説明

経強膜送達

眼の後区にある組織に関連する疾患が、これらの組織への治療剤の経強膜投与により、有効に処置され得る。治療剤が強膜を通過し、これらの組織に到達するように、治療剤を送達するための、組成物、デバイスおよび方法としては、強膜近くまたは強膜内に、溶液または懸濁液を注射すること、および強膜近くまたは強膜内に、治療剤を含有する固体構造体を移植することが挙げられる。これらの方法は、加齢黄斑変性症に関連する脈絡膜新生血管形成の処置のために、ラパマイシンまたは関連する化合物を投与するために使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、米国仮特許出願第60/503,840号(2003年9月18日出願、代理人整理番号559093000200、標題「Transscleral Delivery」)の優先権の利益を主張し、この仮特許出願の内容は、その全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
(分野)
治療剤の経強膜送達による眼の疾患の処置(特に、ラパマイシンの経強膜送達による湿性AMD(wet AMD)の処置)のための方法、組成物およびデバイスが、本明細書に記載される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
眼の網膜は、網膜錐体および杆状体を含み、これらは、光を検出する。網膜の中心には、黄斑があり、この黄斑は、直径約1/3〜1/2cmである。この黄斑は、特に中心(中心窩)において(なぜなら、この錐体の密度がより高いからである)、詳細な視覚を提供する。血管、神経節細胞、内顆粒層および細胞、ならびに分子層は、(錐体の上に位置するよりも)全て片側に配置され、それにより、光をその錐体のより直接的な経路に通す。
【0004】
網膜の下には、脈絡膜があり、脈絡膜は、線維組織内に埋め込まれた血管の集まり、および脈絡膜の上を覆う濃い色素性上皮細胞を含む。この脈絡膜血管は、網膜(特に、その視覚に関する細胞(視細胞))に栄養を供給する。
【0005】
現在処置法もなく、現在の処置が最適でもない種々の網膜障害が存在する。網膜障害(例えば、ブドウ膜炎(眼球の血管膜:虹彩、毛様体、および脈絡膜の炎症)、黄斑変性、黄斑浮腫、増殖性糖尿病網膜症、および網膜剥離は、一般に、全て、従来の治療で処置することが困難な網膜障害である。
【0006】
加齢性黄斑変性(AMD)は、米国において、60歳を超えた個体における重篤な視力喪失の主な原因である。AMDは、萎縮性またはあまり一般的でない滲出性のいずれか形態で生じる。AMDの萎縮性形態はまた、「乾燥性AMD」とよばれ、滲出性形態のAMDはまた、「湿性AMD」といわれる。
【0007】
萎縮性AMDにおいて、血管は、ブルーフ膜における欠損を通じて、脈絡毛細管板から成長し、いくつかの場合には、その下にある網膜色素上皮から成長する。これらの血管から漏れ出た漿液性滲出液または出血性滲出液の器質化は、黄斑領域の繊維性血管瘢痕(fibrovascular scarring)を生じ、神経網膜(neuroretina)の付随する変性、網膜色素上皮の剥離および断裂、ガラス質出血および中心視覚の永久的な喪失を伴う。このプロセスは、AMDを有する被験体における重大な視力喪失の症例のうち、80%より多くの原因になっている。現在、湿性AMDについての最適な処置は存在しない。現在またはやがて現れる処置としては、レーザー凝固術、光ダイナミック療法、PEG化アプタマーでの処置、および特定の低分子因子での処置が挙げられる。
【0008】
いくつかの研究により、現在、AMDと関連する初発または再発の血管新生病変部の処置において、レーザー光凝固術の使用が記載されている(Macular Photocoagulation Study Groups(1991)Arch.Ophthal.109:1220;Arch.Ophthal.109:1232;Arch.Ophthal.109:1242)。不運なことに、レーザー処置を受けた、中心窩の下に病変部を有するAMD被験体は、3ヶ月の追跡で、かなり絶望的な視力低下(平均3×12ポイント(3 lines)を経験した。さらに、処置後2年で、処置した眼は、処置していないもう片方の眼より縁のみが良好な視力を有した(それぞれ平均20/320および20/400)。この手順の別の欠点は、術後の視力が直ぐにより悪くなることである。
【0009】
光ダイナミック療法(PDT)は、光線療法(光を利用して、被験体における有益な反応を生じる全ての処置を包含する用語)の形態である。必要に応じて、PDTは、正常な組織を残すと同時に、望ましくない組織を破壊する。代表的には、光増感剤とよばれる化合物が、被験体に投与される。通常、この光増感剤単独では、被験体に対してほとんどまたは全く効果がない。光(しばしば、レーザーから)は、光増感剤を含む組織に指向されると、この光増感剤は活性化され、標的とされた組織を破壊し始める。被験体に提供される光は、特に標的とされた領域に限られるので、PDTは、異常な組織を選択的に標的とするために使用され得、従って、周りにある健康な組織を残す。PDTは、網膜疾患(例えば、AMD)を処置するために現在使用されている。PDTは、AMDを有する被験体における中心窩下の脈絡膜新生血管形成のための処置の現在の要である(Photodynamic Therapy for Subfoveal Choroidal Neovascularization in Age Related Macular Degeneration with Verteporfin (TAP Study Group) Arch Ophthalmol.1999 117:1329−1345)。
【0010】
脈絡膜新生血管形成(CNV)は、ほとんどの症例で処置に対して不応性であることが分かった。従来のレーザー処置は、CNVを切除し得、網膜の中心に影響を与えない、選択された症例において視力を保存するために役立ち得るが、これは、症例のうちのわずか10%に制限されている。不運なことに、従来のレーザー光凝固術が成功裏に行われたとしても、新生血管形成は、眼の約50〜70%(3年過ぎると50%、および5年で>60%)で生じる(Macular Photocoagulation Study Group,Arch.Ophthalmol.204:694−701(1986))。さらに、CNVを発症する多くの被験体は、レーザー治療の良好な候補ではない。なぜなら、CNVは、レーザー処置をするには大きすぎ、その位置を決定することができず、その結果、臨床医がレーザーで正確にねらうことができないからである。光ダイナミック療法は、中心窩下CNVの新たな症例の内の50%までにおいて利用されているものの、自然歴より、単に重要でない利点を有するだけであり、一般に、中心窩下病変に対して既に副次的に低下している視力を改善するよりもむしろ、視力喪失の進行を遅らせる。PDTは、予防的でも根治的(definitive)でもない。通常、被験体1名あたり数回のPDT処置が必要とされ、さらに、特定の亜型のCNVは、他のものよりもうまくいっていない。
【0011】
硝子体内の酢酸トリアムシノロンの使用は、現在いくつか適応外であるが、中心窩下CNVについての他の広く許容された治療はない。(Combined photodynamic Therapy with Verteporfin and Intravitreal Triamcinolone Acetonide for Choroidal Neovascularization.Ophthalmol 2003:110:1517−1525)。
【0012】
従って、脈絡膜新生血管形成を最適には予防するかまたは有意に阻害し、そして湿性AMDを予防および処置するために使用され得る、方法、組成物およびデバイスが、長きにわたって切実に必要とされている。
【0013】
AMDに加えて、脈絡膜新生血管形成は、推定眼ヒストプラズマ症候群、近視性変性、網膜色素線条症、突発性中心性漿液性脈絡膜症、網膜および/もしくは脈絡膜の炎症状態、ならびに眼の外傷のような網膜障害と関連する。新生血管形成と関連した脈管形成損傷は、広い範囲の障害において起こり、その障害としては、糖尿病網膜症、静脈閉塞、鎌状赤血球網膜症、未熟児網膜症、網膜剥離、眼の虚血および外傷が挙げられる。
【0014】
ブドウ膜炎は、もう1つの網膜障害であり、この障害は、既存の治療を用いて処置することが困難であることが分かった。ブドウ膜炎は、眼球の血管膜のいずれかの要素の炎症を示す包括的な用語である。眼球の血管膜は、虹彩、毛様体、および脈絡膜からなる。上を覆っている網膜の炎症(網膜炎とよばれる)または視神経の炎症(視神経炎とよばれる)は、付随するブドウ膜炎とともにまたはブドウ膜炎なしで起こり得る。
【0015】
ブドウ膜炎は、最も一般的には、解剖学的に、前方、中間、後方、または散在性と分類される。後方ブドウ膜炎は、網膜炎、脈絡膜炎、または視神経炎の多くの形態のいずれかを意味する。散在性ブドウ膜炎は、眼の全ての部分(前方、中間および後方の構造体を含む)に影響を与える炎症を意味する。
【0016】
ブドウ膜炎の症状および徴候は、微妙であり得、炎症の部位および重篤度に依存してかなり変動し得る。後方ブドウ膜炎に関しては、最も一般的な症状としては、フローターの存在および視力低下が挙げられる。硝子体液中の細胞、網膜中の白色または黄白色の病変部および/または下にある脈絡膜、滲出性網膜剥離、網膜性脈管炎、ならびに視神経浮腫もまた、後方ブドウ膜炎に罹患している被験体に存在し得る。
【0017】
ブドウ膜炎の眼の合併症は、特に、認識されていないかまたは不適切に処置された場合に、甚大かつ不可逆性の視力喪失を生じ得る。後方ブドウ膜炎の最も頻繁な合併症としては、網膜剥離;網膜、視神経または虹彩の新生血管形成;および類嚢胞黄斑浮腫が挙げられる。
【0018】
黄斑浮腫(ME)は、表面に出ない糖尿病網膜症(BDR)において示された腫脹、漏出および激しい滲出液が、黄斑内で起こる場合に起こり得、網膜の中心5%が、視力に対して最も重要である。表面に出ない糖尿病網膜症(BDR)は、代表的には、網膜の微小循環における変化から生じる、網膜の微小な動脈瘤からなる。これらの微小な動脈瘤は、通常、ごく小さな弱った血管が、バルーンでふくらませられた、網膜における散乱した赤色点として検眼鏡で試験する際に見られる、網膜症における最も早い視力変化である。表面に出ない糖尿病網膜症におけるこの眼に関する所見は、綿状斑点(cotton wool spot)、網膜内出血、網膜毛細管からの流体の漏出、および網膜滲出へと進行する。増大した血管透過性はまた、局所的な増殖因子(例えば、血管内皮増殖因子)のレベル上昇に関連する。斑は、錐体(色を検出する神経終末)に多く、日中の視力は、この神経に依存する。網膜毛細管透過性の増大が、斑に影響を及ぼす場合、どちらかというと、セロハンを通して見るときのように、中心視野の中心または直ぐ側部にかすみが生じる。視力喪失は、数ヶ月間にわたって進行し得、目の焦点をはっきりと合わせることができないために、非常に不快であり得る。MEは、重篤な視力障害の一般的な原因である。
【0019】
上記のように、CNVおよび他の網膜増殖性状態の処置は、主にレーザー光凝固術を用いる。しかし、これらの状態および他の状態(例えば、黄斑浮腫および医薬品による慢性炎症)を処置する多くの試みがなされてきた。例えば、CNVおよび湿性AMDを阻害するためのラパマイシンの使用は、米国特許出願第10/665,203号(これは、その全体が本明細書に参考として援用される)に記載されてきた。CNVまたは増殖性網膜症についての承認された医薬品は存在しないが、このような治療は非常に必要とされている。そして眼の炎症性疾患を処置するためのラパマイシンの使用は、米国特許第5,387,589号(標題「Method of Treating Ocular Inflammation」、発明者Prassad Kulkarni、譲受人University of Louisville Research Foundation、この内容は、全体が本明細書に参考として援用される)に記載されてきた。
【0020】
眼の外部の位置から眼の後区に治療剤を送達するための承認されたデバイスは、現在存在しない。同様に、ステロイド処方物を除いては、どんな治療剤も、長時間作用性の送達プロフィールで、外部注入部位から後区へ送達されない。特に、慢性疾患(本明細書で記載されるものが挙げられる)については、AMD、黄斑浮腫、増殖性網膜症、および慢性炎症のような疾患においてCNVを処置するために、後区に活性化合物を送達するための長時間作用性の方法が大いに必要とされている。
【0021】
全身性投与とは対照的に眼への治療剤の直接送達は、作用部位でのこの治療剤濃度が、被験体の循環系における治療剤濃度と比較して増大されるので、有利である。さらに、治療剤は、後区疾患を処置するために全身に送達される場合に、望ましくない副作用を有する可能性がある。従って、局所的薬物送達は有効性を増進すると同時に、副作用および全身の毒性を軽減する。
【0022】
直接送達は、眼の内部に治療剤を直接入れること(通常は注射である)によって達成され得るか、または眼の外側の位置から治療剤を送達することによって達成され得る。このような外部からの配置の一例は、経強膜送達による治療剤の送達である。経強膜送達において、治療剤を含む、組成物またはデバイスは、強膜の外側に配置され、治療剤は、眼の内部に向かって強膜を横断して拡散する。眼の内部への治療剤の直接的配置は、通常、侵襲性の配置手順を必要とする。対照的に、眼の外部からの治療剤の配置は、遙かにより容易に達成され得る。治療剤を含む組成物またはデバイスの外部からの配置のさらなる利点は、このデバイスまたは組成物が眼の内部に長期間存在しないことである。しかし、内部配置は、眼の内部に存在する組成物またはデバイスを生じ、このような組成物またはデバイスは、眼の適切な機能に有害な影響を与え得る。これらの理由で、外部送達は、しばしば、眼の内部への直接送達より好ましい。
【0023】
眼への治療剤の経強膜送達は有利であるが、このような送達機構の開発において多くの困難がある。この送達システムは、組成物であろうとデバイスであろうと、強膜近くの眼の領域へのこの組成物またはデバイスの配置を可能にするように、小さなサイズである必要がある。しかし、この送達システムは、治療的に有効な量の治療剤を送達し得る薬剤の量を含むに十分に大きくなければならない。治療剤の送達が、長期にわたって必要とされる場合、この組成物またはデバイスは、長期にわたって治療量を送達し得るに十分な治療剤を含むことができなければならず、かつ長期にわたって適所に維持されて、長期の治療剤送達を可能にすることができなければならない。この送達システムはまた、近接する他の組織への送達を最小にし、送達を眼の内部に向かって集中させる必要があり得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
(要旨)
本明細書に記載される方法、組成物およびデバイスは、治療剤の経強膜送達を可能にし、上記の困難のうちの1つ以上に対処する。よって、本明細書に記載の方法、組成物、およびデバイスは、長期にわたって種々の治療剤を送達するために使用され得、眼の多くの疾患の予防および処置のために使用され得る。
【0025】
ヒト被験体における湿性AMDを処置するために有効な量のラパマイシンの経強膜送達のための方法、組成物およびデバイスが、本明細書に記載される。
【0026】
詳細な説明の節においてさらに詳細に記載されるように、この方法、組成物およびデバイスはまた、湿性AMDの発症の処置、予防、阻害もしくは遅延のための、または湿性AMDの退行を引き起こすための、治療的に有効な量のラパマイシンの経強膜送達のために使用され得る。この方法、組成物およびデバイスはまた、CNVの発症の処置、予防、阻害、遅延のための、またはCNVの退行を引き起こすための、治療的に有効な量のラパマイシンの経強膜送達のために使用され得る。この方法、組成物およびデバイスはまた、眼における新脈管形成の発生の処置、予防、阻害、遅延のための、または眼における新脈管形成の退行を引き起こすための、治療的に有効な量のラパマイシンの経強膜送達のために使用され得る。ラパマイシンを使用して、発生が処置、予防、阻害、遅延され得る他の疾患および状態、またはラパマイシンを用いて退行が引き起こされる他の疾患および状態は、詳細な説明の疾患および状態の節に記載される。
【0027】
詳細な説明にさらに詳細に記載されるように、この方法、組成物およびデバイスはまた、湿性AMDの発生を処置、予防、阻害、遅延するための、または湿性AMDの退行を引き起こすための、治療的に有効な量のラパマイシン以外の治療剤の経強膜送達のために使用され得る。使用され得る治療剤は、治療剤の節において詳細に記載される。このような治療剤としては、イムノフィリン結合化合物が挙げられるが、これらに限定されない。使用され得るイムノフィリン結合化合物としては、リムスファミリー(limus family)の化合物(ラパマイシン、SDZ−RAD、タクロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、CCI−779、AP23841、ABT−578、ならびにこれらのアナログ、塩およびエステルを含む)が挙げられるが、これらにも限定されない。この方法、組成物およびデバイスはまた、CNVの発生の処置、予防、阻害、遅延のための、またはCNVの退行を引き起こすための、治療的に有効な量の治療剤の経強膜送達のために使用され得る。この方法、組成物およびデバイスはまた、眼における新脈管形成の発生の処置、予防、阻害、遅延のための、または眼における新脈管形成の退行を引き起こすための、治療的に有効な量の治療剤の経強膜送達のために使用され得る。ラパマイシン以外の治療剤を用いて、発生が処置、予防、阻害、遅延され得る他の疾患および状態、またはラパマイシン以外の治療剤を用いて、退行が引き起こされ得る他の疾患および状態は、詳細な説明の疾患および状態の節に記載される。
【0028】
湿性AMD、CNV、新脈管形成または眼の他の疾患もしくは状態の発生を処置し、予防し、阻害し、遅延するための、あるいはこれらの疾患もしくは状態の退行を引き起こすための、治療的に有効な量のラパマイシンまたは他の治療剤を送達するために使用され得る種々の組成物、投与経路および送達システムが、詳細な説明に記載される。使用され得る組成物としては、その治療剤の固体形態、その治療剤の懸濁液、その治療剤の液剤、およびポリマー処方物へその治療剤を組み込んだものが挙げられるが、これらに限定されない。このようなポリマー処方物は、生分解性ポリマー処方物であってもよいし、非生体分解性ポリマー処方物であってもよい。使用され得る投与経路および送達システムとしては、注射による組成物またはデバイスの配置、固体ポリマーインプラントによる送達、裏打ち(backing)された固体ポリマーインプラントによる送達、固体生体接着性インプラントによる送達、固着表面を有する固体インプラントによる送達、遅延放出を有する固体インプラントによる送達、コーティング縫合糸による送達、コイル状繊維による送達、および固体治療剤組成物を用いた送達が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
湿性AMD、CNV、新脈管形成または眼の他の疾患もしくは状態の発生を処置、予防、阻害、遅延するための、あるいはこれらの疾患もしくは障害の退行を引き起こすための種々の方法が記載される。1つの方法において、眼は、外側強膜を有する強膜を有し、ラパマイシンまたは他の治療剤は、外側強膜表面近くに送達システムを配置することによって、経強膜的に投与される。
【0030】
1つのこのような方法において、この送達システムは、ラパマイシンまたは他の治療剤の固形コアを含む。この送達システムはまた、必要に応じて、ラパマイシンも他の治療剤も実質的に透過しない裏打ち部分を備え得る。
【0031】
別の方法において、この送達システムは、ラパマイシンもしくは他の治療剤の粒子懸濁物を含む。これらの粒子は、一般に、任意のサイズであり得る。ラパマイシンもしくは他の治療剤の粒子が、平均直径約50μm未満を有する1つの送達システムが記載される。使用され得る他の粒子は、詳細な説明に記載される。
【0032】
別の方法において、この送達システムは、ラパマイシンもしくは他の治療剤の液剤を含む。このような液剤は、一般に、この溶剤中のラパマイシンもしくは他の治療剤の溶解度によって制限されるが、ラパマイシンもしくは他の治療剤の任意の濃度を含み得る。使用され得る種々の溶剤および濃度が、詳細な説明に記載される。
【0033】
別の方法において、この送達システムは、ポリマーインプラント中に分散されたラパマイシンもしくは他の治療剤を含む。このインプラントは、生分解性ポリマーインプラントであってもよいし、非生分解性ポリマーインプラントであってもよい。このようなインプラントは、必要に応じて、ラパマイシンも他の治療剤も実質的に透過しない裏打ち部分を備え得る。
【0034】
このインプラントは、一般に、ラパマイシンもしくは他の治療剤の必要量の送達、ならびに外側強膜表面近くへの配置を可能にする任意の形状およびサイズであり得る。使用され得る、種々の形状およびサイズにされたインプラントは、詳細な説明中に記載される。非限定的な例として、このインプラントは、円盤として形作られ得る。別の非限定的例として、このポリマーインプラントは、縫合糸として形作られ得る。この縫合糸は、一般に、任意の寸法(約10cm未満の長さおよび約2mm未満の直径が挙げられるが、これらに限定されない)であり得る。別の非限定的例として、このポリマーインプラントは、コイル状繊維として形作られ得、このコイル状繊維は、一般に、任意の寸法(約5cm未満の長さおよび約1mm未満の直径が挙げられるが、これらに限定されない)であり得る。
【0035】
使用され得るインプラントのサイズの非限定的な例として、本明細書に記載されるのは、眼の外側強膜表面に配置するための強膜表面部分を有するポリマーインプラントであり、この部分を通ってラパマイシンもしくは他の治療剤が外側強膜表面に送達され、この強膜表面部分は約0.5cm未満の面積を有する。使用され得る他のサイズは、詳細な説明に記載される。
【0036】
このポリマーインプラントはまた、必要に応じて適所にこのインプラントを固着することを補助するための種々の手段を備え得る。1つの非限定的な例として、このようなポリマーインプラントは、眼の外側強膜表面に配置するための生体接着層(bioadhesive layer)を備え得る。別の非限定的な例として、このようなポリマーインプラントは、ポリマーインプラントを眼の外側強膜表面に固着することを補助する多くの突出部を含む表面を有し得る。別の非限定的例として、このようなポリマーインプラントは、強膜または他の組織に縫合され得る。
【0037】
このポリマーインプラントはまた、必要に応じて、遅延放出型インプラントであり得る。1つの非限定的例として、このようなポリマーインプラントは、ある濃度(ラパマイシン治療剤含有部分におけるラパマイシン治療剤の濃度よりも少ない)のラパマイシンもしくは他の治療剤を含むコーディングでコートされた、ラパマイシンもしくは他の治療剤含有部分を含む。このような遅延放出型インプラントの1つの非限定的な例において、この治療剤はラパマイシンであり、このコーティング中のラパマイシンの濃度は、コーティングからのラパマイシンの放出が、創傷治癒阻害量のラパマイシンを送達しないようなものである。
【0038】
本明細書に記載されるインプラントおよび他の送達システムは、長期にわたってラパマイシンもしくは他の治療剤を送達し得る。このような長期の放出送達システムの1つの非限定的な例は、長期にわたって湿性加齢性黄斑変性を処置するに有効な量を維持するに十分な量で経強膜的にラパマイシンを送達する送達システムである。1つの非限定的例において、このような送達システムは、約3週間にわたる湿性加齢性黄斑変性を処置するために十分な量で経強膜的にラパマイシンを送達する。このような送達システムは、本明細書に記載される任意の送達システムであり得る。そして1つの非限定的例において、この送達システムは、固体ポリマーインプラントである。他の長期の放出は、詳細な説明に記載される。
【0039】
治療剤がラパマイシンである場合、本明細書に記載のインプラントおよび他の送達システムは、外側強膜表面におけるラパマイシンの濃度を維持するために使用され得る。非限定的例において、外側強膜表面において約2μg/mlのラパマイシンの濃度を維持する送達システムは、湿性AMDの処置に使用され得ると考えられる。使用され得る他の濃度は、詳細な説明に記載される。
【0040】
治療剤がラパマイシンである場合、本明細書に記載されるインプラントおよび他の送達システムは、眼の後区にある用量のラパマイシンを送達するために使用され得る。非限定的例において、1日あたり約1μgのラパマイシンを送達する送達システムが、湿性AMDの処置に使用され得ることが考えられる。使用され得る他の送達用量は、詳細な説明に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
(詳細な説明)
この節において記載されるのは、眼(特に眼の後区)への治療剤の経強膜送達に関連する、特に長期持続性の送達のための、組成物、デバイス、および方法である。これらの組成物、デバイス、および方法は、後区の疾患および望ましくない状態を処置、予防、阻害、発生を遅延させるために、およびこのような疾患および状態の退行を引き起こすために使用され得る。このような疾患および状態としては、脈絡膜血管新生;黄斑変性;加齢性黄斑変性(滲出型AMDを含む);網膜新脈形成;慢性ブドウ膜炎;および他の網膜増殖状態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
この詳細な説明の節において、以下が記載される:(1)本明細書に記載の組成物、デバイスおよび方法を用いて経強膜的に送達され得る治療剤、(2)この治療剤の経強膜的送達によって処置され得る、疾患および状態、(3)この治療剤の経強膜的送達に使用され得る組成物、デバイスおよび方法、ならびに(4)ラパマイシンの経強膜的送達によるCNVおよび滲出型AMDの処置の具体的説明。
【0043】
(治療剤)
最も一般には、本明細書に記載の疾患および状態を処置、予防、阻害、発生を遅延することにおいて、またはこのような疾患および状態の退行を引き起こすことにおいて有用である、現在知られているかまたは未だ発見されていない、任意の化合物および組成物は、本明細書に記載の組成物、デバイスおよび方法において使用するための治療剤であり得る。
【0044】
使用され得る治療剤としては、細胞タンパク質のイムノフィリンファミリーのメンバーを結合することにより作用する化合物が挙げられる。このような化合物は、「イムノフィリン結合化合物」として公知である。イムノフィリン結合化合物としては、「リムス」ファミリーの化合物が挙げられるが、これらに限定されない。使用され得るリムス化合物の例としては、シクロフィリンおよびFK506−結合タンパク質(FKBP)が挙げられるが、これらに限定されず、これらとしては、シロリムス(ラパマイシン)およびその水溶性アナログであるSDZ−RAD、タクロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、CCI−779(Wyeth)、AP23841(Ariad)、ならびにABT−578(Abbott Laboratories)が挙げられる。使用され得るリムス化合物アナログおよび誘導体としては、米国特許第5,527,907号;同第6,376,517号;および同第6,329,386号および米国特許出願第09/950,307号(これらは全て、その全体が本明細書に参考として援用される)に記載される化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
このリムスファミリーの化合物は、眼の新脈管形成により媒介される疾患および状態(脈絡膜血管新生を含む)の処置、予防、阻害、発生の遅延のための、またはこのような疾患および状態の退行を引き起こすための組成物、デバイスおよび方法において使用され得る。このリムスファミリーの化合物は、AMD(滲出型AMDを含む)を予防、処置、阻害、発生を遅延するために、またはAMDの退行を引き起こすために使用され得る。ラパマイシンは、眼の新脈管形成により媒介される疾患および状態(脈絡膜血管新生を含む)を処置、予防、阻害、発生を遅延するために、またはこのような疾患および状態の退行を引き起こすために使用され得る。ラパマイシンは、AMD(滲出型AMDを含む)を予防、処置、阻害、発生を遅延するために、またはAMDの退行を引き起こすために使用され得る。
【0046】
使用され得る他の治療剤としては、以下の特許および公報(その各々の内容は、その全体において本明細書に参考として援用される)に開示される治療剤が挙げられる:PCT公開WO2004/027027(2004年4月1日公開、標題「Method of inhibiting choroidal neovascularization」,Trustees of the University of Pennsylvaniaに譲渡);米国特許第5,387,589号(1995年2月7日発行、標題「Method of Treating Ocular Inflammation」,発明者Prassad Kulkarni,University of Louisville Research Foundationに譲渡);米国特許第6,376,517号(2003年4月23日発行、標題「Pipecolic acid derivatives for vision and memory disorders」,GPI NIL Holdings,Incに譲渡);PCT公開WO2004/028477(2004年4月8日公開、標題「Method subretinal administration of therapeutics including steroids: method for localizing pharmadynamic action at the choroid and retinat; and related mathods for treatment and or prevention of retinal diseases」,Innorx,Incに譲渡);米国特許第6,416,777号(2002年7月9日発行、標題「Opthalmic drug delivery device」,Alcon Universal Ltdに譲渡);および米国特許第6,713,081号(2004年3月30日発行,標題「Ocular therapeutic agent delivery device and methods for making and using such devices」,Department of Health and Human Servicesに譲渡)。
【0047】
使用され得る他の治療剤としては、以下が挙げられる:ピロリジン、ジチオカルバメート(NFκBインヒビター);スクアラミン;TPN 470アナログおよびフマギリン;PKC(プロテインキナーゼC)インヒビター;Tie−1キナーゼインヒビターおよびTie−2キナーゼインヒビター;VEGFレセプターキナーゼのインヒビター;プロテオソームインヒビター(例えば、VelcadeTM(注射用bortezomib);ラニブツマブ(ranibuzumab)(LucentisTM)および同じ標的に対する他の抗体);ペガプタニブ(pegaptanib)(MacugenTM);ビトロネクチンレセプターアンタゴニスト(例えば、ビトロネクチンレセプター型インテグリンの環状ペプチドアンタゴニスト);α−v/β−3 インテグリンアンタゴニスト;α−v/β−1 インテグリンアンタゴニスト;チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾンまたはトログリタゾン);インターフェロン(γ−インターフェロンまたはデキストランおよび金属配位の使用によってCNVに標的化されるインターフェロンを含む);色素上皮由来因子(PEDF);エンドスタチン;アンジオスタチン;ツミスタチン(tumistatin);カンスタチン(canstatin);酢酸アネコルタブ;アセトニド;トリアムシノロン;テトラチオモリブデート;脈管形成因子のRNAサイレンシングまたはRNA干渉(RNAi)(VEGF発現を標的とするリボザイムを含む);AccutaneTM(13−シスレチノイン酸);ACEインヒビター(キノプリル(quinopril)、カプトプリル、およびペリドズリル(perindozril)が挙げられるが、これらに限定されない);mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)のインヒビター;3−アミノサリドマイド;ペントキシフィリン;2−メトキシエストラジオール;コルヒチン;AMG−1470;シクロオキシゲナーゼインヒビター(例えば、ネパフェナク、ロフェコキシブ、ジクロフェナク、ロフェコキシブ、NS398、セレコキシブ、ビオックス(vioxx)、および(E)−2−アルキル−2(4−メタンスルホニルフェニル)−1−フェニルエテン;t−RNAシンターゼモジュレーター;メタロプロテアーゼ13インヒビター;アセチルコリンエステラーゼインヒビター;カリウムチャネルブロッカー;エンドレペリン(endorepellin);6−チオグアニンのプリンアナログ;環状ペルオキシドANO−2;(組換え)アルギニンデイミナーゼ;エピガロカテキン−3−ガレート;セリバスタチン;スラミンのアナログ;VEGF捕捉分子;アポトーシス阻害因子;VisudyneTM、snET2および他の光増感剤(これは、光ダイナミック療法(PDT)で使用され得る);肝細胞増殖因子のインヒビター(この増殖因子またはそのレセプターに対する抗体、c−metチロシンキナーゼの低分子インヒビター、短縮型のHGF(例えば、NK4))。
【0048】
治療剤はまた、他の治療剤および治療と組み合わせて使用され得る。他の治療剤および治療としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:新脈管形成または新生血管形成、特にCNVの処置のために有用な薬剤および治療。このようなさらなる薬剤および治療の非限定的な例としては、以下が挙げられる:ピロリジン、ジチオカルバメート(NFκBインヒビター);スクアラミン;TPN 470アナログおよびフマギリン;PKC(プロテインキナーゼC)インヒビター;Tie−1キナーゼインヒビターおよびTie−2キナーゼインヒビター;VEGFレセプターキナーゼのインヒビター;プロテオソームインヒビター(例えば、VelcadeTM(注射用bortezomib);ラニブツマブ(LucentisTM)および同じ標的に対する他の抗体);ペガプタニブ(MacugenTM);ビトロネクチンレセプターアンタゴニスト(例えば、ビトロネクチンレセプター型インテグリンの環状ペプチドアンタゴニスト);α−v/β−3 インテグリンアンタゴニスト;a−v/β−1 インテグリンアンタゴニスト;チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾンまたはトログリタゾン);インターフェロン(γ−インターフェロンまたはデキストランおよび金属配位の使用によってCNVに標的化されるインターフェロンを含む);色素上皮由来因子(PEDF);エンドスタチン;アンジオスタチン;ツミスタチン;カンスタチン;酢酸アネコルタブ;アセトニド;トリアムシノロン;テトラチオモリブデート;脈管形成因子のRNAサイレンシングまたはRNA干渉(RNAi)(VEGF発現を標的とするリボザイムを含む);AccutaneTM(13−シスレチノイン酸);ACEインヒビター(キノプリル、カプトプリル、およびペリンドズリルが挙げられるが、これらに限定されない);mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)のインヒビター;3−アミノサリドマイド;ペントキシフィリン;2−メトキシエストラジオール;コルヒチン;AMG−1470;シクロオキシゲナーゼインヒビター(例えば、ネパフェナク、ロフェコキシブ、ジクロフェナク、ロフェコキシブ、NS398、セレコキシブ、ビオックス(vioxx)、および(E)−2−アルキル−2(4−メタンスルホニルフェニル)−1−フェニルエテン;t−RNAシンターゼモジュレーター;メタロプロテアーゼ13インヒビター;アセチルコリンエステラーゼインヒビター;カリウムチャネルブロッカー;エンドレペリン;6−チオグアニンのプリンアナログ;環状ペルオキシドANO−2;(組換え)アルギニンデイミナーゼ;エピガロカテキン−3−ガレート;セリバスタチン;スラミンのアナログ;VEGF捕捉分子;肝細胞増殖因子のインヒビター(この増殖因子またはそのレセプターに対する抗体、c−metチロシンキナーゼの低分子インヒビター、短縮型のHGF(例えば、NK4));アポトーシス阻害因子;VisudyneTM、snET2および他の光増感剤(これは、光ダイナミック療法(PDT)で使用され得る);ならびにレーザー光凝固法。
【0049】
(処置され得る疾患および状態)
この節において、この治療剤、ならびに本明細書に記載の組成物、デバイスおよび方法を用いて処置または予防され得る疾患および状態が記載される。
【0050】
一般に、この治療剤、ならびに本発明の組成物、デバイスおよび方法を使用して、処置、予防、阻害、発生を遅延またはその退行を引き起こしやすい、眼の任意の疾患または状態が、処置または予防され得る。これらの疾患または状態としては、眼の後区の疾患または状態が挙げられるが、これらに限定されない。このような後区の疾患または状態としては、新生血管形成(網膜血管新生および/または脈絡膜血管新生が挙げられる)と関連する疾患または状態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
本明細書に記載の組成物、デバイスおよび方法を使用して、処置、予防、阻害または発生が遅延され得るか、またはその退行が引き起こされ得る、網膜血管新生および/または脈絡膜血管新生と関連する疾患または状態としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:糖尿病網膜症、黄斑変性、未熟児網膜症(水晶体後線維増殖症)、網膜炎もしくは脈絡膜炎を引き起こす感染、推定眼ヒストプラズマ症、近視性変性、網膜色素線条症、眼の外傷、およびAMD。本明細書に記載の組成物、デバイスおよび方法を使用して処置、予防、阻害、その発生が遅延され得るか、またはその退行が引き起こされ得る、疾患および望ましくない状態の他の非限定的な例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:弾性線維仮黄色腫、静脈閉塞、動脈閉塞、頸動脈閉鎖疾患、鎌状赤血球貧血、イールズ病、近視、慢性網膜剥離、過粘稠度症候群、トキソプラズマ症、外傷、ポリープ状脈絡膜血管炎、レーザー処置後合併症、突発性中心性漿液性網脈絡膜症の合併症、脈絡膜炎症状態の合併症、ルベオーシス、ルベオーシスと関連する疾患(その角度の新生血管形成)、血管新生緑内障、慢性ブドウ膜炎、黄斑浮腫、増殖性網膜症、ならびに糖尿病と関連していようがいまいが、繊維脈管組織または線維性組織の異常な増殖(増殖性硝子体網膜症全ての形態(手術後増殖性硝子体網膜症を含む)が挙げられる)により引き起こされる疾患または状態。
【0052】
本明細書に記載される組成物、デバイスおよび方法を使用して、処置、予防、阻害またはその発生が遅延され得るか、またはその退行が引き起こされ得る1つの疾患は、AMDの湿性の形態である。AMDの湿性形態は、脈絡膜におけるその通常の位置から、網膜下の望ましくない位置へと成長している血管によって特徴づけられる。これらの新しい血管からの漏出および出血は、視力喪失、そしておそらく失明を生じる。
【0053】
本明細書に記載の組成物、デバイスおよび方法はまた、AMDの乾性形態(この形態において網膜色素上皮すなわちRPEは変性しており、光受容細胞死および網膜下でドルーゼとよばれる黄色沈着物の形成をもたらす)からAMDの湿性形態への移行を予防または遅延させるために使用され得る。
【0054】
「黄斑変性」は、斑および網膜における過剰な線維性沈着物付着、ならびに網膜色素上皮の萎縮によって特徴づけられる。本明細書で使用される場合、黄斑変性に「罹患した」眼は、その眼が黄斑変性の疾患と関連した少なくとも1つの検出可能な物理的特徴を示すことを意味すると理解される。ラパマイシンの投与は、過剰な新脈管形成(例えば、加齢性黄斑変性(AMD)における脈絡膜血管新生)(過剰な新脈管形成は、このような処置がない場合に起こり得る)を制限するようである。本明細書で使用される場合、用語「新脈管形成」は、組織または器官への新たな血管の生成(「新生脈管形成」)を意味する。眼もしくは網膜の「新脈管形成により媒介される疾患または状態」は、新たな血管が、眼もしくは網膜において病理的な様式で生成され、視力の喪失または他の問題(例えば、AMDに関連する脈絡膜血管新生)を生じる疾患または状態である。
【0055】
本明細書で使用される場合、治療剤の投与により疾患または状態を「阻害する」ことは、その疾患または状態の少なくとも1つの検出可能な物理的特徴または症状の進行が、治療剤の投与がない場合のその疾患または状態の進行と比較した場合、治療剤の投与後に遅延または停止されることを意味する。
【0056】
本明細書で使用される場合、治療剤の投与により疾患または状態を「予防する」ことは、その疾患または状態の少なくとも1つの検出可能な物理的特徴または症状が、治療剤の投与後に発生しないことを意味する。
【0057】
本明細書で使用される場合、治療剤の投与により疾患または状態の発生を「遅延させる」ことは、その疾患または状態の少なくとも1つの検出可能な物理的特徴または症状が、治療剤の投与がない場合のその疾患または状態の進行と比較した場合、治療剤の投与後に時間がたってから発症することを意味する。
【0058】
本明細書で使用される場合、治療剤の投与により疾患または状態を「処置する」ことは、その疾患または状態の少なくとも1つの検出可能な物理的特徴または症状の進行が、治療剤の投与がない場合のその疾患または状態の進行と比較した場合、治療剤の投与後に遅延されるか、停止されるかまたは改善されることを意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、治療剤の投与により疾患または状態「の退行を引き起こす」ことは、その疾患または状態の少なくとも1つの検出可能な物理的特徴または症状の進行が、治療剤の投与後にある程度改善(reverse)されることを意味する。
【0060】
予防についての素因を有する被験体または予防が必要な被験体は、当該分野で確立された方法および基準によって、熟練した開業医によって同定され得る。熟練した開業医はまた、望ましくない新脈管形成および/または新生血管形成を同定するために、当該分野で確立された基準に基づいて、阻害または処置が必要な個体を容易に診断し得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、「被験体」は、一般に、本明細書に記載の治療剤の投与から利益を受け得る任意の動物である。この治療剤は、哺乳動物被験体に投与され得る。この治療剤は、ヒト被験体に投与され得る。この治療剤は、脊椎動物被験体に投与され得る。この治療剤は、モデル実験動物被験体に投与され得る。
【0062】
本明細書に記載の方法を用いて、処置、予防、阻害、発生が遅延され得るか、または退行が引き起こされ得る他の疾患および状態としては、以下の特許および公報(その各々の内容は、その全体において本明細書に参考として援用される)に開示される疾患および状態が挙げられる:PCT公報WO2004/027027(2004年4月1日公開,標題「Method of inhibiting choroidal neovascularization」,Trustees of the University of Pennsylvaniaに譲渡);米国特許第5,387,589号(1995年2月7日に発行,標題「Method of Treating Ocular Inflammation」,発明者Prassad Kulkarni,University of Louisville Research Foundationに譲渡);米国特許第6,376,517号(2003年4月23日に発行,標題「Pipecolic acid derivatives for vision and memory disorders」,GPI NIL Holdings,Incに譲渡);PCT公開WO2004/028477(2004年4月8日に公開,標題「Method subretinal administration of therapeutics including steroids: method for localizing pharmadynamic action at the choroid and retinat; and related mathods for treatment and or prevention of retinal diseases」,Innorx,Incに譲渡);米国特許第6,416,777号(2002年7月9日に発行,標題「Opthalmic drug delivery device」,Alcon Universal Ltdに譲渡);および米国特許第6,713,081号(2004年3月30日に発行,標題「Ocular therapeutic agent delivery device and methods for making and using such devices」,Department of Health and Human Servicesに譲渡)。
【0063】
(治療剤の経強膜送達のための組成物、デバイスおよび方法)
この節において、治療剤の節に記載される治療剤の経強膜的送達のための組成物、デバイスおよび方法が記載される。この節において記載される組成物、デバイスおよび方法を使用する治療剤の送達は、疾患および状態の節に記載される疾患および状態を処置、予防、阻害、発生を遅延するために、またはこのような疾患および状態の退行を引き起こすために使用され得る。本明細書に記載される組成物およびデバイスは、「治療剤送達システム」の例であり、治療剤の節において記載される治療剤の経強膜的送達のために使用され得る。本明細書に明示的に記載されるものに加えて、他の組成物およびデバイスは、「治療剤送達システム」として使用され得る。送達される治療剤がラパマイシンである場合、この送達システムは、「ラパマイシン送達システム」といわれる。
【0064】
この節において、治療剤の長期放出および遅延型放出のために、これらの組成物、デバイスおよび方法がどのように使用され得るかの記載を含め、疾患および状態の節において記載される疾患および状態を処置、予防、阻害、発生を遅延するために、またはこのような疾患および状態の退行を引き起こすに有効な量の治療剤を送達するために、これらの組成物、デバイスおよび方法がどのように使用され得るかを最初に記載する。次いで、治療的に有効な量の治療剤の経強膜的送達のために使用され得る組成物および送達システム、ならびにこの組成物およびデバイスの配置のための方法が記載される。
【0065】
「有効量」とは、本明細書で記載されるような投与のための治療剤の「治療的有効量」とも本明細書で言及され、被験体に投与される場合に要求される治療的効果を提供する、治療剤の量である。種々の治療効果を達成することは、治療剤の種々の効果的な量を必要とし得る。例えば、疾患または状態を予防するために使用される治療剤の治療的に有効な量は、その疾患または状態を処置、阻害、発生を遅延させるために使用される治療有効量とも、その疾患または状態の退行を引き起こすために使用される治療有効量とも異なり得る。さらに、この治療的有効量は、対処されている疾患または状態に精通している者に周知であるように、被験体の年齢、体重および他の健康状態に依存し得る。従って、この治療的有効量は、治療剤が投与される被験体毎に同じでなくともよい。
【0066】
特定の疾患または状態を処置、予防、阻害、発生を遅延させるための、またはこのような疾患または状態を退行させるための治療剤の有効量はまた、その疾患または状態を処置、予防、阻害、発生を遅延させるか、またはこのような疾患または状態の退行を引き起こすに有効な治療剤の量と本明細書で言及される。
【0067】
(治療的有効量の治療剤の経強膜的送達)
この節において記載される組成物、方法およびデバイスは、疾患および状態の節において記載される疾患および状態を処置、予防、阻害、発生を遅延させるか、またはこのような疾患および状態の退行を引き起こすに有効な量でかつこのような時間にわたって、1種以上の治療剤を眼に経強膜的に送達する。非限定的例として、この節において記載される組成物、デバイスおよび方法は、CNVおよび滲出型AMDを処置、予防、阻害、発生を遅延するか、またはその退行を引き起こすに有効な量でかつこのような時間にわたって経強膜的に、ラパマイシンを送達するために使用され得る。この有効な量および時間は、CNVおよび滲出型AMDの処置、予防、阻害、発生の遅延、またはその退行を引き起こすこと各々について異なり得る。
【0068】
経強膜的に送達され得る治療剤の量を計算するために、強膜を越えての治療剤の輸送を理解することが必要である。例えば、Transscleral drug delivery for posterior segment disease,D.GeroskiおよびH.Edelhauser,Advanced Drug Delivery Reviews,52(2001)37−48を参照のこと。治療剤の輸送は、治療剤の送達のために使用される組成物またはデバイスに依存し得る。所定の組成物またはデバイスから強膜を横切る治療剤のフラックスが一旦理解されると、特定の持続時間にわたって薬剤の治療有効レベルを維持するために必要とされる治療剤の量が計算され得、適切な送達組成物またはデバイスおよび投薬量が同定される。
【0069】
適切な投薬量、および組成物またはデバイスを同定するためのこのような手順の非限定的な例として、後の分析を、CNVまたは滲出型AMDの処置のためのラパマイシンの経強膜的送達について行った。以下の実施例3に記載されるように、ラパマイシンに対するヒト強膜の透過性が、1×10−5cm/秒の規模であることをエキソビボでのヒトの強膜組織を使用するインビトロ実験によって決定した。経強膜的に送達されるラパマイシンのフラックスは、ラパマイシンに対する強膜の透過性、および強膜の内側および外側でのラパマイシンの濃度差に依存する。強膜表面の外側で約2μg/mlのラパマイシン濃度を維持するデバイスは、約2.4μg/cm/日のフラックスを生じ得ると予測される。外側強膜表面でより高濃度を維持するデバイスは、比例してより高いフラックスを生じると予測される。後区への1日あたり約1μgのラパマイシンの送達が、CNVおよび滲出型AMDを処置するための治療有効用量であり得ると考えられる。1日あたり約1μgのラパマイシンより高い用量は、CNVおよび滲出型AMDを処置するために必要とされ得る。これらの観察および想定に基づくと、ヒトの眼の外側強膜表面約0.4cm領域にわたって約2μg/mlのラパマイシン濃度を維持するデバイスは、CNVおよび滲出型AMDを処置するために治療的に有効な量のラパマイシンを送達すると考えられる。ラパマイシンの異なる治療的量が必要とされる場合、外側強膜表面で維持されるラパマイシンの濃度、ラパマイシン濃度が維持される領域、これらの因子両方の組み合わせのいずれかを変更することによって、必要量が送達され得る。
【0070】
本明細書で記載される方法を実施するために有用であり得る1つのデバイスまたは組成物は、外側強膜表面で約4μug/mlのラパマイシン濃度を維持するデバイスまたは組成物であると考えられる。本明細書で記載される方法を実施するために有用であり得る他のデバイスおよび組成物は、外側強膜表面で、約0.1μg/ml以下、約0.5μg/ml以下、約1μg/ml以下、約2μg/ml以下、約5μg/ml以下、約10μg/ml以下、約20μg/ml以下、約50μg/ml以下、約100μg/ml以下、約200μg/ml以下、約500μg/ml以下、約1000μg/ml以下、約5,000μg/ml以下、および約10,000μg/ml以下のラパマイシン濃度を維持する、デバイスまたは組成物であると考えられる。
【0071】
本明細書で記載される方法において使用され得るデバイスおよび組成物は、約0.1μg/日以下、約0.5μg/日以下、約1μg/日以下、約2μg/日以下、約5μg/日以下、約10μg/日以下、約20μg/日以下、約50μg/日以下、約100μg/日以下、および約200μg/日以下の量のラパマイシンを眼の後区に経強膜的に送達する、デバイスまたは組成物であると考えられる。
【0072】
他の治療剤、ならびに他の疾患および状態について、類似の分析が、その有効量、その治療的有効量の治療剤を送達するために使用され得る組成物、デバイスおよび方法を同定するために行われ得る。
【0073】
特定の疾患もしくは状態の処置、予防、阻害、発生の遅延について、またはこのような疾患もしくは状態の退行を引き起こすことについて、長期にわたって治療的有効量の治療剤の送達を維持することが望ましいことであり得る。処置、予防、阻害、発生が遅延されているか、または退行が引き起こされている疾患もしくは状態に依存して、この長期とは、1週間まで、2週間まで、3週間まで、1ヶ月まで、3ヶ月まで、6ヶ月まで、9ヶ月まで、1年まで、18ヶ月まで、2年まで、3年まで、または4年までであり得る。しかし、一般に、いずれの長期の送達期間も、考えられ得る。治療的に有効な量の薬剤は、長期にわたって治療的に有効な量の薬剤を送達するに十分な、外側強膜表面での薬剤濃度を、長期にわたって維持するデバイスまたは組成物によって、長期にわたって送達され得る。例示のみとしてであって、如何様にも限定しない様式で、CNVおよび滲出型AMDの処置、予防、阻害、発生の遅延のための、またはその退行を引き起こすためのラパマイシンの送達に関する先の想定の下で、ヒトの眼の外側強膜表面約0.4cm領域にわたって約2μg/mlの濃度を6ヶ月までにわたって維持するデバイスが、6ヶ月までにわたってラパマイシンの治療的有効量を送達すると考えられる。これらの計算はAMDまたはCNVの処置について想定される1μg/mlの治療的用量に基づく。より高用量のラパマイシンの送達が必要とされる場合、このことは、種々の方法によって達成され得る。この方法としては、外側強膜表面でのラパマイシン濃度の増大、濃度が維持される領域の増大、これらの因子の何らかの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
長期にわたる治療的有効量の治療剤の送達は、1つの組成物もしくはデバイスの適用を利用して達成され得るか、または2回用量以上の組成物の適用もしくは2つ以上のデバイスの配置によって達成され得る。これらの組成物またはデバイスが非生分解性である場合、前の組成物またはデバイスは、おそらく次の組成物またはデバイスを適用する前に取り除かれる必要がある。このような複数の適用の非限定的な例として、滲出型AMDの処置のための6ヶ月にわたる治療的量のラパマイシンの維持は、6ヶ月にわたって治療的量を送達する1つの組成物もしくはデバイスの適用によって、または2つの組成物もしくはデバイス(各々は、3ヶ月にわたり治療的量を送達する)の逐次的適用によって、達成され得る。最適な投薬レジメンは、送達されることが必要とされている治療剤の治療的な量、送達されることが必要な期間、およびこれらの要件を満たすために必要とされるデバイスのサイズに依存する。長期にわたって必要量を送達するために必要とされるデバイスが大きすぎて、経強膜的送達のためには適切に配置されない場合、2つのより小さなデバイス(各々が、その長期の半分の時間にわたって送達する)が使用され得る。このような長期の治療剤送達の投与に精通している者は、使用され得る投薬レジメンを同定する方法を理解する。
【0075】
特定の治療剤を使用する場合、または特定の疾患の処置のため、特定の疾患の予防のため、特定の疾患の阻害のため、特定の疾患の発症を遅延するため、もしくは特定の疾患の退行を引き起こすため、その治療剤の送達が、眼の領域中に上記デバイスまたは組成物を配置したときにすぐに開始しないが、送達が、いくらかの遅れの後に開始することが望ましくあり得る。例えば、全く限定はしないが、そのような遅延放出は、上記治療剤が創傷治癒を阻害または遅延し、かつ遅延放出が、上記デバイスまたは組成物の配置の際に生じる何らかの創傷を治癒することを可能にする場合に、有用であり得る。送達される治療剤ならびに/または処置もしくは予防される疾患および状態に依存して、上記治療剤の送達前のこの遅延期間は、約1時間、約6時間、約12時間、約18時間、約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、約6日間、約7日間、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約13日間、約14日間、約21日間、約28日間、約35日間、または約42日間であり得る。他の遅延期間が、可能であり得る。使用され得る遅延放出デバイスが、下記に記載される。使用され得る他の遅延放出デバイスは、当該技術における当業者にとって公知である。
【0076】
(治療剤の送達のために使用され得る組成物)
一般に、上記治療剤は、必要な送達期間の間に治療有効量の上記治療剤を経強膜送達することが可能な任意の組成物中に処方され得る。組成物としては、上記治療剤の固体形態;液体中、ゲル中、もしくは固体中に懸濁された上記治療剤の粒子;溶液中に溶解された上記治療剤;およびポリマー材料中に溶解もしくは分散された上記治療剤が、挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
(治療剤の固体形態)
使用され得る組成物の一つは、上記治療剤が固体コアとして存在する組成物である。本明細書中で使用される場合、「固体コア」とは、上記治療剤が、個々の固体物質の形態で存在することを意味する。上記固体は、非晶質であっても、結晶性であってもよい。上記固体は、純粋もしくは実質的に純粋な治療剤であっても、他の同じ固体材料で希釈された治療剤であってもよい。上記治療剤固体コアは、適切な任意の形状(例えば、ペレット、薄板、円板、棒、球、またはフィルム)を有し得る。
【0078】
上記治療剤固体コアは、送達システムにおいて他の組成物および成分と合わされても、上記治療剤を送達するために単独で使用されてもよい。本明細書中に記載される方法において使用され得る一つの送達システムにおいて、治療剤の固体コアは、治療剤不浸透性裏打ち(例えば、TeflonTM、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリスチレン、または高密度ポリエチレン)によって裏打ちされる。上記不浸透性裏打ちは、上記治療剤固体コアの、強膜から遠い側に面する側面に配置され得る。そのような裏打ちは、強膜を通る望ましい拡散方向とは反対方向での上記治療剤の拡散をブロックまたは減少するように作用する。本明細書中に記載される方法において使用され得る一つの送達システムにおいて、上記治療剤(例えば、ラパマイシン)の固体コアが、外側強膜表面に近づけて配置され、裏打ちが、上記固体コアの上部に配置される。これによって、強膜への上記治療剤の優先的送達が生じる。上記固体コアおよび裏打ちは、別個に配置されてもよいし、または被験体の外部にある送達システム中に組み合わされて一体型送達システムとして一緒に配置されてもよい。上記裏打ちは、そのような技術の当業者にとって公知である任意の方法を使用して上記固体コアに取り付けられ得る。一つの非限定的例において、ラパマイシンを含み一方の側をラパマイシン不浸透性物質でコートされている固体コアは、約数年間の放出寿命を有する。そのような固体コア送達システムは、一年を超える長期放出期間を有し得る。使用され得る別のデバイスは、上記治療剤に対して完全には不浸透性ではない生分解性ポリマーを含み、この生分解性ポリマーは、実用上の目的のためには、上記薬物の大部分が強膜表面にむかって溶出するような拡散格差を有する。一般的には、上記裏打ちは、強膜に近い組織中への拡散が、その裏打ちが存在しない場合のそのような組織中への拡散と比較して減少する、任意の材料から作製され得る。
【0079】
(治療剤の懸濁)
使用され得る一つの組成物は、上記治療剤の固体粒子が懸濁媒体中に懸濁されている組成物である。
【0080】
非限定的例として、水不溶性治療剤の粒子が、水性媒体中に懸濁され得る。上記治療剤粒子は、結晶性であっても、非晶質であってもよい。上記粒子は、受容可能なポリマー界面活性剤(Pluronic F108、Pluronic F127、およびPluronic F68、ならびにTetronicが挙げられるが、これらに限定されない)を用いて安定化され得る。さらに、粘性ポリマーが、上記懸濁物に添加されて、強膜中での局在化ならびに配置および取り扱いの容易さを助ける。上記懸濁組成物のいくつかの使用において、強膜中にポケットが、上記懸濁物の注射を受容するために外科的に形成され得る。強膜のヒドロゲル構造は、速度制御膜として作用し得る。懸濁物を形成するための固体治療剤物質の粒子は、公知の方法によって(ボールミル(例えば、セラミックビーズを使用することによる)を介することが挙げられるが、これに限定されない)、生成され得る。例えば、Cole Parmerボールミル(例えば、Labmill 8000)は、TosohまたはNorstone Inc.から入手可能な0.8mm YTZセラミックビーズを用いて使用され得る。
【0081】
本明細書中で使用される場合、「粒子」とは、500μm未満の直径を有する固体物質を指し、これは、非晶質であっても結晶性であってもよく、そして純粋な物質であっても混合物であってもよい。本明細書中で使用される場合、「懸濁物」とは、液体媒体中にある粒子であって、本明細書中に記載される懸濁物を投与するために必要な期間の間はその液体媒体中に実質的には沈降しない、粒子を指す。いくつかの実施形態において、「懸濁物」とは、コロイドを指す。他の実施形態において、「懸濁物」とは、コロイドではない混合物を指す。
【0082】
本明細書中に記載される方法において使用され得る一つの組成物は、強膜中または強膜付近への注射のために適切な水または水性カクテルにおける、平均粒径5μm未満を有するラパマイシン粒子の懸濁物である。注射の際、これらのラパマイシン粒子は、強膜中または強膜付近に埋め込まれ、ラパマイシンの徐放を提供する。1μLの9%ラパマイシン懸濁物の強膜注射は、約1μg/日の速度で90日間のラパマイシン送達を提供すると予測される。この結論は、フラックス=DS/Lから計算された2.4μg/cm/日というフラックスから得られた。この式において、Dは、拡散係数であり、2.2×10−5(MW)−1/2cm/秒である前提である。Sは、水溶解度であり、1μg/cmである前提である。Lは、強膜の厚みであり、0.05cmである前提である。MWは、ラパマイシンの分子量であり、これは、914g/molである。使用され得る別の組成物は、約10μm〜約100μmの範囲にある直径を有するラパマイシン粒子の懸濁物である。そのような組成物は、より長いラパマイシン放出時間を提供することが予期される。
【0083】
使用され得る別の組成物は、強膜中または強膜付近への注射のために適切な水または水性カクテルにおける、平均粒径約50μm未満を有するラパマイシン粒子の懸濁物である。
【0084】
(治療剤の溶液)
使用され得る一つの組成物は、上記治療剤が溶媒中に溶解されている組成物である。一般的に、上記治療剤が溶解しかつ被験体に投与され得る任意の溶媒が、使用され得る。一般的に、溶液中の任意の濃度の治療剤が、使用され得る。上記溶液は、飽和溶液であっても過飽和溶液であってもよく、その溶液は、固体形態である上記治療剤と接触状態にある溶液であり得る。上記溶媒は、純粋な溶媒であっても、液体溶媒成分の混合物であってもよい。形成される溶液は、ゲル化溶液であり得る。使用され得る溶媒および溶液の型は、そのような薬物送達技術の当業者にとって周知である。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Twentieth Edition,Lippincott Williams & Wilkins;20th edition(December 15,2000)を参照のこと。
【0085】
上記治療剤がラパマイシンである場合、適切な溶媒としては、DMSO、エタノール、およびメタノールが挙げられるが、これらに限定されない。ラパマイシンについて、使用され得る他の溶媒としては、ヒマシ油、プロピレングリコール、グリセリン、ポリソルベート80、ベンジルアルコール、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、グリセロールホルマール、エトキシジグリコール(Transcutol,Gattefosse)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Triglyme)、ジメチルイソソルビド(DMI)、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、ポリエチレングリコール400、およびポリグリコレートカプリルグリセリド(Labrasol,Gattefosse)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
ラパマイシンを可溶化するために使用され得る他の方法が、ラパマイシンの可溶化(P.Simamoraら、Int’l J.Pharma 213(2001)25〜29(その内容は、本明細書中に全体が援用される))において記載される。
【0087】
非限定的例として、ラパマイシンは、平衡化塩溶液中の5% DMSOまたはメタノール中に、溶解され得る。上記ラパマイシン溶液は、一般的には、任意の濃度のラパマイシンを含み得る。上記ラパマイシン溶液は、飽和ラパマイシン溶液であっても、過飽和ラパマイシン溶液であってもよい。上記ラパマイシン溶液は、固体ラパマイシンと接触し得る。一つの非限定的例において、ラパマイシンは、約400mg/mlまでの濃度で溶解され得る。
【0088】
(治療剤のポリマー処方物)
使用され得る一つの組成物は、上記治療剤がポリマー処方物中に分散または溶解されている組成物である。上記ポリマー処方物は、生分解性ポリマーまたは非生分解性ポリマーであり得る。本明細書中で使用される場合、「生分解性ポリマー」とは、被験体の身体中に配置された場合にその実質的な形態を経時的に完全にかまたは部分的に失う、ポリマーである。生分解性ポリマーは、種々の手段(被験体の体液中でのそのポリマーの侵食もしくは溶解、またはそのポリマー分子の切断(酵素的切断および加水分解による切断が挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない)によって、その実質的な形態を失い得る。この技術の当業者にとって周知であるように、上記生分解性ポリマーは、種々の要因(そのポリマーの化学組成、そのポリマーの分子量、そのポリマーの形態、溶解機構もしくは分解機構、およびそのポリマーが配置される環境が挙げられるが、これらに限定されない)に依存して、長期間にわたってその実質的な形態を失い得る。文脈によってそうではないことが明らかでない限りは、用語「侵食性ポリマー」、「生体侵食性ポリマー」、「生体吸収性」、または「生体吸収性ポリマー」は、上記に定義されるような「生分解性ポリマー」と同じものを意味するために使用される。例えば、以下の論文(その各々の内容は、全体が本明細書中に援用される)を参照されたい:「Biodegradable Polymers for the Controlled Release of Ocular Drugs」,A Merkeliら、Prog.Polym.Sci.,Vol 23,563〜580,1998;High Performance Biomaterials,A Comprehensive guide to medical and pharmaceutical applications,Michael Szycher編,Technomic Publishing Co,Inc.,Lancaster−Basel−1991;Biodegradable Polymers in Controlled Drug Delivery,CRC Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,Vol.1,CRC Press,Boca Raton,FL(1987);Kohn JおよびLanger R,「Bioresorbable and Bioerodible Materials」,Biomaterials Science:An Introduction to Materials in Medicine,Ratner BD,Hoffman AS,Schoen FJおよびLemons JE編,New York,Academic Press,pp 64〜72,1996;ならびにRobinson JRおよびLee VHL編,Controlled Drug Delivery:Fundamentals and Applications(第2版),New York,Marcel Dekker,1987。
【0089】
本明細書中で記載されるような使用のためのポリマーの非限定的な例としては、分子量約4,000〜約100,000のポリエステル、ポリ乳酸ホモポリマー、ポリグリコール酸ホモポリマー、ポリ乳酸とポリグリコール酸とのコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリ無水物(例えば、テレフタル酸無水物、ビス(p−無水物)、およびポリ(p−カルボキシフェノキシ)アルキル)のホモポリマーおよびこれらのコポリマー、ジカルボン酸(例えば、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸、フタル酸、およびマレイン酸)のホモポリマーおよびコポリマー、ポリマー脂肪酸ダイマー化合物(例えば、ポリドデカンジオン酸ポリオルトエステル)、ポリ(アルキル−2−シアノアクリレート)(例えば、ポリ(ヘキシル−2−シアノアクリレート))、コラーゲン(ゼラチン)、ポリアセタール、ジビニルオキシアルキレン、ポリヒドロピラン、ポリホスファゼン、アミノ酸のホモポリマーおよびコポリマー(例えば、ロイシンとメチルグルタミン酸とのコポリマー)、ポリジオキシノン、ポリアルキルシアノアセテート、多糖およびその誘導体(例えば、デキストランおよびシクロデキストラン、セルロースおよびヒドロキシメチルセルロース)胸膜が挙げられる。
【0090】
使用され得る他のポリマーは、このようなポリマー組成物および治療剤の送達のためのその使用における当業者にとって周知であり、そのポリマーとしては、Biodegradable Polymers for the Controlled Release of Ocular Drugs,A Merkeliら、Prog.Polym.Sci.,Vol 23,563〜580,1998;High Performance Biomaterials,A Comprehensive guide to medical and pharmaceutical applications,Michael Szycher編,Technomic Publishing Co,Inc.,Lancaster−Basel−1991;Biodegradable Polymers in Controlled Drug Delivery,CRC Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,Vol.1,CRC Press,Boca Raton,FL(1987);Kohn J.およびLanger R,Bioresorbable and Bioerodible Materials,Biomaterials Science:An Introduction to Materials in Medicine,Ratner BD,Hoffman AS,Schoen FJおよびLemons JE(編),New York,Academic Press,pp 64〜72,1996;ならびにRobinson JRおよびLee VHL(編),Controlled Drug Delivery:Fundamentals and Applications(第2版),New York,Marcel Dekker,1987に記載されるポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
上記治療剤は、そのような技術における当業者にとって周知である標準的方法を使用して上記ポリマー処方物を形成するために、上記ポリマーと合わされ得る。上記ポリマー処方物は、そのような技術における当業者にとって周知であるように、上記治療剤およびポリマーに加えて、他の成分を含み得る。
【0092】
(さらなる賦形剤およびアジュバント)
本明細書中に記載されるような使用のための治療剤(例えば、ラパマイシン)は、従来の薬学的操作(例えば、滅菌)に供され得る。上記治療剤を含む組成物はまた、従来のアジュバント(例えば、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝剤など)を含み得る。上記治療剤はまた、薬学的組成物を生成するために、臨床使用のための薬学的に受容可能な賦形剤を用いて処方され得る。眼への投与のために適切な処方物は、溶液として、懸濁物として、固体物質の粒子として、固体物質の別個の塊として、ポリマーマトリックス中に組み込まれて、または眼への投与のために適切な他の任意の形態で、提示され得る。
上記治療剤は、本明細書中に記載される状態のうちのいずれかの処置のための医薬を調製するために使用され得る。
【0093】
治療剤(例えば、ラパマイシン)を含む組成物は、示される投与経路のために適切な1種以上のアジュバントを含み得る。上記治療剤と混合され得るアジュバントとしては、ラクトース、スクロース、デンプン粉末、アルカノン酸のセルロースエステル、ステアリン酸、滑石、ステアリン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸のナトリウム塩およびリン酸のカルシウム塩、硫酸のナトリウム塩および硫酸のカルシウム塩、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ならびに/またはポリビニルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。溶液処方物が必要とされる場合、上記治療剤は、物質(ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース、コロイド状溶液、メタノール、エタノール、DMSO、トウモロコシ油、落花生油、綿実油、ゴマ油、トラガカントゴム、および/または種々の緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない)中に溶解され得る。他のアジュバントおよび投与様式が、製薬分野において周知であり、それらは、本明細書中に記載される方法、組成物、およびデバイスの実施において使用され得る。上記キャリアまたは希釈剤は、時間遅延材料(例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリル)を単独でか、またはロウもしくは当該分野で周知である他の材料とともに含み得る。本明細書中に記載されるような使用のための処方物はまた、ゲル処方物、侵食性ポリマーおよび非侵食性ポリマー、ミクロスフェア、およびリポソームを含み得る。
【0094】
使用され得る他のアジュバントおよび賦形剤としては、C〜C10脂肪酸エステル(例えば、ソフチゲン(softigen)767、ポリソルベート80、Pluronic、Tetronic、Miglyol、およびTranscutolが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
上記処方物は、単位投与形態で簡便に提示され得、従来の薬学的技術によって調製され得る。そのような技術は、上記治療剤と上記薬学的キャリアまたは賦形剤とを会合させる工程を包含する。上記処方物は、上記活性剤を、液体キャリアもしくは微細分割された固体キャリアまたはそれらの両方と均一かつ密接に会合させ、その後、必要な場合には、その生成物を成形することによって、調製され得る。
【0096】
(治療剤の送達のために使用され得る送達システムおよび投与経路)
一般に、上記治療剤およびその治療剤を含む組成物は、治療有効量のその治療剤を経強膜送達することが可能な任意の送達システムを使用して、送達され得る。使用され得る送達システムおよび投与経路としては、注射による送達、固体ポリマー移植物による送達、裏打ちされた固体ポリマー移植物による送達、固体生体接着移植物による送達、固定表面を備える固体移植物による送達、コーティングされた縫合糸による送達、コイル状繊維による送達、および固体治療剤による送達が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
(注射による送達)
本明細書中に記載される組成物およびデバイスを送達するために使用され得る一方法は、注射による送達である。この方法において、組成物およびデバイスは、経強膜送達のために眼の領域内の種々の位置に配置され得る。上記組成物およびデバイスが配置され得る位置としては、結膜下配置、トノン腔下配置、および強膜内配置が挙げられるが、これらに限定されない。上記組成物およびデバイスの配置のために使用され得る方法としては、結膜下注射、後トノン腔注射、後強膜に対して直接配置するための特別に設計した曲線のカニューレを介する注入、特別に設計したデバイスもしくは単純なシリンジによる強膜中への注射、特別に設計した挿入器もしくは注入器による強膜中への配置、ならびに特別に設計した挿入器もしくは注入器による強膜表面に対する配置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
使用され得る一方法において、上記治療剤は、適切な溶媒または溶媒混合物中に溶解され、その後、上記の手順のうちのいずれかに従って強膜中または強膜付近に注射され得る。使用され得る一方法において、上記治療剤は、ラパマイシンであり、これは、適切な溶媒(例えば、DMSO、エタノール、またはメタノール)中に溶解される。
【0099】
注射によって送達され得る一組成物は、溶解して強膜付近に純粋な治療剤を残す、ヒアルロン酸における上記治療剤の懸濁物である。
【0100】
(固体ポリマー移植物による送達)
上記組成物を送達するために使用され得る一送達システムは、眼の領域中に固体ポリマー移植物を配置することによって上記組成物が送達される送達システムである。
【0101】
上記固体ポリマー移植物は、種々の手段(外科的に形成された強膜弁の内側に配置すること、および外側強膜表面付近に配置することが挙げられるが、これらに限定されない)によって経強膜送達するために眼の領域中に配置され得る。上記固体ポリマー移植物が配置され得る位置としては、結膜下配置、トノン腔配置、および強膜内配置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
標準的手術前様式で眼が準備され得る診療室、処置室、または手術室のいずれかにおいて強膜弁中に配置するために、強膜は、露出され、弁の生成が、適切な刃を用いて実施される。縫合糸が、必要であるかもしれない、必要ではないかもしれない。標準的手術前様式で眼が準備され得る診療室、処置室、または手術室のいずれかにおいて外側強膜表面付近に配置するために、強膜は、露出され、上記固体ポリマー移植物が、適所に配置される。
【0103】
本明細書中に記載される方法において使用され得る一デバイスにおいて、上記治療剤を含む組成物が、その治療剤を含むポリマー移植物から経強膜送達される。そのような移植物は、上記ポリマー移植物からの上記治療剤の制御された長期放出を可能にし得る。使用され得るポリマーは、本明細書中の「ポリマー処方物」の節において記載される。本明細書中で記載される場合、「移植物」とは、変形可能であっても変形可能でなくてもよいが一般的には外力が存在しない場合にその形状を維持する、3次元物体を指す。上記ポリマー移植物は、生分解性または生体侵食性であり得、その結果、上記ポリマーが侵食または他の様式で分解するにつれて上記治療剤が放出されるようになっている。上記ポリマー移植物はまた、非生体分解性であり得る。例えば、上記移植物は、シリコーン製であり得、組み込まれた治療剤の送達後に取り除かれ得る。このようにして、上記ポリマー移植物は、上記治療剤を再充填され得、そして眼の中に再移植され得る。使用され得る別のポリマー移植物において、上記ポリマーは、インサイチュで形成するポリマーゲルであり、その結果、上記ポリマー処方物は、まず液体形態であり、そして生理条件に暴露されるとゲル相へと変形する。そのようなポリマーの非限定的例は、Pluronic F−127である。使用され得る別のポリマー移植物において、生体接着化合物(例えば、フィブリンのり)が、上記治療剤を含むポリマー移植物を形成するために使用される。使用され得る別のポリマー移植物において、上記治療剤は、その治療剤の放出期間を増加させるために、ミクロスフェアもしくはナノ粒子と合わされるか、またはそれらの中に入れられる。そのようなポリマー移植物において、上記ポリマーからの治療剤溶出期間は、約1週間〜約12ヶ月の間であり得る。別のそのようなポリマー移植物において、溶出期間は、約数年間である。
【0104】
使用され得る別のポリマー移植物において、治療剤が組み込まれたポリマー移植物が、眼の望ましい位置に縫合される。例えば、上記移植物は、強膜の表面に対して縫合され得る。
【0105】
上記ポリマー移植物の形状は、適切な任意の形状(例えば、コイル、円板、楕円形円板または円形円板、薄層、または棒)であり得る。使用され得る別のポリマー移植物において、上記ポリマー移植物は、選択された組織中に一旦通ると、縫合糸の後端がコイル状になって、選択された組織(例えば、強膜)に並んだままである縫合糸の長さを増加するように設計された、コイル形状である。使用され得るあるポリマー移植物において、そのポリマー移植物は、棒のような形状であり、その結果、そのポリマー移植物は、選択された組織にその棒を縫合するために使用され得る繊維へと細くなる。
【0106】
使用され得る他のポリマー移植物としては、眼に配置するためのデバイス(例えば、ヒドロゲルまたはプルロニックゲル)、眼の壁に配置された場合に広がりかつ/または開いて治療剤を送達し得るデバイスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
(裏打ちされた固体ポリマー移植物による送達)
上記組成物を送達するために使用され得る一送達システムは、裏打ちを備える固体ポリマー移植物の配置によって上記組成物が送達される送達システムである。そのような裏打ちされたポリマー移植物において、そのポリマー移植物は、選択された方向での拡散を促進するように設計される。
【0108】
使用され得る裏打ちされたポリマー移植物の一つとしては、侵食性ポリマー移植物(例えば、円板、円筒、繊維、またはフィルム)が挙げられ、これは、活性治療剤と、治療剤を含まない侵食性ポリマー製裏打ちとを含む。第二の侵食性ポリマーの選択は、その第二のポリマーの方向での上記移植物からの治療剤の溶出がブロックされるかまたは遅くされて、上記治療剤が主に一方向に送達されるのを可能にするようであり得る。一バージョンにおいて、上記第二のポリマーは、上記治療剤に対して実質的に不浸透性である。別のバージョンにおいて、非侵食性ポリマーが、ブロック用ポリマーとして使用され得、治療剤送達の終わりに除去され得る。本明細書中で使用される場合、「実質的に不浸透性」とは、いかなる量の治療剤も、その実質的に不浸透性の障壁を通過しないこと、または臨床的に有意ではない量の治療剤しか、その実質的に不浸透性の障壁を通過しないことを意味すると理解される。そのようなデバイスの一バージョンにおいて、縫合糸が、上記の2種の異なるポリマー間に挟まれて、上記構造物が、その縫合糸を介して強膜に確実に固定されたままであるのが可能になる。
【0109】
一般に、上記裏打ちは、強膜付近の組織中への上記治療剤の拡散が、その裏打ちが存在しない場合のそのような組織中への拡散と比較して減少する任意の材料から作製され得る。上記裏打ちは、生分解性材料製であっても、非生分解性材料製であってもよい。上記裏打ち材料は、上記治療剤に対して不浸透性または実質的に不浸透性であっても、あるいは上記治療剤に対して半浸透性または浸透性であってもよい。裏打ちされたポリマー移植物の一つにおいて、上記治療剤を含むポリマーの材料と、上記裏打ちとは、同じであり、上記治療剤を含むポリマー中のその治療剤の濃度は、その裏打ち中の濃度よりも大きい。そのような移植物の一つにおいて、上記裏打ちは、最初に、治療剤を実質的に全く含まない。
【0110】
そのような送達システムの一バージョンが、図5において示される。図5は、2つのバージョンの裏打ちされたポリマー移植物(10)(ポリマー成分(20)と、裏打ち(30)とを含む)の断面を示す。そのような移植物は、上記治療剤についての優先的拡散方向(40)を生じる。
【0111】
(固体生体接着移植物による送達)
上記組成物を送達するために使用され得る一送達システムは、生体接着表面を備える固体ポリマー移植物を配置することによって上記組成物が送達される、送達システムである。
【0112】
上記ポリマー移植物の生体接着表面は、眼の領域における生体材料への接着(外側強膜表面への接着が挙げられるが、これに限定されない)によって適所にこの移植物が固定されるのを可能にする。上記生体接着移植物は、生体接着ポリマー材料製であっても、生体接着材料でコートされて生体接着表面を形成する非生体接着材料製であってもよい。生体接着表面を備えた薬物送達システムの調製は、その技術における当業者にとって周知である。例えば、「Bioadhesive any phase−change polymers for ocular drug delivery」J.Robinsonら、Advanced Drug Delivery Review,16(1995)45〜50(その内容は、全体が参考として本明細書中に援用される)を参照されたい。
【0113】
使用され得る生体接着性ポリマーとしては、以下のものまたは以下のものの任意の混合物が挙げられるが、これらに限定されない:種々の分子量を有するポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびアクリル酸とアクリル酸エステルとのコポリマー、架橋したポリアクリル酸(カルボポル(carbopol))、セルロース(エチルセルロース、メチルセルロース、微細結晶セルロース、等)、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、等)、セルロースエステル(セルロースアセテート、セルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、等)、ゴム(アラビアゴム、トラガカントゴム、アカシアゴム、ガレン(gallen)ゴム、キサンタンゴム、等)、ヒアルロン酸およびその誘導体、ポリエチレンオキシド(ポリオックス(polyox)およびその誘導体、ポリエチレングリコール、ならびにポリエチレンオキシドのグラフトポリマー)、キトサンならびにアルギン酸。
【0114】
生体接着性ポリマーは、可撓性膜を得るために適切な可塑剤と混合され得る。使用され得る可塑剤としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、グリセロールエステル(例えば、グリセロールモノオレエート)、およびプロピレングリコールのエステル(例えば、プロピレングリコールモノラウレート)、ならびに水。
【0115】
生体接着性ポリマーは、生体接着性移植物が組織上に配置された場合に表面接触を向上させるために、非常に低濃度の適切な湿潤剤と混合され得る;使用され得る湿潤剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:界面活性剤:コレステロール、tween類およびspan類、ポリソルベート80、ならびにプルロニック類。
【0116】
生体接着性ポリマーは、適切な賦形剤と混合され得る。この賦形剤としては急速に溶解する水吸収性の糖/デンプン(例えば、マンニトール、デキストロース、ラクトース、マルトデキストリン)が挙げられるが、これらに限定されない。移植物が接着する組織は特定量の水分を保持するので、これらの糖/デンプンは水分をより迅速に吸収するのを助け、その結果初期の生体接着および接触がより容易に達成されると、考えられている。
【0117】
(固定表面を有する固体移植物による送達)
組成物を送達するために使用され得る1つの送達システムは、固定表面を備える固体ポリマー移植物の配置によってこの組成物が送達される、送達システムである。この薬物送達システムにおいて、ポリマー移植物は、眼の領域において表面を生体物質に対して固定すること(眼の外側強膜表面への固定が挙げられるが、これに限定されない)によってこの移植物が実質的に固定されるような形態を有する表面を有する。
【0118】
生体物質に固定し得る形態を有する表面の非限定的な例としては、多くの突出を備える表面が挙げられる。このような移植物の1例は、図15に示され、多くの突出(1550)を備える固定表面(1520)を有するポリマー移植物(1510)を描いており、突出(1550)は外側強膜表面(1530)に移植物を付着する。不浸透性の裏打ち(1540)を有する移植物が描かれており、この裏打ち(1540)は選択可能であり取り除かれてもよい。突出の数、大きさおよび外形は、突出が作製される物質の性質およびこれら突出が固定される表面に、依存する。この技術の当業者は、使用され得る突出の数、大きさおよび外形を割り出し得る。
【0119】
種々の固定表面が記載される。例えば、突出は生分解性であっても非生分解性であってもよい。さらに、突出は、治療剤を含んでも、または実質的に治療剤を含まなくてもよい。突出はまた、移植物の固定表面が配置の際に外側強膜表面に穴を開ける物質から作製され得、そしてそのような大きさおよび形状であり得る。そしてこの穴を開けることにより強膜を通る治療剤の輸送を増強する1つの例において、固定表面は生体接着性物質から作製される。別の例において、固定表面は、体液と接触していない時には比較的硬いが、体液と接触して配置された場合に、軟化してより生体適合性になる。この方法において、比較的硬い固定表面が使用されて、移植物の配置の際に外側強膜表面に穴を開け得、そして配置後に固定表面はより生体接着性になり、その表面が移植物を適所に固定する能力を追加する。
【0120】
固定表面を有する移植物の別の例が、図16に示され、これは多くの突起(1630)を備える固定表面(1620)と、治療剤を含むポリマー部分(1640)、生体接着性部分(1650)(治療剤を含んでいてもいなくてもよい)と、不浸透性の裏打ち(1660)とを有するポリマー移植物を描いている。生体接着部分および不浸透性裏打ちは、選択可能であり、除かれ得る。治療剤を含む部分(1640)は、生体接着性であり得る。この例において、固定表面(1620)は、突起(1630)、治療剤を拡散し得る多くの孔(1670)を備える。種々の外形の孔および突起が、実施可能である。この例において、固定表面が作製される物質は、治療剤に対して浸透可能である必要はなく、そして固定表面は、任意の適切な物質(例えば、金属が挙げられる)から作製され得る。生体接着性部分(1650)が存在する場合、生体接着性物質もまた、孔を通って移動し得、外側強膜表面への移植物の付着を助ける。
【0121】
ポリマー移植物が裏打ち層を備える場合、一般的にこの層は「裏打ちを備えるポリマー移植物」の節に記載される、任意の裏打ちであり得る。使用され得る1つの移植物としては、ポリエステルの裏打ちまたは他の非生分解性の裏打ちが挙げられる。使用され得る移植物としては、活性層(治療剤を含む);不活性な裏打ち層;生体接着性層(これは治療剤を含んでいてもいなくてもよい)、および固定表面(これは治療剤を含んでいてもいなくてもよいし、そして生体接着性物質から作製されてもされていなくてもよい)から作製された、多層化されたシステムが挙げられるが、これに限定されない。このようなシステムは、当該技術の当業者に公知の種々の方法(種々の層を一緒に貼り合わせることが挙げられるが、これに限定されない)で生産され得る。使用され得る1つのポリマー移植物において、固定表面は、外側強膜表面に付着するための、移植物の外側表面である。使用され得る別のポリマー移植物において、固定表面は、移植物の積層構造の中に包埋される。
【0122】
固定表面を有するポリマー移植物は、このポリマー移植物が配置され得る場合、眼の領域において同じ位置に配置され得る。
【0123】
(遅延放出を有する固体移植物による送達)
組成物を送達するために使用され得る1つの送達システムは、遅延放出性の固体ポリマー移植物の配置により組成物が送達される送達システムである。
【0124】
1つの送達システムにおいて、ポリマー移植物は、眼の中へのポリマー挿入後の一定期間の間、治療剤放出の開始が遅延されるよう設計される。この遅延は、例えば、移植物の挿入によって生じた創傷が治療剤の送達前に治癒するための時間をもたらす。このような遅延は、治療剤自体が創傷の治癒を阻害する場合に有利である。例えば、線維芽細胞の増殖を阻害する治療剤(例えば、ラパマイシン)は、創傷が治癒することを阻害する。使用され得る1つのこのような遅延放出移植物において、治療剤の放出は、治療剤を含まないが所定の時間の間に侵食するポリマーを用いて、治療剤を含むポリマー移植物をコーティングすることによって、遅延される。従って、ポリマーコーティングの実質的な部分が侵食されてなくるまで、治療剤の放出が遅延される。本明細書中に使用される場合、物体の「実質的な部分」とは、物体の80%以上をいう。ポリマーコーティングは、治療剤に対して実質的に不浸透性であり得る。
【0125】
遅延放出の技術の当業者は、本明細書中に記載される遅延放出を達成するために使用され得る他の組成物および他の装置を特定し得る。
【0126】
図6は、遅延放出送達システム(200)の断面図を示すそのような送達システムの1様式を示し、これは治療剤を含むポリマー成分(210)、および治療剤を含まないかまたは治療剤を実質的に含まない遅延放出コーティング(220)を備える。
【0127】
遅延放出送達システムは、ポリマー移植物が配置され得る眼の領域において同じ位置に配置され得る。
【0128】
(コーティングされた縫合糸による送達)
組成物を送達するために使用され得る1つの送達システムは、固体コーティングされた縫合糸の配置によって組成物が送達される送達システムである。この送達システムの1様式において、1種以上の治療剤が縫合糸の中に組み込まれ、次いでこれが、同じかまたは異なる治療剤でコーティングされ得る。例えば、縫合糸上または他の構造物上への治療剤のコーティングを使用して、送達されるべき治療剤の負荷投与量を規定し得るか、または抗感染性治療剤を含み得る。
【0129】
(コイル状繊維による送達)
組成物を送達するために使用され得る1つの送達システムは、治療剤を含むコイル状繊維の配置によって組成物が送達される送達システムである。コイル状繊維は、一般的に、十分な治療剤の組み込みを可能にし、そして経強膜送達のためのコイル状繊維の配置を可能にする、任意の外形および大きさを有し得る。使用され得る1つのコイル状繊維は、長さ約5cm未満および直径約1mm未満を有する。使用され得る別のコイル状繊維は、長さ約10cm未満および直径約2mm未満を有する。他の大きさもまた可能であり得る。治療剤は、コイル状繊維の本体に組み込まれ得、そしてコイル状繊維からの溶出の際、またはこの繊維が生分解性である場合にはコイル状繊維の侵食または分解の際に、経強膜送達され得る。治療剤はまた、コイル状繊維の表面に組み込まれ得る。コイル状繊維は、ポリマー移植物が配置され得る眼の領域において、同じ位置に配置され得る。
【0130】
(固体治療剤による送達)
組成物を送達するために使用され得る1つの送達システムは、固体治療剤の配置によって組成物が送達される送達システムである。
【0131】
固体治療剤のコアを有する組成物の使用は、上記組成物の節において詳細に記載される。このような送達システムは、ポリマー移植物が配置され得る眼の領域上の同じ位置に配置され得る。
【0132】
(送達システムの例)
図7〜14において、本明細書中に記載される方法において使用され得る送達システムの種々の非限定的な例が描かれる。
【0133】
図7および図8は、テノン腔下後方中への種々の組成物または装置の送達(ミクロスフェアまたはナノ粒子の送達を含む)のために使用され得る、アプリケーター、注入器または挿入器(710)および(810)を描く。
【0134】
図9は、固定表面(930)によって外側強膜表面(920)に接着される、不浸透性の裏打ちを有する薄層膜の生分解性ポリマー(910)を描く。
【0135】
図10は、強膜弁(1020および1030)を用いた、不浸透性裏打ちを有する薄層膜の生分解性ポリマー(1010)(これは強膜ポケット(1040および1050)の中に配置される)を描く。69ブレードが、強膜ポケットを切るために使用され得る。
【0136】
図11は、不浸透性裏打ちを有する薄層膜の生分解性ポリマー(1110)(これは、強膜中に切られた「ベルトループ」(1120)を通る移植物(1110)の配置によって強膜に固定化される)を描く。
【0137】
図12は、強膜中に切られたポケット(1220)の中への薬物の配置によって強膜に固定化された、薬物の固体コア(1210)を描く。
【0138】
図13は、シリコーントラック送達システム(1320)と係合する、ポリマー移植物(1310)を描く。このシリコーントラック送達システムは、引き込み式であり得そして取り替え可能であり得る。このシリコーントラック送達システムは、直筋腱(recti tendon)挿入物に取り付けられ得る。
【0139】
図14は、予め巻かれたポリマー移植物(1410)を描き、これは注入器システムによって送達され、巻きがとれてポリマー移植物(1430)を提供する。
【0140】
(組成物および装置の配置の方法)
本明細書中に記載される組成物および装置は、治療剤の経強膜送達を可能にするために眼の領域において種々の位置に配置され得、この配置としては、結膜下配置、強膜内配置、およびテノン腔下配置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
組成物および装置は、可能な限り最小限の侵襲方法で適切な治療投薬を提供する位置で、外側強膜表面付近に配置され得る。このような配置のため、眼球に対して結膜下の配置が有用である。眼球に対してさらに後方の配置も使用され得る。眼球に対する接近は、種々の手段を介し得、眼球結膜を通る手段が挙げられるが、これに限定されない。この配置方法を使用すると、組成物または装置の位置は、鋸状縁に対応する外部強膜表面に、またはそこより後方にあり得る。組成物または装置はまた、眼球赤道より後方にある位置に配置され得る。組成物または装置はまた、斑および視神経の近くの強膜上に配置され得る。他の配置位置は可能性があり、そして前述の記載は、組成物および装置のための可能性ある配置位置について制限されない。
【0142】
一旦、外側強膜表面の近位に配置されると、組成物および装置は、期待される持続時間の間これら組成物および装置が治療有効量の治療剤を送達し続けるような位置で固定されたままでいる。一般的に、組成物および装置は、所望されない動作を防止し得る任意の方法によって、過度の移動から防止され得る。過度の移動を防止するため使用され得る非限定的な方法としては、以下が挙げられる:固体組成物または固体デバイスが配置される眼の領域部分の輪郭に対してその固体組成物または固体デバイスの形状を整えること、接着もしくは縫合糸または同等の固定手段による、眼の領域部分に対する固体デバイスの接着、外眼筋下の配置または外眼筋の挿入に隣接した配置、生体接着層による眼の領域部分への組成物または固体デバイスの接着、および眼の領域部分に固定可能な位相を有する表面による、眼の領域部分への固体デバイスの接着。
【0143】
治療剤を含む組成物および装置は、種々の手順を使用して、眼に直接投与され得る。この手順としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:(1)治療剤がシリンジおよび皮下注射用針を使用した注射によって投与される手段、(2)特定に設計された装置を使用して治療剤を注射する手段、(3)治療剤の注射前に、治療剤または治療剤組成物のためのレセプタクルとして役立つように、ポケットが強膜内に外科手術的に形成される手段。例えば、1つの投与手順において、外科医が眼の強膜内にポケットを形成して次いでそのポケットの中に治療剤の溶液または懸濁液を注射する。別の投与手順において、外科医が強膜内にポケットを形成してそこに固体移植物が挿入される。固体移植物は、上記のような治療剤物体またはポリマー構造物の固体集合物であり得る。強膜ポケットは、硝子体網膜の外科手術の実施に熟練した者に利用可能な技術によって、形成され得る。あるいは、ブレードおよび挿入器のうちの特定に設計された組み合わせが、この目的のために利用され得る。
【0144】
他の投与手順としては、以下の手順が挙げられるが、これらに限定されない:(1)治療剤処方物が強膜後方に対して直接的に治療剤を配置するよう特定に設計された曲がったカニューレを介して注射される手順、(2)圧縮形態の治療剤が、強膜上に外科手術手順によって切り裂かれた強膜の弁(flap)の内側に、強膜に対して直接配置される手順、(3)特定に設計された注入器または挿入器によって、治療剤が強膜中に挿入される手順、(4)治療剤処方物が、特定に設計された注入器または挿入器によって強膜表面に対して配置される手順、(5)治療剤物体が、眼に縫合された縫合糸または別の固体構造物の中に組み込まれる手順(任意の適切な眼球レンズ縫合技術が使用され得る。1様式において、縫合糸は適切な眼球レンズ針または他の特定の組織の針に取り付けられる(swedge)。あるいは、小穴(eye)を有する針が平坦なフィラメント上で使用され得る)、(6)外科医が小さな結膜の切り込みを作製し、これを介して縫合糸または任意の治療剤送達構造物を通して、強膜に隣接してこの構造物を固定する手順、(7)外科医が、結膜を介し、そして外部組織の操作を通して直接針を通し、強膜に対してもたれかかるように結膜下に治療剤送達構造物全体を導く手順、(8)結膜が自由に移動し得、その結果、治療剤送達構造物と縫合糸との組み合わせが結膜の切り込みからわずかに分けられる手順、(9)治療剤送達構造物の挿入後に結膜が閉じられる手順(結膜は任意の適切な手段によって(例えば、縫合糸または接着剤によって)閉じられ得る)、ならびに(10)治療剤送達構造物の大きさおよび形状に適応させるために結膜が開いたままにされる手順。
【0145】
使用され得る1つの投与手順において、外科医は、強膜トンネル切開を実施するため、小さな手持ち式の装置を使用する。次いで、固体集団、または他の装置、または治療剤物質もしくは治療剤組成物の組成物が、強膜中に配置され得る。
【0146】
使用され得る1つの投与手順において、装置または組成物が強膜内に配置される。このような配置の1つの非限定的な例は、この装置または組成物が外科手術的に形成された強膜弁の内側に配置されることである。このようなシナリオの下では、診療室中、処置室中または手術室中のいずれかで、眼は標準的な術前様式で準備され得、強膜が曝露され、そして適切なブレードを用いて弁の形成が実施される。縫合糸は必要とされてもされなくてもよい。
【0147】
使用され得る1つの投与手順において、装置または組成物は、強膜表面に対して配置される。このようなシナリオの下では、診療室中、処置室中または手術室中のいずれかで、眼は標準的な術前様式で準備され得、強膜が曝露され、そして装置または組成物が適所に配置される。
【0148】
(AMDの処置のためのラパマイシンの経強膜送達)
本明細書中に記載される1つの方法において、眼において新脈管形成を予防するか、処置するか、阻害するか、または新脈管形成の発生を遅延するかまたは新脈管形成の退行を引き起こすため(例えば、AMDにおいて観察されるような、CNVを予防するか、処置するか、阻害するか、またはCNVの発生を遅延するかまたはCNVの退行を引き起こすため)に、ラパマイシンが経強膜送達される。米国特許出願第10/665,203号(これは、本明細書中でその全体が参考として援用される)に記載されるように、ラパマイシンは、ラットモデルおよびマウスモデルにおいてCNVを阻害することが示されている。ラパマイシンは、全身的且つ網膜下に投与される場合に、Matrigel(登録商標)誘発性またはレーザー誘発性のCNVを阻害することが観察されている。また、本明細書中の実施例1に提供されるように、ラパマイシンの眼周囲への注射は、レーザー誘発性のCNVを阻害する。
【0149】
眼における新脈管形成(例えば、CNV)を処置するか、予防するか、処置するか、阻害するか、または新脈管形成の発生を遅延するかまたは新脈管形成の退行を引き起こすために経強膜送達され得る他の治療剤は、ラパマイシンの以外のリムスファミリーの化合物のメンバーであり、エベロリムスおよびタクロリムス(FK−506)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0150】
本明細書中に記載されるように、治療剤の投薬量は、その状態が処置され得るか、予防され得るか、阻害され得るか、その状態の発生が遅延され得るか、またはその状態の発生の退行が引き起こされ得るかどうかが検討されている状態、特定の治療剤、および他の治療的要因(例えば、被験体の体重および状態、ならびに治療剤の投薬経路)に依存する。本明細書中に記載される方法、装置および組成物は、ヒトへの使用および家畜への使用の両方ならびに他の可能性のある動物における使用に対する適用を有する。CNVを阻害するためにヒトにラパマイシンを送達する場合において、化合物の阻害量の一つは、組織レベルで約10ng/mlを提供する量であることが実証されている。この濃度のラパマイシン、ならびにより高濃度およびより低濃度が、本明細書中に記載される方法において使用され得る。本明細書中に記載される方法において使用され得るラパマイシンの一濃度は、組織レベルで約1ng/ml以下のラパマイシンを提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約2ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約3ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約5ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約10ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約15ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約20ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約30ng/ml以下を提供する濃度である;使用され得る別の濃度は、組織レベルで約50ng/ml以下を提供する濃度である。当業者は、利用される投与経路および投与持続時間に依存して、どのように好ましい使用濃度に到達するかを理解する。
【0151】
開示される治療剤の送達は、投与経路および投与持続時間に依存して、(被験体の体重を参照して)約1ピコグラム/kg/日と約300mg/kg/日との間の用量範囲か、またはこの開示される範囲より高用量もしくは低用量で、送達され得る。本明細書中の方法において使用され得る1つの装置または1つの組成物において、治療剤は、約1ピコグラム/kg/日と約3mg/kg/日との間の用量範囲で送達される。本明細書中に記載される種々の疾患および状態を処置するための種々の治療剤の用量は、臨床試験の使用によって洗練され得る。さらに、用量範囲としては、米国特許第6,376,517号および同第5,387,589号に開示される用量範囲が挙げられる(これらの内容は、それらの全体が本明細書で参考として援用される)。
【0152】
本明細書中に記載される方法において使用され得る1つの装置において、ラパマイシンは、経強膜送達のために、固体ポリマー移植物中に組み込まれる。本明細書中で議論されるように計算された、2.4μg/cm/日のラパマイシンのフラックスに基づき、強膜の外側表面に対しておおよそ0.33cmの表面積を提供するポリマー移植物から、おおよそ0.8μg/日のラパマイシンが送達され得る。この大きさの構造物は、一般的に安全と認識されている(GRAS)ポリマー(例えば、PLGAポリマー)から構成され得る。本明細書中で使用される場合、「一般的に安全と認識されている」ポリマーとは、医療目的のために通常ヒト組織と接触して使用されるポリマー物質、副作用の発生率が低いことが動物研究またはヒトの研究を通じて示されているポリマー物質、またはヒトにおける使用に対して安全であるとして当業者の医療専門家によって認められているポリマー物質をいう。所望の表面積を有するコイル状繊維は、直径約1mmおよび長さ約4cmを有する。適切な大きさの楕円形ディスクは、幅約4mmおよび長さ約1cmである。これらの装置の記載は、限定されずに、ラパマイシンの送達のために使用され得る装置の一例として提供される。
【0153】
固体ポリマー移植物は、外側強膜表面のいくらかの面積を通して治療剤を送達する外形を有する。本明細書中の他所に記載されるように、この面積についての要件は、その装置によって強膜表面で維持されるラパマイシン濃度、ラパマイシンに対する強膜の浸透性、有効量のラパマイシンを送達するために強膜を通るラパマイシンに必要なフラックス、送達に必要とされる持続時間、およびこの装置が配置されるべき眼の部分によって求められる大きさの制限によって、決定される。本明細書中に記載される方法において使用され得る1つの固体ポリマー移植物装置は、約1cm未満の面積を通して治療剤を送達する。使用され得る別の固体ポリマー移植物装置は、約0.5cm未満の面積を通して治療剤を送達する。使用され得る別の固体ポリマー移植物装置は、約0.25cm未満の面積をとおして治療剤を送達する。使用され得る別の固体ポリマー移植物装置は、約0.1cmと約0.2cmとの間の面積を通して治療剤を送達する。装置の厚さは、主に、延長された期間にわたって送達されることが必要であるラパマイシン量、および装置が配置されるべき眼の部分によって求められる大きさの制限に依存する。この文脈において使用される「厚さ」は、外側強膜表面に提供される表面に対しておよそ正常な方向での装置の寸法を意味する。一般的に、眼の特定の部分において装置の配置に相応する任意の厚さを有する装置が、使用され得る。本明細書中に記載される方法において使用され得る1つの固体ポリマー移植物装置は、約2mm未満の厚さを有する。使用され得る別の固体ポリマー移植物装置は、約1mm未満の厚さを有する。
【0154】
本明細書中に記載される装置および組成物は、CNVを処置するか、予防するか、阻害するか、またはCNVの発生を遅延するかまたはCNVの退行を引き起こすために、延長された期間の間、治療有効量のラパマイシンの経強膜送達のために使用され得、そしてこのようにして湿性AMDを処置するか、予防するか、阻害するか、遅発化するかまたはその退行を引き起こすために使用され得る。ラパマイシンについて本明細書中で示される分子の大きさ、力価、水溶性、固体としての安定性、および強膜浸透性に基づき、延長された期間の間、治療有効レベルでラパマイシンが送達されるようであり得ることが、認識されている。本明細書中に記載される装置および組成物の特定の特徴(形状、大きさ、位置決定ならびに装置および組成物中のラパマイシンの充填が挙げられる)を変更することによって、本明細書中に記載される装置および組成物を使用して、種々の延長された期間の間、治療有効量のラパマイシンを経強膜送達し得ることが考えられる。種々の延長された期間としては、約1週間より長い間の送達、約2週間より長い間の送達、約3週間より長い間の送達、約1ヶ月間より長い間の送達、約3ヶ月間より長い間の送達、約6ヶ月間より長い間の送達、約9ヶ月間より長い間の送達、約1年間より長い間の送達、約18ヶ月間より長い間の送達、約2年間より長い間の送達、約3年間より長い間の送達、および約4年間より長い間の送達が、挙げられる。
【0155】
治療有効量のラパマイシンが湿性AMDに苦しむ被験体に投与される場合、ラパマイシンは、湿性AMDを処置し得るか、阻害し得るかまたは湿性AMDの退行を引き起こし得る。異なる治療有効量が、処置、阻害または退行を引き起こすために必要とされ得る。湿性AMDに苦しむ被験体はCNV損傷を有し得、そして治療有効量のラパマイシンの投与が種々の効果を有し得ると考えられる。種々の効果としては、CNV損傷の退行を引き起こすこと、CNV損傷を安定化すること、および活発なCNV損傷の進行を予防することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0156】
治療有効量のラパマイシンが乾性AMDに苦しむ被験体に投与される場合、ラパマイシンは幹性AMDの進行を予防し得るかまたは遅らせ得ると考えられる。
【実施例】
【0157】
他に示されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、そして、圧力は、大気圧もしくはその付近である。
【0158】
(実施例1−ラパマイシンによるレーザー誘導性CNVの阻害)
CNVは、レーザーを用いてBruch膜を破裂させることにより誘導され得る。15匹のマウスに、片眼に毎日、トウモロコシ油のビヒクル中5μgのラパマイシンを眼周囲注射(periocular injection)した。処置の2日後、Bruch膜を、各眼に3箇所ずつレーザーにより破裂させた。対照(fellow)の眼を、コントロールとして供し、トウモロコシ油のみの眼周囲注射で処置した。レーザー破裂の2週間後、10匹のマウスを、フルオレセイン標識したデキストランで潅流し、そして、脈絡膜のフラットマウント(flat mount)で、各眼のCNV面積を測定した。残りのマウスの網膜およびRPE/脈絡膜を切開し、そして、組織の治療剤レベルの測定のために、−70℃で保存した。
【0159】
図1に示されるように、ラパマイシン処置は、ビヒクルのみに対して、統計的に有意なCNVの大きさの減少をもたらした(p=0.0011、Mann−WhitneyのU検定による)。ラパマイシン処置した眼の平均CNV面積は、0.00381mm(標準偏差0.00197)であり、ビヒクルの眼は、0.00576mm(標準偏差0.00227)のCNV面積を示した。
【0160】
歩哨動物の網膜についてHPLC/MSを用いると、ラパマイシンの網膜組織レベルが、処置した眼の組織1mgあたり、25pgであり、そして、コントロールの眼の組織1mgあたり、7pgであることが分かった。これらの動物は、血液1mgあたり、5.57ngのラパマイシン血中レベルを有することが分かった。従って、これらのマウスにおいて、毎日5μgのラパマイシンの眼周囲送達が、臨床的に有意な血中レベルをもたらすが、網膜組織のレベルは、対照のコントロールの眼よりも、処置した眼においてより高く、このことは、眼周囲注射後の、ラパマイシンの経強膜浸透を示唆する。
【0161】
この実施例は、ラパマイシンの投与が、CNVを阻害し得ることを実証する。
【0162】
(実施例2−ラパマイシンによる、レーザー誘導性CNVの改善(reversal))
15匹のマウスを、各眼に3箇所ずつ、レーザー光凝固術を用いてBruch膜を破裂させた。1週間後、5匹のマウスを、フルオレセイン標識したデキストランで潅流し、各眼においてCNVのベースライン面積を測定した。この時点で、残りのマウスには、片眼に毎日、5μgのラパマイシンを含有する5μlのトウモロコシ油、そして、対照の眼には、5μlのトウモロコシ油のみの眼周囲注射を開始した。さらに1週間後、マウスを、フルオレセイン標識したデキストランで潅流し、脈絡膜のフラットマウントで、各眼のCNV面積を測定した。使用したトウモロコシ油溶液は、ほぼ飽和溶液である。治療有効量のラパマイシンを送達するために、より低い用量が使用されることが期待される。
【0163】
図2に示されるように、ラパマイシン処置した眼は、CNV面積の実質的な減少を示した。ベースラインの病変CNV面積(Baseline lesion CNV area)は、0.0105mm(標準偏差0.0037)であった。未処置の眼は、0.0093mm(標準偏差0.0028)のCNV面積を有した。処置した眼は、0.00458mm(標準偏差0.0053)のCNV面積を有した。
【0164】
この実施例は、ラパマイシンの投与がCNVの退行をもたらすことを実証する。
【0165】
(実施例3−経強膜ラパマイシン送達のための、フラックス(flux)および強膜浸透性のインビトロ決定)
ヒト強膜を通るラパマイシンの送達を実証するために、2チャンバのUssing型浸透性デバイスを使用した。強膜を試験する前に、実験デバイスのガラス壁への治療剤の損失を評価した。実験デバイスへの薬物の損失を評価するために、ブドウ膜チャンバおよび眼窩チャンバ(uveal and orbital chamber)を、平衡化塩溶液中の2μg/mLのラパマイシン溶液に曝露した。平衡化塩溶液中の2μg/mLのラパマイシン溶液に曝露したとき、少量ではあるが、デバイスへの有意なラパマイシンの損失があった。
【0166】
(経強膜ラパマイシン送達−DMSO溶液)
新鮮なドナーのヒト強膜の7mmのディスクを使用して、Ussing浸透性デバイスの2つのチャンバを隔てた。強膜の2つの側面を、外側表面を表す「眼窩」、および内側表面を表す「ブドウ膜」と表示した。DMSOおよびメタノールは、ラパマイシンを容易に溶解するが、ラパマイシンは、水性溶液には溶けにくい。従って、強膜貯蔵送達システムをおおよそ複製するために、疎水性の治療剤溶剤を、平衡化塩溶液(BSS)中5%の濃度まで希釈し、ラパマイシンの希釈が、おおまかに眼窩チャンバ溶液1mlあたり100μgになるようにした。この実施例において、眼窩表面側のチャンバは、BSS中5% DMSOに100μg/mlの予測濃度で溶解された200μlのラパマイシンのレザバを含んだ。50μlのブドウ膜チャンバを、連続して毎分0.0075mlで潅流し、サンプルを4時間ごとに、Eppendorfチューブ内に分取器(fractionater)により回収した。この実験を、36時間行った。
【0167】
ブドウ膜チャンバ内のラパマイシン濃度の時間プロフィールを、図3に示す(四角)。ブドウ膜チャンバ内のピーク濃度は、t=8〜12時間で、250ng/mlであった。強膜のブドウ膜側に蓄積されたラパマイシンの総量を、図4に時間の関数として示す(菱形)。ブドウ膜チャンバから回収された総ラパマイシンは、36時間で2.67μgであった。この強膜は、実験の終わりに、0.57μgのラパマイシンを保持していることが分かった。
【0168】
これらの結果は、ラパマイシンが、治療効果を有すためにかなり十分な量で強膜を通過することを実証した。ブドウ膜チャンバ内のピーク濃度(250ng/ml)において、ラパマイシンは、硝子体に完全に溶解する。眼窩チャンバ内の治療剤の量は減少していったので、最も高いフラックスにより定常状態を見積もった。このデータに基づいて最も高いフラックスは、9.35μg/mm/日であった。浸透係数(K)を、以下のように計算した:
【0169】
【数1】

ΔCは、間隔t(1440秒)にわたって生じる、ブドウ膜チャンバ内の化合物の濃度の増加(0.250μg/ml)を表す。Vは、チャンバの容量(1.8ml)である。Aは、組織の曝露面積(0.385cm)を表す。Cは、眼窩チャンバ内の化合物の初期濃度(92μg/ml)である。この様式で計算すると、浸透係数Kは、cm/sの次元を有する。従って、KTRANSは、所定の溶質が組織を横断する速度を表す(Dale GeroskiおよびHank Edelhauserによる、Advanced Therapeutic agent Delivery Reviews 52(2001)37〜48(その全体が本明細書中に参考として援用される))。この実験について、KTRANSは、およそ8.82×10−6cm/秒であり、これは、MWに基づく予測のオーダーであった。比較して、ラパマイシンよりも小さなデキサメタゾンのKTRANSを評価し、より低い溶解度に調節する場合、ラパマイシンについての数字もまた、適切な予測範囲内である。ラパマイシンの外部濃度が上昇するにつれて、フラックスが増加することが期待される。この実施例のエキソビボ条件の下では、ラパマイシンは、硝子体に対して、1桁のμg/日で送達され得る。このような速度は、治療剤の局所組織レベル(therapeutic local tissue level)と矛盾がなく、ラパマイシンが、硝子体網膜疾患のために後区に経強膜送達するための、実行可能な治療剤であることを支持する。
【0170】
(経強膜ラパマイシン送達−メタノール溶液)
ラパマイシンをBSS中5%のメタノールに溶解したことを除いては、上記の手順に従った。ブドウ膜チャンバ内のラパマイシン濃度の時間プロフィールを、図3に示す(丸)。ブドウ膜チャンバ内のピーク濃度は、t=12〜16時間において、271ng/mlであった。強膜のブドウ膜側に蓄積されたラパマイシンの総量を、図4に時間の関数として示す(四角)。ブドウ膜チャンバから回収された総ラパマイシンは、36時間で3.44μgであった。この強膜は、実験の終わりに、0.41μgを保持していることが分かった。
【0171】
これらの結果に基づいて、9.56×10−6cm/秒のKTRANSを算出した。実施例9bと同じように、この速度は、治療剤の局所組織レベルと矛盾がなく、ラパマイシンが、硝子体網膜疾患のために後区に経強膜送達するための、実行可能な治療剤であることを支持する。
【0172】
本明細書中で引用された全ての参考文献(特許、特許出願および刊行物を含む)は、ここまでに具体的に援用されていようとそうでなかろうと、その全体が参考として本明細書により援用される。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】図1は、脈絡膜血管新生を予防するためのラパマイシンの眼周囲注射の有効性を示す。
【図2】図2は、ラパマイシンを眼周囲注射した際の脈絡膜血管新生の軽減を示す。
【図3】図3は、時間の関数としてのラパマイシンの経強膜透過性を示す。
【図4】図4は、時間の関数としてのラパマイシンの経強膜蓄積を示す。
【図5】図5は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図6】図6は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの遅延放出型送達システムを示す。
【図7】図7は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図8】図8は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図9】図9は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図10】図10は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図11】図11は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図12】図12は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図13】図13は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図14】図14は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図15】図15は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。
【図16】図16は、本明細書で記載される方法において使用され得る1つの送達システムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける湿性加齢性黄斑変性を処置するための方法であって、該方法は、湿性加齢性黄斑変性を処置するために有効なラパマイシンの一定量を、該ヒトの眼に経強膜投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記眼が、外側強膜表面を有する強膜を有し、ラパマイシンが、該外側強膜表面の近くにラパマイシン含有送達システム(rapamycin containing delivery system)を配置することによって、経強膜投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ラパマイシン含有送達システムが、固形ラパマイシンコアを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ラパマイシン含有送達システムが、ラパマイシンに対して実質的に不浸透性の裏打ち部分をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ラパマイシン含有送達システムが、ラパマイシンの粒子の懸濁液を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ラパマイシンの粒子が、約50μm未満の平均直径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ラパマイシン含有送達システムが、ポリマー移植物中に分散されたラパマイシンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー移植物が、生分解性ポリマー移植物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー移植物が、非生分解性ポリマー移植物である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー移植物が、ラパマイシン不浸透性裏打ちをさらに含む、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー移植物が、縫合糸のような形状である、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記縫合糸が、約10cm未満の長さおよび約2mm未満の直径を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマー移植物が、コイル状の繊維のような形状である、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記コイル状の繊維が、約5cm未満の長さおよび約1mm未満の直径を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマー移植物が、ディスクのような形状である、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマー移植物が、前記眼の外側強膜表面上に配置するための強膜表面部分を有し、そして、該強膜表面部分は、ラパマイシンが通って、該外側強膜表面に送達される、約0.5cm未満の領域を有する、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマー移植物が、前記眼の外側強膜表面上に配置するための強膜表面部分を有し、そして、該強膜表面部分が、生体接着層を含む、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリマー移植物が、多数の突出部を含む強膜表面部分を有し、それによって、該ポリマー移植物の該強膜表面部分が、前記眼の外側強膜表面に該ポリマー移植物を係留する、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリマー移植物が、コーティング剤でコーティングされたラパマイシン含有部分を含み、該コーティング剤中のラパマイシンの濃度は、該ラパマイシン含有部分中のラパマイシンの濃度よりも低い、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング剤中のラパマイシンの濃度は、該コーティング剤からのラパマイシンの放出が、ラパマイシンの創傷治癒阻害量を送達しないようなものである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ラパマイシン含有送達システムが、溶媒中に溶解されたラパマイシンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記ラパマイシン含有送達システムが、長期間にわたって湿性加齢性黄斑変性を処置するための有効量を維持するのに十分な量で、ラパマイシンを経強膜送達する、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記ラパマイシン含有送達システムが、少なくとも約3週間にわたって、湿性加齢性黄斑変性を処置するために十分な量で、ラパマイシンを経強膜送達する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
被験体の眼内の新脈管形成を処置、阻害または防止するための方法であって、該方法は、該眼に、新脈管形成を処置、阻害または防止するために有効な治療剤の一定量を経強膜投与する工程を包含する、方法。
【請求項25】
前記新脈管形成が、脈絡膜新生血管形成である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記被験体が黄斑変性の素因を有する、請求項24に記載の方法であって、該方法は、該被験体の眼内の新脈管形成の開始を防止または遅延する、方法。
【請求項27】
前記被験体が黄斑変性を罹患している、請求項24に記載の方法であって、該方法は、該被験体の眼内の新脈管形成を処置もしくは阻害するか、または該新脈管形成の退行を引き起こす、方法。
【請求項28】
前記黄斑変性が、加齢性黄斑変性である、請求項26または請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記加齢性黄斑変性が、湿性加齢性黄斑変性である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記治療剤が、イムノフィリン結合化合物である、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記化合物が、リムス(limus)ファミリーの化合物から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記化合物が、ラパマイシン、SDZ−RAD、タクロリムス、エベロリムス(everolimus)、ピメクロリムス(pimecrolimus)、CCI−779、AP23841、ABT−578、ならびにこれらのアナログ、塩およびエステルからなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記眼が、外側強膜表面を有する強膜を有し、前記治療剤が、該外側強膜表面の近くに治療剤含有送達システムを配置することによって経強膜投与される、請求項24に記載の方法。
【請求項34】
前記治療剤含有送達システムが、固形治療剤コアを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記治療剤含有送達システムが、治療剤に対して実質的に不浸透性の裏打ち部分をさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記治療剤含有送達システムが、治療剤の粒子の懸濁液を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記治療剤の粒子が、約50μm未満の平均直径を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記治療剤含有送達システムが、ポリマー移植物中に分散された治療剤を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記ポリマー移植物が、生分解性ポリマー移植物である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ポリマー移植物が、非生分解性ポリマー移植物である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記ポリマー移植物が、治療剤不浸透性裏打ちをさらに含む、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記ポリマー移植物が、縫合糸のような形状である、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記縫合糸が、約10cm未満の長さおよび約0.2mm未満の幅を有する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記ポリマー移植物が、コイル状の繊維のような形状である、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記コイル状の繊維が、約5cm未満の長さおよび約1mm未満の幅を有する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ポリマー移植物が、ディスクのような形状である、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記ポリマー移植物が、前記眼の外側強膜表面上に配置するための強膜表面部分を有し、そして、該強膜表面部分は、ラパマイシンが通って、該外側強膜表面に送達される、約0.5cm未満の領域を有する、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項48】
前記ポリマー移植物が、前記眼の外側強膜表面上に配置するための強膜表面部分を有し、そして、該強膜表面部分が、生体接着層を含む、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項49】
前記ポリマー移植物が、多数の突出部を含む強膜表面部分を有し、それによって、該ポリマー移植物の該強膜表面部分が、前記眼の外側強膜表面に該ポリマー移植物を係留する、請求項39または請求項40に記載の方法。
【請求項50】
前記ポリマー移植物が、コーティング剤でコーティングされた治療剤含有部分を含み、該コーティング剤中の治療剤の濃度は、該治療剤含有部分中の治療剤の濃度よりも低い、請求項38または請求項39に記載の方法。
【請求項51】
前記コーティング剤が、治療剤を実質的に含まない、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記治療剤含有送達システムが、溶媒中に溶解された治療剤を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項53】
前記治療剤含有送達システムが、長期間にわたって新脈管形成を処置、阻害または防止するための有効量を維持するのに十分な量で、該治療剤を経強膜送達する、請求項33に記載の方法。
【請求項54】
前記治療剤含有送達システムが、少なくとも約3週間にわたって、新脈管形成を処置、阻害または防止するための有効量を維持するのに十分な量で、該治療剤を経強膜送達する、請求項33に記載の方法。
【請求項55】
前記被験体が哺乳動物である、請求項24に記載の方法。
【請求項56】
前記被験体がヒト被験体である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
ヒトの眼の後区にラパマイシンを送達するための、経強膜ラパマイシン薬物送達システムであって、該システムは、ラパマイシンを含有するポリマー移植物を含み、該薬物送達システムは、ヒトの眼の外側強膜表面の近くに配置される場合、ヒトにおける脈絡膜新生血管形成を処置、予防もしくは阻害するか、または該脈絡膜新生血管形成の開始を遅延させるか、または該脈絡膜新生血管形成の退行を引き起こすために有効なラパマイシンの一定量を経強膜送達する、システム。
【請求項58】
前記薬物送達システムが、ヒトにおける脈絡膜新生血管形成を処置するために有効なラパマイシンの一定量を送達する、請求項57に記載の薬物送達システム。
【請求項59】
前記薬物送達システムが、ヒトにおける脈絡膜新生血管形成を予防するために有効なラパマイシンの一定量を送達する、請求項57に記載の薬物送達システム。
【請求項60】
前記薬物送達システムが、ヒトにおける脈絡膜新生血管形成を阻害するために有効なラパマイシンの一定量を送達する、請求項57に記載の薬物送達システム。
【請求項61】
前記薬物送達システムが、ヒトにおける脈絡膜新生血管形成の退行を引き起こすために有効なラパマイシンの一定量を送達する、請求項57に記載の薬物送達システム。
【請求項62】
前記ポリマー移植物が、前記眼の外側強膜表面に配置するための強膜表面部分を有し、そして、該強膜表面部分は、ラパマイシンが通って、該外側強膜表面に送達される、約0.5cm未満の領域を有する、請求項58〜61のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項63】
前記薬物送達システムが、約20μg/ml以下の、前記外側強膜表面におけるラパマイシンの濃度を維持する、請求項58〜61のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項64】
前記薬物送達システムが、約5μg/ml以下の、前記外側強膜表面におけるラパマイシンの濃度を維持する、請求項63に記載の薬物送達システム。
【請求項65】
前記薬物送達システムが、約5μg/日以下の量のラパマイシンを、前記後区に送達する、請求項58〜61のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項66】
前記薬物送達システムが、約1μg/日以下の量のラパマイシンを、前記後区に送達する、請求項65に記載の薬物送達システム。
【請求項67】
前記ラパマイシン含有送達システムが、約20μg/ml以下の、前記外側強膜表面におけるラパマイシンの濃度を維持する、請求項2に記載の方法。
【請求項68】
前記ラパマイシン含有送達システムが、約5μg/ml以下の、前記外側強膜表面におけるラパマイシンの濃度を維持する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記ヒトの眼が後区を有し、そして、前記ラパマイシン含有送達システムが、約5μg/日以下の量のラパマイシンを、該後区に送達する、請求項2に記載の方法。
【請求項70】
前記ラパマイシン含有送達システムが、約1μg/日以下の量のラパマイシンを、前記後区に送達する、請求項69に記載の薬物送達システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【公表番号】特表2007−505932(P2007−505932A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527146(P2006−527146)
【出願日】平成16年9月20日(2004.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/031025
【国際公開番号】WO2005/027906
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506092846)マクサイト, インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】