説明

網点印刷物及びその印刷方法

【課題】カラー複写機の高画質化及びカラー製版技術のコンピュータ化に伴い、複写防止効果の高い、赤外線領域で潜像を顕出する網点印刷物及びその印刷方法について、赤外線領域における潜像の視認性及び機械読み取り適性を向上させた網点印刷物を提供する。
【解決手段】第1の領域と、第1の領域に隣接する第2の領域とが複数組配置され、各々の第2の領域周囲が、複数の第1の領域により囲まれ、第1の領域は、第2の領域より面積が大きく、第2の領域は、赤外線領域で吸収特性を含むインキを用いて構成された第2aの領域と、赤外線領域で吸収特性を持たないインキを用いて構成された第2bの領域とを有する。第2aの領域に使用するインキに含まれるカーボンブラックは、粒子径が30nm以下で吸油量が100〜120cm3/100gであり、第2aの領域と第2bの領域とは、可視光領域での分光反射率の差が10%以内であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、パスポート、有価証券、カード、貴重印刷物を含む偽造防止及び改ざん防止機能が必要とされる印刷物に利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カラー複写機の高画質化、カラー製版技術のコンピュータ化に伴い、紙幣や有価証券類の偽造手段が多様化する傾向にある。特に、印刷産業分野で使用される画像入出力機器の解像度が著しく向上し、有価証券類に使用されている細線や微小文字の抽出が容易になってきた。このことは、単に四原色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の網点構成からなる一般商業印刷法による偽造だけではなく、現在の有価証券の多くに採用されている地紋、彩紋、レリーフ模様等白黒二値で構成されたものが、スキャナ等の入出力機器により、高精度に抽出でき、特色版を多用したより本格的な偽造が増えてきた。
【0003】
そこで、本願出願人は、二種類の網点画像を同一平面上に均等配置する場合において、一般の商業印刷で使用されているシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの基本四色インキを用いて、可視画像及び潜像を生成し、現在の写真製版装置では複製が不可能であり、特殊鑑定装置等を用いないかぎり画像を認識することができない潜像を安価に印刷する方法を発明した(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前述の潜像は、基本4色のブラックにカーボンブラックを使用し、カーボンブラックを含む赤外線領域で吸収を示す領域と、シアン、マゼンタ及びイエローを減法混色により混合し、赤外線領域で吸収を示さない領域を配置して、その赤外線領域での吸収特性の違いにより潜像を生成するものである。
【0005】
【特許文献1】特許第3544536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の潜像は、二種類の隣接した複数の領域による赤外線領域の吸収特性の違いによって再現しているため、カーボンブラックの種類によっては、赤外線領域の吸収特性が異なることから、潜像の視認性及び機械読み取り適性を向上することが求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、カーボンブラックの種類と赤外線領域における吸収特性の違いについて調査し、赤外線領域の吸収率の高いカーボンブラックを見いだすことで、潜像の視認性の向上及び良好な機械読み取り適性を備えた網点印刷物の作製を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のかかる課題を解決するための手段として、一つの第1の領域と、第1の領域に隣接する一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の第2の領域周囲が、複数の第1の領域により囲まれ、第1の領域は、第2の領域より面積が大きく、第2の領域は、赤外線領域で吸収特性を含むインキを用いて構成された第2aの領域と、赤外線領域で吸収特性を持たないインキを用いて構成された第2bの領域とを有し、各々の第2の領域における第2aの領域と第2bの領域との比率に応じて複数の第2の領域における第2aの領域により階調画像が構成された印刷物において、第2aの領域に使用するインキに含まれるカーボンブラックは、粒子径が30nm以下で吸油量が100〜120cm3/100gであり、第2aの領域と第2bの領域とは、可視光領域での分光反射率の差が10%以内である網点印刷物であることを特徴としている。
【0009】
また、第2bの領域に用いられているインキは、赤外線吸収性色素を含まないシアン、マゼンタ、イエローの三原色インキを用いて構成された黒色系であることを特徴としている。
【0010】
また、第1の領域には、赤外線吸収性色素を含まないインキが用いられた網点印刷物であることを特徴としている。
【0011】
また、各々の第1の領域には、赤外線吸収性色素を含まないインキが用いられて網点が配置され、複数の第1の領域により階調画像が構成された網点印刷物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の網点印刷物及びその印刷方法は、粒子径が30nm以下で吸油量が100〜120cm3/100gのカーボンブラックを使用することで、赤外線領域における吸収特性が向上することにより、潜像の視認性が向上するとともに、良好な機械読み取り適性を得るという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、カーボンブラックの吸油量、粒子径及びPH値の相違による赤外線領域の吸収特性について評価し、本発明の効果を満足させるカーボンブラックを見いだし、潜像の視認性及び機械読み取り適性を向上した網点印刷物に関するものである。
【0014】
以下、本発明について図1乃至図5を基に説明するが、本発明に用いるカーボンブラックについては、一般の商業印刷で使用されているカーボンブラックの中で、三菱化学株式会社及び旭カーボン株式会社製のカーボンブラックを対象とし、カーボンブラックの吸油量、粒子径及びPH値等の諸特性の異なるカーボンブラックを段階的に区分し、区分したカーボンブラックの諸特性と赤外線領域における吸収特性の関係について調査したものである。
【0015】
図1はカーボンブラックの諸特性を測定した結果から、粒子径の違いを基に9水準に振り分けた図を、図2は粒子径を固定して吸油量の違いを基に9水準に振り分けた図を、図3は図1の9水準のカーボンブラックを使用したインキについて赤外線領域における潜像の視認性及び分光透過率の測定結果を示す図を、図4は図2の9水準のカーボンブラックを使用したインキについて赤外線領域における潜像の視認性及び分光透過率の測定結果を示す図を、図5は図2の水準7のカーボンブラックにおける赤外線領域の分光スペクトル図をそれぞれ示す。
【0016】
図1及び図2に示すカーボンブラックの諸特性の測定方法は、粒子径については電子顕微鏡を用い、吸油量について、JIS K5101顔料試験法により評価し、PH値についてはメトラートレド株式会社製のPH計により測定した。
【0017】
図1の粒子径を段階的に振り分けたカーボンブラックについて、赤外線領域におけるカーボンブラックの吸収特性及び本発明による潜像模様の視認性について評価を行った。
【0018】
赤外線領域の吸収特性の評価については、カーボンブラックの顔料コンテントを5%に設定したペーストを用いて、IGT・テスティングシステムズ・ジャパン社製のIGT展色機を用いた膜厚3μmの展色物を作成し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計「U−4100」を使用して、分光透過率の測定を行った。
【0019】
なお、前述の分光光度計により分光透過率測定を行ったが、分光反射率測定を行っても同様の分光スペクトルを得るものであり、本願に記載されている透過率のすべては、反射率に置き換えることもできる。
【0020】
また、潜像の視認性については、一般的なCCDカメラのレンズに株式会社富士フイルム社製のシャープカットフィルタを取り付け、フィルタのカットする波長領域によって五箇所(800nm、850nm、900nm、950nm、1000nm)に分けて、赤外線領域の画像を評価した。
【0021】
図3は、赤外線領域における分光透過率の測定及び潜像の視認性の評価結果であり、分光透過率については、前述の五箇所の平均値を、潜像の視認性の評価については、評価単位を1〜5までの五段階評価とし、最もコントラストがあるものを評価5とし、評価5よりコントラストが弱いものを4〜1として評価した。
【0022】
前述の評価結果から、水準1〜3の粒子径が30nm以下のカーボンブラックは、赤外線領域における吸収特性及び潜像模様の視認性が高いことを確認した。また、粒子径以外の諸特性についても比較を行ったが特に赤外領域における吸収特性との関係は感じられなかったが、吸油量による差が若干確認されたため、カーボンブラックの粒子径を固定して調査した。
【0023】
前述の評価を基に、カーボンブラックの粒子径を30nm以下に固定し、吸油量を段階的に9水準に振り分けたカーボンブラックについて、赤外線領域の吸収特性及び潜像の視認性について評価を行った。評価方法は、粒子径による赤外線領域におけるカーボンブラックの吸収特性及び本発明による潜像模様の視認性についての評価と同様の方法で行った。
【0024】
前述の評価を行った結果、水準7及び8の吸油量が100〜120cm3/100gのカーボンブラックは、赤外線領域における吸収特性及び潜像模様の視認性が高いことを確認した。
【0025】
図4は、前述の水準7のカーボンブラックを用いた展色物の分光透過率であり、前述で指定した五箇所すべてにおいて、10%以下の吸収率を示している。
【0026】
また、図2の水準7及び8のカーボンブラックは、前述の五箇所の評価結果が良好であり、赤外線領域における視認性が高いことが理解できる。
【0027】
前述までの評価結果から、本発明に用いるカーボンブラックは、粒子径が30nm以下で、吸油量が100〜120cm3/100gのカーボンブラックが好ましく、良好な赤外線領域における吸収特性及び潜像模様の視認性が得られた。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明するが、本発明の実施の形態は下記の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術事項の範囲内であれば、発明の実施の形態に適宜、変化を加えることができる。
【0029】
(実施例1)図2の水準7のカーボンブラックを使用し、身分証明書を作製した。図6のa部は、本発明による網点構成を用いない一般的な網点画像をシアン、マゼンタ、イエローで網点配置し、図6b部は、本発明による網点構成を用いて、ポストスクリプト網点発生法に準じた方法により、ハーフトーン処理したものである。m×mピクセルの第1ハーフトーン領域1には、可視画像を配置せず、n×nピクセルの第2ハーフトーン領域3には、水準7のカーボンクラックインキ1色で潜像を配置し、潜像の周囲2には赤外線吸収性色素を含まないシアン、マゼンタ、イエローの3色をベタで構成することによって、n×nピクセルの第2ハーフトーン領域を黒色系の等色ベタ配置とした。
【0030】
図7は、図6b部上のn×nピクセルの第2ハーフトーン領域2及び3における各色版の網点配置状態を説明している。これらを重ね合わせた場合、黒系の均一な平網状態となり、肉眼では潜像P5を認識することはできない。
【0031】
水準7のカーボンブラックインキで印刷される部分d4と、シアン、マゼンタ及びイエローインキで加刷される部分d5との赤外透過特性を利用して、潜像を水準7のカーボンブラックインキで印刷することによって、赤外線カメラ等の特殊な鑑定装置等を用いない限り図6b部上の潜像P5を認識することができない。
【0032】
前述の身分証明書は、赤外線領域の画像から、図6bの潜像の視認性が極めて良好であり、赤外線吸収特性を用いた機械読み取り適性も良好であった(図示せず)。
【0033】
(実施例2) 実施例2として、図8では、m×mピクセルの第1ハーフトーン領域には,円形ドット1で配置された網点画像P1を赤外線領域で吸収特性を持たない特色インキで印刷し、n×nピクセルの第2ハーフトーン領域には、円形ドット3で配置された網点画像P2を水準7のカーボンブラックを含む茶色系の特色インキ1色で印刷し、網点画像P2の周囲の網点2には赤外線吸収性色素を含まない茶色系の特色インキ配置した。
【0034】
図9は、ポストスクリプト網点生成法の中で、二種類の網点データを直接定義する技術により生成された網点画像P1の部分拡大図d1と、網点画像P2の部分拡大図d2により生成された画像マスクの部分拡大図mを示したものでる。
【0035】
以上のようにして本実施例により得られる印刷物は、可視の状態では山の風景画P1が認識され、川の風景画P2が隠ぺいされていることを認識するのは困難な印刷物を得ることができる。この印刷物を赤外写真で観察すると潜像として川の風景画P2の階調画像を認識することができる。
【0036】
前述の実施例2から、赤外線領域の吸収特性が高いカーボンブラックを使用することで、黒色に限らず、幅広い色相に対応可能であり、d1とd2の領域における色相の差を低減し、潜像の良好な視認性を得ることができた。
【0037】
なお、前述の実施例1及び実施例2の印刷物は、赤外線領域の吸収特性及び潜像の視認性が向上したため、良好な機械読み取り適性を得ることができた(図示せず)。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】粒子径を段階的に振り分けたカーボンブラックの諸特性を示す図
【図2】粒子径を固定して、吸油量を段階的に振り分けたカーボンブラックの諸特性を示す図
【図3】図1のカーボンブラックの赤外線領域における吸収特性、潜像の視認性及び色相の評価を示す図
【図4】図2のカーボンブラックの赤外線領域における吸収特性、潜像の視認性及び色相の評価を示す図
【図5】図2に示す水準7のカーボンブラックにおける赤外線領域の分光透過率を示す図
【図6】本発明の実施例1を示す図
【図7】本発明の実施例1の拡大図
【図8】本発明の実施例2を示す図
【図9】本発明の実施例2のポストスクリプト網点発生法に準じた方法により、ハーフトーン処理したことを示した図
【符号の説明】
【0039】
1 m×mピクセルの第1ハーフトーン領域で、少なくとも一色以上の赤外線吸収性色素を含まないインキで構成され、肉眼で認知可能な被埋込み画像を網点で配置するか、あるいは、なにも画像を網点で配置しない部分
2 n×nピクセルの第2ハーフトーン領域の中で、シアン、マゼンタ、イエローの三原色で作製された赤外線吸収性色素を含まない黒色系三色ベタで構成した部分
3 n×nピクセルの第2ハーフトーン領域の中で、粒子径が30nm以下で吸油量が100〜120cm3/100gのカーボンブラックを使用したインキで構成された文字や画像等の埋込み画像を網点で構成した部分
a 本発明による網点構成を用いない一般的な網点画像で配置
b 本発明による網点構成を用いて特殊な網点画像で配置
d1 ポストスクリプト網点発生法に準じた方法により、ハーフトーン処理した山の風景画像の網点部分拡大図
d2 ポストスクリプト網点発生法に準じた方法により、ハーフトーン処理した川の風景画像の網点部分拡大図
d4 身分証明書における潜像の網点部分拡大図
d5 身分証明書における潜像の網点周囲部分の拡大図
P1 可視画像として使用した山の風景画像
P2 不可視画像として使用した川の風景画像
P4 可視、潜像が同一平面上に均等配置された身分証明書
P5 潜像として使用した身分証明書の顔画像
m d1とd2を合わせた拡大図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの第1の領域と、前記第1の領域に隣接する一つの第2の領域とが複数組配置され、各々の前記第2の領域周囲が、複数の前記第1の領域により囲まれ、前記第1の領域は、前記第2の領域より面積が大きく、前記第2の領域は、赤外線領域で吸収特性を含むインキを用いて構成された第2aの領域と、赤外線領域で吸収特性を含まないインキを用いて構成された第2bの領域とを有し、各々の前記第2の領域における前記第2aの領域と前記第2bの領域との比率に応じて複数の前記第2の領域における前記第2aの領域により階調画像が構成された印刷物において、
前記第2aの領域に使用するインキに含まれるカーボンブラックは、粒子径が30nm以下で吸油量が100〜120cm3/100gであり、前記第2aの領域と前記第2bの領域とは、可視光領域での分光反射率の差が10%以内であることを特徴とする網点印刷物。
【請求項2】
前記第2bの領域に用いられているインキは、赤外線領域で吸収特性を含まないシアン、マゼンタ、イエローの三原色インキを用いて構成された黒色系であることを特徴とする請求項1記載の網点印刷物。
【請求項3】
前記第1の領域には、赤外線領域で吸収特性を含まないインキが用いられていることを特徴とする請求項1又は2記載の網点印刷物。
【請求項4】
各々の前記第1の領域には、赤外線領域で吸収特性を含まないインキが用いられて網点が配置され、複数の前記第1の領域により階調画像が構成されていることを特徴とする請求項1乃至3記載の網点印刷物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−221691(P2008−221691A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64819(P2007−64819)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】