説明

絶縁フィルム、およびそれを備えたフレキシブルフラットケーブル

【課題】難燃性、および、導体と接着剤層との接着強度に優れ、めっき処理中における絶縁フィルムと導体の剥離を防止することができるフレキシブルフラットケーブルを提供することを目的とする。
【解決手段】フレキシブルフラットケーブル1は、複数の導体2と、接着剤層4と樹脂フィルム5とからなり、導体2の両面を被覆する、絶縁フィルム3とを備えている。接着剤層4は、ハロゲン元素を含有しておらず、また、分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルを主成分としている。また、共重合ポリエステルとしては、非結晶性、または共重合ポリエステルの、JIS K7122に基づく示差熱分析法により測定した結晶成分に由来する融解熱量が、10℃/分の昇温条件において15J/g以下のものが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の両面を被覆する絶縁フィルム、特に、ハロゲン元素を含有しない絶縁フィルム、およびそれを備えたフレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、車載カーナビゲーションシステムやオーディオ機器等の電子機器の内部配線材として、複数の平板状導体の両面を、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムと、当該樹脂フィルム上に形成された難燃性のポリエステル系の接着剤層とからなる絶縁フィルムにより被覆した構造のフレキシブルフラットケーブルが使用されている。
【0003】
ここで、フレキシブルフラットケーブルが使用される電子機器の内部配線材については、その安全性の観点から、UL(Underwriters Laboratories inc.)規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格する必要がある。従って、従来、ポリエチレンテレフタレート等の可燃性の樹脂フィルムが使用されるフレキシブルフラットケーブルにおいては、ポリエステル系の接着剤層を難燃化することによって、上述のVW−1試験に合格するように設計されている。
【0004】
そして、ポリエステル系の接着剤層を難燃化するには、ビス(ポリ臭素化フェニル)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、パークロロペンタシクロデカン等の塩素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤とともに、難燃助剤として三酸化アンチモン等を配合する方法が、これまで採用されてきた。
【0005】
しかし、このようなハロゲン系難燃剤を配合したフレキシブルフラットケーブルは、当該フレキシブルフラットケーブルが使用される電子機器が焼却処理される際に、ハロゲン化水素等の有害ガスが発生し、また、焼却条件によっては、ダイオキシン誘導体等の有害物質が発生するおそれがあるため、好ましくない。
【0006】
そこで、これらの不都合を回避すべく、ノンハロゲン系難燃剤により、ポリエステル系の接着剤層を難燃化したノンハロゲン系難燃性接着剤層が使用されたフレキシブルフラットケーブルが提案されている。より具体的には、例えば、ポリエステル樹脂に水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムを配合した難燃性接着混合物を接着剤層として使用したフラットケーブルが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、フレキシブルフラットケーブルは、その端部における導体が、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子と接続されるが、導体と接続端子の接続信頼性を高めるために、フレキシブルフラットケーブルの端部における導体の表面に、はんだにより形成されためっき層が設けられていた。
【0008】
しかし、RoHS規制(Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment)により、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム等の重金属の使用が制限されるようになったため、鉛を含有するはんだにより形成されためっき層に代わって、鉛を含有しないめっき層が要求されるようになった。
【0009】
この鉛を含有しないめっき層を有するフレキシブルフラットケーブルとしては、例えば、安価であり、電気的特性に優れた錫めっき層が設けられたフレキシブルフラットケーブルが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
しかし、錫めっき層を使用する場合には、導体と接続される接続端子の材質によっては、長期間の使用により、当該錫めっき層から針状の錫ウィスカが成長して、導体と接続端子間の接続信頼性が低下するという問題があった。そこで、導体と接続端子間の接続信頼性の低下を防止するために、錫めっき層に代わって、金めっき層が設けられたフレキシブルフラットケーブルが提案されている。導体表面のめっき処理は、一般に、無電解めっき法、または電解めっき法により行われるが、金めっき層を設ける際には、露出した導体の表面に対して、まず、拡散防止層としてのニッケルめっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層の表面上に金めっき層を形成する方法が採用されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−189771号公報
【特許文献2】特開平8−264030号公報
【特許文献3】特開平8−293214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来のノンハロゲン系難燃性接着剤層は、ハロゲン系難燃剤を使用した難燃性接着剤層に比し、難燃性、および導体との接着強度が低下するという問題点があった。
【0012】
また、一般に、フレキシブルフラットケーブルを製造するに際し、導体の表面全体にめっき層を形成した後に、導体の両面に絶縁フィルムを設ける方法が知られているが、めっき層の形成に使用される金属材料が少なく、コストの点で有利になるとの観点から、まず、導体の両面に絶縁フィルムを設けた後に、露出させた導体の表面にのみ、連続的にめっき層を形成する方法が広く採用されている。
【0013】
しかし、露出させた導体の表面にのみ、連続的にめっき層(例えば、金めっき層)を形成する場合には、フレキシブルフラットケーブルの全体を、30℃乃至90℃の強酸性、または強アルカリ性の洗浄浴、触媒浴、めっき浴等に通過させる必要がある。従って、絶縁フィルムにポリエステル系の接着剤層を使用した場合には、めっき処理中に、絶縁フィルムの導体接着力が低下してしまい、絶縁フィルムから導体が剥離してしまうという問題点があった。特に、上記従来のノンハロゲン系の難燃性ポリエステル接着剤を使用した場合には、めっき処理中における、絶縁フィルムと導体の剥離が顕著になるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、難燃性、および、導体と接着剤層との接着強度に優れ、めっき処理中における絶縁フィルムと導体の剥離を防止することができるフレキシブルフラットケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルを主成分とする接着剤層と、樹脂フィルムを備える絶縁フィルムにおいて、接着剤層がハロゲン元素を含有しないとともに、共重合ポリエステルが非結晶性、または共重合ポリエステルの、JIS K7122に基づく示差熱分析法により測定した結晶成分に由来する融解熱量が、10℃/分の昇温条件において15J/g以下であることを特徴とする。
【0016】
同構成によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフレキシブルフラットケーブルにおいて、導体と接着剤層の接着強度が向上するため、絶縁フィルムにポリエステル系の接着剤層、特に、ノンハロゲン系の難燃性ポリエステル接着剤層を使用した場合であっても、めっき処理を行う際に、絶縁フィルムの導体接着力の低下を防止することができる。従って、絶縁フィルムから導体が剥離してしまうという不都合を回避することができる。また、共重合ポリエステルの分子内にリン原子が導入されているため、ノンハロゲン系のポリエステル接着剤層を使用した場合であっても、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格することができる、難燃性に優れたノンハロゲンフレキシブルフラットケーブルを提供することが可能になる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の絶縁フィルムであって、接着剤層が、分子内に炭素−炭素不飽和結合を導入した共重合ポリエステルを主成分とするとともに、共重合ポリエステルが、電離放射線の照射により、架橋されていることを特徴とする。同構成によれば、絶縁フィルムを備えるフレキシブルフラットケーブルにおいて、UL規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性に優れたフレキシブルフラットケーブルを得ることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の絶縁フィルムであって、共重合ポリエステルの全体に対するリン原子の濃度が、0.2〜2.7重量%であることを特徴とする。同構成によれば、絶縁フィルムを備えるフレキシブルフラットケーブルの難燃性を一層向上させることができるとともに、機械的強度を向上させることが可能になる。
【0019】
なお、本発明の樹脂フィルムを構成する樹脂は、請求項4に記載の発明のように、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。特に、電気的特性、機械的特性、低コスト等の観点から、ポリエステル樹脂からなる樹脂フィルムが好適に使用される。また、ポリイミド樹脂からなる樹脂フィルムを使用することにより、絶縁フィルムを備えるフレキシブルフラットケーブルにおいて、UL規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性を有するとともに、鉛を含有しないはんだによる電子部品の実装作業にも対応できるフレキシブルフラットケーブルを提供することが可能になる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、導体の両面が、絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフレキシブルフラットケーブルである。同構成によれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁フィルムを備えるため、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の発明と、同様の効果を得ることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のフレキシブルフラットケーブルであって、ケーブル端部における導体の表面が、金めっき層により被覆されていることを特徴とする。同構成によれば、導体を、プリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子と接続する際に、導体と接続端子間の接続信頼性の低下を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、例えば、導体の両面を絶縁フィルムにより被覆したフレキシブルフラットケーブルにおいて、めっき処理を行う際に、絶縁フィルムから導体が剥離してしまうという不都合を回避することができる。また、難燃性に優れたノンハロゲンフレキシブルフラットケーブルを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るフレキシフラットケーブルの構成を示す概略図であり、図2は、図1のA−A断面図である。また、図3は、図1のB−B断面図である。
【0024】
本実施形態におけるフレキシブルフラットケーブル1は、図1、図2に示すように、所定の幅及び厚さを有する、複数の平板状の導体2の両面を、ハロゲン元素を含有しない絶縁フィルム3により被覆した構造を有する。また、絶縁フィルム3は、樹脂フィルム5と、当該樹脂フィルム5上に積層された接着剤層4により構成されており、フレキシブルフラットケーブル1は、2枚の絶縁フィルム3の間に、複数の導体2が挟まれた状態で、当該2枚の絶縁フィルム3を貼り合わせた構成となっている。
【0025】
また、図3に示すようにフレキシブルフラットケーブル1の端部1a(以下、「ケーブル端部1a」という。)においては、導体2をプリント基板や電気電子部品等に設けられた接続端子(不図示)と接続すべく、絶縁フィルム3を形成せずに、導体2の一部を外部に露出させる構成となっている。また、導体2と接続端子の接続信頼性を高めるために、ケーブル端部1aにおける導体2の表面がめっき層6により被覆されている。
【0026】
フレキシブルフラットケーブル1の製造方法としては、まず、導体2の両面を絶縁フィルム3で挟み込み、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体2を接着剤層4により、連続的にラミネート接着して、導体2の両面を絶縁フィルム3により被覆した長尺品を製造する。また、この際、ケーブル端部1aにおいて、めっき層6が形成される導体2の露出部を設けるべく、打ち抜き加工によって、一方の絶縁フィルム3に穴部を形成しながら、当該絶縁フィルム3を導体2とラミネートし、その後、長尺品を一定の長さに切断する。次いで、露出させた導体2の表面にのみ、連続的にめっき層6を形成することにより、フレキシブルフラットケーブル1が製造される。
【0027】
樹脂フィルム5としては、柔軟性に優れた、ハロゲン系物質を含有しない樹脂材料からなるものが使用され、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等からなる、フレキシブルフラットケーブル用として汎用性のある樹脂フィルムがいずれも使用可能である。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートポリアリレート樹脂などが挙げられる。なお、これらの樹脂フィルムのうち、電気的特性、機械的特性、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂フィルム5が好適に使用される。また、ポリイミド樹脂からなる樹脂フィルム5を使用することにより、UL規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性を有するとともに、鉛を含有しないはんだによる電子部品の実装作業にも対応できるフレキシブルフラットケーブルを提供することが可能になる。なお、必要に応じて、樹脂フィルム5の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理を施しても良い。
【0028】
また、本実施形態においては、環境への配慮から、鉛を含有しないめっき層6を使用する構成としており、また、導体2と接続端子間の接続信頼性の低下を防止するとの観点から、鉛を含有しないめっき層6として金めっき層を使用する構成としている。導体2の表面へのめっき処理は、無電解めっき法、または電解めっき法により行われ、金めっき層を設ける際には、露出した導体の表面に対して、まず、拡散防止層としてのニッケルめっき層を形成した後、当該ニッケルめっき層の表面上に金めっき層を形成する方法が採用される。
【0029】
また、接着剤層4としては、ハロゲン系物質を含有しない樹脂材料からなるものが使用され、本発明においては、当該接着剤層4が、分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルを主成分とする構成としている。この分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸およびその低級アルキルエステル、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステル、ε−カプロラクトン等の脂肪族オキシカルボン酸等の既知の酸成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコール等の既知のジオールと、ホスフォネート型ポリオール、ホスフェネート型ポリオール、ホスフィネート型ポリオール、ビニルホスフォネート、アリルホスフォネート等のリン原子を含有するモノマー成分を共重合することにより得ることができる。
【0030】
また、上記のリン原子を導入した共重合ポリエステルは、既知の重合法で合成することができる。より具体的には、例えば、芳香族もしくは脂肪族のジカルボン酸のメチルエステル等の低級アルキルエステルおよびジオール成分をテトラアルコキシチタン等の触媒の存在下、250℃程度の温度でエステル交換を行い、オリゴマーを合成した後、必要により、さらに触媒を添加し、真空度を高めてメタノールを留去しやすい条件にて重縮合を進行させ、高分子量化する方法で合成できる。
【0031】
なお、接着剤層4は、リン原子を導入した共重合ポリエステルを、溶剤に溶解して樹脂フィルム5上に塗布し、乾燥させて形成する方法のほか、Tダイ、インフレーション等の溶融成形法により形成することができる。また、これらの塗工の加工性を向上させるとの観点から、リン原子を導入した共重合ポリエステルの数平均分子量としては、3000〜40000の範囲が好ましく、また、樹脂フィルム5との濡れ性を向上させる観点から、樹脂フィルム5に対してコロナ処理を行い、また、既知のアンカーコート剤を塗布した後に塗工することも可能である。
【0032】
また、本実施形態においては、分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルが非結晶性、または、当該共重合ポリエステルの、JIS K7122に基づく示差熱分析法により測定した結晶成分に由来する融解熱量が、10℃/分の昇温条件において15J/g以下である構成としている。これは、ニッケルめっき処理や金めっき処理に対する絶縁フィルム3の耐久性が、上記のリン原子を導入した共重合ポリエステルの結晶状態と関係があるためであり、また、上述の融解熱量が大きくなるに従い、めっき処理による絶縁フィルム3の導体接着力が低下して剥離しやすくなる方向になるためである。本実施形態においては、このような共重合ポリエステルを主成分とする接着剤層4を備える絶縁フィルム3を使用することにより、導体2と接着剤層4の接着強度が向上するため、絶縁フィルム3にポリエステル系の接着剤層、特に、ノンハロゲン系の難燃性ポリエステル接着剤層を使用した場合であっても、めっき処理を行う際、特に、露出させた導体2の表面にのみ、連続的にめっき層6(即ち、金めっき層)を形成する際に、絶縁フィルム3の導体接着力の低下を防止することができる。その結果、めっき処理の際に、絶縁フィルム3から導体2が剥離してしまうという不都合を回避することができる。また、上述のごとく、共重合ポリエステルの分子内にリン原子が導入されているため、ノンハロゲン系のポリエステル接着剤層を使用した場合であっても、UL規格の垂直燃焼試験(VW−1試験)に合格することができる、難燃性に優れたノンハロゲンフレキシブルフラットケーブルを提供することが可能になる。なお、ここでいう「非結晶性」とは、JIS K 7122に基づく示差熱分析法を、10℃/分の昇温条件において行った場合に、分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルのガラス転移温度と分解温度の間に吸熱または融解ピークが認められないことをいう。
【0033】
また、共重合ポリエステルの全体に対するリン原子の濃度は、難燃性を向上させるのとの観点から高い方が好ましい。より具体的には、使用する高分子フィルムの種類や厚みによって、一概に定めることは難しいが、フレキシブルフラットケーブル1を、上述のVW−1試験に合格させるとの観点から、リン原子の濃度を0.2重量%以上に設定すれば良い。但し、リン濃度が高すぎると、重合度を上げることが困難となり、フレキシブルフラットケーブル1の機械的強度が低下する場合があるため、0.2〜2.7重量%が好ましい範囲である。
【0034】
リン原子を導入した共重合ポリエステルのガラス転移温度は、モノマーの種類および組成比率を選定することにより、適宜設計することが可能であり、金メッキ層を形成する前の導体接着力(以下、「初期の導体接着力」という。)を向上させるとの観点から、−20〜60℃が好ましく、耐熱性の点からは室温(25℃)〜80℃に設計することが好ましい。なお、ガラス転移温度の異なる2種類以上のリン原子を導入した共重合ポリエステルをブレンドして用いる構成としても良い。
【0035】
また、リン原子を導入した共重合ポリエステルとしては、フマル酸、イタコン酸等の分子内に炭素−炭素不飽和結合を有するモノマーを共重合したものを使用することができる。そして、この場合、リン原子および炭素−炭素不飽和結合を導入した共重合ポリエステルを主成分とする接着性樹脂組成物を、樹脂フィルム5上に塗工して接着剤層4を樹脂フィルム5上に形成し、既知の熱ラミネータや熱プレス装置を用いて加熱加圧処理を行うことにより、導体2とラミネート接着した後、加速電子線やガンマ線等の電離放射線を照射して、リン原子および炭素−炭素不飽和結合を導入した共重合ポリエステルを架橋することができる。このような構成により、UL規格を満たす温度定格105℃以上の耐熱老化性に優れたフレキシブルフラットケーブル1を得ることができる。
【0036】
なお、共重合ポリエステルの全体に対する炭素−炭素二重結合の濃度は、0.5〜10モル%が好ましい。これは、0.5モル%未満では架橋密度が低下し、また、10モル%を超えて導入した場合であっても、架橋密度が飽和するため、コスト的にも不利になるからである。
【0037】
また、加速電子線の加速電圧は、絶縁フィルム3の厚みに応じて適宜設定することができる。例えば、絶縁フィルム3の厚み200μm以下の場合は、加速電圧が150〜300kVの電子線をフレキシブルフラットケーブル1の両面から照射すれば良い。また、照射量は、共重合ポリエステル中に導入した炭素−炭素二重結合の濃度に依存するが、当該濃度が、上述の0.5〜10モル%の範囲であれば、50〜500kGyの吸収線量となる量が適当である。
【0038】
また、共重合ポリエステルは、多官能性のイソシアネート化合物を配合しておき、導体2とのラミネート後に加熱処理して架橋することが可能できるが、保存安定性等の問題があるため、電離放射線の照射による架橋が簡便な方法と言える。
【0039】
また、接着剤層4には、上記リン共重合ポリエステルの他に、必要に応じて、トリフェニルホスファイト、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、縮合リン酸エステル、ホスファフェナントレン系難燃剤等のリン系難燃剤やメラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩等の難燃剤を添加することもできる。
【0040】
また、酸化防止剤、着色剤(例えば、酸化チタン)、隠蔽剤、加水分解抑制剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等の既知の配合剤を添加することも可能である。また、これらの配合剤の混合は、溶液混合の場合は、ボールミル、サンドミル、3本ロール、インペラーミル等を用いればよく、溶融成形法でフィルムとする場合は、単軸混合機、二軸混合機等を使いて溶融混合する方法で行うことができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0042】
(共重合ポリエステルの作製)
まず、表1に示す種類のモノマーに、触媒として、テトラブチルチタネートを、濃度が300ppmとなるように加えて、230℃において2時間保ち、エステル化を行った。その後、同量の触媒を追加して、2hPaに減圧して重縮合反応を2時間行い、表1に示す、飽和リン共重合ポリエステル(1)〜(5)不飽和リン共重合ポリエステル、および飽和共重合ポリエステル(1)〜(2)を作製した。
【0043】
(融点、ガラス転移温度、融解熱量の測定)
次いで、作製した飽和リン共重合ポリエステル(1)〜(5)、不飽和リン共重合ポリエステル、および飽和共重合ポリエステル(1)〜(2)の各々について、融点、ガラス転移温度、およびJIS K7122に基づく示差熱分析法により測定した結晶成分に由来する融解熱量の測定を行った。その結果を、表1に示す。なお、融点、およびガラス転移温度の測定は、JIS K7122に基づき、熱分析装置(島津製作所(株)製、商品名DSC−50)を使用して、昇温速度10℃/分で行った。また、融解熱量の測定も、JIS K7122に基づき、熱分析装置(島津製作所(株)製、商品名DSC−50)を使用して、昇温速度10℃/分で行った。なお、表1に示すように、飽和リン共重合ポリエステル(1)、および飽和共重合ポリエステル(1)は、非晶性であるため、融点を測定することができなかった。
【0044】
(接着性樹脂組成物の作成)
次に、表2に示す種類、および量(単位は、mol%)の共重合ポリエステルに、表2に示す量(単位は、mol%)のメラミンシアヌレート、酸化チタン、酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ製、商品名イルガノックス1010)、水酸化マグネシウム、およびリン系難燃剤(クラリアント製、商品名EXOLIT AP462)を加え、2軸混合機を用いて、均一に混合して、実施例1〜4、比較例1〜5に示す接着性樹脂組成物を作製した。
【0045】
(絶縁フィルムの作製)
次に、作製した実施例1の接着性樹脂組成物を、Tダイでフィルム状に押し出して、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルム(厚さ0.012mm)上に積層し、当該樹脂フィルム上に、実施例1の接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された、全体の厚さが0.047mmのフィルム状の絶縁フィルムを作製した。また、同様にして、作製した実施例2〜4、および比較例1〜5の各接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された、全体の厚さが0.047mmの絶縁フィルムを作製した。
【0046】
(フレキシブルフラットケーブルの作製)
次に、導体である銅線(厚さ0.035mm、幅0.8mm)10本を平行に並べた状態で、当該銅線を、作製した実施例1の接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された2枚の絶縁フィルムで挟み込み、熱ラミネータを用いて加熱加圧処理を行うことにより、銅線の両面を絶縁フィルムにより被覆した。なお、めっき層が形成される銅線の露出部を設けるべく、上述の2枚の絶縁フィルムのうち、一方の絶縁フィルムに、打ち抜き加工によって、予め穴部が形成されたものを使用して、上述の加熱加圧処理を行った。また、同様にして、作製した実施例2〜4、および比較例1〜5の各接着性樹脂組成物からなる接着剤層が形成された2枚の絶縁フィルムにより、銅線の両面を被覆した。なお、上述の被覆後、実施例4の接着性樹脂組成物からなる接着剤層に対して、加速電圧が200kVの加速電子線を絶縁フィルムの両面から、各々50kGyとなるように照射し、接着剤層を架橋させた。
【0047】
次いで、露出させた導体の表面にのみ、連続的に金めっき層を形成して、実施例1の接着性樹脂組成物からなる接着剤層を備えるフレキシブルフラットケーブル(以下、「実施例1のフレキシブルフラットケーブル」という。)を作製した。より具体的には、まず、導体表面の油脂や埃等を除去するために、電界脱脂液(奥野製薬(株)製、商品名トップクリーナーサン20)を使用して、温度が40℃、陰極電流密度が7.5A/dmの条件下で、1分間、電解を行い、陰極電解脱脂を行った。その後、水洗いを行い、導体表面の酸化皮膜等を除去するために、5%の塩酸溶液を用いて、室温で、10秒間、酸処理を行った。その後、水洗いを行い、次いで、ニッケル浴めっき工程を、温度が45℃、電流密度が2A/dm2の条件下で、2分間実施した。その後、水洗いを行い、金ストライク液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース(株)、商品名オーロボンド)を用いて、ストライク金めっき工程を、温度が32℃、電圧が6Vの条件下で、10秒間実施した。その後、水洗いを行い、電解金−コバルト合金めっき液(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース(株)、商品名オートロネクスCI)を用いて、金−コバルト合金めっき工程を、温度が32℃、電流密度が1A/dm2の条件下で、1分間実施した後に、水洗いを行い、露出させた導体の表面に金めっき層が形成されたフレキシブルフラットケーブルを作製した。また、同様にして、露出させた導体の表面にのみ、連続的に金めっき層を形成して、実施例2〜4、および比較例1〜5の各々の接着性樹脂組成物からなる接着剤層を備えるフレキシブルフラットケーブル(以下、「実施例2〜4、および比較例1〜5のフレキシブルフラットケーブル」という。)を作製した。
【0048】
(難燃性評価)
次いで、作製した実施例1〜4、および比較例1〜5の各フレキシブルフラットケーブルに対して、UL規格1581のVW−1に規定される垂直燃焼試験を行った。より具体的には、実施例1〜4、および比較例1〜5のフレキシブルフラットケーブルを各々10本用意し、着火後、10本中1本以上燃焼したもの、燃焼落下物により、試料であるフレキシブルフラットケーブルの下方に配置した脱脂綿が燃焼したもの、または、試料であるフレキシブルフラットケーブルの上部に取り付けたクラフト紙が燃焼したものを不合格とし、その他を合格とした。以上の結果を表2に示す。
【0049】
(導体接着力評価)
また、作製した実施例1〜4、および比較例1〜5の各フレキシブルフラットケーブルに対して、導体接着力評価を行った。より具体的には、実施例1〜4、および比較例1〜5の各フレキシブルフラットケーブルの端部における露出した導体を、フレキシブルフラットケーブルの長手方向(図1に示す矢印Xの方向)において、100mm/分の速度で剥離し、導体接着力を測定した。なお、初期の導体接着力(即ち、金メッキ層を形成する前の導体接着力)、113℃で7日老化後(実施例4においては、さらに136℃で7日老化後)の導体接着力、および、金めっき層を形成した後の導体接着力について測定した。また、導体接着力の測定は、引張り試験機(INSTRON製、商品名INSTRON MODEL4301)を使用して行った。以上の結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すよう、実施例1〜4、および比較例1〜5のフレキシブルフラットケーブルは、いずれの場合においても、UL規格1581のVW−1に規定される垂直燃焼試験に合格していることが判る。一方、実施例1〜4のフレキシブルフラットケーブルは、いずれの場合においても、初期の導体接着力に比べて、113℃で7日老化後(または、136℃で7日老化後)の導体接着力、および、金メッキ層を形成した後の導体接着力が殆ど低下していないが、比較例1〜5のフレキシブルフラットケーブルは、いずれの場合においても、初期の導体接着力に比べて、金メッキ層を形成した後の導体接着力が著しく低下(0.5N/mm以下に低下)していることが判る。特に、比較例3〜5のフレキシブルフラットケーブルは、いずれの場合においても、初期の導体接着力が小さいことが判る。
【0053】
これは、実施例1〜3においては、接着剤層を構成する接着性樹脂組成物として、JIS K7122に基づく示差熱分析法で測定される結晶成分に由来する融解熱量が15J/g以下である飽和リン共重合ポリエステルを使用しているためであると考えられる。また、実施例4においては、接着剤層を構成する接着性樹脂組成物として、JIS K7122に基づく示差熱分析法で測定される結晶成分に由来する融解熱量が15J/g以下である不飽和リン共重合ポリエステルを使用しており、かつ、加速電子線を照射して、リン原子および炭素−炭素不飽和結合を導入した共重合ポリエステルを架橋しているためであると考えられる。一方、比較例1〜2においては、実施例1〜3と同様に、接着剤層を構成する接着性樹脂組成物として、飽和リン共重合ポリエステルを使用しているが、JISK7122に基づく示差熱分析法で測定される結晶成分に由来する融解熱量が15J/g以上であるため、金メッキ層を形成した後の導体接着力が著しく低下したものと考えられる。また、比較例3〜5においては、接着剤層を構成する接着性樹脂組成物として、JIS K7122に基づく示差熱分析法で測定される結晶成分に由来する融解熱量が15J/g以下である飽和共重合ポリエステルを使用しているものの、ポリエステルに難燃剤として機能するリンが含まれていないため、初期の導体接着力が低下するとともに、金メッキ層を形成した後の導体接着力が著しく低下したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の活用例としては、複数の導体の両面に絶縁フィルムを設けたフレキシブルフラットケーブルあって、特に、絶縁フィルムにハロゲン元素を含有しないフレキシブルフラットケーブルが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係るフレキシフラットケーブルの構成を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1…フレキシブルフラットケーブル、1a…ケーブル端部、2…導体、3…絶縁フィルム、4…接着剤層、5…樹脂フィルム、6…めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にリン原子を導入した共重合ポリエステルを主成分とする接着剤層と、樹脂フィルムを備える絶縁フィルムにおいて、
前記接着剤層がハロゲン元素を含有しないとともに、前記共重合ポリエステルが非結晶性、または前記共重合ポリエステルの、JIS K7122に基づく示差熱分析法により測定した結晶成分に由来する融解熱量が、10℃/分の昇温条件において15J/g以下であることを特徴とする絶縁フィルム。
【請求項2】
前記接着剤層が、分子内に炭素−炭素不飽和結合を導入した共重合ポリエステルを主成分とするとともに、前記共重合ポリエステルが、電離放射線の照射により、架橋されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁フィルム。
【請求項3】
前記共重合ポリエステルの全体に対する前記リン原子の濃度が、0.2〜2.7重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムを構成する樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の絶縁フィルム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁フィルムと、導体とを備え、前記導体の両面が、前記絶縁フィルムにより被覆されていることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項6】
ケーブル端部における前記導体の表面が、金めっき層により被覆されていることを特徴とする請求項5に記載のフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−311133(P2007−311133A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138086(P2006−138086)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】