総形ツルーイング方法
【課題】砥石車と総形ツルーイングロールの周速度比に係らず砥粒を所望の度合いに破砕するツルーイング方法を提供する。
【解決手段】総形ツルーイングロール9を砥石車7の研削作用面に垂直方向に振動させる加振装置102を備えたツルーイング装置10を用い、砥石車7の回転周期を加振装置102の振動周期で除した値が循環数となる周期と、所望の振幅で、振動させる。この振動で総形ツルーイングロール9の砥粒押込み方向の速度を所望に制御して、砥石車7の砥粒の破砕度合いを制御する。
【解決手段】総形ツルーイングロール9を砥石車7の研削作用面に垂直方向に振動させる加振装置102を備えたツルーイング装置10を用い、砥石車7の回転周期を加振装置102の振動周期で除した値が循環数となる周期と、所望の振幅で、振動させる。この振動で総形ツルーイングロール9の砥粒押込み方向の速度を所望に制御して、砥石車7の砥粒の破砕度合いを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の砥石車のツルーイング方法に関するものであり、詳しくは回転する砥石車外周のツルーイング対象面を総形ツルーイングロールによってツルーイングする砥石車のツルーイング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7に示すような、ボールねじ軸Wのねじ面のように特有の形状をした工作物は、総形砥石40の断面形状を転写して研削する。この砥石40の成形には図8に示すような総形ツルーイングロール41が使用される。これは短時間に正確な砥石形状を成形でき、ツルーイング作用面が広いためツルーイングロールの寿命が長いためである。
【0003】
総形ツルーイングロールを使用してツルーイングをすると、総形ツルーイングロールのダイアモンドが密に配置されている場合、砥粒に対する切込みが浅くなり、砥粒の破砕が少ない砥石面となる。砥粒の破砕が少ないと鋭い切れ刃が少なくなり、切れ味が低下する、結果として、研削抵抗が増大して研削面に焼けが生じる。
これを防止するため、ツルーイングロールの回転方向を砥石車の連れ廻り方向とし、砥石車の周速度とツルアの周速度の比を1に近づけ、ダイアモンドを砥粒に押込む方向の速度を大きくして、押込み力により砥粒を破砕する従来技術(非特許文献1参照)がある。
【0004】
非特許文献1に記載の従来技術について以下に概要を説明する。
図9に、切込みtを与えたツルーイング時の砥石車40とツルーイングロール41の接触状態を示す。図10はツルーイング開始点で、砥石車40の砥粒42にツルーイングロール41のダイアモンド43が切込まれ砥粒42を成形する状況を示した模式図である。砥粒42とダイアモンド43の相対速度をダイアモンド43が砥粒42に押し込まれる方向とそれと直交するせん断方向に分解する。押込み方向の速度Vnにより発生する圧縮力は砥粒42を破砕し、せん断方向の速度Vtは砥粒42の表面の極薄い層を剥ぎ取りながら滑らかな表面を生成する作用がある。
図9において、ツルーイングロール41と砥石車40が接触を開始するツルーイング開始点と砥石車40の回転中心点を結ぶ直線と、砥石車40とツルーイングロール41の回転中心を結んだ直線とのなす角度をθ1、ツルーイング開始点とツルーイングロール41の回転中心点を結ぶ直線と、砥石車40とツルーイングロール41の回転中心を結んだ直線とのなす角度をθ2とする。図11に示すように、砥石車周速度をVw、ツルーイングロール周速度をVrとすると、砥粒とダイアモンドの相対速度Vr−wの押込み方向の速度VnはVn=Vw・sinθ1+Vr・sinθ2、せん断方向の速度VtはVt=Vw・cosθ1−Vr・cosθ2となる。せん断方向の速度Vtが0の場合は押込み方向の相対速度Vnのみが発生し、砥粒は破砕のみが発生する。せん断方向の速度Vtが大きくなると砥粒を削り取る作用が大きくなり、破砕の少ない滑らかな面となる。このことから、適正な相対速度Vr−wを設定することができれば、所望の破砕度合いの砥石車40を成形することができる。
現在経験的に知られている、適正な相対速度Vr−wを達成できる周速度比Vr/Vwは0.6〜0.9程度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本機械学会論文集(C編)、62巻601号(1996−9)、P347〜P352 、論文No.96−0396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の場合、大多数の研削盤では砥石車の径が総形ツルーイングロール径の4〜6倍大きいため、周速度比を0.6〜0.9に近づけるためには総形ツルーイングロールの回転速度を砥石車の回転速度の3〜5倍に高速化する必要がある。高能率研削を可能とするためには砥石周速度の高速化が必要であり、総形ツルーイングロールの支持軸受けの径を小さくして高速化が図られている。しかし、軸受け径が小さいと支持剛性が低下し、ツルーイング幅の広い場合はツルーイング負荷に耐えられず小径化に限界がある。結果として、総形ツルーイングロールの高速化に限界があり、高能率研削に最適な高速の砥石回転が不可能で、高能率研削の実現を阻害している。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、総形ツルーイングロールの砥粒押込み方向の速度を所望に制御して、砥石車と総形ツルーイングロールの周速度比に係らず砥粒を所望の度合いに破砕する。それにより、焼けの発生しない高能率研削を可能とする総形ツルーイングロールによる砥石車ツルーイング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、外周にダイアモンドを配置した総形ツルーイングロールと、前記総形ツルーイングロールを回転自在に支持するハウジングと、前記総形ツルーイングロールを回転する駆動手段と、前記ハウジングを砥石車の回転中心と前記総形ツルーイングロールの回転中心を結ぶ方向に振動させる加振装置とを備えたツルーイング装置と、
前記加振装置の振動周期と、振幅を制御する加振制御手段とを用い、
前記総形ツルーイングロールを振動させながら前記砥石車に切込み、前記砥石車をツルーイングすることである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記砥石車の回転周期を前記振動周期で除した値が循環小数となるように前記加振装置を制御することである。
【0010】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記加振装置を圧電素子で駆動させることである。
【0011】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記加振装置を、
前記ツルーイング装置の振動振幅を検出する振動検出手段を備え、前記総形ツルーイングロールにアンバランスを付与して、前記振動検出手段の検出振幅が所望の振幅となる周期で回転させること、
で構成することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、総形ツルーイングロールの振動の周期と振幅を制御することで、総形ツルーイングロールが砥石車の研削作用面の砥粒を押込む方向の速度を、総形ツルーイングロールの周速度に関係なく最適に設定できる。そのため、総形ツルーイングロールの周速度を低速にできるので、大径の総形ツルーイングロール用軸受けを使用した剛性の高いツルーング装置とすることができる。
総形ツルーイングロールの振動の周期と振幅を制御することで、総形ツルーイングロールが砥石車の研削作用面の砥粒を押込む方向の速度を、砥石車の周速度に関係なく設定できる。そのため研削条件に最適な砥石周速度を選択でき、高能率研削が可能となる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、振動の破砕効果が高い位相が砥石車の外周面上で順次移動していき、砥石車のツルーイング面の全面を均一にツルーイングできる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、振動周期と振幅を自在に設定できるため、一種類の総形ツルーイングロールを用いて各種の研削に最適なツルーイングができるツルーイング装置を、コンパクトに構成できる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、総形ツルーイングロールを特別な加振装置を使用することなく所望の振幅で振動できるので、加振機能を備えたツルーイング装置を低コストに構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態のツルーイング装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態のツルーイング装置を示す概略図である。
【図3】図2の上面図である。
【図4】第2実施形態のツルーイング装置を示す概略図である。
【図5】図4の上面図である
【図6】振動周期と振幅増幅率の関係を示すグラフである。
【図7】従来技術のねじ研削構成を示す概略図である。
【図8】従来技術のツルーイングを示す概略図である。
【図9】従来技術のツルーイング時の砥石車とツルーイングロールの接触状態を示す概略図である。
【図10】従来技術のダイアモンドと砥粒の相対運動を示す概略図である。
【図11】従来技術のダイアモンドと砥粒の相対運動のベクトル構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のツルーイング方法の実施の形態を説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態のツルーイング方法について、図1〜図3を参照しつつ説明する。
図1に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石軸8を回転自在に支持し、砥石軸8を回転させる砥石軸回転モータ(図示省略する)を備えており、砥石車7は砥石軸8に着脱自在に装着されて回転駆動される。テーブル3上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。
図2、図3にツルーイング装置10の構成を示す。ハウジング101はツルーイングモータ103により回転駆動される総形ツルーイングロール9を回転自在に支持している。ハウジング101の一端が主軸台5の側面に固定され、他端が圧電素子で駆動される加振装置102を介して主軸台5に継合されている。ハウジング101は、固定部と総形ツルーイングロール9の支持部の間が剛性の低い薄肉で連結される構造であり、総形ツルーイングロール9は砥石車7の表面に直角な方向に変位しやすい特性を備える。
【0018】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削加工やツルーイングを実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、ツルーイング装置10を制御するツルーイング制御手段33、砥石軸8の回転を制御する砥石軸制御手段34などを具備している。また、ツルーイング制御手段33の内部にはハウジング101を加振する加振装置102を制御する加振制御手段331を備えている。
【0019】
ツルーイングは以下のように行われる。
砥石車7と総形ツルーイングロール9を連れ回る方向に回転させ、テーブル4を砥石車7と総形ツルーイングロール9が対向する位置へ移動させる。加振装置102を駆動すると、ハウジング101は主軸5に固定された固定点を概略中心とする遥動振動をする。遥動半径に対して加振振幅は小さいので、この遥動運動は砥石車7の表面に直角な併進運動にほぼ等しい。
総形ツルーイングロール9を、砥石車7の回転周期をTwとすると、Tw/Ttの値が好ましくは循環小数となり、そうでない場合は小数点以下の桁数が少なくとも2桁以上となる周期Ttで加振する。これにより、砥石車7の外周面に対する最大押込み速度位置が一定の位置に固定されること無く砥石車7の周方向で順次移動して、砥石車7の研削作用面の全面が均一にツルーイングされる。
全振幅を2・a、振動周期をTtとすると、時刻tにおける振動による押込み方向の速度VnvはVnv=a・2・π/Tt・sin(2・π・t/Tt)と表され、最大速度はa・2・π/Ttとなる。これに相対周速度による押込み方向速度Vw・sinθ1+Vr・sinθ2を加算したVn=a・2・π/Tt+Vw・sinθ1+Vr・sinθ2が最大押込み方向速度となる。せん断方向の速度VtはVt=Vw・cosθ1−Vr・cosθ2で表される。
【0020】
以上のように、総形ツルーイングロール9と砥石車7の回転速度に関係なく、最大押込み速度Vnを振幅と振動周期を選定することで自由に設定できる。Vtに適したVnを設定することで、所望の破砕を生じた切れ味の良い砥石車7を成形することができる。
砥石車7の回転速度は高能率研削に最適な速度を設定できる。
総形ツルーイングロール9の回転速度を低くできるので、総形ツルーイングロール9の支持軸受径を大きくし、支持剛性を高くできるので、微小な切込みでも砥粒が破砕して高精度のツルーイングができる。
結果として、高品質のツルーイングと高性能な研削加工が両立した研削盤を実現できる。
【0021】
<第2実施形態>
第2実施形態の、ツルーイング装置20について、図4〜図5を参照しつつ説明する。
図に示すように、ハウジング201はツルーイングモータ103により回転駆動される総形ツルーイングロール9を回転自在に支持している。総形ツルーイングロール9にはアンバランス重り203が取り付けられている。ハウジング201の一端が主軸台5の側面に固定され、ハウジング201の総形ツルーイングロール9に近接した位置に振動振幅検出手段202を備える。ハウジング201は、固定部と総形ツルーイングロール9の支持部の間を剛性の低い薄肉で連結される構造であり、総形ツルーイングロール9は砥石車7の表面に直角な方向に変位しやすい特性を備える。
一般的に構造物を加振したときの振動周期Tと振幅増幅率の関係は図6のようであることが知られており、構造物の固有振動周期T0の近辺の振動周期Tで加振すると振幅が増副される。増幅率は固有振動周期と一致した加振周期で最大となり、構造物の減衰比ζにより最大値が決まる。
ここで、ハウジング201の固有振動周期T0を、総形ツルーイングロール9の支持軸受けの許容最小回転周期に概略一致させる。
【0022】
ツルーイングは以下のように実施する。
総形ツルーイングロール9を回転させると、アンバランス重り203のアンバランス量Wの遠心力がハウジング201に作用する。このとき、ハウジング201の剛性の弱い砥石車7の表面に直角な方向には大きな変位が発生する。ここで、総形ツルーイングロール9の回転速度を変化させると、アンバランスによる加振周期が変動するので、図6のグラフのように振動振幅が変動する。この振動振幅を振動振幅検出手段202により検出し所望の振幅aになった周期Tで総形ツルーイングロール9を回転させる。このときの、最大押込み方向速度VnはVn=a・2・π/T+Vw・sinθ1+Vr・sinθ2となる。
【0023】
以上のように、砥石車7の回転速度に関係なく、総形ツルーイングロール9の回転速度を変えて振動振幅検出手段202の振幅を選定することで、自由に最大押込み速度Vnを設定できる。総形ツルーイングロール9と砥石車7の回転速度で決まるVtに適したVnを設定することで、所望の破砕を生じた切れ味の良い砥石車7を成形することができる。
総形ツルーイングロール9の回転速度に関係なく、研削に最適な砥石車7の回転速度を設定できる。
総形ツルーイングロール9の回転速度を低くでき、総形ツルーイングロール9の支持軸受径を大きくして支持剛性を高くできるので、微小な切込みでも砥粒が破砕して高精度のツルーイングができる。
上記の性能のツルーイング装置を低コストに実現できる。
結果として、高品質のツルーイングと高性能な研削が両立した研削盤を低コストに実現できる。
【符号の説明】
【0024】
W:工作物 4:テーブル 7、40:砥石車 9、41:総形ツルーイングロール 10、20:ツルーイング装置 101、201:ハウジング 102:加振装置 103:ツルーイングモータ 33:ツルーイング制御手段 331:加振制御手段 202:振動検出手段 203:アンバランス重り
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の砥石車のツルーイング方法に関するものであり、詳しくは回転する砥石車外周のツルーイング対象面を総形ツルーイングロールによってツルーイングする砥石車のツルーイング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7に示すような、ボールねじ軸Wのねじ面のように特有の形状をした工作物は、総形砥石40の断面形状を転写して研削する。この砥石40の成形には図8に示すような総形ツルーイングロール41が使用される。これは短時間に正確な砥石形状を成形でき、ツルーイング作用面が広いためツルーイングロールの寿命が長いためである。
【0003】
総形ツルーイングロールを使用してツルーイングをすると、総形ツルーイングロールのダイアモンドが密に配置されている場合、砥粒に対する切込みが浅くなり、砥粒の破砕が少ない砥石面となる。砥粒の破砕が少ないと鋭い切れ刃が少なくなり、切れ味が低下する、結果として、研削抵抗が増大して研削面に焼けが生じる。
これを防止するため、ツルーイングロールの回転方向を砥石車の連れ廻り方向とし、砥石車の周速度とツルアの周速度の比を1に近づけ、ダイアモンドを砥粒に押込む方向の速度を大きくして、押込み力により砥粒を破砕する従来技術(非特許文献1参照)がある。
【0004】
非特許文献1に記載の従来技術について以下に概要を説明する。
図9に、切込みtを与えたツルーイング時の砥石車40とツルーイングロール41の接触状態を示す。図10はツルーイング開始点で、砥石車40の砥粒42にツルーイングロール41のダイアモンド43が切込まれ砥粒42を成形する状況を示した模式図である。砥粒42とダイアモンド43の相対速度をダイアモンド43が砥粒42に押し込まれる方向とそれと直交するせん断方向に分解する。押込み方向の速度Vnにより発生する圧縮力は砥粒42を破砕し、せん断方向の速度Vtは砥粒42の表面の極薄い層を剥ぎ取りながら滑らかな表面を生成する作用がある。
図9において、ツルーイングロール41と砥石車40が接触を開始するツルーイング開始点と砥石車40の回転中心点を結ぶ直線と、砥石車40とツルーイングロール41の回転中心を結んだ直線とのなす角度をθ1、ツルーイング開始点とツルーイングロール41の回転中心点を結ぶ直線と、砥石車40とツルーイングロール41の回転中心を結んだ直線とのなす角度をθ2とする。図11に示すように、砥石車周速度をVw、ツルーイングロール周速度をVrとすると、砥粒とダイアモンドの相対速度Vr−wの押込み方向の速度VnはVn=Vw・sinθ1+Vr・sinθ2、せん断方向の速度VtはVt=Vw・cosθ1−Vr・cosθ2となる。せん断方向の速度Vtが0の場合は押込み方向の相対速度Vnのみが発生し、砥粒は破砕のみが発生する。せん断方向の速度Vtが大きくなると砥粒を削り取る作用が大きくなり、破砕の少ない滑らかな面となる。このことから、適正な相対速度Vr−wを設定することができれば、所望の破砕度合いの砥石車40を成形することができる。
現在経験的に知られている、適正な相対速度Vr−wを達成できる周速度比Vr/Vwは0.6〜0.9程度である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本機械学会論文集(C編)、62巻601号(1996−9)、P347〜P352 、論文No.96−0396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の場合、大多数の研削盤では砥石車の径が総形ツルーイングロール径の4〜6倍大きいため、周速度比を0.6〜0.9に近づけるためには総形ツルーイングロールの回転速度を砥石車の回転速度の3〜5倍に高速化する必要がある。高能率研削を可能とするためには砥石周速度の高速化が必要であり、総形ツルーイングロールの支持軸受けの径を小さくして高速化が図られている。しかし、軸受け径が小さいと支持剛性が低下し、ツルーイング幅の広い場合はツルーイング負荷に耐えられず小径化に限界がある。結果として、総形ツルーイングロールの高速化に限界があり、高能率研削に最適な高速の砥石回転が不可能で、高能率研削の実現を阻害している。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、総形ツルーイングロールの砥粒押込み方向の速度を所望に制御して、砥石車と総形ツルーイングロールの周速度比に係らず砥粒を所望の度合いに破砕する。それにより、焼けの発生しない高能率研削を可能とする総形ツルーイングロールによる砥石車ツルーイング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、外周にダイアモンドを配置した総形ツルーイングロールと、前記総形ツルーイングロールを回転自在に支持するハウジングと、前記総形ツルーイングロールを回転する駆動手段と、前記ハウジングを砥石車の回転中心と前記総形ツルーイングロールの回転中心を結ぶ方向に振動させる加振装置とを備えたツルーイング装置と、
前記加振装置の振動周期と、振幅を制御する加振制御手段とを用い、
前記総形ツルーイングロールを振動させながら前記砥石車に切込み、前記砥石車をツルーイングすることである。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記砥石車の回転周期を前記振動周期で除した値が循環小数となるように前記加振装置を制御することである。
【0010】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記加振装置を圧電素子で駆動させることである。
【0011】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記加振装置を、
前記ツルーイング装置の振動振幅を検出する振動検出手段を備え、前記総形ツルーイングロールにアンバランスを付与して、前記振動検出手段の検出振幅が所望の振幅となる周期で回転させること、
で構成することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、総形ツルーイングロールの振動の周期と振幅を制御することで、総形ツルーイングロールが砥石車の研削作用面の砥粒を押込む方向の速度を、総形ツルーイングロールの周速度に関係なく最適に設定できる。そのため、総形ツルーイングロールの周速度を低速にできるので、大径の総形ツルーイングロール用軸受けを使用した剛性の高いツルーング装置とすることができる。
総形ツルーイングロールの振動の周期と振幅を制御することで、総形ツルーイングロールが砥石車の研削作用面の砥粒を押込む方向の速度を、砥石車の周速度に関係なく設定できる。そのため研削条件に最適な砥石周速度を選択でき、高能率研削が可能となる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、振動の破砕効果が高い位相が砥石車の外周面上で順次移動していき、砥石車のツルーイング面の全面を均一にツルーイングできる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、振動周期と振幅を自在に設定できるため、一種類の総形ツルーイングロールを用いて各種の研削に最適なツルーイングができるツルーイング装置を、コンパクトに構成できる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、総形ツルーイングロールを特別な加振装置を使用することなく所望の振幅で振動できるので、加振機能を備えたツルーイング装置を低コストに構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態のツルーイング装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態のツルーイング装置を示す概略図である。
【図3】図2の上面図である。
【図4】第2実施形態のツルーイング装置を示す概略図である。
【図5】図4の上面図である
【図6】振動周期と振幅増幅率の関係を示すグラフである。
【図7】従来技術のねじ研削構成を示す概略図である。
【図8】従来技術のツルーイングを示す概略図である。
【図9】従来技術のツルーイング時の砥石車とツルーイングロールの接触状態を示す概略図である。
【図10】従来技術のダイアモンドと砥粒の相対運動を示す概略図である。
【図11】従来技術のダイアモンドと砥粒の相対運動のベクトル構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のツルーイング方法の実施の形態を説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態のツルーイング方法について、図1〜図3を参照しつつ説明する。
図1に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石軸8を回転自在に支持し、砥石軸8を回転させる砥石軸回転モータ(図示省略する)を備えており、砥石車7は砥石軸8に着脱自在に装着されて回転駆動される。テーブル3上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。
図2、図3にツルーイング装置10の構成を示す。ハウジング101はツルーイングモータ103により回転駆動される総形ツルーイングロール9を回転自在に支持している。ハウジング101の一端が主軸台5の側面に固定され、他端が圧電素子で駆動される加振装置102を介して主軸台5に継合されている。ハウジング101は、固定部と総形ツルーイングロール9の支持部の間が剛性の低い薄肉で連結される構造であり、総形ツルーイングロール9は砥石車7の表面に直角な方向に変位しやすい特性を備える。
【0018】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削加工やツルーイングを実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、ツルーイング装置10を制御するツルーイング制御手段33、砥石軸8の回転を制御する砥石軸制御手段34などを具備している。また、ツルーイング制御手段33の内部にはハウジング101を加振する加振装置102を制御する加振制御手段331を備えている。
【0019】
ツルーイングは以下のように行われる。
砥石車7と総形ツルーイングロール9を連れ回る方向に回転させ、テーブル4を砥石車7と総形ツルーイングロール9が対向する位置へ移動させる。加振装置102を駆動すると、ハウジング101は主軸5に固定された固定点を概略中心とする遥動振動をする。遥動半径に対して加振振幅は小さいので、この遥動運動は砥石車7の表面に直角な併進運動にほぼ等しい。
総形ツルーイングロール9を、砥石車7の回転周期をTwとすると、Tw/Ttの値が好ましくは循環小数となり、そうでない場合は小数点以下の桁数が少なくとも2桁以上となる周期Ttで加振する。これにより、砥石車7の外周面に対する最大押込み速度位置が一定の位置に固定されること無く砥石車7の周方向で順次移動して、砥石車7の研削作用面の全面が均一にツルーイングされる。
全振幅を2・a、振動周期をTtとすると、時刻tにおける振動による押込み方向の速度VnvはVnv=a・2・π/Tt・sin(2・π・t/Tt)と表され、最大速度はa・2・π/Ttとなる。これに相対周速度による押込み方向速度Vw・sinθ1+Vr・sinθ2を加算したVn=a・2・π/Tt+Vw・sinθ1+Vr・sinθ2が最大押込み方向速度となる。せん断方向の速度VtはVt=Vw・cosθ1−Vr・cosθ2で表される。
【0020】
以上のように、総形ツルーイングロール9と砥石車7の回転速度に関係なく、最大押込み速度Vnを振幅と振動周期を選定することで自由に設定できる。Vtに適したVnを設定することで、所望の破砕を生じた切れ味の良い砥石車7を成形することができる。
砥石車7の回転速度は高能率研削に最適な速度を設定できる。
総形ツルーイングロール9の回転速度を低くできるので、総形ツルーイングロール9の支持軸受径を大きくし、支持剛性を高くできるので、微小な切込みでも砥粒が破砕して高精度のツルーイングができる。
結果として、高品質のツルーイングと高性能な研削加工が両立した研削盤を実現できる。
【0021】
<第2実施形態>
第2実施形態の、ツルーイング装置20について、図4〜図5を参照しつつ説明する。
図に示すように、ハウジング201はツルーイングモータ103により回転駆動される総形ツルーイングロール9を回転自在に支持している。総形ツルーイングロール9にはアンバランス重り203が取り付けられている。ハウジング201の一端が主軸台5の側面に固定され、ハウジング201の総形ツルーイングロール9に近接した位置に振動振幅検出手段202を備える。ハウジング201は、固定部と総形ツルーイングロール9の支持部の間を剛性の低い薄肉で連結される構造であり、総形ツルーイングロール9は砥石車7の表面に直角な方向に変位しやすい特性を備える。
一般的に構造物を加振したときの振動周期Tと振幅増幅率の関係は図6のようであることが知られており、構造物の固有振動周期T0の近辺の振動周期Tで加振すると振幅が増副される。増幅率は固有振動周期と一致した加振周期で最大となり、構造物の減衰比ζにより最大値が決まる。
ここで、ハウジング201の固有振動周期T0を、総形ツルーイングロール9の支持軸受けの許容最小回転周期に概略一致させる。
【0022】
ツルーイングは以下のように実施する。
総形ツルーイングロール9を回転させると、アンバランス重り203のアンバランス量Wの遠心力がハウジング201に作用する。このとき、ハウジング201の剛性の弱い砥石車7の表面に直角な方向には大きな変位が発生する。ここで、総形ツルーイングロール9の回転速度を変化させると、アンバランスによる加振周期が変動するので、図6のグラフのように振動振幅が変動する。この振動振幅を振動振幅検出手段202により検出し所望の振幅aになった周期Tで総形ツルーイングロール9を回転させる。このときの、最大押込み方向速度VnはVn=a・2・π/T+Vw・sinθ1+Vr・sinθ2となる。
【0023】
以上のように、砥石車7の回転速度に関係なく、総形ツルーイングロール9の回転速度を変えて振動振幅検出手段202の振幅を選定することで、自由に最大押込み速度Vnを設定できる。総形ツルーイングロール9と砥石車7の回転速度で決まるVtに適したVnを設定することで、所望の破砕を生じた切れ味の良い砥石車7を成形することができる。
総形ツルーイングロール9の回転速度に関係なく、研削に最適な砥石車7の回転速度を設定できる。
総形ツルーイングロール9の回転速度を低くでき、総形ツルーイングロール9の支持軸受径を大きくして支持剛性を高くできるので、微小な切込みでも砥粒が破砕して高精度のツルーイングができる。
上記の性能のツルーイング装置を低コストに実現できる。
結果として、高品質のツルーイングと高性能な研削が両立した研削盤を低コストに実現できる。
【符号の説明】
【0024】
W:工作物 4:テーブル 7、40:砥石車 9、41:総形ツルーイングロール 10、20:ツルーイング装置 101、201:ハウジング 102:加振装置 103:ツルーイングモータ 33:ツルーイング制御手段 331:加振制御手段 202:振動検出手段 203:アンバランス重り
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にダイアモンドを配置した総形ツルーイングロールと、前記総形ツルーイングロールを回転自在に支持するハウジングと、前記総形ツルーイングロールを回転する駆動手段と、前記ハウジングを砥石車の回転中心と前記総形ツルーイングロールの回転中心を結ぶ方向に振動させる加振装置とを備えたツルーイング装置と、
前記加振装置の振動周期と、振幅を制御する加振制御手段とを用い、
前記総形ツルーイングロールを振動させながら前記砥石車に切込み、前記砥石車をツルーイングする総形ツルーイング方法。
【請求項2】
前記砥石車の回転周期を前記振動周期で除した値が循環小数となるように前記加振装置を制御する請求項1記載の総形ツルーイング方法。
【請求項3】
前記加振装置を圧電素子で駆動させる請求項1または請求項2に記載の総形ツルーイング方法。
【請求項4】
前記加振装置を、
前記ツルーイング装置の振動振幅を検出する振動検出手段を備え、前記総形ツルーイングロールにアンバランスを付与して、前記振動検出手段の検出振幅が所望の振幅となる周期で回転させること、
で構成する請求項1または請求項2に記載の総形ツルーイング方法。
【請求項1】
外周にダイアモンドを配置した総形ツルーイングロールと、前記総形ツルーイングロールを回転自在に支持するハウジングと、前記総形ツルーイングロールを回転する駆動手段と、前記ハウジングを砥石車の回転中心と前記総形ツルーイングロールの回転中心を結ぶ方向に振動させる加振装置とを備えたツルーイング装置と、
前記加振装置の振動周期と、振幅を制御する加振制御手段とを用い、
前記総形ツルーイングロールを振動させながら前記砥石車に切込み、前記砥石車をツルーイングする総形ツルーイング方法。
【請求項2】
前記砥石車の回転周期を前記振動周期で除した値が循環小数となるように前記加振装置を制御する請求項1記載の総形ツルーイング方法。
【請求項3】
前記加振装置を圧電素子で駆動させる請求項1または請求項2に記載の総形ツルーイング方法。
【請求項4】
前記加振装置を、
前記ツルーイング装置の振動振幅を検出する振動検出手段を備え、前記総形ツルーイングロールにアンバランスを付与して、前記振動検出手段の検出振幅が所望の振幅となる周期で回転させること、
で構成する請求項1または請求項2に記載の総形ツルーイング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−152618(P2011−152618A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16181(P2010−16181)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]