説明

結晶の構造解析方法

【課題】 予備的情報が不要であり、より簡便に、決定論的に解析が可能な結晶の構造解析方法を提供する。
【解決手段】 X線回折により、所定の結晶面の基板上に形成された超格子構造結晶の反射プロファイルを測定し、反射プロファイル中に観測されるサテライト次数の異なる複数のサテライトピーク(a、b、c、d、e、f)同士を、該サテライトピークの頂点を揃えて重ね合わせて、該サテライトピーク同士の拡がり形状を比較し、サテライトピーク同士が、サテライト次数によらず、全て同一の拡がり形状を有しているか否かを判定することにより、超格子構造の完全性を判定する結晶の構造解析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶の構造解析方法に関し、例えば、超格子構造を有する半導体薄膜や多重量子井戸構造の解析に有用なものである。
【背景技術】
【0002】
X線回折を用いたエピ膜、特に、超格子構造を有するエピ膜の構造評価において、拡がりを有するピークがしばしば観測される。このような場合、何故、ピークの拡がり(broadening)を起こしているのか、その原因を明らかにすることは評価上の重要な検討課題となる。X線回折を用いたエピ膜の構造評価におけるピークの拡がりの原因としては、結晶のモザイク構造によるものが主要因であるが、その他にも、組成及びそれに伴う歪みの分布に起因する拡がり、試料中の構成層の厚さが薄いことに起因する拡がり、超格子界面等の乱れ等の結晶の不完全性(歪みの分布を伴わないもの)に起因する拡がり等、さまざまな原因が考えられる。従来のX線回折の評価技術では、このような問題に対して明確な回答を得る有効な手段はほとんどなく、成長条件等を変化させた他の実験結果等から類推された漠然とした議論や、なんらかの試料構造の予備的情報に基づくシミュレーションをもとにした解析がほとんどであった(非特許文献1、2参照)。これらの方法では、予備的情報を必要とするという欠点をもち、予備的情報が不要であり、より簡便な解析法が望まれていた。
【0003】
一方、近年、逆格子マッピング評価技術が開発され、逆格子空間での拡がりの方向を測定することにより、モザイク結晶によるピーク拡がりと組成の分布によるピーク拡がりを区別することが可能となった。しかるに、逆格子マッピング評価は、測定に時間がかかる点、微弱なピークに対して評価がしにくい点、さらに逆格子空間を疎らにスキャンするため、ピーク形状に対するより詳細な解析検討が行いにくい点、等の問題がある。これらの問題点を解決するために、X線回折により得られるピーク拡がり形状を、直接解析することにより、ピーク拡がりの要因を、予備的情報なしに明らかにできる解析法が望まれていた。特に、超格子構造の構造評価においては、観測されるピーク拡がりが超格子に起因した不可避なピーク拡がりのみであり、構造の不完全性、構造劣化等に起因した付加的な要因によるピーク拡がり成分がないことを、簡便かつ決定論的に解析できる解析法が望まれていた。
【0004】
【非特許文献1】Z. H. Mai et. al., "X-ray diffraction analysis of Si1-xGex/Si superlattices" J. Appl. Phys. 72(8), pp. 3474-3479, 1992
【非特許文献2】L. Xiu and Z. Wu, "Simulation of x-ray diffraction for superlattices with fluctuations from perfect periodicity" J. Appl. Phys. 71(10), pp. 4892-4896, 1992
【非特許文献3】K. Nakashima, "A novel analysis method for peak broadening due to thin structures in double crystal X-ray diffraction measurements" Japanese J. App1. Phys. Vol. 40, pp. 5453-5463, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記解析法の1例として、指数(hkl)依存性を考察することにより、ピーク拡がり要因を簡便に判定できる方法が提案されている(非特許文献3)。しかし、これ以外には、ほとんど報告例はなく、より多角的かつ詳細に解析を行うためには、反射指数依存性以外の他の原理に基づく決定論的評価手法の考案が望まれていた。しかるに、このような方法の報告例も、これまでになかった。
【0006】
上記要望に適した解析法の候補として、本発明では、超格子のサテライトピークのサテライト次数に対する依存性に注目する。このような依存性に着目した解析手法はこれまで全く検討されていない。更に、サテライト次数を変えたときのピーク拡がり形状の依存性を用いた解析の明確な形での定式化も、これまで全く報告されていなかった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、予備的情報が不要であり、より簡便に、決定論的に解析が可能な結晶の構造解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係る結晶の構造解析方法は、
X線回折により、所定の結晶面の基板上に形成された超格子構造結晶の反射プロファイルを測定し、
前記反射プロファイル中に観測されるサテライト次数の異なる複数のサテライトピーク同士を、該サテライトピークの頂点を揃えて重ね合わせて、該サテライトピーク同士の拡がり形状を比較し、
サテライト次数に依らず、前記サテライトピーク同士が全て同一の拡がり形状を有しているか否かを判定することにより、超格子構造の完全性を判定することを特徴とする。
【0009】
又、上記課題を解決する本発明の請求項2に係る結晶の構造解析方法は、
上記結晶の構造解析方法において、
前記超格子構造結晶は、立方晶結晶構造を有する材料を用いて形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る結晶の構造解析方法は、超格子構造が完全な周期構造を有している場合、即ち、完全性を有する場合、超格子サテライトピークのピーク拡がり形状は、次数に依らず、同一のピーク拡がり形状をもつ、という原理に基づく方法である。一方、超格子構造の周期構造に乱れがある場合、即ち、完全性を有していない場合、特に、組成の不均一分布に関係した乱れがある場合には、超格子サテライトピークのピーク拡がり形状が、次数により変化することが観測される。つまり、異なる次数の超格子サテライトピークのピーク拡がり形状を観測することにより、超格子構造の完全性を判定できることになる。
【0011】
例えば、立方晶結晶構造を有する任意の材料系を用いて、(h'k'l')基板上にエピタキシャル成長して得られた超格子構造結晶を、X線回折により構造解析を行う際に、本発明に係る結晶の構造解析方法では、測定された反射プロファイル中に観測されるサテライト次数の異なる複数の超格子サテライトピークを取り出し、これらのサテライトピークの拡がり形状を、ピーク頂点を揃えて重ね合わせて比較し、サテライト次数に依らず、これらのサテライトピークが全て同一の拡がり形状を有しているか否かを判定することにより、超格子構造の完全性を判定している。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る結晶の構造解析方法よれば、反射プロファイル中に観測されるサテライト次数の異なる複数の超格子サテライトピークのピーク拡がり形状を、従来とは異なる次数依存性の観点から比較するので、予備的情報を必要とせず、より簡便に超格子構造の完全性を判定することができ、更に、類推やシミュレーションに基づくことなく、決定論的に解析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、超格子構造の結晶の構造解析方法に関するものであり、超格子構造の結晶試料をX線回折により測定し、得られた反射プロファイル中に、異なる次数の一連の超格子サテライトピークのピークの拡がり(broadening)が観測された場合、複数のサテライトピークのピーク拡がり形状を、各次数のピーク拡がり形状の頂点位置を揃えて比較し、サテライトピーク同士のピーク拡がり形状の同一性を判定することにより、超格子構造の完全性を判定するものである。特に、本発明では、超格子サテライトピークの次数依存性に注目したものであり、これにより、ピーク拡がりの原因を類推するための予備的情報を用いることなく、簡便かつ決定論的に超格子構造の完全性を判定するものである。以下、図面を参照して、本発明に係る結晶の構造解析法を詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明に係る結晶の構造解析法では、超格子構造を有する結晶が測定対象となる。例えば、所定の結晶面の基板上に形成された超格子構造結晶が測定対象となる。具体的には、本実施例では、基板面指数(h'k'l')=(113)のGaAs基板上に、AlGaInAs/AlGaAs歪超格子試料をエピタキシャル成長により形成し、これを測定試料として、X線回折による構造評価を行う。このように、本実施例では、超格子構造結晶を、立方晶結晶構造を有する材料を用いて形成するが、超格子構造結晶になるのであれば、他の結晶構造を有する材料を用いてもよい。又、超格子構造結晶の製造方法としては、エピタキシャル成長に限らず、CVD法等、他の気相成長法等を用いてもよい。
【0015】
本発明に係る結晶の構造解析法においては、最初に、X線回折により上記測定試料(AlGaInAs/AlGaAs歪超格子試料)が測定され、上記測定試料の反射プロファイルが得られる。図1に、得られた004X線回折測定の反射プロファイルを示す。なお、図2、図3は、反射プロファイル中に観測される一連のサテライトピークの拡がりを解析した結果を示すものである。
【0016】
図1に示すように、反射プロファイル中には基板ピーク(図1中Δθ=0.0の位置)以外に、サテライト次数の異なる超格子サテライトピークが複数観測される。そこで、反射プロファイル中に現れる一連のサテライトピークのピーク拡がり形状を比較するため、一連のサテライトピークにa〜fの符号を付し、次数を変えて、具体的には、サテライトピークa〜f同士の頂点の角度位置を揃えて、比較を行う。その比較結果を図2に示す。
【0017】
図2は、図1の反射プロファイル中に観測される次数の異なる一連のサテライトピークa〜fを全て個別に取り出し、サテライトピークa〜fの頂点の角度位置を揃えて表示することにより、ピーク拡がり形状を比較したものである。なお、図2では、ピーク拡がり形状のスケールを図1と同一にするため、横軸の角度Δθはサテライトピークa〜fの頂点の角度位置からの相対角度とし、縦軸のX線強度は、サテライトピークa〜f毎に、図1と同一のスケールで図示した。
【0018】
更に、サテライトピークa〜f同士全てを、各サテライトピークa〜fの頂点位置を揃えて、重ね合わせることで、サテライトピークa〜f同士の拡がり形状を比較する。なお、図2に示したサテライトピークa〜f全てを、頂点位置を揃えて、重ね合わせると、拡がり形状を判定し難い場合があるため、本実施例では、サテライトピークa〜fから任意の2つ又は任意の3つを取り出して、重ね合わせることで、拡がり形状の判定を行っている。図3に、任意の2つ又は任意の3つのサテライトピークを重ね合わた比較結果を示す。なお、当然のことながら、全てのサテライトピークを、頂点位置を揃えて、重ね合わせて、拡がり形状の判定を行ってもよい。
【0019】
図3においては、任意の2つのサテライトピークとして、サテライトピークa、b(サテライトピークaを点線、サテライトピークbを実線で図示)、サテライトピークc、d(サテライトピークcを点線、サテライトピークdを実線で図示)、そして、サテライトピークe、f(サテライトピークeを点線、サテライトピークfを実線で図示)を重ね合わせて比較している。又、任意の3つのサテライトピークとして、サテライトピークa、c、e(サテライトピークaを実線、他のサテライトピークを点線で図示)、そして、サテライトピークb、d、f(サテライトピークbを実線、他のサテライトピークを点線で図示)を重ね合わせて比較している。このように、任意の2つ又は任意の3つのサテライトピークを取り出して、重ねて合わせることにより、ピーク拡がり形状の相違をより詳細に比較することが可能になる。なお、図3でも、ピーク拡がり形状のスケールを図1と同一にするため、横軸の角度Δθはサテライトピークa〜fの頂点の角度位置からの相対角度とした。但し、縦軸のX線強度は、比較されたサテライトピーク同士のいずれか1つのサテライトピークを、図1と同一のスケールで図示し、他のサテライトピークについては、その1つのサテライトピークの頂点位置に揃えて、図示するようにした。
【0020】
図3における比較から分かるように、サテライトピークa、bは同一の拡がり形状と判定でき、サテライトピークc、dも同一の拡がり形状と判定でき、そして、サテライトピークe、fも同一の拡がり形状と判定できる。更に、サテライトピークa、c、eも同一の拡がり形状と判定でき、そして、サテライトピークb、d、fも同一の拡がり形状と判定できる。つまり、これらの比較により、004X線反射プロファイル中の一連のサテライトピークa〜fは、全て同じピーク拡がり形状であることが結論される。従って、一連のサテライトピークa〜fの各ピーク拡がり形状は、次数に依らず一致していることが確認できる。つまり、サテライト次数に依らず、サテライトピーク同士が全て同一の拡がり形状を有していることが判定することができ、これにより、超格子構造の完全性を判定することが可能となる。逆に、サテライトピークのピーク拡がり形状が、同一の拡がり形状でないと判定される場合には、超格子構造に完全性がないと判定することが可能となる。
【0021】
上述したように、本実施例により、本発明に係る結晶の構造解析方法が、有効に働くことが実験的に確認され、又、サテライト次数依存性の観点から評価して、超格子構造の完全性の判定が簡便かつ決定論的に行えることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、従来とは異なり、サテライト次数依存性という観点から、サテライトピークの拡がり形状を比較して、超格子構造の完全性を判定するものであり、更に、指数依存性に基づく解析方法等、従来の解析方法と組み合わせることにより、より多角的かつ詳細に、そして、より信頼性の高い解析が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】004X線回折測定の反射プロファイルを示すグラフである。
【図2】図1の反射プロファイル中に観測される一連の(次数の異なる)サテライトピークを取り出し、ピークトップ位置を揃えて表示することにより、ピーク拡がり形状を比較したグラフである。
【図3】図2の各サテライトピークプロファイルから2つ又は3つずつ取り出し、重ね合わせて表示することにより、ピーク拡がり形状をの相違をより詳細に比較したグラフである。
【符号の説明】
【0024】
a、b、c、d、e、f サテライトピーク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折により、所定の結晶面の基板上に形成された超格子構造結晶の反射プロファイルを測定し、
前記反射プロファイル中に観測されるサテライト次数の異なる複数のサテライトピーク同士を、該サテライトピークの頂点を揃えて重ね合わせて、該サテライトピーク同士の拡がり形状を比較し、
前記サテライトピーク同士が、サテライト次数に依らず、全て同一の拡がり形状を有しているか否かを判定することにより、超格子構造の完全性を判定することを特徴とする結晶の構造解析方法。
【請求項2】
請求項1記載の結晶の構造解析方法において、
前記超格子構造結晶は、立方晶結晶構造を有する材料を用いて形成されたものであることを特徴とする結晶の構造解析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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