説明

結晶成長用容器、液滴調製器具および結晶取得方法

【課題】微小液滴中に少なくとも1個の結晶を効率よく取得する。
【解決手段】結晶成長用容器2では、その内部に、結晶化させる物質を含む溶液の微小液滴10が配置されている。微小液滴10は、その最長部の長さが、結晶化させる物質の自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離R以下となるような大きさに調製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小液滴中に少なくとも1個の結晶を取得する結晶成長用容器、液滴調製器具および結晶取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質に代表される物質の単結晶化と、その構造解析による立体構造の決定とにおいては、液滴中に少なくとも1個の結晶を生成させること、または個々の結晶を離れた場所に生成することが求められている。すなわち、個々の結晶が合体せずに離れていることが求められている。これは、X線を用いた構造解析装置などの高性能化(例えば、結晶に照射されるX線の高出力化、当該結晶で散乱したX線を検出する検出器の高性能化など)に起因している。なお、この解析においては、対象となる結晶が必ずしも大きいことは要求されない。
【0003】
例えば非特許文献1には、このような結晶化を達成する環境としては、宇宙等の微小重力下での結晶化法が報告されている。微小重力環境下では、速度論的条件と物質の輸送とが絶妙に制御されることにより、タンパク質の結晶が成長するので、結果として拡散律速による結晶成長が可能となっている。そのため、一般的に、宇宙で得られる単結晶は大きく、結晶格子の完全性が高い。すなわち、宇宙等の微小重力環境は、結晶成長にとって好都合であるといえる。
【0004】
また、上記のように、少なくとも1個の結晶を得る技術としては、例えば非特許文献2〜4が挙げられる。非特許文献2では理論的制御によって、非特許文献3では速度論的制御によって、それぞれ「少なくとも1個の核発生」を達成したことが報告されている。また、非特許文献4では、マイクロ流体の技術(例えばマイクロリアクター)を用いて、核発生とその成長とを分離して制御することにより、液滴中に少なくとも1個の結晶を得たことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F. Rosenberger, P. G. Vekilov, M. Muschol and B. R. Thomas, J. Crystal Growth, 1996, 168, 1-27
【非特許文献2】D. Kashchiev, D. Clausse, C. Jolivet-Dalmazzone, Journal Colloid and Interface Science 1994, 165, 148-153
【非特許文献3】P. Laval, J. Salmon, M. Joanicot, Journal of Crystal Growth 2007, 303, 622-628.
【非特許文献4】J. Shim, G. Cristobal, D. R. Link, T. Thorsen, S. Fraden, Crystal Growth & Design 2007, 7, 2192-2194.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、微小重力環境である宇宙などでの実験を行うことで拡散律速による結晶成長を達成可能であると開示されている。しかし、宇宙に行って当該実験を行うことは、費用面などの問題から容易ではない。また、宇宙にて当該実験を行うことができたとしても、その実験の時間は制限され、十分な実験を行うことができない可能性がある。それゆえ、シミュレーション、または、微小重力の代替環境での実験のような、低額でかつ容易に、上記拡散律速による結晶成長を達成する手法が要求されている。
【0007】
また、非特許文献2〜4の手法または技術では、液滴中に少なくとも1個の結晶を成長させることについては開示されているが、拡散律速による結晶成長については何ら開示されていない。さらに、これらの手法または技術では、当該手法または技術を適用できる物質に制限があり、また、複雑な処理を要していた。
【0008】
また、非特許文献1〜4の技術では、地上などの重力環境下において、そのような結晶成長を達成することを目的としていなかった。なお、拡散律速による結晶成長でなければ、微小液滴内に少なくとも1個の結晶を成長させるときの当該微小液滴の大きさを定義(推定)することができない。
【0009】
一方、本発明の発明者は、重力環境下における微小液滴の内部における物質の挙動(内部流体挙動)と、微小重力下における液滴の内部流体挙動との類似性に着目し、地上において微小液滴を用いての拡散律速による結晶成長を達成するに至った。当然ながら、本発明の発明者によって初めて、その微小液滴の大きさを定義した上で、上記の拡散律速による結晶成長を達成させる技術が見出された。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、その目的は、微小液滴中に少なくとも1個の結晶を効率よく取得することが可能な結晶成長用容器、液滴調製器具および結晶取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る結晶成長用容器は、上記の課題を解決するために、物質の結晶を成長させるための結晶成長用容器であって、上記結晶成長用容器の内部には、結晶化させる物質を含む溶液の微小液滴が配置されており、上記微小液滴は、上記微小液滴の最長部の長さが、上記結晶化させる物質の自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離以下となるような大きさに調製されていることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、結晶成長用容器には微小液滴が配置されているので、その微小液滴中の密度差によって駆動される対流が抑制される。これにより、拡散律速による結晶成長を達成することができる。そして、この結晶成長の達成により、上記結晶成長用容器の内部に配置された微小液滴中において、物質が自然拡散でしか移動しない環境が整うことになる。そのため、その微小液滴中に物質の結晶を拡散律速により発生させることができる。
【0013】
また、結晶成長用容器の内部に配置される微小液滴は、その最長部の長さが最大可能移動距離以下となるような大きさに調製されているので、微小液滴中に物質の結晶を確実に成長させ、かつその個数を少なくとも1個に抑制することができる。すなわち、本発明の結晶成長用容器では、微小液滴中に少なくとも1個の物質の結晶を、効率よく成長させることができる。
【0014】
さらに、本発明に係る結晶成長用容器では、上記微小液滴の周囲は、当該微小液滴とは相溶でない媒体物質で満たされていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、微小液滴が、外部と物質の出入りのない孤立した状態となるため、結晶成長用容器を乱暴に扱わない限り、その微小液滴中で成長する結晶が、他の微小液滴あるいはその他の物質と合体することがない。そのため、結晶の解析を容易に行うことができる。
【0016】
さらに、本発明に係る結晶成長用容器では、上記微小液滴の大きさは、その微小液滴中の密度差によって駆動される対流が抑制される大きさであることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、微小液滴が、密度差によって駆動される対流が抑制される大きさに調製されていることにより、拡散律速による結晶成長を生じさせることができる。
【0018】
さらに、本発明に係る結晶成長用容器では、上記微小液滴が配置される上記内部の最短部の長さが、上記微小液滴の最長部の長さと同一であることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、結晶成長用容器の内部に、確実に微小液滴を配置することができる。
【0020】
さらに、本発明に係る結晶成長用容器では、上記結晶化させる物質は、タンパク質であることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、タンパク質の拡散定数を用いて求められる移動可能最大距離は、微小液滴中の対流を効率よく抑制できる値に近い。すなわち、拡散定数を用いて移動可能最大距離が求められる場合、微小液滴中に結晶化させる物質としてタンパク質を用いることにより、上記対流を効率よく抑制でき、拡散律速による結晶成長を達成しやすくすることができる。
【0022】
さらに、本発明に係る結晶成長用容器は、円筒状のキャピラリーであることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、結晶成長用容器が、一般的に用いられる結晶構造解析装置と親和性の高いキャピラリーにより実現されるので、汎用性が高い容器を提供できる。
【0024】
さらに、本発明に係る結晶成長用容器は、微小液滴中に成長させた、上記結晶化させる物質の結晶を、結晶の構造を解析する結晶構造解析装置の解析対象とすることが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、結晶成長用器具において結晶化させた物質の結晶を、結晶構造解析装置の解析対象にしている。すなわち、物質の結晶を成長させた結晶成長用容器を、結晶解析構造装置が備える試料台にそのままセットすることが可能となる。それゆえ、従来のように、結晶を成長させた器具から取り出して、結晶解析構造装置の試料台にセットするといった手間を省くことができる。
【0026】
さらに、本発明に係る液滴調製器具は、上記に記載の結晶成長用容器に接続され、上記微小液滴を調製して、当該結晶成長用容器に送液することが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、液滴調製器具は、結晶化させる物質を結晶としてその内部に成長させることが可能な微小液滴を調製し、結晶成長用容器に、その調製された微小液滴を送液する。それゆえ、結晶化させる物質を含む、その大きさが制限された微小液滴を、結晶成長用容器に配置することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る結晶取得方法は、物質の結晶を取得するための結晶取得方法であって、上記物質が、微小液滴中を自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離を、下記(1)、(2)、および(3)に示すパラメータから推定する推定工程と、(1)上記物質の結晶が成長することにより、上記物質を含む溶液中の当該物質が消費される速度である物質消費速度;(2)上記物質の拡散が開始されたときの、上記微小液滴に対する上記物質の濃度である物質初期濃度;(3)上記物質の拡散定数;上記推定工程により推定された上記移動可能最大距離に基づく大きさとなるように、上記微小液滴を調製する調製工程と、上記調製工程により調製された上記微小液滴中に、上記物質の結晶を少なくとも1個成長させる成長工程と、を含むことを特徴としている。
【0029】
上記構成によれば、その微小液滴中の密度差によって駆動される対流が抑制される。これにより、拡散律速による結晶成長を達成することができる。そして、この結晶成長の達成により、物質が自然拡散でしか移動しない環境が整うため、上記のような物質の移動可能最大距離の推定を行うことができる。
【0030】
また、上記の推定工程により、拡散律速による結晶成長の対象となる物質ごとに(物質の制限なく)、単純かつ汎用的に上記の移動可能最大距離を推定することができるので、上記結晶の取得を容易に行うことを可能とする。
【0031】
そして、上記の推定工程により得られた移動可能最大距離に基づく大きさの微小液滴を調製し、その微小液滴中に少なくとも1個の結晶を成長させることにより、微小液滴中に結晶を効率よく成長させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る結晶成長用容器は、以上のように、上記結晶成長用容器の内部には、結晶化させる物質を含む溶液の微小液滴が配置されており、上記微小液滴の最長部の長さが、上記結晶化させる物質の自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離以下となるような大きさに調製されている構成である。
【0033】
また、本発明に係る結晶成長方法は、以上のように、上記物質が、微小液滴中を自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離を、下記(1)、(2)、および(3)に示すパラメータから推定する推定工程と、(1)上記物質の結晶が成長することにより、上記物質を含む溶液中の当該物質が消費される速度である物質消費速度;(2)上記物質の拡散が開始されたときの、上記微小液滴に対する上記物質の濃度である物質初期濃度;(3)上記物質の拡散定数;上記推定工程により推定された上記移動可能最大距離に基づく大きさとなるように、上記微小液滴を調製する調製工程と、上記調製工程により調製された上記微小液滴中に、上記物質の結晶を少なくとも1個成長させる成長工程と、を含む方法である。
【0034】
それゆえ、本発明の結晶成長用容器および結晶取得方法では、微小液滴中に少なくとも1個の物質の結晶を、効率よく成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る結晶成長用容器の一例を示すものであり、その内部に、成長した物質の結晶を含む微小液滴が配置された様子を示す図である。
【図2】上記結晶成長用容器に接続される液滴調製器具の一例を示す図である。
【図3】上記液滴調製器具の主流路および副流路の構成の一例を示す模式図である。
【図4】上記結晶成長用容器に配置された微小液滴中にソーマチンの結晶を成長させたときの、当該結晶の個数についての実験結果の一例を示すものであり、(a)は、上記結晶成長用容器の内径が360μmであるときの実験結果の一例を示すものであり、(b)は、上記結晶成長用容器の内径が200μmであるときの実験結果の一例を示すものであり、(c)は、上記結晶成長用容器の内径が130μmであるときの実験結果の一例を示すものである。
【図5】上記結晶成長用容器に配置された微小液滴中にリゾチームの結晶を成長させたときの、当該結晶の個数についての実験結果の一例を示すものであり、(a)は、上記結晶成長用容器の内径が360μmであるときの実験結果の一例を示すものであり、(b)は、上記結晶成長用容器の内径が200μmであるときの実験結果の一例を示すものである。
【図6】本実施形態に係る結晶取得装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図7】本実施形態に係る結晶取得方法において微小液滴の大きさの推定するときのモデルとなる微小球殻の一例を示す図である。
【図8】本実施形態に係る結晶取得装置における処理を含む結晶取得方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施の一形態について図1〜図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。説明の便宜上、図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0037】
〔本発明の概要〕
<本発明に至った背景>
本実施形態の結晶成長用容器に配置される微小液滴は、様々な用途に活用される。特に、ドラッグデリバリー、あるいはその他のバイオメディカルの分野において用いられている。これは、例えば、微小液滴をテンプレートとして用いることで、大きさの均一性が高いリポソームを調製したり、高い内包化効率を達成したりするなど、リポソームを高度に制御することができるためである。上記の分野では、このように高度に制御されたリポソームが必要不可欠である。また、微小液滴は、小さな拡散距離、および大きな比表面積という特性を有しているので、その微小液滴中で物質の化学反応を効率よく行わせることができることも、様々な用途に利用される一因である。
【0038】
なお、微小液滴を上記の用途に用いるためには、高度に制御された微小液滴を大量に調製する必要がある。このような調製には、単分散で大きさが制御された微小液滴を再現性よく大量に作るための道具として、マイクロ流体の技術(例えばマイクロリアクター)が有用である。
【0039】
また、微小液滴は、その強い表面張力により、その内部では、密度差によって駆動される対流(密度差駆動対流)ではなく、マランゴニ対流が支配的な内部流動となるという特徴的な内部流体挙動を示す。
【0040】
微小重力環境下では、密度差駆動対流が起こらないため、微小液滴の内部ではマランゴニ対流だけが起こる。そのため、微小重力環境下では、速度論的条件と物質の輸送とが絶妙に制御された環境が物質の結晶成長にもたらされ、結果として、拡散律速による結晶成長が可能となる。そのため、一般的に、宇宙などの微小重力環境下では、大きくて結晶格子の完全性が高い結晶(単結晶)を成長させることが可能である。
【0041】
しかし、微小重力環境は、結晶成長にとって好都合なものではあるが、当該環境に簡単に行くことが可能であるわけでもなく、当該環境では、結晶成長に係る実験の時間も制限される。それゆえ、シミュレーション、または、微小重力の代替環境での実験のような、低額でかつ容易に、上記拡散律速による結晶成長を達成する手法が要求されていた。
【0042】
<本発明の概要>
そこで、本発明者は、地上などの重力環境下での微小液滴と、宇宙などの微小重力下での液滴(必ずしも「微小」ではない)との内部流体挙動の類似性(すなわち、微小液滴中の密度差によって駆動される対流が抑制される点)に着目し、重力環境下において微小重力環境を再現する技術の可能性について研究を行った。その結果、大きくて格子の完全性が高い結晶を得ることが可能な拡散律速による結晶成長を、重力環境下において微小液滴を用いることで成功した。
【0043】
なお、微小液滴を用いた結晶化方法としては、例えば、表面拡散法、二層流体、容器中での拡散法などが報告されているが、これらの方法では、地上などの重力環境下において、拡散律速による結晶成長を達成することを目的としていなかった。
【0044】
これらの検討を踏まえ、本発明者は、微小液滴の最長部の長さが、結晶化させる物質の自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離以下となるように調製された微小液滴を配置した結晶成長用容器を実現するに至った。
【0045】
これにより、この結晶成長用容器の内部には、最長部の長さが最大可能移動距離以下である微小液滴が配置されることになるため、微小液滴中に物質の結晶を効率よく成長させ、かつその個数を少なくとも1個(例えば、1〜3個程度)に抑制することができる。
【0046】
また、上記結晶成長用容器においては、拡散律速による結晶成長を達成するために、その微小液滴の大きさが、その微小液滴中の密度差によって駆動される対流が抑制される大きさとなるように調製されている。
【0047】
さらに、本発明者は、外部と物質の出入りのない「孤立した」微小液滴中での結晶化の背景について理論的な研究を行った。すなわち、本発明者は、上述した微小液滴の内部流体挙動の理論的な考察によって、外部との物質のやり取りのない「孤立した」微小液滴の内部に、少なくとも1個だけ結晶を得ることに注目した。これを実現すべく、本実施形態に係る結晶成長用容器においては、微小液滴の周囲が、当該微小液滴とは相溶でない媒体物質で満たされるように、当該微小液滴が配置されている。
【0048】
また、本発明者は、1つの微小液滴中に1つの結晶を得るための当該結晶の大きさの見積もり(推定)を行い、その結果、その見積もられた大きさと、実際の実験で得られた微小液滴の大きさとが概ね一致することを確認した。
【0049】
この検討を踏まえ、本発明者は、上記移動可能最大距離を、
(1)上記物質の結晶が成長することにより、上記物質を含む溶液中の当該物質が消費される速度である物質消費速度
(2)上記物質の拡散が開始されたときの、上記微小液滴に対する上記物質の濃度である物質初期濃度
(3)上記物質の拡散定数
に示すパラメータから推定し、その推定した移動可能最大距離に基づく大きさとなるように、微小液滴を調製し、当該微小液滴中に、物質の結晶を少なくとも1個成長させる結晶取得方法を実現するに至った。これにより、単純かつ汎用的に上記移動可能最大距離を推定することができるので、上記結晶の取得を容易に行うことを可能とする。そして、その推定された移動可能最大距離に基づく大きさの微小液滴を調製し、その微小液滴中に少なくとも1個の結晶を成長させることにより、微小液滴中に結晶を効率よく成長させることができる。
【0050】
また、本発明者は、上記結晶成長用容器に配置した微小液滴中に成長させた、結晶化させる物質の結晶を、結晶の構造を解析する結晶構造解析装置の解析対象とする結晶成長用容器を実現するに至った。
【0051】
一般に、結晶構造解析装置において決定されるタンパクの立体構造は、分子生物学または創薬の分野では、最も基本的で重要な情報源となる。その立体構造の決定の前段階として、結晶を成長させる工程を必要とする。従来は、その結晶を成長させた後、成長させた容器からその結晶を取り出して、結晶構造解析装置の試料台(ゴニオステージ)に載置するという手作業が生じていた。
【0052】
しかし、本実施形態では、上記のように成長させた結晶を含む結晶成長用容器を、結晶構造解析装置の解析対象とすることにより、結晶を取り出すという工程を生じさせることなく、最終的な解析対象である結晶を、結晶構造解析装置に提供することができる。すなわち、微小液滴中に少なくとも1個だけ結晶を成長させ、その結晶を結晶成長用容器から取り出さずにそのまま結晶構造解析装置に提供することが可能となる。
【0053】
また、結晶構造解析において、少なくとも1個の結晶が成長した微小液滴が配置された結晶成長用容器から、当該結晶を取り出さなくてもよいので、当該結晶成長用容器を、その構造解析にも対応可能な「結晶構造解析支援器具」として用いることができる。
【0054】
なお、本実施形態の結晶成長用容器に配置された、その大きさが調整された微小液滴では、物質が自然拡散でしか移動しない環境が整うことになる。そのため、その微小液滴の内部で最初の1個の核発生後、物質の濃度勾配を生じさせることができ、その結果、「制御された」過飽和状態の解消を実現することができる。それゆえ、拡散律速により、微小液滴中に結晶を成長させるときに、その微小液滴中に当該結晶を「1個だけ」成長させることも可能となる。
【0055】
〔実験系〕
<液滴調製器具>
次に、図2および図3を用いて、本実施形態に係る結晶成長用容器2に配置される微小液滴10を調製する液滴調製器具1について説明する。図2は、結晶成長用容器2に接続される液滴調製器具1の一例を示す図である。また、図3は、液滴調製器具1の主流路1aおよび副流路1bの構成の一例を示す模式図である。
【0056】
図2に示すように、液滴調製器具1は、例えば、結晶成長用容器2(キャピラリー)に接続され、微小液滴10(図1参照)を調製して、当該結晶成長用容器2に送液するものである。液滴調製器具1では、微小液滴10を所定の大きさ(移動可能最大距離R以下となるような大きさ)に調製するために、その内部に送液される物質の種類、濃度、流速などが制御される。
【0057】
液滴調製器具1は、例えば、マイクロ流路デバイスにより実現されている。本実施形態では、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるマイクロ流路デバイスが使用される。その構造は、従来から用いられているマイクロ流路デバイスと同様であるので、ここではその具体的な説明は省略する。
【0058】
また、図3に示すように、液滴調製器具1は、少なくとも主流路1aおよび副流路1bを備えている。物質の結晶11(図1参照)をその内部に少なくとも1つ成長させることが可能な微小液滴10を調製するために、副流路1bから、結晶化させる物質を含む溶液、沈殿剤溶液およびフッ化物系オイルが送液される。結晶化させる物質を含む溶液および沈殿剤溶液は、互いに相溶であり、合体することにより微小液滴10が調製される。また、フッ化物系オイルは、微小液滴10とは相溶でない媒体物質として機能する。このため、フッ化物系オイルは、調製された微小液滴10の周囲を取り囲むことができ、微小液滴10を「孤立した」状態で結晶成長用容器2の内部に配置することを可能にする。
【0059】
具体的には、複数の副流路1bのうち、結晶成長用容器2に接続される側の副流路1bからフッ化物系オイルが送液され、結晶成長用容器2に接続される側から離れた位置に設けられている副流路1bから、上記結晶化される溶液および沈殿剤溶液が送液される。図3に示す例では、当該溶液としてはタンパク質溶液が送液されている。
【0060】
なお、上記の微小液滴10と相溶でない媒体物質は、微小液滴10の「孤立した」状態を実現可能であれば、フッ化物系オイルに限られないが、上記結晶化される溶液および沈殿剤溶液と極端に大きな密度差がないことが好ましい。
【0061】
複数の副流路1bは、主流路1aに接続され、その主流路1aの一端が結晶成長用容器2に接続される。これにより、副流路1bから各種材料(各種溶液)が送液されることにより、主流路1aにおいて微小液滴10が調製される。なお、本実施形態では、微小液滴10が液滴調製器具1の内部で所定の大きさになる調整され、結晶成長用容器2に送液されるものとして説明するが、これに限らず、液滴調製器具1に接続された結晶成長用容器2において、微小液滴10が所定の大きさとなるまで調製されてもよい。
【0062】
図3に示す例では、主流路1aの断面(各種材料が流れる方向に対して垂直な面)は、結晶成長用容器2に接続される一端の断面が100μm×200μmの長方形、それ以外の部分が100μm×100μmの正方形となっている。また、副流路1bの断面も、100μm×100μmの正方形となっている。結晶成長用容器2に接続される一端の断面が、それ以外の部分の断面に比べて大きいのは、各種材料の結晶成長用容器2への送液を容易にするためである。
【0063】
なお、副流路1bの設け方、副流路1bの個数、副流路1bと送液される材料との関係(どの副流路1bからどの材料が送液されるか)、並びに、主流路1aおよび副流路1bの寸法は、あくまで一例であって、物質の結晶11をその内部に少なくとも1つ成長させることが可能な微小液滴10を調製できる構成であれば、これらに限定されない。
【0064】
<結晶成長用容器>
次に、図1を用いて、本実施形態に係る結晶成長用容器2について説明する。図1は、結晶成長用容器2の一例を示すものであり、その内部に、成長した物質の結晶11を含む微小液滴10が配置された様子を示す図である。
【0065】
結晶成長用容器2は、物質の結晶11を成長させるためのものであって、その内部に、結晶化させる物質を含む溶液の微小液滴10が配置(配列)されているものである。また、配置された微小液滴10の最長部の長さが、移動可能最大距離R以下となるような大きさに調製されている。
【0066】
本実施形態では、結晶成長用容器2は、テフロン(登録商標)からなるキャピラリー(テフロンキャピラリーチューブ)であり、図1に示す例では、その内径が200μmである。以下の実験例では、4つの異なる内径(130、200、360および500μm)を有する円筒状のキャピラリーが結晶成長用容器2として用いられている。なお、どの内径を有する結晶成長用容器2を用いたとしても、接続される液滴調製器具1の大きさは共通である。
【0067】
また、図1に示す例では、3つの微小液滴10が配置されている。また、その形状は略「真球」であり、結晶成長用容器2の内径と略同一の直径を有している。すなわち、微小液滴10が配置される、結晶成長用容器2の内部の最短部の長さは、微小液滴10の最長部の長さと同一となっている。そして、その微小液滴10の内部には、結晶11が成長している。
【0068】
なお、その形状は、真球に限られることはなく、細長い形状であってもよい。なお、本実施形態に係る「移動可能最大距離R」は、真球の微小液滴10に対して定義される場合、その「直径」ではなく「半径」を指すものとなる。
【0069】
<実施例>
次に、上述した液滴調製器具1および結晶成長用容器2を用いて、微小液滴10が調製され、その内部に結晶11を成長させたときの一実施例(実験例)を説明する。なお、以下に説明する実施例は、あくまで一実施例であって、本実施形態の液滴調製器具1、結晶成長用容器2およびこれらを利用した結晶取得方法を限定的に解釈させるものではない。また、以下では、液滴調製器具1と結晶成長用容器2とが接続されているものとして説明する。
【0070】
この実施例では、結晶化させる物質として、タンパク質が用いられる。タンパク質の拡散定数Dを用いて(すなわち、後述の式(6)を用いて)推定される移動可能最大距離Rは、微小液滴10中の密度差駆動対流を効率よく抑制できる値に近い。それゆえ、結晶化させる物質としてタンパク質を用いた場合、上記推定値から微小液滴10を調製することができるので、タンパク質の、微小液滴10中での上記対流を効率よく抑制でき、拡散律速による結晶成長を達成しやすくすることができる。そして、タンパク質に関する実験は、特にバイオメディカルの分野において数多く行われている。それゆえ、結晶成長用容器2は、特にバイオメディカルの分野において有効に適用することができる。
【0071】
この実験では、ソーマチンというタンパク質をモデルとしている。これは、ソーマチンが典型的に当該モデルとして多用され、マクロスケールでの結晶化、その速度論解析などにおいて、非常によく研究されているためである。また、液滴調製器具1としては、PDMSからなるマイクロ流体デバイス、結晶成長用容器2としては、テフロンキャピラリーチューブを使用した。テフロンキャピラリーチューブは、4つの異なる内径(130、200、360および500μm)を有するものを準備することにより、その4つの異なる内径にあわせて「真球の」微小液滴10が調製された。
【0072】
また、液滴調製器具1の副流路1bから、タンパク質溶液および沈殿剤溶液が送液され、主流路1aから、フッ化物系オイルが送液される。タンパク質溶液は、20mg/mLの濃度のソーマチンを、100mMのN−(2−アセトアミド)イミノ2酢酸(ADA)緩衝溶液(pH6.5)に溶解したものである。沈殿剤溶液は、1.6Mの酒石酸カリウムナトリウムを、50mMの4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝溶液(pH7.0)に溶解したものである。また、フッ化物系オイルは、フッ素系不活性液体(住友スリーエム製のフロリナート(登録商標))と、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロ−1−オクタノールとを、10:1の体積比で混合したものである。
【0073】
副流路1bから送液されたタンパク質溶液と沈殿剤溶液とは、主流路1aにおいて合流し、互いに混ざり合って、当該主流路1a中で1つの微小液滴10となる。タンパク溶液と沈殿剤溶液とは略同一の流速となるように制御される。また、フッ化物系オイルは、調製される微小液滴10の周囲を取り囲み、当該微小液滴10の「孤立した」状態を実現するために、タンパク質溶液および沈殿剤溶液が送液される副流路1bとは異なる2つの副流路1bから送液される。フッ化物系オイルについても、上記流速と略同一の流速となるように制御される。そして、これらの流速を微調整することにより、真球の微小液滴10を調製した。
【0074】
所定の大きさに調製された微小液滴10が結晶成長用容器2に送液される、あるいは結晶成長用容器2にて所定の大きさの微小液滴10が調製されることにより、結晶成長用容器2の内部に配置される。所定の大きさの微小液滴10が配置された後、上記材料の送液を中止し、結晶成長用容器2を液滴調製器具1から取り外し、その両端をワックスにて封止した。そして、微小液滴10が配置された結晶成長用容器2を約4℃で保管し、当該微小液滴10中でタンパク質の結晶成長が完了するまでの間、撮像装置による撮像を行うことで、当該結晶成長の過程を観察した。
【0075】
<実験結果>
上記実験において調製された微小液滴10は、その強い表面張力により、自然に歪んで潰れてしまうようなことはなかった。また、結晶成長用容器2の内部に微小液滴10が配置され、結晶11が成長し始めてから、その成長が止まるまで、おおよそ数時間かかった。
【0076】
ここで、上記実験は、上記4つの結晶成長用容器2について行われた。それぞれの結晶成長用容器2に配置された、100〜200個の微小液滴10を観察し、その微小液滴10中で成長した結晶11の数を数えた。その結果が表1に示されている。なお、表1においては、結晶11の数を、上記複数の微小液滴10で観察された数の平均値±標準偏差で示している。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示すように、360μm、200μm、130μmの内径を有する結晶成長用容器2のそれぞれに配置された微小液滴10中(この実験では、当該内径と微小液滴10の直径とが略同一)には、およそ1個の結晶11を確認できた。一方、500μmの内径を有する結晶成長用容器2に配置された微小液滴10中には、およそ2個の結晶11を確認できた。
【0079】
<アブラミの式による結晶成長の検討>
ここで、結晶成長の機構を検討するため、結晶成長の速度論解析に用いられるアブラミの式による解析を行った。ここで、式(1)において、αは結晶11の成長割合(α=1は結晶成長終了、α=0は結晶11が生じる前、すなわちすべてのタンパク質が溶液中に溶けている状態)、kは結晶化の速度定数、tは結晶成長にかかる時間を示す。また、アブラミ指数mは、核発生と結晶成長との基本的な情報を反映するものである。
【0080】
【数1】

【0081】
この検討においては、360μmの直径を有する微小液滴10、200μmの直径を有する微小液滴10、130μmの直径を有する微小液滴10について、それぞれ約10個の微小液滴10中における結晶成長の過程を観察した。そして、結晶成長にかかった時間と結晶11の大きさとから、アブラミ指数mを求めた。その結果、アブラミ指数mは、微小液滴10がいずれの直径の場合であっても、1.5程度となった。
【0082】
上述のソーマチンを用いた実験では、微小液滴10中で成長した結晶11が、見た目で明らかに3次元的なものであったことから、m≒1.5が示す意味は、核発生速度が無限大であること、かつ拡散律速による結晶成長であることを意味する。「核発生速度が無限大である」という結果は、1つの結晶11が1つの微小液滴10中に発生し、成長するという結果と一致している。また、「拡散律速による結晶成長」という結果は、微小液滴10中の密度差による対流が十分に抑えられていることを意味する。
【0083】
<更なる実験例>
(ソーマチンの場合)
次に、図4を用いて、結晶化させる物質としてソーマチンを用いた場合の更なる実験結果の一例について説明する。図4の(a)は、結晶成長用容器2の内径が360μmであるときの実験結果の一例、(b)は、結晶成長用容器2の内径が200μmであるときの実験結果の一例、(c)は、結晶成長用容器2の内径が130μmであるときの実験結果の一例を、それぞれ示すものである。
【0084】
図4は、上記表1と同様、1個の微小液滴10中で成長する結晶11の個数と、微小液滴10の大きさに関する値とを示すものである。更なる実験例についても、上述した実験例と同様の手順で実験を行ったが、微小液滴10の形状が真球形状に限らず、非真球形状(細長い形状)となるように調製されたものも含まれる。
【0085】
例えば、図4の(a)では、実験結果(ア)〜(オ)を得た。実験結果(ア)の場合、微小液滴10の体積が最も大きく、横長(細長い形状)の微小液滴10が確認できた。そして、その微小液滴10中の結晶11の個数は約3個であった。一方、実験結果(オ)の場合、微小液滴10の体積が最も小さく、略真球の微小液滴10を確認できた。そして、その微小液滴10中の結晶11の個数は約1個であった。
【0086】
つまり、真球に近い形状に微小液滴10ほど、その体積が小さい、すなわち移動可能最大距離Rよりも小さな液滴であるがゆえ、微小液滴10中に1個の結晶11を成長させやすいといえる。微小液滴10それぞれは、「孤立した」状態で結晶成長用容器2に配置されているので、その微小液滴10に1個の結晶11だけが成長している状態であれば、それだけ結晶11の解析を容易に行うことができる。一方、微小液滴10中に結晶11が例えば2〜3個(すなわち、複数個)含まれていても、結晶11の解析に支障がない場合には、微小液滴10の体積を大きく(すなわち、非真球形状に)成長させてもよい。
【0087】
また、上記表1の結果は、内径500μmの結晶成長用容器2においてその内径にあわせて微小液滴10が調製された場合、真球の微小液滴10を得ることはできなかったことを示している。これは、短軸の長さが500μmを超える液滴では、比表面積の減少により、相対的に表面張力が減少し、自重によって液滴がひずむため、真球形状の液滴を得ることができなかったためと考えられる。したがって、この結果は、その長さが500μmを超えるような微小液滴10においては、真球の微小液滴10を得ることはできないことを意味する。
【0088】
また、図4(b)および(c)に示すように、200μmおよび130μmの内径を有する結晶成長用容器2のそれぞれについても、上記と同様、その内部に配置された微小液滴10の体積が大きければ、その内部で成長する結晶11の個数が多くなる(図4の(b)および(c)それぞれの実験結果(ア)を参照)。一方、微小液滴10の体積が小さくなるほど、その内部で成長する個数も減り、真球に近い形状である場合には、その内部に成長する結晶11の個数を約1個に制御することができる(図4の(b)の実験結果(コ)、(c)の実験結果(イ)を参照)。
【0089】
(リゾチームの場合)
次に、図5を用いて、結晶化させる物質としてリゾチームを用いた場合の更なる実験結果の一例について説明する。
【0090】
図5は、上記ソーマチンと同様、1個の微小液滴10中で成長する結晶11の個数と、微小液滴10の大きさに関する値とを示すものである。また、図5は、ソーマチンと同様の手順で実験を行った場合の実験結果を示している。
【0091】
例えば、図5の(a)(内径が360μmの場合)では、実験結果(ア)および(イ)を得た。両結果とも、微小液滴10の体積が小さく、略真球の微小液滴10を確認できた。そして、その微小液滴10中の結晶11の個数は約1〜2個であった。また、図5の(b)(内径が200μmの場合)では、実験結果(ア)および(イ)を得た。実験結果(ア)では、微小液滴10中の結晶11の個数は約1〜2個であり、実験結果(イ)では、その微小液滴10中の結晶11の個数は約1個に満たなかった。
【0092】
この結果から、ソーマチンと同様、所定の大きさ(少なくとも直径200〜360μmの大きさ)の微小液滴10中に約1個の結晶11を成長させることができるがわかる。すなわち、本実施形態の結晶成長用容器2は、ソーマチン以外の物質の結晶化においても、所定の大きさを有する微小液滴10を配置することにより、密度差駆動対流が抑制された結果としての拡散律速による結晶成長を実現することができるとともに、その微小液滴10中に少なくとも1個の物質の結晶を成長させることができる。
【0093】
〔結晶取得装置および結晶取得方法〕
次に、図6および図7を用いて、結晶取得装置3の構成について説明する。図6は、本実施形態に係る結晶取得装置3の構成の一例を示すブロック図である。また、図7は、微小液滴10の大きさの推定するときのモデルとなる微小球殻の一例を示す図である。
【0094】
図6に示すように、結晶取得装置3は、物質の結晶11を取得するための装置であり、例えば、制御部4、記憶部5および操作部6を備えている。結晶取得装置3は、液滴調製器具1および結晶成長用容器2とともに、物質の結晶11を取得するための結晶取得システム20に含まれ、液滴調製器具1と接続され、各種溶液の流速などを調整することにより、当該溶液への液滴調製器具1の送液を制御するものである。
【0095】
制御部4は、例えば制御プログラムを実行することにより、結晶取得装置3を構成する部材を制御するものである。制御部4は、記憶部5に格納されているプログラムを、例えばRAM(Random Access Memory)等で構成される一次記憶部(不図示)に読み出して実行することにより、例えば、微小液滴10の移動可能最大距離Rの算出処理などの各種処理を行う。なお、移動可能最大距離Rは、最大距離推定部42により推定される値である。
【0096】
記憶部5は、制御部4が実行する(1)各部の制御プログラム、(2)OSプログラム、(3)アプリケーションプログラム、および、(4)これらプログラムを実行するときに読み出す各種データを記録するものである。制御部4は、例えばROM(Read Only Memory)フラッシュメモリなどの不揮発性の記憶装置によって構成されるものである。なお、上述した一次記憶部は、RAMなどの揮発性の記憶装置によって構成されているが、本実施形態では、記憶部5が一次記憶部の機能も備えているものとして説明する場合もある。記憶部5は、例えば、移動可能最大距離Rを算出するときに使用する数式などの各種データを格納している。
【0097】
操作部6は、結晶成長用容器2に配置された微小液滴10中に物質の結晶11を取得するために、結晶取得装置3を操作する操作者が、結晶取得装置3に必要なデータを入力するために用いられるものであり、例えばキーボード、マウスなどで実現されている。その必要なデータとしては、例えば、最大距離推定部42にて用いられる各種パラメータの値が挙げられる。
【0098】
なお、操作部6は、結晶取得装置3とは異なる外部装置によって実現されていてもよい。この場合、結晶取得装置3のパラメータ取得部41は、操作部6を介して取得した各種パラメータの値を、無線または有線通信媒体を介して取得してもよい。
【0099】
次に、制御部4の構成について説明する。制御部4は、主として、パラメータ取得部41、最大距離推定部42および液滴調製制御部43を備えている。
【0100】
パラメータ取得部41は、最大距離推定部42が移動可能最大距離Rを推定する(算出する)際に用いる各種パラメータを取得するものである。例えば、パラメータ取得部41が取得する各種パラメータの値は、制御部4が、その推定に必要となる各種パラメータの入力を促す入力画面を表示部(不図示)に表示させ、その入力画面に操作者が入力したものである。パラメータ取得部41は、これらの値を記憶部5に一時保存する。
【0101】
パラメータ取得部41が取得する各種パラメータとしては、
(1)物質の結晶11が成長することにより、物質を含む溶液中で当該物質が消費される速度である物質消費速度q
(2)物質の拡散が開始されたときの、微小液滴10に対する物質の濃度である物質初期濃度C
(3)物質の拡散定数D
の3つが挙げられる。上記(1)〜(3)のパラメータは、あくまで一例であって、例えば、最大距離推定部42が、以下に示す方法以外の方法にて移動可能最大距離Rを推定する場合には、他のパラメータが取得されてもよい。例えば、パラメータ取得部41は、物質消費速度として、一定値としての物質消費速度(以下の式(6)の「q」)ではなく、実際の物質消費速度−r、および結晶成長にかかった時間を取得してもよい。
【0102】
最大距離推定部42は、パラメータ取得部41が取得した各種パラメータを記憶部5から読み出し、その各種パラメータから移動可能最大距離Rを推定する。具体的には、以下のように得られる式(6)を用いて、移動可能最大距離Rを推定する。この推定においては、1個の微小液滴10中に1個の結晶11を得る場合を想定している。また、この推定では、真球の微小液滴10の中心に結晶核が発生し、その核が成長していくという結晶成長過程を仮定している。この場合、結晶11のごく近傍の物質の濃度は、その周辺部の物質の濃度よりも低い。このため、溶液中の物質の分子は、自然拡散によって結晶11の表面まで移動し、その後結晶11に吸収される。
【0103】
なお、以下では、物質がタンパク質であるものとして説明する。上述のように、タンパク質の拡散定数Dを用いて求められる移動可能最大距離Rは、微小液滴10中の密度差駆動対流を効率よく抑制できる値に近いからである。この点を考慮しないのであれば、結晶化される物質がタンパク質である必要は必ずしもない。
【0104】
ここで、図7に示すような、半径Rの微小液滴10中の、半径rの円と半径(r+dr)の円とで囲まれた微小球殻を仮定する。フィックの第一法則は、次の式(2)で示される。ここで、式(2)において、Nはタンパク質の拡散流束、Dはタンパク質の拡散係数、Cは微小液滴10に対するタンパク質の濃度である。結晶核、および、結晶成長の初期段階における結晶11の大きさは、結晶11を成長させる微小液滴10の大きさに対して十分に小さく無視できる。
【0105】
【数2】

【0106】
また、タンパク質についての物質収支式は、次の式(3)で表わされる。ここで、式(3)において、タンパク質の消費速度、すなわち、たんぱく質の結晶11が成長することにより、タンパク質を含む溶液中で当該タンパク質が消費される速度を−rとする。
【0107】
【数3】

【0108】
そして、この式(3)は、次の式(4)に示すように整理される。
【0109】
【数4】

【0110】
ここで、以下の境界条件を考慮する。ここで、Cはタンパクの初期濃度である。
【0111】
【数5】

【0112】
本実施形態におけるタンパク質の結晶成長では、タンパク質の結晶11の近傍における、微小液滴10に対するタンパク質の濃度が十分に低く、タンパク質の結晶化が拡散律速により進む(上記アブラミの式(1)を用いた検討において、m≒1.5の値が得られている)ことから、この結晶化は0次反応とみなすことができる。すなわち、タンパク質の消費濃度−rは、半径rに依存しない値であるため、一定値qと置くことができる。そのため、式(4)は、次の式(5)に示すように書き換えられる。
【0113】
【数6】

【0114】
微小液滴10の半径R、およびタンパク質の初期濃度Cは正の値となる。それゆえ、この式(5)を解くと、1個の微小液滴10中に1個の結晶11を得るための移動可能最大距離(微小液滴10の「臨界」サイズ)Rは、次の式(6)で表わされる。
【0115】
【数7】

【0116】
すなわち、最大距離推定部42は、タンパク質の物質消費速度q、物質初期濃度C、および拡散定数Dというパラメータ(パラメータ取得部41が取得したパラメータ)から、移動可能最大距離Rを推定する。そして、最大距離推定部42は、推定した結果である最大距離推定結果を、記憶部5に一時保存する。
【0117】
なお、パラメータ取得部41が、物質消費速度として、実際の物質消費速度−r、および結晶成長にかかった時間を取得している場合には、最大距離推定部42は、これらの2つのパラメータから、上記式(6)に使用する物質消費速度qを求めてもよい。
【0118】
また、上記では、式(6)を用いて移動可能最大距離Rが推定されているが、これに限らず、例えば、上記の境界条件を異なる条件としたり、物質消費濃度−rを一定値qに置換しないで上記推定を行ってもよい。この場合、微小液滴10中に複数個の結晶11を成長させるための当該微小液滴10の大きさを推定することができる。
【0119】
さらに、最大距離推定部42は、パラメータ取得部41が取得した各種パラメータ、および上記式(6)を用いて推定を行うものであるが、これに限らず、例えば、上述した式(2)から式(6)を得るまでの処理を、最大距離推定部42が行ってもよい。
【0120】
液滴調製制御部43は、主として、最大距離推定部42が推定した移動可能最大距離Rを記憶部5から読み出し、その移動可能最大距離Rと同一、あるいはそれよりも小さく微小液滴10が調製されるように、液滴調製器具1に送液される各種溶液(結晶化させる物質を含む溶液、沈殿剤溶液、フッ化物系オイルなど)の流速を決定するものである。そして、その決定した流速にしたがって、液滴調製器具1に各種溶液の送液を制御する。
【0121】
微小液滴10をどの程度の大きさに調製するかは、例えば、(1)移動可能最大距離Rまで調製する、(2)移動可能最大距離Rの数十%(例えば80%(設定値))に調製する、(3)移動可能最大距離Rを上限として、結晶取得装置3の操作者に、その値を入力させるといった方法のいずれかで決定される。
【0122】
また、液滴調製制御部43は、微小液滴10が調製される過程を監視することによって、その微小液滴10の形状を、所望の形状(例えば、真球形状)となるように、決定した各種溶液の流速の微調整を行ってもよい。この場合、液滴調製制御部43は、例えば、調製過程にある微小液滴10を、撮像装置(不図示)により撮像し、その撮像画像を解析することにより、その調整過程にある微小液滴10の形状を認識する。その後、記憶部5に格納された所望の形状を示すデータ(例えば、モデルとなる画像データ)と比較することで、当該微小液滴10が所望の形状となっているか否かを判定し、所望の形状になっていないと判定した場合には、その認識された形状から流速の再決定を行う。
【0123】
なお、調製過程における微小液滴10の形状が所望の形状でない場合に、その形状から所望の形状を得るための流速は、経験則から把握されるものである。そのため、その経験則に基づいて、どの形状のときに、決定された流速をどの程度高める、または低めるのかが決定できるように、例えばその形状と流速変化率とが対応付けて記憶部5に格納されている。
【0124】
そして、液滴調製制御部43は、微小液滴10が移動可能最大距離R以下の所定の大きさに調製されたと判定した場合、各種溶液の送液を停止させる。その後、微小液滴10が、液滴調製器具1から結晶成長用容器2に送液され、その微小液滴10中に、物質の結晶11が少なくとも1個成長していく。この結晶成長は、結晶成長用容器2を静置しておくことにより実現される。
【0125】
すなわち、図8に示すような流れを経て、物質の結晶11の取得が実現される。図8は、本実施形態に係る結晶取得装置3における処理を含む結晶取得方法の一例を示す図である。
【0126】
結晶取得装置3では、パラメータ取得部41が各種パラメータ(結晶化させる物質の物質消費速度q、物質初期濃度Cおよび拡散定数D)の値を取得した後(S1)、最大距離推定部42が、そのパラメータの値から、移動可能最大距離Rを推定する(S2:推定工程)。
【0127】
そして、液滴調製制御部43が、その移動可能最大距離Rに基づく大きさとなるように、微小液滴10を調製し(S3:調製工程)、その後、当該微小液滴10がその内部に配置された結晶成長用容器2が静置されることにより、当該微小液滴10中に、少なくとも1個の結晶11が成長する(S4:成長工程)。
【0128】
なお、S3では、液滴調製制御部43が微小液滴10を所定の大きさになるように、各種溶液の流速を制御しているが、これに限られない。例えば、最大距離推定部42によって推定された移動可能最大距離Rを表示部(不図示)に表示し、その移動可能最大距離Rを確認した操作者によって、液滴調製器具1に送液される各種溶液の流速が決定されてもよい。また、例えば、上記の画像または顕微鏡などによって、操作者が、調製過程にある微小液滴10の形状を随時監視することにより、上記流速の微調整を行ってもよい。
【0129】
〔移動可能最大距離の推定値と、実験による微小液滴の大きさとの比較〕
次に、上記移動可能最大距離Rの推定値と、上記実験によって得られた微小液滴10の大きさとの比較を行う。
【0130】
上記では、タンパク質(ソーマチン)の物質初期濃度Cが10mg/mLである。また、結晶成長にかかった時間が6000秒としたときのタンパク質の物質消費速度qは、q≒1/6×10-2mg/mL・sと計算される。また、ソーマチンの拡散定数Dは約10-112/sである。最大距離推定部42は、これらのパラメータの値を式(6)に代入することにより、移動可能最大距離R≒約600μmと算出する。
【0131】
この値は、理論値であり、実際の値はこれよりも小さくなると考えられる。これは、結晶11の核発生が必ずしも微小液滴10の中心で生じるとは限らず、また、結晶成長に伴う結晶11自体の大きさを無視できなくなるためである。これを考慮すれば、この値は、実際の実験結果(表1)とおおよそ一致していると言える。それゆえ、結晶取得装置3による移動可能最大距離Rの推定は、微小液滴10中に結晶11を効率よく発生させることを可能とする。特に、その推定値よりも小さい値の半径を有する、真球の微小液滴10を調製する場合には、その微小液滴10中に結晶11を1個だけ成長させることができる。つまり、微小液滴10中に1個の結晶11を成長させたい場合には、上記推定値は特に有効であるといえる。
【0132】
なお、上述の結晶11の核発生が必ずしも微小液滴10の中心で生じるとは限らない、結晶成長に伴う結晶11自体の大きさを無視できない、という理由から、表1に示すように、360μmおよび200μmの微小液滴10では、1個の微小液滴10中に得られる平均結晶個数が1個よりもやや多くなっている。これは、タンパク質の高濃度部分が、成長中の結晶11から離れた場所に維持され、結果として2個目の核発生とその成長の機会とを生じさせることになるからである。
【0133】
〔ソフトウェアによる実現例〕
最後に、結晶取得装置3の各ブロック、特に制御部4のパラメータ取得部41、最大距離推定部42および液滴調製制御部43は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0134】
すなわち、結晶取得装置3は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、前記プログラムを格納したROM(read only memory)、前記プログラムを展開するRAM(random access memory)、前記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである結晶取得装置3の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、前記結晶取得装置3に供給し、そのコンピュータ(又はCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0135】
前記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやコンパクトディスク−ROM/MO/MD/デジタルビデオデイスク/コンパクトディスク−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0136】
また、結晶取得装置3を通信ネットワークと接続可能に構成し、前記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、前記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0137】
〔本発明の別表現〕
本発明は、以下のようにも表現できる。
【0138】
本発明の方法は、微小液滴の内部流体挙動が、微小重力下でのそれに似ていることを利用して、地上で微小重力代替実験環境として用いるものである。
【0139】
また、本発明の方法は、そのような微小重力代替実験環境としての微小液滴の性質を利用して、単結晶を得る方法である。
【0140】
また、本発明の方法は、単結晶を成長させる方法であって、その方法では、その微小液滴内での単結晶の成長が拡散律速である。
【0141】
また、本発明の方法は、前記微小液滴の内部流体挙動の特殊性を利用し、1つの液滴中に、1個もしくは少数の単結晶のみを生じさせる方法である。
【0142】
また、本発明の方法は、1つの液滴中に、1個もしくは少数の単結晶のみを得ることができる微小液滴の半径を、単結晶としたい物質について、溶液中の物質消費速度、物質初期濃度、物質の拡散定数から求めるものである。
【0143】
また、本発明の器具は、前記の微小液滴を用いることで、1つの液滴中に、1個もしくは少数の単結晶を得ることを可能とする器具である。
【0144】
また、本発明の器具は、キャピラリー状の円筒管である。
【0145】
また、本発明の方法および器具では、結晶化させたい対象物質がタンパクである。
【0146】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、重力環境下での微小液滴と、微小重力下での液滴との内部流体挙動の類似性に着目し、微小液滴中に少なくとも1個の結晶を得る技術である。この技術は、特に、X線による結晶構造解析に好適である。また、現状では、バッチ法により多数の結晶が生じる状況下において結晶化条件の探索を行っているゆえ、その結晶化条件を自動探索するロボットに、上記の結晶取得装置および結晶取得方法を組み込むことも可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 液滴調製器具
2 結晶成長用容器(キャピラリー)
10 微小液滴
11 結晶
q 物質消費速度
物質初期濃度
D 拡散定数
移動可能最大距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の結晶を成長させるための結晶成長用容器であって、
上記結晶成長用容器の内部には、結晶化させる物質を含む溶液の微小液滴が配置されており、
上記微小液滴は、上記微小液滴の最長部の長さが、上記結晶化させる物質の自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離以下となるような大きさに調製されていることを特徴とする結晶成長用容器。
【請求項2】
上記微小液滴の周囲は、当該微小液滴とは相溶でない媒体物質で満たされていることを特徴とする請求項1に記載の結晶成長用容器。
【請求項3】
上記微小液滴の大きさは、その微小液滴中の密度差によって駆動される対流が抑制される大きさであることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶成長用容器。
【請求項4】
上記微小液滴が配置される上記内部の最短部の長さが、上記微小液滴の最長部の長さと同一であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の結晶成長用容器。
【請求項5】
上記結晶化させる物質は、タンパク質であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の結晶成長用容器。
【請求項6】
円筒状のキャピラリーであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の結晶成長用容器。
【請求項7】
微小液滴中に成長させた、上記結晶化させる物質の結晶を、結晶の構造を解析する結晶構造解析装置の解析対象とすることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の結晶成長用容器。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の結晶成長用容器に接続され、上記微小液滴を調製して、当該結晶成長用容器に送液することを特徴とする液滴調製器具。
【請求項9】
物質の結晶を取得するための結晶取得方法であって、
上記物質が、微小液滴中を自然拡散により移動できる最大距離を示す移動可能最大距離を、下記(1)、(2)、および(3)に示すパラメータから推定する推定工程と、
(1)上記物質の結晶が成長することにより、上記物質を含む溶液中で当該物質が消費される速度である物質消費速度;
(2)上記物質の拡散が開始されたときの、上記微小液滴に対する上記物質の濃度である物質初期濃度;
(3)上記物質の拡散定数;
上記推定工程により推定された上記移動可能最大距離に基づく大きさとなるように、上記微小液滴を調製する調製工程と、
上記調製工程により調製された上記微小液滴中に、上記物質の結晶を少なくとも1個成長させる成長工程と、を含むことを特徴とする結晶取得方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112545(P2013−112545A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258194(P2011−258194)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構「マイクロ空間場によるナノ粒子の超精密合成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】