説明

絶縁性部材の検査方法及び検査装置

【課題】 絶縁性部材に、非常に微細なピンホールや亀裂等が存在していたとしても、これらが存在しているか否かを正確に、しかも簡単に検知することが可能な絶縁性部材の検査方法及び検査装置を提供する。
【解決手段】 一対の電極の一方に、絶縁性部材20の第1の表面を接触させる工程と、前記電極に接触させた第1の表面の反対側の面に電解液を供給する工程と、前記電解液が供給された面に、前記一対の電極の他方を接触させる工程と、絶縁性部材20に接触させた一対の電極に電圧を印加する工程と、前記電圧が印加された際の電流値に応じて、前記絶縁性部材の異常の有無を判定する工程を含んでなる絶縁性部材の検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性部材の検査方法及び絶縁性部材の検査装置に係り、特に、絶縁性部材に、微細なピンホールや亀裂等が存在する等の異常を検知するための検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象部材に微細なピンホールや亀裂等が存在するか否かを検知する種々の方法として、例えば、対象物を通過する空気の有無を検出するエアーリーク法や、光電センサを使用した光の検出によって、対象部材に微細なピンホールや亀裂等が存在するか否かを検知する方法、あるいは、目視による方法等が紹介されている。
【0003】
また、例えば、熱可塑性プラスチックを成型してなる中空容器のピンホールを、高電圧放電を用いて検出するためのピンホール検出用電極も紹介されている。このピンホール検出用電極は、中空容器の外側を囲繞して配置した外部電極と、容器壁を挾んで対向して容器内に挿入使用する内部電極と、からなり、該内部電極を、常態で中空容器の首部を通過可能に、且つ、加圧空気の吹込みにより膨張して、上記中空容器の内面に密着可能なごとく被検容器寸法に対応して導電ゴムにより導電性袋体に形成するとともに、外部電極との間に高電圧を印加可能に形成した構成を備えている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そしてまた、検査用ガスを封入した可撓性を有する複数の密封包装体を一度に押圧し、押圧によって密封包装体から洩れ出した検査用ガスをまとめてガス検知装置に供給するようにした密封包装体のピンホール検査装置も紹介されている。このピンホール検査装置は、検査対象物収容部材と、上下方向に移動可能に設けられた押圧部材の下端部に形成された凹部とで複数の隔室を形成した構造を備えている。また、各検査対象物収容部材には、密封包装体が水平方向に並べて載置可能とされ、且つその状態で密封包装体が押圧可能とされており、密封包装体から洩れ出した検査用ガスをまとめてガス検知装置に供給するようになっている。そして、この検査対象物収容部材は、水平方向に出し入れ自在に構成されている。(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−82427号公報
【特許文献2】特開平7−159271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の検知方法や、特許文献1に記載されている電極、あるいは特許文献2に記載されているガス検知装置では、非常に微細なピンホールや亀裂等を検知することが不可能である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、絶縁性部材に、非常に微細なピンホールや亀裂等が存在する等の異常があったとしても、このような異常が存在しているか否かを正確に、しかも簡単に検知することが可能な絶縁性部材の検査方法及び検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため本発明は、絶縁性部材の異常を検知する検査方法であって、一対の電極の一方に、前記絶縁性部材の第1の表面を接触させる工程と、前記電極に接触させた第1の表面の反対側の面に電解液を供給する工程と、前記電解液が供給された面に、前記一対の電極の他方を接触させる工程と、前記絶縁性部材に接触させた一対の電極に電圧を印加する工程と、前記電圧が印加された際の電流値に応じて、前記絶縁性部材の異常の有無を判定する工程と、を含んでなる絶縁性部材の検査方法を提供するものである。
【0008】
この絶縁性部材の検査方法によれば、絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在する等の異常を正確且つ簡単に検知することができる。すなわち、絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在している場合は、このピンホールや亀裂等に電解液が浸入し、この浸入した電解液を介して、前記電極間を導通させることができる。この時、前記ピンホールや亀裂等が、非常に微細なものであっても、前記電解液を浸入させることができる。したがって、絶縁性部材に、非常に微細なピンホールや亀裂等が存在していたとしても、これらが存在しているか否かを正確且つ簡単に検知することができる。
【0009】
前記電解液は、浸透性の高い液体であることが好ましく、例えば、塩化カリウム溶液等を好適に使用することができる。
【0010】
また、本発明にかかる絶縁性部材の検査方法では、前記絶縁性部材の第1の表面に導電性部材が配設されている場合は、当該導電性部材を介して、前記第1の表面を前記一対の電極の一方に接触させることができる。ここで、例えば、従来から行われているエアーリーク方式や、光の検出方式等によってピンホールや亀裂等が存在しているか否かを検知する場合、2つの部材を積層してなる積層体のうち、一方の部材にピンホールや亀裂等が存在し、他方の部材にこれらが存在していない場合、前記一方の部材にピンホールや亀裂等が存在していることを検知することは困難である。しかしながら、本発明にかかる絶縁性部材の検査方法によれば、絶縁性部材と導電性部材とが積層された積層体のうち、絶縁性部材には、ピンホールや亀裂等が存在するが、導電性部材には、ピンホールや亀裂等が存在していない場合であっても、絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在しているか否かを正確に検知することができる。
【0011】
さらにまた、前記電解液を供給する工程は、当該電解液を含浸させた多孔質部材を、前記第1の表面の反対側の面に接触させる工程を含むことができる。この工程により、前記第1の表面の反対側の面が平坦面である時は勿論のこと、ある程度の凹凸が形成されていたとしても、前記第1の表面の反対側の面に電解液を、さらにむら無く均一に供給することができる。
【0012】
そしてまた、前記電極は、当該電極が接触する絶縁性部材の表面形状に相補した形状を備えることができる。このようにすることで、絶縁性部材が、シート状や略板状のように平面から構成されている場合は勿論のこと、絶縁性部材が、曲面を有していたり、立体形状を有していたとしても、絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在しているか否かを正確に検知することができる。
【0013】
また、本発明は、絶縁性部材の異常を検知する検査装置であって、絶縁性部材の第1の表面に接触可能な第1の電極と、前記絶縁性部材の第1の表面とは反対側の面に接触可能な第2の電極と、前記第1の電極に配設され、絶縁性部材の前記表面に電解液を供給可能な電解液供給部と、を備えてなる絶縁部材の検査装置を提供するものである。
【0014】
この構成を備えた検査装置は、絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在している場合、電解液供給部から供給される電解液を、このピンホールや亀裂等に浸入させ、この浸入した電解液を介して、前記電極間を導通させることができる。したがって、絶縁性部材に、非常に微細なピンホールや亀裂等が存在していたとしても、これらが存在しているか否かを正確且つ簡単に検知することができる。
【0015】
前記電解液供給部は、電解液が含浸された多孔質部材から構成することができる。このように構成することで、絶縁性部材の表面が平坦面である時は勿論のこと、ある程度の凹凸が形成されていたとしても、絶縁性部材の表面に電解液を、さらにむら無く均一に供給することができる。
【0016】
また、前記第1の電極及び第2の電極は、接触する絶縁性部材の表面形状に相補させることもできる。このように構成することで、絶縁性部材が、シート状や略板状のように平面から構成されている場合は勿論のこと、絶縁性部材が、曲面を有していたり、立体形状を有していたとしても、絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在しているか否かを正確に検知することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる絶縁性部材の検査方法及び検査装置によれば、絶縁性部材に存在するピンホールや亀裂等が微細であっても、これらに電解液を浸入させることができ、当該電解液を介して、電極間を導通させることができる。そして、前記導通によって得られた電流値に応じて、前記絶縁性部材にピンホールや亀裂等が存在しているか否かを正確且つ簡単に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法及び検査装置について図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態にかかる絶縁性部材の検査装置を模式的に示す断面図、図2及び図3は、本発明の実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法の一部を模式的に示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法で使用される検査装置1は、絶縁性部材20を載置可能な導電性の基台10と、基台10に対向配置されると共に、基台10に対し進退移動する導電性のスタンプ冶具11と、スタンプ冶具11の基台10側を覆うようにスタンプ冶具11に配設された電解液供給部としての多孔質部材12と、を備えて構成されている。
【0021】
この検査装置1には、基台10及びスタンプ冶具11に電圧を印加する電源15(図3参照)と、電流計16(図3参照)が接続可能となっており、この電源15及が接続された際に、基台10及びスタンプ冶具11が一対の電極を構成する。また、多孔質部材12には、電解液が含浸されている。
【0022】
なお、基台10及びスタンプ冶具11の少なくとも一方には、基台10に載置された絶縁性部材20のスタンプ冶具11側表面に電解液が供給された際に、絶縁性部材20に形成されているピンホールや亀裂等以外から電解液が浸入して(漏れて)、リークすることがないよう、図示しないシール部材が配設されている。
【0023】
基台10及びスタンプ冶具11は、導電性を備えていれば、特にその構成材料は限定されるものではないが、例えば、金属、特にステンレス等の合金を好適に使用することができる。また、ステンレスを使用する場合は、SUS303等を好適に使用することができる。そしてまた、本実施の形態では、多孔質部材12としてスポンジ材を使用し、スポンジ材に含浸させる電解液としては、1±0.1%程度の濃度を有する塩化カリウム(KCl)水溶液を使用した。
【0024】
次に、図1に示す検査装置1を使用して、絶縁性部材20に、ピンホール23や亀裂等が存在しているか否かを検査する方法について説明する。
【0025】
図2に示すように、絶縁性部材20は、導電性部材21に積層されており、絶縁性部材20と導電性部材21とで積層体22を構成している。絶縁性部材20には、微細なピンホール23が形成されており、導電性部材21にはピンホールや亀裂等は形成されていない場合を図示した。なお、本実施の形態では、絶縁性部材20として、樹脂などの有機フィルムを使用した。また、導電性部材21として、ステンレス板などの金属部材を使用した。
【0026】
先ず、図2に示す工程では、基台10上に積層体22を、導電性部材21側が基台10の表面と接触するように載置する。次に、電解液が含浸された多孔質部材12が配設されたスタンプ冶具11を、積層体22が載置された基台10に向けて下降させる。
【0027】
次に、図3に示す工程では、電解液が含浸された多孔質部材12が配設されたスタンプ冶具11を、絶縁性部材20に接触させる。この工程により、電解液が絶縁性部材20の表面に均等にゆきわたり、絶縁性部材20にピンホール23が形成されている場合には、このピンホール23内に浸入する。そして、このピンホール23内に浸入した電解液は、導電性部材21に到達する。
【0028】
次いで、この状態のまま、基台10(電極)及びスタンプ冶具11(電極)に所定の電圧を印加する。例えば、本実施の形態の場合、150Vの電圧を印加した。この時、電流計16は、約5〜14mAの値を示した。なお、絶縁性部材20に異常がない場合、すなわち、ピンホール23や亀裂等が形成されていない場合に、前記と同じ条件で、基台10(電極)及びスタンプ冶具11(電極)に電圧を印加すると、電流計16は、約50〜170nAの値を示した。
【0029】
このように、絶縁性部材20に異常がある(ピンホールや亀裂等が存在する)場合と、無い場合とでは、電流値が異なることから、得られた電流値に応じて、絶縁性部材20に異常が生じているか否かを、正確且つ簡単に判定することができる。
【0030】
なお、本実施の形態では、絶縁性部材20と導電性部材21とで構成された積層体22の絶縁性部材20に異常があるか否かを検知する場合について説明したが、これに限らず、絶縁性部材20のみであっても、この絶縁性部材20を基台10上に載置することで、絶縁性部材20に異常があるか否かを検知することができることは勿論である。また、導電性部材21は、異なった種類の導電性部材が複数積層されていてもよい。
【0031】
また、本実施の形態では、スタンプ冶具11に、電解液を含浸させた多孔質部材12を配設し、この多孔質部材12を絶縁性部材20に接触させることで、絶縁性部材20に電解液を供給する場合について説明したが、これに限らず、例えば、電解液は、絶縁性部材20にスプレーする、塗布する等、種々の方法で供給することができる。
【0032】
そしてまた、本実施の形態では、略板状(あるいはシート状)で表面が平坦な積層体22の絶縁性部材20に異常があるか否かを検知したが、これに限らず、例えば、図4に示すように、基台10(電極)及びスタンプ冶具11(電極)の形状を、積層体22の形状に相補させることで、立体形状(図4では箱形)の積層体22についても、絶縁性部材20に異常があるか否かを検知することができる。すなわち、検査装置1の電極の形状を、当該電極が接触する絶縁性部材20の表面形状に相補した形状とすれば、種々の形状を備えた絶縁性部材20に異常があるか否かを検知することができる。
【0033】
また、本実施の形態では、電解液として、1±0.1%程度の濃度を有する塩化カリウム(KCl)水溶液を使用した場合について説明したが、これに限らず、塩化カリウム水溶液の濃度は、所望により決定することができる。また、電解液は、塩化カリウム水溶液に限定されるものではなく、絶縁性部材20に形成された微細なピンホールや亀裂等を介して、一対の電極を導通させることが可能であれば、他の種類の電解液を使用してもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法で使用される検査装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法の一部を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法の一部を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態にかかる絶縁性部材の検査方法の一部を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10…基台(電極)、11…スタンプ冶具(電極)、12…多孔質部材、15…電源、16…電流計、20…絶縁性部材、21…導電性部材、22…積層体、23…ピンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性部材の異常を検知する検査方法であって、
一対の電極の一方に、前記絶縁性部材の第1の表面を接触させる工程と、
前記電極に接触させた第1の表面の反対側の面に電解液を供給する工程と、
前記電解液が供給された面に、前記一対の電極の他方を接触させる工程と、
前記絶縁性部材に接触させた一対の電極に電圧を印加する工程と、
前記電圧が印加された際の電流値に応じて、前記絶縁性部材の異常の有無を判定する工程と、
を、含んでなる絶縁性部材の検査方法。
【請求項2】
前記電解液が塩化カリウム溶液である請求項1記載の絶縁性部材の検査方法。
【請求項3】
前記絶縁性部材の第1の表面には、導電性部材が配設されてなり、当該導電性部材を介して前記第1の表面を前記一対の電極の一方に接触させる請求項1または請求項2記載の絶縁性部材の検査方法。
【請求項4】
前記電解液を供給する工程は、当該電解液を含浸させた多孔質部材を、前記第1の表面の反対側の面に接触させる工程を含む請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の絶縁性部材の検査方法。
【請求項5】
前記電極は、当該電極が接触する絶縁性部材の表面形状に相補した形状を備えている請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の絶縁性部材の検査方法。
【請求項6】
絶縁性部材の異常を検知する検査装置であって、
絶縁性部材の第1の表面に接触可能な第1の電極と、
前記絶縁性部材の第1の表面とは反対側の面に接触可能な第2の電極と、
前記第1の電極に配設され、絶縁性部材の前記表面に電解液を供給可能な電解液供給部と、
を備えてなる絶縁部材の検査装置。
【請求項7】
前記電解液供給部は、電解液が含浸された多孔質部材からなる請求項6記載の絶縁部材の検査装置。
【請求項8】
前記第1の電極及び第2の電極は、接触する絶縁性部材の表面形状に相補してなる請求項6または請求項7記載の絶縁部材の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−275816(P2006−275816A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96325(P2005−96325)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】