説明

経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法

【課題】 経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、特別な装置、ろ過や中和および溶剤希釈を必要とすることなく効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】酸性の白金系触媒の存在下で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンとのヒドロシリル化反応により合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、低級アルコールにより処理して低沸点臭気原因物質を生成させた後、該低沸点臭気原因物質を除去することを特徴とする、経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ケイ素原子結合水素原子含有オルガノハイドロジェンシロキサンとアリルエーテル基含有ポリオキシアルキレンとを白金系金属触媒の存在下でヒドロシリル化反応させて得られるポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンは、経時により悪臭が発生するという問題点があった。これはヒドロシリル化反応中に、アリルエーテル基含有ポリオキシアルキレンの末端二重結合の内部転移が起こり、異性体であるプロペニルエーテル基含有ポリオキシアルキレンが副生して、これが空気中の水分やわずかな酸の存在により徐々に加水分解して、悪臭の原因であるプロピオンアルデヒドが発生するためと考えられている。この末端二重結合の内部転移はヒドロシリル化反応と同時進行するため、たとえオルガノハイドロジェンシロキサンをポリオキシアルキレンに対して過剰量用いても、プロペニルエーテル基含有ポリオキシアルキレンの発生は避けられないものである。さらにこのようなポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを水溶液中に配合すると、臭気の問題はより一層顕著になるという問題点があった。このため、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの利用分野の一つである化粧品用途では、多量のポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを配合することが難しく、特にスキンケア化粧料やメーキャップ化粧料に配合することは極めて困難であった。
【0003】
これを解消するための脱臭方法として、例えば、ヒドロシリル化反応後に酸性物質と水を加えて強制的にプロピオンアルデヒド等の臭い物質を発生させた後、これらを除去する方法が提案されている(特公平7−91389号公報参照)。しかしこの方法は、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン中に加水分解性基が存在する場合には不適であるという欠点があった。加えて、水の添加により反応系が増粘するため、ゲル状を呈するような高粘度のポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの場合には十分な効果が得られないという欠点があった。また、ヒドロシリル化反応後に水素を添加して全ての不飽和結合を水素化する無臭化方法も提案されている(特開平7−330907号公報参照)。しかしこの方法には専用の特殊な装置が必要であるという欠点があった。また、粘度の高いポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの場合は反応効率が悪いために多量の溶剤で希釈する必要があり、その結果、生産性が低下するという欠点があった。さらには、全ての不飽和結合が水素化されるため、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンが不飽和結合を有する場合にはその有機基までもが水素化されてしまうという欠点があった。本発明者らは、これらの欠点を解消するため、ヒドシリル化反応後に濃塩酸や酸性白土などの酸性物質と低級アルコールにより処理して、低沸点臭気原因物質を生成させた後、該低沸点臭気原因物質を除去する精製方法を提案した(特開2004−189959号公報参照)。しかし、この方法ではヒドロシリル化反応後に新たに酸性物質を加えているため、酸性下で該低沸点臭気原因物質を除去して得られたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンのポリオキシアルキレン鎖が経時的に酸化され、臭気が発生するという問題があることに気付いた。このため、沸点の高い酸性物質や不揮発性の酸性物質を用いた場合には、残存する酸性物質の中和や、ろ過により当該酸性物質の除去操作が必要となり、作業時間と製造コストの増大および収率の低下を引き起こす。また、該低沸点臭気原因物質を除去して得られたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンが高粘度である場合、酸性物質の除去操作を行うために多量の溶媒で希釈して粘度を下げなければならず、環境上好ましくないという問題もある。
【0004】
【特許文献1】特公平7−91389号公報
【特許文献2】特開平7−330907号公報
【特許文献3】特開2004−189959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、特別な装置、ろ過や中和および溶剤希釈を必要とすることなく効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,上記目的を達成するために検討を重ねた結果、(A1)酸性の白金系触媒の存在下でオルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンとのヒドロシリル化反応によって合成したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを(B)低級アルコールにより処理して低沸点臭気原因物質を生成させた後、該低沸点臭気原因物質を除去することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。また、(A2)金属系ヒドロシリル化反応触媒の存在下で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンとのヒドロシリル化反応によって合成したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを(A1)酸性の白金系触媒と(B)低級アルコールにより処理して低沸点臭気原因物質を生成させた後、該低沸点臭気原因物質を除去することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。さらに、合成したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを前記の方法で処理し、低沸点臭気原因物質を除去する前または除去した後に、(C)緩衝剤を添加することによって、上記課題をさらによく解決できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る製造方法を用いると、経時で発生する悪臭が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、特別な装置、ろ過や中和および溶剤希釈を必要とすることなく効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの合成に使用されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に少なくとも1個のケイ素原子結合水素原子を含有するものであればよく、平均単位式:RSiO(4−a)/2で示される。式中、Rは水素原子および非置換もしくは置換一価炭化水素基である。非置換一価炭化水素基は具体的には、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基,デシル基,ドデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基,シクロヘキシル基などの飽和脂環式炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基が例示される。置換一価炭化水素基は非置換一価炭素原子に結合した水素原子が部分的にハロゲン原子またはエポキシ基、カルボキシル基、メタクリル基などを含む有機基で置換された基が例示される。同一分子中のRは同一でも異種でもよい。これらの中でもアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。但し、Rの50モル%以上が非置換もしくは置換炭化水素であることが好ましい。aは平均0<a≦3であるが、1≦a≦2.5が好ましい。このようなオルガノハイドロジェンシロキサンの分子構造は限定されず、直鎖状、一部分岐状を有する直鎖状、分岐鎖状、環状、樹枝状が例示され、好ましくは直鎖状である。その分子量は特に限定されず、低分子量体から高分子量体まで使用できる。具体的には、100〜100万の範囲が好ましく、300〜50万の範囲がより好ましい。直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記構造式で表されるものが代表的である。
【化1】



【化2】


【化3】



上式中、Rは非置換もしくは置換一価炭化水素基であり、具体的には、前記Rで例示したのと同様の基が挙げられる。xは0または正の整数であり、yは正の整数であり、zは0または正の整数である。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンは1種類を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0009】
末端二重結合を有するポリオキシアルキレンは、
一般式:RO(RO)a
で示されるポリオキシアルキレン化合物が挙げられる。上式中、Rはビニル基,アリル基,3−ブテニル基、ヘキセニル基などの末端二重結合を有するアルケニル基である。Rはアルキレン基であり、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が例示される。aは0または正の整数であり、1〜300であることが好ましく、1〜100がより好ましい。Rは水素原子または一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としてメチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基,デシル基,ドデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基,アリル基,3−ブテニル基,ヘキセニル基などのアルケニル基;シクロペンチル基,シクロヘキシル基などの飽和脂環式炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基および/またはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子が部分的にハロゲン原子またはエポキシ基、カルボキシル基、メタクリル基を含む有機基で置換された基が例示される。このようなポリオキシアルキレンは、下記の式で示されるポリオキシアルキレン化合物が挙げられる。
CH=CHCHO(CO)12CH
CH=CHCHO(CO)12
CH=CHCHO(CO)12(CO)12CH
CH=CHCHO(CO)12(CO)12
CH=CHCHO(CO)12CH
CH=CHCHO(CO)12
このポリオキシアルキレン化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を組合せて用いてもよい。
【0010】
(A1)酸性の白金系触媒は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンのヒドロシリル化反応の触媒として作用する。(A1)成分をヒドロシリル化反応の触媒に用いることで、(A1)成分はポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン中に残存し、酸性物質として作用するため、(B)低級アルコールにより処理するだけで低沸点臭気原因物質を生成させることができるという利点がある。このような(A1)成分は塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸,塩化白金酸のオレフィン錯体,塩化白金酸とケトン類との錯体,塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、四塩化白金が挙げられる。塩化白金酸が特に好ましい。その添加量は触媒量であり特に限定されないが、上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとポリオキシアルキレンの合計量に対して白金金属量が0.1〜1,000ppm(重量)となるような量が好ましく、0.5〜100ppm(重量)となる量がより好ましい。このヒドロシリル化反応は無溶媒でも進行するが、必要に応じて有機溶剤を用いてもよい。使用される有機溶剤は、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジオキサン、THF等のエーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、塩素化炭化水素系溶剤が挙げられる。反応温度は、通常、50〜150℃である。
【0011】
(A2)金属系ヒドロシリル化反応触媒を用いてオルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンのヒドロシリル化反応により合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを(A1)成分と(B)低級アルコールにより処理してもよい。その添加量は触媒量であり特に限定されないが、上記ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンに対して白金金属量が0.1〜1,000ppm(重量)となるような量が好ましく、0.5〜100ppm(重量)となる量がより好ましい。
【0012】
(A2)金属系ヒドロシリル化反応触媒は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンのヒドロシリル化反応を触媒する。具体的には、白金微粉末、アルミナまたはシリカの担体に固体状白金を担持させたもの、白金黒、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末の白金系触媒;式:[Rh(O2CCH3)2]2、Rh(O2CCH3)3、Rh2(C8152)4、Rh(C572)3、Rh(C572)(CO)2、Rh(CO)[Ph3P](C572)、RhX3[(R)2S]3、(R3P)2Rh(CO)X、(R3P)2Rh(CO)H、Rh224、HaRhb(E)cCld、またはRh[O(CO)R]3-n(OH)nで表されるロジウム系触媒(式中、Xは水素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、Yはアルキル基、CO、C814であり、Rはアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基であり、Rはアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、またはアリールオキシ基であり、Eはオレフィンであり、aは0または1であり、bは1または2であり、cは1〜4の整数であり、dは2、3、または4であり、nは0または1である。);式:Ir(OOCCH3)3、Ir(C572)3、[Ir(Z)(E)2]2、または[Ir(Z)(Dien)]2で表されるイリジウム系触媒(式中、Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、またはアルコキシ基であり、Eはオレフィンであり、Dienはシクロオクタジエンである。)が例示される。
【0013】
(B)低級アルコールは本発明の特徴となる成分であり、上記ヒドロシリル化反応時に副生した内部二重結合を有するポリオキシアルキレンと反応して、低沸点臭気原因物質を形成する。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールが例示される。これらの中でも,安全性の点からエタノールが好ましい。また、これらの低級アルコールは1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。また、その配合量は特に限定されないが、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンに対して0.1〜200重量%の範囲であることが好ましく、1〜100重量%がより好ましい。
【0014】
(A1)酸性の白金系触媒と(B)低級アルコールによる処理方法は、(A1)成分を上記ヒドロシリル化反応の触媒に用いて合成したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン中に(B)成分のみを添加して放置または加熱する、もしくは(A2)金属系ヒドロシリル化反応触媒を用いて合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン中に、触媒量の(A1)成分および(B)成分を添加して放置または加熱する方法が挙げられる。
【0015】
(A1)成分を上記ヒドロシリル化反応の触媒に用いた場合には、合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン中に(B)成分のみを添加して放置または加熱するだけであり、処理操作が極めて簡便であるという利点がある。ここで、加熱温度は、使用した低級アルコールの沸点以下の温度または低級アルコールが還流する温度が好ましい。処理時間は、使用した塩化白金酸や低級アルコールの量または反応温度によって異なるが、30分〜5時間であることが好ましい。また処理時は、無溶媒でもよく溶媒を使用してもよい。溶媒は、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系;ジオキサン、THF等のエーテル系;脂肪族炭化水素系;エステル系;ケトン系;塩素化炭化水素系や、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等の環状シロキサンが挙げられる。本発明では、塩化白金酸と低級アルコールを併用することにより、ヒドロシリル化反応時に副生したプロペニルエーテル基含有ポリオキシアルキレンのような内部二重結合を有するポリオキシアルキレンの分解反応が速やかに進行して、ジアルコキシプロパンのような低沸点の臭い物質(低分子量アセタール化合物)が生成する。本発明の反応過程の一例を下式に示す。
【化4】

【0016】
次いで、上記分解反応により生成した低沸点臭気原因物質を除去する。除去方法は、常圧下あるいは減圧下におけるストリッピングが好ましく、120℃以下で行うことが好ましい。効率よくストリッピングするためには、減圧下において行うか、例えば窒素ガスのような不活性ガス下において行うことが好ましい。
【0017】
前記の(A1)成分と(B)成分によるポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの処理および生成した低沸点臭気原因物質をストリッピングによって除去する操作は、複数回連続して行うこともできる。
【0018】
(A2)金属系ヒドロシリル化反応触媒を用いて合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを処理する場合、触媒量の(A1)成分を(B)成分と共に添加する他は、前記(A1)成分をヒドロシリル化反応触媒に用いて合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンと全く同様の処理方法によって処理することができる。
【0019】
(C)緩衝剤は、合成したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを安定化させるため添加することが好ましい。(C)成分は、(A1)成分と(B)成分によるポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの処理を行った後にポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンに添加することが好ましいが、低沸点臭気原因物質をストリッピングによって除去する前後のいずれであってもよい。また、その添加量は特に限定されないが、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンに対して0.01〜100重量%の範囲であることが好ましく、0.05〜50重量%がより好ましい。かかる緩衝剤は水に溶解したときのpHが5.5〜8の値を示すものであり、クエン酸ナトリウム,クエン酸カリウム,酢酸ナトリウム,酢酸カリウム,リン酸ナトリウム,リン酸カリウム,ホウ酸ナトリウム,ホウ酸カリウムが例示される。これらの中でも酢酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
以上のような本発明の製造方法によれば、ヒドロシリル化反応時に副生した内部二重結合を有するポリオキシアルキレンが速やかに分解して、低沸点臭気原因物質のアセタール化合物が副生するが、このアセタール化合物は揮発しやすく、通常のストリッピング設備を用いて除去できるため、特別な装置を必要とすることなく、経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを効率的に製造することができるという特徴を有する。ろ過、中和および溶剤希釈も必要ではない。これにより臭いの原因となる物質が除去されるため、本発明の方法で製造したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンは臭気が著しく低下し、特に水または水溶液中に配合した場合にも臭気の発生が極めて少ないという特徴を有する。本発明の製造方法では水を添加する必要はなく、低分子量から高分子量の経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを効率よく製造できるという利点を有する。さらに、ヒドロシリル化反応用に金属系触媒として(A1)成分を使用した場合には再度(A1)成分を加える必要がないため、より簡便に製造することができる。このような本発明の製造方法は、化粧品分野に使用されるポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造に極めて有用である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の製造方法を実施例により詳細に説明する。なお、参考例において使用したメチルハイドロジェンポリシロキサンは、常法の平衡化反応により製造したものである。実施例と比較例において得られたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンについて、水溶液中に配合した際の臭気および残存プロペニル基とアセタール化合物の合計量を、以下の方法により測定した。その結果を表1に示した。

○水溶液中に配合した時の臭気
30mlガラス製サンプル瓶に、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン1gと10−4規定の塩酸1gを加えて密栓し、50℃で24時間放置した後の臭気を嗅いだ。
○:臭気は全く感じられなかった。
△:若干の臭気が感じられた。
×:明らかに臭気が認められた。

○残存プロペニル基とアセタール化合物の合計量
ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、13C−NMR(日本電子(株)製JNM−EX400;重ベンゼン希釈)により分析した。プロペニル基に帰属するシグナル(化学シフト9〜14、97〜101、145〜148)と、アセタール化合物由来のプロピル基に帰属するシグナル(化学シフト8〜10、25〜29、100〜107)を積分してそれぞれの平均値を求めた。また、全体のシグナルに対する上記シグナルの強度比を求めた。これらの値から、プロペニル基とアセタール化合物由来のプロピル基の合計量を算出した。
【0022】
[参考例1]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、
式:
【化5】

で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサンと、
式:CH=CHCHO(CO)12CH
で表されるアリルエーテル基含有ポリオキシエチレンを、ケイ素原子結合水素原子とアリル基との当量比が1:1.2になるような比率で混合した。次いで、塩化白金酸(反応原料の合計重量に対して7ppmになる量)を加えて80℃で5時間攪拌して、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンを調製した(ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.1)。
【0023】
[参考例2]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、
式:
【化6】


で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサンと、
式:CH=CHCHO(CO)19(CO)19CH
で表されるアリルエーテル基含有ポリオキシエチレンを、ケイ素原子結合水素原子とアリル基との当量比が1:1になるような比率で混合した。次いで、30重量部のデカメチルシクロペンタシロキサンで希釈した後、塩化白金酸(反応原料の合計重量に対して7ppmになる量)を加えて80℃において5時間攪拌して、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンを調製した(ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.2)。
【0024】
[参考例3]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、
式:
【化7】


で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサンと、
式:CH=CHCHO(CO)11
で表されるアリルエーテル基含有ポリオキシエチレンを、ケイ素原子結合水素原子とアリル基との当量比が1:1.2になるような比率で混合した。次いで、白金と1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体(白金金属量が反応原料の合計重量に対して4ppmになる量)を加えて80℃において5時間攪拌して、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンを調製した(ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.3)
【0025】
[実施例1]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例1で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.1)100.0gに、エタノール15gを加えて70℃において1時間攪拌した。次いで、酢酸ナトリウム30mgを加えた後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.4が得られた。
【0026】
[実施例2]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例1で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.1)100.0gに、イソプロピルアルコール30.0gを加えて80℃において1時間攪拌した後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、さらにイソプロピルアルコール30.0gを加えて80℃において1時間攪拌した。次いで、酢酸ナトリウム30mgを加えた後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.5が得られた。
【0027】
[比較例1]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例1で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.1)100.0gに酢酸ナトリウム30mgを加えた後、70℃においてロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.6が得られた。
【0028】
[実施例3]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例2で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.2)130.0gに、エタノール15.0gを加えて70℃で1時間攪拌した。次いで、酢酸ナトリウム30mgを加えた後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.8が得られた。
【0029】
[比較例2]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例2で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.2)130.0gを90℃に加熱した後、10−3Nの塩酸水溶液10gを加え、4時間攪拌した。次いで、70℃において、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.9が得られた。
【0030】
[実施例4]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例3で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.3)100.0gに、塩化白金酸7mgとエタノール15gを加えて60℃において1時間攪拌した後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行った。次いで、エタノール15gを加えて60℃において1時間攪拌し、酢酸ナトリウム30mgを加えた後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.10が得られた。
【0031】
[比較例3]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例3で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.3)100.0gを70℃に加熱した後、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.11が得られた。
【0032】
[比較例4]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例3で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.3)100.0gに、エタノール30.0gを加えて70℃において5時間攪拌した。次いで、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.12が得られた。
【0033】
[比較例5]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例3で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.3)100.0gに、メタノール15.0gと濃度35%の塩酸5.0mgを加えて70℃において1時間攪拌した後、さらにメタノール15.0gと濃度35%の塩酸5.0mgを加えて70℃において1時間攪拌した。次いで、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.12が得られた。
【0034】
[比較例6]
ステンレス製の1Lオートクレーブに参考例3で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.3) 500.0g、イソプロピルアルコール150gおよびラネーニッケル25gを加え、水素で内部を置換した後、水素圧を690kPaまで加圧した。攪拌しながら、100℃まで除々に温度を上げ、6時間同温度で反応させた後、冷却した。窒素圧下でろ過を行い、70℃でロータリーポンプで30mmHgまで減圧にして、低分子量臭気成分を留去して精製することによりポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン組成物No.13を得た。
【0035】
[比較例7]
温度計および攪拌機を備えた300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、参考例3で調製したポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサン(No.3)100.0gを90℃に加熱した後、10−3Nの塩酸水溶液10gを加え、4時間攪拌した。次いで、70℃において、ロータリーポンプを用いて30mmHgまで減圧にして、ストリッピングを行い、ポリオキシエチレン変性メチルポリシロキサンNo.14が得られた。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法は、経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを効率的に製造するのに有用である。本発明の製造方法により製造された臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンは、化粧品、皮膚洗浄剤、塗料、コーティング剤、消泡剤、封止剤、インキ、防曇剤、およびシリコーンコンパウンドの原料として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)酸性の白金系触媒の存在下でオルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンとのヒドロシリル化反応により合成したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、(A1)成分の残存下で(B)低級アルコールにより処理して低沸点臭気原因物質を生成させた後、該低沸点臭気原因物質を除去することを特徴とする、経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項2】
(A2)金属系ヒドロシリル化反応触媒の存在下で、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと末端二重結合を有するポリオキシアルキレンとのヒドロシリル化反応により合成されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンを、(A1)酸性の白金系触媒と(B)低級アルコールにより処理して低沸点臭気原因物質を生成させた後、該低沸点臭気原因物質を除去することを特徴とする、経時による臭気の発生が極めて少ないポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項3】
(A1)成分が塩化白金酸であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項4】
(B)成分がエチルアルコールであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項5】
低沸点臭気原因物質を除去する前または除去した後に、(C)緩衝剤を添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項6】
(C)成分が酢酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項5に記載されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項7】
処理が加熱処理であることを特徴とする、請求項1、請求項2または請求項5に記載されたポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの製造方法。



【公開番号】特開2006−160887(P2006−160887A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354414(P2004−354414)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】