説明

結晶性物質の合成方法、及びそのようにして得られる物質

本発明は、次の各段階;シード(6)が、第1の物質の基体(2)上に炭素を分解させるように適合させた触媒を生成させる段階;カーボンナノチューブ(8)を該シード(6)から成長させる段階;そしてシード(6)から方位付けされる少なくとも1つの単結晶領域(12)を含む第2の物質の層を生成させる段階:を含む結晶性物質の合成方法を提供する。本発明は、該方法によって得られる物質をも提供する。本発明はまた、ガラス基体上にポリ結晶シリコンを適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性物質の合成方法と、そのようにして得られた物質とに関する。
詳細には、本発明は、次の各段階;
a)第1の物質で構成される基体上に炭素を分解させるために適合させた触媒のシードを生成させる段階;
b)該シードからカーボンナノチューブを成長させる段階;そして
c)シードから方位付けされる少なくとも1つの単結晶領域を含む第2の物質の層を生成させる段階:
を含む結晶性物質の合成方法に関する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明の方法は、非晶質基体(ガラス等)の上に少なくとも部分的に結晶質のシリコン層(多結晶シリコン)を作り出すことができる。この場合には、特に、本発明の方法によって得られる生成物は、エレクトロニクス用途(フラットスクリーンの作成等)に対して特に有利である。
【0003】
段階b)において、単結晶領域の方位をお互いに最適化するために該シードを磁場中で方位付けさせる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の方法は、次の傾向;
・該第1の物質が、非晶質物質である;
・該触媒が、遷移金属を含む;
・該第2の物質が、シリコンである;
・段階c)が、次の各下位段階;
c1)該第2の物質を、該基体とカーボンナノチューブの頂部に配置されるシードとの上に非晶形で堆積させる段階;次いで
c2)該第2の物質を固相内で結晶化させる段階:
を含み;
・段階a)が、次の各下位段階;
a1)触媒のスタッドを基体上で生成させる段階;次いで
a2)該基体及び該スタッドをアニールしてシードを形成させる段階:
を含み;
・段階a)が、次の各下位段階;
a'1)触媒によって構成される薄膜を該基体上に堆積させる段階;次いで
a'2)該基体及び該薄膜をアニールしてシードを形成させる段階:
を含み;
・段階a)が、次の各下位段階;
a''1)金属イオンを薄層内にインプラントする段階;
a''2)イオンがインプラントされた薄層をアニールし、該インプラントされたイオン由来の金属析出物を形成させる段階;
a''3)該薄層の選択的な侵食を実施し、シードを形成させる金属析出物を該表面上に出現させる段階;
を含み、そして
・段階a2)、段階a'2)又は段階a''2)の際に、該シードを方位づけさせるために磁場をかけ;
段階a)が、次の各下位段階;
a'''1)該薄層上にマスキング樹脂の層を堆積させ、該樹脂にパターンを形成させ、そしてピットを形成させるように該パターンのところで該薄層をエッチングする段階;
a'''2)該第2の物質を堆積させる段階;
a'''3)樹脂を溶解させる段階;そして
a'''4)該薄層及び該ピット内の第2の物質をアニーリングしてシードを形成させる段階:
を含む;
を少なくとも1つ含むことができる。
【0005】
別の態様では、本発明は、下記;
・本質的に平面内に広がる第1の物質によって構成される基体;
・自由端と該基体に固定されている端との間で、本質的に該基体の平面と垂直に長手方向に伸びるカーボンナノチューブ;
・該カーボンナノチューブの自由端の近くに実質的に配置される触媒のシード;及び
・少なくとも1つのシードから方位付けされる第2の結晶性物質の少なくとも1つの領域:
を含む物質を提供する。
【0006】
上記の特性及び他の特性は、次の非限定的例の目的で与えられる本発明の2つの詳細な実施の記載によって、より明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1〜図6を参照して、本発明の方法の第1の非限定的な実施を以下に記載する。
添付の図面を参照して、本明細書を作成する。
【0008】
この例では、第1の物質(この場合にはガラス)の基体2の上で、第2の物質の層(この場合にはポリ結晶シリコン)の生成物に本発明の方法を適用する(図1c2)を参照))。
【0009】
この例では、該方法は、次の各段階;
a1)スタッド4を基体2上に作成させる段階;
a2)該基体2及び該スタッド4をアニールしてシード6を形成させる段階;
b)該シード6からカーボンナノチューブ8を成長させる段階;
c1)非晶質シリコン層10を、該基体2、該シード6、及び該カーボンナノチューブ8上に堆積させる段階;そして、
c2)該非晶質シリコン層10が堆積している基体2をアニールし、該固相内で該シリコンを結晶化させ、方位付けされたシリコンの結晶粒11を得る段階:
を含む。
【0010】
スタッド4は、カーボンナノチューブ8の成長に触媒作用を及ぼす触媒(この場合には金属、典型的には遷移金属)によって構成される。これは、鉄、コバルト、ニッケル、白金等であってもよい。
スタッド4を形成させるために、段階a1)の際に基体2上に薄層(鉄等)を堆積させ、次いで一般的なリソグラフ法によってエッチングし、スタッド4のアレイを形成させる。典型的には、該スタッドは、2マイクロメートル(μm)〜3μm隔て、間隔をあける。
【0011】
段階a2)では、減圧下、650℃〜750℃において、鉄の薄層をアニールさせる。
変法では、10ナノメートル(nm)厚の触媒の薄層を基体2上で堆積させ、全体をアニールする。
【0012】
図2は、700℃でアニールされたニッケルの薄層からシード6が形成され、それによって、シード6が得られる様式を簡素化する変法を示している。実は、規則的に正しく整列したアレイを準備する必要はない。結晶化段階c2)の際に2つのシード6相互間で一様に核形成することを防ぐために、該アモルファスシリコンにおいて、シード6は平均して3μm〜6μm離れていれば十分である(Y.Kunii,M.Tabe及びK.Kajiyama,J.Appl.Phys.,vol54,p2847(1983))。実は、一様な核形成はランダムに生じ、そのようにして生成された結晶粒11が、結晶化後にシリコン層の秩序化を妨げる。
【0013】
段階b)では、単に850℃〜1000℃における熱化学気相堆積法(CVD)又は600℃〜700℃におけるプラズマ化学気相成長法(PECVD)によって、該シードからカーボンナノチューブ8を成長させる。該成長法において、例えば、M.MeyyappanらのPlasma Sources Sci Technol、No 12、205ページ(2003)による論文を参照すべきである。
【0014】
図3に示すように、該成長段階では、気体中の炭素含有種(この場合にはC22)をシード6上で分解させる。放出された炭素は、シード6によって分解(dissolve)され、そしてその側面(一般的に、より冷たい)に析出してナノチューブ8を生じさせる。シード6が基体2とほとんど相互作用しない、すなわちγa+γ*≧γb(γa、γb及びγ*は、それぞれ、触媒、基体2、及び触媒/基体2の界面の表面エネルギー)である場合には、シード6の形状は変形し、そしてナノチューブ8の自由端のところで動くことができる。
【0015】
この場合には、成長後、カーボンナノチューブ8の軸に関して、シード6の方位はランダムではない(M.Audierら、J.Cryst.Growth No 55、549ページ(1981)を参照)。
【0016】
特に、鉄のシード6に関して図4に示すように、シード6の[100]軸がカーボンナノチューブ8の軸Aに平行なことを観察できる。他の遷移金属の場合、方位は異なりうるが、全てのケースにおいて、シード6の方位と成長後のカーボンナノチューブ8の軸との間に明確な相関がある。カーボンナノチューブ8の成長によって、ランダム方位を有するシード6が、カーボンナノチューブ8の軸に関して明確な方位を有するシード6に変形する。
【0017】
図5に示すように、PECVDによって得られるカーボンナノチューブ8が全て平行かつ垂直で、そしてシード6が、カーボンナノチューブ8の軸に平行なそれらの[100]軸を有する場合には、シード6の全ては、カーボンナノチューブ6の成長後に同一の晶帯軸を有する。従って、本発明の方法に従うカーボンナノチューブ8の成長によって、完全なランダム方位を有する触媒層が、同一晶帯軸を有するカーボンナノチューブ8の頂部においてシード6のアレイに変わる。
【0018】
基体2の平面で金属シードの方位を改良するために、シード6を形成させる段階a2)か、又はシード6からカーボンナノチューブ8を成長させる段階b)において、基体2の平面で適切に方位付けさせる磁場をかけることができる。
【0019】
段階c1)では、シード6を方位付けさせる頂部のところで、カーボンナノチューブ8のアレイ上に非晶質シリコン10の薄層を堆積させる。200℃〜600℃の範囲の温度において、SiH4又はSi26を分解して、PECVD又はLPCVD(低圧化学気相堆積法)によって、当業者に公知の条件の下で段階c1)を実施する。
【0020】
段階c2)では、非晶質シリコン10の層を、概して450℃〜550℃の範囲の温度で、制御された圧の炉内において固相内で結晶化させる。従って、テクスチャが多く、そしてカーボンナノチューブ8の頂部のところで、シード6の方位に一致する表面方位を有するポリ結晶シリコン層が得られる。固相のシリコンエピタキシが、シード6上で生ずる。これらのシード6は同一方位を有するので、非晶質基体2上にテクスチャが多い多結晶12又は一様な単結晶シリコンの最終的な薄層が得られる。
【0021】
シード6上のシリコンの成長及び固相エピタキシを、図6に示す。成長の第一の段階では、結晶化の最前部は、シード6の頂部から層10の厚み内に広がる。次いで、層10の厚み全体が結晶化されると、結晶化の最前部20は、層10の平面に平行に移動する。シード6上でエピタキシャル成長するシリコン(従って、シード6の上で方位付けされている)は、それぞれのシード6から結晶化する。結晶化の最前部20は横方向に移動し、無方位の少ない粒界22が得られる。
【0022】
本発明の方法の第2の例(これも非限定的である)を、図7を参照して以下に記述する。この例では、本発明の方法は、シード6を形成する各段階において上述の方法と本質的に異なる。
【0023】
図7に示すように、当業者に公知の誘電物質の薄層30を、非晶質基体2上に形成させる。誘電物質は、シリカ(SiO2)又は窒化ケイ素(Si34)等でありうる。
【0024】
段階a''1)では、金属イオンを薄層30の中にインプラントする。触媒に相当する金属イオンが選択され、シード6を形成させる。
段階a''2)では、基体2及びイオンインプランテーションを受ける薄層30のアニールを約600℃で実施する。アニールの際、該金属原子が析出する。析出物31の間隔及びサイズは、段階a''1)の際のインプランテーション供与量の関数として調整できる。典型的には、1017〜1018イオン/cm2のオーダーの供与量を用いることができる。
【0025】
段階a''3)では、誘電物質の薄層30の化学侵食を実施し、金属析出物31を「露出」させる。金属析出物31の姿を現した部分がシード6を構成し、シード6から、カーボンナノチューブ8の成長、次いで、非晶質シリコンの堆積、次いで、その結晶化が、上述のような本発明の方法の第1の例の次の段階b)、段階c1)及び段階c2)によって実施されうる。
【0026】
本発明の方法を実施するさらに非限定的な第3の例を、図8を参照して以下に記述する。この例では、本発明の方法は、シード6を形成する各段階における上述の方法と本質的に異なる。
【0027】
図8に示すように、段階a'''0)において、当業者に公知の誘電物質の薄層30を非晶質基体2上に形成させる。該誘電物質は、シリカ(SiO2)又は窒化ケイ素(Si34)等でありうる。
【0028】
段階a'''1)において;
・マスキング樹脂40の層を薄層30の上に堆積させる;
・薄層30を暴露させる一定の領域を除き、樹脂40が薄層30をマスクするようにフォトリソグラフィー等によって、樹脂40内にパターンを形成させる;そして
・薄層30を該暴露領域において、基体2に向かって下方にエッチングし、ピット41を形成させる。
【0029】
段階a'''2)では、シード6を形成させるために選択された金属触媒44を堆積させる。
段階a'''3)では、樹脂40を溶解させる。従って、樹脂上に存在する触媒44も、操作の際に取り除く。
【0030】
段階a'''4)では、基体2と、薄層30と、ピット41の底部に存在する触媒44とのアニールを約600℃で実施する。アニールの際、該触媒が、ナノ粒子の形態でシード6を形成する。
次いで、シード6を方位付けさせるために、上述の段階b)と類似の様式で、シード6からカーボンナノチューブ8を成長させる段階b''')を実施する。
【0031】
最後に、非晶質シリコン10の層を堆積させる段階c'''1)を実施し、次いで非晶質シリコン10の層を結晶化させる段階c'''2)(図示せず)を実施する(それぞれ、上述の段階c1)及びc2)に類似している)。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の方法の第1の実施を示す図表である。
【図2】図2は、図1の方法の第1の段階に従ってシードが形成された基体の走査型電子顕微鏡像の写真である。
【図3】図3は、図2に示されるシード等のシードからカーボンナノチューブの成長の開始を示す概略の断面図である。
【図4】図4は、カーボンナノチューブとその成長を助長するシードとの自由端の透過型電子顕微鏡像の写真である。
【0033】
【図5】図5は、図1の方法の第1の段階に従って成長した一連のカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像の写真である。
【図6】図6は、図1によって具体的に説明される方法に従って非晶質シリコンの薄層の結晶化を示す基体を通した概略の断面である。
【図7】図7は、本発明の方法の第2の実施の中の一部の段階を示す図表である。
【図8】図8は、本発明の方法の第3の実施の中の一部の段階を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の各段階;
a)第1の物質で構成される基体(2)上に炭素を分解させるように適合させた触媒のシード(6)を生成させる段階;
b)該シード(6)からカーボンナノチューブ(8)を成長させる段階;そして
c)該シード(6)から方位付けされる少なくとも1つの単結晶領域(12)を含む第2の物質の層を生成させる段階:
を含む結晶性物質の合成方法。
【請求項2】
段階b)において、該シード(6)を磁場中で方位付けさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該第1の物質が非晶質物質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該触媒が遷移金属を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
該第2の物質がシリコンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
段階c)が、次の各下位段階;
c1)該第2の物質(10)を、該基体(2)とカーボンナノチューブ(8)の頂部に位置するシード(6)との上に非晶形で堆積させる段階;次いで
c2)該第2の物質を固相内で結晶化させる段階:
を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
段階a)が、次の各下位段階;
a1)該第2の物質のスタッド(4)を、該基体上で生成させる段階;次いで
a2)該基体(2)及び該スタッド(4)をアニールし、該シード(6)を形成させる段階:
を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階a)が、次の各下位段階;
a'1)該第2の物質によって構成される薄膜を、該基体(2)上に堆積させる段階;次いで
a'2)該基体(2)及び該薄膜をアニールし、該シード(6)を形成させる段階:
を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
段階a)が、次の各下位段階;
a''1)金属イオンを薄層(30)内にインプラントする段階;
a''2)該イオンがインプラントされた該薄層(30)をアニールし、該インプラントされたイオン由来の金属析出物(31)を形成させる段階;
a''3)該薄層(30)の選択的な侵食を実施し、該シード(6)を形成することになる該金属析出物を該表面上に出現させる段階;
を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
段階a2)、段階a'2)又は段階a''2)において、該シード(6)を方位付けさせるために磁場をかける、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
段階a)が、次の各下位段階;
a'''1)該薄層(30)上にマスキング樹脂層(40)を堆積させ、該樹脂(40)にパターンを生成させ、そして該パターンのところで該薄層(30)をエッチングしてピット(41)を形成させる段階;
a'''2)該第2の物質を堆積させる段階;
a'''3)該樹脂(40)を溶解させる段階;そして
a'''4)該薄層(30)と該ピット(41)内の第2の物質とをアニールして該シード(6)を形成させる段階:
を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
本質的に平面に広がる第1の物質によって構成される基体(2);
自由端と該基体(2)に固定される端との間で該基体(2)の平面と本質的に垂直に長手方向に伸びるカーボンナノチューブ(8);
該カーボンナノチューブ(8)の該自由端の近くに実質的に位置する触媒のシード(6);及び
少なくとも1つの該シード(6)から方位付けされる第2の結晶性物質の少なくとも1つの領域(12):
を含む物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−516145(P2007−516145A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516333(P2006−516333)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001634
【国際公開番号】WO2005/001168
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】