説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量で、目詰まりがなく、濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタの提供。
【解決手段】一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化してなり、前記一方の面側がフィブリルによって相互に接続された一連の結節からなる微細構造を有し、該結節のアスペクト比(長さ/幅)が25以上である結晶性ポリマー微孔性膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い結晶性ポリマー微孔性膜及び該結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている(非特許文献1参照)。このような微孔性膜としては、例えばセルロースエステルを原料として製造されるもの(特許文献1等参照)、脂肪族ポリアミドを原料として製造されるもの(特許文献2等参照)、ポリフルオロカーボンを原料として製造されるもの(特許文献3等参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献4参照)、などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーによる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を原料とした微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
また、特許文献5には、ポリテトラフルオロエチレン成分の結晶融点を下回る温度で1軸に伸長し、ポリテトラフルオロエチレン成分の結晶融点を上回る温度までそのテープの温度を高めることによって、その伸長されたテープをアモルファス固定し、ポリテトラフルオロエチレン成分の結晶融点を上回る温度で元の伸長方向に直角な方向に伸長する工程からなる多孔質ポリテトラフルオロエチレン物品の製造方法が提案されている。この提案によれば、濾過流量を高くすることができる。しかし、前記提案では、微孔性膜の単位面積当たりの濾過可能量は少なくなる(即ち濾過寿命が短い)という課題がある。
【0004】
また、特許文献6には、未焼成フィルムの表面に熱エネルギーを付与し、フィルムの厚み方向に温度勾配を形成させる半焼成工程を含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法が提案されている。この提案によれば、非対称構造の微孔により多段濾過が可能となり、微孔性膜の濾過寿命を長くするこができる。しかし、この提案では、濾過流量を高めた微孔性膜を作製することができないという課題がある。更に半焼成工程による結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法では、ある程度の膜厚がなければ膜に温度勾配を形成できず、薄膜化することは困難であるのが現状である。
【0005】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特表平11−515036号公報
【特許文献6】特開平2007−332342号公報
【非特許文献1】アール・ケスティング(R.Kesting)著「シンセティック・ポリマー・メンブラン(Synthetic Polymer Membrane)」マグロウヒル社(McGrawHill社)発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量で、かつ濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ該一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化してなり、
前記一方の面側がフィブリルによって相互に接続された一連の結節からなる微細構造を有し、該結節のアスペクト比(長さ/幅)が25以上であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<2> 微細構造が、一方の面から厚み方向に膜の厚み全体の90%以内の領域である前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<3> 膜厚が50μm以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<4> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<1>から<3>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<5> 結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、
該半焼成フィルムを一軸方向に延伸する第1の延伸工程と、
該第1の延伸後のフィルムを前記非対称加熱工程における加熱と同等又はそれ以上の温度で加熱して焼結する焼結工程と、
該焼結後のフィルムを前記一軸方向と直交する方向に延伸する第2の延伸工程と、を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<6> 焼結工程における加熱が350℃以上の温度である前記<5>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<7> 加熱が、結晶性ポリマーフィルムへの電磁波照射である前記<5>から<6>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<8> 電磁波が赤外線である前記<7>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである前記<5>から<8>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタである。
【0008】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化してなり、前記一方の面側がフィブリルによって相互に接続された一連の結節からなる微細構造を有し、該結節のアスペクト比(長さ/幅)が25以上である。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜においては、長期間にわたって効率よく微粒子を捕捉することができ、高流量で、目詰まりがなく、濾過寿命が長いため工業的に多量の液体などを濾過するのに適している。
【0009】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、該半焼成フィルムを一軸方向に延伸する第1の延伸工程と、該第1の延伸後のフィルムを前記非対称加熱工程における加熱と同等又はそれ以上の温度で加熱して焼結する焼結工程と、該焼結後のフィルムを前記第1の延伸と直交する方向に延伸する第2の延伸工程とを含んでいる。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法においては、本発明の前記微孔性膜を効率よく製造することができる。
【0010】
本発明の濾過用フィルタは、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いているので、平均孔径が大きい面をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。また、比表面積が大きいため微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる効果が大きく、濾過寿命を大きく改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、微粒子を効率良く捕捉することができ、目詰まりがなく、高流量でかつ濾過寿命が長い結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ該一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化してなり、前記一方の面側がフィブリルによって相互に接続された一連の結節からなる微細構造を有し、該結節のアスペクト比(長さ/幅)が25以上である。
【0013】
<微孔性膜の第1の特徴>
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、第1の特徴として、一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ該一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化する。
前記結晶性ポリマー微孔性膜は、一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きい。即ち、膜厚みを「10」とし、表面から深さ方向「1」の厚み部分における平均孔径をP1とし、「9」の厚み部分における平均孔径をP2としたとき、P1/P2が2〜10,000が好ましく、3〜100がより好ましい。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、一方の面と他方の面の平均孔径の比(一方の面/他方の面)が5倍〜30倍が好ましく、10倍〜25倍がより好ましく、15倍〜20倍が更に好ましい。
【0014】
ここで、前記平均孔径は、例えば走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径が求められる。
【0015】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化している態様(第1の態様)と、更に単層構造である態様(第2の態様)の両方が含まれる。これらの態様を更に加えることによって、濾過寿命を効果的に改善することができる。
【0016】
第1の態様でいう「一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化している」とは、横軸に一方の面からの厚み方向の距離d(一方の面からの深さに相当)をとり、縦軸に平均孔径Dをとったときに、グラフが1本の連続線で描かれることを意味する。一方の面(d=0)から他方の面(d=膜厚)に至るまでのグラフは傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであってもよいし、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものであってもよいし、傾きが負の領域と正の領域(dD/dt>0)が混在するものであってもよい。好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであるか、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものである。更に好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである。
【0017】
傾きが負の領域の中には少なくとも膜の一方の面が含まれることが好ましい。傾きが負の領域(dD/dt<0)においては、傾きが常に一定であっても異なっていてもよい。例えば、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである場合、膜の一方の面におけるdD/dtよりも膜の他方の面におけるdD/dtが大きい態様をとることができる。また、膜の一方の面から他方の面に向かうにしたがって徐々にdD/dtが大きくなる態様(絶対値が小さくなる態様)をとることができる。
【0018】
第2の態様でいう「単層構造」からは、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。即ち、第2の態様でいう「単層構造」とは、複層構造に存在する層と層の間の境界を有しない構造を意味する。第2の態様では、膜中に、非加熱面の平均孔径よりも小さくかつ加熱面の平均孔径よりも大きな平均孔径を有する面が存在することが好ましい。
【0019】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、第1の態様の特徴と第2の態様の特徴を両方とも兼ね備えているものが好ましい。即ち、膜の一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きくて、一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化しており、かつ、単層構造であるものが好ましい。このような微孔性膜であれば、平均口径の大きい面側から濾過を行ったときに一段と効率よく微粒子を捕捉することができ、濾過寿命も大きく改善することができるとともに、容易かつ安価に製造することもできる。
【0020】
<微孔性膜の第2の特徴>
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、第2の特徴として、一方の面側がフィブリルによって相互に接続された一連の結節からなる微細構造を有し、該結節のアスペクト比(長さ/幅)が25以上である。
【0021】
前記結節とは、複数のフィブリルがつながっている一次粒子のかたまりであって、該かたまりの径がフィブリル径より太く、径が0.1μm以上のものを意味する。
前記フィブリルとは、融着した2つの粒子同士に機械的な力を加えたときに、粒子間に紡ぎ出される繊維を意味する。
【0022】
前記結節のアスペクト比とは、結節の長さ/幅の平均値を意味する。アスペクト比(長さ/幅)は、25以上であり、50以上が好ましい。前記アスペクト比(長さ/幅)が25未満であると、膜厚に大きく関与する結節部分の延伸効果が不足するため、厚膜となり、流量が悪化することがある。ここで、図2Bにおいて、Cが結節の長さを示し、Dが結節の幅を示す。結節の「長さ」と「幅」は、例えば表面写真撮影(走査型電子顕微鏡(SEM)、光学顕微鏡、レーザ顕微鏡など)により測定することができる。
【0023】
また、フィブリル/結節の面積比は、99:1〜75:25が好ましく、99:1〜85:15がより好ましい。フィブリル/結節の面積比が(75:25)未満であると、結節が多いため、流量不足となることがあり、(99:1)を超えると、孔数が多すぎて、その結果孔径が小さくなりすぎることがある。
前記フィブリル/結節の面積比は、以下の方法で測定することができる。多孔膜表面の写真を走査型電子顕微鏡(日立S−4000型又は日立E1030型)で撮影する(SEM写真、倍率1000倍〜5000倍)。この写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込み、結節とフィブリルに分離し、結節のみからなる像と繊維のみからなる像を得る。結節のみからなる像を演算処理することで最大の結節面積を求め、フィブリルのみからなる像を演算処理しフィブリルの平均径を求めた(総面積を総周長の1/2で割る)。フィブリルと結節の面積比は、フィブリル像の面積の総和と結節像の面積の総和の比から求めることができる。
【0024】
前記微細構造は、一方の面から厚み方向に厚み全体の90%以内の領域であることが好ましく、80%以内がより好ましい。前記微細構造が一方の面から厚み方向に厚み全体の90%を超えると、緻密層が薄くなりすぎて捕捉性が悪化することがある。
【0025】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚は、50μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましい。前記膜厚が50μmを超えると、流量が不足することがある。前記膜厚は、例えば1000分の1mmダイヤルシックネスゲージ(テクロック社製、品番SM1201)を用いて測定することができ、膜内の任意の5箇所を測定し、その平均値を「膜厚」とした。
【0026】
−結晶性ポリマー−
本発明において、前記「結晶性ポリマー」とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを意味し、このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、初めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0027】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル、などが挙げられる。
これらの中でも、耐薬品性と取り扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、該ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点から、HDPEが特に好ましい。
【0028】
前記ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。
【0029】
前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、ポリフロンPTFE F−104、ポリフロンPTFE F−201、ポリフロンPTFE F−205、ポリフロンPTFE F−207、ポリフロンPTFE F−301(いずれも、ダイキン工業株式会社製);Fluon PTFE CD1、Fluon PTFE CD141、Fluon PTFE CD145、Fluon PTFE CD123、Fluon PTFE CD076、Fluon PTFE CD090(いずれも、旭硝子株式会社製);テフロン(登録商標)PTFE 6−J、テフロン(登録商標)PTFE 62XT、テフロン(登録商標)PTFE 6C−J、テフロン(登録商標)PTFE 640−J(いずれも、三井デュポンフロロケミカル株式会社製)、などが挙げられる。これらの中でも、F−104、CD1、CD141、CD145、CD123、6−Jが好ましく、F−104、CD1、CD123,6−Jがより好ましく、CD123が特に好ましい。
【0030】
前記結晶性ポリマーは、そのガラス転移温度又は融点が、40℃〜400℃であることが好ましく、50℃〜350℃がより好ましい。
前記結晶性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜100,000,000が好ましい。
前記結晶性ポリマーの数平均分子量は、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0031】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、非対称加熱工程と、第1の延伸工程と、焼結工程と、第2の延伸工程とを含み、結晶性ポリマーフィルム作製工程、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0032】
−結晶性ポリマーフィルム作製工程−
前記結晶性ポリマーフィルム作製は、結晶性ポリマーを押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することにより行われる。
前記結晶性ポリマーとしては、上述したものの中から目的に応じて適宜選択することができる。
前記押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的には、ソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市販品を用いることができ、例えばエッソ石油株式会社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いても構わない。前記押出助剤の添加量は、前記結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0033】
ペースト押出しは、通常50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。前記圧延は、例えばカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常50℃〜70℃に設定することができる。
その後、フィルムを加熱乾燥することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未加熱フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度としては、特に制限はなく、用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜選定することができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。結晶性ポリマーとして、例えばポリテトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。
前記加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未加熱フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後工程での延伸による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
なお、結晶性ポリマー未加熱フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0034】
−非対称加熱工程−
前記非対称加熱工程は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する工程である。
ここで、前記半焼成とは、結晶性ポリマーをその加熱体の融点以上であり、かつ、その未加熱体の融点+15℃以下の温度で加熱処理することを意味する。
本発明において、結晶性ポリマーの未加熱体とは、非対称加熱処理をしていないものを意味する。また、結晶性ポリマーの加熱体とは、未加熱体の融点以上の温度で加熱処理したものを意味する。
前記結晶性ポリマーの融点とは、結晶性ポリマーの未加熱体を示差走査熱量計により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。前記加熱体の融点及び未加熱体の融点は、結晶性ポリマーの種類や平均分子量等により変化するが、50℃〜450℃が好ましく、80℃〜400℃がより好ましい。
このような温度は、以下のように考えることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレンの場合、加熱体の融点が約324℃で未加熱体の融点が約345℃である。従って、半焼成体にするには、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの場合、327℃〜360℃が好ましく、335℃〜350℃がより好ましく、例えば345℃の温度に加熱する。半焼成体は、融点約324℃のものと融点約345℃のものが混在している状態である。
【0035】
前記半焼成は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して行う。これにより、厚み方向に非対称に加熱温度を制御することができ、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を容易に製造することができる。
また、フィルムの厚み方向の温度勾配としては、表面と裏面の温度差は30℃以上が好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
前記加熱方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、(1)結晶性ポリマーフィルムに熱風を吹き付ける方法、(2)結晶性ポリマーフィルムに熱媒に接触させる方法、(3)結晶性ポリマーフィルムを加熱部材に接触させる方法、(4)結晶性ポリマーフィルムに電磁波を照射する方法、などが挙げられる。
【0036】
前記(1)の熱風を吹き付ける方法としては、気体を加熱できる装置を用いる方法であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばヒートガン、ダクトヒーターなどが挙げられる。これらの中でも、ダクトヒーター特に好ましい。また、熱風の温度としては350℃以上が好ましく、360℃であることが特に好ましい。
【0037】
前記(2)の熱媒に接触させる方法としては、例えば加熱水蒸気、溶融塩、溶融金属などを熱媒として用いる方法などが挙げられる。これらの中でも、加熱水蒸気を熱媒として用いる方法が特に好ましい。また、前記熱媒の温度としては350℃以上が好ましく、360℃が特に好ましい。
【0038】
前記(3)の加熱部材としては、例えば加熱板、加熱ロールなどが挙げられ、加熱ロールが特に好ましい。前記加熱ロールであれば、工業的に流れ作業で連続的に非対称加熱を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。加熱ロールの温度は、上記半焼成体にする際の温度に設定することができる。加熱ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする非対称加熱が十分に進行するのに必要な時間であり、5秒間〜120秒間が好ましく、10秒間〜90秒間がより好ましく、15秒間〜80秒間が更に好ましい。
【0039】
前記(4)電磁波としては、例えばX線、ガンマ線、電子線、マイクロ波、赤外線などが挙げられ、これらの中でも、表層の加熱に適する点から赤外線が特に好ましい。
前記赤外線の一般的な定義は「実用赤外線」(人間と歴史社、1992年発行)を参考にすることができる。本発明において、前記赤外線とは、波長が0.74μm〜1,000μmの電磁波を意味し、そのうち波長が0.74μm〜3μmの範囲を近赤外線とし、波長が3μm〜1,000μmの範囲を遠赤外線とする。
本発明においては、未加熱フィルムの表面と裏面での温度差がある方が好ましいため、表層の加熱に有利な遠赤外線が好ましく使用される。
前記赤外線の装置の種類としては、目的の波長の赤外線が照射できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に、近赤外線は電球(ハロゲンランプ)、遠赤外線はセラミック、石英、金属酸化面などの発熱体を用いることができる。
また、赤外線照射であれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。また非接触であるため、クリーン、かつ毛羽立ちのような欠陥が生じることがない。
前記赤外線照射によるフィルム表面温度は、赤外線照射装置の出力、赤外線照射装置とフィルム表面の距離、照射時間(搬送速度)、雰囲気温度で制御でき、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができるが、327℃〜380℃が好ましく、335℃〜360℃がより好ましい。前記表面温度が、327℃未満であると、結晶状態が変化せず、孔径制御ができなくなることがあり、380℃を超えると、フィルム全体が溶融することにより過度に形状が変形したり、ポリマーの熱分解が生じることがある。
前記赤外線の照射時間は、特に制限はなく、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、5秒間〜120秒間が好ましく、10秒間〜90秒間がより好ましく、15秒間〜80秒間が更に好ましい。
【0040】
前記非対称加熱工程における赤外線照射は、連続的に行ってもよく、又は何度かに分割して間欠的に行ってもよい。
連続的にフィルムの一方の面を赤外線照射により加熱する場合には、フィルムの一方と他方の面で濃度勾配を保持するため、一方の面の加熱と同時に他方の面を冷却することが好ましい。
前記他方の面を冷却する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば冷風を吹き付ける方法、冷媒に接触させる方法、冷却した材料に接触させる方法、放冷による冷却等の種々の方法が使用でき、フィルムの加熱面に冷却物を接触させる方法は、接触物表面が遠赤外線により加熱されるため好ましくない。
また、前記非対称加熱工程を間欠的に行う場合にも、フィルムの前記他方の面を間欠的に加熱及び冷却し、前記一方の面の温度上昇を抑制することが好ましい。
【0041】
−焼結工程−
前記焼結工程は、第1の延伸後のフィルムを非対称加熱工程における加熱と同等、又はそれ以上の温度で加熱して焼結する工程である。
前記焼結工程は、350℃以上の温度で加熱することが好ましく、350℃〜390℃で加熱することがより好ましい。前記焼結工程における加熱が390℃を超えると、フィブリルの切断や融着が生じるおそれがある。
前記焼結する方法としては、特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、(1)結晶性ポリマーフィルムに熱風を吹き付ける方法、(2)結晶性ポリマーフィルムに熱媒に接触させる方法、(3)結晶性ポリマーフィルムを加熱部材に接触させる方法、(4)結晶性ポリマーフィルムに電磁波を照射する方法、などが挙げられる。
これらの中でも、(3)加熱部材に接触させる方法、(4)電磁波を照射する方法が特に好ましい。
【0042】
−第1の延伸工程と第2の延伸工程−
第1の延伸工程は、半焼成フィルムを一軸方向に延伸する工程であり、第2の延伸工程は、焼結後のフィルムを前記一軸方向と直交する方向に延伸する工程である。
前記延伸は、長手方向又は幅方向について行う。前記第1の延伸工程においては、図面1A及び図面2AのAに示す長手方向について行うのが好ましく、前記第2の延伸工程においては、図面1B及び図面2BのBに示す幅方向について行うのが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率は、4倍〜100倍が好ましく、8倍〜90倍がより好ましく、10倍〜80倍が更に好ましい。長手方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率は、3倍〜100倍が好ましく、5倍〜90倍がより好ましく、10倍〜70倍が更に好ましく、20倍〜40倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度は、100℃〜400℃が好ましく、200℃〜390℃がより好ましく、250℃〜380℃が特に好ましい。
面積延伸倍率は、50倍〜250倍が好ましく、75倍〜200倍がより好ましく、100倍〜150倍が更に好ましい。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度に結晶性ポリマーフィルムを予備加熱しておいてもよい。
なお、延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマーの融点未満で行うことが好ましい。
【0043】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、様々な用途に用いることができるが、特に、以下に説明する濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【0044】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を濾過用フィルタとして用いるときは、その表面(平均孔径が大きい面)をインレット側として濾過を行う。即ち、ポアサイズの大きな表面側をフィルタの濾過面に使用する。このように、平均孔径が大きい面(表面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率よく微粒子を捕捉することができる。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0045】
本発明の濾過用フィルタは、差圧100kPaとして濾過を行った時に、少なくとも50L/m・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
本発明の濾過用フィルタの形状としては、濾過膜をひだ折りするプリーツ型、濾過膜をのり巻き状にするスパイラル型、円板状の濾過膜を積層させるフレーム・アンド・プレート型、濾過膜を管状にするチューブ型などがある。これらの中でも、カートリッジあたりのフィルタの濾過に使用する有効表面積を増大させることができる点から、プリーツ型が特に好ましい。
また、劣化した濾過膜を取り換える際にフィルターエレメントのみを取り換えるエレメント交換式フィルターカートリッジと、フィルターエレメントを濾過ハウジングと一体に加工しハウジングごと使い捨てのタイプにしたカプセル式のフィルターカートリッジとに分類される。
【0046】
ここで、図7はエレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密濾過膜103は2枚の膜サポート102、104によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー105の廻りに巻き付けられている。その外側には外周カバー101があり、精密濾過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート106a、106bにより、精密濾過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット107を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。濾過された液体はコアーの集液口から集められ、流体出口108から排出される。
【0047】
カプセル式のプリーツフィルターカートリッジを図8及び図9に示す。
図8はカプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密濾過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密濾過膜2は2枚のサポート3、5によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア9の廻りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー8があり、精密濾過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート6、下部エンドプレート7により、精密濾過膜がシールされている。
図9は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す。フィルターエレメント12はハウジングベースとハウジングカバーよりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリング10を介してハウジングベース中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズルからハウジング内に入り、フィルターメディア11を通過し、フィルターエレメントコア9の集液口から集められ、液出口ノズル16から排出される。ハウジングベースとハウジングカバーは通常溶着部19で液密に熱融着される。
【0048】
図8は、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールをOリングを介して行う事例を示しているが、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。またハウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図7〜9は精密濾過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図に限定されるわけではない。
【0049】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0050】
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタは耐熱性及び耐薬品性に優れているため、従来の濾過用フィルタでは対応できなかった高温濾過や反応性薬品の濾過にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
<ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製>
−予備成形体の作製−
結晶性ポリマーとして数平均分子量が1000万のポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(旭硝子株式会社製、「Fluon PTFE CD123」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーH」)22質量部を加えた。これを図10に示すように敷き詰め、加圧し、密度1.33kg/mの予備成形体110とした(図11参照)。
【0053】
−未焼成フィルムの作製−
作製した予備成形体110を、図12に示すようなペースト押し出し金型のシリンダー内に挿入し、シート状にペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。得られたポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚さ150μm、平均幅150mm、密度1.55kg/mのポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
【0054】
−半焼成フィルム1の作製(ロール加熱)−
得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを345℃に加熱したスチールロール(由利ロール株式会社製 「誘導発熱方式高温高速カレンダー機(由利ロール株式会社内に設置)」に搭載の誘導発熱金属ロール)で1分間加熱して、半焼成フィルム1を作製した。このとき用いたロールの定常状態(0.1秒間隔の温度測定において10秒間の温度バラツキが1℃以内である状態)での幅方向の温度分布を赤外線サーモグラフィーにより測定したところ、最大温度部位と最小温度部位との温度差は1.0℃であった。
【0055】
−ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製−
得られた半焼成フィルム1を270℃にて長手方向(図2AにおけるA方向)に13倍にロール間延伸し(第1の延伸工程)、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを345℃に加熱したスチールロールで1分間加熱した。図2Aは、第1の延伸工程を示す模式図である。図5Aは、第1の延伸工程後の膜の非加熱面を示すレーザ顕微鏡写真(キーエンス社製、レーザ顕微鏡 VK8700)である。その後、ダクトヒータによる加熱ゾーンを用いてフィルムを380℃で1分間加熱した(焼結工程)。その後、フィルムの両端をクリップで挟み、375℃で幅方向(図2BにおけるB方向)に5倍に延伸した(第2の延伸工程)。図2Bは、第2の延伸工程を示す模式図である。その後、380℃で熱固定を行った。以上により、実施例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。図5Bは、膜の非加熱面を示すレーザ顕微鏡写真である。図6は、膜の加熱面を示すレーザ顕微鏡写真である。図5Bから新たなフィブリル化はなく、結節が延び、アスペクト比は大きくなったことが分った。
得られた微孔性膜の断面のレーザ顕微鏡写真より、一方の面(非加熱面)から厚み方向に厚み全体の70%までが微細構造であった。
【0056】
(実施例2)
<ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製>
実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
【0057】
−半焼成フィルム2の作製(赤外線加熱)−
得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムの一方の面を、タングステンフィラメント内蔵のハロゲンヒーターで近赤外線により、フィルム表面温度が345℃で1分間加熱して、半焼成フィルム2を作製した。
【0058】
−ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製−
得られた半焼成フィルム2を270℃にて長手方向(図2AにおけるA方向)に13倍にロール間延伸し(第1の延伸工程)、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを345℃で1分間加熱した。その後、ハロゲンヒーターを用いてフィルムを380℃で1分間加熱した後(焼結工程)、両端をクリップで挟み、375℃で幅方向(図2BにおけるB方向)に5倍に延伸した(第2の延伸工程)。その後、380℃で熱固定を行った。以上により、実施例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
得られた微孔性膜の断面のレーザ顕微鏡写真より、一方の面(非加熱面)から厚み方向に厚み全体の70%までが微細構造であった。
【0059】
(比較例1)
<ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製>
実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
【0060】
−半焼成フィルム2の作製(赤外線加熱)−
得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムの一方の面を、タングステンフィラメント内蔵のハロゲンヒーターで近赤外線により、フィルム表面温度が345℃で1分間加熱して、半焼成フィルム2を作製した。
【0061】
−ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製−
得られた半焼成フィルム2を270℃にて長手方向(図1AにおけるA方向)に13倍にロール間延伸し(第1の延伸工程)、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを304℃で1分間加熱した。図1Aは、第1の延伸工程を示す模式図である。図3Aは、第1の延伸工程後の膜の非加熱面を示すレーザ顕微鏡写真である。次に、フィルムの両端をクリップで挟み、270℃で幅方向(図1BにおけるB方向)に5倍に延伸した(第2の延伸工程)。図1Bは、第2の延伸工程を示す模式図である。その後、380℃で熱固定を行った。以上により、比較例1のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。図3Bは、膜の非加熱面を示すレーザ顕微鏡写真である。図4は、膜の加熱面を示すレーザ顕微鏡写真である。図3Bから新たなフィブリル化が起こり、アスペクト比も小さくなったことが分った。
得られた微孔性膜の断面のレーザ顕微鏡写真より、一方の面(非加熱面)から厚み方向に厚み全体の0%までが微細構造であった。
【0062】
(比較例2)
<ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製>
実施例1において、未焼成フィルムに半焼成処理(非対称加熱処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例2のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
得られた微孔性膜の断面のレーザ顕微鏡写真より、一方の面(非加熱面)から厚み方向に厚み全体の100%が微細構造であった。
【0063】
(比較例3)
<ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の作製>
実施例1において、第一の延伸と第二の延伸の間の焼結工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例3のポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
得られた微孔性膜の断面のレーザ顕微鏡写真より、一方の面(非加熱面)から厚み方向に厚み全体の0%が微細構造であった。
【0064】
次に、作製した実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、以下のようにして、結節のアスペクト比及びフィブリル/結節の面積比を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
<結節のアスペクト比>
実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の結節の長さ及び幅をレーザ顕微鏡(キーエンス社製、レーザ顕微鏡 VK8700)を用い、任意の5視野における、結節の長さ/幅を求めその平均値をアスペクト比とした。結果を表1に示す。
【0066】
<フィブリル/結節の面積比>
実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜のフィブリル及び結節について走査型電子顕微鏡(日立S−4000型又は日立E1030型)で撮影した(SEM写真、倍率1000倍〜5000倍)。この写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込み、結節とフィブリルに分離し、結節のみからなる像とフィブリルのみからなる像を得た。次に、結節のみからなる像を演算処理することで最大の結節面積を求め、フィブリルのみからなる像を演算処理しフィブリルの平均径を求めた(総面積を総周長の1/2で割る)。フィブリルと結節の面積比は、フィブリル像の面積の総和と結節像の面積の総和の比から求めた。結果を表1に示す。
【0067】
次に、作製した実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、該微孔性膜の加熱されていない表面の平均孔径が加熱されている裏面の平均孔径よりも大きく、かつ表面から裏面に向かって平均孔径が連続的に変化しているか否かを確認するため、以下のようにして、フィルム厚み(膜厚)、及びP1/P2の測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
<フィルムの厚み(膜厚)>
実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の厚み(膜厚)を1000分の1mmダイヤルシックネスゲージ(テクロック社製、SM1201)により測定した。任意の5箇所を測定し、その平均値を求め膜厚とした。
【0069】
<P1/P2の測定>
実施例1〜2及び比較例1〜3の各ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜について、微孔性膜の膜厚を「10」とし、表面から深さ方向「1」の厚み部分における平均孔径をP1とし、「9」の厚み部分の平均孔径をP2としたときのP1/P2を求めた。
ここで、前記微孔性膜の平均孔径は、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んでポリテトラフルオロエチレン繊維のみからなる像を得、その像を演算処理することにより平均孔径を求めた。
【0070】
【表1】

【0071】
<濾過寿命テスト>
濾過寿命の測定は、多分散粒径のラテックス分散液を用い、実質的に目詰まりするまでの濾過量(L/m)で評価した。本発明における「実質的に目詰まりする」とは、一定濾過圧において、初期流量の1/2まで流量が低下した時点と定義する。本測定で用いるラテックス分散液に用いるラテックスの種類は、膜の孔径によって適宜選択される。選択の条件としては、濾過後の液に含まれる粒子が1ppm以下であり、かつラテックスの平均粒径と膜の孔径の比が1/5〜5であった。分散媒としてはイソプロパノールを用い、濃度としては100ppmで行った。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
<流量テスト>
流量測定は、JIS K3831に従い以下の条件で行った。試験方法の種類は「加圧濾過試験方法」を用い、サンプルは直径13mmの円形に切り出し、ステンレス製のホルダーにセットして測定を行った。試験液としてはイソプロパノールを用い、圧力100kPaにおいて100mLの試験液を濾過するのに要した時間を測り、流量(L/min・m)を算出した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
(実施例3)
−フィルターカートリッジ化−
実施例1のPTFE微孔性膜を以下の構成のように積層し、ひだ幅12.5mmにプリーツ(プリーツ幅=220mm)し、その230山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着する。円筒の両端15mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジに仕上げた。
−構成−
1次側 ネット AET社製DELNET(RC−0707−20P)
厚み:0.13mm、坪量:31g/m、使用面積:約1.3m
1次側 不織布 三井化学株式会社製シンテックス(PK−404N)
厚み:0.15mm、使用面積:約1.3m
ろ材 実施例1のPTFE微孔性膜
厚み:約0.05mm、使用面積:約1.3m
2次側 ネット AET社製DELNET(RC−0707−20P)
厚み:0.13mm、坪量:31g/m、使用面積:約1.3m
本発明の実施例3のフィルターカートリッジは、本発明の実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を用いているため、耐溶剤性に優れている。また、結晶性ポリマー微孔性膜の孔部が非対称構造を有するため、大流量かつ目詰まりを起こしにくく長寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、長期間にわたって効率よく微粒子を捕捉することができ、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過などに幅広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1A】図1Aは、第1の延伸工程を示す図である。
【図1B】図1Bは、第2の延伸工程を示す図である。
【図2A】図2Aは、第1の延伸工程を示す図である。
【図2B】図2Bは、焼結後の第2の延伸工程を示す図である。
【図3A】図3Aは、比較例1の第1の延伸工程後における膜の非加熱面を示す電子顕微鏡写真である。
【図3B】図3Bは、比較例1で得られた結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、比較例1で得られた結晶性ポリマー微孔性膜の加熱面を示す電子顕微鏡写真である。
【図5A】図5Aは、実施例1の第1の延伸工程後における膜の非加熱面を示す電子顕微鏡写真である。
【図5B】図5Bは、実施例1で得られた結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例1で得られた結晶性ポリマー微孔性膜の加熱面を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図8】図8は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図9】図9は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【図10】図10は、結晶性ポリマー微孔膜の製造工程の一例を示す図である。
【図11】図11は、予備成形体の一例を示す図である。
【図12】図12は、結晶性ポリマー微孔膜の製造工程の他の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 結節
2 フィブリル
3 一次側サポート
4 精密濾過膜
5 二次側サポート
6 上部エンドプレート
7 下部エンドプレート
8 フィルターエレメントカバー
9 フィルターエレメントコア
10 Oリング
11 フィルターメディア
12 フィルターエレメント
13 ハウジングカバー
14 ハウジングベース
15 液入口ノズル
16 液出口ノズル
17 エアーベント
18 ドレン
19 溶着部
101 外周カバー
102 膜サポート
103 精密濾過膜
104 膜サポート
105 コアー
106a、106b エンドプレート
107 ガスケット
108 液体出口
109 下金型
110 予備成形体
111 ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面の平均孔径が他方の面の平均孔径よりも大きく、かつ該一方の面から他方の面に向けて平均孔径が連続的に変化してなり、
前記一方の面側がフィブリルによって相互に接続された一連の結節からなる微細構造を有し、該結節のアスペクト比(長さ/幅)が25以上であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項2】
微細構造が、一方の面から厚み方向に膜の厚み全体の90%以内の領域である請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項3】
膜厚が50μm以下である請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項4】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1から3のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項5】
結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、
該半焼成フィルムを一軸方向に延伸する第1の延伸工程と、
該第1の延伸後のフィルムを前記非対称加熱工程における加熱と同等又はそれ以上の温度で加熱して焼結する焼結工程と、
該焼結後のフィルムを前記一軸方向と直交する方向に延伸する第2の延伸工程と、を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項6】
焼結工程における加熱が350℃以上の温度である請求項5に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項7】
加熱が、結晶性ポリマーフィルムへの電磁波照射である請求項5から6のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項8】
電磁波が赤外線である請求項7に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項9】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンである請求項5から8のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタ。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−58024(P2010−58024A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225164(P2008−225164)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】