説明

結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法およびグラファイト炭素を担体として適用する燃料電池用触媒

【課題】炭素前駆体であるスクロース、転移金属前駆体および均一なサイズのシリカ粒子を同時に水熱処理し、重合された高分子物質を炭化させる方法により結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、スクロース、転移金属前駆体およびシリカ粒子を蒸留水に分散させて水熱処理し、重合された高分子を製造する1段階、前記水熱処理の後に得られる重合された高分子を乾燥し、700〜1500℃で真空または不活性気体の流れ下で熱処理を行い、複合体を製造する2段階、および、前記熱処理段階の後に得られる複合体をフッ素酸または水酸化ナトリウム溶液で処理、洗浄および濾過し、グラファイト炭素を製造する3段階を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロース炭素前駆体から結晶性の優れた気孔性グラファイト炭素を製造する方法およびグラファイト炭素を担体として適用する燃料電池用触媒に係り、さらに詳しくは、炭素前駆体であるスクロース、転移金属前駆体および均一なサイズのシリカ粒子を同時に水熱処理し、重合された高分子物質を炭化させる方法により結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素を製造する方法およびグラファイト炭素を担体として適用する燃料電池用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
気孔性炭素は比表面積と気孔体積が高いだけでなく、酸や塩基にも安定性があるため吸着剤や触媒担体としてしばしば活用されてきた。特に、低温型燃料電池の技術開発と合わせて、燃料電池触媒の担体として使用される炭素について多くの関心が持たれている。燃料電池用触媒担体として炭素は多くの金属を担持するために比表面積が高くなければならず、触媒−反応物−電解質の三相界面の形成が容易となるように気孔が大きくなければならないだけでなく、電子の移動が円滑に行われるためには、伝導性が高く電気化学酸化反応に耐えることができなくてはならない。このような要求条件を満足させるために、電気伝導性が良く、酸化条件において安定性が優れる結晶性炭素(グラファイト)が担体として活用されてきた。
【0003】
従来は結晶性炭素を製造するために、高い温度での炭素前駆体の化学蒸着法や、アーク放電を通して予め形成させたナノ粒子上で炭素構造を製造させる方法が使用されていたが、このような方法は高価な装置を必要とするだけでなく収率が低いため、非経済的である。
結晶性炭素を製造する別の方法として、金属触媒を炭素前駆体と共に添加した後、重合と炭化過程を経た後、金属触媒を除去する方法があるが、これは人体に有害な炭素前駆体を使用するという問題点を有する。
そこで、生産工程が環境に優しく、人体に無害である理想的な炭素前駆体であるスクロースを導入する方法が提示された[大韓民国特許公開第2002−97295号、大韓民国特許公開第2002−84372号]。しかし、スクロースを炭素前駆体として製造した炭素は一般的に非晶質の特性を持つという問題がある。
【特許文献1】大韓民国特許公開第2002−97295号
【特許文献2】大韓民国特許公開第2002−84372号
【特許文献3】再表96/030318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、炭素前駆体であるスクロース、転移金属前駆体および均一なサイズのシリカ粒子を同時に水熱処理し、重合された高分子を炭化させる一連の工程により、前記炭素前駆体の重合過程および炭化過程で金属前駆体が触媒作用を誘導し、高分子の重合程度を増加させ、結晶性炭素の形成に容易な高分子構造を形成させ、炭化過程中、炭素の結晶化度を増加させる役割を行うことで、結晶性が向上し、気孔性を有するグラファイト炭素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、スクロース、転移金属前駆体およびシリカ粒子を蒸留水に分散させて水熱処理し、重合された高分子を製造する1段階、前記水熱処理の後に得られる重合された高分子を乾燥し、700〜1500℃で真空または不活性気体の流れ下で熱処理を行い、複合体を製造する2段階、および、前記熱処理段階の後に得られる複合体をフッ素酸または水酸化ナトリウム溶液で処理、洗浄および濾過し、グラファイト炭素を製造する3段階を含むことを特徴とする。
【0006】
前記スクロースは濃度は3〜20重量%の範囲に維持し、前記転移金属前駆体は鉄、ニッケルおよびコバルトの中から選択される転移金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化塩、アンモニア塩および水和塩であり、前記転移金属前駆体は、スクロース1モルに対して0.3〜3モル比で使用することを特徴とする。
【0007】
前記シリカ粒子は、サイズが20nm〜1μmを維持し、スクロース1モルに対して0.25〜2モル比で使用することを特徴とする。
【0008】
前記水熱処理は150〜300℃で行い、前記グラファイト炭素は、比表面積が260〜500cm/gであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるグラファイト炭素の製造方法によると、人体に無害であり環境に優しい工程にて生産されるスクロースを炭素前駆体として使用し、結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素を容易に製造することができ、炭素前駆体と共に添加されるシリカ粒子のサイズや形状によって製造される炭素の気孔特性を調節することができる。
更に、本発明による結晶性気孔性グラファイト炭素は前述した特長を有しているため、これを燃料電池用触媒の担体として使用する場合、高い電気伝導性と発達した結晶性により増加した触媒活性を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
前記転移金属前駆体は結晶性炭素の形成に容易な高分子構造を形成させ、炭化過程中に炭素の結晶化度を増加させる役割を有する触媒作用が可能である。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅および亜鉛の中から選択される金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化塩、アンモニア塩および水和塩の中から選択されるものを使用し、好ましくは、硝酸塩を使用し、より好ましくは、硝酸塩鉄(Fe(NO・HO)を使用する。
一般的な転移金属前駆体が全て使用できるわけではなく、結晶性炭素の形成が容易な高分子構造を形成させ、結晶化度を増加させる役割を有する金属を使用する。
【0011】
大韓民国特許公開第2002−97295号、大韓民国特許公開第2002−84372号などの発明では、重合性触媒として硝酸誘導体または塩酸などを使用しているが、これは本発明の金属前駆体とは全く異なり、前記のような触媒を使用して本発明を行う場合、高分子重合と炭化過程を経て炭素の製造は可能であるが、結晶性を有する炭素製造は不可能であり、目的とする効果を得ることはできない。
【0012】
以下、本発明による結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法をより具体的に説明する。
まず、炭素前駆体であるスクロースと転移金属前駆体およびシリカ粒子を蒸留水に溶解させた後、水熱処理を行い、重合された高分子を製造する。
スクロースは当分野で一般的に使用されるものであり、特別に限定はしない。このようなスクロースの濃度は溶媒に対して3〜20重量%を維持し、濃度が3重量%の場合、製造されるグラファイト炭素の収率が低く、20重量%を超過する場合は、炭素の物理化学的性質を調節することが困難である。
【0013】
転移金属前駆体は、スクロース1モルに対して0.3〜3モル比で使用し、使用量が0.3モル比未満の場合、製造される炭素の結晶性が高くならず、3モル比を超過する場合、製造される炭素の気孔性を調節することが困難である。
シリカ粒子は、サイズや形状が当分野で使用するものであり特別に限定はしないが、製造する炭素の所望する気孔サイズと特性に従って球形の20nm〜1μmサイズを維持するものが良い。粒子サイズが20nm未満の場合、均一な気孔を有する炭素担体が製造されず、1μmを超過する場合には、シリカ鋳型が炭素と別に分離され、鋳型の役割を行うことができないため、範囲を維持することが好ましい。
このようなシリカ粒子はスクロース1モルに対して0.25〜2モル比で使用し、使用量が0.25モル比未満の場合、製造される炭素の表面積や気孔体積が減少し、また、2モル比を超過する場合は製造される炭素の物性を調節することが困難である。
【0014】
水熱処理は当分野で一般的に行われる方法を適用し、特別に限定はしない。10bar以上の圧力に耐えることができるように製作された高圧反応器で行われる。水熱処理は、150〜300℃で7〜48時間行い、温度が150℃未満の場合、炭素の製造収率が低くなり、300℃を超過する場合は水熱処理過程中、運転が困難であるため、範囲を維持することが好ましい。処理時間が7時間未満の場合、炭素の製造収率が低くなり、48時間を超過する場合は製造時間が長くなるだけで、7〜48時間製造した時と同一の結果を得るため、前記範囲を維持することが好ましい。
【0015】
次に、水熱処理で得られた重合された高分子を乾燥し、真空または不活性気体の流れ下で熱処理(炭化)を行い、複合体を製造する。
乾燥は、80〜200℃で12〜48時間行い、温度が80℃未満の場合、重合された高分子は完全に乾燥できず、200℃を超過する場合には、乾燥温度が高いだけで、80〜200℃で乾燥した時と同一の結果を得るため、前記範囲を維持することが好ましい。
【0016】
熱処理は当分野で一般的に行われる方法で行い、特別に限定しない。700〜1500℃の範囲での熱処理による炭化過程で転移金属前駆体が含まれた炭素−シリカ複合体が得られる。温度が700℃未満の場合、製造される炭素の結晶性が落ち、1500℃を超過する場合は熱処理過程中に炭素の収縮現象にて気孔のサイズと炭素の表面積が減少するため、前記範囲を維持することが好ましい。
【0017】
次に、前記熱処理段階後に得られた複合体をフッ素酸または水酸化ナトリウム溶液で処理、濾過および洗浄して結晶性を有する気孔性グラファイト炭素を製造する。
フッ素酸または水酸化ナトリウム溶液を利用した処理は、複合体内のシリカと金属を除去するためのものであり、溶液に3〜24時間含浸させる方法で行う。溶液は濃度が1M〜5Mの範囲を維持し、濃度が1M未満の場合、シリカと金属を完全に除去することができず、5Mを超過する場合には溶液の濃度が濃くなるだけで、1M〜5Mの範囲を維持する場合と同一の結果が得られるため、前記範囲を維持することが好ましい。
次いで、蒸留水で洗浄および濾過過程を経た後、乾燥する。この時、乾燥は蒸留水が蒸発可能な温度、具体的に80〜100℃の温度で行う。
前述した方法で製造されたグラファイト炭素は、比表面積が260〜500m/gであり、結晶性が優れるため、触媒用担体、特に、燃料電池分野の触媒用担体として適用される。
【0018】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。
(実施例1)
サイズが100nmのシリカ粒子5gを硝酸化鉄9.0gとスクロース10.0gを蒸留水150mLに溶解させた溶液に均等に分散させた後、これを高圧反応器に移した後、190℃で9時間攪拌した(水熱処理)。前記段階の生成物を濾過を通して分離し、120℃で12時間乾燥した後、これを1000℃の窒素雰囲気下で3時間熱処理(炭化)を行った。前記熱処理(炭化)過程を経た物質は、シリカ粒子と鉄成分が残っている状態であるため、フッ素酸または水酸化ナトリウムが3Mの濃度を維持する溶液で12時間洗浄および濾過過程を行った後、80℃で乾燥し、結晶性および気孔性を有するグラファイト炭素を製造した。
(実施例2)
【0019】
実施例1と同様に実施するが、金属前駆体の種類をコバルトおよびニッケルにして反応を行い、結晶性および気孔性を有するグラファイト炭素を製造した。
【0020】
(比較例1)
実施例1と同様に実施するが、シリカ粒子を添加せずに炭素を製造した。
(比較例2)
実施例1と同様に実施するが、硝酸化鉄を添加せずに炭素を製造した。
(比較例3)
実施例1と同様に実施するが、水熱処理を行わずに熱処理過程のみを行い、炭素を製造した。
(比較例4)
実施例1と同様に実施するが、硝酸化鉄の代りに硝酸誘導体として1Mの濃度の硝酸を使用して炭素を製造した。
(比較例5)
実施例1と同様に実施するが、硝酸化鉄の代りに金属誘導体として硝酸ナトリウムを使用して炭素を製造した。
【0021】
(実験例1)
図1は各々の実施例で製造された気孔性グラファイト炭素の電子走査顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(HR−TEM)分析の結果である。
図1(a)に示す通り、製造されたグラファイト炭素には均一な気孔が均等に分布し、発達した気孔性を有しており、図1(b)の通り、製造された気孔性グラファイト炭素は格子が発達し、結晶性の高いことが確認できる。
図1(c)と図1(d)は、各々比較例1で製造した炭素の電子走査顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(HR−TEM)写真であり、これらの写真から分かるように、シリカ粒子を添加せずに製造された炭素は結晶性はあるが、気孔性のない球形の形態を有している。
【0022】
(実験例2)
図2は実施例の気孔性グラファイト炭素と比較例2で製造した炭素の結晶性を確認するために測定したX線回折分析の結果である。合わせて、比較例3は比較例2と同一のX線回折分析の結果を示すものである。
比較例2で製造した炭素は、結晶ピークが表れない非晶質の特性を有しており、本発明による実施例にて製造されたグラファイトの特性ピークが発達した結晶性を確認することができる。この結果はスクロースを炭素前駆体として利用して結晶性炭素を製造するためには、金属塩の存在下で水熱処理を行わなければならないことを意味する。
【0023】
(実験例3)
図3は実施例の気孔性グラファイト炭素と比較例3で製造した炭素のラマン分析結果である。合わせて、比較例2は比較例3と同一のラマン分析結果を示した。比較のために多重壁炭素ナノチューブのラマン分析結果を共に図示した。
図3に示した通り、製造された炭素は大きく2点でピークを示しているが、1360cm−1(D−band)で表すピークは炭素の結晶性と密接な関係がある。通常、炭素の結晶性は1580cm−1ピークに対する1360cm−1ピークの面積比で表すが、図示の通り、気孔性グラファイト炭素のピークの面積比は、比較例で製造した炭素の面積比より低いため、気孔性グラファイト炭素が高い結晶性を有していることが分かり、更に、面積比を比較すると、多重壁炭素ナノチューブと比べものにならない程の結晶性を保有していることが分かる。
【0024】
(実験例4)
図4は実施例2の金属前駆体の種類をコバルトおよびニッケルなどにして反応を行い、得られた結晶性および気孔性を有するグラファイト炭素のX線回折分析の結果である。合わせて、比較例4と比較例5のX線回折分析の結果を示した。
図4に示す通り、比較例4と5で製造した炭素は、結晶ピークが表れない非晶質の特性を有しているが、本発明による実施例2で製造されたグラファイトの特性ピークが発達した結晶性を有することを確認することができる。
この結果により、スクロースを炭素前駆体として利用して結晶性炭素を製造するためには、ニッケルとコバルトのような金属塩が使用されることが好ましいことを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による実施例1で製造された気孔性グラファイト炭素と比較例1で製造された炭素の電子走査顕微鏡および高分解能透過電子走査顕微鏡の写真を示したものであり、各々(a)と(b)は実施例1であり、(c)と(d)は比較例1である。
【図2】本発明による実施例1で製造された気孔性グラファイト炭素と比較例2で製造された炭素のX線回折パターンを示したものである。
【図3】本発明による実施例1で製造された気孔性グラファイト炭素、比較例3で製造された炭素および多重壁炭素ナノチューブのラマン分析結果を示したものである。
【図4】本発明による実施例2および比較例4と比較例5で製造された炭素のX線回折パターンを示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロース、転移金属前駆体およびシリカ粒子を蒸留水に分散させて水熱処理し、重合された高分子を製造する1段階、
前記水熱処理の後に得られる重合された高分子を乾燥し、700〜1500℃で真空または不活性気体の流れ下で熱処理を行い、複合体を製造する2段階、および
前記熱処理段階の後に得られる複合体をフッ素酸または水酸化ナトリウム溶液で処理、洗浄および濾過し、グラファイト炭素を製造する3段階を含むことを特徴とする結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項2】
前記スクロースは濃度を3〜20重量%の範囲に維持することを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項3】
前記転移金属前駆体は鉄、ニッケルおよびコバルトの中から選択される転移金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化塩、アンモニア塩および水和塩であることを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項4】
前記転移金属前駆体は、スクロース1モルに対して0.3〜3モル比で使用することを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子は、サイズが20nm〜1μmを維持することを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項6】
前記シリカ粒子は、スクロース1モルに対して0.25〜2モル比で使用することを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項7】
前記水熱処理は150〜300℃で行うことを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項8】
前記グラファイト炭素は、比表面積が260〜500cm/gであることを特徴とする請求項1記載の結晶性が優れた気孔性グラファイト炭素の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7の中から選択されたいずれか一項の製造方法にて得られたグラファイト炭素を担体として適用することを特徴とするグラファイト炭素を担体として適用する燃料電池用触媒。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−40673(P2009−40673A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291571(P2007−291571)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【Fターム(参考)】