説明

絹がんもおよびその製造方法

【課題】最終製品の食感を、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトなものとした、魚肉すり身と豆乳または大豆タンパク質溶解液との混合物(混合生身)から製造した練り製品を製造することを課題とする。
【解決手段】本発明においては、魚肉すり身、豆乳、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、油ちょうにより二段階の加熱をすることにより、上述の課題を解決することができることを明らかにした。より具体的には、本発明は、魚肉すり身1重量部、豆乳2〜3重量部、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、50〜85℃の範囲での油ちょうにより一次加熱すること、そしてその後、130〜180℃の範囲での油ちょうにより二次加熱をすること、を特徴とする、練り製品の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絹がんもおよびその製造方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉すり身に大豆粉などの大豆タンパク質を混合した練り製品は、既に「魚河岸あげ」(商品名)などが市場に出回っている。このような練り製品は、通常の魚肉練り製品の有する魚肉タンパク質由来のゲル強度を大豆タンパク質を添加することにより緩和した、ソフトで滑らかな食感を有しており、魚肉タンパク質と植物タンパク質との併用による健康食品としての観点からも消費者から好まれている。
【0003】
魚肉すり身に大豆粉などの大豆タンパク質を混合した従来の練り製品は、通常の魚肉練り製品と比較して、ソフトで滑らかな食感を有しているものの、その食感も絹ごし豆腐などと比較すると依然として劣っているものである。練り製品の食感を改善するには、加水をする等の方法が知られている。
【0004】
しかしながら、製造工程における攪拌・成形後の保形性が悪くなるなどの問題点が生じることから、魚肉すり身と大豆タンパク質とからなる混合生身に対して、一定量以上の加水を行うことは困難であり、制限する必要がある。そのため、加水によって製品の食感をさらに向上させるには、限度があった。
【0005】
練り製品に関連して、低級な品質の原料を用いる場合であっても、高級な品質の原料を使用した場合と同様の弾力性がありしなやかな食感を有する練り製品を得ることを目的として、トランスグルタミナーゼを使用する方法が考えられている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、これらの文献においても、食感の改善効果に関しては弾力性の向上やしなやかさの向上にとどまっており、それ以上の食感の改善はできなかった。
【特許文献1】特開平9-206031
【特許文献2】特開平2-255060
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最終製品の食感を、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトなものとした、魚肉すり身と豆乳または大豆タンパク質溶解液との混合物(混合生身)から製造した練り製品を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、魚肉すり身、豆乳、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、油ちょうにより二段階の加熱をすることにより、上述の課題を解決することができることを明らかにした。より具体的には、本発明は、魚肉すり身1重量部、豆乳2〜3重量部、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、50〜85℃の範囲での油ちょうにより一次加熱すること、そしてその後、130〜180℃の範囲での油ちょうにより二次加熱をすること、を特徴とする、練り製品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感を有する練り製品を製造することができる。さらに、本発明の方法により製造した練り製品は、表面のしわが発生せず、商品としての外観を損なうこともないという効果も得られた。
【発明の実施の形態】
【0009】
練り製品の食感を、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトなものとするために、魚肉すり身と豆乳または大豆タンパク質溶解液との混合物(混合生身)に対して、加水量を多くすることが必要であるが、混合物への加水量を多くした混合生身は、(1)成形が困難で、保形性も低い、(2)加熱を油ちょうに限定しても通常の高温による油ちょう加熱温度では混合生身が油中に散乱してしまう、(3)加熱後冷却すると、表面にしわが多数発生し、商品としての外観を損なう、等の問題点が生じた。
【0010】
このことから、本発明では、製品外部はゲル形成を促進して保形性を十分に維持しつつ、製品内部はゲル形成を抑制して絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトなものとするという、相反する状態を単一の練り製品中に同時に実現することを課題としたものである。
【0011】
このような課題に対して、本発明においては、魚肉すり身、豆乳、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、油ちょうにより二段階の加熱をすることにより、最終製品の食感を、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトなものとした練り製品を製造することができることを明らかにした。
【0012】
本発明の具体的な一態様において、魚肉すり身1重量部、豆乳2〜3重量部、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、50〜85℃の範囲での油ちょうにより一次加熱すること、そしてその後、130〜180℃の範囲での油ちょうにより二次加熱をすること、を特徴とする、練り製品の製造方法を提供する。
【0013】
本発明においては、上述した製造方法を採用することにより、全体の保形性を維持しつつ絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感を有する、魚肉すり身1重量部、豆乳2〜3重量部、およびトランスグルタミナーゼを含む混合物から構成される、練り製品を提供することができる。
【0014】
1. トランスグルタミナーゼの添加と、加熱条件
本発明の態様の第一の特徴は、加熱温度および加熱時間を制御することによりトランスグルタミナーゼの活性を制御して、トランスグルタミナーゼの活性の促進・低減を図ることにより、魚肉タンパク質と大豆タンパク質の架橋により生じるゲルを所望の食感(硬さ)とする程度に形成させるものであり、すなわち練り製品の外郭部については活性を促進する条件によりゲル形成を十分に行うことで保形性を保ちつつ、一方練り製品の中心部については活性を低減する条件によりゲル形成を抑制して食感を絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感とする範囲内にとどめることができることにある。
【0015】
トランスグルタミナーゼは、タンパク質分子を架橋重合させる反応を触媒する酵素であり、自然界に広く存在することが知られている。この酵素は、アシル転移反応を触媒するトランスフェラーゼの一種であり、アシル受容体としてタンパク質中のリジン残基のε-アミノ基に作用した場合、タンパク質分子間および分子内にε-γ-グルタミルリジン残基の架橋結合を生成する。この結合はタンパク質の共有結合に根ざした非常に強力な結合であり、加熱によるタンパク質のゲル化とは全く異なる反応様式で、魚肉タンパク質または大豆タンパク質の固形化のために機能することができる。
【0016】
本発明においては、食用に供することができるトランスグルタミナーゼであればどのようなものであっても使用することができる、例えばアクティバTG-AK、アクティバTG-SC(いずれも味の素)などを使用することができる。本発明においては、このようなトランスグルタミナーゼを、トランスグルタミナーゼが、混合物1 kgあたり250〜840 U(これは、前述のアクティバTG-AK(使用したものの活性は73 U/g)を使用する場合に0.4〜1.0重量%となる量に相当)となるように練り製品に混合することが好ましく、混合物1 kgあたり290〜730 Uとなるように練り製品に混合することが特に好ましい。これ以上の量を混合すると、ゲル形成が強固に行われ、所望の食感を得ることができない。一方、これよりも少ない量のトランスグルタミナーゼを添加しても、保形性を保つためのゲル形成能が得られない。
【0017】
トランスグルタミナーゼの至適温度範囲は、50〜65℃の範囲であることが知られている。本発明の練り製品を加熱する際、トランスグルタミナーゼの作用によりタンパク質間の結合を形成する場合には、成型した練り製品のうちタンパク質を共有結合させたい部位を50〜65℃の温度範囲にするように加熱条件(加熱温度および加熱時間)を調整する。
【0018】
一方、トランスグルタミナーゼを上記指摘条件範囲に放置しておくと、時間の経過と共にタンパク質間の共有結合が増加し、練り製品全体の硬度が高くなる。したがって、練り製品の外郭部が適度な硬度に到達した時点で、トランスグルタミナーゼを失活させる必要がある。トランスグルタミナーゼを失活させるためには、練り製品を130〜180℃の範囲の温度で1〜10分間、好ましくは3〜6分間加熱し、練り製品の中心部(最も加熱されにくい部分)の温度を少なくとも75℃以上に到達させる必要がある。
【0019】
そこで、かかるトランスグルタミナーゼの特性に基づいて、本発明の態様の第二の特徴として、トランスグルタミナーゼの活性を制御(促進・低減)するために、一次加熱と二次加熱からなる二段階の加熱条件を採用する。
【0020】
本発明において、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感を有する練り製品を製造する場合には、中心部付近のゲル形成を抑制しつつ、全体の形状を維持する様に外郭部を加熱することが好ましい。したがって、一次加熱は、トランスグルタミナーゼの活性を促進することを目的とした加熱であり、50〜85℃の温度範囲において行われる。前述したように成型した練り製品のうちタンパク質を共有結合させたい部位に応じて加熱の際の温度範囲を変更することができ、同時にかかる温度帯では、時間の経過と共にトランスグルタミナーゼにより酵素反応が進行するため、温度範囲に応じて加熱時間も調節することが好ましい。
【0021】
この一次加熱の結果、最初に練り製品の外郭部については十分にゲル形成を進行させるとともに、その後に練り製品の中心部付近のゲル形成が十分に進行する前に一次加熱を終了する様に反応時間を制限することで、十分な保形性を維持しつつ、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感を確保することができる。
【0022】
例えば、一次加熱としては、50〜85℃の温度範囲で5〜15分間加熱する条件、好ましくは50〜85℃の温度範囲で5〜10分間加熱する条件を採用することができる。かかる一次加熱の加熱条件の下、成型した練り製品の外郭部でのゲル形成が促進され、十分な厚みを有する皮膜を構成して練り製品の保形性を保つために十分な硬度をもたらすことができる。一方、上述した一次加熱の加熱条件では、成型した練り製品の内部は、加熱時の温度の上昇が外郭部よりも遅いため、十分にゲル形成が行われる前に一次加熱が終了することになる。したがって、結果として絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな内部状態をもたらすことができる。
【0023】
二次加熱は、トランスグルタミナーゼを失活させることを主目的として行う加熱段階であるが、付随的に食品の加熱処理および加熱殺菌による食品の安全性を確保すること、そして一次加熱で形成された練り製品の外郭部をさらに加熱固化すること、外観にキツネ色の揚げ色を付与することもまた副次的な目的として達成される加熱段階である。かかる目的を達成するため、練り製品を130〜180℃の範囲の温度で1〜10分間、好ましくは3〜6分間加熱し、練り製品の中心部(最も加熱されにくい部分)の温度を少なくとも75℃以上に到達させる。この二次加熱を行うことにより、練り製品の外郭部に形成された皮膜がより強固なものになり、練り製品内部の水分消失の防止効果を向上させることができ、冷却後の練り製品表面のしわの発生を防止することができる。一方、トランスグルタミナーゼが完全に失活して、トランスグルタミナーゼの作用によるそれ以上のゲル形性が停止されるため、弾力性のない滑らかでソフトな食感を維持することができる。
【0024】
一般に、練り製品の加熱は、蒸し加熱、食用油中で揚げる油ちょう加熱、茹で加熱などの加熱手段を採用できる。しかし、本発明の練り製品は、加熱前の生身に対する加水が多く、その保型性が低いことから、茹で加熱では生身が熱水に溶け出してしまう。一方、油中に浸漬すると生身が溶け出さず、さらには生身に発生する浮力を利用することで保型性が向上する。したがって、ケーシングなどの容器による保型手段を考慮する以外は、油ちょう加熱することが必要である。
【0025】
なお、一次加熱として、75〜85℃の温度範囲で加熱する場合、15分以上加熱すると、内部の温度が上昇し、トランスグルタミナーゼが失活する。そのため、単にトランスグルタミナーゼを失活させることのみを目的とするならば、75〜85℃の温度範囲で15〜30分間、好ましくは25〜30分間加熱する条件を採用することで、一次加熱と二次加熱を同時に行うこともできる。この場合には、5〜15分加熱することにより外郭部のゲル形成が十分に行われ、その後最大30分まで加熱することにより内部のゲル形成が不十分なままトランスグルタミナーゼを失活させることができる。
【0026】
2. 豆乳成分
本発明の態様の第二の特徴は、練り製品に対する豆乳の混合比率を好ましい比率に調節すること、そして豆乳の固形分濃度(Brix濃度)を調節することにより、魚肉タンパク質と大豆タンパク質の架橋により生じるゲル形成を、練り製品の外郭部については十分に行うことで保形性を保ちつつ、一方練り製品の中心部については食感を絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感とする範囲内にとどめることができることにある。
【0027】
まず、本発明においては、魚肉すり身1重量部に対して、豆乳2〜3重量部を混合することにより、混合生身を形成することを特徴としている。本発明の練り製品の製造方法においては、ゲル形性が2種類の全く異なる条件に基づいて生じる。すなわち、一つの条件は加熱による魚肉タンパク質のゲル形性であり、他方の条件はトランスグルタミナーゼの作用により生じる魚肉タンパク質と大豆タンパク質の架橋により生じるゲル形成である。練り製品中の豆乳の比率が低すぎる場合、魚肉タンパク質が加熱された際のゲル形性が優先的に生じ、全体的な食感が蒲鉾の様な食感に近づく。一方、豆乳の比率が高くなりすぎると、豆乳成分がゲル形性に用いられずに練り製品中に残存して、固まらなくなる。したがって、保形性を維持しつつ、所望の食感を維持するという特徴を確保するため、魚肉すり身1重量部に対して、豆乳2〜3重量部を混合することが好ましい。
【0028】
次に、本発明においては、固形分濃度(Brix濃度)が7〜14%の豆乳を添加することも特徴とする。本発明において使用されるトランスグルタミナーゼは、魚肉タンパク質と大豆タンパク質の架橋により生じるゲル形成を行うことを特徴としている。そのため、豆乳の固形分濃度が低くなると、魚肉タンパク質とのあいだで生じるゲル形性が少なくなり、保形性を保つことができなくなる。一方、豆乳の固形分濃度(Brix濃度)が高くなりすぎると、豆乳の成分が食感に影響するだけでなく、トランスグルタミナーゼの作用によりより強固なゲル形性を行う点でも食感に影響を及ぼす。したがって、保形性を維持しつつ、所望の食感を維持するという特徴を確保するため、豆乳の(Brix濃度)は、7〜14%であることが好ましい。また、用いる豆乳は、通常の豆乳の他、豆乳粉末を水で溶解して調製する豆乳を用いることもできる。
【0029】
3. 増粘多糖類
本発明においては、混合物に対してさらに、増粘多糖類をさらに添加することができる。本発明の練り製品の生身は、加熱前には柔らかく非常に保形性が悪いことから、増粘多糖類を添加することにより、加熱前の成型時に練り製品の形状を一定の状態に保持することができる。増粘多糖類としては、食品添加物として使用することができるものであればどのようなものであってもよい。
【実施例】
【0030】
実施例1:一次加熱の条件の練り製品の特性に対する影響
スケソウダラ冷凍すり身250 gに対して、食塩7.5 gを添加し、常法により塩摺りを行った。塩摺りした魚肉すり身に対して、豆乳(固形分濃度(Brix濃度)14%)420 g、水100 g、増粘多糖類(キサンタンガムを主剤とする)3 gを添加して混合生身を形成し、真空攪拌のできるカッター(ステファン社製UM-5)を使用して、混合生身の温度が1℃になるまで真空高速攪拌を行った。その後、この混合生身に、さらにトランスグルタミナーゼ製剤(味の素、TG-AK)を6 g(混合物1 kgあたり0.61重量%、444 Uに相当)、および豆乳(固形分濃度(Brix濃度)14%)200 gを添加して、生身の温度が5℃になるまで再度真空高速攪拌を行った。
【0031】
得られた生身を室温で15分間静置して置き身の工程(増粘多糖類により成型しやすい生身の状態を形成するための工程)を行い、ディッシャーにて約50 gに成型した後、35℃、50℃、65℃、75℃、85℃、または95℃、の各温度に加熱した油槽内に浸漬して、それぞれ5分、10分、15分、または30分の各時間のあいだ、加熱を行った(一次加熱)。次いで、160℃の油槽に移して、内部の温度が75℃に達するまで、油ちょう加熱を行った(二次加熱)。
【0032】
このようにして得られた練り製品の特性を表1に示す。この表において、○は本発明において所望する絹ごし豆腐の様な「滑らかでソフトな食感」を有していることを示し、×はその後のカッコ内に記載された理由により、所望の製品特性(食感)を得られたなかったことを示す。
【0033】
【表1】

【0034】
この結果から、浸漬する油の至適温度が50℃〜85℃であり、浸漬時間は50℃〜65℃の範囲では15分まで、75℃〜85℃の範囲では30分までのあいだ一次加熱を行うことにより、目的とする食感を有する練り製品を得ることができることが明らかになった。
【0035】
実施例2:豆乳の固形分濃度(Brix濃度)の練り製品の特性に対する影響
スケソウダラ冷凍すり身250 gに対して、食塩7.5 gを添加し、常法により塩摺りを行った。塩摺りした魚肉すり身に対して、固形分濃度(Brix濃度)を5〜14%まで変えた豆乳520 g、増粘多糖類(キサンタンガムを主剤とする)3 gを添加して混合生身を形成し、真空攪拌のできるカッター(ステファン社製UM-5)を使用して、混合生身の温度が1℃になるまで真空高速攪拌を行った。その後、この混合生身に、さらにトランスグルタミナーゼ製剤(味の素、TG-AK)を6 g(混合物1 kgあたり0.61重量%、444 Uに相当)、および同じ固形分濃度の豆乳200 gを添加して、生身の温度が5℃になるまで再度真空高速攪拌を行った。
【0036】
得られた生身を室温で15分間静置して置き身の工程(増粘多糖類により成型しやすい生身の状態を形成するための工程)を行い、ディッシャーにて約50 gに成型した後、65℃の温度に加熱した油槽内に浸漬して、15分間のあいだ加熱を行った(一次加熱)。次いで、160℃の油槽に移して、内部の温度が75℃に達するまで、油ちょう加熱を行った(二次加熱)。
【0037】
このようにして得られた練り製品の特性を表2に示す。本実施例においては、破断強度および半球状の製品の高さ、および所望する絹ごし豆腐の様な「滑らかでソフトな食感」を有しているかどうか、を示した。破断強度は、レオメータCR200D型(サン科学社製)に、直径8 mmの球プランジャーを取り付け、進入速度60 mm/min、感度5 gで測定を行った。また、製品の高さは、ディッシャーにて成型した25 mm(加熱前)の加熱後の半球状の製品の高さを示す。また、○は本発明において所望する絹ごし豆腐の様な「滑らかでソフトな食感」を有していることを示し、×はその後のカッコ内に記載された理由により、所望の製品特性(食感)を得られたなかったことを示す。
【0038】
【表2】

【0039】
この結果から、使用する豆乳のBrix濃度が7〜14%までの濃度の場合に、目的とする食感を有する練り製品を得ることができることが明らかになった。
実施例3:トランスグルタミナーゼ濃度の練り製品の特性に対する影響
スケソウダラ冷凍すり身250 gに対して、食塩7.5 gを添加し、常法により塩摺りを行った。塩摺りした魚肉すり身に対して、豆乳(固形分濃度(Brix濃度)14%)420 g、水100 g、増粘多糖類(キサンタンガムを主剤とする)3 gを添加して混合生身を形成し、真空攪拌のできるカッター(ステファン社製UM-5)を使用して、混合生身の温度が1℃になるまで真空高速攪拌を行った。その後、この混合生身に、さらに混合生身1 kgあたり、終濃度で0.3%、0.4%、0.5%、1.0%、1.5%、または2.0%のトランスグルタミナーゼ製剤(それぞれ、220 U、290 U、365 U、730 U、1095 U、および1460 Uのトランスグルタミナーゼに相当)(味の素、TG-AK)、および豆乳(固形分濃度(Brix濃度)14%)200 gを添加して、生身の温度が5℃になるまで再度真空高速攪拌を行った。
【0040】
得られた生身を室温で15分間静置して置き身の工程(増粘多糖類により成型しやすい生身の状態を形成するための工程)を行い、ディッシャーにて約50 gに成型した後、65℃の温度に加熱した油槽内に浸漬して、15分間のあいだ加熱を行った(一次加熱)。次いで、160℃の油槽に移して、内部の温度が75℃に達するまで、油ちょう加熱を行った(二次加熱)。
【0041】
このようにして得られた練り製品の特性を表3に示す。この表において、○は本発明において所望する絹ごし豆腐の様な「滑らかでソフトな食感」を有していることを示し、×はその後のカッコ内に記載された理由により、所望の製品特性(食感)を得られたなかったことを示す。
【0042】
【表3】

【0043】
この結果から、トランスグルタミナーゼ製剤の添加濃度が0.4〜1.0%(混合生身1 kgあたり、290 U〜730 Uに相当)までの濃度の場合に、目的とする食感を有する練り製品を得ることができることが明らかになった。
【0044】
実施例4:魚肉すり身と豆乳の混合比の練り製品の特性に対する影響
スケソウダラ冷凍すり身250 gに対して、食塩7.5 gを添加し、常法により塩摺りを行った。塩摺りした魚肉すり身に対して、150 g、340 g、500 g、または666 g(それぞれのサンプルは、最終的な対すり身豆乳濃度が100%、200%、300%、または400%となる群に対応する)の豆乳(固形分濃度(Brix濃度)14%)、水100 g、増粘多糖類(キサンタンガムを主剤とする)3 gを添加して混合生身を形成し、真空攪拌のできるカッター(ステファン社製UM-5)を使用して、混合生身の温度が1℃になるまで真空高速攪拌を行った。その後、この混合生身に、さらにトランスグルタミナーゼ製剤(味の素、TG-AK)を6 g(対すり身豆乳濃度が100%、200%、300%、または400%のそれぞれの場合に、710 U、505 U、392 U、320 Uに相当)、および100 g、160 g、250 g、または334 g(それぞれのサンプルは、最終的な対すり身豆乳濃度が100%、200%、300%、または400%となる群に対応する)の豆乳(固形分濃度(Brix濃度)14%)を添加して、生身の温度が5℃になるまで再度真空高速攪拌を行った。
【0045】
得られた生身を室温で15分間静置して置き身の工程(増粘多糖類により成型しやすい生身の状態を形成するための工程)を行い、ディッシャーにて約50 gに成型した後、65℃の温度に加熱した油槽内に浸漬して、15分間のあいだ、加熱を行った(一次加熱)。次いで、160℃の油槽に移して、内部の温度が75℃に達するまで、油ちょう加熱を行った(二次加熱)。
【0046】
このようにして得られた練り製品の特性を表1に示す。この表において、○は本発明において所望する絹ごし豆腐の様な「滑らかでソフトな食感」を有していることを示し、×はその後のカッコ内に記載された理由により、所望の製品特性(食感)を得られたなかったことを示す。
【0047】
【表4】

【0048】
この結果から、魚肉すり身と豆乳の混合比が1:2〜1:3(すなわち、対すり身豆乳濃度にして200〜300%)の場合に、目的とする食感を有する練り製品を得ることができることが明らかになった。
【0049】
実施例5:粉末豆乳を用いた場合の練り製品の特性に対する影響
スケソウダラ冷凍すり身250 gに対して、食塩7.5 gを添加し、常法により塩摺りを行った。塩摺りした魚肉すり身に対して、調整豆乳粉末(不二製油株式会社製)100 g、分離大豆タンパク(不二製油株式会社製)20 g、水300 g、増粘多糖類(キサンタンガムを主剤とする)3 gを添加して混合生身を形成し、真空攪拌のできるカッター(ステファン社製UM-5)を使用して、混合生身の温度が1℃になるまで真空高速攪拌を行った。ここで、添加した調整豆乳粉末由来の豆乳と分離大豆タンパク質と水とからなる混合物のBrix濃度は、13.2であった。
【0050】
その後、この混合生身に、さらにトランスグルタミナーゼ製剤(味の素、TG-AK)を5.3 g(混合物1 kgあたり0.61重量%、444 Uに相当)、および水200 gを添加して、生身の温度が5℃になるまで再度真空高速攪拌を行った。
【0051】
得られた混合生身を室温で15分間静置して置き身の工程(増粘多糖類により成型しやすい生身の状態を形成するための工程)を行い、ディッシャーにて約50 gに成型した後、65℃の温度に加熱した油槽内に浸漬して、15分間のあいだ、加熱を行った(一次加熱)。次いで、160℃の油槽に移して、内部の温度が75℃に達するまで、油ちょう加熱を行った(二次加熱)。油ちょう加熱の温度は、上記の温度によらなくても、130℃〜180℃の油温で中心温度が75℃に達するまで加熱すればよい。
【0052】
このようにして得られた練り製品の特性を表5に示す。ここで、食感における○は、官能評価により、本発明において所望する絹ごし豆腐の様な「滑らかでソフトな食感」を有していることを示し、また加熱適性における○は、油ちょう加熱の際に「つぶれ」、「火ぶくれ」、または「散る」ことがないことを示す。
【0053】
【表5】

【0054】
この結果から、通常の豆乳を用いた場合の他、豆乳粉末を水で溶解して調製する豆乳を用いた場合であっても、目的とする食感や加熱適性を有する練り製品を得ることができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法により、絹ごし豆腐の様な滑らかでソフトな食感を有する練り製品を製造することができる。さらに、本発明の方法により製造した練り製品は、表面のしわが発生せず、商品としての外観を損なうこともないという効果も得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉すり身1重量部、豆乳2〜3重量部、およびトランスグルタミナーゼの混合物を、50〜85℃の範囲での油ちょうにより一次加熱すること、そしてその後、130〜180℃の範囲での油ちょうにより二次加熱をすること、を特徴とする、練り製品の製造方法。
【請求項2】
豆乳の固形分濃度(Brix濃度)が7〜14%である、請求項1に記載の練り製品の製造方法。
【請求項3】
混合物中のトランスグルタミナーゼの含有量が、混合物1 kgあたり250〜840 Uである、請求項1または2に記載の練り製品の製造方法。
【請求項4】
混合物に、増粘多糖類をさらに添加する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の練り製品の製造方法。
【請求項5】
魚肉すり身1重量部、豆乳2〜3重量部、トランスグルタミナーゼ、および増粘多糖類の混合物から構成される、練り製品。

【公開番号】特開2010−110260(P2010−110260A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285388(P2008−285388)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000141509)株式会社紀文食品 (39)
【Fターム(参考)】