説明

経鼻吸収用睡眠導入剤

【課題】睡眠導入剤或いは入眠剤としての早期薬効の発現が可能であり、かつバイオアベイラビリティの向上により投与量の減量化が期待される、経鼻吸収用睡眠導入、又は入眠剤を提供することを課題とする。
【解決手段】流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液に有効量の睡眠導入作用物質、又は入眠作用物質を添加して得られる懸濁液を噴霧しながら流動層造粒することにより、若しくは、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類及び有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液を噴霧しながら流動層造粒することにより調製されたことを特徴とする経鼻吸収用睡眠導入、又は入眠剤であり、好ましくは糖類が乳糖であり、セルロースエーテルがヒドロキシプロピルセルロースである経鼻吸収用睡眠導入、又は入眠剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物含有の微粉末からなる経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤に関する。更に詳しくは、薬物と、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることにより簡易に調製することができると共に、経鼻投与により速やかに高い最高血中濃度を示す経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠導入薬として用いられている薬物、例えばチエノトリアゾロジアゼピン系睡眠導入剤であるブロチゾラムは、錠剤又は口腔内崩壊錠として服用されている。睡眠導入薬は、その使用目的からして速やかな作用発現が合目的であるが、経口投与された場合には、胃腸管内での分解等により、生体内への吸収がされない場合があり、効果の発現にバラツキがあることが指摘されている。
したがって、生体内への吸収が確実に行われ、作用効果の発現が速やかであり、その発現にバラツキのない睡眠導入薬の製剤設計の開発が望まれている。
【0003】
ところで、経鼻投与方法は、薬物を鼻粘膜経由生体内吸収させ、循環血流に移行させる投与方法である。経鼻投与は薬物の投与が簡単であり、また、鼻粘膜には血管系が発達しているので、薬物の吸収性が、皮膚、眼粘膜、直腸粘膜等と比して優れている。さらに経鼻投与では薬物の血中への移行が速いため、注射投与と同等の即効性を期待することもできる。
【0004】
これまでの研究によれば、薬物の鼻粘膜からの吸収性は、薬物の物理的性質及び分子量等に依存し、一般的に水溶性の高い薬物、脂溶性の高い薬物は、吸収性が低いことが報告されている。
かかる点から、経鼻投与手段であって、鼻粘膜における薬物の吸収性を向上させる方法が種々提案されており、例えば、特許文献1には、セルロースエステルと薬物とからなる持続性鼻腔内投与製剤が報告されている(特許文献1)。
【0005】
この製剤は、鼻腔内投与された場合に、鼻粘膜に粘着し、その場で徐々に薬物を放出する製剤であり、薬物を鼻粘膜から吸収させてその有効量を持続的に放出させることが可能とされている。しかしながら、薬物の吸収を促進させるという機能が、必ずしも十分に備わっていないものであると考えられていた。また、投与し得る好ましい薬物としては、消炎ステロイド薬、鎮痛消炎薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー作用を有する薬物等であり、全身血への吸収性よりもむしろ、局所での薬物濃度の維持が重要な薬物であった。
【0006】
睡眠導入剤であるブロチゾラムを含む種々の薬物について、上記以外にも、いくつかの経鼻投与の検討が行われている。例えば、(1)薬物と、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水吸収性でかつゲル形成性の基剤と、結晶セルロース、α−セルロース等の水吸収性でかつ水難溶性の基剤を含み、(2)水吸収性でかつゲル形成性の基剤の量が、水吸収性でかつゲル形成性の基剤と水吸収性でかつ水難溶性の基剤の量の和の約5〜40重量%で、(3)薬物が水吸収性でかつゲル形成性の基剤よりも水吸収性でかつ水難溶性の基剤に偏在して分散している粉末状経鼻投与組成物が提案されている(特許文献2)。
【0007】
また、薬物と、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水吸収性でかつゲル形成性の基剤と、結晶セルロース、αーセルロース等の水吸収性でかつ水難溶性の基剤を含む粉末状経鼻投与組成物(特許文献3)、或いは、薬物と、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水吸収性でかつゲル形成性の基剤と、結晶セルロース、αーセルロース等の水吸収性でかつ水難溶性の基剤を含んでなる粉末状経鼻投与組成物(特許文献4)等が提案されている。
【0008】
さらに、薬物と、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水吸収性でかつゲル形成性の基剤と、結晶セルロース、α−セルロース等の水吸収性でかつ水難溶性の基剤を含んでなる粉末状経鼻投与組成物であって、該水吸収性でかつ水難溶性の基剤の量が、該水吸収性でかつ水難溶性の基剤と該水吸収性でかつゲル形成性の基剤の量の和の約5〜40重量%である粉末状経鼻投与組成物(特許文献5)、薬物及びコロイド性セルロースを含んでなる粉末状経鼻組成物(特許文献6)、粒子径が10μm未満である薬物又は凍結乾燥した薬物、水吸収性でかつ水難溶性の基剤、及び水吸収性でかつゲル形成性の基剤を含んでなる粉末状経鼻投与用組成物(特許文献7)、薬物およびヒドロゲル形成性の基剤からなる粉末状経鼻投与用組成物(特許文献8)、水溶性高分子に薬物を含む液を噴霧し付着させる粉末状組成物の製造方法(特許文献9)等が報告されている。
【0009】
しかしながら、これらの組成物の構成及びその製造方法は、煩雑なものであり、また、薬物として睡眠導入剤は例示されているものの、具体的な経鼻投与用組成物、及びその組成物の経鼻睡眠導入薬としての投与方法、投与量、有効血中濃度、薬理作用・効果については何ら開示されていない。
【0010】
【特許文献1】特公昭60−34925号公報
【特許文献2】再公表97−31626号公報
【特許文献3】特開平10−59841号公報
【特許文献4】特開平9−291015号公報
【特許文献5】特開平9−291026号公報
【特許文献6】再公表00−121366号公報
【特許文献7】再公表00−12063号公報
【特許文献8】特開2001−2589号公報
【特許文献9】特開2002−348252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、睡眠導入剤或いは入眠剤としての早期薬効の発現が可能であり、かつバイオアベイラビリティの向上により投与量の減量化が期待される、経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を解決するために鋭意検討を重ねた結果、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液に有効量の睡眠導入剤又は入眠剤を添加して得られる懸濁液を噴霧しながら流動層造粒することにより得られた粉末製剤が、若しくは、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類及び有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液を噴霧しながら流動層造粒することにより調製された粉末製剤が、前記した問題を解決するものであることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、具体的には以下の構成からなる。
(1)流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液に有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質を添加して得られる懸濁液を噴霧しながら流動層造粒すること、若しくは、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類及び有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液を噴霧しながら流動層造粒することにより調製されたことを特徴とする経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤;
(2)糖類が乳糖である上記1記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤;
(3)セルロースエーテルがヒドロキシプロピルセルロースである上記1又は2記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤;
(4)下記条件下で流動層造粒を行うことにより得られた上記1〜3のいずれかに記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤:
給気温度60〜80℃、
給気風量40〜50m/hr、
スプレーエア圧0.11〜0.13MPa、
スプレーエア流量27〜33L/分、
送液速度9〜11g/分、ノズル孔径1.0〜1.4mm;
(5)平均粒子径が80〜100μmである上記1〜4に記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤;
(6)粉末の比容積(Loose値)が2.1〜3.6(mL/g)である上記1〜5に記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤;
(7)睡眠導入作用物質がブロチゾラムであり、入眠剤が酒石酸ゾルピデムである上記1〜6記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤;
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により提供される経鼻吸収用睡眠導入剤又は入眠剤(以下、本明細書において「経鼻吸収用睡眠導入剤」とは、睡眠導入剤及び入眠剤を含めたものと解釈する)は、有効成分である睡眠導入剤又は入眠剤(以下、本明細書においては、特記しない限り、入眠剤を含め「睡眠導入剤」と解釈する)が鼻粘膜を経由して生体内へ良好に吸収され、したがって効果の発現が速く、睡眠導入剤として合目的な効果を発揮しうる製剤である。
また、種々の疾患が原因で経口投与が困難な患者に対しても投与することが可能な製剤である。
【0015】
さらに、本発明により提供される経鼻吸収用睡眠導入剤は、製剤的にも有効成分である睡眠導入剤の含量均一性がよく、経鼻吸入時に薬物含有粒子が肺まで到達しない経鼻吸収用睡眠導入剤であり、かつ、鼻粘膜に対する刺激性が低く、不快臭がほとんどなく、鼻腔内投与に極めて好適な製剤である。また、鼻腔内粘膜に粘着後は、鼻腔内分泌物を吸収しながら膨潤して有効成分を放出することができることから、治療効果を得る濃度で薬物を効率的に供給することができる利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、上記したように、基本的な一つの態様として、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液に有効量の睡眠導入作用物質を添加して得られる懸濁液を噴霧しながら流動層造粒することにより調製されたことを特徴とする経鼻吸収用睡眠導入剤である。
また、本発明は、別な基本的な態様として、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類及び有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液を噴霧しながら流動層造粒することにより調製されたことを特徴とする経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤である。
【0017】
本発明で使用する有効成分としての催眠導入剤は、例えば、ベンゾジアゼピン系の超短時間作用型の睡眠導入剤、例えば、トリアゾラム、ミタゾラム等、短時間作用型の睡眠導入剤、例えば、ブロチゾラム、ロルメタゼパム等、中間作用型の睡眠導入剤、例えば、ニメタゼパム、フルニトラゼパムエスタゾラム、ニトラゼパム等、長時間作用型の睡眠導入剤、例えば、クアゼパム、フルラゼパム、ハロキサゾラム等を挙げることができる。
なかでも、本発明にあっては、短時間作用型の睡眠導入剤であるブロチゾラムが特に好ましい。
入眠剤としては、酒石酸ゾルピデム、ハロペリドール、ゾピクロン等を挙げることができる。
【0018】
一方、本発明で使用する糖類としては、乳糖、マンニトール、ソルビトール等を挙げることができ、なかでも乳糖が好ましく使用される。
【0019】
本発明で使用するセルロースエーテルとしては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウム等を挙げることができ、好ましくはヒドロキシプロピルセルロースである。
【0020】
以下に、本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の調製について、睡眠導入剤としてブロチゾラムを例に挙げ、説明していく。
【0021】
上記したように、本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の調製は、睡眠導入剤を含むセルロースエーテルの懸濁液を、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類に噴霧することにより、糖類の表面に導入剤を付着させることにより行われる。噴霧は、薬物の溶解液又は薬物の懸濁液を用いても行うことができる。
使用する溶媒としては、水、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール等を挙げることができ、好ましくは水である。
【0022】
使用する流動層造粒装置としては、例えば、流動層、攪拌流動層あるいは真空転動等の造粒装置を用いることができる。造粒に際して、粉末の粒子径が大きくなることを回避するために、噴霧量を少なく設定するか、又は間欠的に液を噴霧する方法が好ましい。
【0023】
流動層造粒機中に粉末仕込みする粉末製剤の粉末とは、粉末又は微粒状の組成物を意味する。この粉末状組成物には、糖類に加えて、一般的に用いられている添化剤、例えば、トウモロコシデンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム等のデンプン類;結晶セルロース;ゼラチン;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;香料;着色剤;流動化剤を薬物の含量均一性に支障を与えない範囲で配合しても良い。
【0024】
噴霧する懸濁液を構成するセルロースエーテルの使用量は、例えば、後記実施例のヒドロキシプロピルセルロースの場合には、使用する固形分の重量(ヒドロキシプロピルセルロース、ブロチゾラム、乳糖の合計重量)100重量部に対し、0.1〜5重量%であり、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは約2重量%である。
使用する溶媒の量は、例えば、水の場合には、用いるヒドロキシプロピルセルロース、ブロチゾラムの量により異なり特に限定はできないが、通常、ヒドロキシプロピルセルロースの濃度が1〜5重量%、好ましくは2〜4%の範囲となる量を使用するのがよい。
【0025】
有効成分であるブロチゾラムの配合量は、特に制限はないが、通常、ヒドロキシプロピルセルロースとブロチゾラムの合計重量100重量部に対し、20〜70重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲である。
例えば、鼻腔内への噴霧に当たって1回に略12mgの粉末組成物が噴霧されることから、投与製剤として12mgの粉末組成物中に0.25mg含有するものを挙げることができる。
【0026】
流動層造粒の条件は、例えば、ブロチゾラムを用いた場合を以下に示す。
給気温度、給気風量、スプレーエア圧、スプレーエア流量、送液速度、ノズル孔径等は、造粒に使用するヒドロキシプルピルセルロース、水、ブロチゾラム等の量により異なるが、通常、給気温度60〜80℃、好ましくは70℃、給気風量40〜50m/hr好ましくは45m/hr、スプレーエア圧0.11〜0.13MPa、好ましくは0.12MPa、スプレーエア流量27〜33L/分、好ましくは30L/分、送液速度9〜11g/分、好ましくは10g/分、ノズル孔径1.0〜1.4mm、好ましくは1.2mmである。
【0027】
本発明の製造方法で得られる経鼻吸収用睡眠導入剤である粉末の比容積(Loose値)は、用いる薬物の種類、使用量などにより異なり特に限定されないが、2〜3.6(mL/g)であり、例えばブロチゾラムの場合、好ましくは2.1〜2.4(mL/g)であり、酒石酸ゾルピデムの場合、好ましくは2.9〜2.5であり、比容積(Pat値)は1.6〜2.5(mL/g)、例えばブロチゾラムの場合、好ましくは1.6〜1.8(mL/g)であり、酒石酸ゾルピデムの場合、好ましくは2.2〜2.4(mL/g)である。
また、安息角は31〜39(°)、好ましくは34〜37(°)の範囲である。
さらに、水分値は0.2%以下が好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に、ブロチゾラム含有経鼻吸収用睡眠導入剤の製造方法、試験例、実施例に挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は他の睡眠導入剤、又は入眠剤についても同様であり、これに限定されるものではない。
【0029】
実施例1:ブロチゾラム0.25mg/12mg製剤含有の経鼻吸収用睡眠導入剤
ヒドロキシプルピルセルロース(日本曹達社製)7.2gを水223.8gに溶解し、これにブロチゾラム(三洋化学研究所社製)7.5gを添加して懸濁した液を、スプレー液とする。
粉末仕込みとして乳糖(渡辺ケミカル社製)345.3gを用い、流動層造粒機(マルチプレックスMP01型、パウレック社製)を用いて、スプレー液を噴霧し、流動層造粒条件;給気温度70℃、給気風量45m/hr、スプレーエア圧0.12MPa、スプレーエア流量30L/分、送液速度10g/分、ノズル孔径1.2mmで流動層造粒し、ブロチゾラム含有の経鼻吸収用睡眠導入剤360gを得た。
【0030】
実施例2:ブロチゾラム0.15mg/12mg製剤含有含量の経鼻吸収用睡眠導入剤
前記ヒドロキシプルピルセルロース7.2gを水223.8gに溶解し、前記ブロチゾラム4.5gを添加して懸濁した液をスプレー液とする。粉末仕込みとして前記乳糖345.3gを用い、以下、実施例1と同様にして処理することによりブロチゾラム含有の経鼻吸収用睡眠導入剤360gを得た。
【0031】
実施例3:ブロチゾラム0.1mg/12mg製剤含有含量の経鼻吸収用睡眠導入剤
前記ヒドロキシプルピルセルロース7.2gを水223.8gに溶解し、前記ブロチゾラム3.0gを添加して懸濁した液をスプレー液とする。粉末仕込みとして前記乳糖345.3gを用い、以下、実施例1と同様にして処理することによりブロチゾラム含有の経鼻吸収用睡眠導入剤360gを得た。
【0032】
上記実施例1〜3の製法で得られた経鼻吸収用睡眠導入剤の物性を下記表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例4:酒石酸ゾルピデム5mg/30mg製剤含有の経鼻吸収用入眠剤
ヒドロキシプルピルセルロース(日本曹達社製)7.2gを水232.8gに溶解した液を、スプレー液とする。粉末仕込みとして酒石酸ゾルピデム(三洋化学研究所社製)60.0g、乳糖(渡辺ケミカル社製)292.8gを用い、流動層造粒機(マルチプレックスMP01型、パウレック社製)を用いて、スプレー液を噴霧し、流動層造粒条件;給気温度70℃、給気風量40m/hr、スプレーエア圧0.12MPa、スプレーエア流量30L/分、送液速度10g/分、ノズル孔径1.2mmで流動層造粒し、酒石酸ゾルピデム含有の経鼻吸収用入眠剤360gを得た。
【0035】
実施例5:酒石酸ゾルピデム3mg/30mg製剤含有の経鼻吸収用入眠剤
前記ヒドロキシプルピルセルロース7.2gを水232.8gに溶解した液をスプレー液とする。粉末仕込みとして前記酒石酸ゾルピデム36.0g、前記乳糖316.8gを用い、以下、実施例1と同様にして処理することにより酒石酸ゾルピデム含有の経鼻吸収用入眠剤360gを得た。
【0036】
実施例6:酒石酸ゾルピデム2mg/30mg製剤含量の経鼻吸収用入眠剤
前記ヒドロキシプルピルセルロース7.2gを水232.8gに溶解した液をスプレー液とする。粉末仕込みとして前記酒石酸ゾルピデム24.0g、前記乳糖328.8gを用い、以下、実施例1と同様にして処理することにより酒石酸ゾルピデム含有の経鼻吸収用入眠剤360gを得た。
有効成分である酒石酸ゾルピデムの配合量は、特に制限はないが、好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロースと酒石酸ゾルピデムの合計重量100重量部に対し、20〜95重量%、好ましくは70〜95重量%の範囲である。
【0037】
比較例として、以下に記載する粉砕粒子製剤を調製した。
粉砕製剤として、有効成分であるブロチゾラムを、担体としての乳糖、並びに他の添加剤として滑沢剤と共に粉砕した粉砕粒子製剤を調製した。
【0038】
比較例1:ブロチゾラム0.25mg/17mg製剤含有含量の粉砕粒子製剤の調製
A:各粉砕物の調製
A−1:ブロチゾラムの粉砕物(粒子)の調製
ブロチゾラム(平均粒子径:0.88μm)を、卓上型ラボジェットミル(AO−JET−MILL、セイシン社製)を用い、ノズルエア圧力:0.5〜0.6MPa、粉体フィード速度:5〜10g/時間の条件で粉砕し、分級装置付着サンプル(平均粒子径:2.17μm、収率:64.7%)、最終捕集瓶捕集サンプル(平均粒子径:0.88μm;収率:16.5%)の両粒子を得た。
A−2:乳糖の粉砕物(粒子)の調製
担体粒子として、ダイラクトーズR(フロイント産業社製)を目開き150μm及び75μmの篩を用い、ふるい振とう機(ES−65、飯田製作所社製]で15分間振とうした後、75μm篩上に残ったもの(75〜150μmに整粒)を用いた。
【0039】
B:ブロチゾラム0.25mg含量の粉砕粒子製剤の調製
未粉砕のブロチゾラム(平均粒子径:0.88μm)、及び上記で調製したブロチゾラム[粉砕品1(平均粒子径:2.17μm);粉砕品2(平均粒子径:0.88μm)]の3種を用い、その各0.05gに対して、上記で粉砕調製した担体粒子3.33g、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)0.017gを、10mLの共栓つき遠沈管に量り、試験管ミキサー(NS−80、井内盛栄堂社製)で3分間混合して、それぞれ3種の粉砕粒子製剤3.4gを得た。
【0040】
比較例2:ブロチゾラム0.15mg/17mg製剤含有、及び0.1mg/12mg製剤含有の粉砕粒子製剤の調製
比較例1の製法に準拠して、未粉砕のブロチゾラム(平均粒子径:10.3μm)、上記で調製したブロチゾラムの粉砕品1(平均粒子径:2.17μm)、及び粉砕品2(平均粒子径:0.88μm)の3種を用い、上記で粉砕調製した担体粒子、及び滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウムと混合し、それぞれ3種のブロチゾラム0.15mg含量粉砕製剤、及びブロチゾラム0.1mg含量の3粉砕製剤を各3.4g得た。
【0041】
試験例1:含量試験
前記の実施例1〜3で得られた経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤、及び比較例1で得られた粉砕粒子製剤を用いた含量試験を検討した。
【0042】
[方法]
実施例1で得られた経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤12mg、又は比較例1で得られた3種の粉砕粒子製剤17mg(ブロチゾラムとして、それぞれ0.25mg、0.15mg及び0.1mgに対応する量)を量り、有効成分であるブロチゾラムを抽出し、得られた抽出物を、HPLCシステム[インターフェース;D−7000形、オートサンプラー;D−7200形、ポンプ;D−7100形、カラムオーブン;D−7300形、検出器;D−7400形、PC;FLORA 370(日立製作所社製)]により分析を行い、ブロチゾラムの含量値を求めた。10回の測定を行い、平均値、相対標準偏差を算出した。
【0043】
[HPLC操作条件]
カラム:YMC−Pack Pro C18:内径4.6mm、長さ15cm、粒子径5μm(ワイエムシイ社製)、
カラム温度:40℃、
移動相:水/アセトニトリル(LC用、和光純薬工業社製)(57:43)混液、
流速:0.8mL/分
測定波長:240nm
【0044】
その結果、含有量につては、特に問題は認められなかった。
【0045】
試験例2:経鼻吸入用マルチドーズデバイスからの1回噴射重量、及び1回噴射中含量試験例
前記実施例1で調製した本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤、及び比較例1で調製して得られた粉砕粒子製剤を用い、経鼻吸入用マルチドーズデバイスからの1回噴射重量及び1回噴射中含量試験を実施した。
【0046】
[方法]
経鼻吸入用マルチドーズデバイスに、実施例1で調製した本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤約0.96g、又は比較例1で調製した粉砕粒子製剤約1.36g(それぞれ約80回噴射分の粒子に相当)を充填し、各デバイスの重量を測定した。
1回の噴射毎にデバイスの重量を測定し、その差を求め1回噴射重量とした。
また、噴射した製剤を100mLの三角フラスコ[内面にメタノール(特級、和光純薬工業社製)/グリセリン(特級、和光純薬工業社製)/水混液(16:2:1)を塗布しておいたもの]で捕集し、抽出、HPLCシステム(前記と同じ条件)により分析を行い、1回噴射中のブロチゾラムの含量値を求めた。
10回操作を繰り返し、1回噴射重量及び1回噴射中のブロチゾラム含量の平均値、相対標準偏差を算出した。
【0047】
[結果]
その結果を、下記表2に示した。なお、表中、Aはブロチゾラム0.25mg含有製剤を、Bは0.15mg含有製剤を、Cは0.1mg含有製剤を表す。
【0048】
【表2】

【0049】
表中に示した結果から判明するように、実施例1の粉末製剤である本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤は、デバイスからの噴射重量、噴射物中の薬物含量が安定しており、ばらつきも少ないものであった。
これに対して比較例1の粉砕粒子製剤では、デバイスからの噴射重量が安定せず、大きくばらつくものであり、噴射重量も処方量の約80%しか噴射されない結果となった。また、噴射物中の薬物含量のばらつきが大きい結果となっていた。
【0050】
試験例3:in vitro吸入試験例
前記実施例1で調製した本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤、及び比較例1で調製して得られた粉砕粒子製剤を用い、以下のin vitro吸入試験を実施した。
【0051】
[方法]
カスケードインパクター(アンダーセンタイプ、COPLEY社製)の0次〜7次フィルター上にヒト鼻腔モデル(日立製作所社製)[ヒト鼻腔モデル内部に1%ハイビスワコー105(和光純薬工業社製)水溶液を塗布しておく]をセットした。
吸引ポンプ(GASTマニュファクチャリング コーポレーション社製)により、エア流量28.3L/分で8.5秒間吸引しながらヒト鼻腔モデルの鼻腔内に、実施例1で調製した本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤、又は比較例1で調製した粉砕粒子製剤を充填した経鼻吸入用マルチドーズデバイスのノズル部を差込み、製剤を噴射した。
製剤の噴射後、(1)ヒト鼻腔モデル、(2)スロート、(3)0次フィルター、(4)1次フィルター、(5)2〜5次フィルター、(6)6〜7次フィルターの各部に付着した製剤よりブロチゾラムを抽出し、前記HPLCシステムにより分析(前記条件下)を行い、ブロチゾラムの(1)〜(6)の各部への粘着(沈着)比率を求めた。
【0052】
[結果]
実施例1の製剤及び比較例1の製剤共に、ブロチゾラムの含有量として0.25mg含有の製剤を用いて行った。
その結果を、表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
表中に示した結果から判明するように、実施例1の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤は、1次フィルターから7次フィルターまでの沈着が無く、製剤の肺へ到達を回避することができていた。また、含量の均一性についても良好な結果が得られていた。
実施例1の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤は、滑沢剤を配合しないものであるが、良好な流動性を有しており、滑沢剤の配合しない場合でも安定した噴射量を出すことが可能であった。粒子径を制御することにより可能となったものと思われた。
【0055】
一方、比較例1の粉砕粒子製剤は、いずれも肺へ製剤粒子が到達するといわれている2〜7次フィルター(空気力学粒子径約0.4〜6μm相当)まで、製剤粒子の沈着が確認された。
【0056】
なお、同様にブロチゾラム0.15mg含量製剤、及び0.1mg含量製剤の場合についてもin vitro吸入試験を行ったが、本発明の実施例1による製剤、比較例1の製剤とも同様の結果であった。
【0057】
試験例4:経鼻吸入用シングルドーズデバイスを用いたin vitro吸入試験
[方法]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)硬カプセル(カプセルサイズ2号)に、一回投与量(12mg)の試験製剤を充填したのち、経鼻吸入用シングルドーズデバイスにセットした。デバイスの操作によりカプセルに穴をあけ、圧縮空気により鼻腔モデルの鼻孔に噴霧した。
吸入評価試験装置は、試験例3と同様のマルチタンクタイプの評価と同じ条件で用い、左右の鼻腔に1回ずつ噴霧した(すなわち、1回の試験につき、2回の噴霧となる)。
1回の噴霧ごとにカプセルを回収し、カプセル内に残存する製剤中のブロチゾラムの量を測定した。また、両鼻腔に噴霧した後、デバイス中に残存する製剤中のブロチゾラムの量を測定した。鼻腔モデル、スロート、及び各ステージへの沈着評価は、前記と同様に行った。
試験対象製剤として、本発明の実施例1、2及び3で調製した経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤を用いた。
【0058】
[結果]
その結果を下記表4に示した。
【0059】
【表4】

【0060】
表中に示した結果からも判明するように、本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤は、単回投与においても、1次フィルターから7次フィルターまでの沈着が無く、製剤の肺へ到達を回避することができていた。
【0061】
試験例5:薬物動態試験
ペントバルビタール麻酔下のラットに、ブロチゾラムを経鼻投与又は経口投与し、血漿中薬物濃度の変化を比較した。
[方法]
一夜絶食した9週齢の雄性SDラットに、ブロチゾラム約0.42mg/kgを経鼻又は経口投与した。経鼻投与は実施例1に準じて調製した本発明の経鼻吸収用睡眠導入剤の粉末製剤を用いた。
各投与後15、30、60、120分後に大腿動脈より採血し、血液中のブロチゾラム濃度を樽井らの方法(薬理と臨床 10巻11号 513〜524頁)に従ってHPLC−MS/MS法により測定した。
【0062】
[結果]
その結果を図1に示した。
図中に示した結果からも判明するように、両投与経路において最も血中濃度が高かった投与15分後の時点では、経鼻投与による血中濃度は、経口投与の場合に比較して4.6倍の高い血中濃度を示し、この濃度比は測定期間を通して認められており、経口投与に比べ経鼻投与製剤の高い生物学的利用率が確認された。
【0063】
試験例6:ヒトへの経鼻投与による試験
インフォームドコンセントのもとに、粉末の一定量を噴霧することができる市販のスプレー器具に、本発明の前記各実施例で得られた睡眠導入薬として作用を示す有効量を含む粉末製剤を充填し、被験者(成人男子)1名の鼻腔内に噴霧した。
その結果、例えば、ブロチゾラムの場合、刺激性は低く、不快な匂いがほとんどなかった。また、入眠作用は速やかに発現した。
ブロチゾラムの睡眠導入の有効量は特に限定されないが0.01mg〜10mg/成人/1回、好ましくは0.01mg〜1mg/成人/1回であるといわれており、投与量が多くなれば睡眠導入時間が短く、睡眠持続時間が長くなるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上記載したように、本発明により、経鼻投与により速やかに高い最高血中濃度を示す経鼻吸収用睡眠導入剤が提供される。
本発明が提供する経鼻吸収用睡眠導入剤は、有効成分である睡眠導入剤が鼻粘膜を経由して生体内へ良好に吸収され、したがって効果の発現が速く、睡眠導入剤として合目的な効果を発揮しうる製剤であり、種々の疾患が原因で経口投与が困難な患者に対しても投与することが可能な製剤であることから、その医療上の貢献度は多大なものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例1の製剤を経鼻投与した時と、経口投与したときの血中濃度の対比を示すずである。 図中、●は経鼻投与、×は経口投与後の血中濃度の変化を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液に有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質を添加して得られる懸濁液を噴霧しながら流動層造粒すること、若しくは、流動層造粒機中に粉末仕込みした糖類及び有効量の睡眠導入作用物質又は入眠作用物質に、1種又は2種以上のセルロースエーテルの水溶液を噴霧しながら流動層造粒することにより調製されたことを特徴とする経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。
【請求項2】
糖類が乳糖である請求項1記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。
【請求項3】
セルロースエーテルがヒドロキシプロピルセルロースである請求項1又は2記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。
【請求項4】
下記条件下で流動層造粒を行うことにより得られた請求項1〜3のいずれかに記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。
給気温度60〜80℃、
給気風量40〜50m/hr、
スプレーエア圧0.11〜0.13MPa、
スプレーエア流量27〜33L/分、
送液速度9〜11g/分、ノズル孔径1.0〜1.4mm
【請求項5】
平均粒子径が80〜100μmである請求項1〜4に記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。
【請求項6】
粉末の比容積(Loose値)が2.1〜3.6(mL/g)である請求項1〜5に記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。
【請求項7】
睡眠導入作用物質がブロチゾラムであり、入眠剤が酒石酸ゾルピデムである請求項1〜6記載の経鼻吸収用睡眠導入又は入眠剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−273899(P2008−273899A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121479(P2007−121479)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月29日 社団法人 日本薬学会主催の「日本薬学会第127年会」に文書をもって発表
【出願人】(594105224)東亜薬品株式会社 (15)
【Fターム(参考)】