絶縁膜組成物
【課題】 耐電圧、耐摩耗性、熱伝導率、および耐スクラッチ性が一層高い絶縁膜や保護層(以下、絶縁膜等という)を形成し得る絶縁膜組成物を提供する。
【解決手段】 ガラスを主成分とする厚膜絶縁ペーストには、アルミナ粉末が含まれているため、定着ヒータの絶縁膜やサーマルプリントヘッドの保護層に好適で、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く、且つ熱伝導率や耐電圧が高い絶縁膜等を得ることができる。アルミナ粉末のアスペクト比が1.2以下と小さいことから充填密度が得られるので絶縁膜の硬度等の改善効果が一層高められる。アルミナ粉末の体積比率が25(%)以上と大きいことから、硬度や熱伝導率等の改善効果が一層高められ、体積比率が60(%)未満に留められていることから、強固な絶縁膜等を得ることができる。
【解決手段】 ガラスを主成分とする厚膜絶縁ペーストには、アルミナ粉末が含まれているため、定着ヒータの絶縁膜やサーマルプリントヘッドの保護層に好適で、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く、且つ熱伝導率や耐電圧が高い絶縁膜等を得ることができる。アルミナ粉末のアスペクト比が1.2以下と小さいことから充填密度が得られるので絶縁膜の硬度等の改善効果が一層高められる。アルミナ粉末の体積比率が25(%)以上と大きいことから、硬度や熱伝導率等の改善効果が一層高められ、体積比率が60(%)未満に留められていることから、強固な絶縁膜等を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に備えられる電極や抵抗発熱体等を保護する等の目的で設けられる絶縁膜、特に複写機の定着ヒータの絶縁膜やサーマルプリントヘッドの発熱体を覆う保護層等の形成に好適な絶縁膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トナー画像を紙等の被印刷物に転写して定着する形式の複写機では、その定着装置においてその被印刷物が加熱されつつ加圧されることによって、転写されたトナーが溶融させられてその紙等に定着させられる。定着装置には、その被印刷物を加熱するための定着ヒータと、その被印刷物を定着ヒータに向かって加圧しつつ一方向に送るための加圧ローラとが備えられている。このような定着装置の一形式として、定着ヒータを平板長尺状に形成すると共に、加圧ローラとの間にその回転に伴って回転させられる耐熱樹脂製の定着フィルムを設けて、定着装置を小型化すると共にその熱容量を低下させたものがある。
【0003】
上記の定着ヒータは、例えば、ガラスやセラミックス等から成る平板状の基板の表面に、印刷或いは転写等の適宜の方法でAg/Pd合金等から成る抵抗発熱体層を設けたものである。この抵抗発熱体層は、例えばその両端部においてAg等から成る電極端子に接続されると共に、その表面がガラスを主成分とする絶縁膜で覆われている。このような絶縁膜は、平板状の定着ヒータに限られず、円筒状の絶縁性基材の外周面に抵抗発熱体層を設けた定着ローラにも設けられている。
【0004】
また、サーマルプリンタでは、その印字部において、記録紙を一方向に送りつつ加熱することにより、その記録紙上に画像を形成する。感熱記録紙を用いる形式のものでは、加熱されることによって感熱記録紙に設けられた感熱層中の感熱色素が発色させられて画像が形成される。また、熱転写インクリボンを用いる形式のものでは、加熱することにより溶融し或いは昇華したインクが記録紙に転写させられて画像が形成される。この場合は記録紙に普通紙が用いられる。上記印字部には、感熱記録紙や熱転写インクリボンを加熱するためのサーマルプリントヘッドと、記録紙をそのサーマルプリントヘッドに向かって押圧しつつ一方向に送るための加圧ローラとが備えられている。このサーマルプリントヘッドは、例えば、セラミック基板の一面に蓄熱層を介して設けられたライン状の抵抗発熱体を保護層で覆った基本構造を備えている。
【0005】
また、上述したような絶縁膜或いは保護層は、例えば回路基板においても、その表面に設けられた電極等の導体膜や電子部品等を保護する目的で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−338543号公報
【特許文献2】特開平11−147711号公報
【特許文献3】特開2001−226117号公報
【特許文献4】特開平10−193659号公報
【特許文献5】特開平04−073163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような定着ヒータの絶縁膜や、サーマルプリントヘッドの保護層には、発生した熱が被印刷物に効率よく伝達されるように熱伝導率が高いこと、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く被印刷物に擦られても摩耗し難く傷も付きにくいこと、等が求められる。また、定着ヒータの絶縁膜においては、更に、高い信頼性を得るために、耐電圧が可及的に高く絶縁破壊が容易に起きないことも求められる。また、回路基板の絶縁膜にも、電子部品から発生した熱を容易に放熱させ、或いは絶縁破壊によって保護機能が失われることを避けるべく、熱伝導率や耐電圧が可及的に高いことが望まれている。
【0008】
例えば、スーパーマーケットのレジスタや携帯型の感熱式プリンタでは、薄膜式のサーマルプリントヘッドが主流であるが、薄膜式では保護層をスパッタで形成することが一般に行われていた。ガラスペーストで保護層を形成すると、熱伝導性、耐摩耗性、耐スクラッチ性が不足するためである。しかしながら、スパッタ法を利用すると製造コストが増大するため、ガラスペーストでこれらの特性を改善することが望まれている。また、携帯型プリンタでは、特に電池(充電池を含む)の持ちのよいことが望まれるが、保護層の熱伝導率が低いと印字濃度等の品質と電池の持ちを両立させることが困難になる。
【0009】
上述したような要求に対して、ガラス粉末の5〜45(wt%)をアルミナ粉末に置き換えることによって耐電圧を高めた定着ヒータや厚膜抵抗体のカバーコートに用いるガラスペーストが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。900(℃)以下の比較的低い焼成温度で緻密な膜を形成し得る低軟化点ガラスを用いると耐電圧が低くなる傾向に対し、上記のガラスペーストは膜厚を厚くすることなく耐電圧を高めることを目的とする。しかしながら、上記ガラスペーストから生成される絶縁膜は、耐電圧が未だ低く、一層の向上が望まれていた。
【0010】
また、薄膜トランジスタやサーマルプリントヘッド等の各種電子部品の表面に滑らかな耐摩耗性のオーバーコート層(すなわち保護層)を形成するに際して、平均粒径が0.1(μm)以下の球状の無機質粒子を焼成時にガラスを形成する金属有機物に混合することが提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。この保護層形成技術は、スパッタリング等の高価な薄膜技術を用いることなく保護層に要求される耐摩耗性および平滑性を満足させようとするものである。しかしながら、上記のような混合物を用いた保護層は、未だ十分な耐摩耗性を有するものではなく、一層の改善が求められていた。
【0011】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、耐電圧、耐摩耗性、熱伝導率、および耐スクラッチ性が一層高い絶縁膜や保護層(以下、絶縁膜等という)を形成し得る絶縁膜組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、所定の基材の表面に絶縁膜を形成するために用いられるガラスを主成分とする絶縁膜組成物であって、アスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末を絶縁膜組成物全体に占める体積比率x(%)と平均粒径y(μm)が以下の関係式(1)を満たす範囲で含むことにある。
0.09exp(9.8/(60−x))+0.24≦y≦7
(但し、25≦x<60) ・・・(1)
【発明の効果】
【0013】
このようにすれば、ガラスを主成分とする絶縁膜組成物には、アルミナ粉末が含まれているため、その絶縁膜組成物は複写機の定着ヒータの絶縁膜やサーマルプリントヘッドの保護層に好適で、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く、且つ熱伝導率や耐電圧が高い絶縁膜等を得ることができる。このとき、アルミナ粉末のアスペクト比が1.2以下と小さく球形に近いことから、膜形成時に高い充填密度が容易に得られるので、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度等の改善効果が一層高められる。また、アルミナ粉末の体積比率xが25(%)以上と十分に大きいことから、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度や熱伝導率等の改善効果が一層高められ、体積比率xが60(%)未満に留められていることから、強固な絶縁膜等を得ることができる。また、アルミナ粉末の平均粒径yが前記(1)式を満たし、0.09exp(9.8/(60−x))+0.24(μm)以上、すなわち0.35(μm)以上であることから、形成した絶縁膜等からアルミナ粒子が脱落することが十分に抑制され延いては一層高い耐スクラッチ性が得られる。また、平均粒径yが7(μm)以下に留められていることから、形成する絶縁膜等の膜厚を例えば10(μm)以下と十分に薄くしても膜表面の凹凸が十分に小さくなり、焼成しただけでも十分に高い平滑性を有する絶縁膜等を得ることができる。
【0014】
なお、本願において「アスペクト比」は、粒子の長径/短径比で、球形に近いほど値が1に近くなる。アスペクト比が小さいほど球形に近づき充填密度が高められるので、アルミナ粉末の添加効果が一層高められる。例えば、アスペクト比が小さいほど形成される絶縁膜等の耐電圧が高く且つばらつきも小さくなる。アスペクト比が小さくなるほど形成する絶縁膜の表面の突起が小さくなり或いは生じ難くなるので、膜表面の平滑性が向上するが、このことが耐電圧の向上にも寄与しているものと思われる。また、アスペクト比が小さくなるほど、塗布・乾燥後の膜中における粒子の充填性が向上するため、形成される絶縁膜等において膜相互或いは膜内の特性のバラツキが抑制される利点もある。また、本願において「平均粒径」は、アルミナ粉末の電子顕微鏡(SEM)写真を用いて実測した平均値である。具体的には、例えば、電子顕微鏡にて10000倍若しくは5000倍で任意に2視野を撮影し、その写真全体の粒子から平均的な大きさと思われる粒子を目視で5個選び、その粒子の直径を実測してこれをその粒子の粒径とし、2視野5個ずつで合計10個の粒子の平均を平均粒径とする。
【0015】
上述したように、アスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末を混合することで形成される絶縁膜等の硬度・熱伝導率・耐電圧は十分に改善される。したがって、この条件を満たせば、アルミナ粉末の体積比率xや平均粒径yは特に限定されないが、それら体積比率xおよび平均粒径yを制御することにより、上記の各特性が一層向上させられる。
【0016】
まず、体積比率xは、25〜60(%)の範囲内とすることが好ましい。アルミナ粉末を添加した効果すなわち前述した各特性の改善効果を十分に得るためには、体積比率xが十分に大きいことが好ましく、25(%)以上であることが好ましい。形成した絶縁膜等が紙等で擦られることによってその絶縁膜等内のガラスが削られると、アルミナ粒子が露出させられる。体積比率xが十分に大きくされていれば、露出したアルミナ粒子による絶縁膜等の摩耗抑制効果が十分に得られるので、耐摩耗性や耐スクラッチ性が一層向上する。すなわち、サーマルプリンタ等の装置寿命も向上する。また、アルミナ粉末の熱伝導率はガラスに比較して高いので、熱伝導率の改善効果も高くなる。熱伝導率が十分に高くなることにより、十分に高い応答性が得られる。応答性が高くなれば、プリンタの起動が早くなると共に印字速度も高くなり、電気の無駄が少なくなるので省エネにもなる利点がある。また、耐スクラッチ性が一層向上させられることにより、絶縁膜等に傷が付きにくくなり、その傷による印字不良も抑制される。一方、アルミナ粉末が多くなるほど結着剤であるガラスが相対的に少なくなって形成される絶縁膜等が脆くなり、また、粒子相互間の隙間も増大して緻密性も低下するので、絶縁膜等の緻密性を十分に高くし且つ表面の平滑性を十分に高くする(すなわち十分な滑らかさを得る)と共に十分な膜強度を得るためには、体積比率xが十分に小さいことが好ましく、60(%)未満であることが好ましい。体積比率xが過大になると緻密性が急に失われ、特に60(%)以上になると、形成される絶縁膜等の表面の凹凸が著しく大きくなって実用性に劣る。上記体積比率xの範囲は、重量百分率で概ね30〜65(%)に相当する。
【0017】
また、前記(1)式によれば、体積比率xが下限値25(%)の場合に、平均粒径yは下限値0.35(μm)になる。したがって、平均粒径yは、0.35≦y≦7(μm)の範囲内の値であることが好ましい。前記各特性の改善効果を十分に得るためには、平均粒径yが十分に大きいことが好ましく、0.37(μm)以上であることが一層好ましい。平均粒径が十分に大きくされることにより、上述したようにガラスが削られてアルミナ粒子が露出させられた場合において、そのアルミナ粒子が脱落し難くなるので耐摩耗性や耐スクラッチ性が十分に高められる。しかも、アルミナ粉末の凝集が抑制されて高い分散性が得られる。一方、平均粒径yが大きくなるほど形成される絶縁膜等の表面の凹凸が生じ易くなると共に、相対的にガラス量が少なくなることに起因して膜強度が低下するので、平均粒径yは十分に小さいことが好ましく、7(μm)以下であることが好ましい。
【0018】
また、添加されるアルミナ粉末は、前記(1)式を満たすことが好ましいが、この(1)式においては、体積比率xが大きくなるほど平均粒径yの下限値が大きくなる。すなわち、体積比率xが小さい領域では微細な平均粒径yのアルミナ粉末も用い得るが、体積比率xが大きい領域では大きい平均粒径yのアルミナ粉末を用いることが必要になる。例えば、体積比率xが55(%)程度以下の領域では、平均粒径yが1.5(μm)程度のアルミナ粉末も用い得るが、これを越えると用い得るアルミナ粉末の平均粒径yが急激に大きくなる。前述したように平均粒径yが小さいほどアルミナ粒子が脱落し易いが、体積比率xが小さい場合には脱落しても絶縁膜の物性の変化が小さいためであると考えられる。
【0019】
また、前記アルミナ粉末の製造方法は特に限定されないが、CVD等の気相法、ゾルゲル法等の液相法すなわち湿式法、または高温溶射法が好ましい。これらの製造方法によれば、粒径のばらつきが小さく、アスペクト比の小さい球形に近い微細なアルミナ粉末が容易に得られる。しかも、これらの方法によって製造されたアルミナ粉末は粒子表面が滑らかであることから、印刷用紙に傷が付きにくく印刷品質が一層高められる利点もある。なお、アルミナ粉末の製造方法としては、適宜の方法で合成した後に所望の大きさに破砕する方法もよく知られるが、このような破砕アルミナはアスペクト比が大きいことから、高い充填密度を得るのが困難で生成される膜も多孔質になり易い上に、粒子表面に鋭利なエッジが存在するので、上記気相法等により得られたアルミナ粉末が好ましい。上記CVD法は、例えば、アルミニウムアルコキシドを加水分解して合成した水酸化アルミニウムを塩素等のハロゲンガスと共に噴射して気相成長させることでアルミナ粉末を得るものである。また、上記高温溶射法は、例えばバイヤー法で得られたアルミナ粉末を高温火炎中に溶射し、或いは、水酸化アルミニウム粉末またはそのスラリーを火炎中に噴霧し、得られた微粉末を高温で捕集するものである(例えば、特開2001−019425号公報を参照。)。
【0020】
因みに、ガラスを主成分とする絶縁膜組成物にアルミナ粉末を添加することは、前述したように従来から知られていることであり(前記特許文献1を参照。)、また、そのような絶縁膜組成物は市販されている。しかしながら、現在までに知られているこれらの絶縁膜組成物では、添加するアルミナ粉末の物性については特に考慮されていなかった。そのため、製造コスト面で有利な安価な破砕アルミナが用いられていたことから、アスペクト比が大きいので、耐電圧、耐摩耗性、熱伝導率、および耐スクラッチ性が何れも不十分になり、或いはそのばらつきが大きくなって信頼性に欠けていたものと考えられる。
【0021】
また、回路基板の導体膜や電子部品等を保護するための絶縁膜を形成するための樹脂組成物において、アルミナ粉末をフィラーとして添加することが提案されている(前記特許文献2、3を参照。)。これらの樹脂組成物は、樹脂の熱伝導性が低いことから、これを改善する目的でアルミナ粉末を添加したものである。したがって、本願発明と同様に絶縁膜組成物にアルミナ粉末を添加するものではあるが、主成分が相違すると共にアルミナ粉末を添加する目的も全く相違する。
【0022】
また、基板と発熱抵抗体層との間に蓄熱層を有するサーマルプリントヘッドにおいて、樹脂とビッカース硬度が400以上の無機材料粒子との混合物をその蓄熱層として用いることが提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。この蓄熱層は、ガラスで形成すると熱応答性が不十分になる一方、ポリイミド等の熱応答性に優れた樹脂で形成すると耐熱性と機械的強度が不足することから、樹脂において耐熱性および機械的強度を改善することを目的としたものである。無機材料粒子としては、シリカ、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、炭化チタン、窒化チタン、窒化硼素が挙げられており、粒子径状は真球状が好ましい旨が記載されている。上記技術も、特許文献2,3と同様に絶縁膜組成物にアルミナ粉末等を添加するものではあるが、主成分が相違すると共にアルミナ粉末を添加する目的も全く相違する。
【0023】
また、前記特許文献5の混合物では、ガラスにアルミナ等の無機質粒子が混合されているが、表面平滑性を得るために著しく微細な無機微粒子を用いていることから、その取扱いが困難になっている。しかも、具体例として示されているのはガラス微粒子を金属有機物に混合したものだけで、無機質粒子としてアルミナを用いる場合にどのような粒径のものをどのようにして用いるのかは全く触れられていない。
【0024】
ここで、好適には、前記絶縁膜組成物は、前記アルミナ粉末の体積比率x(%)が35≦x≦55の範囲内である。このようにすれば、熱伝導率や硬度が一層高く且つ表面凹凸の一層小さい絶縁膜が得られる。
【0025】
また、好適には、前記絶縁膜組成物は、前記アルミナ粉末の平均粒径y(μm)が5(μm)以下である。このようにすれば、表面の凹凸が一層小さい絶縁膜が得られる。形成する絶縁膜の膜厚にも依存するが、平均粒径yが5(μm)以下であれば、定着ヒータ、サーマルプリントヘッド、回路基板の絶縁膜用途などにおいて問題となるような突起が生じ難く、しかも、耐電圧の最小値も十分に高くなる。
【0026】
なお、前記アルミナ粉末は、平均粒径の異なる2種以上が併用されてもよい。このようにすれば、大径の粒子間に小径の粒子が入ることによって、形成される絶縁膜等の表面の平滑性が向上するので、紙等で表面が擦られた際にその紙等の表面に傷が生ずることが一層抑制される。混合するアルミナ粉末は、例えば、平均粒径が0.35〜7.0(μm)の範囲内から選択することが好ましい。
【0027】
また、好適には、前記アルミナ粉末のアスペクト比は、1.1以下である。このようにすれば、アルミナ粉末が一層球形に近づくことから、焼成後の絶縁膜に突起が一層生じ難くなる。しかも、絶縁膜を形成するに際して絶縁膜組成物のペーストを調製してスクリーン印刷法を利用する場合には、一層球形に近いアルミナ粉末が用いられることからペーストの分散性が向上するので、印刷、乾燥後における膜の密度が一層高められ、焼成後に一層緻密な絶縁膜が得られる利点がある。
【0028】
なお、本発明において、絶縁膜の主成分となるガラスは特に限定されず、鉛ガラスでも無鉛ガラスでもよい。鉛ガラスとしては、例えば、PbO-SiO2-ZnO系ガラスやPbO-SiO2-B2O3系ガラス等が挙げられる。また、無鉛ガラスとしては、SiO2-B2O3-ZnO系ガラス、SiO2-B2O3-ZnO-Al2O3系ガラス、Bi2O3-B2O3系ガラス等が挙げられる。何れにおいても、上記成分に加えてアルカリ金属酸化物やアルカリ土類酸化物等を適宜含むことができる。
【0029】
また、好適には、本発明の絶縁膜組成物は、複写機等のトナー定着に用いられる定着ヒータの表面に形成された抵抗発熱体層を覆う絶縁膜を形成するためのものである。本発明の絶縁膜組成物は、前述したように低アスペクト比のアルミナ粉末が添加されることで高い耐電圧を有する絶縁膜等を得ることができるため、高電圧が印加される定着ヒータの絶縁膜に好適である。
【0030】
また、好適には、本発明の絶縁膜組成物は、サーマルプリントヘッドの保護層に用いられるものである。本発明の絶縁膜組成物は、前述したように低アスペクト比のアルミナ粉末が前記(1)式を満たす体積比率xおよび平均粒径yの範囲で含まれることから、十分に高い膜硬度を有し、熱伝導率や表面平滑性に優れた絶縁膜等を得ることができるので、硬度、熱伝導率、表面平滑性を同時に満たすことが求められるサーマルプリントヘッドの保護層等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で絶縁膜を形成した定着ヒータが備えられた定着装置の要部断面構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で絶縁膜を形成した他の定着ヒータの断面構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で絶縁膜を形成した回路基板の断面構造を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で保護層を形成したサーマルプリントヘッドが備えられたサーマルプリンタの印刷部の要部断面構成を模式的に示す図である。
【図5】低アスペクト比のアルミナ粉末を添加した本発明の一実施例の絶縁膜組成物から形成した絶縁膜の耐電圧特性を、高アスペクト比のアルミナ粉末を添加した比較例のそれと共に示す図である。
【図6】実施例、比較例共に図5に示したものとは異なるアルミナ粉末を用いた絶縁膜の耐電圧特性を示す図である。
【図7】高アスペクト比のアルミナ粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】高アスペクト比のアルミナ粉末の他の例を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】低アスペクト比のアルミナ粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】低アスペクト比のアルミナ粉末の他の例を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】スクラッチ評価「○」の表面顕微鏡写真の一例である。
【図12】スクラッチ評価「△」の表面顕微鏡写真の一例である。
【図13】スクラッチ評価「×」の表面顕微鏡写真の一例である。
【図14】サーマルプリントヘッドの保護層としての特性評価結果に基づいてアルミナ体積比率とアルミナ粒径との関係の好適な範囲をまとめた図である。
【図15】評価用サンプルの一例の表面顕微鏡写真である。
【図16】評価用サンプルの他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図17】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図18】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図19】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図20】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図21】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図22】粒径5(μm)の破砕アルミナを用いた場合の表面顕微鏡写真である。
【図23】粒径3(μm)の破砕アルミナを用いた場合の表面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0033】
図1は、本発明の一実施例の定着ヒータ10が備えられた複写機の定着装置の要部構成を模式的に示す断面図である。図1において、定着装置は、定着ヒータ10が基台12の下端部に固定されると共に、略円筒形状の定着フィルム14がその周囲に配置され、更に、それらの下方に加圧ローラ16がその軸心回りの回転可能に設けられている。
【0034】
上記の定着ヒータ10は、アルミナ等のセラミック材料から成る紙面に垂直な方向に長い平板長尺状の基材18と、その一面に適宜のパターンで設けられた抵抗発熱体層20と、その抵抗発熱体層20を覆う絶縁膜22とを備えたもので、基材18が基台12に設けられた凹部に埋め込まれた状態で固定されている。
【0035】
上記の抵抗発熱体層20は、例えばAg/Pd合金等から成るもので、トナー定着に必要な発熱量が得られるように適宜のパターン、例えば基材18の一端側から他端側に向かう直線状パターンや屈曲パターン等で設けられている。なお、基材18の長手方向の両端部には、図示しない一対の電極が前記絶縁膜22から露出した状態で設けられており、上記抵抗発熱体層20はその両端部がこれら一対の電極に接続されている。
【0036】
また、前記絶縁膜22は、例えば、SiO2-B2O3-ZnO系ガラスと、フィラーとから成るもので、例えば10〜50(μm)程度の範囲内の厚さ寸法で設けられている。上記のガラスは、例えば、ネットワーク成分であるSiO2、B2O3、ZnOを合計で73(mol%)、中間ネットワーク成分であるAl2O3を4(mol%)、修飾酸化物成分であるBaO、SrOを合計で23(mol%)の割合で含む組成を備えている。また、このガラスの軟化点は690(℃)程度、熱膨張率は67(%)程度である。
【0037】
また、上記のフィラーは、アスペクト比が1.2以下、例えば1.07程度で、平均粒径が0.8(μm)程度のアルミナ粉末から成るもので、絶縁膜22中に45(wt%)程度の割合で含まれている。このフィラーは、絶縁膜22の耐電圧を高める目的で添加されたものである。上記アルミナ粉末は、例えば、アルミニウムアルコキシドを加水分解して合成した水酸化アルミニウムを塩素ガスと共に噴射して気相成長させることによって製造したもので、このような製造方法によることから、上述したように微細でアスペクト比が小さい特徴を有している。
【0038】
また、前記の加圧ローラ16は、例えばアルミニウム製円柱24の外周面にシリコーンゴム26が固着されたもので、図示しない軸受け装置にそのアルミニウム製円柱24が回転可能に軸支されている。加圧ローラ16は、その使用状態において、定着フィルム14を介して定着ヒータ10に押圧されるようになっている。
【0039】
このように構成された定着装置において、図示しない転写装置によりトナーが転写された記録紙28等が送られてくると、定着ヒータ10と加圧ローラ16との間で定着フィルム14を介して加圧されると同時に加熱され、トナーに含まれる樹脂が溶融して、その記録紙28等にトナーが定着させられる。このとき、定着フィルム14は、加圧ローラ16の回転に伴って回転させられるので、定着ヒータ10はその表面すなわち絶縁膜22の表面が定着フィルム14で擦られることになるが、本実施例の絶縁膜22は高い耐電圧を有することから、これにより静電気が発生しても、絶縁破壊が生じ難い特徴を有している。
【0040】
すなわち、上記の絶縁膜22は、前述したようにアスペクト比が小さいアルミナ粉末を含むことから、例えば耐電圧の平均値が120(V/μm)以上と十分に高く、且つ、ばらつきも±10(%)程度と十分に小さい優れた耐電圧特性を有している。そのため、耐電圧が十分に高いことから、複写機の使用中に発生する静電気による絶縁破壊が生じ難いのである。しかも、耐電圧のばらつきが小さいことから、所望の耐電圧特性を備えた定着ヒータ10を高い歩留まりで製造できる利点もある。
【0041】
図2は、複写機に上記定着ヒータ10および定着フィルム14に代えて用いられる他の実施例の円筒状の定着ヒータ30の断面構造を模式的に示したものである。定着ヒータ30は、円筒状の基材32と、その外周面に固着された抵抗発熱体層34と、その抵抗発熱体層34を覆う絶縁膜36とを備えている。
【0042】
上記の基材32は、例えば、SiO2-B2O3-Al2O3系の硬質ガラスから成るものである。この硬質ガラスには、上記成分の他に少量のアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物などが含まれている。
【0043】
また、上記の抵抗発熱体層34は、前記抵抗発熱体層20と同様にAg/Pd合金等を用いて直線状パターンや螺旋状パターン等の適宜の形状で設けられている。また、絶縁膜36は前記絶縁膜22と同様に構成されたものである。このような形態の定着ヒータにおいても、その使用時には抵抗発熱体層34に高電圧が印加されると共に、記録紙28や加圧ローラ16等と擦れ合うことから、高い耐電圧が要求されるが、定着ヒータ10と同様に絶縁膜36が優れた耐電圧特性を有することから、耐電圧に優れた定着ヒータ30を高い歩留まりで製造できる利点がある。
【0044】
また、このように優れた耐電圧特性を有する絶縁膜22、36を構成するガラスは、上述した定着ヒータ10、30に限られず、耐電圧が高く且つ信頼性を要求される他の用途、例えば、図3に示すような厚膜ハイブリッドICその他の回路基板40の絶縁膜42にも用いられる。
【0045】
図3において、回路基板40は、アルミナ等から成る基板44の一面に導体膜46を形成すると共にICやチップ抵抗等の電子部品48を実装し、これらを絶縁膜42で覆ったものである。上記導体膜46は、例えばAgやAg/Pd等の厚膜導体材料から成るもので、電子部品48は、この導体膜46にハンダ等を用いて固着されている。このような用途においても、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして含む本実施例の絶縁膜42によれば、十分に高い耐電圧が得られるので、回路基板40の信頼性が高められる利点がある。
【0046】
図4は、絶縁膜組成物の更に他の適用例であるサーマルプリントヘッド50を備えたサーマルプリンタの印刷部の要部構成を模式的に示す断面図である。サーマルプリンタは、サーマルプリントヘッド50が図示しないフレームや筐体等に固定されると共に、その上方に加圧ローラ52がその軸心周りの自転可能に設けられている。
【0047】
上記のサーマルプリントヘッド50は、アルミナ等から成る基板54の一面に順次に積層形成された蓄熱層56と、抵抗発熱体層58と、一対の電極層60,60と、保護層62とを備えており、上記基板54において図示しないフレームや筐体に固定されている。上記の蓄熱層56は、例えばグレーズガラスから成るもので、例えば図4に示す一様な断面を以て紙面に垂直な方向に沿って伸びる帯状に設けられている。この蓄熱層56の長さ寸法は、サーマルプリンタの印刷対象となる記録紙64の幅寸法に応じて定められており、幅寸法は印刷速度や印刷精度等を考慮して定められている。
【0048】
また、前記抵抗発熱体層58は、例えば酸化ルテニウム等から成るもので、感熱記録紙の感熱色素を発色させ或いは熱転写インクリボンのインクを熔融または昇華させるために必要な発熱量が得られるように、適宜の厚さ寸法やパターンで設けられている。また、この抵抗発熱体層58は、蓄熱層56の上に設けられていることから、その蓄熱層56の上に位置する部分は突条を成している。また、前記電極層60,60は、例えばAl等の導体材料から成るもので、上記抵抗発熱体層58に図4における左右両側からそれぞれ通電できるようにそれに重ねて形成されている。電極層60,60の抵抗発熱体層58上における相互間隔は、適切な発熱量が得られるように適宜定められている。
【0049】
また、前記保護層62は、例えばガラスおよびフィラーから成るもので、10(μm)以下、例えば7〜8(μm)程度の厚さ寸法で設けられている。上記ガラスは特に限定されず、種々のものを用い得るが、例を挙げると、例えば、鉛ガラス、ビスマスガラス、亜鉛ガラスである。
【0050】
また、前記のフィラーは、アスペクト比が1.2以下、例えば1.04〜1.15程度で、平均粒径が0.35〜5(μm)程度の球状アルミナ粉末から成るもので、保護層62中に例えば25〜60(%)程度の体積比率で含まれている。このフィラーは保護層62の熱伝導率、表面平滑性、および硬度を改善する目的で添加されたものである。アルミナはガラスに比較して熱伝導率が高いことから、その添加量に応じて熱導電率が高められ、熱応答性や放熱性に優れた保護層62が得られる。このような効果は、前記図1〜図3に示す何れの用途においても同様に得られる。
【0051】
上記アルミナ粉末は、例えばアルミニウムアルコキシドを加水分解して合成した水酸化アルミニウムを塩素ガスと共に噴射して気相成長させることによって製造したもので、このような製造方法によることから、上述したように微細でアスペクト比が小さい特徴を有している。なお、アルミナ粉末は、このようなCVD法によって製造したものを用いることが特に好ましいが、例えば、ゾルゲル法等の液相法や高温溶射法によっても同様なアルミナ粉末を得ることができる。
【0052】
なお、前記加圧ローラ52は、前記加圧ローラ16と同様に、アルミニウム等から成る金属製円柱66の外周面にシリコーンゴム等から成るゴム層68が固着されたもので、図示しない軸受け装置にその金属製円柱66が紙面に垂直な軸心周りの自転可能に軸支されている。加圧ローラ52は、その使用状態において、サーマルプリントヘッド50の保護層62、特に、その突条部に押圧されるようになっており、記録紙64が例えば左方から送られてくると、サーマルプリントヘッド50と加圧ローラ52との間でその記録紙64が加圧されると同時にそのサーマルプリントヘッド50の加熱パターンに従って加熱され、感熱色素の発色やインクの熔融などによってその記録紙64に印刷が施される。
【0053】
このとき、サーマルプリントヘッド50は、保護層62の表面が記録紙64で擦られることになるが、保護層62は前述したように表面の平滑性が高いことから記録紙64傷をつけ難く、紙かすも発生し難い利点がある。また、熱伝導率が高いことから、高いエネルギー効率が得られるので、携帯用端末に組み込まれた場合においても、印字濃度を高めながら電池の持ちがよい利点もある。また、高硬度であることから、記録紙64による摩耗も生じ難いので、耐久性に優れる利点もある。
【0054】
上記のような絶縁膜22,36,42や保護層62は、例えば、ガラス粉末およびフィラーをベヒクル中に分散した厚膜絶縁ペーストすなわち絶縁膜組成物を調製し、これを抵抗発熱体層20、34、導体膜46、電極層60,60等の上にディッピングやスクリーン印刷等の適宜の塗布方法を用いて塗布し、焼成処理を施すことによって形成される。
【0055】
図5、図6は、上記のようにして形成される絶縁膜の耐電圧を、フィラーとして添加するアルミナ粉末のアスペクト比および粒径を変化させて評価した結果を示したものである。用いたアルミナ粉末の特性およびガラスとの混合比を表1,2に示す。これら表1,2において、「高アスペクト比アルミナ」が比較例、「低アスペクト比アルミナ」が実施例である。表1に示すアルミナAは、平均粒径(D50)が0.8(μm)と微細なもの、表2に示すアルミナBは、平均粒径が4(μm)前後と比較的大きなものである。粒径は何れもレーザ回折法で測定した値である。これら4種のアルミナの電子顕微鏡写真を図7〜図10に示す。なお、微粉のアルミナAを用いた厚膜絶縁ペーストのガラス:アルミナ混合比(wt%)は、55:45とし、アルミナBを用いたものは50:50とした。なお、何れのサンプルも、フィラーとして添加したアルミナ粉末のアスペクト比・粒径・混合比が異なる他は同様な条件で絶縁膜を形成した。
【0056】
【表1】
【表2】
【0057】
上記図5、図6に示す耐電圧特性は、例えば、平坦なアルミナ基板上に厚膜導体を印刷形成して下部電極を設け、その上に各厚膜絶縁ペーストを厚膜スクリーン印刷によって塗布して焼成処理を施して絶縁膜を形成した後、その絶縁膜上にCuテープを貼り付けて上部電極を形成し、試験装置によって上下電極間に交流電圧を印加して、印加電圧毎の絶縁破壊個数(累積値)を測定することにより評価した。サンプル数は各仕様とも36個である。この評価では、印加電圧を0.1(V)ずつ上昇させて、絶縁破壊が起きたときの電圧を測定値とした。上記試験装置としては、KIKUSUI社製TOS-5051を使用した。また、グラフに示した電圧は実効値である。
【0058】
図5において、平均粒径が0.8(μm)と微細なアルミナ粉末を用いた場合には、膜厚が22(μm)程度の絶縁膜を形成することができるが、低アスペクト比のアルミナを用いた実施例では2.4〜3.1(kV)程度、すなわち109〜141(V/μm)程度の耐電圧が得られる。これに対して、高アスペクト比のアルミナを用いた比較例では1.7〜2.1(kV)程度、すなわち77〜95(V/μm)程度の耐電圧に留まる。単位厚み当たりの平均値およびばらつきでみると、実施例では、平均値が120(V/μm)程度で、ばらつきが22(V/μm)程度であるのに対し、比較例では、平均値が84(V/μm)程度で、ばらつきが18(V/μm)程度になる。ばらつきは同程度であるが、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いた実施例では、高アスペクト比のフィラーを用いた比較例に比べて、最低値でも平均値でも30(V/μm)以上向上している。
【0059】
また、図6において、平均粒径が4(μm)程度の比較的大きなアルミナ粉末を用いた場合には、膜厚が33(μm)程度の絶縁膜を形成することができるが、低アスペクト比のアルミナを用いた実施例では1.3〜2.4(kV)程度、すなわち39〜73(V/μm)程度の耐電圧が得られる。これに対して、高アスペクト比のアルミナを用いた比較例では0.4〜1.5(kV)程度、すなわち12〜45(V/μm)程度の耐電圧に留まる。単位厚み当たりの平均値およびばらつきでみると、実施例では、平均値が62(V/μm)程度で、ばらつきが34(V/μm)程度であるのに対し、比較例では、平均値が27(V/μm)程度で、ばらつきが33(V/μm)程度になる。ばらつきは同程度であるが、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いた実施例では、高アスペクト比のフィラーを用いた比較例に比べて、最低値でも平均値でも30(V/μm)前後向上している。
【0060】
上記の高アスペクト比アルミナBは、一般に用いられている破砕アルミナで、高アスペクト比アルミナAは、例えばこれを更に粉砕したものであるが、何れもアスペクト比が2前後と大きくなっている。これに対して、低アスペクト比アルミナA,Bは、アスペクト比が1程度と小さい。上記の評価結果によれば、高アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いる場合に比較して、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いれば、耐電圧が著しく向上することが明らかである。
【0061】
なお、上記表1,表2に記載した平均アスペクト比は、電子顕微鏡写真で適当な個数、例えば1視野当たり10個程度の粒子を任意に選んで長軸寸法および短軸寸法を測定し、各粒子のアスペクト比(長軸寸法/短軸寸法)を測定して平均値を算出したものである。高アスペクト比アルミナAはアスペクト比が例えば1.38〜2.25の範囲でばらつき、平均値は1.75であった。また、高アスペクト比アルミナBはアスペクト比が1.21〜3.33の範囲でばらつき、平均値は2.31であった。また、低アスペクト比アルミナAはアスペクト比が1.00〜1.13の範囲でばらつき、平均値は1.07であった。また、低アスペクト比アルミナBはアスペクト比が1.00〜1.08の範囲でばらつき、平均値は1.04であった。高アスペクト比アルミナは、アスペクト比の平均値が大きいだけでなく、ばらつきも著しく大きい。
【0062】
上述した評価結果によれば、本実施例のガラスを主成分とする厚膜絶縁ペーストには、CVDにより製造されたアスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末が含まれていることから、その厚膜絶縁ペーストから形成される絶縁膜の耐電圧が高められることが明らかである。
【0063】
特に、本実施例においては、低アスペクト比のアルミナA,Bは共にアスペクト比が1.1以下であって一層球形に近いことから、絶縁膜に突起が生じにくくなると共に、前記厚膜絶縁ペーストを調製するに際して高い分散性が得られるので、印刷、乾燥時に膜の密度が高められ、焼成後に一層緻密な絶縁膜が得られる利点もある。
【0064】
下記の表3は、前記保護層62を形成するための厚膜絶縁ペーストとしての適否を判断するために、アルミナ粉末の含有量と粒径とを種々変更して、形成した保護層62の緻密性およびスクラッチ性を評価した結果をまとめたものである。緻密性は、形成したガラス膜の表面および断面を電子顕微鏡で観察して、ガラスの連続性に基づいて判断した。ガラスの連続性が保たれているものを「○」(=緻密性高い)、空隙が認められるが保護層62として使用可能な程度の緻密性を有するものを「△」、ガラスの連続性が保たれていないものすなわち独立した粒子の存在が認められるものを「×」(=緻密性低い)の評価とした。また、スクラッチ性は、ガラス膜表面を#180の研磨紙で擦って傷の生じ易さやアルミナ粒子の脱落し易さに基づいて判断した。浅い傷が僅かに生ずる程度のものを「○」、傷が容易に入るものやアルミナ粒子が簡単に脱落するものを「×」、これらの中間を「△」とした。なお、これらの評価は、全て焼成処理を施したままの面(すなわちアズファイヤ)で行った。スクラッチ性の評価基準の参考に図11〜図13に「○」、「△」、「×」の表面顕微鏡写真をそれぞれ示す。
【0065】
【表3】
【0066】
上記の評価結果によれば、緻密性は、アルミナ粉末の添加量が9.5(vol%)の場合には、評価した全ての平均粒径の場合に十分な結果が得られ、25〜45(vol%)の添加量では0.5(μm)以上の平均粒径で十分な結果が得られた。50(vol%)の添加量では0.5(μm)以上の平均粒径で使用可能な程度の緻密性が得られ、0.7(μm)以上の平均粒径で十分な緻密性が得られた。55(vol%)の添加量では、1.5(μm)以上の平均粒径で使用可能な程度の緻密性が得られ、3(μm)以上の平均粒径で十分な緻密性が得られた。57(vol%)の添加量では、5(μm)の平均粒径で十分な緻密性が得られ、3(μm)以上の平均粒径で使用可能な程度の緻密性が得られた。60(vol%)の添加量では使用可能な程度の緻密性を得ることができなかった。
【0067】
また、スクラッチ性については、アルミナ粉末が9.5(vol%)では全ての粒径においてスクラッチ性が不足し、アルミナ粉末の添加効果が現れていないが、25(vol%)の添加量になると、0.5(μm)以上の粒径のものでは使用可能な程度のスクラッチ性が得られる。添加量が35(vol%)になると、0.5(μm)以上の粒径で十分なスクラッチ性が得られる。50(vol%)の添加量では、0.5(μm)以上の粒径で使用可能な程度のスクラッチ性が得られ、0.7(μm)以上の粒径で十分なスクラッチ性が得られる。また、55(vol%)の添加量では、0.7(μm)以上の粒径で十分なスクラッチ性が得られる。57(vol%)の添加量では、3(μm)以上の粒径で使用可能な程度のスクラッチ性が得られる。60(vol%)の添加量では十分なスクラッチ性を得ることができなかった。すなわち、添加量が多くなると小さい平均粒径におけるスクラッチ性の低下傾向が認められ、60(vol%)以上の添加量では良好なスクラッチ性を得ることができない。
【0068】
図14は、上記の評価結果に基づき、緻密性およびスクラッチ性の何れか両方が「○」のものを「○」、少なくとも一方が「△」のものを「△」、少なくとも一方が「×」のものを「×」として、好適な範囲を示した図である。アルミナ体積比率が25(vol%)且つアルミナ粒径が7(μm)以下で使用可能であり、体積比率の上限および粒径の下限は図の曲線で示される。図の3本の直線および曲線で囲まれた範囲が良好な緻密性およびスクラッチ性が得られる範囲であり、線上は良否の境界上すなわち十分ではないが使用可能な条件である。曲線の式は前記(1)式である。
【0069】
上記表3および図14に示されるデータのうち、例えば、アルミナ体積比率が45(%)、アルミナ平均粒径が1.5(μm)の場合のガラス膜の表面の顕微鏡写真を図15に示す。このような体積比率、平均粒径の条件でも極めて緻密なガラス膜が得られることが認められる。写真は省略するが、平均粒径が異なる場合も0.5(μm)〜3(μm)のものでは概ね同様な結果であり、体積比率が25(%)の場合も同様な結果であった。体積比率45(%)、平均粒径0.3(μm)では、図16に示されるように、膜表面に空隙が目立ち、緻密性、スクラッチ性ともに不十分になる。この体積比率では、0.5(μm)よりも粒径が小さくなると、急激に緻密性が損なわれる。体積比率が50(%)の場合には、平均粒径が0.7(μm)以上であれば図17に示されるように十分な緻密性が得られるが、0.5(μm)では図18に示されるように使用可能ではあるがやや劣る結果となる。
【0070】
また、体積比率が55(%)になると、平均粒径が5(μm)のものでは図19に示されるように凹凸が目立つものの十分な緻密性を備えている。しかし、この程度の体積比率になると、前述したように平均粒径が小さいと緻密性が損なわれる傾向にあり、例えば、図20に示されるように55(%)−0.7(μm)のサンプルでは、緻密性の点において不適の結果となる。また、60(%)以上になると、3(μm)のサンプルの写真を図21に示すように、粒子の独立性が高くなり緻密性が失われる。
【0071】
なお、上記の表3および図14等には示されていないが、アルミナの平均粒径が7(μm)以上になると、保護層62が薄い膜厚ではその表面の凹凸が大きくなり、膜厚を厚くすると熱効率が劣るため、アルミナ粉末を添加する効果が損なわれる。また、7(μm)以上の球状粒子は高コストになるため、利用価値も低い。保護層62の厚さ寸法は、熱効率面では薄い方が好ましく、10(μm)以下にする必要があり、通常は7〜8(μm)程度である。アルミナの平均粒径が5(μm)以上の場合には、粒度分布を考えると7〜8(μm)程度の粒子も含まれるので、膜厚10(μm)以下にすることが困難である。したがって、アルミナの平均粒径は5(μm)以下が一層好ましい。
【0072】
また、上述したように保護層62に添加するアルミナ粉末は、平均粒径が0.35〜7(μm)の範囲のものを用い得るが、何れの粒径のものを用いるかは、サーマルプリントヘッド50の用途に応じて定めることもできる。例えば、スーパーマーケットのレジスタ用など、耐久性が重視される用途では、耐摩耗性が高くアルミナ粒子が脱落しにくい粗い粒子を用いることが好ましい。一方、医療用など、印刷の精細度が重視される用途では、耐久性が若干犠牲になるが、細かい粒子を用いることが好ましい。
【0073】
なお、前記表3に示されるように、CVD法により製造した球状粒子を用いた実施例では、アルミナ体積比率と平均粒径との関係を適宜選択することによって緻密性およびスクラッチ性に優れた保護層62を得ることができるが、破砕アルミナを用いると、緻密性はある程度得られるものの、スクラッチ性が劣るため、保護層62に用いることができない。破砕アルミナを用いた場合の平均粒径5(μm)、3(μm)のそれぞれについて体積比率55(%)のガラス膜の表面顕微鏡写真を図22、図23に示す。破砕アルミナを用いた場合には、特に高含有率における緻密性低下が顕著である。このような結果になるのは、破砕アルミナではアスペクト比が著しく大きいことも影響しているものと考えられる。しかも、破砕アルミナを用いて保護層62を形成すると、アルミナ粒子のエッジによって記録紙64に傷がつく問題もある。
【0074】
以上、説明したように、本実施例によれば、ガラスを主成分とする厚膜絶縁ペーストには、アルミナ粉末が含まれているため、複写機の定着ヒータ10の絶縁膜22やサーマルプリントヘッド50の保護層62に好適で、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く、且つ熱伝導率や耐電圧が高い絶縁膜等を得ることができる。このとき、アルミナ粉末のアスペクト比が1.2以下と小さく球形に近いことから、膜形成時に高い充填密度が容易に得られるので、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度等の改善効果が一層高められる。また、アルミナ粉末の体積比率が25(%)以上と十分に大きいことから、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度や熱伝導率等の改善効果が一層高められ、体積比率が60(%)未満に留められていることから、強固な絶縁膜等を得ることができる。また、アルミナ粉末の平均粒径が前記(1)式を満たし、0.35(μm)以上であることから、形成した絶縁膜等からアルミナ粒子が脱落することが十分に抑制され延いては一層高い耐スクラッチ性が得られる。また、平均粒径が7(μm)以下に留められていることから、形成する絶縁膜等の膜厚を例えば10(μm)以下と十分に薄くしても膜表面の凹凸が十分に小さくなり、焼成しただけでも十分に高い平滑性を有する絶縁膜等を得ることができる。
【0075】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0076】
10 定着ヒータ、12 基台、14 定着フィルム、16 加圧ローラ、18 基材、20 抵抗発熱体層、22 絶縁膜、24 アルミニウム製円柱、26 シリコーンゴム、28 記録紙、30 定着ヒータ、32 基材、34 抵抗発熱体層、36 絶縁膜、40 回路基板、42 絶縁膜、44 基板、46 導体膜、48 電子部品、50 サーマルプリントヘッド、52 加圧ローラ、54 基板、56 蓄熱層、58 抵抗発熱体層、60,60 電極層、62 保護層、64 記録紙、66 金属製円柱、68 ゴム層
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に備えられる電極や抵抗発熱体等を保護する等の目的で設けられる絶縁膜、特に複写機の定着ヒータの絶縁膜やサーマルプリントヘッドの発熱体を覆う保護層等の形成に好適な絶縁膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トナー画像を紙等の被印刷物に転写して定着する形式の複写機では、その定着装置においてその被印刷物が加熱されつつ加圧されることによって、転写されたトナーが溶融させられてその紙等に定着させられる。定着装置には、その被印刷物を加熱するための定着ヒータと、その被印刷物を定着ヒータに向かって加圧しつつ一方向に送るための加圧ローラとが備えられている。このような定着装置の一形式として、定着ヒータを平板長尺状に形成すると共に、加圧ローラとの間にその回転に伴って回転させられる耐熱樹脂製の定着フィルムを設けて、定着装置を小型化すると共にその熱容量を低下させたものがある。
【0003】
上記の定着ヒータは、例えば、ガラスやセラミックス等から成る平板状の基板の表面に、印刷或いは転写等の適宜の方法でAg/Pd合金等から成る抵抗発熱体層を設けたものである。この抵抗発熱体層は、例えばその両端部においてAg等から成る電極端子に接続されると共に、その表面がガラスを主成分とする絶縁膜で覆われている。このような絶縁膜は、平板状の定着ヒータに限られず、円筒状の絶縁性基材の外周面に抵抗発熱体層を設けた定着ローラにも設けられている。
【0004】
また、サーマルプリンタでは、その印字部において、記録紙を一方向に送りつつ加熱することにより、その記録紙上に画像を形成する。感熱記録紙を用いる形式のものでは、加熱されることによって感熱記録紙に設けられた感熱層中の感熱色素が発色させられて画像が形成される。また、熱転写インクリボンを用いる形式のものでは、加熱することにより溶融し或いは昇華したインクが記録紙に転写させられて画像が形成される。この場合は記録紙に普通紙が用いられる。上記印字部には、感熱記録紙や熱転写インクリボンを加熱するためのサーマルプリントヘッドと、記録紙をそのサーマルプリントヘッドに向かって押圧しつつ一方向に送るための加圧ローラとが備えられている。このサーマルプリントヘッドは、例えば、セラミック基板の一面に蓄熱層を介して設けられたライン状の抵抗発熱体を保護層で覆った基本構造を備えている。
【0005】
また、上述したような絶縁膜或いは保護層は、例えば回路基板においても、その表面に設けられた電極等の導体膜や電子部品等を保護する目的で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−338543号公報
【特許文献2】特開平11−147711号公報
【特許文献3】特開2001−226117号公報
【特許文献4】特開平10−193659号公報
【特許文献5】特開平04−073163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような定着ヒータの絶縁膜や、サーマルプリントヘッドの保護層には、発生した熱が被印刷物に効率よく伝達されるように熱伝導率が高いこと、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く被印刷物に擦られても摩耗し難く傷も付きにくいこと、等が求められる。また、定着ヒータの絶縁膜においては、更に、高い信頼性を得るために、耐電圧が可及的に高く絶縁破壊が容易に起きないことも求められる。また、回路基板の絶縁膜にも、電子部品から発生した熱を容易に放熱させ、或いは絶縁破壊によって保護機能が失われることを避けるべく、熱伝導率や耐電圧が可及的に高いことが望まれている。
【0008】
例えば、スーパーマーケットのレジスタや携帯型の感熱式プリンタでは、薄膜式のサーマルプリントヘッドが主流であるが、薄膜式では保護層をスパッタで形成することが一般に行われていた。ガラスペーストで保護層を形成すると、熱伝導性、耐摩耗性、耐スクラッチ性が不足するためである。しかしながら、スパッタ法を利用すると製造コストが増大するため、ガラスペーストでこれらの特性を改善することが望まれている。また、携帯型プリンタでは、特に電池(充電池を含む)の持ちのよいことが望まれるが、保護層の熱伝導率が低いと印字濃度等の品質と電池の持ちを両立させることが困難になる。
【0009】
上述したような要求に対して、ガラス粉末の5〜45(wt%)をアルミナ粉末に置き換えることによって耐電圧を高めた定着ヒータや厚膜抵抗体のカバーコートに用いるガラスペーストが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。900(℃)以下の比較的低い焼成温度で緻密な膜を形成し得る低軟化点ガラスを用いると耐電圧が低くなる傾向に対し、上記のガラスペーストは膜厚を厚くすることなく耐電圧を高めることを目的とする。しかしながら、上記ガラスペーストから生成される絶縁膜は、耐電圧が未だ低く、一層の向上が望まれていた。
【0010】
また、薄膜トランジスタやサーマルプリントヘッド等の各種電子部品の表面に滑らかな耐摩耗性のオーバーコート層(すなわち保護層)を形成するに際して、平均粒径が0.1(μm)以下の球状の無機質粒子を焼成時にガラスを形成する金属有機物に混合することが提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。この保護層形成技術は、スパッタリング等の高価な薄膜技術を用いることなく保護層に要求される耐摩耗性および平滑性を満足させようとするものである。しかしながら、上記のような混合物を用いた保護層は、未だ十分な耐摩耗性を有するものではなく、一層の改善が求められていた。
【0011】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、耐電圧、耐摩耗性、熱伝導率、および耐スクラッチ性が一層高い絶縁膜や保護層(以下、絶縁膜等という)を形成し得る絶縁膜組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、所定の基材の表面に絶縁膜を形成するために用いられるガラスを主成分とする絶縁膜組成物であって、アスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末を絶縁膜組成物全体に占める体積比率x(%)と平均粒径y(μm)が以下の関係式(1)を満たす範囲で含むことにある。
0.09exp(9.8/(60−x))+0.24≦y≦7
(但し、25≦x<60) ・・・(1)
【発明の効果】
【0013】
このようにすれば、ガラスを主成分とする絶縁膜組成物には、アルミナ粉末が含まれているため、その絶縁膜組成物は複写機の定着ヒータの絶縁膜やサーマルプリントヘッドの保護層に好適で、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く、且つ熱伝導率や耐電圧が高い絶縁膜等を得ることができる。このとき、アルミナ粉末のアスペクト比が1.2以下と小さく球形に近いことから、膜形成時に高い充填密度が容易に得られるので、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度等の改善効果が一層高められる。また、アルミナ粉末の体積比率xが25(%)以上と十分に大きいことから、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度や熱伝導率等の改善効果が一層高められ、体積比率xが60(%)未満に留められていることから、強固な絶縁膜等を得ることができる。また、アルミナ粉末の平均粒径yが前記(1)式を満たし、0.09exp(9.8/(60−x))+0.24(μm)以上、すなわち0.35(μm)以上であることから、形成した絶縁膜等からアルミナ粒子が脱落することが十分に抑制され延いては一層高い耐スクラッチ性が得られる。また、平均粒径yが7(μm)以下に留められていることから、形成する絶縁膜等の膜厚を例えば10(μm)以下と十分に薄くしても膜表面の凹凸が十分に小さくなり、焼成しただけでも十分に高い平滑性を有する絶縁膜等を得ることができる。
【0014】
なお、本願において「アスペクト比」は、粒子の長径/短径比で、球形に近いほど値が1に近くなる。アスペクト比が小さいほど球形に近づき充填密度が高められるので、アルミナ粉末の添加効果が一層高められる。例えば、アスペクト比が小さいほど形成される絶縁膜等の耐電圧が高く且つばらつきも小さくなる。アスペクト比が小さくなるほど形成する絶縁膜の表面の突起が小さくなり或いは生じ難くなるので、膜表面の平滑性が向上するが、このことが耐電圧の向上にも寄与しているものと思われる。また、アスペクト比が小さくなるほど、塗布・乾燥後の膜中における粒子の充填性が向上するため、形成される絶縁膜等において膜相互或いは膜内の特性のバラツキが抑制される利点もある。また、本願において「平均粒径」は、アルミナ粉末の電子顕微鏡(SEM)写真を用いて実測した平均値である。具体的には、例えば、電子顕微鏡にて10000倍若しくは5000倍で任意に2視野を撮影し、その写真全体の粒子から平均的な大きさと思われる粒子を目視で5個選び、その粒子の直径を実測してこれをその粒子の粒径とし、2視野5個ずつで合計10個の粒子の平均を平均粒径とする。
【0015】
上述したように、アスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末を混合することで形成される絶縁膜等の硬度・熱伝導率・耐電圧は十分に改善される。したがって、この条件を満たせば、アルミナ粉末の体積比率xや平均粒径yは特に限定されないが、それら体積比率xおよび平均粒径yを制御することにより、上記の各特性が一層向上させられる。
【0016】
まず、体積比率xは、25〜60(%)の範囲内とすることが好ましい。アルミナ粉末を添加した効果すなわち前述した各特性の改善効果を十分に得るためには、体積比率xが十分に大きいことが好ましく、25(%)以上であることが好ましい。形成した絶縁膜等が紙等で擦られることによってその絶縁膜等内のガラスが削られると、アルミナ粒子が露出させられる。体積比率xが十分に大きくされていれば、露出したアルミナ粒子による絶縁膜等の摩耗抑制効果が十分に得られるので、耐摩耗性や耐スクラッチ性が一層向上する。すなわち、サーマルプリンタ等の装置寿命も向上する。また、アルミナ粉末の熱伝導率はガラスに比較して高いので、熱伝導率の改善効果も高くなる。熱伝導率が十分に高くなることにより、十分に高い応答性が得られる。応答性が高くなれば、プリンタの起動が早くなると共に印字速度も高くなり、電気の無駄が少なくなるので省エネにもなる利点がある。また、耐スクラッチ性が一層向上させられることにより、絶縁膜等に傷が付きにくくなり、その傷による印字不良も抑制される。一方、アルミナ粉末が多くなるほど結着剤であるガラスが相対的に少なくなって形成される絶縁膜等が脆くなり、また、粒子相互間の隙間も増大して緻密性も低下するので、絶縁膜等の緻密性を十分に高くし且つ表面の平滑性を十分に高くする(すなわち十分な滑らかさを得る)と共に十分な膜強度を得るためには、体積比率xが十分に小さいことが好ましく、60(%)未満であることが好ましい。体積比率xが過大になると緻密性が急に失われ、特に60(%)以上になると、形成される絶縁膜等の表面の凹凸が著しく大きくなって実用性に劣る。上記体積比率xの範囲は、重量百分率で概ね30〜65(%)に相当する。
【0017】
また、前記(1)式によれば、体積比率xが下限値25(%)の場合に、平均粒径yは下限値0.35(μm)になる。したがって、平均粒径yは、0.35≦y≦7(μm)の範囲内の値であることが好ましい。前記各特性の改善効果を十分に得るためには、平均粒径yが十分に大きいことが好ましく、0.37(μm)以上であることが一層好ましい。平均粒径が十分に大きくされることにより、上述したようにガラスが削られてアルミナ粒子が露出させられた場合において、そのアルミナ粒子が脱落し難くなるので耐摩耗性や耐スクラッチ性が十分に高められる。しかも、アルミナ粉末の凝集が抑制されて高い分散性が得られる。一方、平均粒径yが大きくなるほど形成される絶縁膜等の表面の凹凸が生じ易くなると共に、相対的にガラス量が少なくなることに起因して膜強度が低下するので、平均粒径yは十分に小さいことが好ましく、7(μm)以下であることが好ましい。
【0018】
また、添加されるアルミナ粉末は、前記(1)式を満たすことが好ましいが、この(1)式においては、体積比率xが大きくなるほど平均粒径yの下限値が大きくなる。すなわち、体積比率xが小さい領域では微細な平均粒径yのアルミナ粉末も用い得るが、体積比率xが大きい領域では大きい平均粒径yのアルミナ粉末を用いることが必要になる。例えば、体積比率xが55(%)程度以下の領域では、平均粒径yが1.5(μm)程度のアルミナ粉末も用い得るが、これを越えると用い得るアルミナ粉末の平均粒径yが急激に大きくなる。前述したように平均粒径yが小さいほどアルミナ粒子が脱落し易いが、体積比率xが小さい場合には脱落しても絶縁膜の物性の変化が小さいためであると考えられる。
【0019】
また、前記アルミナ粉末の製造方法は特に限定されないが、CVD等の気相法、ゾルゲル法等の液相法すなわち湿式法、または高温溶射法が好ましい。これらの製造方法によれば、粒径のばらつきが小さく、アスペクト比の小さい球形に近い微細なアルミナ粉末が容易に得られる。しかも、これらの方法によって製造されたアルミナ粉末は粒子表面が滑らかであることから、印刷用紙に傷が付きにくく印刷品質が一層高められる利点もある。なお、アルミナ粉末の製造方法としては、適宜の方法で合成した後に所望の大きさに破砕する方法もよく知られるが、このような破砕アルミナはアスペクト比が大きいことから、高い充填密度を得るのが困難で生成される膜も多孔質になり易い上に、粒子表面に鋭利なエッジが存在するので、上記気相法等により得られたアルミナ粉末が好ましい。上記CVD法は、例えば、アルミニウムアルコキシドを加水分解して合成した水酸化アルミニウムを塩素等のハロゲンガスと共に噴射して気相成長させることでアルミナ粉末を得るものである。また、上記高温溶射法は、例えばバイヤー法で得られたアルミナ粉末を高温火炎中に溶射し、或いは、水酸化アルミニウム粉末またはそのスラリーを火炎中に噴霧し、得られた微粉末を高温で捕集するものである(例えば、特開2001−019425号公報を参照。)。
【0020】
因みに、ガラスを主成分とする絶縁膜組成物にアルミナ粉末を添加することは、前述したように従来から知られていることであり(前記特許文献1を参照。)、また、そのような絶縁膜組成物は市販されている。しかしながら、現在までに知られているこれらの絶縁膜組成物では、添加するアルミナ粉末の物性については特に考慮されていなかった。そのため、製造コスト面で有利な安価な破砕アルミナが用いられていたことから、アスペクト比が大きいので、耐電圧、耐摩耗性、熱伝導率、および耐スクラッチ性が何れも不十分になり、或いはそのばらつきが大きくなって信頼性に欠けていたものと考えられる。
【0021】
また、回路基板の導体膜や電子部品等を保護するための絶縁膜を形成するための樹脂組成物において、アルミナ粉末をフィラーとして添加することが提案されている(前記特許文献2、3を参照。)。これらの樹脂組成物は、樹脂の熱伝導性が低いことから、これを改善する目的でアルミナ粉末を添加したものである。したがって、本願発明と同様に絶縁膜組成物にアルミナ粉末を添加するものではあるが、主成分が相違すると共にアルミナ粉末を添加する目的も全く相違する。
【0022】
また、基板と発熱抵抗体層との間に蓄熱層を有するサーマルプリントヘッドにおいて、樹脂とビッカース硬度が400以上の無機材料粒子との混合物をその蓄熱層として用いることが提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。この蓄熱層は、ガラスで形成すると熱応答性が不十分になる一方、ポリイミド等の熱応答性に優れた樹脂で形成すると耐熱性と機械的強度が不足することから、樹脂において耐熱性および機械的強度を改善することを目的としたものである。無機材料粒子としては、シリカ、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、炭化チタン、窒化チタン、窒化硼素が挙げられており、粒子径状は真球状が好ましい旨が記載されている。上記技術も、特許文献2,3と同様に絶縁膜組成物にアルミナ粉末等を添加するものではあるが、主成分が相違すると共にアルミナ粉末を添加する目的も全く相違する。
【0023】
また、前記特許文献5の混合物では、ガラスにアルミナ等の無機質粒子が混合されているが、表面平滑性を得るために著しく微細な無機微粒子を用いていることから、その取扱いが困難になっている。しかも、具体例として示されているのはガラス微粒子を金属有機物に混合したものだけで、無機質粒子としてアルミナを用いる場合にどのような粒径のものをどのようにして用いるのかは全く触れられていない。
【0024】
ここで、好適には、前記絶縁膜組成物は、前記アルミナ粉末の体積比率x(%)が35≦x≦55の範囲内である。このようにすれば、熱伝導率や硬度が一層高く且つ表面凹凸の一層小さい絶縁膜が得られる。
【0025】
また、好適には、前記絶縁膜組成物は、前記アルミナ粉末の平均粒径y(μm)が5(μm)以下である。このようにすれば、表面の凹凸が一層小さい絶縁膜が得られる。形成する絶縁膜の膜厚にも依存するが、平均粒径yが5(μm)以下であれば、定着ヒータ、サーマルプリントヘッド、回路基板の絶縁膜用途などにおいて問題となるような突起が生じ難く、しかも、耐電圧の最小値も十分に高くなる。
【0026】
なお、前記アルミナ粉末は、平均粒径の異なる2種以上が併用されてもよい。このようにすれば、大径の粒子間に小径の粒子が入ることによって、形成される絶縁膜等の表面の平滑性が向上するので、紙等で表面が擦られた際にその紙等の表面に傷が生ずることが一層抑制される。混合するアルミナ粉末は、例えば、平均粒径が0.35〜7.0(μm)の範囲内から選択することが好ましい。
【0027】
また、好適には、前記アルミナ粉末のアスペクト比は、1.1以下である。このようにすれば、アルミナ粉末が一層球形に近づくことから、焼成後の絶縁膜に突起が一層生じ難くなる。しかも、絶縁膜を形成するに際して絶縁膜組成物のペーストを調製してスクリーン印刷法を利用する場合には、一層球形に近いアルミナ粉末が用いられることからペーストの分散性が向上するので、印刷、乾燥後における膜の密度が一層高められ、焼成後に一層緻密な絶縁膜が得られる利点がある。
【0028】
なお、本発明において、絶縁膜の主成分となるガラスは特に限定されず、鉛ガラスでも無鉛ガラスでもよい。鉛ガラスとしては、例えば、PbO-SiO2-ZnO系ガラスやPbO-SiO2-B2O3系ガラス等が挙げられる。また、無鉛ガラスとしては、SiO2-B2O3-ZnO系ガラス、SiO2-B2O3-ZnO-Al2O3系ガラス、Bi2O3-B2O3系ガラス等が挙げられる。何れにおいても、上記成分に加えてアルカリ金属酸化物やアルカリ土類酸化物等を適宜含むことができる。
【0029】
また、好適には、本発明の絶縁膜組成物は、複写機等のトナー定着に用いられる定着ヒータの表面に形成された抵抗発熱体層を覆う絶縁膜を形成するためのものである。本発明の絶縁膜組成物は、前述したように低アスペクト比のアルミナ粉末が添加されることで高い耐電圧を有する絶縁膜等を得ることができるため、高電圧が印加される定着ヒータの絶縁膜に好適である。
【0030】
また、好適には、本発明の絶縁膜組成物は、サーマルプリントヘッドの保護層に用いられるものである。本発明の絶縁膜組成物は、前述したように低アスペクト比のアルミナ粉末が前記(1)式を満たす体積比率xおよび平均粒径yの範囲で含まれることから、十分に高い膜硬度を有し、熱伝導率や表面平滑性に優れた絶縁膜等を得ることができるので、硬度、熱伝導率、表面平滑性を同時に満たすことが求められるサーマルプリントヘッドの保護層等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で絶縁膜を形成した定着ヒータが備えられた定着装置の要部断面構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で絶縁膜を形成した他の定着ヒータの断面構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で絶縁膜を形成した回路基板の断面構造を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施例の絶縁膜組成物で保護層を形成したサーマルプリントヘッドが備えられたサーマルプリンタの印刷部の要部断面構成を模式的に示す図である。
【図5】低アスペクト比のアルミナ粉末を添加した本発明の一実施例の絶縁膜組成物から形成した絶縁膜の耐電圧特性を、高アスペクト比のアルミナ粉末を添加した比較例のそれと共に示す図である。
【図6】実施例、比較例共に図5に示したものとは異なるアルミナ粉末を用いた絶縁膜の耐電圧特性を示す図である。
【図7】高アスペクト比のアルミナ粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】高アスペクト比のアルミナ粉末の他の例を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】低アスペクト比のアルミナ粉末の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】低アスペクト比のアルミナ粉末の他の例を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】スクラッチ評価「○」の表面顕微鏡写真の一例である。
【図12】スクラッチ評価「△」の表面顕微鏡写真の一例である。
【図13】スクラッチ評価「×」の表面顕微鏡写真の一例である。
【図14】サーマルプリントヘッドの保護層としての特性評価結果に基づいてアルミナ体積比率とアルミナ粒径との関係の好適な範囲をまとめた図である。
【図15】評価用サンプルの一例の表面顕微鏡写真である。
【図16】評価用サンプルの他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図17】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図18】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図19】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図20】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図21】評価用サンプルの更に他の一例の表面顕微鏡写真である。
【図22】粒径5(μm)の破砕アルミナを用いた場合の表面顕微鏡写真である。
【図23】粒径3(μm)の破砕アルミナを用いた場合の表面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0033】
図1は、本発明の一実施例の定着ヒータ10が備えられた複写機の定着装置の要部構成を模式的に示す断面図である。図1において、定着装置は、定着ヒータ10が基台12の下端部に固定されると共に、略円筒形状の定着フィルム14がその周囲に配置され、更に、それらの下方に加圧ローラ16がその軸心回りの回転可能に設けられている。
【0034】
上記の定着ヒータ10は、アルミナ等のセラミック材料から成る紙面に垂直な方向に長い平板長尺状の基材18と、その一面に適宜のパターンで設けられた抵抗発熱体層20と、その抵抗発熱体層20を覆う絶縁膜22とを備えたもので、基材18が基台12に設けられた凹部に埋め込まれた状態で固定されている。
【0035】
上記の抵抗発熱体層20は、例えばAg/Pd合金等から成るもので、トナー定着に必要な発熱量が得られるように適宜のパターン、例えば基材18の一端側から他端側に向かう直線状パターンや屈曲パターン等で設けられている。なお、基材18の長手方向の両端部には、図示しない一対の電極が前記絶縁膜22から露出した状態で設けられており、上記抵抗発熱体層20はその両端部がこれら一対の電極に接続されている。
【0036】
また、前記絶縁膜22は、例えば、SiO2-B2O3-ZnO系ガラスと、フィラーとから成るもので、例えば10〜50(μm)程度の範囲内の厚さ寸法で設けられている。上記のガラスは、例えば、ネットワーク成分であるSiO2、B2O3、ZnOを合計で73(mol%)、中間ネットワーク成分であるAl2O3を4(mol%)、修飾酸化物成分であるBaO、SrOを合計で23(mol%)の割合で含む組成を備えている。また、このガラスの軟化点は690(℃)程度、熱膨張率は67(%)程度である。
【0037】
また、上記のフィラーは、アスペクト比が1.2以下、例えば1.07程度で、平均粒径が0.8(μm)程度のアルミナ粉末から成るもので、絶縁膜22中に45(wt%)程度の割合で含まれている。このフィラーは、絶縁膜22の耐電圧を高める目的で添加されたものである。上記アルミナ粉末は、例えば、アルミニウムアルコキシドを加水分解して合成した水酸化アルミニウムを塩素ガスと共に噴射して気相成長させることによって製造したもので、このような製造方法によることから、上述したように微細でアスペクト比が小さい特徴を有している。
【0038】
また、前記の加圧ローラ16は、例えばアルミニウム製円柱24の外周面にシリコーンゴム26が固着されたもので、図示しない軸受け装置にそのアルミニウム製円柱24が回転可能に軸支されている。加圧ローラ16は、その使用状態において、定着フィルム14を介して定着ヒータ10に押圧されるようになっている。
【0039】
このように構成された定着装置において、図示しない転写装置によりトナーが転写された記録紙28等が送られてくると、定着ヒータ10と加圧ローラ16との間で定着フィルム14を介して加圧されると同時に加熱され、トナーに含まれる樹脂が溶融して、その記録紙28等にトナーが定着させられる。このとき、定着フィルム14は、加圧ローラ16の回転に伴って回転させられるので、定着ヒータ10はその表面すなわち絶縁膜22の表面が定着フィルム14で擦られることになるが、本実施例の絶縁膜22は高い耐電圧を有することから、これにより静電気が発生しても、絶縁破壊が生じ難い特徴を有している。
【0040】
すなわち、上記の絶縁膜22は、前述したようにアスペクト比が小さいアルミナ粉末を含むことから、例えば耐電圧の平均値が120(V/μm)以上と十分に高く、且つ、ばらつきも±10(%)程度と十分に小さい優れた耐電圧特性を有している。そのため、耐電圧が十分に高いことから、複写機の使用中に発生する静電気による絶縁破壊が生じ難いのである。しかも、耐電圧のばらつきが小さいことから、所望の耐電圧特性を備えた定着ヒータ10を高い歩留まりで製造できる利点もある。
【0041】
図2は、複写機に上記定着ヒータ10および定着フィルム14に代えて用いられる他の実施例の円筒状の定着ヒータ30の断面構造を模式的に示したものである。定着ヒータ30は、円筒状の基材32と、その外周面に固着された抵抗発熱体層34と、その抵抗発熱体層34を覆う絶縁膜36とを備えている。
【0042】
上記の基材32は、例えば、SiO2-B2O3-Al2O3系の硬質ガラスから成るものである。この硬質ガラスには、上記成分の他に少量のアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物などが含まれている。
【0043】
また、上記の抵抗発熱体層34は、前記抵抗発熱体層20と同様にAg/Pd合金等を用いて直線状パターンや螺旋状パターン等の適宜の形状で設けられている。また、絶縁膜36は前記絶縁膜22と同様に構成されたものである。このような形態の定着ヒータにおいても、その使用時には抵抗発熱体層34に高電圧が印加されると共に、記録紙28や加圧ローラ16等と擦れ合うことから、高い耐電圧が要求されるが、定着ヒータ10と同様に絶縁膜36が優れた耐電圧特性を有することから、耐電圧に優れた定着ヒータ30を高い歩留まりで製造できる利点がある。
【0044】
また、このように優れた耐電圧特性を有する絶縁膜22、36を構成するガラスは、上述した定着ヒータ10、30に限られず、耐電圧が高く且つ信頼性を要求される他の用途、例えば、図3に示すような厚膜ハイブリッドICその他の回路基板40の絶縁膜42にも用いられる。
【0045】
図3において、回路基板40は、アルミナ等から成る基板44の一面に導体膜46を形成すると共にICやチップ抵抗等の電子部品48を実装し、これらを絶縁膜42で覆ったものである。上記導体膜46は、例えばAgやAg/Pd等の厚膜導体材料から成るもので、電子部品48は、この導体膜46にハンダ等を用いて固着されている。このような用途においても、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして含む本実施例の絶縁膜42によれば、十分に高い耐電圧が得られるので、回路基板40の信頼性が高められる利点がある。
【0046】
図4は、絶縁膜組成物の更に他の適用例であるサーマルプリントヘッド50を備えたサーマルプリンタの印刷部の要部構成を模式的に示す断面図である。サーマルプリンタは、サーマルプリントヘッド50が図示しないフレームや筐体等に固定されると共に、その上方に加圧ローラ52がその軸心周りの自転可能に設けられている。
【0047】
上記のサーマルプリントヘッド50は、アルミナ等から成る基板54の一面に順次に積層形成された蓄熱層56と、抵抗発熱体層58と、一対の電極層60,60と、保護層62とを備えており、上記基板54において図示しないフレームや筐体に固定されている。上記の蓄熱層56は、例えばグレーズガラスから成るもので、例えば図4に示す一様な断面を以て紙面に垂直な方向に沿って伸びる帯状に設けられている。この蓄熱層56の長さ寸法は、サーマルプリンタの印刷対象となる記録紙64の幅寸法に応じて定められており、幅寸法は印刷速度や印刷精度等を考慮して定められている。
【0048】
また、前記抵抗発熱体層58は、例えば酸化ルテニウム等から成るもので、感熱記録紙の感熱色素を発色させ或いは熱転写インクリボンのインクを熔融または昇華させるために必要な発熱量が得られるように、適宜の厚さ寸法やパターンで設けられている。また、この抵抗発熱体層58は、蓄熱層56の上に設けられていることから、その蓄熱層56の上に位置する部分は突条を成している。また、前記電極層60,60は、例えばAl等の導体材料から成るもので、上記抵抗発熱体層58に図4における左右両側からそれぞれ通電できるようにそれに重ねて形成されている。電極層60,60の抵抗発熱体層58上における相互間隔は、適切な発熱量が得られるように適宜定められている。
【0049】
また、前記保護層62は、例えばガラスおよびフィラーから成るもので、10(μm)以下、例えば7〜8(μm)程度の厚さ寸法で設けられている。上記ガラスは特に限定されず、種々のものを用い得るが、例を挙げると、例えば、鉛ガラス、ビスマスガラス、亜鉛ガラスである。
【0050】
また、前記のフィラーは、アスペクト比が1.2以下、例えば1.04〜1.15程度で、平均粒径が0.35〜5(μm)程度の球状アルミナ粉末から成るもので、保護層62中に例えば25〜60(%)程度の体積比率で含まれている。このフィラーは保護層62の熱伝導率、表面平滑性、および硬度を改善する目的で添加されたものである。アルミナはガラスに比較して熱伝導率が高いことから、その添加量に応じて熱導電率が高められ、熱応答性や放熱性に優れた保護層62が得られる。このような効果は、前記図1〜図3に示す何れの用途においても同様に得られる。
【0051】
上記アルミナ粉末は、例えばアルミニウムアルコキシドを加水分解して合成した水酸化アルミニウムを塩素ガスと共に噴射して気相成長させることによって製造したもので、このような製造方法によることから、上述したように微細でアスペクト比が小さい特徴を有している。なお、アルミナ粉末は、このようなCVD法によって製造したものを用いることが特に好ましいが、例えば、ゾルゲル法等の液相法や高温溶射法によっても同様なアルミナ粉末を得ることができる。
【0052】
なお、前記加圧ローラ52は、前記加圧ローラ16と同様に、アルミニウム等から成る金属製円柱66の外周面にシリコーンゴム等から成るゴム層68が固着されたもので、図示しない軸受け装置にその金属製円柱66が紙面に垂直な軸心周りの自転可能に軸支されている。加圧ローラ52は、その使用状態において、サーマルプリントヘッド50の保護層62、特に、その突条部に押圧されるようになっており、記録紙64が例えば左方から送られてくると、サーマルプリントヘッド50と加圧ローラ52との間でその記録紙64が加圧されると同時にそのサーマルプリントヘッド50の加熱パターンに従って加熱され、感熱色素の発色やインクの熔融などによってその記録紙64に印刷が施される。
【0053】
このとき、サーマルプリントヘッド50は、保護層62の表面が記録紙64で擦られることになるが、保護層62は前述したように表面の平滑性が高いことから記録紙64傷をつけ難く、紙かすも発生し難い利点がある。また、熱伝導率が高いことから、高いエネルギー効率が得られるので、携帯用端末に組み込まれた場合においても、印字濃度を高めながら電池の持ちがよい利点もある。また、高硬度であることから、記録紙64による摩耗も生じ難いので、耐久性に優れる利点もある。
【0054】
上記のような絶縁膜22,36,42や保護層62は、例えば、ガラス粉末およびフィラーをベヒクル中に分散した厚膜絶縁ペーストすなわち絶縁膜組成物を調製し、これを抵抗発熱体層20、34、導体膜46、電極層60,60等の上にディッピングやスクリーン印刷等の適宜の塗布方法を用いて塗布し、焼成処理を施すことによって形成される。
【0055】
図5、図6は、上記のようにして形成される絶縁膜の耐電圧を、フィラーとして添加するアルミナ粉末のアスペクト比および粒径を変化させて評価した結果を示したものである。用いたアルミナ粉末の特性およびガラスとの混合比を表1,2に示す。これら表1,2において、「高アスペクト比アルミナ」が比較例、「低アスペクト比アルミナ」が実施例である。表1に示すアルミナAは、平均粒径(D50)が0.8(μm)と微細なもの、表2に示すアルミナBは、平均粒径が4(μm)前後と比較的大きなものである。粒径は何れもレーザ回折法で測定した値である。これら4種のアルミナの電子顕微鏡写真を図7〜図10に示す。なお、微粉のアルミナAを用いた厚膜絶縁ペーストのガラス:アルミナ混合比(wt%)は、55:45とし、アルミナBを用いたものは50:50とした。なお、何れのサンプルも、フィラーとして添加したアルミナ粉末のアスペクト比・粒径・混合比が異なる他は同様な条件で絶縁膜を形成した。
【0056】
【表1】
【表2】
【0057】
上記図5、図6に示す耐電圧特性は、例えば、平坦なアルミナ基板上に厚膜導体を印刷形成して下部電極を設け、その上に各厚膜絶縁ペーストを厚膜スクリーン印刷によって塗布して焼成処理を施して絶縁膜を形成した後、その絶縁膜上にCuテープを貼り付けて上部電極を形成し、試験装置によって上下電極間に交流電圧を印加して、印加電圧毎の絶縁破壊個数(累積値)を測定することにより評価した。サンプル数は各仕様とも36個である。この評価では、印加電圧を0.1(V)ずつ上昇させて、絶縁破壊が起きたときの電圧を測定値とした。上記試験装置としては、KIKUSUI社製TOS-5051を使用した。また、グラフに示した電圧は実効値である。
【0058】
図5において、平均粒径が0.8(μm)と微細なアルミナ粉末を用いた場合には、膜厚が22(μm)程度の絶縁膜を形成することができるが、低アスペクト比のアルミナを用いた実施例では2.4〜3.1(kV)程度、すなわち109〜141(V/μm)程度の耐電圧が得られる。これに対して、高アスペクト比のアルミナを用いた比較例では1.7〜2.1(kV)程度、すなわち77〜95(V/μm)程度の耐電圧に留まる。単位厚み当たりの平均値およびばらつきでみると、実施例では、平均値が120(V/μm)程度で、ばらつきが22(V/μm)程度であるのに対し、比較例では、平均値が84(V/μm)程度で、ばらつきが18(V/μm)程度になる。ばらつきは同程度であるが、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いた実施例では、高アスペクト比のフィラーを用いた比較例に比べて、最低値でも平均値でも30(V/μm)以上向上している。
【0059】
また、図6において、平均粒径が4(μm)程度の比較的大きなアルミナ粉末を用いた場合には、膜厚が33(μm)程度の絶縁膜を形成することができるが、低アスペクト比のアルミナを用いた実施例では1.3〜2.4(kV)程度、すなわち39〜73(V/μm)程度の耐電圧が得られる。これに対して、高アスペクト比のアルミナを用いた比較例では0.4〜1.5(kV)程度、すなわち12〜45(V/μm)程度の耐電圧に留まる。単位厚み当たりの平均値およびばらつきでみると、実施例では、平均値が62(V/μm)程度で、ばらつきが34(V/μm)程度であるのに対し、比較例では、平均値が27(V/μm)程度で、ばらつきが33(V/μm)程度になる。ばらつきは同程度であるが、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いた実施例では、高アスペクト比のフィラーを用いた比較例に比べて、最低値でも平均値でも30(V/μm)前後向上している。
【0060】
上記の高アスペクト比アルミナBは、一般に用いられている破砕アルミナで、高アスペクト比アルミナAは、例えばこれを更に粉砕したものであるが、何れもアスペクト比が2前後と大きくなっている。これに対して、低アスペクト比アルミナA,Bは、アスペクト比が1程度と小さい。上記の評価結果によれば、高アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いる場合に比較して、低アスペクト比のアルミナ粉末をフィラーとして用いれば、耐電圧が著しく向上することが明らかである。
【0061】
なお、上記表1,表2に記載した平均アスペクト比は、電子顕微鏡写真で適当な個数、例えば1視野当たり10個程度の粒子を任意に選んで長軸寸法および短軸寸法を測定し、各粒子のアスペクト比(長軸寸法/短軸寸法)を測定して平均値を算出したものである。高アスペクト比アルミナAはアスペクト比が例えば1.38〜2.25の範囲でばらつき、平均値は1.75であった。また、高アスペクト比アルミナBはアスペクト比が1.21〜3.33の範囲でばらつき、平均値は2.31であった。また、低アスペクト比アルミナAはアスペクト比が1.00〜1.13の範囲でばらつき、平均値は1.07であった。また、低アスペクト比アルミナBはアスペクト比が1.00〜1.08の範囲でばらつき、平均値は1.04であった。高アスペクト比アルミナは、アスペクト比の平均値が大きいだけでなく、ばらつきも著しく大きい。
【0062】
上述した評価結果によれば、本実施例のガラスを主成分とする厚膜絶縁ペーストには、CVDにより製造されたアスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末が含まれていることから、その厚膜絶縁ペーストから形成される絶縁膜の耐電圧が高められることが明らかである。
【0063】
特に、本実施例においては、低アスペクト比のアルミナA,Bは共にアスペクト比が1.1以下であって一層球形に近いことから、絶縁膜に突起が生じにくくなると共に、前記厚膜絶縁ペーストを調製するに際して高い分散性が得られるので、印刷、乾燥時に膜の密度が高められ、焼成後に一層緻密な絶縁膜が得られる利点もある。
【0064】
下記の表3は、前記保護層62を形成するための厚膜絶縁ペーストとしての適否を判断するために、アルミナ粉末の含有量と粒径とを種々変更して、形成した保護層62の緻密性およびスクラッチ性を評価した結果をまとめたものである。緻密性は、形成したガラス膜の表面および断面を電子顕微鏡で観察して、ガラスの連続性に基づいて判断した。ガラスの連続性が保たれているものを「○」(=緻密性高い)、空隙が認められるが保護層62として使用可能な程度の緻密性を有するものを「△」、ガラスの連続性が保たれていないものすなわち独立した粒子の存在が認められるものを「×」(=緻密性低い)の評価とした。また、スクラッチ性は、ガラス膜表面を#180の研磨紙で擦って傷の生じ易さやアルミナ粒子の脱落し易さに基づいて判断した。浅い傷が僅かに生ずる程度のものを「○」、傷が容易に入るものやアルミナ粒子が簡単に脱落するものを「×」、これらの中間を「△」とした。なお、これらの評価は、全て焼成処理を施したままの面(すなわちアズファイヤ)で行った。スクラッチ性の評価基準の参考に図11〜図13に「○」、「△」、「×」の表面顕微鏡写真をそれぞれ示す。
【0065】
【表3】
【0066】
上記の評価結果によれば、緻密性は、アルミナ粉末の添加量が9.5(vol%)の場合には、評価した全ての平均粒径の場合に十分な結果が得られ、25〜45(vol%)の添加量では0.5(μm)以上の平均粒径で十分な結果が得られた。50(vol%)の添加量では0.5(μm)以上の平均粒径で使用可能な程度の緻密性が得られ、0.7(μm)以上の平均粒径で十分な緻密性が得られた。55(vol%)の添加量では、1.5(μm)以上の平均粒径で使用可能な程度の緻密性が得られ、3(μm)以上の平均粒径で十分な緻密性が得られた。57(vol%)の添加量では、5(μm)の平均粒径で十分な緻密性が得られ、3(μm)以上の平均粒径で使用可能な程度の緻密性が得られた。60(vol%)の添加量では使用可能な程度の緻密性を得ることができなかった。
【0067】
また、スクラッチ性については、アルミナ粉末が9.5(vol%)では全ての粒径においてスクラッチ性が不足し、アルミナ粉末の添加効果が現れていないが、25(vol%)の添加量になると、0.5(μm)以上の粒径のものでは使用可能な程度のスクラッチ性が得られる。添加量が35(vol%)になると、0.5(μm)以上の粒径で十分なスクラッチ性が得られる。50(vol%)の添加量では、0.5(μm)以上の粒径で使用可能な程度のスクラッチ性が得られ、0.7(μm)以上の粒径で十分なスクラッチ性が得られる。また、55(vol%)の添加量では、0.7(μm)以上の粒径で十分なスクラッチ性が得られる。57(vol%)の添加量では、3(μm)以上の粒径で使用可能な程度のスクラッチ性が得られる。60(vol%)の添加量では十分なスクラッチ性を得ることができなかった。すなわち、添加量が多くなると小さい平均粒径におけるスクラッチ性の低下傾向が認められ、60(vol%)以上の添加量では良好なスクラッチ性を得ることができない。
【0068】
図14は、上記の評価結果に基づき、緻密性およびスクラッチ性の何れか両方が「○」のものを「○」、少なくとも一方が「△」のものを「△」、少なくとも一方が「×」のものを「×」として、好適な範囲を示した図である。アルミナ体積比率が25(vol%)且つアルミナ粒径が7(μm)以下で使用可能であり、体積比率の上限および粒径の下限は図の曲線で示される。図の3本の直線および曲線で囲まれた範囲が良好な緻密性およびスクラッチ性が得られる範囲であり、線上は良否の境界上すなわち十分ではないが使用可能な条件である。曲線の式は前記(1)式である。
【0069】
上記表3および図14に示されるデータのうち、例えば、アルミナ体積比率が45(%)、アルミナ平均粒径が1.5(μm)の場合のガラス膜の表面の顕微鏡写真を図15に示す。このような体積比率、平均粒径の条件でも極めて緻密なガラス膜が得られることが認められる。写真は省略するが、平均粒径が異なる場合も0.5(μm)〜3(μm)のものでは概ね同様な結果であり、体積比率が25(%)の場合も同様な結果であった。体積比率45(%)、平均粒径0.3(μm)では、図16に示されるように、膜表面に空隙が目立ち、緻密性、スクラッチ性ともに不十分になる。この体積比率では、0.5(μm)よりも粒径が小さくなると、急激に緻密性が損なわれる。体積比率が50(%)の場合には、平均粒径が0.7(μm)以上であれば図17に示されるように十分な緻密性が得られるが、0.5(μm)では図18に示されるように使用可能ではあるがやや劣る結果となる。
【0070】
また、体積比率が55(%)になると、平均粒径が5(μm)のものでは図19に示されるように凹凸が目立つものの十分な緻密性を備えている。しかし、この程度の体積比率になると、前述したように平均粒径が小さいと緻密性が損なわれる傾向にあり、例えば、図20に示されるように55(%)−0.7(μm)のサンプルでは、緻密性の点において不適の結果となる。また、60(%)以上になると、3(μm)のサンプルの写真を図21に示すように、粒子の独立性が高くなり緻密性が失われる。
【0071】
なお、上記の表3および図14等には示されていないが、アルミナの平均粒径が7(μm)以上になると、保護層62が薄い膜厚ではその表面の凹凸が大きくなり、膜厚を厚くすると熱効率が劣るため、アルミナ粉末を添加する効果が損なわれる。また、7(μm)以上の球状粒子は高コストになるため、利用価値も低い。保護層62の厚さ寸法は、熱効率面では薄い方が好ましく、10(μm)以下にする必要があり、通常は7〜8(μm)程度である。アルミナの平均粒径が5(μm)以上の場合には、粒度分布を考えると7〜8(μm)程度の粒子も含まれるので、膜厚10(μm)以下にすることが困難である。したがって、アルミナの平均粒径は5(μm)以下が一層好ましい。
【0072】
また、上述したように保護層62に添加するアルミナ粉末は、平均粒径が0.35〜7(μm)の範囲のものを用い得るが、何れの粒径のものを用いるかは、サーマルプリントヘッド50の用途に応じて定めることもできる。例えば、スーパーマーケットのレジスタ用など、耐久性が重視される用途では、耐摩耗性が高くアルミナ粒子が脱落しにくい粗い粒子を用いることが好ましい。一方、医療用など、印刷の精細度が重視される用途では、耐久性が若干犠牲になるが、細かい粒子を用いることが好ましい。
【0073】
なお、前記表3に示されるように、CVD法により製造した球状粒子を用いた実施例では、アルミナ体積比率と平均粒径との関係を適宜選択することによって緻密性およびスクラッチ性に優れた保護層62を得ることができるが、破砕アルミナを用いると、緻密性はある程度得られるものの、スクラッチ性が劣るため、保護層62に用いることができない。破砕アルミナを用いた場合の平均粒径5(μm)、3(μm)のそれぞれについて体積比率55(%)のガラス膜の表面顕微鏡写真を図22、図23に示す。破砕アルミナを用いた場合には、特に高含有率における緻密性低下が顕著である。このような結果になるのは、破砕アルミナではアスペクト比が著しく大きいことも影響しているものと考えられる。しかも、破砕アルミナを用いて保護層62を形成すると、アルミナ粒子のエッジによって記録紙64に傷がつく問題もある。
【0074】
以上、説明したように、本実施例によれば、ガラスを主成分とする厚膜絶縁ペーストには、アルミナ粉末が含まれているため、複写機の定着ヒータ10の絶縁膜22やサーマルプリントヘッド50の保護層62に好適で、硬度が高く延いては耐摩耗性や耐スクラッチ性が高く、且つ熱伝導率や耐電圧が高い絶縁膜等を得ることができる。このとき、アルミナ粉末のアスペクト比が1.2以下と小さく球形に近いことから、膜形成時に高い充填密度が容易に得られるので、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度等の改善効果が一層高められる。また、アルミナ粉末の体積比率が25(%)以上と十分に大きいことから、アルミナ粉末が含まれることによる絶縁膜等の硬度や熱伝導率等の改善効果が一層高められ、体積比率が60(%)未満に留められていることから、強固な絶縁膜等を得ることができる。また、アルミナ粉末の平均粒径が前記(1)式を満たし、0.35(μm)以上であることから、形成した絶縁膜等からアルミナ粒子が脱落することが十分に抑制され延いては一層高い耐スクラッチ性が得られる。また、平均粒径が7(μm)以下に留められていることから、形成する絶縁膜等の膜厚を例えば10(μm)以下と十分に薄くしても膜表面の凹凸が十分に小さくなり、焼成しただけでも十分に高い平滑性を有する絶縁膜等を得ることができる。
【0075】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0076】
10 定着ヒータ、12 基台、14 定着フィルム、16 加圧ローラ、18 基材、20 抵抗発熱体層、22 絶縁膜、24 アルミニウム製円柱、26 シリコーンゴム、28 記録紙、30 定着ヒータ、32 基材、34 抵抗発熱体層、36 絶縁膜、40 回路基板、42 絶縁膜、44 基板、46 導体膜、48 電子部品、50 サーマルプリントヘッド、52 加圧ローラ、54 基板、56 蓄熱層、58 抵抗発熱体層、60,60 電極層、62 保護層、64 記録紙、66 金属製円柱、68 ゴム層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基材の表面に絶縁膜を形成するために用いられるガラスを主成分とする絶縁膜組成物であって、
アスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末を絶縁膜組成物全体に占める体積比率x(%)と平均粒径y(μm)が以下の関係式(1)を満たす範囲で含むことを特徴とする絶縁膜組成物。
0.09exp(9.8/(60−x))+0.24≦y≦7
(但し、25≦x<60) ・・・(1)
【請求項2】
前記体積比率x(%)が35≦x≦55の範囲内である請求項1の絶縁膜組成物。
【請求項3】
前記平均粒径y(μm)が5(μm)以下である請求項1または請求項2の絶縁膜組成物。
【請求項1】
所定の基材の表面に絶縁膜を形成するために用いられるガラスを主成分とする絶縁膜組成物であって、
アスペクト比が1.2以下のアルミナ粉末を絶縁膜組成物全体に占める体積比率x(%)と平均粒径y(μm)が以下の関係式(1)を満たす範囲で含むことを特徴とする絶縁膜組成物。
0.09exp(9.8/(60−x))+0.24≦y≦7
(但し、25≦x<60) ・・・(1)
【請求項2】
前記体積比率x(%)が35≦x≦55の範囲内である請求項1の絶縁膜組成物。
【請求項3】
前記平均粒径y(μm)が5(μm)以下である請求項1または請求項2の絶縁膜組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図14】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図14】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−43797(P2013−43797A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182048(P2011−182048)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】
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