説明

経時的安定性に優れたアカルボース含有錠剤

【課題】密閉容器内部の酸素を除去することなく、経時的に錠剤表面の変色が少ないアカルボース含有錠剤を提供することを目的とする。
【解決手段】乾式下で製剤化したアカルボース含有裸錠に対し、水溶性高分子を含むフィルムコーティング組成物を有機溶媒を用いてフィルムコーティングすることを特徴とする。
また、乾式下で製剤化したアカルボース含有裸錠に対し、水溶性高分子を含むフィルムコーティング層を2層以上施し、少なくとも裸錠側の第1層目を有機溶媒を用いてフィルムコーティングすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアカルボースを有効成分として含有する保存安定性に優れた錠剤組成に関する。
【背景技術】
【0002】
アカルボースは、放射菌の一種Actinoplanes属のアミノ糖産生菌の培養液から分離・精製される物質であり、ヒトの腸管内で炭水化物の消化・吸収に関与するα―アミラーゼ及びα―グルコシダーゼ(スクラーゼ、マルターゼ等)の活性を阻害し、糖質の消化吸収を遅延させて食後の血糖上昇を抑制する作用を有しており、経口糖尿病治療薬として広く使用されている。
アカルボースは吸湿性が強く、水分含量がアカルボース含有製剤の貯蔵安定性に大きく影響を及ぼすことが知られ、保管状態によっては変色や硬度低下をきたすことが報告されている。
特公平7−39340号公報には、アカルボースを含有する錠剤の水分含有量が約6重量%を超えると、温度60℃、6週間の保存中にアカルボースの含量が低下し、変色をきたすことが記載されている。
また、「錠剤・カプセル剤の無包装状態での安定性情報 改訂3版」(医薬ジャーナル社)には、アカルボースを含有する錠剤を25℃、湿度75%の条件下で1週間保存した結果、成分含量に変化はないが、外観の変化(褐色化)が認められたことが報告されている。
このことから、アカルボース含有錠剤を保存するに当たっては、乾燥状態を保つことが必要とされ、PTP包装(材質はポリ塩化ビニルまたはポリプロピレン)に、さらにアルミニウムラミネートフィルムで密封包装するなどの借置がとられている。
また、長期間の保存安定性を確保することを目的として、特開平10−182687号公報には、耐湿条件下で且つ実質的に酸素を含まない雰囲気中に保存することで、アカルボース又はアカルボース含有製剤の変色を防止できることが開示されている。
具体的には、金属製容器、ガラスボトル、アルミニウムラミネートフィルム製の袋など実質的に気体不透過性の耐湿容器内部の空気を窒素ガス、炭酸ガス等の酸素を実質的に含まない不活性ガスと置換するか又は真空にするか、該容器内の空気から酸素を実質的に除去する等の方法が取られる。このなかで最も簡便な方法は、該容器内に脱酸素剤を入れて密封する方法である。
しかしながら、アルミニウムラミネートフィルムにて耐湿包装する方法では保存安定性が不十分であり、また、密閉容器内部を実質的に酸素を除去する方法は包装作業において脱酸素剤を入れる作業が必要となり、製造工程が煩雑になりコストアップの要因ともなる。
【0003】
【特許文献1】特公平7−39340号公報
【特許文献2】特開平10−182687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のごとく密閉容器内部の酸素を除去することなく、経時的に錠剤表面の変色が少ないアカルボース含有錠剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るアカルボース含有錠剤は、乾式下で製剤化したアカルボース含有裸錠に対し、水溶性高分子を含むフィルムコーティング組成物を有機溶媒を用いてフィルムコーティングすることを特徴とする。
また、フィルムコーティング層を2層以上にする場合には、乾式下で製剤化したアカルボース含有裸錠に対し、水溶性高分子を含むフィルムコーティング層を2層以上施し、少なくとも裸錠側の第1層目を有機溶媒を用いてフィルムコーティングすることを特徴とする。
ここで、乾式下で製剤化したとは、直接圧縮法(直接打錠法)又は乾式造粒法等をいい、湿式下でないことをいう。
【0006】
水溶性のフィルムコーティング層中に含まれる成分としては、水溶性高分子の他にステアリン酸、マクロゴール6000などのマクロゴール類、必要に応じてタルクや酸化チタン、色素など通常フィルムコーティング層に配合できる成分を添加することができる。
ステアリン酸は、コーティングフィルムの透湿性を抑制する作用があり、マクロゴール類は、コーティングフィルムに可塑性を付与する。
水溶性高分子としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート(商品名:AEA)、フマル酸・ステアリン酸・ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート・ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910混合物等が例として挙げられる。
また、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEなどの有機溶媒に溶解するものを水溶性高分子と混合して用いることもできる。
特に好ましいものとしては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。
コーティング時に用いる溶媒は水溶性高分子が溶解するものを用いることが望ましい。具体的には、エタノール、メタノール、アセトン、アルコール・塩化メチレンの混合溶媒、アルコール・水の混液などが挙げられる。
フィルムコーティング量は保存安定性を確保するため重要であり、アカルボース含有裸錠に対し、3重量%以上であることが望ましい。
また、上限は主薬の溶出速度を考慮して設定される。
【0007】
また、フィルムコーティング層を2層以上施す場合は、裸錠側の第1層目のフィルム層形成の際には、有機溶媒を用い、2層目以降は水を溶媒として用いることができる。これにより、コーティング工程で必要とされる有機溶媒の量を削減でき、製造コストを抑えることができる。
第1層目のコーティング量は、第2層目のコーティング溶媒である精製水がスプレー中に裸錠に接することを防止できる量とすることが重要であり、裸錠の単位表面積当たり、3〜15μg/mm程度が望ましい(例えば、直径7mm、厚み3.38mmの裸錠の場合には約0.5mg〜2.0mg)。
3μg/mm未満では、第2層目での精製水の透湿を抑えるのが弱くなり、15μg/mmを超えると主薬アカルボースの溶出速度が遅くなるからである。
通常フィルムコーティング層中に配合できる成分を所望により添加することができ、たとえば、ステアリン酸、タルク、酸化チタン、マクロゴール類の可塑剤、含水二酸化ケイ素、グリセリン脂肪酸エステル、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、酸化マグネシウム、ジメチルポリシロキサン(内服用)、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸トリエチル、ステアリルアルコール、ステアリン酸マグネシウム、セタノール、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、トリアセチン、濃グリセリン、プロピレングリコール、ポリソルベート80、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、が挙げられる。
本発明において使用できる製造機器は通常の造粒機、打錠機、錠剤コーティング機を用いることができる。アカルボース含有錠剤を得るために使用する造粒機としては、たとえば乾式造粒機ローラーコンパクター(フロイント産業製)、打錠機として小型水洗真空打錠機(菊水製作所製)、錠剤コーティング機としてハイコーター(フロイント産業製)などが挙げられる。
【0008】
アカルボースは前述したとおり吸湿性があり、水分を吸収して経時的に変化する特性があるので、裸錠を製する際には水分含有量の少ない添加剤を用い、作業環境も低湿度下で作業することがより望ましい。
【発明の効果】
【0009】
アカルボース含有錠剤の長期保存安定性を確保するために、従来は、密閉容器中に脱酸素剤を入れる必要性があったが、本発明によりこれら煩雑な作業を行うことなく同等な長期安定性を確保した錠剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(裸錠の製造例1)
アカルボース50部、D-マンニトール(商品名:ペアリトールSD200、roquetee製)43.25部、結晶セルロース(商品名:アビセルPH102、旭化成ケミカルズ製)30部、クロスカルメロースナトリウム(商品名:Ac-Di-sol、FMC製)10部を混合し、さらに軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダ101、フロイント産業製)0.25部、ステアリン酸マグネシウム(商品名:ステアリン酸マグネシウム-S、日本油脂製)1.5部を混合後、ロータリー打錠機にて1錠135mgの裸錠(直径7mm、厚み3.38mm)を得た。
【実施例1】
【0011】
製造例1の裸錠135部に対し、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-L、日本曹達製)0.8部、ステアリン酸(商品名:ステアリン酸、日本油脂製)0.2部をエタノール32部に溶解させたコーティング液を、錠剤コーティング装置を用いてスプレーし、水溶性フィルム層第1層を設けた。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名:TC-5RW、信越化学製)3.5部、マクロゴール6000(商品名:PEG6000P、日本油脂製)0.5部、酸化チタン(商品名:A-100、石原産業製)0.6部、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)0.4部、を精製水70部に溶解・分散させたコーティング液を、錠剤コーティング機を用いてスプレーし、水溶性フィルムコーティング第2層を施し、1錠141mgのフィルムコーティング錠とした。
【実施例2】
【0012】
製造例1の裸錠135部に対し、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-L、日本曹達製)1.6部、ステアリン酸(商品名:ステアリン酸、日本油脂製)0.4部をエタノール64部に溶解させたコーティング液を、錠剤コーティング装置を用いてスプレーし、水溶性フィルム層第1層を設けた。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名:TC-5RW、信越化学製)3.5部、マクロゴール6000(商品名:PEG6000P、日本油脂製)0.5部、酸化チタン(商品名:A-100、石原産業製)0.6部、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)0.4部、を精製水70部に溶解・分散させたコーティング液を、錠剤コーティング機を用いてスプレーし、水溶性フィルムコーティング第2層を施し、1錠142mgのフィルムコーティング錠とした。
【0013】
(比較例1)
製造例1の裸錠(錠剤重量135mg)135部に対し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名:TC-5RW、信越化学製)3.5部、マクロゴール6000(商品名:PEG6000P、日本油脂製)0.5部、酸化チタン(商品名:A-100、石原産業製)0.6部、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)0.4部を精製水70部に溶解・分散させたコーティング液を、錠剤コーティング装置を用いてスプレーし、1錠140mgのフィルムコーティング錠とした。
【0014】
(裸錠の製造例2)
アカルボース50部、D-マンニトール(商品名:マンニットP、東和化成工業製)43.25部を混合し、ローラーコンパクターを用いて乾式造粒する。造粒品を解砕・篩過整粒し、結晶セルロース(商品名:アビセルPH102、旭化成ケミカルズ製)30部、クロスカルメロースナトリウム(商品名:Ac-Di-sol、FMC製)10部を混合し、さらに軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダ101、フロイント産業製)0.25部、ステアリン酸マグネシウム(商品名:ステアリン酸マグネシウム-S、日本油脂製)1.5部を混合後、ロータリー打錠機にて1錠135mgの錠剤を得た。
【実施例3】
【0015】
製造例2の裸錠135部に対し、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名:TC-5RW、信越化学製)3.5部、マクロゴール6000(商品名:PEG6000P、日本油脂製)0.5部、酸化チタン(商品名:A-100、石原産業製)0.6部、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)0.4部、をエタノール・塩化メチレン混合液(1:1)70部に溶解・分散させたコーティング液を、錠剤コーティング機を用いてスプレーし、1錠140mgのフィルムコーティング錠とした。
【実施例4】
【0016】
製造例2の裸錠(錠剤重量135mg)135部に対し、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-L、日本曹達製)0.8部、ステアリン酸(商品名:ステアリン酸、日本油脂製)0.2部をエタノール32部に溶解させたコーティング液を、錠剤コーティング装置を用いてスプレーし、水溶性フィルム層第1層を設けた。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名:TC-5RW、信越化学製)3.5部、マクロゴール6000(商品名:PEG6000P、日本油脂製)0.5部、酸化チタン(商品名:A-100、石原産業製)0.6部、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)0.4部、を精製水70部に溶解・分散させたコーティング液を、錠剤コーティング機を用いてスプレーし、水溶性フィルムコーティング第2層を施し、1錠141mgのフィルムコーティング錠とした。
【実施例5】
【0017】
製造例2の裸錠(錠剤重量135mg)135部にヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-L、日本曹達製)0.8部、マクロゴール400(商品名:マクロゴール400、三洋化成工業製)0.2部をエタノール32部に溶解させたコーティング液を、錠剤コーティング装置を用いてスプレーし、水溶性フィルム層第1層を設けた。さらにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名:TC-5RW、信越化学製)3.5部、マクロゴール6000(商品名:PEG6000P、日本油脂製)0.5部、酸化チタン(商品名:A-100、石原産業製)0.6部、タルク(商品名:タルカンハヤシ、林化成製)0.4部、を精製水70部に溶解・分散させたコーティング液を、錠剤コーティング機を用いてスプレーし、水溶性フィルムコーティング第2層を施し、1錠141mgのフィルムコーティング錠とした。
【0018】
以上の製剤処方を下記表1及び表2にまとめた。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
(実験例1)
市販錠のアカルボース含有錠剤50mg、製造例1,2の裸錠、比較例及び実施例で得た各錠剤を約60mlの密閉ガラスビンに入れ、60℃に保存した。試験開始後1週間後、2週間後、3週間後に錠剤の色調変化を色差計CM-3500d(ミノルタ製)を用いて測定した。結果を表3及び図1、図2のグラフにそれぞれ示す。
【0022】
【表3】

実験例1の結果より、市販錠50mg、裸錠(製造例1、2)及び比較例1は、3週間でΔE値が上昇し、目視評価においても錠剤表面の微黄色化が確認された。一方、実施例1〜5の錠剤は開始時と比べΔE値の上昇は小さく、錠剤表面の色調にほとんど差は認められなかった。
【0023】
(実験例2)
実施例4及び市販錠50mg各20錠を
(1)単独で(2)乾燥剤とともに(3)容器内の空気を窒素置換して、約60mlのガラスビンに密封し、60℃で保存した。試験開始1週間後、2週間後、3週間後に、錠剤の色調の変化を色差計で測定した。なお、乾燥剤としてセ゛オラム(新越化成工業製)を使用した。結果を表4及び図3のグラフにそれぞれ示す。
【0024】
【表4】

実験例2の結果より、市販錠50mgは(1)単独で、(2)乾燥剤とともに保存した場合、3週間でΔEは7以上となり、明らかな色調変化が認められた。(3)容器内の空気を窒素置換して保存した場合は、ややΔE値は減少するが、錠剤表面の色調は開始時と比べやや微黄色を呈した。一方、実施例4の錠剤はいずれの保存形態においてもΔE値は小さく、差は認められなかった。
このことから、市販錠の変色を防止するには包装容器中の酸素を除いた状態を確保する必要があるが、実施例4の錠剤は通常の密閉容器中に保管することで、変色を防止することが可能であることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】錠剤の経時的色差変化の評価結果を示す。
【図2】錠剤の経時的色差変化の評価結果を示す。
【図3】錠剤の経時的色差変化の評価結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式下で製剤化したアカルボース含有裸錠に対し、水溶性高分子を含むフィルムコーティング組成物を有機溶媒を用いてフィルムコーティングすることを特徴とするアカルボース含有錠剤。
【請求項2】
乾式下で製剤化したアカルボース含有裸錠に対し、水溶性高分子を含むフィルムコーティング層を2層以上施し、少なくとも裸錠側の第1層目を有機溶媒を用いてフィルムコーティングすることを特徴とするアカルボース含有錠剤。
【請求項3】
水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のアカルボース含有錠剤。
【請求項4】
水溶性高分子を含むフィルムコーティング層は、アカルボース含有裸錠に対し3重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアカルボース含有錠剤。
【請求項5】
フィルムコーティング層中にステアリン酸またはマクロゴール類を配合してあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアカルボース含有錠剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342126(P2006−342126A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170835(P2005−170835)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(592073695)日医工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】