説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタの提供。
【解決手段】結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面の少なくとも一部が、ビニル化合物と、少なくとも一つの官能性化合物との反応物により被覆され、前記ビニル化合物が、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物である結晶性ポリマー微孔性膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等の精密濾過に使用される濾過効率の高い結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られており、濾過用フィルタ等に広く利用されている。このような微孔性膜としては、例えば、セルロースエステルを原料として製造されるもの(特許文献1参照)、脂肪族ポリアミドを原料として製造されるもの(特許文献2参照)、ポリフルオロカーボンを原料として製造されるもの(特許文献3参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(特許文献4参照)などが挙げられる。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーによる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を原料とした微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
一般に、微孔性膜の単位面積当たりの濾過可能量は少ない(即ち濾過寿命が短い)。このため、工業的に使用する際には、膜面積を増すため、多くの濾過ユニットを並列して使用することを余儀無くされており、濾過工程のコストダウンの観点から、濾過寿命を上げることが必要とされている。
【0004】
例えば、目詰まり等による流量低下に有効な微孔性膜として、インレット側からアウトレット側に向かって平均孔径が徐々に小さくなる非対称孔膜が提案されている。
例えば、膜の表面の平均孔径が裏面の平均孔径よりも大きくて、かつ表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化する結晶性ポリマーの微孔性膜が提案されている(特許文献5参照)。この提案によると、平均孔径が大きい面(表面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率良く微粒子を捕捉することができ、濾過寿命を改善することができる。
【0005】
非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の親水化処理方法として、例えば、特許文献6では、非対称孔構造の結晶性ポリマーの微孔性膜の露出表面を、過酸化水素又は水溶性溶剤の水溶液の含浸、レーザー照射、化学的エッチングなどで親水化処理することが提案されている。
しかし、非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜においては、加熱面、非加熱面、及びその内部を有し、それぞれの部位における結晶性ポリマーの結晶化度が異なることから、前記提案の親水化処理方法では、膜全体に対する一律の親水化ができず、親水化処理を行おうとすると、結晶化度に応じた条件ごとに何回かに分けて親水化処理を行う必要があり、効率が悪いものである。また、作製された親水化処理膜の親水性も十分満足できるものではなかった。更に、紫外線レーザー及びArFレーザーを照射して親水化処理する方法では、紫外線レーザー及びArFレーザーの照射により、膜を傷つけることがあり、膜強度を劣化させてしまうという問題もあった。
【0006】
また、水軟化への用途で通常使用される圧力において、高流束を示し、低圧で操作しても分離性を保持する膜として、膜断面での不均一分布を有する非対称膜が提案されている(特許文献7参照)。この非対称膜は、微多孔質膜基材の孔に、官能基を有するポリマー又は重合成モノマー及び架橋剤の溶液を充填し、その後、溶媒の一部を蒸発させ、架橋又は重合及び架橋を進行させて形成される。しかしながら、この非対称膜の性能は、前記プロセス中の蒸発時間に依存し、短すぎると、流束は高いが除去率は低くなり、また長すぎると流束が増加し、かつ除去率も低下する。これらの影響の原因は明らかでなく、絶対的な蒸発時間は、除去される溶媒の揮発性、温度、気流などに依存するため、安定して非対称膜を得ることができない点で問題であった。
【0007】
したがって耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタの提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開2007−332342号公報
【特許文献6】特開2009−119412号公報
【特許文献7】特開2004−534647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面の少なくとも一部が、ビニル化合物と、少なくとも一つの官能性化合物との反応物により被覆され、
前記ビニル化合物が、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性である。
<2> ビニル化合物を重合させてなる前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<3> ビニル化合物の官能性基が、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<4> 官能性化合物の少なくとも一つは、イオン交換基、キレート基、及びこれらの誘導体基のいずれかを有し、かつ、少なくとも一つは、ビニル化合物との反応性基を有する化合物である前記<1>から<3>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<5> 官能性化合物のビニル化合物との反応性基が、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<4>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<6> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<7> 第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<8> 露出表面にビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆前の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径dと、第2の面における平均孔径dとの比(d/d)と、
露出表面にビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’と、第2の面における平均孔径d’との比(d’/d’)とが、次式、(d’/d’)/(d/d)>1、を満たす前記<7>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<9> 結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面に、少なくとも一つの不飽和性基及び官能性基をそれぞれ有するビニル化合物を付与し、該ビニル化合物を重合させる親水化処理工程と、
前記ビニル化合物の一部に、少なくとも一つの官能性化合物を付加反応させる付加反応処理工程と、
を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、
前記半焼成フィルムを延伸する延伸工程と、
を更に含む前記<9>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<11> ビニル化合物の官能性基が、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<9>から<10>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<12> 官能性化合物の少なくとも一つは、イオン交換基、キレート基、及びこれらの誘導体基のいずれかを有し、かつ、少なくとも一つは、ビニル化合物との反応性基を有する化合物である前記<9>から<11>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<13> 官能性化合物のビニル化合物との反応性基が、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である前記<9>から<12>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<14> 結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である前記<9>から<13>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<15> 延伸工程が、半焼成フィルムを一軸方向に延伸する前記<9>から<14>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<16> 延伸工程が、半焼成フィルムを二軸方向に延伸する前記<9>から<15>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<17> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする濾過用フィルタである。
<18> プリーツ状に加工成形される前記<17>に記載の濾過用フィルタである。
<19> 第1の面をフィルタの濾過面とする前記<17>から<18>のいずれかに記載の濾過用フィルタである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れた結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜を効率良く製造することができる結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに該結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ハウジングに組み込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図2】図2は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図3】図3は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【図4A】図4Aは、実施例2におけるビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆前の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【図4B】図4Bは、実施例2におけるビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆後の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【図5A】図5Aは、実施例1におけるビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆前の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【図5B】図5Bは、実施例1におけるビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆後の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面の少なくとも一部が、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物と、少なくとも一つの官能性化合物との反応物により被覆されている。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、親水化処理工程と、付加反応処理工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更に、非対称加熱工程、延伸工程、結晶性ポリマーフィルム作製工程などのその他の工程を含む。
以下、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法について詳細に説明する。
【0014】
本発明の結晶性ポリマーの微孔性膜は、結晶性ポリマーからなるフィルムを、後述するように、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物と、少なくとも一つの官能性化合物との反応物で被覆し、親水化処理してなる。
また、前記結晶性ポリマーからなるフィルムは、結晶性ポリマーからなるフィルムの一方の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを延伸したものであることが好ましい。
この場合、前記第1の面における平均孔径よりも平均孔径が小さい側の前記第2の面を加熱面とすることが好ましい。
前記孔部は、第1の面から第2の面への連続孔(両端が開口している)となっている。
以下においては、平均孔径が大きい側の第1の面を「非加熱面」とし、平均孔径が小さい側の第2の面を「加熱面」として説明する。これは本発明の説明をわかりやすくするために便宜的につけた呼称に過ぎない。したがって、未焼成の結晶性ポリマーフィルムのいずれの面を加熱して半焼成後に「加熱面」にしても構わない。
【0015】
<結晶性ポリマー>
前記「結晶性ポリマー」とは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを意味し、このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0016】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリエーテルニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、耐薬品性や扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点から、HDPEが特に好ましい。
【0017】
前記結晶性ポリマーは、そのガラス転移温度が、40℃〜400℃が好ましく、50℃〜350℃がより好ましい。また、前記結晶性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜100,000,000が好ましい。前記結晶性ポリマーの数平均分子量は、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜10,000,000がより好ましい。
【0018】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有することが好ましい。即ち、非加熱面(第1の面)の平均孔径が加熱面(第2の面)の平均孔径よりも大きいことが好ましい。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、膜厚みを「10」とし、表面から深さ方向「1」の厚み部分における平均孔径をP1とし、「9」の厚み部分における平均孔径をP2としたとき、P1/P2が2〜10,000が好ましく、3〜100がより好ましい。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、非加熱面と加熱面の平均孔径の比(非加熱面/加熱面比)が5倍〜30倍が好ましく、10倍〜25倍がより好ましく、15倍〜20倍が更に好ましい。
【0019】
ここで、前記平均孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも株式会社日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)を撮り、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像における孔径を所定数測定し、それを演算処理することにより、平均孔径を求めることができる。
【0020】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜には、上記の特徴に加えて、更に非加熱面(第1の面)から加熱面(第2の面)に向けて平均孔径が連続的に変化している態様(第1の態様)と、上記の特徴に加えて更に単層構造である態様(第2の態様)の両方が含まれる。これらの付加的な特徴を更に加えることによって、濾過寿命を効果的に改善することができる。
【0021】
第1の態様でいう「非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化している」とは、横軸に非加熱面からの厚み方向の距離d(表面からの深さに相当)をとり、縦軸に平均孔径Dをとったときに、グラフが1本の連続線で描かれることを意味する。非加熱面(d=0)から加熱面(d=膜厚)に至るまでのグラフは傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであってもよいし、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものであってもよいし、傾きが負の領域と正の領域(dD/dt>0)が混在するものであってもよい。好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであるか、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものである。更に好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである。
【0022】
傾きが負の領域の中には少なくとも膜の非加熱面が含まれることが好ましい。傾きが負の領域(dD/dt<0)においては、傾きが常に一定であっても異なっていてもよい。例えば、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである場合、膜の非加熱面におけるdD/dtよりも膜の加熱面におけるdD/dtが大きい態様をとることができる。また、結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面から加熱面に向かうにしたがって徐々にdD/dtが大きくなる態様(絶対値が小さくなる態様)をとることができる。
【0023】
第2の態様でいう「単層構造」からは、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。即ち、第2の態様でいう「単層構造」とは、複層構造に存在する層と層の間の境界を有しない構造を意味する。第2の態様では、膜中に、非加熱面の平均孔径よりも小さくかつ加熱面の平均孔径よりも大きな平均孔径を有する面が存在することが好ましい。
【0024】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、第1の態様の特徴と第2の態様の特徴を両方とも兼ね備えているものが好ましい。即ち、結晶性ポリマー微孔性膜の非加熱面の平均孔径が加熱面の平均孔径よりも大きくて、非加熱面から加熱面に向けて平均孔径が連続的に変化しており、かつ単層構造であるものが好ましい。このような結晶性ポリマー微孔性膜であれば、非加熱面側から濾過を行ったときに一段と効率良く微粒子を捕捉することができ、濾過寿命も大きく改善することができるとともに、容易かつ安価に製造することもできる。
【0025】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の膜厚は、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜100μmがより好ましく、10μm〜80μmが更に好ましい。
【0026】
本発明においては、前記結晶性ポリマー微孔性膜の露出表面の少なくとも一部が、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物で被覆され(親水化処理)、更に少なくとも一つの官能性化合物により被覆されている(付加反応処理)。
ここで、前記露出表面には、結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面以外にも、孔部の周囲、孔部の内部も含まれる。
【0027】
<ビニル化合物>
前記ビニル化合物とは、ビニル基(CH=CH−)を有する化合物である。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜において、前記ビニル化合物は、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有する。
【0028】
前記ビニル化合物が有する官能性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、これら誘導体基などが挙げられる。
これらの中でも、前記ビニル化合物は、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基を有することが官能性化合物との反応性がよく、反応後にできる結合部位の耐酸、耐アルカリ性が高いという点で好ましい。
【0029】
このような、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ジアリルアミン、N,N−ジメチルジアリルアミン、アリルアミン、ビニルベンジルアミン、アリルアルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、アリルグリシジルエーテルは、官能性化合物と付加反応できる点で、スチレンスルホン酸及びビニルスルホン酸は、前記結晶性ポリマー微孔性膜に優れた親水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐薬品性を付与できる点で、好ましい。
ただし、前記ビニル化合物は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド誘導体でないことが好ましい。
【0030】
<官能性化合物>
前記官能性化合物としては、少なくとも一つがイオン交換基、キレート基、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種を有し、かつ、少なくとも一つが前記ビニル化合物との反応性基を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
−イオン交換基−
前記イオン交換基は、金属イオン等をイオン結合により捕捉する官能基である。
前記イオン交換基としては、金属イオンとイオン結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基等のカチオン交換基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基、4級アンモニウム塩基等のアニオン交換基などが挙げられる。
【0032】
前記イオン交換基を有する化合物の具体例としては、スルホン酸基を有するタウリン、ヒドロキシプロピルスルホン酸や、リン酸基を有するホスホリルエタノールアミン、4級アンモニウム塩基を有するコリン(TCI社製)などが挙げられる。
【0033】
−キレート基−
前記キレート基は、金属イオン等をキレート(配位)結合により捕捉する官能基である。
前記キレート基としては、金属イオンとキレート(配位)結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ニトリロトリ酢酸誘導体(NTA)基、イミノジ酢酸基、イミノジエタノール基、アミノポリカルボン酸、アミノポリホスホン酸、ポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、環状エーテル、環状アミン、フェノール及びリジン誘導体、フェナンスロリン基、テルピリジン基、ビピリジン基、トリエチレンテトラアミン基、ジエチレントリアミン基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン基、ジエチレントリアミンペンタ酢酸基、ポリピラゾリルホウ酸基、1,4,7−トリアゾシクロノナン基、ジメチルグリオキシム基、ジフェニルグリオキシム基等の多座配位子などが挙げられる。
【0034】
前記キレート基を有する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多官能性カルボン酸含有化合物などが挙げられる。
前記多官能性カルボン酸含有化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレンポリアミンポリカルボン酸、アミノポリカルボン酸、アミノカルボン酸、ポリカルボン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアルカリ金属−アルカリ土類金属混合塩などが挙げられる。
前記キレート基を有する化合物の具体例としては、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ビスヒドロキシエチルグリシン、アミノカルボキシペンチルイミノジ酢酸(株式会社同仁化学研究所製)などが挙げられる。
【0035】
−ビニル化合物との反応性基−
前記ビニル化合物との反応性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、カルボキシル基、若しくはこれらの誘導体基などが挙げられる。これらの中でも、前記反応性基は、アミノ基、ヒドロキシル基、若しくはこれらの誘導体基が好ましい。
【0036】
前記反応性基を有する化合物の具体例としては、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ビスヒドロキシエチルグリシン、アミノカルボキシペンチルイミノジ酢酸(株式会社同仁化学研究所製)、タウリン、ヒドロキシプロピルスルホン酸、ホスホリルエタノールアミン、コリン(TCI社製)などが挙げられる。
【0037】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における、前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物の被覆率としては、前記結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部が被覆されていれば、特に制限はなく、前記結晶性ポリマー微孔性膜の表面積などに応じて適宜調整することができ、例えば、特開平8−283447号公報に記載の方法を用いることができる。即ち、前記表面積は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の気孔率と相関関係を有し、気孔率との関係で前記ビニル化合物及び前記官能性化合物の被覆率の最適化を図ることができ、具体的には、下記式(1)及び下記式(2)を用いて算出することができる。
前記気孔率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上が好ましく、60%〜95%がより好ましい。前記気孔率が60%未満であると、親水性が低くなり、前記結晶性ポリマー微孔性膜において所望の透過流量を得ることができないことがあり、95%を超えると、前記結晶性ポリマー微孔性膜の強度が落ちることがある。
結晶性ポリマー微孔性膜の気孔率が低いほど、前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物の被覆率が少なく、逆に、気孔率が高くなるほど、被覆率が多くなるが、その範囲は、下記式(1)及び下記式(2)で規定される範囲内にあればよい。
前記被覆率が、下記式(1)及び下記式(2)で規定される範囲より少ないと、親水性が高く、濾過寿命の長い結晶性ポリマー微孔性膜を得ることができないことがあり、前記範囲より大きいと、目詰まりを起こすことがある。
(C/5)−11.5≦D≦(C/5)−9.5 ・・・式(1)
D=(前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物の塗布重量/結晶性ポリマー微孔性膜重量)×100 ・・・式(2)
(前記式(1)中、「C」は、結晶性ポリマー微孔性膜の気孔率(%)を表す。)
【0038】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜において、その露出表面が前記少なくとも前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物で被覆されていることは、前記結晶性ポリマー微孔性膜をメタノール、水、DMF等の溶媒で抽出し、その抽出物の成分をNMR、IR、熱分解ガスクロマトグラフィー等を用いて測定及び解析することで確認することができる。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜を溶媒に抽出することができない場合には、膜ごと細かく切り刻み、KBrとまぶした状態で、IRにより測定及び解析を行うこと、及び超臨界メタノールを用いて、ポリマーを分解しつつ、そのコンポーネントをMASS、NMR、IR、熱分解ガスクロマトグラフィー等で測定及び解析することで確認することができる。
【0039】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、前記結晶性ポリマー性微孔膜の露出表面の少なくとも一部が、前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物で被覆されているので、親水性を付与できると共に、非対称膜において顕著な非対称構造を形成し得、更なる濾過寿命の向上が図れる。これは、結晶性ポリマー性微孔膜の第2の面(加熱面)側の緻密部分にいくほど、前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物を被覆した結晶性ポリマーを、第1の面(非加熱面)側の粗濾過部分よりも厚く付着させることができ、第1の面から第2の面に向かって平均粒径が連続的に変化する程度が大きくなる顕著な非対称構造を形成できるためであると考えられる。
このことは、以下に示す関係を満たすことからも明らかである。
図5Aに示すように、露出表面に前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物を被覆させてなるポリマーを被覆前の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径dと、第2の面における平均孔径dとの比(d/d)と、
図5Bに示すように、露出表面に前記ビニル化合物及び前記官能性化合物を被覆させてなるポリマーを被覆後(親水化処理後)の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’と、第2の面における平均孔径d’との比(d’/d’)とが、次式、(d’/d’)/(d/d)>1、を満たすことが好ましく、(d’/d’)/(d/d)>1.005がより好ましく、(d’/d’)/(d/d)>1.01が更に好ましい。前記(d’/d’)/(d/d)が1以下であると、粒子の目詰まり等により、寿命が極端に短くなることがある。
【0040】
<親水性組成物>
結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面の少なくとも一部に前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物を被覆する際、前記ビニル化合物及び前記官能性化合物は、親水性組成物として付与されてもよい。
前記親水性組成物は、少なくとも前記ビニル化合物を含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
前記官能性化合物は、前記ビニル化合物と同時に付与してもよく、前記結晶性ポリマー微孔性膜を前記ビニル化合物で被覆した後に付与してもよい。
【0041】
−ビニル化合物−
前記親水性組成物における前記ビニル化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.02質量%〜17.5質量%がより好ましく、0.03質量%〜15質量%が特に好ましい。
0.01質量%未満であると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜全体を親水化することができないことがあり、20質量%を超えると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜の孔部を塞いでしまい、透過流量を低下させることがある。
【0042】
−官能性化合物−
前記親水性組成物における前記官能性化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.001質量%〜20質量%が好ましく、0.002質量%〜15質量%であることがより好ましく、0.003質量%〜10質量%であることが特に好ましい。該含有量が0.001質量%未満であると、効率的にイオン捕捉ができないことがあり、20質量%を超えると、前記結晶性ポリマーの微孔性膜の孔部を塞いでしまい、透過流量を低下させることがある。
【0043】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤、光増感剤、酸化防止剤、溶剤などが挙げられる。
前記親水性組成物における前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
−−光重合開始剤−−
前記結晶性ポリマー微孔性膜は、前記ビニル化合物が重合されてなることが好ましく、前記重合が光重合により行われる場合、前記光重合に用いられる光重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1,3α−アミノアルキルフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ベンジルジメチルケタール、アシルフォスフィンオキサイド系誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記光重合開始剤としては、市販品を入手することが可能であり、例えば、チバ・ジャパン株式会社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819等)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173等)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT等)などが挙げられる。
これらの光開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線などの活性エネルギー線の照射によって、重合を開始するものである。
【0046】
−−熱重合開始剤−−
前記重合が熱重合により行われる場合、前記熱重合に用いられる熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、三新化学工業株式会社から市販されているSIシリーズ(例えばSI−100等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記熱重合開始剤としては、市販品を入手することが可能であり、例えば、三新化学工業株式会社から市販されているSIシリーズ(例えばSI−100等)などが挙げられる。
【0048】
−−光増感剤−−
前記結晶性ポリマー微孔性膜に前記ビニル化合物と、前記官能性化合物との反応物を被覆させる際、前記光増感剤を併用することにより、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。
【0049】
前記光増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン等のベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドン等のアクリドン誘導体;その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記光増感剤の市販品としては、例えば、Anthracure(登録商標)UVS−1331(川崎化成工業株式会社製)、カヤキュアDETX−S(日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0051】
−−酸化防止剤−−
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、イルガノックス1010、イルガノックス1035FF、イルガノックス565などが挙げられる。
【0052】
−−溶剤−−
前記親水性組成物に用いる溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
<結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法>
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、親水化処理工程と、付加反応処理工程と、を少なくとも含み、必要に応じて、更に、非対称加熱工程、延伸工程、結晶性ポリマーフィルム作製工程などのその他の工程を含む。
【0054】
<<結晶性ポリマーフィルム作製工程>>
結晶性ポリマーからなる未焼成の結晶性フィルムを製造する際に用いる結晶性ポリマー原料の種類としては、特に制限はなく、上述した結晶性ポリマーを好ましく用いることができる。これらの中でも、ポリエチレン又はその水素原子がフッ素原子に置換された結晶性ポリマーが使用され、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
原料として使用する結晶性ポリマーは、数平均分子量500〜50,000,000のものが好ましく、1,000〜10,000,000のものがより好ましい。
原料として使用する結晶性ポリマーとしては、ポリエチレンが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、好ましくは乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用する。
原料として使用するポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、2,500,000〜10,000,000が好ましく、3,000,000〜8,000,000がより好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン原料としては、特に制限はなく、市場で販売されているポリテトラフルオロエチレン原料を適宜選択して使用してもよい。例えば、ポリフロン・ファインパウダーF104U(ダイキン工業株式会社製)などが好適に挙げられる。
【0055】
フィルムを調製する方法としては、前記ポリテトラフルオロエチレン原料を押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延する方法が好ましい。押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的にはソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。前記押出助剤としては、市場で販売されているアイソパー(エッソ石油株式会社製)などの炭化水素油を用いても構わない。前記押出助剤の添加量は、結晶性ポリマー100質量部に対して、20質量部〜30質量部が好ましい。
【0056】
ペースト押出しは、通常50℃〜80℃にて行うことが好ましい。押出し形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。圧延は、例えば、カレンダーロールにより50m/分間の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常50℃〜70℃に設定することができる。その後、フィルムを加熱することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未焼成フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度は用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜定めることができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。例えば、テトラフルオロエチレンを用いる場合には、150℃〜280℃が好ましく、200℃〜255℃がより好ましい。加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未焼成フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の工程で延伸を行う場合には、延伸による厚みの減少も考慮して調整することが好ましい。
なお、結晶性ポリマー未焼成フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0057】
<<非対称加熱工程>>
前記非対称加熱工程は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する工程である。
ここで、前記半焼成とは、結晶性ポリマーをその焼成体の融点以上であり、かつ、その未焼成体の融点+15℃以下の温度で加熱処理することを意味する。
また、本発明において、結晶性ポリマーの未焼成体とは、焼成の加熱処理をしていないものを意味する。また、結晶性ポリマーの融点とは、結晶性ポリマー未焼成体を示差走査熱量計により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。前記焼成体の融点及び未焼成体の融点は、結晶性ポリマーの種類や平均分子量などにより変化するが、50℃〜450℃が好ましく、80℃〜400℃がより好ましい。
このような温度は、以下のように考えることができる。例えば、結晶性ポリマーがポリテトラフルオロエチレンである場合には、焼成体の融点が約324℃で未焼成体の融点が約345℃である。したがって、半焼成体にするには、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの場合、327℃〜360℃が好ましく、335℃〜350℃がより好ましく、例えば、345℃の温度に加熱する。半焼成体は、融点約324℃のものと、融点約345℃のものとが混在している状態である。
【0058】
前記半焼成は、結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面(加熱面)を加熱して行う。これにより、厚み方向に非対称に加熱温度を制御することができ、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を容易に製造することができる。
また、結晶性ポリマーからなるフィルムの厚み方向の温度勾配としては、非加熱面と加熱面の温度差は、30℃以上が好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
【0059】
前記加熱方法としては、熱風を吹き付ける方法、熱媒に接触させる方法、加熱した材料に接触させる方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波等電磁波による加熱などの種々の方法が使用できる。
前記加熱方法としては、特に制限はされないが、フィルムの表面に加熱物を接触させる方法、赤外線照射する方法が特に好ましい。加熱物としては、加熱ロールを選択することが特に好ましい。加熱ロールであれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。加熱ロールの温度は、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができる。加熱ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、30秒間〜120秒間が好ましく、45秒間〜90秒間がより好ましく、60秒間〜80秒間が更に好ましい。
【0060】
前記赤外線照射としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記赤外線の一般的な定義は、「実用遠赤外線」(人間と歴史社、1992年発行)を参考にすることができる。本発明において、前記赤外線とは、波長が0.74μm〜1,000μmの電磁波を意味し、そのうち波長が0.74μm〜3μmの範囲を近赤外線とし、波長が3μm〜1,000μmの範囲を遠赤外線とする。
【0061】
本発明においては、半焼成フィルムの非加熱面と加熱面での温度差がある方が好ましいため、表層の加熱に有利な遠赤外線が好ましく使用される。
前記赤外線の装置の種類としては、目的の波長の赤外線が照射できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に、近赤外線は電球(ハロゲンランプ)、遠赤外線はセラミック、石英、金属酸化面などの発熱体を用いることができる。
また、赤外線照射であれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。また非接触であるため、クリーン、かつ毛羽立ちのような欠陥が生じることがない。
前記赤外線照射によるフィルム表面温度は、赤外線照射装置の出力、赤外線照射装置とフィルム表面の距離、照射時間(搬送速度)、雰囲気温度で制御でき、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができるが、327℃〜380℃が好ましく、335℃〜360℃がより好ましい。前記表面温度が、327℃未満であると、結晶状態が変化せず、孔径制御ができなくなることがあり、380℃を超えると、フィルム全体が溶融することにより過度に形状が変形したり、結晶性ポリマーの熱分解が生じたりすることがある。
前記赤外線の照射時間は、特に制限はなく、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、30秒間〜120秒間が好ましく、45秒間〜90秒間がより好ましく、60秒間〜80秒間が更に好ましい。
【0062】
前記非対称加熱工程における加熱は、連続的に行ってもよく、何度かに分割して間欠的に行ってもよい。
連続的にフィルムの加熱面を加熱する場合には、フィルムの加熱面と、非加熱面とで温度勾配を保持するため、加熱面の加熱と同時に非加熱面を冷却することが好ましい。
前記非加熱面を冷却する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、冷風を吹き付ける方法、冷媒に接触させる方法、冷却した材料に接触させる方法、放冷による冷却等の種々の方法が使用でき、好ましくは、フィルムの非加熱面に冷却物を接触させることにより行う。冷却物としては、冷却物としては、冷却ロールを選択することが特に好ましい。冷却ロールであれば、加熱面の加熱と同様に、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。冷却ロールの温度は、上記の半焼成体にする際の温度と差を生じさせるように設定することができる。冷却ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、加熱工程と同時進行で行うことを前提とすると、通常30秒間〜120秒間であるが、45秒間〜90秒間が好ましく、60秒間〜80秒間がより好ましい。
加熱ロール及び冷却ロールの表面材質は、一般に耐久性に優れるステンレス鋼とすることができ、特にSUS316を挙げることができる。本発明の製造方法では、フィルムの非加熱面を加熱及び冷却ロールに接触させることが好ましいが、該加熱及び冷却ロールよりも低い温度に設定されたローラーをフィルムの加熱面に接触させても構わない。例えば、常温に維持されたローラーをフィルム加熱面から圧接させて、フィルムを加熱ロールにフィットさせるようにしてもよい。また、加熱ロールに接触させる前又は後において、フィルムの加熱面をガイドロールに接触させても構わない。
また、前記非対称加熱工程を間欠的に行う場合にも、フィルムの加熱面を間欠的に加熱及び非加熱面を冷却して、非加熱面の温度上昇を抑制することが好ましい。
【0063】
<<延伸工程>>
半焼成したフィルムは、次いで延伸することが好ましい。延伸は、長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率は、4倍〜100倍が好ましく、8倍〜90倍がより好ましく、10倍〜80倍が更に好ましい。長手方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率は、10倍〜100倍が好ましく、12倍〜90倍がより好ましく、15倍〜70倍が更に好ましく、20倍〜40倍が特に好ましい。幅方向の延伸温度は、100℃〜300℃が好ましく、200℃〜290℃がより好ましく、250℃〜280℃が特に好ましい。
面積延伸倍率は、50倍〜300倍が好ましく、75倍〜280倍がより好ましく、100倍〜260倍が更に好ましい。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度にフィルムを予備加熱しておいてもよい。
【0064】
なお、延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。該熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマー焼成体の融点未満で行うことが好ましい。
【0065】
<<親水化処理工程>>
前記親水化処理工程は、フィルムの露出表面に、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物を付与し、前記延伸後のフィルムの露出表面を被覆する工程である。前記ビニル化合物は、少なくとも前記ビニル化合物を含む前記親水性組成物として付与されることが好ましい。
【0066】
前記親水化処理工程において、少なくとも前記ビニル化合物を含む親水性組成物を付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記延伸後のフィルムを、前記ビニル化合物を含む親水性組成物に浸漬する方法、前記延伸後のフィルムを、前記ビニル化合物を含む親水性組成物で塗布する方法などが挙げられる。
前記親水化処理工程を含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法によれば、紫外線レーザー、ArFレーザーの照射処理、化学エッチング処理などを行うことなく親水化処理することができ、効率的に親水性の前記結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができ、かつ親水性、濾過流量、及び濾過寿命に優れた結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができる。
【0067】
次に、前記ビニル化合物含む親水性組成物を付与(浸漬乃至塗布)後のフィルムを加熱処理又は紫外線照射処理することにより、前記ビニル化合物を重合させることが好ましい。
前記少なくともビニル化合物を含む親水性組成物が、前記熱重合開始剤を含有する場合には、加熱処理により、前記親水性組成物を重合させて、フィルムの露出表面にポリマーが被覆される。
【0068】
前記加熱処理における温度としては、50℃〜200℃が好ましく、60℃〜180℃がより好ましく、70℃〜160℃が特に好ましい。
前記加熱処理における時間としては、1分間〜120分間が好ましく、1分間〜100分間がより好ましく、1分間〜80分間が特に好ましい。
【0069】
前記少なくとも前記ビニル化合物を含む親水性組成物が、前記光重合開始剤を含有する場合には、紫外線照射処理により、前記親水性組成物を重合させて、フィルムの露出表面にポリマーが被覆される。
前記紫外線照射処理の照度条件としては、1.0×10mJ/cm〜1.0×10mJ/cmが好ましく、5.0×10mJ/cm〜5.0×10mJ/cmがより好ましい。
【0070】
−付加反応処理工程−
前記付加反応工程は、前記ビニル化合物の一部に、前記官能性化合物を付加反応させる工程である。
【0071】
前記付加反応処理工程において、前記ビニル化合物の一部に前記官能性化合物を付加反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(i)フィルムを、少なくとも前記ビニル化合物及び前記官能性化合物を含む混合溶液に含浸させ、加熱処理(熱アニール)して、前記ビニル化合物の重合と、前記ビニル化合物と前記官能性化合物との付加反応とを同時に引き起こす方法、(ii)フィルムを、少なくとも前記ビニル化合物及び前記官能性化合物を含む混合溶液に含浸させ、低温アニールして、前記ビニル化合物の一部と前記官能性化合物とを付加反応させ、アニール温度を高温にして前記ビニル化合物を重合する方法(付加反応と重合との逐次反応)、(iii)フィルムを、少なくとも前記ビニル化合物を含む溶液に含浸させ、加熱処理(熱アニール)して、前記ビニル化合物を重合し、更に前記官能性化合物を含む溶液に含浸させ、加熱処理(熱アニール)して、前記ビニル化合物と前記官能性化合物とを付加反応させる方法(重合と付加反応との逐次反応)などが挙げられる。
【0072】
前記加熱処理における温度としては、50℃〜200℃が好ましく、50℃〜180℃がより好ましく、50℃〜160℃が特に好ましい。
前記加熱処理における時間としては、0.5分間〜300分間が好ましく、0.75分間〜200分間がより好ましく、1分間〜100分間が特に好ましい。
【0073】
−官能性化合物の膜固定−
結晶性ポリマー微孔性膜の孔壁面に前記ビニル化合物を被覆させ、重合させることで固定化するため、前記官能性化合物が、前記ビニル化合物が有する不飽和性基及び官能性基の少なくともいずれかに付加反応することにより、非共有結合状態で、結晶性ポリマー微孔性膜に固定される。
また、官能性化合物が結晶性ポリマー微孔性膜に固定されたことは、例えば、特開2005−131482に記載の逆滴定法などにより、確認することができる。
【0074】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れるため、その用途としては、特に制限はなく、様々な用途に用いることができるが、以下に説明する濾過用フィルタとして好適に用いることができる。
【0075】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れ、親水性が高く、濾過寿命が長く、透過流量に優れる結晶性ポリマー微孔性膜を簡単に製造可能であり、また、該結晶性ポリマー微孔性膜が非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜である場合であっても、安定して非対称孔を形成することができる点で有利である。
【0076】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を濾過用フィルタとして用いるときは、その非加熱面(平均孔径が大きい面)をインレット側として濾過を行う。即ち、ポアサイズの大きな表面側をフィルタの濾過面に使用する。このように、平均孔径が大きい面(非加熱面)をインレット側として濾過を行うことにより、効率良く微粒子を捕捉することができる。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0077】
本発明の濾過用フィルタは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時に、少なくとも5mL/cm・min以上の濾過が可能なものとすることができる。
本発明の濾過用フィルタの形状としては、ろ過膜をひだ折りするプリーツ型、ろ過膜をのり巻き状にするスパイラル型、円板状のろ過膜を積層させるフレーム・アンド・プレート型、ろ過膜を管状にするチューブ型などがある。これらの中でも、カートリッジあたりのフィルタのろ過に使用する有効表面積を増大させることができる点から、プリーツ型が特に好ましい。
また、劣化したろ過膜を取り換える際にフィルターエレメントのみを取り換えるエレメント交換式フィルターカートリッジと、フィルターエレメントをろ過ハウジングと一体に加工しハウジングごと使い捨てのタイプにしたカプセル式のフィルターカートリッジとに分類される。
【0078】
ここで、図1は、エレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜103は2枚の膜サポート102、104によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー105の廻りに巻き付けられている。その外側には外周カバー101があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート106a、106bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット107を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアーの集液口から集められ、流体出口108から排出される。
【0079】
カプセル式のプリーツフィルターカートリッジを図2及び図3に示す。
図2はカプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密ろ過膜2は2枚のサポート1、3によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア7の廻りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー6があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート4、下部エンドプレート5により、精密ろ過膜がシールされている。
図3は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す。フィルターエレメント10はハウジングベースとハウジングカバーよりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリング8を介してハウジングベース中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズルからハウジング内に入り、フィルターメディア9を通過し、フィルターエレメントコア7の集液口から集められ、液出口ノズル14から排出される。ハウジングベースとハウジングカバーは通常溶着部17で液密に熱融着される。
【0080】
図2は、下部エンドプレート5と、ハウジングベース12とのシールを、Oリング8を介して行う例を示しているが、下部エンドプレート5と、ハウジングベース12とのシールは、熱融着や接着剤によって行われることもある。またハウジングベース12と、ハウジングカバー11とのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図1〜図3は、精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明は、これらの図に限定されるわけではない。
【0081】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高く長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0082】
本発明の濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられる。特に、本発明の濾過用フィルタは、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、従来の濾過用フィルタでは対応できなかった高温濾過や反応性薬品の濾過にも効果的に用いられる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜(1)の作製>
−半焼成フィルムの作製−
数平均分子量が620万のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパー」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行った。これを、70℃に加熱したカレンダーロールにより50m/分間の速度でカレンダー掛けして、ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。
次に、得られたポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを作製した。
次に、得られたポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムの一の面(加熱面)を345℃に加熱したロール(表面材質:SUS316)で1分間加熱して、半焼成フィルムを作製した。
【0085】
次に、得られた半焼成フィルムを270℃にて長手方向に12.5倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で260倍であった。
【0086】
−親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)5.0質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.1質量%を含むメタノール溶液に、前記延伸フィルムを10分間浸漬し、引き上げた延伸フィルムを、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥させ、続いて、1質量%ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)水溶液に浸漬させ、引き上げた延伸フィルムを、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(1)を作製した。
【0087】
(実施例2)
−結晶性ポリマー微孔性膜(2)の作製−
実施例1において、親水化処理を下記の親水化処理に代えた以外は、実施例1と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(2)を作製した。
【0088】
−親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)5.0質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.1質量%を含むメタノール溶液に、ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜(ジャパンゴアテックス社製:対称膜)を10分間浸漬し、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、引き上げた延伸フィルムを、洗浄を行い、乾燥させ、続いて、1質量%ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)水溶液に浸漬させ、引き上げたポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(2)を作製した。
【0089】
(実施例3)
−結晶性ポリマー微孔性膜(3)の作製−
実施例1において、親水化処理を下記の親水化処理に代えた以外は、実施例1と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの非対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(3)を作製した。
【0090】
−親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)0.5質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.01質量%を含むメタノール溶液に、前記延伸フィルムを10分間浸漬し、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、引き上げた延伸フィルムを、洗浄を行い、乾燥させ、続いて、3質量%ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)水溶液に浸漬させ、引き上げたポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(3)を作製した。
【0091】
(実施例4)
−結晶性ポリマー微孔性膜(4)の作製−
実施例1において、親水化処理を下記の親水化処理に代えた以外は、実施例1と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの非対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(4)を作製した。
【0092】
−親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)3.0質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.03質量%を含むメタノール溶液に、前記延伸フィルムを10分間浸漬し、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、引き上げた延伸フィルムを、洗浄を行い、乾燥させ、続いて、10質量%ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(同仁化学株式会社製)水溶液に浸漬させ、引き上げたポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(4)を作製した。
【0093】
(比較例1)
−結晶性ポリマー微孔性膜(5)の作製−
実施例1において、親水化処理を行わない以外は、実施例1と同様にして、ポリテトラフルオロエチレンの非対称孔膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(5)を作製した。
【0094】
(比較例2)
−結晶性ポリマー微孔性膜(6)の作製−
実施例2において、親水化処理を行わない以外は、実施例2と同様にして、ポリテトラフルオロエチレンの対称孔膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(6)を作製した。
【0095】
(比較例3)
−結晶性ポリマー微孔性膜(7)の作製−
実施例1において、親水化処理を下記の親水化処理に代えた以外は、実施例1と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの非対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(7)を作製した。
【0096】
−親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)5.0質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.1質量%を含むメタノール溶液に、前記延伸フィルムを10分間浸漬し、引き上げた該微孔性膜を、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、引き上げた延伸フィルムを、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(7)を作製した。
【0097】
(比較例4)
−結晶性ポリマー微孔性膜(8)の作製−
実施例2において、親水化処理を下記の親水化処理に代えた以外は、実施例2と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(8)を作製した。
【0098】
−親水化処理−
アリルグリシジルエーテル(TCI社製)5.0質量%及び光重合開始剤としてのIrgacure907(チバ・ジャパン株式会社製)0.1質量%を含むメタノール溶液に、ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜(ジャパンゴアテックス社製:対称膜)を10分間浸漬し、引き上げた該微孔性膜を、UV硬化(照射強度40mW/cmにて90秒間)処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、引き上げた該微孔性膜を、大気下にて150℃で10分間アニール処理を行った。その後、メタノールで30分間浸漬し、洗浄を行い、乾燥した。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(8)を作製した。
【0099】
(比較例5)
−結晶性ポリマー微孔性膜(9)の製造−
実施例1における親水化処理に代えて下記の親水化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの非対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(9)を作製した。
【0100】
−親水化処理−
濃度0.03質量%の過酸化水素水中に、予めエタノールを含浸させた前記延伸フィルムを浸漬し(液温:40℃)、20時間後に引き上げた該微孔性膜の上方から、フルエンス25mJ/cm/パルス、照射量10J/cmの条件下で、ArFエキシマレーザー光(193nm)を照射して、過酸化水素水による親水化処理を行った。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(9)を製造した。
【0101】
(比較例6)
−結晶性ポリマー微孔性膜の製造(10)−
実施例1における親水化処理に代えて下記の親水化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、親水性ポリテトラフルオロエチレンの非対称孔を有する膜からなる、結晶性ポリマー微孔性膜(10)を作製した。
【0102】
−親水化処理−
濃度0.179質量%のメチルエチルケトン水溶液中に、予めエタノールを含浸させた前記延伸フィルムを浸漬し(液温:40℃)、20時間後に引き上げた該微孔性膜の上方から、フルエンス25mJ/cm/パルス、照射量10J/cmの条件下で、ArFエキシマレーザー光(193nm)を照射して、過酸化水素水による親水化処理を行った。以上により、結晶性ポリマー微孔性膜(10)を製造した。
【0103】
<平均孔径の測定、及び孔の形状評価>
実施例1〜4及び比較例1〜6における各結晶性ポリマー微孔性膜を該結晶性ポリマー微孔性膜の長手方向に沿って裁断し、該結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における裁断面を、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型、いずれも株式会社日立製作所製)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)を撮り、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得た。得られた像について100個の孔径を測定し、演算処理することにより、平均孔径を求めた。
【0104】
結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における裁断面における孔部形状の容易な理解のために、模式図を用いて説明する。
図4Aは、実施例2における、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆する前(親水化処理前)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
この図4Aにおける、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆する前(親水化処理前)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をdとし、第2の面における平均孔径をdとしたとき、観察したSEM像におけるdとdとの比(d/d)は、1.0であった。
図4Bは、実施例2における、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆した後(親水化処理後)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
この図4Bにおける、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆した後(親水化処理後)の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’とし、第2の面における平均孔径をd’としたとき、観察したSEM像におけるd’とd’との比(d’/d’)は、1.0であった。
したがって実施例2における(d’/d’)/(d/d)は、1.0であった。このように非対称加熱処理を行っていない実施例2の対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜では、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物の被覆(親水化処理)前後での比(d/d)と比(d’/d’)とに変化がないことが分かった。
【0105】
次に、図5Aは、実施例1における、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆する前(親水化処理前)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
この図5Aにおける、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆する前(親水化処理前)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をdとし、第2の面における平均孔径をdとしたとき、観察したSEM像におけるdとdとの比(d/d)は、15であった。
図5Bは、実施例1におけるビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆した後(親水化処理後)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の裁断面を模式的に示す図である。
この図5Bにおける、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆した後(親水化処理後)の非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’とし、第2の面における平均孔径をd’としたとき、観察したSEM像におけるd’とd’との比(d’/d’)は、15.9あった。
したがって実施例1における(d’/d’)/(d/d)は、1.06であった。
【0106】
この実施例1におけるビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆した後の結晶性ポリマー微孔性膜の比(d’/d’)と、実施例1におけるビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆する前の結晶性ポリマー微孔性膜における比(d/d)との比較から、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物の被覆(親水化処理)により、第1の面(非加熱面)における平均孔径と、第2の面(加熱面)における平均孔径との比を大きくとることができることが分かった。
この結果は、SEM像観察前の予想に反し、結晶性ポリマー微孔性膜50の平均孔径が第1の面から第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化することに加え、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を用いた親水化処理後における親水性の被覆部55の厚みが、第1の面から第2の面に向かって厚みが更に減少する方向に連続的に変化することに基づくものである。これは、結晶性ポリマー性微孔膜の第2の面(加熱面)側の緻密部分にいくほど、ビニル化合物と、官能性化合物との反応物を被覆させてなる結晶性ポリマーを、第1の面(非加熱面)側の粗濾過部分よりも厚く付着させることができ、第1の面から第2の面に向かって平均粒径が連続的に変化する程度が大きい、顕著な非対称構造を形成できるためであると考えられる。
このような結果から、実施例1における結晶性ポリマー微孔性膜においては、親水性に優れることに加え、第1の面における平均孔径と、第2の面における平均孔径との比を大きくとることができるので、目詰まりまでの濾過寿命(濾過流量)を大幅に改善できることが明らかになった。
【0107】
同様に、実施例3では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15.3となり、(d’/d’)/(d/d)=1.02であった。
同様に、実施例4では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=16.5となり、(d’/d’)/(d/d)=1.1であった。
同様に、比較例1では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15となり、(d’/d’)/(d/d)=1.0であった。
同様に、比較例2では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15となり、(d’/d’)/(d/d)=1.0であった。
同様に、比較例3では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15.6となり、(d’/d’)/(d/d)=1.04であった。
同様に、比較例4では、d/d=1.0の対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=1.0となり、(d’/d’)/(d/d)=1.0であった。
同様に、比較例5では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15となり、(d’/d’)/(d/d)=1.0であった。
同様に、比較例6では、d/d=15の非対称孔を有する膜に対して、親水化処理後、d’/d’=15となり、(d’/d’)/(d/d)=1.0であった。
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0108】
<親水性の評価>
次に、作製した実施例1〜4及び比較例1〜6の各結晶性ポリマー微孔性膜について、親水性を評価した。
各結晶性ポリマー微孔性膜の親水性は、特許第3075421号公報を参考にして評価した。具体的には、以下のようにして評価した。
初期親水性は、高さ5cmのところから水滴をサンプル表面に落し、水滴が吸収されるかどうかについて、下記基準で評価した。結果を表1に示す。
〔評価基準〕
A:即時に吸収した
B:自然に吸収した
C:加圧してのみ吸収あるいは、吸収されないが接触角は減少した
D:吸収されない。即ち、水を撥ねる。このD評価は、多孔性フッ素樹脂材料に特有である
【0109】
<濾過テスト>
実施例1〜4及び比較例1〜6の各結晶性ポリマー微孔性膜について、濾過テストを行った。まず、ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ1.5μm)を0.01質量%含有する水溶液を、差圧10kPaとして、濾過し、目詰まるまでの透過量を表1に示す。
【0110】
【表1】

表1の結果から、実施例1〜4は、親水性が高く、比較例1〜6は親水性が全くないことがわかった。また、濾過テストにおいては、比較例1〜2及び5〜6のPTFE微孔性膜は、親水性がなく、測定不能であった。
これより、実施例1〜4の結晶性ポリマー微孔性膜は、イソプロパノールによるプレ親水化処理が不要で、かつ90mL/cm以上濾過が可能であり、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることにより濾過寿命が大幅に改善されることがわかった。
【0111】
<耐水性の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜6の結晶性ポリマー微孔性膜に対し、200mLの水を100kPaの圧力条件下で通す過程を5回繰り返した。乾燥は、1回通すごとに行った。
耐水性の評価は、以上の過程を経た実施例1〜4及び比較例1〜6における結晶性ポリマー微孔性膜に対し、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0112】
<耐酸性の評価>
耐酸性の評価は、実施例1〜4及び比較例1〜6の各結晶性ポリマー微孔性膜を、1N塩酸水溶液に80℃の温度条件下で5時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0113】
<耐アルカリ性の評価>
耐アルカリ性の評価は、実施例1〜4及び比較例1〜6の各結晶性ポリマー微孔性膜を、1N水酸化ナトリウム水溶液に80℃の温度条件下で5時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0114】
<耐薬品性の評価>
耐薬品性の評価は、実施例1〜4及び比較例1〜6の各結晶性ポリマー微孔性膜を、メタノールに1時間浸漬させた後、前記親水性の評価における判断基準(A〜D)に基づき評価することで行った。結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

表2中、「測定不能」は、親水性に乏しいため、評価できなかったことを示す。
表2の結果から、実施例1〜4は、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性に優れることがわかった。これに対し、比較例1〜2は、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性がなく、測定不能であった。比較例3〜4は、酸又はアルカリによりエポキシ基が開環し、ヒドロキシル基が露出されるため、比較例1〜2と比べて若干親水性が高くなり、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、及び耐薬品性が向上したものの、実施例1〜4と比較して劣るものであった。また、従来の親水化処理方法である比較例5〜6も、実施例1〜4と比較して劣るものであった。
【0116】
(実施例5)
−フィルターカートリッジ化−
ポリプロピレン不織布2枚の間に、実施例1で作製した結晶性ポリマー微孔性膜を挟んで、ひだ幅10.5mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着した。円筒の両端2mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジに仕上げた。
作製した本発明のフィルターカートリッジは、内蔵する結晶性ポリマー微孔性膜が親水性であるため、水系の処理において煩雑なプレ親水化処理が不要である。また、結晶性ポリマーを用いているため耐溶剤性に優れる。更に孔部が非対称構造を有するため、大流量かつ目詰まりを起こしにくく長寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、長期間にわたって効率良く微粒子を捕捉することができ、粒子捕捉能の耐擦過性が向上し、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性、及び耐薬品性に優れているため、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過などに幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0118】
1 一次側サポート
2 精密ろ過膜
3 二次側サポート
4 上部エンドプレート
5 下部エンドプレート
6 フィルターエレメントカバー
7 フィルターエレメントコア
8 Oリング
9 フィルターメディア
10 フィルターエレメント
11 ハウジングカバー
12 ハウジングベース
13 液入口ノズル
14 液出口ノズル
15 エアーベント
16 ドレン
17 溶着部
40 対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜
45、55 ビニル化合物と官能性化合物との反応物による被覆部
50 非対称孔を有する結晶性ポリマー微孔性膜
101 外周カバー
102 膜サポート
103 精密ろ過膜
104 膜サポート
105 コアー
106a、106b エンドプレート
107 ガスケット
108 液体出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面の少なくとも一部が、ビニル化合物と、少なくとも一つの官能性化合物との反応物により被覆され、
前記ビニル化合物が、少なくとも一つの不飽和性基を有し、かつ、少なくとも一つの官能性基を有するビニル化合物であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項2】
ビニル化合物を重合させてなる請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項3】
ビニル化合物の官能性基が、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項4】
官能性化合物の少なくとも一つは、イオン交換基、キレート基、及びこれらの誘導体基のいずれかを有し、かつ、少なくとも一つは、ビニル化合物との反応性基を有する化合物である請求項1から3のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項5】
官能性化合物のビニル化合物との反応性基が、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である請求項4に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項6】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である請求項1から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項7】
第1の面における平均孔径が、第2の面における平均孔径よりも大きく、かつ前記第1の面から前記第2の面に向かって平均孔径が連続的に変化する複数の孔部を有する請求項1から6のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項8】
露出表面にビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆前の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径dと、第2の面における平均孔径dとの比(d/d)と、
露出表面にビニル化合物と官能性化合物との反応物を被覆後の結晶性ポリマー微孔性膜の第1の面における平均孔径をd’と、第2の面における平均孔径d’との比(d’/d’)とが、次式、(d’/d’)/(d/d)>1、を満たす請求項7に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項9】
結晶性ポリマーからなるフィルムの露出表面に、少なくとも一つの不飽和性基及び官能性基をそれぞれ有するビニル化合物を付与し、該ビニル化合物を重合させる親水化処理工程と、
前記ビニル化合物の一部に、少なくとも一つの官能性化合物を付加反応させる付加反応処理工程と、
を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項10】
結晶性ポリマーからなるフィルムの一の面を加熱して、該フィルムの厚み方向に温度勾配を形成した半焼成フィルムを形成する非対称加熱工程と、
前記半焼成フィルムを延伸する延伸工程と、
を更に含む請求項9に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項11】
ビニル化合物の官能性基が、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である請求項9から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項12】
官能性化合物の少なくとも一つは、イオン交換基、キレート基、及びこれらの誘導体基のいずれかを有し、かつ、少なくとも一つは、ビニル化合物との反応性基を有する化合物である請求項9から11のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項13】
官能性化合物のビニル化合物との反応性基が、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、及びこれら誘導体基から選択される少なくとも1種である請求項9から12のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項14】
結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、及びポリエーテルニトリルから選択される少なくとも1種である請求項9から13のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1から8のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いることを特徴とする濾過用フィルタ。
【請求項16】
プリーツ状に加工成形される請求項15に記載の濾過用フィルタ。
【請求項17】
第1の面をフィルタの濾過面とする請求項15から16のいずれかに記載の濾過用フィルタ。

【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−104516(P2011−104516A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261996(P2009−261996)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】