GL可溶化製剤の粘度が高くなりすぎ、製剤上好ましくない。グリセリン脂肪酸エステルの含有量が30質量%未満では、充分な腸管吸収促進効果が期待できず、一方、90質量%超では、GLの可溶化を保つことが困難である。溶媒の含有量が、GLとその塩のGLとしての合計含有量に対して0.1質量%未満では、GLの可溶化を保つことが困難であり、かつ、粘度が高くなりすぎ、一方、100質量%超では、経口用GL可溶化製剤全体に占める溶媒の含有量が高くなりすぎ、本発明の効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0023】
該溶媒がアンモニウム塩水溶液等である場合には、GLが製剤中で可溶化を維持する限り、アンモニウム塩あるいは水の含有量は任意に変更できる。例えば、ゼラチンカプセル等では、充填物の水分あるいは水性基剤の含量がカプセル化の成否を左右することが知られている。本発明の経口用GL可溶化製剤により、カプセル化を前提にした処方設計が可能となり、カプセル製剤としてより完成度の高い製品を提供できる。
【0024】
本発明の経口用GL可溶化製剤の剤型は、経口剤として医療上許容される服用剤型であれば、特に限定されるものではないが、カプセルであることが好ましい。カプセルには、例えば、ゼラチン等を用いたソフトカプセル、ハードカプセルあるいはシームレスカプセル等がある。
【0025】
本発明の経口用GL可溶化製剤は、胃内部において、胃酸による分解や、低pH下におけるゲル化等の影響を受けると、GLの吸収が著しく妨げられるおそれがある。このため、胃を通過し小腸で崩壊する特性を有するカプセル、すなわち、予め腸溶性あるいは耐酸性を付与したソフトカプセル、ハードカプセルあるいはシームレスカプセルがより好ましい。
また、カプセル剤である本発明の経口用GL可溶化製剤に、さらに腸溶性コートを施すこともできる。医薬上許容される腸溶性コーティング剤として、例えば、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー等がある。
【0026】
また、本発明の経口用GL可溶化製剤は、本発明の製造方法、すなわち、GL及び/又はその塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記GL及び/又はその塩が2質量%以上溶解し得る溶媒を混合、撹拌し、前記GL及び/又はその塩を溶解させることを特徴とする経口用GL可溶化製剤の製造方法によって、製造できる。混合の順番、撹拌条件等は、常法による。
【0027】
本発明の経口用GL可溶化製剤は、前記必須成分の他、本発明による効果を妨げない範囲で、薬学的に許容される任意成分を含有してもよい。該任意成分として、例えば、安定化剤、保存剤等がある。
【0028】
本発明の経口用GL可溶化製剤は、薬物あるいはウィルス感染による急性及び慢性肝機能障害、湿疹、皮膚炎、蕁麻疹、薬疹、中毒疹、皮膚そう痒症、褥瘡等の各種皮膚疾患、肺炎、膵炎、腎炎、口内炎、乳腺炎等の各種炎症、各種アレルギー疾患、各種免疫疾患、各種ウィルス性疾患、敗血症、虚血再灌流障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の治療薬として提供できる。既存の注射製剤と比べ、患者への負担が小さく、かつ、簡便に使用できるため、慢性肝疾患等の、長期にわたる投薬を必要とする慢性疾患の治療薬として、特に有効である。
【0029】
本発明の経口用GL可溶化製剤は、投薬される患者の症状、体重、年齢等に応じて、適宜、臨床医により処方される。本発明の経口用GL可溶化製剤におけるGL含量は、薬効が発現する量であれば、特に限定されるものではない。容量として、例えば、1日あたり、GLとして500mgを上限として、1日1〜数回経口投与することができる。
【0030】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
表1に示す成分と含有量(質量/質量%)で、経口用GL可溶化製剤を調製した。ポエムM100(理研ビタミン株式会社製)の主成分は、グリセリンモノカプリレートである。具体的には、各成分を表示されている含有量となるようにそれぞれを量り取り、これらを混合、非加熱下で撹拌し、GLモノアンモニウム塩を溶解させた。調製された経口用GL可溶化製剤は、表に示すような性状であった。
【0032】
【表1】

【実施例2】
【0033】
表2に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。日局(日本局方)アンモニア水は、アンモニア含有量が9.5〜10.5質量/体積%である。
【0034】
【表2】

【実施例3】
【0035】
表3に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0036】
【表3】

【実施例4】
【0037】
表4に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0038】
【表4】

【実施例5】
【0039】
表5に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0040】
【表5】

【実施例6】
【0041】
表6に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0042】
【表6】

【実施例7】
【0043】
表7に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。なお、表中のSDSは、ドデシル硫酸ナトリウムである。
【0044】
【表7】

【実施例8】
【0045】
表8に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。なお、ミグリオール812(Sasol社製)の主成分は、脂肪酸組成がオクタン酸50〜65%、デカン酸30〜45%であるトリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0046】
【表8】

【0047】
(比較例1)
表9に示す成分と含有量で、実施例1と同様に、各成分を表示されている含有量となるようにそれぞれを量り取り、これらを混合、撹拌して、経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0048】
【表9】

【0049】
(比較例2)
表10に示す成分と含有量で、比較例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。なお、インバイター742(Sasol社製)の主成分は、オクタン酸とデカン酸の、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びトリグリセリン脂肪酸エステルの混合物である。
【0050】
【表10】

【0051】
(参考例1)
表11に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0052】
【表11】

【0053】
(参考例2)
表12に示す成分と含有量で、実施例1と同様にして経口用GL可溶化製剤を調製した。
【0054】
【表12】

【0055】
実施例1〜8の結果から、40質量%以下のGL又はその塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、溶媒とを、混合、撹拌することにより、GLが可溶化した澄明な溶液である経口用GL可溶化製剤を製造できることが明らかである。
特に、溶媒としてアンモニア水を用いることにより、GLの可溶化が容易になり、可溶化における溶媒の含有量を低減できることが、実施例1及び2の結果から明らかである。
【0056】
また、実施例2及び4の結果から、本発明において用いられるグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよいこと、及び、中鎖脂肪酸でもよく、長鎖脂肪酸でもよいことが明らかである。
さらに、実施例5及び6の結果から、本発明において用いられる溶媒は、アンモニア水に限られず、アンモニウム塩水溶液でもよいこと、実施例7の結果から、本発明において用いられる溶媒は、アンモニア水等に限られず、エタノールや有機物、界面活性剤を組み合わせたものでもよいこと、及び、実施例8の結果から、本発明において用いられる溶媒として、さらに、トリグリセリン中鎖脂肪酸エステルの混合物を含有させることもできることが、それぞれ明らかである。
【0057】
一方、実施例2及び比較例1の結果から明らかなように、溶媒、すなわち、GL及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒がないと、GLは可溶化されず、白色沈殿を形成する。グリセリン脂肪酸エステルをモノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、及びトリグリセリン脂肪酸エステルの混合物とした場合であっても、GLを可溶化することはできなかった。
【実施例9】
【0058】
実施例1及び実施例2で調製した経口用GL可溶化製剤を用いて、室温及び60℃で12日間保存した後のGLの残存量を測定することにより、GLの化学的安定性を評価した。具体的には、室温で12日間保存後の経口用GL可溶化製剤中に含まれているGLの残存量を100%とした場合の、60℃で12日間保存後のGLの残存量を算出した。GLはHPLC(CLASS−VP、島津製作所製)を用いて検出した。表13は、検出結果を示したものである。該検出結果から、溶媒としてアンモニア水を用いることにより、GLの化学的安定性が向上することが明らかである。
【0059】
【表13】

【実施例10】
【0060】
実施例1、2、3、及び8で調製した経口用GL可溶化製剤の粘度を、ブルックフィールドデジタル粘度計を用いて測定した。表14は、測定結果を示したものである。実施例1、2及び3の経口用GL可溶化製剤の粘度値から、溶媒量の低減や、GL含量の増加により、経口用GL可溶化製剤の粘度が上昇することが分かった。一方、経口用GL可溶化製剤に、ミグリオール812を添加することにより、経口用GL可溶化製剤の粘度が低下した。つまり、該測定結果から、油脂を添加することにより、経口用GL可溶化製剤の粘度を低下させることができること、つまり、カプセル化に適した粘度に任意に調節することが可能であることが明らかである。
【0061】
【表14】

【実施例11】
【0062】
実施例2で調製した経口用GL可溶化製剤を、ゼラチン製皮膜のソフトカプセルに充填し、製剤化を試みた。一般的なロータリーダイ法にて、4号オーバル型で成型した。成型時の形態は良好で、皮膜の接着不良、液漏れ、変形等は確認されず、製品として十分な収率を得た。また、デシケーター内室温保存下で12ヶ月以上形状を維持し、皮膜の白濁、軟化、変形、固着等はいずれのカプセルにおいても観察されなかった。さらに、充填物の白濁やGLの析出も確認されず、該経口用GL可溶化製剤は、カプセル化しても長期間可溶化状態を維持していた。一方、溶出試験を行ったところ、該経口用GL可溶化製剤は、良好な崩壊性、溶出性を有し、通常のソフトカプセルの性能を保持していた。したがって、本発明の経口用GL可溶化製剤は、既存のカプセル化技術に十分対応できることが明らかである。
【実施例12】
【0063】
実施例2で調製した経口用GL可溶化製剤を、ゼラチン製のハードカプセルに充填し、製剤化を試みた。市販されている1号の硬カプセルを用いて、嵌合部をゼラチンで接着し、乾燥させた。密閉容器内室温保存下で5ヶ月間形状を維持し、液漏れ、変形、充填物の白濁、GLの析出等は観察されなかった。したがって、本発明の経口用GL可溶化製剤は、通常の硬カプセルに対し液充填も可能であることが明らかである。
【0064】
(試験例1)
GLの含有量を14%とし、グリセリン脂肪酸エステルをポエムM100とし、溶媒を精製水若しくは精製水と炭酸アンモニウムとして調製した経口用GL可溶化製剤を用いて、GLの可溶化におけるアンモニア塩と水の含有比率を検討した。図1に示すように、総量を適量のポエムM100で調製しつつ、含有される炭酸アンモニウムと精製水の比率を変化させた経口用GL可溶化製剤を調製し、それぞれのGLの溶解性を調べた。図1は、縦軸を炭酸アンモニウム含量(%)、横軸を精製水含量(%)として、調製した経口用GL可溶化製剤をプロットしたものである。図中の○は可溶化した処方を、■は不溶であった処方を、それぞれ示している。図中の曲線は、プロットされた可溶化した処方(○)の近似曲線を示している。該曲線の上部の比率で調製した製剤中では、GLは可溶化するものと推察される。溶媒として精製水のみを用いた場合には、多量の溶媒が必要であったが、炭酸アンモニウムを2%含有する場合には、精製水含有量はおよそ1%程度であっても十分にGLが可溶化した。すなわち、炭酸アンモニウム含有量が多いほど、水分含有量を低減することができることがわかった。したがって、溶媒としてアンモニウム塩と水を用いる場合には、本発明の経口用GL可溶化製剤は、アンモニウム塩と水の含有比率を適宜選択することにより、製剤中の水分含有量をカプセル化に適するように任意に調整することができることが明らかである。
【0065】
以上の結果から明らかなように、GL及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記GL及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒と、を混合、撹拌することにより、高濃度のGL及びその塩を溶解させた澄明な液状形態である経口用GL可溶化製剤を得ることができる。
【0066】
なお、参考例1及び2の結果から明らかなように、GLのトリアルカリ塩であれば、溶媒を用いなくても、モノグリセリン脂肪酸エステルに溶解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
既存のGL製剤は、60年間以上も日本の臨床現場で使用され、高い評価を得てきた。しかしながら、現在の高度先端医療や高齢化社会において、より良い医療を提供するためには、既存のGL製剤のさらなる改良が必要とされる。
本発明は、現在使用されている静脈注射GL製剤と同等の治療効果を有する新規経口用GL可溶化製剤として提供される。治療効果の高い経口剤を処方できれば、注射及び通院が必要最小限に抑えられることから、患者のQOLの改善が期待できる。また、患者に注射を行ってきた医療従事者側の負担も軽減され、医療上有効である。さらに、現在ウィルス性慢性肝疾患の治療において用いられている、生物由来製品であるインターフェロン(IFN)を用いた治療に比べて、本発明の経口用GL可溶化製剤は製造が容易なため安価と考えられ、国及び個人が負担する医療費を削減でき、経済上も有益である。したがって、本発明は多くの社会的ニーズを満たし得る技術と判断される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】試験例1において、GLの溶解性を調べた経口用GL可溶化製剤を、可溶化した処方を○、不溶であった処方を■としてそれぞれプロットしたものである。縦軸は炭酸アンモニウム含量(%)、横軸は精製水含量(%)である。図中の曲線は、プロットされた可溶化した処方(○)の近似曲線を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒と、を含有することを特徴とする経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項2】
前記グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステルである請求項1に記載の経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項3】
前記溶媒が、水、アンモニア水、アンモニウム塩水溶液、アルカリ水溶液、アルカリ塩溶液、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンからなる群より選ばれる1以上である請求項1又は2に記載の経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項4】
前記溶媒が、アンモニア水及び/又はアンモニウム塩水溶液である請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項5】
前記グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリン脂肪酸エステルであり、前記溶媒がアンモニア水及び/又はアンモニウム塩水溶液であり、さらに油脂及び/又は脂肪酸を含有するものである請求項1に記載の経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項6】
前記グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩の含有量が1〜40質量%であり、前記グリセリン脂肪酸エステルの含有量が30〜90質量%であり、前記溶媒の含有量が、前記グリチルリチンとその薬学的に許容される塩のグリチルリチンとしての合計含有量に対して0.1〜100質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項7】
剤型がカプセルである請求項1〜6のいずれか1項に記載の経口用グリチルリチン可溶化製剤。
【請求項8】
グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、前記グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩が2質量%以上溶解し得る溶媒を混合、撹拌し、前記グリチルリチン及び/又はその薬学的に許容される塩を溶解させることを特徴とする経口用グリチルリチン可溶化製剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−189626(P2008−189626A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28313(P2007−28313)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000170358)株式会社ミノファーゲン製薬 (16)
【Fターム(参考)】