説明

絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線

【課題】シリカ微粒子の分散性と、四角形状の断面を有する導体への塗装性とが共に良好な絶縁塗料、およびそのような絶縁塗料を用いて絶縁被膜が形成された絶縁電線を提供する。
【解決手段】溶媒およびポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂塗料と、オルガノシリカゾルと、を混合してなり、四角形状の断面を有する導体上に絶縁被膜が設けられている絶縁電線に使用される絶縁塗料において、前記オルガノシリカゾルは、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を70〜100%含有する分散溶媒にシリカ微粒子が分散されていることを特徴とする絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線に係り、特に、モータや変圧器等の電気機器のコイル用として好適な絶縁塗料及びそれを用いて製造した絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、電気機器に対する小型化・高性能化・省エネ化などの要求から、電気機器を高電圧・大電流でインバータ制御することが広範に行われている。その場合、インバータ制御によって高いインバータサージ電圧(急峻な過電圧)が電気機器中に発生することが多くなっており、このようなインバータサージ電圧が発生すると、電気機器中のコイルの絶縁システムに悪影響を及ぼすことが懸念される。特に、コイルに用いられる絶縁電線においては、部分放電が主に線間(隣接する絶縁電線の絶縁被膜同士間)あるいは対地間(絶縁被膜−ステータコア間)で発生し、この部分放電の発生によって絶縁被膜の侵食が進行し、絶縁破壊に至る問題が生じる。
【0003】
このような電気機器のコイルに用いられる絶縁電線としては、一般に、丸形状の断面を有する導体の周囲に、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等を溶媒に溶解させて調製した絶縁塗料を塗布、焼付けして形成した1層または複数層の絶縁被膜を備える絶縁電線(エナメル線)が使用されている。
【0004】
このような絶縁電線では、部分放電による絶縁被膜の侵食を抑制すべく、溶媒にポリアミドイミド樹脂等を溶解させた樹脂溶液中に、シリカやチタニアなどの無機絶縁粒子の粉末を樹脂溶液にそのまま添加分散させた絶縁塗料や、分散溶媒にシリカ微粒子を分散させてなるオルガノシリカゾルを樹脂溶液に混合させた絶縁塗料を用いて絶縁被膜を形成する方法などが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−307557号公報
【特許文献2】特開2006−299204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、上述したような電気機器において、モータの更なる効率向上のために、モータ内に用いられるコイルの占積率を向上させることが要求されている。このため、コイルを構成するための絶縁電線には、四角形状(平角形状)の断面を有する導体(平角導体)上に絶縁被膜を形成した絶縁電線を用いることが行われている。
【0007】
しかし、従来では、図2に示すように、導体21上に絶縁被膜22を形成する際、導体21上に塗布した絶縁塗料が焼付けされて絶縁被膜が形成されるまでの間に、絶縁塗料の表面張力によって導体21の角部23から平坦部24にかけて絶縁塗料が流れてしまい、角部23上の絶縁被膜の厚さが平坦部24の厚さよりも薄くなってしまうことがあった。すなわち、従来の絶縁塗料では、四角形状の断面を有する導体への塗装性が悪いということが懸念されていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、シリカ微粒子の分散性と、四角形状の断面を有する導体への塗装性とが共に良好な絶縁塗料、およびそのような絶縁塗料を用いて絶縁被膜が形成された絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、溶媒およびポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂塗料と、オルガノシリカゾルと、を混合してなり、四角形状の断面を有する導体上に絶縁被膜が設けられている絶縁電線に使用される絶縁塗料において、前記オルガノシリカゾルは、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を70〜100%含有する分散溶媒にシリカ微粒子が分散されていることを特徴とする絶縁塗料を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、上記の本発明に係る絶縁塗料において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(1)前記ポリアミドイミド樹脂塗料は、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を含む溶媒に、前記ポリアミドイミド樹脂が溶解されてなる。
(2)前記溶媒のうちの15〜100%が前記環状ケトン類である。
(3)前記環状ケトン類は、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンうちの少なくとも1種からなる。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、四角形状の断面を有する導体の表面に、溶媒およびポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂塗料と、オルガノシリカゾルと、を混合してなり、前記オルガノシリカゾルが、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を70〜100%含有する分散溶媒にシリカ微粒子が分散されている絶縁塗料で形成された絶縁被膜が設けられていることを特徴とする絶縁電線を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、 上記の本発明に係る絶縁電線において、前記絶縁被膜の表面に、潤滑性絶縁被膜を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリカ微粒子の分散性と、四角形状の断面を有する導体への塗装性とが共に良好な絶縁塗料、およびそのような絶縁塗料を用いて絶縁被膜が形成された絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る絶縁電線の一実施例を示す断面図である。
【図2】従来の絶縁電線の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
(絶縁塗料)
本実施の形態に係る絶縁塗料は、溶媒およびポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂塗料と、オルガノシリカゾルと、を混合してなり、四角形状の断面を有する導体上に絶縁被膜が設けられている絶縁電線に使用される絶縁塗料において、前記オルガノシリカゾルは、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分とする分散溶媒にシリカ微粒子が分散されている。
【0017】
本実施の形態に係る絶縁塗料は、このような組成としたことにより、絶縁塗料に含有されるシリカ微粒子を凝集させることなく、四角形状の断面を有する導体への塗装性を向上させることができる。これは、絶縁塗料の乾燥性が向上する(絶縁塗料が乾燥する速さを従来よりも速めることができる)ためであると推定される。すなわち、断面が四角形状の導体上に本実施の形態に係る絶縁塗料を塗布した場合に、導体の角部に塗布された絶縁塗料が平坦部に流れ始める前に、絶縁塗料が乾燥し始めるため、絶縁塗料が平坦部に流れ難くなり、導体の平坦部上に形成された絶縁被膜の厚さが厚くなり、角部上に形成された絶縁被膜の厚さが大幅に薄くなるということを防ぐことができると推定される。
【0018】
その結果、断面が四角形状の導体上に、シリカ微粒子の分散性が良好で、かつ平坦部と角部との厚さがほぼ均一な(平坦部の絶縁被膜の厚さと角部の絶縁被膜の厚さとの差が小さい)絶縁被膜を有する絶縁電線を提供することができる。また、絶縁被膜の厚さがほぼ均一となることで、絶縁破壊電圧や耐部分放電性などの電気的な絶縁性能を向上させた絶縁電線を再現性よく提供することができる。また、角部の絶縁被膜の厚さが薄くならないようにするための特別な断面形状を有する導体等を用いる必要がないので、特別な塗装ダイスや塗装工程が必要になることもなく、断面が四角形状の絶縁電線を製造する上で手間な作業が多くなって作業性が低下することもなく、また、作業性の低下に伴う絶縁電線の価格の高騰を招くおそれもない。
【0019】
(オルガノシリカゾル)
本実施の形態に係る絶縁塗料に混合されるオルガノシリカゾルの分散溶媒としては、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を主成分(主分散溶媒)とすることが好ましい。このような環状ケトン類としては、例えば、シクロヘプタノン(沸点:180℃)、シクロヘキサノン(沸点:156℃)、シクロペンタノン(沸点:131℃)などが挙げられる。これらを少なくとも1種以上用いることが可能である。また、2−シクロヘキセ−1オンなどのような環状構造の一部または全てが不飽和のものでも良い。
【0020】
なお、オルガノシリカゾル、あるいはオルガノシリカゾルとポリアミドイミド樹脂塗料とを混合した絶縁塗料の安定性を向上させるなどを目的に、分散溶媒として上記環状ケトン類にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)などの溶媒や芳香族系炭化水素、あるいは低級アルコールなどを混合した分散溶媒としても良い。ただし、混合した環状ケトン類以外の分散溶媒の比率が高いほどポリアミドイミド樹脂塗料との親和性が悪化してしまうため、オルガノシリカゾルにおける全分散溶媒のうち環状ケトン類が70%以上含有していることが望ましい。
【0021】
オルガノシリカゾルの粒子径は、絶縁被膜の耐部分放電性を有効に機能させると共に、断面が四角状の導体への塗装性を低下させないために、BET法による平均粒子径として100nm以下が好ましく、オルガノシリカゾル自体の透明性の向上を考慮すると30nm以下がより好ましい。
【0022】
上記オルガノシリカゾルは、例えば、アルコキシシランの加水分解によって得られたシリカゾルを溶媒置換して、あるいは水ガラスをイオン交換して得たシリカゾルを溶媒置換して得ることができる。但し、オルガノシリカゾルは上記の製造方法に限定されることはなく、既知のいずれの製造方法によって製造しても良い。
【0023】
オルガノシリカゾル中の水分量は分散させる分散溶媒の組成により適切な範囲が変化するが、一般には多すぎるとオルガノシリカゾルの安定性の低下、あるいは樹脂塗料との混合性が悪化する。このため、オルガノシリカゾル中の水分量は1.0%以下が好ましい。上記組成の分散溶媒に分散されてなるオルガノシリカゾルは、分散性が優れているため、シリカ濃度20%以上の高濃度のオルガノシリカゾルとすることができる。
【0024】
(ポリアミドイミド樹脂塗料)
ポリアミドイミド樹脂塗料には、溶媒中で4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などを含むイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物(TMA)などを含む酸成分との主に2成分を合成反応させることにより得られるものが、特性やコスト、材料の入手性などの面から好ましい。但し、ポリアミドイミド樹脂塗料からなる絶縁被膜を有する絶縁電線として220℃以上の耐熱性を維持できれば、芳香族イソシアネート類と芳香族カルボン酸及び酸無水物類の原料構造には特に限定されることは無く、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)などの芳香族ジアミンとトリメリット酸クロライド(TMAC)などの酸クロライドとを合成させる既知の製造方法などによっても製造することもできる。
【0025】
なお、このようなポリアミドイミド樹脂塗料は、アミド結合とイミド結合の間にある分子構造単位が比較的規則的に並んで形成され、水素結合やπ−π相互作用などで僅かながら結晶性を有する。例えば、分子骨格中に配向性を持ちやすいビフェニル構造などを導入すると、NMP溶媒であってもその樹脂の溶解性は低下し、場合によっては析出することもある。
【0026】
ポリアミドイミド樹脂塗料を構成する溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、環状ケトン類等からなる溶媒を1種以上使用することができる。
【0027】
なお、オルガノシリカゾルとポリアミドイミド樹脂塗料の相溶性を考慮すると、溶媒に130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を含有することが好ましい。ポリアミドイミド樹脂塗料の溶媒として用いる環状ケトン類としては、上述したオルガノシリカゾルと同様に、例えば、シクロヘプタノン(沸点:180℃)、シクロヘキサノン(沸点:156℃)、シクロペンタノン(沸点:131℃)などが挙げられる。これらを少なくとも1種以上用いることが可能である。また、2−シクロヘキセ−1オンなどの環状構造の一部または全てが不飽和のものでも良い。
【0028】
環状ケトン類を含有する塗料にポリアミドイミド樹脂を溶解させてポリアミドイミド樹脂塗料を得る方法としては、例えば、NMPを主成分とした溶媒中で合成したポリアミドイミド樹脂塗料をエタノールなどで樹脂を析出させて樹脂分のみ回収した後、環状ケトン類を含有する溶媒に再溶解して得る方法、環状ケトン類を含有する溶媒中で直接合成する方法、DMFなどの低沸点溶媒中で合成して得たポリアミドイミド樹脂塗料に環状ケトン類を加えて蒸留により溶媒置換する方法など、既知のいずれの方法でも良く、特に限定されない。
【0029】
γ−ブチロラクトンあるいは環状ケトン類は、NMP等に比べてポリアミドイミド樹脂との溶解性が劣るため、γ−ブチロラクトンあるいは環状ケトン類などからなる溶媒に、ポリアミドイミド樹脂を溶解させる際には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とトリメリット酸無水物(TMA)とを主成分とするポリアミドイミド樹脂に、MDI以外のイソシアネート類、あるいはTMA以外のトリカルボン酸類、テトラカルボン酸類をMDIおよびTMAと併用させたポリアミドイミド樹脂を使用して、ポリアミドイミド樹脂の原料に依存する比較的規則的な配列を乱し、結晶性を低減することが好ましい。
【0030】
(イソシアネート類)
ポリアミドイミド樹脂の原料に依存する比較的規則的な配列を乱して結晶性を低減するために用いる4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)以外のイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H−MDI)、キシシレンジイソシアネート(XDI)、水添XDIなどの脂肪族ジイソシアネート類や、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルスルホンジイソシアネート(SDI)などの芳香族ジイソシアネート類などを併用することが好ましい。また、このような他のイソシアネート成分として、トリフェニルメタントリイソシアネートなどの多官能イソシアネートやポリメリックイソシアネート、TDIなどの多量体などでも良く、また、TDIやMDIの異性体を含むものも同じ効果をもたらすことができる。
【0031】
MDIとTMAとを合成反応させて得られるポリアミドイミド樹脂において、200℃以上の耐熱性や機械的特性などの優れた特性を維持させるためには、芳香族ジイソシアネート類が望ましい。さらに、ポリアミドイミド樹脂の基本構造の変更を最小限にとどめ、かつ、溶解性を向上させるために、ポリメリックMDIや液状のモノメリックMDIを併用することが特に望ましい。イソシアネート類をMDIと併用する場合、その配合量については、モル比で全イソシアネート成分の2〜30モル%がイソシアネート類であることが望ましく、2〜15モル%がなお望ましい。また溶解性の向上には連結基にスルホン基のあるSDIが有効である。
【0032】
(テトラカルボン酸類、トリカルボン酸類)
ポリアミドイミド樹脂の原料に依存する比較的規則的な配列を乱して結晶性を低減するために用いるトリメリット酸無水物(TMA)以外の他の酸成分としては、テトラカルボン酸類、あるいはトリカルボン酸類が挙げられる。
【0033】
テトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物類やブタンテトラカルボン酸二無水物や5‐(2,5‐ジオキソテトラヒドロ‐3‐フラニル)‐3‐メチル‐3‐シクロヘキセン‐1,2‐ジカルボン酸無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物類などが挙げられる。また、トリカルボン酸類としては、例えば、トリメシン酸やトリス(2‐カルボキシエチル)イソシアヌレート(CIC酸)などのトリカルボン酸類などが挙げられる。
【0034】
ポリアミドイミド樹脂塗料の特性の維持の観点からは、芳香族テトラカルボン酸二無水物類が望ましく、溶解性が良好であることからDSDAやBTDAがなお望ましい。また、可とう性を付与する目的などでエステル基をもつテトラカルボン酸二無水物類を併用しても良いが、耐熱性や加水分解性の低下を招くため、少量の併用にとどめておくことが望ましい。テトラカルボン酸二無水物類およびトリカルボン酸類をTMAと併用する場合の配合量としては、モル比で全酸成分の2〜20モル%がテトラカルボン酸二無水物類および/またはトリカルボン酸類であることが望ましく、2〜10モル%がなお望ましい。
【0035】
(MDIとTMAの配合比率)
ポリアミドイミド樹脂塗料を構成する溶媒としてγ−ブチロラクトンあるいは環状ケトン類を用いた場合、上記のイソシアネート成分の配合比を考慮すると、数種類のイソシアネート成分及び数種類の酸成分を共重合させてポリアミドイミド樹脂を合成する際に、イソシアネート成分中の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の配合比率は、70〜98モル%が望ましく、85〜98モル%がなお望ましい。同様に、上記の酸成分の配合比を考慮すると、酸成分中のトリメリット酸無水物(TMA)の配合比率は、80〜98モル%が望ましく、90〜98モル%がなお望ましい。更に、イソシアネート成分中のMDIの配合比率及び酸成分中のTMAの配合比率を平均した値を総合配合比率と定義すると、この総合配合比率が85〜98モル%の範囲にあることが望ましい。
【0036】
(反応触媒)
ポリアミドイミド樹脂塗料の合成時においては、ポリアミドイミド樹脂の合成反応性が低下するのを防止することを目的として、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの塗料の安定性を阻害しない反応触媒を使用しても良い。
【0037】
[実施例]
本発明の絶縁電線は、図1に示すように、断面が四角形状の導体11上に本発明の絶縁塗料を塗布、焼付けして形成した絶縁被膜12を有する絶縁電線である。
なお、本発明の絶縁電線は、導体11と、絶縁被膜12との間あるいは絶縁被膜12と図示していない他の絶縁被膜との間に、導体11と絶縁被膜12との間あるいは絶縁被膜12と他の絶縁被膜との密着性を向上させるための密着性付与絶縁被膜や、可とう性を向上させるための可とう性付与絶縁被膜などを形成してもよい。また、本発明の絶縁電線は、絶縁被膜12の周囲に潤滑性を付与するための潤滑性付与絶縁被膜や、耐傷性を付与するための耐傷性付与絶縁被膜などを形成してもよい。これらの他の絶縁被膜、密着性付与絶縁被膜、可とう性付与絶縁被膜、潤滑性絶縁被膜、および耐傷性付与絶縁被膜は、絶縁塗料を塗布、焼付けすることによって形成してもよいし、押出機を用いた押出成形によって形成してもよい。
【0038】
(絶縁電線の製造方法)
各実施例、比較例のエナメル線を以下のようにして製造した。
まず、ポリアミドイミド樹脂塗料を、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、溶媒が300質量部となるように作製した。また、オルガノシリカゾルを、平均粒径10nmのシリカ100質量部に対して分散溶媒が300質量部となるように作製した。次いで、作製したポリアミドイミド樹脂塗料とオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を製造するに際し、上記ポリアミドイミド樹脂塗料中の樹脂分100質量部に対してシリカ量が30質量部となるように調製したものを攪拌し、絶縁塗料を得た。
【0039】
次に、得られた絶縁塗料を、厚さ2.0×幅3.0mm 角部のR=0.3mmの寸法を有する断面が四角形状の銅導体上に絶縁被膜の厚さが50μmとなるように塗布、焼付けして絶縁被膜を形成することで絶縁電線を得た。
【0040】
(実施例1)
溶媒の100%がシクロヘキサノンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の100%がシクロヘプタノンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は100%であった。
【0041】
(実施例2)
溶媒の85%がγ−ブチロラクトン、15%がNMPであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の100%がシクロヘキサノンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は23.1%であった。
【0042】
(実施例3)
溶媒の80%がγ−ブチロラクトン、15%がNMP、5%がシクロヘキサノンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の77.8%がシクロヘキサノン、22.2%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は21.8%であった。
【0043】
(実施例4)
溶媒の100%がγ−ブチロラクトンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の72.2%がシクロヘキサノン、27.8%がDMACであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は16.7%であった。
【0044】
(実施例5)
溶媒の50%がγ−ブチロラクトン、33.3%がシクロヘキサノン、16.7%がNMPであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の83.3%がシクロペンタノン、16.7%がDMACであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は44.9%であった。
【0045】
(実施例6)
溶媒の50%がシクロヘキサノン、50%がNMPであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の100%がシクロヘキサノンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は61.5%であった。
【0046】
(比較例1)
溶媒の100%がγ−ブチロラクトンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の100%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は0%であった。
【0047】
(比較例2)
溶媒の13.3%がシクロヘキサノン、86.7%がγ−ブチロラクトンであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の100%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は10.3%であった。
【0048】
(比較例3)
溶媒の80%がNMP、20%がDMFであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の100%がDMACであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は0%であった。
【0049】
(比較例4)
溶媒の80%がNMP、20%がDMFであるポリアミドイミド樹脂塗料に、分散溶媒の61.1%がシクロヘキサノン、38.9%がγ−ブチロラクトンであるオルガノシリカゾルを混合して絶縁塗料を得た。溶媒と分散溶媒とからなる全溶媒成分に対する環状ケトン類の含有量は14.1%であった。
【0050】
上記のように作製した絶縁電線(実施例1〜6および比較例1〜4)に対して、次のような試験を行った。絶縁被膜の寸法は、作製した絶縁電線を、該絶縁電線を固定するための樹脂中に埋め込み、樹脂に埋め込まれた絶縁電線の先端部分の断面を樹脂と共に研磨し、研磨して露出した断面から、平坦部および角部における絶縁被膜の厚さを測定した。
【0051】
V−t特性は、作製した絶縁電線から長さ約20cmの試験用試料を2本採取し、この2本の試験用試料をそのままの状態で背合わせして固定した後、2本の試験用試料間に正弦波10kHz、電圧1.5kVを印加し、絶縁破壊に至るまでの時間を測定して常態でのV−t特性を評価した。
また、作製した絶縁電線から長さ約20cmの試験用試料を2本採取し、この2本の試験用試料の長手方向に張力を加えて20%伸張した状態で背合わせして固定した後、2本の試験用試料間に正弦波10kHz、電圧1.5kVを印加し、絶縁破壊に至るまでの時間を測定して20%伸長後のV−t特性を評価した。
【0052】
各種測定評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類が70%以上含有する分散溶媒にシリカ微粒子が分散されているオルガノシリカゾルをポリアミドイミド樹脂塗料に分散した絶縁塗料を用いた実施例1〜6の絶縁電線では、角部上に形成された絶縁被膜の厚さと平坦部上に形成された絶縁被膜の厚さとが目標とする50μm前後のほぼ同じ厚さを有しており、導体の全周にわたって絶縁被膜の厚さがほぼ均一な絶縁電線が得られたことが判る。さらに、実施例1〜6の絶縁電線では、比較例1〜4の絶縁電線と比較して、V−t特性にも優れていることが判る。
【0055】
これに対して、比較例1〜4の絶縁電線では、いずれも角部上に形成された絶縁被膜の厚さが、目標とする50μmの厚さよりも大幅に薄く(約20μm程度薄い)、平坦部上に形成された絶縁被膜の厚さよりも17〜25μm程度も薄いことが判る。また、比較例1〜4の絶縁電線では、V−t特性の効果も低いことが判る。
【0056】
以上より、本発明によれば、溶媒およびポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂塗料と、オルガノシリカゾルと、を混合してなり、四角形状の断面を有する導体上に絶縁被膜が設けられている絶縁電線に使用される絶縁塗料において、前記オルガノシリカゾルは、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を70〜100%含有する分散溶媒にシリカ微粒子が分散されている絶縁塗料としたことにより、四角形状の断面を有する導体上に、シリカ微粒子の分散性が良好で、かつ平坦部と角部との厚さがほぼ均一な(平坦部の絶縁被膜の厚さと角部の絶縁被膜の厚さとの差が小さい)絶縁被膜を形成することができる。すなわち、本発明によれば、シリカ微粒子の分散性と、断面が四角形状の導体への塗装性とが共に良好な絶縁塗料、およびそのような絶縁塗料を用いて四角形状の断面を有する導体上にほぼ均一な絶縁被膜を有する絶縁電線を提供することができる。
【0057】
また、本発明の絶縁塗料では、溶媒および分散溶媒を共に環状ケトン類とすることにより、環境等に対しての影響を低減した絶縁塗料および絶縁電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
10、20 絶縁電線
11、21 導体
12、22 絶縁被膜
13、23 角部
14、24 平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒およびポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂塗料と、オルガノシリカゾルと、を混合してなり、四角形状の断面を有する導体上に絶縁被膜が設けられている絶縁電線に使用される絶縁塗料において、
前記オルガノシリカゾルは、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を70〜100%含有する分散溶媒にシリカ微粒子が分散されていることを特徴とする絶縁塗料。
【請求項2】
前記ポリアミドイミド樹脂塗料は、130℃から180℃までの範囲の沸点を有する環状ケトン類を含む溶媒に、前記ポリアミドイミド樹脂が溶解されてなる請求項1記載の絶縁塗料。
【請求項3】
前記溶媒と前記分散溶媒とからなる全溶媒成分のうちの15〜100%が前記環状ケトン類である請求項1または2記載の絶縁塗料。
【請求項4】
前記環状ケトン類は、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンのうちの少なくとも1種からなる請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁塗料。
【請求項5】
四角形状の断面を有する導体の表面に、請求項1〜4のいずれか1項記載の絶縁塗料で形成された絶縁被膜が設けられていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項6】
前記絶縁被膜の表面に、潤滑性絶縁被膜を有する請求項5記載の絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−210645(P2011−210645A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78838(P2010−78838)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】